(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
硫化物から目的金属を回収する湿式製錬プロセスの一例を
図4に基づき説明する。
まず、ニッケルマットなどの原料を粉砕工程において粉砕した後、後述の電解廃液と混合してマットスラリーとし、その大部分をセメンテーション工程に供給する。セメンテーション工程には塩素浸出工程で得られた浸出液が供給されており、この浸出液中に含まれる銅がマット中のニッケルと置換反応を起こして、硫化銅として析出する。そして、析出した硫化銅をセメンテーション残渣とともに分離し、塩素浸出工程に供給する。
【0003】
セメンテーション工程の終液中にはCoやFeなどが含まれているため、浄液工程で塩素ガスを吹き込んで酸化しつつ、同時に炭酸ニッケルを添加して中和する、いわゆる酸化中和法により、これらの元素およびCu、Pb、Asなどの微量不純物を除去する。不純物を除去した液はその後、電解給液として電解工程に送る。電解工程においては、電解採取により、電解液に含まれるニッケルを電気ニッケルとして回収する。電解工程で発生した塩素ガスは塩素浸出工程および浄液工程に繰り返して再利用する。電解工程から排出された電解廃液は粉砕工程および浄液工程に送られる。
【0004】
塩素浸出工程には残りのマットスラリーとMS(Mix Sulfide:ニッケルとコバルトの混合硫化物)およびセメンテーション残渣からなるスラリーが供給される。塩素浸出工程では、浸出槽に吹き込まれる塩素ガスの酸化力によって、スラリー中の固形物に含まれる非鉄金属が液中に浸出される。塩素浸出工程から排出されたスラリーはフィルタープレスなどの固液分離装置により浸出液と浸出残渣とに固液分離される。非鉄金属が浸出された浸出液は、セメンテーション工程に繰り返して供給される。一方、マットに含まれていた硫黄はほとんど浸出されず、その大部分が浸出残渣として分離される。
【0005】
塩素浸出工程では、浸出槽への塩素ガスの吹き込み、撹拌機による撹拌などの操作とともに、十分な反応時間を確保することにより、スラリー中の固形物に含まれる非鉄金属を実質的に全て(例えば、99%以上)液中に浸出することができる。しかし、浸出槽内においてスラリーの対流不良が生じたり、浸出槽内に堆積物が溜まったりすると、スラリーが浸出槽内でほとんど滞留せずに排出されるショートパスが発生する場合がある。ショートパスしたスラリーはほとんど浸出反応を起こさないため、浸出効率が低下し、塩素浸出工程の操業効率が低下するという問題がある。そこで、操業中に早期にショートパスを検知する方法が望まれている。
【0006】
また、浸出槽は浸出効率を高くするため、スラリーの滞留時間が最適になるように設計される。設計段階においては、シミュレーションによりスラリーの滞留時間を評価し、その結果を基に設計を見直すことが行われる。しかし、シミュレーションと実操業とではスラリーの滞留時間が異なることがある。そのため、設計変更後の浸出槽の滞留時間が最適化されているかを実操業において確認する必要がある。
【0007】
ショートパスが発生するとスラリーの滞留時間が短くなることから、滞留時間を測定することでショートパスを検知できるとも思われる。一般に、反応容器の滞留時間は、反応容器の実容積を反応液の供給流量で割ることで求められる(例えば、特許文献1)。しかし、このように求められた滞留時間はあくまで平均値であり、反応ガス(塩素ガス)吹き込みの効果や、撹拌機の効果は無視されている。そのため、ショートパスを検知するための指標としては不適切である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
つぎに、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
本発明の一実施形態に係るショートパス検知方法は、硫化物から目的金属を回収する湿式製錬プロセスにおける塩素浸出工程の浸出槽に用いられる。湿式製錬プロセスは、原料に含まれる目的金属を塩素浸出する塩素浸出工程と、塩素浸出工程の後工程であり、塩素浸出工程で得られた浸出液から電解採取により目的金属を回収する電解工程とを有する。湿式製錬プロセスの詳細は前述の通りであるので省略する(
図4参照)。
【0014】
(浸出槽)
まず、塩素浸出工程の浸出槽について説明する。
