(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6101412
(24)【登録日】2017年3月3日
(45)【発行日】2017年3月22日
(54)【発明の名称】油性食品
(51)【国際特許分類】
A23D 9/00 20060101AFI20170313BHJP
A23G 7/00 20060101ALI20170313BHJP
【FI】
A23D9/00 500
A23G7/00
【請求項の数】8
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2017-503640(P2017-503640)
(86)(22)【出願日】2016年9月21日
(86)【国際出願番号】JP2016077840
【審査請求日】2017年1月20日
(31)【優先権主張番号】特願2015-192168(P2015-192168)
(32)【優先日】2015年9月29日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000227009
【氏名又は名称】日清オイリオグループ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】大西 清美
(72)【発明者】
【氏名】蜂屋 巖
(72)【発明者】
【氏名】粟飯原 知洋
(72)【発明者】
【氏名】村山 典子
(72)【発明者】
【氏名】畑中 稚子
【審査官】
千葉 直紀
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2006/121182(WO,A1)
【文献】
特開平5−184295(JP,A)
【文献】
特開平5−311190(JP,A)
【文献】
特開平3−4747(JP,A)
【文献】
特開平8−269478(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23D 9/00
A23G 7/00
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/WPIDS/FSTA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
油脂中に、LOL、L2MおよびLM2を含み、LOLの含有量に対するL2MとLM2の合計含有量(L2M+LM2)の質量比((L2M+LM2)/LOL)が、0.7〜5であり、LM2の含有量に対するL2Mの含有量の質量比(L2M/LM2)が、0.3〜3である、油性食品。
ただし、L、O、M、LOL、L2M、LM2は、以下を意味する。
L:炭素数16〜24の飽和脂肪酸
O:オレイン酸
M:炭素数6〜10の脂肪酸
LOL:グリセロールの、1位および3位にL、2位にOが結合したトリアシルグリセロール
L2M:グリセロール1分子に2分子のLと1分子のMが結合したトリアシルグリセロール
LM2:グリセロール1分子に1分子のLと2分子のMが結合したトリアシルグリセロール
【請求項2】
前記L2Mおよび前記LM2を構成するMの全量に占める、カプリン酸の含有量が20質量%以上である、請求項1に記載の油性食品。
【請求項3】
前記油脂中の、前記、LOL、L2MおよびLM2の合計含有量(LOL+L2M+LM2)が、10〜100質量%である、請求項1または2に記載の油性食品。
【請求項4】
前記、LOL、L2MおよびLM2を含み、LOLの含有量に対するL2MとLM2の合計含有量(L2M+LM2)の質量比((L2M+LM2)/LOL)が、0.7〜5である油脂の、油脂結晶の長面間隔が36Å〜46Åである、請求項1〜3の何れか1項に記載の油性食品。
【請求項5】
前記油脂中の、ココアバターの含有量が50質量%以下である、請求項1〜4の何れか1項に記載の油性食品。
【請求項6】
前記油性食品がチョコレートである、請求項1〜5の何れか1項に記載の油性食品。
【請求項7】
油脂中に、ノンテンパー型チョコレートに使用されるハードバターを、5〜75質量%含む、請求項6に記載の油性食品。
