(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
正極板と負極板とをこれらの間にセパレータを挟み込みつつ捲回または平積みにより積層してなる電極体と,電解液とを,電池容器に収容することにより非水電解質二次電池を製造する非水電解質二次電池の製造方法において,
前記負極板として,請求項1に記載の方法により製造された非水電解質二次電池電極用シートを用いることを特徴とする非水電解質二次電池の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下,本発明を具体化した最良の形態について,図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0016】
「第1の形態」
図1に,本形態に係る二次電池10の断面図を示す。二次電池10は,
図1に示すように,電極体20および電解液30を電池ケース40の内部に収容してなるリチウムイオン二次電池である。電解液30は,リチウム塩を有機溶剤に溶解させたものである。電池ケース40は,電池ケース本体41と封口板42とを備えている。また,封口板42は,絶縁部材43を備えている。
【0017】
図2は,二次電池10として組付けられる前の電極体20の斜視図である。電極体20は,正極板70,負極板80,セパレータ25を重ね合わせつつ扁平形状に捲回してなる扁平型のものである(
図2〜
図5参照)。
【0018】
正極板70は,
図3に示すように,長手方向DA(
図3の上下方向)に長い帯状のものである。正極板70は,正極集電箔75と,正極集電箔75の一部に形成された正極合材層76とを有している。正極集電箔75のうち,正極合材層76が形成されていない部位を,正極合材層非形成部71という。他方,正極合材層76が形成されている部位を,正極合材層形成部72という。正極集電箔75としては,アルミニウム箔を用いることができる。また,正極合材層76には,正極活物質77,導電助材78,バインダー79が含まれている。
【0019】
正極活物質77は,リチウムイオンを吸蔵および放出することのできるものである。導電助材78は,正極合材層76の導電性を高めるためのものである。バインダー79は,正極活物質77や導電助材78を,正極集電箔75上に結着させるためのものである。本形態では,正極活物質77,導電助材78,バインダー79としてそれぞれ,三元系のLiNi
1/3Co
1/3Mn
1/3O
2,アセチレンブラック(AB),ポリフッ化ビニリデン(PVDF)を用いている。なお,正極活物質77,導電助材78,バインダー79としては,上記の他にも,従来よりリチウムイオン二次電池に用いられているものをそれぞれ用いることも可能である。
【0020】
また,
図3に示すように,正極合材層非形成部71は,正極板70の幅方向DB(
図3の左右方向)の左端部に位置している。正極合材層形成部72は,正極板70の幅方向DBの右端部に位置している。正極合材層非形成部71および正極合材層形成部72はいずれも,正極板70の一方長辺に沿って,その長手方向DAに帯状に延びている。
【0021】
負極板80は,
図4に示すように,長手方向DA(
図4の上下方向)に長い帯状のものである。負極板80は,負極集電箔85と,負極集電箔85の一部に形成された負極合材層86とを有している。負極集電箔85のうち,負極合材層86が形成されていない部位を,負極合材層非形成部81という。他方,負極合材層86が形成されている部位を,負極合材層形成部82という。負極集電箔85としては,銅箔を用いることができる。また,負極合材層86には,負極活物質87およびバインダー88が含まれている。
【0022】
負極活物質87は,リチウムイオンを吸蔵および放出することのできるものである。本形態では,負極活物質87として,球状黒鉛とりん片状黒鉛とを用いている。バインダー88は,負極活物質87を負極集電箔85上に結着させるためのものである。また,負極合材層86には,負極活物質87,バインダー88の他にも,分散剤,導電助材および添加剤が含まれていてもよい。これら負極活物質87等については,後に詳述する。
【0023】
また,
図4に示すように,負極合材層非形成部81は,負極板80の幅方向DB(
図4の左右方向)の右端部に位置している。負極合材層形成部82は,負極板80の幅方向DBの左端部に位置している。負極合材層非形成部81および負極合材層形成部82はいずれも,負極板80の一方長辺に沿って,負極板80の長手方向DAに帯状に延びている。
【0024】
図2に示す電極体20は,正極板70,負極板80,およびセパレータ25を,
図5に示すように重ね合わせつつ捲回したものである。
図5に示す重ね合わせにおいては,正極板70と負極板80と2枚のセパレータ25が重ね合わせられている。
【0025】
セパレータ25は,リチウムイオンを透過させることができる多孔質部材である。セパレータ25としては,ポリプロピレン(PP),ポリエチレン(PE)などからなる多孔質フィルムを単体で,または,これらをその厚さ方向に複数積層させた複合材料を用いることができる。またセパレータ25の幅は,
図5に示すように,正極合材層形成部72および負極合材層形成部82の幅とほぼ同じである。
【0026】
また,正極板70の正極合材層非形成部71と,負極板80の負極合材層非形成部81とはそれぞれ,
図5の左右方向において逆向きに突出するように配置されている。よって,捲回した状態を示す
