(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
リソグラフィ装置の動作中に当該構造の近傍にある気体の平均自由行程よりも小さいピッチを有する構造が設けられた表面を有するリソグラフィ装置部品であって、前記気体は20パスカルから1パスカルの圧力を有し、
前記リソグラフィ装置部品が、
使用時に基板または基板テーブルと対面する表面を有する投影系の壁、または、
基板テーブルであるリソグラフィ装置部品。
【発明を実施するための形態】
【0041】
図1は、本発明の一実施形態に係るリソグラフィ装置100を模式的に示す図である。リソグラフィ装置は、放射ビームB(例えばEUV放射)を調整するよう構成された照明系(イルミネータ)ILと、パターニングデバイス(例えばマスクまたはレチクル)MAを支持するよう構成されるとともに、パターニングデバイスを正確に位置決めするよう構成された第1ポジショナPMに接続されている支持構造(例えばマスクテーブル)MTと、基板(例えば、レジストでコーティングされたウェーハ)WAを保持するよう構成されるとともに、基板を正確に位置決めするよう構成された第2ポジショナPWに接続されている基板テーブル(例えばウェーハテーブル)WTと、パターニングデバイスMAにより放射ビームBに付与されたパターンを基板WAの(例えば一つまたは複数のダイを含む)目標部分Cに投影するように構成された投影系(例えば反射型投影系)PSと、を備える。
【0042】
照明系は、放射の向きや形状を変え、または放射を統制するために、屈折光学素子、反射光学素子、磁気的光学素子、電磁気的光学素子、静電的光学素子、または他の種類の光学素子などの各種の光学素子、あるいはこれらの組合せを含み得る。
【0043】
支持構造MTは、パターニングデバイスの向き、リソグラフィ装置の設計、及びパターニングデバイスが真空環境で保持されるか否か等のその他の条件に応じた方式でパターニングデバイスMAを保持する。支持構造は、機械的固定、真空固定、静電固定、またはパターニングデバイスを保持するその他の固定技術を用いてもよい。支持構造は、例えばフレームまたはテーブルであってもよく、これらは固定されていてもよいし必要に応じて移動可能であってもよい。支持構造は、例えば投影系に対して所望の位置にパターニングデバイスが存在することを保証してもよい。
【0044】
「パターニングデバイス」なる用語は、基板の目標部分にパターンを生成するためなどに放射ビームの断面にパターンを与えるのに使用される何らかのデバイスを指すものと広義に解釈されるべきである。放射ビームに付与されるパターンは、目標部分に生成される集積回路等のデバイスにおける特定の機能層に対応する。
【0045】
パターニングデバイスは、透過型であってもよいし反射型であってもよい。パターニングデバイスの例にはマスク、プログラム可能ミラーアレイ、及びプログラム可能LCDパネルが含まれる。マスクはリソグラフィにおいて周知であり、バイナリマスク、レベンソン型位相シフトマスク、減衰型位相シフトマスク、さらには多様なハイブリッド型マスクなどのマスク種類が含まれる。プログラム可能ミラーアレイは例えば、微小ミラーのマトリックス配列で構成される。各微小ミラーは、入射する放射ビームを異なる複数の方向に反射するよう個別的に傾斜可能である。ミラーマトリックスにより反射された放射ビームには、傾斜されたミラーによってパターンが付与されている。
【0046】
投影系は、照明系と同様に、使用される露光放射または真空の使用などの他の要因に適した、屈折光学素子、反射光学素子、磁気的光学素子、電磁気的光学素子、静電的光学素子、または他の種類の光学素子などの各種の光学素子、あるいこれらの組合せを含み得る。過剰な放射を気体が吸収するので、EUV放射のために真空を使用することが望ましい場合もある。したがって、真空壁及び真空ポンプの助けを借りて、ビーム経路の全体に真空環境が与えられてもよい。例えば、汚染物質(例えば基板WA上のレジストから生じる気相有機化合物)がリソグラフィ装置の光学部品に到達する可能性を低減するために気体流を使用できるようにするために、リソグラフィ装置の一部の部品にいくらかの気体を提供してもよい。
【0047】
図示のように、このリソグラフィ装置は反射型(例えば反射型マスクを採用する)である。
【0048】
リソグラフィ装置は二つ(デュアルステージ)またはそれ以上の基板テーブル(及び/または二つ以上のマスクテーブル)を備えるタイプであってもよい。このような「多重ステージ型」の装置においては、追加のテーブルが並行して使用されるか、あるいは一つ以上のテーブルで露光が行われている間に一つ以上のテーブルで準備工程が実行されるようにしてもよい。
【0049】
図1を参照すると、イルミネータILは光源コレクタモジュールSOから極端紫外(EUV)放射ビームを受け取る。EUV光を生成する方法には、EUV範囲内で一つ以上の輝線を持つ例えばキセノン、リチウムまたはスズなどの少なくとも一つの元素を有する材料をプラズマ状態に変換することが含まれるが、これに限定する必要はない。そのような一つの方法(しばしばレーザ生成プラズマ(LPP)と呼ばれる)では、必要な輝線元素を有する材料の液滴、ストリームまたはクラスターなどの燃料をレーザビームで照射することによって、所望のプラズマを発生させることができる。光源コレクタモジュールSOは、
図1には示されていない、燃料を励起するレーザビームを提供するためのレーザを備えるEUV照射システムの一部であってもよい。得られたプラズマは、例えばEUV放射である出力放射を発し、光源コレクタモジュール内に配置された放射コレクタを使用して放射が集められる。例えばCO
2レーザを使用して燃料を励起するレーザビームを提供するとき、レーザと光源コレクタモジュールは別個の存在であってもよい。
【0050】
このような場合、レーザはリソグラフィ装置の一部を形成するとはみなされず、例えば適切な指向ミラー及び/またはビームエキスパンダを備えるビーム搬送系の助けを借りて、レーザから光源コレクタモジュールへと放射ビームを通過させる。他の場合では、例えば光源が放電生成プラズマEUVジェネレータ(しばしばDPP源と呼ばれる)であるとき、光源は光源コレクタモジュールの一体部品であってもよい。
【0051】
イルミネータILは放射ビームの角強度分布を調整するアジャスタを備えてもよい。一般には、イルミネータの瞳面における照度分布の少なくとも外径及び/または内径の値(通常それぞれ「σouter」、「σinner」と呼ばれる)を調整することができる。加えてイルミネータILは、ファセットフィールド(facetted field)及び瞳ミラーデバイスなどの様々な他の部品を備えてもよい。イルミネータはビーム断面における所望の均一性及び照度分布を得るべく放射ビームを調整するために用いられる。
【0052】
放射ビームBは、支持構造(例えばマスクテーブル)MTに保持されているパターニングデバイス(例えばマスク)MAに入射して、当該パターニングデバイスによりパターンが付与される。パターニングデバイス(例えばマスク)MAから反射された後に、放射ビームBは投影系PSを通過する。投影系PSはビームを基板WAの目標部分Cに合焦させる。第2ポジショナPWと位置センサPS2(例えば、干渉計、リニアエンコーダ、静電容量センサなど)の助けを借りて、基板テーブルWTは正確に移動され、放射ビームBの経路に異なる複数の目標部分Cを位置決めする。同様に、第1ポジショナPM及び別の位置センサPS1を使用して、放射ビームBの経路に対してパターニングデバイス(例えばマスク)MAを正確に位置決めすることができる。マスクアライメントマークM1、M2及び基板アライメントマークP1、P2を使用して、パターニングデバイス(例えばマスク)MA及び基板WAを位置合わせすることができる。
【0053】
図示のリソグラフィ装置は以下のモードのうち少なくとも一つで使用することができる。
1.ステップモードでは、放射ビームに付与されたパターンの全体が1回の照射で一つの目標部分Cに投影される間、支持構造(例えばマスクテーブル)MT及び基板テーブルWTは実質的に静止状態とされる(すなわち1回の静的な露光)。そして基板テーブルWTがX方向及び/またはY方向に移動されて、異なる目標部分Cが露光される。
