特許第6103017号(P6103017)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6103017-硫酸ニッケルの晶析設備および晶析方法 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6103017
(24)【登録日】2017年3月10日
(45)【発行日】2017年3月29日
(54)【発明の名称】硫酸ニッケルの晶析設備および晶析方法
(51)【国際特許分類】
   C01G 53/10 20060101AFI20170316BHJP
【FI】
   C01G53/10
【請求項の数】5
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-212428(P2015-212428)
(22)【出願日】2015年10月29日
(62)【分割の表示】特願2012-164517(P2012-164517)の分割
【原出願日】2012年7月25日
(65)【公開番号】特開2016-29017(P2016-29017A)
(43)【公開日】2016年3月3日
【審査請求日】2015年10月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089222
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 康伸
(74)【代理人】
【識別番号】100175400
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 伸
(72)【発明者】
【氏名】柴山 敬介
(72)【発明者】
【氏名】秋山 洋範
(72)【発明者】
【氏名】松本 伸弘
【審査官】 壷内 信吾
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−114520(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第102190335(CN,A)
【文献】 特公昭45−012571(JP,B1)
【文献】 特開昭49−095895(JP,A)
【文献】 米国特許第04021532(US,A)
【文献】 特開2011−213502(JP,A)
【文献】 特表2009−519192(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G25/00−47/00,49/10−99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケル濃度が111g/L以上128g/L以下の硫酸ニッケル溶液である原液と、母液と、小粒度の硫酸ニッケル結晶とを混合する母液槽と、
前記母液槽から排出された混合液が供給され、該混合液を用いて晶析する晶析缶と、
前記晶析缶内のスラリーを加熱する熱交換器と、
前記晶析缶から排出されたスラリーを硫酸ニッケル結晶と母液とに固液分離する固液分離装置と、
前記固液分離装置で得られた前記母液を前記母液槽に供給する流路と、
前記固液分離装置で得られた前記硫酸ニッケル結晶を、適正な粒度の硫酸ニッケル結晶と小粒度の硫酸ニッケル結晶とに篩分けする篩分装置と、
前記篩分装置で得られた前記小粒度の硫酸ニッケル結晶を前記母液槽に供給する流路と、を備える
ことを特徴とする硫酸ニッケルの晶析設備。
【請求項2】
前記晶析缶は、液温を一定に保ちつつ、所定圧力下で硫酸ニッケル溶液中の水分を蒸発させることにより晶析するものである
ことを特徴とする請求項記載の硫酸ニッケルの晶析設備。
【請求項3】
ニッケル濃度が111g/L以上128g/L以下の硫酸ニッケル溶液である原液と、母液と、小粒度の硫酸ニッケル結晶とを母液槽で混合し、
前記母液槽から排出された混合液を晶析缶に供給し、該混合液を用いて晶析し、
前記晶析缶内のスラリーを熱交換器で加熱し、
前記晶析缶から排出されたスラリーを硫酸ニッケル結晶と母液とに固液分離し、
