(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1の電極部及び第2の電極部の少なくとも一方の側壁面には、前記強プラズマ生成空間を挟んで隣り合う電極部の側壁面を切り欠いて形成された複数の切り欠き部が互いに間隔をおいて配置されていることを特徴とする請求項1に記載の成膜装置。
前記第1の電極部と第2の電極部との間の隙間の幅は、下方側に配置された基板の中央部側に対向する位置と、前記基板の周縁部側に対向する位置との間で異なっていることを特徴とする請求項1に記載が成膜装置。
前記複数の第2の電極部は、下方側に配置された基板の中央部側に対向する位置に設けられた第2の電極部と、前記基板の周縁部側に対向する位置に設けられた第2の電極部との間で、底面側から見た面積が異なっていることを特徴とする請求項1に記載が成膜装置。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施の形態として、隣り合って配置された電極部間に容量結合プラズマを形成し、H
2(第1の反応ガス)を活性化させてSH
4(第2の反応ガス)と反応させ、薄膜であるμc-Si膜の成膜を行う成膜装置の装置構成について
図1〜
図5を参照しながら説明する。
【0014】
図1に示すように、成膜装置1は、真空容器である処理容器10の内部に、成膜対象の基板Sが載置される載置台2と、載置台2上の基板S表面にH
2の活性種を供給するために強プラズマ生成空間101を形成すると共に、この活性種とSiH
4との反応を進行させる弱プラズマ生成空間102を形成するための電極部41と、を配置した構成となっている。
図1、
図2に示すように処理容器10は、密閉可能で扁平な金属製の容器として構成され、例えば1100mm×1400mm以上の大型のガラス基板Sを格納可能なサイズに構成されている。
【0015】
図中、11は処理容器10に設けられた基板Sの短辺が通過可能な搬入出口、12は搬入出口11を開閉するためのゲートバルブである。また処理容器10の側壁面には、処理容器10内を真空排気するための排気管13が設けられており、排気管13の下流側に設けられた不図示の真空ポンプの作用により、処理容器10内の空間を例えば100Pa〜2000Paに調節することができる。以下、処理容器10内に設置された基板Sの短辺方向を縦方向とし、基板Sの長辺方向を横方向として説明を行う。
【0016】
処理容器10内の床面には、誘電体などからなる載置台2が配置されており、この載置台2上に既述の基板Sを載置してμc-Si膜の成膜が実行される。基板Sの搬入出を行う外部の基板搬送機構(不図示)と載置台2との間の基板Sの受け渡しは、昇降板24を介して昇降機構25により昇降自在に構成された昇降ピン22を用いて行われる。
図1中、23は処理容器10内を真空雰囲気に保つため昇降ピン22を囲むように設けられたベローズである。
【0017】
載置台2には、例えば抵抗発熱体からなる温度調整部21が埋設されており、この温度調整部21は不図示の電力供給部から供給される電力により発熱し、載置台2の上面を介して基板Sを例えば200℃〜300℃の温度に調節することができる。ここで温度調整部21は基板Sを加熱するものに限られず、プロセス条件に応じて基板Sを冷却して所定の温度に調節する例えばペルチェ素子などを採用してもよい。
【0018】
本実施の形態に係る成膜装置1は、μc-Si膜の成長に必要な活性種SiH
3については基板S表面の近傍領域に高濃度で供給する一方で、SiやSiH、SiH
2などのSiH
3以外の活性種、高次シランやその微粒子などのμc-Si膜の膜質低下を引き起こす物質については基板S表面への供給を抑えるため、以下に列記する作用を得ることが可能な構成となっている。
【0019】
(1)H
2(第1の反応ガス)が供給される空間を強プラズマ生成空間101として構成し活性種であるHラジカルを得る。一方、このHラジカルとSiH
4(第2の反応ガス)とを反応させる基板Sの上面の空間は、前記強プラズマ生成空間101よりも発光強度の弱いプラズマを生成する弱プラズマ生成空間102として構成することにより不要な活性種の発生を抑えつつSiH
3を高濃度で基板S表面に供給する。
(2)HラジカルとSiH
4との混合ガスを基板S表面から速やかに排気することにより、HラジカルとSiH
4とのラジカル反応が必要以上に進行することに伴う不要な活性種の発生を抑制する。
以下、上述の作用を得るために成膜装置1に設けられている電極部41等の構成について説明する。
【0020】
図1、
図3、
図6に示すように、成膜装置1には載置台2に載置された基板Sの上方に、処理容器10内の空間を分割するように、横方向に互いに間隔をおいて配置された板状の電極部41が配置されている。各電極部41は例えば細長い板状の金属製部材として構成され、処理容器10の天井部(後述の絶縁部材31)から縦向きの姿勢で下方側へ伸び出すように配置されている。また電極部41の縦方向の長さは基板Sの短辺よりも長尺に形成されている。
【0021】
各電極部41は、基板Sの長辺の方向(横方向)に、等間隔で配置されており、これにより互いに隣り合う2本の電極部41の間には、基板Sの短辺方向(縦方向)に伸びる細長い空間(強プラズマ生成空間101)が形成される。各電極部41は絶縁部材31を介して処理容器10の天井部に固定されており、第1、第2の電源部61、62から高周波電力を供給することにより、この強プラズマ生成空間101にプラズマが生成されるが、電力供給系統の詳細な構成については後述する。
【0022】
