【文献】
Alexandre Titov et al.,Precise interferometric length and phase-change measurement of gauge blocks based on reproducible wringing,APPLIED OPTICS,2000年 2月 1日,Vol. 39, No. 4,pp. 526-538
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
<端度器およびその検査>
長さの基準として端度器が広く用いられている。端度器は、その両端の面間距離で規定の寸法を表すものであり、代表的なものとしてブロックゲージがある。
【0003】
ブロックゲージ等の端度器は、極めて高い寸法精度をもち、その端面が他のブロックゲージの端面に容易に密着(リンギング)する。そして、数個のブロックゲージを密着することで1〜10μm単位の基準寸法を作り出すことができる。その反面、このブロックゲージは、端面が常に他の端面と接触するような使い方をするので、傷や摩耗を生じやすく、材料の経年変化もあり、定期的な検査を必要とする。
【0004】
<光波干渉測定装置>
端度器の端面間寸法の検査をするには、より高い測定精度の検査装置が要求され、例えば、寸法を高分解能、非接触で測定できることから、光波干渉測定装置が一般的に用いられている。光波干渉測定装置には、ベースプレート等に端度器を密着させた状態で、端面間寸法の測定を行なう密着方式と、ベースプレート等を使用しないで非密着の状態で端面間寸法の測定を行なう非密着方式とがある。非密着方式では、端度器の両端面に向けて光を同時に照射し、それぞれの端面からの反射光による干渉縞を得る。CCDカメラ等で撮像した干渉縞の画像に基づいて端面間の寸法測定を行なう。両端面同時照射方式とも呼ばれる。この非密着方式は、端度器をベースプレートにリンギングさせる必要がなく、リンギングによる測定誤差の影響を回避できるため、端度器の検査装置として広く用いられるようになっている。(特許文献1の
図2、および特許文献2を参照)。
【0005】
非密着方式の光波干渉測定について
図5に基づいて補足する。
図5は端度器GB
1の両端面に照射された測定光およびその反射光の光路を模式的に示している。光波干渉測定により測定される端度器GB
1の光学的寸法はL
101で示される。しかし、図中のL
GB1で示す機械的寸法が通常の検査対象になるので、補正が必要になる。機械的寸法L
GB1は、ノギス等の接触式の測長計で測定される寸法を指す。2つの寸法に差が生じるのは、光波干渉測定では各端面において測定光に位相変化(phase change)が生じるからである。その位相変化をδで示すと、機械的寸法L
GB1は、次式のように光学的寸法L
101に各端面の位相変化を足し加えた寸法で表わすことができる。
L
GB1=L
101+2×δ ・・・(1)
【0006】
<位相変化>
光波干渉測定における位相変化は、位相差とも呼ばれ、発生する原因によって2つに区別される。1つは端面の表面粗さによって生じる位相変化で、もう1つは端度器の材質の光学的性質(複屈折率)によって生じる位相変化である。表面粗さが位相変化に与える影響、及び、複屈折率が位相変化に与える影響について、端度器の材質ごとの有無を表1に示す。
(表1)
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
端度器の材質 表面粗さの影響 複屈折率の影響
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
金属 あり あり
セラミック あり なし
ガラス なし(無視できる) なし
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
【0007】
位相変化に相当する正確な補正値(位相補正値δとする。)が分かっていれば、上記の式(1)を用いることにより、光波干渉測定による光学的寸法の位相変化分を補正して機械的寸法を高い精度で取得することができる。
【0008】
<位相補正値の測定方法>
位相補正値δを測定する従来の方法として、主に3つの方法がある。
