(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6098891
(24)【登録日】2017年3月3日
(45)【発行日】2017年3月22日
(54)【発明の名称】シリコン単結晶の炭素濃度測定方法
(51)【国際特許分類】
G01N 21/62 20060101AFI20170313BHJP
C30B 29/06 20060101ALI20170313BHJP
【FI】
G01N21/62 A
C30B29/06 B
C30B29/06 502H
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-245921(P2013-245921)
(22)【出願日】2013年11月28日
(65)【公開番号】特開2015-101529(P2015-101529A)
(43)【公開日】2015年6月4日
【審査請求日】2015年11月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000190149
【氏名又は名称】信越半導体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100131048
【弁理士】
【氏名又は名称】張川 隆司
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 由佳里
【審査官】
横尾 雅一
(56)【参考文献】
【文献】
特開2013−152977(JP,A)
【文献】
特開平04−344443(JP,A)
【文献】
特開平06−194310(JP,A)
【文献】
特開2003−075340(JP,A)
【文献】
特開2013−082571(JP,A)
【文献】
特開2014−035305(JP,A)
【文献】
特開2014−199253(JP,A)
【文献】
Applies Physics Letters,1986年,Vol. 49, No. 23,p. 1617-1619
【文献】
M. Nakamura et al,Journal of Electrochemical Society,1994年,Vol. 141, No. 12,p. 3576-3580
【文献】
Physica B,1991年,Vol. 170,p. 201-217
【文献】
Journal of Applied Physics,1998年,Vol. 83, No. 8,p. 4075-4080
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/62−21/74
C30B 1/00−35/00
Science Direct
Scitation
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン単結晶に電子線を照射し、前記シリコン単結晶に生成させた複合欠陥を起因としたルミネッセンスのスペクトルの異なる2つの波長の強度比と、前記シリコン単結晶中の炭素濃度及び酸素濃度より求められる所定値に関し、炭素濃度が異なる複数のシリコン単結晶から前記強度比と前記所定値の相関関係を定立し、炭素濃度が未知の測定用シリコン単結晶から測定された前記強度比と前記相関関係に基づいて前記測定用シリコン単結晶の炭素濃度を測定するシリコン単結晶の炭素濃度測定方法であって、
前記ルミネッセンスはフォトルミネッセンス又はカソードルミネッセンスであり、
前記強度比は、波長が1280nmである前記スペクトルの強度を波長が1570nmである前記スペクトルの強度で除法した強度除法値であり、
前記相関関係は、前記所定値を前記シリコン単結晶の炭素濃度をその酸素濃度で除法した濃度除法値とし、前記濃度除法値と前記強度除法値とを炭素濃度と酸素濃度が異なる前記複数のシリコン単結晶毎に取得することで定立される除法値相関関係であり、
前記除法値相関関係、前記測定用シリコン単結晶から測定される前記強度除法値、及び前記測定用シリコン単結晶から測定される酸素濃度により前記測定用シリコン単結晶の未知の炭素濃度を測定することを特徴とするシリコン単結晶の炭素濃度測定方法。
【請求項2】
