【実施例】
【0059】
[第1の特性比較(TiO
2(B)/CNF)]
本製造方法で得られた二次電池用電極材料の特性を確認する。本実施例及び比較例では、以下の条件により電極材料となる複合体を作成し、当該複合体を二次電池用電極材料として用いた電池を作成してレート特性を測定した。
【0060】
(実施例1)
図6に示すように、まず、Ti金属と、H
2O
2を4.966g(30mass%)と、NH
3を1.218g(28mass%)とを常温で1.5h攪拌し、[Ti(OH)
3O
2]
−を生成する。これに、グリコール酸0.1428gを加え、80℃で2.0h攪拌し、[Ti
4(C
2H
2O
3)
4(C
2H
3O
3)
2(O
2)
4O
2]
6−を生成する。
【0061】
その後、CNF0.042gと水22.5mlとを混合して50m/sの回転速度で5分間のUC処理を行った。このUC処理では、66000N(kgms
−2)の遠心力が加わっている。このUC処理は、1段階のUC処理による金属化合物の前駆体を炭素材料に担持させる前駆体担持工程に対応する。
【0062】
次に、H
2Oを5mlと、H
2SO
4を72.8μlとで、pHが0.924の溶液を用意し、この溶液をUC処理後の[Ti
4(C
2H
2O
3)
4(C2H
3O
3)
2(O
2)
4O
2]
6−に加え、飽和水蒸気中で200℃で2h水熱合成を行いTiO
2(B)と炭素材料の複合体を得た。このときの圧力は15.3気圧である。この水熱合成は、複合化工程に対応する。
【0063】
その後、得られたTiO
2(B)と炭素材料の複合体を粉末とし、この複合体粉末をバインダとしてのポリフッ化ビニリデン(PVDF)と共に(TiO
2(B)/CNF/PVDF 80:20:5)、SUS板上に溶接されたSUSメッシュ中に投入し、作用電極W.E.とした。前記電極上にセパレータと対極C.E.及び参照極としてLiフォイルを乗せ、電解液として、1MのLiPF
6のエチレンカーボネート/ジエチルカーボネート1:1溶液を浸透させて、電池セルとした。得られた電池セルについて、広範囲の電流密度の条件下で充放電特性を評価した。
【0064】
(比較例1)
比較例1では、UC処理せず
、Na
2Ti
3O
7多結晶体を800℃の高温焼成で得、この多結晶体を粉砕した粉砕物を、0.5Nの塩酸溶液に浸漬し、プロトン交換処理を行い、その後、水洗し、真空中120℃で乾燥を行い、前駆体であるプロトン交換体H
2Ti
3O
7多結晶体を得た。この得られた前駆体H
2Ti
3O
7多結晶体を、空気中320℃で20時間処理することによってTiO
2(B)粉体を得た。この粉末をバインダとしてPVDF及び炭素材料としてCNFと共に(TiO2(B)/CNF/PVDF 56:24:20)SUS板上に溶接されたSUSメッシュ中に投入して乾燥し、作用電極W.E.とした。前記電極上にセパレータと対極C.E.及び参照極としてLiフォイルを乗せ、電解液として、1MのLiPF
6のエチレンカーボネート/ジエチルカーボネート1:1溶液を浸透させて、電池セルとした。得られた電池セルについて、広範囲の電流密度の条件下で充放電特性を評価した。
【0065】
(結果)
実施例1の製造方法により得られた複合体では、
図7のAに示すようにCNFの表面にTiO
2(B)の一次粒子が担持されていることがわかる。この粒子の粒子径は、1〜30nmであった。すなわち、熱の影響を受けやすいと考えられるこのような微細なナノサイズの粒子でも結晶化させて、CNFに担持させることができるができる。
【0066】
また、
図8は、実施例1と比較例1の複合体を用いた電池についての、レートと放電容量との関係を示した図である。比較例1の複合体を用いた電池は、実施例1の複合体を用いた電池に比較して、著しく小さい容量を示した。これに対し、実施例1の複合体を用いた電池は、レート特性が極めて良好であり、レート300Cでも100mAhg
−1を超える容量を有していた。
【0067】
この結果から実施例1の炭素材料であるCNFに金属化合物TiO