1.表面粗さと屈折率の測定値から算出する方法
2.ベースプレートを使用する方法(補助ゲージ法)
3.積み上げ法(スタック法)
【0009】
一番目の方法は、端度器の表面粗さ、および、表面屈折率を直接測定して、その測定値から位相補正値δを算出するものである。しかし、この方法では、表面粗さ測定機により表面粗さを測定して前述の形状補正値を決定し、エリプソメータにより複屈折率を測定して前述の光学補正値を決定するという作業が必要になり、また、それぞれの測定装置が光波干渉測定装置とは別に必要になるという点で、手間と費用がかかり過ぎるという問題がある。
【0010】
二番目の補助ゲージ法では、
図6に示すように、鋼製のベースプレートと合成石英やBK7等のガラス製のベースプレートとを用いて2通りの光波干渉測定を行なう。この方法では、表1のようにガラス製のベースプレートが複屈折率による位相変化をほとんど生じず、また、表面の粗さを小さくする加工を用いることによって表面粗さによる位相変化もほとんど生じないという特徴を利用して、位相補正値δを求めている。
【0011】
具体的には、
図6(A)のように端度器GB
1を2種類のベースプレートBP
1,BP
2に載置して、同図(B),(C)のように2通りの端面間寸法の測定を行なう。同図(B)では、端度器GB
1と同一材質である鋼製のベースプレートBP
1を準備して、両者をリンギングして、端度器GB
1の端面間の光学的寸法L
201を測定する。つまり、測定光の一部は端度器GB
1の端面を反射し、測定光の他の部分はベースプレートBP
1の表面を反射する。端度器GB
1とベースプレートBP
1の材質が同一であることから、端度器GB
1を反射する際の位相変化とベースプレートBP
1を反射する際の位相変化とを相殺できる。この測定による光学的寸法L
201は、端度器GB
1の機械的寸法L
GB1、及び位相変化(δで示す。)を用いると、次式となる。
L
201=L
GB1−δ+δ=L
GB1 ・・・(2)
【0012】
次に同図(C)に示す測定では、合成石英やBK7等のガラス構造の材質で形成されたベースプレートBP
2を準備して、このベースプレートBP
2に同図(B)の測定で用いた端度器GB
1をリンギングして、同図(B)と同様に端度器GB
1の端面間の光学的寸法L
202を測定する。前述のように合成石英やBK7等のガラスにおいては、その表面反射における測定光の位相変化は無視できるレベルとなる。この測定による光学的寸法L
202は、端度器GB
1の位相変化(δで示す。)を用いて、次式で表わされる。
L
202=L
GB1−δ ・・・(3)
【0013】
従って、端度器GB
1の位相補正値δは、式(2),(3)から導かれる次式により算出される。
δ=L
201−L
202 ・・・(4)
【0014】
補助ゲージ法では、式(2)から明らかなように同一材質の端度器GB
1とベースプレートBP
1の位相変化が同じであることを前提としている。しかし、より正確な位相補正値δを測定するためには、材質が同一であっても形状や表面状態によって位相変化が異なることを考慮して位相補正値を測定した方がよい。
【0015】
三番目の積み上げ法は、二番目の補助ゲージ法の測定原理を拡張したものであり、
図7(A)〜(D)に示すように、同一材質の複数個の端度器(ここでは、3個の鋼製の端度器GB
1〜GB
3を用いる場合を例示する。)を用いて複数種類の光波干渉測定を行ない、測定された複数の光学的寸法L
301〜L
304を用いて位相補正値δを算出するというものである。ベースプレートBP
2には、合成石英やBK7等のガラス製のものを用いる。
【0016】
第1の測定は、
図7(A)のように、端度器GB
1を単独でベースプレートBP
2にリンギングして、補助ゲージ法と同様に端度器GB
1の端面間の光学的寸法L
301を測定する。第2、第3の測定は、同図(B),(C)のように、端度器GB
2、GB
3をそれぞれ単独でベースプレートBP
2にリンギングして、各端度器の端面間の光学的寸法L
302,L
303を測定する。
【0017】
3個の端度器を単独で測定した場合の、光学的寸法L
301〜L
303及び機械的寸法L
