(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記従来技術は、ポンプの始動運転時、又はポンプの停止運転時における小水量域でのポンプの運転時間を短縮することについては考慮していない。
【0009】
ここで、始動運転とは、ポンプが停止した状態からポンプを起動し吐出弁を全閉から全開にするまでの運転のことである。また、停止運転とは、ポンプが運転されている状態から吐出弁を全閉にしポンプを停止するまでの運転のことである。
【0010】
すなわち、ポンプは一般的に、定格仕様で最も効率が高くなるよう設計されており、小水量域(吐出弁の小開度領域)では、キャビテーションの発生などにより、振動や羽根車の損傷が起こりやすい状態となる。特に、始動/停止の頻度が高いポンプは、ポンプの始動停止運転時の小水量域での運転の累積時間が長くなり、羽根車の損傷等が問題になり得る。
【0011】
この点、従来技術は、弁を所望の設定開閉速度に正確に設定し維持することを目的とするものであるため、ポンプの始動運転時又は停止運転時における小水量域での運転時間を短縮することについては考慮していない。
【0012】
なお、吐出弁の弁開度の制御の他には、ポンプ羽根車の回転速度制御や、ポンプ羽根車の翼角度の制御などがあるが、ポンプ停止時などに液体が逆流するのを防止する何らかの弁は必要である。これに加えて、回転速度制御のためのインバータ装置や複雑な翼角操作機構が必要となるため、設置費用が高く、維持管理も複雑になるなど、経済性に難がある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本願発明の吐出弁ユニットは、上記課題に鑑みてなされたもので、液体を揚排液するポンプの吐出側に接続された配管に設けられる弁と、前記弁を可変速に開閉させるドライバと、前記ドライバを介して前記弁の開閉を制御することによって、前記ポンプから吐出される液体の流量を制御する制御部と、を備える。
【0014】
そして、前記制御部は、前記ポンプが始動運転をしているか、又は前記ポンプが停止運転をしているかを判定し、前記ポンプが始動運転又は停止運転をしていると判定した場合は、第1の弁開度領域に対して第1の範囲内の弁開閉速度が設定され、前記第1の弁開度領域より弁開度が大きい第2の弁開度領域に対して前記第1の範囲内の弁開閉速度より小さい第2の範囲内の弁開閉速度が設定された第1の弁開閉速度パターンにしたがって、前記弁の開閉を制御する。
【0015】
本願発明によれば、ポンプの始動運転又は停止運転の際には、第1の弁開度領域(小開度領域)における第1の範囲内の弁開閉速度を、第2の弁開度領域(大開度領域)における第2の範囲内の弁開閉速度より大きく設定しているので、小水量域(小開度領域)におけるポンプの運転時間を短縮することができる。その結果、ポンプの始動停止運転時の小水量域での運転の累積時間を短縮することができるので、羽根車の損傷等の発生を抑制することができる。
【0016】
また、前記制御部は、前記ポンプが始動運転又は停止運転をしていると判定した場合は、前記弁の開度が20°〜40°の所定開度未満の第1の弁開度領域に対して第1の範囲内の弁開閉速度が設定され、前記所定開度以上の第2の弁開度領域に対して前記第1の範囲内の弁開閉速度より小さい第2の範囲内の弁開閉速度が設定された第1の弁開閉速度パターンにしたがって、前記弁の開閉を制御することができる。
【0017】
また、前記制御部は、前記ポンプが始動運転又は停止運転をしていると判定した場合は、前記第1の弁開度領域に対して1.0°/sec以上6.0°/sec未満の範囲内の弁開閉速度が設定され、前記第1の弁開度領域より弁開度が大きい第2の弁開度領域に対して0.5°/sec以上4.0°/sec未満の範囲内の弁開閉速度が設定された第1の弁開閉速度パターンにしたがって、前記弁の開閉を制御することができる。
【0018】
また、前記制御部は、前記ポンプが始動信号に応じて始動運転をしているか、前記ポンプが停止信号に応じて停止運転をしているか、又は前記ポンプが通常運転をしているか、を判定することができる。
【0019】
この場合、前記制御部は、前記ポンプが始動運転又は停止運転をしていると判定した場合は、前記第1の弁開閉速度パターンにしたがって、前記弁の開閉を制御し、
前記ポンプが通常運転をしていると判定した場合は、前記弁の単位弁開閉速度あたりの前記液体の流量変化率があらかじめ設定された範囲内になるように、前記弁の開度ごとに
前記弁の開閉速度が設定された第2の弁開閉速度パターンにしたがって前記弁の開閉を制御する。
【0020】
これによれば、ポンプが通常運転をしている場合は、弁の単位弁開閉速度あたりの液体の流量変化率があらかじめ設定された範囲内になるように弁の開度ごとに弁の開閉速度が設定された第2の弁開閉速度パターンにしたがって、弁の開閉を制御するので、弁の単位弁開閉速度あたりの液体の流量変化率を安定させることができる。その結果、送液管路内の流量のハンチングや急激な圧力変動を抑制し、安定した運用を図ることができる。
【0021】
前記制御部は、前記弁の単位弁開閉速度あたりの前記液体の流量変化率が設備としての許容値内になるように、前記弁の開度ごとに前記弁の開閉速度が設定された第2の弁開閉速度パターンにしたがって、前記弁の開閉を制御することができる。
【0022】
また、停電時に前記制御部に電源を供給するバッテリ電源を備える場合、前記制御部は、前記ポンプが始動信号に応じて始動運転をしているか、前記ポンプが停止信号に応じて停止運転をしているか、又は前記ポンプが停電による緊急停止信号に応じて緊急停止運転をしているかを判定することができる。
【0023】
そして、前記制御部は、前記ポンプが始動運転又は停止運転をしていると判定した場合は、前記第1の弁開閉速度パターンにしたがって、前記弁の開閉を制御し、前記ポンプが緊急停止運転をしていると判定した場合は、第3の弁開度領域に対して第3の範囲内の弁開閉速度が設定され、前記第3の弁開度領域より弁開度が大きい第4の弁開度領域に対して前記第3の範囲内の弁開閉速度より大きい第4の範囲内の弁開閉速度が設定された第3の弁開閉速度パターンにしたがって、前記バッテリ電源を用いて前記弁を閉止制御し、前記弁を逆止弁として機能させることができる。
【0024】
