(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
近赤外線吸収ガラス基材および、前記近赤外線吸収ガラス基材の少なくとも一方の主面上に、近赤外線吸収色素および透明樹脂を含有する近赤外線吸収層を有する積層体と、
前記積層体の少なくとも一方の主面上に誘電体多層膜と、を備え、
波長775〜900nmの光に対する、入射角31〜60度での最大透過率が50%以下であり、
前記近赤外線吸収ガラス基材は、入射角0度の光に対する波長400〜1100nmの吸収スペクトルにおいて、波長775〜900nmに吸収極大波長λGmaxを有し、前記近赤外線吸収層は、波長650〜750nmに吸収極大波長λmaxを有する近赤外線吸収色素を含有し、前記誘電体多層膜は近赤外線反射性であり、以下の(1)〜(5)を満たす近赤外線カットフィルタであって、
(1)前記近赤外線吸収層のλmaxにおける透過率T(λmax)が、前記近赤外線吸収ガラスのλGmaxにおける透過率T(λGmax)に比べて低い。
(2)前記近赤外線吸収層は、透過率T(λmax)が5%以下である。
(3)前記近赤外線吸収ガラス基材は、透過率T(λGmax)が50%以下である。
(4)前記誘電体多層膜は、波長430〜660nmの光の平均透過率が90%以上で、波長700〜1200nm内に透過率が20%以下となる近赤外線反射帯を有する。
(5)近赤外線カットフィルタの、波長450〜550nmの光の透過率の平均値は80%以上である。
前記誘電体多層膜の近赤外線反射帯の短波長側で、入射角0度の光の透過率が50%となる波長をλSh(R0_T50%)および入射角30度の光のうちs偏光成分の透過率が50%となる波長をλSh(R30_Ts50%)、前記近赤外線吸収層のλmaxの短波長側で透過率が20%となる波長をλSh(D_T20%)および長波長側で透過率が20%となる波長をλLo(D_T20%)とし、
λSh(D_T20%)≦λSh(R30_Ts50%)<λSh(R0_T50%)≦λLo(D_T20%)…式(1)
を満たす近赤外線カットフィルタ。
前記誘電体多層膜は、波長800〜900nmの光に対する、入射角0度での最大透過率が1%以下であり、かつ、波長775〜900nmの光に対する入射角31〜60度での最大透過率が3%以上である、近赤外線反射性の誘電体多層膜を含む、請求項1〜9のいずれか1項に記載の近赤外線カットフィルタ。
波長550〜720nmにおいて、入射角0度の光の透過率が85%、45%、および5%となる波長λ(T85%)、波長λ(T45%)、および波長λ(T5%)は、{λ(T45%)−λ(T85%)}≧{λ(T5%)−λ(T45%)}…式(2)を満たす請求項1〜10のいずれか1項に記載の近赤外線カットフィルタ。
前記近赤外線吸収ガラス基材の前記近赤外線吸収層を有する側の表面において、前記近赤外線吸収ガラス基材の前記近赤外線吸収層側と対向する界面および表面の反射を除いて測定される、波長430〜600nmの光に対する、入射角5度での反射率が2%以下である、請求項1〜11のいずれか1項に記載の近赤外線カットフィルタ。
前記近赤外線吸収層の前記近赤外線吸収ガラス基材側と対向する面に前記誘電体多層膜を有し、前記近赤外線吸収層に接する誘電体膜の屈折率が1.4以上1.7以下である、請求項1〜12のいずれか1項に記載の近赤外線カットフィルタ。
前記近赤外線吸収色素は、シアニン系化合物、フタロシアニン系化合物、ナフタロシアニン系化合物、ジチオール金属錯体系化合物、ジイモニウム系化合物、ポリメチン系化合物、フタリド化合物、ナフトキノン系化合物、アントラキノン系化合物、インドフェノール系化合物およびスクアリリウム系化合物から選ばれる少なくとも1種を含む、請求項1〜20のいずれか1項に記載の近赤外線カットフィルタ。
前記紫外線吸収体は、オキサゾール系、メロシアニン系、シアニン系、ナフタルイミド系、オキサジアゾール系、オキサジン系、オキサゾリジン系、ナフタル酸系、スチリル系、アントラセン系、環状カルボニル系、トリアゾール系の色素から選ばれる少なくとも1種を含む、請求項2〜21のいずれか1項に記載の近赤外線カットフィルタ。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に本発明の実施の形態を説明する。
【0015】
[近赤外線カットフィルタ]
本発明の近赤外線カットフィルタ(以下、NIRフィルタともいう)は、近赤外線吸収ガラス基材および、前記近赤外線吸収ガラス基材の少なくとも一方の主面上に、近赤外線吸収色素および透明樹脂を含有する近赤外線吸収層を有する積層体と、前記積層体の少なくとも一方の主面上に形成された誘電体多層膜と、を備える。
【0016】
近赤外線吸収ガラス基材の主面上に近赤外線吸収層を備えるとは、主面上であれば該主面に必ずしも接する形に近赤外線吸収層を備えてなくてもよい。すなわち該主面と近赤外線吸収層の間に別の部材が存在してもよく、さらには空間が存在してもよい。同様に積層体の主面上に誘電体多層膜を有するとは、該主面に必ずしも接する形に誘電体多層膜を備えてなくてもよい。
【0017】
該NIRフィルタは、波長775〜900nmの光に対する、入射角31〜60度での最大透過率が50%以下である。該波長、該入射角度における最大透過率は、迷光、色や強度の面内不均一性等の発生原因を抑制するため低い方が好ましい。ここで、該NIRフィルタにおける、波長775〜900nmの光に対する入射角31〜60度での最大透過率は、30%以下が好ましく、10%以下がより好ましく、5%以下がさらに好ましく、3%以下がさらに好ましく、1%以下がさらに好ましく、0.5%以下がさらに好ましく、0.3%以下がさらにより好ましく、0.2%以下が特に好ましい。なお、ここでいう要件「波長775〜900nmの光に対する、入射角31〜60度での最大透過率が50%以下」(「要件A」と言う。)とは、下記の場合も含むものとして解釈する。
【0018】
具体的に、31〜60度で入射する波長775〜900nmの光の最大透過率が50%超となる波長を有する場合でも、その波長を含む半値波長全幅が1nm以下であれば、上記「要件A」を満たすものとする。また、31〜60度の範囲で、入射角によって最大透過率が50%超となる波長を有する場合でも、その入射角を含む半値入射角全幅が0.5度以下であれば、上記「要件A」を満たすものとする。上記「要件A」は、例えば、波長775〜900nmにおいて任意の10nm帯域毎の光の平均透過率を求め、得られた複数の値の中から最大透過率を得たとき、その値が50%以下であればよい。また、上記「要件A」は、例えば、31〜60度において任意の1度の角度範囲毎の光の平均透過率を求め、得られた複数の値の中から最大透過率を得たとき、その値が50%以下であればよい。上記の「要件A」を満たせば、画質劣化の原因が発生し難いと言える。なお、波長775〜900nmの光において、半値波長全幅が1nm以下、半値入射角全幅が0.5度以下であっても、最大透過率は50%以下がより好ましい。
【0019】
また、要件「波長775〜900nmの光に対する、入射角31〜60度での最大透過率がX%以下」(「要件X」を言う。)とする場合、Xは、50であればよいが上記のように30、10、5、3、1、0.5、0.3および0.2の順に好ましい値として与えられ、以下に具体例を示す。例えば、「要件X」においてX=1であるとき、波長775〜900nmの光における入射角31〜60度での最大透過率が1%超(X%超)となる波長を有する場合でも、その波長を含む半値波長全幅が1nm以下であれば、上記「要件X」を満たすものとする。さらに、上記「要件X」は、X=1であって、波長775〜900nmの光における入射角31〜60度での任意の10nm帯域毎の光の平均透過率を求め、得られた複数の値の中から最大透過率を得たとき、その値が1%以下(X%以下)であればよい。また、上記「要件X」は、X=1であるとき、31〜60度における入射角31〜60度での任意の1度の角度範囲毎の光の平均透過率を求め、得られた複数の値の中から最大透過率を得たとき、その値が1%以下(X%以下)であればよい。つまり、本発明のNIRフィルタは、Xの値に応じて段階的に好ましい仕様が与えられる。
【0020】
本発明のNIRフィルタにおける可視波長領域(以下「可視域」という)の光学特性については、波長450〜550nmの光における入射角0度での透過率の平均値は80%以上が好ましく、90%以上がより好ましい。また、本発明のNIRフィルタにおいては、近赤外波長領域(以下「近赤外域」という)のうち、波長650〜720nmの光における入射角0度での透過率の平均値は15%以下が好ましい。
【0021】
また、本発明のNIRフィルタは、波長650〜700nmの光における入射角0度での透過率の平均値は、35%以下が好ましく、30%以下がより好ましく、25%以下がさらに好ましい。さらに、本発明のNIRフィルタは、波長690〜720nmの光における入射角0度での透過率の平均値は、3%以下がさらに好ましい。
【0022】
本発明のNIRフィルタは、600nmよりも波長が長い領域において、入射角0度での透過率が50%となる波長λ
0(NIR)と入射角30度での透過率が50%となる波長λ
30(NIR)とを有し、前記波長の差の絶対値|λ
0(NIR)−λ
30(NIR)|は、5nm以下が好ましい。前記波長の差の絶対値|λ
0(NIR)−λ
30(NIR)|は、3nm以下がより好ましい。
【0023】
本発明のNIRフィルタは、波長600〜750nmの光において、入射角0度での透過率と入射角30度での透過率との差の絶対値の平均は、3%以下が好ましく、該絶対値の平均は2%以下がより好ましい。
【0024】
本発明のNIRフィルタは、前記近赤外線吸収ガラス基材の前記近赤外線吸収層を有する側の表面において、前記近赤外線吸収ガラス基材の前記近赤外線吸収層を有するのと反対側の界面および表面の反射を除いて測定される、波長430〜600nmの光に対する入射角5度での反射率は2.0%以下が好ましく、1.2%以下がより好ましい。
【0025】
本発明において吸収率、透過率、反射率は、分光光度計を用いて測定した値である。本明細書において、特定の波長領域で透過率が70%以上とは、その全波長領域の光において、透過率が70%以上をいい、透過率が10%以下とは、その全波長領域の光において、透過率が10%以下をいう。吸収率、反射率においても同様である。なお、特に断りのない限り光学特性の測定は、検体の主面に直交する方向から入射した光(入射角0度)に対して行う。なお、入射角とは主面の法線に対して光が入射する方向を示す直線のなす角度である。
【0026】
本発明のNIRフィルタは、近赤外線吸収ガラスと近赤外線吸収色素を含む近赤外線吸収層と誘電体多層膜とを効果的に用いた近赤外線遮蔽特性に優れる近赤外線カットフィルタである。該近赤外線カットフィルタは、近赤外域の特定波長領域(775〜900nm)の光に対し、比較的大きい入射角31〜60度での最大透過率を50%以下とする構成としたことで、これを用いた固体撮像装置において、撮像された画像に本来の被写体には存在しなかった像が出現する現象の発生を低減または防止できる。
【0027】
また、本発明の好ましい態様のNIRフィルタは、分光透過率曲線が可視域と近赤外域の境界付近で急峻な傾斜を有することで可視域の平均透過率が高く、さらに光の入射角に依存せずに十分な近赤外線遮蔽特性を有する近赤外線カットフィルタである。
【0028】
NIRフィルタは、具体的には、波長450〜550nmの可視域における光の入射角0度での透過率の平均値は80%以上が好ましく、85%以上がより好ましく、90%以上がさらに好ましい。
【0029】
NIRフィルタは、また、波長550〜720nmにおける光の、入射角0度での透過率が85%、45%、5%となる波長をそれぞれ、λ(T85%)、λ(T45%)、λ(T5%)とすると、下記式(2)の関係を満足するとよい。
{λ(T45%)−λ(T85%)}≧{λ(T5%)−λ(T45%)} ・・・ (2)
NIRカットフィルタは、近赤外線吸収層を備えることにより、入射角0〜30度の光に対して、誘電体多層膜により生成される近赤外反射帯の分光透過率曲線の変化を抑制できる。式(2)は、近赤外線吸収層を備えることで、透過率85〜45%に至る勾配よりも、透過率45〜5%に至る勾配が急峻となる遮光性を示している。
【0030】
本発明のNIRフィルタは、前記近赤外線吸収層がさらに紫外線吸収体を含有することが好ましい。この構成により、本発明のNIRフィルタは、波長430〜450nmの光において、入射角0度での透過率の平均値が70%以上であり、かつ波長350〜390nmの光において、入射角0度での透過率の平均値が5%以下である光学特性を実現できる。
【0031】
このように、本発明のNIRフィルタは、近赤外線吸収層が紫外線吸収体を含有することで、450nmよりも波長が短い領域において、入射角0度での透過率が50%となる波長をλ
0(UV)、入射角30度での透過率が50%となる波長をλ
30(UV)としたとき、前記波長の差の絶対値|λ
0(UV)−λ
30(UV)|を小さくできる。|λ
0(UV)−λ
30(UV)|は、5nm以下が好ましく、3nm以下がより好ましい。
【0032】
また、本発明のNIRフィルタは、近赤外線吸収層が紫外線吸収体を含有し、波長380〜430nmの光において、入射角0度での透過率と入射角30度での透過率との差の絶対値の平均は8%以下が好ましく、5%以下がより好ましい。
【0033】
近赤外線吸収層が紫外線吸収体を含有する本発明のNIRフィルタは、上記近赤外線遮蔽特性を有し、固体撮像装置において撮像された画像に本来の被写体には存在しなかった像が出現する現象の発生を低減または防止できる。加えて、分光透過率曲線が可視域と紫外波長領域(以下「紫外域」という)の境界付近で急峻な傾斜を有し、さらに波長500nm以下における光の透過率の入射角依存性が小さいことで、可視域の平均透過率をより高くした近赤外線カットフィルタを実現できる。
【0034】
以下、図面を用いて本発明のNIRフィルタの実施形態を説明する。
図1〜
図3は、本発明の実施形態に係るNIRフィルタの一例、別の一例、および、さらに別の一例をそれぞれ概略的に示す断面図である。
【0035】
図1に示される実施形態のNIRフィルタ10Aは、近赤外線吸収ガラス基材11と、近赤外線吸収ガラス基材11の一方の主面上に積層された、近赤外線吸収色素および透明樹脂を含有する近赤外線吸収層12とからなる積層体Lと、積層体Lの近赤外線吸収ガラス基材11側の主面上に積層された第1の誘電体多層膜13とを備える。
【0036】
なお、NIRフィルタ10Aの変形例としては、積層体Lが近赤外線吸収ガラス基材11の両主面上に近赤外線吸収層12を有し、該積層体Lの一方または両方の主面上に誘電体多層膜を有する構成でもよい。また、NIRフィルタ10Aの変形例としては、近赤外線吸収ガラス基材11と近赤外線吸収層12の間に誘電体層を有する構成も挙げられる。
【0037】
実施形態のNIRフィルタの別の一例である
図2に示されるNIRフィルタ10Bは、近赤外線吸収ガラス基材11と、近赤外線吸収ガラス基材11の一方の主面上に積層された近赤外線吸収色素および透明樹脂を含有する近赤外線吸収層12と、近赤外線吸収ガラス基材11の他方の主面上に積層された第1の誘電体多層膜13と、近赤外線吸収層12の近赤外線吸収ガラス基材11と反対側の主面上に積層された第2の誘電体多層膜14を備える。NIRフィルタ10Bは、NIRフィルタ10Aの近赤外線吸収層12の近赤外線吸収ガラス基材11と反対側の主面上に第2の誘電体多層膜14を積層した構成である。
【0038】
実施形態のNIRフィルタのさらに別の一例である
図3に示されるNIRフィルタ10Cは、NIRフィルタ10Bにおいて、積層体Lが近赤外線吸収ガラス基材11と近赤外線吸収層12の間に誘電体層15を備える以外はNIRフィルタ10Bと同様の構成である。
【0039】
本実施形態のNIRフィルタは、いずれも、波長775〜900nmの光に対する、入射角31〜60度での最大透過率が50%以下を実現できる。以下、該光学特性を本発明の光学特性という。ここで、本発明のNIRフィルタは、上記光学特性に加えて、近赤外線を効果的に遮蔽できる観点から、NIRフィルタ10Bの構成が好ましく、さらに耐久性等の観点からNIRフィルタ10Cの構成がより好ましい。なお、上記光学特性を満足する限り、各実施形態のNIRフィルタは、上記以外の層をさらに含んでもよい。
以下、本実施形態のNIRフィルタ10A、10B、10Cが有する各構成層について説明する。
【0040】
(近赤外線吸収ガラス基材)
近赤外線吸収ガラス基材11(以下、近赤外線吸収ガラス基材を単に「ガラス基材」ともいう)は、可視域(450〜600nm)の光を透過し、近赤外域(700〜1100nm)の光を吸収する能力を有するガラス、例えば、CuO含有フツリン酸塩ガラスまたはCuO含有リン酸塩ガラス(以下、これらをまとめて「CuO含有ガラス」ともいう。)で構成される。CuO含有ガラスで構成したCuO含有ガラス基材を典型的な例としてガラス基材11について以下に説明する。
【0041】
CuO含有ガラス基材は、波長400〜1100nmの光の吸収スペクトルにおいて、波長775〜900nmに吸収極大波長λ
Gmaxを有する。CuO含有ガラス基材は、近赤外光を有効に遮光するため、吸収極大波長λ
Gmaxにおける、表面反射損失を除いた透過率T(λ
Gmax)が50%以下となるように、CuO含有量、厚さを調整するとよく、30%以下に調整すると好ましい。
また、CuO含有ガラス基材は、吸収波長帯域が広いため、波長600〜650nmの可視光も吸収が発生する場合がある。CuO含有ガラス基材は、可視光の吸収によって顕著な透過率低下を招かない程度、例えば、T(λ
Gmax)が5%以上となるように、CuO含有量、厚さを調整するとよい。