前記固液分離で得られた前記母液を前記母液槽に供給し、
前記固液分離で得られた前記硫酸ニッケル結晶を、適正な粒度の硫酸ニッケル結晶と小粒度の硫酸ニッケル結晶とに篩分けし、
前記篩分けで得られた前記小粒度の硫酸ニッケル結晶を前記母液槽に供給する
ことを特徴とする硫酸ニッケルの晶析方法。
【請求項4】
前記晶析缶は、液温を一定に保ちつつ、所定圧力下で硫酸ニッケル溶液中の水分を蒸発させることにより晶析するものである
ことを特徴とする請求項記載の硫酸ニッケルの晶析方法。
【請求項5】
前記熱交換器前後のスラリーの温度差が所定温度以上となったか否かによりスケールが発生したか否かを判断する
ことを特徴とする請求項3または4記載の硫酸ニッケルの晶析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硫酸ニッケルの晶析設備および晶析方法に関する。さらに詳しくは、晶析缶を備える晶析設備を用いて、硫酸ニッケル溶液を晶析することにより硫酸ニッケル結晶を得る方法に関する。
【背景技術】
【0002】
晶析設備においては、晶析缶の内壁や熱交換器の伝熱面、配管などに、結晶が固着するいわゆるスケールが生じる場合がある。スケールが生じると、晶析設備の連続操業に支障が出るため、スケールの発生を抑制する種々の方法が考案されている。
例えば、熱交換器内の流速を速くすることで、伝熱面に生じるスケールを抑制する方法が知られている。しかし、熱交換器内の流速は、晶析缶の容量や結晶速度など晶析設備の条件に依存するため、スケールの抑制のみを目的として調整することは困難である。
【0003】
硫酸ニッケル結晶を得る晶析設備においても、操業を継続するにしたがい熱交換器の伝熱面などに硫酸ニッケル結晶が析出してくるため、定期的に操業を停止してスケールを除去する必要がある。スケールの除去は、晶析缶内へ温水を供給して液温を上昇させつつ撹拌を行うことによりスケールを溶解し除去する洗缶操作により行われる。しかし、この洗缶操作には約10時間必要であり、従来2〜3日毎に洗缶操作が必要であったため、操業停止時間が長く、晶析設備の実稼働率が低くなるという問題がある。
【0004】
なお、特許文献1には、多成分の不純物を含むニッケル含有スラッジから、晶析により硫酸ニッケル結晶を回収する技術が開示されているが、晶析におけるスケールの発生については開示されておらず、スケールの発生を抑制する方法も開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−347815号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記事情に鑑み、スケールの発生を抑制できる硫酸ニッケルの晶析設備および晶析方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1発明の硫酸ニッケルの晶析設備は、ニッケル濃度が111g/L以上128g/L以下の硫酸ニッケル溶液である原液と、母液と、小粒度の硫酸ニッケル結晶とを混合する母液槽と、前記母液槽から排出された混合液が供給され、該混合液を用いて晶析する晶析缶と、前記晶析缶内のスラリーを加熱する熱交換器と、前記晶析缶から排出されたスラリーを硫酸ニッケル結晶と母液とに固液分離する固液分離装置と、前記固液分離装置で得られた前記母液を前記母液槽に供給する流路と、前記固液分離装置で得られた前記硫酸ニッケル結晶を、適正な粒度の硫酸ニッケル結晶と小粒度の硫酸ニッケル結晶とに篩分けする篩分装置と、前記篩分装置で得られた前記小粒度の硫酸ニッケル結晶を前記母液槽に供給する流路と、を備えることを特徴とする。
第2発明の硫酸ニッケルの晶析設備は、第1発明において、前記晶析缶は、液温を一定に保ちつつ、所定圧力下で硫酸ニッケル溶液中の水分を蒸発させることにより晶析するものであることを特徴とする。