図2において,左端部に位置する正極合材層非形成部71は,複数枚の正極集電箔75が重なり合う部分である。また,右端部に位置する負極合材層非形成部81は,複数枚の負極集電箔85が重なり合う部分である。
【0027】
図2の電極体20の左右方向の中央に位置する蓄電部21は,
図5に示すように正極合材層形成部72と,負極合材層形成部82と,セパレータ25とが重ね合わせられつつ捲回されてなる部分である。このため,蓄電部21は,充放電に寄与する部分である。
【0028】
また
図1に示す二次電池10において,電極体20の正極合材層非形成部71には,正極端子50が接続されている。電極体20の負極合材層非形成部81には,負極端子60が接続されている。正極端子50および負極端子60は,それぞれ電極体20に接続されていない側の端51,61を,封口板42に設けられた絶縁部材43を介し,電池ケース40の外部に突出させている。そして,二次電池10は,正極端子50および負極端子60を介し,電極体20の蓄電部21において,充電および放電を行うものである。
【0029】
次に,本形態の負極板80を製造する負極板製造装置100(
図6)について説明する。
図6において,上方から下方への向きが重力方向である。
図6に示すように,負極板製造装置100は,粉体供給部110,スキージ120,プレスローラ130,131を備えている。負極板製造装置100には,負極集電箔85が,
図6中左より矢印Xの向きに供給される。供給された負極集電箔85は,負極板製造装置100内を水平に搬送された後,負極板製造装置100より
図6中右向きに搬出される。
【0030】
また,
図6における負極集電箔85の上面を,第1面とする。負極集電箔85の第1面とは反対の下面を,第2面とする。負極集電箔85の第1面には,負極板製造装置100に供給されてくる時において,まだ何も形成されていない。そして,負極板製造装置100は,負極集電箔85の第1面に,負極合材層86を形成するためのものである。
【0031】
粉体供給部110は,負極集電箔85の第1面に,一定量の粉末成分190を,連続的に供給するためのものである。また,スキージ120は,粉体供給部110により供給された粉末成分190を,所定の厚さに均すためのものである。
【0032】
粉末成分190は,負極合材層86を形成するための負極活物質87とバインダー88とを少なくとも含むものである。また,本形態の粉末成分190には,
図7に示す造粒粒子92が含まれている。
図7に示されるように,造粒粒子92は,少なくとも負極活物質87である球状黒鉛90およびりん片状黒鉛91を造粒してなるものである。また,本形態においては,バインダー88についても造粒粒子92に含まれている。
【0033】
球状黒鉛90は,
図7に示すように,比較的球形状に近い形状の黒鉛である。また,りん片状黒鉛91は,球状黒鉛90よりもアスペクト比が低い形状の黒鉛である。具体的には,本形態において,粒子のアスペクト比が0.16よりも高いものを球状黒鉛90,アスペクト比が0.16以下のものをりん片状黒鉛91としている。粒子についてのアスペクト比は,その粒子の形状分析を行うことにより得ることができる。具体的には,粒子に外接する最小直方体について最も短い辺である最短辺と最も長い辺である最長辺とを求め,その最短辺の最長辺に対する比により粒子のアスペクト比を算出することができる。
【0034】
具体的に,本形態における造粒粒子92の製造方法を以下に説明する。まず,負極活物質87としての球状黒鉛90およびりん片状黒鉛91,バインダー88としての共役ジエン系重合体(BM−400B,日本ゼオン社製),増粘剤としてのカルボキシメチルセルロースナトリウム塩を以下に示す比率(wt%)で混合した混合物を製造する。なお,球状黒鉛90には体積平均粒子径が20μmのものを,りん片状黒鉛91には体積平均粒子径が10μmのものを用いた。
球状黒鉛およびりん片状黒鉛 :97
共役ジエン系重合体 :1.5
カルボキシメチルセルロースナトリウム塩:1.5
【0035】
次に,上記混合物にイオン交換水を固形分濃度が20%となるよう加え,これらを混合分散して造粒粒子用スラリーを製造する。続いて,得られた造粒粒子用スラリーをスプレー乾燥機(大川原化工機社製)を使用し,回転円盤方式のアトマイザー(直径65mm)を用い,回転数25000rpm,熱風温度160℃,粒子回収出口の温度90℃の条件で噴霧乾燥造粒を行う。以上により,造粒粒子92を製造することができる。なお,本工程により製造された造粒粒子92の体積平均粒子径は,70μm程度であった。
【0036】
プレスローラ130とプレスローラ131とは,これらの間を通過する対象物を加圧することができる一対の加圧ローラである。また,負極集電箔85の第1面側に位置しているプレスローラ130の外周面には,離型剤による表面処理など,摩擦を小さくする処理が施されている。プレスローラ130の外周面に粉末成分190が付着することを防止するためである。
【0037】
そして,負極板製造装置100を用いた負極板80の製造では,まず,負極板製造装置100に矢印Xの向きに負極集電箔85が供給される。供給された負極集電箔85は,
図6に示すように,粉体供給部110に到達する。この時の負極集電箔85の第1面および第2面には,まだ何も形成されていない。そして,粉体供給部110に到達した負極集電箔85の第1面には,粉末成分190が供給される。よって,粉体供給部110を通過した後の負極集電箔85の第1面には,粉末成分190が堆積してなる堆積層が形成されている。
【0038】