図1に示すように、塩素浸出工程の設備には浸出槽1が備えられている。浸出槽1には、原料(マットスラリー、MS、およびセメンテーション残渣)を含むスラリーが供給されている。浸出槽1には、塩素吹込管11と撹拌機12が備えられている。塩素吹込管11の開口端は浸出槽1の底付近に配置されており、スラリーに塩素ガスを吹きこむことができるようになっている。撹拌機12は、モータと、そのモータの駆動により回転する攪拌羽根とから構成されており、浸出槽1内のスラリーを攪拌できるようになっている。
【0015】
スラリーは、浸出槽1の供給口13から連続して流入し、オーバーフロー口14から連続して流出する。浸出槽1内では、塩素吹込管11からの塩素ガスの吹き込み、撹拌機12による撹拌によりスラリーの浸出反応が進行する。なお、浸出槽1およびスラリーが特許請求の範囲に記載の「反応容器」および「反応液」に相当する。
【0016】
(ショートパス検知方法)
つぎに、本実施形態に係るショートパス検知方法を説明する。
本実施形態のショートパス検知方法は、上記浸出槽1においてスラリーのショートパスを検知する方法である。ここで、ショートパスとは、スラリーが浸出槽1内でほとんど滞留せずに排出される現象を意味する。ショートパスは、浸出槽1内のスラリーの対流不良に起因する場合と、浸出槽1内に堆積物が溜まり浸出槽1の容積が実質的に減少することに起因する場合とがある。
【0017】
本実施形態のショートパス検知方法は、(1)トレーサー添加、(2)トレーサー濃度測定、(3)有効容積の算出、(4)ショートパス検知の4工程からなる。以下順に説明する。
【0018】
(1)トレーサー添加
まず、浸出槽1にトレーサーを添加する。トレーサーはスラリーが供給される供給口13から添加すればよい。また、トレーサーは所定量を一度に短時間で添加する。
【0019】
トレーサーとしては特に限定されないが、例えば水溶性リチウム塩を用いることができる。水溶性リチウム塩としては、塩化リチウム(LiCl)等のハロゲン化リチウムや炭酸リチウム(Li
2CO
3)等が挙げられる。本実施形態のように湿式製錬プロセスの塩素浸出工程においてショートパスを検知する場合には、トレーサーとして電解工程で目的金属とともに電着し難い成分のものを用いることが好ましい。このようなトレーサーを用いれば、電解工程においてトレーサーが不純物として電着することを抑制でき、電気ニッケル等の製品の品質を維持できる。例えば、
図4に示す湿式製錬プロセスでは、その大半の工程が塩化浴であるため、トレーサーとして塩化リチウムを用いれば、不純物としての影響が少ないので好ましい。
【0020】
(2)トレーサー濃度測定
つぎに、オーバーフロー口14から流出したスラリーのトレーサー濃度を時系列で測定する。浸出槽1に添加されたトレーサーは、浸出槽1内でスラリーと混合された後、オーバーフロー口14から流出する。この流出したスラリーのトレーサー濃度を測定するのである。ここで、「時系列で測定」とは、トレーサー濃度の時間変化が分かるように測定することを意味する。トレーサー濃度を断続的に(所定時間間隔で)測定してもよいし、連続的に測定してもよい。トレーサー濃度の測定方法は特に限定されないが、例えば蛍光X線法や、ICP−mass法が用いられる。
【0021】
(3)有効容積の算出
つぎに、浸出槽1内の流体の流れを完全混合流れと仮定して、時系列のトレーサー濃度から浸出槽1の有効容積を求める。
【0022】
完全混合流れとは、反応容器内の混合状態のモデルの一つである。完全混合流れは、流入した物質が反応容器内で瞬間的に一様濃度に混合され、反応容器内の濃度と反応容器出口の濃度とが等しいとして定義される流れである。完全混合流れでは、トレーサーは添加後瞬間的に反応容器内に均一に分散する。そして、反応容器出口のトレーサー濃度は反応容器内の濃度と等しい。このことから、物質収支は数1で表される。ここで、Cは反応容器出口のトレーサー濃度、Fは流量、Veは反応容器の有効容積、tは時間である。
【数1】
【0023】
数1を時間tで積分すると、トレーサー濃度Cが時間tの関数として数2で与えられる。ここで、C
0はトレーサー濃度Cの初期濃度(t=0におけるトレーサー濃度C)である。
図2に示すように、横軸を時間、縦軸をトレーサー濃度とすると、数2は実線で示す曲線で表される。
【数2】
【0024】
