特許第6099038号(P6099038)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6099038
(24)【登録日】2017年3月3日
(45)【発行日】2017年3月22日
(54)【発明の名称】電極材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/36 20060101AFI20170313BHJP
   H01M 4/48 20100101ALI20170313BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20170313BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20170313BHJP
【FI】
   H01M4/36 A
   H01M4/48
   H01M4/505
   H01M4/525
【請求項の数】3
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2012-249779(P2012-249779)
(22)【出願日】2012年11月13日
(65)【公開番号】特開2014-99301(P2014-99301A)
(43)【公開日】2014年5月29日
【審査請求日】2015年11月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000228578
【氏名又は名称】日本ケミコン株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504132881
【氏名又は名称】国立大学法人東京農工大学
(73)【特許権者】
【識別番号】504358517
【氏名又は名称】有限会社ケー・アンド・ダブル
(74)【代理人】
【識別番号】100081961
【弁理士】
【氏名又は名称】木内 光春
(72)【発明者】
【氏名】米倉 大介
(72)【発明者】
【氏名】久保田 智志
(72)【発明者】
【氏名】石本 修一
(72)【発明者】
【氏名】玉光 賢次
(72)【発明者】
【氏名】直井 勝彦
(72)【発明者】
【氏名】直井 和子
【審査官】 結城 佐織
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−219010(JP,A)
【文献】 特開2012−099436(JP,A)
【文献】 特開2012−006821(JP,A)
【文献】 特開2009−117259(JP,A)
【文献】 特開2012−209031(JP,A)
【文献】 特開2008−270795(JP,A)
【文献】 特開2007−160151(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00−4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属化合物と炭素材料を複合化した電極材料の製造方法であって、
金属化合物の前駆体を炭素材料に担持させる前駆体担持工程と、
前記炭素材料に担持した前記金属化合物の前駆体を複合化させる複合化工程と、を有し、
前記前駆体担持工程は、旋回する反応容器内で、炭素材料と金属化合物の材料源とを含む溶液にずり応力と遠心力を加えてメカノケミカル反応させる処理であり、
前記複合化工程は、密閉容器内で前記炭素材料に担持した金属化合物の前駆体と水とを入れ加熱することを特徴とする電極材料の製造方法。
【請求項2】
前記複合化工程は、
酸素を含む雰囲気下で処理を行うことを特徴とする請求項1に記載の電極材料の製造方法。
【請求項3】
前記金属化合物がTiO(B)、層状xLiMO・(1−x)LiMnO固溶体(式中のMは、平均価数が+3である一種以上の遷移金属を表し、0<x<1である)またはLiCoOのいずれかであることを特徴とする請求項1または2に記載の電極材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極活物質と炭素材料とのコンポジット材料からなる電極材料の製造方法および該電極材料を備えた蓄電デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、リチウム電池の電極としてリチウムを貯蔵、放出する炭素材料等が用いられているが、マイナス電位が水素の還元分解電位より小さいので電解液の分解という危険性がある。そこで、特許文献1や特許文献2に記載のように、マイナス電位が水素の還元分解電位より大きいチタン酸リチウムの使用が検討されているが、チタン酸リチウムは出力特性が低いという問題点がある。そこで、チタン酸リチウムをナノ粒子化し、炭素に担時させた電極によって、出力特性を向上する試みがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−160151号公報
【特許文献2】特開2008−270795号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
これらの特許文献に記載の発明は、旋回する反応器内で反応物にずり応力と遠心力を加えて、化学反応を促進させる方法(一般に、メカノケミカル反応と呼ばれる)によって、炭素材料に分散担持されたチタン酸リチウムを得るものである。この場合、反応物としては、例えば、チタン酸リチウムの出発原料であるチタンアルコキシドと酢酸リチウム、及びカーボンナノチューブやケッチェンブラック等の炭素材料、酢酸等を使用する。
【0005】