粉末成分190が堆積した負極集電箔85は,次に,スキージ120を通過する。粉末成分190の堆積層は,スキージ120を通過することにより,所定の厚さに均される。また,スキージ120を通過した負極集電箔85は,続いて,プレスローラ130とプレスローラ131との間を通過する。これにより,負極集電箔85上の粉末成分190の堆積層は,その厚さ方向に加圧される。この加圧により,粉末成分190中の各粒子は,バインダー88によって互いに結着されるとともに負極集電箔85の第1面に結着される。これにより,負極集電箔85の第1面上には,負極合材層86が形成される。
【0039】
またその後,負極集電箔85の第2面についても,上記の第1面と同様に,負極板製造装置100を用いることにより,負極合材層86を形成することができる。これにより,負極板80が製造される。また,得られた負極板80を正極板70とともに,これらの間にはセパレータ25を挟み込みつつ捲回することにより電極体20を製造することができる。さらに,この電極体20に正極端子50および負極端子60を溶接などにより接続し,電解液30とともに電池ケース40内に収容することで二次電池10が製造される。
【0040】
ここで,本形態では,前述したように,粉末成分190として,球状黒鉛90とりん片状黒鉛91とを含む材料を造粒してなる造粒粒子92を用いている(
図7)。このことの意義について説明する。まず,一般的には,球状黒鉛90のみを負極活物質として用いることにより,容量維持率の高いリチウムイオン二次電池を製造することができる。
【0041】
しかし,本形態の造粒粒子92とは異なる,球状黒鉛90のみを造粒して得られる造粒粒子は,粒子表面の凹凸が大きく,流動性が低いものである。このため,球状黒鉛90のみからなる造粒粒子を用いては,均一な性状の負極合材層を形成することができない。
【0042】
球状黒鉛90のみからなる造粒粒子は,粒子の流動性が低いため,粉体供給部110によって一定量を安定して連続的に供給することができないからである。また,スキージ120によって狙いの厚さに均一に均すことができないからである。さらには,球状黒鉛90のみからなる造粒粒子は,粒子表面の凹凸が大きいため,粒子間の隙間のばらつきが大きく,スキージ120を通過後の粉末成分の層において,かさ密度が安定しないからである。
【0043】
一方,りん片状黒鉛91のみを造粒することにより,粒子表面の凹凸が小さく,流動性が高い造粒粒子を製造することができる。つまり,りん片状黒鉛91のみからなる造粒粒子を用いることにより,均一な性状の負極合材層を形成することができる。
【0044】
しかし,りん片状黒鉛91は比表面積が高く,りん片状黒鉛91のみからなる造粒粒子を用いたリチウムイオン二次電池においては,容量維持率が低くなってしまう。りん片状黒鉛91は比表面積が高いことにより,表面に電解液由来の被膜が形成されやすいからである。
【0045】
そこで,本発明者らは,球状黒鉛90とりん片状黒鉛91とを造粒してなる造粒粒子92により,上記の球状黒鉛90のみからなる造粒粒子,および,りん片状黒鉛91のみからなる造粒粒子の問題点をともに解決した。
【0046】
すなわち,球状黒鉛90とりん片状黒鉛91とを混合させつつ造粒することにより,球状黒鉛90に係る造粒粒子の表面の凹凸は,アスペクト比が低いりん片状黒鉛91によって埋められる。このため,球状黒鉛90とりん片状黒鉛91との造粒粒子92は,粒子表面の凹凸が小さく,流動性が高いものとなる。このため,負極板製造装置100を用いて均一な性状の負極合材層86を形成することができる。つまり,負極板80を安定した品質で製造することができる。さらには,その負極板80を用いることにより,二次電池10を安定した品質で製造することができる。
【0047】
また,球状黒鉛90とりん片状黒鉛91との造粒粒子92は,りん片状黒鉛91のみからなる造粒粒子よりも,りん片状黒鉛91が占める割合が低いものである。つまり,球状黒鉛90とりん片状黒鉛91との造粒粒子92を用いることにより,りん片状黒鉛91のみからなる造粒粒子を用いた場合よりも,負極活物質87全体としての比表面積を小さくすることができる。よって,球状黒鉛90とりん片状黒鉛91との造粒粒子92を用いることにより,容量維持率の低下が抑制された高品質な二次電池10を製造することができる。すなわち,球状黒鉛90とりん片状黒鉛91との造粒粒子92を用いることにより,高品質な二次電池10を安定して製造することができる。
【0048】
さらに,上記の効果を十分に発揮させるため,造粒粒子92における,球状黒鉛90のりん片状黒鉛91に対する重量比率は,4から19の範囲内であることが好ましい。つまり,造粒粒子92における球状黒鉛90とりん片状黒鉛91との重量比は,80:20から95:5の範囲内であることが好ましい。加えて,上記割合の球状黒鉛90とりん片状黒鉛91とを造粒してなる造粒粒子92のアスペクト比は,0.79以上であることが好ましい。
【0049】
なお,球状黒鉛90およびりん片状黒鉛91には,上記に示す体積平均粒子径以外のものを用いることもできる。さらに,造粒粒子92についても,上記に示す体積平均粒子径のものに限らず,異なるものを用いてもよい。
【0050】
また,バインダー88としては,上記の共役ジエン系重合体に限らず,負極活物質87を相互に結着させつつ,その負極活物質87を負極集電箔85上に結着できるものであれば特に制限なく使用できる。バインダー88としては,溶媒に分散する性質をもつ分散型バインダーが好ましい。分散型バインダーには,本形態で用いている共役ジエン系重合体の他,シリコン系重合体,フッ素含有重合体,アクリレート系重合体,ポリイミド,ポリアミド,ポリウレタン等の高分子化合物が挙げられる。このうち,フッ素含有重合体,共役ジエン系重合体およびアクリレート系重合体が好ましく,共役ジエン系重合体およびアクリレート系重合体が特に好ましい。
