特許第6102687号(P6102687)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6102687
(24)【登録日】2017年3月10日
(45)【発行日】2017年3月29日
(54)【発明の名称】複合酸化物単結晶の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/28 20060101AFI20170316BHJP
   C30B 29/30 20060101ALI20170316BHJP
   C30B 15/10 20060101ALI20170316BHJP
【FI】
   C30B29/28
   C30B29/30 B
   C30B15/10
【請求項の数】5
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2013-233861(P2013-233861)
(22)【出願日】2013年11月12日
(65)【公開番号】特開2015-93800(P2015-93800A)
(43)【公開日】2015年5月18日
【審査請求日】2015年12月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095223
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 章三
(72)【発明者】
【氏名】清水 寿一
(72)【発明者】
【氏名】正 義彦
(72)【発明者】
【氏名】土橋 大輔
【審査官】 安齋 美佐子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−066994(JP,A)
【文献】 特開2008−169069(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/123740(WO,A1)
【文献】 特開2013−002882(JP,A)
【文献】 特開2002−137985(JP,A)
【文献】 特開2012−177134(JP,A)
【文献】 特開2006−347824(JP,A)
【文献】 特開2003−229621(JP,A)
【文献】 特開昭62−078195(JP,A)
【文献】 特開2006−124223(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 1/00−35/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複合酸化物単結晶の製造方法において、
複数種類の酸化物原料および/または炭酸化物原料の各粉末を混合し、成形して原料粉末の成形体を作製し、かつ、仮焼温度より高い融点を有するスペーサーが敷き詰められたPt坩堝内に、原料粉末の成形体を該坩堝の壁面に上記成形体が接触しないように収容した後、大気中で仮焼してPt濃度が60ppm未満である複合酸化物の原料を調製する第一工程と、
育成炉内に配置されたイリジウム製坩堝に第一工程で調製された複合酸化物の原料を収容し、該複合酸化物の原料を融解させた後、上記複合酸化物の原料融液から複合酸化物単結晶を育成する第二工程を具備し、
イリジウム製坩堝の温度が300℃〜1000℃の温度域にあるとき、イリジウム製坩堝が配置された上記育成炉内の雰囲気を、酸素を含まない不活性ガス雰囲気に設定することを特徴とする複合酸化物単結晶の製造方法。
【請求項2】
上記イリジウム製坩堝の温度が1000℃を超えて原料が融解している温度域にあるとき、イリジウム製坩堝が配置された上記育成炉内の雰囲気を、0.5〜3体積%の酸素を含む不活性ガス雰囲気に設定することを特徴とする請求項1に記載の複合酸化物単結晶の製造方法。
【請求項3】
上記複合酸化物単結晶が、ガーネット系単結晶またはタンタル酸リチウム単結晶であることを特徴とする請求項1または2に記載の複合酸化物単結晶の製造方法。
【請求項4】
上記スペーサーが複合酸化物単結晶と同じ素材で構成されていることを特徴とする請求項に記載の複合酸化物単結晶の製造方法
【請求項5】
上記スペーサーがガーネット系単結晶またはタンタル酸リチウム単結晶のいずれかであることを特徴とする請求項またはに記載の複合酸化物単結晶の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Ir(イリジウム)製坩堝を用いて、GGG(ガドリニウム・ガリウム・ガーネット)、LT(タンタル酸リチウム)等の複合酸化物単結晶を育成する方法に係り、特に、イリジウム製坩堝の長寿命化が図られる複合酸化物単結晶の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、磁気光学デバイスに利用される希土類−鉄ガーネット結晶薄膜の育成には、GGG[ガドリニウム・ガリウム・ガーネット、代表的には、Gd3Ga512あるいは(Gd、Ca)3(Ga、Mg、Zr)512という組成式で表される複合酸化物]といったガーネット系の単結晶基板が用いられ、携帯電話等に利用されるSAWデバイスの製造には、LT[タンタル酸リチウム、代表的には、LiTaO3という組成式で表される複合酸化物]といった強誘電体酸化物の単結晶基板が用いられている。
【0003】
これ等複合酸化物の単結晶基板を製造するには、複数の高純度酸化物原料あるいは炭酸化物原料を混合した後、Pt(白金)坩堝を用いて、大気中、1000℃〜1500℃程度の温度で仮焼して複合酸化物化がある程度進行した複合酸化物の原料をまず調製する。次に、この原料を用い、Cz法(Czochralski Method)、VB法(Vertical Bridgman Method)、VGF法(Vertical Gradient Freeze Method)、EFG法(Edge-defined Film-fed Growth Method)等の方法により原料融液から単結晶を育成し(例えばGGGの育成については特許文献1参照、LTについては特許文献2〜3参照)、更に、この単結晶を機械加工することで所望形状の単結晶基板が得られる。
【0004】
ところで、これ等複合酸化物の単結晶の内、融点がおおよそ1000℃を越えるものについては、その育成温度が非常に高いこと、また、複合酸化物の融点以上の温度では昇華や還元等による結晶品質の劣化を防ぐため0.5〜3体積%程度の酸素を含む不活性雰囲気で結晶育成を行う必要があることから、通常、高融点貴金属であるイリジウム製の坩堝が用いられている(特許文献1の特許請求の範囲および特許文献3の実施例等参照)。
【0005】