GB1〜L
GB3との関係は、各端度器の位相変化をδとすると、次式のようになる。
L
GB1=L
301+δ
L
GB2=L
302+δ ・・・(5)
L
GB3=L
303+δ
【0018】
第4の測定は、
図7(D)のように、3個の端度器GB
1〜GB
3をリンギングによって積み上げて、ベースプレートBP
2にリンギングさせる。つまり、ベースプレートBP
2上に任意の順番に積み重ねられた3個の端度器について、その端面間の光学的寸法L
304を測定する。この光学的寸法L
304は、端度器3個分の厚さに相当するが、正確には最上部の端度器GB
1にて測定光の位相変化が生じるため、端度器3個分の機械的寸法よりもその位相変化分だけ短くなる。
【0019】
従って、積み上げられた状態の3個分の端度器の光学的寸法L
304は、3個の端度器のそれぞれの機械的寸法L
GB1,L
GB2,L
GB3の和から1つ分の位相補正値δを差し引いた寸法に等しいと言え、さらに式(5)の関係により、次式のようになる。
L
304=L
GB1+L
GB2+L
GB3−δ
=L
301+L
302+L
303+2δ ・・・(6)
すなわち、積み上げ法により得られる位相補正値δは、次式で表わされる。
δ=(L
304−(L
301+L
302+L
303))/2 ・・・(7)
【0020】
式(7)は3個の端度器を使用する場合に得られる位相補正値δの式であるが、一般化してn個の端度器を使用する場合に得られる位相補正値δの式は、次式のようになる。
δ=(L
ALL−ΣLn)/(n−1) ・・・(8)
【0021】
積み上げ法によれば、補助ゲージ法とは異なり、同一のベースプレートBP
2だけを用いて位相補正値を取得することができるので、補助ゲージ法よりも正確な位相補正値が得られる。さらに、複数個の端度器GB
1〜GB
3を積み上げて、その状態で複数個分を合わせた端面間の寸法L
304を測定するので、同一材料の複数の端度器における平均的な位相補正値δを取得することができる。このように、積み上げ法で取得した位相補正値δは、同一材料の端度器についての
代表値として用いることが可能であり、この代表値を使用して各端度器の光学的寸法の補正を行なうことにより、端度器の端面間の機械的寸法を一定の精度レベルで測定することが可能であった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
しかしながら、近年、産業界等から要求される端度器の寸法精度は更に高いレベルとなり、これに伴って端度器の検査方法を見直す必要が生じてきた。まず、本発明の第1の目的は、従来の方法では達成困難な高い測定精度で端度器の端面間寸法を測定することができる方法を提供することである。また、本発明の第2の目的は、光波干渉測定による光学的寸法に対して位相補正を行なうための位相補正値を高い測定精度で測定できる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0024】
従来の積み重ね法では、同一材質で表面粗さの揃った複数の端度器について、共通の位相補正値(代表値)を用いて光学的寸法の補正を行なっていた。そのため、使用する位相補正値としては、できる限り数多くの端度器について予備測定を行なって得た代表値を用いることが好ましいと考えられていた。そして、このような代表値を用いることにより、一定の精度レベルでの測定が可能であった。
【0025】
このような状況下において発明者は、従来の位相補正値の測定方法を詳細に見直し、同一材質の端度器であっても、例えば加工ロット毎に位相変化の生じ方が微妙に異なっている点に着目した。そして、端度器の単体ごとに異なっている位相変化をも適切に反映させた位相補正値を測定する方法を見出し、これによって、従来よりも高い精度で端度器の端面間寸法を取得できる方法を完成させた。
【0026】
すなわち、本発明に係る位相補正値の測定方法は、
光を互いに可干渉な2光束に分け、一方を参照光、他方を測定光とし、前記測定光を端度器(GB
1)の端面に照射し、その反射光と前記参照光とによる干渉縞に基づいて前記端度器の相対向する端面間の光学的寸法(L
101)の測定を行ない、