これらの特許文献に記載の発明は、炭素材料に吸着した金属化合物の前駆体を金属化合物に生成する際に、焼成などの高温反応による処理を行う。しかしながら、高温での処理を行うと、図16に示すように、金属化合物の前駆体の種類によっては、得られる金属化合物の結晶が力学的に不安定な結晶となる場合がある。また、高温の酸素を含む雰囲気中で焼成を行う場合には、炭素材料が消失してしまい、所望の複合化化合物が得られない場合がある。
【0006】
本発明は、上述したような従来技術の問題点を解決するために提案されたものであって、その目的は、高温反応により不安定な結晶となりやすい金属化合物を炭素材料に担持させたり、酸素を含む雰囲気下でコンポジット材料の複合化を行うことで、出力特性を向上させた電極材料の製造方法および該電極材料を備えた蓄電デバイスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記の目的を達成するため、本発明は、金属化合物と炭素材料を複合化する電極材料の製造方法であって、以下の工程を含むものである。
(1)金属化合物の前駆体を炭素材料に担持させる前駆体担持工程。
(2)密閉容器内で炭素材料に担持した前駆体と水とを入れ加熱し、炭素材料に担持した前駆体を複合化させる複合化工程。
(3)前記前駆体担持工程は、旋回する反応容器内で、炭素材料と金属化合物の材料源とを含む溶液にずり応力と遠心力を加えてメカノケミカル反応させる処理であり、前記複合化工程は、密閉容器内で前記炭素材料に担持した金属化合物の前駆体と水とを入れ加熱することを特徴とする。
【0008】
前記複合化工程では、酸素を含む雰囲気化で処理を行うことを更に含ませることも可能である。
【0010】
前記金属化合物がTiO(B)、層状xLiMO・(1−x)LiMnO固溶体(式中のMは、平均価数が+3である一種以上の遷移金属(例えば、Mn、Fe、Co、Niなど)を表し、0<x<1である)である。またはLiCoOのいずれかであっても良い。なお、「TiO2(B)」とは、Li+xTi12(0≦x≦3)で表されるスピネル型チタン酸リチウムよりも高容量が可能であるチタン酸ブロンズ型の結晶構造を有する二酸化チタン)であり、TiO八面体から形成された骨格の隙間に、リチウムを化学式当たり最大1まで吸蔵可能な物質である。
【0011】
また、金属化合物と炭素材料を複合化した電極活物質であって、炭素材料に担持した金属化合物の前駆体を、密閉容器内で水とともに加熱されたことにより得られた電極材料も本願発明の一態様である。
【0012】
前記金属化合物は、TiO(B)、層状xLiMO・(1−x)LiMnO固溶体(式中のMは、平均価数が+3である一種以上の遷移金属を表し、0<x<1である)またはLiCoOのいずれかであっても良い。
【0013】
前記金属化合物は、酸素を含む雰囲気下で炭素材料が消失しない温度で生成されたものであっても良い。
【0014】
前記金属化合物は、2つの粒子径分布を有するものであっても良い。
【0015】
また、前記金属化合物を用いて形成された電極を備えた蓄電デバイスも本願発明の一態様である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、金属化合物をナノ化した炭素材料に担持させる際に、高温反応に弱い材料を使用したとしても金属化合物を炭素材料に担持させることができ、安定した電極材料を実現することができる。また、熱の影響を受けやすいサイズの金属化合物を結晶化することができるので、高入出力となる電極材料及び該電極材料を備えた蓄電デバイスを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本実施形態に係る金属化合物と炭素素材の複合体の製造工程を示すフローチャートである。
図2】前駆体担持工程のための装置を示す構成図である。
図3】本実施形態に係る金属化合物と炭素素材の複合体の一例を示す模式図である。
図4】本実施形態に係る金属化合物と炭素素材の複合体の一例を示す模式図である。
図5】LiCoO2と炭素材料(CNFとKBの混合)を担持したSEM(×50k)像である。
図6】第1実施特性に係る金属化合物とカーボン素材の複合体の製造工程を示すフローチャートである。
図7】TiO(B)と炭素材料を担持した複合体の結晶構造のTEM像である。
図8】実施例1と比較例1のレート特性を示すグラフである。
図9】第2実施特性に係るLiCoO2と炭素材料(KB)を担持した複合体の製造工程を示すフローチャートである。
図10】LiCoO2と炭素材料(KB)を担持した複合体のSEM像(×100k)である。
図11】実施例2と比較例2〜4のレート特性を示す図である。
図12】0.7LiMnO・0.3LiNi0.5Mn0.5(固溶体)と炭素材料(KB)を担持した複合体の製造工程を示すフローチャートである。
図13】実施例3と比較例5のレート特性を示す図である。
図14】実施例3と比較例6の初回放電カーブを示す図である。
図15】0.7LiMnO・0.3LiNi0.5Mn0.5(固溶体)と炭素材料(KB)を担持した複合体とのTEM画像である。(a)は比較例6についての写真であり、(b)は実施例3についての写真である。
図16】従来技術に係る金属化合物前駆体と炭素材料に対する高温反応を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施する形態について、説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものでない。
【0019】
(1)電極材料
本発明に係る電極材料は、金属化合物を導電助剤としての炭素材料に担持させた複合体であり、双方とも製造工程において一貫してナノ粒子を維持させたものである。ナノ粒子は、一次粒子を指し、その凝集体である二次粒子が含まれていても良い。そして、ナノ粒子とは、その凝集体の径が、円形や楕円形や多角形等の塊においてはその大きさが1〜300nm以下、繊維においては短径(直径)が10〜300nm以下をいう。