【0042】
ガラス基材11は、CuO含有ガラスで構成されることで、可視光に対し高い透過率を有するとともに、近赤外光に対して高い遮蔽性を有する。なお、「リン酸塩ガラス」には、ガラスの骨格の一部がSiO
2で構成されるケイリン酸塩ガラスも含むものとする。ガラス基材11に使用されるCuO含有ガラスとしては、例えば、以下の組成のものが挙げられる。
【0043】
(1)質量%表示で、P
2O
5 46〜70%、AlF
3 0.2〜20%、LiF+NaF+KF0〜25%、MgF
2+CaF
2+SrF
2+BaF
2+PbF
2 1〜50%、ただし、F 0.5〜32%、O 26〜54%を含む基礎ガラス100質量部に対し、外割でCuO:0.5〜7質量部を含むガラス。
【0044】
(2)質量%表示で、P
2O
5 25〜60%、Al
2OF
3 1〜13%、MgO 1〜10%、CaO 1〜16%、BaO 1〜26%、SrO 0〜16%、ZnO 0〜16%、Li
2O 0〜13%、Na
2O 0〜10%、K
2O 0〜11%、CuO 1〜7%、ΣRO(R=Mg、Ca、Sr、Ba) 15〜40%、ΣR’
2O(R’=Li、Na、K) 3〜18%(ただし、39%モル量までのO
2−イオンがF
−イオンで置換されている)からなるガラス。
【0045】
(3)質量%表示で、P
2O
5 5〜45%、AlF
3 1〜35%、RF(RはLi、Na、K) 0〜40%、R’F
2(R’はMg、Ca、Sr、Ba、Pb、Zn) 10〜75%、R”F
m(R”はLa、Y、Cd、Si、B、Zr、Ta、mはR”の原子価に相当する数) 0〜15%(ただし、フッ化物総合計量の70%までを酸化物に置換可能)、およびCuO 0.2〜15%を含むガラス。
【0046】
(4)カチオン%表示で、P
5+ 11〜43%、Al
3+ 1〜29%、Rカチオン(Mg、Ca、Sr、Ba、Pb、Znイオンの合量) 14〜50%、R’カチオン(Li、Na、Kイオンの合量) 0〜43%、R”カチオン(La、Y、Gd、Si、B、Zr、Taイオンの合量) 0〜8%、およびCu
2+ 0.5〜13%を含み、さらにアニオン%でF
− 17〜80%を含有するガラス。
【0047】
(5)カチオン%表示で、P
5+ 23〜41%、Al
3+ 4〜16%、Li
+ 11〜40%、Na
+ 3〜13%、R
2+(Mg
2+、Ca
2+、Sr
2+、Ba
2+、Zn
2+の合量) 12〜53%、およびCu
2+ 2.6〜4.7%を含み、さらにアニオン%でF
− 25〜48%、およびO
2− 52〜75%を含むガラス。
【0048】
(6)質量%表示で、P
2O
5 70〜85%、Al
2O
3 8〜17%、B
2O
3 1〜10%、Li
2O 0〜3%、Na
2O 0〜5%、K
2O 0〜5%、ただし、Li
2O+Na
2O+K
2O 0.1〜5%、SiO
2 0〜3%からなる基礎ガラス100質量部に対し、外割でCuOを0.1〜5質量部含むガラス。
【0049】
市販品を例示すると、(1)のガラスとしては、NF−50E、NF−50EX、NF−50T、NF−50TX(旭硝子社製、商品名)等、(2)のガラスとしては、BG−60、BG−61(以上、ショット社製、商品名)等、(5)のガラスとしては、CD5000(HOYA社製、商品名)等が挙げられる。
【0050】
また、上記したCuO含有ガラスは、金属酸化物をさらに含有してもよい。金属酸化物として、例えば、Fe
2O
3、MoO
3、WO
3、CeO
2、Sb
2O
3、V
2O
5等の1種または2種以上を含有すると、CuO含有ガラスは紫外線吸収特性を有する。該金属酸化物の含有量は、上記CuO含有ガラス100質量部に対して、Fe
2O
3、MoO
3、WO
3およびCeO
2からなる群から選択される少なくとも1種を、Fe
2O
3 0.6〜5質量部、MoO
3 0.5〜5質量部、WO
3 1〜6質量部、CeO
2 2.5〜6質量部、またはFe
2O
3とSb
2O
3の2種をFe
2O
3 0.6〜5質量部+Sb
2O
3 0.1〜5質量部、もしくはV
2O
5とCeO
2の2種をV
2O
5 0.01〜0.5質量部+CeO
2 1〜6質量部とすることが好ましい。
【0051】
ガラス基材11の近赤外線吸収性能は、以下に説明する近赤外線吸収層12および第1の誘電体多層膜13、第2の誘電体多層膜14、誘電体層15等と積層して得られるNIRフィルタ10A、10B、10Cとして、本発明の光学特性、すなわち、波長775〜900nmの光に対する、入射角31〜60度での最大透過率が50%以下である特性を有するものであればよい。
【0052】
ガラス基材11は、単体の状態で、波長775〜900nmの光に対する入射角0度での吸収率は75%以上が好ましく、85%以上がより好ましい。ガラス基材11の厚さは、装置の小型化、薄型化、および取り扱い時の破損を抑制する点から、0.03〜5mmが好ましく、軽量化および強度の点から、0.05〜1mmがより好ましい。
【0053】
また、ガラス基材11の光学特性は、厚さ0.03〜5mmにおいて、波長450〜550nmにおける入射角0度での光の透過率が、80%以上が好ましい。
【0054】
基材としては、CuO含有ガラス以外の材料として、特定の近赤外光を吸収する、近赤外線吸収色素および透明樹脂を含む近赤外線吸収基材も挙げられる。
この中でもとくにCuO含有ガラス基材は、波長400〜450nmの光の吸収は僅かで、波長775〜900nmの光に対する波長400〜450nmの光の吸収率比が低い特徴がある。その結果、CuO含有ガラス基材は、波長775〜900nmの光を吸収により十分遮断するようにCuO含有量を増やして吸収率を高くしても、可視光の顕著な透過率低下とならないため有用である。
【0055】
NIRフィルタ10A、10B、10Cは、例えば、固体撮像装置において固体撮像素子を保護するために気密封着されるカバーとしてこれを用いれば、固体撮像装置の小型化、薄型化に寄与できる。ここで、カバー中に不純物としてα線放出性元素(放射性同位元素)が含まれていると、α線を放出して固体撮像素子に一過性の誤動作(ソフトエラー)を引き起こすおそれがある。したがって、このような用途においてはガラス基材11を構成するCuO含有ガラスは、α線放出性元素の含有量ができるだけ少ないことが好ましい。α線放出性元素の中でも、U、Thの含有量が、20ppb以下が好ましく、5ppb以下がより好ましい。
【0056】
ガラス基材11は、その主面上に、近赤外線吸収層12を積層するにあたり、該層が積層される面にシランカップリング剤による表面処理を施してもよい。シランカップリング剤による表面処理が施されたガラス基材11を用いることにより、近赤外線吸収層12との密着性を高めることができる。シランカップリング剤としては、例えば、以下の近赤外線吸収層12で用いるのと同じものを使用できる。
【0057】
(近赤外線吸収層)
近赤外線吸収層12は、近赤外線吸収色素(A)と透明樹脂(B)とを含有する層であり、典型的には、透明樹脂(B)に近赤外線吸収色素(A)が均一に分散してなる層である。近赤外線吸収層12は、さらに紫外線吸収体(U)を含有することが好ましい。
【0058】
なお、
図1〜
図3において、近赤外線吸収層12は、さらに紫外線吸収体(U)を含有する場合、1層で構成されるように図示しているが、この構成に限らない。例えば、近赤外線吸収層12が近赤外線吸収色素(A)と透明樹脂(B)とを含有し、紫外線吸収体(U)を含まない場合、
図1〜
図3に図示しない紫外線吸収層を別途設ける構成でもよい。すなわち、紫外線吸収層は、紫外線吸収体(U)と透明樹脂を含有し、独立した層として設けられてもよい。
【0059】
この場合、紫外線吸収層は、ガラス基材11の両主面のうち、近赤外線吸収層12側に設けてもよく、近赤外線吸収層12側と対向する側に設けてもよく、その位置関係に制限はない。ただし、このように紫外線吸収層を別途設ける構成であっても、本発明のNIRフィルタは、近赤外線吸収層12がさらに紫外線吸収体(U)を含有する構成の光学特性と同じ光学特性が得られる。また、近赤外線吸収層12が、近赤外線吸収色素(A)と透明樹脂(B)、さらに紫外線吸収体(U)を含有する場合でも、紫外線吸収体(U)と透明樹脂を含有する紫外線吸収層を別途設けてもよい。以下は、本発明のNIRが紫外線吸収体(U)を含有する場合、近赤外線吸収層12に紫外線吸収体(U)が含有される構成として説明をする。
【0060】
<近赤外線吸収色素(A)>
近赤外線吸収色素(A)(以下、「色素(A)」という。)は、可視域(波長450〜600nm)の光を透過し、近赤外域(波長700〜1100nm)の光を吸収する能力を有する近赤外線吸収色素であれば特に制限されない。なお、本発明における色素は顔料、すなわち分子が凝集した状態でもよい。以下、近赤外線吸収色素を必要に応じて「NIR吸収色素」という。
【0061】
また、色素(A)は、波長650〜750nmに吸収極大波長λ
maxを有する材料が好ましく、波長680〜720nmにλ
maxを有する材料がさらに好ましい。また、色素(A)を含む近赤外線吸収層は、近赤外線吸収ガラスに比べ、吸収波長帯幅を狭くできる材料の種類や含有量の選択における自由度が高い。そのため、近赤外線吸収層は、それの吸収極大波長λ
maxにおける透過率T(λ
max)を、近赤外線吸収ガラス基板の吸収極大波長λ
Gmaxにおける透過率T(λ
Gmax)より低く調整することで、可視波長領域の透過率低下を抑制しつつ、λ
max近傍の、急峻な遮光性を実現できる。なお、吸収極大波長λ
maxを有する色素(A)を含有する近赤外吸収層における吸収極大波長は、吸収極大波長λ
maxと一致する。
【0062】
近赤外外線吸収層の分光透過率曲線は、可視光の吸収が少なく、λ
maxよりも可視光(短波長)側に急峻な傾きを有するとよい、とする理由は、該近赤外線吸収層により視感度に近い分光透過率曲線を実現するためである。つまり、近赤外線吸収層は、視感度の高い波長略550〜600nmの光に対する吸収が少なく高透過率を維持し、視感度が徐々に低下する波長略600〜650nmの光に対する透過率が40〜60%程度まで低下し、視感度が低いレベルから殆ど無いレベルの波長略650〜700nmの光に対する透過率が5%以下まで低下するように、透明樹脂(B)中の色素(A)およびその含有量を調整する。
具体的には、近赤外線吸収層のλ
maxにおける、透過率T(λ
max)が5%以下となるよう、色素(A)およびその含有量を調整する。
【0063】
波長550〜700nmの光に対する透過率が上記好ましい範囲となるよう色素(A)の調整を行った結果、略700nm以上の近赤外光で低透過率となる吸収波長帯域が広いほど好ましい。近赤外線吸収層は、λ
max近傍で透過率が20%以下となる吸収波長帯幅が30nm以上あればよく、40nm以上あればより好ましい。
近赤外線吸収層が上記の吸収波長帯幅を有すれば、近赤外線吸収ガラス基材および近赤外線吸収層の吸収で十分遮断できない近赤外域の透過光を、後述する近赤外線反射性の誘電体多層膜を用いて遮光する効果を高められる。つまり、入射角0〜30度の光の角度依存により、誘電体多層膜の分光透過率曲線のうち近赤外線反射波長側の透過率50%の波長が短波長側にシフトしても、近赤外線吸収層の吸収波長帯幅内の変化に収まるよう設定できる。したがって、該設計に基づくNIRフィルタは、特に近赤外吸収領域における分光透過率曲線に影響する誘電体多層膜の入射角依存性を抑制できる。
【0064】
色素(A)は、該色素(A)が透明樹脂(B)中に分散して得られる樹脂膜を使用して測定される波長400〜850nmの光の吸収スペクトルにおいて、波長650〜750nm内に吸収極大波長を発現するものが好ましい。該吸収特性を有する近赤外線吸収色素を色素(A1)という。該吸収スペクトルにおける吸収極大波長を、色素(A1)のλ
maxという。なお、色素(A1)の吸収スペクトルは、波長λ
maxに吸収の頂点を有する吸収ピーク(以下、「λ
maxの吸収ピーク」という)を有する。色素(A1)の吸収スペクトルは、波長650〜750nm内にλ
maxを有することに加えて、可視光の吸収が少なく、λ
maxの吸収ピークの可視光側の傾きが急峻であることが好ましい。さらに、λ
maxの吸収ピークは長波長側では傾きは緩やかであることが好ましい。
【0065】
色素(A1)としては、シアニン系化合物、フタロシアニン系化合物、ナフタロシアニン系化合物、ジチオール金属錯体系化合物、ジイモニウム系化合物、ポリメチン系化合物、フタリド化合物、ナフトキノン系化合物、アントラキノン系化合物、インドフェノール系化合物、スクアリリウム系化合物等が挙げられる。
【0066】
これらの中ではスクアリリウム系化合物、シアニン系化合物およびフタロシアニン系化合物がより好ましく、スクアリリウム系化合物が特に好ましい。スクアリリウム系化合物からなる色素(A1)は、上記吸収スペクトルにおいて、可視光の吸収が少なく、λ
maxの吸収ピークが可視光側で急峻な傾きを有するとともに、保存安定性および光に対する安定性が高いため好ましい。シアニン系化合物からなる色素(A1)は、上記吸収スペクトルにおいて、可視光の吸収が少なく、λ
max近傍の波長領域において長波長側で光の吸収率が高いため好ましい。また、シアニン系化合物は低コストであって、塩形成することにより長期の安定性も確保できることが知られている。フタロシアニン系化合物からなる色素(A1)は、耐熱性や耐候性に優れるため好ましい。
【0067】
スクアリリウム系化合物である色素(A1)として、具体的には、式(F1)で示されるスクアリリウム系化合物から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。本明細書において、式(F1)で示される化合物を化合物(F1)ともいう。他の化合物についても同様である。
【0068】
化合物(F1)は、スクアリリウム骨格の左右にベンゼン環が結合し、さらにベンゼン環の4位に窒素原子が結合するとともに該窒素原子を含む飽和複素環が形成された構造を有するスクアリリウム系化合物であり、上記色素(A1)としての吸光特性を有する化合物である。化合物(F1)においては、近赤外線吸収層を形成する際に用いる溶媒(以下、「ホスト溶媒」ということもある。)や透明樹脂(B)への溶解性を高める等のその他の要求特性に応じて、以下の範囲でベンゼン環の置換基を適宜調整できる。
【0070】
ただし、式(F1)中の記号は以下のとおりである。
R
4およびR
6は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、炭素数1〜6のアルキル基もしくはアルコキシ基、炭素数1〜10のアシルオキシ基、または−NR
7R
8(R
7およびR
8は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、または−C(=O)−R
9(R
9は、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基もしくは炭素数6〜11のアリール基または、置換基を有していてもよく、炭素原子間に酸素原子を有していてもよい炭素数7〜18のアルアリール基))を示す。
【0071】
R
1とR
2、R
2とR
5、およびR
1とR
3は、このうち少なくとも一組は、互いに連結して窒素原子と共に員数が5または6のそれぞれ複素環A、複素環B、および複素環Cを形成する。
【0072】
複素環Aが形成される場合のR
1とR
2は、これらが結合した2価の基−Q−として、水素原子が炭素数1〜6のアルキル基、炭素数6〜10のアリール基または置換基を有していてもよい炭素数1〜10のアシルオキシ基で置換されてもよいアルキレン基、またはアルキレンオキシ基を示す。
【0073】
複素環Bが形成される場合のR
2とR
5、および複素環Cが形成される場合のR
1とR
3は、これらが結合したそれぞれ2価の基−X
1−Y
1−および−X
2−Y
2−(窒素に結合する側がX
1およびX
2)として、X
1およびX
2がそれぞれ下記式(1x)または(2x)で示される基であり、Y
1およびY
2がそれぞれ下記式(1y)〜(5y)から選ばれるいずれかで示される基である。X
1およびX
2が、それぞれ下記式(2x)で示される基の場合、Y
1およびY
2はそれぞれ単結合であってもよい。
【0075】
式(1x)中、4個のZは、それぞれ独立して水素原子、水酸基、炭素数1〜6のアルキル基もしくはアルコキシ基、または−NR
28R
29(R
28およびR
29は、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1〜20のアルキル基を示す)を示す。R
21〜R
26はそれぞれ独立して水素原子、炭素数1〜6のアルキル基または炭素数6〜10のアリール基を、R
27は炭素数1〜6のアルキル基または炭素数6〜10のアリール基を示す。
【0076】
R
7、R
8、R
9、R
4、R
6、R
21〜R
27、複素環を形成していない場合のR
1〜R
3、およびR
5は、これらのうちの他のいずれかと互いに結合して5員環または6員環を形成してもよい。R
21とR
26、R
21とR
27は直接結合してもよい。
【0077】
複素環を形成していない場合の、R
1およびR
2は、それぞれ独立して、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜6のアルキル基もしくはアリル基、または炭素数6〜11のアリール基もしくはアルアリール基を示す。複素環を形成していない場合の、R
3およびR
5は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、または、炭素数1〜6のアルキル基もしくはアルコキシ基を示す。