【0051】
分散型バインダーの形状は,特に制限されるものではないが,粒子状であることが好ましい。粒子状の分散型バインダーは結着性が良いからである。さらに,粒子状の分散型バインダーを用いることにより,負極板80の容量の低下,二次電池10の充放電に伴う劣化を抑えることができるからである。また,粒子状の分散型バインダーとしては,例えば,バインダー粒子が水に分散してなるラテックス状のものや,そのような分散液を乾燥して得られる粒子状のものが挙げられる。
【0052】
バインダー88の量は,上記に限らず,球状黒鉛90およびりん片状黒鉛91の合計100重量部に対して,乾燥重量基準で0.1〜50重量部であればよい。さらに,0.5〜20重量部であることが好ましく,1〜15重量部であることが特に好ましい。負極合材層86と負極集電箔85との密着強度を十分に確保できるとともに,負極板80の内部抵抗を低減することができるからである。
【0053】
また,分散剤としては,上記のカルボキシメチルセルロースナトリウム塩に限らず,カルボキシメチルセルロース,メチルセルロース等のセルロース系ポリマーや,これらのアンモニウム塩またはアルカリ塩,ポリビニルアルコール等を単体で使用することができる。あるいは,それらの分散剤のうちの2種以上を組合せて使用することとしてもよい。
【0054】
さらに,粉末成分190における造粒粒子92は,少なくとも負極活物質87である球状黒鉛90およびりん片状黒鉛91を造粒してなるものであればよい。すなわち,バインダー88については,上記のように球状黒鉛90およびりん片状黒鉛91とともに造粒粒子92に含まれている態様の他,球状黒鉛90およびりん片状黒鉛91のみからなる造粒粒子92の粉末とは別の粉末として粉末成分190中に含まれていてもよい。この場合には,粉末成分190として,球状黒鉛90およびりん片状黒鉛91よりなる粉末状態の造粒粒子92と,粉末状態のバインダー88とを,例えば混合装置などを用いることにより混ぜ合わせ,これらを均一に分布させたものを用いればよい。
【0055】
また,プレスローラ130,131は,内部にヒーター等を備えた加熱構成を有するものであってもよい。加熱構成を有することにより,プレスローラ130,131は,負極集電箔85上の粉末成分190の堆積層を,その厚さ方向に加圧しつつ加熱することができる。この加熱により,粉末成分190の堆積層におけるバインダー88が軟化する。よって,プレスローラ130,131の間の通過時における粉末成分190の堆積層の加圧による成形性が向上し,より均一な厚さの負極合材層86を形成することができる。
【0056】
また,本発明者らは,以下に説明する実験を行うことにより,本発明の効果を確認した。この実験では,実施例および比較例の造粒粒子として,それぞれ以下の表1に示すものを用いた。なお,実施例および比較例のいずれにおいても,造粒粒子の作製には,球状黒鉛としてアスペクト比が0.53のものを,りん片状黒鉛としてアスペクト比が0.11のものを用いた。
【0058】
表1に示すように,実施例1,2,3の造粒粒子はいずれも,球状黒鉛とりん片状黒鉛とを混合させつつ造粒して作製したものである。また,実施例1,2,3の造粒粒子における球状黒鉛とりん片状黒鉛との重量比は,80:20から95:5の範囲内である。さらに,実施例1,2,3の造粒粒子のアスペクト比はいずれも,0.79以上である。
【0059】
これに対し,比較例1の造粒粒子は,球状黒鉛のみを造粒して作製したものである。また,比較例5の造粒粒子は,りん片状黒鉛のみを造粒して作製したものである。また,比較例2,3,4の造粒粒子はいずれも,球状黒鉛とりん片状黒鉛とを混合させつつ造粒して作製したものであり,アスペクト比が0.79以上である。しかし,比較例2,3,4造粒粒子における球状黒鉛とりん片状黒鉛との重量比は,80:20から95:5の範囲外である。なお,アスペクト比の測定には,Malvern社製の「Morpholigi(登録商標) G3」を用いた。
【0060】
また,表1には,実施例および比較例の造粒粒子の安息角について示している。安息角とは,円錐形状に積み上げられた粉体が自発的に崩れることなく安定を保っているときの,その円錐の底面と母線(粉体の斜面)のなす角度のことである。そして,一般的には,安息角の小さい粉体ほど,流動性が高いものである。
【0061】
表1より,球状黒鉛の比率が低く,りん片状黒鉛の比率が高い造粒粒子ほど,アスペクト比は高く,安息角は小さくなる傾向にある。つまり,りん片状黒鉛の比率が高い造粒粒子ほど,流動性は高くなる傾向があることがわかる。なお,比較例1以外の造粒粒子の安息角はいずれも,38.2°以下の小さい値を示しており,流動性が高いことがわかる。なお,安息角の測定には,ホソカワミクロン社製の「パウダテスタ(登録商標) PT−S」を用いた。
【0062】
また表1には,実施例および比較例の造粒粒子を用いて負極板製造装置100により作製した負極板の負極合材層についてそれぞれ評価した結果を示している。負極合材層の評価は,目付量について行ったものである。すなわち,まず,作製した負極板の幅方向(
図4のDB方向,
図6の奥行き方向)について負極合材層の目付量を測定した。
【0063】
その測定結果の一例を
図8に示す。
図8には,実施例1を実線により,比較例1を二点鎖線により,比較例5を破線により示している。また,