図6に示すように、強プラズマ生成空間101を挟んで隣り合って配置されている電極部41間の距離wは、例えば2mm以上、20mm以下、より好適には4mm以上、10mm以下の範囲に調節されている。電極部41間の距離が2mmよりも小さくなると、強プラズマ生成空間101内にプラズマが立たなくなる一方、この距離が20mmよりも大きくなると、処理容器10に生成するプラズマが弱くなってHラジカルの生成量が低下し、成膜速度の低下などを引き起こす。
【0023】
また電極部41は、電極部41の下面と基板S表面との間の距離hが5mm以上、100mm以下、より好適には7mm以上、30mm以下に調節されている。電極部41と基板Sとの距離が100mmよりも大きくなると、弱プラズマ生成空間102に生成するプラズマが弱くなって成膜速度が低下する。また、電極部41と基板Sとの距離が5mmより小さくなった場合には、弱プラズマ生成空間102に生成するプラズマの強度が強プラズマ生成空間101に生成するプラズマの強度に近づいてしまい、SiH
4の分解などが過剰に進行して、μc-Si膜の膜質を低下させる要因となる。
【0024】
次いで、強プラズマ生成空間101や弱プラズマ生成空間102に反応ガスを供給し、反応後のガスを排気する機構について説明する。
図1、
図3に示すように、電極部41を固定している絶縁部材31の上面側には、処理容器10との間に空間が形成されており、この空間内には、強プラズマ生成空間101にH
2を供給するためのH
2供給路32が配設されている。
【0025】
H
2供給路32は、各強プラズマ生成空間101の上方側に配置されており、
図3、
図4、
図6に示すように電極部41の伸びる方向に沿ってH
2供給路32に接続された分岐路323、及び絶縁部材31に穿設されたH
2供給孔321を介して強プラズマ生成空間101内にH
2を供給することができる。
【0026】
図1〜
図3に示すように、これら複数本のH
2供給路32は共通のH
2供給ライン511に接続されており、H
2ボンベと流量調整弁などにより構成されるH
2供給部51から水素を受け入れて、予め設定された量のH
2を各強プラズマ生成空間101に供給することができる。H
2供給路32、H
2供給ライン511、H
2供給部51などは、本例の第1の反応ガス供給部に相当する。
【0027】
また
図1、
図3に示すように、各電極部41の内部には、弱プラズマ生成空間102にSiH
4を供給するためのSiH
4供給路42と、弱プラズマ生成空間102に供給された反応ガスを排出するための排気路43とが形成されている。
本例のSiH
4供給路42は、
図3中に破線で示すように、電極部41の下部側の領域であって、当該電極部41の両側壁面に近い領域にそれぞれ設けられ(合計2本)ており、電極部41の伸びる方向に沿って形成されている。
【0028】
各SiH
4供給路42からは、複数の分岐路423が互いに間隔をおいて下方側へ向けて伸び出しており、
図3、
図4、
図6に示すように電極部41の下面に形成され、電極部41の前後の両側壁面に沿って2列に並ぶSiH
4供給孔421から弱プラズマ生成空間102に向けてSiH
4を供給することができる。ここでSiH
4供給孔421は、電極部41の底面に設ける場合に限られるものではなく、例えばSiH
4供給路42から分岐路423を水平方向に伸ばして電極部41の下部側の側壁面にSiH
4供給孔421を形成し、強プラズマ生成空間101の下部側にSiH
4を供給するように構成してもよい。
【0029】
図1〜
図3に示すように、各電極部41の内部に形成されたSiH
4供給路42は共通のSiH
4供給ライン521に接続されており、SiH
4ボンベと流量調整弁などにより構成されるSiH
4供給部52からSiH
4を受け入れて、予め設定された量のSiH
4を供給することができる。SiH
4供給路42、SiH
4供給ライン521、SiH
4供給部52などは本例の第2の反応ガス供給部に相当する。
【0030】
さらに各電極部41の内部には、既述のSiH
4供給路42よりも内側の上方領域に2本の排気路43が、前記SiH
4供給路42と平行に電極部41の伸びる方向に沿って形成されている。これら2本の排気路43からも複数の分岐路433が互いに間隔をおいて下方側へ向けて伸び出しており、2本の分岐路433は途中で合流し、電極部41の下面に形成された排気孔431に接続されている。
図4に示すように排気孔431は、2列に並ぶSiH
4供給孔421の列に挟まれるように電極部41の下面の中央部に1列に配置されている。
【0031】
図1〜
図3に示すように、各電極部41の内部に形成された排気路43は共通の排気ライン531を介し、真空ポンプなどにより構成される外部の排気手段53に接続されており、弱プラズマ生成空間102の反応ガスを外部へと排出することができる。これら排気路43、排気ライン531や排気手段53などは本例の排気部に相当している。
【0032】
次いで、処理容器10内の各電極部41に高周波電力を供給する電力供給系統について説明する。
図5に示すように、強プラズマ生成空間101を挟んで一方側の電極部41(
図5に電極部41aと記してある)は、各電極部41aに例えば13.56MHz、2500W/本(1本の電極部)の高周波電力を印加する第1の電源部61(第1の高周波電源部)と接続されている。一方、強プラズマ生成空間101を挟んで他方側の電極部41(
図5中に電極部41bと記してある)は、第1の電源部61から供給される高周波電力に対して位相が180°遅れた(位相が反転した)、例えば13.56MHz、2500W/本の高周波電力を印加する第2の電源部62(第2の高周波電源部)に接続されている。図中、612、622は各電源部61、62から供給される高周波電力のマッチングを行う整合器である。
【0033】
