特許第6103046号(P6103046)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 住友大阪セメント株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6103046-誘電体材料、静電チャック装置 図000004
  • 特許6103046-誘電体材料、静電チャック装置 図000005
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6103046
(24)【登録日】2017年3月10日
(45)【発行日】2017年3月29日
(54)【発明の名称】誘電体材料、静電チャック装置
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/117 20060101AFI20170316BHJP
   C04B 35/505 20060101ALI20170316BHJP
   H01L 21/683 20060101ALI20170316BHJP
   H01B 3/12 20060101ALI20170316BHJP
【FI】
   C04B35/117
   C04B35/505
   H01L21/68 R
   H01B3/12 337
   H01B3/12 309
   H01B3/12
   H01B3/12 336
   H01B3/12 338
   H01B3/12 311
   H01B3/12 341
   H01B3/12 315
   H01B3/12 330
【請求項の数】5
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2015-515734(P2015-515734)
(86)(22)【出願日】2015年3月9日
(86)【国際出願番号】JP2015056799
(87)【国際公開番号】WO2015137270
(87)【国際公開日】20150917
【審査請求日】2016年6月8日
(31)【優先権主張番号】特願2014-46815(P2014-46815)
(32)【優先日】2014年3月10日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000183266
【氏名又は名称】住友大阪セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100108578
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 詔男
(74)【代理人】
【識別番号】100094400
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 三義
(72)【発明者】
【氏名】石塚 雅之
(72)【発明者】
【氏名】長友 大朗
【審査官】 小川 武
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−152065(JP,A)
【文献】 特開2003−040674(JP,A)
【文献】 特開2000−107969(JP,A)
【文献】 特開2013−258429(JP,A)
【文献】 特開2001−130968(JP,A)
【文献】 特開2007−051045(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/00−35/84
H01L 21/683
H01B 3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁性材料中に導電性粒子を分散された複合焼結体からなる誘電体材料であって、
前記絶縁性材料は、酸化アルミニウムおよび酸化イットリウムのいずれか一方または両方であり、
前記導電性粒子は、炭化ケイ素粒子であり、
前記誘電体材料における前記導電性粒子の含有率が4質量%以上かつ20質量%以下であり、
前記導電性粒子は、平均粒子径が異なるものが複数混合した混合導電性粒子であり、
前記混合導電性粒子は、前記混合導電性粒子の全体の1〜40質量%が粒子径40nm以下の粒子であり、前記混合導電性粒子の全体の1〜40質量%が粒子径80nm以上の粒子であり、
周波数40Hzにおける誘電率は10以上、かつ、前記複合焼結体の表面内にて周波数1MHzにおける誘電損失の最大値と最小値の差は0.002以下であり、
20℃における体積抵抗率は1013Ω・cm以上であることを特徴とする誘電体材料。
【請求項2】
耐電圧は5kV/mm以上であることを特徴とする請求項1記載の誘電体材料。
【請求項3】
熱伝導率は20W/m・K以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の誘電体材料。
【請求項4】
周波数40Hzにおける誘電損失は0.01以上かつ0.05以下であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項記載の誘電体材料。
【請求項5】
基体の一主面に板状試料を静電吸着する静電チャック装置であって、
前記基体が請求項1ないし4のいずれか1項記載の誘電体材料から形成されていることを特徴とする静電チャック装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘電体材料及び静電チャック装置に関する。
本願は、2014年3月10日に、日本に出願された特願2014−046815号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体製造プロセスにおいては、素子の高集積化や高性能化に伴い、微細加工技術の更なる向上が求められている。この半導体製造プロセスの中でもエッチング技術は、微細加工技術の重要な一つである。近年では、エッチング技術の内でも、高効率かつ大面積の微細加工が可能なプラズマエッチング技術が主流となっている。
このプラズマエッチング技術はドライエッチング技術の一種である。具体的に説明すると、加工対象となる固体材料の上にレジストでマスクパターンを形成し、この固体材料を真空中に支持した状態で、この真空中に反応性ガスを導入し、この反応性ガスに高周波の電界を印加する。このことにより、加速された電子がガス分子と衝突してプラズマ状態となる。そして、このプラズマから発生するラジカル(フリーラジカル)とイオンを固体材料と反応させて反応生成物として取り除くことにより、固体材料に微細パターンを形成する技術である。
【0003】
一方、原料ガスをプラズマの働きで化合させ、得られた化合物を基板の上に堆積させる薄膜成長技術の一つとして、プラズマCVD法がある。この方法では、原料分子を含むガスに高周波の電界を印加することによりプラズマ放電させる。そして、このプラズマ放電にて加速された電子によって原料分子を分解させ、得られた化合物を堆積させる成膜方法である。低温では熱的励起だけでは起こらなかった反応も、プラズマ中では、系内のガスが相互に衝突し活性化されラジカルとなるので、反応が可能となる。
プラズマエッチング装置や、プラズマCVD装置等のプラズマを用いた半導体製造装置においては、従来から、試料台に簡単に被処理物であるウエハを取付け、固定するとともに、このウエハを所望の温度に維持する装置として、静電チャック装置が使用されている。
【0004】
この静電チャック装置は、ウエハが載置される略円板状の誘電体板と、この誘電体板の内部に埋設された静電吸着用電極とを備えたものである。この誘電体板と、この誘電体板上に載置されるウエハとの間に直流電圧を印加することで、クーロン力あるいは微少な漏れ電流による静電吸着力を発生させる。そしてこの静電吸着力によりウエハを誘電体板上に固定している。
この静電チャック装置に用いられる誘電体板としては、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、及び酸化イットリウム等のセラミックスが一般に用いられている。
このような静電チャック装置としては、例えば、窒化ケイ素を5〜40体積%含む窒化ケイ素含有酸化イットリウム焼結体を用いて、室温における体積抵抗率が1×1015Ω・cm以上、かつ比誘電率が10以上のセラミックス部材からなる静電チャックの基体を構成することにより、高い吸着力と優れた被処理物の脱着応答性を実現した静電チャック装置が提案されている(特許文献1)。
【0005】
