特許第6099081号(P6099081)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6099081電解液ジェット加工装置及び電解液ジェット加工方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6099081
(24)【登録日】2017年3月3日
(45)【発行日】2017年3月22日
(54)【発明の名称】電解液ジェット加工装置及び電解液ジェット加工方法
(51)【国際特許分類】
   B23H 3/10 20060101AFI20170313BHJP
   B23H 9/16 20060101ALI20170313BHJP
【FI】
   B23H3/10 Z
   B23H9/16
【請求項の数】9
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-266062(P2012-266062)
(22)【出願日】2012年12月5日
(65)【公開番号】特開2014-111287(P2014-111287A)
(43)【公開日】2014年6月19日
【審査請求日】2015年12月3日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成23年度、経済産業省「チップマウンター用金属部品を低コストに加工するプレス複合化技術の開発」委託研究事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100091904
【弁理士】
【氏名又は名称】成瀬 重雄
(72)【発明者】
【氏名】国枝 正典
【審査官】 岩瀬 昌治
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭54−105396(JP,A)
【文献】 実開昭63−074269(JP,U)
【文献】 実開昭63−067070(JP,U)
【文献】 特開2009−034802(JP,A)
【文献】 実公昭46−011671(JP,Y1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23H 3/10
B23H 9/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解液ジェットを工作物に供給することによって前記工作物を電解加工するための電解液ジェット加工装置であって、
電解液ノズルと、当接面と、電源とを備えており、
前記電解液ノズルは、前記当接面に向けて電解液を放出する構成とされており、
前記当接面は、前記工作物とは電気的に絶縁された位置に配置されており、
かつ、前記当接面の少なくとも一端は、前記工作物に対して接近させられており、
さらに、前記当接面は、前記電解液ノズルから放出された前記電解液を受け止め、かつ、少なくとも前記一端の方向における自由空間に向けて流出させることによって、前記工作物の表面と交差する方向に進む略フィルム状の電解液ジェットを、前記自由空間内に形成して、前記工作物に供給する構成とされており、
前記電源は、前記電解液ジェットと前記工作物との間に電流を流すことができる構成となっており、
前記工作物の表面と交差する方向に進む前記電解液の流速は、前記工作物の表面に衝突した前記電解液が、衝突部分の外側に跳水部を形成可能な速度に設定されている
ことを特徴とする電解液ジェット加工装置。
【請求項2】
前記電源は、前記当接面に給電することによって、前記電解液を介して、前記当接面と前記工作物との間に電流を流す構成となっている
請求項1に記載の電解液ジェット加工装置。
【請求項3】
前記当接面は、湾曲面とされており、かつ、前記当接面の下端における幅方向の両端は、前記工作物から離間されている、請求項1又は2に記載の電解液ジェット加工装置。
【請求項4】
前記当接面は、当接板の表面に形成されている
請求項1〜3のいずれか1項に記載の電解液ジェット加工装置。
【請求項5】
前記当接板は、支持体の表面に当接されることによって、前記支持体によって支持されており、前記支持体の傾斜角度は変更可能とされており、これによって、前記工作物の表面に対する電解液ジェットの衝突角度も変更可能とされている
請求項4に記載の電解液ジェット加工装置。
【請求項6】
前記電解液ノズルから放出される前記電解液の方向と、前記当接面とのなす角度αは、0≦α≦90°とされている
請求項1〜5のいずれか1項に記載の電解液ジェット加工装置。
【請求項7】
前記当接面は、錐体状の当接体における傾斜した側面によって形成されており、
前記錐体状の当接体の軸線方向は、前記電解液ノズルから放出される前記電解液の放出方向とほぼ平行とされている
請求項1〜6のいずれか1項に記載の電解液ジェット加工装置。
【請求項8】
前記当接面の一部が絶縁体とされている
