特許第6098503号(P6098503)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6098503
(24)【登録日】2017年3月3日
(45)【発行日】2017年3月22日
(54)【発明の名称】有機ケイ素化合物
(51)【国際特許分類】
   C07F 7/18 20060101AFI20170313BHJP
【FI】
   C07F7/18 WCSP
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-269058(P2013-269058)
(22)【出願日】2013年12月26日
(65)【公開番号】特開2015-124170(P2015-124170A)
(43)【公開日】2015年7月6日
【審査請求日】2015年12月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079304
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 隆司
(74)【代理人】
【識別番号】100114513
【弁理士】
【氏名又は名称】重松 沙織
(74)【代理人】
【識別番号】100120721
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 克成
(74)【代理人】
【識別番号】100124590
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 武史
(74)【代理人】
【識別番号】100157831
【弁理士】
【氏名又は名称】正木 克彦
(72)【発明者】
【氏名】松田 高至
(72)【発明者】
【氏名】酒匂 隆介
【審査官】 三木 寛
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−191671(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/127304(WO,A1)
【文献】 特開平10−251516(JP,A)
【文献】 特開2013−144426(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/002347(WO,A1)
【文献】 Zhurnal Obshchei Khimii,1989年,Vol.59(2),p.390-395
【文献】 Zhurnal Obshchei Khimii,1985年,Vol.55(7),p.1544-1553
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F 7/18
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で示される有機ケイ素化合物(但し、一般式(1)で示される有機ケイ素化合物がビス(トリエトキシシリルエチル)ビニルメチル−シランである場合を除く)
【化1】
(式中、R1、R2メチル基であり、R3は独立に下記式(2)又は(3)
【化2】
で示される2価炭化水素基であり、Xは独立にアルコキシ基、ハロゲン化アルコキシ基、アルコキシ基置換アルコキシ基、アルケニルオキシ基及びアセトキシ基から選ばれる加水分解性基であり、aは独立に2又は3であり、bは0〜4の整数である。)
【請求項2】
式(1)において、aが3である請求項記載の有機ケイ素化合物。
【請求項3】
下記一般式(6)又は(7)で示される化合物である請求項1又は2記載の有機ケイ素化合物。
【化3】
(式中、R’は−CH2CH2−又は−CH(CH3)−である。)
【化4】
(式中、R”は−CH2CH2CH2−である。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、文献未載の新規なアルケニル基と2個の加水分解性シリル基とを有する有機ケイ素化合物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アルケニル基と加水分解性シリル基を有する有機ケイ素化合物は、基材の表面改質剤、紛体の表面処理剤、各種ゴム材料の接着助剤の原料等として有用であり、このようなアルケニル基と加水分解性シリル基を有する有機ケイ素化合物としては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシランなどが上記の用途に用いられるシランカップリング剤として市販され、特許文献1(特開平10−251516号公報)には、それらのオリゴマーを含む水溶性のシランオリゴマー組成物が開示されている。また、ビニル基のラジカル重合性を利用して、他のラジカル重合性モノマーとの共重合体を利用することも知られており、例えば、特許文献2(特開2013−144426号公報)には、赤外線反射フィルムの反射層と保護層を接着するために、ビニル基と加水分解性シリル基を有するシランカップリング剤が用いられることが開示されている。
これら有機ケイ素化合物に加えて、上記原料等としての効果に優れた有機ケイ素化合物が更に要望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−251516号公報