また、半導体プロセスにおけるチップの歩留まりや信頼性を向上させるためには、ウエハの表面温度の面内ばらつきを小さくする必要がある。そこで、ウエハの表面の中心部及び外周部を含む複数の測定点で測定した相対密度の平均値が98%以上、50℃の体積固有抵抗値の平均値が10Ω・cm〜1012Ω・cm、周波数が1MHzにおける誘電損失の平均値が50×10−4以下、及び、誘電損失の最大値と最小値の差が前記平均値の50%以下の窒化アルミニウム焼結体を用いることで、シリコンウエハ等の半導体基板の均一な処理を行うことができる、静電チャックが提案されている(特許文献2)。
一方、残留吸着の抑制力が経時的に劣化し難い静電チャックとして、酸化アルミニウムや窒化アルミニウムを絶縁基体に用いた静電チャックが提案されている(特許文献3)。
この静電チャックでは、絶縁基体に用いる材料の誘電損失を1×10−4以下とすることで、この絶縁基体の表面における温度分布が改善され、その結果、表面温度のムラが改善されたとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−225185号公報
【特許文献2】特開2003−40674号公報
【特許文献3】再公表WO2012/014873号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載された窒化ケイ素含有酸化イットリウム焼結体では、吸着力に優れているものの、窒化ケイ素が焼結体中で偏在した場合には誘電損失のばらつきが大きくなる。そのばらつきにより、高周波電圧による発熱が焼結体の面内にて異なることとなり、その結果、被処理物の面内温度に温度差が生じる。そのため、各種処理が不均一になって不良品が発生する確率が高くなり、得られた製品の信頼性が低下するという問題点があった。また、酸化イットリウムは希土類酸化物であるから、他の金属酸化物等と比べて高価であるという問題点もある。
また、特許文献2に記載された窒化アルミニウム焼結体では、誘電損失のばらつきは小さいものの、体積抵抗値が低いことから耐電圧が低い。よって、漏れ電流や絶縁破壊により被処理物が破壊される虞があるという問題点があった。
【0008】
また、特許文献3に記載された静電チャックでは、酸化アルミニウムや窒化アルミニウム等の高純度の絶縁性材料を使用しているので、均一な温度分布は得られるものの、誘電率が低く、高い吸着力が得られないという問題点があった。
そこで、体積抵抗値を高くすると、吸着力を発現させた電荷が逃げ難くなり、脱着応答性が悪くなるという問題点があった。
さらに、導電性の材料を第2層中に分散させた材料では、第2層が誘電損失を大きくする原因となる。このことから、静電吸着力が大きくなりすぎてしまい、静電吸着力と被処理物の面内温度の均一性とを両立させた静電チャックを実現することが困難であった。
【0009】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであって、十分な静電吸着力、良好な脱着応答性及び高い耐電圧が得られ、複合焼結体の表面内に温度差が生じず、しかも安価な誘電体材料、及び、この誘電体材料を基体に用いた静電チャック装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、上記の課題を解決するべく鋭意検討を行った結果、本発明を提供するに至った。すなわち、絶縁性材料中に導電性粒子を分散した複合焼結体の誘電率及び誘電損失の最大値と最小値の差を制御することで、静電吸着力、脱着応答性及び耐電圧が向上し、かつ複合焼結体の表面内における温度差も極めて小さくなること、さらに、体積抵抗率、耐電圧、熱伝導率等を制御することで、静電吸着力、脱着応答性及び耐電圧がさらに向上し、かつ複合焼結体の表面内における温度差も生じないことを知見し、本発明を完成するに到った。
【0011】
すなわち、本発明の第一の態様である誘電体材料は、絶縁性材料中に導電性粒子が分散された複合焼結体からなる誘電体材料であって、周波数40Hzにおける誘電率は10以上、かつ、前記複合焼結体の表面内にて周波数1MHzにおける誘電損失の最大値と最小値の差は0.002以下であることを特徴とする。
【0012】
前記誘電体材料は以下の特徴を有する事が好ましい。
前記誘電体材料の、20℃における体積抵抗率は1013Ω・cm以上、耐電圧は5kV/mm以上であることが好ましい。
前記誘電体材料の、120℃における体積抵抗率は1013Ω・cm以上、耐電圧は5kV/mm以上であることが好ましい。
前記誘電体材料の、熱伝導率は20W/m・K以上であることが好ましい。
前記誘電体材料の、周波数40Hzにおける誘電損失は0.01以上かつ0.05以下であることが好ましい。
【0013】
本発明の第二の態様である静電チャック装置は、基体の一主面に板状試料を静電吸着する静電チャック装置であって、前記基体が本発明の第一の態様である誘電体材料を用いてなることを特徴とする。前記基体が前記誘電体材料により形成されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の誘電体材料によれば、絶縁性材料中に導電性粒子を分散した複合焼結体の周波数40Hzにおける誘電率を10以上、かつ、この複合焼結体の表面内にて周波数1MHzにおける誘電損失の最大値と最小値の差を0.002以下とした。このように、複合焼結体の誘電率、及び誘電損失の最大値と最小値の差を制御することにより、静電吸着力、脱着応答性及び耐電圧を向上させることができ、複合焼結体の表面内における温度差を極めて小さくすることができる。したがって、誘電体材料の信頼性を向上させることができる。
【0015】
また、この誘電体材料の体積抵抗率、耐電圧、熱伝導率、周波数40Hzにおける誘電損失のうちいずれかの特性またはこれら複数の特性を好ましく制御する。このことにより、静電吸着力、脱着応答性及び耐電圧をさらに向上させることができ、複合焼結体の表面内における温度差を無くすことができる。したがって、誘電体材料の信頼性を長期に亘って維持することができる。
【0016】
本発明の静電チャック装置は、板状試料を静電吸着する基体に本発明の誘電体材料を用いて形成している。その為、板状試料の静電吸着力及び脱着応答性を向上させることができ、基体自体の耐電圧を向上させることができる。さらに、板状試料を静電吸着する基体の一主面における温度差を極めて小さくすることができる。したがって、板状試料の全面に亘って各種処理を均一に行うことができ、得られた製品の信頼性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一実施形態の静電チャック装置の例を示す断面図である。
図2】本発明の一実施形態の静電チャック装置の変形例を示す断面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の誘電体材料及び静電チャック装置を実施するための好ましい形態の例について、図面に基づき説明する。
なお、この形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
本発明は、誘電体材料及び静電チャック装置に関し、さらに詳しくは、半導体装置、液晶ディスプレイ装置等の製造プロセスに適用されるエッチング装置、スパッタリング装置、CVD装置等の真空プロセス装置に好適に用いられる。本発明の装置は、板状試料等の被処理物の吸着力が高く、この被処理物を載置する載置面に高周波を印加した際の均熱性に優れる。これらのことにより、得られる半導体装置、液晶ディスプレイ装置等の歩留まりの低下を防止することが可能である。
【0019】
[誘電体材料]
本実施形態の誘電体材料は、絶縁性材料中に導電性粒子を分散してなる複合焼結体からなる誘電体材料である。周波数40Hzにおける誘電率は10以上、かつ、この複合焼結体の表面内にて周波数1MHzにおける誘電損失の最大値と最小値の差は0.002以下である。
【0020】
絶縁性材料の例としては、絶縁性セラミックスの他、ポリイミド樹脂やシリコン樹脂等の各種有機樹脂もあるが、有機樹脂は発熱による絶縁特性の劣化が生じ易いという欠点がある。
そこで、本実施形態では、発熱による絶縁特性の劣化が生じ難い絶縁性セラミックスを用いた。ただし絶縁性セラミックスに限定されることはなく他の材料を用いても良い。
【0021】
この絶縁性セラミックスの例としては、酸化アルミニウム(Al)、酸化イットリウム(Y)、酸化ケイ素(SiO)、酸化ジルコニウム(ZrO)、ムライト(3Al・2SiO)、酸化ハフニウム(HfO)、酸化スカンジウム(Sc)、酸化ネオジム(Nd)、酸化ニオブ(Nb)、酸化サマリウム(Sm)、酸化イッテルビウム(Yb)、酸化エルビウム(Er)、酸化セリウム(CeO)等の酸化物を挙げることができる。これらの酸化物は、1種のみを選択して用いてもよく、2種以上を混合して複合酸化物として用いてもよい。