2.スキャンモードでは、放射ビームに付与されたパターンが目標部分Cに投影される間、支持構造(例えばマスクテーブル)MT及び基板テーブルWTは同期して走査される(すなわち1回の動的な露光)。支持構造(例えばマスクテーブル)MTに対する基板テーブルWTの速度及び方向は、投影系PSの拡大(縮小)特性及び像反転特性により定められる。
3.別のモードでは、放射ビームに付与されたパターンが目標部分Cに投影される間、支持構造(例えばマスクテーブル)MTはプログラム可能パターニングデバイスを保持して実質的に静止状態とされ、基板テーブルWTは移動または走査される。パルス放射源が用いられ、プログラム可能パターニングデバイスは走査中に基板テーブルWTが移動するたびに、または連続する放射パルスの間に必要に応じて更新される。この動作モードは、上記のプログラム可能ミラーアレイなどのプログラム可能パターニングデバイスを使用するマスクレスリソグラフィに直ちに適用することができる。
【0054】
上記のモードを組み合わせて動作させてもよいし、モードに変更を加えて動作させてもよく、さらに全く別のモードを用いてもよい。
【0055】
図2は、光源コレクタモジュールSO、照明系IL及び投影系PSを含む装置100をより詳細に示す図である。光源コレクタモジュールSOは、該コレクタモジュールSOの閉鎖構造220内で真空環境が維持されるように構成され配置されている。プラズマ210を発するEUV放射を、放電生成プラズマ光源によって形成することができる。EUV放射は、例えばXeガス、Li蒸気、またはSn蒸気等の気体または蒸気によって生成される。この気体または蒸気中で非常に高温のプラズマ210が生成されてEUV領域の電磁スペクトルの放射が発せられる。非常に高温のプラズマ210は、例えば放電により少なくとも部分的にイオン化されたプラズマを生成することにより発生する。効率的に放射を生成するためには、Xe、Li、Sn蒸気またはその他の任意の適する気体または蒸気の例えば10Paの分圧が必要である。一実施形態では、EUV放射を生成するために励起されたスズ(Sn)のプラズマが提供される。
【0056】
高温プラズマ210が発する放射は光源チャンバ211から選択的なガスバリアまたは汚染物質トラップ230(一部の場合では、汚染マリアまたはホイルトラップとも呼ばれる)を経由してコレクタチャンバ212へと向かう。汚染物質トラップ230はチャネル構造を備えてもよい。汚染物質トラップ230は、ガスバリア、またはガスバリアとチャネル構造の組み合わせを備えてもよい。汚染物質トラップまたは汚染物質バリア230は、当分野で周知であるチャネル構造を少なくとも備える。
【0057】
コレクタチャンバ211は、いわゆる斜入射型コレクタであってもよい放射コレクタCOを含んでもよい。放射コレクタCOは、放射コレクタ上流側部251と放射コレクタ下流側部252とを有する。コレクタCOを横切った放射は格子スペクトルフィルタ240で反射され、仮想光源点IFに集束する。仮想光源点IFは一般に中間焦点と呼ばれ、光源コレクタモジュールは、閉鎖構造220内の開口221にまたはその近傍に中間焦点IFが位置するように配置される。仮想光源点IFは、放射を発するプラズマ210の像である。
【0058】
続いて、放射は照明系ILを横切る。照明系ILは、パターニングデバイスMAにおける所望の放射強度の一様性と同様に、パターニングデバイスMAにおける放射ビーム21の所望の角度分布を提供するように配置されたファセットフィールドミラーデバイス22及び瞳ミラーデバイス24を備えてもよい。支持構造MTによって保持されたパターニングデバイスMAで放射ビーム21が反射すると、パターン付与されたビーム26が形成される。パターン付与されたビーム26は、投影系PSによって、反射素子28、30を経由してウェハステージまたは基板テーブルWTで保持された基板上に結像される。
【0059】
一般に、図示よりも多くの素子が照明光学ユニットIL及び投影系PS内に存在してもよい。リソグラフィ装置のタイプに応じて、格子スペクトルフィルタ240が選択的に存在してもよい。さらに、図に示すよりも多くのミラーが存在してもよい。例えば、1−6枚の追加の反射素子が
図2に示す投影系PS内に存在してもよい。
【0060】
図2に示すコレクタ光学素子COは、コレクタ(またはコレクタミラー)の一例として、斜入射リフレクタ253、254、255を有する入れ子コレクタとして描かれている。斜入射リフレクタ253、254、255は光軸Oの周りに軸対称に配置される。このタイプのコレクタ光学素子COは、DPP源としばしば呼ばれる放電生成プラズマ光源とともに使用されることが好ましい。
【0061】
代替的に、光源コレクタモジュールSOは、
図3に示すようなLPP放射系の一部であってもよい。レーザLAは、キセノン(Xe)、スズ(Sn)またはリチウム(Li)などの燃料内にレーザエネルギーを配置するように構成され、数十eVの電子温度を持つ高イオン化されたプラズマを生成する。これらのイオンの脱励起(de-excitation)及び再結合中に発生するエネルギー放射がプラズマから発せられ、近くの垂直入射コレクタ光学素子COによって収集され、閉鎖構造220内の開口221上に合焦される。
【0062】
図4は、投影系PSの下部の模式的な断面図である。投影系PSは、ダクト画成壁302(以下では、開口画成壁302とも呼ぶ)の傾斜内面304によって形成された開口301を備える。傾斜内面304内に形成された環状スリット306は、開口301内にガスを運ぶように構成されている。環状スリット306には環状チャンバ308が接続され、環状チャンバ308はパイプ310に接続される。パイプ310、環状チャンバ308及び環状スリット306を合わせて、気体を開口301に運ぶ導管を形成していると考えてもよい。開口301は基板テーブルの反対側に位置している。開口から基板へと移動する気体は、投影系の光学部品に汚染物質が到達する可能性を低減する役割を有している。導管は、任意の他の適切な形態であってもよい。導管は例えば、パイプ310が複数のパイプのうちの一つであるような互いに隣接して走る複数のパイプを含んでもよい。この説明では、パイプ310への言及は複数のパイプを包含するものとみなしてもよい。
【0063】
投影系の壁313に隣接して位置するミラー28aが
図4に示されている。ミラー28aは、
図2に示したミラー28と同様の機能を実行する。すなわち、マスクMA(
図2参照)から基板WAへと放射を反射するために、(通常は他のミラーと組み合わせて)ミラー28aが用いられる。
図2におけるミラー28の位置は模式的であるとみなしてもよく、実際のEUVリソグラフィ装置は、
図4に示すように、基板テーブルWTに近接したミラー28aを有している可能性が高い。
【0064】
開口画成壁302は、基板テーブルWTに向けて延びる突出部320を備える。突出部320は、開口301の傾斜内面304を延長する役割を果たす。これによって、投影系PS内への汚染物質の通過の抑制を改善する(汚染物質抑制メカニズムについてはさらに後述する)。一実施形態では、突出部320が省かれてもよい。
【0065】
使用時、基板テーブルWTによって支持された基板WAは、図示のように投影系PSの下方に配置される。マスク(
図4には示さず)によってEUV放射にパターンが付与され、続いて開口301を通して基板WA上に投影される。これにより、基板上にパターンを露光する。EUV放射ビームの外側部分が開口画成壁302の傾斜内面304と実質的に平行となるように、EUV放射は収束放射ビームとして合焦されてもよい。
【0066】
基板WAから投影系PSの内部へと汚染物質(例えば、基板WA上のレジストから生じる気相有機化合物)が移動する可能性を低減することが望ましい。この理由は、ミラー28aなどの光学表面に汚染物質が蓄積し、光学表面の反射率を低下させるおそれがあるからである。反射率の低下は、基板WA上への投影で利用できるEUV放射の強度を低下させ、リソグラフィ装置のスループット(すなわち、リソグラフィ装置により時間当たりにパターニング可能な基板の数)を低下させる
【0067】
環状スリット306を通して開口301に流れる気体は、基板WAから開口301を通り投影系PSへと汚染物質が移動する可能性を低下させる。気体(水素ガスであってもよい)の流れは、
