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特許6103635パルス性放射電磁波の到来方向探査方法およびシステム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6103635
(24)【登録日】2017年3月10日
(45)【発行日】2017年3月29日
(54)【発明の名称】パルス性放射電磁波の到来方向探査方法およびシステム
(51)【国際特許分類】
   G01S 3/46 20060101AFI20170316BHJP
【FI】
   G01S3/46
【請求項の数】8
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2013-55808(P2013-55808)
(22)【出願日】2013年3月18日
(65)【公開番号】特開2014-181972(P2014-181972A)
(43)【公開日】2014年9月29日
【審査請求日】2016年3月8日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成25年1月24日に「平成25年 電気学会高電圧研究会 研究会資料」(一般社団法人電気学会)で発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成25年3月2日に「平成25年 電気学会全国大会 講演論文集(DVD−ROM)」(一般社団法人電気学会)で発表
(73)【特許権者】
【識別番号】000173809
【氏名又は名称】一般財団法人電力中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100101236
【弁理士】
【氏名又は名称】栗原 浩之
(72)【発明者】
【氏名】田 野
(72)【発明者】
【氏名】立松 明芳
(72)【発明者】
【氏名】田辺 一夫
【審査官】 ▲高▼場 正光
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−033510(JP,A)
【文献】 特開2012−165195(JP,A)
【文献】 CETIN,E. 外2名,“Interference Localisation within the GNSS Environment Monitoring System (GEMS)”,IGNSS Symposium 2011,2011年11月,12 Pages
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 3/00 − G01S 3/86
G01S 5/00 − G01S 5/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
四辺以上の辺を有するとともに各対角線の交点から前記各辺の交点に至る寸法が同一である多角形における前記各辺の交点に配設されている四本以上のアンテナで受信したパルス性放射電磁波に起因する受信信号を、始点を共通にして異なる長さのN(Nは自然数)個に区間してN個の区分信号を生成するとともに、フーリエ変換処理および所定の重みをつけた逆フーリエ変換処理を含む相互相関法に基づく到達時間差推定法による前記各区分信号の信号処理により、前記各区間毎に到達時間差を推定するとともに、推定されたN個の到達時間差の平均値を演算し、前記平均値に基づき前記受信信号の到来方向を推定することを特徴とするパルス性放射電磁波の到来方向探査方法。
【請求項2】
請求項1に記載するパルス性放射電磁波の到来方向探査方法において、
前記到達時間差の平均値は、N個の到達時間差のうち所定の範囲に含まれない外れ値を除去して演算することを特徴とするパルス性放射電磁波の到来方向探査方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載するパルス性放射電磁波の到来方向探査方法において、
到達時間差推定法としてGCC(Generalized Cross Correlation、一般相互相関法)−PHAT(Phase Transform)法を適用したことを特徴とするパルス性放射電磁波の到来方向探査方法。
【請求項4】
請求項1〜請求項3の何れか一つに記載するパルス性放射電磁波の到来方向探査方法において、
前記各対角線の交点に配設され、前記信号処理部が送出する到来方向を表す到来方向信号を受信して前記到来方向に向け姿勢を制御され、前記到来方向の画像を撮像する撮像手段で撮像した画像をモニター装置で可視化して再生することを特徴とするパルス性放射電磁波の到来方向探査方法。