図2には、工程(2)により得られた時系列のトレーサー濃度の測定点(○、●)も描画されている。なお、
図2では2パターンの測定結果(測定1、測定2)を例示している。
図2における破線で示すように、時系列のトレーサー濃度の測定点を数2に示す指数関数でフィッティングすれば、その近似曲線の係数(C
0および
-F/Ve)から、各測定結果における浸出槽1の有効容積Veと、トレーサー濃度の初期濃度C
0とを求めることができる。なお、流量Fはスラリーの供給流量として既知であるから、近似曲線の係数(-
F/Ve)
の逆数に(-F)を掛けることで有効容積Veを求めることができる。
【0025】
このように、フィッティングにより有効容積Veと初期濃度C
0とを求めることから、工程(2)においてトレーサー濃度の測定は、トレーサーの添加直後は頻繁に(短時間間隔で)行うことが好ましい。例えば、トレーサーの添加後1分間は4点以上測定することが好ましい。トレーサー濃度は数2に示す指数関数で変化するため、トレーサーの添加直後は変化が急である。そのため、この期間の測定点を多くすることで、正確な近似曲線を求めることができ、その結果、精度よく有効容積Veと初期濃度C
0とを求めることができるからである。
【0026】
なお、初期濃度C
0は、上記のようにフィッティングにより求める以外に、工程(2)で測定したトレーサー濃度の最大値として求めてもよい。トレーサー濃度はトレーサーの添加直後に最大となるため、トレーサーの添加直後に頻繁に測定を行えば、その測定値の最大値を初期濃度C
0としても誤差が小さいからである。
【0027】
(4)ショートパス検知
つぎに、求められた有効容積Veが、予め定められた容積閾値Vtを下回るか否かを判断し、容積閾値Vtを下回る場合に浸出槽1においてスラリーのショートパスが発生していると判断する。ここで、容積閾値Vtは、例えば浸出槽1の実容積Vaと同じ値、または若干小さい値として定められる。なお、実容積Vaは、浸出槽1の形状(底面積や液位等)から求められる容積である。
【0028】
ショートパスが発生していない場合、求められた有効容積Veは浸出槽1の実容積Vaに十分に近くなる。しかし、ショートパスが発生していると浸出槽1におけるスラリーの滞留時間が短くなり、実容積Vaの全てを有効に使うことができないことから、有効容積Veが実容積Vaに比べて小さくなる。このことを利用して、有効容積Veが減少した場合、すなわち容積閾値Vtを下回る場合に、ショートパスが発生していると判断する。
【0029】
なお、
図2に示す実線は、ショートパスが発生していない理想的な状態を示し、測定1および測定2はショートパスが発生し、有効容積Veが減少した状態を示している。このようにグラフ上では、有効容積Veの減少は、近似曲線の傾きが緩やかになることで示される。
【0030】
以上のように、浸出槽1の有効容積Veを指標としてショートパスを検知するので、スラリーの滞留時間を測定するなど他の方法に比べて精度よくショートパスを検知できる。
【0031】
前述のごとく、ショートパスは、浸出槽1内のスラリーの対流不良に起因する場合と、浸出槽1内の堆積物に起因する場合とがある。本願発明者は、スラリーの対流不良によるショートパスが発生すると、トレーサー濃度の初期濃度C
0が大きくなるという知見を得た。より詳細には、上記の(1)から(3)の各工程を繰り返して初期濃度C
0を求めると、同一の状態の浸出槽1では初期濃度C
0が±10%程度の範囲に収まる。しかし、対流不良によるショートパスが発生すると、初期濃度C
0がそれまでの平均値の約130%にまで増加する。このことを利用して、初期濃度C
0の変化により、ショートパスの原因がスラリーの対流不良であるのか、浸出槽1内の堆積物であるのかを切り分けることができる。
【0032】
具体的には、有効容積Veが容積閾値Vtを下回り、かつ、トレーサー濃度の初期濃度C
0が濃度閾値Ctを超える場合に、スラリーの対流不良によるショートパスと判断する。逆に、有効容積Veが容積閾値Vtを下回り、かつ、トレーサー濃度の初期濃度C
0が濃度閾値Ctを超えない場合に、浸出槽1内の堆積物によるショートパスと判断する。ここで、濃度閾値Ctは、ショートパスが生じていない場合の初期濃度C
0を基に、例えばその120%の値として予め定められる。
【0033】
なお、