【特許文献2】特開2013−144426号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、新規なアルケニル基と2個の加水分解性シリル基とを有する有機ケイ素化合物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、一般式(1)で示されるアルケニル基と2個の加水分解性シリル基とを有する有機ケイ素化合物が、基材の表面改質剤、紛体の表面処理剤、各種ゴム材料の接着助剤の原料等として有用であることを見出し、本発明をなすに至った。
【0006】
従って、本発明は、下記に示す有機ケイ素化合物を提供する。
〔1〕
下記一般式(1)で示される有機ケイ素化合物(但し、一般式(1)で示される有機ケイ素化合物がビス(トリエトキシシリルエチル)ビニルメチル−シランである場合を除く)
【化1】
(式中、R1、R2メチル基であり、R3は独立に下記式(2)又は(3)
【化2】
で示される2価炭化水素基であり、Xは独立にアルコキシ基、ハロゲン化アルコキシ基、アルコキシ基置換アルコキシ基、アルケニルオキシ基及びアセトキシ基から選ばれる加水分解性基であり、aは独立に2又は3であり、bは0〜4の整数である。)

式(1)において、aが3である〔1〕記載の有機ケイ素化合物。
〔3〕
下記一般式(6)又は(7)で示される化合物である〔1〕又は〔2〕記載の有機ケイ素化合物。
【化11】
(式中、R’は−CH2CH2−又は−CH(CH3)−である。)
【化12】
(式中、R”は−CH2CH2CH2−である。)
【発明の効果】
【0007】
本発明の新規な有機ケイ素化合物は、基材の表面改質剤、紛体の表面処理剤、各種ゴム材料の接着助剤の原料等として有用である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の有機ケイ素化合物は、下記一般式(1)で示されるものである。
【化3】
(式中、R1、R2はそれぞれ独立に炭素数1〜10の非置換又は置換の1価炭化水素基であり、R3は独立に下記式(2)又は(3)
【化4】
で示される2価炭化水素基であり、Xは独立にハロゲン原子、アルコキシ基、ハロゲン化アルコキシ基、アルコキシ基置換アルコキシ基、アルケニルオキシ基及びアセトキシ基から選ばれる加水分解性基であり、aは独立に2又は3であり、bは0〜4の整数である。)
【0009】
1、R2の炭素数1〜10、好ましくは1〜6の非置換又は置換の1価炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基などのアルキル基、シクロヘキシル基などのシクロアルキル基、ビニル基、アリル基などのアルケニル基、フェニル基などのアリール基、あるいはこれらの基の水素原子が部分的にハロゲン原子などで置換された基が例示される。これらの中でも、R1としてはメチル基、エチル基、プロピル基、フェニル基が好ましく、R2としてはメチル基、エチル基、プロピル基が好ましい。
【0010】
Xの加水分解性基としては、塩素原子等のハロゲン原子、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基等の炭素数1〜6のアルコキシ基、トリフルオロメトキシ基、トリフルオロエトキシ基、トリクロロエトキシ基等の炭素数1〜6のハロゲン化アルコキシ基、メトキシエトキシ基等の炭素数2〜6のアルコキシ基置換アルコキシ基、イソプロペニルオキシ基等の炭素数2〜6のアルケニルオキシ基、アセトキシ基などが挙げられる。Xとしては、メトキシ基、エトキシ基、トリフルオロエトキシ基、アセトキシ基、イソプロペニルオキシ基、塩素原子が好ましく、メトキシ基、エトキシ基が特に好ましい。
aは2又は3、好ましくは3である。
【0011】
本発明の有機ケイ素化合物としては、下記に示すものが例示できる。
【化5】
【0012】
【化6】
【0013】
【化7】
【0014】
本発明の有機ケイ素化合物は、例えば、下記式(4)で示されるトリアルケニルシラン化合物と下記式(5)で示されるSiH基を有するシラン化合物とを遷移金属触媒存在下、ヒドロシリル化反応により合成することで製造できる。
【化8】
(式中、R1、R2、R3、X、a、bは上記と同じである。)
【0015】
式(4)で示されるトリアルケニルシラン化合物と式(5)で示されるSiH基を有するシラン化合物との反応割合は、式(4)で示されるトリアルケニルシラン化合物中のアルケニル基に対して式(5)で示されるSiH基を有するシラン化合物中のSiH基のモル比が0.4〜0.8となる量が好ましく、より好ましくは0.5〜0.8となる量である。該モル比が小さすぎると目的とする化合物の収量が低下する場合があり、大きすぎると式(4)のシラン化合物のアルケニル基が全て反応してしまい、目的とする化合物が得られない場合がある。
【0016】
遷移金属触媒としては、ルテニウム系触媒、ロジウム系触媒、パラジウム系触媒、イリジウム系触媒、白金系触媒、金系触媒等が挙げられ、特に白金系触媒が好ましい。白金系触媒としては、例えば、H2PtCl6・mH2O、K2PtCl6、KHPtCl6・mH2O、K2PtCl4、K2PtCl4・mH2O、PtO2・mH2O(mは、正の整数)等が挙げられる。また、前記白金系触媒とオレフィン等の炭化水素、アルコール又はビニル基含有オルガノポリシロキサンとの錯体等を用いることができる。上記触媒は1種単独でも2種以上の組み合わせであってもよい。