そして、GGGやLT等の複合酸化物単結晶の製造コストを抑えるためには、非常に高価であるイリジウム製坩堝の寿命をいかに延ばすかという点が非常に重要になっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭55−136200号公報
【特許文献2】特開昭62−292698号公報
【特許文献3】特開平06−234597号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、GGGやLT等上記複合酸化物単結晶の育成にイリジウム製坩堝を使用した場合、使用開始から比較的早期の段階で坩堝にクラックが発生し、継続してイリジウム製坩堝を使用できなくなるといった問題が存在した。
【0008】
本発明はこのような問題に着目してなされたもので、その課題とするところは、イリジウム製坩堝の早期におけるクラックの発生を抑制し、イリジウム製坩堝の長寿命化が図られる複合酸化物単結晶の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
育成炉内に配置されたイリジウム製坩堝を使用してGGGやLT等複合酸化物単結晶の育成を行なった場合、使用開始から比較的早期の段階でイリジウム製坩堝にクラックが発生し、融液漏れを引き起こして複合酸化物単結晶の育成を継続できなくなるという事態を本発明者等は経験した。
【0010】
この原因について本発明者等が調べたところ、複合酸化物の原料から混入されるPt(白金)不純物がクラックの発生に関係していることを突き止めた。
【0011】
すなわち、育成炉内に配置されたイリジウム製坩堝の加熱時において、複合酸化物の原料中に含まれるPt不純物が上記坩堝を構成するイリジウム中に拡散して高濃度化することで、イリジウム製坩堝が硬化して脆くなり、その結果、結晶育成前後における昇温並びに降温により生ずる熱応力によってクラックが発生していることを突き止めるに至った。そして、上記Pt不純物は、複数の高純度酸化物原料あるいは炭酸化物原料を混合した後、上述したPt坩堝を用い、大気中、1000℃〜1500℃程度の温度で仮焼して複合酸化物化がある程度進行した複合酸化物の原料を調製する際、Pt坩堝から複合酸化物の原料に混入されると考えられる。尚、複合酸化物原料の調製にPt坩堝が利用されているのは、大気中、1000℃〜1500℃程度の温度で仮焼しても坩堝の酸化による消耗や異物混入の可能性が低いといった製法上の理由による。
【0012】
そこで、早期の段階でイリジウム製坩堝にクラックが発生する現象を回避する方法について本発明者等が研究を行なった結果、Pt濃度が60ppm未満である複合酸化物の原料を用いた場合に達成できることを見出すに至った。
【0013】
このような技術的知見に基づき、本発明者等は、Pt濃度が60ppm未満である複合酸化物原料を適用してイリジウム製坩堝の寿命を改善させる複合酸化物単結晶の製造方法を提案している。
【0014】
ところで、Pt濃度が60ppm未満である複合酸化物原料を適用することでイリジウム製坩堝の寿命を延長させることが可能になったが、上記複合酸化物原料をイリジウム製坩堝に追加しながら複合酸化物単結晶の製造を複数回繰り返した場合、30ロット〜40ロットを超えた頃からイリジウム製坩堝にクラックが生ずることがあった。
【0015】
そこで、この原因について本発明者等が研究を継続した結果、300℃〜1000℃の温度域でイリジウム製坩堝が酸化されていることを発見した。そして、イリジウム製坩堝が部分的に酸化イリジウムとなり、1000℃を超える温度域において酸化イリジウムの還元が起こり、酸化と還元によりイリジウム製坩堝の粒界が膨張、収縮してクラックが発生していることを突き止めるに至った。
【0016】
更に、300℃〜1000℃の温度域における酸化を原因としたイリジウム製坩堝のクラックと複合酸化物原料のPt不純物を原因としたクラックは、それぞれ独立して発生していることも確認されている。このため、本発明者等は、イリジウム製坩堝の温度が300℃〜1000℃の温度域にあるとき、イリジウム製坩堝が配置された育成炉内の雰囲気を、酸素を含まない不活性ガス雰囲気に設定してイリジウム製坩堝の寿命を改善させた複合酸化物単結晶の製造方法も提案している。
【0017】
そして、上述した技術的発見に基づき、Pt濃度が60ppm未満である複合酸化物原料を適用し、かつ、イリジウム製坩堝の温度が300℃〜1000℃の温度域にあるとき、イリジウム製坩堝が配置された育成炉内の雰囲気を、酸素を含まない不活性ガス雰囲気に設定することにより、イリジウム製坩堝の寿命が飛躍的に改善されることを確認するに至った。本発明は一連の技術的発見と分析に基づき完成されたものである。
【0018】
すなわち、請求項1に係る発明は、
複合酸化物単結晶の製造方法において、
複数種類の酸化物原料および/または炭酸化物原料の各粉末を混合し、成形して原料粉末の成形体を作製し、かつ、仮焼温度より高い融点を有するスペーサーが敷き詰められたPt坩堝内に、原料粉末の成形体を該坩堝の壁面に上記成形体が接触しないように収容した後、大気中で仮焼してPt濃度が60ppm未満である複合酸化物の原料を調製する第一工程と、
育成炉内に配置されたイリジウム製坩堝に第一工程で調製された複合酸化物の原料を収容し、該複合酸化物の原料を融解させた後、上記複合酸化物の原料融液から複合酸化物単結晶を育成する第二工程を具備し、
イリジウム製坩堝の温度が300℃〜1000℃の温度域にあるとき、イリジウム製坩堝が配置された上記育成炉内の雰囲気を、酸素を含まない不活性ガス雰囲気に設定することを特徴とし、
請求項2に係る発明は、
請求項1に記載の複合酸化物単結晶の製造方法において、
上記イリジウム製坩堝の温度が1000℃を超えて原料が融解している温度域にあるとき、イリジウム製坩堝が配置された上記育成炉内の雰囲気を、0.5〜3体積%の酸素を含む不活性ガス雰囲気に設定することを特徴とし、
また、請求項3に係る発明は、
請求項1または2に記載の複合酸化物単結晶の製造方法において、
上記複合酸化物単結晶が、ガーネット系単結晶またはタンタル酸リチウム単結晶であることを特徴とするものである。
【0020】
次に、請求項4に係る発明は、
請求項に記載の複合酸化物単結晶の製造方法において、
上記スペーサーが複合酸化物単結晶と同じ素材で構成されていることを特徴とし、
また、請求項に係る発明は、
請求項またはに記載の複合酸化物単結晶の製造方法において、
上記スペーサーがガーネット系単結晶またはタンタル酸リチウム単結晶のいずれかであることを特徴とするものである。
【0021】