【0022】
また、上記以外の絶縁性セラミックスとしては、窒化アルミニウム(AlN)、窒化ケイ素(Si)、窒化ホウ素(BN)等の窒化物を挙げることができる。これらの窒化物は、1種のみを選択して用いてもよく、2種以上を混合して複合窒化物として用いてもよいが、化学的安定性の点から、1種のみを単独で用いることが好ましい。
【0023】
これらの絶縁性セラミックスの中でも、特に酸化アルミニウム(Al)は、耐熱性に優れ、この酸化アルミニウム(Al)中に導電性粒子を分散して複合焼結体とした場合の機械的特性も良好であるから、本実施形態の誘電体材料として好適である。
ここで、絶縁性セラミックス中のアルミニウム(Al)の含有量を少なくしたい場合や耐食性をさらに高めたい場合には、酸化イットリウム(Y)、イットリウム・アルミニウム・ガーネット(YAG:3Y・5Al)等を絶縁性セラミックスとして用いることもできる。
これら平均絶縁性セラミックスの平均粒子径は任意に選択できるが、例えば1μm以下であってもよい。例を挙げると平均粒子径の下限は0.001μmであっても良く、0.01μmであってもよく、0.05μmであっても良い。上限は1μmであっても良く、0.7μmであっても良く、0.5μmであっても良い。
【0024】
絶縁性セラミックスとして酸化アルミニウム(Al)を用いる場合、酸化アルミニウム(Al)の原料粉体としては、平均粒子径が1μm以下かつ高純度であることが特に好ましいが、特段限定されない。平均粒子径は任意に選択できるが、例えば1μm以下であってもよい。例を挙げると平均粒子径の下限は0.001μmであっても良く、0.01μmであってもよく、0.05μmであっても良い。上限は1μmであってもよく、0.5μmであっても良い。
なお前記平均粒子径は、SEM写真より計測した平均1次粒子径である。
ここで、酸化アルミニウム(Al)粉体の平均粒子径を1μm以下が好ましいとしたのは、以下の理由からである。酸化アルミニウム粉体の平均粒子径が1μmを超えると、この酸化アルミニウム粉体を焼成して得られた酸化アルミニウム焼結体中の酸化アルミニウム粒子の平均粒子径が2μmを越えることとなる。この焼結体を用いて静電チャック装置の基体を作製すると、この基体の板状試料を載置する側の上面がプラズマによりエッチングされ易くなり、この基体の上面にスパッタ痕が形成される可能性がある。その結果、シリコンウエハ等の被処理物を場合によっては汚染する可能性があるからである。
【0025】
導電性粒子としては、絶縁性材料の電気的特性を劣化させることなく、この絶縁性材料(絶縁性粒子)中に分散することができるものであればよく、特に制限はない。炭化ケイ素(SiC)粒子等の導電性セラミックス粒子、モリブデン(Mo)粒子、タングステン(W)粒子、タンタル(Ta)粒子等の高融点金属粒子、炭素(C)粒子の群から選択される1種または2種以上であることが好ましい。特に絶縁性材料(絶縁性粒子)と固溶体や反応生成物を生成することのない導電性粒子を用いることが好ましい。
【0026】
ここで、導電性粒子が絶縁性材料(絶縁性粒子)と固溶体や反応生成物を生成した場合、電気的特性の温度変化が大きくなり、したがって、120℃での体積抵抗率が1013Ω・cm以上、耐電圧が5kV/mm以上の特性が得られなくなるので好ましくない。従って、本発明では、複合焼結体は、導電性粒子と絶縁性材料との固溶体や反応生成物ではないことが好ましい。
ただし、導電性粒子の表面等に不可避で存在する酸化物層等の非導電性成分が絶縁性材料(絶縁性粒子)と固溶体や反応生成物を形成した場合には、これらの固溶体や反応生成物は導電性粒子の電気的特性に影響を及ぼさないので全く問題はない。
【0027】
これらの導電性粒子のなかでも、炭化ケイ素(SiC)粒子は、それ自体が半導体であるから導電性を有している。その為、これを酸化アルミニウム(Al)粒子と複合化した場合、得られる複合焼結体は、電気的特性の温度依存性が小さく、ハロゲンガスに対する耐蝕性に優れ、耐熱性、耐熱衝撃性に富み、かつ高温下の使用においても熱応力による損傷の可能性が小さいので、好ましい。
【0028】
炭化ケイ素(SiC)粒子としては、導電性に優れることからβ型の結晶構造を有する炭化ケイ素粒子を使用することが好ましい。なお、この炭化ケイ素粒子の導電性を適正な範囲に制御するためには、炭化ケイ素粒子中の不純物として含まれる窒素の含有率を適宜制御することが好ましい。
炭化ケイ素(SiC)粒子としては、プラズマCVD法、前駆体法、熱炭素還元法、レーザー熱分解法等の各種の方法により得られた炭化ケイ素粒子を用いることができる。特に、本実施形態の誘電体材料を半導体プロセスにて用いる場合、半導体プロセスでの誘電体材料による汚染等の悪影響を防ぐために、純度の高いものを用いることが好ましい。
【0029】
複合焼結体を作製する場合、原料に用いる導電性粒子としては、平均粒子径の異なるものを2種や3種や4種など複数種混合した、混合導電性粒子として使用することが好ましい。
一例を挙げると、この混合導電性粒子には、粒子径が40nm以下の導電性粒子と、粒子径が80nm以上の導電性粒子が含まれていることが好ましい。粒子径が40nm以下の導電性粒子の量は任意で選択できるが、1〜40質量%であることが好ましく、20〜40質量%であることがより好ましい。
粒子径が80nm以上の導電性粒子の量は任意に選択できるが、1〜40 質量%であることが好ましく、20〜40質量%であることがより好ましい。また、この混合導電性粒子の粒度分布を測定した場合には、積算粒子径の含有率の曲線が粒子径に対して滑らかになっていることが好ましいが、必要に応じて複数のピークを有していても良い。
混合導電性粒子は粒子径が40nmより大きく80nmより小さい導電性粒子をさらに含む事も好ましい。量は任意で選択できるが、20〜98質量%であることが好ましく、20〜60質量%であることがより好ましい。
具体的な混合導電性粒子の例を挙げると、平均粒子径0.03μmのSiC粒子と、平均粒子径0.05μmのSiC粒子と、平均粒子径0.1μmのSiC粒子とを、質量比で1:1:1の割合で混合した混合粒子等が好適に用いられる。
なお前記粒子径は、TEM写真より計測した粒子径である。
【0030】
このように、原料に用いる導電性粒子の粒度分布を横に広くすることで、焼成過程での温度履歴や焼成雰囲気等の影響を受け難くなる。したがって、得られた焼結体である導電性粒子の微構造の変化が抑制され、その結果、複合焼結体中での導電性粒子の分散状態については、この複合焼結体の中心部と外周部とで差が無くなり、よって、この複合焼結体の面内において均一な誘電損失を得ることができる。
【0031】
この誘電体材料中における導電性粒子の含有率は、4質量%以上かつ20質量%以下であることが好ましく、5質量%以上かつ20質量%以下であることがより好ましく、5質量%以上かつ12質量%以下であることがさらに好ましい。
ここで、導電性粒子の含有率の範囲を上記の範囲とした理由は、導電性粒子の含有率が4質量%未満では、導電性粒子の量が絶縁性材料の量に対して少なすぎてしまい、良好な導電性が得られなくなる可能性があるので好ましくない。
【0032】
一方、導電性粒子の含有率が20質量%を超えると、導電性粒子の量が絶縁性材料の量に対して多すぎてしまい、この誘電体材料の耐電圧特性が低下する可能性があるので好ましくない。
また、20質量%を超えると導電性粒子が凝集し易くなる。その為、この凝集や焼成時の異常粒成長等により導電性粒子自体の粒子径が大きくなり易く、場合によっては2μm以上の導電性粒子が多く発生し易くなる。この粗い粒子を用いて成形・焼成して誘電体材料、すなわち複合焼結体を作製すると、この複合焼結体の板状試料を載置する側の上面がプラズマによりエッチングされ易くなる。よって、この複合焼結体の上面にスパッタ痕が形成されやすくなる可能性があり、シリコンウエハ等の板状試料を汚染させる原因となる可能性がある。
【0033】
本発明の誘電体材料は、成形・焼成して得られた複合焼結体中に、導電性粒子と絶縁性材料とが反応して生じた固溶体や化合物が存在していないことが重要である。
なお、この誘電体材料における導電性粒子の含有率は、使用する絶縁性材料の種類や必要な特性により異なるので、導電性粒子の含有率を使用する絶縁性材料の種類や必要な特性に応じて上記の範囲内で最適化することが好ましい。
【0034】
[誘電体材料の電気的特性]
(1)誘電率及び誘電損失
誘電体材料の誘電率及び誘電損失は、誘電率測定装置、例えば、誘電体測定システム126096W(東陽テクニカ社製)等を用いて測定することができる。