第3発明の硫酸ニッケルの晶析方法は、ニッケル濃度が111g/L以上128g/L以下の硫酸ニッケル溶液である原液と、母液と、小粒度の硫酸ニッケル結晶とを母液槽で混合し、前記母液槽から排出された混合液を晶析缶に供給し、該混合液を用いて晶析し、前記晶析缶内のスラリーを熱交換器で加熱し、前記晶析缶から排出されたスラリーを硫酸ニッケル結晶と母液とに固液分離し、前記固液分離で得られた前記母液を前記母液槽に供給し、前記固液分離で得られた前記硫酸ニッケル結晶を、適正な粒度の硫酸ニッケル結晶と小粒度の硫酸ニッケル結晶とに篩分けし、前記篩分けで得られた前記小粒度の硫酸ニッケル結晶を前記母液槽に供給することを特徴とする。
第4発明の硫酸ニッケルの晶析方法は、第3発明において、前記晶析缶は、液温を一定に保ちつつ、所定圧力下で硫酸ニッケル溶液中の水分を蒸発させることにより晶析するものであることを特徴とする。
第5発明の硫酸ニッケルの晶析方法は、第3または第4発明において、前記熱交換器前後のスラリーの温度差が所定温度以上となったか否かによりスケールが発生したか否かを判断することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
発明によれば、原液中のニッケル濃度を111g/L以上128g/L以下とするので、晶析缶内のスラリーの過飽和度が高くなり、晶析缶の内壁や熱交換器の伝熱面において核が形成されにくくなるので、スケールの発生を抑制できる
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】晶析設備の説明図である。
図2】実施例における(a)原液中のニッケル濃度に対する晶析缶内のスラリーの比重を示すグラフ、(b)原液中のニッケル濃度に対する洗缶操作の回数を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
つぎに、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
まず、硫酸ニッケル溶液を晶析して硫酸ニッケル結晶を得るために用いられる晶析設備の一例を説明する。
図1に示すように、晶析設備1は、原液としての硫酸ニッケル溶液を一時貯留する原液槽11と、原液槽11から原液が供給され、その原液に後述の母液および小粒度の硫酸ニッケル結晶とを混合する母液槽12と、母液槽12から原液が供給される晶析缶13とを備えている。
【0011】
原液は、硫酸ニッケルを含有する溶液であればその組成に特に限定は無いが、例えば、ニッケル精錬法の一つであるMCLE(Matte Chlorine Leach Electrowinning)法(特公平7−91599号公報参照)の浄液工程において、粗硫酸ニッケル液から不純物を除去して得られた硫酸ニッケル純液が用いられる。なお、MCLE法の浄液工程において得られる硫酸ニッケル純液には、ナトリウム、塩素、マグネシウム、カルシウム、アンモニウムイオンなどの不純物が含まれている。
【0012】
晶析缶13は、所定圧力下で硫酸ニッケル溶液中の水分を蒸発させることにより晶析するものであり、例えばDP(ダブルプロペラ)型晶析缶が用いられる。晶析缶13内部の圧力は、真空ポンプなどにより約7.5kPaAに制御されており、ダブルプロペラで撹拌しながら晶析が行われる。晶析缶13内では、硫酸ニッケル溶液に硫酸ニッケル結晶が混合したスラリーとなっている。
【0013】
晶析缶13内のスラリーは、水分が蒸発することにより熱が奪われるため液温が低下する。晶析缶13には熱交換器14が設けられており、その熱交換器14で晶析缶13内のスラリーを加熱することにより液温が一定に保たれる。熱交換器14としては、例えばシェルアンドチューブ型熱交換器が用いられる。また、スラリーの液温は例えば約45℃に保たれる。
【0014】
晶析缶13から排出されたスラリーは、遠心分離機15で硫酸ニッケル結晶と母液とに固液分離される。母液は母液槽12に供給され、硫酸ニッケル結晶は乾燥機16に供給される。硫酸ニッケル結晶は、乾燥機16で乾燥することにより水分を除去された後、振動篩機17に供給される。振動篩機17では、製品として適正な粒度の硫酸ニッケル結晶を選別して排出する。製品とならない小粒度の硫酸ニッケル結晶は、母液槽12に供給される。母液槽12では、原液槽11から供給された硫酸ニッケル溶液と母液および小粒度の硫酸ニッケル結晶とが混合され、小粒度の硫酸ニッケル結晶が硫酸ニッケル溶液に溶解する。