図8では,縦軸に負極合材層の目付量を,横軸に負極合材層の幅方向の位置を示している。そして,表1には,
図8に示すような負極合材層の目付量の測定結果について,それぞれ平均値からのばらつき量を示している。
【0064】
なお,
図8に示すように,実施例1および比較例5の負極合材層の目付量の測定値はともに,高低差の小さい平坦なものである。実施例1および比較例5の負極合材層は,流動性の高い造粒粒子を用いて作製したものだからである。また,実施例1および比較例5と同様に流動性の高い造粒粒子を用いて作製した実施例2,3および比較例2,3,4の負極板の負極合材層についても,
図8に示す実施例1および比較例5と同様の高低差の小さい測定値が得られた。
【0065】
一方,
図8に示す比較例1の負極合材層の目付量の測定値は,高低差が大きいものである。比較例1の負極合材層は,流動性の低い造粒粒子を用いて作製されたものだからである。
【0066】
よって,表1に示すように,比較例1以外の流動性の高い造粒粒子を用いて作製した負極合材層については,目付量のばらつきが小さいことがわかる。これにより,比較例1以外の負極合材層は,負極集電箔の表面に均一に形成されていることがわかる。よって,これら比較例1以外の造粒粒子を用いることにより,品質の安定した負極板を製造することができる。さらには,その負極板を用いることにより,品質の安定したリチウムイオン二次電池を製造することができる。加えて,負極合材層が均一に形成されていることにより,電池内の充放電反応の偏りを抑制し,その電池性能を良好に発揮できるリチウムイオン二次電池を製造することができる。
【0067】
また,表1には,実施例および比較例の造粒粒子をそれぞれに用いて作製したリチウムイオン二次電池の容量維持率について評価した結果を示している。実施例および比較例のリチウムイオン二次電池はいずれも,用いた造粒粒子が異なるのみであって,その他の構成は上記の二次電池10と同じである。
【0068】
また,容量維持率は,満充電まで充電させたリチウムイオン二次電池を60℃の環境温度下で30日間放置し,その放置前に測定した満充電容量に対する放置後に測定した残電池容量の比により算出したものである。表1に示すように,球状黒鉛の比率が高く,りん片状黒鉛の比率が低い造粒粒子を用いたリチウムイオン二次電池ほど,容量維持率が高い傾向にあることがわかる。
【0069】
すなわち,実施例1,2,3および比較例1の容量維持率は,比較例2,3,4,5の容量維持率よりも高い値である。比較例2,3,4,5の造粒粒子は,りん片状黒鉛の比率が高いことにより,比表面積が大きいものである。このため,比較例2,3,4,5の造粒粒子を用いたリチウムイオン二次電池では,容量維持率が低かったと考えられる。
【0070】
よって,本実験において,実施例についてはいずれも,負極合材層における目付量のばらつきは小さく,リチウムイオン二次電池における容量維持率は高いものであった。一方,比較例については,負極合材層における目付量のばらつき,および,リチウムイオン二次電池における容量維持率の少なくとも一方において,良好な結果を得ることができなかった。
【0071】
以上,詳細に説明したように,本形態では,負極活物質87として,球状黒鉛90とりん片状黒鉛91とを用いる。そして,球状黒鉛90とりん片状黒鉛91との造粒粒子92を含む粉末成分190の堆積層を負極集電箔85上に形成し,粉末成分190の堆積層を負極集電箔85とともに粉末成分190の堆積層の厚さ方向に加圧することにより,負極板80を製造する。負極板80は,造粒粒子92を用いて製造したことにより,均質な性状の負極合材層86を有している。また,得られた負極板80を用いて二次電池10を製造する。二次電池10においては,造粒粒子92を用いて製造された負極板80が用いられていることにより,容量維持率の低下が抑制されている。よって,非水電解質二次電池における容量維持率の低下が抑制されるとともに,集電箔の表面に均一な性状の電極合材層を形成することができる非水電解質二次電池電極用シートの製造方法および非水電解質二次電池の製造方法が提供されている。
【0072】
「第2の形態」
第2の形態について説明する。第2の形態は,上記第1の形態とは異なる負極板製造装置により負極板を製造する。本形態の負極板製造装置は,負極集電箔の表裏の表面上に同時に,負極合材層を形成するものである。この点,負極集電箔の一方の表面上に,負極合材層を形成する第1の形態と異なる。なお,本形態に係る負極板製造装置により製造される負極板,および,その負極板を用いて製造される二次電池については,第1の形態と同じである。
【0073】
図9に第2の形態に係る負極板製造装置200の概略構成を示す。
図9において,上方から下方への向きが重力方向である。
図9に示すように,負極板製造装置200は,粉体供給部210,211,予備プレスローラ220,221,プレスローラ230,231を備えている。負極板製造装置200には,負極集電箔85が,
図9中上方より矢印Yの向きに供給される。供給された負極集電箔85は,負極板製造装置200内を鉛直に搬送された後,負極板製造装置200より
図9中下方に搬出される。
【0074】
また,
図9における負極集電箔85の右面を第1面とし,負極集電箔85の第1面とは反対の左面を第2面とする。つまり,負極板製造装置200において,粉体供給部210,予備プレスローラ220,プレスローラ230は,負極集電箔85の第1面側の構成である。これに対し,粉体供給部211,予備プレスローラ221,プレスローラ231は,負極集電箔85の第2面側の構成である。
【0075】