請求項1〜7のいずれか1項に記載の電解液ジェット加工装置。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の電解液ジェット加工装置を用いて電解液ジェット加工を行うことを特徴とする、電解液ジェット加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作物に対する電解液ジェット加工を行うための技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電解液ジェット加工とは、ノズルから電解液を工作物(いわゆるワーク)に向けて噴出し、ノズルを陰極、工作物を陽極として電圧を印加することによって、工作物を電解溶出させる加工法である。この加工法は化学的加工方法であるため、加工変質層や残留応力、クラック、バリが発生しないという、熱的加工や機械的加工にはない利点を持っている。また、加工量は電気量によって決定されるため、工作物とノズル間のギャップ調節が不要であるという特徴も有している(下記非特許文献1及び特許文献1参照)。電解液ジェット加工では、極性を反転させることにより、工作物への付着加工を行うこともできる。
【0003】
特許文献1の技術では、電解液を細径のノズルからワークに噴射することで、電解液ジェットを得ている。そして、ノズルを走査することで、所望の形状に工作物を加工することができる。
【0004】
しかしながら、特許文献1の技術では、ノズルを走査する必要があるために、加工時間が長くなる傾向がある。
【0005】
また、特許文献1の技術において工作物を電解溶出させた場合、ノズルが詰まりやすいという問題もある。工作物を電解溶出させた場合には、ノズル側の電極に付着物が発生し、この付着物が電解液の流路をふさぐことがあるためである。
【0006】
特許文献2の技術では、ノズルの開口を、断面視して細長い略矩形状に形成した。これにより、フィルム状あるいはシート状というべき幅広の電解液の流れを得ることができる。この技術によれば、幅広のフィルム状電解液ジェットを得ることができるので、細径のノズルを走査する技術に比較して、加工時間の短縮が期待できる。
【0007】
しかしながら、特許文献2のような、断面視して細長い形状の吹出口(つまりノズル開口)をもつノズルを形成することは容易ではない。つまり、この技術では、ノズル作製のコストが高くなりがちであるという問題がある。
【0008】
また、特許文献2のノズル吹出口では、一方向の幅は広いものの、これと交差する方向での幅(つまりジェットの厚さ)は狭くすることが通常である。このため、この技術でも、ノズルの詰まりを生じやすいという問題は残っている。
【0009】
さらに、特許文献2の技術において、ノズル開口形状を、直線ではなくて曲線にする場合には、ノズル作製の難易度が増大して、その作成コストが増加することになる。しかも、この技術では、一旦製造したノズルの開口形状を事後的に変更することは難しいので、必要なノズル開口形状に応じて、複数のノズルをあらかじめ準備する必要がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】米田康治,国枝正典:電解液ジェット加工における加工形状シミュレーション,電気加工学会誌,Vol.29,No.62(1995),pp.1-8
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2006−55933号公報
【特許文献2】特開2011−110641号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、前記した課題に対応してなされたものである。本発明の第1の目的は、フィルム状の電解液ジェットを簡易な構成で得ることができる、電解液ジェット加工技術を提供することである。
【0013】
本発明における第2の目的は、電解液ノズルの詰まりを生じにくい電解液ジェット加工技術を提供することである。
【0014】
本発明における第3の目的は、加工形状の自由度が高い電解液ジェット加工技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前記した課題を解決する手段は、以下の項目のように記載できる。
【0016】
(項目1)
電解液ジェットを工作物に供給することによって前記工作物を電解加工するための電解液ジェット加工装置であって、
電解液ノズルと、当接面と、電源とを備えており、
前記電解液ノズルは、前記当接面に向けて電解液を放出する構成とされており、
前記当接面は、前記工作物とは電気的に絶縁された位置に配置されており、
かつ、前記当接面の少なくとも一端は、前記工作物に対して接近させられており、
さらに、前記当接面は、前記電解液ノズルから放出された前記電解液を受け止め、かつ、少なくとも前記一端の方向に向けて流出させることによって、略フィルム状の電解液ジェットを形成して、前記工作物に供給する構成とされており、
前記電源は、前記電解液と前記工作物との間に電流を流すことができる構成となっている