【請求項8】
油脂中に、ラウリン系油脂および/または液体油を、5〜80質量%含む、請求項6に記載の油性食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れたブルーム耐性およびグレイン耐性を有する油性食品に関する。
【背景技術】
【0002】
油脂が連続相をなす油性食品は、例えば、チョコレートやファットクリーム、バタークリーム、マーガリン、スプレッドなどが挙げられる。油性食品のかたさや可塑性は、油脂により維持されている。すなわち、連続相を形成する油脂の結晶構造が、油性食品の品質に大きく影響する。
【0003】
例えば、チョコレートは、油脂の特性により、テンパー型とノンテンパー型とに大きく分類される。テンパー型のチョコレートは、チョコレート中の油脂が、ココアバターもしくはココアバターの構造に類似した対称型トリアシルグリセロールからなる。テンパー型チョコレートにおいては、テンパリングと呼ばれる煩雑な調温操作が行われる。テンパリングにより、対称型トリアシルグリセロールの油脂結晶が、安定形であるV型に調整される。油脂の結晶形がV型であると、型離れがよく、光沢のよいチョコレートが得られる。
【0004】
一方で、ノンテンパー型のチョコレートは、テンパリングや特別な調温装置を必要としない。従って、ノンテンパー型チョコレートは、その利便性から、チョコレート工業では広く利用されている。ノンテンパー型チョコレートに使用されるハードバターは、比較的ココアバターとの相溶性が高い非ラウリン系のココアバター代替脂(cocoa butter replacer:CBR)と、ココアバターとの相溶性が著しく劣るラウリン系のココアバター置換脂(cocoa butter substitute:CBS)とに、大きく分けられる。
【0005】
ココアバター代用脂(cocoa butter alternative :CBA)のココアバターとの相溶性は、ココアバター代用脂とココアバターとを含むチョコレートの油脂相中に配合できるココアバターの最大比率で表される。すなわち、チョコレートの油脂相に占めるココアバターの配合量が、相溶性の範囲内であれば、チョコレートはブルームを発生せずに長期間品質を維持できる。従って、相溶性が高いほど、ココアバターを含むカカオマスやココアパウダーを多く配合できるので、チョコレートは良好なカカオ風味を有する。
【0006】
従来の高トランス脂肪酸タイプCBRのココアバターとの相溶性は、15〜20%程度であった。しかしながら、近年、トランス脂肪酸は、栄養学的なデメリットが懸念されている。これを回避するため、ゼロトランス脂肪酸タイプのCBR(例えば、特開2009−284899号公報、特表2010−532802号公報、特表2010−532803号公報およびWO2012/002373)が開発された。しかし、これらは、相溶性が15%程度と低くい上、固化速度が遅いだけではなく、口どけも優れないという難点がある。
【0007】
一方、CBSは、ココアバターと同等の口どけの良さを有し、固化速度もテンパー型チョコレートと同様に早い。しかしながら、相溶性は5%程度と極端に低いため、本格的なチョコレート風味が得られないという難点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009−284899号公報
【特許文献2】特表2010−532802号公報
【特許文献3】特表2010−532803号公報
【特許文献4】WO2012/002373
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、ココアバター、および、ココアバターを含むカカオマスやココアパウダーを多く配合することが可能であり、ブルーム等の発生が抑えられた、ノンテンパー型チョコレートの開発が求められてきた。
【0010】
本発明の課題は、ココアバターを多く配合してもブルーム等の発生が抑えられた、テンパリング処理を必要としない、チョコレートやクリームなどの油性食品を提供することである。
