特許第6099309号(P6099309)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6099309幅広い分子量分布を有するテレケリックポリマーの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6099309
(24)【登録日】2017年3月3日
(45)【発行日】2017年3月22日
(54)【発明の名称】幅広い分子量分布を有するテレケリックポリマーの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 297/06 20060101AFI20170313BHJP
   C09J 133/08 20060101ALI20170313BHJP
   C09J 133/10 20060101ALI20170313BHJP
【FI】
   C08F297/06
   C09J133/08
   C09J133/10
【請求項の数】19
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2011-535945(P2011-535945)
(86)(22)【出願日】2009年10月6日
(65)【公表番号】特表2012-508311(P2012-508311A)
(43)【公表日】2012年4月5日
(86)【国際出願番号】EP2009062931
(87)【国際公開番号】WO2010054896
(87)【国際公開日】20100520
【審査請求日】2012年9月12日
【審判番号】不服2014-24240(P2014-24240/J1)
【審判請求日】2014年11月28日
(31)【優先権主張番号】102008043662.3
(32)【優先日】2008年11月12日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】391008825
【氏名又は名称】ヘンケル・アクチェンゲゼルシャフト・ウント・コムパニー・コマンディットゲゼルシャフト・アウフ・アクチェン
【氏名又は名称原語表記】Henkel AG & Co. KGaA
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100099483
【弁理士】
【氏名又は名称】久野 琢也
(74)【代理人】
【識別番号】100182534
【弁理士】
【氏名又は名称】バーナード 正子
(72)【発明者】
【氏名】スヴェン バルク
(72)【発明者】
【氏名】ホルガー カウツ
(72)【発明者】
【氏名】ゲルト レーデン
(72)【発明者】
【氏名】ラース ツァンダー
(72)【発明者】
【氏名】イェンス リュカート
(72)【発明者】
【氏名】ヨハン クライン
(72)【発明者】
【氏名】トーマス メラー
(72)【発明者】
【氏名】フォルカー エアプ
【合議体】
【審判長】 小柳 健悟
【審判官】 守安 智
【審判官】 大島 祥吾
(56)【参考文献】
【文献】 特表2001−520282(JP,A)
【文献】 Rodrigo Paris et al.,Synthesis of crosslinkable ABA triblock copolymers based on allyl methacrylate by atom transfer radical polymerization,European Polymer Journal,2008年 2月15日,vol.44,p.1403−1413
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F293/00,297/00
C08F,C09J
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続的に実施される原子移動ラジカル重合(ATRP)により、二官能性の開始剤を使用してモノマーAおよびBから組成ABAのブロックコポリマーを製造する方法において、前記二官能性の開始剤の第一の部を、反応開始のためにモノマーBを含有する重合溶液に添加し、その後、第二の部を60分〜6時間の供給時間tに亘って連続的に添加し、重合時間tでさらに重合させ、かつBのブロックを合成するためのモノマー混合物が少なくとも90%反応した重合時間tの後でモノマー混合物Aを添加し;前記二官能性の開始剤の官能基とは異なる官能基を有する適切な硫黄化合物の添加により、同時にハロゲン原子がポリマー鎖の末端で除去され、ATRP触媒が沈殿し、かつポリマー鎖の末端前記硫黄化合物により官能化され;かつ前記ブロックコポリマーが総じて1.8より大きい多分散性指数を有する分子量分布を有することを特徴とする、組成ABAのブロックコポリマーの製造方法。
【請求項2】
開始剤を2つのバッチにして添加し、その際、第一の開始剤バッチは、全開始剤量の10質量%〜60質量%であり、かつ重合の開始時に回分式で添加され、かつ第二の開始剤バッチを第一の開始剤バッチの添加直後に一定の供給速度で系に計量供給することを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項3】
第一の開始剤バッチが、全開始剤量の20質量%〜40質量%であることを特徴とする、請求項2記載の方法。
【請求項4】
硫黄化合物が、その官能基として、酸基、ヒドロキシ基、シリル基、アリル基またはアミノ基を有することを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項5】
硫黄化合物の添加により、鎖の末端が少なくとも75%まで官能化されることを特徴とする、請求項記載の方法。
【請求項6】
ブロックコポリマーが、ポリアクリレート、ポリメタクリレートであるか、アクリレートとメタクリレートとからなるコポリマーであることを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項7】
ブロックコポリマー、または1もしくは複数のポリマーブロックが、さらに付加的な官能基を有するアクリレートおよび/またはメタクリレートを含有していることを特徴とする、請求項記載の方法。
【請求項8】
ブロックコポリマー、または1もしくは複数のポリマーブロックが、さらにビニルエステル、ビニルエーテル、フマル酸エステル、マレイン酸エステル、スチレン、アクリロニトリルまたはその他のATRPにより重合可能なモノマーを含有していることを特徴とする、請求項記載の方法。
【請求項9】