また,負極集電箔85の第1面および第2面にはともに,負極板製造装置200に供給されてくる時において,まだ何も形成されていない。そして,負極板製造装置200は,負極集電箔85の第1面および第2面に同時に,負極合材層86を形成するためのものである。
【0076】
プレスローラ230,231は,互いに順方向回りに回転しつつ,これらの間を通過する対象物を加圧することができる一対の加圧ローラである。
図9に示すように,プレスローラ230は反時計回りに,プレスローラ231は時計回りにそれぞれ回転する。すなわち,プレスローラ230,231はともに,互いの外周面が対面している対面位置における外周面の移動方向が,重力方向となる方向に回転する。また,プレスローラ230,231は,それらの対面位置において,負極板製造装置200に搬送されてくる負極集電箔85を挟み込むように配置されている。
【0077】
粉体供給部210,211はそれぞれ,
図9に示すように,プレスローラ230,231の外周面上に,一定量の粉末成分290を,連続的に供給するためのものである。また,粉体供給部210は,プレスローラ230の外周面のうち,プレスローラ230の中心のほぼ鉛直上の位置を粉末成分290の供給位置K1としている。粉体供給部211は,プレスローラ231の外周面のうち,プレスローラ231の中心のほぼ鉛直上の位置を粉末成分290の供給位置K2としている。
【0078】
粉体供給部210の供給位置K1は,具体的には,プレスローラ230の外周面上に供給された粉末成分290が,その供給に係る落下時の衝撃によりプレスローラ230の外周面上をほとんど転げ落ちない程度の範囲である供給範囲R1内に定められている。粉体供給部210によってプレスローラ230の外周面上に形成される粉末成分290の堆積層の目付量を安定させるためである。また,粉体供給部211の供給位置K2についても同様に,プレスローラ230の外周面上に供給された粉末成分290が,その供給に係る落下時の衝撃によりプレスローラ230の外周面上をほとんど転げ落ちない程度の範囲である供給範囲R2内に定められている。
【0079】
本形態で用いる粉末成分290は,第1の形態で説明した粉末成分190と同じものである。なお,第1の形態と同様,用いる成分や粒径等を異なるものとしてもよい。ただし,第1の形態と同様,造粒粒子92として,球状黒鉛90のりん片状黒鉛91に対する重量比率が4から19の範囲内であり,アスペクト比が0.79以上であるものを用いることが好ましい。
【0080】
予備プレスローラ220,221はいずれも,プレスローラ230,231よりも外径が小さい加圧ローラであり,外周面の一箇所がそれぞれプレスローラ230,231の外周面と対面するように配置されている。予備プレスローラ220,221はそれぞれ,対面しているプレスローラ230,231と順方向回りとなるように回転することができる。予備プレスローラ220,221はいずれも,プレスローラ230,231上の粉末成分290の堆積層を,所定の厚さに均しつつ,その厚さ方向に加圧するためのものである。本形態では,この予備プレスローラ220,221による加圧を予備加圧とする。なお,予備プレスローラ220,221による加圧力は,プレスローラ230,231の対面位置における加圧力よりも小さいものである。
【0081】
また,予備プレスローラ220が配置されている位置は,プレスローラ230の回転方向について,粉体供給部210の供給位置K1よりも下流側でありプレスローラ230,231の対面位置よりも上流側である。予備プレスローラ221が配置されている位置は,プレスローラ231の回転方向について,粉体供給部211の供給位置K2よりも下流側であり,プレスローラ230,231の対面位置よりも上流側である。
【0082】
なお,予備プレスローラ220,221およびプレスローラ230,231の外周面には,離型剤による表面処理など,摩擦を小さくする処理が施されている。粉末成分290の付着を防止するためである。
【0083】
そして,負極板製造装置200における負極集電箔85の第1面側については,まず,粉末成分290は,粉体供給部210によってプレスローラ230上に供給される。これにより,プレスローラ230上の,粉体供給部210による粉末成分290の供給位置K1よりもプレスローラ230の回転方向の下流側には,粉末成分290の堆積層が形成されている。
【0084】
次に,プレスローラ230上の粉末成分290の堆積層は,プレスローラ230の回転によって搬送され,予備プレスローラ220とプレスローラ230との間を通過する。その通過時において,粉末成分290の堆積層は,予備プレスローラ220によって所定の厚さに均されつつ,予備加圧される。そして,粉末成分290中の各粒子は,予備プレスローラ220の予備加圧により,バインダー88によって互いに結着される。
【0085】
ここで,第1の形態で説明したように,粉末成分290には,球状黒鉛90およびりん片状黒鉛91を造粒してなる造粒粒子92(
図7)が含まれている。そして,予備プレスローラ220による予備加圧時には,粉末成分290中の造粒粒子92は,造粒前の球状黒鉛90とりん片状黒鉛91とに解れつつ,バインダー88によって結着される。続いて,予備プレスローラ220を通過した粉末成分290は,プレスローラ230の回転により,プレスローラ230,231の対面位置へと搬送される。
【0086】