すなわち、例えばポンプ設備の停電などによってポンプトリップが発生した場合、第4の弁開度領域(大開度領域)においては、第3の弁開度領域(小開度領域)における第3の範囲内の弁開閉速度より大きい第4の範囲内の弁開閉速度によって弁を閉止制御する。これにより、ポンプトリップが発生した場合に、第4の弁開度領域(大開度領域)において急速に弁を閉止制御するとともに、弁が完全に閉止される直前の第3の弁開度領域においては、緩やかに弁を閉止することによって弁体の急閉鎖を防止し、弁体の損傷を防ぐことができる。
【0025】
また、前記制御部は、前記ポンプが緊急停止運転をしていると判定され、かつ、前記弁の開度が前記第4の弁開度領域にある場合は、前記第4の範囲内の弁開閉速度によって前記弁を閉止制御し、前記弁の開度が前記第3の開度領域まで閉止されたら、前記第3の開度領域まで閉止された時の開度で所定時間弁の閉止制御を停止し、所定時間経過後、前記第3の範囲内の弁開閉速度によって前記弁を閉止制御することができる。
【0026】
これによれば、ポンプトリップにより水撃作用が発生して管内の圧力上昇が発生したとしても、弁の開度が第3の開度領域まで閉止されたところで弁の閉止制御を所定時間停止するので、この間に、ポンプ吐出側の圧力をポンプ吸込側に逃がすことができる。その結果、ポンプ吐出側の圧力上昇を抑制することができるので、送液管の破損を防止することができる。
【0027】
また、停電時に前記制御部に電源を供給するバッテリ電源を備える場合、前記制御部は、前記ポンプが始動信号に応じて始動運転をしているか、前記ポンプが停止信号に応じて停止運転をしているか、前記ポンプが通常運転をしているか、又は前記ポンプが停電による緊急停止信号に応じて緊急停止運転をしているかを判定することができる。
【0028】
そして、前記制御部は、前記ポンプが始動運転又は停止運転をしていると判定した場合は、前記第1の弁開閉速度パターンにしたがって、前記弁の開閉を制御することができる。また、前記制御部は、前記ポンプが通常運転をしていると判定した場合は、前記弁の単位弁開閉速度あたりの前記液体の流量の変化率があらかじめ設定された範囲内になるように、前記弁の開度ごとに前記弁の開閉速度が設定された第2の弁開閉速度パターンにしたがって前記弁の開閉を制御することができる。また、前記制御部は、前記ポンプが緊急停止運転をしていると判定した場合は、第3の弁開度領域に対して第3の範囲内の弁開閉速度が設定され、前記第3の弁開度領域より弁開度が大きい第4の弁開度領域に対して前記第3の範囲内の弁開閉速度より大きい第4の範囲内の弁開閉速度が設定された第3の弁開閉速度パターンにしたがって、前記バッテリ電源を用いて前記弁を閉止制御し、前記弁を逆止弁として機能させることができる。
【0029】
また、本願発明のポンプシステムは、液体を貯留する液体槽と、前記液体槽に貯留された液体を揚排液するポンプと、前記ポンプを駆動する駆動器と、前記ポンプの吐出側に設けられた上述のいずれかの吐出弁ユニットと、を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0030】
かかる本願発明によれば、ポンプの始動運転時、又はポンプの停止運転時における小水量域でのポンプの運転時間を短縮することができる。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本願発明の一実施形態に係る吐出弁ユニット、及びポンプシステムを図面に基づ
いて説明する。以下の実施形態は、一例として、浄水場において水槽に貯留されている水を揚排水するポンプシステム、及びポンプシステムに設置された吐出弁ユニットを説明するが、これには限られない。その他、液体を揚排水する施設(例えばダムなどの上流水槽からの放流弁)においても本願発明を適用することができる。
【0033】
図1は、本実施形態のポンプシステムの全体構成を示す図である。本実施形態のポンプシステム1000は、操作室100と、電気室200と、ポンプ設備300とを備える。
【0034】
操作室100には、監視操作卓102、及びサーバ104が設置される。
【0035】
監視操作卓102は、オペレータがポンプ設備300におけるポンプの揚排水などの状態をモニタするための出力インターフェース(表示器)と、オペレータがポンプの揚排水に対する指令を入力する入力インターフェース(キーボード、タッチパネル等)を備える。
【0036】
サーバ104は、監視操作卓102に表示するためのデータ処理を行うとともに、監視操作卓102から入力された指令信号を適宜処理して電気室200へ出力する。
【0037】
電気室200には、無停電電源202と、受配電・操作制御盤210とが設置される。
【0038】
無停電電源202は、停電時に受配電・操作制御盤210へ電力を供給する電源装置である。受配電・操作制御盤210は、通常時は送電網から変電所を介して供給された電力によって動作し、停電時には無停電電源202から供給された電力によって動作する。
【0039】
受配電・操作制御盤210は、ポンプ設備300に設けられた各種ポンプを制御するポンプ制御部212と、ポンプ設備300に設けられた各種弁の開閉を制御する弁制御部214とを備える。受配電・操作制御盤210は、ポンプ設備300に設けられた各種ポンプ、及び各種弁に加えて、他の補機類に対する各種制御も行う。なお、ポンプ制御部212と弁制御部214の詳細は、後述する。
【0040】
ポンプ設備300には、機側操作盤310、吸込水槽320、及び吸込水槽320に貯留された水を揚排水するための各種機器が設けられる。
【0041】
機側操作盤310は、ポンプ場にいるオペレータがポンプの揚排水に対する指令を入力する入力インターフェース(キーボード、タッチパネル等)である。機側操作盤310に対して入力された指令信号は、受配電・操作制御盤210へ出力され、受配電・操作制御盤210において適宜処理される。
【0042】
吸込水槽320は、浄水場で用いられる水を貯留する槽である。
【0043】
吸込水槽320に貯留された水を揚排水するための各種機器は、ポンプ330と電動機332、吐出弁334とモータ336、真空ポンプ340と電動機342、吸気弁344とモータ346を含む。ポンプ設備300には、これらの各種機器による揚排水系統が2系統設けられている。2つの揚排水系統はいずれも同様の構成を有するので、同一の符号を付して一方の説明を省略する。
【0044】
