(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6099073
(24)【登録日】2017年3月3日
(45)【発行日】2017年3月22日
(54)【発明の名称】風味と食感に優れたピザクラストの製造方法
(51)【国際特許分類】
A21D 8/04 20060101AFI20170313BHJP
A21D 13/00 20170101ALI20170313BHJP
【FI】
A21D8/04
A21D13/00
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2012-165012(P2012-165012)
(22)【出願日】2012年7月25日
(65)【公開番号】特開2014-23454(P2014-23454A)
(43)【公開日】2014年2月6日
【審査請求日】2015年7月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006138
【氏名又は名称】株式会社明治
(72)【発明者】
【氏名】奈良 和俊
(72)【発明者】
【氏名】池田 信子
(72)【発明者】
【氏名】阿部 純一
(72)【発明者】
【氏名】重松 幹二
【審査官】
厚田 一拓
(56)【参考文献】
【文献】
特開2003−259796(JP,A)
【文献】
特開平10−117673(JP,A)
【文献】
特開2007−110953(JP,A)
【文献】
特開平11−266775(JP,A)
【文献】
特開2008−000133(JP,A)
【文献】
特開平02−215334(JP,A)
【文献】
ケンテツ コウ,きょうの料理キッズ「お助け!昼ごはん」 一緒につくれるランチ,NHKテレビテキスト きょうの料理 2011年8月号,NHK出版,第55巻
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A21D 2/00 − 17/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/FSTA/FROSTI/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
発酵乳及びパン酵母を穀類粉に配合してから、乳酸酸度が0.5%以上になるまで発酵させた発酵種をピザ生地に配合することを特徴とするピザクラストの製造方法であって、さらに穀類粉の100重量部に対し、0.1〜0.4重量部のモルトエキスを配合することを特徴とする、ピザクラストの製造方法。
【請求項2】
穀類粉が小麦粉及び/又はライ麦粉であることを特徴とする請求項1記載のピザクラストの製造方法。
【請求項3】
ピザ生地における穀類の固形分のうち2〜80重量%を発酵種の固形分で置換することを特徴とする請求項1又は2に記載のピザクラストの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、煩雑な工程を必要としない、風味と食感に優れたピザクラストの製造方法に関する。具体的には、加熱調理時に、適度な焦げ目の付いた良好な焼色を呈し、香ばしくて、芳醇で良好な風味と、しっとりとして、もちもちとした食感を有するピザクラストの製造方法と、そのピザクラストなどのパン類を商業的に安定して製造できる発酵種の調製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パン類の風味を改良する方法の一つに発酵種製法が知られている。具体的には、小麦粉やライ麦粉に存在する乳酸菌や酵母などの微生物を自然発酵させて、発酵種を調製し、この発酵種をパン生地に配合して混練してから発酵させることで、酸味や香味に優れたパン類を製造できることが知られている。
【0003】