以下、複素環Aは単に環Aということもある。複素環B、複素環Cについても同様である。
【0078】
化合物(F1)において、R
4およびR
6は、それぞれ独立して、上記の原子または基を示す。ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等が挙げられる。アルキル基は、直鎖状、分岐鎖状、環状のいずれであってもよい。R
4およびR
6は、いずれか一方が水素原子であって、他方が−NR
7R
8である組合せが好ましい。
【0079】
化合物(F1)が、環A〜環Cのうち、環Aのみ、環Bと環Cのみ、環A〜環Cをそれぞれ有する場合、−NR
7R
8は、R
4とR
6のいずれに導入されてもよい。化合物(F1)が、環Bのみ、環Aと環Bのみをそれぞれ有する場合、−NR
7R
8は、R
4に導入されるのが好ましい。同様に、環Cのみ、環Aと環Cのみをそれぞれ有する場合、−NR
7R
8は、R
6に導入されるのが好ましい。
【0080】
−NR
7R
8としては、ホスト溶媒や透明樹脂(B)への溶解性の観点から、−NH−C(=O)−R
9が好ましい。R
9としては、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数6〜10のアリール基、または置換基を有していてもよく、炭素原子間に酸素原子を有していてもよい炭素数7〜18のアルアリール基が好ましい。置換基としては、フッ素原子等のハロゲン原子、水酸基、カルボキシ基、スルホ基、シアノ基、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のフロロアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基、炭素数1〜6のアシルオキシ基等が挙げられる。
【0081】
R
9としては、これらのうちでも、フッ素原子で置換されてもよい直鎖状、分岐鎖状、環状の炭素数1〜17のアルキル基、炭素数1〜6のフロロアルキル基および/または炭素数1〜6のアルコキシ基で置換されてもよいフェニル基、および炭素原子間に酸素原子を有していてもよい炭素数7〜18の、末端に炭素数1〜6のフッ素原子で置換されていてもよいアルキル基および/または炭素数1〜6のアルコキシ基で置換されてもよいフェニル基を有するアルアリール基から選ばれる基が好ましい。
【0082】
R
9としては、独立して1つ以上の水素原子がハロゲン原子、水酸基、カルボキシ基、スルホ基、またはシアノ基で置換されていてもよく、炭素原子間に不飽和結合、酸素原子、飽和もしくは不飽和の環構造を含んでよい、少なくとも1以上の分岐を有する炭素数5〜25の炭化水素基である基も好ましく使用できる。このようなR
9としては、例えば、式(1a)、(1b)、(2a)〜(2e)、(3a)〜(3e)で示される基が挙げられる。
【0085】
化合物(F1)において、R
1とR
2、R
2とR
5、およびR
1とR
3が、それぞれ互いに連結して形成される員数5または6の環A、環B、および環Cは、少なくともこれらのいずれか1個が形成されていればよく、2個または3個が形成されていてもよい。
【0086】
環を形成していない場合の、R
1およびR
2は、それぞれ独立して、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜6のアルキル基もしくはアリル基、または炭素数6〜11のアリール基もしくはアルアリール基を示す。アルキル基は、直鎖状、分岐鎖状、環状のいずれであってもよい。置換基としては、水酸基、炭素数1〜3のアルコキシ基、および炭素数1〜3のアシルオキシ基が挙げられる。環を形成していない場合の、R
3およびR
5は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、または、炭素数1〜6のアルキル基もしくはアルコキシ基を示す。これらのなかでも、R
1、R
2、R
3、R
5としては、ホスト溶媒や透明樹脂(B)への溶解性の観点から、炭素数1〜3のアルキル基が好ましく、メチル基、エチル基、2−プロピル基が特に好ましい。
【0087】
また、化合物(F1)において、スクアリリウム骨格の左右に結合するベンゼン環が有する基R
1〜R
6は、左右で異なってもよいが、左右で同一が好ましい。
なお、化合物(F1)は、式(F1)で示される構造の共鳴構造を有する式(F1−1)で示される化合物(F1−1)を含む。
【0088】
【化5】
ただし、式(F1−1)中の記号は、式(F1)における規定と同じである。
【0089】
化合物(F1)として、より具体的には、環Bのみを環構造として有する式(F11)で示される化合物、環Aのみを環構造として有する式(F12)で示される化合物、環Bおよび環Cの2個を環構造として有する式(F13)で示される化合物が挙げられる。なお、式(F11)で示される化合物は、化合物(F1)において環Cのみを環構造として有し、R
6が−NR
7R
8である化合物と同じ化合物である。また、式(F11)で示される化合物および式(F13)で示される化合物は、米国特許第5,543,086号明細書に記載された化合物である。
【0090】
【化6】
式(F11)〜(F13)中の記号は、式(F1)における規定と同じであり、好ましい態様も同様である。
【0091】
化合物(F11)において、X
1としては、上記(2x)で示される水素原子が炭素数1〜6のアルキル基または炭素数6〜10のアリール基で置換されてもよいエチレン基が好ましい。この場合、置換基としては炭素数1〜3のアルキル基が好ましく、メチル基がより好ましい。X
1として、具体的には、−(CH
2)
2−、−CH
2−C(CH
3)
2−、−CH(CH
3)−C(CH
3)
2−、−C(CH
3)
2−C(CH
3)
2−等が挙げられる。化合物(F11)における−NR
7R
8としては、−NH−C(=O)−CH
3、−NH−C(=O)−C
6H
13、−NH−C(=O)−C
6H
5、−NH−C(=O)−CH(C
2H
5)−C
4H
9、−NH−C(=O)−C(CH
3)
2−C
2H
5、−NH−C(=O)−C(CH
3)
2−C
3H
7、−NH−C(=O)−C(CH
3)
2−(CH
2)
3−O−C
6H
3(CH
3)
2等が好ましい。
【0092】
化合物(F11)として、例えば、式(F11−1)、式(F11−2)、式(F11−3)、式(F11−4)、式(F11−5)、式(F11−6)、式(F11−7)でそれぞれ示される化合物等が挙げられる。これらの中でもホスト溶媒や透明樹脂(B)に対する溶解性が高いことから、化合物(F11−2)、化合物(F11−3)、化合物(F11−4)、化合物(F11−5)、化合物(F11−6)がより好ましい。
【0095】
化合物(F12)において、Qは、水素原子が炭素数1〜6のアルキル基、炭素数6〜10のアリール基または置換基を有していてもよい炭素数1〜10のアシルオキシ基に置換されてもよい炭素数4または5のアルキレン基、炭素数3または4のアルキレンオキシ基である。アルキレンオキシ基の場合の酸素の位置はNの隣以外が好ましい。なお、Qとしては、炭素数1〜3のアルキル基、特にはメチル基に置換されてもよいブチレン基が好ましい。
【0096】
化合物(F12)において、−NR
7R
8は、−NH−C(=O)−(CH
2)
m−CH
3(mは、0〜19)、−NH−C(=O)−Ph−R
10(−Ph−はフェニレン基を、R
10は、水素原子、水素原子がフッ素原子に置換されていてもよい炭素数1〜3のアルキル基、または炭素数1〜3のアルコキシ基をそれぞれ示す。)等が好ましい。
【0097】
ここで、化合物(F12)は、そのλ
maxが上記波長領域のなかでも比較的長波長側にあることから、化合物(F12)を用いれば可視波長帯の透過領域を広げることが可能となる。化合物(F12)として、例えば、式(F12−1)、式(F12−2)、式(F12−3)で示される化合物等が挙げられる。
【0099】
化合物(F13)において、X
1およびX
2としては、独立して上記(2x)で示される水素原子が炭素数1〜6のアルキル基または炭素数6〜10のアリール基で置換されてもよいエチレン基が好ましい。この場合、置換基としては炭素数1〜3のアルキル基が好ましく、メチル基がより好ましい。X
1およびX
2として、具体的には、−(CH
2)
2−、−CH
2−C(CH
3)
2−、−CH(CH
3)−C(CH
3)
2−、−C(CH
3)
2−C(CH
3)
2−等が挙げられる。Y
1およびY
2としては、独立して−CH
2−、−C(CH
3)
2−、−CH(C
6H
5)−、−CH((CH
2)
mCH
3)−(mは0〜5)等が挙げられる。化合物(F13)において、−NR
7R
8は、−NH−C(=O)−C
mH
2m+1(mは1〜20であり、C
mH
2m+1は直鎖状、分岐鎖状、環状のいずれであってもよい。)、−NH−C(=O)−Ph−R
10(−Ph−はフェニレン基を、R
10は、水素原子、炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基、または炭素数1〜3のパーフロロアルキル基をそれぞれ示す。)等が好ましい。
化合物(F13)として、例えば、下記式(F13−1)、式(F13−2)でそれぞれ示される化合物等が挙げられる。
【0101】
また、色素(A1)として、式(F6)で示されるスクアリリウム系化合物を用いることもできる。式(F6)は、式(F1)において環A、環B、環Cのいずれも形成されていない化合物(ただし、R
1〜R
6は以下のとおりである。)を示す。
【0103】
式(F6)中の記号は以下のとおりである。
R
1およびR
2は、それぞれ独立して、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜12のアルキル基もしくはアリル基、または炭素数6〜11のアリール基もしくはアルアリール基を示す。R
3およびR
5は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、または、炭素数1〜6のアルキル基もしくはアルコキシ基を示す。R
4およびR
6は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、炭素数1〜6のアルキル基もしくはアルコキシ基、炭素数1〜10のアシルオキシ基、または−NR
7R
8(R
7およびR
8は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、または−C(=O)−R
9(R
9は、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基もしくは炭素数6〜11のアリール基または、置換基を有していてもよく、炭素原子間に酸素原子を有していてもよい炭素数7〜18のアルアリール基))を示す。
化合物(F6)として、例えば、式(F6−1)、式(F6−2)で示される化合物等が挙げられる。
【0105】
さらに、色素(A1)として、式(F7)で示されるスクアリリウム系化合物を用いることもできる。
【0107】
上記化合物(F11)、化合物(F12)、化合物(F13)等の化合物(F1)や、化合物(F6)、化合物(F7)は、従来公知の方法で製造可能である。
化合物(F11−1)等の化合物(F11)は、例えば、米国特許第5,543,086号明細書に記載された方法で製造できる。
また、化合物(F12)は、例えば、J.Org.Chem.2005,70(13),5164−5173に記載の方法で製造できる。
【0108】
これらのうちでも、化合物(F12−1)、化合物(F12−2)等は、例えば、反応式(F3)に示す合成経路にしたがって製造できる。
反応式(F3)によれば、1−メチル−2−ヨード−4−アミノベンゼンのアミノ基に所望の置換基R
9を有するカルボン酸塩化物を反応させてアミドを形成する。次いで、ピロリジンを反応させ、さらに3,4−ジヒドロキシ−3−シクロブテン−1,2−ジオン(以下、スクアリン酸という。)と反応させることで、化合物(F12−1)、化合物(F12−2)等が得られる。
【0110】
反応式(F3)中R
9は、−Phまたは−(CH
2)
5−CH
3を示す。−Phはフェニル基を示す。Etはエチル基、THFはテトラヒドロフランを示す。
【0111】
また、化合物(F13−1)、化合物(F13−2)等は、例えば、反応式(F4)に示す合成経路にしたがって製造できる。
反応式(F4)では、まず、8−ヒドロキシジュロリジンにトリフルオロメタンスルホン酸無水物(Tf
2O)を反応させ、8−トリフルオロメタンスルホン酸ジュロリジンとし、次いで、これにベンジルアミン(BnNH
2)を反応させ8−ベンジルアミノジュロリジンを得、さらにこれを還元して8−アミノジュロリジンを製造する。次いで、8−アミノジュロリジンのアミノ基に所望の置換基R
9(化合物(F13−1)の場合−(CH
2)
6−CH
3、化合物(F13−2)の場合−CH(CH(CH
3)−CH
2−C(CH
3)
3)−(CH
2)
2−CH(CH
3)−CH
2−C(CH
3)
3)を有するカルボン酸塩化物を反応させてジュロリジンの8位に−NH−C(=O)R
9を有する化合物を得る。次いで、この化合物の2モルをスクアリン酸1モルと反応させることで、化合物(F13−1)、化合物(F13−2)等が得られる。
【0113】
反応式(F4)中、Meはメチル基、TEAはトリエチルアミン、Acはアセチル基、BINAPは(2,2’−ビス(ジフェニルホスフィノ)−1,1’−ビナフチル)、NaOtBuはナトリウムt−ブトキシドをそれぞれ示す。
【0114】
スクアリリウム系化合物である色素(A1)は、市販品を用いてもよい。市販品としては、S2098、S2084(商品名、FEWケミカルズ社製)等が挙げられる。
【0115】
シアニン系化合物である色素(A1)として、具体的には、式(F5)で示されるシアニン系化合物から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
【0117】
ただし、式(F5)中の記号は以下のとおりである。
R
11は、それぞれ独立して、炭素数1〜20のアルキル基、アルコキシ基もしくはアルキルスルホン基、またはそのアニオン種を示す。
R
12およびR
13は、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1〜20のアルキル基を示す。
【0118】
Zは、PF
6、ClO
4、R
f−SO
2、(R
f−SO
2)
2−N(R
fは少なくとも1つの水素原子がフッ素原子で置換された炭素数1〜8のアルキル基を示す。)、またはBF
4を示す。
R
14、R
15、R
16およびR
17は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、または炭素数1〜6のアルキル基を示す。
nは1〜6の整数を示す。
【0119】
なお、化合物(F5)におけるR
11としては、炭素数1〜20のアルキル基が好ましく、R
12およびR
13はそれぞれ独立して、水素原子または炭素数1〜6のアルキル基が好ましい。R
14、R
15、R
16およびR
17は、それぞれ独立して、水素原子が好ましく、nの数は1〜4が好ましい。n個の繰り返し単位を挟んだ左右の構造は異なってもよいが、同一の構造が好ましい。
【0120】
化合物(F5)としてより具体的には、式(F51)で示される化合物、式(F52)で示される化合物等が例示される。Z
−が示すアニオンは(F5)におけるZ
−と同様である。
【0123】
シアニン系化合物である色素(A1)は、市販品を用いてもよい。市販品としては、ADS680HO(商品名、American dye社製)、S0830(商品名、FEWケミカルズ社製)、S2137(商品名、FEWケミカルズ社製)等が挙げられる。
【0124】
また、色素(A1)として使用可能なフタロシアニン系化合物としては、FB22(商品名、山田化学工業社製)、TXEX720(商品名、日本触媒社製)、PC142c(商品名、山田化学工業社製)等の市販品が挙げられる。
【0125】
上に例示した色素(A1)として用いられる各化合物のλ
maxを測定時に使用した透明樹脂(B)の種類と共に表1に示す。
【0127】
なお、上記において透明樹脂(B)として用いた、B−OKP2、バイロン(登録商標)103は、ポリエステル樹脂、SP3810はポリカーボネート樹脂、EA−F5003はアクリル樹脂であり、詳細は後述のとおりである。
【0128】
本実施形態においては、色素(A1)として、上記色素(A1)としての吸光特性を有する複数の化合物から選ばれる1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
色素(A)は、好ましくは色素(A1)の1種または2種以上を含有する。なお、色素(A)は、色素(A1)以外に、必要に応じてその他のNIR吸収色素を含有してもよい。色素(A)として複数のNIR吸収色素を用いる場合、これらを透明樹脂(B)に分散して作製した樹脂膜に対して測定される波長400〜850nmの光の吸収スペクトルにおいて、波長650〜750nm内に吸収極大波長を発現するようにNIR吸収色素を組合せて用いることが好ましい。さらには、該吸収スペクトルにおいて、可視光の吸収が少なく、λ
maxの吸収ピークの可視光側の傾きが急峻であり、長波長側では傾きは緩やかとなるように、NIR吸収色素を組合せて用いることが好ましい。
【0129】
<紫外線吸収体(U)>
紫外線吸収体(U)(以下、吸収体(U)ともいう。)は、波長430nm以下の光を吸収する化合物である。吸収体(U)としては、(iv−1)および(iv−2)の要件を満たす化合物(以下、吸収体(U1)という。)が好ましい。
【0130】