図2に示す測定1はスラリーの対流不良によるショートパスが発生している場合を示し、測定2は浸出槽1内の堆積物によるショートパスが発生している場合を示している。このようにグラフ上では、スラリーの対流不良によるショートパスは、トレーサー濃度の初期値が高くなることで示される。
【0034】
以上の(1)から(4)の工程を所定間隔、例えば1日間隔や1週間間隔で繰り返すことで、操業中においてショートパスの発生を早期に検知することができる。
【0035】
ショートパスが検知された場合には、ショートパスを解消するために種々の対応がとられる。前述のごとく初期濃度C
0を指標としてショートパスの原因の切り分けができるので、その対応方法を選択することが容易となり、ショートパスを解消するために適切な対応をとることができる。例えば、ショートパスの原因がスラリーの対流不良である場合には、撹拌機12の回転速度調整、塩素ガスの吹き込み量の調整、スラリーの供給流量の調整等が行われる。また、ショートパスの原因が浸出槽1内の堆積物である場合には、堆積物の除去が行われる。
【0036】
以上のように、操業中においてショートパスの発生を早期に検知し、ショートパスを解消する対応をとることで、塩素浸出工程の浸出率や操業効率を向上させることができる。
【0037】
ところで、浸出槽1から排出されるスラリーをサンプリングして、その成分を測定することで、その浸出槽1における浸出率を求めることができる。浸出率が低下した場合にも種々の対応がとられる。ところが、浸出率に影響する要素としては、スラリーのショートパスの外に、酸化還元電位や温度、銅濃度等様々な要素がある。そのため、浸出率の低下が判明したとしても、その原因を特定することは困難である。そこで、本実施形態のショートパス検知方法によりショートパスを検知すれば、浸出率の低下の原因がショートパスによるものか、他の原因によるものかを切り分けることができる。
【0038】
また、一般に、塩素浸出工程の設備は、複数の浸出槽1を直列に接続した多段式で構成されている。すなわち、ある浸出槽1からオーバーフローしたスラリーは他の浸出槽1に流入するように構成されている。このような多段式の浸出槽1を備える設備の場合、少なくとも一つの浸出槽1においてショートパスを検知するよう構成すれば、その浸出槽1におけるショートパスを検知することで、同構成の他の浸出槽1のショートパスも推測することができる。全ての浸出槽1でショートパスを検知するよう構成すれば、各浸出槽1におけるショートパスの程度を知ることができ、どの浸出槽1の対応を優先すると効果的か判断できる。
【0039】
ところで、トレーサーとして塩化リチウムを用いる場合、トレーサーの添加量W[kg]は、以下の数3を満たす量とすることが好ましい。ここで、Vaは浸出槽1の実容積[m
3]である。例えば、実容積Vaが30m
3の浸出槽1の場合、塩化リチウムの添加量は3kg以上とすることが好ましい。
【数3】
【0040】
このようにトレーサーの添加量Wの下限を定めることで、スラリーのトレーサー濃度が低くなりすぎない。そのため、一般的な濃度測定器でもトレーサー濃度を精度よく測定でき、精度よく有効容積Veを求めることができる。その結果、精度よくショートパスを検知できる。また、検出精度の高い濃度測定器を導入する必要がなく設備コストを抑えることができる。
【0041】
また、トレーサーとして塩化リチウムを用いる場合、トレーサーの添加量Wは550kg以下とすることが好ましい。この程度の添加量であれば、湿式製錬プロセスにおいてトレーサーが不純物として影響が出る可能性が少ないからである。
【0042】
さらに、トレーサーとして塩化リチウムを用いる場合、水溶液として調整し、塩化リチウムの濃度を約0.5kg/Lとすることが好ましい。
【0043】
トレーサーを浸出槽1に添加するに際して、その全量を3秒から5秒で添加することが好ましい。全量を3秒未満で添加するとトレーサーの添加流量が速くなり、浸出槽1内の対流状態に影響を及ぼし、正確なショートパスの検知ができない可能性がある。また、全量の添加に5秒を超えると、完全混合流れからの逸脱が大きくなるので、正確なショートパスの検知できない可能性がある。
【0044】
(設計変更の効果確認)
本実施形態に係るショートパス検知方法は、前述のような操業中におけるショートパスの検知以外にも、反応容器の設計変更の効果確認にも用いることができる。前述のごとく、浸出槽1は浸出効率を高くするため、スラリーの滞留時間が最適になるように設計される。設計段階においては、シミュレーションによりスラリーの滞留時間を評価し、その結果をもとに設計を見直すことが行われる。