2(B)を担持させた場合においては、水熱合成時に酸素を含む雰囲気下において複合化工程を行っても、炭素材料が消失せず、さらに、担持する金属化合物のナノ粒子化が維持されることにより、大容量且つ高入出力を実現することができることがわかる。
【0068】
[第2の特性比較(LiCoO
2/KB)]
本製造方法で得られた二次電池用電極材料の特性を確認する。本実施例及び比較例では、以下の条件により電極材料となる複合体を作成し、当該複合体を二次電池用電極材料として用いた電池を作成してレート特性を測定した。
【0069】
(実施例2)
図9に示すように、まず、ケッチェンブラックと、Co(CH
3COO)・4H
2Oと、蒸留水とを混合して、混合液に対して50m/sの回転速度で5分間のUC処理を行った。UC処理を終えた混合液に対しては、LiHO・H
2Oを加えて、50m/sの回転速度で5分間のUC処理を行った。このUC処理では、66000N(kgms
−2)の遠心力が加わっている。この第1,2回目のUC処理は、UC処理による金属化合物の前駆体を炭素材料に担持させる前駆体担持工程に対応する。
【0070】
そして、得られた溶液を大気中などの酸化雰囲気中で250℃まで急速加熱し、1時間の間保持することで焼成を行う。焼成後、オートクレーブ内にH
2Oと、焼成によって作製した前駆体と、H
2O
2とを加えて、飽和水蒸気中で250℃で6h保持して水熱合成を行いLiCoO
2と炭素材料の複合体を得た。このときの圧力は39.2気圧である。この水熱合成は、複合化工程に対応する。
【0071】
その後、得られたLiCoO
2とケッチェンブラック(KB)との複合体を粉末とし、この複合体粉末をバインダとしてのポリフッ化ビニリデン(PVDF)と共に(LiCoO
2/KB/PVDF 80:20:5)、SUS板上に溶接されたSUSメッシュ中に投入して乾燥し、作用電極W.E.とした。前記電極上にセパレータと対極C.E.及び参照極としてLiフォイルを乗せ、電解液として、1MのLiPF6のエチレンカーボネート/ジエチルカーボネート1:1溶液を浸透させて、電池セルとした。得られた電池セルについて、広範囲の電流密度の条件下で充放電特性を評価した。
【0072】
(比較例2〜4)
比較例2では、UC処理せず、Li
2CO
2とCo
3O
4の粉体同士を乾式で混合し、得られた混合物を高温(700℃12時間)焼成し、LiCoO
2粉末を得た。
比較例3では、実施例2と同様にUC処理を行いKBに担持したLiCoO
2前駆体を得、この複合化工程の際に水熱合成を使用せず高温(700℃12時間)にて焼成しLiCoO
2粉末を得た。この比較例3では高温焼成(700℃)を行っているため、KBはその多くが焼失してしまった。
比較例4では、UC処理せず、Li
2CO
2とCo
3O
4の粉体同士を乾式で混合し、得られた混合物を、オートクレーブ内にH
2Oとともに投入し、飽和水蒸気中で250℃で6h保持しLiCoO
2粉末を得た。
【0073】
これらのLiCoO
2粉末をバインダとしてPVDF及び炭素材料としてKBと共に(LiCoO
2/KB/PVDF 70:20:10)SUS板上に溶接されたSUSメッシュ中に投入して乾燥し、作用電極W.E.とした。前記電極上にセパレータと対極C.E.及び参照極としてLiフォイルを乗せ、電解液として、1MのLiPF6のエチレンカーボネート/ジエチルカーボネート1:1溶液を浸透させて、電池セルとした。これらの得られた電池セルについて、広範囲の電流密度の条件下で充放電特性を評価した
【0074】
(結果)
実施例2の製造方法により得られた複合体では、
図10に示すようにKBの表面に比較的粒子径の大きなLiCoO
2粒子(粒子径100〜300nm)と、比較的粒子径の小さなLiCoO
2粒子(粒子径5〜80nm)とが担持していることがわかる。なお、この比較的粒子径の小さなLiCoO
2粒子は、粒子径の大きなLiCoO
2粒子の表面に担持されていているものもある。
【0075】
また、