【請求項5】
四辺以上の辺を有するとともに各対角線の交点から前記各辺の交点に至る寸法が同一である多角形における前記各辺の交点に配設されている四本以上のアンテナと、
前記各アンテナを介してそれぞれ受信したパルス性電波雑音の時間軸に対するレベルを表す受信信号を検出するとともに、前記受信信号を、始点を共通にして異なる長さのN(Nは自然数)個の区間に分割してなる区分信号を生成する信号受信部と、
フーリエ変換処理および所定の重みをつけた逆フーリエ変換処理を含む相互相関法に基づく到達時間差推定法による前記各区分信号の信号処理により、前記各区間毎に到達時間差を推定するとともに、推定されたN個の到達時間差の平均値を演算し、前記平均値に基づき前記受信信号の到来方向を推定する信号処理部とを有することを特徴とするパルス性放射電磁波の到来方向探査システム。
【請求項6】
請求項5に記載するパルス性放射電磁波の到来方向探査システムにおいて、
前記到達時間差の平均値は、N個の到達時間差のうち所定の範囲に含まれない外れ値を除去して演算することを特徴とするパルス性放射電磁波の到来方向探査システム。
【請求項7】
請求項5または請求項6に記載するパルス性放射電磁波の到来方向探査システムにおいて、
到達時間差推定法としてGCC−PHAT法を適用したことを特徴とするパルス性放射電磁波の到来方向探査システム。
【請求項8】
請求項5〜請求項7の何れか一つに記載するパルス性放射電磁波の到来方向探査システムにおいて、
前記各対角線の交点に配設され、前記信号処理部が送出する到来方向を表す到来方向信号を受信して前記到来方向に向け姿勢を制御され、前記到来方向の画像を撮像する撮像手段と、該撮像手段が撮像した画像を可視化して再生するモニター装置とを備えた可視化部を、さらに有することを特徴とするパルス性放射電磁波の到来方向探査システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はパルス性放射電磁波の到来方向探査方法およびシステムに関し、特に電力設備の絶縁不良碍子や金具の接触不良箇所において発生する火花放電から放射されたパルス性電磁波の到来方向(方位角と仰角)を標定する際に適用して有用なものである。
【背景技術】
【0002】
電力設備では、劣化がいしや金具の接触不良箇所において火花放電が発生し、急峻な電流が流れることによって放射されるパルス性の電波雑音が原因となる電波障害が発生している。ちなみに、微小ギャップによって火花放電を発生させた場合には100MHz以上の周波数成分を含む電波雑音が観測され、配電用がいしが劣化したものを用いて発生させた火花放電からは25MHz〜2800MHzの周波数成分を含む電波雑音が観測されている。
【0003】
このように火花放電で発生する電波雑音は広帯域特性を有しており、ラジオ、テレビ、マチュア無線、携帯電話、無線LAN等、広範囲の無線通信へ影響を与える可能性がある。かかる電波雑音による電波障害を速やかに解消するためには、電波雑音の発生源を効率的に探査した後に除去する必要がある。
【0004】
そこで、火花放電の発生源探査手法として、火花放電に起因して放射される電磁波を複数のアンテナで構成されたアレーアンテナを用いて受信し、信号処理を施すことで発生源の位置を標定する手法、または放射される電磁波の到来方向を推定する手法が提案されている(例えば、非特許文献1〜3参照)。なお、到来方向を推定する場合には、複数の地点で推定した到来方向を用いて交会法によって発生源位置を標定する。
【0005】
電力設備では、1)複数の箇所で同時に火花放電が発生する可能性がある、2)伝搬路上の不連続点(電線の曲部や電線支持物などのインピーダンス不連続点など)から再放射する可能性がある、3)電力機器の金属面による反射によってマルチパス波(コヒーレント波:到来波間の相関係数の大きさが1の場合)が存在する可能性がある、等の理由によって推定精度が悪化するという問題がある。
【0006】
本発明者等は、電力設備における上記1)〜3)の問題を考慮する上で、複数の発生源やマルチパス波に対しても有効な部分空間法を選択し、パルス性電波雑音の到来方向探査装置を開発した(特許文献1参照)。
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示された装置によれば、高精度な到来方向推定のために到来方向探査装置の正確なキャリブレーションを行う必要があり、この点が実用化の障害となっている。
【0008】