図4に矢印によって模式的に示されている。気体はパイプ310を通り環状チャンバ308内に移動する。環状スリット306の入口における気体圧が環状チャンバの外周と実質的に等しくなるように、気体が環状チャンバ308内に移動する。環状チャンバ308は、気体が環状チャンバ内を移動するように促す役割をするバッフル(図示せず)を備えてもよく、これによって環状チャンバ内の気体の圧力の平準化をアシストする。気体は環状スリット306を通り開口301内に入る。気体の一部は投影系PS内へと上向きに移動する。残りの気体は下向きに移動し、開口301を出て、その後投影系PSと基板WAの間の隙間内を開口から離れて移動する。開口301から出る気体の流れが、基板WAから投影系PS内への汚染物質の通過を防止または抑制する。
【0068】
開口301から基板WA上への気体の流れは、望ましくない方法で基板を加熱または冷却することがある。気体による基板の加熱及び冷却の程度を低減することが望ましい場合がある。以下の説明では「加熱」という用語を使用するが、本発明は冷却の低減に対しても等しく適用することができる。本発明の一実施形態では、使用時に基板WAまたは基板テーブルWTと対面する投影系の壁313が、0.4以上の実効熱適応係数(effective thermal accommodation coefficient)を有するように壁を構成することによって、これを実現することができる(実効熱適応係数は後で定義する)。本発明の一実施形態では、投影系の壁313が従来の投影系の壁からよりも気体からより多くの熱を吸収するように壁313を構成することによって、これを実現することができる。本発明の一実施形態では、投影系の壁313が従来の基板からよりも気体からより多くの熱を吸収するように壁313を構成することによって、これを実現することができる。本発明の一実施形態では、投影系の壁313が基板テーブルWTからよりも気体からより多くの熱を吸収するように壁313を構成することによって、これを実現することができる。一実施形態では、表面の熱適応係数を増加させるように構成された構造を、投影系の壁313に設けることによって、これを実現してもよい。例えば、使用時に基板WAと対面する壁の表面と直交する断面内で周期的に断面高さが変化するようにして壁313の構造を実現してもよい。このような構造の例について、
図5、6及び7の文脈内で以下で説明する。
【0069】
実質的に滑らかな材料表面の熱適応係数は既知のパラメータであり、例えば、「Correlation of Thermal Accommodation Coefficient for 'Engineering' Surfaces by S. Song and M. M. Yovanovich, American Society of Mechanical Engineers, 1987, p. 107-116」で説明されており、参照により本明細書に援用される。その文書内で説明されているように、滑らかな材料表面に対して熱適応係数が定義され測定される。熱適応係数は、気体から材料へと熱負荷が伝達される度合いを定める(熱適応係数は、気体から材料へと伝達される過剰エネルギーの割合であるとみなすこともできる)。熱適応係数αは次式で定義される。
【数3】
ここで、E
i及びE
rsは、気体分子の熱エネルギーによる入射エネルギー束及び反射エネルギー束であり、E
ssは、材料の実質的に滑らかな表面と気体が熱的平衡にある場合に反射されるエネルギー束である。熱適応係数は、理論上、0(気体から材料に熱が伝達されない)と1(全ての熱が気体から材料に伝達される)の間で変化する。
【0070】
「Correlation of Thermal Accommodation Coefficient for 'Engineering' Surfaces by S. Song and M. M. Yovanovich, American Society of Mechanical Engineers, 1987, p. 107-116」は、固定表面に対する熱適応係数の予測について説明している。加えて、この論文は、以前の著者によって測定された熱適応係数の値に言及している。これらの値は、水素ガスが入射する材料表面について使用される熱適応係数0.26を含む。これらの値は、ヘリウムガスが入射する材料表面に対する熱適応係数0.07〜0.38を含む。簡単のために、文脈が許す限り、熱適応係数を有する物体(壁313など)に対するあらゆる言及は、使用時に基板に隣接または近接する物体表面の熱適応係数を指すものと解釈されてもよい。リソグラフィ装置で使用される多くの材料(例えば、アルミニウム、鋼、シリコンを含浸させた炭化ケイ素(silicon-infiltrated silicon carbide)、及びガラス)の表面が、水素ガスに対して約0.3の熱適応係数を有していてもよい。
【0071】
基板WAは、その上にEUV放射によってパターンが露光されるフォトレジストを含む上面を有してもよい。フォトレジストは、例えば、上述の値0.26と同様の、水素ガスに対する熱適応係数を有していてもよい。簡単のために、ここでは、フォトレジストが水素ガスに対して約0.3の熱適応係数を有すると仮定する。説明を簡単にするために、フォトレジストの存在に明確に言及することなく、基板WA及び基板の表面に言及することがある。基板WA及び基板表面への言及は、必要に応じて、フォトレジストを含むとみなしてもよい。
【0072】
従来のリソグラフィ装置では、投影系の壁313が約0.3の熱適応係数を有していてもよい(すなわち、基板WAと同一または類似の熱適応係数を有していてもよい)。したがって、基板WAと投影系の壁313の間を気体が流れるときに(
図4を参照)、気体と基板WAとの間で交換される熱量は、気体から投影系に伝達される熱量と同一または同様であってもよい。投影系の壁313に、基板WAよりも大きな熱適応係数を与えることが望ましい場合がある。その理由は、基板よりも投影系の方に気体からより多くの熱が交換されるようになるからである。これは、基板WAによって気体から吸収される熱量を低下させ、加熱により生じる基板の膨張を減少させるので、望ましい場合もある。このような膨張の減少は、基板上に投影されるパターンの、以前に投影されたパターン上への重ね合わせ精度を改善するので、望ましい場合がある。
【0073】
投影系の壁313の熱適応係数が1または1に近い場合、気体からウェハWに伝達される熱負荷は、全熱源の約α/2の割合になる(αは基板WAの熱適応係数)。この文脈において、全熱源という用語は、基板WAと投影系の壁313の間の隙間を気体が通過するときに、気体から伝達される熱の全体を意味するとみなしてもよい。この例のために、気体の圧力が十分に小さく、気体分子の平均自由行程が、基板WAと投影系の壁313の間の距離と同程度であるかそれより大きいと仮定する。基板WAの熱適応係数が0.3である場合、基板に付与される熱負荷が、全熱負荷の0.3/2(15%)に低下し、全熱負荷の1.7/2(85%)が投影系の壁313に付与される。こうして、基板WAに付与される熱負荷が、約50%から約15%へと3.3分の1に減少する。
【0074】
実際には、投影系の壁313に1または1に近い熱適応係数を与えることは不可能であることもある。しかしながら、投影系の壁313に、基板WAの熱適応係数よりも著しく大きな実効熱適応係数を与えることは可能である。投影系の壁313の実効熱適応係数α
EEFは次式により定義することができる。
【数4】
ここで、E
i及びE
rは、気体分子の熱エネルギーによる入射エネルギー束及び反射エネルギー束であり、E
sは、材料の表面と気体が熱的平衡にある場合に反射されるエネルギー束である。式(2)は、投影系の壁313の構造を考慮に入れている(すなわち、投影系の壁が実質的に滑らかな表面でないと仮定している)。投影系の壁313に構造(例えば反復構造)を設けることによって、投影系の実効熱適応係数α
EEFを増加させることができる。構造は、例えば、一連のリッジを含んでもよいし、ハニカム構造などの複数の穴の配列であってもよい。
【0075】