ことを特徴とする電解液ジェット加工装置。
【0017】
この項目の発明は、前記した第1の目的に対応している。この項目の発明によれば、当接面に電解液を当接させることにより、フィルム状の電解液ジェットを生成することができる。これにより、従来のような幅広吹出口を持つノズルの設置を省略することができる。
【0018】
(項目2)
前記電源は、前記当接面に給電することによって、前記電解液を介して、前記当接面と前記工作物との間に電流を流す構成となっている
項目1に記載の電解液ジェット加工装置。
【0019】
当接面を介して給電を行うことにより、工作物に対する電解加工を行うことができる。給電の極性を適宜に選択することにより、工作物に対する除去加工も、付着加工も可能である。工作物に対して除去加工を行った場合、従来の技術では、ノズル側電極に付着物を生じ、ノズルが詰まりやすいという問題がある。これに対して、この発明では、当接面から給電しているので、付着物によるノズルの詰まりを生じないという利点がある(第2の目的に対応)。
【0020】
(項目3)
前記当接面は、湾曲面とされている、項目1又は2に記載の電解液ジェット加工装置。
【0021】
当接面の形状には自由度が高いので、フィルム状電解液ジェットの断面形状の自由度を高めることができる(第3の目的に対応)。
【0022】
(項目4)
前記当接面は、当接板の表面に形成されている
項目1〜3のいずれか1項に記載の電解液ジェット加工装置。
【0023】
(項目5)
前記当接板は、支持体の表面に当接されることによって、前記支持体によって支持されている
項目4に記載の電解液ジェット加工装置。
【0024】
支持体の表面形状を適宜に設計することにより、所望の当接面形状を容易に形成することができる。
【0025】
(項目6)
前記電解液ノズルから放出される前記電解液の方向と、前記当接面とのなす角度αは、0≦α≦90°とされている
項目1〜5のいずれか1項に記載の電解液ジェット加工装置。
【0026】
角度αを小さくすることにより、一方向に進む電解液フィルムの厚さを薄くすることが可能となる。また、電解液フィルムの幅方向両端に現れる膨出部の断面積を小さくすることができると期待される。
【0027】
(項目7)
前記当接面は、錐体状の当接体における傾斜した側面によって形成されており、
前記錐体状の当接体の軸線方向は、前記電解液ノズルから放出される前記電解液の放出方向とほぼ平行とされている
項目1〜6のいずれか1項に記載の電解液ジェット加工装置。
【0028】
(項目8)
前記当接面の一部が絶縁体とされている
項目1〜7のいずれか1項に記載の電解液ジェット加工装置。
【0029】
(項目9)
項目1〜8のいずれか1項に記載の電解液ジェット加工装置を用いて電解液ジェット加工を行うことを特徴とする、電解液ジェット加工方法。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、第1に、フィルム状の電解液ジェットを簡易な構成で得ることができる電解液ジェット加工技術を提供することが可能となる。第2に、ノズルの詰まりが生じにくい電解液ジェット加工技術を提供することが可能となる。第3に、加工形状の自由度が高い電解液ジェット加工技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】本発明の一実施形態における電解液ジェット加工装置の全体的な構成を示す説明図である。
図2図1の電解液ジェット加工装置における当接面付近を、図1中左方向から見た拡大図である。
図3】実施例1の加工装置により加工された工作物の平面形状を示す写真である。
図4】変形例1の加工装置における当接面付近を示す概略的な参考図である。
図5】変形例2の加工装置における当接面付近を示す概略的な参考図である。
図6】変形例3の加工装置における当接面付近を示す概略的な参考図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の一実施形態に係る電解液ジェット加工装置(以下、「加工装置」と略称することがある)について説明する。
【0033】
(電解液ジェット加工装置の構成)
本実施形態の加工装置は、図1に示すように、電解液ノズル1と、当接板2と、電源3とを備えている。さらに、この加工装置は、支持体4と、コンプレッサ5と、圧力タンク6と、テーブル7と、マシニングタンク8と、配管9と、レギュレータ10とを備えている。
【0034】
電解液ノズル1は、圧力タンク6から配管9を介して送られた電解液100を、工作物Wに向けて放出する構成とされている(図1及び図2参照)。電解液としては従来の電解液ジェット加工と同様のものを用いることができるので、これについての詳しい説明を省略する。電解液ノズル1から放出される電解液の方向と、当接板2の当接面(後述)とのなす角度αは、この実施形態では、0≦α≦90°の範囲内から適宜に選択されている。
【0035】