一方、複数の地点で同時に放電が生じる可能性は低い、あるいは再放射によって生じる電磁波レベルは発生源によるものよりも低いと仮定すれば、単一の発生源を対象として、より簡易な到達時間差に基づく手法の適用も有効であると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2011−047864号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】電学論,Vol.115−B,No.10,pp.1168−1173, 1995
【非特許文献2】電学論,Vol.118,No.2,pp.157−163,1998
【非特許文献3】平成11年電気学会 電力・エネルギー部門大会,No.600,1999
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記従来技術に鑑み、パルス性放射電磁波の到来方向(方位角と仰角)を高精度かつ容易に推定することができるパルス性放射電磁波の到来方向探査方法およびシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成する本発明の第1の態様は、
四辺以上の辺を有するとともに各対角線の交点から前記各辺の交点に至る寸法が同一である多角形における前記各辺の交点に配設されている四本以上のアンテナで受信したパルス性放射電磁波に起因する受信信号を、始点を共通にして異なる長さのN(Nは自然数)個に区間してN個の区分信号を生成するとともに、フーリエ変換処理および所定の重みをつけた逆フーリエ変換処理を含む相互相関法に基づく到達時間差推定法による前記各区分信号の信号処理により、前記各区間毎に到達時間差を推定するとともに、推定されたN個の到達時間差の平均値を演算し、前記平均値に基づき前記受信信号の到来方向を推定することを特徴とするパルス性放射電磁波の到来方向探査方法にある。
【0013】
本態様によれば、受信信号を複数に分割し、その波形全体ではなく、その一部である所定の区間ごとに分割した区分信号を利用してそれぞれの到達時間差を求めたので、受信信号にマルチパス波やノイズなどが含まれていない場合、異なる長さの区分信号を用いることにより到達時間差の推定結果が単一になる。この結果、区分の数(N個)に対応する多くの到達時間差の平均値を到来方向推定に用いられた到達時間差として利用する本形態によれば、到来方向の推定結果のばらつきを抑制することができ、高精度の到来方向の推定を行うことができる。
【0014】
本発明の第2の態様は、
第1の態様に記載するパルス性放射電磁波の到来方向探査方法において、
前記到達時間差の平均値は、N個の到達時間差のうち所定の範囲に含まれない外れ値を除去して演算することを特徴とするパルス性放射電磁波の到来方向探査方法にある。
【0015】
本態様によれば、各区分信号に基づき得られた多くの到達時間差から外れ値を除去して平均値を演算しているので、より真値に近い高精度の到来方向推定を行うことができ、推定結果のばらつきを低減し得る。
【0016】
本発明の第3の態様は、
第1または第2の態様に記載するパルス性放射電磁波の到来方向探査方法において、
到達時間差推定法としてGCC(Generalized Cross Correlation、一般相互相関法)−PHAT(Phase Transform)法を適用したことを特徴とするパルス性放射電磁波の到来方向探査方法にある。
【0017】
本態様によれば、電力設備等、マルチパス波が存在する環境において推定精度が最も高いGCC−PHAT法を適用したので、高精度の到来方向の推定を適確に実現し得る。
【0018】
本発明の第4の態様は、
第1〜第3の態様の何れか一つに記載するパルス性放射電磁波の到来方向探査方法において、
前記各対角線の交点に配設され、前記信号処理部が送出する到来方向を表す到来方向信号を受信して前記到来方向に向け姿勢を制御され、前記到来方向の画像を撮像する撮像手段で撮像した画像をモニター装置で可視化して再生することを特徴とするパルス性放射電磁波の到来方向探査方法にある。
【0019】
本態様によればモニター装置にパルス性放射電磁波の到来方向の画像を再生することができるので、パルス性放射電磁波の発生源の位置特定を容易かつ適確に行うことができる。
【0020】
本発明の第5の態様は、
四辺以上の辺を有するとともに各対角線の交点から前記各辺の交点に至る寸法が同一である多角形における前記各辺の交点に配設されている四本以上のアンテナと、
前記各アンテナを介してそれぞれ受信したパルス性電波雑音の時間軸に対するレベルを表す受信信号を検出するとともに、前記受信信号を、始点を共通にして異なる長さのN(Nは自然数)個の区間に分割してなる区分信号を生成する信号受信部と、