図5に示した例では第1、第2の電源部61、62は、外部から入力された周波数信号に同期した高周波電力を出力することが可能な外部同期型の電源として構成されている。そして、これら第1、第2の電源部61、62を共通の周波数信号発生器63に接続する際に、第1の電源部61と周波数信号発生器63とを接続する第1の信号線611よりも第2の電源部62と周波数信号発生器63とを接続する第2の信号線621の方が長くなっている。
【0034】
これにより、周波数信号発生器63から出力された周波数信号は、第1の電源部61に入力されるタイミングより遅れて第2の電源部62に入力され、この遅れを利用して高周波電力の位相が調整される。本法により各電源部61、62から出力される高周波電力の位相を調整できることは、後述の実施例に示すように実験的に確かめてある。
但し、第1の電源部61と第2の電源部62との位相差を調整する手法は特定の方法に限定されるものではなく、他の方法を採用してもよい。例えば1つの高周波電源部の出力に強制バラン回路を接続し、当該強制バラン回路の一の出力を電極部41aに印加し、当該一の出力と位相が反転した他の出力を電極部41bに印加する構成としてもよい。
【0035】
このように強プラズマ生成空間101を挟んで隣り合う電極部41(41a、41b)に位相の反転した高周波電力を印加することにより、電極部41同士の隙間に供給されたH
2をプラズマ化してHラジカルを生成する強プラズマ生成空間101が形成される。また、各電極部41と、その下方側に載置された基板Sとの間にも電極部41に印加される高周波電力に起因するプラズマが形成される。
【0036】
ここで、互いに位相が反転し、いわゆるプッシュ-プルの状態で電極部41a、41bに高周波電力が印加される強プラズマ生成空間101とは異なり、載置台2上に載置された基板Sは、電気的に浮いた状態となっている。このため、各電極部41と基板Sとの隙間の空間(弱プラズマ生成空間102)には、強プラズマ生成空間101に形成されるプラズマよりも弱いプラズマが生成される。
【0037】
ここで強プラズマ生成空間101及び弱プラズマ生成空間102に形成されるプラズマの相対的な強度比、例えばプラズマ中の電子温度や電子密度の比は、処理容器10の内部を透過波長フィルタ付きCCDカメラにより撮影したときの発光強度の比で把握することができる。強プラズマ生成空間101の発光強度に対する弱プラズマ生成空間102の発光強度の比が1未満の場合に、弱プラズマ生成空間102には強プラズマ生成空間101に生成するプラズマよりも弱いプラズマが生成しているといえる。
【0038】
上述の構成を備えた成膜装置1は、
図1、
図5に示すように制御部7と接続されている。制御部7は例えば図示しないCPUと記憶部とを備えたコンピュータからなり、記憶部には当該成膜装置1の作用、つまり処理容器10内に基板Sを搬入し、載置台2上に載置された基板Sに所定の膜厚のμc-Si膜を成膜してから搬出するまでの動作に係わる制御等についてのステップ(命令)群が組まれたプログラムが記録されている。このプログラムは、例えばハードディスク、コンパクトディスク、マグネットオプティカルディスク、メモリーカード等の記憶媒体に格納され、そこからコンピュータにインストールされる。
【0039】
以上に説明した構成を備えた成膜装置1の作用について説明する。初めに外部の基板搬送機構よって基板Sが搬送されてくると、成膜装置1は搬入出口11のゲートバルブ12を開き、載置台2から昇降ピン22を突出させて基板搬送機構から基板Sを受け取る。
【0040】
基板Sの受け渡しを終えたら基板搬送機構を処理容器10の外に退避させてゲートバルブ12を閉じると共に、昇降ピン22を降下させて載置台2上に基板S載置する。また、この動作と平行して処理容器10内の真空排気を行い、処理容器10内を100Pa〜2000Paの範囲の例えば900Paに調節し温度調整部21により基板Sが例えば250℃となるように温度調節を行う。
【0041】
処理容器10内の圧力調節及び基板Sの温度調節を終えたら、H
2供給部51からH
2供給ライン511、H
2供給路32を介して、総量で例えば40000sccmのH
2を強プラズマ生成空間101に供給すると共に第1、第2の電源部61、62から各電極部41に高周波電力を印加してH
2をプラズマ化する。一方、SiH
4供給部52からSiH
4供給ライン521、SiH
4供給路42を介して例えば総量で400sccmのSiH
4を弱プラズマ生成空間102に向けて供給する。
【0042】
この結果、
図6に模式的に示すように、強プラズマ生成空間101内にはH
2供給路32から供給されたH
2が下方側へ向け流れる下降流が形成される。このH
2が電極部41から供給された電子と衝突することによりプラズマ化して活性種が形成される。H
2は2個の水素原子のみからなる分子なので、水素プラズマからは下記(1)式に示すように活性種としては水素ラジカルのみが生成される。
H
2+e
−→2H+e
−…(1)
【0043】
一方でSiH
4供給孔421から流出したSiH
4は、電極部41と基板Sとの間の弱プラズマ生成空間102に供給され、上流側から流れてきたHラジカルと混合されて基板Sの表面を広がる。この結果、基板Sの表面には、前記HラジカルとSiH
4との混合ガスが供給され、この混合ガス内で下記の(2)式に示す反応が進行する。
SiH
4+H→SiH
3+H
2 …(2)
こうして高濃度のSiH
3が基板S表面に供給され、このSiH
3から良質なμc-Si膜が基板Sの表面に成膜される。
【0044】
このとき、弱プラズマ生成空間102に強プラズマ生成空間101よりも弱いプラズマを形成することにより、後述の実験結果に示すように従来の平行平板を用いた容量結合型の成膜装置に比べてSiやSiH、SiH