さらに、前記測定光の反射時に生じる位相変化分を次の式、
L
GB1=L
101+δ
1a+δ1b
によって補正することにより前記端度器の端面間の機械的寸法(L
GB1)を取得する際に、
前記端度器の2つの端面(1a、1b)のそれぞれの位相補正値(δ
1a、δ1b)を測定する方法であって、
まず、前記寸法測定対象の端度器(GB
1)と、これとは他の端度器(GB
2)と、
表面反射における前記測定光の位相変化を無視できる基盤と、を用意する工程と、
前記寸法測定対象の端度器(GB
1)
の端面(1b)を前記基盤に密着させて、該端度器に前記測定光を照射し、その反射光と前記参照光とによる干渉縞に基づき、該端度器についての端面間の光学的寸法(L
1)の測定を行なう工程と、
前記他の端度器(GB
2)を前記基盤に密着させて、該端度器に前記測定光を照射し、その反射光と前記参照光とによる干渉縞に基づき、該端度器についての端面間の光学的寸法(L
2)の測定を行なう工程と、
前記基盤と前記寸法測定対象の端度器(GB
1)
の端面(1b)とを密着状態にして、かつ、該寸法測定対象の端度器(GB
1)
の端面(1a)と前記他の端度器(GB
2)とを密着状態にして、
これら前記基盤上に積み重ねられた2つの端度器(GB
1、GB
2)に前記測定光を照射し、その反射光と前記参照光とによる干渉縞に基づいて、前記他の端度器(GB
2)における非密着側の端面から、前記寸法測定対象の端度器(GB
1)における前記基盤と密着している端面までの間の光学的寸法(L
12)の測定を行なう工程と、
前記寸法測定対象の端度器(GB
1)の光学的寸法(L
1)、前記他の端度器(GB
2)の光学的寸法(L
2)、及び前記積み重ねた状態の2つの端度器(GB
1、GB
2)についての光学的寸法(L
12)から、前記寸法測定対象の端度器(GB
1)
の一方の端面(1a)の位相補正値(δ
1a)を次の式、
δ
1a=L
12−(L
1+L
2)
によって演算する工程と、
前記寸法測定対象の端度器(GB1)の表裏面を逆にして、前記光学的寸法(L1)、および、前記光学的寸法(L12)の測定を行なって、前記寸法測定対象の端度器(GB1)の他方の端面(1b)の位相補正値(δ1b)を次の式、
δ1b=L12−(L1+L2)
によって演算する工程と、を含むことを特徴とする。
【0027】
ここで、前記寸法測定対象の端度器(GB
1)の相対向する2つの端面(1a,1b)についてそれぞれ位相補正値(δ
1a,δ
1b)を測定することが好ましい。
【0028】
また、本発明に係る測定方法は、前記位相補正値の測定方法で得られた2つの位相補正値(δ
1a,δ
1b)を用いて、端度器(GB
1)の相対向する端面間の機械的寸法(L
GB1)の測定を行なう方法であって、
前記寸法測定対象の端度器(GB
1)の相対向する両端面へそれぞれ前記測定光を同時に照射し、該端度器(GB
1)の一方の端面からの反射光と参照光とによる干渉縞と、該端度器(GB
1)の他方の端面からの反射光と参照光とによる干渉縞と、に基づいて該端度器(GB
1)の端面間の光学的寸法(L
101)の測定を行なう工程と、
前記寸法測定対象の端度器(GB
1)の光学的寸法(L
101)、及び前記2つの位相補正値(δ
1a、δ
1b)から該端度器(GB
1)の機械的寸法(L
GB1)を次の式、
L
GB1=L
101+δ
1a+δ
1b
によって演算する工程と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0029】
従来の積み上げ法により位相補正値の代表値を測定する方法では、
図7(D)のように3、4個の端度器を積み重ねた状態にして、最下面から最上面までの面間寸法L
304を測定する。従って、一度に2箇所、3箇所の密着面を含む面間寸法L
304を測定していることになる。端度器を密着させる作業は、多くの経験に支えられた高度な技術を要し、複数の個所に一様の密着面を形成することは至難の業である。さらに、高い精度の位相補正値を測定する場合には、このような密着面のばらつきが位相補正値に与える影響を無視することができなくなっていた。
【0030】
これに対して、本発明に係る位相補正値の測定方法では、端度器GB