フーリエ変換処理および所定の重みをつけた逆フーリエ変換処理を含む相互相関法に基づく到達時間差推定法による前記各区分信号の信号処理により、前記各区間毎に到達時間差を推定するとともに、推定されたN個の到達時間差の平均値を演算し、前記平均値に基づき前記受信信号の到来方向を推定する信号処理部とを有することを特徴とするパルス性放射電磁波の到来方向探査システムにある。
【0021】
本態様によれば、受信信号を複数に分割し、その波形全体ではなく、その一部である所定の区間ごとに分割した区分信号を利用してそれぞれの到達時間差を求めたので、受信信号にマルチパス波やノイズなどが含まれていない場合、異なる長さの区分信号を用いることにより到達時間差の推定結果が単一になる。この結果、区分の数(N個)に対応する多くの到達時間差の平均値を到来方向推定に用いられた到達時間差として利用する本形態によれば、到来方向の推定結果のばらつきを抑制することができ、高精度の到来方向の推定を行うことができる。
【0022】
ちなみに、受信信号の波形データの全体に対してフーリエ変換を適用し、相互相関法により相互相関スペクトルを求めて到達時間差を推定した場合には、受信信号に火花放電によるパルス性電磁波ではない強いノイズが存在する環境、または多数の電力設備が存在し、これらが電磁波反射体となる複雑な電磁波伝搬環境において到達時間差を推定する時に、受信信号に含まれたノイズや多数のマルチパス波が、その推定に大きな誤差を生じさせる可能性がある。
【0023】
本発明の第6の態様は、
第5の態様に記載するパルス性放射電磁波の到来方向探査システムにおいて、
前記到達時間差の平均値は、N個の到達時間差のうち所定の範囲に含まれない外れ値を除去して演算することを特徴とするパルス性放射電磁波の到来方向探査システムにある。
【0024】
本態様によれば、各区分信号に基づき得られた多くの到達時間差から外れ値を除去して平均値を演算しているので、より真値に近い高精度の到来方向推定を行うことができ、推定結果のばらつきを低減し得る。
【0025】
本発明の第7の態様は、
第5または第6の態様に記載するパルス性放射電磁波の到来方向探査システムにおいて、
到達時間差推定法としてGCC−PHAT法を適用したことを特徴とするパルス性放射電磁波の到来方向探査システムにある。
【0026】
本態様によれば、マルチパス波が存在する環境において推定精度が最も高いGCC−PHAT法を適用したので、高精度の到来方向の推定を適確に実現し得る。
【0027】
本発明の第4の態様は、
第5〜第7の態様の何れか一つに記載するパルス性放射電磁波の到来方向探査システムにおいて、
前記各対角線の交点に配設され、前記信号処理部が送出する到来方向を表す到来方向信号を受信して前記到来方向に向け姿勢を制御され、前記到来方向の画像を撮像する撮像手段と、該撮像手段が撮像した画像を可視化して再生するモニター装置とを備えた可視化部を、さらに有することを特徴とするパルス性放射電磁波の到来方向探査システムにある。
【0028】
本態様によればモニター装置にパルス性放射電磁波の到来方向の画像を再生することができるので、パルス性放射電磁波の発生源の位置特定を容易かつ適確に行うことができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、多数の電力設備が存在する環境においてもパルス性放射電磁波の二次元到来方向を高精度で探査することができる。また、各アンテナの受信端に対する中心位置に設置した撮像手段を利用することによってパルス性放射電磁波の発生源の位置を画像で容易に表示することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】本発明の実施の形態に係るパルス性放射電磁波の到来方向探査システムを示すブロック図である。
図2】本形態に係る受信信号の波形の一例を示す波形図である。
図3】必要なアンテナの数を検討するために用いたアンテナ数を表わす説明図である。
図4】アレー形状を検討するのに用いたアレー形状の説明図である。
図5】第1の到来方向推定実験の実験装置を示す説明図である。
図6】第1の実験による到来方向推定結果の誤差分布を示す特性図である。
図7】第1の実験による到来方向推定結果の平均値の誤差と誤差範囲を示す特性図である。
図8】第1の実験による到来方向推定結果の誤差分布を示す特性図(実施形態手法)である。
図9】第1の実験による到来方向推定結果の平均値の誤差と誤差範囲を示す特性図(実施形態手法)である。
図10】第2の到来方向推定実験の実験装置を示す説明図である。
図11】第2の実験による到来方向推定結果の誤差分布を示す特性図である。
図12】第2の実験による到来方向推定結果の平均値の誤差と誤差範囲を示す特性図である。
