(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
反応槽に収容した希土類元素を含有する溶液に、種晶を共存させた状態でアルカリ金属硫酸塩を添加して該希土類元素の硫酸複塩生成反応を生じさせ、該希土類元素の希土類硫酸複塩沈殿物を形成させて回収する希土類元素の回収方法において、
硫酸複塩生成反応の終了後、得られた溶液を希土類硫酸複塩沈殿物が沈降しない撹拌状態とし、所定量の希土類硫酸複塩沈殿物が含まれる溶液分以外を固液分離装置に通液させて回収し、
上記反応槽内で上記所定量の希土類硫酸複塩沈殿物が含まれる溶液を静置して該希土類硫酸複塩沈殿物を沈降させ、その後、上澄液を抜き取り該希土類硫酸複塩沈殿物を該反応槽内に残留させ、
上記反応槽内に残留させた上記希土類硫酸複塩沈殿物を種晶として共存させた状態で、アルカリ金属硫酸塩を添加してスラリーとした後に、希土類元素を含有する溶液を収容することにより硫酸複塩生成反応を行うことを特徴とする希土類元素の回収方法。
上記スラリーを撹拌しつつ、上記スラリーの温度を60℃まで昇温して3時間以上保持した後に、上記希土類元素を含有する溶液を収容することにより硫酸複塩生成反応を行うことを特徴とする請求項1に記載の希土類元素の回収方法。
上記反応槽内に残留させた上記希土類硫酸複塩沈殿物に含有される重希土類元素に対する軽希土類元素のモル比率が8以上である請求項1又は2に記載の希土類元素の回収方法。
【背景技術】
【0002】
希土類元素は、電子配置が通常の元素とは異なるために物理的に特異な性質を有し、水素吸蔵合金、二次電池原料、光学ガラス、強力な希土類磁石、蛍光体、研磨材等の材料として利用されている。
【0003】
特に、近年では、希土類−ニッケル系合金が高い水素吸蔵能力を有すことからニッケル水素電池の負極材の原料として多量に使用されるようになってきており、希土類元素の重要度は以前にも増して高くなってきている。
【0004】
しかしながら、ニッケル水素電池には寿命があり、また、希土類はほぼ全量輸入に頼っているため、高価である希土類元素の低コストで効率的な回収方法の確立が望まれている。
【0005】
希土類元素の内、ランタンやセリウム、ネオジム、プラセオジムなどの軽希土類元素は、溶解度積により希土類硫酸複塩沈殿物として重希土類元素に比べて回収しやすいものである。一方で、イットリウムなどの重希土類元素については、溶解度積が軽希土類の溶解度積と比較して高く、その回収は困難である。このような重希土類元素は、軽希土類の硫酸複塩化反応での共沈効果により回収できることが知られている。
【0006】
希土類を含有したスクラップを鉱酸等の酸に溶かした水溶液から回収する湿式法が知られており、例えば、特許文献1には、希土類硫酸塩とアルカリ硫酸塩とで希土類硫酸複塩沈殿物を生成し、固液分離した後の沈殿を種晶として系内に繰り返し装入することで、効率的に希土類を回収する技術が記載されている。
【0007】
また、本件出願人により出願された、特願2012−133147号には、希土類硫酸複塩沈殿物が生成したスラリーを静置した後の濃縮スラリーを系内に繰り返し装入することで、同様にイットリウムなどの重希土類を良好に回収する技術が記載されている。
【0008】
特に、特願2012−133147号に記載された技術は、硫酸複塩生成反応が終了した後のスラリーを撹拌し、所定量の希土類硫酸複塩沈殿物が含まれる溶液分を反応槽に残留させ、静置して、上澄みを抜き取ることによって濃縮したスラリーを、特許文献1に記載の種晶として利用している。このため、希土類元素の回収の実施規模が大きくなることに伴う、生成した種晶を残留させる際の固液分離操作、種晶の移送および装入などの煩雑なハンドリングを必要とせず、効率的にかつ高い安全性で以って使用することができる。
【0009】
より詳しくは、反応槽に収容した希土類元素を含有する溶液に、種晶を共存させた状態でアルカリ金属硫酸塩を添加して該希土類元素の硫酸複塩生成反応を生じさせ、該希土類元素の希土類硫酸複塩沈殿物を形成させて回収する希土類元素の回収方法に関するものである。
【0010】
すなわち、希土類元素の回収方法は、硫酸複塩生成反応の終了後、得られた溶液を希土類硫酸複塩沈殿物が沈降しない撹拌状態とし、所定量の希土類硫酸複塩沈殿物が含まれる溶液分以外を固液分離装置に通液させて回収し、反応槽内で所定量の希土類硫酸複塩沈殿物が含まれる溶液を静置して希土類硫酸複塩沈殿物を沈降させる。その後、希土類元素の回収方法では、上澄液を抜き取り、希土類硫酸複塩沈殿物を反応槽内に残留させ、反応槽内に残留させた希土類硫酸複塩沈殿物を種晶として共存させた状態で、希土類元素を含有する溶液を収容し、アルカリ金属硫酸塩を添加することによって硫酸複塩生成反応を行う。
【0011】