(iv−1)ジクロロメタンに溶解して測定される波長350〜800nmの光吸収スペクトルにおいて、波長415nm以下に、少なくとも一つの吸収極大波長を有し、波長415nm以下の光における吸収極大のうち、最も長波長側の吸収極大波長λ
max(UV)は、波長360〜415nmにある。
(iv−2)ジクロロメタンに溶解して測定される分光透過率曲線において、前記吸収極大波長λ
max(UV)における透過率を10%としたとき、前記吸収極大波長λ
max(UV)より長波長で透過率が90%となる波長λ
L90と、前記吸収極大波長λ
max(UV)より長波長で透過率が50%となる波長λ
L50との差λ
L90−λ
L50が13nm以下である。
【0131】
(iv−1)を満たす吸収体(U)の吸収極大波長は、透明樹脂中においても大きく変化しない。すなわち、(iv−1)を満たす吸収体(U)は、該吸収体(U)を透明樹脂に溶解または分散した場合にも、樹脂中吸収スペクトルにおける吸収極大波長λ
max・P(UV)が、概ね波長360〜415nm内に存在するため、好ましい。
【0132】
(iv−2)を満たす吸収体(U)は、透明樹脂に含まれる場合にも優れた急峻性を示す。すなわち、(iv−2)を満たす吸収体(U)は、該吸収体(U)を透明樹脂に溶解または分散した場合にも、吸収極大波長λ
max・P(UV)より長波長で透過率が50%となる波長λ
P50と透過率90%となる波長λ
P90の差(λ
P90−λ
P50)が概ね14nm以下となり、ジクロロメタン中と同等の急峻性を示し、好ましい。なお、吸収体(U)を透明樹脂に溶解または分散した場合の、λ
p90−λ
p50は13nm以下がより好ましく、12nm以下がより一層好ましい。
【0133】
(iv−1)を満たす吸収体(U)を使用すれば、透明樹脂中に溶解または分散して近赤外線吸収層12として得られる実施形態のNIRフィルタの波長λ
0(UV)と波長λ
30(UV)を、いずれも波長450nmより短い領域、好ましくは波長400〜425nmに存在させることができる。
(iv−2)を満たす吸収体(U)を使用すれば、透明樹脂中に溶解または分散して近赤外線吸収層12として得られる実施形態のNIRフィルタにおいて、吸収体(U)による吸収極大波長の長波長側での透過率が50%となる波長と透過率が90%となる波長の差を小さくできる。すなわち、該波長領域において、分光透過率曲線の変化を急峻にできる。
【0134】
(iv−1)および(iv−2)を満たす吸収体(U1)を使用すれば、実施形態のNIRフィルタにおいて、波長450nmより短い領域、好ましくは波長400〜425nmに波長λ
0(UV)と波長λ
30(UV)を存在させやすく、かつ波長450nmより短い領域における分光透過率曲線の急峻な変化が得られやすい。
【0135】
本明細書において、吸収体(U)を、ジクロロメタンに溶解して測定される波長350〜800nmの光の吸収スペクトルを「吸収体(U)の吸収スペクトル」ともいう。
吸収体(U)の吸収スペクトルにおける吸収極大波長λ
max(UV)を「吸収体(U)のλ
max(UV)」という。
吸収体(U)を、ジクロロメタンに溶解して測定される分光透過率曲線を「吸収体(U)の分光透過率曲線」という。
吸収体(U)の分光透過率曲線において、吸収体(U)のλ
max(UV)における透過率が10%となる量で含有したときに、吸収体(U)のλ
max(UV)より長波長で透過率が90%となる波長を「λ
L90」といい、吸収体(U)のλ
max(UV)より長波長で透過率が50%となる波長を「λ
L50」という。
【0136】
また、本明細書において、吸収体(U)を、透明樹脂に溶解して作製される吸収層の、測定される波長350〜800nmの光の吸収スペクトルを「吸収体(U)の樹脂中吸収スペクトル」ともいう。
吸収体(U)の樹脂中吸収スペクトルにおける吸収極大波長λ
max・P(UV)を「吸収体(U)のλ
max・P(UV)」という。
吸収体(U)を、透明樹脂に溶解して作製される吸収層の測定される分光透過率曲線を「吸収体(U)の樹脂中分光透過率曲線」という。
吸収体(U)の樹脂中分光透過率曲線において、吸収体(U)のλ
max・P(UV)における透過率が10%となる量で含有したときに、吸収体(U)のλ
max・P(UV)より長波長で透過率が90%となる波長を「λ
P90」といい、吸収体(U)のλ
max・P(UV)より長波長で透過率が50%となる波長を「λ
P50」という。
【0137】
吸収体(U)の波長λ
max(UV)は、波長365〜415nmにあることが好ましく、波長370〜410nmにあることがより好ましい。吸収体(U)の波長λ
max(UV)がこの領域にあることで上述した効果、すなわち、波長400〜425nmにおいて、分光透過率曲線の急峻な変化が得られやすい。
また、吸収体(U)のλ
L90とλ
L50の差(λ
L90−λ
L50)は、12nm以下が好ましく、11nm以下がより好ましく、9nm以下がより一層好ましい。λ
L90−λ
L50がこの領域にあることで上述した効果が得られやすい。
【0138】
(iv−1)および(iv−2)を満たす吸収体(U1)の具体例としては、オキサゾール系、メロシアニン系、シアニン系、ナフタルイミド系、オキサジアゾール系、オキサジン系、オキサゾリジン系、ナフタル酸系、スチリル系、アントラセン系、環状カルボニル系、トリアゾール系等の色素が挙げられる。
【0139】
市販品としては、例えば、オキサゾール系として、Uvitex(登録商標)OB(Ciba社製 商品名)、Hakkol(登録商標) RF−K(昭和化学工業(株)製 商品名)、Nikkafluor EFS、Nikkafluor SB−conc(以上、いずれも日本化学工業(株)製 商品名)等が挙げられる。メロシアニン系として、S0511(Few Chemicals社製 商品名)等が挙げられる。シアニン系として、SMP370、SMP416(以上、いずれも(株)林原製 商品名)等が挙げられる。ナフタルイミド系として、Lumogen(登録商標)F violet570(BASF社製 商品名)等が挙げられる。
【0140】
吸収体(U1)として、式(N)で示される色素も挙げられる。なお、本明細書中、特に断らない限り、式(N)で表される色素を色素(N)と記す。他の式で表される色素も同様に記す。また、式(1n)で表される基を基(1n)と記す。他の式で表される基も同様に記す。
【0142】
式(N)中、R
18は、それぞれ独立に、飽和もしくは不飽和の環構造を含んでもよく、分岐を有してもよい炭素数1〜20の炭化水素基を示す。具体的には、直鎖状または分枝状のアルキル基、アルケニル基、飽和環状炭化水素基、アリール基、アルアリール基等が挙げられる。
また、式(N)中、R
19は、それぞれ独立に、シアノ基、または式(n)で示される基である。
−COOR
30 …(n)
式(n)中、R
30は、飽和もしくは不飽和の環構造を含んでもよく、分岐を有してもよい炭素数1〜20の炭化水素基を示す。具体的には、直鎖状または分枝鎖状のアルキル基、アルケニル基、飽和環状炭化水素基、アリール基、アルアリール基等が挙げられる。
【0143】
色素(N)中のR
18としては、式(1n)〜(4n)で示される基が中でも好ましい。また、色素(N)中のR
19としては、式(5n)で示される基が中でも好ましい。
【0145】
色素(N)の具体例としては、表2に示す構成の色素(N−1)〜(N−4)が例示できる。なお、表2におけるR
18およびR
19の具体的な構造は、式(1n)〜(5n)に対応する。表2には対応する色素略号も示した。なお、色素(N−1)〜(N−4)において、2個存在するR
18は同じであり、R
19も同様である。
【0147】
以上例示した吸収体(U1)の中でも、オキサゾール系、メロシアニン系の色素が好ましく、その市販品としては、例えば、Uvitex(登録商標)OB、Hakkol(登録商標) RF−K、S0511が挙げられる。
【0148】
(メロシアニン系色素)
吸収体(U1)としては、特に、式(M)で示されるメロシアニン系色素が好ましい。
【0149】
【化21】
式(M)中、Yは、Q
6およびQ
7で置換されたメチレン基または酸素原子を示す。ここで、Q
6およびQ
7は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、または炭素数1〜10のアルキル基もしくはアルコキシ基を表す。Q
6およびQ
7は、それぞれ独立に、水素原子、または、炭素数1〜10のアルキル基もしくはアルコキシ基が好ましく、いずれも水素原子であるか、少なくとも一方が水素原子で他方が炭素数1〜4のアルキル基がより好ましい。特に好ましくは、Q
6およびQ
7はいずれも水素原子である。
【0150】
Q
1は、置換基を有していてもよい炭素数1〜12の1価の炭化水素基を表す。置換基を有しない1価の炭化水素基としては、水素原子の一部が脂肪族環、芳香族環もしくはアルケニル基で置換されていてもよい炭素数1〜12のアルキル基、水素原子の一部が芳香族環、アルキル基もしくはアルケニル基で置換されていてもよい炭素数3〜8のシクロアルキル基、および水素原子の一部が脂肪族環、アルキル基もしくはアルケニル基で置換されていてもよい炭素数6〜12のアリール基が好ましい。
Q
1が無置換のアルキル基である場合、そのアルキル基は直鎖状であっても、分岐状であってもよく、その炭素数は1〜6がより好ましい。
【0151】
水素原子の一部が脂肪族環、芳香族環もしくはアルケニル基で置換された炭素数1〜12のアルキル基としては、炭素数3〜6のシクロアルキル基を有する炭素数1〜4のアルキル基、フェニル基で置換された炭素数1〜4のアルキル基がより好ましく、フェニル基で置換された炭素数1または2のアルキル基が特に好ましい。なお、アルケニル基で置換されたアルキル基とは、全体としてアルケニル基であるが1、2位間に不飽和結合を有しないものを意味し、例えばアリル基や3−ブテニル基等をいう。
置換基を有する炭化水素基としては、アルコキシ基、アシル基、アシルオキシ基、シアノ基、ジアルキルアミノ基または塩素原子を1個以上有する炭化水素基が好ましい。これらアルコキシ基、アシル基、アシルオキシ基およびジアルキルアミノ基の炭素数は1〜6が好ましい。
【0152】
好ましいQ
1は、水素原子の一部がシクロアルキル基またはフェニル基で置換されていてもよい炭素数1〜6のアルキル基である。
特に好ましいQ
1は炭素数1〜6のアルキル基であり、具体的には、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基等が挙げられる。
【0153】
Q
2〜Q
5は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、または、炭素数1〜10のアルキル基もしくはアルコキシ基を表す。アルキル基及びアルコキシ基の炭素数は1〜6が好ましく、1〜4がより好ましい。
Q
2およびQ
3は、少なくとも一方が、アルキル基が好ましく、いずれもアルキル基がより好ましい。Q
2またはQ
3がアルキル基でない場合は、水素原子がより好ましい。Q
2およびQ
3は、いずれも炭素数1〜6のアルキル基が特に好ましい。
Q
4およびQ
5は、少なくとも一方が、水素原子が好ましく、いずれも水素原子がより好ましい。Q
4またはQ
5が水素原子でない場合は、炭素数1〜6のアルキル基が好ましい。
【0154】
Zは、式(Z1)〜(Z5)で表される2価の基のいずれかを表す。
【化22】
【0155】
式(Z1)〜(Z5)において、Q
8およびQ
9は、それぞれ独立に、置換基を有していてもよい炭素数1〜12の1価の炭化水素基を表す。Q
8およびQ
9は、異なる基であってもよいが、同一の基が好ましい。
【0156】
置換基を有しない1価の炭化水素基としては、水素原子の一部が脂肪族環、芳香族環もしくはアルケニル基で置換されていてもよい炭素数1〜12のアルキル基、水素原子の一部が芳香族環、アルキル基もしくはアルケニル基で置換されていてもよい炭素数3〜8のシクロアルキル基、および、水素原子の一部が脂肪族環、アルキル基もしくはアルケニル基で置換されていてもよい炭素数6〜12のアリール基が好ましい。
【0157】
Q
8およびQ
9が無置換のアルキル基である場合、そのアルキル基は直鎖状であっても、分岐状であってもよく、その炭素数は1〜6がより好ましい。
水素原子の一部が脂肪族環、芳香族環もしくはアルケニル基で置換された炭素数1〜12のアルキル基としては、炭素数3〜6のシクロアルキル基を有する炭素数1〜4のアルキル基、フェニル基で置換された炭素数1〜4のアルキル基がより好ましく、フェニル基で置換された炭素数1または2のアルキル基が特に好ましい。なお、アルケニル基で置換されたアルキル基とは、全体としてアルケニル基であるが1、2位間に不飽和結合を有しないものを意味し、例えばアリル基や3−ブテニル基等をいう。
【0158】
置換基を有する1価の炭化水素基としては、アルコキシ基、アシル基、アシルオキシ基、シアノ基、ジアルキルアミノ基または塩素原子を1個以上有する炭化水素基が好ましい。これらアルコキシ基、アシル基、アシルオキシ基およびジアルキルアミノ基の炭素数は1〜6が好ましい。
【0159】
好ましいQ
8およびQ
9は、いずれも、水素原子の一部がシクロアルキル基またはフェニル基で置換されていてもよい炭素数1〜6のアルキル基である。
特に好ましいQ
8およびQ
9は、いずれも、炭素数1〜6のアルキル基であり、具体的には、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基等が挙げられる。
【0160】
Q
10〜Q
19は、それぞれ独立に、水素原子、または、置換基を有していてもよい炭素数1〜12の1価の炭化水素基を表す。置換基を有していてもよい炭素数1〜12の1価の炭化水素基は、前記Q
8、Q
9と同様の炭化水素基である。置換基を有していてもよい炭素数1〜12の1価の炭化水素基としては、置換基を有しない炭素数1〜6のアルキル基が好ましい。
【0161】
Q
10とQ
11は、いずれも、炭素数1〜6のアルキル基がより好ましく、それらは同一のアルキル基が特に好ましい。
Q
12、Q
15は、いずれも水素原子であるか、置換基を有しない炭素数1〜6のアルキル基が好ましい。同じ炭素原子に結合した2つの基(Q
13とQ
14、Q
16とQ
17、Q
18とQ
19)は、いずれも水素原子であるか、いずれも炭素数1〜6のアルキル基が好ましい。
【0162】
式(M)で表される化合物としては、Yが酸素原子であり、Zが基(Z1)または基(Z2)である化合物、および、YがQ
6およびQ
7で置換されたメチレン基であり、Zが基(Z1)または基(Z5)である化合物が好ましい。
Yが酸素原子である場合のZとしては、Q
1が炭素数1〜6のアルキル基、Q
2とQ
3がいずれも水素原子であるかいずれも炭素数炭素数1〜6のアルキル基、Q
4、Q
5がいずれも水素原子ある、基(Z1)または基(Z2)がより好ましい。特に、Q
1が炭素数1〜6のアルキル基、Q
2とQ
3がいずれも炭素数1〜6のアルキル基、Q
4、Q
5がいずれも水素原子ある、基(Z1)または基(Z2)が好ましい。
【0163】
YがQ
6およびQ
7で置換されたメチレン基であり、Zが基(Z1)または基(Z5)である化合物としては、Q
1が炭素数1〜6のアルキル基、Q
2とQ
3がいずれも水素原子であるかいずれも炭素数1〜6のアルキル基、Q
4〜Q
7がいずれも水素原子ある、基(Z1)または基(Z5)が好ましく、Q
1が炭素数1〜6のアルキル基、Q
2〜Q
7がいずれも水素原子ある、基(Z1)または基(Z5)がより好ましい。
式(M)で表される化合物としては、Yが酸素原子であり、Zが基(Z1)または基(Z2)である化合物が好ましく、Yが酸素原子であり、Zが基(Z1)である化合物が特に好ましい。
【0164】
色素(M)の具体例としては、式(M−1)〜(M−11)で表される化合物が挙げられる。
【化23】
【0166】
また、吸収体(U1)として、Exiton社製のABS407、QCR Solutions Corp.社製のUV381A、UV381B、UV382A、UV386A、VIS404A、HW Sand社製のADA1225、ADA3209、ADA3216、ADA3217、ADA3218、ADA3230、ADA5205、ADA2055、ADA6798、ADA3102、ADA3204、ADA3210、ADA2041、ADA3201、ADA3202、ADA3215、ADA3219、ADA3225、ADA3232、ADA4160、ADA5278、ADA5762、ADA6826、ADA7226、ADA4634、ADA3213、ADA3227、ADA5922、ADA5950、ADA6752、ADA7130、ADA8212、ADA2984、ADA2999、ADA3220、ADA3228、ADA3235、ADA3240、ADA3211、ADA3221、ADA5220、ADA7158、CRYSTALYN社製のDLS381B、DLS381C、DLS382A、DLS386A、DLS404A、DLS405A、DLS405C、DLS403A等を用いてもよい。
【0167】
上に例示した吸収体(U1)として用いられる各化合物の製品名、名称、または式番号とジクロロメタンに溶解して測定されるλ
max(UV)、波長λ
L90、波長λ
L50およびλ
L90−λ
L50を表3に示す。
【0169】
本実施形態においては、吸収体(U1)として、上記吸収体(U1)としての吸光特性を有する複数の化合物から選ばれる1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0170】
吸収体(U)は、好ましくは吸収体(U1)の1種または2種以上を含有する。なお、吸収体(U)は、吸収体(U1)以外に、吸収体(U1)による効果を損なわない範囲で必要に応じてその他の紫外線吸収体を含有してもよい。