まず、ポンプ制御部212と弁制御部214について説明する。ポンプ制御部212は、サーバ104又は機側操作盤310から出力された指令信号に基づいて、ポンプ330の動作を制御するためのポンプ制御信号を電動機332へ出力する。また、ポンプ制御部212は、サーバ104又は機側操作盤310から出力された指令信号に基づいて、真空
ポンプ340の動作を制御するための真空ポンプ制御信号を電動機342へ出力する。
【0045】
弁制御部214は、サーバ104又は機側操作盤310から出力された指令信号に基づいて、吐出弁334の開閉を制御するための吐出弁制御信号をモータ336へ出力する。また、弁制御部214は、サーバ104又は機側操作盤310から出力された指令信号に基づいて、吸気弁344の開閉を制御するための吸気弁制御信号をモータ346へ出力する。弁制御部214は、モータ336を介して吐出弁334の開閉を制御することによって、ポンプ330の流量を制御する
【0046】
電動機332は、ポンプ制御部212から送信されたポンプ制御信号に基づいて、ポンプ330を駆動する。また、電動機342は、ポンプ制御部212から送信された真空ポンプ制御信号に基づいて、真空ポンプ340を駆動する。
【0047】
ポンプ330の吸込側には、吸込水槽320の内部とポンプ330とを連通する吸水配管331が接続されている。また、ポンプ330の吐出側には、ポンプ330の吐出側と他の図示していない施設とを連通する送水配管333が接続されている。ポンプ330は、電動機332により駆動されることによって、吸水配管331を介して吸込水槽320に貯留された水を汲み上げ、汲み上げた水を、送水配管333を介して他の施設へ移送する。
【0048】
また、ポンプ330には、ポンプ330と真空ポンプ340とを連通する吸気配管341が接続されている。真空ポンプ340は、ポンプ制御部212から送信された真空ポンプ制御信号に基づいて動作する。より具体的には、真空ポンプ340は、ポンプ330の始動運転時において、ポンプ330や吸水配管331の内部の空気を吸引することによって、ポンプ330内部に水を満たす。
【0049】
吸気配管341には、吸気弁344が設けられている。吸気弁344は、吸気配管341の開閉を行う弁である。また、吸気弁344には、吸気弁344を開閉させるモータ346が設けられる。モータ346は、弁制御部214から送信された吸気弁制御信号に基づいて、吸気弁344の開閉を制御する。
【0050】
送水配管333には、吐出弁334が設けられている。吐出弁334は、例えば、バタフライ弁、仕切弁、コーン(ロート)弁など、送水配管333の開度を調整するための弁である。吐出弁334は、ポンプ330の吐出側に設けられている。
【0051】
また、吐出弁334には、吐出弁334を可変速に開閉させるモータ(ドライバ)336が設けられている。モータ336は、弁制御部214から送信された弁制御信号に基づいて、吐出弁334の開閉を制御する。なお、吐出弁334、モータ336、及び弁制御部214によって、吐出弁ユニット350が構成される。
【0052】
<第1実施形態>
ここで、弁制御部214による制御の第1実施形態について説明するが、その前に、比較例について説明する。
図2は、比較例における弁開閉速度パターンの一例を示す図である。
【0053】
図2において、横軸は、吐出弁334の弁開度である。また、
図2において、縦軸は、吐出弁334の弁開閉速度であり、グラフ420が対応する。
【0054】
図2は、グラフ420に示すように、吐出弁334の弁開閉速度を2sec/°、つまり約0.50(°/sec)に固定した場合の弁開閉速度パターンの一例を示すものであ
る。
図2に示すように吐出弁334の弁開閉速度を固定した場合、小水量域でのポンプの運転時間が問題となる。すなわち、ポンプは一般的に、定格仕様で最も効率が高くなるよう設計されており、小水量域(小開度領域)では、キャビテーションの発生などによって、振動や羽根車の損傷が起こりやすい状態となる。このため、長寿命化のためには、なるべく小水量域での運転を避けることが好ましい。
【0055】
この点、
図2に示すように吐出弁334の弁開閉速度を固定した場合、小水量域(小開度領域)における吐出弁334の弁開閉速度と、大開度領域における吐出弁334の弁開閉速度が等しくなる。このため、小水量域(小開度領域)における吐出弁334の弁開閉速度が比較的遅くなり、ポンプ330の始動停止運転時の小水量域での運転の累積時間が長くなる。なお、単に吐出弁334の弁開閉速度を高い値で固定した場合には、小水量域以外で所望の流量制御を行うことが難しくなる場合があるので、好ましくない。
【0056】
一方、
図3は、第1実施形態における第1の弁開閉速度パターンの一例を示す図である。
図3において、横軸は、吐出弁334の弁開度であり、縦軸は、吐出弁334の弁開閉速度(°/sec)である。
【0057】
図3のグラフ430に示すように、吐出弁334の第1の弁開度領域(0°〜約20°)に対しては、約2.0°/secの弁開閉速度が設定されている。また、第1の弁開度領域より大きい吐出弁334の第2の弁開度領域(約20°〜90°)に対しては、第1の弁開度領域における弁開閉速度より小さい約0.5°/secの弁開閉速度が設定されている。
【0058】
図3に示すようにあらかじめ設定された吐出弁334の開度ごとの弁の開閉速度(グラフ430)は、第1の弁開閉速度パターンを形成する。
【0059】
弁制御部214は、ポンプ330が始動信号に応じて始動運転をしているか、又はポンプ330が停止信号に応じて停止運転をしているかを判定する。そして、弁制御部214は、ポンプ330が始動運転又は停止運転をしていると判定した場合には、第1の弁開閉速度パターンにしたがって、吐出弁334の開閉を制御する。
【0060】
なお、始動運転とは、ポンプ330が停止した状態からポンプ330を起動し吐出弁334を全閉から全開にするまでの運転のことである。また、停止運転とは、ポンプ330が運転されている状態から吐出弁334を全閉にしポンプ330を停止するまでの運転のことである。一方、通常運転とは、始動運転が終わった後、停止運転が行われるまでの運転のことである。
【0061】