【0020】
この複合体は、粉末として得られ、複合体粉末をバインダと混錬して成型することで、電気エネルギーを貯蔵する電極となる。この電極は、リチウムを含有する電解液を用いる電気化学キャパシタや電池に用いることができる。すなわち、この二次電池やキャパシタ用電極材料により作成された電極は、リチウムイオンの吸蔵、脱着を行うことができ、正極として作動する。
【0021】
(2)炭素材料
炭素材料は、繊維構造のカーボンナノチューブ(CNT)、中空シェル構造のカーボンブラックであるケッチェンブラック、アセチレンブラック等のカーボンブラック、無定形炭素、炭素繊維、天然黒鉛、人造黒鉛、活性炭、メソポーラス炭素のうちの一種又は複数種類を混合して使用することができる。カーボンナノチューブは、単層カーボンナノチューブ(SWCNT)及び多層カーボンナノチューブ(MWCNT)の何れでもよい。炭素材料が繊維構造を有する場合(例えば、CNT、カーボンナノファイバ(CNF)や気相成長カーボンファイバ(VGCF))、繊維構造の分散及び均質化を目的として超高圧分散処理を施したものを使用しても良い。
【0022】
(3)金属化合物
本発明にかかる金属化合物は、リチウムを含む酸化物又は酸素酸塩であり、Liαβγで表され、以下の(a)から(c)を使用することができる。
(a)(M=Co,Ni, Mn, Ti,
Si, Sn, Al, Zn,Mg、Y=O)、LiCoO2、Li4Ti5O12、SnO2、SiOなどの酸化物系の金属化合物。
(b) (M=Fe,Mn,V、Y=PO4,SiO4,BO3,P2O7)
などの酸素酸塩系の金属化合物。
(c) (M=Ni, Co,Cu、Y=N)、Li2.6Co0.4N などの窒化物の金属化合物。
【0023】
さらに、MαM'βであるSi、Sn、Geなど金属、(M=Sn,Sb,Si、M'=Fe,Co, Mn, V, Ti)Sn3V2、Sb3Coなどの合金を使用することができる。
【0024】
具体的な金属化合物としては、以下の金属化合物が挙げられる。
LiM2O4系:LiMn2O4、LiNi0.5Mn1.5O4
LiMO2系:LiCoO2、LiNi1/3CO1/3Mn1/3O2、LiNi0.5Mn0.5O2、LiNi0.8Co0.15Al0.05O2
Li過剰系(固溶体):xLi2MnO3・(1−x)LiNi0.5Mn0.5O2、xLi2MnO3・(1−x)LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2
LiMPO4系:LiFePO4、LiMnPO4、LiCoPO4、Li3V2(PO4)3
LiMBO3系:LiFeBO3、LiMnBO3
Li2MSiO4系:Li2FeSiO4、Li2MnSiO4
Li2MP2O7系:Li2FeP2O7、Li2MnP2O7
Ti系:Li4Ti5O12、TiO2(B)、H2Ti12O25
MxOy:MnO2、Fe2O3
【0025】
(4)製造方法
本実施形態の金属化合物と炭素材料の複合体の製造工程の一例を図1に示す。図1に示すように、まず、第1に、炭素材料をナノ粒子化しつつ、金属化合物前駆体を炭素材料に担持させる。金属化合物前駆体は、リチウムを含有する前のMβγである(前駆体担持工程)。次に、金属化合物前駆体を反応させ、金属化合物を生成する。(複合化工程)。
【0026】
すなわち、本発明に係る金属化合物と炭素材料の複合体は、製造工程において、炭素材料をナノ化させつつ、炭素材料に金属化合物前駆体を担持させる。その後、炭素材料に金属化合物前駆体を複合化することにより製造する。すなわち、電極材料製造工程としては、以下の工程を備える。
(a)金属化合物の前駆体を炭素材料に担持させる前駆体担持工程。
(b)炭素材料に担持した前駆体を複合化させる複合化工程。
以下、(a)前駆体担持工程(b)複合化工程について詳述する。
【0027】
(a)前駆体担持工程
前駆体担持工程は、炭素材料をナノ粒子化しつつ、その炭素材料の表面に金属化合物前駆体を担時させる工程である。金属化合物前駆体を炭素材料に担持させる方法としては、炭素材料をナノ粒子化しつつ、金属化合物前駆体の材料源を炭素材料の官能基に吸着させ、炭素材料に吸着した材料源を基点として、炭素材料上に金属化合物前駆体を担持させる。
【0028】
炭素材料に前駆体担持を担持させる手順としては、第一に、炭素材料と金属化合物前駆体の材料源とを溶媒に混ぜた混合液を調製する。溶媒は、IPA(イソプロピルアルコール)等のアルコール類や水を用いる。
【0029】
金属化合物前駆体反応が加水分解反応である場合には、その材料源は、金属アルコキシドM(OR)xが挙げられる。金属化合物前駆体の反応が錯形成反応の場合には、その材料源は、金属の酢酸塩、硫酸塩、硝酸塩、ハロゲン化合物、及びキレート化剤が挙げられる。例えば、金属化合物前駆体の材料源は、金属化合物がリン酸鉄リチウムの場合、酢酸鉄(II)、硝酸鉄(II)、塩化鉄(II)、硫酸鉄(II)等のFe源とリン酸、リン酸ニ水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム等のリン酸源とクエン酸、リンゴ酸、マロン酸等のカルボン酸である。
【0030】
メカノケミカル反応により炭素材料に吸着する主な材料源は、官能基に存在する不対電子を有する酸素イオンと結合し易いプラス電荷のイオンを有する材料源であるチタン源、リン酸源のリン等である。
【0031】
ここで、UC処理は、炭素材料とこれに吸着する金属化合物前駆体の材料源に対してズリ応力と遠心力を付与する。例えば、図2に示す反応容器を用いて行うことができる。