【0171】
<透明樹脂(B)>
透明樹脂(B)としては、屈折率が、1.45以上の透明樹脂が好ましい。屈折率は1.5以上がより好ましく、1.6以上が特に好ましい。透明樹脂(B)の屈折率の上限は特にないが、入手のしやすさ等から1.72程度が好ましい。
本明細書において屈折率とは、20℃における波長588nmでの屈折率をいい、特に断りのない限り、屈折率とは該屈折率をいう。
【0172】
透明樹脂(B)として、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、エン・チオール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリサルホン樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂、ポリパラフェニレン樹脂、ポリアリーレンエーテルフォスフィンオキシド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリオレフィン樹脂、環状オレフィン樹脂、およびポリエステル樹脂が挙げられる。透明樹脂(B)としては、これらの樹脂から1種を単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。また、屈折率について1.45以上の透明樹脂(B)を用いる場合については、全体として屈折率が1.45以上であれば、これらの樹脂から1種を単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。
【0173】
上記の中でも、色素(A)や吸収体(U)の透明樹脂(B)に対する溶解性の観点から、透明樹脂は、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、エン・チオール樹脂、エポキシ樹脂、および環状オレフィン樹脂から選ばれる1種以上が好ましい。さらに、透明樹脂は、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、および環状オレフィン樹脂から選ばれる1種以上がより好ましい。ポリエステル樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂等が好ましい。
【0174】
透明樹脂(B)の屈折率は、例えば、ポリマーの主鎖や側鎖に特定の構造を有するように、原料成分の分子構造を調整することで、上記範囲に調整できる。屈折率を上記範囲に調整するためにポリマー内に有する構造としては、例えば、式(B1)で示されるフルオレン骨格が挙げられる。なお、フルオレン骨格のうちでも、より高い屈折率および耐熱性が得られる点で、式(B2)で示される9,9−ビスフェニルフルオレン骨格が好ましい。
【0176】
上記フルオレン骨格や9,9−ビスフェニルフルオレン骨格を有する樹脂としては、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂およびポリエステル樹脂が好ましい。
【0177】
フルオレン骨格を有するアクリル樹脂としては、例えば、少なくとも、9,9−ビスフェニルフルオレンの2個のフェニル基に、末端に(メタ)アクリロイル基を有する置換基を各1個導入した9,9−ビスフェニルフルオレン誘導体を含む原料成分を重合させて得られるアクリル樹脂が挙げられる。なお、本明細書における「(メタ)アクリロイル…」とは、「メタクリロイル…」と「アクリロイル…」の総称である。
【0178】
また、上記(メタ)アクリロイル基を有する9,9−ビスフェニルフルオレン誘導体に水酸基を導入した化合物と、ウレタン(メタ)アクリレート化合物を重合させて得られるアクリル樹脂を用いてもよい。ウレタン(メタ)アクリレート化合物としては、水酸基を有する(メタ)アクリレート化合物とポリイソシアネート化合物の反応生成物として得られる化合物や、水酸基を有する(メタ)アクリレート化合物とポリイソシアネート化合物とポリオール化合物の反応生成物として得られる化合物が挙げられる。
【0179】
フルオレン骨格が導入されたポリエステル樹脂としては、例えば、式(B2−1)に示される9,9−ビスフェニルフルオレン誘導体が芳香族ジオールとして導入されたポリエステル樹脂が挙げられる。この場合、上記芳香族ジオールと反応させるジカルボン酸の種類は特に制限されない。このようなポリエステル樹脂は、屈折率値や可視波長領域における透明性の点から透明樹脂(B)として好適に用いられる。
【0181】
(ただし、式(B2−1)中、R
41は炭素数が2〜4のアルキレン基、R
42、R
43、R
44およびR
45は、各々独立に水素原子、炭素数が1〜7の飽和炭化水素基、または炭素数が6〜7のアリール基を表す。)
【0182】
透明樹脂(B)としては、市販品を用いてもよい。アクリル樹脂の市販品としては、オグソール(登録商標)EA−F5003(商品名、大阪ガスケミカル社製、屈折率:1.59)を硬化させた樹脂が挙げられる。また、既にポリマーとして購入可能なアクリル樹脂として、例えば、東京化成工業社製のポリメチルメタクリレート(屈折率:1.49)、ポリイソブチルメタクリレート(屈折率:1.48)が挙げられる。
【0183】
また、ポリエステル樹脂の市販品としては、大阪ガスケミカル社製のOKPH4HT(屈折率:1.64)、OKPH4(屈折率:1.61)、B−OKP2(屈折率:1.63)、OKP−850(屈折率:1.65)やバイロン(登録商標)103(東洋紡社製、屈折率:1.58)が挙げられる。ポリカーボネート樹脂の市販品としては、SP3810(帝人化成社製、屈折率:1.64)、LeXan(登録商標)ML9103(sabic社製、屈折率1.59)が挙げられる。ポリマーアロイとしてはポリカーボネートとポリエステルのアロイであるパンライト(登録商標)AM−8シリーズ(帝人化成社製)やxylex(登録商標) 7507(sabic社製)が挙げられる。
【0184】
<近赤外線吸収層>
近赤外線吸収層12は、色素(A)と透明樹脂(B)を含有する層である。近赤外線吸収層12は、好ましくは、さらに吸収体(U)を含有する。
【0185】
近赤外線吸収層12は、色素(A)を含有することで(a1)の光学特性を有し、かつ(a2)の光学特性を有することが好ましい。
(a1)吸収スペクトルにおいて、波長650〜750nmに吸収極大波長(λ
max)を有する。
(a2)波長450nm〜550nmの光において、透過率が80%以上である。
【0186】
近赤外線吸収層12は、近赤外線吸収層12と、ガラス基材11と、第1の誘電体多層膜13および第2の誘電体多層膜14から選ばれる少なくとも1つの誘電体多層膜とを組み合わせて積層して得られるNIRフィルタ10A、10B、10Cとして、(i−1)および(i−2)の光学特性を有するように構成されるとよい。
(i−1)波長450〜550nmにおける入射角0度での光の透過率の平均値が80%以上である。
(i−2)波長650〜720nmにおける入射角0度での光の透過率の平均値が15%以下である。
【0187】
ここで、近赤外線吸収層12が光学特性(a1)および(a2)を有することで、NIRフィルタ10A、10B、10Cとして、(i−1)および(i−2)の光学特性を容易に得られ、好ましい。これにより、NIRフィルタ10A〜10Cを例えば、デジタルスチルカメラ等のNIRフィルタとして用いた場合に、近赤外光を遮蔽しつつ可視光の利用効率を向上でき、暗部撮像でのノイズ抑制の点で有利となる。
【0188】
近赤外線吸収層12中における色素(A)の含有量は、近赤外線吸収層12が光学特性(a1)および(a2)を満足させる量が好ましい。さらに、近赤外線吸収層12中における色素(A)の含有量は、実施形態のNIRフィルタの入射角0度の分光透過率曲線の波長600nmよりも波長が長い領域、好ましくは波長610〜640nmに透過率が50%となる波長を有するように調整することが好ましい。具体的には、色素(A)は、近赤外線吸収層12中において、透明樹脂(B)100質量部に対して、0.1〜30質量部が好ましく、0.5〜25質量部がより好ましく、1〜20質量部が特に好ましい。
【0189】
近赤外線吸収層12が吸収体(U)を含有する場合、近赤外線吸収層12と、ガラス基材11と、第1の誘電体多層膜13および第2の誘電体多層膜14から選ばれる少なくとも1つの誘電体多層膜とを組み合わせて積層して得られるNIRフィルタ10A〜10Cとして、(ii−1)および(ii−2)の光学特性を有するように構成されるとよい。
(ii−1)波長430〜450nmにおいて、入射角0度での光の透過率の平均値が70%以上である。
(ii−2)波長350〜390nmにおいて、入射角0度での光の透過率の平均値が5%以下である。
【0190】
近赤外線吸収層12中における吸収体(U)の含有量は、近赤外線吸収層12を有する実施形態のNIRフィルタにおいて、(ii−1)および(ii−2)を満足する量が好ましい。さらに、近赤外線吸収層12中における吸収体(U)の含有量は、実施形態のNIRフィルタの入射角0度の分光透過率曲線の波長450nmよりも波長が短い領域、好ましくは波長400〜425nmの光において透過率が50%となる波長を有するように定める。吸収体(U)は、近赤外線吸収層12中において、透明樹脂(B)100質量部に対して、0.01〜30質量部含有されるのが好ましく、0.05〜25質量部がより好ましく、0.1〜20質量部がより一層好ましい。
【0191】
近赤外線吸収層12は、色素(A)および透明樹脂(B)、任意成分の吸収体(U)以外に、本発明の効果を阻害しない範囲で、必要に応じてその他の任意成分を含有してもよい。その他の任意成分として、具体的には、近赤外線ないし赤外線吸収剤、色調補正色素、紫外線吸収剤、レベリング剤、帯電防止剤、熱安定剤、光安定剤、酸化防止剤、分散剤、難燃剤、滑剤、可塑剤等が挙げられる。また、後述する近赤外線吸収層を形成する際に用いる塗工液に添加する成分、例えば、シランカップリング剤、熱もしくは光重合開始剤、重合触媒に由来する成分等が挙げられる。近赤外線吸収層における、これらその他の任意成分の含有量は、透明樹脂(B)100質量部に対して、それぞれ15質量部以下が好ましい。
【0192】
近赤外線吸収層12の膜厚は、使用する装置内の配置スペースや要求される吸収特性等に応じて適宜定められる。上記膜厚は、0.1〜100μmが好ましい。膜厚が0.1μm未満では、近赤外線吸収能を十分に発現できないおそれがある。また、膜厚が100μm超では膜の平坦性が低下し、吸収率のバラツキが生じるおそれがある。膜厚は、0.5〜50μmがより好ましい。この範囲にあれば、十分な近赤外線吸収能と膜厚の平坦性を両立できる。なお、紫外線吸収層を別途設ける場合でも、紫外線吸収層の膜厚は、上記の範囲を満たせばよい。
【0193】
上記近赤外線ないし赤外線吸収剤としては、上記色素(A)、好ましくは色素(A1)の光学特性による効果を損なわないものが使用される。このような近赤外線吸収剤ないし赤外線吸収剤として、無機微粒子が好ましく使用でき、具体的には、ITO(Indium Tin Oxide)、ATO(Antimony-doped Tin Oxide)、タングステン酸セシウム、ホウ化ランタンなどの微粒子が挙げられる。中でも、ITO微粒子、タングステン酸セシウム微粒子は、可視光の透過率が高く、かつ1200nmを超える赤外域の光も含めた広範囲の光吸収性を有するため、赤外光の遮蔽性を必要とする場合に特に好ましい。
【0194】
ITO微粒子、タングステン酸セシウム微粒子の数平均凝集粒子径は、散乱を抑制し、透明性を維持する点から、5〜200nmが好ましく、5〜100nmがより好ましく、5〜70nmがさらに好ましい。ここで、本明細書において、数平均凝集粒子径とは、検体微粒子を水、アルコール等の分散媒に分散させた粒子径測定用分散液について、動的光散乱式粒度分布測定装置を用いて測定した値をいう。
【0195】
近赤外線吸収剤ないし赤外線吸収剤の含有量は、透明樹脂(B)100質量部に対して、好ましくは0.1〜15質量部、より好ましくは0.3〜10質量部である。これにより、近赤外線吸収層に求められる他の物性を確保しながら、近赤外線吸収剤ないし赤外線吸収剤がその機能を発揮できる。
【0196】
紫外線吸収剤としては、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、サリシレート系紫外線吸収剤、シアノアクリレート系紫外線吸収剤、トリアジン系紫外線吸収剤、オキザニリド系紫外線吸収剤、ニッケル錯塩系紫外線吸収剤、無機系紫外線吸収剤等が好ましく挙げられる。市販品として、Ciba社製、商品名「TINUVIN 479」等が挙げられる。
【0197】
無機系紫外線吸収剤としては、例えば、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化セリウム、酸化ジルコニウム、マイカ、カオリン、セリサイト等の粒子が挙げられる。無機系紫外線吸収剤の数平均凝集粒子径は、透明性の点から、5〜200nmが好ましく、5〜100nmがより好ましく、5〜70nmがさらに好ましい。
紫外線吸収剤の含有量は、透明樹脂(B)100質量部に対して、好ましくは0.01〜10質量部、より好ましくは0.05〜5質量部である。これにより、近赤外線吸収層に求められる他の物性を確保しつつ、紫外線吸収剤がその機能を発揮できる。
【0198】
光安定剤としては、ヒンダードアミン類およびニッケルビス(オクチルフェニル)サルファイド、ニッケルコンプレクス−3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジルリン酸モノエチラート、ニッケルジブチルジチオカーバメート等のニッケル錯体が挙げられる。これらは2種以上を併用してもよい。光安定剤の含有量は、透明樹脂(B)100質量部に対して、好ましくは0.01〜10質量部、より好ましくは0.5〜5質量部である。
【0199】
シランカップリング剤としては、例えば、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−N’−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アニリノプロピルトリメトキシシランのようなアミノシラン類や、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランのようなエポキシシラン類、ビニルトリメトキシシラン、N−2−(N−ビニルベンジルアミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシランのようなビニルシラン類、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、(3−ウレイドプロピル)トリメトキシシラン等が挙げられる。
【0200】
用いるシランカップリング剤の種類は、組合せて使用する透明樹脂(B)に応じて適宜選択できる。シランカップリング剤の含有量は、以下に説明する塗工液において、透明樹脂(B)100質量部に対して、好ましくは1〜20質量部、より好ましくは5〜15質量部である。
【0201】
光重合開始剤としては、アセトフェノン類、ベンゾフェノン類、ベンゾイン類、ベンジル類、ミヒラーケトン類、ベンゾインアルキルエーテル類、ベンジルジメチルケタール類、およびチオキサントン類等が挙げられる。また熱重合開始剤としてアゾビス系、および過酸化物系の重合開始剤が挙げられる。これらは2種以上を併用してもよい。光または熱重合開始剤の含有量は、以下に説明する塗工液において、透明樹脂(B)100質量部に対して、好ましくは0.01〜10質量部、より好ましくは0.5〜5質量部である。
【0202】
近赤外線吸収層12は、例えば、色素(A)および、透明樹脂(B)または透明樹脂(B)の原料成分、さらに任意に吸収体(U)を溶媒に分散し、溶解させて調製した塗工液を、ガラス基材11上に塗工し、乾燥させ、さらに必要に応じて硬化させて製造できる。近赤外線吸収層12をこのような方法で成膜することで、所望の膜厚で均一に製造できる。近赤外線吸収層12が上記任意成分を含む場合、塗工液が該任意成分を含有する。
【0203】
上記溶媒としては、色素(A)および、透明樹脂(B)または透明樹脂(B)の原料成分、さらに任意に含有する吸収体(U)を安定に分散できる分散媒または溶解できる溶媒であれば、特に限定されない。なお、本明細書において「溶媒」の用語は、分散媒および溶媒の両方を含む概念で用いられる。溶媒として、具体的には、アセトン、シクロヘキサノン等のケトン類;テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン等のエーテル類;酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸メトキシエチル等のエステル類;メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、2−メチル−1−プロパノール、2−メトキシエタノール、4−メチル−2−ペンタノール、2−ブトキシエタノール、1−メトキシ−2−プロパノール、ジアセトンアルコール等のアルコール類;n−ヘキサン、n−ヘプタン、イソオクタン、ベンゼン、トルエン、キシレン、ガソリン、軽油、灯油等の炭化水素類;アセトニトリル、ニトロメタン、水等が挙げられる。これらは2種以上を併用してもよい。
【0204】
溶媒の量は、透明樹脂(B)100質量部に対して、10〜5000質量部が好ましく、30〜2000質量部が特に好ましい。なお、塗工液中の不揮発成分(固形分)の含有量は、塗工液全量に対して2〜50質量%が好ましく、5〜40質量%が特に好ましい。