1の単体固有の位相変化を測定し、単体固有の位相変化をそのまま反映した位相補正値δ
1を決定している。すなわち、本発明には、3、4個の端度器の平均的な位相変化を測定して位相補正値の代表値を決定するという発想はなく、基盤に積み重ねる端度器は最大でも2個でよい。2個の端度器であれば、積み重ねる際の密着作業も比較的容易となり、密着面のばらつきが位相補正値に与える影響も小さくなる。よって、端度器の単体ごとに異なっている位相変化をも適切に反映させた位相補正値δ
1を容易に、かつ高い測定精度で測定することができる。
【0031】
そして、測定対象の端度器GB
1の表裏の端面についての固有の位相補正値δ
1a、δ
1bを取得するとともに、これらの位相補正値を用いて、両端面干渉測定装置100により測定された端度器GB
1の端面間の
機械的寸法L
GB1を、L
GB1=L
101+δ
1a+δ
1bに基づいて位相補正するので、従来よりも高い測定精度で端度器の端面間の機械的寸法L
GB1を取得することができる。
【発明を実施するための形態】
【0033】
<位相補正値の測定方法>
本発明に係る位相補正値の測定方法についての一実施形態を図面に基づいて説明する。本実施形態では、
図1(A)に示すトワイマングリーン干渉計(以下、干渉計10)を用いて位相補正値を測定する。
【0034】
干渉計10は、波長λのレーザを発するレーザ光源LSと、レーザ光源LSからのレーザを平行光束にするコリメータレンズCLと、平行レーザの光軸との交角が45度になるようにコリメータレンズCLに対して配置されたハーフミラーHMと、ハーフミラーHMを反射した平行レーザの進行方向に配置された参照鏡RMと、ハーフミラーHMを透過した平行レーザの進行方向に配置されたベースプレートBP
2と、ハーフミラーHMを反射した平行レーザの光軸上であってハーフミラーHMに対して参照鏡RMとは反対側に配置されたスクリーンSCとを備える。光波干渉測定の際、ベースプレートBP
2に1または複数の端度器GB
1,GB
2が載置される。
【0035】
レーザ光源LSからの平行レーザは、その一部分がハーフミラーHMを反射して参照鏡RMへ向かい参照光となり、その他の部分はハーフミラーHMを透過してベースプレートBP
2へ向かい測定光となる。参照光RMの反射面は、ハーフミラーHMを反射した平行レーザの光軸に対して垂直になるように、参照鏡RMの姿勢が決められている。同様にベースプレートBP
2の表面(リンギング面)は、ハーフミラーHMを透過した平行レーザの光軸に対して垂直になるように、ベースプレートBP
2の姿勢が決められている。
【0036】
参照鏡RMを反射した平行レーザ(参照光)はハーフミラーHMに戻され、そのハーフミラーHMを透過して、スクリーンSCへ向かう。また、ベースプレートBP
2を反射した平行レーザ(測定光)はハーフミラーHMに戻され、そのハーフミラーHMを反射して、参照光とともにスクリーンSCへ向かう。従って、スクリーンSCでは測定光と参照光による干渉縞が観察され、もしくは撮像されて画像処理される。つまり、ベースプレートBP
2のリンギング面に何も密着されていない状態での干渉縞は、一種類だけ観察される。
【0037】
図1(A)に示すように、ベースプレートBP
2のリンギング面に2個の端度器GB
1,GB
2を密着により積み重ねた場合には、ハーフミラーHMからの
測定光の一部分が端度器GB
2の表面を反射し、
測定光の他の部分がベースプレートBP
2の表面を反射することになる。その結果、スクリーンSC上には、
図1(B)に示すように、1つの視野内に2種類の干渉縞が観察されることになる。同図(B)にて円形輪郭はベースプレートBP
2の平面形状もしくはCCDカメラ等の視野である。内側の矩形輪郭は端度器GB
2の平面形状であり、その内側の干渉縞は、この端度器GB
2を反射した測定光と参照光との干渉により生じたものである。矩形輪郭の外側の干渉縞は、ベースプレートBP
2を反射した測定光と参照光との干渉により生じたものである。
【0038】