ブロックコポリマーが、5000g/モル〜100000g/モルの数平均分子量を有することを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項10】
ブロックコポリマーが、7500g/モル〜50000g/モルの数平均分子量を有することを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項11】
ブロックAは、単峰性の分子量分布を有するコポリマーであり、ブロックBは、多分散性指数が1.8より大きい単峰性の分子量分布を有するコポリマーであり、その際、モノマーは、(メタ)アクリレートであるか、または(メタ)アクリレートの混合物であってよいことを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項12】
第二の開始剤バッチの供給を、重合溶液へのモノマー混合物Aの添加の少なくとも60分前に終了することを特徴とする、請求項2記載の方法。
【請求項13】
第二の開始剤バッチの供給を、重合溶液へのモノマー混合物Aの添加の少なくとも90分前に終了することを特徴とする、請求項12記載の方法。
【請求項14】
請求項11記載の方法により得られたABAトリブロックコポリマーにおいて、鎖の末端は少なくとも75%が、ハロゲン原子ではない官能基を有しており、かつABAトリブロックコポリマーの多分散性指数が1.8より大きいが、しかしブロックBの多分散性指数より小さく、単峰性の分子量分布を有するブロックAと、多分散性指数が1.8より大きい、単峰性の分子量分布を有するブロックBとを含んでおり、その際、モノマーは、(メタ)アクリレートまたは(メタ)アクリレートの混合物から選択されることを特徴とする、ABAトリブロックコポリマー。
【請求項15】
ブロックAは、多分散性指数が1.6より小さい単峰性の分子量分布を有することを特徴とする、請求項14記載のABAトリブロックコポリマー。
【請求項16】
鎖の末端の少なくとも85%が、ハロゲン原子でない官能基を有していることを特徴とする、請求項14記載のブロックコポリマー。
【請求項17】
溶融接着剤、流動性の接着剤、感圧接着剤、弾性シーラント、被覆剤または発泡材料前駆体を製造するための請求項14記載のコポリマーの使用。
【請求項18】
ヒートシール材料を製造するための請求項14記載のコポリマーの使用。
【請求項19】
請求項14記載のコポリマーであって、ブロックコポリマーが反応性の官能基を有しているコポリマーの、架橋可能な組成物中での使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、(メタ)アクリレートをベースとし、幅広い単峰性の分子量分布を有するテレケリックポリマー(テレケル(Telechelen))を製造するための制御された重合法、ならびに接着剤またはシーラント中での結合剤としての該テレケリックポリマーの使用に関する。定義された組成、鎖長、分子量分布等を有するテーラーメイドコポリマーは、1つの幅広い研究分野である。特に勾配ポリマーとブロックポリマーとが区別される。このような材料については種々の適用が考えられる。以下ではそのいくつかを手短に紹介する。ポリマーはたとえばイオン重合法により、または重縮合もしくは重付加により製造することができる。これらの方法では、末端基が官能化された生成物の製造には問題がない。しかしその際、適切な分子量の構築が問題である。
【0002】
ラジカル重合法により得られるポリマーは、明らかに1.8を越える分子量分布の指数を示す。つまりこのような分子量分布の場合、必然的に極めて短鎖のポリマーと長鎖のポリマーとが全生成物中に存在する。短鎖のポリマー鎖は、長鎖の成分と比較して、溶融液または溶液中で低い粘度を示し、かつポリマーマトリックス中では高い移動度を示す。これは一方では、このようなポリマーの改善された加工性につながり、他方ではポリマー材料または被覆中のポリマー結合された官能基の利用性の向上につながる。これに対して長鎖の副生成物は、ポリマー溶融液もしくは溶液の過度の増粘につながる。マトリックス中でのこのようなポリマーの移動もまた明らかに低減される。
【0003】
しかし、遊離基により製造されたこの種の結合剤の欠点は、ポリマー鎖中での官能基のランダムな分布である。さらにラジカル重合法により硬質・軟質・硬質のトリブロック構造も、狭い分子量分布での個々のポリマーブロックの適切な合成も不可能である。
【0004】
リビング重合法または制御された重合法として、アニオン重合または基移動重合以外に、制御されたラジカル重合、たとえばRAFT重合の現代の方法も適切である。ATRP法(atom transfer radical polymerization)は、1990年代にMatyjaszewski教授によって決定的に開発された(Matyjaszewski等、J.Am.Chem.Soc.、1995、117、第5614頁;WO97/18247;Science、1996、272、第866頁)。ATRPは、Mn=10000〜120000g/モルの分子量範囲の狭く分布した(ホモ)ポリマーを提供する。この場合の特別な利点は、分子量の制御が可能なことである。リビング重合として、さらに、ポリマー構造、たとえばランダムコポリマーまたはブロックコポリマー構造の適切な構築が可能である。制御されたラジカル法は、特にビニルポリマーの適切な官能化のためにも適切である。特に興味深いのは、鎖の末端(いわゆるテレケリックポリマー)もしくは鎖の末端近くでの官能化である。これに対して、ラジカル重合の場合には、鎖の末端での適切な官能化はほぼ不可能である。
【0005】
定義されたポリマーデザインを有する結合剤は、制御された重合法、たとえば原子移動ラジカル重合の形での重合法により提供することができる。たとえば、官能化されていないBブロックと、官能化された外側のAブロックとを有するABAトリブロックコポリマーが記載されている。EP1475397には、OH基を有するこのようなポリマーが記載されており、WO2007/033887には、オレフィン性のもの、WO2008/012116にはアミン基を有するもの、およびまだ公開されていないDE102008002016には、シリル基を有するものが記載されている。しかし、これらの文献に記載されているポリマーはすべて極めて狭い分子量分布を有している。
【0006】
上記の制御された重合法については、適切な幅の分子量分布を有する単独の、もしくは複数のブロックを有するポリマーを製造することができる方法は記載されていない。
【0007】