前記除法値相関関係は、前記強度除法値の指標を示す強度除法軸と前記濃度除法値の指標を示す濃度除法軸が互いに直交して設定されるグラフ上において、前記強度除法値と前記濃度除法値の関係が前記シリコン単結晶毎に表示されることにより導出される検量線である請求項1に記載のシリコン単結晶の炭素濃度測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコン単結晶に含まれる微量な炭素不純物濃度の測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコン単結晶に電子線を照射し、その単結晶中に生成させた複合欠陥に起因したフォトルミネッセンスのスペクトル強度からシリコン単結晶中の炭素不純物濃度を測定する方法が特許文献1に開示され、また、そのようなフォトルミネッセンスのスペクトル強度はシリコン単結晶中の炭素濃度と酸素濃度の両方に依存することが特許文献2に開示される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013−152977号公報
【特許文献2】特開平4−344443号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の測定方法はシリコン単結晶中の炭素濃度と上記スペクトルの強度(強度比)とを炭素濃度が異なる複数のシリコン単結晶毎に取得し、炭素濃度と強度比の相関関係を予め導出し、その相関関係と炭素濃度が未知のシリコン単結晶(測定用シリコン単結晶)から取得した上記スペクトルの強度(強度比)から測定用シリコン単結晶中の炭素濃度を測定する。しかし、特許文献1はシリコン単結晶中の酸素濃度を考慮しておらず、あくまで酸素濃度が同一のシリコン単結晶でしか炭素濃度を測定できない(特許文献2)。つまり、特許文献1では、シリコン単結晶中の酸素濃度毎に相関関係を導出しなければ、酸素濃度が異なるシリコン単結晶の炭素濃度を測定できない。
【0005】
本発明の課題は、酸素濃度が異なるシリコン単結晶においても炭素濃度を測定できるシリコン単結晶の炭素濃度測定方法を提供することにある。
【0006】
本発明のシリコン単結晶の炭素濃度測定方法は、
シリコン単結晶に電子線を照射し、シリコン単結晶に生成させた複合欠陥を起因としたルミネッセンスのスペクトルの異なる2つの波長の強度比と、シリコン単結晶中の炭素濃度及び酸素濃度より求められる所定値に関し、炭素濃度が異なる複数のシリコン単結晶から強度比と所定値の相関関係を定立し、炭素濃度が未知の測定用シリコン単結晶から測定された強度比と相関関係に基づいて測定用シリコン単結晶の炭素濃度を測定するシリコン単結晶の炭素濃度測定方法であって、
ルミネッセンスはフォトルミネッセンス又はカソードルミネッセンスであり、
強度比は、波長が1280nmであるスペクトルの強度を波長が1570nmであるスペクトルの強度で除法した強度除法値であり、
相関関係は、所定値をシリコン単結晶の炭素濃度をその酸素濃度で除法した濃度除法値とし、濃度除法値と強度除法値とを炭素濃度と酸素濃度が異なる複数のシリコン単結晶毎に取得することで定立される除法値相関関係であり、
除法値相関関係、測定用シリコン単結晶から測定される強度除法値、及び測定用シリコン単結晶から測定される酸素濃度により測定用シリコン単結晶の未知の炭素濃度を測定することを特徴とする。
【0007】
本発明者は、シリコン単結晶に電子線を照射して生成される複合欠陥に起因したルミネッセンスのスペクトル強度がシリコン単結晶中の炭素濃度と酸素濃度の影響を受けることに着眼し、シリコン単結晶中の炭素濃度及び酸素濃度、並びに複合欠陥に起因したルミネッセンスのスペクトル強度の間に相関関係を見出そうと鋭意検討を重ね精査した。
【0008】
その中で、本発明者は、シリコン単結晶に電子線を照射して生成される複合欠陥に起因したルミネッセンスのスペクトル強度のピーク(波長が1280nmと1570nmの両ピーク)と、シリコン単結晶の炭素濃度や酸素濃度の間に何等かの関係があるとの知見を得て、更に研究を重ねる中で、シリコン単結晶の炭素濃度をその酸素濃度で除法した濃度除法値と、そのシリコン単結晶に電子線を照射して生成される複合欠陥に起因したルミネッセンスのスペクトル強度比(波長が1280nmのスペクトル強度を波長が1570nmのスペクトル強度で除法した強度除法値)との間に相関関係があることを見出した。
【0009】
ルミネッセンスの励起エネルギーが光でも電子線でも発光が全く同じであることからフォトルミネッセンス及びカソードルミネッセンスにおいて、まったく同様の相関関係が見出せる。
【0010】
そのため、シリコン単結晶から得られる濃度除法値と強度除法値を、炭素濃度と酸素濃度を変えて作製した複数のシリコン単結晶毎に測定することで、シリコン単結晶の濃度除法値と強度除法値の相関関係(除法値相関関係、具体的には比例関係)が得られる。したがって、炭素濃度が未知の測定用シリコン単結晶からフォトルミネッセンス又はカソードルミネッセンスのスペクトル強度比(強度除法値)を測定することで除法値相関関係から濃度除法値を得ることができ、別途、測定用シリコン単結晶の酸素濃度を取得することで炭素濃度を測定できる。また、除法値相関関係に酸素濃度の指標(濃度除法値)が導入されることで、酸素濃度が異なるシリコン単結晶でも1つの相関関係(除法値相関関係)で炭素濃度を測定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】カソードルミネッセンスのスペクトル強度比(波長が1280nmのスペクトル強度/波長が1570nmのスペクトル強度)と濃度除法値(炭素濃度/酸素濃度)の相関関係を示すグラフ。