当接板2の表面には、当接面21が形成されている。当接板2は、支持体4の表面に当接されることによって、支持体4によって支持されている。より具体的には、支持体4の外周面は円筒面とされており、当接板2は、この円筒面により支持されることによって、断面円弧状に湾曲された形状となっている。これにより、本実施形態では、当接面21が、断面円弧状に湾曲された円筒面とされている。
【0036】
当接面21は、工作物Wからわずかに上方に離間した位置に配置されている(図1及び図2参照)。さらに、これらの図から明らかなように、当接面21の下端(すなわち一端)22は、工作物Wに対して接近させられている。
【0037】
さらに、当接面21は、電解液ノズル1から放出された電解液100を受け止め、かつ、少なくとも当接面21の一端22の方向(本例では図中下端の方向)に向けて流出させる。これにより、本実施形態の当接面21は、略フィルム状の電解液ジェット11を形成して、工作物Wに供給する構成となっている。ここで、電解液ジェット11は、電解液100によって形成されるものであるが、この明細書では、当接面21の作用によってフィルム状ジェットとされた電解液を電解液ジェット11と称し、それ以前の段階の電解液を電解液100と称することによって、両者を区別する。
【0038】
電源3は、電解液ジェット11と工作物Wとの間に電流を流すことができる構成となっている。より具体的には、電源3の負極には、配線31の一端が電気的に接続され、電源3の正極には、配線32の一端が電気的に接続されている。そして、配線31の他端は当接面21に電気的に接続され、配線32の他端は工作物Wに電気的に接続されている。
【0039】
電源3としては、本実施形態では、直流の定電流源又は定電圧源を用いることができる。また、工作物側を正極とする例は、工作物を除去加工するためのものであり、工作物側を負極とすることにより、工作物への付着加工も可能である。また、例えば電解研磨加工などの目的のために、電源3として交流電源を用いることもできる。さらに、電源3としては、様々な加工パターンを得るために、スイッチング回路を用いて、電流の供給を自在にオンオフできる構成であってもよい。
【0040】
支持体4は、前記したように、本実施形態では円柱状に形成されており、その外周面は円筒面とされている。また、支持体4は、回動軸41を中心として正逆方向へ回動できるようになっている。これにより、この実施形態では、支持体4を所望の角度で傾斜させることができるようになっている。図1においては、加工物Wの加工面(本例では水平面となっている)に対する法線方向からの傾斜角度を、符号θで表している。
【0041】
コンプレッサ5は、レギュレータ10と配管51を介して圧力タンク6へ、圧縮された気体(通常は空気)を供給する構成となっている。
【0042】
圧力タンク6は、電解液100を収容するとともに、圧縮気体によって加圧された電解液100を電解液ノズル1に供給する構成となっている。
【0043】
テーブル7は、工作物Wを上面に載置するものである。本例では、工作物Wの加工表面を水平方向に沿って配置しているが、加工目的に応じて、適宜な方向に傾斜させて配置することは可能である。
【0044】
マシニングタンク8は、電解液ノズル1から当接面21(つまり工作物W)に向けて放出された電解液100を内部に収容する構成となっている。マシニングタンク8は、放出された電解液100を外部に送り出すためのドレイン部81を備えている。
【0045】
(本実施形態の動作)
以下、本実施形態の動作について説明する。
【0046】
本実施形態では、圧力タンク6内の気体の圧力を利用して、電解液ノズル1から当接面21に向けて、電解液100を連続的に噴射する。噴射された電解液100は、当接面21に衝突して、当接面21の形状に沿って薄膜状に広がる。さらに、電解液100は、それ自体に与えられた運動エネルギー及び重力の作用により、当接面21の一端(本例では下端)から工作物Wに向けて勢い良く流出する。本例では、このように流出した電解液100によって、フィルム状の電解液ジェット11を生成することができる。生成された電解液ジェット11は、工作物Wの表面に連続的に衝突することになる。工作物Wの表面に衝突した電解液は、この表面上において、衝突部分から外側方向に薄く広がった後、高く盛り上がる。このような拡散及び隆起現象を「跳水現象」と呼ぶ。また本明細書では、高く盛り上がった部分を跳水部と呼ぶことにする。この跳水部より内側の、衝突地点に近い拡散部分の領域を利用して、電流密度を加工部分に集中させて、加工効率を向上させることができる。跳水現象については従来から知られているので、これについての詳しい説明は省略する。
【0047】
一方、電源3によって、当接面21と工作物Wとの間に、電解液ジェット11を介して電圧を印加する。電圧の極性は、すでに述べたように、工作物Wの除去を行う場合には、当接面21側をマイナス、工作物W側をプラスとし、工作物Wの表面に電着物の付着を行う場合には、当接面21側をプラス、工作物W側をマイナスとする。なお、本実施形態における加工とは、「電解による工作物の除去」と「工作物への電着物の付着」との両方を含む概念として用いられている。