図11は、実施例2と比較例2ないし4の複合体を用いた電池セルについての、レートと放電容量との関係を示した図である。比較例2ないし4の複合体を用いた電池セルは、実施例2の複合体を用いた電池セルに比較して、著しく小さい容量を示した。これに対し、実施例1の複合体を用いた電池セルは、レート特性が極めて良好であり、レート50Cでも100mAhg
−1を超える容量を有していた。
【0076】
この結果から実施例2の炭素材料であるKBに金属化合物LiCoO
2を担持させた場合においては、水熱合成時に酸素を含む雰囲気下において複合化工程を行っても、炭素材料が消失せず、さらに、担持する金属化合物のナノ粒子化が維持されることにより、大容量且つ高入出力を実現することができることがわかる。
【0077】
[第3の特性比較(0.7Li
2MnO
3・0.3LiNi
0.5Mn
0.5O
2/KB・CNF)]
本製造方法で得られた二次電池用電極材料である0.7Li
2MnO
3・0.3LiNi
0.5Mn
0.5O
2/KB・CNFとの複合体の特性を確認する。本実施例及び比較例では、以下の条件により電極材料となる複合体を作成し、当該複合体を二次電池用電極材料として用いた電池を作成してレート特性を測定した。
【0078】
(実施例3)
実施例3では、
図2に示す反応器の内筒に、1.54gのMn(CH
3COO)
2・4H
2O、0.274gのNi(CH
3COO)
2及び0.21gの質量比でケッチェンブラック(粒径約40nm):カーボンナノファイバ(直径約50nm、長さ数百nm)=1:1に混合したカーボン混合物を水75mLに添加した液を導入し、70000kgms
−2の遠心力が反応液に印加されるように内筒を300秒間旋回させ、Mn(CH
3COO)
2・4H
2O及びNi(CH
3COO)
2を溶解させると共にカーボン混合物を分散させた。一旦内筒の旋回を停止し、内筒内に0.6gのLiOH・H
2Oを水に溶解させた液を添加した。液のpHは10であった。次に、再び70000kgms
−2の遠心力が反応液に印加されるように内筒を300秒間旋回させた。この間に、外筒の内壁と内筒の外壁との間でMn水酸化物及びNi水酸化物の核が形成され、この核が成長してカーボン混合物の表面に担持された。内筒の旋回停止後に、カーボン混合物をろ過して回収し、空気中100℃で12時間乾燥した。ろ液をICP分光分析により確認したところ、Mn(CH
3COO)
2・4H
2O原料及びNi(CH
3COO)
2原料に含まれるMn及びNiの95%以上が担持されていることがわかった。次いで、乾燥後の粉末にMn:Liが1:2になる量のLiOH・H
2Oの水溶液を混合して混練し、乾燥後に大気中などの酸素を含む雰囲気中で250℃まで急速加熱し、1時間保持することで焼成を行う。焼成後、オートクレーブ内にH
2Oと、焼成によって作製した前駆体と、H
2O
2とを加えて、飽和水蒸気中で200℃で12h保持して複合体の粉末を得た。このときの圧力は16気圧である。この工程は、複合化工程に対応する。
【0079】
(比較例5)
比較例5では、UC処理せず、水熱合成を行わない固相法により、0.7Li
2MnO
3・0.3LiNi
0.5Mn
0.5O
2の粉末を得た。具体的には、Mn(CH3CO2)2・4H2O、Ni(NO3)2・6H2O及びCH3CO2Li・2H2Oを蒸留水に混合し、ホットプレート(100℃)上で攪拌した。この溶液の乾燥し、ゲル状物質を得た。その後このゲル状物質を400℃及500℃で順次焼成し、さらに900℃で10時間焼成した。得られた焼成物を粉砕し、金属化合物の紛体を得た。
【0080】
実施例3の複合体にバインダとしてPVDF(LiCoO
2/KB/PVDF 70:20:10)をSUS板上に溶接されたSUSメッシュ中に投入して乾燥し、作用電極W.E.とした。前記電極上にセパレータと対極C.E.及び参照極としてLiフォイルを乗せ、電解液として、1MのLiPF
6のエチレンカーボネート/ジエチルカーボネート1:1溶液を浸透させて、電池セルとした。