上記の発酵種製法では、小麦粉やライ麦粉に元から存在している発酵用の微生物を使用しており、その微生物の種類や活性は小麦粉毎やライ麦粉毎に異なり、それらを使用する度に異なることとなる。そのため、それらの発酵種の品質(活性など)を一定の範囲に管理や制御することは非常に困難となる。また、小麦粉やライ麦粉には発酵用の微生物のみではなく、その他に雑菌なども存在しており、発酵種やパン類を発酵させる際などにおいて、それらの雑菌も必然的に増殖する可能性が高くなり、それらパン類の品質や風味などを目的とする範囲に管理や制御することは非常に困難となる。つまり、それらパン類を商業的に安定して製造することは非常に困難となる。
【0004】
このような発酵種製法における課題を解決するために、発酵用の微生物を事前に単独で培養させる、発酵種の調製方法と、その発酵種を使用した、パン類の製造方法などが知られている。特許文献1には、生米等の乳酸菌発酵物を磨砕して得た乳液状の発酵種を、パンの第一次原料粉に添加混捏し、イースト菌の不存在下で、乳酸発酵のみを先行させ、生地中に重量比で0.5%以上の乳酸を生成させた乳酸生地を製造することが記載されている。そして、前記の乳酸生地に、第二次原料粉、イースト、砂糖、食塩、油脂等のパン生地に必要とする原料を所定量で加えて、本練りし、パン生地を調製して、それ以降には、常法の通り、イースト発酵を主とする発酵、分割、ねかし、整型、焼成等する、サワーブレッドの製造方法が記載されている。
【0005】
また、特許文献2には、サワー種生地の製造において、37〜43℃に最適生育能を有するラクトバチルス デルブルッキー 亜種 ブルガリカス(Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus)やストレプトコッカス サーモフィルス(Streptococcus thermophilus)等の所謂、ヨーグルトなどの乳製品から分離された乳酸菌や、食品に含まれるか、若しくは食品の製造に使用される、高温生育能を有する乳酸菌を使用する、サワー種生地の製造法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11-266775
【特許文献2】特開2006-325480
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここで、上記の特許文献1では、生米等の乳酸菌発酵物のみでパン生地(乳酸生地)を調製する専用の工程を追加することが必須となり、全体として工程が煩雑となる。また、上記の特許文献2では、乳酸菌のみでパン生地を発酵させており、イースト菌などの酵母を使用しておらず、風味や物性の観点から十分とは言えない。
【0008】
乳酸菌と酵母について、乳酸菌は原核微生物であるのに対し、酵母は真核微生物であり、微生物学的に分類が異なっている。また、乳酸菌は通性嫌気性菌であり、好気性の条件下及び嫌気性の条件下で共に生育できるのに対し、酵母は好気性菌であり、嫌気性の条件下では生育しないことも知られている。
【0009】
このような状況に対し、本発明では、乳酸菌と酵母(パン酵母)の共存下において、ピザ生地(パン生地)を安定して発酵させられる発酵種の調製方法を提供すると共に、この発酵種を使用した、風味と食感に優れたピザクラスト(パン類)の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記の課題に鑑み、鋭意研究を進めたところ、以下の知見を得た。すなわち、乳酸菌入り乳性食品及びパン酵母を穀類粉及び水と混合・混練してから発酵させることで、煩雑な工程を必要とせずに、新規な発酵種を調製(開発)できることを見出し、さらに、この発酵種をピザ生地(パン生地)と混合・混練してから発酵させることで、煩雑な工程を必要とせずに、新規なピザクラスト(パン類)を製造(開発)できることを見出した。このとき、乳酸菌とパン酵母の菌叢のバランスなどが崩れることなく、一定の品質のピザクラスト(パン類)を商業的に安定して製造できることを見出した。
【0011】
そして、前記のピザクラストに各種の具材などをトッピングしてから、そのピザをそのまま加熱調理(オーブン、電子レンジなど)するか、若しくは、そのピザを冷蔵や冷凍で保存した後に、加熱調理したところ、ピザクラストが適度な焦げ目の付いた良好な焼色を呈し、香ばしくて、芳醇で良好な風味と、しっとりとして、もちもちとした食感を有することを見出した。