次に、同図(B)の干渉縞の画像を処理する。まず、矩形輪郭の外側の干渉縞における基準となる暗部(図中のほぼ中心を通る暗部)を定める。また、矩形輪郭の内側の干渉縞から、基準にした暗部に最も近い暗部を定める。そして、定めた2つの暗部の間隔(図中の寸法b)を取得する。また、矩形輪郭の内側の干渉縞における暗部のピッチ(図中の寸法a)を取得する。これらの間隔やピッチの取得には、既存の画像処理を適用することができる。寸法a,bより、端度器の端数部ε(=b/a)が得られる。
【0039】
ベースプレートBP
2上に積み重ねた2枚分の端度器の光学的寸法L
12は、一般的に次式により算出することができる。
L
12=(λ/2)・(N+ε) ・・・(9)
ここで、Nは端度器の整数部であり、予備測定で得たNを用いてもよいし、公知の合致法で得たNを用いてもよい。合致法では、複数の波長のレーザで同一の端度器を測定し、式(9)についての複数の式を得る。そして整数条件に基づき整数部Nを決定するものである。
【0040】
本発明の位相補正値の測定方法において特徴的なことは、上記の干渉計10を使って、
図2のようにベースプレートBP
2のリンギング面に2個の端度器GB
1,GB
2を単独または積み重ねた状態で密着させて、それぞれの光学的寸法L
1,L
2,L
12を測定し、これらの測定値に基づいて端度器GB
1に固有の位相補正値δ
1を取得する点にある。
【0041】
図2(A)〜(C)に基づいて、位相補正値の測定方法について詳しく説明する。使用する複数の端度器GB
1,GB
2は同一材質であればよく、その材質がどのような種類のものであるかについては問わない。まず、同一材質の2個の鋼製の端度器GB
1,GB
2と、基盤としてガラス製のベースプレートBP
2を準備する。2個の端度器GB
1,GB
2のうち、端度器固有の位相補正値を測定したい方を「測定対象の端度器GB
1」と呼び、他方を単に「他の端度器GB
2」と呼んで区別する。ベースプレートBP
2は、同じ材質ならば何でもよいが、特に合成石英やBK7等のガラス製がよい。その他の反射時の位相変化が小さい材質からなるベースプレートとしてもよい。
【0042】
第1の測定は、
図2(A)のように、測定対象の端度器GB
1を単独でベースプレートBP
2にリンギングして、端度器GB
1の端面間の光学的寸法L
1を測定する。
第2の測定は、同図(B)のように、他の端度器GB
2を単独でベースプレートBP
2にリンギングして、端度器GB
2の端面間の光学的寸法L
2を測定する。
第1、2の測定により、ベースプレートBP
2に密着した状態のそれぞれの端度器GB
1,GB
2についての端面間の光学的寸法L
1,L
2が得られる。
【0043】
第3の測定では、同図(C)のように、ベースプレートBP
2と測定対象の端度器GB
1とをリンギングにより密着状態にして、かつ、測定対象の端度器GB
1と他の端度器GB
2とをリンギングにより密着状態にする。つまり、ベースプレートBP
2上に2個の端度器GB
1,GB
2を所定の順番で積み重ねた状態にする。そして、上側の端度器GB
2の非密着側の端面(上面)に向けて測定光を照射し、2個分の端度器GB
1,GB
2の光学的寸法L
12を測定する。測定される光学的寸法L
12は、上段の端度器GB
2における非密着側の端面(上面)から、下段の端度器GB
1におけるベースプレートBP
2との密着面(下面)までの端面間の光学的寸法になる。
【0044】
ここで、第2の測定にて、測定光が照射される端度器GB
2の端面(上面)と、第3の測定にて、測定光が照射される端度器GB
2の端面(上面)とが同一面になるように注意する必要がある。同一の端度器GB
2であっても相対向する2つの端面では、それぞれ固有の位相変化が生じるため、使用する端度器の表裏まで管理した状態で、各測定を行なう必要がある。同様に、第1の測定にて、測定光が照射した端度器GB
1の端面(上面)と、第3の測定にて、他の端度器GB
2にリンギングされる端度器GB
1の端面(上面)とが同一面になるように注意する必要がある。
【0045】
次に、測定された複数の光学的寸法L
1,L
2,L
12を用いて測定対象の端度器GB
1に固有の位相補正値δ
1を算出する方法を説明する。
図2(C)からも明らかなように、第3の測定で得られた2個分の端度器の光学的寸法L
12は、第1及び第2の測定で得られた各端度器の光学的寸法L