【
図2】
図1においてカソードルミネッセンスのスペクトル強度比(強度除法値)から濃度除法値が得られることを示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の測定方法によりシリコン単結晶中の炭素不純物濃度を測定するにあたり、最初に、不純物濃度(炭素濃度や酸素濃度)が所定範囲内とされ、かつ、炭素濃度及び酸素濃度が異なるシリコン単結晶インゴットを、例えば、チョクラルスキー法で引き上げて複数作製し、各シリコン単結晶インゴットからシリコン単結晶ウェーハ(以下、単にシリコン単結晶という)を所定の厚さ(例えば2mm)に切り出し、炭素濃度及び酸素濃度が異なるシリコン単結晶を複数用意する。
【0013】
次に、用意された複数のシリコン単結晶について酸素濃度及び炭素濃度をそれぞれ測定する。例えば、公知の赤外光分装置(フーリエ変換型赤外分光装置)でシリコン単結晶毎に酸素濃度及び炭素濃度を測定する。シリコン単結晶の厚さを厚め(例えば2mm)に切り出すことで、赤外分光装置で酸素濃度及び炭素濃度を測定できる。
【0014】
酸素濃度及び炭素濃度の測定後、電子線照射装置により各シリコン単結晶に電子線を照射し、シリコン単結晶に炭素、酸素複合欠陥を生成させ、シリコン単結晶中の炭素及び酸素に関する情報をフォトルミネッセンス又はカソードルミネッセンスで検出可能な状態にする。
【0015】
そして、生成された炭素、酸素複合欠陥に起因するフォトルミネッセンス又はカソードルミネッセンスのスペクトルを測定する。例えば、フォトルミネッセンスの場合は、公知のフォトルミネッセンス測定装置で複合欠陥が生成されたシリコン単結晶にレーザー光源を照射し、照射されたシリコン単結晶から射出されるフォトルミネッセンスを集光し分光した後、フォトルミネッセンスを検出し、フォトルミネッセンスのスペクトルを得る。なお、カソードルミネッセンスの場合は、公知のカソードルミネッセンス測定装置で複合欠陥が生成されたシリコン単結晶に電子線を照射し、照射されたシリコン単結晶から射出されるカソードルミネッセンスをフォトルミネッセンスと同様に集光等し、カソードルミネッセンスのスペクトルを得る。
【0016】
フォトルミネッセンス測定装置又はカソードルミネッセンス測定装置で測定したスペクトルに基づいて波長が1280nmのスペクトル強度を波長が1570nmのスペクトル強度で除法した強度除法値を取得する。また、上記の赤外分光装置で測定した酸素濃度と炭素濃度から、シリコン単結晶毎に炭素濃度を酸素濃度で除法した濃度除法値を取得し、シリコン単結晶毎に強度除法値と濃度除法値に基づいてグラフ上にデータをマッピングする。
【0017】
具体的には、強度除法値を縦軸、濃度除法値を横軸としたグラフ上に測定された強度除法値と濃度除法値に基づきシリコン単結晶毎に点を表示して、グラフ上の各点を通過又は各点からの距離が最少となるように近似線を作成することで強度除法値と濃度除法値の相関関係(除法値相関関係:検量線)を導出する(
図1参照)。
【0018】
次に、測定対象となる炭素濃度が未知の測定用シリコン単結晶を用意する。検量線を導出するために作製したシリコン単結晶と同様にシリコン単結晶インゴットから測定用シリコン単結晶を用意し、例えば、公知の赤外分光装置で測定用シリコン単結晶の酸素濃度を測定する。
【0019】
また、検量線を導出するために作製したシリコン単結晶と同様に、例えば、公知の電子線照射装置で測定用シリコン単結晶に電子線を照射し、測定用シリコン単結晶に炭素、酸素複合欠陥を生成させ、測定用シリコン単結晶の酸素と炭素に関する情報をフォトルミネッセンス又はカソードルミネッセンスで検出可能な状態にする。
【0020】
そして、例えば、公知のフォトルミネッセンス測定装置又はカソードルミネッセンス測定装置を用いて複合欠陥が生成された測定用シリコン単結晶からフォトルミネッセンス又はカソードルミネッセンスを検出して、測定されたスペクトルから、波長が1280nmのスペクトル強度を波長が1570nmのスペクトル強度を除法した強度除法値を取得する。
【0021】
測定用シリコン単結晶から強度除法値を得られることで、検量線(
図2の破線参照)に基づき強度除法値から濃度除法値を得ることができる。よって、得られた濃度除法値に上記の赤外分光装置で測定した測定用シリコン単結晶の酸素濃度を乗法することで測定用シリコン単結晶の未知の炭素濃度を測定できる。