本実施形態によれば、小水量域(小開度領域)におけるポンプ330の運転時間を短縮することができ、ポンプ330の始動停止運転時の小水量域での運転の累積時間を短縮することができるので、羽根車の損傷等の発生を抑制することができる。すなわち、ポンプは一般的に、定格仕様で最も効率が高くなるよう設計されており、小水量域(小開度領域)では、キャビテーションの発生など、振動や羽根車の損傷が起こりやすい状態となるため、長寿命化のためには、なるべく小水量域での運転を避けることが好ましい。これに加えて、ポンプの始動時や停止時は、流量の急変(水撃の発生)や、駆動機の馬力オーバ等を防止するため、締切始動、締切停止を行う場合が多く、小水量域での運転が回避できない場合がある。特に、起動頻度の多いポンプ設備は、ポンプの始動停止運転時の小水量域での運転の累積時間が長くなり、羽根車の損傷等が問題になり得る。これに対して、本実施形態では、ポンプ330の始動運転又は停止運転の際には、第1の弁開度領域(小開度領域)における第1の範囲内の弁開閉速度を、第2の弁開度領域(大開度領域)における第2の範囲内の弁開閉速度より大きく設定しているので、小水量域(小開度領域)におけ
るポンプ330の運転時間を短縮することができる。
【0062】
この点についてより詳細に説明する。
図4は、ポンプのミニマムフローについて説明するための図である。
図4において、横軸は、ポンプ330の流量(m
3/h)を示し、縦軸は、全揚程(m)、ポンプ効率(%)、及びポンプが要求する必要NPSH(有効吸込みヘッド)(m)を示している。
【0063】
ポンプ330は、ポンプ330の始動運転時には、(1)→(2)→(3)(定格点)の順に性能曲線520上を移動し、ポンプ330の停止運転時には、(3)(定格点)→(2)→(1)の順に性能曲線520上を移動する。また、ポンプ効率530は、
図4に示すように、流量がミニマムフロー540より小さい運転領域では低くなり、ミニマムフローを超えた運転領域では高くなる。さらに、ポンプが要求する必要NPSH550は、定格点560を超えた領域で高くなる。
【0064】
ポンプを弁等で流量制御する場合、連続運転してよいミニマムフローが設定されている。ミニマムフロー以下でポンプを運転するとキャビテーションや騒音・振動の原因となりポンプの寿命を短くする。ミニマムフローは通常、定格流量の40〜60%にあり、ポンプはミニマムフロー以上で運転することが条件となる。なお、キャビテーションとは、流れる液体中で液体の一部が気化することにより空洞(cavity)を生ずる現象で、ポンプ羽根車の入口部で局部的に静圧が揚液の飽和蒸気圧にまで下がって、蒸気の細かい気泡が多数発生する沸騰現象である。キャビテーションが長く続くと羽根車やケーシングの表面が壊食され、損傷する場合がある。
【0065】
本実施形態によれば、ポンプ330の始動運転時の
図4(1)→(2)の時間、及びポンプ330の停止運転時の
図4(2)→(1)の時間を短くすることができる。したがって、ポンプ330の長寿命化を図ることができる。
【0066】
また、吐出弁334がコーン弁(ロート弁)である場合、コーン弁の構造上、
図3に示すように、全閉及び全開時に、リフト動作やシート動作という弁体の回転動とは異なる上下動がある。この場合、完全な全閉状態(着座状態)になるまでに、ポンプは、一定時間の閉切運転(流量=0)が課せられ、振動やキャビテーションなどによる損傷が問題となる。この点、本実施形態によれば、ポンプ330の始動運転時や停止運転時において、吐出弁334の開度が全閉付近にある場合(小開度領域)の弁の開閉速度が速いため、振動やキャビテーションが発生する時間を短縮することができる。
【0067】
なお、
図3では、吐出弁334の弁開度が約20°を境に吐出弁334の開閉速度が変わる例を示したが、これには限られない。吐出弁334の開度が20°〜40°の所定開度未満の第1の開度領域(小開度領域)に対して第1の範囲内の弁開閉速度を設定し、所定開度以上の第2の開度領域(大開度領域)に対して第1の範囲内の弁開閉速度より小さい第2の範囲内の弁開閉速度を設定することができる。
【0068】
また、
図3では、吐出弁334の第1の開度領域(0°〜約20°)に対して弁開閉速度(約2.0°/sec)が固定して設定される例を示したが、これには限られない。例えば、
図5のグラフ570に示すように、第1の範囲(例えば、約0.5°/sec以上約6.0°/sec未満)内で流動的に設定することができる。
図5は、第1実施形態における第1の弁開閉速度パターンの他の例を示す図である。また、好ましくは、第1の範囲を、約1.0°/sec以上約4.0°/sec未満とし、弁開閉速度は、この第1の範囲内で流動的に設定することができる。
【0069】
また、
図3では、吐出弁334の第2の開度領域(約20°〜90°)に対して弁開閉
速度(約0.5°/sec)が固定して設定される例を示したが、これには限られない。例えば、弁開閉速度は、1つの値に固定するのではなく、第2の範囲内(例えば、約0.1°/sec以上約1.5°/sec未満)で流動的に設定することができる。また、好ましくは、第2の範囲を、約0.25°/sec以上約1.0°/sec未満とし、弁開閉速度は、この第2の範囲内で流動的に設定することができる。
【0070】
次に、第1実施形態におけるポンプの流量制御の方法について説明する。
図6は、第2実施形態におけるポンプの流量制御のフローチャートである。
【0071】
まず、弁制御部214は、ポンプ始動指令を受信する(ステップS101)。すると、弁制御部214は、吸気弁344を「開」に制御する(ステップS102)。具体的には、弁制御部214は、モータ346に対して、吸気弁344を「開」に制御する信号を出力する。モータ346は、制御信号に基づいて、吸気弁344を「開」に駆動する。
【0072】
続いて、ポンプ制御部212は、真空ポンプ340を起動する(ステップS103)。具体的には、ポンプ制御部212は、電動機342に対して、真空ポンプ340を起動する信号を出力する。電動機342は、制御信号に基づいて、真空ポンプ340を起動する。
【0073】
このように、吸気弁344が「開」にされた状態で真空ポンプ340を起動することによって、ポンプ330や吸水配管331の内部の空気が徐々に吸引され、ポンプ330が水で満たされる。
【0074】
続いて、弁制御部214及びポンプ制御部212は、ポンプ330が満水になったか否かを判定する(ステップS104)。弁制御部214及びポンプ制御部212は、ポンプ330が満水になっていないと判定されたら(ステップS104,No)、ステップS104の処理を繰り返す。
【0075】
一方、弁制御部214及びポンプ制御部212は、ポンプ330が満水になったと判定されたら(ステップS104,Yes)、吸気弁344を「閉」に制御するとともに、真空ポンプ340を停止する(ステップS105)。
