(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6102005
(24)【登録日】2017年3月10日
(45)【発行日】2017年3月29日
(54)【発明の名称】小麦粉組成物
(51)【国際特許分類】
A23L 5/10 20160101AFI20170316BHJP
A21D 6/00 20060101ALI20170316BHJP
A23L 7/10 20160101ALI20170316BHJP
【FI】
A23L5/10 C
A21D6/00
A23L7/10 H
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2012-285184(P2012-285184)
(22)【出願日】2012年12月27日
(65)【公開番号】特開2014-124164(P2014-124164A)
(43)【公開日】2014年7月7日
【審査請求日】2015年9月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000231637
【氏名又は名称】日本製粉株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092093
【弁理士】
【氏名又は名称】辻居 幸一
(74)【代理人】
【識別番号】100082005
【弁理士】
【氏名又は名称】熊倉 禎男
(74)【代理人】
【識別番号】100084663
【弁理士】
【氏名又は名称】箱田 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100093300
【弁理士】
【氏名又は名称】浅井 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100156982
【弁理士】
【氏名又は名称】秋澤 慈
(72)【発明者】
【氏名】風早 浩行
【審査官】
坂崎 恵美子
(56)【参考文献】
【文献】
特開平03−224453(JP,A)
【文献】
特開2007−215408(JP,A)
【文献】
特開昭60−105462(JP,A)
【文献】
特開2014−108062(JP,A)
【文献】
CEREAL CHEMISTRY,1993年,Vol.70, No.6,p.760-762
【文献】
Ceewal Foods World,1982年,Vol.27, No.2,p.58-60
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 5/10
A21D 6/00
A23L 7/10
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/WPIDS/FROSTI/FSTA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロ波処理した小麦粉を含有する小麦粉組成物であって、
マイクロ波の照射量が小麦粉1gあたり175W・秒〜725W・秒であり、
マイクロ波処理した小麦粉の量が小麦粉組成物中の小麦粉の全質量に対して、3〜16質量%である、
前記小麦粉組成物。
【請求項2】
マイクロ波処理する前の小麦粉のアミロ粘度が400B.U.以上である請求項1に記載の小麦粉組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の小麦粉組成物を用いて製造されたことを特徴とするパン類。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はマイクロ波処理した小麦粉を含む小麦粉組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、小麦粉に含まれる夾雑蛋白質や酵素を失活させて製パン適性などの二次加工特性を改良する目的で、小麦粉を加熱処理する方法が知られている。しかしながら加熱条件によっては小麦粉の二次加工特性に有益な効果を有するグルテンなどの小麦蛋白質を変性させてしまう為、かえって二次加工特性を損なうことになってしまう。その為従来の加熱処理による小麦粉の改質は小麦粉中の酵素活性を低下させ、かつ小麦グルテンの変性を極力抑える条件で小麦粉を熱処理するというものであった。例えば特許文献1には湿熱処理による製パン用小麦粉およびその製造方法が記載されている。
しかしながら、酵素活性を低下させ、かつグルテン変性を抑制するような加熱処理加工はその条件設定が難しいという問題があった。
【0003】
また、小麦粒の品質改良方法として、低アミロ小麦粒をマイクロ波処理する方法が提案されている(特許文献2)。低アミロ小麦とは収穫時や収穫後の貯蔵時に水分の多い状況下に置かれ発芽状態になった小麦のことで、小麦中のアミラーゼ活性が健常粒より高いことを特徴とする。低アミロ小麦から得られた小麦粉は糊化時の粘度が低く(アミログラフ糊化最高粘度が400B.U.以下)、二次加工適性が著しく劣り、食品への加工には適さず商品価値が劣る。特許文献2の方法はこの低アミロ小麦についてグルテンの変性を引き起こさずに酵素を失活することで糊化粘度を改善し、小麦本来の二次加工適性を回復することを目的とするものであり、本発明のマイクロ波処理とは対象および処理条件が異なる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007-125006