一方,負極板製造装置200における負極集電箔85の第2面側についても,第1面側と同様,粉末成分290は,まず,粉体供給部211によってプレスローラ231上の供給位置K2に供給される。この供給によりプレスローラ231上に形成された粉末成分290の堆積層は,プレスローラ231の回転により,予備プレスローラ221によって所定厚さに均されつつ予備加圧された後,プレスローラ230,231の対面位置へと搬送される。第2面側についても,予備プレスローラ221を通過した粉末成分290中の各粒子は,予備プレスローラ221の予備加圧により,バインダー88によって互いに結着されている。
【0087】
そして,プレスローラ230,231の対面位置へと搬送されてきたプレスローラ230,231上の各粉末成分290の堆積層は,負極板製造装置200に矢印Yの向きに供給されてきた負極集電箔85とともに,プレスローラ230,231の間を通過する。これにより,プレスローラ230,231上の各粉末成分290の堆積層は,負極集電箔85とともに,その厚さ方向に加圧される。この加圧により,プレスローラ230上の粉末成分290は負極集電箔85の第1面に,プレスローラ231上の粉末成分290は負極集電箔85の第2面にそれぞれ,バインダー88によって結着される。
【0088】
また,負極集電箔85の第1面および第2面にバインダー88によって結着された粉末成分290の堆積層はいずれも,プレスローラ230,231の対面位置を通過後,プレスローラ230,231の外周面から離れる。プレスローラ230,231の外周面は,離型性が高いからである。これにより,負極集電箔85の第1面上および第2面上にはそれぞれ,負極合材層86が形成される。
【0089】
つまり,本形態の負極板製造装置200では,第1の形態の負極板製造装置100と異なり,負極集電箔85の第1面および第2面に同時に,負極合材層86を形成することができる。よって,本形態では,第1の形態よりも,負極板80の生産性を高くすることができる。また,本形態おいても,球状黒鉛90とりん片状黒鉛91とを造粒してなる造粒粒子92を用いているため,高品質な二次電池10を安定して製造することができる。
【0090】
すなわち,流動性の高い造粒粒子92を用いているため,粉体供給部210,211により,プレスローラ230,231上に一定量の粉末成分290を安定して連続的に供給することができる。このため,粉体供給部210,211により,プレスローラ230,231上に,ほぼ狙い通りの目付量で粉末成分290を堆積させることができる。
【0091】
また,プレスローラ230,231上の粉末成分290の堆積層は,予備プレスローラ220,221までは,プレスローラ230,231の外周における粉末成分290とプレスローラ230,231の外周面との接触箇所での接線が,重力方向と垂直に近い状態で搬送される。よってその間,粉末成分290中の各粒子は,重力の影響によってプレスローラ230,231の外周面をほぼ滑ることなく搬送される。つまり,粉末成分290の堆積層は,その目付量がほとんど粉体供給部210,211によって堆積された直後の状態で,予備プレスローラ220,221へと到達する。そして,粉末成分290の堆積層は,予備プレスローラ220,221の通過時に所定の厚さに均されつつ予備加圧されることにより,バインダー88の結着力によって形状が安定する。
【0092】
また,予備プレスローラ220,221の予備加圧により,造粒粒子92は球状黒鉛90とりん片状黒鉛91とに解れている。ここで,予備加圧によって解れた球状黒鉛90の粒子同士の間には,粒子形状が球状であることにより隙間が形成されやすい。しかし,球状黒鉛90の粒子間に形成された隙間は,同じく予備加圧によって解れたりん片状黒鉛91が入り込むことによって埋められる。このため,予備プレスローラ220,221の通過後における球状黒鉛90およびりん片状黒鉛91は,粒子間の隙間が少ないことによりそれぞれ他の粒子と多くの接点を有しつつ,その多くの接点において互いにバインダー88によって結着されている。
【0093】
さらに,本形態では,前述したように,球状黒鉛90には体積平均粒子径が20μmのものを,りん片状黒鉛91には体積平均粒子径が10μmのものを用いている。これにより,球状黒鉛90の粒子間の隙間を,球状黒鉛90よりも小さいりん片状黒鉛91により適切に埋めることができる。
【0094】
予備プレスローラ220,221を通過後,粉末成分290の堆積層は,プレスローラ230,231の回転により,プレスローラ230,231の対面位置まで搬送される。この時,粉末成分290は,プレスローラ230,231の対面位置に近づくほど,重力の影響によりプレスローラ230,231の外周面に沿って
図9中下方向に滑りやすくなる。プレスローラ230,231の外周における粉末成分290とプレスローラ230,231の外周面との接触箇所での接線が,重力方向と平行に近い状態となるためである。また,プレスローラ230,231の外周面には粉末成分290の付着防止のための摩擦を小さくする処理がなされているため,粉末成分290の滑りは生じやすい状態である。
【0095】
しかし,前述したように,予備プレスローラ220,221により予備加圧された粉末成分290中の各粒子は,互いに多くの接点を有しつつ,その接点においてバインダー88により結着されている。つまり,予備プレスローラ220,221を通過後における粉末成分290の堆積層は,その形状が崩れにくい状態とされている。よって,本形態では,粉末成分290を,予備プレスローラ220,221の通過直後の形状を保ったまま,プレスローラ230,231の回転により,プレスローラ230,231の対面位置へと搬送することができる。すなわち,予備プレスローラ220,221からプレスローラ230,231の対面位置までについても,粉末成分290の堆積層を,目付量をほとんど変化させずに搬送することができる。従って,本形態により,高品質な二次電池10を安定して,高い生産性で製造することができるのである。