【0032】
図2に示すように、反応容器は、開口部にせき板1−2を有する外筒1と、貫通孔2−1を有し旋回する内筒2からなる。この反応器の内筒2内部に反応物を投入し、内筒2を旋回することによってその遠心力で内筒2内部の反応物が内筒の貫通孔2−1を通って外筒の内壁1−3に移動する。この時反応物は内筒2の遠心力によって外筒の内壁1−3に衝突し、薄膜状となって内壁1−3の上部へずり上がる。この状態では反応物には内壁1−3との間のずり応力と内筒からの遠心力の双方が同時に加わり、薄膜状の反応物に大きな機械的エネルギーが加わることになる。この機械的なエネルギーが反応に必要な化学エネルギー、いわゆる活性化エネルギーに転化するものと思われるが、短時間で反応が進行する。
【0033】
この反応において、薄膜状であると反応物に加えられる機械的エネルギーは大きなものとなるため、薄膜の厚みは5mm以下、好ましくは2.5mm以下、さらに好ましくは1.0mm以下である。なお、薄膜の厚みはせき板の幅、反応液の量によって設定することができる。例えば、この薄膜上を生成するために必要な遠心力は1500N(kgms−2)以上、好ましくは60000N(kgms−2)以上、さらに好ましくは270000N(kgms−2)以上である。
【0034】
その後、2回目のUC処理を実施することで、炭素材料に吸着している金属化合物前駆体の材料源と他の材料源とをメカノケミカル反応させ、炭素材料上で金属化合物前駆体を生成する。すなわち、2回目のUC処理を施す。金属化合物前駆体の生成反応が加水分解反応の場合には、加水分解や脱水重合のためのHO(蒸留水)を加えておく。また、金属化合物前駆体の生成反応が錯形成反応の場合には、錯形成のためにpHを調製しておく。pH調製においては、例えば、反応容器内にアンモニア等のアルカリを投与する。換言すると、HO(蒸留水)やpH調整により、分散・吸着工程と前駆体生成工程とを分離することができる。
【0035】
このメカノケミカル反応により、金属化合物前駆体の材料源が金属アルコキシドの場合、炭素材料上で加水分解及び脱水縮合反応が主に発生し、炭素材料上で金属化合物前駆体が生成される。金属化合物前駆体の材料源が金属塩とカルボン酸の場合、炭素材料上に吸着している材料源と他の材料源が錯形成する。例えば、吸着している金属化合物前駆体の材料源がリン酸の場合には、このリン酸とFe源とクエン酸とが錯形成し、三元錯体を形成する。
【0036】
尚、この前駆体生成工程においては、リチウム源は主な反応に関与していないと思われるため、焼成前に混合するようにしてもよい。但し、第2回目のUC処理により同時にリチウム源の混合処理を実施できるため、当該前駆体生成工程の際に一緒に混合することが好適である。
【0037】
なお、一段階のUC処理によっても、リチウムを吸蔵及び放出可能な金属化合物の前駆体を分散担持させた炭素材料は生成可能である。この場合は炭素材料、金属アルコキシド、反応抑制剤、及び水を反応器の内筒の内部に投入して、内筒を旋回して、これらを混合、分散すると共に加水分解、縮合反応を進行させ、化学反応を促進させる。反応終了と共に、リチウムを吸蔵及び放出可能な金属化合物の前駆体を分散担持させた炭素材料を得ることができる。
【0038】
(b)複合化工程
複合化工程では、炭素材料に担持した金属化合物前駆体を合成及び結晶化させる工程である。金属化合物前駆体を合成及び結晶化の方法としては、高圧の水蒸気の存在下で行われる化合物の合成及び結晶を成長させる方法である水熱合成法を利用することができる。
【0039】
この水熱合成は原料と、水などの溶媒をオートクレーブに装入し加圧下に加熱し、飽和蒸気中にて行なう。加圧・加熱することにより常温常圧下では水に溶けにくい物質を溶解させ、反応速度を増大させて、結晶の成長を促進することができる。加熱温度は、原料となる金属塩の種類にもよるが通常は110〜300℃である。密閉容器中で加熱することにより加圧も同時に行なわれる。オートクレーブ内圧は一般には温度によって決まるが、積極的に加圧してもよく1.1〜84.8気圧程度が好ましい。なお、この水熱合成においては、オートクレーブに投入する溶媒として水以外にも、例えばアルコール類(エタノール、メタノール、イソプロピルアルコール等)などの有機溶媒や、これらの有機溶媒と水との混合溶液を用いることもできる。
【0040】
水熱合成では、通常は300℃以下という炭素材料が酸化し消失する温度以下で、金属化合物前駆体を合成及び結晶化させることが可能であるため、酸素を含む雰囲気下で行うことも可能である。特に複合化工程で酸素を必要とする金属酸化物において有効である。また、通常は300℃以下という比較的低温で金属化合物前駆体を合成及び結晶化させることが可能であるため、粒径の小さなナノ粒子においても結晶を維持できると考えられる。
【0041】
(5)製造物の特徴
この製造方法により作成された二次電池用の電極材料は以下の特徴を有する。すなわち、炭素材料は、水熱合成法での加熱温度である110〜300℃で消失しないものであり、この炭素材料の表面には、金属化合物が担持している。この金属化合物としては、110〜300℃及び1.1〜84.8気圧程度での合成が可能な金属化合物である。そして、熱により結晶が不安定になりにくいので、1〜300nmの小さな粒径を持つ。
【0042】
すなわち、図3に示すように、繊維の短径が10〜300nmの炭素材料に金属化合物を担持させた場合においても、炭素材料Aは酸化により消失しない。また金属化合物Bが熱力学的に不安定な物質だとしても、合成及び結晶化が可能である。また、図4に示すように、通常の高温反応により合成及び結晶化を行った場合に、熱の影響により不安定な結晶となり合成できなかったサイズの金属化合物Cも、合成及び結晶化が可能である。