【0015】
以上のような晶析設備1においては、操業を継続するにしたがい晶析缶13の内壁や熱交換器14の伝熱面などに硫酸ニッケル結晶が析出してくる。このようなスケールが発生した場合には、操業を停止してスケールを除去する必要がある。スケールの除去は、晶析缶13内へ温水を供給して液温を上昇させつつ撹拌を行うことによりスケールを溶解し除去する洗缶操作により行われる。
【0016】
スケールが発生したか否かは、熱交換器14前後のスラリーの温度差ΔTが所定温度以上となったか否かにより判断される。ここで、温度差ΔTは、熱交換器出口のスラリー温度から熱交換器入口のスラリー温度を減算した値である。これは、熱交換器14内部の伝熱管にスケールが発生して閉塞してくると、熱交換器14内の流量が減少し、スラリーの単位体積当たりに供給される熱量が多くなる結果、熱交換器14による温度上昇が高くなるからである。例えば、ΔTが5℃以上となった時点でスケールが発生したと判断して、上記の洗缶操作が行われる。
【0017】
また、硫酸ニッケル溶液は、母液槽12と晶析缶13との間を循環しつつ、水分が蒸発していく。そのため、原液に不純物が含まれていると、循環を繰り返すごとに不純物濃度が上昇する。不純物濃度が高くなると硫酸ニッケル結晶中の不純物品位が高くなる。そのため、晶析缶13内のスラリーの不純物濃度を定期的に測定し、不純物濃度が所定の基準を超えた場合に晶析缶13内のスラリーを排出することが行われる。すなわち、スラリーとともに不純物を排出するのである。これにより、製品となる硫酸ニッケル結晶中の不純物品位を下げることができる。なお、晶析缶13には図示しない排出口が設けられており、不純物濃度が高いスラリーはその排出口から晶析設備1の系外に排出される。
【0018】
本発明に係る硫酸ニッケルの晶析方法は、上記のような晶析方法において、原液である硫酸ニッケル溶液中のニッケル濃度を90g/L以上185g/L以下、好ましくは121g/L以上140g/L以下に調整するところに特徴がある。
【0019】
一般に結晶化は、溶液中に分散する溶質分子が集まり核が形成される核形成と、その核が成長する結晶成長の二段階で行われる。
原液中のニッケル濃度を変化させると、晶析缶13内のスラリーの過飽和度も同様に変化する。そして、原液中のニッケル濃度を低くすると、晶析缶13内のスラリーの過飽和度が低くなり、核形成が行われにくくなる。この場合、流速が遅い晶析缶13の内壁や熱交換器14の伝熱面においては、それ以外の場所よりも相対的に核が発生しやすくなり、その核が成長するとスケールとなると考えられる。すなわち、原液中のニッケル濃度を低くすると、晶析缶13の内壁や熱交換器14の伝熱面にスケールが生じやすくなる。
前述のごとく、スケールが発生すると洗缶操作が行われるが、この洗缶操作には約10時間必要である。そのため、スケールが生じやすいと洗缶操作の頻度が高くなり操業停止時間が長くなるため、晶析設備1の実稼働率が低くなる。
【0020】
また、原液中のニッケル濃度を低くすると、ニッケルに対する不純物の比率が高くなる。そのため、製品となる硫酸ニッケル結晶中の不純物品位を低く維持するためには、晶析缶13からのスラリーの排出量を多くする必要がある。
晶析缶13からスラリーを排出すると、過飽和度が高められたスラリーが排出されることとなるため、過飽和度を高めるために消費されたエネルギーが無駄となる。また、不純物のみならず硫酸ニッケル溶液や硫酸ニッケル結晶も排出されるため、晶析率が低下する。ここで、晶析率とは、製品である硫酸ニッケル結晶中のニッケル重量を、原液中のニッケル重量で除算した値である。
【0021】
これに対して、原液中のニッケル濃度を90g/L以上に高くすれば、晶析缶13内のスラリーの過飽和度が高くなり、晶析缶13の内壁や熱交換器14の伝熱面において核が形成されにくくなるので、スケールの発生を抑制できる。そのため、洗缶操作の頻度を低減でき、晶析設備1の実稼働率が向上する。また、晶析缶13からのスラリーの排出量を少なくしても、硫酸ニッケル結晶中の不純物品位を低く維持することができるため、エネルギー効率が向上し、晶析率も向上する。