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った。その結果、油性食品の油脂中に、LOLの含有量に対応して、特定量のL2MとLM2を含有させることにより、上記課題が解決できることを見いだした。これにより、本発明は完成された。
【0012】
すなわち、本発明は以下のものを提供する。
(1)油脂中に、LOL、L2MおよびLM2を含み、LOLの含有量に対するL2MとLM2の合計含有量(L2M+LM2)の質量比((L2M+LM2)/LOL)が、0.7〜5である、油性食品。
ただし、L、O、M、LOL、L2M、LM2は、以下を意味する。
L:炭素数16〜24の飽和脂肪酸
O:オレイン酸
M:炭素数6〜10の脂肪酸
LOL:グリセロールの、1位および3位にL、2位にOが結合したトリアシルグリセロール
L2M:グリセロール1分子に2分子のLと1分子のMが結合したトリアシルグリセロール
LM2:グリセロール1分子に1分子のLと2分子のMが結合したトリアシルグリセロール
(2)上記LM2の含有量に対する上記L2Mの含有量の質量比(L2M/LM2)が、0.05〜4.5である、(1)の油性食品。
(3)上記L2Mおよび上記LM2を構成するMの全量に占める、カプリン酸の含有量が20質量%以上である、(1)または(2)の油性食品。
(4)上記油脂中の、上記、LOL、L2MおよびLM2の合計含有量(LOL+L2M+LM2)が、10〜100質量%である、(1)〜(3)の何れか1項の油性食品。
(5)上記、LOL、L2MおよびLM2を含み、LOLの含有量に対するL2MとLM2の合計含有量(L2M+LM2)の質量比((L2M+LM2)/LOL)が、0.7〜5である油脂の、油脂結晶の長面間隔が36Å〜46Åである、(1)〜(4)の何れか1項の油性食品。
(6)上記油脂中の、ココアバターの含有量が50質量%以下である、(1)〜(5)の何れか1項の油性食品。
(7)上記油性食品がチョコレートである、(1)〜(6)の何れか1項の油性食品。
【発明の効果】
【0013】
本発明によると、ココアバターを多く配合してもブルーム等の発生が抑制された、テンパリング処理を必要としない、チョコレートやクリームなどの油性食品を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の油性食品について順を追って記述する。
本発明の油性食品は、油脂が連続相をなす食品である。具体例として、チョコレート、ファットクリーム、バタークリームおよびスプレッドなどが挙げられる。本発明の油性食品中の油脂は、LOL、L2MおよびLM2を含有する。以下、L、O、M、LOL、L2MおよびLM2は、次を意味する。Lは、炭素数16〜24の飽和脂肪酸であり、好ましくは直鎖である。Oは、オレイン酸である。Mは、炭素数6〜10の脂肪酸であり、好ましくは直鎖の飽和脂肪酸である。LOLは、グリセロールの、1位および3位にL、2位にOが結合したトリアシルグリセロールである。L2Mは、グリセロール1分子に2分子のLと1分子のMが結合したトリアシルグリセロールである。LM2は、グリセロール1分子に1分子のLと2分子のMが結合したトリアシルグリセロールである。Lは、好ましくは炭素数16〜20の飽和脂肪酸であり、より好ましくは炭素数16〜18の飽和脂肪酸である。
【0015】
本発明の油性食品中の油脂は、上記LOLの含有量に対する上記L2Mと上記LM2の合計含有量(L2M+LM2)の質量比((L2M+LM2)/LOL)が、0.7〜5である。(L2M+LM2)/LOLは、好ましくは0.8〜3であり、より好ましくは0.8〜1.5であり、さらに好ましくは0.9〜1.2である。(L2M+LM2)/LOLが、上記範囲内にあると、油性食品の連続相をなす油脂にLOLが含有されても、ブルームやグレインの発生が抑制される。また、本発明の油性食品中の油脂に占める、LOL、L2MおよびLM2の合計含有量(LOL+L2M+LM2)は、好ましくは10〜100質量%であり、より好ましくは20〜95質量%であり、さらに好ましくは30〜95質量%であり、最も好ましくは、50〜90質量%である。LOL、L2MおよびLM2の合計含有量は、油性食品に求められる物性に合わせて適宜変更すればよい。本発明の油性食品は、また、(L2M+LM2)/LOLが、上記範囲内にあると優れた口どけを有する。