このような方法によれば、生成した種晶を残留させる際に固液分離操作を含まず、種晶の移送、系内への繰り返し装入操作がないので、希土類元素回収の実施規模を拡大しても効率よく、安全性も高い操業を行うことが可能であり、希土類、例えばY(イットリウム)の回収においては、硫酸複塩中の回収量:液中の残留量=43:1(すなわち、硫酸複塩の回収率が約97.8重量%)と、高い回収率が可能となる。
【0012】
しかしながら、上述の希土類元素の回収方法では、希土類元素回収の実施規模が例えば数m
3に達するような工業規模に拡大して行った場合、前述のような高い回収率を得ることが必ずしもできないという問題があった。例えば、沈殿物中の量:処理後の液中に残留した量=35〜45:65〜55程度となる。さらにスラリー濃度や硫酸複塩生成反応の温度条件を検討しても安定して希土類元素の希土類硫酸複塩沈殿物が分離回収できないという問題もある。しかしながら、小型の設備を多数並列することは設備投資がかさみ操業の手間も増加するなど好ましくなく、希土類元素回収の実施規模が大きくても安定した回収方法が望まれている。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明に係る希土類元素の回収方法について、図面を参照しながら以下の順序で詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
1.本発明について
2.硫酸複塩生成反応による希土類元素の回収処理
3.希土類元素の回収方法(種晶としての希土類硫酸複塩沈殿物の利用)
3−1.形成された希土類元素の希土類硫酸複塩沈殿物の回収
3−2.残留させた希土類硫酸複塩沈殿物のセトリング
3−3.希土類硫酸複塩沈殿物の共存下での硫酸複塩生成反応
4.他の有価金属の回収方法への適用
5.実施例
【0023】
≪1.本発明について≫
本発明に係る希土類元素の回収方法は、アルカリ金属硫酸塩が添加された反応槽に、希土類元素を含有する溶液(以下、「希土類元素含有溶液」ともいう。)を収容することによって軽希土類の硫酸複塩生成反応を生じさせ、該軽希土類元素を難溶性の希土類硫酸複塩沈殿物(以下、単に「沈殿物」ともいう。)の共沈として希土類元素を回収するものである。このときの希土類元素は、軽希土類元素の他に、例えば、イットリウムなどの重希土類元素を含むものである。
【0024】
希土類元素の回収方法においては、種晶としての希土類硫酸複塩沈殿物を溶液中に共存させるにあたり、希土類元素の硫酸複塩生成反応が終了した後に、形成された希土類硫酸複塩沈殿物を回収する一方で、その内の所定量の希土類硫酸複塩沈殿物を反応槽内に残留させておき、この残留分を種晶として共存させた状態で、新規な希土類元素含有溶液に対する硫酸複塩生成反応を行う。
【0025】
この硫酸複塩生成反応による希土類元素の回収においては、形成された希土類硫酸複塩沈殿物の一部を繰り返して種晶として溶液中に増量投入することで、重希土類元素の共沈による溶液からの分離を促進させることが可能となる。
【0026】
すなわち、この希土類元素の回収方法では、先ず、希土類元素の硫酸複塩生成反応の終了後、得られた硫酸複塩を含む溶液を希土類硫酸複塩沈殿物が沈降しない撹拌状態とし、所定量の希土類硫酸複塩沈殿物が含まれる溶液分以外を固液分離装置に通液させて回収する。次に、希土類元素の回収方法では、反応槽内でその所定量の希土類硫酸複塩沈殿物が含まれる溶液を静置して希土類硫酸複塩沈殿物を沈降させ、その後、上澄液を抜き取り希土類硫酸複塩沈殿物を反応槽内に残留させる。そして、希土類元素の回収方法では、反応槽内に残留させた希土類硫酸複塩沈殿物を種晶として共存させた状態とする。その後の手順として、希土類元素の回収方法では、反応槽内に残留させた希土類硫酸複塩沈殿物にアルカリ金属硫酸塩を添加した後に、希土類元素を含有する溶液を収容することにより硫酸複塩生成反応を行う。
【0027】
ここで用いる種晶は、希土類硫酸複塩の形態で用いる必要がある。希土類硫酸複塩が希土類硫酸塩に変化してしまうと希土類の回収効果がほとんど無くなり、共沈により分離されるイットリウムなどの重希土類元素の回収率が低下してしまう。
【0028】
希土類元素の回収方法では、希土類元素を含有する溶液を収容する前に、アルカリ金属硫酸塩を種晶が残留した反応槽内に添加するため、種晶の形態が、希土類硫酸複塩から希土類硫酸塩に変化することを抑制することができる。
【0029】
例えば、希土類元素回収の実施規模が拡大し、希土類元素回収の実施規模の拡大に伴って反応槽内の反応領域が拡大した場合に、反応槽内に希土類元素を含有する溶液を収容した後に、アルカリ金属硫酸塩を添加するという手順で行うと、反応領域の不均一な状態が形成され、希土類硫酸複塩から希土類硫酸塩へと種晶の形態が変化しやすくなる。
【0030】
このため、希土類元素回収の実施規模の拡大に伴って、小規模の反応槽の容量では発生し得なかった問題が生じる。すなわち、反応槽内で硫酸複塩生成反応によって形成された希土類硫酸複塩沈殿物から一部を種晶として用いる場合、反応槽に希土類元素を含む硫酸水溶液を添加した際には希土類硫酸複塩の形態が希土類硫酸塩に一部変化し、重希土類を分離回収する為の共沈剤としての硫酸複塩の必要量が低下したり、共沈効果が低下したりすることになる。