本発明は、複合酸化物原料を追加しながら複合酸化物単結晶の製造を複数回繰り返してもイリジウム製坩堝にクラックが発生しないようにするため、Pt(白金)濃度が60ppm未満である複合酸化物の原料を用いると共に、イリジウム製坩堝の温度が300℃〜1000℃の温度域にあるとき、育成炉内の雰囲気を、酸素を含まない不活性ガス雰囲気に設定することを特徴としている。
【0022】
尚、イリジウム製坩堝の温度が、上記温度域(300℃〜1000℃の温度域)以外の300℃未満の場合、および、1000℃を超えて結晶が育成される温度条件未満の場合には、育成炉内に配置されたイリジウム製坩堝の酸化が起こらないため、育成炉内の雰囲気について、0.5〜3体積%の酸素を含む不活性ガス雰囲気に設定してもよいし、酸素を含まない不活性ガス雰囲気に設定してもよく任意である。
【0023】
また、本発明に係る複合酸化物単結晶の製造方法は、ガーネット系単結晶やタンタル酸リチウム単結晶の育成に有効であるが、結晶育成の温度が1500℃を越える他の複合酸化物単結晶の育成に応用することも可能である。
【発明の効果】
【0024】
請求項1〜3に記載の複合酸化物単結晶の製造方法によれば、
使用開始から比較的早期の段階でイリジウム製坩堝にクラックが発生する現象を回避でき、かつ、複合酸化物原料を追加しながら複合酸化物単結晶の製造を複数回繰り返してもイリジウム製坩堝にクラックが発生し難いため、イリジウム製坩堝の寿命が伸びる分、複合酸化物単結晶基板の製造コストを低減できる効果を有する。
【0025】
また、第一工程が、仮焼温度より高い融点を有するスペーサーが敷き詰められたPt坩堝内に、原料粉末の成形体を該坩堝の壁面に上記成形体が接触しないように収容した後、大気中で仮焼して複合酸化物原料を調製する工程で構成される。そして、原料粉末の成形体とPt坩堝間にスペーサーが介在して成形体とPt坩堝との接触が防止され、Pt坩堝から成形体へのPtの混入(拡散)が起こらないため、Pt濃度が60ppm未満である複合酸化物原料を調製できる効果を有する。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0027】
本発明は、上記2つの技術的発見に基づき完成されており、Pt(白金)濃度が60ppm未満である複合酸化物の原料を用いることと、イリジウム製坩堝の温度が300℃〜1000℃の温度域にあるとき、育成炉内の雰囲気を、酸素を含まない不活性ガス雰囲気に設定することを特徴としている。
【0028】
(A)複合酸化物原料のPt(白金)濃度が60ppm未満であること。
【0029】
本発明に係る複合酸化物単結晶の製造方法においては、まず、原料に含まれるPt(白金)濃度が60ppm未満である複合酸化物の原料を用いることを特徴としている。
【0030】
GGGやLT等の複合酸化物単結晶の育成には、通常、高純度の酸化物原料あるいは炭酸化物原料が用いられるため、単結晶育成前に行なう複合酸化物化がある程度進行した複合酸化物原料の調製時における不純物の混入(すなわち、酸化物原料あるいは炭酸化物原料の仮焼時における不純物の混入)を防止すれば、Pt不純物の問題は回避できる。
【0031】
ところで、酸化物原料あるいは炭酸化物原料の仮焼は、上述したように、大気中、1000〜1500℃程度で行われるため、坩堝の酸化による消耗や異物混入の可能性、酸化物原料との反応による不純物混入の可能性等を考慮すると、Pt以外に適当な坩堝材が存在しないため、一般的にPt坩堝が利用されている。
【0032】
そして、Pt坩堝から複合酸化物原料へのPt不純物の混入を防止するには、仮焼時におけるPt坩堝と複合酸化物原料との直接の接触を回避すればよい。
【0033】
すなわち、酸化物原料および/または炭酸化物原料の各粉末を混合し、CIP装置や金型を用い原料粉末を成形して原料粉末の成形体を作製し、かつ、仮焼温度より高い融点を有するスペーサーが敷き詰められたPt坩堝内に、原料粉末の成形体を該坩堝の壁面に上記成形体が接触しないように収容した後、大気中で仮焼すればよい。
【0034】
上記スペーサーとしては、目的の複合酸化物単結晶と同じ素材で構成された板材が挙げられ、最も入手し易い複合酸化物単結晶(例えば、ガーネット系単結晶やタンタル酸リチウム単結晶)基板が例示される。
【0035】
尚、適用される複合酸化物原料に含まれるPt不純物濃度を60ppm未満としているのは、この濃度を越えるPt不純物が含まれる複合酸化物原料を用いた場合、上述した理由からイリジウム製坩堝の寿命が極端に短くなるからである。そして、イリジウム製坩堝の寿命を延ばすには、当然のことながらPt不純物濃度が低ければ低い程、良好であることは言うまでもない。
【0036】
(B)イリジウム製坩堝の温度が300℃〜1000℃の温度域にあるとき、育成炉内の雰囲気を、酸素を含まない不活性ガス雰囲気に設定すること。
【0037】
本発明に係る複合酸化物単結晶の製造方法においては、更に、育成炉内に配置されたイリジウム製坩堝の温度が300℃〜1000℃の温度域にあるとき、育成炉内の雰囲気を、酸素を含まない不活性ガス雰囲気に設定することを特徴としている。
【0038】
また、イリジウム製坩堝の温度が1000℃を超えて原料が融解している温度域にあるときは、イリジウム製坩堝が配置された育成炉内の雰囲気を、酸素を含む不活性ガス雰囲気に設定することが好ましい。酸素を含む不活性ガス雰囲気に設定するのは、以下の理由による。すなわち、1000℃を超えて原料が融解している温度域にあるときは、通常の単結晶育成の場合と同様、複合酸化物原料の昇華、還元や酸化イリジウム製介在物の発生等が起こって良質な単結晶が得られなくなるからである。ここで、不活性ガスに含まれる酸素濃度は、GGGやLT等の単結晶育成時に用いられる酸素濃度であり、通常、0.5〜3体積%である。尚、上記不活性ガス雰囲気としては、窒素雰囲気、アルゴン(Ar)等の不活性雰囲気が例示される。但し、単結晶育成中において上記雰囲気を維持するためには多量のガスを使用することが必要で、アルゴン等の高価なガスを使用することは実用的ではなく、工業的には安価な窒素を用いることが好ましい。
【0039】
また、育成炉内における単結晶育成前の昇温過程と単結晶育成後の降温過程においても、上記イリジウム製坩堝の温度が300℃〜1000℃の温度域にあるときは、酸素を含まない不活性ガス雰囲気に設定することを要する。この理由は、上述したようにイリジウム製坩堝が部分的に酸化されてしまうからである。すなわち、300℃〜1000℃の温度域を、単結晶育成時と同様、酸素を含む雰囲気にすると、比較的早期の段階でイリジウム製坩堝にクラックが発生して坩堝の使用ができなくなるからである。尚、不活性ガス雰囲気として窒素雰囲気が選択された場合、工業用窒素には、通常、10ppm程度以下の酸素が含まれることから、10ppm以下の不純物としての酸素は許容される。また、300℃〜1000℃の温度域においては酸化物の昇華や還元はほとんど起こらないため、酸素を含まない不活性ガス雰囲気に設定しても得られる単結晶の品質に特に問題は生じない。
