【実施例】
【0084】
次に、実施例について説明する。なお、この実施例は理解を容易にするためのものであり、本発明を制限するものではない。すなわち、本発明の技術思想の範囲内における、他の実施例及び変形は、本発明に含まれるものである。
【0085】
(実施例1)
処理するランタンの原料として2N〜3Nの市販品を用いた。このランタン原料の分析値を表2に示す。ランタンそのものは、最近注目されている材料であるため、素材の市販品は、その純度もまちまちであり、品位が一定しないという実情がある。市販品はその内の一つである。
【0086】
【表2】
【0087】
(溶融塩電解)
この原料を用いて溶融塩電解を行った。溶融塩電解には、前記
図1の装置を使用した。浴の組成として、塩化カリウム(KCl)40kg、塩化リチウム(LiCl)9kg、塩化ランタン(LaCl
3)6kgを使用し、La原料10kgを使用した。
【0088】
電解浴の温度は450〜700°Cの間で、本実施例では600°Cに調節した。浴の温度の影響は電解に大きな影響を与えることはなかった。また、この温度では、塩の揮発は少なく、ゲートバルブや冷却塔を激しく汚染することはなかった。雰囲気は不活性ガスとした。
【0089】
電流密度は0.31A/cm
2、電圧は1.0Vで実施した。結晶形は
図2であった。電解時間は12時間とし、これにより電析重量500gが得られた。
この電解により得た析出物の分析結果を表3に示す。この表3に示すように、溶融塩電解した結果から当然ではあるが、塩素濃度、酸素濃度が極端に高いが、その他の不純物は低くなっていた。
【0090】
【表3】
【0091】
(脱塩処理)
この電解析出物を、脱塩炉を使用し、真空加熱し、蒸気圧差によりメタルと塩とを分離した。この脱塩の温度は850°Cとした。また、保持時間は4hとした。脱塩によって電析Laの重量は20%程度減少した。脱塩処理後のLa中の塩素(Cl)含有量は160ppmとなった。
【0092】
(電子ビーム溶解)
次に、上記に得られた脱塩処理したランタンを電子ビーム溶解した。低出力の電子ビームを、炉中のランタン溶解原料に広範囲に照射することにより行う。真空度6.0×10
−5〜7.0×10
−4mbar、溶解出力32kWで照射を行った。この電子ビーム溶解は、2回繰り返した。それぞれのEB溶解時間は、30分である。これによってEB溶解インゴットを作成した。EB溶解時に、揮発性の高い物質は揮散除去され、Cl等の揮発成分の除去が可能となった。
【0093】
以上によって、高純度ランタンを製造することができた。この高純度ランタンの分析値を表4に示す。この表4に示すように、ランタン中のAl<0.5wtppm、Fe:0.65wtppm、Cu<0.05wtppmであり、それぞれ本願発明の条件である1wtppm以下の条件を達成していることが分かる。
【0094】
【表4】
【0095】
次に、主な不純物の低減効果を示す。Li:<0.05wtppm、Na<0.05wtppm、K<0.01wtppm、Ca<0.05wtppm、Mg<0.05wtppm、Si:0.42wtppm、Ti:0.7wtppm、Ni:0.05wtppm、Mn<0.01wtppm、Mo<0.05wtppm、Ta:2.8wtppm、W<0.05wtppm、U<0.001wtppm、Th<0.001wtppmであった。
【0096】
また、W、Mo、Taの総量が10wtppm以下とする本願発明の好ましい条件も全て達成していた。同様に、U、Thがそれぞれ1ppb以下とする本願発明の好ましい条件も全て達成していた。また、α線カウント数:0.001cph/cm
2以下を達成していた。
【0097】
このようにして得たランタンインゴットを、必要に応じてホットプレスを行い、さらに機械加工し、研磨してφ140×14tの円盤状ターゲットとした。このターゲットの重量は1.42kgであった。これをさらにバッキングプレートに接合して、スパッタリング用ターゲットとする。これによって、上記成分組成の高純度ランタンスパッタリング用ターゲットを得ることができた。なお、このターゲットは、酸化性が高いので、真空パックして保存又は運搬することが好ましいと言える。