【0012】
すなわち、本発明は、次の通りとなる。
[1] 発酵乳及びパン酵母を穀類粉に配合してから、乳酸酸度が0.5%以上になるまで発酵させた発酵種をピザ生地に配合することを特徴とするピザクラストの製造方法
であって、さらに穀類粉の100重量部に対し、0.1〜0.4重量部のモルトエキスを配合することを特徴とする、ピザクラストの製造方法。
[2] 穀類粉が小麦粉及び/又はライ麦粉であることを特徴とする前記[1]記載のピザクラストの製造方法。
[
3] ピザ生地における穀類の固形分のうち2〜80重量%を発酵種の固形分で置換することを特徴とする前記[1]
又は[2]に記載のピザクラストの製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明では、乳酸菌と酵母(パン酵母)の共存下において、ピザ生地(パン生地)を安定して発酵させられる発酵種の調製方法を提供できる。つまり、本発明では、乳酸菌入り乳性食品及びパン酵母を穀類粉及び水と混合・混練してから発酵させることで、煩雑な工程を必要とせずに、新規な発酵種を調製して提供できる。
【0014】
また、本発明では、前記の発酵種を使用した、風味と食感に優れたピザクラスト(パン類)の製造方法を提供できる。つまり、本発明では、前記の発酵種をピザ生地(パン生地)と混合・混練してから発酵させることで、煩雑な工程を必要とせずに、新規なピザクラスト(パン類)を製造して提供できる
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下では、本発明を詳細に説明するが、本発明は、個々の形態には限定されない。
【0016】
本発明は、乳酸菌入り乳性食品及びパン酵母を穀類粉に配合(添加)し、必要に応じて、加水してから(あるいは加水しながら)、混練(混捏)した後に、発酵させた発酵種をピザ生地に配合し、必要に応じて、加水してから(あるいは加水しながら)、混練(混捏、本捏ね)、一次発酵、展延、成形(成型)、二次発酵させて焼成することを特徴とするピザクラストの製造方法である。ここで、ピザ生地の展延、成形(成型)、発酵の順番は特に限定されない。
【0017】
本発明において、乳酸菌入り乳性食品とは、乳酸菌(生菌)と乳(乳成分)を含む食品を意味する。ここで、乳酸菌入り乳性食品の成分や濃度は特に限定されず、その他の食品、食品原料、食品添加物が含まれていても良い。乳酸菌入り乳性食品には、乳性食品(乳を含む食品)に乳酸菌を配合(添加)して発酵させた形態となる発酵乳、及び/又は乳性食品(乳を含む食品)に乳酸菌を配合(添加)して発酵させていない形態となる乳酸菌添加食品が例示される。このとき、発酵乳と乳酸菌添加食品を単独で使用しても、複数種(2種以上)を混合して使用しても良い。
【0018】
発酵乳として、ヨーグルト、乳酸菌飲料、フローズンヨーグルト、ナチュラルチーズ、発酵クリーム、発酵バター、発酵バターミルクなどが挙げられ、乳酸菌(生菌)を含んでいれば特に限定されない。そして、発酵乳には、ヨーグルト、乳酸菌飲料、フローズンヨーグルトなどを単独で使用しても、複数種(2種以上)を混合して使用しても良い。ただし、発酵種の調製に好適であり、その取扱いや入手の容易さなどの観点から、ヨーグルト、乳酸菌飲料、フローズンヨーグルトが好ましく、ヨーグルト、乳酸菌飲料がより好ましく、ヨーグルトがさらに好ましい。ここで、発酵乳の由来や産地などは特に限定されず、「明治ブルガリアヨーグルトLB81プレーン」(明治社製)のような市販のヨーグルトなどを購入して使用することができる。
【0019】
乳酸菌添加食品などにおける乳性食品として、牛乳、成分調整牛乳、加工乳、乳飲料、脱脂乳、濃縮乳、脱脂濃縮乳、クリーム、バター、ナチュラルチーズ、プロセスチーズ、全脂粉乳、脱脂粉乳、ホエイ、ホエイパウダー、ホエイタンパク質濃縮物(WPC)、ホエイタンパク質単離物(WPI)、乳タンパク質濃縮物(MPC)、プリン、ババロア、牛乳寒天、アイスクリーム、ムース、ホワイトソースなどが挙げられ、乳(乳成分)を含んでいれば特に限定されない。そして、乳酸菌添加食品や乳性食品には、牛乳、成分調整牛乳、加工乳、乳飲料、脱脂乳などを単独で使用しても、複数種(2種以上)を混合して使用しても良い。ここで、乳性食品の由来や産地などは特に限定されず、「明治おいしい牛乳」(明治社製)のような市販の牛乳などを購入して使用することができる。
