特許第6099018号(P6099018)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6099018高純度ランタンからなるスパッタリングターゲット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6099018
(24)【登録日】2017年3月3日
(45)【発行日】2017年3月22日
(54)【発明の名称】高純度ランタンからなるスパッタリングターゲット
(51)【国際特許分類】
   C22B 59/00 20060101AFI20170313BHJP
   C22B 9/04 20060101ALI20170313BHJP
   C22B 9/22 20060101ALI20170313BHJP
   C22C 1/02 20060101ALI20170313BHJP
   C22C 28/00 20060101ALI20170313BHJP
   C23C 14/14 20060101ALI20170313BHJP
   C23C 14/34 20060101ALI20170313BHJP
   C25C 3/34 20060101ALI20170313BHJP
   H01L 21/285 20060101ALI20170313BHJP
【FI】
   C22B59/00
   C22B9/04
   C22B9/22
   C22C1/02 501D
   C22C1/02 503N
   C22C28/00 A
   C23C14/14 D
   C23C14/34 A
   C25C3/34 Z
   H01L21/285 S
【請求項の数】4
【全頁数】49
(21)【出願番号】特願2013-207810(P2013-207810)
(22)【出願日】2013年10月3日
(62)【分割の表示】特願2012-553724(P2012-553724)の分割
【原出願日】2012年1月17日
(65)【公開番号】特開2014-74228(P2014-74228A)
(43)【公開日】2014年4月24日
【審査請求日】2013年10月3日
【審判番号】不服2015-19275(P2015-19275/J1)
【審判請求日】2015年10月27日
(31)【優先権主張番号】特願2011-10896(P2011-10896)
(32)【優先日】2011年1月21日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2011-10974(P2011-10974)
(32)【優先日】2011年1月21日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100093296
【弁理士】
【氏名又は名称】小越 勇
(72)【発明者】
【氏名】高畑 雅博
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 和幸
(72)【発明者】
【氏名】成田 里安
(72)【発明者】
【氏名】郷原 毅
【合議体】
【審判長】 板谷 一弘
【審判官】 河本 充雄
【審判官】 河野 一夫
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2009/084318(WO,A1)
【文献】 佐藤貴則,三村耕司,一色実,金属Ce,Laのプラズマ帯溶融精製,日本金属学会講演概要,日本金属学会,2006年 3月21日,Vol.138th,304
【文献】 MIMURA Kouji 外2名,Purification of lanthanum and cerium by plasma arc zone melting,J Mater Sci,米国,2008年 4月,Vol.43 No.8,Page.2721−2730
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 1/00-61/00
C22C 1/02
C22C28/00
C23C14/14,14/34
C25C 3/34
H01L21/285
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
希土類元素及びガス成分を除いた純度が5N以上の高純度ランタンからなり、不純物であるAlの含有量が0.5wtppm以下Feの含有量が0.65wtppm以下Cuの含有量が0.34wtppm以下、ガス成分の総量が1000wtppm以下、酸素濃度が500wtppm以下であることを特徴とするスパッタリングターゲット
【請求項2】
不純物であるW、Mo、Taの含有量の総量が10wtppm以下であることを特徴とする請求項1記載のスパッタリングターゲット
【請求項3】
不純物であるPbの含有量が0.1wtppm以下、Biの含有量が0.01wtppm以下、U、Thの含有量がそれぞれ1ppb以下であることを特徴とする請求項1又は2記載のスパッタリングターゲット
【請求項4】
α線カウント数が0.001cph/cm以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のスパッタリングターゲット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高純度ランタンの製造方法、高純度ランタン並びに高純度ランタンからなるスパッタリングターゲット及び高純度ランタンを主成分とするメタルゲート膜に関する。
【背景技術】
【0002】
ランタン(La)は希土類元素の中に含まれるものであるが、鉱物資源として混合複合酸化物として地殻に含有されている。希土類元素は比較的希(まれ)に存在する鉱物から分離されたので、このような名称がついたが、地殻全体からみると決して希少ではない。
ランタンの原子番号は57、原子量138.9の白色の金属であり、常温で複六方最密構造を備えている。融点は921°C、沸点3500°C、密度6.15g/cmであり、空気中では表面が酸化され、水には徐々にとける。熱水、酸に可溶である。延性はないが、展性はわずかにある。抵抗率は5.70×10−6Ωcmである。445°C以上で燃焼して酸化物(La)となる(理化学辞典参照)。
【0003】
希土類元素は一般に酸化数3の化合物が安定であるが、ランタンも3価である。最近ではランタンをメタルゲート材料、高誘電率材料(High−k)等の、電子材料として研究開発が進められており、注目されている金属である。
ランタン金属は精製時に酸化し易いという問題があるため、高純度化が難しい材料であり、高純度製品は存在していなかった。また、ランタン金属を空気中に放置した場合には短時間で酸化し黒色に変色するので、取り扱いが容易でないという問題がある。
最近、次世代のMOSFETにおけるゲート絶縁膜として薄膜化が要求されているが、これまでゲート絶縁膜として使用されてきたSiOでは、トンネル効果によるリーク電流が増加し、正常動作が難しくなってきた。
【0004】
このため、それに変わるものとして、高い誘電率、高い熱的安定性、シリコン中の正孔と電子に対して高いエネルギー障壁を有するHfO、ZrO、Al、Laが提案されている。特に、これらの材料の中でも、Laの評価が高く、電気的特性を調査し、次世代のMOSFETにおけるゲート絶縁膜としての研究報告がなされている(非特許文献1参照)。しかし、この非特許文献の場合に、研究の対象となっているのは、La膜であり、La元素の特性と挙動については、特に触れてはいない。
【0005】
また、希土類金属を精製する方法として、希土類金属のハロゲン化物をカルシウム又は水素化カルシウムにより還元するという技術が、20年ほど前に提案されている。この中に希土類の例示としてランタンの記載もあるが、スラグを分離する手段として、スラグ分離治具を使用するという程度の技術で、ランタン金属元素の持つ問題点及び精製手段については殆ど開示がない(特許文献1参照)。
【0006】
このようにランタン(酸化ランタン)については、まだ研究の段階にあると言えるが、このようなランタン(酸化ランタン)の特性を調べる場合において、ランタン金属自体がスパッタリングターゲット材として存在すれば、基板上にランタンの薄膜を形成することが可能であり、またシリコン基板との界面の挙動、さらにはランタン化合物を形成して、高誘電率ゲート絶縁膜等の特性を調べることが容易であり、また製品としての自由度が増すという大きな利点を持つものである。
【0007】
しかしながら、ランタンスパッタリングターゲットを作製しても、上記の通り、空気中で短時間に(10分程度で)酸化してしまう。ターゲットに酸化膜が形成されると、電気伝導度の低下がおき、スパッタリングの不良を招く。また、空気中に長時間放置しておくと、空気中の水分と反応して水酸化物の白い粉で覆われるという状態に至り、正常なスパッタリングができないという問題すら起こる。
このために、ターゲット作製後、すぐ真空パックするか又は油脂で覆い酸化防止策を講ずる必要があるが、これは著しく煩雑な作業である。このような問題から、ランタン元素のターゲット材は、実用化に至っていないのが現状である。特許文献としては、本出願人による下記3件(特許文献2〜特許文献5)が存在する。