【0031】
このように、小規模の反応槽の容量での希土類元素の回収では、硫酸複塩の必要量が低下し、共沈効果が低下することで希土類元素の回収量が低下する問題が生じていた。これに対し、本発明者らは、反応槽内の種晶に、先ずアルカリ金属硫酸塩を含む溶液を添加してスラリーとし、その後、希土類元素を含む硫酸水溶液を収容することで、希土類硫酸複塩の形態が変化せず、共沈効果が低下を抑え、高い回収率で、安定して希土類を回収できることを見出した。
【0032】
硫酸複塩の形態が変化しにくくなる理由については以下のように考えられる。
【0033】
下記式(1)に示す生成物が生成される反応が支配的になれば、硫酸複塩の形態は変化しにくくなる。
【0035】
しかしながら、希土類元素回収の実施規模が大きくなると下記化学式(2)に示すような反応が起きやすく、希土類元素を含有する溶液を収容した後で、アルカリ金属硫酸塩を添加する手順では硫酸複塩の形態が変化してしまう。
【0037】
本発明では、アルカリ金属硫酸塩を含む溶液を、希土類元素を有する溶液より先に、種晶が残留している反応槽内に添加することで、式(1)に示す生成物が生成される反応が支配的になり、形態変化が抑制される。
【0038】
その結果、希土類元素回収の実施規模が拡大しても、重希土類元素を共沈作用により効率的に高い回収率で回収することができる。また、これにより、回収率は安定し、コストダウンも可能となる。
【0039】
以下に、本発明に係る希土類元素の回収方法の具体的な実施形態(以下、「本実施の形態」という。)について、より詳細にそれぞれの処理毎に説明する。
【0040】
≪2.硫酸複塩生成反応による希土類元素の回収処理≫
はじめに、本実施の形態に係る希土類元素の回収方法において、希土類元素を含有する溶液に対する硫酸複塩生成反応による希土類元素の回収処理について説明する。
【0041】
回収処理の対象となる希土類元素含有溶液は、希土類元素を含有した硫酸や塩酸等の鉱酸からなる溶液である。この溶液は、例えば、希土類元素を含んだ電池(例えばニッケル水素電池の負極材)や電子機器等のスクラップ品を硫酸や塩酸等の鉱酸で浸出して得られた浸出液を用いることができる。なお、この溶液のpHとしては、特に限定されないが、鉱酸によってpH1〜2程度に調整することが好ましい。
【0042】
溶液に含有される希土類元素としては、特に限定されるものではなく、イットリウム(Y)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、ルテチウム(Lu)等の重希土類元素、スカンジウム(Sc)、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、プロメチウム(Pm)、サマリウム(Sm)等の軽希土類元素を挙げることができる。
【0043】
希土類元素含有溶液に添加して硫酸複塩生成反応を生じさせるアルカリ金属硫酸塩の添加量としては、特に限定されないが、硫酸イオン濃度として27g/L以上となるように添加することが好ましく、54g/L以上となるように添加することがより好ましい。このように、硫酸イオン濃度として、好ましくは27g/L以上、より好ましくは54g/L以上となるようにアルカリ金属硫酸塩を添加することで、重希土類元素と軽希土類元素の共沈殿物を効率的に形成させることができ、沈殿物となり難い重希土類元素をも一括して効果的に沈殿物とすることができ、高い回収率で希土類元素を回収することができる。なお、添加量の上限値としては、経済性の観点から硫酸イオン濃度として100g/L以下とすることが好ましい。
【0044】
また、添加するアルカリ金属硫酸塩としては、特に限定されないが、例えば硫酸ナトリウム(Na
2SO
4)、硫酸カリウム(K
2SO
4)等を用いることができる。その中でも、操作性が良好である等の利便性が高いという点から硫酸ナトリウムを用いることが好ましい。また、アルカリ金属硫酸塩は、固体状のものを添加することに限られず、所定の添加量となるように調整したアルカリ金属硫酸塩を含む水溶液を添加してもよい。
【0045】
希土類元素の回収方法では、種晶を、希土類硫酸塩(Ln
2(SO
4)
3)の形態で添加しても希土類の回収効果がほとんど無い。このため種晶は、希土類硫酸複塩の形態で用いる必要がある。希土類硫酸複塩を用いることで希土類元素を回収することが可能となる。
【0046】
種晶は、軽希土類の硫酸複塩(NaLn(SO
4)
2)の形態で希土類硫酸複塩沈殿物に含有される重希土類元素に対する軽希土類元素のモル比率が8以上であることが好ましい。モル比率を8以上とすることで、軽希土類元素との共沈効果により重希土類元素を高い回収率で回収することができる。モル比率が8未満であると共沈効果が不十分となり、重希土類元素を十分に回収できない。
【0047】
≪3.希土類元素の回収方法(種晶としての希土類硫酸複塩沈殿物の利用)≫