【0016】
上記の、L2MおよびLM2は、油性食品中の油脂に占める、LM2の含有量に対するL2Mの含有量の質量比(L2M/LM2)が、0.05〜4.5であることが好ましい。L2M/LM2は、より好ましくは0.3〜3であり、さらに好ましくは0.55〜2.5である。L2M/LM2が上記範囲内にあると、油性食品の連続相をなす油脂にLOLが含有されても、ブルームやグレインの発生が効果的に抑制される。
【0017】
上記L2MおよびLM2が有する構成脂肪酸中のMの全量のうち、炭素数6の脂肪酸が占める割合は、好ましくは10質量%以下であり、より好ましくは5質量%以下である。さらに、上記L2MおよびLM2が有する構成脂肪酸中のMの全量のうち、炭素数10の脂肪酸が占める割合は、好ましくは20質量%以上であり、より好ましくは40〜100質量%あり、さらに好ましくは50〜100質量%であり、最も好ましくは60〜100質量%である。
【0018】
本発明の油性食品に含まれる上記の、L2MおよびLM2は、従来公知の方法を用いて製造できる、L2MおよびLM2の合計含有量が40質量%以上(好ましくは60〜100質量%)である油脂(以下、L2M+LM2油脂とも表す)を使用してもよい。L2M+LM2油脂は、例えば、10〜65質量部(より好ましくは20〜55質量部)のMMMと、35〜90質量部(より好ましくは45〜80質量部)のヨウ素価5以下かつ構成脂肪酸として炭素数16以上の飽和脂肪酸の含有量が90質量%以上の油脂(例えば、菜種油、大豆油、パーム油などを原料とする、極度硬化油)との混合油脂をエステル交換した油脂であってもよい。当該エステル交換油を、さらに分別した油脂であってもよい。また、MMMと、構成脂肪酸として炭素数16以上の飽和脂肪酸の含有量が90質量%以上の油脂(例えば、菜種油、大豆油、パーム油など)との混合油脂をエステル交換した後、極度硬化した油脂をであってもよい。当該油脂を、さらに分別した油脂であってもよい。硬化(水素添加)反応およびエステル交換反応は、従来公知の方法が適用できる。エステル交換反応は、ナトリウムメトキシド等の合成触媒を使用した化学的エステル交換、ならびに、リパーゼを触媒とした酵素的エステル交換のどちらの方法でも適用できる。分別は、従来公知の、ドライ分別(自然分別)、乳化分別(界面活性剤分別)、ならびに、溶剤分別等の通常の方法が適用できる。
【0019】
上記MMMは、グリセロール1分子に3分子のMが結合したトリアシルグリセロール(中鎖脂肪酸トリアシルグリセロール)である。MMMは、従来公知の方法を用いて製造できる。例えば、炭素数6〜10の脂肪酸とグリセロールとを、120〜180℃に加熱し、脱水縮合させることにより製造できる。この縮合反応は、減圧下で行うのが好ましい。上記縮合反応には、触媒を用いることができる。しかし、無触媒下で、上記縮合反応を行うことが好ましい。
【0020】
本発明の油性食品は、油脂中にLOL、L2MおよびLM2を含み、LOLの含有量に対するL2MとLM2の合計含有量(L2M+LM2)の質量比((L2M+LM2)/LOL)が、0.7〜5である。そのことにより、油性食品の油脂中にLOLが含有されても、ブルームやグレインの発生が効果的に抑制される。このとき、LOLとL2MもしくはLM2とがなす油脂結晶の長面間隔は、好ましくは33Å〜46Åである。これは、当該油脂結晶が2鎖長であることを意味する。当該油脂結晶の長面間隔は、より好ましくは36Å〜46Åである。推測ではあるが、LOLとL2MもしくはLM2との間において混晶が形成されることにより、LOL単体の結晶に由来する、グレインやブルームが抑制されると考えられる。なお、油脂結晶の長面間隔は、X線回折装置(X線波長:λ=1.5405Å)によって測定される回折ピークに基づく。すなわち、油脂結晶の長面間隔は、2θ=0〜10°付近に観測されるミラー指数(001)をもつ面に対応する回折ピークのd値(Å、結晶面間隔)から算出できる。
【0021】