【0076】
続いて、ポンプ制御部212は、ポンプ330の始動運転を開始する(ステップS106)。具体的には、ポンプ制御部212は、電動機332に対して、ポンプ330を始動運転する信号を出力する。電動機332は、制御信号に基づいて、ポンプ330の始動運転を開始する。
【0077】
続いて、弁制御部214は、ポンプ停止指令を受信したか否かを判定する(ステップS107)。弁制御部214は、ポンプ停止指令を受信したと判定したら(ステップS107,Yes)、第1の弁開閉速度パターンに基づいて吐出弁334の開閉を制御する(ステップS108)。
【0078】
続いて、弁制御部214は、吐出弁334が全閉されたか否かを判定する(ステップS109)。弁制御部214は、吐出弁334が全閉されていないと判定したら(ステップS109,No)、ステップS108に戻って、第1の弁開閉速度パターンに基づく吐出弁334の開閉制御を行う。
【0079】
一方、弁制御部214は、吐出弁334が全閉されたと判定したら(ステップS109,Yes)、停止運動が終了したとみなして、処理を終了する。
【0080】
ステップS107において、弁制御部214は、ポンプ停止指令を受信していないと判定したら(ステップS107,No)、ポンプ330の始動運転が行われているものとみなして、第1の弁開閉速度パターンに基づいて吐出弁334の開閉を制御する(ステップS110)。
【0081】
続いて、弁制御部214は、吐出弁334が全開されたか否かを判定する(ステップS111)。弁制御部214は、吐出弁334が全開されていないと判定したら(ステップS111,No)、ステップS110に戻って、第1の弁開閉速度パターンに基づく吐出弁334の開閉制御を行う。
【0082】
一方、吐出弁334が全開されたと判定したら(ステップS111,Yes)、始動運転が終了したとみなして、ステップS107に戻って次の指令を待つ。
【0083】
本実施形態によれば、吐出弁334の小開度時の開閉速度を速く設定することにより、ポンプの小水量域での運転を短くすることができる。このため、キャビテーションによる損傷を最低限に抑え、ポンプ330の長寿命化を図ることが可能となる。
【0084】
<第2実施形態>
第2実施形態は、第1実施形態と同様にポンプ330の始動運転時又は停止運転時には、第1の弁開閉速度パターンに基づいて吐出弁334の開閉を制御することに加えて、ポンプ330が通常運転を行っている際には、第2の弁開閉速度パターンに基づいて吐出弁334の開閉を制御するものである。第1実施形態と重複する箇所については適宜説明を省略する。
【0085】
弁制御部214による制御の第2実施形態について説明する前に、本実施形態で用いるポンプの流量制御特性と、比較例について説明する。
図7は、本実施形態で用いるポンプの流量制御特性の一例を示す図である。
図8は、比較例における弁開閉速度パターンと単位弁開度速度あたりの流量変化率の一例を示す図である。
【0086】
図7において、横軸は、ポンプ330の流量(m
3/min)であり、縦軸は、揚程(m)である。グラフ401は、本実施形態で用いるポンプ330のQ−H曲線である。また、グラフ402〜グラフ409はそれぞれ、吐出弁334の弁開度が20°,30°,40°,50°,60°,70°,80°,90°の際の抵抗曲線である。グラフ401と、グラフ402〜グラフ409との交点が、ポンプ330の動作点となる。このような流量制御特性を有するポンプ330において、吐出弁334の弁開閉速度を固定した場合のポンプ330の流量変化率の比較例について、以下説明する。
【0087】
図8において、横軸は、吐出弁334の弁開度である。また、
図8において、左側の縦軸は、吐出弁334の単位弁開閉速度あたりのポンプ330の流量変化率であり、グラフ610が対応する。また、
図8において、右側の縦軸は、吐出弁334の弁開閉速度であり、グラフ620が対応する。
【0088】
図8は、グラフ620に示すように、吐出弁334の弁開閉速度を2sec/°、つまり約0.5(°/sec)に固定した場合に、ポンプ330の流量変化率(言い換えれば、吐出弁334の単位弁開閉速度あたりの水の流量変化率)をシミュレートしたものである。
【0089】
ここで、吐出弁334の単位弁開閉速度あたりの水の流量変化率について説明する。
図9は、吐出弁の開度変化による流量変化量の一例と、流量変化率の一例を示す図である。
【0090】
まず、表630は、吐出弁334の弁開度を変化させた場合に、1分間あたりの水の流量がどの程度変化したかを表すものである。例えば、表630に示すように、弁開度を90°から80°へ変化させた場合、1分間あたりの水の流量は0.1(m
3/min)変化する。
【0091】
一方、表640は、例えば弁開度を90°から80°へ変化させた場合の代表開度を85°とするように各弁開度の変化に対する代表開度を決めて、この各代表開度における流量変化量を、弁開閉速度(2sec/°)で割ることにより、流量変化率を求めたものである。例えば、代表開度85°については、流量変化量が0.1(m
3/min)であり、弁開閉速度が2(sec/°)であるので、流量変化率は、0.05((m
3/min)/(sec/°))となる。なお、流量変化率表640は、吐出弁334の弁開度によらず、弁開閉速度を一定の速度(全開〜全閉で4.5分)にした場合の値である。各代表開度における流量変化率をプロットすることによって、グラフ610が形成される。
【0092】
図8に示すように、吐出弁334の弁開閉速度を固定した場合、グラフ610に示すように、ポンプ330の流量変化率は、安定せず、約0〜約2.3((m
3/min)/(sec/°))の範囲で大きく値が振れる。
【0093】
このように、ポンプ330の流量変化率が不安定になった場合、送水配管333内の流量のハンチングや急激な圧力変動を起こしやすく、ポンプシステムの安定した運用が難しい場合がある。なお、吐出弁334の弁開閉速度を他の値(例えば2sec/°等)にした場合であっても、やはり弁開閉速度が固定されていれば、
図8と同様にポンプ330の流量変化率は不安定になる。
【0094】
これに対して、
図10は、第2実施形態における第2の弁開閉速度パターンと単位弁開度速度あたりの流量変化率の一例を示す図である。
【0095】
図10において、横軸は、吐出弁334の弁開度である。また、