【0045】
このように設計変更した浸出槽1の実操業における効果を確認するためには、その浸出槽1を用いて塩素浸出を行うとともに、上記(1)から(4)の工程を行なってショートパスの検知を行う。ここで、工程(4)において容積閾値Vtは、シミュレーションにより求められた期待される有効容積Veが定められる。すなわち、工程(4)においては、浸出槽1の有効容積Veを実操業とシミュレーションとで比較するのである。
【0046】
有効容積Veが容積閾値Vtを超える場合、浸出槽1はシミュレーションにより期待された滞留時間と同程度、あるいはより長い滞留時間が実現されていると推測される。一方、有効容積Veが容積閾値Vtを下回る場合、浸出槽1はシミュレーションにより期待された滞留時間が実操業では実現できていないと推測される。この場合、浸出槽1を再度設計変更する等の対応をとることができる。また、工程(3)で求めた有効容積Veをシミュレーションにフィードバックすることにより、シミュレーションの精度を向上させることもできる。
【0047】
容積閾値Vtとして、設計変更前の浸出槽1において測定した有効容積Veを定めてもよい。この場合、工程(4)において、浸出槽1の有効容積Veを設計変更前後で比較することになる。
【0048】
有効容積Veが容積閾値Vtを超える場合、浸出槽1は設計変更により滞留時間が長くなり、設計変更が有効であったといえる。一方、有効容積Veが容積閾値Vtを下回る場合、浸出槽1は設計変更により滞留時間が短くなったといえる。この場合、浸出槽1の設計をもとに戻す等の対応をとることができる。
【0049】
(ショートパス検知装置)
つぎに、本発明の一実施形態に係るショートパス検知装置を説明する。
図3に示すように、本実施形態に係るショートパス検知装置2は、塩素浸出工程の浸出槽1に設けられ、浸出槽1におけるスラリーのショートパスを検知する装置である。
【0050】
ショートパス検知装置2は、トレーサー添加器21と、濃度測定器22と、コンピュータ23と、警報器24とを備えている。トレーサー添加器21は、トレーサーを貯留するタンク21aと、タンク21aと浸出槽1の供給口13とを接続する配管21bと、配管21bに介装されたバルブ21cとからなる。バルブ21cを開くことでタンク21a内のトレーサーを浸出槽1に添加できるよう構成されている。なお、トレーサー添加器21は浸出槽1にトレーサーを添加できる構成であれば、他の構成でもよい。
【0051】
濃度測定器22は、オーバーフロー口14において、浸出槽1から流出したスラリーのトレーサー濃度を時系列で測定する測定器である。濃度測定器22としては、トレーサー濃度が測定できれば特に限定されないが、蛍光X線法や、ICP−mass法等による測定器であれば、浸出槽1の近傍に設置可能であり、短時間で測定結果が得られるため好ましい。
【0052】
コンピュータ23には濃度測定器22の測定結果が入力されている。また、コンピュータ23はバルブ21cの開閉を制御できるよう構成されており、コンピュータ23の指示により浸出槽1にトレーサーを添加できるようになっている。
【0053】
警報器24はパイロットランプやスピーカ等であり、光や音声によりショートパスの発生を警報する装置である。警報器24は、コンピュータ23に接続されており、ショートパスが発生したと判断した場合にコンピュータ23の指示により警報器24が動作するようになっている。
【0054】
コンピュータ23は、トレーサー添加器21および濃度測定器22の動作を制御して以下の(1)〜(4)の工程を実行し、浸出槽1のショートパスを検知する。
【0055】
(1)トレーサー添加
まず、コンピュータ23は、バルブ21cを所定の開度で所定の時間開き、所定量のトレーサーを浸出槽1に添加する。
【0056】
(2)トレーサー濃度測定
つぎに、濃度測定器22でオーバーフロー口14から流出したスラリーのトレーサー濃度を時系列で測定する。
【0057】
(3)有効容積の算出
濃度測定器22から測定結果が入力されたコンピュータ23は、浸出槽1内の流体の流れを完全混合流れと仮定して、時系列のトレーサー濃度から浸出槽1の有効容積Veを求める。
【0058】
(4)ショートパス検知