【特許文献2】特願平2-19246号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで本発明者等は上記課題を解決する為鋭意研究を重ねた結果、マイクロ波処理した小麦粉を含む小麦粉組成物を使用することにより、作業性及び老化耐性を有するパン類を製造することができることを見出し、本発明を完成するにいたった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち本発明は
(1)マイクロ波処理した小麦粉を含有する小麦粉組成物であって、
マイクロ波の照射量が小麦粉1gあたり175W・秒〜725W・秒であり、
マイクロ波処理した小麦粉の量が小麦粉組成物中の小麦粉の全質量に対して、3〜16質量%である、
前記小麦粉組成物。
(2)マイクロ波処理する前の小麦粉のアミロ粘度が400B.U.以上である前記(1)に記載の小麦粉組成物。
(3)前記(1)又は(2)に記載の小麦粉組成物を用いて製造されたことを特徴とするパン類。
である。
【発明の効果】
【0007】
本発明のマイクロ波処理した小麦粉を含む小麦粉組成物を使用することで、優れた作業性及び老化耐性を有するパン類を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明において、小麦粉は1gあたり175W・秒〜725W・秒の照射量でマイクロ波処理する。小麦粉1gあたり400〜500W・秒の照射量が好ましい。
小麦粉1gあたり175W・秒未満では食感の改善効果が得られず、725W・秒を超えると食感の改善効果が得られず、硬く弾力と伸展性のバランスが悪い生地性となる為不適である。
ここで「小麦粉1gあたり175W・秒〜725W・秒の照射量」(以下、小麦粉1gあたりのマイクロ波照射量をW・秒/gの単位で表す)とはマイクロ波処理時のマイクロ波処理装置の出力(W)とその処理時間(秒)の積を被処理小麦粉の重量(g)で割ったときの値(W・秒/g)が175〜725の範囲になるように小麦にマイクロ波を照射することを意味する。
例えば、100gの小麦粉を600Wの電子レンジで90秒処理した場合には、
600(W)×90(秒)÷100(g)=540W・秒/gの照射量になる。
マイクロ波処理を上記の条件下で行う限り、使用する方法および装置は特に制限されない。マイクロ波発生装置の出力についても特に限定されず、出力が異なっても照射時間を変更し同じ照射量にすれば同じ効果が得られる。
またマイクロ波の照射は、被処理小麦粉全体に対してむら無く均一に行われるようにすることが好ましい。
具体的には、例えば家庭用電子レンジ(600W)内でマイクロ波を照射する場合には、小麦粉をマイクロ波加熱用容器中で4cm程度の均一な厚みになるようにならして処理する。
【0009】
本発明において、アミログラム最高粘度(以下「アミロ粘度」という)とは小麦粉のデンプンの糊化特性を測定した値であり、小麦粒を挽砕して得られる小麦粉の糊化時の粘度変化をブラベンダー社製のアミログラフ試験機で測定したときの最高粘度の値(単位はB.U.=Brabender Unit)のことをいう。
日本では、小麦をビューラー社製のテストミルで挽砕して得た60%歩留りの粉(60%粉)について行ったアミログラフ試験の最高粘度値を標準の測定値としている。
アミロ粘度が低いと,麺パン菓子などへの加工適正が失われる。一般にアミロ粘度が400B.U.以上であれば健全な小麦であり、300B.U.以上ならほぼ正常と考えてよい。300B.U.未満のものはなんらかの問題を抱えている確率が高い。特に、100B.U.以下のものはα−アミラーゼ活性が強く、健全な小麦に少量配合する場合であっても使用することができない。
【0010】
本発明においてマイクロ波処理に付す(すなわち、マイクロ波処理前の)小麦粉の種類は、アミロ粘度が400B.U.以上であれば特に限定されない。通常製パン用として用いられる小麦粉の原料小麦とされる1CWやHRS、HRWなど比較的蛋白含有量の高い小麦を使用した強力粉が望ましいが、WWなどの薄力粉などでも同様の効果が得られる。また同一の品種を原料とする場合であっても異なる品種を原料とするものが配合された場合であっても、いずれも使用することができる。
【0011】
本発明における小麦粉組成物は、小麦粉を含む組成物であり、小麦粉組成物中の小麦粉100質量部に対し、3〜16質量%のマイクロ波処理小麦粉を含有する。好ましくは小麦粉組成物中の小麦粉の全量に対し、5〜15質量%以上のマイクロ波処理小麦を含有する。小麦粉組成物中の小麦粉の全量に対し、マイクロ波処理小麦が3質量%未満では、十分な効果が得られない。またマイクロ波処理小麦が16質量%を超える場合は、硬く弾力と伸展性のバランスが悪い生地性となる為不適である。