【0205】
塗工液の調製には、マグネチックスターラー、自転・公転式ミキサー、ビーズミル、遊星ミル、超音波ホモジナイザ等の撹拌装置を使用できる。高い透明性を確保するためには、撹拌を十分に行うことが好ましい。撹拌は、連続的に行ってもよく、断続的に行ってもよい。
【0206】
塗工液の塗工には、浸漬コーティング法、キャストコーティング法、スプレーコーティング法、スピンナーコーティング法、ビードコーティング法、ワイヤーバーコーティング法、ブレードコーティング法、ローラーコーティング法、カーテンコーティング法、スリットダイコーター法、グラビアコーター法、スリットリバースコーター法、マイクログラビア法、インクジェット法、またはコンマコーター法等のコーティング法を使用できる。その他、バーコーター法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法等も使用できる。
【0207】
ガラス基材11上に上記塗工液を塗工した後、乾燥させることで該ガラス基材11上に近赤外線吸収層12が形成される。塗工液が透明樹脂(B)の原料成分を含有する場合には、さらに硬化処理を行う。反応が熱硬化の場合は乾燥と硬化を同時に行うことができるが、光硬化の場合は、乾燥と別に硬化処理を設ける。
【0208】
このように、ガラス基材11上に直接、近赤外線吸収層12を形成することで、ガラス基材11の一方の主面上に近赤外線吸収層12を有する積層体Lが得られる。このような積層体Lを製造する方法としては、ガラス基材11上に直接、近赤外線吸収層12を形成する上記の方法が、作業性の点、これを用いて得られるNIRフィルタ10A、10Bの性能の点から好ましい。
【0209】
なお、NIRフィルタ10Cのようにガラス基材11と近赤外線吸収層12の間に誘電体層15を有するNIRフィルタにおいては、ガラス基材11の近赤外線吸収層12が形成される側の主面上に予め後述する方法により誘電体層を形成し、該誘電体層上に上記と同様の方法で近赤外線吸収層12を形成すればよい。
【0210】
また、ガラス基材11の近赤外線吸収層12が形成されるのと反対側の主面に第1の誘電体多層膜13を有する構成のNIRフィルタにおいては、予め後述する方法により第1の誘電体多層膜13が形成されたガラス基材11を準備し、該ガラス基材11の第1の誘電体多層膜13が形成されていない主面上に上記と同様の方法で近赤外線吸収層12を形成してもよい。
【0211】
ここで、近赤外線吸収層12は、透明樹脂(B)の種類によっては、押出成形によりフィルム状に製造することも可能であり、さらに、このように製造した複数のフィルムを積層し熱圧着等により一体化させることもできる。また、剥離性の基材上に形成された近赤外線吸収層12を剥離することによっても製造できる。このようにして単体で得られる近赤外線吸収層12を用いて積層体Lを製造してもよく、この場合には、常法により、例えば接着剤等を用いて、近赤外線吸収層12をガラス基材11上に貼着させることで、積層体Lが製造できる。
【0212】
(誘電体多層膜)
本発明のNIRフィルタは、近赤外線吸収ガラス基材とその少なくとも一方の主面上に近赤外線吸収層とを有する積層体の、少なくとも一方の主面上に誘電体多層膜を有する。誘電体多層膜は、例えば、
図1に示すNIRフィルタ10Aにおいては、ガラス基材11と近赤外線吸収層12とからなる積層体Lのガラス基材11側の主面のみに第1の誘電体多層膜13として積層されている。
【0213】
また、本発明のNIRフィルタにおいて誘電体多層膜は、例えば、
図2に示すNIRフィルタ10Bのように、ガラス基材11と近赤外線吸収層12とからなる積層体Lのガラス基材11側の主面に第1の誘電体多層膜13として、近赤外線吸収層12側の主面に第2の誘電体多層膜14としてそれぞれ積層される構成でもよい。
【0214】
さらには、図示していないが、ガラス基材11と近赤外線吸収層12とからなる積層体Lの近赤外線吸収層12側の主面のみに第2の誘電体多層膜14として積層される構成でもよい。
【0215】
本明細書においては、NIRフィルタの構成要素として、ガラス基材11と近赤外線吸収層12とからなる積層体Lを用いた場合に、積層体Lのガラス基材11側の主面、すなわちガラス基材11の近赤外線吸収層12が形成された主面と反対側の主面に積層される誘電体多層膜を含み、該誘電体多層膜を第1の誘電体多層膜という。また、積層体Lの近赤外線吸収層12側の主面、すなわち近赤外線吸収層12のガラス基材11側と反対側の主面に積層される誘電体多層膜を含み、該誘電体多層膜を第2の誘電体多層膜という。なお、第1の誘電体多層膜および第2の誘電体多層膜の関係は、積層体Lにおいてガラス基材11と近赤外線吸収層12の間に誘電体層15を有する、
図3に示すNIRフィルタ10Cの場合も同様である。
【0216】
第1の誘電体多層膜および第2の誘電体多層膜は、低屈折率の誘電体膜(低屈折率膜)と高屈折率の誘電体膜(高屈折率膜)を交互に積層することで得られる光学的機能を有する膜である。設計により、光の干渉を利用して特定の波長領域の光の透過や遮蔽を制御する機能を発現させた反射防止膜、反射膜、選択波長遮蔽膜等として使用できる。なお、低屈折率と高屈折率とは、隣接する層の屈折率に対して高い屈折率と低い屈折率を有することを意味する。
【0217】
高屈折率膜を構成する高屈折率材料および低屈折率膜を構成する低屈折率材料については、屈折率が異なる2種の材料を準備し、屈折率が高い材料を高屈折率材料、屈折率が低い材料を低屈折率材料とすればよい。
【0218】
具体的には、屈折率が1.4以上1.7以下の材料を低屈折率材料として用い、屈折率が2.0以上2.6以下の材料を高屈折率材料として用いて誘電体多層膜を形成することが、設計のしやすさや製造の容易さから好ましい。
【0219】
低屈折率材料として、より具体的には、SiO
2(1.45)、SiO
xN
y(1.45超1.7以下)、MgF
2(1.38)などが挙げられる。これらのうちでも、本発明においては、上記の屈折率の範囲の低屈折率材料が好ましく、SiO
2が成膜性における再現性、安定性、経済性などの点で特に好ましい。なお、化合物の後の括弧内の数字は屈折率を示す。以下、高屈折率材料についても同様に化合物の後の括弧内の数字は屈折率を示す。
【0220】
また、高屈折率材料として、より具体的には、Ta
2O
5(2.22)、TiO
2(2.41)、Nb
2O
5(2.3)、ZrO
2(1.99)などが挙げられる。これらのうちでも、本発明においては、上記の屈折率の範囲の高屈折率材料が好ましく、成膜性と屈折率等をその再現性、安定性を含め総合的に判断して、TiO
2等が特に好ましく用いられる。
【0221】
第1の誘電体多層膜13および第2の誘電体多層膜14は、求められる光学特性に応じて、その具体的な層数や膜厚、および使用する高屈折率材料および低屈折率材料の屈折率を、従来の手法を用いて設計できる。さらに、誘電体多層膜は、該設計のとおりに製造できる。
【0222】
誘電体多層膜の層数は、誘電体多層膜の有する光学特性によるが、低屈折率膜と高屈折率膜との合計積層数として2〜100が好ましく、2〜80がより好ましい。合計積層数が増えると製作時のタクトが長くなり、誘電体多層膜の反りなどが発生するため、また、誘電体多層膜の膜厚が増加するため上記上限以下が好ましい。なお、求められる光学特性を有する限り層数は少ない方が好ましい。低屈折率膜と高屈折率膜の積層順は交互であれば、最初の層が低屈折率膜であっても高屈折率膜であってもよいが,高屈折率膜の方が好ましい。
【0223】
誘電体多層膜の膜厚としては、上記好ましい積層数を満たした上で、NIRフィルタの薄型化の観点からは、薄い方が好ましい。このような誘電体多層膜の膜厚としては、誘電体多層膜が有する光学特性によるが、2〜10μmが好ましい。なお、誘電体多層膜を反射防止層として用いる場合には、その膜厚は0.1〜1μmが好ましい。また、NIRフィルタ10Bのように、積層体Lのガラス基材11側の主面および近赤外線吸収層12側の主面に第1の誘電体多層膜13および第2の誘電体多層膜14をそれぞれ備える場合、誘電体多層膜の応力により反りが生じる場合がある。この反りの発生を抑制するために各々の表面に成膜される誘電体多層膜の膜厚の差は、所望の選択波長遮蔽特性を有するように成膜した上で、可能な限り少ない方が好ましい。
【0224】
誘電体多層膜は、その形成にあたっては、例えば、IAD(Ion Assisted Deposition)蒸着法、CVD法、スパッタ法、真空蒸着法等の乾式成膜プロセスや、スプレー法、ディップ法等の湿式成膜プロセス等を使用できる。
【0225】
本発明のNIRフィルタにおいて、誘電体多層膜の少なくとも一方、例えば、第1の誘電体多層膜および第2誘電体多層膜の少なくとも一方は、波長800〜900nmの光に対する入射角0度での最大透過率が1%以下であり、かつ、波長775〜900nmの光に対する入射角31〜60度での最大透過率が3%以上である、近赤外線反射性の誘電体多層膜であることが好ましい。
【0226】
誘電体多層膜において、波長800〜900nmの光に対する、入射角0度での最大透過率が1%以下であると、ガラス基材と近赤外線吸収層とを有する積層体の組成および厚さの自由度が高くなることから好ましい。また、誘電体多層膜において、波長775〜900nmの光に対する、入射角31〜60度での最大透過率が3%以上であると、誘電体多層膜の設計及び製造が容易になることから好ましい。
【0227】
また、誘電体多層膜は、入射角0〜30度で入射する波長430〜660nmの光に対する平均透過率は90%以上が好ましく、95%以上がさらに好ましい。さらに、入射角0度で入射する波長700〜1200nmの光に対する透過率が20%以下となる近赤外線反射帯を有するとよい。また、入射角0度で波長750〜1150nmの光に対する平均透過率は、5%以下が好ましく、3%以下がさらに好ましい。
【0228】
また、誘電体多層膜は、その分光透過率曲線に基づき、以下の各パラメータを定義する。つまり、近赤外線反射帯の短波長側で、入射角0度の光の透過率が50%となる波長をλSh(R0_T50%)、入射角30度の光のうちs偏光成分の透過率が50%となる波長をλSh(R30_Ts50%)とする。
また、前述の近赤外線吸収層は、その分光透過率曲線に基づき、以下の各パラメータを定義する。つまり、吸収極大波長λ
maxの短波長側で透過率が20%となる波長をλSh(D_T20%)、λ
maxの長波長側で透過率が20%となる波長λLo(D_T20%)とする。
このとき、下記式(1)の関係を満足するとよい。
λSh(D_T20%)≦ λSh(R30_Ts50%)< λSh(R0_T50%)≦ λLo(D_T20%) ・・・ (1)
【0229】
近赤外線反射性を有する誘電体多層膜は、可視域から近赤外域に向けて透過から遮断(反射)へ遷移する境界波長域の分光透過率曲線が、光の入射角の増加にともない短波長側にシフトする。シフト量は入射偏光成分により異なり、p偏光に比べs偏光の方が大きい。そのため、式(1)は、光の入射角依存性にさらに偏光依存性を加えた最大のシフト量を考慮しても、近赤外線吸収層の吸収領域内に入る関係を満たす。つまり、式(1)の関係を満足することで、入射角0〜30度の光に対する分光透過率曲線の変化を抑制できる。
なお、誘電体多層膜において、近赤外線反射帯の短波長側における入射角0度の光に対する透過率をX%(0<X≦50)とするとき、透過率X%における、上記境界波長域での最大シフト量は、入射角0度の波長λSh(R0_TX%)と入射角30度のs偏光の波長λSh(R_TsX%)の差に相当する。
【0230】
また、式(1)に関連する、近赤外線吸収層については、λ
maxの短波長側で透過率がY%(0<Y≦50)となる波長をλSh(D_TY%)、λ
maxの長波長側で透過率がY%となる波長をλLo(D_TY%)とする。
そして、NIRフィルタの仕様に応じて、誘電体多層膜に対する透過率X、および近赤外線吸収層に対する透過率Yをそれぞれ任意に設定し、式(3)の関係を満足させる。
λSh(D_TY%)≦ λSh(R30_TsX%)< λSh(R0_TX%)≦ λLo(D_TY%) ・・・ (3)
【0231】
誘電体多層膜に対する所定の透過率Xおよび近赤外線吸収層に対する所定の透過率Yにおいて式(3)を満たす誘電体多層膜および近赤外線吸収層を有するNIRフィルタは、入射角0〜30度の光に対する誘電体多層膜の分光透過率曲線の変化が生じても、透過率X%の波長は近赤外線吸収層の透過率Y%以下となる吸収波長帯内に収まる。そのため、該NIRフィルタは、分光透過率曲線において入射角による透過率変化を特に抑制すべき、λSh(R30_TsX%)〜λSh(R0_TX%)の波長域における透過率が、(X×Y)/100%以下となる。ここで、X、Yを所定の値とすることで、該波長域において低い透過率を実現できるので、誘電体多層膜によって生じる透過率の入射角依存性を低減できる。
【0232】
なお、式(1)は、式(3)において、誘電体多層膜に対する透過率Xを50%、近赤外線吸収層に対する透過率Yを20%とした場合の、NIRフィルタにおける誘電体多層膜と近赤外線吸収層の遮光特性の関係を示した式に相当する。つまり、式(1)は、λSh(R30_Ts50%)〜λSh(R0_T50%)の波長域における透過率が、(X×Y)/100=10%以下となるので、入射角にともなって変化する透過率は低い値に収まる。
【0233】
また、式(3)において、透過率Xを10%、透過率Yを10%に設定したNIRフィルタの場合、上記波長域における透過率が1%以下となり、入射角依存性がさらに低減され好ましい。このように、式(3)におけるX×Y/100の値が低くなるように誘電体多層膜および近赤外線吸収層が持つ各分光透過率曲線の特性を組合せたNIRフィルタは、波長700nmにおいて、入射角に依存した分光透過率曲線の変化を抑制できる。なお、ここで言う「入射角に依存した分光透過率曲線の変化」とは、同じ波長の光における透過率の変化および同じ透過率における波長の変化、を意味する。
本発明のNIRフィルタは近赤外吸収ガラス基材を備えるため、上記波長域における近赤外吸収ガラス基材の吸収も考慮すると、入射角に依存した分光透過率曲線の変化はさらに抑制できる。
【0234】
また、近赤外線吸収層は、例えば、色素(A)の含有濃度が低くなると、吸収波長帯幅{λLo(D_T20%)−λSh(D_T20%)}が狭いため、式(1)を満たさない場合がある。このとき、近赤外線吸収層の透過率T(λ
max)が低下するよう色素(A)の含有量を増して吸収波長帯幅を広げたり、誘電体多層膜の波長シフト量{λSh(R0_T50%)−λSh(R30_Ts50%)}を減らしたりすることにより式(1)を満足すればよい。
【0235】
近赤外反射帯の短波長域における入射角に依存した波長シフト量を減らす誘電体多層膜の構成は、例えば、国際公開第2013/015303号公報または特開2007−183525号公報に記載されている。
前者は、各層の光学膜厚比が3以上異なる高屈折率層と低屈折率層のペアが15以上積層された誘電体多層膜により、650nm付近のカットオフ帯域における入射角度0度と30度における50%透過率となる波長の差を16nmとした例を開示している。
後者は、高屈折率層と中屈折率層とを含み、各層の光学膜厚を参照波長λ
0の略λ
0/4となるように、交互に27層積層した誘電体多層膜により、入射角度0度と25度における50%透過率となる波長の差を15nmとした例を開示している。
【0236】
なお、本明細書において誘電体多層膜の透過率は、ガラス基材と近赤外線吸収層とを有する積層体での吸収および反射を除いた値をいう。誘電体多層膜の波長775〜900nmの光に対する透過率は、具体的には、波長775〜900nmの光を100%透過する基板、例えば、Schott製硼ケイ酸ガラスD263Tecoガラス基板上に透過率の測定対象となる誘電体多層膜を成膜し、分光光度計、例えば、日立ハイテクサイエンス製分光光度計U4100を用いて測定できる。
【0237】
NIRフィルタ10A、10B、10C等の第1の誘電体多層膜13を有するNIRフィルタにおいては、少なくとも第1の誘電体多層膜13が、上記光学特性を有する近赤外線反射性の誘電体多層膜が好ましい。NIRフィルタがNIRフィルタ10B、10Cのように第1の誘電体多層膜13と第2の誘電体多層膜14を有する場合、これらの両方が上記近赤外線反射性の誘電体多層膜でもよいが、第1の誘電体多層膜13のみが上記近赤外線反射性の誘電体多層膜が好ましい。
【0238】
NIRフィルタ10B、10Cの場合、第2の誘電体多層膜14は反射防止機能を有する膜(反射防止膜)として、可視光に対して低反射性の誘電体多層膜として設計されるとよい。第2の誘電体多層膜14が反射防止膜である場合、該誘電体多層膜(反射防止膜)は、NIRフィルタ10B、10Cに入射した可視光の反射を防止することにより透過率を向上させ、効率よく入射光を利用する機能を有するものであり、上記の材料を用いて常法により設計し、それに従い上記の方法により形成できる。
【0239】
本発明のNIRフィルタにおいては、第2の誘電体多層膜14を有しないNIRフィルタ10Aにおいても、第2の誘電体多層膜14を有するNIRフィルタ10B、10Cにおいても、ガラス基材11の近赤外線吸収層12を有する側の表面において、ガラス基材11の近赤外線吸収層12を有するのと反対側の界面および表面の反射を除いて測定される、波長430〜600nmの光に対する入射角5度での反射率は、2%以下が好ましい。
【0240】