本発明の誘電体材料は、周波数40Hzにおける誘電率は10以上であることが好ましく、12以上であることがより好ましく、13以上であることがさらに好ましい。上限値はとくになく任意に選択できるが、例を挙げれば、200以下や、150以下であることを挙げることができる。
ここで、周波数を40Hzとしたのは、誘電体材料が実際に静電吸着力を発現するのは直流電圧を印加した場合であるが、直流で誘電率を測定する簡便な方法がない。従って、交流で誘電率を測定することを採用し、その際の周波数を実用的に最も低い周波数である40Hzとした。
【0035】
また、周波数40Hzにおける誘電率を10以上とした理由は、誘電体材料の誘電率は、電圧を印加したときに吸着力を発現するために表面に発生する電荷の量と相関しており、誘電率が大きいほど吸着力が大きくなるからである。特に、体積抵抗値が1013Ω・cm以上のクーロン型の静電チャック装置では、誘電率が10以上のときに十分な吸着力が得られるからである。この静電チャック装置では、さらに誘電率を12以上とすることで、静電チャック装置の表面に突起や溝を形成した場合においても、良好な吸着特性を得ることができる。
【0036】
本発明の誘電体材料では、その表面内にて周波数1MHzにおける誘電損失の最大値と最小値の差は0.002以下であることが好ましい。
周波数を1MHzとした理由は、静電チャック装置が使用されるプラズマ処理装置等の半導体製造装置においてはプラズマを発生させる高周波の周波数が13.56MHzまたは数十MHzであるため、誘電体材料に対しては、吸着特性に影響する誘電率よりも、高い周波数での誘電特性が求められるからである。
【0037】
誘電損失の大きさは、誘電体材料に高周波を印加したときに、この誘電体材料から生じる発熱量と比例しており、周波数が高いほど大きくなる。
ここで、誘電体材料の全体が同一の誘電損失を有し、同一の発熱量であれば、付設されている加熱装置や冷却装置を用いて温度管理を行うことができるので問題はない。しかしながら、誘電体材料の部分毎に誘電損失のばらつきがある場合には、誘電体材料の測定箇所毎に発熱量が変わってくる。その為、加熱装置や冷却装置では温度管理ができず、板状材料に温度分布が生じるので好ましくない。
これらを考慮すると、誘電体材料に温度分布が生じない誘電損失のばらつきの幅の上限は0.002である。そこで、この誘電損失のばらつきを0.002以下とすることで、誘電損失が高い場合においても均一な温度分布を得ることができる。
【0038】
(2)誘電損失の数値範囲
本発明の誘電体材料においては、周波数40Hzにおける誘電損失は0.01以上かつ0.05以下であることが好ましい。
ここで、周波数40Hzにおける誘電損失を上記の範囲とした理由は、周波数40Hzにおける誘電損失を0.01以上とすれば、電圧の印加を停止して板状材料を脱離させる際に、吸着力を発現する電荷が誘電損失によって消滅し易くなるからである。
特に、体積抵抗値が1013Ω・cm以上のクーロン型の静電チャック装置では、漏れ電流による電荷の消失が期待できない。そこで、優れた脱離特性を得るためには、誘電損失が0.01以上であることが好ましくなる。
【0039】
一方、周波数40Hzにおける誘電損失が0.05を超えると、この誘電体材料に高周波電圧を印加した場合に、この印加によって発熱が生じる可能性がある。その為、この発熱による温度上昇を、静電チャック装置に一般的に付設されている加熱装置や冷却装置では制御できなくなる可能性があるので好ましくない。
上記のように誘電損失が制御された誘電体材料は、誘電損失のばらつきが非常に小さい。その為、例えば、静電チャック装置の基体に使用した場合に、吸着特性及び脱着特性に優れ、板状試料の処理を均一に行うことができ、また、生産性を高めることができる。
【0040】
(3)体積抵抗率
誘電体材料の体積抵抗率は、3端子法にて測定することができる。
この誘電体材料の体積抵抗率は、20℃においても、また、120℃においても、1013Ω・cm以上であることが好ましい。その理由は、体積抵抗率が1013Ω・cm以上であれば、この誘電体材料に電圧を印加することで吸着力を発現する電荷が表面に発生し、クーロン型の静電チャック装置として機能するからである。一方、体積抵抗率が1013Ω・cm未満では、誘電体材料に印加した電圧により、この誘電体材料の内部を電荷が移動して漏れ電流が発生したり、あるいは耐電圧が低下したり等の不具合が生じるので好ましくない。誘電体材料の体積抵抗率の上限は任意に選択できるが、1015Ω・cm以下であることが好ましい。
【0041】
(4)耐電圧
この誘電体材料の耐電圧は、20℃においても、また、120℃においても、5kV/mm以上であることが好ましく、より好ましくは7kV/mm以上、さらに好ましくは8kV/mm以上である。ここで、耐電圧を5kV/mm以上とした理由は、耐電圧が5kV/mm未満であると、静電チャック装置として使用した場合に、吸着させるための電圧を5kV/mm以上に高めることができず、十分な吸着力が得られない可能性があるからである。上限値は任意に選択できるが、20kV/mm以下であることが好ましく、15kV/mm以下であってもよい。
【0042】
(5)熱伝導率
この誘電体材料の熱伝導率は、20W/m・K以上であることが好ましい。より好ましくは25W/m・K以上である。
ここで、熱伝導率を20W/m・K以上とした理由は、熱伝導率が20W/m・K未満であると、静電チャック装置として使用した場合に、付設されている加熱装置や冷却装置の温度を、吸着面内に均一に伝達することができないからである。上限値は任意に選択できるが、50W/m・K以下であることが好ましい。
【0043】
[誘電体材料の製造方法]
本実施形態の誘電体材料は、絶縁性材料の原料粉体と導電性粒子の原料粉体と分散媒とを混合してスラリーとし、このスラリーを噴霧乾燥して顆粒とし、この顆粒を1MPa以上かつ100MPa以下の加圧下にて焼成することにより、作製することができる。
【0044】
次に、この製造方法について詳細に説明する。
まず、絶縁性材料の原料粉体と導電性粒子の原料粉体と分散媒とを混合してスラリーとする。
【0045】
このスラリーに用いられる分散媒としては、水および有機溶媒が使用可能である。
有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、2−プロパノール、ブタノール、オクタノール等の一価アルコール類およびその変性体;α−テルピネオール等の単環式モノテルペンに属するアルコール類;ブチルカルビトール等のカルビトール類;
酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ブチルカルビトールアセテート、γ−ブチロラクトン等のエステル類;ジエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル(メチルセロソルブ)、エチレングリコールモノエチルエーテル(エチルセロソルブ)、エチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル等のエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、アセチルアセトン、シクロヘキサノン等のケトン類;ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素;ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミド類;が好適に用いられる。
これらの有機溶媒は、これらのうち1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0046】
このスラリーを調製する際に分散剤やバインダーを添加してもよい。
分散剤やバインダーとしては、例えば、ポリカルボン酸アンモニウム塩等のポリカルボン酸塩、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン等の有機高分子等が好適に用いられる。
【0047】
得られた誘電体材料内で誘電損失のばらつきを小さくするためには、スラリー内に生成する凝集体を破壊して微粒子とし、この微粒子の状態で均一に分散させることが重要である。
生成する凝集体を破壊するには、スラリー同士を高圧にて分散及び撹拌する、好ましくは衝突させる方法が好ましい。
その際の圧力としては、100MPa以上かつ250MPa以下が好ましい。その理由としては、生成する凝集体を破壊するためには100MPa以上の圧力が必要であるからであり、一方、装置の機械的強度を考慮すると、250MPaが限界であるからである。