【0040】
上記イリジウム製坩堝の温度が300℃〜1000℃の温度域にあるとき、イリジウム製坩堝が配置された育成炉内の雰囲気を、酸素を含まない不活性ガス雰囲気に設定する理由は、上述したように300℃〜1000℃の温度域でイリジウム製坩堝が酸化されて部分的に酸化イリジウムとなり、かつ、1000℃を超える結晶育成の温度域において上記酸化イリジウムの還元が起こり、酸化と還元によりイリジウム製坩堝の粒界が膨張、収縮して上記クラックが発生してしまう現象を回避するためである。
【0041】
尚、上記イリジウム製坩堝の温度については、育成炉に設けた窓を通して放射温度計を用いる等の手段を用い計測することができる。
【実施例】
【0042】
以下、本発明の実施例について比較例を挙げて具体的に説明するが、本発明の技術的内容が以下の実施例により限定されるものではない。
【0043】
[実施例1]
GGG(ガドリニウム・ガリウム・ガーネット)結晶用の原料として、50.3重量%のGd33、38.5重量%のGa23、8.1重量%のZrO2、1.8重量%のCaO、1.3重量%のMgOを適用し、これ等原料粉末を攪拌機で混合した後、ビニール袋に詰め、更にゴム型に入れ、かつ、CIP装置に収容して原料粉末の成形体を作製した。
【0044】
次に、GGG基板が敷き詰められたPt坩堝内に、作製された成形体を上記坩堝の壁面に成形体が接触しないように挿入し、この状態で、大気中、1350℃、6時間仮焼して、複合酸化物化がある程度進行した複合酸化物の原料を得た。
【0045】
尚、得られた複数ロットの複合酸化物原料についてPtの濃度を分析したところ、いずれの複合酸化物原料も60ppm未満であった。
【0046】
こうして得られた複合酸化物の原料とイリジウム製坩堝を用い、Cz法によるGGG単結晶(融点:1850℃)の育成を実施した。
【0047】
すなわち、育成炉内に配置された外径φ150mm、高さ150mm、厚さ2mmであるイリジウム製坩堝の温度が、300℃〜1000℃の温度域、および、1000℃を超えて1400℃の温度域にあるときは、上記育成炉内の雰囲気を、酸素を含まない窒素雰囲気に設定し、かつ、イリジウム製坩堝の温度が1400℃を超えて原料が融解するまでの温度域、および、原料が融解している温度域にあるときは、育成炉内の雰囲気を、1体積%の酸素を含む窒素雰囲気に設定してCz法によるGGG単結晶の育成を行なった。
【0048】
尚、イリジウム製坩堝の温度が、初期温度から300℃未満の温度域にあるときも、上記育成炉内の雰囲気を、酸素を含まない窒素雰囲気に設定した。
【0049】
また、GGG単結晶の育成は、イリジウム製坩堝に複合酸化物の原料を追加しながら何度も繰り返し実施した。
【0050】
そして、単結晶の育成後に、イリジウム製坩堝の外観を観察してクラック発生の有無を確認した。
【0051】
その結果、67ロットの単結晶育成後にもクラックの発生がないことを確認できた。
【0052】
[実施例2]
GGG結晶用の原料として、54.0重量%のGd33、46.0重量%のGa23を適用し、かつ、実施例1と同様の方法により原料粉末の成形体を作製した。
【0053】
次に、GGG基板が敷き詰められたPt坩堝内に、作製された成形体を上記坩堝の壁面に成形体が接触しないように挿入し、この状態で、大気中、1350℃、6時間仮焼して、複合酸化物化がある程度進行した複合酸化物の原料を得た。
【0054】
尚、得られた複数ロットの複合酸化物原料についてPtの濃度を分析したところ、いずれの複合酸化物原料も60ppm未満であった。
【0055】
こうして得られた複合酸化物の原料とイリジウム製坩堝を用い、Cz法によるGGG単結晶(融点:1850℃)の育成を実施した。
【0056】
すなわち、育成炉内に配置されたイリジウム製坩堝の温度が、300℃〜1000℃の温度域、および、1000℃を超えて1200℃の温度域にあるときは、上記育成炉内の雰囲気を、酸素を含まない窒素雰囲気に設定し、かつ、イリジウム製坩堝の温度が1200℃を超えて原料が融解するまでの温度域、および、原料が融解している温度域にあるときは、上記育成炉内の雰囲気を、1体積%の酸素を含む窒素雰囲気に設定してCz法によるGGG単結晶の育成を行なった。
【0057】
尚、イリジウム製坩堝の温度が、初期温度から300℃未満の温度域にあるときも、上記育成炉内の雰囲気を、酸素を含まない窒素雰囲気に設定した。
【0058】
また、GGG単結晶の育成は、実施例1と同様、イリジウム製坩堝に複合酸化物の原料を追加しながら何度も繰り返し実施し、かつ、単結晶の育成後に、イリジウム製坩堝の外観を観察してクラック発生の有無を確認した。
【0059】
その結果、53ロットの単結晶育成後にもクラックの発生がないことを確認できた。
【0060】
[実施例3]
LT(タンタル酸リチウム)結晶用の原料として、86.4重量%のTa23、13.6重量%のLi2CO3を適用し、これ等原料粉末を攪拌機で混合した後、実施例1と同様に、CIP装置を用いて原料粉末の成形体を作製した。
【0061】
次に、LT基板が敷き詰められたPt坩堝内に、作製された成形体を上記坩堝の壁面に成形体が接触しないように挿入し、この状態で、大気中、1500℃、15時間仮焼して、複合酸化物化がある程度進行した複合酸化物の原料を得た。
【0062】
尚、得られた複数ロットの複合酸化物原料についてPtの濃度を分析したところ、いずれの複合酸化物原料も60ppm未満であった。
【0063】
こうして得られた複合酸化物の原料とイリジウム製坩堝を用い、Cz法によるLT単結晶(融点:1750℃)の育成を実施した。
【0064】
すなわち、育成炉内に配置された外径φ150mm、高さ150mm、厚さ2mmであるイリジウム製坩堝の温度が、300℃〜1000℃の温度域、および、1000℃を超えて1200℃の温度域にあるときは、上記育成炉内の雰囲気を、酸素を含まない窒素雰囲気に設定し、かつ、イリジウム製坩堝の温度が1200℃を超えて原料が融解するまでの温度域、および、原料が融解している温度域にあるときは、上記育成炉内の雰囲気を、2体積%の酸素を含む窒素雰囲気に設定してCz法によるLT単結晶の育成を行なった。
【0065】
尚、イリジウム製坩堝の温度が、初期温度から300℃未満の温度域にあるときも、上記育成炉内の雰囲気を、酸素を含まない窒素雰囲気に設定した。
【0066】
