(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
数Gbit/s以上の高速デジタル信号を扱うサーバ,ルータ,ストレージなどの機器においては、差動インターフェース規格(例えば、LVDS(Low Voltage Differential Signal))が採用され、各機器間あるいは機器内の各回路基板間では、差動信号伝送用ケーブルを用いて差動信号の伝送が行われている。差動信号は、システム電源の低電圧化を実現しつつ外来ノイズに対する耐性が高いという利点を有している。
【0003】
一般的な差動信号伝送用ケーブルは、平行に並べられた一対の信号線導体と、これら信号線導体の周囲に設けられた絶縁体と、絶縁体の周囲に巻かれたシールドテープと、シールドテープの周囲に巻かれた押さえテープと、を備えている。すなわち、2本の信号線導体は絶縁体によって一括被覆されている。それぞれの信号線導体には、位相を180度反転させたプラス側(ポジティブ)信号およびマイナス側(ネガティブ)信号がそれぞれ伝送される。これらの2つの信号(プラス側信号およびマイナス側信号)の電位差が信号レベルとなって、例えば電位差がプラスであれば「High」,マイナスであれば「Low」として、当該信号レベルを受信側で認識できるようになっている。
【0004】
ここで、一対の信号線導体を一括被覆する絶縁体は、一対の信号線導体の周囲に発泡絶縁材料を押出し被覆して形成される(特許文献1)。具体的には、予熱された2本の信号線導体が被覆装置の押出ヘッドの内部に導入される。押出ヘッドは、口金と該口金の内側に配置された心金とからなる二重構造を備えている。心金の中心には貫通孔が設けられており、心金と口金との間には心金の全周に亘って隙間が設けられている。すなわち、貫通孔の周囲に環状の供給路が設けられている。
【0005】
差動信号伝送用ケーブルの製造工程では、予熱された2本の信号線導体を心金の貫通孔を通して心金の外に送り出しつつ、送り出される信号線導体の周囲に供給路を通して発泡絶縁材料を吐出させて、2本の信号線導体を一括被覆する絶縁体(絶縁層)が形成される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のように、差動信号伝送用ケーブルの製造方法には、信号線導体の周囲に発泡絶縁材料を押出して絶縁体を形成する工程(以下“被覆工程”と呼ぶ。)が含まれる。しかし、かかる被覆工程において形成される絶縁体の均一性が低いと、差動信号伝送用ケーブルの伝送特性が悪くなる。特に、一方の信号線導体の周囲における気泡の直径と他方の信号線導体の周囲における気泡の直径とが異なると、スキュー(Skew)が著しく増加する。
【0008】
本発明の目的は、信号線導体の周囲に形成される絶縁体の均一性を向上させることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る製造方法は、一対の信号線導体と、発泡絶縁材料により形成され、前記一対の信号線導体を一括被覆する絶縁体と、を備える差動信号伝送用ケーブルの製造方法である。本発明の一態様では、前記一対の信号線導体の周囲に前記発泡絶縁材料を押し出す被覆工程において、前記一対の信号線導体の温度差が10℃以内に維持される。
【0010】
本発明の他の態様では、前記被覆工程における前記一対の信号線導体の温度差が10℃以内に維持されるように、前記被覆工程に先立って前記一対の信号線導体を加熱する予熱工程が行われる。
【0011】
本発明の他の態様では、前記予熱工程において、前記一対の信号線導体の温度差に基づいて、一方の信号線導体に対する加熱温度と他方の信号線導体に対する加熱温度の少なくとも何れか一方が調節される。
【0012】