【0098】
(比較例1)
処理するランタンの原料として、純度が2N〜3Nレベルの市販品(表5参照)を用いた。本比較例1で使用した市販品のランタンは、120mm角×30mmtの板状物からなる。1枚の重量は、2.0kg〜3.3kgであり、これを12枚、合計で24kgの原料を使用した。これらの板状のランタン原料は非常に酸化され易い物質のため、アルミニウムの真空パックされていた。
【0099】
【表5】
【0100】
次に、EB溶解炉を用い、溶解出力32kWで溶解し、鋳造速度13kg/hでインゴットを作製した。EB溶解時に、揮発性の高い物質は揮散除去された。以上によって、一定レベルの純度を持つランタンインゴット22.54kgを製造することができた。このようにして得たランタンの分析値を表6に示す。
【0101】
表6に示すように、ランタン中のAl:72wtppm、Fe:130wtppm、Cu:9.2wtppmであり、それぞれ本願発明の条件であるそれぞれ1wtppm以下の条件に達成していなかった。このように市販LaをEB溶解しただけでは、本願発明の目的を達成することができなかった。
【0102】
【表6】
【0103】
主な不純物を見ると、Li:12wtppm、Na:0.86wtppm、K<0.01wtppm、Ca<0.05wtppm、Mg:2.7wtppm、Si:29wtppm、Ti:1.9wtppm、Cr:4.2wtppm、Ni:6.3wtppm、Mn:6.4wtppm、Mo:8.2wtppm、Ta:33wtppm、W:0.81wtppm、U:0.0077wtppm、Th:0.011wtppmであった。
【0104】
(実施例2)
処理するランタンの原料として、純度4Nのフッ化ランタンの原料を用いた。金属ランタンは、最近注目されている材料であるが、金属ランタンの市販品は、純度が低く、かつ品位が一定しないという問題がある(表5参照)。
一方、フッ化ランタンについては、市販品でも高純度の材料を得ることが可能である。しかし、このフッ化ランタンそのままでは使用できないので、この純度4Nのフッ化ランタン原料を使用し、効率的にかつ安定して高純度の金属ランタンを製造することが、必要かつ重要となる。
【0105】
フッ化ランタン原料の分析値を表7に示す。この中で、主な不純物としては、次の元素が挙げることができる。Na:0.2wtppm、Al<0.05wtppm、Si:0.94wtppm、S:13wtppm、Ca<0.1wtppm、Fe:0.14、Cu<0.05wtppm、Zn<0.1wtppm、一方、希土類元素については、Ce:1.1wtppm、Pr<0.1wtppm、Nd:0.24wtppm:、Sm:0.17wtppmなどであり、以上の不純物については、それほど多くない。
しかしながら、C:180wtppm、N:70wtppm、O:5200wtppm、H:540wtppmであり、多くのガス成分を含有する。
【0106】
【表7】
【0107】
(原料のカルシウム還元)
還元の際に使用する溶解るつぼは、φ250×H400のタンタル(Ta)製るつぼを使用した。このタンタル製るつぼ内に、粉状のLaF
3:14.1kgと塊状Ca:6kgを混合して投入した。還元材であるCaは、計算量よりも10%程度過剰に添加した。
還元装置内に配置したタンタル製るつぼ内の充填物を、ゆっくりと600°Cまで加熱し、この間還元装置内を真空に引き、充填物の脱ガスを行った。その後、精製したアルゴンガスを送入して0.5気圧とした。
【0108】
さらに加熱温度を上昇させた。充填物は800°C〜1000°Cに加熱すると、反応を開始した。反応式は、2LaF
3+3Ca→2La+3CaF
2である。この反応は発熱反応であり迅速に完了した。精製金属とスラグの分離を良くするためには、La金属の融点よりも50°C程度高い温度に保持した。なお、Laの融点は921°Cなので、+50°C、すなわち971°Cになるように加熱温度を調節した。
このようにして金属Laを得ることができる。カルシウム還元した金属Laの分析値を表8に示す。
【0109】
【表8】
【0110】