また、LT単結晶の育成は、実施例1と同様、イリジウム製坩堝に複合酸化物の原料を追加しながら何度も繰り返し実施し、かつ、単結晶の育成後に、イリジウム製坩堝の外観を観察してクラック発生の有無を確認した。
【0067】
その結果、58ロットの単結晶育成後にもクラックの発生がないことを確認できた。
【0068】
[比較例1]
GGG結晶用の原料として、50.3重量%のGd33、38.5重量%のGa23、8.1重量%のZrO2、1.8重量%のCaO、1.3重量%のMgOを適用し、かつ、実施例1と同様の方法により原料粉末の成形体を作製した。
【0069】
次に、GGG基板が敷き詰められていないPt坩堝内に、作製された原料粉末の成形体を直接投入し、この状態で、大気中、1350℃、6時間仮焼して、複合酸化物化がある程度進行した複合酸化物の原料を得た。
【0070】
尚、実施例1と同様、得られた複数ロットの複合酸化物原料におけるPt濃度を分析したところ、いずれの複合酸化物原料も113〜258ppmであった。
【0071】
こうして得られた複合酸化物の原料とイリジウム製坩堝を用い、Cz法によるGGG単結晶(融点:1850℃)の育成を実施した。
【0072】
すなわち、育成炉内に配置されたイリジウム製坩堝の温度が、初期温度から300℃未満の温度域、300℃〜1000℃の温度域、1000℃を超えて原料が融解するまでの温度域、および、原料が融解している温度域(全ての温度域)にあるとき、育成炉内の雰囲気を、1体積%の酸素を含む窒素雰囲気に設定してCz法によるGGG単結晶の育成を行なった。
【0073】
また、GGG単結晶の育成は、実施例1と同様、イリジウム製坩堝に複合酸化物の原料を追加しながら何度も繰り返し実施し、かつ、単結晶の育成後に、イリジウム製坩堝の外観を観察してクラック発生の有無を確認した。
【0074】
そして、3ロットのGGG単結晶の育成後においてクラックの発生が認められ、それ以上の結晶の育成を断念した。
【0075】
[比較例2]
GGG結晶用の原料として、54.0重量%のGd33、46.0重量%のGa23を適用し、かつ、実施例1と同様の方法により原料粉末の成形体を作製した。
【0076】
次に、GGG基板が敷き詰められていないPt坩堝内に、作製された原料粉末の成形体を直接投入し、この状態で、大気中、1350℃、6時間仮焼して、複合酸化物化がある程度進行した複合酸化物の原料を得た。
【0077】
尚、実施例1と同様、得られた複数ロットの複合酸化物原料におけるPt濃度を分析したところ、いずれの複合酸化物原料も99〜294ppmであった。
【0078】
こうして得られた複合酸化物の原料とイリジウム製坩堝を用い、Cz法によるGGG単結晶(融点:1850℃)の育成を実施した。
【0079】
すなわち、育成炉内に配置されたイリジウム製坩堝の温度が、初期温度から300℃未満の温度域、300℃〜800℃の温度域にあるときは、育成炉内の雰囲気を、酸素を含まない窒素雰囲気に設定し、イリジウム製坩堝の温度が800℃を超えて原料が融解するまでの温度域、および、原料が融解している温度域にあるときは、上記育成炉内の雰囲気を、1体積%の酸素を含む窒素雰囲気に設定してCz法によるGGG単結晶の育成を行なった。
【0080】
また、GGG単結晶の育成は、実施例1と同様、イリジウム製坩堝に複合酸化物の原料を追加しながら何度も繰り返し実施し、かつ、単結晶の育成後に、イリジウム製坩堝の外観を観察してクラック発生の有無を確認した。
【0081】
そして、5ロットのGGG単結晶の育成後においてクラックの発生が認められ、それ以上の結晶の育成を断念した。
【0082】
[比較例3]
GGG結晶用の原料として、50.3重量%のGd33、38.5重量%のGa23、8.1重量%のZrO2、1.8重量%のCaO、1.3重量%のMgOを適用し、かつ、実施例1と同様の方法により原料粉末の成形体を作製した。
【0083】
次に、GGG基板が敷き詰められていないPt坩堝内に、作製された原料粉末の成形体を直接投入し、この状態で、大気中、1350℃、6時間仮焼して、複合酸化物化がある程度進行した複合酸化物の原料を得た。
【0084】
尚、実施例1と同様、得られた複数ロットの複合酸化物原料におけるPt濃度を分析したところ、いずれの複合酸化物原料も75〜581ppmであった。
【0085】
こうして得られた複合酸化物の原料とイリジウム製坩堝を用い、Cz法によるGGG単結晶(融点:1850℃)の育成を実施した。
【0086】
すなわち、育成炉内に配置されたイリジウム製坩堝の温度が、400℃〜1000℃の温度域にあるときは、育成炉内の雰囲気を、酸素を含まない窒素雰囲気に設定し、イリジウム製坩堝の温度が、初期温度から400℃未満の温度域、1000℃を超えて原料が融解するまでの温度域、および、原料が融解している温度域にあるときは、上記育成炉内の雰囲気を、1体積%の酸素を含む窒素雰囲気に設定してCz法によるGGG単結晶の育成を行なった。
【0087】
また、GGG単結晶の育成は、実施例1と同様、イリジウム製坩堝に複合酸化物の原料を追加しながら何度も繰り返し実施し、かつ、単結晶の育成後に、イリジウム製坩堝の外観を観察してクラック発生の有無を確認した。
【0088】
そして、14ロットのGGG単結晶の育成後においてクラックの発生が認められ、それ以上の結晶の育成を断念した。
【0089】
[比較例4]
GGG結晶用の原料として、50.3重量%のGd33、38.5重量%のGa23、8.1重量%のZrO2、1.8重量%のCaO、1.3重量%のMgOを適用し、かつ、実施例1と同様の方法により原料粉末の成形体を作製した。
【0090】
次に、GGG基板が敷き詰められていないPt坩堝内に、作製された原料粉末の成形体を直接投入し、この状態で、大気中、1350℃、6時間仮焼して、複合酸化物化がある程度進行した複合酸化物の原料を得た。
【0091】
尚、実施例1と同様、得られた複数ロットの複合酸化物原料におけるPt濃度を分析したところ、いずれの複合酸化物原料も81〜342ppmであった。
【0092】
こうして得られた複合酸化物の原料とイリジウム製坩堝を用い、Cz法によるGGG単結晶(融点:1850℃)の育成を実施した。
【0093】
すなわち、育成炉内に配置されたイリジウム製坩堝の温度が、800℃〜1000℃の温度域にあるときは、育成炉内の雰囲気を、酸素を含まない窒素雰囲気に設定し、イリジウム製坩堝の温度が、初期温度から800℃未満の温度域、1000℃を超えて原料が融解するまでの温度域、および、原料が融解している温度域にあるときは、上記育成炉内の雰囲気を、1体積%の酸素を含む窒素雰囲気に設定してCz法によるGGG単結晶の育成を行なった。
【0094】