1,L
2を合計したものよりも、測定対象の端度器GB
1の端面(上面)についての位相変化分(δ
1で示す。)だけ大きい。従って、光学的寸法L
12は次式になる。
L
12=L
1+L
2+δ
1 ・・・(10)
つまり、測定対象の端度器GB
1に固有の位相補正値δ
1が次式により算出される。
δ
1=L
12−(L
1+L
2) ・・・(11)
【0046】
<端度器の表裏面にそれぞれ固有の位相補正値を測定する方法>
上記の第1及び第3の測定において、測定対象の端度器GB
1の表裏面を逆にして、それぞれ光学的寸法L
1,L
12を測定すれば、測定対象の端度器GB
1の表裏の端面についての固有の位相補正値を取得できる。ここで、端度器GB
1の相対向する2つの端面を1a、1bで表わし、それぞれの位相補正値をδ
1a、δ
1bで表わす。
【0047】
<端度器の端面間寸法の測定方法>
以降では、本発明に係る端度器の端面間寸法の測定方法の一実施形態について図面に基づいて説明する。本実施形態では、
図3に示す非密着方式の光波干渉測定装置(両端面干渉測定装置100)を用いて端度器の端面間寸法(機械的寸法L
GB1)を測定する。この測定には、前述の実施形態に係る測定方法によって取得された端度器GB
1の相対向する2つの端面1a,1bについての固有の位相補正値δ1a,δ1bを用いる。
【0048】
図3に示す両端面干渉測定装置100は、レーザ光源22と、コリメータレンズ24と、前置反射鏡26と、前置ハーフミラー28と、第一干渉手段29と、第二干渉手段30とを備える。第一干渉手段29は、第一ハーフミラー31と、第一参照鏡32とを備える。第一干渉手段29の後段に第一スクリーン34と、第一CCDカメラ36とを備える。第二干渉手段30は、第二ハーフミラー38と、第二参照鏡40とを備える。第二干渉手段30の後段に第二スクリーン42と、第二CCDカメラ44とを備える。
【0049】
まず、端度器GB
1の相対向する端面1a,1bの両方に対して可干渉光(測定光)16,18を入射させて光波干渉測定を行う両端面干渉計100の所定光路上に、端度器GB
1をその測長軸を一致させて配置する。
レーザ光源22からの可干渉光は、コリメータレンズ24、前置反射鏡26を経由して、前置ハーフミラー28まで導光される。そして、第一ハーフミラー31は、前置ハーフミラー28で分割された第一分割光を端度器GB
1に向けて反射させる。この第一分割光は、所定のビーム径及び波長を持つ可干渉光16である。第一ハーフミラー31から端度器GB
1に向かう可干渉光16は、その一部が該端度器GB
1の一方の端面1aを反射して、第一ハーフミラー31に戻り、かつ、その残りが端度器GB
1の脇を通過して第二ハーフミラー38に入射する。
【0050】
第二ハーフミラー38は、前置ハーフミラー28で分割された第二分割光を端度器GB
1に向けて反射させる。この第二分割光は、前記可干渉光16と同じビーム径及び波長を持つ可干渉光18である。第二ハーフミラー38から端度器GB
1に向かう可干渉光18は、その一部が該端度器GB
1の他方の端面1bを反射して、第二ハーフミラー38に戻り、かつ、その残りが端度器GB
1の脇を通過して第一ハーフミラー31に入射する。
【0051】
そして、第一ハーフミラー31において、端度器GB
1の脇を通過してきた第二ハーフミラー38からの可干渉光18と、第一参照光とが重なり合って基準干渉縞が形成される。第一参照光とは、前置ハーフミラー28からの第一分割光が第一ハーフミラー31を透過し第一参照鏡32で反射された可干渉光である。かつ、端度器GB
1の一方の測定面1aの反射光と、前記第一参照光とが重なり合って測定干渉縞が形成される。
【0052】
第二ハーフミラー38においても、端度器GB
1の脇を通過してきた第一ハーフミラー31からの可干渉光16と、第二参照光とが重なり合って基準干渉縞が形成される。第二参照光とは、前置ハーフミラー28からの第二分割光が第二ハーフミラー38を透過し第二参照鏡40で反射された可干渉光である。かつ、端度器GB
1の他方の測定面1bの反射光と、前記第二参照光とが重なり合って測定干渉縞が形成される。
【0053】