【0048】
本実施形態の装置では、前記のようにして、工作物Wの領域Pへの加工(たとえば溝加工)を行うことができる。ここで、本実施形態の装置では、当接面21を用いて、フィルム状の電解液ジェットを生成することができるので、断面円形の細径ジェットを走査する場合に比較して、工作物Wへの加工時間を短縮できるという利点がある。ただし、この利点は、電解液ジェットの断面積にほぼ比例して、電源3から供給する電流が増えることを前提にしている。つまり、領域P上での電流密度が適正な範囲で一定値を保つようにトータルの電流を増やせば、断面積の大きさに関わらず、溝加工の進行速度は一定となる。このような制御は、断面積に比例してトータルでの設定電流を増加させるという定電流加工を行うことにより実現可能である。あるいは、当接板の一端22と工作物Wとのギャップ(距離)が一定であるならば、定電圧電源を用いた加工を行うことによって、自動的に電流は断面積に比例して増加する。
【0049】
また、本実施形態の装置では、当接面21を湾曲面としているので、フィルム状電解液ジェットの断面形状を湾曲させることができる。このため、本実施形態では、この湾曲形状に沿った加工を行うことができる。ここで、ノズル開口形状を湾曲状に形成することは困難であるが、本実施形態では、前記したような簡易な構成により、断面湾曲状の電解液ジェットを生成することができるという利点がある。なお、当接面21の形状は、前記実施形態では断面円弧状(つまり円筒面状)としたが、断面楕円状、長円状、波状(たとえば正弦波状)、鋸刃状など、適宜な形状とすることができる。
【0050】
さらに、本実施形態では、当接面21の形状の自由度が高いので、電解液ジェットの断面形状の変更が容易である。しかも、本実施形態では、支持体4の表面に沿って当接板2を配置し、それによって当接面21の形状を設定できるので、電解液ジェットの曲率半径の変化などの必要な変形に迅速かつ簡易に対応できるという利点もある。
【0051】
さらに、従来の電解加工装置において工作物の除去加工を行うと、付着物によってノズルが詰まりやすいという問題があった。これに対して、本実施形態では、電解液ノズル1よりも下流側に配置された当接面21に給電するので、ノズルつまりという問題を原理的に生じないという利点がある。本実施形態では、当接面21に付着物を生じることになるが、当接面21の面積は広く、また、電解液と一緒に付着物が落下することも多いので、当接板2を交換あるいは研磨する頻度は低く抑えることが可能である。
【0052】
また、本実施形態では、電解液ノズル1よりも下流側にある当接面21に給電するので、電解液ノズル1に給電する場合よりも、電解液(ジェットの状態を含む)による電圧降下を低く抑えることができる。すなわち、電解液ノズル1あるいはその上流側に電極を配置した場合には、工作物Wまでの電解液の流路が長くなり、その分、電圧降下が大きくなるため、電源電圧を高くする必要が生じる。これに対して、本実施形態では、電解液ジェット11への給電箇所(具体的には当接面21の下端)が工作物Wに近いため、その間での電圧降下を低く抑えることができ、電源電圧を小さくすることが可能になるという利点がある。
【0053】
さらに、本実施形態では、支持体4を、回動軸41を中心として回動可能としたので、工作物Wに対する電解液ジェット11の傾斜角を容易に変更することができる。ここで、電解液ジェット11を工作物Wの表面に対して傾斜させた場合には、傾斜方向に延長された加工端面、加工溝あるいは加工穴を容易に形成することができるという利点がある。
【0054】
また、本実施形態では、円筒状に湾曲された当接板2を、その軸線方向が工作物Wの表面に対して傾斜するように配置することができる。すると、当接板2の下端における幅方向の両端と、工作物Wの表面との距離を大きくすることができる。仮に当接板2の下端が工作物Wと平行である場合、工作物Wの表面に吹き付けられた電解液ジェットの跳水現象で生じた跳水部と当接板2とが導通してしまうおそれがある。その場合には、加工部分への電流密度が減って、工作物Wの加工効率が劣化するという不都合を生じる。これに対して、本実施形態では、このような問題が発生する確率を低く抑えることができる。
【0055】
さらに、本実施形態では、電解液ノズル1から放出される電解液100の方向と、当接面21とのなす角度αを、0≦α≦90°の範囲で変化させることにより、電解液ジェットの膜厚や幅を制御することが可能である。また、このような角度αの変化により、得られる電解液ジェットの幅方向両端における丸み部分(膨出部)の面積を小さくすることも可能になる。この丸み部分については後述する。
【0056】
(実施例1)
前記した実施形態の装置を用い、下記表1の条件下で電解加工を行った。
【0057】
【表1】
【0058】