【0012】
本発明のパン類は、本発明の条件でマイクロ波処理した小麦粉を用いる以外は、常法の製パン方法により得ることができる。例えば直捏法や中種法が挙げられる。
【0013】
直捏法は、全材料を最初から混ぜて生地を製造する方法である。例えば全材料を配合、混捏し、生地をつくり、該生地を発酵した後、適当な大きさに分割し、室温でベンチタイムをとり、成形、ホイロを行なった後、焼成する。
【0014】
中種法は、材料を2段階に分けて混ぜ、生地を製造する方法である。例えば小麦粉の一部にイーストと水を加えて中種生地をつくり1次発酵を行ない、残りの材料と混捏し、生地をつくる。その後室温でフロアタイムをとり、適当な大きさに分割した後、室温でベンチタイムをとり、成形、ホイロを行なった後、焼成する。
【0015】
本発明のパン類の製造においては、さらにライ麦粉、コーンフラワー、大麦粉、米粉などの穀粉類;イースト、イーストフード;タピオカ澱粉、馬鈴薯澱粉、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、小麦澱粉など及びこれらにα化、エーテル化、エステル化、アセチル化、架橋処理等を行った加工澱粉類;ブドウ糖、果糖、乳糖、砂糖、イソマルトースなどの糖類;卵黄、卵白、全卵その他の卵に由来する成分である卵成分;粉乳、脱脂粉乳、大豆粉乳等の乳成分;ショートニング、ラード、マーガリン、バター、液状油等の油脂類;乳化剤;食塩等の無機塩類;保存料;ビタミン;カルシウム等の強化剤等の通常パン製造に用いる副原料を使用することができる。
【0016】
本発明のパン類としては、食パン、ロールパン、菓子パン、ドーナツ、調理パン等が挙げられる。食パンとしては白食パン、フランスパン、バラエティーブレッド、イングリッシュマフィン等が挙げられ、ロールパンとしては、テーブルロール、バターロール、コッペパン、スィートロール、バンズ等が挙げられ、菓子パンとしては、アンパン、ジャムパン、クリームパン、カレーパン等のフィリング類をパンに詰めたもの、メロンパン、レーズンパン、デニッシュペストリー、クロワッサン、ブリオッシュ等が挙げられ、調理パンとしては、ハンバーガー、ホットドック、ピザ等が挙げられる。
【実施例】
【0017】
以下本発明を具体的に説明する為に実施例を示すが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。
試験例1 [小麦粉のマイクロ波処理]
本試験例で使用した小麦粉のアミログラフ糊化最高粘度は500B.U.であった。
家庭用電子レンジ(600W)に小麦粉入りのマイクロ波加熱用容器を入れ、小麦粉の塊が4cm程度の均一な厚みになるように小麦粉をならし、マイクロ波を照射し、マイクロ波処理小麦粉を得た。
【0018】
試験例2 [製パン試験]
試験例1で得たマイクロ波処理小麦粉を用いて、食パンを製造した。詳細には、下記の工程で製造した。
(1)未処理の小麦粉(日本製粉株式会社製:商品名 クイン)と表2〜5に示した条件でマイクロ波処理した小麦粉を表1に示した割合で含んだ小麦粉100質量部、イースト2.2質量部、イーストフード0.1質量部、塩2質量部、上白糖5質量部、脱脂粉乳2質量部に水71質量部を加え、低速2分、中速3分間ミキシングしショートニング5質量部を加えて、さらに低速1分間、中速3分間、高速3分間ミキシングして生地を得た。
(2)90分間発酵させパンチ後、さらに30分間発酵させた。次に230gに分割しベンチタイムを25分間とった。
(3)分割した生地4つを2斤型に入れさらにホイロを45分間とった後、210℃、30分間焼成し食パンを得た。
【0019】
得られた各食パンについて、表1に示す評価基準により生地性及び食感を10名のパネラーで評価した。生地性については未処理小麦粉を100%使用した場合と比較した。また、食感に付いては得られた各食パンの製造2日後の食感について、製造後1日後の食感と比較した。得られた結果を下記の表2〜5に示す。
【0020】
【表1】
【0021】
【表2】
【0022】
【表3】
【0023】
【表4】
【0024】
【表5】
【0025】
実施例1〜11は、生地性、食感ともに未処理小麦粉を100%使用した比較例1に比べ優れていた。
これに対し、マイクロ波の照射量が小麦粉1gあたり175W・秒未満である比較例2、4及び6は生地性及び食感の何れも未処理粉と大差がなく、またマイクロ波の照射量が小麦粉1gあたり725W・秒を超える比較例3、5及び7では硬く、弾力と伸展性のバランスが悪い生地性となり、硬い食感であった。
またマイクロ波処理した小麦粉の量が小麦粉組成物中の小麦粉の全質量に対して、3質量%未満である比較例8及び9では生地性及び食感の何れも未処理粉と大差がなく、マイクロ波処理した小麦粉の量が小麦粉組成物中の小麦粉の全質量に対して16質量%を超える比較例10及び11では弾力と伸展性のバランスが悪い生地性となり、硬い食感であった。