2などの不要な活性種が生成されにくい条件を維持しつつ上記(2)の反応進行を進行させ、かつ基板Sへのイオンダメージを低減できる。
【0045】
また、例えば電極部41a、41bのいずれか一方側例えば41bを接地して強プラズマ生成空間101にプラズマを形成する場合には、接地された電極部41bと基板Sとの間の空間にはプラズマが生成されにくく、また電極部41aと基板Sとの間の空間には比較的強いプラズマが生成される。このため、弱プラズマ生成空間102内にプラズマが生成される領域と、プラズマが生成されない領域とが形成され、基板Sに形成されるμc-Si膜において良好な面内均一性が得られない場合がある。
【0046】
これに比べて、隣り合う電極部41a、41bの双方に逆位相の高周波電力を印加する場合には、いずれの電極部41についても基板Sとの間の空間で一様に弱いプラズマが生成されやすくなり、より面内均一性の高いμc-Si膜を得ることができる。
【0047】
また、混合ガス内では時間の経過につれて上記(2)式で生成されたSiH
3がさらにHラジカルと反応し、SiH
2、SiH、Siが順次生成されるので、これらの活性種やその重合体である高次シランや微粒子がμc-Si膜中に取り込まれ、その膜質を低下させることとなる。
【0048】
そこで本実施の形態に係る成膜装置1は、各電極部41の下面に弱プラズマ生成空間102内の反応ガスを排気する排気孔431が設けられている。そして処理容器10内はこの排気孔431を介して排気路43へ向けて常時真空排気されており、弱プラズマ生成空間102内を広がる混合ガスは、基板S表面に到達した後、流れ方向を上方側へ変え、排気孔431を介して処理容器10から速やかに排気される。
【0049】
このように電極部41の下面に排気孔431を設けることにより、基板S表面における混合ガスの滞留時間を短くし、弱プラズマ生成空間102内でHラジカルとSiH
4との反応を進行させた場合でも、基板S表面に高濃度のSiH
3を供給しつつ不要な活性種の生成を抑え、良好な膜質のμc-Si膜を得ることができる。
【0050】
以上に説明した構成により、(1)H
2が供給される空間を強プラズマ生成空間101として構成し活性種であるHラジカルを多量に得る一方、SiH
4が供給される空間を弱プラズマ生成空間102として構成し、成膜が行われる基板Sの上面に一様に弱いプラズマを形成することにより基板Sへのイオンダメージを抑えつつSiH
3を高濃度で基板S表面に供給できる。また、(2)HラジカルとSiH
4との混合ガスを基板S表面から速やかに排気することにより、HラジカルとSiH
4とのラジカル反応が必要以上に進行することに伴う不要な活性種の発生を抑制することができる。
【0051】
こうして予め設定した時間だけ基板S表面への成膜を実行し、所望の膜厚のμc-Si膜が得られたら、H
2及びSiH
4の供給、高周波電力の印加を停止して、外部の基板搬送機構により搬入時とは逆の動作で基板Sを処理容器10から搬出して一連の動作を終える。
【0052】
本実施の形態に係る成膜装置1によれば以下の効果がある。互いに間隔をおいて配置された板状の電極部41の一方と他方とに例えば180°の位相差を有する高周波電力を印加し、これら電極部41に挟まれた強プラズマ生成空間101にプラズマを発生させる一方、成膜が行われる弱プラズマ生成空間102にも前記強プラズマ生成空間101に形成されるプラズマよりも弱いプラズマを形成する。そして、強プラズマ生成空間101では、Hラジカルを生成する一方、弱プラズマ生成空間102ではこのHラジカルとSiH
4との反応を進行させることにより、欠陥の少ないμc-Si膜を基板S表面に均一に成膜できる。
【0053】
このように、隣り合う電極部41同士の距離wが2〜20mmの範囲に調整され、電極部41の下面と基板Sとの間の距離hが5〜100mmの範囲に調整された成膜装置において、基板Sにさらに均一な膜厚のμc-Si膜を成膜する手法を以下に列記する。
【0054】
例えば、
図7は各電極部41cの下面に、当該電極部41cの両側壁面側から中央部側へ向けて盛り上がるように傾斜する傾斜面部46を設け、基板Sから傾斜面部46の下端までの距離h
2よりも基板Sから電極部41cの両側壁面までの距離h
1の方が大きくなるように構成した例である。電極部41cの両側壁面は強プラズマ生成空間101の出口(開口部)に相当し、この領域の近傍に均一なプラズマが形成されることは後述のシミュレーションでも確認している。
【0055】
強プラズマ生成空間101の出口の位置よりも傾斜面部46の下端部の位置を基板Sに近づけて配置することにより、傾斜面部46の下端部と基板Sとの結合を相対的に強化し、その位置でのプラズマ強度を高めることができる。したがって強プラズマ生成空間101の出口付近に形成されるプラズマの強度を低減することができ、弱プラズマ生成空間102内のプラズマの均一性を高めることとなる。なお、本例においてはh
2について5〜100mmの範囲内に調整されることとなる。
【0056】
また、
図8、
図9に示すように処理容器10内の床面上に、キャスター部26を介して載置台2aを支持し、駆動機構27によって載置台2aを電極部41の並び方向に沿って往復移動させてもよい。強プラズマ生成空間101の出口近傍の電子密度が高い場合であっても、基板Sを横方向に往復移動させて、当該電子密度の高い領域と対向する基板Sの領域を移動させることにより、基板Sに成膜される膜厚を均一化することができる。
【0057】
次いで
図10は、基板Sに成膜されるμc-Si膜の成膜速度が速くなる領域の電極部41間の距離wを離して、当該領域における強プラズマ生成空間101内のプラズマの強度を低減することにより、膜厚の面内均一性を向上させる電極部41dの例を示している。例えばSiH