本実施の形態に係る希土類元素の回収方法においては、先ず、希土類元素の硫酸複塩生成反応の終了後、得られた硫酸複塩を含む溶液を希土類硫酸複塩沈殿物が沈降しない撹拌状態とし、所定量の希土類硫酸複塩沈殿物が含まれる溶液分以外を固液分離装置に通液させて回収する。次に、反応槽内でその所定量の希土類硫酸複塩沈殿物が含まれる溶液を静置して希土類硫酸複塩沈殿物を沈降させ、その後、上澄液を抜き取り希土類硫酸複塩沈殿物を反応槽内に残留させる。そして、先に、アルカリ金属硫酸塩を反応槽内に添加し、次に、希土類元素を含有する溶液を収容することにより硫酸複塩生成反応を行う。
【0048】
以下、希土類元素の回収方法の各工程について、
図1を参照しながら説明する。まず、硫酸複塩生成反応工程S1においては、アルカリ金属硫酸塩を添加し、希土類元素を含有する溶液を収容することに併せて、形成された希土類元素の希土類硫酸複塩沈殿物を種晶として共存させた状態で反応を行い、希土類元素の硫酸複塩を生成させる。
【0049】
<3−1.形成された希土類元素の希土類硫酸複塩沈殿物の回収>
図1に示す、希土類元素の硫酸複塩生成反応工程S1の終了後、生成された希土類硫酸複塩沈殿物を含有する硫酸複塩を含む溶液をその希土類硫酸複塩沈殿物が沈降しない撹拌状態とする撹拌工程S2へと移行する。この撹拌工程S2において、希土類硫酸複塩沈殿物が溶液中に均一に拡散している状態で、所定量の希土類硫酸複塩沈殿物が含まれる溶液以外の溶液は固液分離装置に通液させて回収工程S3へと移行する。
【0050】
この回収工程S3は、アルカリ金属硫酸塩の添加による硫酸複塩生成反応によって得られた希土類元素の希土類硫酸複塩沈殿物を回収する。本実施の形態においては、この希土類硫酸複塩沈殿物の回収にあたって、形成された全量を回収するのではなく、所定量の希土類硫酸複塩沈殿物を含む溶液を反応槽内に残し、それ以外を回収する。
【0051】
希土類元素の希土類硫酸複塩沈殿物を硫酸複塩生成反応により形成させていくと、その反応の進行に伴って次第に反応槽内に沈殿物が析出してくる。そのため、希土類硫酸複塩沈殿物の回収にあたっては、反応槽内に得られた溶液を希土類硫酸複塩沈殿物が沈降しない撹拌状態として、沈殿物をスラリー中に均一に分散させるようにする。そして、この撹拌状態のもとで、所定量の希土類硫酸複塩沈殿物が含まれる溶液分以外を固液分離装置に通液させて回収する。
【0052】
このように、硫酸複塩生成反応後の希土類硫酸複塩沈殿物が形成された溶液を撹拌状態として沈殿物を均一に分散させることで、後述するように種晶として残留させるべき沈殿物量を単純な溶液量として把握することができる。つまり、溶液中に沈殿物が均一に分散しているので、沈殿物量を溶液量に換算して判断することができ、種晶として共存させる所望の沈殿物量と反応後に新たな沈殿物が加わった後の合計沈殿物量との割合関係から、反応後に得られた溶液全量のうちの所定の割合を所望量の沈殿物が含まれる溶液分と判断することができる。そして、単純にその所定割合の溶液分を種晶として残留させる量の沈殿物を含む溶液として残し、それ以外の溶液分を固液分離装置に移送させるという簡易な操作で、ほぼ正確に所望とする量の沈殿物を反応槽内に残留させることができる。
【0053】
反応槽にアルカリ金属硫酸塩を添加しつつ実施する撹拌に関して、その撹拌強度については、特に限定されるものではないが、形成された希土類硫酸複塩沈殿物がその溶液中で沈降しない状態を維持して均一なスラリー状態とすることができる程度の強度で撹拌する。撹拌強度が弱すぎると、希土類元素回収の実施規模が拡大したことに伴う反応領域の不均一な状態が起こりやすくなるため効果が小さくなる。
【0054】
なお、撹拌強度に関しては、スラリーの濃度や組成、撹拌羽根の形状、反応槽内の溶液量、反応槽の形状等の様々な要因によって最適な強度が異なるため、何れの場合においても希土類硫酸複塩沈殿物が沈降しない状態を維持できる程度を基準として適宜設定すればよい。
【0055】
また、撹拌方法についても、特に限定されるものではなく、周知の撹拌装置を用いて希土類硫酸複塩沈殿物が沈降しない撹拌状態とすることができるものであればよい。
【0056】
硫酸複塩生成反応後の溶液を撹拌状態とすると、次に、この溶液のうちの、所定量の希土類硫酸複塩沈殿物が含まれる溶液分以外の溶液を固液分離装置に通液させて、その溶液中に含まれる希土類元素の希土類硫酸複塩沈殿物を固液分離して回収する。このようにすることで、固液分離装置に通液させた分の溶液に含まれていた希土類元素を希土類硫酸複塩沈殿物として回収する。
【0057】
ここで、本実施の形態においては、撹拌状態とした全溶液のうち、所定量の希土類硫酸複塩沈殿物が含まれる溶液分以外の溶液を固液分離装置に通液させて、所定量の希土類硫酸複塩沈殿物が含まれる溶液分を反応槽内に残しておくことが重要となる。
【0058】