【0048】
この分散処理の際には、超音波ホモジナイザー、ビーズミル等の分散機を用いて分散処理を加えることも好ましい。
なお、絶縁性粒子の原料粉体と導電性粒子の原料粉体が均一に混合されていないと、この不均一に混合されたスラリーを用いて複合化して得られる誘電体材料中の導電性粒子の分布も不均一となり、誘電損失等の電気的特性の再現性およびその焼結体内での組成の均一性が悪化する可能性がある。よって、分散媒や分散剤、分散処理条件を選定して均一に混合することが好ましい。
【0049】
次いで、このスラリーを噴霧乾燥法により噴霧乾燥する。噴霧乾燥装置は任意に選択できるが、スプレードライヤー等が好適に用いられる。
ここでは、スラリーを加熱された気流中に噴霧し乾燥することにより、スラリー中の絶縁性材料と導電性粒子とが均一に分散された状態で、分散媒のみが散逸し、絶縁性材料中に導電性粒子が均一に分散した顆粒(造粒粉)が得られる。この時の顆粒の平均粒子径は、30〜150μmであることが好ましく、50〜100μmであることがより好ましい。この平均粒子径は振動篩を用いて測定された値である。
【0050】
次いで、この顆粒を通常の成形手段から選択できる方法により所定形状に成形し、成形体とする。例えば、静電チャック装置の基体に用いられる誘電体材料を作製する場合には、成形し焼成して複合焼結体とした場合の形状や厚みを考慮して、成形体の形状や厚みを設定する必要がある。
次いで、この成形体を、焼成する。本実施形態では、この成形体を、0.2mm以下の平面度を有する板、好ましくはカーボン板にて挟む。ここで、前記板の表面の平面度を0.2mm以下とした理由は、前記板の表面に0.2mmより大きな凹凸があると、成形体への加圧が不均一になり、得られた複合焼結体に不均一な加圧に起因する焼結密度のばらつきが生じ、この焼結密度のばらつきが誘電損失のような電気的特性がばらつく要因となるからである。
【0051】
次いで、前記板にて挟まれた成形体を、所定の焼成雰囲気にて、任意に選択できる加圧下、好ましくは1MPa以上かつ100MPa以下、より好ましくは5 〜50MPaの加圧下にて焼成し、複合焼結体からなる誘電体材料とする。
ここで、焼成雰囲気としては任意に選択できるが、導電性粒子として導電性炭化ケイ素(SiC)粒子、モリブデン(Mo)粒子、タングステン(W)粒子、タンタル(Ta)粒子等を用いた場合、これらの酸化を防止する必要があることから、非酸化性雰囲気、例えば、アルゴン(Ar)雰囲気、窒素(N)雰囲気等が好ましい。
【0052】
ここで、焼成時の圧力を1MPa以上かつ100MPa以下とした理由は、圧力が1MPa未満では、得られた複合焼結体の焼結密度が低くなり、耐食性が低下する可能性があるからである。また、緻密な焼結体が得られず、導電性も高くなり、半導体製造装置用部材として使用する際に用途が限定されてしまい、汎用性が損なわれる可能性があるからである。一方、圧力が100MPaを超えると、得られた複合焼結体の焼結密度、導電性とも問題はないが、半導体装置用部材の大型化に伴い、大型の複合焼結体の焼成装置を設計する際に、加圧面積に制限が生じる可能性があるからである。
【0053】
また、焼成温度は、使用する絶縁性材料に用いられる通常の焼成温度を適用することができる。例えば、絶縁性材料に酸化アルミニウム(Al)を使用する場合には、1500℃以上かつ1900℃以下が好ましい。
ここで、絶縁性材料に酸化アルミニウム(Al)を使用した成形体を1500℃以上かつ1900℃以下にて焼成することが好ましい理由は、焼成温度が1500℃未満では、焼結が不十分なものとなり、緻密な複合焼結体が得られなくなる可能性があるからであり、一方、焼成温度が1900℃を超えると、焼結が進みすぎて異常粒成長等が生じる等の可能性があり、その結果、緻密な複合焼結体が得られなくなる可能性があるからである。
また、焼成時間は、緻密な複合焼結体が得られるのに十分な時間であればよく、例えば、1〜6時間程度である。
【0054】
このようにして得られた本実施形態の誘電体材料は、絶縁性材料と導電性粒子とが固溶や反応などをせずに均一に分散することで、絶縁性材料の絶縁性を低下させることなく誘電体材料の誘電率を増加させることができる。したがって、広い温度範囲において高い絶縁性と高い誘電率を両立させることができる。
以上により、本実施形態の誘電体材料は、誘電損失の面内ばらつきが小さく、静電チャック装置用基体として好適に用いることができる。
【0055】
本実施形態の誘電体材料によれば、絶縁性材料中に導電性粒子を分散してなる複合焼結体の周波数40Hzにおける誘電率を10以上、かつ、この複合焼結体の表面内にて周波数1MHzにおける誘電損失の最大値と最小値の差を0.002以下としたので、複合焼結体の誘電率及び誘電損失の最大値と最小値の差を制御することにより、静電吸着力、脱着応答性及び耐電圧を向上させることができ、複合焼結体の表面内における温度差を極めて小さくすることができる。したがって、誘電体材料の信頼性を向上させることができる。
【0056】
また、この誘電体材料の体積抵抗率、耐電圧、熱伝導率、周波数40Hzにおける誘電損失のうちいずれかの特性またはこれら複数の特性を制御することにより、静電吸着力、脱着応答性及び耐電圧をさらに向上させることができ、複合焼結体の表面内における温度差を無くすことができる。したがって、誘電体材料の信頼性を長期に亘って維持することができる。
【0057】
[静電チャック装置]
図1は、本発明の一実施形態の静電チャック装置の例を示す断面図である。この静電チャック装置1においては、上面(一主面)2aがシリコンウエハ等の各種ウエハ(板状試料)Wを載置する載置面であるため静電チャック部材(基体)2と、この静電チャック部材2の下面(他の一主面)2b側に設けられた静電吸着用電極3とにより、静電チャック部4が構成されている。そして、この静電吸着用電極3には、シート状またはフィルム状の(第1の)有機系接着剤層5を介してシート状またはフィルム状の絶縁層6が接着される。このシート状またはフィルム状の絶縁層6及び静電チャック部4には、(第2の)有機系接着剤層7を介して、静電チャック部4を支持するとともにウエハWを温度調節するベース部(基台)8が接着されている。
【0058】
以下、この静電チャック装置1について詳細に説明する。
静電チャック部材2は、本実施形態の誘電体材料からなる円板状の部材である。その厚みは0.3mm以上かつ5mm以下が好ましく、0.4mm以上かつ3mm以下がより好ましい。その理由は、静電チャック部材2の厚みが0.3mmを下回ると、静電チャック部材2の機械的強度を確保することができない可能性があるからである。一方、静電チャック部材2の厚みが5mmを上回ると、ウエハWを吸着する上面2aと静電吸着用電極3との間の距離が増加し、吸着力が低下する。その低下とともに、静電チャック部材2の熱容量が大きくなり、載置されるウエハWとの熱交換効率が低下し、ウエハWの面内温度を所望の温度パターンに維持することが困難になるからである。
【0059】
この静電チャック装置1の温度分布に係わる特性を向上させるためには、この静電チャック部材2のウエハWを載置する上面2aの表面粗さRaは0.002μmより大であることが好ましく、0.005μmより大であることがより好ましい。
ここで、上面2aの表面粗さRaを0.002μmより大とした理由は、表面粗さRaが0.002μm以下であると、この上面2aにおける熱伝達効果が不十分なものとなるので、好ましくないからである。
【0060】
一方、この静電チャック装置1のパーティクルの発生に対する不具合を無くすためには、静電チャック部材2のウエハWを載置する上面2aは鏡面研磨されていることが好ましい。この上面2aの表面粗さRaは0.5μm以下であることが好ましく、0.15μm以下であることがより好ましい。
また、この静電チャック部材2の上面2a、すなわちウエハWの吸着面とウエハWとの間にHeガス、Nガス等の熱媒体を循環させる流路を形成することとしてもよい。
さらに、この静電チャック部材2の上面2aに突起、溝、突起および溝、のいずれかを形成して凹凸面としてもよい。
【0061】
静電吸着用電極3は、電荷を発生させて静電吸着力でウエハWを静電チャック部材2の上面2aに固定するための静電チャック用電極として用いられる。その用途によって、その形状及び大きさが適宜調整される。