図13】第2の実験による到来方向推定結果の誤差分布を示す特性図(実施形態手法)である。
図14】第2の実験による到来方向推定結果の平均値の誤差と誤差範囲を示す特性図(実施形態手法)である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づき詳細に説明する。
図1は本発明の実施の形態に係るパルス性放射電磁波の到来方向探査システムを示すブロック図である。同図に示すように、本形態に係るパルス製放射電磁波の到来方向探査システムはアンテナ装置I、信号受信部II、信号処理部IIIおよび可視化部IVからなる。アンテナ装置Iは水平な架台2上に配設された4本のアンテナ1A、1B、1C、1Dからなる。ここで、架台2は脚部3に水平に配設してあり、電波の反射を低減するため何れも木製としてある。アンテナ1A〜1Dはダイポールアンテナであり、架台2上で水平な正方形の各辺の四つの交点に等間隔に並べてそれぞれを垂直に立てた状態で固定してある。アンテナ1A〜1Dの間隔は、到来電波を平面波と見做し得る程度が確保されていれば良いが、経済性や反射波の悪影響を防止する観点から、本形態では1mとした。また、設定可能な中心周波数は500MHz〜1GHzである。
【0032】
アンテナ1A〜1Dで受信した受信信号は同軸ケーブル4を介して信号受信部IIに供給される。信号受信部IIIではパルス性電波雑音等、受信電波の時間軸に対するレベルを表す第1の受信信号を検出する。
【0033】
信号処理部IIIは、各アンテナ1A〜1Dで受信した受信信号の到来方向の時間差を推定し、推定された到達時間差から到来方向(方位角と仰角)を推定する。
【0034】
ここで、相互相関法に基づく到達時間差による到来方向推定手法としては、第1段階において、アンテナ1A〜1D間の到達時間差を推定し、第2段階で、推定された到達時間差に基づいて到来位置を標定するものが知られている。また、第1段階の到達時間差の推定法としては、例えば、GCC(Generalized Cross Correlation、一般相互相関法)、重み関数を付けたGCC法(GCC−PHAT、GCC−SCOT)等が知られている。 一方、第2段階において、到達時間差から到来位置を標定する手法としては主に次の2つの手法がある。その1つは推定した到達時間差と複数のアンテナ1A〜1Dの位置情報の間に成り立つ非線形方程式を解くことにより発生源の位置を直接標定する手法である。もう一つの手法は、推定された到達時間差から到来方向を推定し、交会法によって発生源の位置を標定する手法である。
【0035】
アンテナ1A〜1Dでの受信信号の波形データの全体に対してフーリエ変換をして相互相関スペクトルを求め、到達時間差を推定する場合、すなわち既知の相関法に基づく到達時間差推定法(例えば、GCC、GCC−PHAT、GCC−SCOT)には、到達時間差の推定結果に大きな誤差が発生する場合がある。受信信号に対して強いノイズが存在する環境、または変電所のような多数の設備が存在する複雑な環境で火花放電の発生源を探査する場合には、受信信号に含まれたノイズやマルチパス波が、到達時間差の推定結果に対する大きな誤差原因となるからである。
【0036】
一方、受信信号の波形データの全体ではなく、いくつかの異なる長さの区間に分割し、各区間毎の区分信号を利用すれば、多くの到達時間差が得られる。この結果、受信信号にマルチパス波やノイズなどが含まれていない場合、異なる長さの信号波形を利用しても到達時間差の推定結果が単一になる。さらに、得られた多くの到達時間差から外れ値を除去し、その他の到達時間差の平均値を到来方向推定に用いられた到達時間差として利用すれば、到来方向の推定結果のばらつきを減らす効果があると考えられる。
【0037】
そこで、本形態では電力設備から放射されるパルス性の電波雑音である受信信号の波形を、図2に示すように、その始点を共通にする所定の異なる区間L(n=1,2,3,・・・,N)に分割した区分信号として生成し、各区分信号を信号処理部IIIに供給する。ここで、区分信号は、区間Lのそれぞれに対応するN組の信号となり、各組の区間信号Lが信号処理部IIIに供給される。
【0038】
また、本形態における信号処理部IIIでは、到達時間差推定法としてGCC−PHAT法を採用した。GCC−PHAT法は、マルチパス波が存在する環境において推定精度が最も高いからである。
【0039】
したがって、本形態の信号処理部IIIは、各区間L毎の第1の区間信号をフーリエ変換するフーリエ変換部7、各区間信号に対しPHAT重み関数設定部9に設定されたPHAT重み関数を掛けて逆フーリエ変換を行う逆フーリエ変換部8、逆フーリエ変換された各区間信号に基づき到達時間差を演算する到達時間差演算部10、各区間信号に基づき演算された到達時間の平均値を演算する平均値演算部11および到達時間差の平均値に基づき到達方向(方位角および仰角)を検出する到達方向検出部12とを有する。