「所定量の希土類硫酸複塩沈殿物が含まれる溶液分」とは、次回の硫酸複塩生成反応による希土類元素の回収処理に際して、種晶として作用させるために反応槽内に残留させておく所望とする量の希土類硫酸複塩沈殿物を含有する溶液分である。
【0059】
種晶として残留させておく希土類硫酸複塩沈殿物の量としては、特に限定されないが、反応槽内に収容されて回収処理対象となる希土類元素含有溶液に対して、反応初期のスラリー濃度で25g/L以上となる量を残留させることが好ましく、50g/L程度となる量を残留させることがより好ましい。
【0060】
このことから、回収処理対象となる希土類元素含有溶液に対して、好ましくは25g/L以上、より好ましくは50g/L程度のスラリー濃度となる量の希土類硫酸複塩沈殿物を反応槽内に共存させて反応を開始することができるように、その量に相当する沈殿物が含まれる溶液分を反応槽内に残留させ、それ以外の溶液分を固液分離装置に通液させて回収する。なお、上述のように、種晶としての希土類硫酸複塩沈殿物は、スラリー濃度50g/Lであっても約1時間という極めて短時間の反応時間となる効果を奏する。一方で、スラリー濃度が増加するに従って、その反応時間の短縮効果は少なくなるとともに、後述するセトリングに必要な時間が延びる可能性がある。したがって、種晶としての希土類硫酸複塩沈殿物のスラリー濃度上限値としては、例えば100g/L以下、好ましくは75g/L以下とする。
【0061】
ここで具体的に、反応槽内に残留させる溶液分と、それ以外の固液分離装置に通液させる溶液分の量の算出例を以下に示す。
【0062】
例えば、大規模レベルの反応槽に3000Lの希土類元素含有溶液を収容し、アルカリ金属硫酸塩である硫酸ナトリウム(Na
2SO
4)を所定濃度に溶解した溶液3000Lを添加して混合し、その溶液に対するスラリー濃度で50g/Lの希土類元素の希土類硫酸複塩沈殿物を種晶として共存させて硫酸複塩生成反応を行う場合を仮定する。
【0063】
この反応条件の場合、種晶の添加量としては、(3000L+3000L)×50g/L=300,000g[dry](300kg[dry])となる。そして、この反応槽における処理で回収される希土類硫酸複塩沈殿物の水分率を約30重量%と仮定して、その水分率を考慮すると種晶の添加量としては、300kg/(100−30)×100=428kg[wet]となる。すなわち、428kg[wet]が種晶としての希土類硫酸複塩沈殿物の量として望ましいということになる。
【0064】
次に、この添加量の沈殿物を種晶として共存させた状態で硫酸複塩生成反応を生じさせると、共存させておいた428kg[wet]の沈殿物に、反応によって新たに形成される沈殿物量である171kg[wet](処理対象となる溶液の組成に基づいて算出)が加わることになり、反応終了後の沈殿物量としては600kg[wet]となる。
【0065】
上述のように、種晶をスラリー濃度で50g/Lの割合で共存させるために、428kg[wet]の沈殿物を残留させておきたいことから、反応終了後に抜き取るべき沈殿物量、すなわち固液分離装置にて固液分離して回収すべき沈殿物量としては171kg[wet]となり、その量は反応終了後の沈殿物全体の約1/3(171kg[wet]/600kg[wet]×100≒29重量%)となる。
【0066】
本実施の形態においては、上述したように、所定量の希土類硫酸複塩沈殿物が含まれる溶液分以外を固液分離装置に通液させるに際して、反応終了後の溶液に対して強い撹拌を行って沈殿物が均一に分散したスラリーの状態(撹拌状態)としている。そのため、硫酸複塩生成反応が終了した後の溶液のうちの約1/3を固液分離装置に通液させる溶液分として、残りの約2/3を所定量の希土類硫酸複塩沈殿物が含まれる溶液分として反応槽に残留させることで、上述のように算出された428kg[wet]の希土類硫酸複塩沈殿物を種晶として反応槽内に残留させることが可能となる。
【0067】
なお、上述した算出例は一例であり、残留させる溶液量及び固液分離装置を介して回収する溶液量を決定するにあたっては、例えば、使用する反応槽の規模や、希土類元素の回収処理対象となる希土類元素含有溶液の組成(含まれる希土類元素の量)、所望とする種晶のスラリー濃度等に応じて、適宜算出することが好ましい。
【0068】
希土類硫酸複塩沈殿物を回収するために用いる固液分離装置としては、特に限定されるものではなく、例えばフィルタープレス、スクリュープレス、遠心分離機等の周知の装置を用いることができる。その中でも、固液分離をより高効率に行うことができるという点でフィルタープレスを用いることが好ましい。
【0069】
なお、形成された希土類硫酸複塩沈殿物を含むスラリーを固液分離装置に移送させるにあたっては、例えば反応槽に接続された配管を介しポンプ等を用いて吸引して移送させるようにすることができる。また、反応槽の下部にバルブで開閉制御可能な抜き取り口を設け、その抜き取り口を介して固液分離装置に移送させるようにしてもよい。このように反応槽下部から所定量を抜き取るようにした場合でも、溶液を撹拌状態とした上で移送させているため、所望とする量以上に沈殿物が排出されてしまう等の心配はない。