本発明の油性食品は、LOLの供給源として、ココアバターを含有してもよい。本発明の油性食品は、特別なテンパリング処理などを行うことなく、ココアバターを多く使用できるので、チョコレートの風味が強く発現する。油性食品中の油脂に占める、ココアバターの含有量は、好ましくは50質量%以下であり、より好ましくは5〜50質量%であり、さらに好ましくは10〜45質量%であり、最も好ましくは20〜45質量%である。なお、LOLの供給源としては、LOLを豊富に含む油脂(40質量%以上、好ましくは60質量%以上のLOLを含む油脂)を使用してもよい。LOLを豊富に含む油脂(以下、LOL油脂とも表す)の例として、ココアバター、パーム油、シア脂、サル脂、アランブラッキア脂、モーラー脂、イリッペ脂、およびマンゴー核油、ならびに、それらの分別油が挙げられる。さらに、すでに知られているように、パルミチン酸、ステアリン酸、あるいは、それらの低級アルコールエステルと、ハイオレイックヒマワリ油等の高オレイン酸油脂との混合物を、1,3位選択性リパーゼ製剤を用いて、エステル交換反応した油脂でもよい。また得られたエステル交換油脂を分別した油脂でもよい。
【0022】
本発明の油性食品に含まれる油脂は、油脂中にLOL、L2MおよびLM2を含み、LOLの含有量に対するL2MとLM2の合計含有量(L2M+LM2)の質量比((L2M+LM2)/LOL)が、0.7〜5である。当該条件が満たされている限り、本発明の油性食品には、一般的に食用に供される食用油脂が使用されてもよい。食用油脂は、例として、ヤシ油、パーム核油、パーム油、パーム分別油(パームオレイン、パームステアリン、パーム中融点部およびパームスーパーオレインなど)、シア脂、シア分別油、サル脂、サル分別油、イリッペ脂、大豆油、菜種油、綿実油、サフラワー油、ひまわり油、米油、コーン油、ゴマ油、オリーブ油、乳脂、およびココアバター、ならびにこれらの混合油および加工油脂(水素添加油、エステル交換油、分別油)が挙げられる。
【0023】
本発明の油性食品に含まれる油脂の好ましい態様の1つとしては、上記LOL油脂と上記L2M+LM2油脂とを、1:5〜1:0.5の割合で含むことが挙げられる。油性食品中に含まれる油脂の、LOL油脂およびL2M+LM2油脂以外の部分は、上記の一般的に食用に供される食用油脂であってもよい。食用油脂は、特に、ヤシ油、パーム核油、ならびに、それらの分別油のような、ラウリン系油脂であってもよいし、大豆油、菜種油、ひまわり油などの、液体油であってもよい。ここで、ラウリン系油脂とは、構成脂肪酸に占めるラウリン酸の含有量が30質量%以上である油脂であり、液体油とは、10℃で流動性を有する油脂である。本発明の油性食品に含まれる油脂は、上記LOL油脂と上記L2M+LM2油脂とを、より好ましくは1:3〜1:0.7の割合で含み、さらに好ましくは1:1.5〜1:0.7の割合で含み、最も好ましくは1:1.2〜1:0.8の割合で含む。
【0024】
本発明の油性食品に含まれる油脂の、L2M含有量およびLM2含有量は、例えば、ガスクロマトグラフ法(JAOCS,vol70,11,1111−1114(1993)に準じて測定できる。LOL含有量については、まず、L2O含有量を上記ガスクロマトグラフ法で測定する。その後、LOL/L2O比を、例えば、J.High Resol.Chromatogr.,18,105−107(1995)に準じた方法で測定し、この値とL2O含有量を基に算出できる。ただし、上記L2Oは、グリセロール1分子に2分子のLと1分子のOがエステル結合したトリアシルグリセロールである。
【0025】
本発明の油性食品における油脂の含有量は、ココアバターやココアバター代用脂(CBA)のように原材料として配合される油脂の他に、原材料(カカオマス、ココアパウダー、全脂粉乳など)中に含まれる油脂(ココアバター、乳脂など)も含む。例えば、一般的に、カカオマスの油脂(ココアバター)含量は55質量%(含油率0.55)であり、ココアパウダーの油脂(ココアバター)含量は11質量%(含油率0.11)であり、全脂粉乳の油脂(乳脂)含量は25質量%(含油率0.25)である。よって、油性食品中の油脂含量は、各原材料の油性食品中の配合量(質量%)に含油率を掛け合わせたものを合計した値となる。本発明の油性食品における油脂の含有量は、好ましくは10〜100質量%であり、より好ましくは20〜100質量%であり、さらに好ましくは30〜100質量%である。