【0043】
図5は、CNFとKB(10wt%ずつ)の炭素材料に、金属化合物としてLiCoO2(80wt%)を担持させた複合体のSEM像である。図5に示すように、金属化合物の一次粒子の粒子径が100〜300nmのLiCoO2(大きい粒子)、及び粒子径が5〜80nmのLiCoO2(小さい粒子)が炭素材料であるCNFやKBに担持されている。なお、小さい粒子は、大きい粒子の表面に担持されていてもよい。このように金属化合物の一次粒子として、異なる粒子径分布の金属化合物が炭素材料に担持されることで、電極層として密度を高めることができ、高容量化が得られる。なお、一次粒子の粒子径は、複合体をSEMにて観察し、その中から無作為に大きい粒子、小さい粒子を選定し、その粒子径を測定した値である。なお、一次粒子が繊維状の場合はその短径を粒子径として用いた。後述の実施例では、この方法によりナノ粒子の粒子径を求めた。
【0044】
(6)作用
この製造方法により生じる本願発明に主に寄与する現象は以下のように考えられる。まず、本発明では、複合化工程において、110〜300℃という比較的低温で金属前駆体の複合化が行われる。そのため、熱力学的に不安定な材料からなる金属化合物前駆体でも、結晶化させることができる。同様に、粒子径が大きいものよりも、熱の影響を受けやすい粒子径が小さい結晶も、低温で結晶化することができると思われる。
【0045】
すなわち、従来は、複合化の際に高温反応を用いていたため、金属化合物の種類によっては、結晶化することができなかったり、不安定な結晶となっていた。また、高温反応に耐えられる金属化合物であっても、熱の影響を受けやすい粒子径が小さな結晶は合成することできなかった。
【0046】
しかしながら、本発明における複合化工程においては、低温での合成を行っているため、熱による影響が少ない。そのため、複合体化工程においても、粒子径が小さな結晶が保たれているものと思われる。
【0047】
従って、この製造方法により作成された複合体は、金属化合物のナノ粒子が維持されている。それにより当該複合体をリチウム二次電池用電極材料として用いた電池や電気化学キャパシタなどの蓄電デバイスは、その高入出力化及び高容量化が達成されることとなる。
【0048】
(7)リチウムイオン二次電池
本発明の電極材料は、リチウムイオン二次電池の正極のために好適である。したがって、本発明はまた、本発明の電極材料を含む活物質層を有する正極と、負極と、負極と正極との間に配置された非水系電解液を保持したセパレータとを備えたリチウムイオン二次電池を提供する。
【0049】
正極のための活物質層は、必要に応じてバインダを溶解した溶媒に、本発明の電極材料を分散させ、得られた分散物をドクターブレード法などによって集電体上に塗工し、乾燥することにより作成することができる。また、得られた分散物を所定形状に成形し、集電体上に圧着しても良い。
【0050】
集電体としては、白金、金、ニッケル、アルミニウム、チタン、鋼、カーボンなどの導電材料を使用することができる。集電体の形状は、膜状、箔状、板状、網状、エキスパンドメタル状、円筒状などの任意の形状を採用することができる。
【0051】
バインダとしては、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレンコポリマー、ポリフッ化ビニル、カルボキシメチルセルロースなどの公知のバインダが使用される。バインダの含有量は、混合材料の総量に対して1〜30質量%であるのが好ましい。1質量%以下であると活物質層の強度が十分でなく、30質量%以上であると、負極の放電容量が低下する、内部抵抗が過大になるなどの不都合が生じる。
【0052】
負極としては、一般的なリチウムイオン二次電池において使用されている黒鉛電極の他、公知の負極活物質を含む活物質層を備えた負極を特に限定無く使用することができる。負極活物質の例としては、Fe、MnO、MnO、Mn、Mn、CoO、Co、NiO、Ni、TiO、TiO、SnO、SnO、SiO、RuO、WO、WO、ZnO等の酸化物、Sn、Si、Al、Zn等の金属、LiVO、LiVO、LiTi12などの複合酸化物、Li2.6Co0.4N、Ge、Zn、CuNなどの窒化物を挙げることができる。
【0053】
負極のための活物質層は、必要に応じてバインダを溶解した溶媒に、上記負極活物質と導電剤とを分散させ、得られた分散物をドクターブレード法などによって集電体上に塗工し、乾燥することにより作成することができる。また、得られた分散物を所定形状に成形し、集電体上に圧着しても良い。
【0054】
集電体及びバインダについては、正極のための集電体及びバインダについての記載が負極においてもあてはまる。導電剤としては、カーボンブラック、天然黒鉛、人造黒鉛などの炭素粉末を使用することができる。
【0055】
セパレータとしては、例えばポリオレフィン繊維不織布、ガラス繊維不織布などが好適に使用される。セパレータに保持される電解液は、非水系溶媒に電解質を溶解させた電解液が使用され、公知の非水系電解液を特に制限なく使用することができる。
【0056】
非水系電解液の溶媒としては、電気化学的に安定なエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、スルホラン、3−メチルスルホラン、γ−ブチロラクトン、アセトニトリル及びジメトキシエタン、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルホルムアミド又はこれらの混合物を好適に使用することができる。
【0057】