4供給孔421や排気孔431が密集している基板Sの中央側の領域は、処理容器10の内壁面に近く、中央側に比べてSiH
4供給孔421や排気孔431が少ない基板Sの側端領域に比べてHラジカルやSiH
4の供給量が多く、成膜速度が速くなる傾向がある。
【0058】
そこで
図10の平面図に示すように、成膜速度が速い領域において隣り合う電極部41d同士の距離w
1が大きくなるように電極部41dの側壁面に凹部44を形成している。この結果、成膜速度の遅い領域では、同速度が速い領域に比べて相対的に電極部41d同士の距離w
2が小さくなっている。このような構成を採用することにより、成膜速度が速くなる領域ではプラズマの強度を小さくして、成膜速度を均一化し、膜厚の面内均一性の向上を図ることが可能となる。
【0059】
ここで電極部41dの平面形状は、
図10に示した例に限られるものではない。例えば
図4に示した電極部41を用いて予備実験を行い、成膜速度が速くなる領域を特定し、この領域に位置する電極部41d間の距離wが相対的に大きくなるようにすることで、電極部41dの平面形状は適宜、調整することができる。
【0060】
また隣り合う電極部41の間隔の調整方法は、
図10に示したように電極部41d間の距離を一様に変化させる場合に限定されない。例えば
図11の電極部41eに示すように、距離がwの電極部41eの側壁面に間隔をおいて切り欠き部45を設け、この切り欠き部45における電極部41e、41の距離がw’となるようにしてもよい。これら切り欠き部45が設けられている領域と、切り欠き部45が設けられていない領域とにおける電極部41e、41の距離の平均値が既述のw
1となるように切り欠き部45の切り欠きの深さや配置間隔などを調整するとよい。
【0061】
次に、半導体装置の製造に用いられるウエハへの成膜に適した電極部41fを備えた成膜装置の構成例について
図12〜
図15を参照しながら説明する。
図12〜
図15においては、
図1〜
図5に示す第1の実施の形態と共通の機能を有する構成要素には、これらの図に示すものと共通の符号を付してある。
【0062】
半導体装置の製造工程にてウエハ上に成膜されるμc-Si膜は、太陽電池用の基板に成膜される場合に比べて、より高い水準の膜厚の面内均一性が求められる。
そこで、本例の成膜装置においては、
図12に示すように電極部41fの底面の形状を例えば正方形とし、これらの電極部41fが図中のX軸方向のみならず、Y軸方向にも互いに間隔をおいて配置されている点が、細長い板状の電極部41をX軸方向にのみ間隔をおいて配置した、第1の実施の形態に関わる成膜装置1と異なっている。言い替えると、
図12の電極部41fは、
図4に示した強プラズマ空間101が伸びる方向(Y軸方向)と交差する交差方向(X軸方向)にも強プラズマ空間101が形成されるように、当該電極部41をY軸方向にも分割することにより構成されているともいえる。
【0063】
一方、これらの電極部41fにおいても、強プラズマ生成空間101を挟んで隣り合って配置されている電極部41f間の距離は、例えば2mm以上、20mm以下、より好適には4mm以上、10mm以下の範囲に調節され、また、電極部41の下面と基板S表面との間の距離hが5mm以上、100mm以下、より好適には7mm以上、30mm以下に調節されている点は、第1の実施の形態と同じである。
【0064】
図13に拡大して示すように、各電極部41fの底面には、例えば正方形の四隅の位置に各々SiH
4供給孔421が設けられ、また、これらのSiH
4供給孔421に囲まれた中央部に排気孔431が設けられている。一方、隣り合う電極部41f同士の間には強プラズマ生成空間101が形成され、この強プラズマ生成空間101にH
2を供給するために、処理容器10の天井部を成す絶縁部材31にH
2供給孔321が設けられている点は、第1の実施の形態の成膜装置1と同じである。
【0065】
図14に示すように、これらSiH
4供給孔421やH
2供給孔321に対しては、絶縁部材31の上面側に設けられたSiH
4、H
2の供給路42、32、及び絶縁部材31や電極部41fを貫通する分岐路423、323を介してSiH
4ガスやH
2ガスが供給される。また、排気孔431に流れ込んだ混合ガスは、分岐路433や排気路43を介して外部へ排出される。なお、図が煩雑になることを避けるため、
図14においては供給・排気路42、32、43及び分岐路423、323、433を各々1組ずつだけ示してある。
【0066】
そして
図15に模式的に示すように、隣り合う電極部41fに対して位相の反転した高周波電力が印加されるように各電極部41fを第1、第2の電源部61、62に接続すると、
図12に白と灰色とで塗り分けて示すように、格子状に交差して伸びる強プラズマ生成空間101に囲まれて、位相の反転した電力が印加された電極部41fが市松模様のように並んだ状態となる。ここで
図15において、第1の電源部61に接続されている電極部41fに「41a」の符号を付し、第2の電源部62に接続されている電極部41fに「41b」の符号を付している点は、
図5の場合と同様である。
【0067】
電極部41fの底面の形状を例えば正方形としてこれらの電極部41fを前後左右に並べ、隣り合う電極部41fに位相の反転した電力を印加することにより、左右方向(
図12のX軸方向)のみならず、前後方向(
図12のY軸方向)へもプラズマが分散される。従って、電極部41fの下方側や、強プラズマ生成空間101の下方側の各領域において成膜速度に若干の違いがあったとしても、成膜速度の異なる領域が分散して配置されることになる。この結果、ウエハには、膜厚の異なる小さな領域がウエハの全面に分散して形成され、ウエハ全体を見ると膜厚の面内均一性が向上することになる。なお