【0008】
また、ランタンのターゲットを用いてスパッタリングにより成膜する場合に問題となるのは、ターゲット表面上の突起物(ノジュール)の発生である。この突起物は異常放電を誘発し、突起物(ノジュール)の破裂等によるパーティクルの発生が生ずる。
パーティクル発生は、メタルゲート膜や半導体素子及びデバイスの不良率を劣化させる原因となる。ランタンに含まれる炭素(グラファイト)が固形物であることから、特に問題であり、この炭素(グラファイト)は、導電性を有するため、検知が難しく、低減化が求められる。
【0009】
さらに、ランタンは上記のように、高純度化するのが難しい材料であるが、上記炭素(グラファイト)以外に、Al、Fe、Cuの含有も、ランタンの特性を活かすためには低減化が好ましい。また、アルカリ金属及びアルカリ土類金属、遷移金属元素、高融点金属元素、放射性元素も半導体の特性に影響を与えるので低減化が望まれる。このようなことからランタンの純度が5N以上であることが望まれる。
下記特許文献5には、ランタン原料を酸洗浄及び超音波洗浄した後、電子ビーム溶解してAl、Fe、Cuの含有量を、それぞれ100wtppmにする記載がある。その実施例2では、Al:5.5wtppm、Fe:3.5wtppm、Cu:2.8wtppmを達成している。この特許文献5は、これらの元素の低減化に大きく貢献しており、著しい前進であった。しかし、さらに高純度化のレベルの向上を図ることが必要とされ、その向上化の方法を探査(研究)し、開発する必要があった。
【0010】
しかし、希土類、特にランタン以外のランタノイドについては除去するのが極めて難しいという問題がある。幸いにして、ランタン以外のランタノイドについては、その性質が類似していることから、多少の混入は問題とならない。原料段階で、既に希土類の含有量が低い原料が存在するので、特に希土類の低減化が必要な場合には、そのような原料を出発原料とすることができる。また、ガス成分もまた多少の混入は大きな問題とならない。しかも、ガス成分は、一般に除去が難しいため、純度の表示には、このガス成分を除外するのが一般的である。
【0011】
従来は、ランタンの特性、高純度ランタンの製造、ランタンターゲット中の不純物の挙動、等の問題は十分に知られていない。したがって、上記のような問題を早急に解決することが望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開昭63−11628号公報
【特許文献2】特願2009−547950号公報
【特許文献3】特願2009−078836号公報
【特許文献4】特願2009−084078号公報
【特許文献5】国際公開WO2009/084318号
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】徳光永輔、外2名著、「High−k ゲート絶縁膜用酸化物材料の研究」電気学会電子材料研究会資料、Vol.6−13、Page.37−41、2001年9月21日発行
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、高純度ランタンの製造方法、高純度ランタン、この高純度ランタンを用いて作製したスパッタリングターゲット及び該スパッタリングターゲットを使用して成膜したメタルゲート膜並びに該メタルゲート膜を備える半導体素子及びデバイスを、安定して提供できる技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本願発明は、ガス成分を除く純度が2N〜3Nの粗金属ランタンの原料を出発材料とし、浴温450〜700°Cで溶融塩電解してランタン結晶を得、次にこのランタン結晶を、脱塩処理した後に、電子ビーム溶解して揮発性物質を除去する高純度ランタンの製造方法を提供する。
溶融塩電解浴としては、塩化カリウム(KCl)、塩化リチウム(LiCl)、塩化ランタン(LaCl)から選択した1種以上の電解浴を使用することができる。また、溶融塩電解を行うに際しては、Ta製のアノードを使用することができる。
【0016】
さらに、脱塩処理に際しては、脱塩炉を使用し850°C以下の温度で真空加熱して、蒸気圧差によりメタルと塩とを分離することが有効である。
以上により、希土類元素及びガス成分を除いた純度が5N以上であり、ランタン中のアルミニウム(Al)、鉄(Fe)及び銅(Cu)が、それぞれ1wtppm以下である高純度ランタンを得ることができる。
【0017】
以上の高純度ランタンは新規な物質であり、本願発明はこれを包含するものである。MOSFETにおけるゲート絶縁膜として利用する場合に、形成するのは主としてLaOx膜であるが、このような膜を形成する場合には、任意の膜を形成するという、膜形成の自由度を増すために、純度の高いランタン金属が必要となる。本願発明は、これに適合する材料を提供することができる。
【0018】
ランタンに含有される希土類元素には、ランタン(La)以外に、Sc,Y,Ce,Pr,Nd,Pm,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Luがあるが、特性が似ているために、Laから分離精製することが難しい。特に、CeはLaと近似しているので、Ceの低減化は容易ではない。
しかしながら、これらの希土類元素は性質が近似しているが故に、希土類元素合計で100wtppm未満であれば、電子部品材料としての使用に際し、特に問題となるものでない。したがって、本願発明のランタンは、このレベルの希土類元素の含有は許容される。
【0019】
一般に、ガス成分として、C、N、O、S、Hが存在する。これらは単独の元素として存在する場合もあるが、化合物(CO、CO、SO等)又は構成元素との化合物の形態で存在することもある。これらのガス成分元素は原子量及び原子半径が小さいので、多量に含有されない限り、不純物として存在しても、材料の特性に大きく影響を与えることは少ない。したがって、純度表示をする場合には、ガス成分を除く純度とするのが普通である。この意味で、本願発明のランタンの純度は、ガス成分を除く純度が5N以上とするものである。
【0020】
さらに、本願発明は、W、Mo、Taの総量が10wtppm以下である高純度ランタンを提供する。さらにアルミニウム(Al)、鉄(Fe)及び銅(Cu)を含めても、総量で10wtppm以下とすることが望ましい。また、不純物であるU、Thがそれぞれ1ppb以下である高純度ランタンを提供する。これらは、半導体特性を低下させる不純物となるので、できるだけ低減させることが望ましい元素である。
また、本願発明は、α線カウント数が0.001cph/cm以下であること、すなわち高純度ランタンであって、希土類元素及びガス成分を除いた純度が5N以上であり、α線カウント数が0.001cph/cm以下である高純度ランタンを得ることができる。
【0021】
本願発明は、上記の高純度ランタンを用いて製造したスパッタリングターゲット、該スパッタリングターゲットを用いて成膜したメタルゲート膜及び上記メタルゲート膜を備える半導体素子及びデバイスを提供できる。
MOSFETにおけるゲート絶縁膜として利用する場合には、上記の通り、形成するのは主としてLaOx膜である。このような膜を形成する場合において、任意の膜を形成するという、膜形成の自由度を増すために、純度の高いランタン金属が必要となる。本願発明は、これに適合する材料を提供することができる。したがって、本願発明の高純度ランタンは、ターゲットの作製時において、他の物質との任意の組み合わせを包含するものである。
【0022】
上記により得た高純度ランタンは、真空中で溶解し、これを凝固させてインゴットとする。このインゴットは、さらに所定サイズに裁断し、研磨工程を経てスパッタリングターゲットにすることができる。これによって、希土類元素及びガス成分を除いた純度が5N以上であり、Al、Fe、Cuがそれぞれ1wtppm以下である高純度ランタンターゲットを製造することができる。
【0023】
また、上記のターゲットを使用してスパッタリングすることにより、同成分のメタルゲート膜を得ることができる。これらのスパッタリングターゲット、メタルゲート膜、さらにこれらを用いた半導体素子及びデバイスは、いずれも新規な物質であり、本願発明はこれを包含するものである。
さらに、本願発明は、ランタン中の酸素濃度が500wtppm以下、である金属ランタン、特に酸化物の凝集部に起因する色むらがない金属ランタンを提供するものである。
【0024】
MOSFETにおけるゲート絶縁膜として利用する場合に、形成するのは主としてLaOx膜であるが、このような膜を形成する場合には、任意の膜を形成するという、膜形成の自由度を増すために、酸素濃度の低いランタン金属が必要となる。本願発明は、これに適合する材料を提供することができる。
【0025】
製造工程にも起因する問題であるが、ランタンインゴット内部に不純物の偏析を生ずる場合がある。この偏析の物質は、主として酸化物からなる不純物である。