【0026】
本発明の油性食品のトランス脂肪酸含有量は、健康上の理由から、好ましくは0〜5質量%であり、より好ましくは0〜3質量%であり、さらに好ましくは0〜1質量%である。
【0027】
本発明の油性食品の好ましい態様の1つとして、チョコレートが挙げられる。
本発明においてチョコレートとは、「チョコレート類の表示に関する公正競争規約」(全国チョコレート業公正取引協議会)乃至法規に規定されているチョコレートに限定されない。本発明におけるチョコレートは、食用油脂および糖類を主原料とする。主原料には、必要に応じてカカオ成分(カカオマス、ココアパウダー等)、乳製品、香料、および乳化剤等を加える。このチョコレートは、チョコレート製造の工程(混合工程、微粒化工程、精練工程、成形工程、および冷却工程など)の全部乃至一部を経て製造される。また、本発明におけるチョコレートは、ダークチョコレート、およびミルクチョコレートの他に、ホワイトチョコレートおよびカラーチョコレートも含む。また、本発明におけるチョコレートは、ペースト状乃至クリーム状のものも含む。
【0028】
本発明のチョコレートは、ココアバターを多く配合してもブルーム等の発生が抑制された、テンパリング処理を必要としない、チョコレートである。本発明のチョコレートは、油脂を25〜65質量%含有することが好ましい。本発明のチョコレート中の油脂の含有量は、より好ましくは28〜55質量%であり、さらに好ましくは30〜50質量%である。また、本発明のチョコレート中の油脂に占める、LOL、L2MおよびLM2の合計含有量(LOL+L2M+LM2)は、好ましくは10〜95質量であり、より好ましくは20〜95質量%であり、さらに好ましくは30〜90質量%であり、最も好ましくは40〜85質量%である。
【0029】
本発明のチョコレートは、油脂中にLOL、L2MおよびLM2を含み、LOLの含有量に対するL2MとLM2の合計含有量(L2M+LM2)の質量比((L2M+LM2)/LOL)が、0.7〜5である限りにおいて、必要に応じて、ノンテンパー型チョコレートに使用されるハードバターを含有してもよい。当該ハードバターは、ココアバターと似た融解性状を有するが、全く異なる油脂構造を有する。ハードバターは、ラウリン酸型(CBS)と非ラウリン酸型(CBR)とに大きく分けられる。
【0030】
上記ラウリン酸型ハードバター(CBS)は、典型的には、パーム核油を分別して得られる硬質部(パーム核ステアリン)を、水素添加により極度硬化した油脂が知られている。上記非ラウリン酸型ハードバター(CBR)は、トランス脂肪酸型ハードバターとも言われる。CBRは、典型的には、低融点パームオレインまたは大豆油等の液体油を異性化水素添加した油脂や、さらに必要に応じて、それらの異性化水素添加した油脂を分別した高融点部または中融点部が知られている。また、非ラウリン酸型ハードバターは、エステル交換油脂を含んでもよい。本発明のチョコレートは、油脂中にハードバターを、好ましくは5〜75質量%、より好ましくは5〜65質量%、さらに好ましくは15〜50質量%含む。
【0031】
本発明のチョコレートは、油脂中にLOL、L2MおよびLM2を含み、LOLの含有量に対するL2MとLM2の合計含有量(L2M+LM2)の質量比((L2M+LM2)/LOL)が、0.7〜5である限りにおいて、必要に応じて、ラウリン系油脂および/または液体油を含有してもよい。ラウリン系油脂および/または液体油を含有することにより、ソフトな食感のチョコレートまたはチョコレートクリームが得られる。なお、ラウリン系油脂および液体油については、上述したとおりである。ソフトな食感のチョコレートまたはチョコレートクリームとするために、本発明のチョコレートは、油脂中にラウリン系油脂および/または液体油を、好ましくは5〜80質量%、より好ましくは5〜75質量%、さらに好ましくは5〜70質量%、なおさら好ましくは5〜65質量%、最も好ましくは15〜50質量%含む。