また、GGG単結晶の育成は、実施例1と同様、イリジウム製坩堝に複合酸化物の原料を追加しながら何度も繰り返し実施し、かつ、単結晶の育成後に、イリジウム製坩堝の外観を観察してクラック発生の有無を確認した。
【0095】
そして、7ロットのGGG単結晶の育成後においてクラックの発生が認められ、それ以上の結晶の育成を断念した。
【0096】
[比較例5]
GGG結晶用の原料として、50.3重量%のGd33、38.5重量%のGa23、8.1重量%のZrO2、1.8重量%のCaO、1.3重量%のMgOを適用し、かつ、実施例1と同様の方法により原料粉末の成形体を作製した。
【0097】
次に、GGG基板が敷き詰められていないPt坩堝内に、作製された原料粉末の成形体を直接投入し、この状態で、大気中、1350℃、6時間仮焼して、複合酸化物化がある程度進行した複合酸化物の原料を得た。
【0098】
尚、得られた複数ロットの複合酸化物原料におけるPt濃度を分析したところ、いずれの複合酸化物原料も82〜320ppmであった。
【0099】
こうして得られた複合酸化物の原料とイリジウム製坩堝を用い、Cz法によるGGG単結晶(融点:1850℃)の育成を実施した。
【0100】
すなわち、育成炉内に配置されたイリジウム製坩堝の温度が、初期温度から300℃未満の温度域、300℃〜1000℃の温度域、1000℃を超えて原料が融解するまでの温度域、および、原料が融解している温度域(全ての温度域)にあるとき、育成炉内の雰囲気を、1体積%の酸素を含む窒素雰囲気に設定してCz法によるGGG単結晶の育成を行なった。
【0101】
また、GGG単結晶の育成は、実施例1と同様、イリジウム製坩堝に複合酸化物の原料を追加しながら何度も繰り返し実施し、かつ、単結晶の育成後に、イリジウム製坩堝の外観を観察してクラック発生の有無を確認した。
【0102】
そして、8ロットのGGG単結晶の育成後においてクラックの発生が認められ、それ以上の結晶の育成を断念した。
【0103】
[比較例6]
LT結晶用の原料として、86.4重量%のTa23、13.6重量%のLi2CO3を適用し、かつ、実施例3と同様の方法により原料粉末の成形体を作製した。
【0104】
次に、LT基板が敷き詰められていないPt坩堝内に、作製された原料粉末の成形体を直接投入し、この状態で、大気中、1500℃、15時間仮焼して、複合酸化物化がある程度進行した複合酸化物の原料を得た。
【0105】
尚、得られた複数ロットの複合酸化物原料におけるPt濃度を分析したところ、いずれの複合酸化物原料も70〜620ppmであった。
【0106】
こうして得られた複合酸化物の原料とイリジウム製坩堝を用い、Cz法によるLT単結晶(融点:1750℃)の育成を実施した。
【0107】
すなわち、育成炉内に配置されたイリジウム製坩堝の温度が、初期温度から300℃未満の温度域、300℃〜1000℃の温度域、1000℃を超えて原料が融解するまでの温度域、および、原料が融解している温度域(全ての温度域)にあるとき、育成炉内の雰囲気を、2体積%の酸素を含む窒素雰囲気に設定してCz法によるLT単結晶の育成を行なった。
【0108】
また、LT単結晶の育成は、実施例1と同様、イリジウム製坩堝に複合酸化物の原料を追加しながら何度も繰り返し実施し、かつ、単結晶の育成後に、イリジウム製坩堝の外観を観察してクラック発生の有無を確認した。
【0109】
そして、10ロットのGGG単結晶の育成後においてクラックの発生が認められ、それ以上の結晶の育成を断念した。
【0110】
[比較例7]
GGG結晶用の原料として、50.3重量%のGd33、38.5重量%のGa23、8.1重量%のZrO2、1.8重量%のCaO、1.3重量%のMgOを適用し、かつ、実施例1と同様の方法により原料粉末の成形体を作製した。
【0111】
次に、GGG基板が敷き詰められていないPt坩堝内に、作製された原料粉末の成形体を直接投入し、この状態で、大気中、1350℃、6時間仮焼して、複合酸化物化がある程度進行した複合酸化物の原料を得た。
【0112】
尚、得られた複数ロットの複合酸化物原料におけるPt濃度を分析したところ、いずれの複合酸化物原料も108〜327ppmであった。
【0113】
こうして得られた複合酸化物の原料とイリジウム製坩堝を用い、Cz法によるGGG単結晶(融点:1850℃)の育成を実施した。
【0114】
すなわち、育成炉内に配置されたイリジウム製坩堝の温度が、300℃〜1000℃の温度域、および、1000℃を超えて1400℃の温度域にあるときは、上記育成炉内の雰囲気を、酸素を含まない窒素雰囲気に設定し、かつ、イリジウム製坩堝の温度が1400℃を超えて原料が融解するまでの温度域、および、原料が融解している温度域にあるときは、育成炉内の雰囲気を、1体積%の酸素を含む窒素雰囲気に設定してCz法によるGGG単結晶の育成を行なった。
【0115】
尚、イリジウム製坩堝の温度が、初期温度から300℃未満の温度域にあるときも、上記育成炉内の雰囲気を、酸素を含まない窒素雰囲気に設定した。
【0116】
また、GGG単結晶の育成は、実施例1と同様、イリジウム製坩堝に複合酸化物の原料を追加しながら何度も繰り返し実施し、かつ、単結晶の育成後に、イリジウム製坩堝の外観を観察してクラック発生の有無を確認した。
【0117】
その結果、32ロットの単結晶育成後にもクラックの発生がないことを確認できた。
【0118】
[比較例8]
GGG結晶用の原料として、50.3重量%のGd33、38.5重量%のGa23、8.1重量%のZrO2、1.8重量%のCaO、1.3重量%のMgOを適用し、かつ、実施例1と同様の方法により原料粉末の成形体を作製した。
【0119】
次に、GGG基板が敷き詰められていないPt坩堝内に、作製された原料粉末の成形体を直接投入し、この状態で、大気中、1350℃、6時間仮焼して、複合酸化物化がある程度進行した複合酸化物の原料を得た。
【0120】
尚、実施例1と同様、得られた複数ロットの複合酸化物原料におけるPt濃度を分析したところ、いずれの複合酸化物原料も111〜329ppmであった。
【0121】
こうして得られた複合酸化物の原料とイリジウム製坩堝を用い、Cz法によるGGG単結晶(融点:1850℃)の育成を実施した。
【0122】
すなわち、育成炉内に配置されたイリジウム製坩堝の温度が、300℃〜1000℃の温度域にあるときは、上記育成炉内の雰囲気を、酸素を含まない窒素雰囲気に設定し、イリジウム製坩堝の温度が1000℃を超えて原料が融解するまでの温度域、および、原料が融解している温度域にあるときは、上記育成炉内の雰囲気を、1体積%の酸素を含む窒素雰囲気に設定してCz法によるGGG単結晶の育成を行なった。