【0096】
また,本形態の負極板製造装置200についても,加熱構成を有するものであってもよい。加熱構成を有することにより,加圧時における粉末成分290の成形性を向上させ,より均一な厚さの負極合材層86を形成することができる。負極板製造装置200においては,予備プレスローラ220,221やプレスローラ230,231の内部にヒーター等を設けることなどが考えられる。
【0097】
また
図10に実施例4として,本形態に係る,球状黒鉛とりん片状黒鉛とを造粒してなる造粒粒子を用い,負極板製造装置200により負極板を製造した場合の,搬送速度と電極目付のSN比との関係を示している。
図10の横軸に示す搬送速度は,負極集電箔の搬送速度である。よって,搬送速度が速いほど,プレスローラ230,231や予備プレスローラ220,221の回転速度が速く,粉体供給部210,211による粉末成分の単位時間当たりの供給量が多いものである。また,縦軸に示す電極目付のSN比は,その値が高いほど,負極集電箔上に形成された負極合材層の目付量が安定した負極板であることを示す指標である。
【0098】
また,
図10には,実施例4と比較するための,比較例6〜8についても示している。比較例6〜8はいずれも,本形態に係る実施例4とは異なる製造方法により負極板を製造した場合のものである。具体的には,比較例6は,球状黒鉛のみを造粒してなる造粒粒子を用い,負極板製造装置200により負極板を製造した場合を示すものである。
【0099】
比較例7は,球状黒鉛とりん片状黒鉛とを造粒してなる造粒粒子を用い,負極集電箔とともにのみ粉末成分の加圧を行う装置により負極板を製造した場合を示すものである。比較例8は,球状黒鉛のみを造粒してなる造粒粒子を用い,負極集電箔とともにのみ粉末成分の加圧を行う装置により負極板を製造した場合を示すものである。比較例7および比較例8においては,本形態に係る負極板製造装置200の予備プレスローラ220,221に替えて,その位置にスキージを配置し,粉末成分の加圧を負極集電箔とともにプレスローラ230,231の対面位置でのみ行う構成のものを用いた。なお,比較例6〜8については,上記した以外の条件については本形態と同様である。
【0100】
そして,
図10より,本形態に係る実施例4については,比較例6〜8のいずれよりもSN比の値が高く,搬送速度が速い場合でもその高いSN比が維持されていることがわかる。よって,本形態においては,負極合材層の目付量が安定した負極板を製造することができ,さらに,搬送速度を速めることにより負極板の生産性を高めても,高品質なリチウムイオン二次電池を安定して製造することができる。
【0101】
一方,比較例6では,流動性の低い球状黒鉛のみからなる造粒粒子を用いている。このため,粉体供給部210,211により,プレスローラ230,231上に一定量の粉末成分を安定して連続的に供給することができない。さらには,球状黒鉛のみからなる造粒粒子を用いているため,予備プレスローラ220,221の通過時に造粒粒子より解れた球状黒鉛の粒子間に形成された隙間を,本形態のようにりん片状黒鉛によって適切に埋めることができない。これにより,予備プレスローラ220,221を通過後の粉末成分中の粒子同士の結着力が十分ではなく,プレスローラ230,231の対面位置に到達するまでの間に,粉末成分がプレスローラ230,231上を滑ってしまう。
【0102】
比較例7では,予備プレスローラ220,221に替えてスキージを配置しているため,予備プレスローラ220,221による予備加圧を行っていない。このため,スキージを通過後,プレスローラ230,231の対面位置へ到達するまでの間に,バインダーによって結着していない粉末成分が,プレスローラ230,231上を滑ってしまう。また,比較例8では,球状黒鉛のみからなる造粒粒子を用いており,予備プレスローラ220,221による加圧も行っていないため,プレスローラ230,231の対面位置に到達するまでの間に,粉末成分がプレスローラ230,231上を滑ってしまう。
【0103】
よって,比較例6〜8ではいずれも,プレスローラ230,231の対面位置に到達したときの粉末成分の堆積層の目付量が安定していないため,負極集電箔上に目付量が安定した負極合材層を形成することができなかったと考えられる。さらに,比較例6〜8のSN比はいずれも,搬送速度を速めた場合に大きく低下している。つまり,搬送速度を速めることにより,リチウムイオン二次電池の品質が大きく低下してしまうおそれがある。
【0104】
以上,詳細に説明したように,本形態では,負極板製造装置200を用いることにより,負極集電箔85の両面に同時に,負極合材層86を形成することができる。よって,上記の第1の形態よりも高い生産性で負極板80,さらには二次電池10を製造することができる。
【0105】
なお,上記の実施の形態は単なる例示にすぎず,本発明を何ら限定するものではない。従って本発明は当然に,その要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良,変形が可能である。例えば,扁平型のリチウムイオン二次電池に限らず,捲回型電極体を用いる電池であれば,同様に適用することができる。また例えば,捲回しないで負極板,正極板,セパレータを積層してなる積層型電極体を有するリチウムイオン二次電池にも適用することができる。