【0040】
かかる信号処理部IIIでは、次のような信号処理が実行される。
1) アンテナ1A〜1Dで受信した各受信信号の波形の先頭から切り出した適当な長さの適当な長さL(n=1,2,3,・・・,N)個の区分信号から次式(1)に基づき相関スペクトル rxy(D)を求め、到達時間差を推定する。
【0041】
【数1】
【0042】
ここで、Lは区分信号の長さ、n=1,2,3、・・・・,N、Dは到達時間差、kは自然数である。
2) 推定されたN個の到達時間差Dから外れ値を除去する。すなわち、D>(μ+ 2σ)またはD<(μ − 2σ)を満たす到達時間差を除去し、このような処理を数回繰り返す。ここで、μは平均、σは標準偏差である。
3) 2)の操作で最終的に得られた到達時間差D(P=1,2,3,・・・,(N −P)、Pは外れ値の数)の平均値Daveを到来方向推定に用いる。 すなわち、次式(2)で与えられる平均値Daveで到来方向推定を行う。
【0043】
【数2】
【0044】
かくして本形態の信号処理部IIIの出力信号としては、パルス性放射電磁波の到来方向(方位角および仰角)を表す到来方向信号が得られるが、該到来方向信号は可視化部IVに供給される。可視化部IVでは、その撮像手段13に到来方向信号が供給されると、撮像手段13が垂直軸回りに回動して推定された到来方向の方位角の方向に向くとともに、水平軸回りに回動して推定された到来方向の仰角の方向に向き、光軸上の映像を撮像する。かかる撮影画像はモニター装置14に供給されて再生され可視化画面となる。したがって、モニター装置14に再生された画像情報によりパルス性放射電磁波の到来方向の周辺の画像を得ることができ、これによりパルス性放射電磁波の発生源の特定に資することができる。
【0045】
ここで、アンテナ1A〜1Dの構成、特にアンテナ数およびアライメント形状に関して説明する。
【0046】
1)アンテナの数
二次元の到来方向(方位角と仰角)を推定するためには、三本以上のアンテナが必要である。到達時間差から到来方向を推定する場合、到来波を平面波と見做して到来方向を推定する。ただし、この平面波近似に起因する誤差は、到来方向の基準点(平面波の近似方法)の選択により異なるため、基準点の選択について検討した。この結果、二本のアンテナで構成したアンテナペアに対して、基準点をアンテナペアの中心位置とする場合、到来方向(一次元の到来方向)の推定結果が最も良いが分かった。また、多数本のアンテナで構成したアレーアンテナに対し、まず対角位置にあるアンテナで構成した多数組のアンテナペアを分け、それぞれのアンテナペアに対して基準点をそれぞれの中心位置とする。次に、全部あるいは一部の対角位置にあるアンテナを結ぶ直線の交点が全部あるいは一部のアンテナペアの中心位置にあれば、この交点を基準点とする場合、到来方向の推定結果が最も良い。
【0047】
図3に多数本のアンテナで構成したアレーの例を示す。図3(a)に示すように三角形の各頂点に配設した場合、基準点を中心位置とすると利用できない。図3(b)に示すように、正方形の各交点に配設した場合全部のアンテナを利用できる。図3(c)に示すように、正五角形の各交点に配設した場合、利用できない。図3(d)に示すように、五角形ではあるが、長方形を含む場合には、長方形の四個の交点A1,A2,A3,A4を利用することができる。図3(e)に示すように、六角形ではあるが、長方形を含む場合には、長方形の四個の交点(A1,A2,A4,A5),(A1,A3,A4,A6),(A2,A3,A5,A6)または交点A1〜A6を利用することができる。この結果、アンテナは、四本以上を配設することが基本であることが分った。
【0048】
アンテナの数を増やし、冗余な到達時間差を利用すれば(例えば図3(e)に示すように、六本のアンテナでアレーを構成した場合)、推定精度を向上させる可能性はあるが、本形態では、信号受信部IIおよび信号処理部IIIのチャンネル数を考慮して四本のアンテナ1A〜1Dを配設した。
【0049】
2)アンテナによるアレーの形
基準点を四本のアンテナ1A〜1Dで構成したアレーの中心とし、二次元の到来方向を推定するため、図4に示すようなアレーが考えられる。
【0050】
到来波を平面波に近似する時に誤差が生じる。この誤差を考慮して、仰角αは次式(3)で求められる。
【0051】
【数3】
【0052】