図10において、左側の縦軸は、吐出弁334の単位弁開閉速度あたりのポンプ330の流量変化率であり、グラフ710が対応する。また、
図10において、右側の縦軸は、吐出弁334の弁開閉速度であり、グラフ720が対応する。
【0096】
図10に示すように、第2実施形態では、吐出弁334の弁開閉速度を固定せず、弁開度ごとに異なる値としている。すなわち、第2実施形態では、約20°〜約70°の弁開度の範囲では、弁開閉速度を約0.25(°/sec)未満にし、約70°〜約80°の弁開度の範囲では、弁開閉速度を約0.5(°/sec)にし、約80°〜約90°の弁開度の範囲では、弁開閉速度を約2.0(°/sec)にする。
【0097】
これによって、グラフ710に示すように、吐出弁334の単位弁開閉速度あたりのポンプ330の流量変化率は、約0.8((m
3/min)/(sec/°))で安定する。
【0098】
言い換えれば、吐出弁334の単位弁開閉速度あたりのポンプ330の流量変化率が、ある値(例えば0.8((m
3/min)/(sec/°)))で安定するように、吐出弁334の開度ごとの弁の開閉速度をあらかじめ設定するということである。あらかじめ設定された吐出弁334の開度ごとの弁の開閉速度(グラフ520)は、第2の弁開閉速度パターンを形成する。
【0099】
なお、本実施形態では、ポンプ330の流量変化率が、約0.8((m
3/min)/(sec/°))で安定するように、吐出弁334の開度ごとの弁の開閉速度を設定する
例を示したが、これには限られない。例えば、吐出弁334から吐出される水の単位時間あたりの流量の変化率が、あらかじめ設定された範囲内(例えば、0.2〜2.4((m
3/min)/(sec/°)))になるように、吐出弁334の開度ごとに弁の開閉速度を設定することもできる。また、吐出弁334から吐出される水の単位時間あたりの流量の変化率が、0.4〜1.6((m
3/min)/(sec/°))になるように、吐出弁334の開度ごとに弁の開閉速度を設定すると、好ましい。
【0100】
弁制御部214は、ポンプ330が通常運転をしているか、ポンプ330が始動信号に応じて始動運転をしているか、又はポンプ330が停止信号に応じて停止運転をしているかを判定する。そして、弁制御部214は、ポンプ330の通常運転時には、第2の弁開閉速度パターンにしたがって吐出弁334の開閉を制御し、始動運転時又は停止運転時には、第1の弁開閉速度パターンにしたがって、吐出弁334の開閉を制御する。
【0101】
したがって、本実施形態によれば、吐出弁334の単位弁開閉速度あたりの水の流量変化率を安定させることができる。その結果、送水配管333内の流量のハンチングや急激な圧力変動を抑制することができるので、ポンプシステムの安定した運用を図ることができる。
【0102】
なお、
図10の例では、吐出弁334の開度ごとに弁の開閉速度が階段状に異なる第2の弁開閉速度パターンを用いたが、これには限られない。
図11は、第2実施形態における第2の弁開閉速度パターンと単位弁開度速度あたりの流量変化率の他の例を示す図である。例えば、
図11のグラフ730に示すように、第2の弁開閉速度パターンは、なめらかに変化するよう設定することもできる。また、第2の弁開閉速度パターンは、グラフや表等により記憶させてもよく、近似曲線や関数として記憶させてもよい。
【0103】
また、実揚程変動が大きいポンプ設備においては、実揚程により、流量変化率が影響を受ける場合があるので、開閉速度の設定(関数)を、実揚程を変数とした関数として設定することが好ましい。なお、その場合は、吸吐出水位(又は圧力)を計測し、弁制御部214に入力させ、弁制御部214により、水位差(圧力差)より実揚程を算出させ、該当設定値(関数)で制御することができる。
【0104】
次に、第2実施形態におけるポンプの流量制御の方法について説明する。
図12は、第1実施形態におけるポンプの流量制御のフローチャートである。
【0105】
第2実施形態におけるステップS201〜S206は、第1実施形態におけるステップS101〜S106と同様であるので、説明を省略する。
【0106】
ステップS206の後、弁制御部214は、ポンプ停止指令を受信したか否かを判定する(ステップS207)。弁制御部214は、ポンプ停止指令を受信したと判定したら(ステップS207,Yes)、第1の弁開閉速度パターンに基づいて吐出弁334の開閉を制御する(ステップS208)。
【0107】
続いて、弁制御部214は、吐出弁334が全閉されたか否かを判定する(ステップS209)。弁制御部214は、吐出弁334が全閉されていないと判定したら(ステップS209,No)、ステップS208に戻って、第1の弁開閉速度パターンに基づく吐出弁334の開閉制御を行う。
【0108】
一方、弁制御部214は、吐出弁334が全閉されたと判定したら(ステップS209,Yes)、停止運動が終了したとみなして、処理を終了する。
【0109】
ステップS207において、弁制御部214は、ポンプ停止指令を受信していないと判定したら(ステップS207,No)、弁開度又は目標流量の指令を受信したか否かを判定する(ステップS210)。弁制御部214は、弁開度又は目標流量の指令を受信したと判定したら(ステップS210,Yes)、第2の弁開閉速度パターンに基づいて吐出弁334の開閉を制御する(ステップS211)。
【0110】
続いて、弁制御部214は、吐出弁334が目標開度に達したか、又はポンプ330の吐出流量(吐出弁334の吐出流量)が目標流量に達したか否かを判定する(ステップS212)。
【0111】
弁制御部214は、吐出弁334が目標開度に達しておらず、かつ、ポンプ330の吐出流量が目標流量に達していないと判定したら(ステップS212,No)、ステップS211に戻って、第2の弁開閉速度パターンに基づく吐出弁334の開閉制御を行う。
【0112】
一方、弁制御部214は、吐出弁334が目標開度に達したか、又はポンプ330の吐出流量が目標流量に達したと判定したら(ステップS212,Yes)、ステップS207に戻って次の指令を待つ。
【0113】
ステップS210において、弁制御部214は、弁開度又は目標流量の指令を受信していないと判定したら(ステップS210,No)、始動運転を行っているものとみなして、第1の弁開閉速度パターンに基づいて吐出弁334の開閉を制御する(ステップS213)。
【0114】