【0022】
以上が本実施形態のシリコン単結晶の炭素濃度測定方法である。検量線の指標に濃度除法値(炭素濃度/酸素濃度)を導入することで測定用シリコン単結晶の酸素濃度が既知となれば、フォトルミネッセンス又はカソードルミネッセンスを測定する(強度除法値を取得する)ことで検量線から炭素濃度を測定できる。また、検量線を構成する2項目(強度除法値、濃度除法値)の一方(濃度除法値)に酸素濃度と炭素濃度の指標が導入されるので、酸素濃度が異なるシリコン単結晶でも1つの検量線から炭素濃度を測定することが可能となる。
【実施例】
【0023】
以下、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、これらは本発明を限定するものではない。
【0024】
先ず、チョクラルスキー法で引き上げた、酸素濃度及び炭素濃度の異なるシリコン単結晶インゴットを複数作製し、各シリコン単結晶インゴットからシリコン単結晶を所定の厚さ(2mm)に切り出し、高輝度平面研削の後、硝酸及び酢酸を含む混酸液でエッチングを行い、表面を1平方μmの基準内における二乗平均粗さ(Rq)で4nm以下の鏡面としたシリコン単結晶を複数作製した。なお、作製されたシリコン単結晶の酸素濃度範囲は1E17〜7E17 atoms/cm
3に設定され、同様に炭素濃度範囲は2E15〜6E15 atoms/cm
3に設定される。
【0025】
次に、作製された複数のシリコン単結晶から無作為に測定用シリコン単結晶a、bを選択し、作製された複数のシリコン単結晶(測定用シリコン単結晶a、bも含む)に対して電子線放射装置で電子線(加速電圧2MeV、ビーム電流20mA、線量240kGy)を照射した。
【0026】
電子線が照射されたシリコン単結晶(測定用シリコン単結晶a、bも含む)に対し、カソードルミネッセンス測定装置を用いてカソードルミネッセンスを測定した。具体的には、走査電子顕微鏡(日立社製のS−4300SE)と分光器(愛宕物産社製のHR−320)、InGaAsマルチチャンネル検出器を使用し、加速電圧20kV、測定温度35Kの条件下でシリコン単結晶(測定用シリコン単結晶a、bも含む)のカソードルミネッセンスを測定し、波長が1280nmのスペクトル強度を波長が1570nmのスペクトル強度で除法した強度除法値を取得した。
【0027】
次に電子線が照射されたシリコン単結晶(測定用シリコン単結晶a、bを除く。以下、「検量線用シリコン単結晶」とする。)において、電子線の照射がされていないシリコン単結晶部分(シリコン単結晶片)を用いてフーリエ変換型赤外分光装置(ナノメトリクス社のFT−IR装置S−300)により酸素濃度及び炭素濃度を測定し、検量線用シリコン単結晶毎に炭素濃度を酸素濃度で除法した濃度除法値を取得した。また、測定用シリコン単結晶a、bについては同様の装置で酸素濃度のみを測定した。
【0028】
そして、検量線用シリコン単結晶毎に取得した強度除法値と濃度除法値に基づきグラフを作成した。
図1に示すように強度除法値を縦軸、濃度除法値を横軸とし、グラフ上に検量線用シリコン単結晶毎に得られた強度除法値と濃度除法値に基づき点を表示し、グラフ上の各点からの距離が最少となるよう近似線を作成して検量線(近似直線)を導出した。
図1の破線(検量線)に示すように強度除法値と濃度除法値の相関関係(正比例)が見て取れる。
【0029】
次に、測定用シリコン単結晶a、bの未知の炭素濃度を測定した測定方法を説明する。測定用シリコン単結晶a、bの強度除法値(B1、B2)に基づき
図1の検量線から測定用シリコン単結晶a、bの濃度除法値(A1、A2)を取得し(
図2)、その取得した濃度除法値(A1、A2)に上記のフーリエ変換型赤外分光装置で測定された酸素濃度をそれぞれ乗法することで測定用シリコン単結晶a、bの炭素濃度が測定される。
【0030】
以上、本発明の実施例を説明したが、本発明はその具体的な記載に限定されることなく、例示した構成等を技術的に矛盾のない範囲で適宜組み合わせて実施することも可能であるし、またある要素、処理を周知の形態に置き換えて実施することもできる。検量線用シリコン単結晶の数は限定されないが、数が多ければ検量線の精度が高まる。また、検量線用シリコン単結晶の炭素濃度と酸素濃度は他の検量線用シリコン単結晶と一部重複してもよい。
【0031】
上記実施例では、カソードルミネッセンスを用いて炭素濃度を測定する例を例示したが、フォトルミネッセンスを用いる場合には走査電子顕微鏡に代えてレーザー光源を用いてフォトルミネッセンスのスペクトル強度を取得することで、カソードルミネッセンスと同様に炭素濃度を測定できる。
【符号の説明】
【0032】
a、b 測定用シリコン単結晶