ここで,τ13、τ24は、それぞれ交点A1,A3と交点A2,A4の到達時間差、ε、εはそれぞれ交点A2,A4と交点A1,A3に対する平面波表示近似によって生じた誤差、δは交点A1,A3を結ぶ直線と、交点A2,A4を結ぶ直線とが交わる角である。
【0053】
交点A1,A3の間隔d13と交点A2,A4の間隔d24とが異なる時、ε ≠ εとなる。ここで、式(3)を参照すれば明らかな通り、τ24とτ13の値により、平面波近似に生じた誤差が推定した到来方向に与える影響が異なる。したがって、平面波近似の際に生じた誤差に起因する到来方向推定誤差が、推定された到達時間差の値によって変化しないように、d13=d24とする必要がある。したがって、高精度な到来方向を推定するためには、図4(c)または図4(d)に示すアレー構造とする必要がある。
【0054】
次に、図4(c)に示すように、交点A1,A3と交点A2,A4との間隔が等しく、発生源がアレーと十分に離れていれば、ε= ε→0と仮定でき、到来方向は次式(4a)、(4b)、(4c)で求められる。
【0055】
【数4】
【0056】
ここで、D14は交点A1と交点A4との間隔、D12は交点A1と交点A2との間隔、D24は交点A2と交点A4との間隔を表す。
【0057】
ここで、D14=D12のとき、δ=90°、図4(c)に示す形状のアレー形状は、図4(d)に示すアレー形状と同一になる。
【0058】
以上により、四辺以上の辺を有するとともに各対角線の交点から前記各辺の交点に至る寸法が同一である多角形における各辺の交点にアンテナを配設した場合に、高精度な二次元到来方向を推定できることが明らかとなった。そこで、本形態では、実際の製作上の問題を考慮して、正方形アレーを作成した。
【0059】
次に、上記実施の形態の効果を実証するために行った到来方向推定実験について説明する。
【0060】
<第1の到来方向推定実験>
1) 実験条件
本実験に用いた実験装置Vを図5に示す。同図に示すように、本実験装置Vでは、試験送電線21に火花放電模擬装置(最大電圧5kV)22を位置P1に吊るし、火花放電を発生させた。ここで、位置P1の直下を基準点とし、基準点から試験送電線21に対して法線方向に10m、15m、20m、25m離れた位置である測定箇所M1,M2,M3,M4にそれぞれ所定の到来方向探査システム100を設置し測定を行った。なお、本実験では所定の信号処理を行うオシロスコープのサンプリング間隔を0.02nsに設定してアンテナ1A〜1Dの受信信号の波形を観測し、4096点の測定点を用いて到来方向を推定した。
【0061】
ここで、アンテナ1A〜1Dを介して受信した受信信号を次の2種類の信号処理により処理し、それぞれの場合の実験結果を調べた。
【0062】
2−1) 第1の実験結果
本実験結果において信号処理に使用したGCC−PHAT法では、受信信号の波形データ全体に対してフーリエ変換を適用し、相互相関スペクトルを求めて到達時間差を推定した。
【0063】
本実験では、各測定箇所において到来方向推定を20回行った。火花放電模擬装置22を位置P1に設置した場合の到来方向推定結果の誤差分布を図6に示す。例えば、図6に示した結果から、基準点から20m離れた測定箇所M3における方位角(図6(a)参照)に関する20回の推定誤差の分布では、95%は1°以内に,5%は1°〜 2°にあり、仰角(図6(b)参照)に関する20回の推定誤差の分布では、30%は1°以内に65%は1°〜 2°に、5%は2°〜3°にある。
【0064】
図6(a)および図6(b)に示した結果から,放射電磁波の88%の方位角を1°以内に、89%の仰角を2°以内の誤差で推定できていることが分かった。
【0065】
20回到来方向推定の結果の平均値と到来方向真値との誤差εaveは、次式(5)で表される。
【0066】
【数5】
【0067】
ここで、Θは推定された到来方向(方位角α,仰角β),x = 1,2,3, ・・・, X,Xは測定回数(ここで,X=20),Θは到来方向の真値(方位角α,仰角β)である。20回の推定結果の平均値の誤差εaveと誤差の範囲は方位角に関しては図7(a)および仰角に関しては図7(b)に示すようになる。両図に示した結果から、到来方向推定結果の平均値を求めると、より良い精度で到来方向を推定できることが分かる。
【0068】
2−2) 第2の実験結果
本実験結果に使用したGCC−PHAT法では、前記実施の形態と同様に、受信信号の波形データをN個に区分し、各区分毎にフーリエ変換を適用し、相互相関スペクトルを求めて到達時間差を推定した。すなわち、前記実施の形態に記載した推定手法である(以下、これを「実施形態手法」という)。
【0069】