【0022】
さらに、原液中のニッケル濃度を121g/L以上に高くすれば、晶析缶13内のスラリーの過飽和度がより高くなり、よりスケールの発生を抑制できる。その結果、洗缶操作の頻度を低減でき、晶析設備1の実稼働率が向上する。また、エネルギー効率が向上し、晶析率も向上する。
【0023】
原液中のニッケル濃度が185g/L以下であれば、晶析缶13が処理できる許容範囲内であるので、硫酸ニッケル結晶を得ることができる。また、原液中のニッケル濃度を高くすると硫酸ニッケル溶液を晶析缶13に供給する配管にスケールが発生しやすくなるが、原液中のニッケル濃度が140g/L以下であれば、その配管へのスケールの発生も抑制できる。
【実施例】
【0024】
つぎに実施例について説明する。
図1に示す晶析設備1を用いて、MCLE法の浄液工程において得られた硫酸ニッケル純液を原液として晶析することにより硫酸ニッケル結晶を得る操業を行った。晶析缶13として、容量7m3のDP型晶析缶(SUS製)を用いた。晶析缶13内部の圧力は約7.5kPaAに制御した。また、熱交換器14としてシェルアンドチューブ型熱交換器を用い、500kPaGの蒸気により晶析缶13内のスラリーを加熱した。原液の供給量は硫酸ニッケル換算で625kg/hourとした。
【0025】
実施例1〜5としてニッケル濃度を表1に示す各濃度に調整した原液を用いて、各実施例について30日の操業を行った。各実施例の操業中は、熱交換器14前後のスラリーの温度差ΔTが5℃以上となった時点でスケールが発生したと判断して洗缶操作を行った。また、晶析缶13内のスラリーの不純物濃度を定期的に測定し、不純物濃度が所定の基準を超えた場合に晶析缶13内のスラリーを排出して、不純物濃度を低下させる作業を行った。各実施例における、晶析缶13内のスラリーの比重(スラリー比重)の測定結果および洗缶操作の回数(洗缶回数)は表1の通りである。
【表1】
【0026】
スラリー比重はスラリーの過飽和度と相関するため、スラリー比重の推移により過飽和度の推移を知ることができる。図2(a)に示すように、原液中のニッケル濃度とスラリー比重との間には正の相関が見られることから、原液中のニッケル濃度を高くすると、スラリーの過飽和度が高くなることが分かる。また、原液中のニッケル濃度119g/Lと124g/Lとの間のスラリー比重の増加率が他の領域に比べて大きいことが分かる。これより、原液中のニッケル濃度119g/Lと124g/Lとの間である121g/Lに、スラリーの過飽和度が急激に上昇する変曲点があると考えられる。
【0027】
また、図2(b)に示すように、原液中のニッケル濃度と洗缶回数との間には負の相関が見られたことから、原液中のニッケル濃度を高くすると、スケールの発生を抑制でき、洗缶回数を少なくできることが分かる。また、これにより晶析設備1の実稼働率が向上することが分かる(表1参照)。特に原液中のニッケル濃度を128g/L以上にすると、実稼働率が95%以上となる。
【0028】
原液中のニッケル濃度が119g/L以下の領域における洗缶回数の推移の傾きに比べて、124g/L以上の領域における洗缶回数の推移の傾き方が大きい。そのため、原液中のニッケル濃度119g/Lと124g/Lとの間である121g/Lに、スケール発生の変曲点があると考えられる。これは、スラリーの過飽和度の変曲点とも一致する。そして、原液中のニッケル濃度を121g/L以上に高くすればよりスケールの発生を抑制でき、洗缶回数を少なくできることが分かる。
【0029】
表1に示すように、原液中のニッケル濃度を高くすると、晶析率が向上することが分かる。これは、硫酸ニッケル結晶中の不純物品位を低く維持するために晶析缶13から排出されるスラリーの量が少なくなるからである。
【符号の説明】
【0030】
1 晶析設備
11 原液槽
12 母液槽
13 晶析缶
14 熱交換器
15 遠心分離機
16 乾燥機
17 振動篩機
図1
図2