NIRフィルタにおけるガラス基材の近赤外線吸収層を有する側の表面とは、NIRフィルタ10Aにおいては、近赤外線吸収層12のガラス基材11側とは反対側の大気に晒されている面であり、NIRフィルタ10B、10Cにおいては、第2の誘電体多層膜14の近赤外線吸収層12側とは反対側の大気に晒されている面である。ここで、ガラス基材11の近赤外線吸収層12を有するのと反対側の界面および表面の反射を除いて上記表面において反射率を測定するには、例えば、ガラス基材11の近赤外線吸収層12を有するのと反対側の主面上に第1の誘電体多層膜13の代わりに黒色樹脂層を形成した測定サンプルを作製し、上記表面において反射率を測定すればよい。該反射率は2%以下が好ましく、1.2%以下がより好ましい。
【0241】
なお、近赤外線吸収層12上に形成される第2の誘電体多層膜14においては、第2の誘電体多層膜14のうち近赤外線吸収層12に接する誘電体膜は、屈折率が1.4以上1.7以下である誘電体材料が好ましい。屈折率が1.4以上1.7以下である誘電体材料の具体例は上記のとおりである。第2の誘電体多層膜14のうち近赤外線吸収層12に接する誘電体膜の屈折率がこのような範囲にあると、固体撮像装置で撮像される画像の色再現性に影響を与えるリップルの発生を抑えやすい。
【0242】
(誘電体層)
図3に示すNIRフィルタ10Cが有する誘電体層15は、ガラス基材11と近赤外線吸収層12の間に、主として耐久性を向上させる目的で形成される、本発明のNIRフィルタにおける任意の層である。なお、誘電体層は本発明のNIRフィルタにおいて構成を問わず適用可能である。例えば、NIRフィルタ10Aのような構成のNIRフィルタにおいて、ガラス基材11と近赤外線吸収層12の間に誘電体層を形成してもよい。
【0243】
誘電体層15は、誘電体材料で構成される層であり、その厚さは5nm以上が好ましい。誘電体層15を上記構成とすることで、NIRフィルタにおける近赤外線吸収層12の耐久性を向上できる。誘電体層15の厚さは、30nm以上がより好ましく、100nm以上がさらに好ましく、150nm以上が特に好ましい。誘電体層15の厚さの上限は特にないが、設計のしやすさや製造の容易さの観点から誘電体層15の厚さは1000nm以下が好ましく、500nm以下がより好ましい。
【0244】
上記のとおり、NIRフィルタ10Bのように、積層体Lを挟んで両側に誘電体多層膜を有するNIRフィルタにおいては、両誘電体多層膜の特に厚さの違いにより反りが生じる場合がある。両誘電体多層膜の機能を維持しながら膜厚を調整できるが、NIRフィルタ10Cのように誘電体層15を有する場合は、第1の誘電体多層膜13、第2の誘電体多層膜14に加えて誘電体層15の厚さを調整することで、容易に応力バランスが取れ、反りの発生の抑制がしやすい利点を有する。
なお、誘電体層15において、誘電体材料の種類および厚さ以外の層構成は特に制限されない。
【0245】
誘電体層15は、例えば、ガラス基材11にNa原子やK原子などのアルカリ原子が含まれ、そのアルカリ原子が近赤外線吸収層12に拡散することで近赤外線吸収層12の光学特性や耐候性に悪影響を及ぼすような場合に、アルカリバリア膜として機能し、NIRフィルタの耐久性を高められる。また、該NIRフィルタを備える固体撮像装置等の信頼性を高められる。
【0246】
上記の場合、誘電体層15はアルカリバリア膜として機能する誘電体材料を含んで単層または複数層から構成される。このような誘電体材料として、SiO
2やSiO
x(ただし、0.8≦x<2)、Al
2O
3などが好適に挙げられる。
【0247】
誘電体層15は、単層から構成される場合、光学特性の点から、屈折率が1.4以上1.7以下の誘電体材料が好ましい。誘電体層15がこの範囲の屈折率の誘電体材料からなる単層で構成されると、ガラス基材11と近赤外線吸収層12の間に存在する界面での光の反射が大きくなることがなく好適である。
【0248】
屈折率が1.4以上1.7以下の誘電体層の材料としては、SiO
2やSiO
xN
y(ただし、0.5≦x<2、0<y≦1)、MgF
2、Al
2O
3などが好適に挙げられる。あるいは、誘電体層15がガラス基材11と近赤外線吸収層12の間の界面の反射を低くするような光学的構成の誘電体多層膜を形成するのも同様に好適である。なお、誘電体層15は、例えば、SiO
2、SiO
x(ただし、0.8≦x<2)およびAl
2O
3から選ばれる少なくとも1つの材料を含んで構成されるアルカリバリア膜(単膜)から構成されてもよく、該アルカリバリア膜とは異なる材料からなる層を含む、複数層構成でもよい。
【0249】
誘電体層15が、SiO
2とAl
2O
3を含むアルカリバリア膜単膜で構成される場合、SiO
2とAl
2O
3の質量比は80:20〜99:1の範囲であればよく、85:15〜97.5:2.5の範囲が好ましく、90:10〜97.5:2.5の範囲がより好ましい。80:20〜99:1の範囲であれば、近赤外線吸収層12との密着性が高くなるので好ましい。詳細には、Al
2O
3の単体では、SiO
2やSiO
x(ただし、0.8≦x<2)に比べて近赤外線吸収層12との密着性は低いものの、上記の割合でSiO
2にAl
2O
3を添加して得られるアルカリバリア膜は、Al
2O
3によりSiO
2の表面が改質されることで、近赤外線吸収層12との密着性が高められる。
【0250】
本フィルタは、ガラス基材11と近赤外線吸収層12との間に、両者の密着性を向上させる目的で、さらに密着膜を有してもよい。すなわち、誘電体層15には密着膜が含まれていてもよい。誘電体層15が密着膜を有する場合、密着膜は最もガラス基材11側に設けられることが好ましい。密着膜の配置は、特に、ガラス基材11を構成するガラスがフッ素を含む場合にその密着性向上の効果が大きい。密着膜を構成する材料は、主としてガラス基材11の構成材料に応じて、該ガラス基材11と密着性を有する誘電体材料から適宜選択される。例えば、ガラス基材11がフッ素を含むガラス基材である場合、密着膜は、MgF
2、CaF
2、LaF
3、NdF
3、CeF
3、Na
5Al
3F
14、Na
3AlF
6、AlF
3、BaF
2、YF
3およびAl
2O
3から選ばれる少なくとも1つの材料から選択される誘電体材料で構成されることが好ましい。このように、ガラス基材11と近赤外線吸収層12との間に備えられる誘電体層15は、上記のアルカリバリア膜の単膜または密着膜の単膜であってもよく、もしくは、該アルカリバリア膜と該密着膜との両方を有してもよい。
【0251】
密着膜の膜厚は、5〜100nmであればよく、10〜50nmが好ましく、15〜30nmがより好ましい。さらに、例えば、ガラス基材11がフッ素を含むガラス基材であって、誘電体層15が、密着膜とアルカリバリア膜との両方を備える場合、フッ素を含むガラス基材11側から、フッ素を含む密着膜、アルカリバリア膜、近赤外線吸収層12の順に備えることで密着効果およびアルカリバリア効果が高くなるので好ましい。このように、ガラス基材11がフッ素を含むガラス基材であって誘電体層15が、ガラス基材11側から、密着膜、アルカリバリア膜をその順に備える構成である場合、密着膜は、MgF
2、CeF
3およびAl
2O
3、から選ばれる少なくとも1つの材料を含んで構成されるとともに、アルカリバリア膜は、SiO
2やSiO
x(ただし、0.8≦x<2)およびAl
2O
3から選ばれる少なくとも1つの材料を含んで構成されることが好ましい。この中でも、密着膜がMgF
2から構成されるとともにアルカリバリア膜がSiO
2から構成される組み合わせや、密着膜がAl
2O
3から構成されるとともにアルカリバリア膜がSiO
2またはSiO
xから構成される組み合わせが、ガラス基材11と近赤外線吸収層12の間の界面での反射率が低くできる点でより好ましい。
【0252】
この中でも、密着膜がAl
2O
3から構成されるとともにアルカリバリア膜がSiO
2またはSiO
xから構成される組み合わせが、ガラス基材11と近赤外線吸収層12の間の反射率を低くできる。さらに、該組み合わせは、Al
2O
3はガラス基材11の典型的な例として挙げられるCuO含有フツリン酸塩ガラスまたはCuO含有リン酸塩ガラスの主成分であるP
2O
5とリン酸アルミニウムを形成したり、SiO
2またはSiO
xとアルミノシリケートを形成したりして、ガラス基材11とSiO
2またはSiO
xの両方の材料に対して化学的親和性が高く、さらにSiO
2またはSiO
xは、シランカップリング剤を樹脂に混合することで容易に樹脂との化学的親和性を高められるという理由で、とくに両者の密着性が高められるためより好ましい。なお、密着膜がAl
2O
3から構成されるとともにアルカリバリア膜がSiO
2またはSiO
xから構成される場合、Al
2O
3膜の膜厚は、20〜150nmであればよく、20〜100nmが好ましく、30〜50nmがより好ましく、SiO
2膜またはSiO
x膜の膜厚は、100〜350nmであればよく、100〜250nmが好ましく、150〜200nmがより好ましい。
【0253】
ガラス基材11上に誘電体層15を形成する方法としては、上記誘電体多層膜の成膜方法と同様な方法が適用できる。具体的には、IAD蒸着法、CVD法、スパッタリング法、真空蒸着法等の乾式成膜プロセスや、スプレー法、ディップ法等の湿式成膜プロセス等を使用して誘電体層15が形成可能である。なお、IAD蒸着法やスパッタリング法は、これにより形成される誘電体層15のアルカリバリア特性を良好にできるため、誘電体層15の形成において好ましい方法である。
【0254】
NIRフィルタ10A〜10Cは、それぞれ上に説明した各構成要素を適宜組み合わせて、波長775〜900nmの光に対する入射角31〜60度での最大透過率が50%以下という本発明の光学特性を達成できる。なお、波長775〜900nmの光に対する、入射角31〜60度での最大透過率は30%以下が好ましく、10%以下がより好ましく、5%以下がさらに好ましく、3%以下がさらに好ましく、1%以下がさらに好ましく、0.5%以下がさらに好ましく、0.3%以下がさらにより好ましく、0.2%以下が特に好ましい。本発明の光学特性を有する本発明のNIRフィルタを固体撮像装置に用いれば、撮像された画像に本来の被写体には存在しなかった像が出現する現象の発生を低減または防止できる。
【0255】
NIRフィルタ10A〜10Cにおいては、それぞれ上に説明した各構成要素について、NIRフィルタとしての光学特性として、波長600nmよりも波長が長い領域において、入射角0度での透過率が50%となる波長λ
0(NIR)と入射角度30度での透過率が50%となる波長λ
30(NIR)とを有し、前記波長の差の絶対値|λ
0(NIR)−λ
30(NIR)|が5nm以下となるように、それぞれの分光透過特性等を調整することが好ましい。なお、前記波長の差の絶対値|λ
0(NIR)−λ
30(NIR)|は3nm以下がより好ましい。
【0256】
|λ
0(NIR)−λ
30(NIR)|が上記範囲にあると、固体撮像装置において、レンズの中心と外側から入った光のNIRフィルタを透過することによる可視域と近赤外域の境界付近の領域における変化の差が小さく、画像の面内での発色の違いを最小限にできる。これにより、例えば、近赤外線反射性の誘電体多層膜が有する光の入射する角度により遮蔽波長がシフトする角度依存性の影響をほぼ排除できる。
【0257】
また、NIRフィルタ10A〜10Cにおいては、上述した各構成要素について、NIRフィルタとしての光学特性として、波長600〜750nmにおいて、入射角0度の光の透過率と入射角30度での透過率との差の絶対値の平均が3%以下となるように、それぞれの分光透過特性等を調整することが好ましく、該絶対値の平均が2%以下とすることがより好ましい。この透過率の差の絶対値の平均が上記範囲にあると、同様に画像の面内での発色の違いを最小限にできる。
【0258】
NIRフィルタ10A〜10Cにおいて、近赤外線吸収層12に吸収体(U)を含有する場合、上述した各構成要素について、NIRフィルタとしての光学特性として、波長450nmよりも波長が短い領域において、入射角0度の光の透過率が50%となる波長λ
0(UV)と入射角30度の光の透過率が50%となる波長λ
30(UV)とを有し、前記波長の差の絶対値|λ
0(UV)−λ
30(UV)|が5nm以下となるように、それぞれの分光透過特性等を調整することが好ましい。なお、前記波長の差の絶対値|λ
0(UV)−λ
30(UV)|は3nm以下がより好ましい。
【0259】
|λ
0(UV)−λ
30(UV)|が上記範囲にあると、固体撮像装置において、レンズの中心と外側から入った光のNIRフィルタを透過することによる可視域と紫外域の境界付近の領域における変化の差が小さく、画像の面内での発色の違いを最小限にできる。これにより、例えば、波長500nm以下において光の入射角依存性を小さくできる。
【0260】
また、NIRフィルタ10A〜10Cにおいて、近赤外線吸収層12に吸収体(U)を含有する場合、上述した各構成要素について、NIRフィルタとしての光学特性として、波長380〜430nmにおいて、入射角0度の光の透過率と、入射角30度の光の透過率の差の絶対値の平均が8%以下となるように、それぞれの分光透過特性等を調整することが好ましく、該絶対値の平均を5%以下とすることがより好ましく、3%以下とすることがさらに好ましい。この透過率の差の絶対値の平均が上記範囲にあると、同様に画像の面内での発色の違いを最小限にできる。
【0261】
本発明のNIRフィルタにおいては、本発明の光学特性を有する限り、上記以外の他の構成要素を有してもよい。他の構成要素としては、反射防止膜、特定の波長領域の光を反射する反射膜、特定の波長領域の光の透過と遮蔽を制御する選択波長遮蔽膜、α線等の放射線を遮蔽する放射線遮蔽膜等が挙げられる。
【0262】
本発明のNIRフィルタは、例えば、選択波長遮蔽膜として紫外線遮蔽能を有するローパスフィルタと貼り合わせて用いてもよい。また、NIRフィルタの主面の端部に黒い枠状の遮光部材が配設されていてもよい。NIRフィルタにおいて遮光部材が配設される位置は、主面のどちらか一方もしくは両方でもよく、側面でもよい。
【0263】
NIRフィルタをローパスフィルタと貼り合わせて用いる際に、例えば、NIRフィルタ10Aにおいて近赤外吸収層12側の表面がローパスフィルタと接着剤を介して貼り合わされる場合、該近赤外吸収層12上に厚さが50〜500nm程度の誘電体層を設け、その上にローパスフィルタを貼り合わせるとよい。
【0264】
これにより、近赤外線吸収層12が含有する透明樹脂(B)の上記接着剤による溶解を防止できる。該誘電体層の材料は、SiO
2、SiO
xN
y、MgF
2、ZrO
2、Ta
2O
5、TiO
2等、貼り合せ後に分光特性を損ねない材料から適宜選択できる。
【0265】
さらに、本発明のNIRフィルタには、光の利用効率を高めるために、モスアイ構造のように表面反射を低減する構成を設けてもよい。モスアイ構造は、例えば400nmよりも小さい周期で規則的な突起配列を形成した構造で、厚さ方向に実効的な屈折率が連続的に変化するため、周期より長い波長の光の表面反射率を抑える構造であり、モールド成型等によりNIRフィルタの表面、例えば、
図2に示すNIRフィルタ10Bであれば第2の誘電体多層膜14上に形成できる。
【0266】
また、本発明のNIRフィルタは、必要に応じて、選択波長遮蔽膜として、例えば、近赤外線ないし赤外線吸収剤、色調補正色素および紫外線吸収剤から選ばれる少なくとも1種を、従来公知の方法で透明樹脂に分散させた特定の波長の光を吸収する光吸収層を有してもよい。透明樹脂としては、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアミド樹脂、アルキド樹脂等の熱可塑性樹脂、エン・チオール樹脂、エポキシ樹脂、熱硬化型アクリル樹脂、光硬化型アクリル樹脂、シルセスキオキサン樹脂等の熱や光により硬化される樹脂等が挙げられる。これら光吸収層における各吸収剤の含有量は各吸収剤の光吸収能に応じて、本発明の効果を損ねない範囲で適宜調整される。
【0267】
このような光吸収層として、例えば、ITO微粒子を透明樹脂に分散した赤外線吸収層を使用できる。ITO微粒子の含有量は、近赤外線吸収層の場合と同様にできる。これにより、可視光に吸収を示さず、透明性を保持できる。
【0268】
光吸収層として、近赤外線ないし赤外線を広い波長領域で吸収させる目的で色素を添加する場合には、一般に、可視光の吸収を伴うことも多いので、例えば、CuO含有フツリン酸塩ガラスまたはCuO含有リン酸塩ガラスからなる近赤外線吸収ガラス基材を用いた場合、可視光の吸収を低く抑えたまま近赤外光を吸収できて好ましい。また、同一の吸収層に複数種の色素を混在させた場合において、熱等による劣化がより顕著に起こることがあり、その点でも、例えば、CuO含有フツリン酸塩ガラスまたはCuO含有リン酸塩ガラスからなる近赤外線吸収ガラス基材を用いるとよい。
【0269】
本発明のNIRフィルタは、デジタルスチルカメラやデジタルビデオカメラ、監視カメラ、車載用カメラ、ウェブカメラ等の撮像装置や自動露出計等のNIRフィルタ、PDP用のNIRフィルタ等として使用できる。本発明のNIRフィルタは、上記撮像装置における固体撮像装置に好適に用いられ、NIRフィルタは、例えば、撮像レンズと固体撮像素子との間に配置される。
【0270】
[固体撮像装置]
以下に
図4を参照しながら、本発明のNIRフィルタを撮像レンズと固体撮像素子との間に配置して用いた本発明の固体撮像装置の一例を説明する。
【0271】
図4は、上記近NIRフィルタ10Bを用いた固体撮像装置の一例の要部を概略的に示す断面図である。この固体撮像装置20は、
図4に示すように、固体撮像素子21と、その前面に以下の順に、NIRフィルタ10Bと、撮像レンズ23を有し、さらにこれらを固定する筐体24とを有する。撮像レンズ23は、筐体24の内側にさらに設けられたレンズユニット22により固定されている。NIRフィルタ10Bは固体撮像素子21側に第2の誘電体多層膜14が、撮像レンズ23側に第1の誘電体多層膜13が位置するように配置されている。固体撮像素子21と、撮像レンズ23とは、光軸Xに沿って配置されている。このようにNIRフィルタを装置に設置する際の方向については、設計に応じて適宜選択される。