本発明に係る差動信号伝送用ケーブルは、一対の信号線導体と、発泡絶縁材料により形成され、前記一対の信号線導体を一括被覆する絶縁体と、を備える。さらに、一方の信号線導体の周囲における前記絶縁体の発泡度を第1発泡度とし、他方の信号線導体の周囲における前記絶縁体の発泡度を第2発泡度としたとき、長手方向の異なる2以上の領域において、前記第1発泡度と前記第2発泡度との差が5.0%以内である。
【0013】
本発明の他の態様では、任意の長さに切断された前記差動信号伝送用ケーブルの一方の端面を含む第1領域および他方の端面を含む第2領域において、前記第1発泡度と前記第2発泡度との差が5.0%以内である。
【0014】
本発明の他の態様では、前記一方の信号線導体のキャパシタンスと前記他方の信号線導体のキャパシタンスとの差が1.0%以内である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、信号線導体が均一性の高い絶縁体によって被覆された差動信号伝送用ケーブルが実現される。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態の一例について図面を参照しながら詳細に説明する。
図1に示される差動信号伝送用ケーブル1Aは、一対の信号線導体2a,2bと、これら信号線導体2a,2bを一括被覆する絶縁体3と、絶縁体3を被覆するスキン層4と、スキン層4を被覆するシールド層5と、シールド層5を被覆する押さえテープ6と、を有する。
【0018】
一対の信号線導体2a,2bのそれぞれは、表面に銀めっき処理が施された円形断面の軟銅線(Silver Plated Copper Wire)である。一対の信号線導体2a,2bのいずれか一方にはプラス側(ポジティブ)信号が伝送され、一対の信号線導体2a,2bのいずれか他方にはマイナス側(ネガティブ)信号が伝送される。
【0019】
絶縁体3は発泡絶縁材料によって形成されており、絶縁体3には多数の気泡が含まれている。絶縁体3は、2本の信号線導体2a,2bが所定間隔で平行に並ぶように、これら信号線導体2a,2bを保持している。また、それぞれの信号線導体2a,2bの周囲における絶縁体3の肉厚は略同一である。
【0020】
絶縁体3の周囲に設けられているスキン層4は、発泡していない薄膜又は絶縁体3に比べて発泡度が小さい薄膜である。スキン層4の材料としては、例えば、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA),テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP),エチレン・テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)などを用いることができる。もっとも、スキン層4の材料は特定の材料に限定されるものではない。
【0021】
スキン層4の周囲に設けられているシールド層5は、スキン層4の周囲に巻き付けられたシールドテープによって形成されている。図示は省略されているが、シールドテープは、シート状の基材と該基材の一面に形成された金属導体層とからなる二重構造を有しており、金属導体層は、例えば銅箔やアルミニウム箔によって形成される。
【0022】
シールド層5を形成しているシールドテープは、金属導体層を内側にしてスキン層4の周囲に縦添え巻きされている。よって、シールドテープの両端部は互いに重なり合っている。もっとも、螺旋巻き(横巻き)されたシールドテープによってシールド層5が形成される実施形態もある。また、シールドテープが金属導体層を外側にしてスキン層4の周囲に縦添え巻きされ、または螺旋巻き(横巻き)される実施形態もある。
【0023】