すでに確立された方法は、オレフィン基によるポリ(メタ)アクリレートの末端基官能化およびその後の該基のヒドロシリル化である。このような方法は、特にEP1024153、EP1085027、およびEP1153942に記載されている。しかしこれはブロックコポリマーではなく、生成物の分子量分布は1.6より小さいことが明示されている。複数官能化された外側ブロックを有するポリマーに対するこのような生成物のもう1つの欠点は、片側が官能化されていない生成物が得られる可能性が高いことである。本発明によるポリマーに対してそのつど得られる低い官能化の度合いによって、その後の反応、たとえばシーラントの硬化過程で低い架橋度が生じ、これにより機械的安定性および化学的抵抗性が損なわれる。
【0008】
テレケリックポリマーおよびブロック構造以外に、ATRP合成された、たとえばシリル含有の、ランダムな分布と狭い分子量分布とを有する(メタ)アクリレートコポリマーは1つの代替案である。このような結合剤の欠点は、編み目の狭い架橋である。このような結合剤系もまた、分子量分布が狭いことに基づいて、系中で得られるポリマー鎖が特に長いか、もしくは特に短いという利点を有してはいない。
【0009】
官能化されたポリマー構造を合成するためには、ATRP以外の他の方法も使用される。別の関連する方法を以下に手短に記載する。その際、本発明との区別は生成物ならびに方法に関して行う。この場合に特に他の方法に対するATRPの利点が明らかになる:
アニオン重合の場合、複峰性が生じうる。しかしこれらの重合法は、特定の官能化を生じることができるにすぎない。ATRPについては、系に関する複峰性の分布が記載されている。しかし、これらのポリマーの複峰性はそのつど、一方ではブロックコポリマーの存在により、および他方では未反応のマクロ開始剤の存在により生じる。この方法の欠点は、2種類の異なったポリマー組成物の混合物からなる生成物が生じることである。
【0010】
課題
開発の新しい段階は、以下に記載するテレケリックポリマーである。テレケリックポリマーとは、正確に両方の鎖末端に同一の官能基を有するポリマーであると理解する。本発明の意味で、これは鎖の末端の少なくとも75%に、有利には少なくとも85%にこれらの官能基を有するポリマーである。課題は、合計して少なくとも1.8の多分散性指数を有するテレケリックポリマーを合成する方法を提供することであった。
【0011】
本発明の1の実施態様では、ポリ(メタ)アクリレートからなる構造ABAのテレケリックなトリブロックポリマーを合成する方法を提供することが課題であった。その際、これらのポリマーは、1.6未満の狭い分子量分布を有するAブロックと、一方では長いポリマー鎖を有し、かつ他方では特に短いポリマー鎖を有する単峰性の、幅広い分子量分布を有するBブロックとからなるべきである。特に、単峰性の幅広い分子量分布を有するBブロックが、少なくとも1.8の多分散性指数を有するABAトリブロックコポリマーであって、このABAトリブロックコポリマーが、合計して少なくとも1.8の多分散性指数を有するBブロックを有するABAトリブロックコポリマーであるものに対する要求が存在する。その際、ABAトリブロックコポリマーは、組成ACBCAもしくはCABACのペンタブロックコポリマーと同視できる。EP1637550には、熱可塑性エラストマー中で使用するためのMMA−nBA−MMA−トリブロックコポリマーの合成が記載されている。当業者には、このような材料が、せいぜい全てのブロック中で極めて狭い分子量分布を有することが公知である。Paris等(European Polymer Journal、44、5、第1403〜13頁、2008年)には、アリルメタクリレートからなるAブロックを有するトリブロックコポリマーが紹介されている。ここでは、Bブロックが、単峰性の狭い分子量分布を有しており、他方、Aブロックが、複峰性で、幅広く、かつ分岐している。WO99/20659では、一方では2.5より小さい全分布を有するポリマーが、および他方では、トリブロックコポリマーが指摘されているが、幅広く分布したトリブロックコポリマーの合成についての教示もしくはそのようなポリマー自体は記載されていない。
【0012】
並行して本発明の課題は、官能化の方法工程によって、大工業的に実現可能な、ポリマー溶液からの遷移金属錯体の分離法を提供することであった。同時に新規の方法は安価に、かつ迅速に実施可能であるべきである。もう1つの課題は、すでに濾過工程の後で、遷移金属錯化合物の低い残留濃度を実現することであった。
【0013】
解決手段
前記課題は、原子移動ラジカル重合(ATRP)に基づいた新規の重合法を提供することにより解決された。前記課題は特に、比較的長い時間に亘る開始により、より正確には開始剤の供給と、適切な硫黄化合物の添加による重合の中断によって解決された。
【0014】
原子移動ラジカル重合(ATRP)であって、二官能性の開始剤を重合溶液に添加し、、かつ(メタ)アクリレートポリマーが、1.8より大きい多分散性指数を有することを特徴とする、(メタ)アクリレートポリマーの製造方法を提供する。
【0015】
さらに、適切な二官能性硫黄化合物を添加することにより重合を中断する方法を提供する。この場合、適切な硫黄化合物を選択することにより、それぞれの鎖の末端が官能化される。同時に末端においてハロゲン原子がポリマーから除去され、かつ重合のために必要とされる遷移金属がほぼ完全に沈殿する。これを引き続き濾過によって簡単に分離することができる。
【0016】
本発明の1つの変法では、1.8より大きい多分散性指数を有するテレケリックなABAトリブロックコポリマーを合成する方法であって、連続的に実施される原子移動ラジカル重合(ATRP)であり、二官能性の開始剤が重合溶液に添加され、かつブロックコポリマーが総じて、およびBのタイプのブロックが1.8より大きい多分散性指数を有することを特徴とする方法を提供する。連続的な重合法を選択することにより、この方法はブロック構造を有していないポリマーを製造する方法に相応する。第二のモノマー混合物Aの添加、および場合によりその後の、時間をずらしたモノマー混合物Cの添加により、ABAトリブロックコポリマー、もしくはCABACペンタブロックコポリマーが構築される。重合の開始、中央のブロックBの重合、および適切な硫黄化合物の添加による重合の中断も、ブロック構造を有していないポリマーの製造と同様に行われる。従って、両方の構造は、以下の記載を鑑みて、同一であるとみなすことができる。開始は、開始剤の部分量によって開始され、かつその後、開始剤の第二の量が連続的に計量供給される。
【0017】