この静電吸着用電極3を構成する材料としては、導電性を有する非磁性材料である金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)等の金属、チタン、タングステン、モリブデン、白金等の高融点金属、グラファイト、カーボン等の炭素材料、炭化ケイ素(SiC)、窒化チタン(TiN)、炭化チタン(TiC)、炭化タングステン(WC)等の導電性セラミックス、TiC−Ni系、TiC−Co系、BC−Fe系等のサーメット等が好適に用いられる。これらの材料の熱膨張係数は、静電チャック部材2の熱膨張係数にできるだけ近似していることが好ましい。
【0062】
この静電吸着用電極3の厚みは、特に限定されるものではないが、プラズマ発生用電極として使用する場合には、5μm以上かつ200μm以下が好ましく、特に好ましくは10μm以上かつ100μm以下である。その理由は、厚みが5μmを下回ると、充分な導電性を確保することができない可能性があるからである。一方、厚みが200μmを越えると、静電チャック部材2と静電吸着用電極3との間の熱膨張率差に起因して、静電チャック部材2と静電吸着用電極3との接合界面にクラックが入り易くなるとともに、静電吸着用電極3の下面全体を有機系接着剤層5で覆うことができなくなり、この静電吸着用電極3の側面方向の絶縁性が低下する可能性があるからである。
【0063】
このような厚みの静電吸着用電極3は、スパッタ法や蒸着法等の成膜法、あるいはスクリーン印刷法等の塗工法により容易に形成することができる。
この静電チャック部4では、その上面2aにウエハWを載置し、このウエハWと静電吸着用電極3との間に所定の電圧を印加することにより、静電気力を利用してウエハWを静電チャック部材2の上面2aに吸着固定することが可能な構造となっている。
【0064】
有機系接着剤層5は、アクリル、エポキシ、ポリエチレン等からなるシート状またはフィルム状の接着剤であり、熱圧着式の有機系接着剤シートまたはフィルムであることが好ましい。
好ましい理由は、熱圧着式の有機系接着剤シートまたはフィルムは、静電吸着用電極3上に重ね合わせて、真空引きした後、熱圧着することにより、静電吸着用電極3との間に気泡等が生じ難く、したがって、剥がれ難くなり、静電チャック部4の吸着特性や耐電圧特性を良好に保持することができるからである。
【0065】
この有機系接着剤層5の厚みは、特に限定されるものではない。接着強度及び取り扱い易さ等を考慮すると、5μm以上かつ100μm以下が好ましく、より好ましくは10μm以上かつ50μm以下である。
厚みが5μm以上かつ100μm以下であれば、この有機系接着剤層5と静電吸着用電極3の下面との間の接着強度が向上し、さらに、この有機系接着剤層5の厚みがより均一になる。その結果、静電チャック部材2とベース部8との間の熱伝達率が均一になり、載置されたウエハWの加熱特性あるいは冷却特性が均一化され、このウエハWの面内温度が均一化される。
【0066】
なお、この有機系接着剤層5の厚みが5μmを下回ると、静電チャック部4とベース部8との間の熱伝達性は良好となるものの、有機系接着剤層5の厚みが薄くなりすぎる可能性がある。このことから、この有機系接着剤層5と静電吸着用電極3の下面との間の接着強度が弱くなり、この有機系接着剤層5と静電吸着用電極3の下面との間に剥離が生じ易くなる可能性があるので好ましくない。一方、厚みが100μmを超えると、有機系接着剤層5の厚みが厚くなりすぎる可能性があることから、静電チャック部4とベース部8との間の熱伝達性を十分確保することができなくなり、ウエハWを温度調節する場合の加熱効率あるいは冷却効率が低下するので、好ましくない。
【0067】
このように、有機系接着剤層5をシート状またはフィルム状の接着剤としたことにより、有機系接着剤層5の厚みが均一化され、静電チャック部材2とベース部8との間の熱伝達率が均一になる。よって、ウエハWの温度調節機能の向上により加熱特性あるいは冷却特性が均一化され、このウエハWの面内温度が均一化される。
【0068】
絶縁層6の形成には、静電チャック部4における印加電圧に耐えうる絶縁性樹脂からなるシート状またはフィルム状の絶縁性材料であり、例えば、ポリイミド、ポリアミド、芳香族ポリアミド等が好適に用いられる。この絶縁層6の外周部は、静電チャック部材2の外周部より内側とされている。
このように、絶縁層6を静電チャック部材2より内側に設けることで、この絶縁層6の酸素系プラズマに対する耐プラズマ性、腐食性ガスに対する耐腐食性が向上し、パーティクル等の発生も抑制される。
【0069】
この絶縁層6の厚みは任意で選択されるが、40μm以上かつ200μm以下が好ましく、より好ましくは50μm以上かつ100μm以下である。
この絶縁層6の厚みが40μmを下回ると、静電吸着用電極3に対する絶縁性が低下し、静電吸着力も弱くなり、ウエハWを上面2a(載置面)に良好に固定することができなくなる可能性があるからである。一方、厚みが200μmを超えると、静電チャック部4とベース部8との間の熱伝達性を十分確保することができなくなり、ウエハWの温度調節機能の低下、すなわち加熱効率あるいは冷却効率が低下する可能性があるからである。
【0070】
有機系接着剤層7は、静電チャック部4及び絶縁層6とベース部8とを接着・固定する。有機系接着剤層7は、静電吸着用電極3、有機系接着剤層5及び絶縁層6を覆うように設けられたことにより、酸素系プラズマや腐食性ガスから保護する。耐プラズマ性が高く、熱伝導率が高く、ベース部8からの温度調節効率、すなわち加熱効率あるいは冷却効率が高い材料が好ましい。例えば、耐熱性、弾性に優れた樹脂であるシリコーン系樹脂組成物が好ましい。
【0071】
このシリコーン系樹脂組成物は、シロキサン結合(Si−O−Si)を有するケイ素化合物であり、例えば、熱硬化温度が70℃〜140℃のシリコーン樹脂を用いることが好ましい。
ここで、熱硬化温度が70℃を下回ると、静電チャック部4及び絶縁層6とベース部8とを接合する際に、接合過程の途中で硬化が始まってしまい、接合作業に支障を来す可能性があるので好ましくない。一方、熱硬化温度が140℃を超えると、静電チャック部4及び絶縁層6とベース部8との熱膨張差を吸収することができない可能性がある。その結果、静電チャック部材2の載置面における平坦度が低下するのみならず、静電チャック部4及び絶縁層6とベース部8との間の接合力が低下し、これらの間で剥離が生じる可能性があるので好ましくない。
【0072】
有機系接着剤層7の熱伝導率は、0.25W/mk以上が好ましく、より好ましくは0.5W/mk以上である。
ここで、有機系接着剤層7の熱伝導率を0.25W/mk以上と限定した理由は、熱伝導率が0.25W/mk未満では、ベース部8からの温度調節効率、すなわち加熱効率あるいは冷却効率が低下し、静電チャック部4の上面2aに載置されるウエハWを効率的に加熱あるいは冷却することができなくなる可能性があるからである。
【0073】
この有機系接着剤層7の厚みは、50μm以上かつ500μm以下が好ましい。
この有機系接着剤層7の厚みが50μmを下回ると、この有機系接着剤層7が薄くなりすぎてしまい、その結果、接着強度を十分確保することができなくなり、絶縁層6及び静電チャック部4とベース部8との間で剥離等が生じる可能性があるからである。一方、厚みが500μmを超えると、絶縁層6及び静電チャック部4とベース部8との間の熱伝達性を十分確保することができなくなり、加熱効率あるいは冷却効率が低下する可能性があるからである。
【0074】
さらに、この有機系接着剤層7の熱伝導率を、上記の有機系接着剤層5の熱伝導率及び絶縁層6の熱伝導率と同等またはそれ以上とすることで、この有機系接着剤層7の温度上昇を抑制することができ、この有機系接着剤層7の厚みのバラツキによる面内温度のバラツキを低減することができる。その結果、載置されるウエハWの温度を均一化することができ、このウエハWの面内温度を均一化することができるので、好ましい。
【0075】
この有機系接着剤層7には、平均粒径が1μm以上かつ10μm以下のフィラー、例えば、窒化アルミニウム(AlN)粒子の表面に酸化ケイ素(SiO)からなる被覆層が形成された表面被覆窒化アルミニウム(AlN)粒子が含有されていることが好ましい。
この表面被覆窒化アルミニウム(AlN)粒子は、シリコーン樹脂の熱伝導性を改善するために混入されたもので、その混入率を調整することにより、有機系接着剤層7の熱伝達率を制御することができる。
【0076】
ベース部8は、静電チャック部4に載置されるウエハWを、加熱あるいは冷却して温度を調整するための厚みのある円板状の温度調節用部材である。有機系接着剤層5、絶縁層6及び有機系接着剤層7を介して静電チャック部4を加熱あるいは冷却することにより、ウエハWを所望の温度パターンに調整することができる。このベース部8は外部の高周波電源(図示略)に接続されており、このベース部8の内部には、必要に応じて、加熱あるいは冷却用あるいは温度調節用の水、絶縁性の熱媒あるいは冷媒を循環させる流路が形成されている。