シールド層5の周囲には、シールドテープを保持するための押さえテープ6が螺旋状に巻かれている。さらに、押さえテープ6の周囲にはジャケット(“シース”と呼ばれることもある。)が設けられている。ジャケットの材料としては、ポリエチレン,ポリプロピレン,ポリ塩化ビニル,エチレン−酢酸ビニル共重合体,フッ素樹脂,ハロゲンフリー難燃ポリオレフィン,軟質塩化ビニル樹脂などを用いることができる。
【0024】
図1に示される差動信号伝送用ケーブル1Aは後述する製造方法によって製造されており、絶縁体3は高い均一性を備えている。具体的には、差動信号伝送用ケーブル1Aの長手方向(Z方向)において、絶縁体3の発泡度のバラツキが小さい。換言すれば、本実施形態に係る差動信号伝送用ケーブル1Aでは、信号線導体2aの周囲における絶縁体3の発泡度と信号線導体2bの周囲における絶縁体3の発泡度との差が所定範囲内に保たれている。“発泡度”とは、絶縁体3の任意の断面の面積と、その断面中の気泡の面積との比率である。
【0025】
ここで、
図2に示されるように、信号線導体2aの中心と信号線導体2bの中心とを結ぶ直線を“直線S1”と定義する。また、直線S1の中点において該直線S1と直交する直線を“直線S2”と定義する。以下の説明では、直線S1,S2を含む差動信号伝送用ケーブル1Aの断面を“横断面”と呼ぶ。また、直線S1を含む差動信号伝送用ケーブル1Aの断面を“水平断面”と呼ぶ。さらに、直線S2を含む差動信号伝送用ケーブル1Aの断面を“垂直断面”と呼ぶ。
【0026】
すなわち、
図2に示されている断面は、差動信号伝送用ケーブル1Aの横断面の1つである。また、
図3に示されている断面は、差動信号伝送用ケーブル1Aの水平断面の1つである。さらに、
図4に示されている断面は、差動信号伝送用ケーブル1Aの垂直断面の1つである。換言すれば、差動信号伝送用ケーブル1Aの横断面は、差動信号伝送用ケーブル1Aの長手方向(Z方向)に対して直角な断面である。一方、差動信号伝送用ケーブル1Aの水平断面及び垂直断面は、差動信号伝送用ケーブル1Aの長手方向(Z方向)に対して平行な断面である。さらに、差動信号伝送用ケーブル1Aの水平断面と垂直断面とは、互いに直交する断面である。
【0027】
また、差動信号伝送用ケーブル1Aの横断面は、差動信号伝送用ケーブル1Aの長手方向(Z方向)に沿って多数存在する。一方、差動信号伝送用ケーブル1Aの水平断面は、
図3に示されている断面及び該断面と対向する断面の2つである。また、差動信号伝送用ケーブル1Aの垂直断面は、
図4に示されている断面及び該断面と対向する断面の2つである。
【0028】
上述のように、本実施形態に係る差動信号伝送用ケーブル1Aでは、信号線導体2aの周囲における絶縁体3の発泡度と信号線導体2bの周囲における絶縁体3の発泡度との差が所定範囲内に保たれている。ここで、信号線導体2aの周囲における絶縁体3とは、
図2に示される直線S2を含む平面によって絶縁体3を二分したときに、すなわち、
図4に示されるように絶縁体3を二分したときに、信号線導体2aの周囲に残る絶縁体3の一部(絶縁体3の半分)を意味する。一方、信号線導体2bの周囲における絶縁体3とは、
図2に示される直線S2を含む平面によって絶縁体3を二分したときに、すなわち、
図4に示されるように絶縁体3を二分したときに、信号線導体2bの周囲に残る絶縁体3の他の一部(絶縁体3の他の半分)を意味する。すなわち、
図2において、直線S2よりも左側に位置する絶縁体3の一部が信号線導体2aの周囲の絶縁体3であり、直線S2よりも右側に位置する絶縁体3の他の一部が信号線導体2bの周囲の絶縁体3である。そこで、以下の説明では、信号線導体2aの周囲の絶縁体3を“左側絶縁体3a”と呼び、信号線導体2bの周囲の絶縁体3を“右側絶縁体3b”と呼ぶ。また、左側絶縁体3aの発泡度を“第1発泡度”と呼び、右側絶縁体3bの発泡度を“第2発泡度”と呼ぶ。すなわち、本実施形態に係る差動信号伝送用ケーブル1Aでは、第1発泡度と第2発泡度との差が所定範囲内に保たれている。具体的には、差動信号伝送用ケーブル1Aの長手方向(Z方向)の異なる2以上の領域において、第1発泡度と第2発泡度との差が5.0%以内に保たれている。尚、