これは、ランタンインゴットを機械加工してスパッタリングターゲットを切出した場合に、一部変色部分(色むら)が存在する。この色むら部分を分析して調べると、酸化物であることが確認された。
【0026】
このようなターゲットに存在する偏析は、スパッタリング時に不純物が濃縮し、成分のばらつきを生ずるので好ましいことではない。
しかし、多くの場合、ランタンは上記のようにガス成分に起因する偏析は避けなければならない。これを達成することを目的とするものである。
【0027】
金属ランタンの製造に際しては、スカル溶解後、底部を除くランタンインゴット内部に酸化物の偏析部が存在しなくなるまで徐冷する工程、徐冷により得たスカルインゴットを機械加工し、インゴット底部に存在する酸化物を除去する工程、機械加工後のインゴットを酸洗した後、電子ビーム(EB)溶解しEBインゴットを作製する工程を経て、高純度ランタンを製造することもできる。この電子ビーム(EB)溶解したインゴットは、酸素500wtppm以下を達成することができる。本発明は、これらを包含する。
【0028】
以上の工程により、本発明の金属ランタンスパッタリングターゲットについては、ランタンターゲット中の酸素濃度が500wtppm以下である金属ランタンスパッタリングターゲット、特にターゲット中に酸化物凝集部に起因する色むらが存在せず、これらの偏析がない金属ランタンスパッタリングターゲットを提供することができる。
【0029】
金属ランタンスパッタリングターゲットから酸化物を除去する場合においては、上記のランタンインゴットの製造工程をベースとするランタン原料をスカル溶解後、底部を除くランタンインゴット内部に酸化物の偏析部が存在しなくなるまで徐冷する工程、徐冷により得たスカルインゴットを機械加工し、インゴット底部に存在する酸化物を除去する工程、機械加工後のインゴットを酸洗した後、電子ビーム(EB)溶解しEBインゴットを作製する工程、さらにこのEBインゴットを機械加工する工程を採用することができる。
これによって、前記インゴットを、さらに所定サイズに裁断し、研磨工程を経てスパッタリングターゲットにする。これによって、不純物の偏析がなく均質である金属ランタンスパッタリングターゲットを得ることができる。
【0030】
このようにして作製したスパッタリングターゲットを用いて、スパッタリング成膜することにより、メタルゲート膜のランタンを構成する成分を、該ランタン構成成分中の酸素濃度が500wtppm以下である金属ランタンを主成分とするメタルゲート膜を提供することができる。
また、ターゲットに不純物に起因する偏析がないので、パーティクルの発生を抑制できる。これらのスパッタリングターゲット及びメタルゲート膜は、いずれも新規な物質であり、本願発明はこれを包含するものである。
【発明の効果】
【0031】
本発明は、高純度ランタンの製造方法、高純度ランタン、この高純度ランタンを用いて作製したスパッタリングターゲット及び該スパッタリングターゲットを使用して成膜したメタルゲート膜並びに該メタルゲート膜を備える半導体素子及びデバイスを、安定して提供できるという優れた効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】溶融塩電解の装置の一例を示す図である。
図2】電解の際に電流密度で変化する結晶形を示すものである。
図3】インゴット(ターゲット)の色むらの様子、光学顕微鏡による色むら部分の拡大図及び色むら部分の分析結果を示す図である。
図4】スカル溶解炉を用いてランタンをスカル溶解した場合の、溶湯の対流と酸化物の分布の概念を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明は、高純度化用のランタン原料として、ガス成分を除く純度で、純度4N以下の粗ランタン酸化物の原料を使用することができる。これらの原料は、主な不純物として、Li、Na、K、Ca、Mg、Al、Si、Ti、Fe、Cr、Ni、Mn、Mo、Ce、Pr、Nd、Sm、Ta、W、ガス成分(N、O、C、H)等が含有されている。
【0034】
ランタンに含まれるアルミニウム(Al)及び銅(Cu)は、半導体において基板やソース、ドレイン等の合金材料に用いられることが多く、ゲート材料中に少量でも含まれると誤作動の原因になる。また、ランタンに含まれる鉄(Fe)は、酸化しやすいため、ターゲットとして用いた場合のスパッタ不良の原因となる、さらに、ターゲット中で酸化していなくてもスパッタされた後に酸化すると、体積が膨張するため絶縁不良等の不具合を起こしやすく動作不良の原因となるという理由により、特に問題となるので、これを低減する必要がある。
【0035】
原料にはFe、Alが多量に含有する。また、Cuについては粗金属を塩化物やフッ化物から還元して製造する際に用いられる水冷部材からの汚染を受ける場合が多い。そして、原料ランタン中では、これらの不純物元素は酸化物の形態で存在するケースが多い。
【0036】
また、ランタン原料は、フッ化ランタン又は酸化ランタンをカルシウム還元したものが使用されることが多いが、この還元材となるカルシウムに、Fe、Al、Cuが不純物として混入しているので、カルシウム還元材からの不純物混入が多く見られる。
【0037】
(溶融塩電解)
本願発明は、上記ランタンの純度を高め、5N以上の純度を達成するために溶融塩電解を行う。溶融塩電解の装置の一例を、図1に示す。この図1に示すように、装置の下部にTa製のアノードを配置する。カソードにはTaを使用する。
なお、電解浴・電析物と触れる部分は、汚染防止のためすべてTa製とする、他の金属の溶融塩電解で用いられるTi、Ni等はLaと合金を造りやすいため適当で無い。
La原料と電析を分離するためのバスケットを中央下部に配置する。上半分は冷却塔である。この冷却塔と電解槽はゲートバルブ(GV)で仕切る構造としている。
【0038】
浴の組成として、塩化カリウム(KCl)、塩化リチウム(LiCl)、塩化ナトリウム(NaCl)、塩化マグネシウム(MgCl)、塩化カルシウム(CaCl)の、一種以上を任意に選択して、使用することができる。
【0039】
電解浴の温度は、450〜700°Cの間に調節するのが良い。浴の温度の影響は電解に大きな影響を与えることはないが、高温にすると浴を構成する塩の揮発が激しくなり、ゲートバルブや冷却塔が汚染され、清掃が煩雑となるので、避ける必要がある。
一方、低温であるほどハンドリングは容易になるが、低温度過ぎると、浴の流動性が悪くなり、浴中組成に分布が出来、清浄な電析が得られなくなる傾向があるので、上記の範囲が好ましい範囲と言える。
【0040】
雰囲気は不活性雰囲気とする。通常、Arガスをフローさせて実施する。アノードの材質としては汚染が生じない材料が好適であり、その意味でTaを使用することが望ましい。カソードの材料としてTaを使用する。なお、希土類の溶融塩電解では、一般にグラファイトが用いられているが、これは炭素の汚染原因となるので、本願発明では避けなければならない。
【0041】
(電解条件)
電流密度は0.025〜0.5の範囲で任意に設定することができる。電圧は1.0V程度で行ったが、これらの条件は装置の規模にも依るので、他の条件に設定することも可能である。図2に示すような電析物が得られた。時間は、通常4〜24時間程度行う。上記の溶融塩電解装置を使用した場合、電析重量150〜500g程度が得られる。
【0042】
(脱塩炉)
脱塩炉を使用し、真空加熱し、蒸気圧差によりメタルと塩とを分離する。通常脱塩の温度は850°C以下とする。保持時間は1〜4hとするが、原料の量により、適宜調節することができる。脱塩によって電析Laの重量は5〜35%程度減少した。
すなわち、これから脱塩により、Clは5〜35%程度減少する。脱塩処理後のLa中の塩素(Cl)含有量は50〜3000ppmであった。
【0043】
(電子ビーム溶解)
上記に得られたランタン成型体の電子ビーム溶解に際しては、低出力の電子ビームを、炉中のランタン溶解原料に広範囲に照射することにより行う。通常、9kW〜32kWで行う。この電子ビーム溶解は、数回(2〜4)繰り返すことができる。電子ビーム溶解の回数を増やすと、Cl等の揮発成分の除去がより向上する。
W、Mo、Taは、リーク電流の増加を引き起こし、耐圧低下の原因となる。したがって、電子部品材料として使用する場合には、これらの総量を10wtppm以下とする。
【0044】
上記において、高純度ランタンから希土類元素を除外するのは、高純度ランタンの製造の際に、他の希土類自体がランタンと化学的特性が似ているために、除去することが技術的に非常に難しいということ、さらにこの特性の近似性からして、不純物として混入していても、大きな特性の異変にはならないということからである。
【0045】
このような事情から、ある程度、他の希土類の混入は黙認されるが、ランタン自体の特性を向上させようとする場合は、少ないことが望ましいことは、言うまでもない。
また、ガス成分を除いた純度が5N以上とするのは、ガス成分は除去が難しく、これをカウントすると純度の向上の目安とならないからである。また、一般に他の不純物元素に比べ多少の存在は無害である場合が多いからである。
【0046】