【0032】
本発明のチョコレートは、油脂以外に、好ましくは糖類を含有する。糖類としては、例として、ショ糖(砂糖および粉糖)、乳糖、ブドウ糖、果糖、麦芽糖、還元澱粉糖化物、液糖、酵素転化水飴、異性化液糖、ショ糖結合水飴、還元糖ポリデキストロース、オリゴ糖、ソルビトール、還元乳糖、トレハロース、キシロース、キシリトース、マルチトール、エリスリトール、マンニトール、ラフィノース、およびデキストリンが挙げられる。本発明のチョコレート中の糖類の含有量は、好ましくは20〜60質量%であり、より好ましくは25〜55質量%であり、さらに好ましくは30〜50質量%である。
【0033】
本発明のチョコレートには、油脂および糖類以外にも、チョコレートに一般的に配合される原料を使用できる。具体的には、例えば、全脂粉乳および脱脂粉乳等の乳製品、カカオマスおよびココアパウダー等のカカオ成分、大豆粉、大豆蛋白、果実加工品、野菜加工品、抹茶粉末、およびコーヒー粉末等の各種粉末、ガム類、澱粉類、乳化剤、酸化防止剤、着色料、ならびに香料などを使用できる。
【0034】
本発明のチョコレートは、従来公知の方法により製造できる。本発明のチョコレートの製造には、例えば、油脂、カカオ成分、糖類、乳製品、および乳化剤等を原料として使用できる。本発明のチョコレートは、混合工程、微粒化工程(リファイニング)、精練工程(コンチング)および冷却工程等を経て、製造できる。
【0035】
本発明のチョコレートは、チョコレートの用途の全てに使用できる。
そのまま食するバータイプやブロックタイプのチョコレートのみならず、製菓・製パン原料にも使用できる。例えば、菓子やパンの生地に混ぜ込むチョコチップや、ベーカリー製品へのコーティング、フィリングの用途にも適している。
【実施例】
【0036】
次に実施例により本発明を説明する。しかし、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0037】
〔分析方法〕
油脂のLOL含有量、L2M含有量およびLM2含有量は、ガスクロマトグラフ法(JAOCS,vol70,11,1111−1114(1993)、および銀イオンクロマトグラフ法(J.High Resol.Chromatogr.,18,105−107(1995))に準じた方法で測定した。
【0038】
〔LOL油脂の調製〕
(LOL油脂−1):ココアバター(LOL含有量86.2質量%)をLOL油脂−1とした。
【0039】
〔L2M+LM2油脂の調製〕
(L2M+LM2−1):50質量部の菜種油の極度硬化油と50質量部のMMM(中鎖脂肪酸トリアシルグリセロール、構成脂肪酸における、カプリル酸含有量30質量%、カプリン酸含有量70%)とを混合した。次いで、ナトリウムメチラートを触媒としてランダムエステル交換することにより、L2M+LM2−1を得た。L2M+LM2−1は、L2Mの含有量が30.0質量%、LM2の含有量が44.6質量%、および、L2MとLM2の合計含有量が74.6質量%であり、LM2含有量に対するL2M含有量の質量比(L2M/LM2)が0.7である。
【0040】
〔その他油脂〕
(ハードバター−1):ラウリン酸型ハードバターである、パーム核ステアリンの極度硬化油をハードバター−1とした。
(液体油−1):菜種油を液体油−1とした。
(極度硬化油−1):ハイエルシン酸菜種油の極度硬化油を極度硬化油−1とした。
【0041】
〔チョコレートの調製および評価1〕
表1の原材料配合に基づいて、実施例1〜3および比較例1〜2のチョコレートを、常法に従って調製した。すなわち、原材料の混合工程、微粒化工程(リファイニング)、精練工程(コンチング)を経て得られた融液状態のチョコレートを、テンパリング処理せずに、型に流し込み、冷却固化した。冷却固化後に型から外し、1個が5gの実施例1〜3および比較例1〜2のチョコレートを得た。実施例1〜3および比較例1〜2の各チョコレートについて、口どけと、20℃で1ヵ月間保存後のブルーム発生の有無を確認した。結果を表1に示した。