図2〜
図4では、
図1に示されている押さえテープ6の図示は省略されている。
【0029】
従って、本実施形態に係る差動信号伝送用ケーブル1Aを任意の長さに切断したとき、切り出された差動信号伝送用ケーブル1Aの一部の一端部における第1発泡度と第2発泡度との差は5.0%以内であり、かつ、切り出された差動信号伝送用ケーブル1Aの一部の他端部における第1発泡度と第2発泡度との差も5.0%以内である。以下、
図5(a),(b)を参照しながら具体的に説明する。
【0030】
図5(a)に示されるように、差動信号伝送用ケーブル1Aを任意の長さに切断する。
図5(a)では、差動信号伝送用ケーブル1Aの切断位置を2本の破線によって示してある。また、以下の説明では、任意の長さに切り出された差動信号伝送用ケーブル1Aの一部を“サンプル1a”と呼ぶ。すなわち、
図5(a)に示されるサンプル1aの両端部において、第1発泡度と第2発泡度との差が5.0%以内に保たれている。
【0031】
図5(b)を参照しつつ、より具体的に説明する。
図5(b)は、サンプル1aの水平断面を示す拡大図である。
図5(b)に示されるサンプル1aの長さ(L)は10cmである。また、サンプル1aの一方の端部(第1領域11)は、サンプル1aの一方の端面12を含む、該端面12から0.5cmの範囲内の部分である。また、サンプル1aの他方の端部(第2領域21)は、サンプル1aの他方の端面22を含む、該端面22から0.5cmの範囲内の部分である。すなわち、第1領域11の長さ(L1)及び第2領域21の長さ(L2)は、0.5cmである(L1=L2)。
【0032】
図5(b)に示されるように、サンプル1aの第1領域11では、左側絶縁体3a及び右側絶縁体3bに、直径が略同一の多数の気泡30が略均一に含まれている。同様に、サンプル1aの第2領域21では、左側絶縁体3a及び右側絶縁体3bに、直径が略同一の多数の気泡30が略均一に含まれている。具体的には、
図5(b)に示されている第1領域11における左側絶縁体3aと右側絶縁体3bの発泡度の差は5.0%以内である。また、
図5(b)に示されている第2領域21における左側絶縁体3aと右側絶縁体3bの発泡度の差も5.0%以内である。
【0033】
ここで、各領域における発泡度は次のようにして求めた。まず、
図5(b)に示されているサンプル1aの水平断面を電子顕微鏡によって撮影する。次に、サンプル1aに含まれる絶縁体3の発泡度を該絶縁体3の比重測定によって求める。測定方法は、JIS Z 8807:2012「固体の密度及び比重測定方法」に従う。次いで、撮影した画像を白黒に2値化し、サンプル1aの水平断面を気泡30の部分と気泡壁の部分(気泡30ではない部分)とに分ける。白黒の比率は、測定した発泡度に合わせる。その後、画像中の白の部分と黒の部分の面積(画素数)を求めて、次式により水平断面内における発泡度を算出する。
発泡度=B/(A+B)×100(%)
A:気泡壁画素数(黒)
B:気泡画素数(白)
以上のようにして、第1領域11における左側絶縁体3aと右側絶縁体3bの発泡度を算出して比較する。同様にして、第2領域21における左側絶縁体3aと右側絶縁体3bの発泡度を算出して比較する。
【0034】
以上のように、本実施形態に係る差動信号伝送用ケーブル1Aでは、長手方向(Z方向)における絶縁体3の発泡度のバラツキが所定範囲内に保たれている。よって、一方の信号線導体2aのキャパシタンスと他方の信号線導体2bのキャパシタンスとの差が1.0%以内に保たれる。この結果、本実施形態に係る差動信号伝送用ケーブル1Aは良好な伝送特性を備えており、該差動信号伝送用ケーブル1Aを用いた差動伝送ではスキュー(Skew)の増加が抑制される。