非水系電解液の溶質としては、有機電解液に溶解したときにリチウムイオンを生成する塩を、特に限定なく使用することができる。例えば、LiPF、LiBF、LiClO、LiN(CFSO、LiCFSO、LiC(SOCF、LiN(SO、LiAsF、LiSbF、又はこれらの混合物を好適に使用することができる。非水系電解液の溶質として、リチウムイオンを生成する塩に加えて、第4級アンモニウムカチオン又は第4級ホスホニウムカチオンを有する第4級アンモニウム塩又は第4級ホスホニウム塩を使用することができる。例えば、R又はRで表されるカチオン(ただし、R、R、R、Rは炭素数1〜6のアルキル基を表す)と、PF、BF、ClO、N(CFSO、CFSO、C(SOCF、N(SO、AsF又はSbFからなるアニオンとからなる塩、又はこれらの混合物を好適に使用することができる。
【0058】
なお、本発明の電極材料の用途として上述のリチウムイオン二次電池を例示したが、これに限らず、リチウムイオンキャパシタにも用いることもできる。この場合は、本発明の電極材料を負極に用い、正極としてリチウムイオンを可逆的に担持できる物質として例えば活性炭を用い、電解液としては、エチレンカーボネートやプロピレンカーボネートなどの溶媒に、リチウムイオンを生成することのできる電解質としてLiClO、LiAsF、LiBF、LiPF、LiN(CSO、LiN(CFSO、LiN(FSOなどを用いてリチウムイオンキャパシタを構成することができる。
【実施例】
【0059】
[第1の特性比較(TiO(B)/CNF)]
本製造方法で得られた二次電池用電極材料の特性を確認する。本実施例及び比較例では、以下の条件により電極材料となる複合体を作成し、当該複合体を二次電池用電極材料として用いた電池を作成してレート特性を測定した。
【0060】
(実施例1)
図6に示すように、まず、Ti金属と、Hを4.966g(30mass%)と、NHを1.218g(28mass%)とを常温で1.5h攪拌し、[Ti(OH)を生成する。これに、グリコール酸0.1428gを加え、80℃で2.0h攪拌し、[Ti(C(C(O6−を生成する。
【0061】
その後、CNF0.042gと水22.5mlとを混合して50m/sの回転速度で5分間のUC処理を行った。このUC処理では、66000N(kgms−2)の遠心力が加わっている。このUC処理は、1段階のUC処理による金属化合物の前駆体を炭素材料に担持させる前駆体担持工程に対応する。
【0062】
次に、HOを5mlと、HSOを72.8μlとで、pHが0.924の溶液を用意し、この溶液をUC処理後の[Ti(C(C2H(O6−に加え、飽和水蒸気中で200℃で2h水熱合成を行いTiO(B)と炭素材料の複合体を得た。このときの圧力は15.3気圧である。この水熱合成は、複合化工程に対応する。
【0063】
その後、得られたTiO(B)と炭素材料の複合体を粉末とし、この複合体粉末をバインダとしてのポリフッ化ビニリデン(PVDF)と共に(TiO(B)/CNF/PVDF 80:20:5)、SUS板上に溶接されたSUSメッシュ中に投入し、作用電極W.E.とした。前記電極上にセパレータと対極C.E.及び参照極としてLiフォイルを乗せ、電解液として、1MのLiPFのエチレンカーボネート/ジエチルカーボネート1:1溶液を浸透させて、電池セルとした。得られた電池セルについて、広範囲の電流密度の条件下で充放電特性を評価した。
【0064】
(比較例1)
比較例1では、UC処理せず、NTi多結晶体を800℃の高温焼成で得、この多結晶体を粉砕した粉砕物を、0.5Nの塩酸溶液に浸漬し、プロトン交換処理を行い、その後、水洗し、真空中120℃で乾燥を行い、前駆体であるプロトン交換体HTi多結晶体を得た。この得られた前駆体HTi多結晶体を、空気中320℃で20時間処理することによってTiO(B)粉体を得た。この粉末をバインダとしてPVDF及び炭素材料としてCNFと共に(TiO2(B)/CNF/PVDF 56:24:20)SUS板上に溶接されたSUSメッシュ中に投入して乾燥し、作用電極W.E.とした。前記電極上にセパレータと対極C.E.及び参照極としてLiフォイルを乗せ、電解液として、1MのLiPFのエチレンカーボネート/ジエチルカーボネート1:1溶液を浸透させて、電池セルとした。得られた電池セルについて、広範囲の電流密度の条件下で充放電特性を評価した。
【0065】
(結果)
実施例1の製造方法により得られた複合体では、図7のAに示すようにCNFの表面にTiO(B)の一次粒子が担持されていることがわかる。この粒子の粒子径は、1〜30nmであった。すなわち、熱の影響を受けやすいと考えられるこのような微細なナノサイズの粒子でも結晶化させて、CNFに担持させることができるができる。
【0066】
また、図8は、実施例1と比較例1の複合体を用いた電池についての、レートと放電容量との関係を示した図である。比較例1の複合体を用いた電池は、実施例1の複合体を用いた電池に比較して、著しく小さい容量を示した。これに対し、実施例1の複合体を用いた電池は、レート特性が極めて良好であり、レート300Cでも100mAhg−1を超える容量を有していた。
【0067】
この結果から実施例1の炭素材料であるCNFに金属化合物TiO(B)を担持させた場合においては、水熱合成時に酸素を含む雰囲気下において複合化工程を行っても、炭素材料が消失せず、さらに、担持する金属化合物のナノ粒子化が維持されることにより、大容量且つ高入出力を実現することができることがわかる。
【0068】
[第2の特性比較(LiCoO/KB)]
本製造方法で得られた二次電池用電極材料の特性を確認する。本実施例及び比較例では、以下の条件により電極材料となる複合体を作成し、当該複合体を二次電池用電極材料として用いた電池を作成してレート特性を測定した。
【0069】
(実施例2)