ブロックコポリマーは、連続的な重合法により製造される。これはつまり、たとえばAのブロックを合成するためのモノマー混合物を、たとえばBのブロックを合成するためのモノマー混合物が少なくとも90%、有利には少なくとも95%反応した重合時t2の後で初めて系に添加することを意味している。この方法により、Bブロックは組成Aのモノマーを含有しておらず、かつAブロックは組成Bのモノマーの全量の10%未満、有利には5%未満を含有することが保証される。この定義によればブロックの境界は、添加されるモノマー混合物(この場合は混合物A)の第一の繰返単位が存在する鎖のそれぞれの箇所に存在している。95%にすぎない反応率は、残留するモノマーが、特にアクリレートの場合には、第二のモノマー組成物、特にメタクリレート組成物の重合への効率的な移行を可能にするという利点を有している。この方法で、ブロックコポリマーの収率が明らかに改善される。
【0018】
本発明による方法では、モノマー混合物もしくはブロックコポリマーに関してモノマー混合物Bを重合するための開始剤を、部分的にのみ、開始のために装入し、かつ残分を比較的長い時間に亘って重合溶液に計量供給する。第一のバッチにより重合が開始される。その際、第一の開始剤バッチは、全開始剤量の10%〜60%、有利には20%〜40%である。残りの開始剤量の供給と共にただちに、またはわずかに時間をずらして、発熱反応が現れた後に、しかし遅くとも10分後に開始する。所望される分子量に応じて変化しうる時間t1に亘って計量供給を行う。時間t1は、60分〜6時間、有利には90分〜3時間であってよい。供給終了後、第二のモノマー混合物AもしくはCの添加前に、重合時間t2でさらに重合させる。t2は、例として10000g/モル〜40000g/モルの所望の分子量に関しては5分〜6時間であり、有利には30分〜3時間であってよい。より高い分子量のためには、一貫してより長い重合時間が必要である。供給時間t1およびその後の重合時間t2を適切に選択することにより、Bブロックの最小の分子量および分子量分布の幅を適切に調整することができる。最初の開始の後での供給の迅速な開始によりさらに、単峰性の分子量分布を有するポリマーブロックBが得られることが保証される。このようにして、組成ABAのブロックコポリマーを迅速に構築するための組成Bのマクロ開始剤が形成される。これらのマクロ開始剤はそれ自体、1.8〜3.0、有利には1.9〜2.5の多分散性指数を有する分子量分布を有している。最後に、重合時間t2の後でモノマー混合物Aを添加する。ATRPの特性によりこの時点で、予め開始されていた組成Bの両方のポリマー種が重合に供され、かつポリマーブロックAが、ATRPのすでに公知の前提の下で構成される。ポリマー鎖のこれらのセグメントはそれ自体、狭い分子量分布を有している。その際、ペンタブロックポリマーの場合には、タイプCまたはDのブロックもまた相応して構成することができる。
【0019】
本発明のもう1つの利点はさらに、再結合が妨げられることである。たとえばこの方法により、特に高い分子量の形成を抑制することができる。このようなポリマー成分は、溶液粘度もしくは溶融粘度の過剰な上昇に貢献しうる。むしろ本発明により製造される、幅広く分散した単峰性のポリマーは、新たな種類のポリマー分布を有している。最初の開始のための開始剤の一部の装入によって、最も長い重合時間に供され、ひいては最終生成物中で最も高い分子量を有する鎖が形成される。従って、高い分子量に加えて、さらに制御された重合により製造されるポリマーの特性を有するポリマーが得られる。しかしこの分布は、低い分子量については、慣用のラジカル重合により製造された生成物に類似するか、もしくはそれより広い分子量分布の著しい広がりを示す。本発明により製造されたポリマーの全分子量分布は1.8より大きい多分散性指数を有する。本発明によれば、分子量の質量平均と数平均との商である多分散性指数は、分子量分布の不均一性に関する尺度として記載される。分子量はゲル透過クロマトグラフィー(GPC)によりPMMA標準液に対して測定される。
【0020】
本発明のもう1つの対象は、幅広い単峰性の分子量分布を鎖の末端に有するABA、CABAC、ACBCAもしくはCDBDCブロックコポリマーを適切に官能化することである。この課題は、ATRPが行われた後で適切な硫黄化合物を添加することにより遷移金属化合物が沈殿し、かつ同時にポリマーの鎖末端が官能化されることにより解決された。このようにして鎖末端は、少なくとも75%まで、有利には少なくとも85%までが官能化される。
【0021】
有利には本発明によれば、重合が中断された後に、または中断される間にポリマー溶液に添加される反応試薬は、硫黄を有機結合した形で含有している化合物である。特に有利には、遷移金属イオンもしくは遷移金属錯体を沈殿させるために使用されるこれらの硫黄含有化合物は、SH基および同時に第二の官能基を有している。特に有利にはこの二価の官能基は、ヒドロキシ基、酸基またはシリル基である。特に有利な化合物は、市場で容易に入手可能な、ラジカル重合において調節剤として使用される化合物である。これらの化合物の利点は、その入手しやすさ、安価であること、および沈殿試薬をその都度の重合系に最適に適合させることが可能である幅広い変更可能性があることである。しかし本発明はこれらの化合物に限定されるものではない。
【0022】
有機化合物として、特に有利には官能化されたメルカプタンおよび/またはその他の官能化された、または官能化されていない化合物であって、1もしくは複数のチオール基と、1もしくは複数の別の官能基を有し、かつ/または溶解条件下で相応するチオール基および/または1もしくは複数の別の官能基を形成することができる化合物が挙げられる。ヒドロキシ官能性の硫黄化合物は、たとえばメルカプトエタノール、メルカプトプロパノール、メルカプトブタノール、メルカプトペンタノールまたはメルカプトヘキサノールのような有機化合物であってよい。酸官能性の硫黄化合物はたとえば、チオグリコール酸またはメルカプトプロピオン酸のような有機化合物であってもよい。シリル官能性の硫黄化合物はたとえば、定着剤として工業的に重要性の高い市場で容易に入手可能な化合物であってよい。これらの化合物の利点は、その入手が容易であることと、価格が安価であることである。このような化合物の1例は、Evonik Industries社から名称DYNALYSAN(登録商標)MTMOで市販されている3−メルカプトプロピルトリメトキシシランである。その他の入手可能なシランは、3−メルカプトプロピルトリエトキシシランまたは3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシランである(ABCR社)。