【0035】
次に、本実施形態に係る差動信号伝送用ケーブル1Aの製造方法について説明する。差動信号伝送用ケーブル1Aの製造方法は、一対の信号線導体2a,2bを加熱する予熱工程と、予熱された信号線導体2a,2bの周囲に絶縁体3を形成する被覆工程と、を少なくとも含む。
【0036】
被覆工程は、例えば
図6(a)に示される被覆装置40を用いて行われる。図示されている被覆装置40は、押出ヘッド50と、発泡絶縁材料を押出ヘッド50に供給する供給機構60と、を備えている。
【0037】
図6(a)に示されるように、供給機構60は、発泡絶縁材料31が投入されるホッパ61と、ホッパ61及び押出ヘッド50にそれぞれ連通するシリンダ62と、シリンダ62内で回転するスクリュ63と、を備えている。一方、
図6(b)に示されるように、押出ヘッド50は、口金51と該口金51の内側に配置された心金52とからなる二重構造を備えている。心金52は、略円錐形の形状を有し、その中心には貫通孔(不図示)が設けられている。また、口金51と心金52との間には、心金52の全周に亘って隙間53が設けられている。すなわち、心金52の周囲に環状の供給路53が設けられている。
【0038】
図6(a)に示されるように、ペレット状に成形された発泡絶縁材料31が供給機構60のホッパ61に投入される。ここで、発泡絶縁材料31は、樹脂材料と化学発泡剤を含む。樹脂材料としては、例えばポリオレフィンを用いることができる。具体的には、低密度ポリエチレン,高密度ポリエチレン,直鎖状低密度ポリエチレン,超低密度ポリエチレン,エチレン−ヘキセン共重合体,エチレン−オクテン共重合体,エチレン−酢酸ビニル共重合体,エチレン−エチルアクリレート共重合体,エチレン−メチルアクリレート共重合体,エチレン−メチルメタクリレート共重合体,ポリプロピレン,エチレン共重合体ポリプロピレン,リアクタブレンド型ポリプロピレン,シクロオレフィンポリマ,ポリ−4−メチル−1−ペンテンが挙げられる。これら樹脂材料は単独で用いてもよく、2種以上をブレンドして用いてもよい。
【0039】
一方、化学発泡剤としては、アゾジカルボンアミド,アゾビスイソブチロニトリル,バリウムアゾジカルボキシレート,ジニトロソペンタメチレンテトラミン,4,4’−オキシビス(ベンゼンスルホニルヒドラジッド),N,N’−ジニトロソペンタメチレンテトラミン,ベンゼンスルホニルヒドラジッド,ビステトラゾール・ジアンモニウム,ビステトラゾール・ピペラジン,5−フェニールテトラゾールなどの有機系化学発泡剤が挙げられる。また、化学発泡剤としては、炭酸塩,重炭酸塩,亜硝酸塩,水素化物などの無機系化学発泡剤が挙げられる。さらに、化学発泡剤としては、酸化亜鉛,酸化マグネシウムなどの金属酸化物,脂肪酸塩,無機亜鉛化合物,有機亜鉛化合物,尿素系化合物,有機酸,アミン化合物などの発泡助剤が挙げられる。これら化学発泡剤は単独で用いてもよく、2種以上をブレンドして用いてもよい。
【0040】
図6(a)に示されるように、ホッパ61に投入されたペレット状の発泡絶縁材料31は、シリンダ62に供給され、シリンダ62内で回転するスクリュ63によって練り混ぜられてペースト状にされる。さらに、ペースト状に練り混ぜられた発泡絶縁材料31は、スクリュ63の回転に伴って押出ヘッド50に送り込まれる。同時に、押出ヘッド50には、加熱(予熱)された信号線導体2a,2bが導入される。具体的には、