ゲート絶縁膜又はメタルゲート用薄膜等の電子材料の薄膜を形成する場合には、その多くはスパッタリングによって行われ、薄膜の形成手段として優れた方法である。したがって、上記のランタンインゴットを用いて、高純度ランタンスパッタリングターゲットを製造することは有効である。
ターゲットの製造は、鍛造・圧延・切削・仕上げ加工(研磨)等の、通常の加工により製造することができる。特に、その製造工程に制限はなく、任意に選択することができる。
【0047】
以上から、ガス成分を除いた純度が5N以上であり、Al、Fe、Cuがそれぞれ1wtppm以下に、さらにW,Mo,Ta(ルツボ材)を含めても、これらの不純物の合計量を10wtppm未満である高純度ランタンを得ることができる。
ターゲットの製作に際しては、上記高純度ランタンインゴットを所定サイズに切断し、これを切削及び研磨して作製する。
【0048】
さらに、この高純度ランタンターゲットを用いてスパッタリングすることにより高純度ランタンを基板上に成膜することができる。これによって、希土類元素及びガス成分を除いた純度が5N以上であり、Al、Fe、Cuがそれぞれ1wtppm以下である高純度ランタンを主成分とするメタルゲート膜を基板上に形成できる。基板上の膜はターゲットの組成が反映され、高純度のランタン膜を形成できる。
【0049】
また、本発明は、高純度化用のランタン原料として、ガス成分を除く純度で、純度4N以上の市販のフッ化ランタンの原料を、出発原料として使用することができる。これらの原料は、主な不純物として、Li、Na、K、Ca、Mg、Al、Si、Ti、Fe、Cr、Ni、Mn、Mo、Ce、Pr、Nd、Sm、Ta、Wが含まれるが、その量は少ない。特に、希土類元素の含有量が少ないという特徴がある。
しかしながら、この市販のフッ化ランタンには、ガス成分(N、O、C、H)が多量に含有されているので、このままでは使用することができない。
【0050】
ランタンに含まれるアルミニウム(Al)及び銅(Cu)は、半導体において基板やソース、ドレイン等の合金材料に用いられることが多く、ゲート材料中に少量でも含まれると誤作動の原因になる。また、ランタンに含まれる鉄(Fe)は、酸化しやすいため、ターゲットとして用いた場合のスパッタ不良の原因となる、さらに、ターゲット中で酸化していなくてもスパッタされた後に酸化すると、体積が膨張するため絶縁不良等の不具合を起こしやすく動作不良の原因となるという理由により、特に問題となるので、これを低減する必要がある。
【0051】
原料にはFe、Alが多量に含有する。また、Cuについては粗金属を塩化物やフッ化物からから還元して製造する際に用いられる水冷部材からの汚染を受ける場合が多い。そして、原料ランタン中では、これらの不純物元素は酸化物の形態で存在するケースが多い。
【0052】
また、ランタン原料として、フッ化ランタンを使用することができる。フッ化ランタンを用いた場合には、カルシウム還元するが、この還元材となるカルシウムに、Fe、Al、Cuが不純物として混入しているので、カルシウム還元材からの不純物が混入する可能性がある。表1に、市販Caの分析値の対比を示す。この表1の市販Caでは、Cuが95wtppmと高く、この市販Caを使用した場合には、Cuの混入のリスクが高くなる。
【0053】
【表1】
【0054】
(カルシウム還元)
還元の際に使用する溶解るつぼは、タンタル(Ta)製るつぼを使用する。このタンタル製るつぼ内に、粉状のLaFと塊状Caを混合して投入する。通常、還元材であるCaは、計算量よりも10%程度過剰に添加する。
還元装置内に配置したタンタル製るつぼ内の充填物を、ゆっくりと600°Cまで加熱し、この間還元装置内を真空に引き、充填物の脱ガスを行う。その後、精製したアルゴンガスを送入して0.5気圧とする。
【0055】
さらに加熱を行うが、充填物は800°C〜1000°Cに加熱すると、反応が開始される。反応式は、2LaF+3Ca→2La+3CaFである。この反応は発熱反応なので、迅速に完了する。精製金属とスラグの分離を良くするためには、La金属の融点よりも50°C程度高い温度に数分間保持することで良い。
【0056】
金属Laの収率は97%程度に達する。主な不純物は、未反応の還元材とスラグである。なお、るつぼ材であるTaが不純物として混入する可能性があるので、還元反応はできるだけ低い温度で実施するのが望ましい。このようにして、金属Laを得ることができる。
【0057】
(電子ビーム溶解)
上記に得られたランタン成型体の電子ビーム溶解に際しては、低出力の電子ビームを、炉中のランタン溶解原料に広範囲に照射することにより行う。段落0044に記載した電子ビーム溶解と重複するところもあるが、再度記載する。通常、この電子ビーム溶解は、9kW〜32kWで行い、数回(2〜4)繰り返すことができる。電子ビーム溶解の回数を増やすと、Ca、Mg,Mn,Pb等の高蒸気圧元素の除去がより向上する。
【0058】
出力を増加させると、残留酸素がCと反応し、ランタンに混入するカーボンをCO又はCOガスとして除去がより向上する効果がある。但し、出力を上げすぎると、炉中のLaと触れる部分が水冷Cu製であるため、Cuの汚染の可能性があるので、一定レベルに留める必要がある。
W、Mo、Taは、リーク電流の増加を引き起こし、耐圧低下の原因となる。したがって、電子部品材料として使用する場合には、これらの総量を1〜10wtppmとするのが望ましい。
【0059】
一般に、高純度ランタンを製造する際には、ランタン以外の希土類元素を除外している。これは、高純度ランタンの製造(精製)の際に、他の希土類自体がランタンと化学的特性が似ているために、除去することが技術的に非常に難しいということ、さらにこの特性の近似性からして、不純物として混入していても、大きな特性の異変にはならないということからである。このような事情から、ある程度、他の希土類の混入は黙認されるが、ランタン自体の特性を向上させようとする場合は、少ないことが望ましいことは、言うまでもない。
【0060】
しかしながら、前記の通り、5Nレベル(市販)の高純度フッ化ランタンを出発原料とし、これをカルシウム還元する場合には、ランタン原料自体が希土類元素の含有量が低いので、最終的に得られる製品ランタンにも、これが反映され、希土類元素も低減させたランタンを得ることができる。
また、ガス成分を除いた純度が4N5以上とするのは、ガス成分は除去が難しく、これをカウントすると純度の向上の目安とならないからである。また、一般に他の不純物元素に比べ多少の存在は無害である場合が多いからである。
【0061】
ゲート絶縁膜又はメタルゲート用薄膜等の電子材料の薄膜を形成する場合には、その多くはスパッタリングによって行われ、薄膜の形成手段として優れた方法である。したがって、上記のランタンインゴットを用いて、高純度ランタンスパッタリングターゲットを製造することは有効である。
ターゲットの製造は、鍛造・圧延・切削・仕上げ加工(研磨)等の、通常の加工により製造することができる。特に、その製造工程に制限はなく、任意に選択することができる。
【0062】
以上から、ガス成分を除いた純度が4N5以上であり、Cを200wtppm以下、Al及びFeをそれぞれ5wtppm以下、Cuを1wtppm以下の高純度ランタンインゴットを得ることができる。さらに、W、Mo、Taの総量を1〜10wtppmとすることが可能である。
なお、上記炭素(C)についてはガス成分ではあるが、Cのガス成分を200wtppm以下に限定することにより、ランタンの特性をより向上させることを意味するものである。ターゲットの製作に際しては、上記高純度ランタンインゴットを所定サイズに切断し、これを切削及び研磨して作製する。
【0063】
さらに、この高純度ターゲットを用いてスパッタリングすることにより高純度ランタンを基板上に成膜することができる。これによって、ガス成分を除いた純度が4N5以上であり、Cが200wtppm以下、Al及びFeがそれぞれ5wtppm以下、Cuが1wtppm以下である高純度ランタンを主成分とするメタルゲート膜を基板上に形成できる。基板上の膜はターゲットの組成が反映され、高純度のランタン膜を形成できる。
【0064】
次に、金属ランタン中の酸素を低減する発明について説明する。酸素を低下させるためには、水冷銅ルツボを用いた誘導溶解であるスカル溶解するのが望ましいと言える。以下に説明する酸素を低減方法は、上記に述べた電解精製法の後で、電子ビーム溶解による精製の前に、実施することが有効である。
【0065】
しかし、単に電解法により得た電析ランタンを、スカル溶解し、これを酸洗し、さらに電子ビーム(EB)溶解しただけでは、ターゲットに色むらを発生することが多い。
色むらは、ターゲットに加工する前のインゴットの段階で観察される、その色むらが発生した様子を図4に示す。図4の左上のインゴットに色むらが見えるが、これを光学顕微鏡で拡大すると、図4の右上図となる。5〜20mm程度に変色した色むらを観察することができる。
【0066】
この色むら部分を分析すると、図3の下図に示す結果となった。図3の下図はEPMAのマッピングである。この色むらは、酸化物の凝集体であることが分かる。正常な場所での酸化物の存在は一切観察されない。