図9に示すように、まず、ケッチェンブラックと、Co(CHCOO)・4HOと、蒸留水とを混合して、混合液に対して50m/sの回転速度で5分間のUC処理を行った。UC処理を終えた混合液に対しては、LiHO・HOを加えて、50m/sの回転速度で5分間のUC処理を行った。このUC処理では、66000N(kgms−2)の遠心力が加わっている。この第1,2回目のUC処理は、UC処理による金属化合物の前駆体を炭素材料に担持させる前駆体担持工程に対応する。
【0070】
そして、得られた溶液を大気中などの酸化雰囲気中で250℃まで急速加熱し、1時間の間保持することで焼成を行う。焼成後、オートクレーブ内にHOと、焼成によって作製した前駆体と、Hとを加えて、飽和水蒸気中で250℃で6h保持して水熱合成を行いLiCoO2と炭素材料の複合体を得た。このときの圧力は39.2気圧である。この水熱合成は、複合化工程に対応する。
【0071】
その後、得られたLiCoO2とケッチェンブラック(KB)との複合体を粉末とし、この複合体粉末をバインダとしてのポリフッ化ビニリデン(PVDF)と共に(LiCoO2/KB/PVDF 80:20:5)、SUS板上に溶接されたSUSメッシュ中に投入して乾燥し、作用電極W.E.とした。前記電極上にセパレータと対極C.E.及び参照極としてLiフォイルを乗せ、電解液として、1MのLiPF6のエチレンカーボネート/ジエチルカーボネート1:1溶液を浸透させて、電池セルとした。得られた電池セルについて、広範囲の電流密度の条件下で充放電特性を評価した。
【0072】
(比較例2〜4)
比較例2では、UC処理せず、Li2CO2とCo34の粉体同士を乾式で混合し、得られた混合物を高温(700℃12時間)焼成し、LiCoO2粉末を得た。
比較例3では、実施例2と同様にUC処理を行いKBに担持したLiCoO前駆体を得、この複合化工程の際に水熱合成を使用せず高温(700℃12時間)にて焼成しLiCoO粉末を得た。この比較例3では高温焼成(700℃)を行っているため、KBはその多くが焼失してしまった。
比較例4では、UC処理せず、Li2CO2とCo34の粉体同士を乾式で混合し、得られた混合物を、オートクレーブ内にHOとともに投入し、飽和水蒸気中で250℃で6h保持しLiCoO2粉末を得た。
【0073】
これらのLiCoO2粉末をバインダとしてPVDF及び炭素材料としてKBと共に(LiCoO2/KB/PVDF 70:20:10)SUS板上に溶接されたSUSメッシュ中に投入して乾燥し、作用電極W.E.とした。前記電極上にセパレータと対極C.E.及び参照極としてLiフォイルを乗せ、電解液として、1MのLiPF6のエチレンカーボネート/ジエチルカーボネート1:1溶液を浸透させて、電池セルとした。これらの得られた電池セルについて、広範囲の電流密度の条件下で充放電特性を評価した
【0074】
(結果)
実施例2の製造方法により得られた複合体では、図10に示すようにKBの表面に比較的粒子径の大きなLiCoO粒子(粒子径100〜300nm)と、比較的粒子径の小さなLiCoO粒子(粒子径5〜80nm)とが担持していることがわかる。なお、この比較的粒子径の小さなLiCoO粒子は、粒子径の大きなLiCoO粒子の表面に担持されていているものもある。
【0075】
また、図11は、実施例2と比較例2ないし4の複合体を用いた電池セルについての、レートと放電容量との関係を示した図である。比較例2ないし4の複合体を用いた電池セルは、実施例2の複合体を用いた電池セルに比較して、著しく小さい容量を示した。これに対し、実施例1の複合体を用いた電池セルは、レート特性が極めて良好であり、レート50Cでも100mAhg−1を超える容量を有していた。
【0076】
この結果から実施例2の炭素材料であるKBに金属化合物LiCoOを担持させた場合においては、水熱合成時に酸素を含む雰囲気下において複合化工程を行っても、炭素材料が消失せず、さらに、担持する金属化合物のナノ粒子化が維持されることにより、大容量且つ高入出力を実現することができることがわかる。
【0077】
[第3の特性比較(0.7LiMnO・0.3LiNi0.5Mn0.5/KB・CNF)]
本製造方法で得られた二次電池用電極材料である0.7LiMnO・0.3LiNi0.5Mn0.5/KB・CNFとの複合体の特性を確認する。本実施例及び比較例では、以下の条件により電極材料となる複合体を作成し、当該複合体を二次電池用電極材料として用いた電池を作成してレート特性を測定した。
【0078】
(実施例3)
実施例3では、図2に示す反応器の内筒に、1.54gのMn(CHCOO)・4HO、0.274gのNi(CHCOO)及び0.21gの質量比でケッチェンブラック(粒径約40nm):カーボンナノファイバ(直径約50nm、長さ数百nm)=1:1に混合したカーボン混合物を水75mLに添加した液を導入し、70000kgms−2の遠心力が反応液に印加されるように内筒を300秒間旋回させ、Mn(CHCOO)・4HO及びNi(CHCOO)を溶解させると共にカーボン混合物を分散させた。一旦内筒の旋回を停止し、内筒内に0.6gのLiOH・HOを水に溶解させた液を添加した。液のpHは10であった。次に、再び70000kgms−2の遠心力が反応液に印加されるように内筒を300秒間旋回させた。この間に、外筒の内壁と内筒の外壁との間でMn水酸化物及びNi水酸化物の核が形成され、この核が成長してカーボン混合物の表面に担持された。内筒の旋回停止後に、カーボン混合物をろ過して回収し、空気中100℃で12時間乾燥した。ろ液をICP分光分析により確認したところ、Mn(CHCOO)・4HO原料及びNi(CHCOO)原料に含まれるMn及びNiの95%以上が担持されていることがわかった。次いで、乾燥後の粉末にMn:Liが1:2になる量のLiOH・HOの水溶液を混合して混練し、乾燥後に大気中などの酸素を含む雰囲気中で250℃まで急速加熱し、1時間保持することで焼成を行う。焼成後、オートクレーブ内にHOと、焼成によって作製した前駆体と、Hとを加えて、飽和水蒸気中で200℃で12h保持して複合体の粉末を得た。このときの圧力は16気圧である。この工程は、複合化工程に対応する。