この表8に示すように、Al:3.2wtppm、Si:2.1wtppm、Ca:24wtppm、Fe:3.2wtppm、Cu:110wtppm、Mo<0.05wtppm、Ta<5wtppm、W<0.05wtppm、C:320wtppm、N:85wtppm、O:450wtppm、S<10wtppm、H:22wtppmとなった。このように、Ca還元による結果ではあるが、Caが多く含有されるという問題がある。また、Ca中のCu分が高いために、La中のCuも高くなるという結果となった。
【0111】
(溶融塩電解)
この原料を用いて溶融塩電解を行った。溶融塩電解には、前記
図1の装置を使用した。浴の組成として、塩化カリウム(KCl)40kg、塩化リチウム(LiCl)9kg、塩化ランタン(LaCl
3)6kgを使用し、La原料10kgを使用した。
【0112】
電解浴の温度は450〜700°Cの間で、本実施例では600°Cに調節した。浴の温度の影響は電解に大きな影響を与えることはなかった。また、この温度では、塩の揮発は少なく、ゲートバルブや冷却塔を激しく汚染することはなかった。雰囲気としてArガスをフローさせた。
【0113】
電流密度は0.13A/cm
2、電圧は0.5Vで実施した。電解時間は12時間とし、これにより電析重量250gが得られた。析出物は、前記
図2と同様であった。
この電解により得た析出物の分析結果を表9に示す。この表9に示すように、溶融塩電解した結果から当然ではあるが、塩素濃度、酸素濃度が極端に高いが、その他の不純物は低くなっていた。
【0114】
【表9】
【0115】
(脱塩処理)
この電解析出物を、脱塩炉を使用し、真空加熱し、蒸気圧差によりメタルと塩とを分離した。この脱塩の温度は850°Cとした。また、保持時間は4hとした。脱塩によって電析Laの重量は20%程度減少した。脱塩処理後のLa中の塩素(Cl)含有量は160ppmとなった。
【0116】
(電子ビーム溶解)
次に、上記に得られた脱塩処理したランタンを電子ビーム溶解した。低出力の電子ビームを、炉中のランタン溶解原料に広範囲に照射することにより行う。真空度6.0×10
−5〜7.0×10
−4mbar、溶解出力32kWで照射を行った。この電子ビーム溶解は、2回繰り返した。それぞれのEB溶解時間は、30分である。これによってEB溶解インゴットを作成した。EB溶解時に、揮発性の高い物質は揮散除去が可能となった。
【0117】
以上によって、高純度ランタンを製造することができた。この電子ビーム溶解後の高純度ランタンの分析値を表10に示す。この表10に示すように、Li<0.005wtppm、Na<0.05wtppm、Al<0.05wtppm、Si:0.21wtppm、S:2.1wtppm、Ca<0.05wtppm、Fe:0.18wtppm、Cu:0.12wtppm、Zn<0.05wtppm、Mo<0.05wtppm、Ta:2.5wtppm、W:0.05wtppm、C:140wtppm、N<10wtppm、O:290wtppm、S<10wtppm、H:3.2wtppmであり、いずれも本願発明の条件を満たしていた。また、カルシウム還元した際に低減ができなかった酸素及びCaも、大きく低減が可能となった。
【0118】
【表10】
【0119】
このようにして得たランタンインゴットを、必要に応じてホットプレスを行い、さらに機械加工し、研磨してφ140×14tの円盤状ターゲットとした。このターゲットの重量は1.42kgであった。これをさらにバッキングプレートに接合して、スパッタリング用ターゲットとする。これによって、上記成分組成の高純度ランタンスパッタリング用ターゲットを得ることができた。なお、このターゲットは、酸化性が高いので、真空パックして保存又は運搬することが好ましいと言える。
【0120】
(比較例2)
この比較例2は、実施例2の条件から、電解工程を省いたものである。実施例2と同様に、処理するランタンの原料として、前記表5に示す純度が2N5〜3Nレベルの市販品を用いた。本比較例1で使用した市販品のランタンは、120mm角×30mmtの板状物からなる。1枚の重量は、2.0kg〜3.3kgであり、これを12枚、合計で24kgの原料を使用した。これらの板状のランタン原料は非常に酸化され易い物質のため、アルミニウムの真空パックがされていた。
