特許第6103989号(P6103989)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6103989
(24)【登録日】2017年3月10日
(45)【発行日】2017年3月29日
(54)【発明の名称】嚥下困難者食用栄養補給食品
(51)【国際特許分類】
   A23L 33/115 20160101AFI20170316BHJP
   A23L 33/18 20160101ALI20170316BHJP
【FI】
   A23L33/115
   A23L33/18
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-38116(P2013-38116)
(22)【出願日】2013年2月28日
(65)【公開番号】特開2013-208111(P2013-208111A)
(43)【公開日】2013年10月10日
【審査請求日】2015年8月28日
(31)【優先権主張番号】特願2012-46581(P2012-46581)
(32)【優先日】2012年3月2日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001421
【氏名又は名称】キユーピー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】田丸 省吾
【審査官】 鳥居 敬司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−304378(JP,A)
【文献】 特開2005−013134(JP,A)
【文献】 特開2001−000144(JP,A)
【文献】 特開2006−212006(JP,A)
【文献】 特開2005−229878(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 33/00−33/29
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
WPIDS/WPIX(STN)
FSTA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コラーゲンペプチドおよび/または卵白ペプチドと、嚥下困難者食添加用栄養補給粉末食品全体に対して25質量%以上の粉末油脂を含み、
前記コラーゲンペプチドおよび/または卵白ペプチドの合計の含量が30〜75質量%である、
嚥下困難者食添加用栄養補給粉末食品。
【請求項2】
卵白ペプチドの硫化水素量が2ppm以下である請求項1に記載の嚥下困難者食添加用栄養補給粉末食品。
【請求項3】
粉末油脂が菜種油由来である請求項1または2に記載の嚥下困難者食添加用栄養補給粉末食品。
【請求項4】
全体のかたさが500〜500000N/m2である嚥下困難者食において、請求項1〜のいずれかに記載の嚥下困難者食添加用栄養補給粉末食品を配合していることを特徴とする嚥下困難者食。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コラーゲンペプチドおよび/または卵白ペプチドと、全体に対して25質量%以上の粉末油脂を含み、嚥下困難者に不足しがちな蛋白質やエネルギーを補給するために、軟飯やポテトサラダなどの料理に混ぜて提供した際にも嚥下困難者が嚥下しやすいように料理のまとまり感をだし、さらに、調理後時間が経った時に起こる料理の固化やツヤの消失を抑制する嚥下困難者食用栄養補給食品に関する。
【背景技術】
【0002】
加齢や疾病に伴い、飲食物の咀嚼や飲み込みに障害をきたす「嚥下困難者」は、高齢化社会において年々増加している。嚥下障害は誤嚥性肺炎など致命的な症状に繋がるケースも多く、嚥下障害に対する適切な対応のニーズが高まっている。
嚥下困難者は機能的あるいは精神的要因により、食事が思うように進まず、通常よりも食事に時間がかかる。また、様々な要因から食欲自体が低下することもあり、食事の摂取量が減少すると栄養不足に陥る危険性がある。特に蛋白質やエネルギーの低栄養状態となると様々な日常生活の動作が低下し、寝たきりの状態を招くことになる。したがって、そのような嚥下困難者において蛋白質やエネルギーを補給し、低栄養状態を改善することが課題となっている。
【0003】
低栄養状態の患者の栄養を補う方法として、特許文献1には、コラーゲンペプチドにエリスリトールやソーマチンを配合して風味を改善した蛋白質補給食品が開示されている。一般的に食品に添加する蛋白質補給食品としては、蛋白質は水に混ざり難くいため溶解性の優れた蛋白加水分解物(ペプチド)を用いることが行われるが、一方でこのペプチドは苦味に代表される好ましくない風味を有していることが問題となっており、上記発明は、その風味を改善したものであった。
【0004】