【0123】
尚、イリジウム製坩堝の温度が、初期温度から300℃未満の温度域にあるときも、上記育成炉内の雰囲気を、酸素を含まない窒素雰囲気に設定した。
【0124】
また、GGG単結晶の育成は、実施例1と同様、イリジウム製坩堝に複合酸化物の原料を追加しながら何度も繰り返し実施し、かつ、単結晶の育成後に、イリジウム製坩堝の外観を観察してクラック発生の有無を確認した。
【0125】
その結果、30ロットの単結晶育成後にもクラックの発生がないことを確認できた。
【0126】
[比較例9]
GGG結晶用の原料として、54.0重量%のGd33、46.0重量%のGa23を適用し、かつ、実施例1と同様の方法により原料粉末の成形体を作製した。
【0127】
次に、GGG基板が敷き詰められていないPt坩堝内に、作製された原料粉末の成形体を直接投入し、この状態で、大気中、1350℃、6時間仮焼して、複合酸化物化がある程度進行した複合酸化物の原料を得た。
【0128】
尚、実施例1と同様、得られた複数ロットの複合酸化物原料におけるPt濃度を分析したところ、いずれの複合酸化物原料も89〜367ppmであった。
【0129】
こうして得られた複合酸化物の原料とイリジウム製坩堝を用い、Cz法によるGGG単結晶(融点:1850℃)の育成を実施した。
【0130】
すなわち、育成炉内に配置されたイリジウム製坩堝の温度が、300℃〜1000℃の温度域、および、1000℃を超えて1200℃の温度域にあるときは、上記育成炉内の雰囲気を、酸素を含まない窒素雰囲気に設定し、かつ、イリジウム製坩堝の温度が1200℃を超えて原料が融解するまでの温度域、および、原料が融解している温度域にあるときは、上記育成炉内の雰囲気を、1体積%の酸素を含む窒素雰囲気に設定してCz法によるGGG単結晶の育成を行なった。
【0131】
尚、イリジウム製坩堝の温度が、初期温度から300℃未満の温度域にあるときも、上記育成炉内の雰囲気を、酸素を含まない窒素雰囲気に設定した。
【0132】
また、GGG単結晶の育成は、実施例1と同様、イリジウム製坩堝に複合酸化物の原料を追加しながら何度も繰り返し実施し、かつ、単結晶の育成後に、イリジウム製坩堝の外観を観察してクラック発生の有無を確認した。
【0133】
その結果、32ロットの単結晶育成後にもクラックの発生がないことを確認できた。
【0134】
[比較例10]
LT結晶用の原料として、86.4重量%のTa23、13.6重量%のLi2CO3を適用し、これ等原料粉末を攪拌機で混合した後、実施例1と同様にして原料粉末の成形体を作製した。
【0135】
次に、LT基板が敷き詰められていないPt坩堝内に、作製された原料粉末の成形体を直接投入し、この状態で、大気中、1500℃、15時間仮焼して、複合酸化物化がある程度進行した複合酸化物の原料を得た。
【0136】
尚、実施例1と同様、得られた複数ロットの複合酸化物原料におけるPt濃度を分析したところ、いずれの複合酸化物原料も77〜582ppmであった。
【0137】
こうして得られた複合酸化物の原料とイリジウム製坩堝を用い、Cz法によるLT単結晶(融点:1750℃)の育成を実施した。
【0138】
すなわち、育成炉内に配置されたイリジウム製坩堝の温度が、300℃〜1000℃の温度域、および、1000℃を超えて1200℃の温度域にあるときは、上記育成炉内の雰囲気を、酸素を含まない窒素雰囲気に設定し、かつ、イリジウム製坩堝の温度が1200℃を超えて原料が融解するまでの温度域、および、原料が融解している温度域にあるときは、上記育成炉内の雰囲気を、2体積%の酸素を含む窒素雰囲気に設定してCz法によるLT単結晶の育成を行なった。
【0139】
尚、イリジウム製坩堝の温度が、初期温度から300℃未満の温度域にあるときも、上記育成炉内の雰囲気を、酸素を含まない窒素雰囲気に設定した。
【0140】
また、LT単結晶の育成は、実施例1と同様、イリジウム製坩堝に複合酸化物の原料を追加しながら何度も繰り返し実施し、かつ、単結晶の育成後に、イリジウム製坩堝の外観を観察してクラック発生の有無を確認した。
【0141】
その結果、34ロットの単結晶育成後にもクラックの発生がないことを確認できた。
【0142】
[比較例11]
LT結晶用の原料として、86.4重量%のTa23、13.6重量%のLi2CO3を適用し、これ等原料粉末を攪拌機で混合した後、実施例1と同様にして原料粉末の成形体を作製した。
【0143】
次に、LT基板が敷き詰められていないPt坩堝内に、作製された原料粉末の成形体を直接投入し、この状態で、大気中、1500℃、15時間仮焼して、複合酸化物化がある程度進行した複合酸化物の原料を得た。
【0144】
尚、実施例1と同様、得られた複数ロットの複合酸化物原料におけるPt濃度を分析したところ、いずれの複合酸化物原料も73〜616ppmであった。
【0145】
こうして得られた複合酸化物の原料とイリジウム製坩堝を用い、Cz法によるLT単結晶(融点:1750℃)の育成を実施した。
【0146】
すなわち、育成炉内に配置されたイリジウム製坩堝の温度が、300℃〜1000℃の温度域、および、1000℃を超えて1500℃の温度域にあるときは、上記育成炉内の雰囲気を、酸素を含まない窒素雰囲気に設定し、かつ、イリジウム製坩堝の温度が1500℃を超えて原料が融解するまでの温度域、および、原料が融解している温度域にあるときは、上記育成炉内の雰囲気を、2体積%の酸素を含む窒素雰囲気に設定してCz法によるLT単結晶の育成を行なった。
【0147】
尚、イリジウム製坩堝の温度が、初期温度から300℃未満の温度域にあるときも、上記育成炉内の雰囲気を、酸素を含まない窒素雰囲気に設定した。
【0148】
また、LT単結晶の育成は、実施例1と同様、イリジウム製坩堝に複合酸化物の原料を追加しながら何度も繰り返し実施し、かつ、単結晶の育成後に、イリジウム製坩堝の外観を観察してクラック発生の有無を確認した。
【0149】
その結果、33ロットの単結晶育成後にもクラックの発生がないことを確認できた。
【0150】
[比較例12]
GGG結晶用の原料として、50.3重量%のGd33、38.5重量%のGa23、8.1重量%のZrO2、1.8重量%のCaO、1.3重量%のMgOを適用し、実施例1と同様にして原料粉末の成形体を作製した。
【0151】
次に、GGG基板が敷き詰められたPt坩堝内に、作製された成形体を上記坩堝の壁面に成形体が接触しないように挿入し、この状態で、大気中、1350℃、6時間仮焼して、複合酸化物化がある程度進行した複合酸化物の原料を得た。
【0152】
尚、得られた複数ロットの複合酸化物原料についてPtの濃度を分析したところ、いずれの複合酸化物原料も60ppm未満であった。