【0121】
この表5に示す主な不純物を挙げると、Li:1200wtppm、Na:4.3wtppm、Mg:33wtppm、Al:120wtppm、Si:160wtppm、S:50wtppm、Ti:5.7wtppm、Cr:21wtppm、Mn:36wtppm、Fe:330wtppm、Co:0.32wtppm、Ni:5.1wtppm、Cu:17wtppm、Zr:0.31wtppm、C:920wtppm、N<10wtppm、O:540wtppm、S<10wtppm、H:26wtppmであった。
【0122】
次に、400kWの大型EB溶解炉を用い、真空度7.0×10
−5〜3.5×10
−5mbar、溶解出力96kWで溶解し、鋳造速度13kg/hでインゴットを作製した。EB溶解時に、揮発性の高い物質は揮散除去された。なお、上記の通り、EB溶解の前には、溶融塩電解は行っていない。
以上によって、高純度ランタンインゴット22.54kgを製造することができた。このようにして得た高純度ランタンの分析値を表6に示す。
【0123】
表11に示すように、電子ビーム溶解後のランタン中の不純物元素の主なものは、次の通りである。Li<0.005wtppm、Na<0.05wtppm、Mg<0.05wtppm、Al:4.2wtppm、Si:11wtppm、S:9wtppm、Ti:1.8wtppm、Cr:0.36wtppm、Mn:1.7wtppm、Fe:6.5wtppm、Cu:98wtppm、C:450wtppm、N:140wtppm、O:900wtppm、H:23wtppmであった。
以上から明らかなように、Al、Fe、Cuの低減化はできず、またガス成分の低減化も十分でなかった。全体的に、前記実施例に比べて不純物量は多く、本願発明の目的を達成することができなかった。
【0124】
【表11】
【0125】
(実施例3)
次に、酸素を低減する具体例を説明する。処理するランタンの原料として2N〜3Nの市販品を用いた。このランタン原料の分析値を表12に示す。ランタンそのものは、最近注目されている材料であるため、素材の市販品は、その純度もまちまちであり、品位が一定しないという実情がある。市販品はその内の一つである。
【0126】
【表12】
【0127】
(スカル溶解)
スカル溶解には、φ80×H70の水冷銅ルツボのものを使用し、ランタン(La)のチャージ量は2kgとした。この場合、出力100kWでランタンを溶解させた。そして、覗き窓からランタンの全量が溶解したことを確認し、さらに溶解後に30分保持した後、5分後に75kW、10分後に50kW,15分後に25kW,20分後に12.5kW、25分後に7kW、最後に30分間保持するという工程を経て、段階的に出力を落とし、最終的に出力OFFとした。
【0128】
この徐冷については、大きな炉であれば、より細かく設定することが可能である。余り小さい炉を使用すると、徐冷の細かな制御が出来なくなるので、ランタンチャージ量に応じて、炉のサイズを調節することが必要である。
以上の工程により、酸化物を偏析させ、インゴット底部の酸化物を除去することが可能となった。
【0129】
(機械加工)
スカルインゴット底部に存在する酸化物を除去した。
【0130】
(電子ビーム溶解)
次に、上記に得られたスカルインゴットを、酸洗後電子ビーム溶解した。電子ビーム溶解は、低出力の電子ビームを、炉中のランタン溶解原料に広範囲に照射することにより行い、真空度6.0×10
−5〜7.0×10
−4mbar、溶解出力32kWで照射を行った。この電子ビーム溶解は、2回繰り返した。それぞれのEB溶解時間は、30分である。これによってEBインゴットを作成した。EB溶解時に、揮発性の高い物質は揮散除去が可能となった。
【0131】
このようにして得たEBインゴットを、必要に応じてホットプレスを行い、さらに機械加工し、研磨してφ140×14tの円盤状ターゲットとした。このターゲットの重量は1.42kgであった。これをさらにバッキングプレートに接合して、スパッタリング用ターゲットとする。これによって、上記成分組成の高純度ランタンスパッタリング用ターゲットを得ることができた。なお、このターゲットは、酸化性が高いので、真空パックして保存又は運搬することが好ましいと言える。