【0067】
この色むら、すなわち酸化物の凝集体を無くす又は少なくするための手法を創出しなければならない。本発明者は、この点を鋭意検討した結果、底部を除くランタンインゴット内部に酸化物の偏析部が存在しなくなるまで徐冷することが有効であることを見出した。
【0068】
従来の手法を用いてランタン原料(一般に、板状のランタン(インゴット)原料である。)をスカル溶解した場合、酸化物の凝集体が発生するが、この凝集の原因を究明したところ、図4の概念図に示すようなことが想定された。図4の左は、スカル溶解中の溶湯の対流と酸化物の分布を示すが、溶湯の対流に伴って、酸化物は均一に分布すると考えられる。
【0069】
スカル溶解した後、これを冷却するとランタンの溶湯の中で浮遊する酸化物は次第に炉の底部に滞留するようになるが、一部はランタンの中に浮遊する状態で、そのまま凝固しインゴット(通称、「スカルインゴット」)となる。この様子の概念図を、図4の右上図に示す。
【0070】
この状態のインゴットを切出してターゲットとすると、インゴット内部に存在する酸化物はターゲットの内部又は切出し面に表出することになる。これが酸化物の凝集体の原因であり、色むらの原因となると考えられる。
【0071】
図4の右上図に示す状況を避けるためには、図4の右下図に示すように、徐冷することが必要となる。徐冷した場合には、浮遊する酸化物のルツボへの接触回数が増加し、ルツボにトラップ(捕獲)され、特にルツボ底部に滞留するようになる。この滞留の量が増加すると、逆に溶湯内部(中心部)の浮遊する酸化物の量は、それだけ減少することになる。このトラップ量は以外に多く、凝集体の発生と、色むらが大きく減少する。
【0072】
スカル溶解した後の徐冷の時間は、スカル溶解炉の容量によって違いが生ずるので、固定した時間とすることはできないが、実際に溶解した徐冷の時間とターゲット色むらの発生を観察することにより、相関が分かるので、経験的に決定することができる。あくまで徐冷という概念を導入し、それが色むら抑制になる(酸化物の偏析量の減少)になるということが、大きな知見である。徐冷は、例えば出力を、30分かけて、段階的に落す方法で行うことができる。
【0073】
徐冷により得たスカルインゴットは、機械加工し、インゴット底部又はスカル溶解炉の側壁近傍に存在する酸化物を除去することができる。これにより、インゴットに含有される酸化物を大きく減少させることができる。機械加工後のインゴットは、さらに酸洗した後、電子ビーム(EB)溶解しインゴット(通称、「EBインゴット」)を作製する。この工程では新たな不純物の混入はなく、スカルインゴットから揮発成分を除去することができ、ターゲット加工に供することが可能な、ランタンインゴットを得ることができる。
【0074】
金属ランタンスパッタリングターゲットを製造する場合には、前記EBインゴットを、さらに所定サイズに裁断し、研磨工程を経てスパッタリングターゲットにする。これによって、不純物の偏析がなく均質である金属ランタンスパッタリングターゲットを得ることができる。
【0075】
また、電子ビーム溶解の際には、アルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素の多くは、蒸気圧が高いので、電子ビーム溶解により、揮散するので、効率良く除去できる。なお、アルカリ金属元素は、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、フランシウムであり、またアルカリ土類金属元素は、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、ラジウムであるが、これらは電気的に陽性であり、例えばランタンを電子部品に使用した場合には、原子半径が小さいものは素子中を容易に移動し、素子の特性を不安定にする問題があるが、これらを電子ビーム溶解により効率的に除去できる。
【0076】
この金属ランタンスパッタリングターゲットを使用してスパッタリング成膜することにより、メタルゲート膜のランタンを構成する成分を、酸素濃度が500wtppm以下金属ランタンを主成分とするメタルゲート膜を提供することができる。また、ターゲットに不純物(酸素)に起因する偏析がないので、パーティクルの発生を抑制できるという効果を生ずる。基板上の膜はターゲットの組成が反映され、酸素濃度の低いランタン膜を形成できる。
【0077】
不純物としての酸素を大きく低減できることは、非常に有効である。酸素が多いと、スパッタリング中に酸素が原因となるスプラッシュが生じ、均一な成膜ができなくなるからである。また、酸化物が存在するとパーティクルやノジュール発生の原因となるので、好ましくない。
【0078】
また、後述するメタルゲート膜の性質に影響を少なからず与えるので、極力低減させる必要があることは言うまでもない。したがって、酸素については、厳重に制御することが必要であり、ランタンターゲット中の酸素濃度が500wtppm以下とすることができることは、極めて有効である。
【0079】
ランタンターゲットの色むらについては、不純物である酸素含有量が多く、その酸素濃度に濃淡があり、ばらつきが発生していることを意味する。ターゲットに色むらが発生した結果、酸素が多いところでは、スパッタリング中に酸素が原因となるスプラッシュが生じ、均一な成膜ができなくなる。
また、酸化物が存在するとパーティクルやノジュール発生の原因となり、ターゲットの性能に及ぼす悪影響が大である。
【0080】
この色むらについては、ターゲットの表面を観察することにより見出すことが可能であり、通常0.1mm以上の色むらが面積比率1%以上ある場合には、色むらが発生したと言うことができる。そして、上記に述べたように、この色むらもランタンターゲット中の酸素濃度に強く依存し、酸素が500wtppmを超える場合において発生する。
【0081】
ゲート絶縁膜又はメタルゲート用薄膜等の電子材料の薄膜を形成する場合には、その多くはスパッタリングによって行われ、薄膜の形成手段として優れた方法である。したがって、上記のランタンインゴットを用いて、金属ランタンスパッタリングターゲットを製造することは有効である。
ターゲットの製造は、鍛造・圧延・切削・仕上げ加工(研磨)等の、通常の加工により製造することができる。特に、その製造工程に制限はなく、任意に選択することができる。
【0082】
メタルゲート膜としての使用は、上記高純度ランタンの組成そのものとして使用することができるが、他のゲート材と混合又は合金若しくは化合物としても形成可能である。この場合は、他のゲート材のターゲットとの同時スパッタ又はモザイクターゲットを使用してスパッタすることにより達成できる。本願発明はこれらを包含するものである。不純物の含有量は、原材料に含まれる不純物量によって変動するが、上記の方法を採用することにより、それぞれの不純物を上記数値の範囲に調節が可能である。
【0083】
本願発明は、上記によって得られた高純度ランタン、高純度材料ランタンからなるスパッタリングターゲット及び高純度材料ランタンを主成分とするメタルゲート用薄膜を効率的かつ安定して提供できる技術を提供するものである。
【実施例】
【0084】
次に、実施例について説明する。なお、この実施例は理解を容易にするためのものであり、本発明を制限するものではない。すなわち、本発明の技術思想の範囲内における、他の実施例及び変形は、本発明に含まれるものである。
【0085】
(実施例1)
処理するランタンの原料として2N〜3Nの市販品を用いた。このランタン原料の分析値を表2に示す。ランタンそのものは、最近注目されている材料であるため、素材の市販品は、その純度もまちまちであり、品位が一定しないという実情がある。市販品はその内の一つである。
【0086】
【表2】
【0087】
(溶融塩電解)
この原料を用いて溶融塩電解を行った。溶融塩電解には、前記図1の装置を使用した。浴の組成として、塩化カリウム(KCl)40kg、塩化リチウム(LiCl)9kg、塩化ランタン(LaCl)6kgを使用し、La原料10kgを使用した。
【0088】
電解浴の温度は450〜700°Cの間で、本実施例では600°Cに調節した。浴の温度の影響は電解に大きな影響を与えることはなかった。また、この温度では、塩の揮発は少なく、ゲートバルブや冷却塔を激しく汚染することはなかった。雰囲気は不活性ガスとした。
【0089】
電流密度は0.31A/cm、電圧は1.0Vで実施した。結晶形は図2であった。電解時間は12時間とし、これにより電析重量500gが得られた。
この電解により得た析出物の分析結果を表3に示す。この表3に示すように、溶融塩電解した結果から当然ではあるが、塩素濃度、酸素濃度が極端に高いが、その他の不純物は低くなっていた。
【0090】
【表3】
【0091】
(脱塩処理)
この電解析出物を、脱塩炉を使用し、真空加熱し、蒸気圧差によりメタルと塩とを分離した。この脱塩の温度は850°Cとした。また、保持時間は4hとした。脱塩によって電析Laの重量は20%程度減少した。脱塩処理後のLa中の塩素(Cl)含有量は160ppmとなった。