【0023】
いわゆるα−シランは特に反応性である。これらの化合物では、メルカプト基とシラン基とが同一の炭素原子に結合している(つまりR1は、通常、−CH2−である)。このような種類の相応するシラン基は特に反応性であり、従って後の調製において幅広い適用範囲につながる。このような化合物の例は、メルカプトメチルメチルジエトキシシランである(ABCR社)。
【0024】
ラジカル重合では、調節剤の量は重合するモノマーに対して、多くの場合は0.05質量%〜5質量%であると記載されている。本発明では使用される硫黄化合物の量は、モノマーに対するものではなく、ポリマー溶液中の重合活性な鎖末端の濃度に対するものである。重合活性な鎖末端とは、ドーマントの鎖末端と、活性な鎖末端との合計を意味している。本発明による硫黄含有の沈殿剤は、この意味で1.5モル当量、有利には1.2モル当量、特に有利には1.1モル当量、およびとりわけ有利には1.05モル当量が使用される。残りの残留硫黄量は、その後の濾過工程の変更により容易に除去することができる。当業者には、記載のメルカプタンがポリマー溶液の添加の際に、重合の中断の間、または中断後に、記載の置換反応を例外として、ポリマーに対してそれ以上の影響を与えることができないことが容易に理解できることである。これは特に部分結晶質のポリマーおよびポリマー構造における分子量分布、分子量、追加の官能基、ガラス転移温度もしくは溶融温度に関して該当する。
【0025】
本発明によるテレケリックなポリマーもしくはブロックコポリマーは、末端基に相応するか、または末端基とは異なっていてもよい追加の官能基を有していてよい。ブロックコポリマー中で、これらの追加の官能基を適切に1もしくは複数のブロック中に組み込むことができる。以下の列記は発明を説明するための例にすぎず、発明を何らかの方法で限定するためのものではない。たとえばテレケリックなポリマーは付加的なOH基を有していてもよい。このために適切な、ヒドロキシ官能化された(メタ)アクリレートは有利には直鎖、分枝鎖もしくは脂環式の、2〜36個の炭素原子を有するジオールのヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、たとえば3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3,4−ジヒドロキシブチルモノ(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2,5−ジメチル−1,6−ヘキサンジオールモノ(メタ)アクリレート、特に有利には2−ヒドロキシエチルメタクリレートである。アミン基はたとえば2−ジメチルアミノエチル−メタクリレート(DMAEMA)、2−ジエチルアミノエチル−メタクリレート(DEAEMA)、2−t−ブチルアミノエチル−メタクリレート(t−BAEMA)、2−ジメチルアミノエチル−アクリレート(DMAEA)、2−ジエチルアミノエチル−アクリレート(DEAEA)、2−t−ブチルアミノエチル−アクリレート(t−BAEA)、3−ジメチルアミノプロピル−メタクリルアミド(DMAPMA)および3−ジメチルアミノプロピル−アクリルアミド(DMAPA)の共重合により製造可能である。アリル基を有するポリマーはたとえばアリル(メタ)アクリレートの共重合により実現することができる。エポキシ基を有するポリマーは、グリシジル(メタ)アクリレートの共重合により得られる。酸基は、t−ブチル(メタ)アクリレートの共重合と、その後のけん化もしくは熱によるイソブテンの分離より実現することができる。(メタ)アクリレート結合したシリル基の例は、−SiCl3、−SiMeCl2、−SiMe2Cl、−Si(OMe)3、−SiMe(OMe)2、−SiMe2(OMe)、−Si(OPh)3、−SiMe(OPh)2、−SiMe2(OPh)、−Si(OEt)3、−SiMe(OEt)2、−SiMe2(OEt)、−Si(OPr)3、−SiMe(OPr)2、−SiMe2(OPr)、−SiEt(OMe)2、−SiEtMe(OMe)、−SiEt2(OMe)、−SiPh(OMe)2、−SiPhMe(OMe)、−SiPh2(OMe)、−SiMe(OC(O)Me)2、−SiMe2(OC(O)Me)、−SiMe(O−N=CMe22または−SiMe2(O−N=CMe2)が挙げられる。その際、Meという略号はメチル基を表し、Phはフェニル基、Etはエチル基およびPrはイソ−プロピル基もしくはn−プロピル基を表す。市場で入手可能なモノマーは、たとえばEvonik Degussa GmbH社のDynasylan(登録商標)MEMOである。これは、3−メタクリルオキシプロピルトリメトキシシランである。
【0026】
(メタ)アクリレートという記載方法は(メタ)アクリル酸のエステルを表し、ここではメタクリレート、たとえばメチルメタクリレート、エチルメタクリレート等も、アクリレート、たとえばメチルアクリレート、エチルアクリレート等も、ならびに両者の混合物も表す。ブロックA中にもブロックB中にも重合されるモノマーは、(メタ)アクリレート、たとえば1〜40個の炭素原子を有する直鎖状、分枝鎖状もしくは脂環式アルコールのアルキル(メタ)アクリレート、たとえばメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、アリール(メタ)アクリレート、たとえばそれぞれ非置換であるか、または1〜4回置換されたアリール基を有していてよいベンジル(メタ)アクリレートまたはフェニル(メタ)アクリレート、その他の芳香族置換された(メタ)アクリレート、たとえばナフチル(メタ)アクリレート、5〜80個の炭素原子を有するエーテル、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールまたはこれらの混合物のモノ(メタ)アクリレート、たとえばテトラヒドロフルフリルメタクリレート、メトキシ(m)エトキシエチルメタクリレート、1−ブトキシプロピルメタクリレート、シクロヘキシルオキシメチルメタクリレート、ベンジルオキシメチルメタクリレート、フルフリルメタクリレート、2−ブトキシエチルメタクリレート、2−エトキシエチルメタクリレート、アリルオキシメチルメタクリレート、1−エトキシブチルメタクリレート、1−エトキシエチルメタクリレート、エトキシメチルメタクリレート、ポリ(エチレングリコール)メチルエーテル(メタ)アクリレートおよびポリ(プロピレングリコール)メチルエーテル(メタ)アクリレートからなる群から選択されている。