また比較例5の紛体にバインダとしてPVDF0.4g及びカーボンブラック0.6gを加えてSUS板上に溶接されたSUSメッシュ中に投入して乾燥し、作用電極W.E.とした。前記電極上にセパレータと対極C.E.及び参照極としてLiフォイルを乗せ、電解液として、1MのLiPF6のエチレンカーボネート/ジエチルカーボネート1:1溶液を浸透させて、電池セルとした。
これらの得られた電池セルについて、広範囲の電流密度の条件下で充放電特性を評価した。
【0081】
(結果)
図13は、実施例3と比較例5の複合体を用いた電池セルについての、レートと放電容量との関係を示した図である。比較例5の複合体を用いた電池セルは、実施例3の複合体を用いた電池セルに比較して、著しく小さい容量を示した上に、レートの増加につれて容量が大きく低下していることが分かる。これに対し、実施例3の複合体を用いた電池セルは、レート特性が極めて良好であり、レート100Cでも50mAhg
−1を超える容量を有していた。
【0082】
この結果から実施例3の炭素材料(KB及びCNF)に金属化合物(0.7Li
2MnO
3・0.3LiNi
0.5Mn
0.5O
2固溶体)を担持させた場合においては、水熱合成時に酸素を含む雰囲気下において複合化工程を行っても、炭素材料が消失せず、さらに、担持する金属化合物のナノ粒子化が維持されることにより、大容量且つ高入出力を実現することができることがわかる。
【0083】
(比較例6)
比較例6では、実施例3と同様に反応器の内筒に、1.54gのMn(CH
3COO)
2・4H
2O、0.274gのNi(CH
3COO)
2、0.78gのCH
3COOLi(Mn:Li=1:2)及び0.21gの質量比でケッチェンブラック(粒径約40nm):カーボンナノファイバ(直径約50nm、長さ数百nm)=1:1に混合したカーボン混合物を水75mLに添加した液を導入し、70000kgms
−2の遠心力が反応液に印加されるように内筒を300秒間旋回させた。内筒の旋回停止後、液体部分を採取してICP分光分析により確認したところ、Mn(CH
3COO)
2・4H
2O原料及びNi(CH
3COO)
2原料の約30%のMn及びNiしかカーボン混合物に担持されていなかった。そのため、反応器の内容物の全てを回収し、空気中100℃で蒸発乾固させ、次いで、空気中300℃で1時間加熱処理し、複合体の粉末を得た。
【0084】
この複合体の紛体にバインダとしてPVDF(LiCoO
2/KB/PVDF 70:20:10)をSUS板上に溶接されたSUSメッシュ中に投入して乾燥し、作用電極W.E.とした。前記電極上にセパレータと対極C.E.及び参照極としてLiフォイルを乗せ、電解液として、1MのLiPF6のエチレンカーボネート/ジエチルカーボネート1:1溶液を浸透させて、電池セルとした。
【0085】
図14は、実施例3と比較例6の複合体を用いた電池セルについての初回放電カーブを示した図である。比較例6の複合体を用いた電池セルは、4V付近及び2.7V付近で放電に基づくLiMn
2O
4由来のプラトー電圧が観測されるのに対し、実施例3の複合体を用いた電池セルでは、容量の増加にともない電位がなだらかに低下していき、比較例6のようなプラトー領域は存在せず、良好な放電特性が得られている。
【0086】
図15は、実施例3と比較例6の複合体についての表面状態を観察したTEM写真である。
図15の(a)は比較例6の複合体を示し、
図15の(b)は実施例3の複合体を示す。実施例3の複合体には、粒子径が約10〜30nmの均一な結晶が含まれていることがわかる。これに対し、比較例6の複合体には、粒子径5nm以下の結晶や長さ100nm程度の大きな結晶も含まれており、結晶の大きさがふぞろいであった。これは、担持工程において、実施例3では、水酸化物の微粒子がカーボン混合物に分散性良く担持されるが、比較例6では、ふぞろいな大きさの凝集体と無定形の化合物がカーボン混合物を覆っている材料しか得られないことを反映したものであると考えられる。すなわち、実施例3では、加熱処理及び水熱処理において、均一な反応が進行して均一な大きさを有する複合酸化物のナノ粒子が分散性良く形成されるものの、比較例6では、熱処理工程において、不均一な反応が進行してふぞろいな大きさの複合酸化物が形成されるものと考えられる。