【0092】
(電子ビーム溶解)
次に、上記に得られた脱塩処理したランタンを電子ビーム溶解した。低出力の電子ビームを、炉中のランタン溶解原料に広範囲に照射することにより行う。真空度6.0×10−5〜7.0×10−4mbar、溶解出力32kWで照射を行った。この電子ビーム溶解は、2回繰り返した。それぞれのEB溶解時間は、30分である。これによってEB溶解インゴットを作成した。EB溶解時に、揮発性の高い物質は揮散除去され、Cl等の揮発成分の除去が可能となった。
【0093】
以上によって、高純度ランタンを製造することができた。この高純度ランタンの分析値を表4に示す。この表4に示すように、ランタン中のAl<0.5wtppm、Fe:0.65wtppm、Cu<0.05wtppmであり、それぞれ本願発明の条件である1wtppm以下の条件を達成していることが分かる。
【0094】
【表4】
【0095】
次に、主な不純物の低減効果を示す。Li:<0.05wtppm、Na<0.05wtppm、K<0.01wtppm、Ca<0.05wtppm、Mg<0.05wtppm、Si:0.42wtppm、Ti:0.7wtppm、Ni:0.05wtppm、Mn<0.01wtppm、Mo<0.05wtppm、Ta:2.8wtppm、W<0.05wtppm、U<0.001wtppm、Th<0.001wtppmであった。
【0096】
また、W、Mo、Taの総量が10wtppm以下とする本願発明の好ましい条件も全て達成していた。同様に、U、Thがそれぞれ1ppb以下とする本願発明の好ましい条件も全て達成していた。また、α線カウント数:0.001cph/cm以下を達成していた。
【0097】
このようにして得たランタンインゴットを、必要に応じてホットプレスを行い、さらに機械加工し、研磨してφ140×14tの円盤状ターゲットとした。このターゲットの重量は1.42kgであった。これをさらにバッキングプレートに接合して、スパッタリング用ターゲットとする。これによって、上記成分組成の高純度ランタンスパッタリング用ターゲットを得ることができた。なお、このターゲットは、酸化性が高いので、真空パックして保存又は運搬することが好ましいと言える。
【0098】
(比較例1)
処理するランタンの原料として、純度が2N〜3Nレベルの市販品(表5参照)を用いた。本比較例1で使用した市販品のランタンは、120mm角×30mmtの板状物からなる。1枚の重量は、2.0kg〜3.3kgであり、これを12枚、合計で24kgの原料を使用した。これらの板状のランタン原料は非常に酸化され易い物質のため、アルミニウムの真空パックされていた。
【0099】
【表5】
【0100】
次に、EB溶解炉を用い、溶解出力32kWで溶解し、鋳造速度13kg/hでインゴットを作製した。EB溶解時に、揮発性の高い物質は揮散除去された。以上によって、一定レベルの純度を持つランタンインゴット22.54kgを製造することができた。このようにして得たランタンの分析値を表6に示す。
【0101】
表6に示すように、ランタン中のAl:72wtppm、Fe:130wtppm、Cu:9.2wtppmであり、それぞれ本願発明の条件であるそれぞれ1wtppm以下の条件に達成していなかった。このように市販LaをEB溶解しただけでは、本願発明の目的を達成することができなかった。
【0102】
【表6】
【0103】
主な不純物を見ると、Li:12wtppm、Na:0.86wtppm、K<0.01wtppm、Ca<0.05wtppm、Mg:2.7wtppm、Si:29wtppm、Ti:1.9wtppm、Cr:4.2wtppm、Ni:6.3wtppm、Mn:6.4wtppm、Mo:8.2wtppm、Ta:33wtppm、W:0.81wtppm、U:0.0077wtppm、Th:0.011wtppmであった。
【0104】
(実施例2)
処理するランタンの原料として、純度4Nのフッ化ランタンの原料を用いた。金属ランタンは、最近注目されている材料であるが、金属ランタンの市販品は、純度が低く、かつ品位が一定しないという問題がある(表5参照)。
一方、フッ化ランタンについては、市販品でも高純度の材料を得ることが可能である。しかし、このフッ化ランタンそのままでは使用できないので、この純度4Nのフッ化ランタン原料を使用し、効率的にかつ安定して高純度の金属ランタンを製造することが、必要かつ重要となる。
【0105】
フッ化ランタン原料の分析値を表7に示す。この中で、主な不純物としては、次の元素が挙げることができる。Na:0.2wtppm、Al<0.05wtppm、Si:0.94wtppm、S:13wtppm、Ca<0.1wtppm、Fe:0.14、Cu<0.05wtppm、Zn<0.1wtppm、一方、希土類元素については、Ce:1.1wtppm、Pr<0.1wtppm、Nd:0.24wtppm:、Sm:0.17wtppmなどであり、以上の不純物については、それほど多くない。
しかしながら、C:180wtppm、N:70wtppm、O:5200wtppm、H:540wtppmであり、多くのガス成分を含有する。
【0106】
【表7】
【0107】
(原料のカルシウム還元)
還元の際に使用する溶解るつぼは、φ250×H400のタンタル(Ta)製るつぼを使用した。このタンタル製るつぼ内に、粉状のLaF:14.1kgと塊状Ca:6kgを混合して投入した。還元材であるCaは、計算量よりも10%程度過剰に添加した。
還元装置内に配置したタンタル製るつぼ内の充填物を、ゆっくりと600°Cまで加熱し、この間還元装置内を真空に引き、充填物の脱ガスを行った。その後、精製したアルゴンガスを送入して0.5気圧とした。
【0108】
さらに加熱温度を上昇させた。充填物は800°C〜1000°Cに加熱すると、反応を開始した。反応式は、2LaF+3Ca→2La+3CaFである。この反応は発熱反応であり迅速に完了した。精製金属とスラグの分離を良くするためには、La金属の融点よりも50°C程度高い温度に保持した。なお、Laの融点は921°Cなので、+50°C、すなわち971°Cになるように加熱温度を調節した。
このようにして金属Laを得ることができる。カルシウム還元した金属Laの分析値を表8に示す。
【0109】
【表8】
【0110】
この表8に示すように、Al:3.2wtppm、Si:2.1wtppm、Ca:24wtppm、Fe:3.2wtppm、Cu:110wtppm、Mo<0.05wtppm、Ta<5wtppm、W<0.05wtppm、C:320wtppm、N:85wtppm、O:450wtppm、S<10wtppm、H:22wtppmとなった。このように、Ca還元による結果ではあるが、Caが多く含有されるという問題がある。また、Ca中のCu分が高いために、La中のCuも高くなるという結果となった。
【0111】
(溶融塩電解)
この原料を用いて溶融塩電解を行った。溶融塩電解には、前記図1の装置を使用した。浴の組成として、塩化カリウム(KCl)40kg、塩化リチウム(LiCl)9kg、塩化ランタン(LaCl)6kgを使用し、La原料10kgを使用した。
【0112】
電解浴の温度は450〜700°Cの間で、本実施例では600°Cに調節した。浴の温度の影響は電解に大きな影響を与えることはなかった。また、この温度では、塩の揮発は少なく、ゲートバルブや冷却塔を激しく汚染することはなかった。雰囲気としてArガスをフローさせた。
【0113】
電流密度は0.13A/cm、電圧は0.5Vで実施した。電解時間は12時間とし、これにより電析重量250gが得られた。析出物は、前記図2と同様であった。
この電解により得た析出物の分析結果を表9に示す。この表9に示すように、溶融塩電解した結果から当然ではあるが、塩素濃度、酸素濃度が極端に高いが、その他の不純物は低くなっていた。
【0114】
【表9】
【0115】
(脱塩処理)
この電解析出物を、脱塩炉を使用し、真空加熱し、蒸気圧差によりメタルと塩とを分離した。この脱塩の温度は850°Cとした。また、保持時間は4hとした。脱塩によって電析Laの重量は20%程度減少した。脱塩処理後のLa中の塩素(Cl)含有量は160ppmとなった。
【0116】
(電子ビーム溶解)
次に、上記に得られた脱塩処理したランタンを電子ビーム溶解した。低出力の電子ビームを、炉中のランタン溶解原料に広範囲に照射することにより行う。真空度6.0×10−5〜7.0×10−4mbar、溶解出力32kWで照射を行った。この電子ビーム溶解は、2回繰り返した。それぞれのEB溶解時間は、30分である。これによってEB溶解インゴットを作成した。EB溶解時に、揮発性の高い物質は揮散除去が可能となった。
【0117】
以上によって、高純度ランタンを製造することができた。この電子ビーム溶解後の高純度ランタンの分析値を表10に示す。この表10に示すように、Li<0.005wtppm、Na<0.05wtppm、Al<0.05wtppm、Si:0.21wtppm、S:2.1wtppm、Ca<0.05wtppm、Fe:0.18wtppm、Cu:0.12wtppm、Zn<0.05wtppm、Mo<0.05wtppm、Ta:2.5wtppm、W:0.05wtppm、C:140wtppm、N<10wtppm、O:290wtppm、S<10wtppm、H:3.2wtppmであり、いずれも本願発明の条件を満たしていた。また、カルシウム還元した際に低減ができなかった酸素及びCaも、大きく低減が可能となった。