図12には、電極部41fの下方側に配置されるウエハの外周の位置を一点鎖線で示してある。
【0068】
図16には、電極部41g〜41jの配置密度をウエハの中央側で小さく、周縁部側で大きくするために、正方形に形成された電極部41g〜41jの底面の一辺の長さを、中央部側から周縁部側へ向けて次第に長くなるように構成した例を示している。本例は、
図10に示した電極部41dの例に対応しており、例えばSiH
4供給孔421や排気孔431の配置密度の違いを相殺するように隣り合う電極部g〜41j同士の間隔を変化させることにより、成膜速度を均一化し、膜厚の面内均一性の向上を図っている。
【0069】
また、電極部の底面の形状は、正方形などの矩形形状に限られるものではなく、
図17に示すように底面が円形の電極部41kを用いてもよいし、他の形状のものを利用してもよい。また、互いに交差して格子状に伸びる強プラズマ形成空間101は、直交する場合に限定されず、強プラズマ形成空間101を斜めに交差させてもよい。この場合には、電極部の底面の形状は例えばひし形となる。
【0070】
図18は、互いに位相が反転した高周波電力が印加される電極部41m、41nのうち、一方側の電極部41m(第1の電極部)を一体化した例を示している。例えば、第1の電極部41mは、ウエハの板面の上方側を覆う幅広の金属板からなり、他方側の電極部41n(第2の電極部)が配置される位置に、当該第2の電極部41nの平面形状よりも一回り大きな開口部103が形成されている。そして、この開口部103内に第2の電極部41nを挿入することにより、前記開口部103の内側面と、その内側に配置された第2の電極部41nの外側面との間に隙間が形成され、この隙間が強プラズマ生成空間101となる。本例の開口部103は、既述の
図12に示した電極部41fと同様に、位相の反転した高周波電力が印加される電極部41m、41n(白と灰色に塗り分けて示してある)が市松模様状に並ぶように配列されている。本例のように第1の電極部41mを一体化することにより、第1の電極部41mや給電供給系統の部品点数を減らしてコスト低減を図ることができる。
【0071】
ここで、一体化された第1の電極部41mや、開口部103内に挿入される第2の電極部41nの形状は、
図18に示した例に限定されるものではない。
図19には、六角形に形成された第1の電極部41qに、六角形の開口部103を規則正しく配置し、この開口部103内に第2の電極部41pを挿入した例を示している。本例は、開口部103の間に挟まれた、第1の電極部41qの六角形状の領域(
図19中に破線で示してある)と、第2の電極部41pとがハニカム状に配列され、ウエハから見て対称性の高い電極部41q、41p配置となっている。この結果、反応ガスの流れやプラズマの分布の対称性を向上させ、均一な成膜を行うことができる。また、
図17に示したように、第2の電極部の形状を円形など他の形状にしてもよいし、
図16に示したように、第2の電極部の面積や強プラズマ空間101を成す隙間の幅をウエハの中央部側と周縁部側とで変化させてもよいことは勿論である。
【0072】
この他、ウエハを支持する載置台2の下面側中央部に鉛直軸周りに回転する回転軸を設け、載置台2上のウエハを回転させながら成膜を行うことにより、周方向の膜厚の面内均一性をさらに向上させてもよい。一方で、円板形状のウエハは、中央部側の位置と、外周部側の位置とで周方向の長さが異なっているので、例えば
図12に示すように、同じ大きさに形成され、市松模様のように配置された電極部41fの下方でウエハを回転させると、ウエハが一回転する間に、その上方を通り過ぎる電極部41fの数が、中央部側と外周部側とで異なってしまう。この結果、ウエハの外周部側が内周部側よりもプラズマ集中部分(例えば強プラズマ形成空間101の下方領域)に高い頻度で曝されることとなり、径方向で見ると成膜速度の不均一性が拡大する懸念もある。
【0073】
そこでウエハを回転させる場合には、
図20に示すように、ウエハの周方向に沿って伸びる強プラズマ空間101、及びこの方向と交差する方向、即ち、ウエハの径方向に沿って伸びる強プラズマ空間101によって分割された電極部41lを設けるとよい。このように分割された電極部41lは、ウエハの中央部側の位置と、外周部側の位置とでその上方に配置される電極部41lの数が同じであるので、ウエハが一回転する間にその上方を通過する電極部41l、及び径方向に伸びる強プラズマ形成空間101の数が揃っており、径方向で見たときの成膜速度の均一化を図ることができる。
【0074】
さらに、強プラズマ生成空間101に形成されるプラズマの強度を調整する手法として、第1、第2の電源部61、62から印加される高周波電力の位相差を180°よりも小さい、例えば30°以上〜180°未満の範囲に調整して、当該位相を反転させる(位相を180°ずらす)場合よりもプラズマ強度が小さくなるようにしてもよい。
また、電極部41に印加される高周波電力は、13.56MHzの例に限られるものではなく、他の周波数、例えば100MHzやこれ以外の高周波電力を印加してもよいことは勿論である。
【0075】
また、
図1に示した成膜装置1では、電極部41の下面に開口する排気孔431を介して弱プラズマ生成空間102内の反応ガスを外部へ排気する例を示したが、排気路43は電極部41内に形成する場合に限られない。例えば
図1に示した排気管13から排気を行っても良好な膜質が得られる場合には、この排気管13を排気部として利用する場合を否定するものではない。
【0076】
さらにまた本発明は、H
2とSiH