【0079】
(比較例5)
比較例5では、UC処理せず、水熱合成を行わない固相法により、0.7LiMnO・0.3LiNi0.5Mn0.5の粉末を得た。具体的には、Mn(CH3CO2)2・4H2O、Ni(NO3)2・6H2O及びCH3CO2Li・2H2Oを蒸留水に混合し、ホットプレート(100℃)上で攪拌した。この溶液の乾燥し、ゲル状物質を得た。その後このゲル状物質を400℃及500℃で順次焼成し、さらに900℃で10時間焼成した。得られた焼成物を粉砕し、金属化合物の紛体を得た。
【0080】
実施例3の複合体にバインダとしてPVDF(LiCoO2/KB/PVDF 70:20:10)をSUS板上に溶接されたSUSメッシュ中に投入して乾燥し、作用電極W.E.とした。前記電極上にセパレータと対極C.E.及び参照極としてLiフォイルを乗せ、電解液として、1MのLiPFのエチレンカーボネート/ジエチルカーボネート1:1溶液を浸透させて、電池セルとした。
また比較例5の紛体にバインダとしてPVDF0.4g及びカーボンブラック0.6gを加えてSUS板上に溶接されたSUSメッシュ中に投入して乾燥し、作用電極W.E.とした。前記電極上にセパレータと対極C.E.及び参照極としてLiフォイルを乗せ、電解液として、1MのLiPF6のエチレンカーボネート/ジエチルカーボネート1:1溶液を浸透させて、電池セルとした。
これらの得られた電池セルについて、広範囲の電流密度の条件下で充放電特性を評価した。
【0081】
(結果)
図13は、実施例3と比較例5の複合体を用いた電池セルについての、レートと放電容量との関係を示した図である。比較例5の複合体を用いた電池セルは、実施例3の複合体を用いた電池セルに比較して、著しく小さい容量を示した上に、レートの増加につれて容量が大きく低下していることが分かる。これに対し、実施例3の複合体を用いた電池セルは、レート特性が極めて良好であり、レート100Cでも50mAhg−1を超える容量を有していた。
【0082】
この結果から実施例3の炭素材料(KB及びCNF)に金属化合物(0.7LiMnO・0.3LiNi0.5Mn0.5固溶体)を担持させた場合においては、水熱合成時に酸素を含む雰囲気下において複合化工程を行っても、炭素材料が消失せず、さらに、担持する金属化合物のナノ粒子化が維持されることにより、大容量且つ高入出力を実現することができることがわかる。
【0083】
(比較例6)
比較例6では、実施例3と同様に反応器の内筒に、1.54gのMn(CHCOO)・4HO、0.274gのNi(CHCOO)、0.78gのCHCOOLi(Mn:Li=1:2)及び0.21gの質量比でケッチェンブラック(粒径約40nm):カーボンナノファイバ(直径約50nm、長さ数百nm)=1:1に混合したカーボン混合物を水75mLに添加した液を導入し、70000kgms−2の遠心力が反応液に印加されるように内筒を300秒間旋回させた。内筒の旋回停止後、液体部分を採取してICP分光分析により確認したところ、Mn(CHCOO)・4HO原料及びNi(CHCOO)原料の約30%のMn及びNiしかカーボン混合物に担持されていなかった。そのため、反応器の内容物の全てを回収し、空気中100℃で蒸発乾固させ、次いで、空気中300℃で1時間加熱処理し、複合体の粉末を得た。
【0084】
この複合体の紛体にバインダとしてPVDF(LiCoO2/KB/PVDF 70:20:10)をSUS板上に溶接されたSUSメッシュ中に投入して乾燥し、作用電極W.E.とした。前記電極上にセパレータと対極C.E.及び参照極としてLiフォイルを乗せ、電解液として、1MのLiPF6のエチレンカーボネート/ジエチルカーボネート1:1溶液を浸透させて、電池セルとした。
【0085】
図14は、実施例3と比較例6の複合体を用いた電池セルについての初回放電カーブを示した図である。比較例6の複合体を用いた電池セルは、4V付近及び2.7V付近で放電に基づくLiMn24由来のプラトー電圧が観測されるのに対し、実施例3の複合体を用いた電池セルでは、容量の増加にともない電位がなだらかに低下していき、比較例6のようなプラトー領域は存在せず、良好な放電特性が得られている。
【0086】
図15は、実施例3と比較例6の複合体についての表面状態を観察したTEM写真である。図15の(a)は比較例6の複合体を示し、図15の(b)は実施例3の複合体を示す。実施例3の複合体には、粒子径が約10〜30nmの均一な結晶が含まれていることがわかる。これに対し、比較例6の複合体には、粒子径5nm以下の結晶や長さ100nm程度の大きな結晶も含まれており、結晶の大きさがふぞろいであった。これは、担持工程において、実施例3では、水酸化物の微粒子がカーボン混合物に分散性良く担持されるが、比較例6では、ふぞろいな大きさの凝集体と無定形の化合物がカーボン混合物を覆っている材料しか得られないことを反映したものであると考えられる。すなわち、実施例3では、加熱処理及び水熱処理において、均一な反応が進行して均一な大きさを有する複合酸化物のナノ粒子が分散性良く形成されるものの、比較例6では、熱処理工程において、不均一な反応が進行してふぞろいな大きさの複合酸化物が形成されるものと考えられる。
【符号の説明】
【0087】
1…外筒
1−2…せき板
1−3…内壁
2…内筒
2−1…貫通孔
図1
図6
図8
図9
図11
図12
図13
図14
図2
図3
図4
図5
図7
図10
図15
図16