そして、コンピュータ23は、求められた有効容積Veが容積閾値Vtを下回るか否かを判断し、容積閾値Vtを下回る場合に浸出槽1においてスラリーのショートパスが発生していると判断する。ショートパスが発生していると判断された場合には、警報器24を動作させ、ショートパスの発生を警報する。
【0059】
コンピュータ23は、以下のようにショートパスの原因がスラリーの対流不良であるのか、浸出槽1内の堆積物であるのかを切り分けるよう構成されてもよい。すなわち、有効容積Veが容積閾値Vtを下回り、かつ、トレーサー濃度の初期濃度C
0が濃度閾値Ctを超える場合に、スラリーの対流不良によるショートパスと判断する。逆に、有効容積Veが容積閾値Vtを下回り、かつ、トレーサー濃度の初期濃度C
0が濃度閾値Ctを超えない場合に、浸出槽1内の堆積物によるショートパスと判断する。
【0060】
このようにショートパスの原因を切り分ける場合、その原因により警報器24の動作を変更するか、他の手段でいずれの原因かを通知するように構成すればよい。
【0061】
以上のように、コンピュータ23で制御および解析することで、ショートパスの検知を自動化できる。そのため、操業中に繰り返しショートパスの検出を行うことができ、ショートパスの発生を早期に検知することができる。
【0062】
(その他の実施形態)
上記実施形態では、湿式製錬プロセスにおける塩素浸出工程の浸出槽においてスラリーのショートカットを検出したが、他の反応容器および反応液の場合にも本発明を適用できる。
【実施例】
【0063】
つぎに、実施例を説明する。
(共通の条件)
まず、実施例1、2および比較例1における共通の条件を説明する。
・浸出槽
浸出槽として円筒形の槽を用いた。浸出槽の実容積は30m
3である。浸出槽には塩素吹込管が設けられており、浸出槽の底付近から塩素ガスを吹き込み可能となっている。また、浸出槽の中心に撹拌軸が位置するように撹拌機が設けられている。
・スラリー
浸出槽に供給するスラリーは、マットスラリー、MS、およびセメンテーション残渣の混合スラリーである。MSのニッケル量は0〜4t/hour、セメンテーション残渣のニッケル量は0〜1t/hourである。浸出槽に供給するスラリーの流量を5〜14m
3/hourとした。スラリーの温度は50℃〜120℃、酸化還元電位は350〜600mV(銀−塩化銀電極)とした。
・トレーサー
トレーサーとして塩化リチウムを用いた。塩化リチウム3.0kgを用いて濃度0.5kg/Lの水溶液(6L)を調整した。
【0064】
(実施例1)
上記浸出槽で塩素浸出を行った。トレーサーを浸出槽の供給口から3秒で添加し、オーバーフロー口から排出されたスラリーのトレーサー濃度を測定した。測定は、トレーサーの添加後1分間に5点、1分経過時から1時間経過時までに5点、1時間経過時から8時間経過時までに4点行った。
【0065】
トレーサー濃度の測定結果を数2でフィッティングして求めた有効容積Veは24m
3であった。実容積30m
3に比べて小さかったことから、スラリーのショートパスが発生していると判断した。
【0066】
ショートパスが検知されたことから、浸出槽におけるスラリーの滞留時間が短くなっていると推測される。そのため、攪拌翼を改良した。改良後の浸出槽を用いて塩素浸出の操業を継続した。攪拌翼の改良後は、有効容積Veが実容積Vaに近づいた。この状態で操業を30日間継続したところ、ニッケルの浸出率は、攪拌翼の改良前に比べて1.3倍となり、浸出率が向上した。
【0067】
(実施例2)
実施例1とは別の浸出槽で塩素浸出を行った。トレーサーを浸出槽の供給口から3秒で添加した、オーバーフロー口から排出されたスラリーのトレーサー濃度を測定した。トレーサー濃度の測定結果を数2でフィッティングして求めた有効容積Veは30m
3であった。実容積30m
3との差がないため、この浸出槽においてはショートパスが発生していないと判断した。
【0068】
(比較例1)
実施例1、2とは別の浸出槽で塩素浸出を行った。ただし、ショートパスの検知は行わなかった。攪拌翼の改良を行わなかったため、実施例1に比べて浸出率が低いままであった。
【0069】
以上のように、本発明のショートパス検知方法によれば、浸出槽のスラリーのショートパスを検知できることが確認された。また、ショートパスが検知された浸出槽を改良することで浸出率を向上できることが確認された。