一実施形態では、投影系の壁313は、基板WAの熱適応係数(または、異なる場合には、基板の実効熱適応係数)よりも著しく大きな実効熱適応係数を有してもよい。一実施形態では、投影系の壁313は、水素ガスに対して0.4以上、0.6以上、または0.8以上の実効熱適応係数を有してもよい。一実施形態では、投影系の壁313は、ヘリウムガスに対して0.5以上、0.7以上、または0.9以上の実効熱適応係数を有してもよい。一実施形態では、投影系の壁313は、投影系の壁の形成に使用される材料の熱適応係数(すなわち、その材料から形成される滑らかな表面の熱適応係数)よりも著しく大きな実効熱適応係数を有してもよい。
【0076】
構造は、例えば
図5に断面図で示すように、投影系の壁313から延びる複数のリッジ(突起部)を備えてもよい。例えば、投影系の壁313内に溝を刻むことによってリッジ350が形成されてもよい。
図5は、投影系の壁313の一部と基板WAの一部を示し、投影系の壁から基板に向けて延びる複数のリッジ350を示している。リッジの幅Wと深さDを決定するときに、基板WAと投影系の壁との間の隙間を移動するときの気体分子の平均自由行程を考慮に入れてもよい。同様に、反復リッジ構造に特徴的なピッチなどのリッジの他の特性を決定するときに、基板WAと投影系の壁の間の隙間を移動するときの気体分子の平均自由行程を考慮に入れてもよい。
【0077】
一実施例では、基板WAと投影系の壁313との間の隙間内の気体は、水素ガスであってもよい。水素ガスは、例えば、20〜1パスカルの圧力を有してもよい(圧力は開口301のすぐ近くで最大になってもよく、開口から基板WAの周縁に向けて気体が移動するにつれて圧力が減少してもよい)。水素ガス分子は、典型的に、これらの圧力で0.5mm〜10mmの間で変化する平均自由行程を有してもよい。気体の平均自由行程よりも小さな幅を持つリッジ350(または他の構造)を設けることが望ましい場合がある。これは、構造によって画成される空間に気体が進入する可能性、気体分子が別の気体分子と衝突する可能性、及び構造自体に入射せずに構造によって画成された空間から気体分子が出る可能性を低下させる。上記で言及した圧力範囲(及び関連する平均自由行程)は単なる例であり、他の圧力を使用してもよい。
【0078】
リッジ350(または他の構造)が気体分子の平均自由行程よりも著しく小さい幅(例えば、1/10以上小さい)を有する場合、リッジ間の幅を小さくしても、気体分子とリッジとの間で生じる相互作用の可能性に顕著な影響を及ぼさないこともある。しかしながら、リッジ350(または他の構造)が、気体分子の平均自由行程と同様またはそれより大きな幅を有する場合、リッジ間の幅を小さくすると、気体分子とリッジとの間で生じる相互作用の可能性が増加し、これにより気体分子と壁との間の熱交換が増加する(同様に、リッジ間の幅を大きくすると、相互作用が生じる可能性が低下する)。
【0079】
気体分子と投影系の壁313との間の相互作用について、
図4及び5を参照して説明する。開口301(
図4を参照)を出た気体分子の移動する経路が
図5に矢印で模式的に示されている。図から分かるように、気体分子は最初に基板WA上に入射する。気体分子は、基板から反射されるとき、基板に一部のエネルギーを伝達する。基板WAから反射された後、気体分子は投影系の壁313に向けて移動し、二つの隣接リッジ350a、350bによって画成された空間に入る。気体分子は、二つのリッジ350a、350bの間にある投影系の壁313の一部に入射し、続いて第1リッジ350bに入射し、その後第2リッジ350aに入射する。気体分子と投影系の壁/リッジとの間の各相互作用により、気体分子と投影系の壁/リッジとの間でエネルギーが交換される。リッジ350a、350bによって画成された空間を出た後、気体分子は基板WAに向けて再び移動し、基板上に入射する。気体分子と基板WAの間で再びエネルギーが交換される。気体分子は、再び投影系の壁/リッジに向けて移動する。このようにして、気体は開口301(
図4参照)から基板WAのエッジを越えて移動する。
【0080】
図5の模式的な図解から理解されるように、基板のエッジへの気体分子の移動中に、気体分子は、基板WAと相互作用するよりも約三倍の頻度で投影系の壁/リッジ313、350と相互作用する。結果として、気体分子と基板WAの間で交換されるよりも多くの熱が、気体分子と投影系の壁/リッジ313、350の間で交換される。リッジ350が存在せず、投影系の壁313が基板WAと同じ熱適応係数を有している場合、気体分子と投影系の壁の間での相互作用の回数は、気体分子と基板の間での相互作用の回数と大体同数になるかもしれない。結果として、気体分子と投影系の壁の間で交換されるのとほぼ同量の熱が、気体分子と基板の間で交換されることになる。リッジ350は、気体分子と投影系の壁313の間で交換される熱量を増加させ、気体分子と基板WAの間で交換される熱量を減少させ、その結果基板の加熱が減少する。基板の熱膨張が減少し、そうでない場合よりも高いオーバーレイ精度で基板WA上にパターンを投影することが可能になるので、これは有利な場合がある。
【0081】
リッジの側面の表面積がリッジの正面の表面積よりも大きくなるように、リッジ350が成形されてもよい(リッジの正面とは、基板テーブルの方を向くリッジの部分である)。例えば、リッジの正面351は、リッジの全表面積の30%以下を占めてもよい。リッジ表面積の残りの70%以上は、リッジの側面352によって与えられてもよい。リッジ350に大きな正面が設けられた場合、気体分子がリッジの正面と相互作用する可能性が高くなり、リッジと隣接リッジにより画成された空間に入ることなく、気体分子が基板WAに向けて戻る可能性を増加させる。これが生じると、気体分子が基板WAに向けて戻る前に、気体分子とリッジの間で相互作用が一回だけ発生する。したがって、リッジによって提供される潜在的な利点、すなわち、気体分子が基板WAに向けて戻る前にリッジ/投影系の壁と気体分子が複数回相互作用するという利点は失われる。
【0082】
基板WAの方を向く(または実質的に基板WAの方を向く)正面が、構造の表面積の50%未満、構造の表面積の40%未満、または構造の表面積の30%未満を含む構成がリッジ350に設けられてもよい。同様に、基板WAの方を向く(または実質的に基板WAの方を向く)部分が、構造の表面積の50%未満、構造の表面積の40%未満、または構造の表面積の30%未満を含む構成が、リッジ以外の構造に設けられてもよい。
【0083】
リッジ350(または他の反復構造)は周期的であってもよい。構造のピッチPが1mm以下であってもよい。本明細書で使用される「ピッチ」という用語は、例えば構造の一部を形成する壁と直交する方向で測定された、構造の隣接する繰り返し部分の間の距離を意味するとみなしてもよい。開口301に隣接する投影系の壁の一部に1mmのピッチが与えられ、開口から離れた投影系の壁の部分により大きなピッチが与えられてもよい(気体分子の平均自由行程は開口から離れるほど長くなる)。代替的に、投影系の壁313の構造部分の実質的に全てに、1mm以下のピッチを有する反復構造が設けられてもよい。
【0084】
構造は、(例えば
図5に示すように)全体的に断面が長方形であるリッジを備えてもよい。代替的に、構造は、(
図6に示すように)全体的に断面がV字形であるリッジ350を備えてもよいし、または、他の断面形状を有するリッジを備えてもよい。代替的に、構造は、
図7に模式的に示すように、ハニカム構造361を備えてもよい。代替的に、構造は、複数の穴(例えば円形の穴)の配列を有する他の構造を備えてもよい。反復構造として複数の穴が設けられてもよい。代替的に、非反復構造として穴が設けられてもよい(例えば、穴のランダム配列または擬似ランダム配列)。任意の適切な構造を使用することができる。構造は反復構造であってもよい。
【0085】
有用な熱適応係数が得られるようにリッジまたは他の構造を設計するとき、構造の幅Wに対する深さDのアスペクト比R(すなわち、比R=D/W)を考慮に入れてもよい。この文脈において、深さは、(例えば
図5に示すように)構造特徴の底端から構造特徴の上端までの距離と考えてもよい。この文脈において、壁または他の底部から直角に延びる側面を有する構造に対して、幅Wは、構造の隣接部分間の離隔距離と考えられてもよい。例えば、