第一CCDカメラ36は、第一ハーフミラー31で得られた基準干渉縞及び測定干渉縞をそれぞれ同時に観察する。第二CCDカメラ44は、第二ハーフミラー38で得られた基準干渉縞及び測定干渉縞をそれぞれ同時に観察する。
【0054】
そして、端度器GB
1の相対向する端面間の予備値、並びに、第一CCDカメラ36で観察された基準干渉縞54と測定干渉縞56との位相差、及び第二CCDカメラ44で観察された基準干渉縞58と測定干渉縞60との位相差に基づいて、端度器GB
1の相対向する端面間の光学的寸法L
101を求める。
【0055】
さらに、端度器GB
1の2つの端面1a,1bにおける固有の位相補正値δ1a,δ1bに基づいて、光学的測定長L
101の位相補正を行なって、端度器GB
1の機械的寸法L
GB1を次式から取得する。
L
GB1=L
101+δ
1a+δ
1b ・・・(12)
【0056】
<本実施形態の効果>
従来の積み上げ法により位相補正値の代表値を測定する方法では、
図7(D)のように3、4個の端度器を積み重ねた状態にして、最下面から最上面までの面間寸法L
304を測定する。従って、一度に2箇所、3箇所の密着面を含む面間寸法L
304を測定していることになる。端度器を密着させる作業は、多くの経験に支えられた高度な技術を要し、複数の個所に一様の密着面を形成することは至難の業である。さらに、高い精度の位相補正値を測定する場合には、このような密着面のばらつきが位相補正値に与える影響を無視することができなくなっていた。
【0057】
これに対して、本発明に係る位相補正値の測定方法では、端度器GB
1の単体固有の位相変化を測定し、単体固有の位相変化をそのまま反映した位相補正値δ
1を決定している。すなわち、本発明には、3、4個の端度器の平均的な位相変化を測定して位相補正値の代表値を決定するという発想はなく、基盤に積み重ねる端度器は最大でも2個でよい。2個の端度器であれば、積み重ねる際の密着作業も比較的容易となり、密着面のばらつきが位相補正値に与える影響も小さくなる。よって、端度器の単体ごとに異なっている位相変化をも適切に反映させた位相補正値δ
1を容易に、かつ正確に測定することができる。
【0058】
そして、測定対象の端度器GB
1の表裏の端面についての固有の位相補正値δ
1a、δ
1bを取得するとともに、これらの位相補正値を用いて、両端面干渉測定装置100により測定された端度器GB
1の端面間の
機械的寸法L
GB1を式(12)に基づいて位相補正するので、従来よりも高い精度で端度器の端面間の機械的寸法L
GB1を取得することができる。
【0059】
図4(A)は、従来の積み上げ法により、位相補正値δの代表値を取得して、端度器の端面間寸法の位相補正を行なった場合の測定結果を示す。同図(A)のように、N個の端度器に対して端面間の機械的寸法L
GBNを測定すると(Nは、自然数でありN番目の端度器を示す。)、位相補正後の測定値L
GBNは、L
N+2δで表わされる。すなわち、どの端度器も共通の位相補正値δによって補正されることになる。
端度器の呼び寸法に対する寸法許容差が±0.04μm程度である場合に、従来の積み上げ法によって端度器の機械的寸法を測定すると、その標準偏差は10nm程度であった。
【0060】
一方、
図4(B)は、本発明の位相補正値の測定方法により、端度器の固有の位相補正値δ1a,δ1bを取得して、端度器の端面間寸法の位相補正を行なった場合の測定結果を示す。同図(B)のように、N個の端度器に対して端面間の機械的寸法L
GBNを測定すると、本発明による位相補正後の測定値L
GBNは、L
N+δ1a+δ1bで表わされる。このように、端度器の単体ごとに異なっている位相変化を適切に反映させた位相補正値δ1a,δ1bにより、位相補正が実行されることになる。その結果、端度器の呼び寸法に対する寸法許容差が±0.04μm程度である場合に、本発明の測定方法による端度器の機械的寸法の標準偏差は5nm以下のレベルを達成できる。
【0061】
なお、上記の実施形態では、
図2に示す測定手順の中で、同図(C)での積み重ねる順番を入れ替えるだけで、他の端度器GB2についても「測定対象の端度器」として固有の位相補正値を容易に取得することができる。