また、本実験でも、前記実験と同様に、各測定箇所において到来方向推定を20回行った(1回毎に区分波形を500個利用した)。本実施形態手法により信号を処理した場合の到来方向推定結果の誤差分布を図8に示す。例えば、本実施形態手法を適用する前の到来方向推定結果と比較すると、図8に示した結果から、基準点から20m離れた測定箇所M3における方位角20回の推定誤差の分布では全部1°以内にあり、仰角20回の推定誤差の分布では、15%は1°以内に、85%は1°〜2°以内にある。図8に示した結果から、放射電磁波の方位角を全部1°以内に、99%の仰角を2°以内の誤差で推定できている。すなわち、実施形態手法により信号処理を行なった場合、図6に示す、2−1)の実験結果よりも、到来方向の推定精度を向上させたことが確認できた。
【0070】
また、図9に本実施形態手法を適用した後に20回の推定結果の平均値の誤差と誤差範囲を示す。第1の実験結果と比較すると、推定結果のばらつきが低減されたことが確認できた。すなわち、実施形態手法により信号処理を行なった場合、図7に示す、2−1)の実験結果よりも、到来方向の推定精度を向上させたことが確認できた。
【0071】
<第2の到来方向推定実験>
3) 実験条件
本実験に用いた実験装置VIを図10に示す。同図に示すように、本実験装置では、3台のトランス33,34,35および整流鉄塔36,37が設置されている。同図に示すように、トランス34,35の間に接続している導体31に球ギャップ(ギャップ間隔:5mm)38を吊るし、周波数50Hz、対地電圧100kVの交流電圧を導体31に印加した。浮遊容量による分圧によって球ギャップ38間に誘起される電位差により火花放電を発生させてパルス性電磁波を放射させた。なお、本実験ではオシロスコープのサンプリング間隔を0.02nsに設定してアンテナ1A〜1Dの受信信号の波形を観測し、8196点の測定点を用いて到来方向を推定した。
【0072】
ここで、本実験でも第1の実験と同様に、アンテナ1A〜1Dを介して受信した受信信号を、第1の実験と同様の2種類の信号処理により処理し、それぞれの場合の実験結果を調べた。
【0073】
3−1)第3の実験結果
本実験結果において信号処理に使用したGCC−PHAT法では、受信信号の波形データ全体に対してフーリエ変換を適用し、相互相関スペクトルを求めて到達時間差を推定した。
【0074】
本実験では、各測定箇所において到来方向推定を20回行った。到来方向推定結果の誤差分布を図11に示す。図11に示した結果から、放射電磁波の89%の方位角を3°以内に、70%の仰角を3°以内の誤差で推定できていることが分かった。
【0075】
次に、20回の到来方向推定結果の平均値の誤差と誤差の範囲を図12に示すようになる。図12に示した結果から、到来方向推定結果の平均値を求めると、より良い精度で到来方向を推定できることが分かった。
【0076】
3−2) 第4の実験結果
本実験結果に使用したGCC−PHAT法では、前記実施の形態と同様に、受信信号の波形データをN個に区分し、各区分毎にフーリエ変換を適用し、相互相関スペクトルを求めて到達時間差を推定した。すなわち、前記実施の形態に記載した推定手法である(以下、これを「実施形態手法」という)。
【0077】
また、本実験でも、前記実験と同様に、各測定箇所において到来方向推定を20回行った(1回毎に区分波形を500個利用した)。本実施形態手法により信号を処理した場合の到来方向推定結果の誤差分布を図13示す。図13に示した結果から、実施形態手法を適用した場合、放射電磁波の方位角を全部3°以内に、95%の仰角を3°以内の誤差で推定できていることが分かった。
【0078】
また、20回の到来方向推定結果の平均値の誤差と誤差の範囲は図14に示すようになる。図14によると、実施形態手法を適用した後に、到来方向の推定結果のばらつきが低減されたことが確認できた。
【0079】
なお、撮像手段13を配設することは必須ではない。撮像手段13を配設した場合、検出した到来方向の画像情報を可視化することはできるが、例えば、単に到来方向の方位角および仰角の情報を表示ないし出力し得る構成となっていれば構わない。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明は電力設備からの電磁雑音の発生を抑制するよう、当該電力設備を管理・運用する産業分野において有効に利用することができる。
【符号の説明】
【0081】
I アンテナ装置
II 信号受信部
III 信号処理部
VI 可視化部
1A〜1D アンテナ
7 フーリエ変換部
8 逆フーリエ変換部
9 PHAT重み関数設定部
10 到達時間差演算部
11 平均値演算部
12 到達方向検出部
図2
図3
図4
図5
図7
図9
図10
図12
図14
図1
図6
図8
図11
図13