【0070】
また、固液分離装置に移送するにあたっては、フロート式レベル計、超音波レベル計等の液レベル計を反応槽に設けて、反応槽内における溶液の液レベルを監視して移送させる量を正確に把握できるようにしてもよい。
【0071】
<3−2.残留させた希土類硫酸複塩沈殿物のセトリング>
次に、反応槽内に残留させた所定量の希土類硫酸複塩沈殿物を含む溶液は、
図1のセトリング・上澄除去工程S4へと移行する。すなわち、セトリング・上澄除去工程S4では、反応槽内に残留させた所定量の希土類硫酸複塩沈殿物を含む溶液は、そのまま静置され、所定時間保持することによって希土類硫酸複塩沈殿物を沈降させる。その後、希土類硫酸複塩沈殿物が沈降分離して得られた上澄液を抜き取り、希土類硫酸複塩沈殿物を反応槽内に残留させる。
【0072】
撹拌工程S2及び回収工程S3では、硫酸複塩生成反応後の溶液を撹拌した状態で、種晶として共存させるべき所定量の希土類硫酸複塩沈殿物を含む溶液分を固液分離装置に移送させずに反応槽内に残留させている。そのため、反応槽内には、種晶となる沈殿物と共に水溶液も含まれている。そこで、セトリング・上澄除去工程S4では、反応槽内に残留させた希土類硫酸複塩沈殿物を含む溶液を静置させて所定時間保持することによって、沈殿物を沈降(セトリング)させる。
【0073】
このように、所定量の希土類硫酸複塩沈殿物を含む溶液を反応槽内に残留させた後に、その溶液を所定時間静置させて保持することにより、溶液中の希土類硫酸複塩沈殿物が徐々に沈降して反応槽の底部に析出していき、溶液は清澄液となる。そして、このように沈殿物を沈降させると、次に、上部に存在する清澄液(上澄液)のみを抜き取り、希土類硫酸複塩沈殿物を反応槽内に残留させるようにする。
【0074】
ここで、反応槽内の上澄液の抜き取り方法については、使用する装置等を含めて特に限定されるものではなく、上澄液のみを抜き取って反応槽内に希土類硫酸複塩沈殿物を残留させることができる方法であればよい。このとき、沈降させた希土類硫酸複塩沈殿物が上澄液中に巻き上がらないようにして上澄液のみを抜き取ることが好ましい。
【0075】
上澄液の抜き取り方法の一例としては、例えば
図2に示すように、反応槽10Aの上方より昇降可能な液抜きノズル20を挿入し、希土類硫酸複塩沈殿物11が沈降分離して得られた上澄液12を吸引可能な高さレベルまで液抜きノズル20を降下させていき、その液抜きノズル20を介してポンプ等によって上澄液12を吸引して抜き取る方法が挙げられる。
【0076】
また、上澄液の抜き取り方法の他の例として、例えば
図3に示すように、反応槽10B
の壁面の高さ方向にバルブ30a,30b,30c・・・(以下、符号は30とする)に
より抜き取り制御可能な複数の液抜き口31a,31b,31c・・・(以下、符号は3
1とする)を設けておき、最終的に抜き取りたい上澄液12の液レベルまでの液抜き口3
1のバルブ30を全て開放することによって上澄液12を抜き取る方法が挙げられる。
【0077】
また、上澄液を抜き取るにあたっては、より高い精度で抜き取りを可能にするために、フロート式レベル計、超音波レベル計等の液レベル計を反応槽に設けて、上澄液の液レベルを監視しながら抜き取るようにしてもよい。
【0078】
なお、抜き取った上澄液には、希土類硫酸複塩沈殿物が一部混入している可能性がある。そのため、希土類元素の回収率を向上させる観点からも、その抜き取った上澄液をフィルタープレス等の固液分離装置に通液させ、混入した希土類硫酸複塩沈殿物を回収することが好ましい。このことから、上述した上澄液の抜き取りに際して使用する装置は、フィルタープレス等の固液分離装置に連続的に通液可能に構成されたものであることが操業効率の観点からより好ましい。
【0079】
このようにして希土類硫酸複塩沈殿物を沈降させた後に上澄液を抜き取ると、ほぼ希土類硫酸複塩沈殿物のみからなる濃厚な沈殿物が反応槽内に残留した状態となる。この残留した希土類硫酸複塩沈殿物は、固液分離装置に通液させずに残留させた溶液に含まれていたものであり、上述のようにして算出された種晶として使用するにあたって所望とする量の沈殿物である。
【0080】
<3−3.希土類硫酸複塩沈殿物の共存下での硫酸複塩生成反応>
希土類硫酸複塩沈殿物を反応槽内に残留させると、反応槽に残留させた希土類硫酸複塩沈殿物を種晶として共存させた状況下で、アルカリ金属硫酸塩を添加し、スラリー生成工程S5へと移行する。生成したスラリーに対して、新たな回収処理対象となる希土類元素含有溶液を反応槽に収容して硫酸複塩生成反応を行う。すなわち、硫酸複塩生成反応工程S1から再度工程を繰り返すことができる。
【0081】
図4は、軽希土類と重希土類を含有する硫酸水溶液に一定濃度以上のアルカリ金属硫酸塩水溶液を加えた場合の反応を表した図である。希土類元素は軽希土類元素と重希土類元素とに分類することができるが、