4とによるSi膜の成膜に適用する場合に限定されるものではない。例えば第1の反応ガスをH
2とし、第2の反応ガスをSiH
4以外のシリコン化合物ガス、例えばSiH
2Cl
2として微結晶Siを成膜する場合などにも適用することができる。
【実施例】
【0077】
(実験1)
隣り合う電極部41間に、位相が反転した高周波電力を印加する本例の成膜装置1と、隣り合う電極部41の一方側を接地した成膜装置とで弱プラズマ生成空間102のプラズマ強度及び、μc-Si膜の成膜速度分布を比較した。
【0078】
A.実験条件
(実施例1)
図1に示した成膜装置1につき、電極部41間の距離をw=5mm、電極部41の下面と基板Sとの距離をh=20mmとし、第1の電源部61から13.56MHz、400W/本の高周波電力を印加し、第2の電源部62から第1の電源部61の高周波電力とは位相が180°ずれた13.56MHz、600W/本の高周波電力を印加して、処理容器10内を透過波長フィルタ付きCCDカメラで撮影しプラズマの発光強度を計測した。また、H
2供給路32からH
2を1000sccmで供給し、SiH
4供給路42からSiH
4を10sccmで供給して、μc-Si膜の成膜速度の面内分布を計測した。処理容器10内の圧力は900Paである。
(
参考1)
第1の電源部61から印加する電力を500W/本とし、(実施例1)にて第2の電源部62に接続されていた電極部41を接地した点以外は、(実施例1)と同様の条件で発光強度、及びμc-Si膜の成膜速度の面内分布の計測を行った。
【0079】
B.実験結果
(実施例1)に係わる発光強度の計測結果の写真を
図21(a)に示し、(
参考例1)に係わる計測結果を
図21(b)に示す。また、(実施例1)、(
参考例1)におけるμc-Si膜の成膜速度の面内分を
図22に示す。
図22の横軸は、第2の電源部62に接続され、または接地されている電極部41の中心からの横方向への距離、縦軸はその位置におけるμc-Si膜の成膜速度[nm/秒]を示している。
図22中、(実施例1)の結果は菱形でプロットしてあり、(
参考例1)の結果は四角でプロットしてある。
【0080】
図21(a)と
図21(b)とを比較すると、(実施例1)に係わる
図21(a)では、隣り合って並ぶ電極部41下面の発光強度が同程度であるの対し、(
参考例1)では、第1の電源部61に接続された電極部41下面が明るく、接地された電極部41下面が暗くなっている様子がはっきりと現れている。
【0081】
このような発光強度の違いは、μc-Si膜の成膜速度の分布にも反映されており、
図22に示すように(実施例1)の成膜速度は各電極部41間で比較的均一であるのに対し、(
参考例1)の成膜速度は、接地された電極部41が配置されている領域で明らかに低い。これは(実施例1)では、各電極部41と基板Sとの間に弱いプラズマが均一に形成されてHラジカルとSiH
4の反応の進行が促進されているのに対し、(
参考例1)では接地された電極部41の下方にプラズマが形成されにくいため、HラジカルとSiH
4との反応が主として基板Sの加熱にのみ支配されている結果であると解釈できる。
【0082】
(シミュレーション2)
電極部41に傾斜面部46を設けた場合と設けない場合とにおける、弱プラズマ生成空間102内の電子密度の分布をシミュレーションした。
【0083】
A.シミュレーション条件
(実施例2−1)
図6に示した例につき、電極部41間の距離をw=10mm、電極部41の下面と基板Sとの距離をh=20mmとし、第1の電源部61から13.56MHz、400W/本の高周波電力を印加し、第2の電源部62から第1の電源部61の高周波電力とは位相が180°ずれた13.56MHz、600W/本の高周波電力を印加した状態における強プラズマ生成空間101、弱プラズマ生成空間102の電子密度分布をプラズマ流体モデルによりシミュレーションした。プラズマ流体モデルの参考文献としては、M.J.Kushner:J.Phys.D42、194013(2009)が挙げられる。なお処理容器10内の圧力は900Paとした。
(実施例2−2)
図7に示した例と同様に電極部41の下面に傾斜面部46を設け、h
1=20mm、h
2=10mmとした点以外は(実施例2−1)と同様の条件でシミュレーションを行った。
【0084】
B.シミュレーション結果
(実施例2−1)のシミュレーション結果を
図23(a)に示し、(実施例2−2)のシミュレーション結果を
図23(b)に示す。
図23(a)に示した(実施例2−1)の結果によれば、強プラズマ生成空間101の開口部の下部側に電子密度の高い領域が確認された。これに対して、
図23(b)に示す(実施例2−2)では、電極部41cの下面に、電極部41cの両側壁面側から中央部側へ向けて傾斜する傾斜面部46を設けることにより、(実施例2−1)で観察された電子密度の高い領域がかなり解消され、弱プラズマ生成空間102全体に渡り均一にプラズマが形成されている。これは傾斜面部46の先端で基板Sとの結合が強化されることで、強プラズマ生成空間101の出口において電子密度の集中が緩和されたものと考えられる。
【0085】
(実験3)
図5に示すように、周波数信号発生器63と第1、第2の電源部61、62とを第1、第2の信号線611、621を介して接続し、第2の信号線621の長さを変化させたときに第1、第2の電源部61、62から出力される高周波電力の波形をオシロスコープで測定した。
A.実験条件
(実施例3−1)
周波数信号発生器63から第1の電源部61までの第1の信号線611の長さを1mとし、周波数信号発生器63から第2の電源部62までの第2の信号線621の長さを8.4mとした。
(実施例3−2)