続いて、弁制御部214は、吐出弁334が全開されたか否かを判定する(ステップS214)。弁制御部214は、吐出弁334が全開されていないと判定したら(ステップS209,No)、ステップS213に戻って、第1の弁開閉速度パターンに基づく吐出弁334の開閉制御を行う。
【0115】
一方、吐出弁334が全開されたと判定したら(ステップS214,Yes)、始動運転が終了したとみなして、ステップS207に戻って次の指令を待つ。
【0116】
以上、本実施形態によれば、吐出水の単位時間あたりの流量変化率を安定させることができる。すなわち、従来の吐出弁制御の場合、
図8に示すように、吐出弁334の各開度で流量変化率が大きく異なってしまい、目標流量に対してフィードバック制御をかけても、なかなか流量が安定しない場合がある。これに対して、本実施形態のように、あらかじめ、流量変化率が略一定になるような第2の弁開閉速度パターンの設定を行っておき、第2の弁開閉速度パターンに基づいて吐出弁334の開閉を制御することにより、より安定した(流量のハンチングがない)吐出弁制御が可能となる。その結果、送水配管333内の流量のハンチングや急激な圧力変動を抑制することができるので、ポンプシステムの安定した運用を図ることができる。
【0117】
さらに、高度処理等に使用するポンプなどでは、吐出流量の急変は、波立ちを含め、吐出側の処理設備に影響を及ぼす等の課題があり、回転速度制御などの高価な設備が必要であったが、本実施形態によれば、簡易に流量変化率を一定に保つことができ、安価な弁制御での対応が可能となる。また、本実施形態によれば、ポンプ330の運転状態を判断し、適用用途に応じて吐出弁334の制御モードを分けたことによって、各運転時における最適な吐出弁334の制御を行うことができるので、より操作性・信頼性の高めることができる。
【0118】
<第3実施形態>
第3実施形態は、第2実施形態と同様に第1又は第2の弁開閉速度パターンに基づいて吐出弁334の開閉を制御することに加えて、ポンプ330がトリップ(電源断)した際には、第3の弁開閉速度パターンに基づいて吐出弁334の開閉を制御するものである。第1,第2実施形態と重複する箇所については適宜説明を省略する。
【0119】
図13は、第3実施形態における第3の弁開閉速度パターンの一例を示す図である。
図13において、横軸は、吐出弁334の弁開度であり、縦軸は、吐出弁334の弁開閉速度(°/sec)である。
【0120】
図13のグラフ810に示すように、吐出弁334の第3の弁開度領域(0°〜約20°)に対しては、約2.0°/secの弁開閉速度が設定されている。また、第3の弁開度領域より大きい吐出弁334の第4の弁開度領域(約20°〜90°)に対しては、第3の弁開度領域における弁開閉速度より大きい約4.67°/secの弁開閉速度が設定されている。
【0121】
図13に示すようにあらかじめ設定された吐出弁334の開度ごとの弁の開閉速度(グラフ710)は、第3の弁開閉速度パターンを形成する。
【0122】
弁制御部214は、ポンプ330が始動信号に応じて始動運転をしているか、ポンプ330が停止信号に応じて停止運転をしているか、又は、ポンプ330が停電による緊急停止信号に応じて緊急停止運転をしているかを判定する。そして、弁制御部214は、ポンプ330の始動運転時又は停止運転時には、第1の弁開閉速度パターンにしたがって吐出弁334の開閉を制御し、緊急停止運転時には、無停電電源202を用いて、第3の弁開閉速度パターンにしたがって、吐出弁334の開閉を制御する。なお、弁制御部214は、これに加えて、ポンプ330が通常運転をしているかを判定し、通常運転時には、第2の弁開閉速度パターンにしたがって、吐出弁334の開閉を制御することができる。
【0123】
なお、緊急停止運転とは、ポンプ330が動作中に停電などが生じた場合に、ポンプ330を緊急停止するために、吐出弁334を急速に全閉する運転である。
【0124】
本実施形態によれば、例えばポンプ設備の停電などによってポンプトリップが発生した場合に、第4の弁開度領域(大開度領域)においては、第3の弁開度領域(小開度領域)における第3の範囲内の弁開閉速度より大きい第4の範囲内の弁開閉速度によって弁を閉止制御する。これにより、ポンプトリップが発生した場合に、第4の弁開度領域(大開度領域)において急速に弁を閉止制御するとともに、弁が完全に閉止される直前の第3の弁開度領域においては、緩やかに弁を閉止することによって衝撃音の発生などを抑制することができる。また、本実施形態によれば、ポンプトリップ時に、吐出弁334を全閉にすることにより、吐出弁334を逆止弁として機能させることができる。その結果、従来用いられていた逆止弁を省略することが可能となり、システムの簡素化を図ることができる。
【0125】
なお、
図13の例では、吐出弁334の弁開度が約20°であるところを境に吐出弁334の開閉速度が変わる例を示したが、これには限られない。例えば、吐出弁334の開度が20°以下の小開度領域において、吐出弁334の開閉速度を変えることもできる。
【0126】
また、
図13では、吐出弁334の第3の弁開度領域(0°〜約20°)に対して弁開閉速度(約2.0°/sec)が固定して設定される例を示したが、これには限られない。例えば、弁開閉速度は、1つの値に固定するのではなく、第3の範囲(例えば、約0.5°/sec以上約4.0°/sec未満)内で流動的に設定することができる。
【0127】
また、
図13では、吐出弁334の第4の弁開度領域(約20°〜90°)に対して弁開閉速度(約4.67°/sec)が固定して設定される例を示したが、これには限られない。例えば、弁開閉速度は、1つの値に固定するのではなく、第4の範囲(例えば、約1.0°/sec以上約6.0°/sec未満)で流動的に設定することができる。
【0128】
次に、本実施形態における弁開閉の制御のタイムチャートを説明する。
図14は、第3実施形態における弁開閉の制御のタイムチャートの一例を示す図である。
【0129】
図14において、横軸は、ポンプ330の緊急停止運転における時間経過(動作時間)であり、縦軸は、吐出弁334の弁開度である。
図14は、吐出弁334が90°の開度の場合(第4の開度領域にある場合)に緊急停止指令を受信した場合の、緊急停止運転のタイムチャートである。
【0130】