【0118】
【表10】
【0119】
このようにして得たランタンインゴットを、必要に応じてホットプレスを行い、さらに機械加工し、研磨してφ140×14tの円盤状ターゲットとした。このターゲットの重量は1.42kgであった。これをさらにバッキングプレートに接合して、スパッタリング用ターゲットとする。これによって、上記成分組成の高純度ランタンスパッタリング用ターゲットを得ることができた。なお、このターゲットは、酸化性が高いので、真空パックして保存又は運搬することが好ましいと言える。
【0120】
(比較例2)
この比較例2は、実施例2の条件から、電解工程を省いたものである。実施例2と同様に、処理するランタンの原料として、前記表5に示す純度が2N5〜3Nレベルの市販品を用いた。本比較例1で使用した市販品のランタンは、120mm角×30mmtの板状物からなる。1枚の重量は、2.0kg〜3.3kgであり、これを12枚、合計で24kgの原料を使用した。これらの板状のランタン原料は非常に酸化され易い物質のため、アルミニウムの真空パックがされていた。
【0121】
この表5に示す主な不純物を挙げると、Li:1200wtppm、Na:4.3wtppm、Mg:33wtppm、Al:120wtppm、Si:160wtppm、S:50wtppm、Ti:5.7wtppm、Cr:21wtppm、Mn:36wtppm、Fe:330wtppm、Co:0.32wtppm、Ni:5.1wtppm、Cu:17wtppm、Zr:0.31wtppm、C:920wtppm、N<10wtppm、O:540wtppm、S<10wtppm、H:26wtppmであった。
【0122】
次に、400kWの大型EB溶解炉を用い、真空度7.0×10−5〜3.5×10−5mbar、溶解出力96kWで溶解し、鋳造速度13kg/hでインゴットを作製した。EB溶解時に、揮発性の高い物質は揮散除去された。なお、上記の通り、EB溶解の前には、溶融塩電解は行っていない。
以上によって、高純度ランタンインゴット22.54kgを製造することができた。このようにして得た高純度ランタンの分析値を表6に示す。
【0123】
表11に示すように、電子ビーム溶解後のランタン中の不純物元素の主なものは、次の通りである。Li<0.005wtppm、Na<0.05wtppm、Mg<0.05wtppm、Al:4.2wtppm、Si:11wtppm、S:9wtppm、Ti:1.8wtppm、Cr:0.36wtppm、Mn:1.7wtppm、Fe:6.5wtppm、Cu:98wtppm、C:450wtppm、N:140wtppm、O:900wtppm、H:23wtppmであった。
以上から明らかなように、Al、Fe、Cuの低減化はできず、またガス成分の低減化も十分でなかった。全体的に、前記実施例に比べて不純物量は多く、本願発明の目的を達成することができなかった。
【0124】
【表11】
【0125】
(実施例3)
次に、酸素を低減する具体例を説明する。処理するランタンの原料として2N〜3Nの市販品を用いた。このランタン原料の分析値を表12に示す。ランタンそのものは、最近注目されている材料であるため、素材の市販品は、その純度もまちまちであり、品位が一定しないという実情がある。市販品はその内の一つである。
【0126】
【表12】
【0127】
(スカル溶解)
スカル溶解には、φ80×H70の水冷銅ルツボのものを使用し、ランタン(La)のチャージ量は2kgとした。この場合、出力100kWでランタンを溶解させた。そして、覗き窓からランタンの全量が溶解したことを確認し、さらに溶解後に30分保持した後、5分後に75kW、10分後に50kW,15分後に25kW,20分後に12.5kW、25分後に7kW、最後に30分間保持するという工程を経て、段階的に出力を落とし、最終的に出力OFFとした。
【0128】
この徐冷については、大きな炉であれば、より細かく設定することが可能である。余り小さい炉を使用すると、徐冷の細かな制御が出来なくなるので、ランタンチャージ量に応じて、炉のサイズを調節することが必要である。
以上の工程により、酸化物を偏析させ、インゴット底部の酸化物を除去することが可能となった。
【0129】
(機械加工)
スカルインゴット底部に存在する酸化物を除去した。
【0130】
(電子ビーム溶解)
次に、上記に得られたスカルインゴットを、酸洗後電子ビーム溶解した。電子ビーム溶解は、低出力の電子ビームを、炉中のランタン溶解原料に広範囲に照射することにより行い、真空度6.0×10−5〜7.0×10−4mbar、溶解出力32kWで照射を行った。この電子ビーム溶解は、2回繰り返した。それぞれのEB溶解時間は、30分である。これによってEBインゴットを作成した。EB溶解時に、揮発性の高い物質は揮散除去が可能となった。
【0131】
このようにして得たEBインゴットを、必要に応じてホットプレスを行い、さらに機械加工し、研磨してφ140×14tの円盤状ターゲットとした。このターゲットの重量は1.42kgであった。これをさらにバッキングプレートに接合して、スパッタリング用ターゲットとする。これによって、上記成分組成の高純度ランタンスパッタリング用ターゲットを得ることができた。なお、このターゲットは、酸化性が高いので、真空パックして保存又は運搬することが好ましいと言える。
【0132】
上記により製造したEBインゴットから、10mm四方のサンプルを4個切り出し、それぞれ酸素濃度を測定し、それらを平均したものをEBインゴットの酸素濃度とした。この結果、酸素濃度は、平均280wtppmとなった。これにより、本願発明の条件を達成することができた。
なお、同様に10個のEBインゴットについて行ったところ、酸素濃度は、実施例3と同様のレベルの280wtppmとなった。以上の工程によって得られたランタンの分析の結果を、表13に示す。
【0133】
【表13】
【0134】
(本実施例のターゲットの色むらについて)
上記の通り、不純物である酸素含有量が多い場合において、ターゲットに色むらが発生し、特に酸素含有量に濃淡があり、ばらつきが発生している場合に色むらが発生する。そして、ターゲットに色むらが発生した結果、スパッタリング中に酸素が原因となるスプラッシュが生じ、均一な成膜ができなくなる。
また、この場合必然的に酸化物が多く存在するので、パーティクルやノジュール発生の原因となる。スカルインゴット底部に存在する酸化物を除去する機械加工は有効であり、ターゲットの表面を観察した結果、本実施例では、この色むらは一切観察されなかった。
【0135】
(比較例3)
本比較例は、実施例3から研削を除いた例である。処理するランタンの原料として実施例1と同じ2N〜3Nの市販品を用いた。ランタンそのものは、最近注目されている材料であるため、素材の市販品は、その純度もまちまちであり、品位が一定しないという実情がある。市販品はその内の一つである。
【0136】
(電子ビーム溶解)
次に、上記市販のランタン原料(ランタンインゴット)を酸洗後、EB溶解炉を用い、真空度7.0×10−5〜3.5×10−5mbar、溶解出力32kWで溶解し、鋳造速度45kg/hでEBインゴットを作製した。
【0137】
このようにして得たEBインゴットを、ホットプレスを行い、さらに機械加工し、研磨してφ140×14tの円盤状ターゲットとした。このターゲットの重量は1.42kgであった。これをさらにバッキングプレートに接合して、スパッタリング用ターゲットとした。
【0138】
次に、EBインゴットから10mm四方のサンプルを4個切り出し、それぞれ酸素濃度を測定し、それらを平均したものをEBインゴットの酸素濃度とした。
この結果、酸素濃度は、平均820wtppmとなった。そして、色むらを観察した結果、図4に示すような色むらが発生した。
また、同様に10個のEBインゴットについて行ったところ、表14に示すように、酸素濃度は560wtppmとなり、比較例1と同様の結果となった。
なお、比較例3は、実施例3との対比で、説明するものであり、差異点となるスカルインゴット底部に存在する酸化物を除去する機械加工以外の点を否定するものでないことは明らかである。
【0139】
【表14】
【0140】
(実施例4)
処理するランタンの原料として、純度4Nのフッ化ランタンの原料を用いた。金属ランタンは、最近注目されている材料であるが、金属ランタンの市販品は純度が低く、かつ品位が一定しないという問題がある(表5参照)。
一方、フッ化ランタンについては、市販品でも高純度の材料を得ることが可能である。しかし、このフッ化ランタンそのままでは使用できないので、この純度4Nのフッ化ランタン原料を使用し、効率的にかつ安定して高純度の金属ランタンを製造することが、必要かつ重要となる。
【0141】