図5では、(図示のように)幅Wはリッジ間の離隔距離である。ハニカム配置の場合、幅Wは、(図示のように)穴の最大直径であると考えてもよい。円形穴の配列の場合、幅Wは穴の直径と考えてもよい。構造の壁が外端に先細部を有している場合、幅Wを決定するときに先細部を無視してもよい。V字溝の場合(例えば
図6に示す)には、幅は、その高さの半分まで上がったところでの溝の幅と考えてもよい。
【0086】
空間により占められる構造の割合fを考慮に入れてもよい。
図5に示すようなリッジの場合、割合fは、リッジが配置されるピッチの割合としての幅Wである。より一般的には、割合fは、壁の表面と平行であるとともに壁の表面構造を貫通する平面内の断片領域と定義されてもよい。複数の穴の配列の場合、複数の穴の空間の断面積を、その複数の穴の全断面積(すなわち、穴を画成する構造を含む)で除した割合fとして、そのような断面平面内に割合fを定義することができる。同様に、V字溝の配列の場合、溝の外側上部とちょうど接触する、壁の表面と平行な平面内で割合fを定義することができる。既に述べたように、割合fは、複数のV字溝の空間のこの平面内の断面積を、その複数のV字溝の全断面積で除したものである。割合fは充填率fと呼ばれることもある。リッジ350の深さD及びピッチPが
図5に示されている。
【0087】
図8は、アスペクト比R(すなわち深さ/幅)が増加するときに、複数の異なる構造の実効熱適応係数が増加する様子を示すグラフである。
図8に示すデータは、構造が設けられる表面の熱適応係数が0.3であるという仮定で、シミュレーションを用いて作成された。
図8から分かるように、アスペクト比が増加すると、実効熱適応係数が上昇し始める。アスペクト比が1であるとき、実効熱適応係数は、一部の構造については0.45を越えるまで増加し、他の構造については0.5を越えるまで増加する。充填率fが1、0.75、0.56である場合のシミュレーションを実行した。実際には、構造の全体が空間になってしまうので、充填率f=1は不可能である。しかしながら、充填率0.75は実現可能であり、充填率0.56も実現可能である。シミュレーションは、実際に達成可能である実効熱適応係数の増加を示唆している。
【0088】
所与の深さ/幅の比R<5及び充填率fに対し、ハニカム格子が最も良く機能し、次に長方形リッジ(U溝とラベル付けされている)、次にV字リッジ(V溝とラベル付けされている)と続くことが
図8から分かる。アスペクト比が非常に大きい(R>5)と、長方形リッジがハニカム格子よりもわずかに良く働く。リッジが薄くなるほど、リッジがますます効果的になる。機械的に妥当な値であるアスペクト比R=2、f=0.75(壁の厚さがリッジのピッチの1/4、またはハニカムのピッチの1/8)に対して、当初の熱適応係数0.3を実効熱適応係数0.6にまで増大させることができる。
【0089】
図9は、リッジ構造の充填率f及びアスペクト比Rの関数として、リッジ構造(すなわち、
図5に示す構造)の実効熱適応係数が変化する様子を示すグラフである。
図9に示すデータはシミュレーションを用いて作成された。
図9のグラフは、材料の熱適応係数が0.3であると仮定している(すなわち、これは、材料が滑らかな表面を有する場合の熱適応係数である)。リッジ構造は、0.3を越える実効熱適応係数を提供する。等高線は、0.35、0.4、0.5、0.6及び0.7の実効熱適応係数を与える充填率とアスペクト比の組み合わせを表している。したがって、熱適応係数0.3を有する材料を用いて実効熱適応係数0.4を得たい場合、
図9を使用して、この値を提供する充填率とアスペクト比の組み合わせを決定することができる。例えば、約0.8の充填率と約0.45のアスペクト比(または、等高線0.4上にある充填率とアスペクト比の任意の他の組み合わせ)を使用してもよい。0.4を越える実効熱適応係数が望ましい場合、等高線0.4の上及び右にある充填率とアスペクト比の任意の組み合わせを使用することができる。
【0090】
図10は、リッジ構造の充填率f及びアスペクト比Rの関数として、ハニカム構造(すなわち、
図7に示す構造)の実効熱適応係数が変化する様子を示すグラフである。
図10に示すデータはシミュレーションを用いて作成された。
図10のグラフは、材料の熱適応係数が0.3であると仮定している(すなわち、これは、材料が滑らかな表面を有する場合の熱適応係数である)。ハニカム構造は、0.3を越える実効熱適応係数を提供する。等高線は、0.35、0.4、0.5、0.6及び0.7の実効熱適応係数を与える充填率とアスペクト比の組み合わせを表している。したがって、熱適応係数0.3を有する材料を用いて実効熱適応係数0.4を得たい場合、
図10を使用して、これを提供する充填率とアスペクト比の組み合わせを決定することができる。例えば、約0.8の充填率と約0.2のアスペクト比(または、等高線0.4上にある充填率とアスペクト比の任意の他の組み合わせ)を使用してもよい。0.4を越える実効熱適応係数が望ましい場合、等高線0.4の上及び右にある充填率とアスペクト比の任意の組み合わせを使用することができる。
【0091】
充填率fとアスペクト比Rを使用して、反復構造の性能指数(figure of merit)を求めることができる。性能指数は次式で定義される。
【数5】
例えば0.05よりも大きな性能指数を有する反復構造を提供することが望ましい場合もある。例えばハニカム構造、または複数の穴の配列を備える他の反復構造に性能指数を適用してもよい。特定の熱適応係数(例えば0.3)を有する材料に性能指数を適用してもよい。例えばリッジなどの他の構造に性能指数を適用してもよい(例えば、0.2を越えるアスペクト比などの別の基準と組み合わせて)。
【0092】
一般に、投影系の壁313に設けられた反復構造に、構造の実質的に全体にわたり同一のピッチが与えられてもよい。代替的に、投影系の壁313上に設けられた反復構造に、構造にわたり変化するピッチが与えられてもよい。例えば、構造化された表面から開口301までの距離が増加するにつれて、ピッチが大きくなってもよい。構造のピッチが変化する実施形態では、構造の平均ピッチを使用して構造を特徴づけることができる。
【0093】
一実施形態では、構造が非反復構造であってもよい。構造は、例えばランダム構造または擬似ランダム構造であってもよい(例えば、異なるサイズの穴の不規則な配列)。この場合には、式(3)の性能指数の計算に使用される構造の充填率f及びアスペクト比Rが、平均充填率f及び平均アスペクト比Rであってもよい。
【0094】
例えば投影系の壁の適切な加工により(例えば、機械的切断またはレーザ切断を使用して)、投影系の壁上に構造が設けられてもよい。代替的に、リソグラフィプロセスを使用して投影系の壁上に構造が設けられてもよい。リソグラフィプロセスは、機械加工を用いて形成される構造よりも小さなピッチを有する構造を形成可能であってもよい。
【0095】
リソグラフィ装置の使用中に基板に隣接する投影系の壁の文脈内で、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明はリソグラフィ装置の他の部品にも適用することができる。本発明は、例えば、部品からの熱伝達(例えば部品からヒートシンクへの熱伝達)を改善することが望ましい任意の真空環境において有用である。
【0096】
一実施形態では、
図11の断面図に模式的に示すように、基板テーブルWTに構造450(例えば反復構造)が設けられている。構造450は、例えばハニカム構造、穴の配列、一連のリッジなどの任意の適切な構造であってよい。構造450の高さは、基板テーブルWTから上方に突出するこぶ(burl)451の高さよりも小さい(その結果、使用時に構造が基板WAと接触しない)。構造450は、例えば、基板WAが基板テーブルWTによって保持されているときに存在するガス圧での気体分子(例えば水素)の平均自由行程と同一のオーダーまたはそれよりも小さい深さ及び/またはピッチを有してもよい。基板WAが基板テーブルWTによって保持されているときのガス圧は、例えば約1000Paであってもよい。構造450の深さ及び/またはピッチは例えば20ミクロン未満であってもよいし、10ミクロン未満であってもよいし、1ミクロン未満であってもよい。例えば電子ビームリソグラフィを使用して、基板テーブルWT上に構造450を形成することができる。構造450は、基板WAから基板テーブルWTへの熱伝達を(例えば反復構造が設けられていない滑らかな表面と比較して)増加させる。その結果、基板WAの温度をより良好に制御することができる。