【0020】
本発明において、乳酸菌とは、微生物の分類学上の乳酸菌に限定されず、例えば、ビフィズス菌、プロピオンサン菌なども含めた微生物を意味する。そして、乳酸菌(生菌)を単独で使用しても、複数種(2種以上)を混合して使用しても良い。ただし、ピザクラストやピザの風味や食感などの観点から、ヨーグルト用、乳酸菌飲料用、フローズンヨーグルト用、ナチュラルチーズ用の乳酸菌を使用することが好ましく、ブルガリア菌(Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus)やサーモフィルス菌(Streptococcus thermophilus)などのヨーグルト用の乳酸菌を使用することがより好ましい。また、健康の効能を期待できる特定の乳酸菌(プロバイオティクス)などを使用するか、若しくはヨーグルト用の乳酸菌などと併用することもできる。
【0021】
本発明において、乳酸菌入り乳性食品では、乳酸菌(生菌)が存在していれば、乳酸菌数は特に限定されないが、乳酸菌数として、10万個以上/mlが好ましく、100万個以上/mlがより好ましく、1000万個以上/mlがさらに好ましい。乳酸菌入り乳性食品では、乳酸菌数として10万個未満/mlとなると、発酵種の乳酸菌数が不足気味となり、発酵種への添加量を増やさなければ、本発明の効果を十分に発揮できない可能性がある。
【0022】
本発明において、パン酵母とは、微生物の分類学上のパン酵母に限定されず、例えば、パン類の製造用に調製されたイースト菌(イースト)なども含めた微生物を意味する。そして、パン酵母を単独で使用しても、複数種(2種以上)を混合して使用しても良い。ただし、ピザクラストやピザの風味や食感などの観点から、パン類の製造用の市販のイースト菌を使用することが好ましく、市販の生イースト、ドライイースト(インスタントドライイースト)を使用することがより好ましい。
【0023】
本発明において、穀類粉とは、小麦粉、ライ麦粉、大麦粉、とうもろこし粉、米粉などの澱粉(炭水化物)を主原料とする穀類粉の全部を意味する。ここで、穀類粉の由来や産地などは特に限定されず、市販の小麦粉、ライ麦粉、大麦粉、とうもろこし粉、米粉などを購入して使用することができる。そして、穀類粉を単独で使用しても、複数種(2種以上)を混合して使用しても良い。ただし、ピザクラストやピザの風味や食感などの観点から、小麦粉及び/又はライ麦粉を主成分として使用することが好ましく、小麦粉を主成分として使用することがより好ましい。
【0024】
本発明において、加水とは、飲食品や医薬品の製造に適用できる水を配合(添加、混合)することを意味する。ここで、水の由来や産地などは特に限定されず、水道水、井水、イオン交換水、純水、超純水などを使用できる。そして、その温度として0〜70℃が例示できるが、発酵種やピザクラストの調製に好適であり、その取扱いの容易さなどの観点から、0〜60℃が好ましく、0〜50℃がより好ましく、0〜40℃がさらに好ましい。
【0025】
本発明において、発酵種における乳酸菌入り乳性食品、パン酵母、穀類粉の配合量(添加量)は適宜調節することができる。例えば、乳酸菌入り乳性食品の配合量として、市販のヨーグルトでは、穀類粉の100重量部に対し、10〜100重量部、好ましくは20〜80重量部、より好ましくは30〜70重量部、さらに好ましくは40〜60重量部である。そして、例えば、パン酵母の配合量として、市販のインスタントドライイーストでは、穀類粉の100重量部に対し、0.005〜1重量部、好ましくは0.01〜0.8重量部、より好ましくは0.03〜0.5重量部、さらに好ましくは0.05〜0.2重量部である。また、本発明において、発酵種における加水量も適宜調節することができる。例えば、その加水量として、穀類粉の100重量部に対し、0〜300重量部、好ましくは0〜200重量部、より好ましくは50〜200重量部、さらに好ましくは100〜200重量部である。