図4に示すように、軽希土類と重希土類を含有する硫酸水溶液に、種晶を存在させることなく、一定濃度以上のアルカリ金属硫酸塩水溶液を加えた場合、重希土類を分離回収する為の共沈剤としての希土類硫酸複塩の必要量が低下したり、共沈効果が低下したりすることになるという問題が発生する。
【0082】
図5は、軽希土類と重希土類を含有する硫酸水溶液に一定濃度以上の希土類アルカリ硫酸複塩の種晶を含有した一定濃度以上のアルカリ金属硫酸塩水溶液を加えた場合の反応を表した図である。
図5に示すように、軽希土類と重希土類を含有する硫酸水溶液に一定濃度以上の希土類アルカリ硫酸複塩の種晶を含有した一定濃度以上のアルカリ金属硫酸塩水溶液を加えた場合、軽希土類アルカリ硫酸複塩の結晶と共に高い回収率で重希土類も分離回収できる。このように、硫酸複塩生成反応を行う際には種晶を共存させた状態で反応を行うことが重要となる。
【0083】
反応槽に残留した希土類硫酸複塩沈殿物は、撹拌工程S2及び回収工程S3において、硫酸複塩生成反応に際してのスラリー濃度として例えば25g/L以上となるようにして残留させたものである。このため、これを種晶として共存させた状態で新たな処理対象となる希土類元素含有溶液に対して硫酸複塩生成反応を行うことによって、希土類元素の沈殿物化を促進させることができる。このときの種晶として用いる希土類硫酸複塩沈殿物に含有される重希土類元素に対する軽希土類元素のモル比率が8以上であることが好ましい。モル比率を8以上とすることで、軽希土類元素との共沈効果により重希土類元素を高い回収率で回収することができる。
【0084】
なお、希土類元素の硫酸複塩生成反応については、上記2.において詳細に説明した内容と同様であるため、ここでの説明は省略する。
【0085】
硫酸複塩生成反応においては、希土類硫酸複塩沈殿物にアルカリ金属硫酸塩を添加したスラリーを撹拌しつつ、該スラリー温度を60℃まで昇温して3時間以上保持した後に、希土類元素を含有する溶液を収容することにより硫酸複塩生成反応を行うことが好ましい。
【0086】
なお、実操業の現場においては、操業時間は重要な管理指標であるが、例えば、反応槽が6m
3以上の規模であっても、3時間以上という手順を踏めば、その他の状況変化、例えば操業環境としての気温変化、反応槽内のスケール発生などによる変動を吸収できる。
【0087】
硫酸複塩生成反応は、希土類元素を含む硫酸溶液を添加する前に、スラリー温度を60℃まで昇温し3時間以上保持する状態とすることで反応領域の不均一な状態が起こるおそれが一層小さくなる。
【0088】
また、硫酸複塩生成反応は、希土類硫酸複塩沈殿物の種晶に、アルカリ金属硫酸塩を含む溶液を添加してスラリーとし、希土類元素を含む硫酸水溶液を収容すると、硫酸複塩の形態が変化せず、これにより、高い回収率で安定して希土類元素を回収することができる。
【0089】
以上詳述したように、本実施の形態に係る希土類元素の回収方法は、希土類元素を効率的に回収除去することを目的として希土類元素の希土類硫酸複塩沈殿物を種晶として共存させるにあたり、希土類元素の硫酸複塩生成反応が終了した後に、得られた溶液を撹拌状態として、形成された希土類硫酸複塩沈殿物を回収する一方で、その内の所定量の希土類硫酸複塩沈殿物を反応槽内に残留させる。そして、この残留分を種晶として共存させた状態で、アルカリ金属硫酸塩を含む溶液を添加し、その後新たな希土類元素を含有する溶液に対する硫酸複塩生成反応を行う。
【0090】
このような方法によれば、本実施の形態に係る希土類元素の回収方法は、反応領域の不均一な状態が起こるおそれを小さくし、高い回収率で安定して希土類元素を回収することを可能にする。また、希土類元素の希土類硫酸複塩沈殿物を種晶として効率的にかつ高い安全性で以って有効に希土類元素の回収を行うことができる。さらに、重希土類元素は、種晶として用いる希土類硫酸複塩沈殿物に含有される重希土類元素に対する軽希土類元素のモル比率が8以上とすることで、軽希土類元素との共沈効果により高い回収率で回収することができる。このような希土類元素の回収方法は、例えば、ニッケル水素電池からの希土類回収において、より希土類元素回収の実施規模が大きく、コストダウンできる。
【0091】
≪4.他の有価金属の回収方法への適用≫
上述した実施の形態においては、希土類元素を回収する処理を例示して説明したが、他の有価金属を種晶の存在下で沈殿物として回収処理においても有効に適用することできる。
【0092】
具体的には、例えばニッケル(Ni)、コバルト(Co)、リチウム(Li)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、鉛(Pb)等の有価金属を含有する硫酸溶液や塩酸溶液に、その有価金属の沈殿物を種晶として共存させた状態で、所定の薬剤を添加して有価金属の沈殿物生成反応を生じさせる回収処理方法においても好適に用いることができる。このような有価金属の回収処理においても、上述と同様な方法によって、得られた沈殿物を種晶として効率的に用いることを可能にし、高い回収率でその有価金属を回収することができる。