フッ化ランタン原料の分析値を表7に示す。この中で、主な不純物としては、次の元素が挙げることができる。Na:0.2wtppm、Al<0.05wtppm、Si:0.94wtppm、S:13wtppm、Ca<0.1wtppm、Fe:0.14、Cu<0.05wtppm、Zn:<0.1wtppm、一方、希土類元素については、Ce:1.1wtppm、Pr<0.1wtppm、Nd:0.24wtppm:、Sm:0.17wtppmなどであり、以上の不純物については、それほど多くない。
しかしながら、C:180wtppm、N:70wtppm、O:5200wtppm、H:540wtppmであり、多くのガス成分を含有する。
【0142】
(原料のカルシウム還元)
還元の際に使用する溶解るつぼは、φ250×H400のタンタル(Ta)製るつぼを使用した。このタンタル製るつぼ内に、粉状のLaF:14.1kgと塊状Ca:6kgを混合して投入した。還元材であるCaは、計算量よりも10%程度過剰に添加した。なお、ここでは、段落0052及び段落0053記載の蒸留カルシウムを用いた。
還元装置内に配置したタンタル製るつぼ内の充填物を、ゆっくりと600°Cまで加熱し、この間還元装置内を真空に引き、充填物の脱ガスを行った。その後、精製したアルゴンガスを送入して0.5気圧とした。
【0143】
さらに加熱温度を上昇させた。充填物は800°C〜1000°Cに加熱すると、反応を開始した。反応式は、2LaF+3Ca→2La+3CaFである。この反応は発熱反応であり迅速に完了した。精製金属とスラグの分離を良くするためには、La金属の融点よりも50°C程度高い温度に保持した。なお、Laの融点は921°Cなので、+50°C、すなわち971°Cになるように加熱温度を調節した。
このようにして金属Laを得ることができる。カルシウム還元した金属Laの分析値は、前記表8に示す通りである。
【0144】
表8に示すように、Al:3.2wtppm、Si:2.1wtppm、Ca:24wtppm、Fe:3.2wtppm、Cu:110wtppm、Mo<0.05wtppm、Ta<5wtppm、W<0.05wtppm、C:320wtppm、N:85wtppm、O:450wtppm、S<10wtppm、H:22wtppmとなった。このように、Ca還元による結果ではあるが、Caが多く含有されるという問題がある。
【0145】
(溶融塩電解)
この原料を用いて溶融塩電解を行った。溶融塩電解には、前記図1の装置を使用した。浴の組成として、塩化カリウム(KCl)40kg、塩化リチウム(LiCl)9kg、塩化ランタン(LaCl)6kgを使用し、La原料10kgを使用した。
【0146】
電解浴の温度は450〜700°Cの間で、本実施例では600°Cに調節した。浴の温度の影響は電解に大きな影響を与えることはなかった。また、この温度では、塩の揮発は少なく、ゲートバルブや冷却塔を激しく汚染することはなかった。雰囲気は不活性ガスとした。
【0147】
電流密度は0.43A/cm、電圧は1.0Vで実施した。電解時間は12時間とし、これにより電析重量280gが得られた。
この電解により得た析出物の分析結果を表9に示す。この表9に示すように、溶融塩電解した結果から当然ではあるが、塩素濃度、酸素濃度が極端に高いが、その他の不純物は低くなっていた。
【0148】
(脱塩処理)
この電解析出物を、脱塩炉を使用し、真空加熱し、蒸気圧差によりメタルと塩とを分離した。この脱塩の温度は850°Cとした。また、保持時間は100hとした。脱塩によって電析Laの重量は20%程度減少した。脱塩処理後のLa中の塩素(Cl)含有量は160ppmとなった。
【0149】
(スカル溶解)
スカル溶解には、φ80×H70の水冷銅ルツボのものを使用し、ランタン(La)のチャージ量は2kgとした。この場合、出力100kWでランタンを溶解させた。そして、覗き窓からランタンの全量が溶解したことを確認し、さらに溶解後に30分保持した後、5分後に75kW、10分後に50kW,15分後に25kW,20分後に12.5kW、25分後に7kW、最後に30分間保持するという工程を経て、段階的に出力を落とし、最終的に出力OFFとした。
【0150】
この徐冷については、大きな炉であれば、より細かく設定することが可能である。余り小さい炉を使用すると、徐冷の細かな制御が出来なくなるので、ランタンチャージ量に応じて、炉のサイズを調節することが必要である。
以上の工程により、酸化物を偏析させ、インゴット底部の酸化物を除去することが可能となった。この電解により得た析出物の分析結果を表15に示す。
【0151】
この表15に示す主な不純物を示すと、Li:16wtppm、Mg:0.94wtppm、S:2.6wtppm、Cl:49wtppm、Fe:0.12wtppm、Co:0.02wtppm、Ni:0.5wtppm、Cu:0.23wtppm、Ce:5.2wtppm、C:150wtppm、O:340wtppmとなった。
【0152】
【表15】
【0153】
(機械加工)
スカルインゴット底部に存在する酸化物を除去した。
【0154】
(電子ビーム溶解)
次に、上記に得られたランタン成型体を電子ビーム溶解した。低出力の電子ビームを、炉中のランタン溶解原料に広範囲に照射することにより行う。真空度6.0×10−5〜7.0×10−4mbar、溶解出力32kWで照射を行った。この電子ビーム溶解は、2回繰り返した。それぞれのEB溶解時間は、30分である。これによってEB溶解インゴットを作成した。EB溶解時に、揮発性の高い物質は揮散除去が可能となった。
【0155】
以上によって、高純度ランタンを製造することができた。この電子ビーム溶解後の高純度ランタンの分析値を表16に示す。
この表16に示すように、Li<0.005wtppm、Na<0.05wtppm、Al:0.39wtppm、Si:0.25wtppm、S:0.6wtppm、Ca<0.05wtppm、Fe:0.43wtppm、Cu:0.34wtppm、Zn<0.05wtppm、Mo<0.05wtppm、Ta<5wtppm、W<0.05wtppm、C:140wtppm、N<10wtppm、O:290wtppm、S<10wtppm、H:2.9wtppmであり、高純度フッ化ランタンを使用することにより、さらにこの純度を向上させ、いずれも本願発明の条件を満たしていた。また、カルシウム還元した際に低減ができなかった酸素及びCaも、大きく低減が可能となった。
【0156】
【表16】
【0157】
(本実施例のターゲットの色むらについて)
上記の通り、不純物である酸素含有量が多い場合において、ターゲットに色むらが発生し、特に酸素含有量に濃淡があり、ばらつきが発生している場合に色むらが発生する。そして、ターゲットに色むらが発生した結果、スパッタリング中に酸素が原因となるスプラッシュが生じ、均一な成膜ができなくなる。
また、この場合必然的に酸化物が多く存在するので、パーティクルやノジュール発生の原因となる。スカルインゴット底部に存在する酸化物を除去する機械加工は有効であり、ターゲットの表面を観察した結果、本実施例では、この色むらは一切観察されなかった。
【0158】
このようにして得たランタンインゴットを、必要に応じてホットプレスを行い、さらに機械加工し、研磨してφ140×14tの円盤状ターゲットとした。このターゲットの重量は1.42kgであった。これをさらにバッキングプレートに接合して、スパッタリング用ターゲットとする。これによって、上記成分組成の高純度ランタンスパッタリング用ターゲットを得ることができた。なお、このターゲットは、酸化性が高いので、真空パックして保存又は運搬することが好ましいと言える。
【0159】
(比較例4)
本比較例4は、実施例4における条件、すなわちスカルインゴット底部に存在する酸化物を除去する機械加工を実施しなかった例を示す。
【0160】
(本比較例のターゲットの色むらについて)
上記の通り、不純物である酸素含有量が多い場合において、ターゲットに色むらが発生し、特に酸素含有量に濃淡があり、ばらつきが発生している場合に色むらが発生する。そして、ターゲットに色むらが発生した結果、スパッタリング中に酸素が原因となるスプラッシュが生じ、均一な成膜ができなくなる。
また、この場合必然的に酸化物が多く存在するので、パーティクルやノジュール発生の原因となる。特に、スカルインゴット底部に存在する酸化物を除去する機械加工は有効であるが、本比較例においては、これを行わなかったために、ターゲットの表面を観察した結果、本比較例では、この色むらが観察された。
【0161】
なお、本比較例の結果を表17に示す。なお、比較例4は、実施例4との対比で、説明するものであり、差異点となるスカルインゴット底部に存在する酸化物を除去する機械加工以外の点を否定するものでないことは明らかである。
【0162】
【表17】
【産業上の利用可能性】
【0163】
本発明によって得られる高純度ランタン、高純度材料ランタンから作製されたスパッタリングターゲット及び高純度材料ランタンを主成分とするメタルゲート用薄膜は、特にシリコン基板に近接して配置される電子材料として、電子機器の機能を低下又は乱すことがないので、ゲート絶縁膜又はメタルゲート用薄膜等の材料として有用である。
図1
図2
図3
図4