図6(b)に示されるように、予熱された信号線導体2a,2bが心金52の貫通孔を通して心金52から送り出される。一方、押出ヘッド50に送り込まれたペースト状の発泡絶縁材料31は、押出ヘッド50の供給路53を通して、心金52から送り出される信号線導体2a,2bの周囲に吐出される。これによって、一対の信号線導体2a,2bの周囲に、これら信号線導体2a,2bを一括被覆する絶縁体3が形成される。すなわち、一対の信号線導体2a,2bの周囲に発泡絶縁材料31を押し出す被覆工程と該被覆工程に先立って一対の信号線導体2a,2bを加熱する予熱工程とを経て絶縁体3が形成される。
【0041】
ここで、被覆工程においては、2本の信号線導体2a,2bの温度差が10℃以内に維持される。具体的には、絶縁体3が形成される際の信号線導体2a,2bの温度差が10℃以内に維持される。より具体的には、
図6(b)に示される心金52から送り出される際の信号線導体2a,2bの温度差が10℃以内になるように、予熱工程における信号線導体2a,2bの加熱温度が調節される。例えば、押出ヘッド50に導入される前に信号線導体2a,2bの温度が測定され、その測定結果に基づいて、一方の信号線導体2a,2bに対する加熱温度と他方の信号線導体2b,2aに対する加熱温度の少なくとも何れか一方が調節される。
【0042】
ここで、予熱工程では、直接加熱又は誘導加熱によって信号線導体2a,2bが加熱(予熱)される。直接加熱によって信号線導体2a,2bが予熱される場合には、電熱線ヒータやガスバーナなどの熱源がそれぞれの信号線導体2a,2bに対して設けられる。この場合、熱源と押出ヘッド50との間において信号線導体2a,2bの温度差が測定され、その測定結果に基づいて、一方の信号線導体用の熱源と他方の信号線導体用の熱源の少なくとも何れか一方が手動により、または自動的に調節される。
【0043】
また、誘導加熱によって信号線導体2a,2bが予熱される場合には、交流電源に接続されたコイルがそれぞれの信号線導体2a,2bに対して設けられる。それぞれの信号線導体2a,2bは、対応するコイルの内側を通過する際にジュール熱によって加熱(予熱)される。この場合、コイルと押出ヘッド50との間において信号線導体2a,2bの温度差が測定され、その測定結果に基づいて、一方の信号線導体用のコイルと他方の信号線導体用のコイルの少なくとも何れか一方に対する印加電圧が手動により、または自動的に調節される。
【0044】
何れの場合も、信号線導体2a,2bが押出ヘッド50に導入される直前に、信号線導体2a,2bの温度差を測定することが望ましい。従って、信号線導体2a,2bの温度を測定するセンサなどの測定手段は、押出ヘッド50の直前に配置されることが望ましい。
【0045】
以上のように、被覆工程における信号線導体2a,2bの温度差を10℃以内に維持することによって絶縁体3の発泡度を均一に保つことができる。すなわち、長手方向の異なる2以上の領域において第1発泡度と第2発泡度との差が5.0%以内に保たれている差動信号伝送用ケーブル1A(
図1)が製造される。換言すれば、一方の信号線導体2aのキャパシタンスと他方の信号線導体2bのキャパシタンスとの差が1.0%以内に保たれている差動信号伝送用ケーブル1A(
図1)が製造される。
【0046】
本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。例えば、信号線導体2a,2bには、銅線に代えて各種合金線を用いることができる。また、信号線導体2a,2bは、単線でもよく、撚り線でもよい。さらに、信号線導体2a,2bの表面には、銀めっきに代えて、錫めっき,ニッケルめっき,金めっきなどの各種めっきを施すことができる。
【0047】
絶縁体3を形成する樹脂を発泡させる方式は、上述の化学発泡方式に限られず、物理発泡方式でもよい。例えば、
図6(a)に示される供給機構60において樹脂材料にガスを溶解させてもよい。樹脂材料に溶解されるガスとしては、窒素ガス,炭酸ガス,空気,ペンタン,ブタン,フロン化合物などが挙げられる。