【0077】
このベース部8を構成する材料としては、熱伝導性、電気導電性、加工性に優れた金属、金属−セラミックス複合材料のいずれかであれば特に制限はない。例えば、アルミニウム(Al)、銅(Cu)、ステンレス鋼(SUS) 等が好適に用いられる。このベース部8の側面、すなわち少なくともプラズマに曝される面は、アルマイト処理、もしくは酸化アルミニウム、酸化イットリウム等の絶縁性の溶射材料にて被覆されていることが好ましい。
【0078】
このベース部8では、少なくともプラズマに曝される面にアルマイト処理または絶縁膜の成膜が施されていることにより、耐プラズマ性が向上する他、異常放電が防止され、したがって、耐プラズマ安定性が向上したものとなる。また、表面に傷が付き難くなるので、傷の発生を好ましく防止することができる。
【0079】
この静電チャック装置1では、静電チャック部4とベース部8との間の熱伝達率は100W/mK以上かつ3000W/m・K以下であることが好ましく、300W/m・K以上かつ1000W/m・K以下であることがより好ましい。
ここで、熱伝達率を100W/mK以上とした理由は、ベース部8を用いて誘電体材料からなる静電チャック部4の温度制御をする際の応答性を確保するためである。一方、熱伝達率を3000W/mK以下とした理由は、ベース部8と静電チャック部4との間の熱伝達率が3000W/mKを超えると、ベース部8からの熱量が静電チャック部4へ伝わらずに、接合部分から周辺外部へ飛散してしまい、外周部分近傍の温度制御がし難くなるからである。
【0080】
この静電チャック装置1では、静電チャック部4とベース部8との間の熱伝達率は、面内において、最大値と最小値の差が100W/mK以下であることが好ましい。その理由としては、最大値と最小値の差が100W/mKを超えると、ベース部8の温度を、吸着面内に均一に伝達することができないからである。
【0081】
この静電チャック装置1では、静電チャック部4とベース部8との間の有機系接着剤層7に静電チャック部4を加熱するためのヒーターを備えてもよい。このヒーターとしては、有機系接着剤層7の厚みを薄くするために、薄膜状のものを用いることが好ましい。
また、高周波による発熱をなくすためには、このヒーターの材質に、非磁性体の金属または導電性セラミックスを使用することが好ましい。
【0082】
本実施形態の静電チャック装置1によれば、本実施形態の誘電体材料を円板状の静電チャック部材2に用いた。その為、板状試料Wの静電吸着力及び脱着応答性を向上させることができ、静電チャック部材2自体の耐電圧を向上させることができる。さらに、板状試料Wを静電吸着する静電チャック部材2の上面2aにおける温度差を極めて小さくすることができる。したがって、板状試料Wの全面に亘って各種処理を均一に行うことができ、得られた製品の信頼性を向上させることができる。
【0083】
図2は、本実施形態の静電チャック装置の変形例を示す断面図である。この静電チャック装置11が上述した静電チャック装置1と異なる点は、静電吸着用電極3の下面を覆うように絶縁性セラミックスからなる支持板12が設けられ、この支持板12は、静電チャック部材2と一体化されるとともに、有機系接着剤層7を介してベース部8に接着されている点である。これ以外の点については、上述した静電チャック装置1と同様であるから、説明を省略する。
【0084】
支持板12の成分である絶縁性セラミックスとしては、上述した静電チャック部材2に用いられる絶縁性セラミックスと同一組成の絶縁性セラミックスであってもよく、異なる組成の絶縁性セラミックスであってもよい。
【0085】
特に、支持板12と静電チャック部材2との間の熱膨張差による反りや微細クラックの発生等を防止するためには、支持板12と静電チャック部材2それぞれに用いられている絶縁性セラミックスの熱膨張係数の差が10%以下であることが好ましい。この場合、支持板12と静電チャック部材2に同一の組成の絶縁性セラミックスを用いることがより好ましい。
また、高周波による発熱は絶縁性材料でも生じるので、用いる絶縁性セラミックスとしては、周波数1MHzにて測定した誘電損失のばらつきが0.002以下のものを使用することが好ましい。
【0086】
支持板12と静電チャック部材2とを一体化する方法としては様々な方法があり、例えば次のような方法がある。
(1)静電チャック部材2の下面2bに静電吸着用電極3となる電極材料を塗布し、この電極材料を覆うように、支持板12となる絶縁性セラミックス粉体を所定形状に成形した成形体を載置し、これらを所定の温度にて焼成することにより、静電チャック部材2、静電吸着用電極3及び支持板12を一体化する方法。
【0087】
(2)静電チャック部材2の下面2bに静電吸着用電極3となる電極材料を塗布し、この静電チャック部材2の下面2bのうち電極材料が塗布されていない領域に支持板12となる絶縁性セラミックス粉体を含む材料を塗布し、これらを所定の温度及び圧力にてホットプレスすることにより、静電チャック部材2、静電吸着用電極3及び支持板12を一体化する方法。
【0088】
これらの方法にて得られた静電チャック装置11では、支持板12と静電チャック部材2とを合わせたセラミックス部材の厚みは、5mm以下とすることが好ましく、より好ましくは3mm以下である。下限値は任意に選択できるが0.1 mm以上であることが好ましい。
セラミックス部材の厚みを5mm以下と薄くすることで、誘電損失による発熱量を減らすことができ、温度分布をより均一にすることができる。
【0089】
この静電チャック装置11に載置される板状試料を加熱する必要がある場合には、支持板12と静電チャック部材2のうちいずれか一方または双方の内部に、板状試料を加熱するためのヒーターを埋め込んでもよい。
ここで、ヒーターを埋め込んだ場合の支持板12と静電チャック部材2とを合わせたセラミックス部材の厚みは、7mm以下とすることが好ましく、より好ましくは5mm以下である。
【0090】
この静電チャック装置11においても、上述した静電チャック装置1と同様の作用、効果を奏することができる。
しかも、静電吸着用電極3の下面が絶縁性セラミックスからなる支持板12により覆われているので、昇温時の反りを低減させることができる。
また、支持板12も絶縁性セラミックスにより構成されているので、静電チャック装置11の耐久を高めることができる。
【実施例】
【0091】
以下、実施例及び比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例のみによって限定されるものではない。
【0092】
「実施例1」
平均粒子径が0.03μmの炭化ケイ素(SiC)粉体と、平均粒子径が0.05μmの炭化ケイ素(SiC)粉体と、平均粒子径が0.1μmの炭化ケイ素(SiC)粉体とを、質量比で1:1:1の割合で混合し、炭化ケイ素(SiC)混合粉体を得た。
次いで、この炭化ケイ素(SiC)混合粉体が8質量%、平均粒子径が0.1μmの酸化アルミニウム(Al)粉体が92質量%となるようにこれらを秤量し、これらの粉体の全質量100質量部に対して水を72質量部添加して撹拌し、スラリーを得た。
【0093】
次いで、このスラリーを湿式ジェットミル装置((株)スギノマシン HJP−25010)に投入し、150MPaの圧力にて加圧し、スラリー同士を斜向衝突させることで120分間の分散処理をし、分散液を得た。
次いで、この分散液を、スプレードライヤーを用いてスプレーし200℃にて乾燥し、酸化アルミニウム(Al)の含有率が92質量%のAl−SiC複合粉体を得た。
【0094】
次いで、このAl−SiC複合粉体を成形機を用いて所定形状に成形した。次いで、この成形体を平面度が0.1mmのカーボン板に挟み、この成形体をカーボン板にて挟んだ状態でホットプレスに収納し、アルゴン(Ar)雰囲気下、1650℃、圧力25MPaにて2時間焼成を行い、Al−SiC複合焼結体を得た。
次いで、この複合焼結体に機械加工を施して、直径300mm、厚み1.0mmの円板状に加工し、実施例1のAl−SiC複合焼結体からなる誘電体板を作製した。
【0095】
「実施例2」
炭化ケイ素(SiC)混合粉体を11質量%、酸化アルミニウム(Al)粉体を89質量%とした以外は、実施例1と同様にして、実施例2のAl−SiC複合焼結体からなる誘電体板を作製した。
【0096】
「実施例3」
炭化ケイ素(SiC)混合粉体を9質量%、酸化アルミニウム(Al)粉体を91質量%とした以外は、実施例1と同様にして、実施例3のAl−SiC複合焼結体からなる誘電体板を作製した。