【0132】
上記により製造したEBインゴットから、10mm四方のサンプルを4個切り出し、それぞれ酸素濃度を測定し、それらを平均したものをEBインゴットの酸素濃度とした。この結果、酸素濃度は、平均280wtppmとなった。これにより、本願発明の条件を達成することができた。
なお、同様に10個のEBインゴットについて行ったところ、酸素濃度は、実施例3と同様のレベルの280wtppmとなった。以上の工程によって得られたランタンの分析の結果を、表13に示す。
【0133】
【表13】
【0134】
(本実施例のターゲットの色むらについて)
上記の通り、不純物である酸素含有量が多い場合において、ターゲットに色むらが発生し、特に酸素含有量に濃淡があり、ばらつきが発生している場合に色むらが発生する。そして、ターゲットに色むらが発生した結果、スパッタリング中に酸素が原因となるスプラッシュが生じ、均一な成膜ができなくなる。
また、この場合必然的に酸化物が多く存在するので、パーティクルやノジュール発生の原因となる。スカルインゴット底部に存在する酸化物を除去する機械加工は有効であり、ターゲットの表面を観察した結果、本実施例では、この色むらは一切観察されなかった。
【0135】
(比較例3)
本比較例は、実施例3から研削を除いた例である。処理するランタンの原料として実施例1と同じ2N〜3Nの市販品を用いた。ランタンそのものは、最近注目されている材料であるため、素材の市販品は、その純度もまちまちであり、品位が一定しないという実情がある。市販品はその内の一つである。
【0136】
(電子ビーム溶解)
次に、上記市販のランタン原料(ランタンインゴット)を酸洗後、EB溶解炉を用い、真空度7.0×10
−5〜3.5×10
−5mbar、溶解出力32kWで溶解し、鋳造速度45kg/hでEBインゴットを作製した。
【0137】
このようにして得たEBインゴットを、ホットプレスを行い、さらに機械加工し、研磨してφ140×14tの円盤状ターゲットとした。このターゲットの重量は1.42kgであった。これをさらにバッキングプレートに接合して、スパッタリング用ターゲットとした。
【0138】
次に、EBインゴットから10mm四方のサンプルを4個切り出し、それぞれ酸素濃度を測定し、それらを平均したものをEBインゴットの酸素濃度とした。
この結果、酸素濃度は、平均820wtppmとなった。そして、色むらを観察した結果、
図4に示すような色むらが発生した。
また、同様に10個のEBインゴットについて行ったところ、表14に示すように、酸素濃度は560wtppmとなり、比較例1と同様の結果となった。
なお、比較例3は、実施例3との対比で、説明するものであり、差異点となるスカルインゴット底部に存在する酸化物を除去する機械加工以外の点を否定するものでないことは明らかである。
【0139】
【表14】
【0140】
(実施例4)
処理するランタンの原料として、純度4Nのフッ化ランタンの原料を用いた。金属ランタンは、最近注目されている材料であるが、金属ランタンの市販品は純度が低く、かつ品位が一定しないという問題がある(表5参照)。
一方、フッ化ランタンについては、市販品でも高純度の材料を得ることが可能である。しかし、このフッ化ランタンそのままでは使用できないので、この純度4Nのフッ化ランタン原料を使用し、効率的にかつ安定して高純度の金属ランタンを製造することが、必要かつ重要となる。
【0141】
フッ化ランタン原料の分析値を表7に示す。この中で、主な不純物としては、次の元素が挙げることができる。Na:0.2wtppm、Al<0.05wtppm、Si:0.94wtppm、S:13wtppm、Ca<0.1wtppm、Fe:0.14、Cu<0.05wtppm、Zn:<0.1wtppm、一方、希土類元素については、Ce:1.1wtppm、Pr<0.1wtppm、Nd:0.24wtppm:、Sm:0.17wtppmなどであり、以上の不純物については、それほど多くない。