【0027】
前記の(メタ)アクリレート以外に、重合すべき組成物は前記の(メタ)アクリレートと、およびATRPにより共重合可能な、さらなる不飽和モノマーを含有していてもよい。これには特に1−アルケン、たとえば1−ヘキセン、1−ヘプテン、分枝鎖状のアルケン、たとえばビニルシクロヘキサン、3,3−ジメチル−1−プロペン、3−メチル−1−ジイソブチレン、4−メチル−1−ペンテン、アクリルニトリル、ビニルエステル、たとえば酢酸ビニル、スチレン、ビニル基にアルキル置換基を有する置換されたスチレン、たとえばα−メチルスチレンおよびα−エチルスチレン、環に1もしくは複数のアルキル置換基を有する置換されたスチレン、たとえばビニルトルエンおよびp−メチルスチレン、ハロゲン化スチレン、たとえばモノクロロスチレン、ジクロロスチレン、トリブロモスチレンおよびテトラブロモスチレン、複素環式化合物、たとえば2−ビニルピリジン、3−ビニルピリジン、2−メチル−5−ビニルピリジン、3−エチル−4−ビニルピリジン、2,3−ジメチル−5−ビニルピリジン、ビニルピリミジン、9−ビニルカルバゾール、3−ビニルカルバゾール、4−ビニルカルバゾール、2−メチル−1−ビニルイミダゾール、ビニルオキソラン、ビニルフラン、ビニルチオフェン、ビニルチオラン、ビニルチアゾール、ビニルオキサゾールおよびイソプレニルエーテル、マレイン酸誘導体、たとえば無水マレイン酸、マレイミド、メチルマレイミドおよびジエン、たとえばジビニルベンゼン、ならびにAブロック中でそれぞれヒドロキシ官能化された、および/またはアミノ官能化された、および/またはメルカプト官能化された化合物である。さらにこれらのコポリマーは、該コポリマーが、1の置換基中にヒドロキシ官能基および/またはアミノ官能基および/またはメルカプト官能基を有するように製造してもよい。このようなモノマーは、たとえばビニルピペリジン、1−ビニルイミダゾール、N−ビニルピロリドン、2−ビニルピロリドン、N−ビニルピロリジン、3−ビニルピロリジン、N−ビニルカプロラクタム、N−ビニルブチロラクタム、水素化ビニルチアゾール、および水素化ビニルオキサゾールである。特に有利には、ビニルエステル、ビニルエーテル、フマル酸エステル、マレイン酸エステル、スチレンまたはアクリロニトリルは、Aブロックおよび/またはBブロックと共重合される。この方法は、任意のハロゲン不含の溶剤中で実施することができる。有利にはトルエン、キシレン、H2O、酢酸エステル、有利には酢酸ブチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、ケトン、有利にはエチルメチルケトン、アセトン、エーテル、脂肪族化合物、有利にはペンタン、ヘキサン、バイオディーゼル、あるいはまた可塑剤、たとえば低分子量のプロピレングリコールまたはフタル酸エステルである。組成ABAのブロックコポリマーは連続的な重合により製造される。溶液重合以外に、ATRPは、乳化重合、ミニエマルション重合、マイクロエマルション重合、懸濁重合または塊状重合として実施することもできる。重合は、標準圧力、減圧または過圧で実施することができる。重合温度も重要ではない。しかし温度は一般に、−20℃〜200℃、有利には0℃〜130℃、および特に有利には50℃〜120℃の範囲である。有利には本発明によるポリマーは、5000g/モル〜100000g/モル、特に有利には7500g/モル〜50000g/モル、およびとりわけ有利には30000g/モル以下の数平均分子量を有する。
【0028】
二官能性の開始剤として、RO2C−CHX−(CH2n−CHX−CO2R、RO2C−C(CH3)X−(CH2n−C(CH3)X−CO2R、RO2C−CX2−(CH2n−CX2−CO2R、RC(O)−CHX−(CH2n−CHX−C(O)R、RC(O)−C(CH3)X−(CH2n−C(CH)3X−C(O)R、RC(O)−CX2−(CH2n−CX2−C(O)R、XCH2−CO2−(CH2n−OC(O)CH2X、CH3CHX−CO2−(CH2n−OC(O)CHXCH3、(CH32CX−CO2−(CH2n−OC(O)CX(CH32、X2CH−CO2−(CH2n−OC(O)CHX2、CH3CX2−CO2−(CH2n−OC(O)CX2CH3、XCH2C(O)C(O)CH2X、CH3CHXC(O)C(O)C(O)CHXCH3、XC(CH32C(O)C(O)CX(CH32、X2CHC(O)C(O)CHX2、CH3CX2C(O)C(O)CX2CH3、XCH2−C(O)−CH2X、CH3−CHX−C(O)−CHX−CH3、CX(CH32−C(O)−CX(CH32、X2CH−C(O)−CHX2、C65−CHX−(CH2n−CHX−C65、C65−CX2−(CH2n−CX2−C65、C65−CX2−(CH2n−CX2−C65、o−、m−もしくはp−XCH2−Ph−CH2X、o−、m−もしくはp−CH3CHX−Ph−CHXCH3、o−、m−もしくはp−(CH32CX−Ph−CX(CH32、o−、m−もしくはp−CH3CX2−Ph−CX2CH3、o−、m−もしくはp−X2CH−Ph−CHX2、o−、m−もしくはp−XCH2−CO2−Ph−OC(O)CH2X、o−、m−もしくはp−CH3CHX−CO2−Ph−OC(O)CHXCH3、o−、m−もしくはp−(CH32CX−CO2−Ph−OC(O)CX(CH32、CH3CX2−CO2−Ph−OC(O)CX2CH3、o−、m−もしくはp−X2CH−CO2−Ph−OC(O)CHX2またはo−、m−もしくはp−XSO2−Ph−SO2X(式中、Xは、塩素、臭素またはヨウ素を表し、Phはフェニレン(C64)を表し、Rは、1〜20個の炭素原子を有する脂肪族基を表し、該基は、線状、分枝鎖状もしくは環式の構造であってもよく、飽和、もしくはモノ不飽和、もしくはポリ不飽和であってもよく、かつ1もしくは複数の芳香族を有していてもよく、あるいはまた芳香族を有さず、かつnは0〜20の数である)を使用することができる。有利には1,4−ブタンジオール−ジ−(2−ブロモ−2−メチルプロピオネート)、1,2−エチレングリコール−ジ−(2−ブロモ−2−メチルプロピオネート)、2,5−ジブロモ−アジピン酸−ジ−エチルエステルまたは2,3−ジブロモ−マレイン酸−ジ−エチルエステルを使用する。開始剤対モノマーの比から、全てのモノマーが反応した場合の後の分子量が生じる。
【0029】