このような風味の改善された蛋白質補給食品を利用することで、栄養状態の改善が期待されたが、実際には、嚥下困難者は食事に時間がかかるため、ご飯や料理が固くなったり、乾燥したりして見た目がおいしくなさそうになることが、風味とは別の点で食欲を減退させるという問題が残っており、上記蛋白質補給食品を料理に添加していても、食欲の減退を抑え食事の摂取量自体を十分に確保することはできず、必要量の栄養を補うことができないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−148568号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、料理本来の味を変えずに嚥下困難者の栄養不足を補い、さらに嚥下困難者の食事における問題点である時間が経った時の料理の固化やツヤの消失を抑制することができる嚥下困難者食用栄養補給食品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、鋭意研究を重ねた結果、嚥下困難者食用栄養補給食品にコラーゲンペプチドおよび/または卵白ペプチドと、全体に対して25質量%以上の粉末油脂を含有させることで、料理本来の味を変えずに嚥下困難者の栄養不足を補い、さらに嚥下困難者の食事における問題点である時間が経った時の料理の固化やツヤの消失を抑制することができる嚥下困難者食用栄養補給食品を実現できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、
(1)コラーゲンペプチドおよび/または卵白ペプチドと、全体に対して25質量%以上の粉末油脂を含む嚥下困難者食用栄養補給食品、
(2)コラーゲンペプチドおよび/または卵白ペプチドの合計の含量が10〜75%である請求項1に記載の嚥下困難者食用栄養補給食品、
(3)卵白ペプチドの硫化水素量が2ppm以下である請求項(1)または(2)記載の嚥下困難者食用栄養補給食品、
(4)粉末油脂が菜種油由来である請求項(1)〜(3)のいずれかに記載の嚥下困難者食用栄養補給食品、
(5)(1)〜(4)のいずれかに記載の嚥下困難者食用栄養補給食品を含有する食品のツヤ保持剤、
(6)全体のかたさが500〜500000N/m2である嚥下困難者食において、(1)〜(4)のいずれかに記載の嚥下困難者食用栄養補給食品を配合していることを特徴とする嚥下困難者食、
である。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、嚥下困難者食用栄養補給食品にコラーゲンペプチドおよび/または卵白ペプチドと、全体に対して25質量%以上の粉末油脂を含有させることで、料理本来の味を変えずに嚥下困難者の栄養不足を補い、さらに嚥下困難者の食事における問題点である、時間が経った時の料理の固化やツヤの消失を抑制することができる嚥下困難者食用栄養補給食品を提供する。これにより、嚥下困難者の食欲低下を軽減し、高齢者の栄養改善に貢献できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下本発明を説明する。なお、本発明において「%」は「質量%」を意味する。
【0010】
本発明における嚥下困難者食用栄養補給食品とは、嚥下困難者食に添加することで嚥下困難者に不足しがちな蛋白質やエネルギー等の栄養素を補うものであり、嚥下困難者食に添加した際に、嚥下困難者が食するうえで適した物性や外観であることを配慮したものである。
【0011】
本発明の嚥下困難者食用栄養補給食品は、コラーゲンペプチドおよび/または卵白ペプチドと、全体に対して25質量%以上の粉末油脂を含有する。
【0012】
本発明に用いるコラーゲンペプチドは、特に限定されずコラーゲンペプチドとして市販されているものを用いればよいが、料理の固化やツヤの消失を抑制することができる嚥下困難者食用栄養補給食品が得られやすいことから、平均分子量300〜1万のものが好ましく、300〜7000がより好ましい。
【0013】
本発明に用いる卵白ペプチドは、特に限定されず卵白ペプチドとして市販されているものを用いればよい。卵白ペプチドは、卵白蛋白質を分解することによって得られるが、卵白蛋白質の加熱や分解時に卵白に特有の硫黄臭が増すため、卵白ペプチドは一般的に風味の好ましくないものが多い。そのような硫黄臭の強い卵白ペプチドを用いると、嚥下困難者食用栄養補給食品を料理に混ぜたときに料理本来の味を卵白ペプチド由来の硫黄臭によって損なう恐れがある。したがって、本発明に用いる卵白ペプチドは、料理本来の味を変えずに嚥下困難者の栄養不足を補う点から、硫化水素量が2ppm以下であることが好ましく、より好ましくは1ppm以下である。また、料理の固化やツヤの消失を抑制することができる嚥下困難者食用栄養補給食品が得られやすいことから、卵白ペプチドの平均分子量は200〜2000が好ましく、250〜1500がより好ましい。
【0014】