しかしながら、C:180wtppm、N:70wtppm、O:5200wtppm、H:540wtppmであり、多くのガス成分を含有する。
【0142】
(原料のカルシウム還元)
還元の際に使用する溶解るつぼは、φ250×H400のタンタル(Ta)製るつぼを使用した。このタンタル製るつぼ内に、粉状のLaF
3:14.1kgと塊状Ca:6kgを混合して投入した。還元材であるCaは、計算量よりも10%程度過剰に添加した。なお、ここでは、段落0052及び段落0053記載の蒸留カルシウムを用いた。
還元装置内に配置したタンタル製るつぼ内の充填物を、ゆっくりと600°Cまで加熱し、この間還元装置内を真空に引き、充填物の脱ガスを行った。その後、精製したアルゴンガスを送入して0.5気圧とした。
【0143】
さらに加熱温度を上昇させた。充填物は800°C〜1000°Cに加熱すると、反応を開始した。反応式は、2LaF
3+3Ca→2La+3CaF
2である。この反応は発熱反応であり迅速に完了した。精製金属とスラグの分離を良くするためには、La金属の融点よりも50°C程度高い温度に保持した。なお、Laの融点は921°Cなので、+50°C、すなわち971°Cになるように加熱温度を調節した。
このようにして金属Laを得ることができる。カルシウム還元した金属Laの分析値は、前記表8に示す通りである。
【0144】
表8に示すように、Al:3.2wtppm、Si:2.1wtppm、Ca:24wtppm、Fe:3.2wtppm、Cu:110wtppm、Mo<0.05wtppm、Ta<5wtppm、W<0.05wtppm、C:320wtppm、N:85wtppm、O:450wtppm、S<10wtppm、H:22wtppmとなった。このように、Ca還元による結果ではあるが、Caが多く含有されるという問題がある。
【0145】
(溶融塩電解)
この原料を用いて溶融塩電解を行った。溶融塩電解には、前記
図1の装置を使用した。浴の組成として、塩化カリウム(KCl)40kg、塩化リチウム(LiCl)9kg、塩化ランタン(LaCl
3)6kgを使用し、La原料10kgを使用した。
【0146】
電解浴の温度は450〜700°Cの間で、本実施例では600°Cに調節した。浴の温度の影響は電解に大きな影響を与えることはなかった。また、この温度では、塩の揮発は少なく、ゲートバルブや冷却塔を激しく汚染することはなかった。雰囲気は不活性ガスとした。
【0147】
電流密度は0.43A/cm
2、電圧は1.0Vで実施した。電解時間は12時間とし、これにより電析重量280gが得られた。
この電解により得た析出物の分析結果を表9に示す。この表9に示すように、溶融塩電解した結果から当然ではあるが、塩素濃度、酸素濃度が極端に高いが、その他の不純物は低くなっていた。
【0148】
(脱塩処理)
この電解析出物を、脱塩炉を使用し、真空加熱し、蒸気圧差によりメタルと塩とを分離した。この脱塩の温度は850°Cとした。また、保持時間は100hとした。脱塩によって電析Laの重量は20%程度減少した。脱塩処理後のLa中の塩素(Cl)含有量は160ppmとなった。
【0149】
(スカル溶解)
スカル溶解には、φ80×H70の水冷銅ルツボのものを使用し、ランタン(La)のチャージ量は2kgとした。この場合、出力100kWでランタンを溶解させた。そして、覗き窓からランタンの全量が溶解したことを確認し、さらに溶解後に30分保持した後、5分後に75kW、10分後に50kW,15分後に25kW,20分後に12.5kW、25分後に7kW、最後に30分間保持するという工程を経て、段階的に出力を落とし、最終的に出力OFFとした。
【0150】
この徐冷については、大きな炉であれば、より細かく設定することが可能である。余り小さい炉を使用すると、徐冷の細かな制御が出来なくなるので、ランタンチャージ量に応じて、炉のサイズを調節することが必要である。
以上の工程により、酸化物を偏析させ、インゴット底部の酸化物を除去することが可能となった。この電解により得た析出物の分析結果を表15に示す。
【0151】