【0042】
【表1】
*口どけの評価 ◎:非常によい
○:よい
△:ふつう
×:よくない
**ブルームの評価 −:ブルームなし
+−:極僅かにブルームあり
+:ブルームあり
++:著しくブルームあり
【0043】
〔チョコレートの調製および評価2〕
表2の原材料配合に基づいて、実施例4〜5および比較例3〜5のチョコレートを、常法に従って調製した。すなわち、原材料の混合工程、微粒化工程(リファイニング)、精練工程(コンチング)を経て得られた融液状態のチョコレートを、テンパリング処理せずに、型に流し込み、冷却固化した。冷却固化後に型から外し、1個が5gの実施例4〜5および比較例3〜5のチョコレートを得た。実施例4〜5および比較例3〜5の各チョコレートについて、口どけと、20℃で1ヵ月間保存後のブルーム発生の有無を確認した。結果を表2に示した。
【0044】
【表2】
*口どけの評価 ◎:非常によい
○:よい
△:ふつう
×:よくない
**ブルームの評価 −:ブルームなし
+−:極僅かにブルームあり
+:ブルームあり
++:著しくブルームあり
【0045】
〔チョコレートの調製および評価3〕
表3の原材料配合に基づいて、実施例6〜8および比較例6〜7のチョコレートを、常法に従って調製した。すなわち、原材料の混合工程、微粒化工程(リファイニング)、精練工程(コンチング)を経て得られた融液状態のチョコレートを、テンパリング処理せずに、型に流し込み、冷却固化した。冷却固化後、型から外し、1個が5gの実施例6〜8および比較例6〜7のチョコレートを得た。実施例6〜8および比較例6〜7の各チョコレートについて、口どけと、20℃で1ヵ月間保存後のブルーム発生の有無を確認した。結果を表3に示した。
【0046】
【表3】
*口どけの評価 ◎:非常によい
○:よい
△:ふつう
×:よくない
**ブルームの評価 −:ブルームなし
+−:極僅かにブルームあり
+:ブルームあり
++:著しくブルームあり
【0047】
〔チョコレートクリームの調製および評価1〕
表4の原材料配合に基づいて、実施例9および比較例8、9のチョコレートクリームを、常法に従って調製した。すなわち、原材料の混合工程、微粒化工程(リファイニング)、精練工程(コンチング)を経て得られた融液状態のチョコレートクリームを、テンパリング処理せずに、樹脂製カップに流し込み、冷却固化した。実施例9および比較例8、9の各チョコレートクリームについて、口どけと、10℃で20日間保存後のグレイン発生の有無を確認した。結果を表4に示した。
【0048】
【表4】
*口どけの評価 ◎:非常によい
○:よい
△:ふつう
×:よくない
**グレインの評価 −:グレインなし
+−:極僅かにグレインあり
+:グレインあり
++:著しくグレインあり
【0049】
〔チョコレートクリームの調製および評価2〕
表5の原材料配合に基づいて、実施例10および比較例10、11のチョコレートクリームを、常法に従って調製した。すなわち、原材料の混合工程、微粒化工程(リファイニング)、精練工程(コンチング)を経て得られた融液状態のチョコレートクリームを、テンパリング処理せずに、樹脂製カップに流し込み、冷却固化した。実施例10および比較例10、11の各チョコレートクリームについて、口どけと、10℃で20日間保存後のグレイン発生の有無を確認した。結果を表5に示した。
【0050】
【表5】
*口どけの評価 ◎:非常によい
○:よい
△:ふつう
×:よくない
**グレインの評価 −:グレインなし
+−:極僅かにグレインあり
+:グレインあり
++:著しくグレインあり
【要約】
本発明の課題は、ココアバターを多く配合してもブルーム等の発生が抑制された、テンパリング処理を必要としない、チョコレートやクリームなどの油性食品を提供することである。
本発明は、油脂中に、LOL、L2MおよびLM2を含み、LOLの含有量に対するL2MとLM2の合計含有量(L2M+LM2)の質量比((L2M+LM2)/LOL)が、0.7〜5である、油性食品である。また本発明は、前記LM2の含有量に対する前記L2Mの含有量の質量比(L2M/LM2)が、0.05〜4.5である、油性食品である。