ATRPのための触媒は、Chem.Rev.2001、101、2921に記載されている。主として銅錯体が記載されているが、しかし特に鉄、ロジウム、白金、ルテニウムまたはニッケルの化合物が使用される。一般に、開始剤もしくは、移動可能な原子を有するポリマー鎖によりレドックスサイクルを形成することができる全ての遷移金属化合物を使用することができる。銅はこのためにたとえば、Cu2O、CuBr、CuCl、CuI、CuN3、CuSCN、CuCN、CuNO2、CuNO3、CuBF4、Cu(CH3COO)またはCu(CF3COO)から出発して系に添加することができる。
【0030】
記載のATRPの1の代替案はその変法である。いわゆるリバースATRPでは、酸化数がより高い化合物、たとえばCuBr2、CuCl2、CuO、CrCl3、Fe23またはFeBr3を使用することができる。これらの場合、反応は古典的なラジカル形成剤、たとえばAIBNによって開始することができる。この場合、遷移金属化合物がまず還元される。というのも、遷移金属化合物は、古典的なラジカル形成剤から発生するラジカルと反応するからである。このリバースATRPは、特にWangおよびMatyjaszewskiによって、Macromolekules(1995)、第28巻、第7572頁に記載されている。
【0031】
リバースATRPの1の変法は、酸化数がゼロの金属を付加的に使用することである。より高い酸化数の遷移金属による、予測される均等化反応によって反応速度が促進される。この方法はWO98/40415に詳細に記載されている。遷移金属対二官能性の開始剤のモル比は一般に0.02:1〜1〜20:1の範囲、有利には0.02:1〜6:1の範囲、および特に有利には0.2:1〜4:1の範囲であるが、モル比はこれによって限定されるべきではない。有機溶剤中での金属の溶解性を高め、かつ同時に安定した、およびこれにより重合不活性の有機金属化合物の形成を回避するために、リガンドを系に添加する。リガンドは付加的に、移動可能な原子基の遷移金属化合物による引き抜き反応を緩和する。公知のリガンドの列挙は、たとえばWO97/18247、WO97/47661またはWO98/40415に記載されている。配位成分は、リガンドとして使用される化合物の、多くの場合、1もしくは複数の窒素原子、酸素原子、リン原子および/または硫黄原子を有している。特に有利であるのはこの場合、窒素含有化合物である。とりわけ有利であるのは窒素含有キレートリガンドである。例として2,2′−ビピリジン、N,N,N′,N″,N″−ペンタメチルジエチレントリアミン(PMDETA)、トリス(2−アミノエチル)アミン(TREN)、N,N,N′,N′−テトラメチルエチレンジアミンまたは1,1,4,7,10,10−ヘキサメチルトリエチレンテトラミンが挙げられる。個々の成分の選択および組合せの貴重な示唆は、当業者はWO98/40415に見ることができる。これらのリガンドは現場で金属化合物と共に配位化合物を形成することができるか、またはこれらはまず配位化合物として製造され、引き続き反応混合物に添加することができる。リガンド(L)対遷移金属の比率は、リガンドの配位座の数と、遷移金属(M)の配位数とに依存する。このモル比は、一般に100:1〜0.1:1の範囲、有利には6:1〜0.1:1、および特に有利には3:1〜1:1の範囲であるが、これによって限定されるべきではない。ATRPが終了した後で、遷移金属化合物を前記の硫黄化合物の添加によって沈殿させる。たとえばメルカプタンの添加によって、鎖末端のハロゲン原子がハロゲン化水素の発生下に置換される。ハロゲン化水素、たとえばHBrは、遷移金属に配位しているリガンドLにおいてプロトン化されてアンモニウムハロゲン化物となる。この過程によって遷移金属−リガンド錯体はクエンチングされ、「裸の」金属が沈殿する。引き続き、ポリマー溶液を簡単な濾過により容易に精製することができる。前記の硫黄化合物は、有利にはSH基を有する化合物である。特に有利にはこの硫黄化合物はラジカル重合から公知の調節剤である。
【0032】
これらの生成物に関しては幅広い適用分野が生じる。適用例の選択は本発明によるポリマーの使用を制限するために適切なものではない。有利には反応基を有するテレケリックポリマーを、湿分硬化性架橋のためのプレポリマーとして使用することができる。該プレポリマーは、任意のポリマーによって架橋することができる。本発明による、たとえばシリル基を有するテレケリックポリマーの有利な適用は、シーラント、反応性溶融接着剤または接着材料中のものである。特に車両、船舶、コンテナ、機械装置および航空機の建築の分野における、ならびにエレクトロニクス産業における、および家庭用器機の製造の際のシーラント中での適用のために使用される。他の有利な適用分野は、建築分野、ヒートシールの分野または組み立て用接着剤のためのシーラントである。
【0033】
しかし、本発明により製造された材料の可能な適用は、シーラントのための結合剤、または他の種類の官能基を導入するための中間段階としてのみではない。EP1510550ではたとえば特にアクリレート粒子およびポリウレタンからなる被覆組成物が記載されている。本発明によるポリマーは、相応する調製物中で加工特性および架橋特性の改善につながる。考えられる適用はたとえば粉体塗料用調製物である。
【0034】
新規の結合剤によって、たとえば上記の適用のための架橋性の一成分エラストマーおよび二成分エラストマーを製造することができる。調製物の慣用の別の成分は、溶剤、充填剤、顔料、可塑剤、安定化添加剤、水捕捉剤、定着剤、チキソトロープ剤、架橋触媒、増粘剤(粘着性付与剤)などである。粘度を低下させるためには、溶剤、たとえば芳香族炭化水素、たとえばトルエン、キシレン等、エステル、たとえば酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸アミル、酢酸セルロース等、ケトン、たとえばメチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン等を使用することができる。溶剤はすでにラジカル重合の過程で添加することができる。
【0035】
たとえば相応するポリウレタンを含有する調製物中でのヒドロシリル化された結合剤のための架橋触媒は、慣用の有機スズ、鉛、水銀およびビスマスの触媒、たとえばジブチルスズジラウレート(たとえばBNT Chemicals GmbH)、ジブチルスズジアセテート、ジブチルスズジケトネート(たとえばAcima/Rohm+Haas社のMetatin740)、ジブチルスズジマレエート、スズナフテネート等である。有機スズ化合物の反応生成物、たとえばジブチルスズジラウレートとケイ酸エステル(たとえばDYNASIL Aおよび40)との反応生成物も、架橋触媒として使用することもできる。その他に、チタン酸エステル(たとえばチタン酸テトラブチル、チタン酸テトラプロピル等)、ジルコン酸エステル(たとえばジルコン酸テトラブチル等)、アミン(たとえばブチルアミン、ジエタノールアミン、オクチルアミン、モルホリン、1,3−ジアザビシクロ[5.4.6]ウンデセン−7(DBU)等)もしくはこれらのカルボン酸塩、低分子量ポリアミド、アミノオルガノシラン、スルホン酸誘導体およびこれらの混合物を使用することもできる。