周波数信号発生器63から第2の電源部62までの第2の信号線621の長さを2.85mとした点以外は(実施例3−1)と同様である。
(実施例3−3)
周波数信号発生器63から第2の電源部62までの第2の信号線621の長さを4.7mとした点以外は(実施例3−1)と同様である。
【0086】
B.実験結果
(実施例3−1)〜(実施例3−3)における高周波電力の波形の測定結果を各々
図24(a)〜
図24(c)に示す。各図において第1の電源部61から出力される高周波電力の波形を実線で示し、第2の電源部62から出力される高周波電力の波形を破線で示してある。
【0087】
図24(a)に示した(実施例3−1)の場合、第1、第2の信号線611、621の長さの差を7.4mとすることで、第1、第2の電源部61、62から出力される高周波電力の位相差を180°ずらす(位相を反転させる)ことができた。また、
図24(b)に示す(実施例3−2)、
図24(c)に示す(実施例3−3)の場合にも、各々第1、第2の信号線611、621の長さの差を1.85m、3.7mとすることにより、高周波電力の位相差を45°、90°と変化させることがでた。これらの結果から、
図5に示すように周波数信号発生器63から入力される周波数信号に同期させて第1、第2の電源部61、62から高周波電力を出力する場合に、第1、第2の信号線611、621の長さを異ならせることにより、隣り合う電極部41に印加される高周波電力の位相差を調整できることを確認できた。
【0088】
(シミュレーション4)
処理容器10内の圧力を変化させたとき、基板Sの表面に形成される電界の強度をシミュレーションした。
【0089】
A.シミュレーション条件
(実施例4)
(実施例2−1)と同様の条件で処理容器10内の圧力を200〜1000Paまで200Pa刻みで変化させ、圧力の変化に対する電界の強度の変化をシミュレーションした。
(比較例4−1)隣り合う電極部41に同相(位相のずれが0°)の電力を印加する条件とした他は、(実施例4)と同様の条件でシミュレーションを行った。
(比較例4−2)電極間の隙間幅が5mmの平行平板の下部電極上に基板Sを載置し、13.56MHz、500Wの高周波電力を印加した場合における、圧力の変化に対する電界の強度の変化をシミュレーションした。
【0090】
B.シミュレーション結果
(実施例4、比較例4−1、4−2)のシミュレーション結果を
図25に示す。図の横軸は処理容器10内の圧力(Pa)を示し、縦軸は基板S上の電界の強度(V/m)を示す。また、(実施例4)の結果をひし形のプロットで示し、(比較例4−1、4−2)の結果を各々四角及び三角のプロットで示す。
図25に示した結果によれば、隣り合う電極部41に印加される高周波電力の位相を反転させた(位相を180°ずらした)、(実施例4)は、いずれの圧力においても(比較例2−1、2−2)に比べて基板S上の電界の強度が小さくなっている。従って、隣り合う電極部41に印加される高周波電力の位相が同相の場合や従来の平行平板に比べて、電界の強度が弱い、弱プラズマ生成空間102を形成することが可能であり、不要な活性種の発生を抑えつつSiH
3を高濃度で基板S表面に供給することができるといえる。
【0091】
(実験5)
SiH
4ガスに対するH
2ガスの供給比(H
2/SiH
4)を変化させたとき、成膜速度及び成膜されたμc-Si膜の結晶化度を測定した。
【0092】
A.実験条件
(実施例5)
(実施例2−1)と同様の条件でH
2/SiH
4の値を25(H
2、SiH
4を各々1000sccm、40sccm)、33(同1000sccm、30sccm)、50(1000sccm、20sccm)、100(1000sccm、10sccm)と変化させ、成膜速度及び、ラマン分光によりμc-Si膜の結晶化度(結晶化部分(Xc)の質量%に対応するピーク強度)を計測した。
(比較例5)隣り合う電極部41に同相(位相のずれが0°)の電力を印加した他は、(実施例5)と同様の条件で実験を行った。
【0093】
B.実験結果
(実施例5、比較例5)の実験結果を
図26に示す。図の横軸はH
2/SiH
4の値を示し、左側の縦軸は成膜速度(mm/秒)、右側の縦軸は結晶化度(Xc%)を示す。また、(実施例5)の結果をひし形のプロットで示し、(比較例5)の結果を四角のプロットで示す。各プロットのうち、黒く塗り潰したプロットは成膜速度、白抜きのプロットは結晶化度(結晶化部分のピーク強度%)を示している。
図26に示した結果によれば、H
2/SiH
4の値を変化させたとき、いずれの値においても(実施例5)の方が(比較例5)よりも成膜速度が遅かった。これは、シミュレーション4の結果からわかるように、隣り合う電極部41に印加する高周波電力の位相を反転させた方が、同相の場合よりも基板Sの表面の電界強度が小さく、弱プラズマ生成空間102における活性種の発生量が少ないためではないかと考えられる。一方、(実施例5、比較例5)のいずれの場合においてもH
2/SiH
4の値を小さくし、SiH
4ガスの相対的な供給量を増やすと成膜速度が上昇していることが分かる。
【0094】
また結晶化度については、H
2/SiH
4の値を変化させたとき、いずれの値においても(実施例5)の方が(比較例5)よりもμc-Si膜に含まれている結晶が多く、結晶化度の高い、良好な膜質のμc-Si膜が得られているといえる。また、(実施例5、比較例5)のいずれの場合においてもH
2/SiH
4の値を大きくし、H
2ガスの相対的な供給量を増やすと結晶化度が向上する傾向がみられる。従って、H
2/SiH
4の値をプロセス変数とすることにより、要求される膜質の品質を満たしつつ、より成膜速度の大きな条件を選択して成膜を行うことが可能であるといえる。