【0026】
本発明において、配合(添加)とは、各種の成分を混ぜて合せるような公知の配合方法(添加方法)の全部を意味する。そして、発酵種の調製では、乳酸菌入り乳性食品の配合、パン酵母の配合、穀類粉の配合、加水などの順番は特に限定されないが、乳酸菌入り乳性食品、パン酵母、穀類粉などを(ほぼ)同時に配合し、必要に応じて、加水することが好ましい。つまり、発酵種の調製では、発酵の開始までに、乳酸菌入り乳性食品、パン酵母、穀類粉などを配合すると同時に加水してから、混練しておくことが好ましい。また、ピザ生地の調製では、発酵種の配合、パン酵母の配合、穀類粉の配合、加水などの順番は特に限定されないが、発酵種、パン酵母、穀類粉などを(ほぼ)同時に配合し、必要に応じて、加水することが好ましい。つまり、ピザ生地の調製では、一次発酵の開始までに、発酵種、パン酵母、穀類粉などを配合すると同時に加水してから、混練しておくことが好ましく、二次発酵の開始までに、展延、成形(成形)しておくことが好ましい。
【0027】
本発明において、混練(混捏)とは、手捏ねや機械捏ねを問わず、発酵種やピザ生地(パン生地)を混ぜて捏ねるような公知の混練方法(混捏方法)の全部を意味する。本発明において、展延とは、ピザ生地(パン生地)を延ばして拡げるような公知の展延方法の全部を意味する。本発明において、成形(成型)とは、ピザ生地(パン生地)を所定の形状(円形など)に切断するような公知の成形方法(成型方法)の全部を意味する。
【0028】
本発明において、発酵とは、発酵種やピザ生地(パン生地)に微生物を配合して、所定の発酵温度に所定の発酵時間で保持するような公知の発酵方法の全部を意味する。ここで、本発明において、発酵温度と発酵時間は微生物の種類などで異なり、特に限定されない。そして、発酵種の発酵温度として、5〜55℃が例示できるが、発酵種の調製に好適であるなどの観点から、15〜50℃が好ましく、20〜45℃がより好ましく、25〜35℃がさらに好ましい。また、発酵種の発酵時間として、3〜48時間が例示できるが、発酵種の調製に好適であるなどの観点から、5〜40時間が好ましく、10〜30時間がより好ましく、15〜25時間がさらに好ましい。
【0029】
本発明において、一次発酵の発酵温度として、5〜55℃が例示できるが、ピザクラストの調製に好適であるなどの観点から、15〜50℃が好ましく、20〜45℃がより好ましく、25〜35℃がさらに好ましい。また、一次発酵の発酵時間として、15〜180分間が例示できるが、ピザクラストの調製に好適であるなどの観点から、20〜120分間が好ましく、30〜100分間がより好ましく、45〜90分間がさらに好ましい。そして、本発明において、二次発酵の発酵温度として、20〜60℃が例示できるが、ピザクラストの調製に好適であるなどの観点から、25〜55℃が好ましく、30〜50℃がより好ましく、35〜45℃がさらに好ましい。また、二次発酵の発酵時間として、2〜30分間が例示できるが、ピザクラストの調製に好適であるなどの観点から、3〜20分間が好ましく、4〜15分間がより好ましく、5〜10分間がさらに好ましい。
【0030】
本発明において、必要に応じて、モルトエキス及び/又は糖類を発酵種並びに/若しくはピザ生地(パン生地)に配合すれば、それらの発酵を促進させることができる。本発明において、モルトエキスとは、モルト(大麦)のエキスであれば良く、その調製方法などは特に限定されない。モルトエキスの配合量として、穀物粉の100重量部に対し、0.01〜2重量部、好ましくは0.04〜1.6重量部、より好ましくは0.1〜1.0重量部、さらに好ましくは0.1〜0.4重量部である。本発明において、糖類とは、公知の糖類であれば良く、その種類などは特に限定されない。糖類の配合量として、穀物粉の100重量部に対し、0.1〜50重量部、好ましくは0.1〜25重量部、より好ましくは0.1〜10重量部、さらに好ましくは0.1〜5重量部である。
【0031】