【0097】
図12の断面図に模式的に示す一実施形態では、ミラー452に構造453(例えば反復構造)が設けられる。ミラー452は例えば、
図2に示すミラーデバイス22、24のうち一方、または反射素子28、30のうち一方を含んでもよいし、リソグラフィ装置の一部を形成する他のミラーを含んでもよい。構造453は、反射面456(例えば多層コーティング)とは反対側のミラー452上に設けられる。構造453は、例えばハニカム構造、穴の配列、リッジ等の任意の適切な構造であってもよい。ヒートシンク454にも構造455(例えば反復構造)が設けられてもよい。構造455は、例えばハニカム構造、穴の配列、一連のリッジ等の任意の適切な構造であってよい。構造453、455は、例えば、リソグラフィ装置の動作中に存在するガス圧における気体分子(例えば水素)の平均自由行程と同一のオーダーまたはそれより小さい深さ及び/またはピッチをそれぞれ有していてもよい。リソグラフィ装置の動作中のガス圧は、例えば4Paである。反復構造450の深さ及び/またはピッチは、例えば5ミリメートル未満であってもよいし、3ミリメートル未満であってもよい。従来のミリングまたはレーザ切断技術を使用して、ミラー452及び/またはヒートシンク454上に構造450を形成することができる。構造453、455は、ミラー452からヒートシンク454への熱伝達を(ミラーとヒートシンクの両方が滑らかな表面を有しており構造が設けられていない場合と比較して)増加させる。その結果、ミラー452の温度をより良好に制御することができる。
【0098】
図12はミラー452とヒートシンク454の両方に構造がある様子を示しているが、ミラーまたはヒートシンクの一方のみに構造が設けられてもよい。しかしながら、ミラー452とヒートシンク454の両方に構造を設けることで、ミラーからヒートシンクへの熱伝達を最も効率的に行うことができる。
【0099】
一実施形態では、位置合わせ測定及び/または基板露光中に基板がその中に配置される、リソグラフィ装置のチャンバの内壁上に、上述した構造などの構造(例えば反復構造)を設けてもよい。チャンバ内に発生する熱(例えば電気ケーブルから生じる熱)からリソグラフィ装置のメトロロジフレームを遮蔽するように、構造が配置されてもよい。メトロロジフレームは、大きくは伸縮しないフレームである場合があり、これによって正確な位置測定を実行することが可能になる。
【0100】
投影システムの壁313、基板テーブルWT、ミラー452、ヒートシンク454、及び内部チャンバの壁は全て、本発明を具現化する構造(例えば反復構造)を設けることができる部品の例である。構造(例えば反復構造)は、任意の適切な部品上に設けることができる。
【0101】
部品表面の熱適応係数を増加させることに加えて、構造は、部品間の放射熱交換の効率を増加させる。構造の深さ及び/またはピッチが、部品により発せられる熱放射の波長よりも大きい場合、この増加が最大になる。
【0102】
「構造」という用語は、相互接続された特徴(例えば、ハニカム構造の穴)を包含するとともに、一連のリッジまたは同等の構造を包含するよう意図されている。基板テーブル上のこぶ(burl)などの孤立した特徴を包含することは意図していない。同様に、「反復構造」という用語は、相互接続された特徴(例えば、ハニカム構造の穴)を包含するとともに、一連のリッジまたは同等の構造を包含するよう意図されている。基板テーブル上のこぶなどの孤立した特徴を包含することは意図していない。
【0103】
一実施形態では、部品の構造化された表面が、その部品の表面を形成するのに用いられる材料の熱適応係数(すなわち、その材料で形成される滑らかな表面の熱適応係数)よりも著しく大きな実効熱適応係数を持つ部品表面を提供してもよい。
【0104】
一実施形態では、部品の構造化された表面が、リソグラフィ装置の動作中に構造化された表面の近傍にある平均自由行程よりも小さなピッチを有してもよい。これにより、構造によって画成された空間に気体分子が進入する可能性、気体分子が別の気体分子と衝突する可能性、及び構造自体に入射することなく、構造によって画成された空間から気体分子が出る可能性が低下する。
【0105】
投影系と関連して上述した構造の属性は、他の部品上に設けられる構造にも適用することができる。
【0106】
二つの平行なプレート(部品表面と同一の材料で形成され、同一の構造が設けられているプレート)の間の熱流束を測定することによって、構造が設けられた部品表面の実効熱適応係数を気体圧力の関数として測定することができる。熱流束Q(Wm
−2)は、次式により与えられる。
【数6】
ここで、Aは分子の熱伝達係数(以下参照)、pは圧力、ΔTはプレート間の温度差、Hはプレート間の距離、kは気体の熱伝導率(295Kの水素では0.17Wm
−1K
−1)、h
Rは放射熱伝達係数(表面材料の特性及び温度に依存する。典型的な値は0.15<h
R<5Wm
−2K
−1)である。式(4)の気体に関連する部分は、熱伝達のSherman-Leesモデルとして知られている。
【0107】
二つのプレートが同一の実効熱適応係数αを有し、温度T
1、T
2である場合、平均温度をT
m=(T
1+T
2)/2と定義し、分子熱伝達係数は次式で与えられる。
【数7】
ここで、ζは気体分子の内部自由度(水素ではζ=2、ヘリウムではζ=0)、Ru=8.3Jmol
−1K
−1は一般気体定数、Mはモル質量(水素では0.002kg/mol)である。例えば、295K、α=0.3の水素では、A=0.8Wm
−2K
−1Pa
−1である。
【0108】
二つの同一プレート間の熱伝達を圧力の関数として測定し、パラメータα及びh
Rをフィッティングすることによって、温度T
mにおける実効熱適応係数を決定することができる。精度を最大化するために、温度差ΔTを小さく(すなわちΔT/T
m<0.1)し、圧力が0<p<k/(AH)の範囲で変化し、プレートの直径Dに対してH<k/h
R、H/D<0.1となるようにHを選択してもよい。深さdの表面構造の場合、H/d>10となるようにHを選択してもよい。例えば、特定の条件下では、pが0〜6Paの範囲で変化し、H=20mm、D=200mm、室温(T
m=295K)、温度差ΔT=20Kでこの測定を行ってもよい。
【0109】
一実施形態では、微視的構造が上部に設けられた(例えば構造の表面を粗くした)巨視的構造(例えば反復構造)を備える構造が部品表面に設けられてもよい。例えば、巨視的構造はミリメートルのオーダーの特徴サイズを有し、微視的構造はマイクロメートル(またはそれ未満)のオーダーの特徴サイズを有してもよい。微視的構造は、気体分子が巨視的構造に進入する可能性、及び巨視的構造との一回だけの相互作用の後に巨視的構造から離れる可能性を低下させることができる。
【0110】
代替的な手法では、部品表面に構造(例えば反復構造)を設ける代わりに、部品表面を粗くしてもよい。一実施形態では、部品表面のミリング、エッチング、サンディング(sanding)、サンドブラスト、吹き付け加工、またはブラッシングで粗い表面を形成してもよいい。例えば、これらの方法のうち一つを使用する粗面化に適した鋼または他の金属で部品表面が形成されてもよい。
【0111】
部品表面に粗い表面を設けることと、部品表面に構造を設けることは、両方とも、(従来の滑らかな部品表面と比較して)部品表面の表面積を増加させる点で共通している。この部品表面は、従来の部品表面よりも単位投影二次元面積当たりの表面積が大きいとみなすことができる。「投影二次元面積」という用語は、部品表面の下方の平面上への部品表面の投影によって埋められる該平面内での面積を意味すると考えてもよい。投影系の壁313の場合、平面は、投影系の最下部の壁と実質的に平行であってもよい。投影系の最下部の壁が平坦でない場合、平面は、投影系の最下部の壁に最もフィットする平面であってもよい。
【0112】