【0036】
ブロックコポリマーの利点は、無色であることと、製造した製品ににおいがないことである。本発明のもう1つの利点は、官能基の数が限定されていることである。結合剤中で官能基の割合が高いと、場合により早すぎるゲル化、または少なくとも溶液粘度もしくは溶融粘度の付加的な上昇につながる。
【0037】
以下に記載の実施例は、本発明をより詳細に説明するためのものであるが、しかし、本発明をここに開示されている特徴に限定するためにふさわしいものではない。
【0038】
実施例
数平均分子量Mnもしくは質量平均分子量Mw、および分子量分布の尺度としての多分散性指数D=Mw/Mnは、ゲル透過クロマトグラフィー(GPC)によりテトラヒドロフラン中、PMMA標準液に対して測定される。
【0039】
以下の実施例は、ABAトリブロックコポリマーの合成に限定されている。当業者には、これらの結果をブロック構造を有していないポリマーもしくはペンタブロックコポリマーに容易に転用できることが容易に読み取れるはずである。
【0040】
比較例1
攪拌機、温度計、還流冷却器、窒素導入管および滴下漏斗を備えた二重壁容器中に、N2雰囲気下でn−ブチルアクリレート(正確な量の記載は第1表を参照のこと)、酢酸エチル180mL、酸化銅(I)(量は第1表を参照のこと)およびN,N,N′,N″,N″−ペンタメチルジエチレントリアミン(PMDETA、量は第1表を参照のこと)を装入した。該溶液を70℃で15分間撹拌した。引き続き同じ温度で、一定量の開始剤1(第1表を参照のこと)1,4−ブタンジオール−ジ−(2−ブロモ−2−メチルプロピオネート)(BDBIB、開始剤の全量を酢酸エチル26mL中に溶解した)を添加した。3時間の重合時間後に、平均分子量Mnを測定(SECによる)するために試料を取り出し、100mLの酢酸エチルおよびメタクリル酸メチルからなる混合物(正確な量の記載は第2表を参照のこと)を添加した。該混合物を少なくとも95%の予測される反応率が達成されるまで重合させ、かつ2.0gのメルカプトエタノールの添加により中断し、さらに75℃で50分間攪拌した。該溶液をシリカゲルを用いた濾過およびその後の蒸留による揮発性成分の除去により後処理した。平均分子量を最終的にSEC測定により測定した。
【0041】
比較例2
重合を比較例1と同様に、第1表に記載の量の添加下で行った。反応の中断はチオグリコール酸2.0gの添加下で行った。
【0042】
比較例3
重合を比較例1と同様に、第1表に記載の量の添加下で行った。反応の中断はDynasylan MTMO 5.0gの添加下で行った。
【0043】
【表1】
【0044】
比較例1〜3は、1のバッチで慣用の開始剤を添加した場合には、比較的狭く分布した内部ブロックと、1.4より小さい多分散性指数を有するポリマーが生じることを示している。
【0045】
溶剤を除去した後に、適切な乾燥剤の添加によりシリル官能化した生成物を安定化することができる。このようにして分子量がさらに増大することなく良好な貯蔵安定性が保証される。
【0046】
例1
攪拌機、温度計、還流冷却器、窒素導入管および滴下漏斗を備えた二重壁容器中に、N2雰囲気下でn−アクリル酸ブチル(正確な量の記載は第1表を参照のこと)、酢酸エチル180mL、酸化銅(I)(量は第1表を参照のこと)およびN,N,N′,N″,N″−ペンタメチルジエチレントリアミン(PMDETA、量は第1表を参照のこと)を装入した。該溶液を70℃で15分間撹拌した。引き続き同じ温度で、一定量の開始剤1(第1表を参照のこと)1,4−ブタンジオール−ジ−(2−ブロモ−2−メチルプロピオネート)(BDBIB、開始剤の全量を酢酸プロピル26mL中に溶解した)を添加した。2分後に開始剤2(第1表を参照のこと、酢酸エチル20mL中に溶解)1,4−ブタンジオール−ジ−(2−ブロモ−メチルプロピオネート)(BDBIB)の量を均一に計量供給した。この供給は中断せずに、かつ一定の供給速度で時間t1に亘って行った。開始剤の添加が完了した後に、重合溶液を重合温度で時間t2に亘って攪拌し、次いで、平均分子量Mnを測定(SECによる)するために試料を取り出し、かつメタクリル酸メチル(正確な量の記載は第1表を参照のこと)を添加した。該混合物をさらに75℃で2時間攪拌し、かつ引き続き2.0gのメルカプトエタノールの添加により中断した。該溶液をシリカゲルを用いた濾過およびその後の蒸留による揮発性成分の除去により後処理した。平均分子量を最終的にSEC測定により測定した。
【0047】
例2
重合を例1と同様に、第2表に記載の量を添加して該表に記載の時間を維持しながら行った。反応の中断は2.3gのチオグリコール酸の添加により行った。
【0048】
例3
重合を例1と同様に、第2表に記載の量を添加して該表に記載の時間を維持しながら行った。反応の中断は4.9gのDynasylan MTMOの添加により行った。
【0049】
【表2】
【0050】
第一の重合段階の分子量分布はそのつど単峰性であり、かつ1.8より大きい多分散性指数Dを有する。最終生成物は、相応して大きな、ただし純粋なBブロックと比較すればより小さい多分散性指数を有する。この効果は総じてより高い分子量の結果であるが、しかしAブロックの重合は制御されて進行し、かつブロックはそれ自体狭い分子量分布を有していることも示している。Dynsylan MTMOによる末端封止の場合、多分散性指数の増大は末端基におけるポリマー鎖の部分的な二量化に起因する。この効果は適切な試験の実施により容易に抑制することができ、重合法と関連するものではない。
【0051】
組成ACBCAもしくはCABACのペンタブロックコポリマーへのこの結果の転用は同様に行うことができる。このような狭い分布を有するコポリマーの合成は、たとえば同一出願人による未公開の特許出願DE102008002016に記載されている。
【0052】
この方法は、ブロック構造を有していないポリマーにも問題なく転用することができる。この場合、メルカプタンの添加は重合時間t2の終了後に直接、モノマー混合物Aの添加に代えて行われる。