本発明の発酵種は、乳酸菌入り乳性食品及びパン酵母を穀類粉に配合(添加)し、必要に応じて、加水してから(あるいは加水しながら)、混練(混捏)した後に、発酵させて調製できる。ここで、発酵種の成分や濃度は特に限定されず、その他の食品、食品原料、食品添加物が含まれていても良い。また、本発明のピザクラストは、本発明の発酵種をピザ生地に配合し、必要に応じて、加水してから(あるいは加水しながら)、混練(混捏、本捏ね)、展延、成形(成型)、発酵させて焼成して製造できる。ここで、ピザクラストの成分や濃度は特に限定されず、その他の食品、食品原料、食品添加物が含まれていても良い。
【0032】
本発明の発酵種は、ピザクラストの製造用に限定されず、本発明の発酵種を使用することで、風味と食感の優れたパン類を製造することができる。ここで、パン類とは、一般的なパン、ピザクラスト、ナンなどのように、小麦粉を原料として含み、各種の原料と合せて混練(混捏)、発酵、焼成したものの全部を意味する。本発明の発酵種を使用して、パン生地(一般的なパン生地、ピザ生地、ナン生地)を調製し、それをオーブンや電子レンジなどで加熱調理すると、適度な焦げ目の付いた良好な焼色を呈し、香ばしくて、芳醇で良好な風味を有し、しっとりとして、もちもちとした食感を有するパン類を商業的に安定して製造することができる。
【0033】
本発明の発酵種を使用して、ピザクラストを製造する場合、本発明の発酵種を配合して、混練(混捏)、発酵、焼成する以外には、その原料や配合量を適宜調整することができる。本発明の発酵種の配合量として、ピザ生地における穀類の固形分のうち2〜80重量%を発酵種の固形分で置換するが例示でき、3〜70重量%が好ましく、4〜60重量%がより好ましく、5〜50重量%がさらに好ましい。本発明において、ピザクラストの混練(混捏)、一次発酵、展延、成形(成型)、二次発酵、焼成は公知の方法の全部を適用することができる。ここで、本発明において、ピザクラストの焼成温度と焼成時間は焼成装置の種類などで異なり、特に限定されない。そして、ピザクラストの焼成温度として、150〜500℃が例示できるが、ピザクラストの調製に好適であるなどの観点から、250〜450℃が好ましく、300〜400℃がより好ましい。また、ピザクラストの焼成時間として、30〜600秒間が例示できるが、ピザクラストの調製に好適であるなどの観点から、60〜300秒間が好ましく、60〜150秒間がより好ましい。
【0034】
本発明のピザクラストの製造方法において、過熱水蒸気を適用することで、ピザクラストの食感を改良することができる。すなわち、特許第4556184号において「ピザクラストの製造工程において、ピザ生地を焼成する工程の前に前記ピザ生地の表面に140〜260℃の温度の過熱水蒸気を吹きつける、又は、140〜260℃の温度の過熱水蒸気に前記ピザ生地を曝すことによる過熱水蒸気を用いたピザ生地の処理を3〜15秒で行うことを特徴とするピザクラストの製造方法」がクリスピーな食感を有するピザクラストの製造方法として開示されている。そこで、本発明のピザクラストの製造方法において、特許第4556184号のピザクラストの製造方法を併用することで、ピザクラストの外部は、クリスピーな食感を有し、ピザクラストの内部は、しっとりとして、もちもちとした食感を有する、より嗜好性の高いピザクラストの製造方法を提供できることとなる。
【実施例】
【0035】
以下では、実施例を挙げて、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これにより限定されない。
【0036】
(実施例1)
小麦粉:100重量部、ヨーグルト(商品名「明治ブルガリアヨーグルトLB81プレーン」、明治社製):55重量部、イースト菌(商品名「インスタントドライイースト」、カネカ社製):0.1重量部、水(20℃):150部を混合し、パン生地用の捏ね棒で混捏した。この混捏物を28℃(湿度:85%)に17時間で保持して発酵させ、乳酸酸度が0.5%となった時点で、冷蔵庫に入れて10℃以下まで冷却して、乳酸酸度が0.6%の発酵種を得た。
【0037】
(実施例2)