図14のグラフ820に示すように、弁制御部214は、緊急停止指令を受信したら、吐出弁334を第4の範囲内の弁開閉速度(約4.67°/sec)で閉止制御する。ここでは、吐出弁334にリフト動作があるので、リフト動作中には開度は90°のままである。リフト動作が終わったら、吐出弁334の弁開度は90°から約20°まで急速に閉止される。つまり、0秒から20秒までの間は、急速に吐出弁334の閉動作を行うことになる。
【0131】
続いて、弁制御部214は、吐出弁334の弁開度が約20°(第3の弁開度領域)まで閉止されたら、この約20°で所定時間(
図14の例では、20秒間)、吐出弁334の閉止制御を停止する。つまり、20秒から40秒までの間は、吐出弁334の小開度を維持することになる。
【0132】
そして、弁制御部214は、所定時間経過後、第3の範囲内の弁開閉速度(約2.0°/sec)によって吐出弁334を閉止制御する。つまり、40秒から60秒までの間は、緩やかに吐出弁334の閉動作を行うことになる。なお、ここでは、吐出弁334にシート動作があるので、50秒から60秒までの間は、吐出弁334のシート動作が行われる。
【0133】
本実施形態によれば、ポンプトリップにより水撃作用が発生して送水配管333の圧力上昇が発生したとしても、吐出弁334の開度が第3の弁開度領域まで閉止されたところで吐出弁334の閉止制御を所定時間停止するので、この間に、ポンプ330の吐出側の圧力をポンプ330の吸込側に逃がすことができる。その結果、ポンプ330の吐出側の圧力上昇を抑制することができるので、送水配管333の破損を防止することができる。
【0134】
次に、第3実施形態におけるポンプの流量制御の方法について説明する。
図15は、第3実施形態におけるポンプの流量制御のフローチャートである。
【0135】
第3実施形態におけるステップS301〜S306は、第1実施形態におけるステップS101〜S106と同様であるので、説明を省略する。
【0136】
ステップS306の後、弁制御部214は、ポンプトリップによるポンプ緊急停止指令を受信したか否かを判定する(ステップS307)。弁制御部214は、ポンプ緊急停止指令を受信したと判定したら(ステップS307,Yes)、第3の弁開閉速度パターンに基づいて吐出弁334の開閉を制御する(ステップS308)。
【0137】
続いて、弁制御部214は、吐出弁334が全閉されたか否かを判定する(ステップS309)。弁制御部214は、吐出弁334が全閉されていないと判定したら(ステップ
S309,No)、ステップS308に戻って、第3の弁開閉速度パターンに基づく吐出弁334の開閉制御を行う。
【0138】
一方、弁制御部214は、吐出弁334が全閉されたと判定したら(ステップS309,Yes)、緊急停止運動が終了したとみなして、処理を終了する。
【0139】
ステップS307において、弁制御部214は、ポンプ緊急停止指令を受信していないと判定したら(ステップS307,No)、ポンプ停止指令を受信したか否かを判定する(ステップS310)。弁制御部214は、ポンプ停止指令を受信したと判定したら(ステップS310,Yes)、第1の弁開閉速度パターンに基づいて吐出弁334の開閉を制御する(ステップS311)。
【0140】
続いて、弁制御部214は、吐出弁334が全閉されたか否かを判定する(ステップS312)。弁制御部214は、吐出弁334が全閉されていないと判定したら(ステップS312,No)、ステップS311に戻って、第1の弁開閉速度パターンに基づく吐出弁334の開閉制御を行う。
【0141】
一方、弁制御部214は、吐出弁334が全閉されたと判定したら(ステップS312,Yes)、停止運動が終了したとみなして、処理を終了する。
【0142】
ステップS310において、弁制御部214は、ポンプ停止指令を受信していないと判定したら(ステップS310,No)、弁開度又は目標流量の指令を受信したか否かを判定する(ステップS313)。弁制御部214は、弁開度又は目標流量の指令を受信したと判定したら(ステップS313,Yes)、第2の弁開閉速度パターンに基づいて吐出弁334の開閉を制御する(ステップS314)。
【0143】
続いて、弁制御部214は、吐出弁334が目標開度に達したか、又はポンプ330の吐出流量(吐出弁334の吐出流量)が目標流量に達したか否かを判定する(ステップS315)。
【0144】
弁制御部214は、吐出弁334が目標開度に達しておらず、かつ、ポンプ330の吐出流量が目標流量に達していないと判定したら(ステップS315,No)、ステップS314に戻って、第2の弁開閉速度パターンに基づく吐出弁334の開閉制御を行う。
【0145】
一方、弁制御部214は、吐出弁334が目標開度に達したか、又はポンプ330の吐出流量が目標流量に達したと判定したら(ステップS315,Yes)、ステップS307に戻って次の指令を待つ。
【0146】
ステップS313において、弁制御部214は、弁開度又は目標流量の指令を受信していないと判定したら(ステップS313,No)、始動運転を行っているものとみなして、第1の弁開閉速度パターンに基づいて吐出弁334の開閉を制御する(ステップS316)。
【0147】
続いて、弁制御部214は、吐出弁334が全開されたか否かを判定する(ステップS317)。弁制御部214は、吐出弁334が全開されていないと判定したら(ステップS317,No)、ステップS316に戻って、第1の弁開閉速度パターンに基づく吐出弁334の開閉制御を行う。
【0148】
一方、吐出弁334が全開されたと判定したら(ステップS317,Yes)、始動運転が終了したとみなして、ステップS307に戻って次の指令を待つ。
【0149】
本実施形態によれば、ポンプトリップにより水撃作用が発生し、送水配管333内に圧力上昇が発生するような場合であっても、吐出弁334を全閉付近で緩閉鎖させ、圧力を吸い込み側に逃がすことができるので、送水配管333内の圧力上昇を抑え、送水配管333の破損を防止することが可能である。また、本実施形態のように、可変速で、任意に設定可能な制御機構を用いたことにより、従来の油圧緩閉式逆止弁等の開閉速度設定が難しい設備に比べ、より確実にシミュレーションによる対策方法(開閉タイミング)を設備の仕様に入れ込むことができ、安全で信頼性の高い設備が構築できる。また、本実施形態によれば、吐出弁334の開閉速度の再設定ができることにより、ポンプ増設、増量等による送水量の変更があった場合でも、シミュレーションに合った再設定(開閉タイミング)が可能となり、安全で信頼性の高い設備を構築することができる。