ここで「助走距離」とは電解液ノズル1から吹き付けられた電解液が当接面21に衝突する位置から、当接面21の下端22(つまり電解液ジェットの流出位置)までの距離である。また、表1における「ノズルの傾き」とは前記における角度αを意味する。なお、表1の条件はあくまで一例であり、加工目的に応じて種々の変更が可能である。
【0059】
その結果を図3に示す。このとき、当接面の曲率半径は17.5mm、圧力タンク内の圧力は0.3MPaとした。このときの溝幅は、中央部で約0.3mm、右端部で約0.4mmであった。
【0060】
図3に示す写真から明らかなように、本実施形態によれば、湾曲した、細幅の溝あるいは穴を形成することができる。ここで、加工により形成された溝の両端に丸み部(膨出部)が形成されている。これは、生成された電解液ジェットが、それ自体の表面張力によって丸くなるためであると推測される。この丸み部が不都合な場合には、工作物Wを適宜にマスキングすればよい。
【0061】
なお、本発明は、前記した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変更を加え得るものである。
【0062】
例えば、前記実施形態では、湾曲された当接板の凸面を当接面としたが、その裏側の凹面を当接面とすることもできる。また、前記した傾斜角θ及びαのいずれについても適宜に変更可能である。
【0063】
さらに、前記実施形態では、当接面21と加工物Wとを離間させているが、加工に支障のない限り、絶縁体(たとえば加工部分の周囲を覆うマスキング材料)を挟んで両者を接触させることは可能である。要するに、当接面21と加工物Wとは、電解液ジェットが流れていない状態において、電気的に絶縁されている状態であればよい。
【0064】
以下に、前記した実施形態の変形例を示す。なお、これらの変形例も、本発明の範囲に含まれる。
【0065】
(変形例1)
前記した傾斜角α=0°とした例を図4に示す。この例では、電解液ノズル1から吹き出す電解液100の方向(より具体的には電解液ノズル1の軸線方向)と、当接面21の延長方向とが平行となっている。この例においても、電解液がその自重や当接面21との濡れ性により当接面21上で拡散するために、フィルム状の電解液ジェットを形成することが可能である。なお、図4中の当接面21は平坦面とされているが、湾曲面その他の任意形状とすることは可能である。
【0066】
(変形例2)
前記した当接板2に代えて、円錐体状の当接体200を用いた例を図5に示す。この例は、当接面21が、当接体200における傾斜した側面(円錐面)によって形成されている。円錐体状の当接体200の軸線方向は、電解液ノズル1から放出される電解液100の放出方向とほぼ平行とされている。
【0067】
この例では、工作物Wの表面を、マスク300により覆っている。また、工作物Wには、円錐面状の電解液ジェットが工作物Wに衝突した後に円錐面の内側の工作物表面上を中心に向かって集まってくる電解液を落下させるための貫通孔400が形成されている。
【0068】
この構成によれば、電解液ジェットの断面は円環状であり切れ目がないので、前記した丸み部(膨出部)のない加工溝を形成できるという利点がある。また、円環が途中で切れた円弧状の溝を加工したい場合は、マスク300を用いればよい。また、この例では、中心に向かう電解液を落下させる貫通孔400を形成したので、中心に向かった電解液で形成される跳水部が当接体200に接触するという不都合を避けることができる。なお、図5においては、加工対象の領域Pとマスク300とに斜線を付している。
【0069】
さらに、当接体200は、支持具201により支持されている。
【0070】
なお、この変形例では、当接体を円錐形状としたが、角錐形状とすることも可能である。
【0071】
なお、前記以外の構成及び利点は前記した実施形態と同様なので、同一符号を付することにより、詳しい説明を省略する。
【0072】
(変形例3)
前記した変形例2において、当接面21の一部(図6において斜線部分)を絶縁体210とした例を、図6に示す。また、この例では、マスクの配置を省略している。この変形例3によれば、絶縁体210の形状に応じて、工作物Wの加工位置を決定できるので、マスクの配置を省略しても、所望範囲において溝を形成できる。
【0073】
なお、前記以外の構成及び利点は前記した変形例2と同様なので、同一符号を付することにより、詳しい説明を省略する。
【符号の説明】
【0074】
1 電解液ノズル
2 当接板
3 電源
4 支持体
5 コンプレッサ
6 圧力タンク
7 テーブル
8 マシニングタンク
9 配管
10 レギュレータ
11 電解液ジェット
21 当接面
22 当接面の一端
31 配線
32 配線
41 回動軸
51 配管
81 ドレイン部
100 電解液
200 当接体
201 支持具
210 絶縁体
300 マスク
400 貫通孔
W 工作物
θ 工作物表面への法線に対する、支持体の傾斜角
α 当接面に対する電解液ノズルの傾斜角
P 加工対象の領域
図1
図2
図4
図5
図6
図3