遷移金属触媒は、いわゆる触媒量(触媒としての有効量)で配合すればよく、前記式(4)で示されるトリアルケニルシラン化合物と式(5)で示されるSiH基を有するシラン化合物との合計量100質量部に対し、遷移金属換算(質量)で好ましくは0.1〜100ppm、より好ましくは1〜50ppmとなる量で使用する。
なお、上記ヒドロシリル化反応においては、式(4)、式(5)に示されるシラン化合物及び遷移金属触媒のみで反応を行ってもよいが、適宜溶媒で希釈して反応を行ってもよい。この溶媒としては、ヒドロシリル化反応を阻害したり、シラン化合物と反応したりしなければ特に制限はないが、好ましくはトルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素、n−ヘキサン、n−ヘプタン、イソオクタンなどの脂肪族炭化水素などが挙げられ、特に好ましくはトルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素が挙げられる。
この溶媒の使用量は、反応基質(シラン化合物)の分子量や粘度、溶媒の比重などにもよるが、好ましくは仕込み量全体の5〜70質量%、特に好ましくは10〜50質量%である。
【0017】
上記ヒドロシリル化反応は、温度20〜150℃、特に50〜100℃で、0.1〜10時間、特に0.5〜3時間で行うことが好ましい。また、圧力条件は、一般的には大気圧下条件で十分であり、操作性・経済性の点からも好ましい。但し、その必要性に応じて、加圧下で実施しても構わない。
【実施例】
【0018】
以下、実施例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。なお、下記例中Meはメチル基を示す。
【0019】
[実施例1]
マグネティック撹拌子、ジムロート、温度計を付した100mLの3つ口フラスコに、メチルトリビニルシラン12.4g(0.10mol)、脱水トルエン12.4g、塩化白金酸をCH2=CHSiMe2OSiMe2CH=CH2で変性したトルエン溶液(白金濃度0.5質量%)0.20g(5×10-6mol)を仕込み、オイルバスで内温が70℃になるように加温した。その後、トリメトキシシラン24.4g(0.20mol)(トリメトキシシラン中のSiH基/メチルトリビニルシラン中のビニル基=2.0/3.0)を約1時間かけてゆっくりと滴下し、ヒドロシリル化による付加反応を行った。滴下終了時の内温は85℃であった。滴下終了後、内温70〜80℃で1時間熟成してから一旦室温まで冷却した。反応混合物を蒸留ポットに移して窒素バブリングをしながら減圧下で蒸留精製を行い、145℃/3mmHg〜155℃/3mmHgの留分25.4gを得た。
この液体を1H−NMR分析及びIR分析したところ、下記結果が得られ、下記式(6)の化合物であることを確認した。
【0020】
1H−NMR
δ0.05〜0.10(Si−C3),3H
δ0.14(Si−C−Si),0.7H
δ0.50〜0.65(Si−C22−Si),5.3H
δ1.01(Si−CH(C3)−Si),2.1H
δ3.51(Si−OC3),18H
δ5.60〜6.03(SiC=C2),3H
【0021】
IR
CH=CH2: 3,177cm-1、3,047cm-1、1,593cm-1
C−H: 2,944cm-1
OC−H: 2,839cm-1
【0022】
【化9】
(式中、Rは−CH2CH2−又は−CH(CH3)−であり、1H−NMRの結果から、−CH2CH2−/−CH(CH3)−≒0.65/0.35の比率である。)
【0023】
[実施例2]
マグネティック撹拌子、ジムロート、温度計を付した100mLの3つ口フラスコに、メチルトリアリルシラン16.6g(0.10mol)、脱水トルエン22.7g、塩化白金酸をCH2=CHSiMe2OSiMe2CH=CH2で変性したトルエン溶液(白金濃度0.5質量%)0.20g(5×10-6mol)を仕込み、オイルバスで内温が70℃になるように加温した。その後、トリエトキシシラン36.1g(0.22mol)(トリエトキシシラン中のSiH基/メチルトリアリルシラン中のアリル基=2.2/3.0)を約1時間かけてゆっくりと滴下し、ヒドロシリル化による付加反応を行った。滴下終了時の内温は85℃であった。滴下終了後、内温70〜80℃で1時間熟成してから一旦室温まで冷却した。反応混合物を蒸留ポットに移して窒素バブリングをしながら減圧下で蒸留精製を行い、157℃/1mmHg〜168℃/1mmHgの留分27.1gを得た。
この液体を1H−NMR分析及びIR分析したところ、下記結果が得られ、下記式(7)の化合物であることを確認した。
【0024】
1H−NMR
δ0.05〜0.10(Si−C3),3H
δ0.40〜0.80(Si−C2CH22−Si),8H
δ0.40〜0.80(Si−OCH23),18H
δ1.30〜1.50(Si−CH22CH2−Si),4H
δ1.60〜1.70(SiC2CH=CH2),2H
δ3.30(Si−OC2CH3),12H
δ4.80〜5.20(SiCH2CH=C2),2H
δ5.70〜6.00(SiCH2=CH2),1H
【0025】
IR
CH=CH2: 3,080cm-1、3,063cm-1、1,634cm-1
C−H: 2,945cm-1
OC−H: 2,890cm-1
【0026】
【化10】
(式中、Rは−CH2CH2CH2−である。)