小麦粉:100重量部、ヨーグルト(商品名「明治ブルガリアヨーグルトLB81プレーン」、明治社製):55重量部、イースト菌(商品名「インスタントドライイースト」、カネカ社製):0.1重量部、モルトエキス(商品名「ユーロモルト」、オリエンタル酵母社製):0.2重量部、水(20℃):150部を混合し、パン生地用の捏ね棒で混捏した。この混捏物を28℃(湿度:85%)に17時間で保持して発酵させ、乳酸酸度が0.55%となった時点で、冷蔵庫に入れて10℃以下まで冷却して、乳酸酸度が0.65%の発酵種を得た。
【0038】
(実施例3)
小麦粉:100重量部、実施例1の発酵種:113重量部(小麦粉:37重量部を含む)、イースト菌(商品名「インスタントドライイースト」、カネカ社製):2重量部、食塩:1.8重量部、D−ソルビトール:2.4重量部、食用油脂:6.3重量部、水(20℃):10重量部を混合し、パン生地用の捏ね棒で混捏した。この混捏物を28℃(湿度:85%)に1時間で保持して一次発酵させ、展延した後に、直径:7インチ(17.8cm)、厚さ:4mmの丸形に金属型で打ち抜いた。その後、40℃(湿度:85%)に7分間で保持して二次発酵させ、この発酵物を370℃に110秒間で保持して焼成し、ピザクラスト(89g/枚)を得た。
【0039】
(実施例4)
小麦粉:100重量部、実施例2の発酵種:113重量部(小麦粉:37重量部を含む)、イースト菌(商品名「インスタントドライイースト」、カネカ社製):2重量部、食塩:1.8重量部、D−ソルビトール:2.4重量部、食用油脂:6.3重量部、水(20℃):15重量部を混合し、パン生地用の捏ね棒で混捏した。この混捏物を28℃(湿度:85%)に1時間で保持して一次発酵させ、展延した後に、直径:7インチ(17.8cm)、厚さ:4mmの丸形に金属型で打ち抜いた。その後、40℃(湿度:85%)に7分間で保持して二次発酵させ、この発酵物を370℃に110秒間で保持して焼成し、ピザクラスト(89g/枚)を得た。
【0040】
(比較例1)
小麦粉:137重量部、ヨーグルト(商品名「明治ブルガリアヨーグルトLB81プレーン」、明治社製):20.3重量部、イースト菌(商品名「インスタントドライイースト」、カネカ社製):2重量部、食塩:1.8重量部、D−ソルビトール:2.4重量部、食用油脂:6.3重量部、水(20℃):64重量部を混合し、パン生地用の捏ね棒で混捏した。この混捏物を28℃(湿度:85%)に1時間で保持して一次発酵させ、展延した後に、直径:7インチ(17.8cm)、厚さ:4mmの丸形に金属型で打ち抜いた。その後、40℃(湿度:85%)に7分間で保持して二次発酵させ、この発酵物を370℃に110秒間で保持して焼成し、ピザクラスト(89g/枚)を得た。つまり、ここでは、本発明の発酵種を配合せず、その発酵種に含まれる重量部と同量の小麦粉、ヨーグルト(発酵乳)、イースト菌(パン酵母)、水をピザ生地に配合して、ピザクラストを製造した。
【0041】
(試験例1)
実施例3、実施例4、及び比較例1のピザクラストの上に、ピザソース:31g、シュレッドチーズ:28gをトッピングして、ピザを調製した。これらのピザを冷凍した後に、オーブン(250℃、8分間)と電子レンジ(500W、2分30秒間)で、それぞれ加熱調理して、外観・風味・食感を評価した。実施例3及び実施例4のピザクラストより調製したピザは、加熱調理方法に依存することなく、適度な焦げ目の付いた良好な焼色を呈し、香ばしくて、芳醇で良好な風味を有し、しっとりとして、もちもちとした食感を有していた。一方、比較例1のピザクラストより調製したピザは、どちらの加熱方法においても、実施例3及び実施例4のピザクラストより調製したピザと比較して、焦げ色が強すぎる焼色を呈し、焼成の風味が強すぎて、ぱさついた食感を有していた。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明により、加熱時に適度な焦げ目の付いた良好な焼色を呈し、香ばしくて、芳醇で良好な風味と、しっとりとして、もちもちとした食感を有するピザクラストの製造方法と、そのピザクラストなどのパン類を商業的に安定して製造できる発酵種の調製方法を提供できる。