「表面積」という用語は、気体と相互作用が可能である、微視的スケール及び巨視的スケールの両方での表面積のことを指すとみなしてもよい。部品表面の表面積が増加すると、そうでない場合(すなわち、従来の部品表面が使用される場合)よりも、気体分子と部品表面の間でより多くの相互作用が促進される。部品表面の表面積を増加することは、実効熱適応係数を増加することとみなしてもよい。部品表面を粗くすることと、部品表面に構造を設けることは両方とも、部品表面の実効熱適応係数を増加することとみなしてもよい(また、部品表面に0.4以上の実効熱適応係数を与えることができる)。
【0113】
一実施形態では、部品表面に多孔質コーティングを施してもよい。多孔質コーティングは、(本発明の他の実施形態と同じく)部品表面の表面積を増加させる。部品表面の表面積の増加は、ミリメートルスケールまたはセンチメートルスケールではなく、マイクロメートルスケールで生じる。多孔質コーティングは、例えばセラミックで形成されてもよいし、任意の他の適切な材料で形成されてもよい。任意の適切な技術を用いて多孔質コーティングを形成することができる。例えば、ハードアノダイジング、物理的気相成長法(PVD)、レーザ焼結またはエナメル加工を用いて、多孔質コーティングを形成してもよい。例えば溶射を用いて多孔質コーティングを形成してもよい。多孔質コーティングは、部品表面の実効熱適応係数を増加させる(また、部品表面に0.4以上の実効熱適応係数を与えることができる)。大きな特定の表面積を持つ適切な多孔質コーティングは、例えばイスラエルのAcktar Ltdから市販されている。投影系の壁313の場合、多孔質コーティングは、使用時に基板に隣接する投影系の壁の部分に、従来の投影系の壁の表面積よりも大きな表面積を与えることができる。
【0114】
一実施形態では、投影系の壁上に設けられた構造(例えば、
図5に示すリッジ構造)に多孔質コーティングを塗布してもよい。一実施形態では、粗面化した投影系の壁に多孔質コーティングを塗布してもよい。
【0115】
一実施形態では、多孔質コーティングの上に金属層を設けてもよい。金属層は、例えばアルミニウムまたは他の反射金属であってもよい。金属層は、例えば、コーティングの多孔性が保持される(すなわち、多孔質コーティングの穴の大部分が金属層によって閉じられない)十分に小さな厚みであってもよい。金属層は、例えば数ナノメートル(またはそれ以上)の厚さであってもよい。金属層は、例えば、リソグラフィ装置の他の部分の赤外線波長における光反射率と同様の、赤外線波長での光反射率を多孔質層に与える点で、有利なことがある。これにより、(リソグラフィ装置の他の部分と比較して)リソグラフィ装置内での赤外線放射の非平衡アブソーバとして多孔質コーティングが機能することを防止またはその度合いを低減することができる。これにより、リソグラフィ装置の動作中に、多孔質コーティング(及び投影系の壁313)がリソグラフィ装置の他の部分よりも加熱されることを防止またはその度合いを低減することができる。金属層を用いて赤外線波長における光反射率を与えることは、赤外線反射率が必要である場所では有利な場合がある。他の場所では、赤外線吸収が必要であれば、金属層が省略されてもよい。
【0116】
一実施形態では、部品の表面に「スーパーブラック」層が設けられてもよい。スーパーブラック層は、ニッケル−リン合金などの合金を化学エッチングすることによって(または任意の他の適切な技術を使用して)形成することができる。「スーパーブラック」は、部品表面の実効熱適応係数を増加させることができる(また、0.4以上の熱適応係数を部品表面の壁に与えることができる)。「スーパーブラック」は、使用時に基板に隣接する投影系の壁の一部に、従来の投影系の壁の表面積よりも大きな表面積を与えることができる。「スーパーブラック」に関するさらなる情報は、「The physical and chemical properties of electroless nickel-phosphorus alloys and low reflectance nickel-phosphorus black surfaces” by Richard J. C. Brown, Paul J. Brewer and Martin J. T. Milton, J. Mater. Chem., 2002, 12, 2749-2754」に記載されている。
【0117】
一実施形態では、投影系の壁から基板テーブルWTに向けて延びる複数のバッフルを設けることによって、投影系の壁313の表面積を増加させることができる。バッフルは、使用時に基板に隣接する投影系の壁の一部に、従来の投影系の壁の表面積よりも大きな表面積を与えることができる。
図13は、
図4に示したリソグラフィ装置の大部分に対応するリソグラフィ装置を模式的に示す図である。
図4に示したリソグラフィ装置の特徴と対応する特徴には同一の参照番号が与えられている。突出部320は装置には存在せず、基板WA(及び基板テーブルWT)は、
図4に示したリソグラフィ装置の場合よりも、投影系の壁313a、313bに近接している。
図13内の開口301の左側にある投影系の壁313aの一部が隆起しており、その結果、投影系の壁の大部分が基板WA(及び基板テーブルWT)から増大した離隔距離を有する。隆起した投影系の壁313aから基板WAに向けて、バッフル360が延びる。リソグラフィ装置の図内には単一のバッフル360のみが観察されるが、
図13は、バッフルの外側端部からみたときのバッフル360の別の斜視図も含む。
【0118】
バッフル360は、投影系の壁313aの表面積を増加させる。表面積の増加の結果、バッフルが存在しない場合よりも、気体が投影系の壁313aと相互作用する頻度が高くなる。そのため、気体から投影系の壁313aに交換される熱が多くなり、結果として気体から基板WAに交換される熱が少なくなる。
【0119】
図13の開口301の右手側にミラー28aが存在するので、投影系の壁313bに隆起部及びバッフルを設けることができない。バッフルが存在しない結果、開口301の右側にある基板WAの一部が、開口301の左側にある基板の一部よりも、気体によって加熱されることになる。したがって、開口の右側にある部分よりも、開口301の左側にある部分の方で、基板の加熱に起因する膨張を小さくすることができる。
【0120】
本発明の一実施形態を
図14に模式的に示す。
図14に示す装置は、
図4に示す装置と全体的に対応しており、装置の対応する特徴には対応する参照番号が使用されている。投影系の壁313の下方にプレート322が配置される。プレート322はアルミニウム、銅、シリコンを含浸させた炭化ケイ素(SiSiC)、または任意の他の適切な熱伝導材料で形成することができる。プレート322は、投影系の壁313から下向きに延びる支持部324によって支持される。プレート322には中心に穴325が設けられている。穴325は、開口301の底端部を十分に包囲する大きさである。プレート322は投影系の壁313の一部を形成せず、代わりに投影系の壁に接続された別個の存在とみなされる。
【0121】
プレート322は、リソグラフィ装置の動作中に、投影系の壁313よりも基板WAに近接するように配置される。そのため、プレート322と基板WAの間の隙間331は、プレートと投影系の壁313の間の隙間330よりも小さい。プレート322と投影系の壁313の間の隙間330がプレートと基板WAの間の隙間331よりも大きいので、開口301から出た気体は、プレートと投影系の壁の間の隙間に流れ込むのが最も容易である。したがって、プレート322と投影系の壁313の間の隙間330内により多くの気体が流れ込み、その結果、プレート322と基板WAの間の隙間331に流れる気体が少なくなる。結果として、(プレートが存在しない場合と比較して)基板WAの表面と相互作用する気体が少なくなる。したがって、気体により生じる基板WAの望ましくない加熱を低減することができる。
【0122】
プレート322と投影系の壁313の間の隙間(本明細書では上部隙間330と呼ぶ)と、プレート322と基板WAとの間の隙間(本明細書では下部隙間331と呼ぶ)とによる気体の分割は、隙間サイズの二乗にほぼ比例して分配される。したがって、例えば、上部隙間330の下部隙間331に対する割合が2:1である場合、上部隙間330内の気体流と、下部隙間331内の気体流との割合は、4:1になる。気体によって引き起こされる熱的効果が最小になるように下部隙間331内の気体流を最小に減らすことが望ましい場合がある。しかしながら、プレート322が基板WAに近接しすぎると、プレートが基板と接触し基板及び/またはプレートに損傷を与える危険性がある。所与のリソグラフィ装置では、プレートと基板WAの間に所望のクリアランスを与えることと、基板と相互作用する気体の量を最小化することの間でのトレードオフに基づき、プレート322の位置を選択してもよい。