【0097】
「実施例4」
炭化ケイ素(SiC)混合粉体を、9質量%に対して平均粒子径が0.1μmの酸化アルミニウム(Al)粉体を91質量%とし、さらに、焼成温度を1800℃、圧力を40MPaとした以外は、実施例1と同様にして、実施例4のAl−SiC複合焼結体からなる誘電体板を作製した。
【0098】
「実施例5」
平均粒子径が0.03μmの炭化ケイ素(SiC)粉体と、平均粒子径が0.05μmの炭化ケイ素(SiC)粉体と、平均粒子径が0.1μmの炭化ケイ素(SiC)粉体とを、質量比で1:2:1の割合で混合し、炭化ケイ素(SiC)混合粉体を得た。この炭化ケイ素(SiC)混合粉体10質量%に対して平均粒子径が0.1μmの酸化アルミニウム(Al)粉体を90質量%とした以外は、実施例1と同様にして、実施例5のAl−SiC複合焼結体からなる誘電体板を作製した。
【0099】
「実施例6」
炭化ケイ素(SiC)混合粉体を12質量%、酸化アルミニウム(Al)粉体を88質量%とした以外は、実施例1と同様にして、実施例6のAl−SiC複合焼結体からなる誘電体板を作製した。
【0100】
「実施例7」
平均粒子径が0.03μmの炭化ケイ素(SiC)粉体と、平均粒子径が0.05μmの炭化ケイ素(SiC)粉体と、平均粒子径が0.1μmの炭化ケイ素(SiC)粉体とを、質量比で1:1:1の割合で混合し、炭化ケイ素(SiC)混合粉体を得た。
次いで、この炭化ケイ素(SiC)混合粉体が10質量%、平均粒子径が0.1μmの酸化イットリウム(Y)粉体が90質量%となるようにこれらを秤量し、これらの粉体の全質量100質量部に対して水を72質量部添加して撹拌し、スラリーを得た。
【0101】
次いで、このスラリーを湿式ジェットミル装置に投入し、150MPaの圧力にて加圧し、スラリー同士を斜向衝突させることで分散処理し、分散液を得た。
次いで、この分散液を、スプレードライヤーを用いてスプレーし200℃にて乾燥し、酸化イットリム(Y)の含有率が90質量%のY−SiC複合粉体を得た。
【0102】
次いで、このY−SiC複合粉体を成形機を用いて所定形状に成形した。次いで、この成形体を平面度が0.1mmのカーボン板に挟み、この成形体をカーボン板にて挟んだ状態でホットプレスに収納し、アルゴン(Ar)雰囲気下、1500℃、圧力20MPaにて2時間焼成を行い、実施例7のY−SiC複合焼結体を得た。
次いで、この複合焼結体に機械加工を施して、直径300mm、厚み1.0mmの円板状に加工し、実施例7のY−SiC複合焼結体からなる誘電体板を作製した。
【0103】
「比較例1」
炭化ケイ素(SiC)混合粉体を、平均粒子径が0.05μmの炭化ケイ素(SiC)粉体に替え、この炭化ケイ素(SiC)粉体8質量%に対して平均粒子径が0.1μmの酸化アルミニウム(Al)粉体を92質量%とした以外は、実施例1と同様にして、比較例1のAl−SiC複合焼結体からなる誘電体板を作製した。
【0104】
「比較例2」
炭化ケイ素(SiC)混合粉体を、平均粒子径が0.03μmの炭化ケイ素(SiC)粉体に替え、この炭化ケイ素(SiC)粉体10質量%に対して平均粒子径が0.1μmの酸化アルミニウム(Al)粉体を90質量%とした以外は、実施例1と同様にして、比較例2のAl−SiC複合焼結体からなる誘電体板を作製した。
【0105】
「比較例3」
炭化ケイ素(SiC)混合粉体を、平均粒子径が0.05μmの炭化ケイ素(SiC)粉体に替え、この炭化ケイ素(SiC)粉体9質量%に対して平均粒子径が0.1μmの酸化アルミニウム(Al)粉体を91質量%とし、さらに、焼成温度を1800℃、圧力を40MPaとした以外は、実施例1と同様にして、比較例3のAl−SiC複合焼結体からなる誘電体板を作製した。
【0106】
「比較例4」
炭化ケイ素(SiC)混合粉体を、平均粒子径が0.03μmの炭化ケイ素(SiC)粉体に替え、この炭化ケイ素(SiC)粉体12質量%に対して平均粒子径が0.1μmの酸化アルミニウム(Al)粉体を88質量%とした以外は、実施例1と同様にして、比較例4のAl−SiC複合焼結体からなる誘電体板を作製した。
【0107】
「比較例5」
炭化ケイ素(SiC)混合粉体を、平均粒子径が0.03μmの炭化ケイ素(SiC)粉体に替え、この炭化ケイ素(SiC)粉体32質量%に対して平均粒子径が0.1μmの酸化アルミニウム(Al)粉体を68質量%とした以外は、実施例1と同様にして、比較例5のAl−SiC複合焼結体からなる誘電体板を作製した。
【0108】
「誘電体板の評価」
実施例1〜7及び比較例1〜5それぞれの誘電体板に対して、体積抵抗率、誘電率、誘電損失、耐電圧及び温度分布を評価した。
ここでは、直径300mm、厚み1.0mmの誘電体板の中心1点と、外周部を90°ごとに4分割した4点(0°、90°、180°及び270°)の合計5点について、体積抵抗率、誘電率、誘電損失、耐電圧及び温度分布を測定し評価した。外周部は縁部から内部へ10mmの箇所を測定した。
これらの各項目の評価方法は下記のとおりである。
【0109】
(1)体積抵抗率
デジタル超高抵抗/電流計R83040A(アドバンテスト社製)を用いて、3端子法にて測定した。ここでは、印加電圧を500Vとし、この電圧を60秒間保持したときの電流値を基に体積抵抗率を算出した。測定した5点の体積抵抗率の平均値を表1に示す。体積抵抗率は1013Ω・cm以上であることが好ましい。この時の測定時の温度は20℃である。
【0110】
(2)誘電率及び誘電損失
誘電体測定システム126096W(東陽テクニカ社製)を用いて、40Hzにおける誘電率、及び40Hzと1MHzの誘電損失を測定した。測定した5点の誘電率の平均値を表1に示す。また、測定した5点それぞれの誘電損失の値を表2に示す。周波数40Hzにおける誘電損失は0.01以上かつ0.05以下であることが好ましく、誘電率は10以上であることが好ましい。
【0111】
(3)耐電圧
誘電体板を35mm角のシリコンウエハにて電極間の沿面放電が生じない様に挟み、10kV/mmまでは1kV/mm毎に、10kV/mm以上では0.5kV/mm毎に、所定の測定電圧まで電圧を上げ、この所定の測定電圧を印加した1分間保持後の電流値を測定した。この場合、1分間保持後の電流値が保持当初の時点での電流値と同等であった場合、さらに電圧を上げて、1分間保持後の電流値が保持当初の時点での電流値と比べて上昇している場合に、その印加電圧を耐電圧値とした。測定結果を表1に示す。誘電体材料の耐電圧は、5kV/mm以上であることが好ましい。この時の測定時の温度は20℃である。
【0112】
(4)温度分布
誘電体板における均熱性を調べるために、誘電体板の表面における温度分布を測定し評価した。
ここでは、誘電体板を用いて図1に示す静電チャック装置1の静電チャック部材2を作製し、この静電チャック部材2に13.56MHzの高周波を印加して、表面内の温度分布を赤外線サーモグラフィにて測定し、最高温度と最低温度の差を算出した。この温度差の結果を温度分布として表1に示す。温度分布は小さいほど好ましい。
【0113】
【表1】

【0114】
【表2】

【0115】
表1及び表2によれば、実施例1〜6の誘電体板では、比較例1〜4の誘電体板と比べて、誘電損失のばらつきが小さく、高周波を印加した際の温度分布が狭くなっていることが分かった。
比較例5の誘電体板では、体積抵抗率が10Ω・cmと大幅に低くなり、誘電率が2未満、耐電圧が2kV/mm未満となった。したがって、誘電体板の表面における温度分布及び40Hzと1MHzの誘電損失については測定していない。
【0116】
さらに、実施例1の誘電体板を用いた静電チャック装置1を用意して、静電チャック部材2とベース部8との間の熱伝達率を測定した。その結果、熱伝達率の平均値は625W/m・Kであり、熱伝達率の面内の最大値は630W/m・K、最小値は617W/m・Kであった。
このように、本実施形態の誘電体板を図1に示す静電チャック装置1の静電チャック部材2に用いることで、高周波を印加した際の温度分布が狭い静電チャック装置を提供することができることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0117】
十分な静電吸着力、良好な脱着応答性及び高い耐電圧が得られ、複合焼結体の表面内に温度差が生じず、しかも安価な誘電体材料、及び、この誘電体材料を基体に用いた静電チャック装置を提供する。
【符号の説明】
【0118】
1 静電チャック装置
2 静電チャック部材(基体)
2a 上面(一主面)
2b 下面
3 静電吸着用電極
4 静電チャック部
8 ベース部
11 静電チャック装置
12 支持板
W 板状試料
図1
図2