この表15に示す主な不純物を示すと、Li:16wtppm、Mg:0.94wtppm、S:2.6wtppm、Cl:49wtppm、Fe:0.12wtppm、Co:0.02wtppm、Ni:0.5wtppm、Cu:0.23wtppm、Ce:5.2wtppm、C:150wtppm、O:340wtppmとなった。
【0152】
【表15】
【0153】
(機械加工)
スカルインゴット底部に存在する酸化物を除去した。
【0154】
(電子ビーム溶解)
次に、上記に得られたランタン成型体を電子ビーム溶解した。低出力の電子ビームを、炉中のランタン溶解原料に広範囲に照射することにより行う。真空度6.0×10
−5〜7.0×10
−4mbar、溶解出力32kWで照射を行った。この電子ビーム溶解は、2回繰り返した。それぞれのEB溶解時間は、30分である。これによってEB溶解インゴットを作成した。EB溶解時に、揮発性の高い物質は揮散除去が可能となった。
【0155】
以上によって、高純度ランタンを製造することができた。この電子ビーム溶解後の高純度ランタンの分析値を表16に示す。
この表16に示すように、Li<0.005wtppm、Na<0.05wtppm、Al:0.39wtppm、Si:0.25wtppm、S:0.6wtppm、Ca<0.05wtppm、Fe:0.43wtppm、Cu:0.34wtppm、Zn<0.05wtppm、Mo<0.05wtppm、Ta<5wtppm、W<0.05wtppm、C:140wtppm、N<10wtppm、O:290wtppm、S<10wtppm、H:2.9wtppmであり、高純度フッ化ランタンを使用することにより、さらにこの純度を向上させ、いずれも本願発明の条件を満たしていた。また、カルシウム還元した際に低減ができなかった酸素及びCaも、大きく低減が可能となった。
【0156】
【表16】
【0157】
(本実施例のターゲットの色むらについて)
上記の通り、不純物である酸素含有量が多い場合において、ターゲットに色むらが発生し、特に酸素含有量に濃淡があり、ばらつきが発生している場合に色むらが発生する。そして、ターゲットに色むらが発生した結果、スパッタリング中に酸素が原因となるスプラッシュが生じ、均一な成膜ができなくなる。
また、この場合必然的に酸化物が多く存在するので、パーティクルやノジュール発生の原因となる。スカルインゴット底部に存在する酸化物を除去する機械加工は有効であり、ターゲットの表面を観察した結果、本実施例では、この色むらは一切観察されなかった。
【0158】
このようにして得たランタンインゴットを、必要に応じてホットプレスを行い、さらに機械加工し、研磨してφ140×14tの円盤状ターゲットとした。このターゲットの重量は1.42kgであった。これをさらにバッキングプレートに接合して、スパッタリング用ターゲットとする。これによって、上記成分組成の高純度ランタンスパッタリング用ターゲットを得ることができた。なお、このターゲットは、酸化性が高いので、真空パックして保存又は運搬することが好ましいと言える。
【0159】
(比較例4)
本比較例4は、実施例4における条件、すなわちスカルインゴット底部に存在する酸化物を除去する機械加工を実施しなかった例を示す。
【0160】
(本比較例のターゲットの色むらについて)
上記の通り、不純物である酸素含有量が多い場合において、ターゲットに色むらが発生し、特に酸素含有量に濃淡があり、ばらつきが発生している場合に色むらが発生する。そして、ターゲットに色むらが発生した結果、スパッタリング中に酸素が原因となるスプラッシュが生じ、均一な成膜ができなくなる。
また、この場合必然的に酸化物が多く存在するので、パーティクルやノジュール発生の原因となる。特に、スカルインゴット底部に存在する酸化物を除去する機械加工は有効であるが、本比較例においては、これを行わなかったために、ターゲットの表面を観察した結果、本比較例では、この色むらが観察された。
【0161】
なお、本比較例の結果を表17に示す。なお、比較例4は、実施例4との対比で、説明するものであり、差異点となるスカルインゴット底部に存在する酸化物を除去する機械加工以外の点を否定するものでないことは明らかである。
【0162】
【表17】