【0153】
こうして得られた複合酸化物の原料とイリジウム製坩堝を用い、Cz法によるGGG単結晶(融点:1850℃)の育成を実施した。
【0154】
すなわち、育成炉内に配置されたイリジウム製坩堝の温度が、初期温度から300℃未満の温度域、300℃〜1000℃の温度域、1000℃を超えて原料が融解するまでの温度域、および、原料が融解している温度域(全ての温度域)にあるとき、育成炉内の雰囲気を、1体積%の酸素を含む窒素雰囲気に設定してCz法によるGGG単結晶の育成を行なった。
【0155】
また、GGG単結晶の育成は、イリジウム製坩堝に複合酸化物の原料を追加しながら何度も繰り返し実施し、かつ、単結晶の育成後に、イリジウム製坩堝の外観を観察してクラック発生の有無を確認した。
【0156】
その結果、31ロットの単結晶育成後にもクラックの発生がないことを確認できた。
【0157】
[比較例13]
GGG結晶用の原料として、54.0重量%のGd33、46.0重量%のGa23を適用し、これ等原料粉末を攪拌機で混合した後、ビニール袋に詰め、更にゴム型に入れ、かつ、CIP装置に収容して原料粉末の成形体を作製した。
【0158】
次に、GGG基板が敷き詰められたPt坩堝内に、作製された成形体を上記坩堝の壁面に成形体が接触しないように挿入し、この状態で、大気中、1350℃、6時間仮焼して、複合酸化物化がある程度進行した複合酸化物の原料を得た。
【0159】
尚、得られた複数ロットの複合酸化物原料についてPtの濃度を分析したところ、いずれの複合酸化物原料も60ppm未満であった。
【0160】
こうして得られた複合酸化物の原料とイリジウム製坩堝を用い、Cz法によるGGG単結晶(融点:1850℃)の育成を実施した。
【0161】
すなわち、育成炉内に配置されたイリジウム製坩堝の温度が、初期温度から300℃未満の温度域、300℃〜1000℃の温度域、1000℃を超えて原料が融解するまでの温度域、および、原料が融解している温度域(全ての温度域)にあるとき、育成炉内の雰囲気を、1体積%の酸素を含む窒素雰囲気に設定してCz法によるGGG単結晶の育成を行なった。
【0162】
また、GGG単結晶の育成は、イリジウム製坩堝に複合酸化物の原料を追加しながら何度も繰り返し実施した。
【0163】
そして、単結晶の育成後に、イリジウム製坩堝の外観を観察してクラック発生の有無を確認した。
【0164】
その結果、33ロットの単結晶育成後にもクラックの発生がないことを確認できた。
【0165】
[比較例14]
LT結晶用の原料として、86.4重量%のTa23、13.6重量%のLi2CO3を適用し、これ等原料粉末を攪拌機で混合した後、実施例1と同様にして原料粉末の成形体を作製した。
【0166】
次に、LT基板が敷き詰められたPt坩堝内に、作製された成形体を上記坩堝の壁面に成形体が接触しないように挿入し、この状態で、大気中、1500℃、15時間仮焼して、複合酸化物化がある程度進行した複合酸化物の原料を得た。
【0167】
尚、得られた複数ロットの複合酸化物原料についてPtの濃度を分析したところ、いずれの複合酸化物原料も60ppm未満であった。
【0168】
こうして得られた複合酸化物の原料とイリジウム製坩堝を用い、Cz法によるLT単結晶(融点:1750℃)の育成を実施した。
【0169】
すなわち、育成炉内に配置されたイリジウム製坩堝の温度が、初期温度から300℃未満の温度域、300℃〜1000℃の温度域、1000℃を超えて原料が融解するまでの温度域、および、原料が融解している温度域(全ての温度域)にあるとき、育成炉内の雰囲気を、2体積%の酸素を含む窒素雰囲気に設定してCz法によるLT単結晶の育成を行なった。
【0170】
また、LT単結晶の育成は、実施例1と同様、イリジウム製坩堝に複合酸化物の原料を追加しながら何度も繰り返し実施した。
【0171】
そして、単結晶の育成後に、イリジウム製坩堝の外観を観察してクラック発生の有無を確認した。
【0172】
その結果、36ロットの単結晶育成後にもクラックの発生がないことを確認できた。
【0173】
[評 価]
(1)Pt濃度が60ppm未満である複合酸化物原料を適用する要件(A)と、イリジウム製坩堝の温度が300℃〜1000℃の温度域にあるとき、育成炉内の雰囲気を、酸素を含まない不活性ガス雰囲気に設定する要件(B)を満たす実施例1〜3に係る複合酸化物単結晶の製造方法は、53ロット〜67ロットの単結晶育成後においてもイリジウム製坩堝にクラックが発生しておらず、イリジウム製坩堝の長寿命化が飛躍的に改善されていることが確認される。
【0174】
(2)一方、上記要件(A)と(B)を満たさない比較例1〜6に係る複合酸化物単結晶の製造方法は、3ロット〜14ロットの単結晶育成後においてクラックの発生が認められ、実施例1〜3に係る複合酸化物単結晶の製造方法と比較してイリジウム製坩堝の長寿命化が図られていないことが確認される。
【0175】
(3)また、上記要件(A)は満たさないが要件(B)を満たす比較例7〜11に係る複合酸化物単結晶の製造方法は、30ロット〜34ロットの単結晶育成後においてもイリジウム製坩堝にクラックが発生しておらず、比較例1〜6に係る複合酸化物単結晶の製造方法との比較においてイリジウム製坩堝の長寿命化が図られているが、実施例1〜3に係る複合酸化物単結晶の製造方法と較べて若干劣ることも確認される。
【0176】
(4)更に、上記要件(A)は満たすが要件(B)を満たさない比較例12〜14に係る複合酸化物単結晶の製造方法は、31ロット〜36ロットの単結晶育成後においてもイリジウム製坩堝にクラックが発生しておらず、比較例1〜6に係る複合酸化物単結晶の製造方法との比較においてイリジウム製坩堝の長寿命化が図られているが、実施例1〜3に係る複合酸化物単結晶の製造方法と較べて若干劣ることも確認される。
【0177】
(5)また、上記要件(A)は満たさないが要件(B)を満たす比較例7〜11に係る複合酸化物単結晶の製造方法と、上記要件(A)は満たすが要件(B)を満たさない比較例12〜14に係る複合酸化物単結晶の製造方法は、上記要件(A)と(B)を満たさない比較例1〜6に係る複合酸化物単結晶の製造方法との比較において、略同等のイリジウム製坩堝の長寿命化が図られていることも確認される。
【産業上の利用可能性】
【0178】
本発明に係る合酸化物単結晶の製造方法によれば、使用開始から比較的早期の段階でイリジウム製坩堝にクラックが発生する現象を回避でき、イリジウム製坩堝の寿命が伸びる分、複合酸化物単結晶基板の製造コストを低減できるため、ガーネット系単結晶やタンタル酸リチウム単結晶の製造に利用される産業上の利用可能性を有している。