【0093】
すなわち、先ず、有価金属の沈殿物生成反応の終了後に、得られた溶液をその有価金属の沈殿物が沈降しない撹拌状態とした上で、所定量の沈殿物が含まれる溶液分以外を固液分離装置に通液させて回収する。次に、反応槽内でその所定量の沈殿物が含まれる溶液を静置して沈殿物を沈降させ、その後、上澄液を抜き取り沈殿物を反応槽内に残留させる。そして、反応槽内に残留させた沈殿物を種晶として共存させた状態で、所定の薬剤を添加した後に、有価金属を含有する溶液を収容し、その有価金属の沈殿物生成反応を行う。
【実施例】
【0094】
≪5.実施例≫
以下、本発明を適用した具体的な実施例について説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0095】
実施例および比較例において共通する条件として、反応槽の容量を10m
3とした。アルカリ金属硫酸塩は硫酸ナトリウムを用い、濃度は180g/Lとし、添加量は3000Lとした。希土類元素を含む硫酸溶液の主な希土類組成は、La(ランタン)=10〜15g/L、Ce(セリウム)=1〜10g/L、Y(イットリウム)=0.1〜5g/Lとした。希土類元素を含む硫酸溶液の硫酸イオン濃度は300g/Lとし、液量は3000L用意した。さらに、反応槽に残留させたスラリー濃度は50〜100g/Lとした。
【0096】
[実施例1]
実施例1では、反応槽に残留させたスラリーに、まず、アルカリ金属硫酸塩を添加したのちに、希土類元素を含む硫酸溶液を反応槽に収容し、硫酸複塩生成反応をさせた。
【0097】
次に、反応終了後に得られた反応槽内の溶液を撹拌機により強撹拌して沈殿物が沈降せず均一に分散した状態を維持したまま、溶液をフィルタープレスへ送液した。フィルタープレスに通液させた分は、固液分離処理を行うことによって希土類元素を希土類硫酸複塩沈殿物として回収した。
【0098】
その結果、希土類は硫酸溶液から好適に分離され、たとえば、イットリウムについては、沈殿物中の量:処理後の液中に残留した量=69〜73:31〜27と高い回収率であった。La,Ceは、どちらもほぼ100:0とほぼ完全に分離できた。
【0099】
[比較例1]
比較例1では、反応槽に残留させたスラリーを撹拌しながら、まず、希土類元素を含む硫酸溶液を反応槽に収容したのちに、アルカリ金属硫酸塩を添加し、硫酸複塩生成反応をさせた。
【0100】
次に、反応終了後に得られた反応槽内の溶液を撹拌機により強撹拌して沈殿物が沈降せず均一に分散した状態を維持したまま、溶液をフィルタープレスへ送液した。フィルタープレスに通液させた分は、固液分離処理を行うことによって希土類元素を希土類硫酸複塩沈殿物として回収した。
【0101】
その結果、希土類の分離は不十分であり、La,Ceは、どちらもほぼ100:0と完全に分離できたものの、イットリウムについては、沈殿物中の量:処理後の液中に残留した量=31〜45:69〜55と低い回収率に留まった。
【0102】
[比較例2]
比較例2では、種晶としての希土類硫酸複塩沈殿物に希土類硫酸塩が含まれており、希土類硫酸複塩沈殿物の量が共沈に必要な量に達していなかったこと以外は、比較例1と同様に希土類元素の回収を行った。
【0103】
その結果、希土類の分離は不十分であり、イットリウムについては、沈殿物中の量:処理後の液中に残留した量=53:47と低い回収率に留まった。
【0104】
表1に実施例1、比較例1及び比較例2の条件で行った、重希土類元素であるイットリウムの回収率についての結果を示す。実施例1を適用したサンプル1及びサンプル2は、比較例1を適用したサンプル3〜6及び比較例2を適用したサンプル7に比べて高い回収率で重希土類元素であるイットリウムを回収できていることが分かる。
【0105】
【表1】
【0106】
[実施例2]
実施例2では、種晶濃度を0、25、50、100g/Lとして実施例1と同様に、重希土類元素の回収を行った。その際の重希土類元素に対する軽希土類元素のモル比と、イットリウムの回収率との関係を、表2及び
図6に示す。
【0107】
【表2】
【0108】
表2及び
図6の結果からもわかるように、イットリウムは、モル比がおよそ6を超えると回収率が90%を超え、8以上であればより高い回収率でイットリウムを回収できることが分かる。
【0109】
以上のとおり、本発明を適用すれば、例えば、10m
3のような希土類元素回収の実施規模が拡大したことに伴う反応領域の不均一な状態が発生しにくくなり、すなわち、高い回収率で安定して希土類元素の回収ができるため、希土類元素回収の実施規模を拡大する際に良好な費用対効果を享受することができる。また、重希土類元素は、種晶として用いる希土類硫酸複塩沈殿物に含有される重希土類元素に対する軽希土類元素のモル比率が8以上とすることで、軽希土類元素との共沈効果により高い回収率で回収することができる。