【0123】
下部隙間に対する上部隙間の割合が1:1である場合、気体の約50%が下部隙間331内に流れ、基板WAと相互作用する。これは、気体により基板WAに与えられる熱負荷を50%のオーダーで削減することができる。下部隙間331に対する上部隙間330の割合が1:1未満である場合、気体により基板WAに与えられる熱負荷の削減は50%未満になる。熱負荷の発生は、気体の流速とほぼ比例しており、隙間サイズの割合の二乗になる。このため、下部隙間331に対する上部隙間330の割合が例えば1::2である場合、気体の約80%が下部隙間内に流れる。この場合、プレート322は、ウェハWに与えられる熱負荷の20%しか削減しない。例えば、プレート322と、プレートを収容するために必要な空間とを設けるコストの観点でのオーバーヘッドは、熱負荷の20%の削減ではプレートの使用を正当化するのに十分ではないということである。この理由のため、一実施形態では、下部隙間331に対する上部隙間330の割合が1:2より大きくてもよい。一実施形態では、下部隙間331に対する上部隙間330の割合が1:1以上であってもよい。
【0124】
プレート322を投影系の壁313に接続する支持部324は、アルミニウム、銅、シリコンを含浸させた炭化ケイ素(SiSiC)などの熱伝導材料で作成してもよい。これにより、プレート322から支持部324を介して投影系の壁313に熱を伝導させることが可能になり、気体による加熱によってプレートの温度が増加する度合いが減少する。プレート322は、プレートを通して熱を伝導するように構成されたヒートパイプ(図示せず)を備えてもよく、これによりプレートを通して熱を放散することができる。
【0125】
本発明の一実施形態を
図15に模式的に示す。
図15は、
図14に示したリソグラフィ装置の大部分と対応するリソグラフィ装置を模式的に示している。
図14に示したリソグラフィ装置の特徴と対応する特徴には同一の参照番号が与えられている。突出部320はリソグラフィ装置に存在せず、基板WA(及び基板テーブルWT)は、
図14に示したリソグラフィ装置の場合よりも、投影系の壁に近接している。
図15の開口301の左側にある投影系の壁313cの一部が隆起し、投影系の壁の大部分が基板WA(及び基板テーブルWT)から増大した離隔距離を有している。開口301の右側にある投影系の壁313dの部分は隆起していない(ミラー28aがあるために隆起することができない)。
【0126】
投影系の壁313cの隆起部の下方にプレート322aが配置される。プレート322aは、投影系の壁313cから下向きに延びる支持部324aによって支持される。プレート322aは、投影系の壁313cの隆起部が始まる場所に隣接する内側端部を有する。
【0127】
使用時に、穴301を出た気体の一部は、投影系の壁313cとプレート322aの間の隙間を通過する。この気体が隙間を通過するときに、気体が基板WAと接触することが防止されるので、気体により引き起こされる基板の加熱が回避される。そのため、気体から基板WAに交換される熱量が低減される。
【0128】
図15の開口301の右手側にミラー28aが存在することで、投影系の壁313dに隆起部を設けることができず、そのため投影系の壁のその部分の下方にプレートを設けることができない。プレートが存在しない結果、開口301の左側にある基板の部分よりも、開口301の右側にある基板WAの部分の方が気体によって多く加熱される。したがって、開口の右側にある部分よりも、開口301の左側にある基板の部分の方が、基板の加熱に起因する膨張が小さくなる。
【0129】
投影系の壁313はアルミニウム(または他の金属)で形成されてもよい。上述した投影系の壁上に一つ以上のコーティングが施されてもよい。リソグラフィ装置の他の部分がアルミニウム(または他の金属)で形成されてもよい。
【0130】
本発明の図示の実施形態では、投影系の壁313とは別個の存在として開口画成壁302を説明してきた。しかしながら、開口画成壁302を投影系の壁の一部であるとみなしてもよい。特に、開口画成壁302の最下面を投影系の壁の一部であるとみなしてもよく、投影系の壁に適用される上述した本発明の実施形態には、開口画成壁の最下面への適用が含まれる。例えば、開口画成壁302の最下面が粗くされてもよいし、構造が設けられてもよいし、バッフルが設けられてもよいし、及び/または多孔質コーティングが施されてもよい。この文書では、投影系の壁への言及が、(文脈が許す限り)開口画成壁の最下面を含むものとみなしてもよい。
【0131】
図4及び14に示した実施形態は突出部320を備えるが、突出部は必ずしも必要ではなく省略されてもよい。同様に、
図13及び15には突出部が示されていないが、突出部が設けられてもよい。
【0132】
本発明の図示の実施形態は、EUV放射ビームの形状に実質的に一致した傾斜内面304を有する開口画成壁302を備える。この円錐形状により、EUV放射ビームを遮ることなく、良好に汚染物質を抑制する利点を提供することができる。しかしながら、本発明の実施形態が円錐形状の壁を備えることは本質的ではなく、本発明の実施形態は他の形状の壁を有してもよい。
【0133】
従来の部品表面への言及は、粗面化されていないか、部品表面の熱適応係数を増加させるように構成された構造化表面またはコーティングが施されていない部品表面を指すものと解釈されてもよい。従来の部品表面は、例えば、従来の方法でミリングまたは切断された金属(例えばアルミニウム)で形成された投影系の壁であってもよい。
【0134】
IC製造におけるリソグラフィ装置の使用について本文書において特に言及をしてきたが、本明細書で述べたリソグラフィ装置は、他の応用形態も有していることを理解すべきである。例えば、集積された光学システム、磁気領域メモリ用の誘導及び検出パターン(guidance and detection pattern)、フラットパネルディスプレイ、液晶ディスプレイ(LCD)、薄膜磁気ヘッドなどの製造といった応用である。当業者は、このような代替的な応用形態の文脈において、本明細書における「ウェハ」または「ダイ」という用語のいかなる使用も、それぞれより一般的な用語である「基板」または「目標部分」と同義とみなすことができることを認められよう。本明細書で参照された基板は、例えばトラック(通常、レジスト層を基板に付加し、露光されたレジストを現像するツール)、計測ツール及び/または検査ツールで露光の前後に処理されてもよい。適用可能であれば、本明細書の開示は、そのような基板処理工具または他の工具に対しても適用することができる。さらに、例えば多層ICを作製するために二回以上基板が処理されてもよく、その結果、本明細書で使用された基板という用語は、複数回処理された層を既に含む基板のことも指してもよい。
【0135】
「レンズ」という用語は、文脈の許す限り、屈折光学部品、反射光学部品、磁気光学部品、電磁光学部品及び静電光学部品を含む様々なタイプの光学部品のうちの任意の一つまたはその組み合わせを指す場合もある。
【0136】
「EUV放射」という用語は、5−20nmの範囲(例えば、13−14nmの範囲、あるいは6.7nmまたは6.8nm等である5−10nmの範囲)内の波長を有する電磁気放射を包含するものとみなしてもよい。
【0137】
本発明の特定の実施形態が上述されたが、説明したもの以外の態様で本発明が実施されてもよいことが認められよう。例えば、本発明は、上述の方法を記述する機械で読み取り可能な命令の一つまたは複数のシーケンスを含むコンピュータプログラムの形式をとってもよいし、そのコンピュータプログラムを記録したデータ記録媒体(例えば半導体メモリ、磁気ディスク、または光ディスク)であってもよい。上述の説明は例示であり限定することを意図していない。よって、当業者であれば以下に述べる請求項の範囲から逸脱することなく本発明の変形例を実施することが可能であろう。