【0272】
なお、本発明のNIRフィルタは、一体化された構成に限らない。例えば、NIRフィルタと、固体撮像素子を含む光学部材を有し、被写体側または光源の光が入射する側から順に、NIRフィルタおよび固体撮像素子が配置された固体撮像装置において、NIRフィルタを以下のような構成にもできる。すなわち、該固体撮像装置において、NIRフィルタは、近赤外線吸収ガラス基材と誘電体多層膜が互いに接するように設けられるとともに、近赤外線吸収層は単独で近赤外線吸収ガラス基材と同じ光路中に設けられる、または近赤外線吸収ガラス基材と同じ光路中に配置された光学部材に含有されるように設けられる構成でもよい。
【0273】
図8は、NIRフィルタ10Dと、それを用いた固体撮像装置の断面図の他の一例である。
このNIRフィルタ10Dは、近赤外線吸収層12が、近赤外線吸収ガラス基材11とは別体となる、固体撮像素子の受光面側の光学部材中に配置される。該光学部材は、例えば、画素毎に形成されたRGBカラーフィルタや集光用のマイクロレンズなどが挙げられる。近赤外線吸収層12は、固体撮像素子の受光面とRGBカラーフィルタとの界面、RGBカラーフィルタとマイクロレンズとの界面、または、マイクロレンズと空気との界面に配置してもよい。また、近赤外線吸収層は、色素(A)を樹脂中に含有したRGBカラーフィルタやマイクロレンズとして取り扱ってもよい。
【0274】
図9は、NIRフィルタ10Eと、それを用いた固体撮像装置の断面図の他の一例である。
このNIRフィルタ10Eは、近赤外線吸収層12が撮像レンズ23の空気界面に配置される。撮像レンズ23は複数のレンズから構成され、複数の空気界面が有るため、近赤外線吸収層12は、撮像レンズ23の解像度などの影響が少ない面に配置するとよい。また、近赤外線吸収層は、撮像レンズ23が樹脂を含むとともに色素(A)を樹脂中に含有した撮像レンズとして取り扱ってもよい。このように、NIRフィルタにおいて近赤外線吸収層は、光学部材として機能するように構成されてもよい。
【0275】
図10は、NIRフィルタ10Fと、それを用いた固体撮像装置の断面図の他の一例である。
このNIRフィルタ10Fは、近赤外線吸収層12が、レンズユニット22の被写体側の入射面に配置される。なお、撮像装置のレンズユニットは、被写体側の入射面が開口絞り位置となる設計例が多い。そのため、近赤外線吸収層12上における、開口部の周辺領域に、可視光および近赤外光を吸収する黒色吸収剤を含む遮光膜を有するとよい。これにより、撮像レンズの解像度低下につながる不要な高角入射光を遮断できる。
【0276】
本発明の固体撮像装置は、近赤外線吸収ガラスと近赤外線吸収色素を含む近赤外線吸収層と誘電体多層膜とを効果的に用いた近赤外線遮蔽特性に優れる近赤外線カットフィルタであって、該近赤外線カットフィルタにおいて、近赤外域の特定波長領域(775〜900nm)の光に対する、比較的入射角の大きい入射角31〜60度での最大透過率を50%以下とする構成の本発明のNIRフィルタを用いることで、撮像された画像に本来の被写体には存在しなかった像が出現する現象の発生が低減または防止された感度の高い固体撮像装置である。
【実施例】
【0277】
以下に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。
[例1]
図3と同様の断面図を有するNIRフィルタAを作製した。なお、以下に示す各構成部材およびNIRフィルタAの光学特性の測定は、全て日立ハイテクサイエンス製分光光度計U4100を用いて行った。
【0278】
(第1の誘電体多層膜としての近赤外線反射性の誘電体多層膜の成膜)
76mm×76mm×0.214mmtの旭硝子製フツリン酸ガラス基板NF−50TX(以下、「ガラス基板A」という。)を旭硝子製ハイドロフルオロエーテル系溶剤アサヒクリン(登録商標)AE3000(商品名)を用いて、超音波洗浄機で10分間洗浄した。洗浄したガラス基板Aについて、波長775〜900nmの光の入射角0度の吸収率を測定したところ、87.3%〜89.5%であった。
また、吸収極大波長λ
Gmaxは略840nmで、透過率T(λ
Gmax)は略9%であった。
【0279】
上記で得られた洗浄したガラス基板Aの一方の主面上に、IAD真空蒸着装置を用いて、高屈折率膜からはじめて、高屈折率膜と低屈折率膜を交互に成膜して合計40層(合計層厚さ:5950nm)の、第1の誘電体多層膜としての近赤外線反射性の誘電体多層膜(以下、「誘電体多層膜R」という。)を成膜した。なお、高屈折率材料としてTiO
2を、低屈折率材料としてSiO
2を用いた。
【0280】
また同時に、上記誘電体多層膜Rの透過率測定用の検体として、波長775〜900nmの光に対するNF−50TXと屈折率の差が0.01以下のSchott製硼ケイ酸ガラスD263Tecoガラス基板上にも、上記と同様の誘電体多層膜Rを成膜した。
【0281】
上記で得られた透過率測定用の検体について、波長350〜1000nmにおける入射角0度の光の透過率を測定した。
図5に得られた透過スペクトル(350〜1000nm)を示す。得られた測定結果において、波長800〜900nmの光に対する最大透過率は0.10%であった。また、上記で得られた透過率測定用の検体について、波長775〜900nmにおける、入射角31〜60度の光の透過率を測定したところ、最大透過率が6.2%であった。
【0282】
また、該検体は、入射角0度の光に対する、波長430〜660nmの平均透過率が95%、波長略709〜1000nm以上の透過率が50%以下、波長714〜1000nm以上の透過率が20%以下、波長718〜1000nm以上の透過率が10%以下を示した。
【0283】
さらに、該検体は、近赤外線反射帯の短波長側で、入射角0度の光に対する、透過率が50%、20%および10%となる波長は、それぞれ、λSh(R0_T50%)=709nm、λSh(R0_T20%)=714nmおよびλSh(R0_T10%)=718nmだった。また、該検体は、入射角30度のs偏光に対する、透過率が50%、20%および10%となる波長は、それぞれ、λSh(R30_Ts50%)=674nm、λSh(R30_Ts20%)=679nmおよびλSh(R30_Ts10%)=682nmであった。
【0284】
(誘電体層の成膜)
上記で得られた誘電体多層膜Rを有するガラス基板Aを、再び旭硝子製ハイドロフルオロエーテル系溶剤アサヒクリン(登録商標)AE3000を用いて、超音波洗浄機で20分間洗浄した。上記で得られた洗浄したガラス基板Aの誘電体多層膜Rを有する側とは反対側の面に、真空蒸着装置を用いて、Al
2O
3からなる30nmの層とSiO
2からなる170nmの層の2層からなる誘電体層を、この順に成膜した。成膜したAl
2O
3からなる層の屈折率は1.60、成膜したSiO
2からなる層の屈折率は1.45であった。
【0285】
(近赤外線吸収層の成膜)
ポリエステル樹脂としてフルオレン環含有ポリエステル(大阪ガスケミカル社製、商品名:OKP−850、屈折率:1.65)の41.25質量%シクロヘキサノン溶液に、NIR吸収色素としてスクアリリウム系色素(化合物(F11−2)、λ
max:717nm(ただし、測定時に透明樹脂としてOKP−850を使用した。))をポリエステル樹脂100質量部に対して9質量部、および紫外線吸収体としてメロシアニン系色素(化合物(M−2)、ジクロロメタンに溶解して測定されるλ
max(UV):396nm、λ
L90−λ
L50:9nm)をポリエステル樹脂100質量部に対して4.5質量部となる割合で混合した後、室温にて撹拌・溶解することで塗工液を得た。
【0286】
得られた塗工液を、上記で得られた両主面に誘電体多層膜Rおよび誘電体層を有するガラス基板Aの誘電体層上にギャップ30μmのアプリケーターを用いてダイコート法により塗布し、100℃で5分間加熱乾燥させ、膜厚800nmの近赤外線吸収層を形成して、誘電体多層膜R、ガラス基板A、誘電体層、近赤外線吸収層の順に積層された積層体を得た。
【0287】
また、上記NIR吸収色素の透過率測定用の検体として、D263Teco基板の片面に、上記と同様に近赤外線吸収層を形成した。得られた検体について、空気界面の反射損失を補正した近赤外線吸収層の透過率T(λ
max)は、0.2%であった。すなわち、T(λ
Gmax)=9%、T(λ
max)=0.2%より、T(λ
Gmax)>T(λ
max)の関係である。
【0288】
なお、波長λ
maxの短波長側で透過率が50%、20%および10%となる波長は、それぞれ、λSh(D_T50%)=647nm、λSh(D_T20%)=674nmおよびλSh(D_T10%)=682nmであった。また、波長λ
maxの長波長側で透過率が50%、20%および10%となる波長は、それぞれ、λLo(D_T50%)=754nm、λLo(D_T20%)=746nmおよびλLo(D_T10%)=743nmであった。
【0289】
このように、この設計で得られた誘電体多層膜は、波長λSh(R0_T50%)=709nmと波長λSh(R30_Ts50%)=674nmであり、近赤外線吸収層は、波長λSh(D_T20%)=674nmと波長λLo(D_T20%)=746nmである。したがって、該設計は、λSh(D_T20%)≦ λSh(R30_Ts50%)< λSh(R0_T50%)≦ λLo(D_T20%)の式(1)の関係を満たす。つまり、該設計は、波長674〜709nmで入射角0〜30度の光に対し、透過率10%以下が得られた。
【0290】
また、該設計は、λSh(R30_Ts10%)=682nm、λSh(R0_T10%)=718nmから、式(3)のX=10、Y=20に対応する条件も満たす。つまり、該設計は、波長682〜718nmで入射角0〜30度の光に対し、透過率2%以下が得られた。
【0291】
(第2の誘電体多層膜としての反射防止膜(低反射性の誘電体多層膜)の成膜)
上記で得られた積層体の近赤外線吸収層の上に、IAD真空蒸着装置を用いて、低屈折率膜からはじめて、低屈折率膜と高屈折率膜とを交互に成膜して合計7層(合計層厚さ:340nm)の、第2の誘電体多層膜として可視光に対する反射防止膜(低反射性の誘電体多層膜)(以下、「誘電体多層膜AR」という。)を成膜した。なお、高屈折率材料としてTiO
2を、低屈折率材料としてSiO
2を用いた。このようにして、例1のNIRフィルタAを得た。
【0292】
NIRフィルタAについて、ガラス基板Aの誘電体層、近赤外線吸収層、誘電体多層膜ARを成膜した面とは反対側の面について、該面上に形成された誘電体多層膜Rを、サンドブラストを用いて除去し、黒色樹脂を塗工することにより、この面の正反射を無視できる程度まで低くした反射率測定用の検体を作製した。この検体について、誘電体多層膜ARの表面に波長430〜600nmの光を入射角5度で照射した際の誘電体多層膜ARの表面における反射率を測定したところ、最大反射率は1.15%であった。
【0293】
(NIRフィルタの評価)
上記で作製したNIRフィルタAについて、入射角0度、30度、31度、40度、50度、60度の透過率を測定した。測定結果より、以下の光学特性を得た。
【0294】
上記で作製したNIRフィルタAの波長775〜900nmの入射角31〜60度の光に対する透過率の最大値は0.37%であった。なお、
図6にNIRフィルタAの波長750〜900nmの入射角31度、40度、50度、60度の光に対する透過率を示す。
【0295】
図7A〜
図7Cに、NIRフィルタAの入射角度0度、30度の透過率を測定した結果を示す。
図7Aは、波長350〜900nmの、
図7Bは、波長380〜430nmの、
図7Cは、波長600〜750nmの、各々の測定結果を示す。
【0296】
作製したNIRフィルタAの、波長450〜550nmにおける入射角0度の光に対する透過率の平均値は92.0%であった。
作製したNIRフィルタAの、波長650〜720nmにおける入射角0度の光に対する透過率の平均値は7.9%であった。
【0297】
上記で作製したNIRフィルタAは、波長600nmよりも波長が長い領域において、入射角0度の光の透過率が50%となる波長λ
0(NIR)と入射角30度の光の透過率が50%となる波長λ
30(NIR)とを有し、前記波長の差の絶対値|λ
0(NIR)−λ
30(NIR)|は、2.3nmであった。
作製したNIRフィルタAの、波長600〜750nmにおける入射角0度の光に対する透過率と入射角30度の光に対する透過率の差の絶対値の平均値は、1.8%であった。
【0298】
作製したNIRフィルタAの、波長430〜450nmにおける入射角0度の光に対する透過率の平均値は、81.2%であった。
作製したNIRフィルタAの、波長350〜390nmにおける入射角0度の光に対する透過率の平均値は、0.2%であった。
【0299】
上記で作製したNIRフィルタAは、波長450nmよりも波長が短い領域において、入射角0度の光の透過率が50%となる波長λ
0(UV)と入射角30度の光での透過率が50%となる波長λ
30(UV)とを有し、前記波長の差の絶対値|λ
0(UV)−λ
30(UV)|は、1.5nmであった。
作製したNIRフィルタAの、波長380〜430nmにおける入射角0度の光に対する透過率と入射角30度の光に対する透過率の差の絶対値の平均値は、4.5%であった。
【0300】
また、NIRフィルタAは、波長550〜720nmにおいて、入射角0度と30度の光に対する、透過率が85%、45%および5%となる、λ(T85%)、λ(T45%)およびλ(T5%)は、以下のとおりであった。
入射角0度における光に対する、λ(T85%)、λ(T45%)およびλ(T5%)は、それぞれ、574nm、633nmおよび683nmであった。
また、入射角30度における光に対する、λ(T85%)、λ(T45%)およびλ(T5%)は、それぞれ、572nm、630nmおよび680nmであった。
上記結果より、NIRフィルタAは、{λ(T45%)−λ(T85%)}=58〜59nm、{λ(T5%)−λ(T45%)}=50〜51nmであり、式(2)を満たす。
【0301】
上記で作製したNIRフィルタAを用いて、固体撮像装置を作製し、視野の一部から強い光を入射させて画像を撮影したところ、取得した画像に迷光によると考えられる画像の乱れは確認されなかった。
【0302】
[例2]
例1において、近赤外線吸収ガラス基材として用いたNF−50TXを、76mm×76mm×0.30mmtの旭硝子製フツリン酸ガラス基板NF−50T(以下、「ガラス基板B」という。)に代えた以外は、例1と同様の条件でNIRフィルタB(例2)を作製した。
【0303】
なお、例1と同様に洗浄したガラス基板Bについて、日立ハイテクサイエンス製分光光度計U4100を用いて波長775〜900nmの光の入射角0度の吸収率を測定したところ、89.6〜91.1%であった。
【0304】
得られたNIRフィルタBの光学特性の評価を、全て日立ハイテクサイエンス製分光光度計U4100を用いて、例1と同様に行った。結果は以下のとおりである。
【0305】
NIRフィルタBについて、ガラス基板Bの誘電体層、近赤外線吸収層、誘電体多層膜ARを成膜した面とは反対側の面について、該面上に形成された誘電体多層膜Rを、サンドブラストを用いて除去し、黒色樹脂を塗工することにより、この面の正反射を無視できる程度まで低くした反射率測定用の検体を作製した。この検体について、誘電体多層膜ARの表面に波長430〜600nmの光を入射角5度で照射した際の誘電体多層膜ARの表面における反射率を測定したところ、最大反射率は1.1%であった。
【0306】
上記で作製したNIRフィルタBの波長775〜900nmにおける入射角31〜60度の光に対する透過率の最大値は0.15%であった。
作製したNIRフィルタBの、波長450〜550nmにおける入射角0度の光に対する透過率の平均値は91.5%であった。
作製したNIRフィルタBの、波長650〜720nmにおける入射角0度の光に対する透過率の平均値は6.5%であった。
【0307】
上記で作製したNIRフィルタBは、波長600nmよりも波長が長い領域において、入射角0度の光の透過率が50%となる波長λ
0(NIR)と入射角30度の光の透過率が50%となる波長λ
30(NIR)とを有し、前記波長の差の絶対値|λ
0(NIR)−λ
30(NIR)|は、2.4nmであった。
作製したNIRフィルタBの、波長600〜750nmにおける入射角0度の光に対する透過率と入射角30度の光に対する透過率の差の絶対値の平均値は、1.9%であった。
【0308】
作製したNIRフィルタBの、波長430〜450nmにおける入射角0度の光に対する透過率の平均値は、82.7%であった。
作製したNIRフィルタBの、波長350〜390nmにおける入射角0度の光に対する透過率の平均値は、0.1%であった。
【0309】
上記で作製したNIRフィルタBは、波長450nmよりも波長が短い領域において、入射角0度の光の透過率が50%となる波長λ
0(UV)と入射角30度の光の透過率が50%となる波長λ
30(UV)とを有し、前記波長の差の絶対値|λ
0(UV)−λ
30(UV)|は、1.6nmであった。
作製したNIRフィルタBの、波長380〜430nmにおける入射角0度の光に対する透過率と入射角30度の光に対する透過率の差の絶対値の平均値は、4.6%であった。
【0310】
上記で作製したNIRフィルタBを用いて、固体撮像装置を作製し、視野の一部から強い光を入射させて画像を撮影したところ、取得した画像に迷光によると考えられる画像の乱れは確認されなかった。