本発明において、卵白ペプチドの硫化水素量は、検知管式ガス測定器を用いて測定した値である。検知管式ガス測定器についてはJISK0804で規定されており、検知管式ガス採取器と検知管からなるガス測定器をいう。
【0015】
具体的には、卵白ペプチド3gを500mLの三角フラスコに入れ、97gの精製水を加えて溶解し、80℃の恒温槽中で10秒間振り混ぜる。ガラス管およびガス検知管(株式会社ガステック製、「気体検知管No.4LB硫化水素」)を差し込んだゴム栓を三角フラスコに取り付け、ガラス管の下端の位置は卵白ペプチドの水溶液の液面に触れるようにする。ガス検知管にガス採取器(株式会社ガステック製、「気体採取器GV−100」)を取り付け、ガス採取器を用いて100mLの気体を吸引し、ガス検知管の測定値を読み取り、これを硫化水素量とする。
【0016】
卵白ペプチドの製造方法としては、卵白蛋白質をペプシン、トリプシン、パパイン、パンクレアチン、ブロメライン、フィシン等の蛋白質分解酵素を用いて分解する方法や、酸又はアルカリ触媒の存在下で卵白蛋白質を加水分解する方法より得られる。卵白ペプチド特有の不快な硫黄臭を抑え、料理本来の味を変えることなく嚥下困難者の栄養不足を補うためには、卵白希釈液をアルカリ条件下で加熱処理して卵白を変性させる前処理工程と、プロテアーゼにより加水分解処理する工程とを含む方法にて卵白ペプチドを製造することが好ましい。
【0017】
本発明に用いる硫化水素量が2ppm以下である卵白ペプチドの製造方法は、具体的には、液卵白1部に対し0.4〜3部の水で希釈した卵白希釈液を、pH9〜12、55〜90℃の条件下で加熱処理して卵白を変性させる前処理工程と、プロテアーゼにより加水分解処理する工程とを含むことができる。
【0018】
上記の卵白希釈液における加水量は、液卵白1部に対し、0.4〜3部であり、好ましくは0.6〜2.5部、より好ましくは0.8〜2部である。液卵白1部に対する加水量が0.4部未満である場合、加熱時に卵白が凝固し、後述するプロテアーゼによる加水分解処理ができない場合がある。一方、液卵白1部に対する加水量が3部を超える場合、収率が低下する場合がある。また、加水分解処理後の卵白ペプチドを乾燥させる場合、作業コストが大きくなり望ましくない。
【0019】
上記前処理工程におけるpHは9〜12であり、好ましくは9.5〜11.5、より好ましくは10〜11である。pHが9未満であると、卵白ペプチドの硫黄臭が十分に低減されない。一方、pHが12を超えると、加熱時に卵白が凝固し、後述するプロテアーゼによる加水分解処理ができない場合がある。また、pHが12以下の場合よりも硫黄臭が強くなる場合がある。なお、卵白ペプチドのpH調整は例えば、アルカリ性水溶液(例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウムなど)を用いて行うことができる。
【0020】
前処理工程における加熱温度は55〜90℃であり、好ましくは60〜85℃、より好ましくは65〜75℃である。加熱温度が55℃未満であると、卵白ペプチドの硫黄臭が十分に低減されない。一方、加熱温度が90℃を超えると、加熱時に卵白が凝固し、後述するプロテアーゼによる加水分解処理ができない場合がある。また、加熱温度が90℃以下の場合よりも硫黄臭が強くなる場合がある。
【0021】
処理工程における加熱時間は、卵白が適度に変性する条件であれば特に限定するものではないが、3〜60分の範囲で適宜選択すればよい。
【0022】
加水分解に用いるプロテアーゼは、特に限定するものではないが、例えば、ペプシン、キモトリプシン、トリプシン、パンクレアチンなどの動物由来プロテアーゼ、パパイン、ブロメライン、フィシンなどの植物由来プロテアーゼ、微生物(乳酸菌、枯草菌、放線菌、カビ、酵母など)由来のエンドプロテアーゼ、エキソプロテアーゼならびにこれらの粗精製物および菌体破砕物等があげられ、これらの1種または2種以上を組合せて用いることができる。
【0023】
本発明におけるコラーゲンペプチドと卵白ペプチドの含量は、特に制限されないが、料理本来の味を変えずに嚥下困難者の栄養不足を補い、嚥下困難者が食するのに適したまとまり感を有し、さらに料理の固化やツヤの消失を抑制する観点から、コラーゲンペプチドと卵白ペプチドの合計の含量が10〜75%であることが好ましく、30〜65%がより好ましい。上記ペプチドの配合量が上記範囲よりも多いと料理の離水が多く嚥下困難者が食するのに適したものになりにくくなる、また、逆に上記ペプチドの配合量が上記範囲よりも少ないと時間が経った時の料理の固化やツヤの消失を抑制する効果が十分に発揮されにくくなる。
【0024】
本発明に用いる粉末油脂は、特に限定されず粉末油脂として市販されているものを用いればよい。菜種油、コーン油、オリーブ油、サフラワー油、綿実油、大豆油、米油、ヒマワリ油、トウモロコシ油、ゴマ油、これらを精製したサラダ油等の植物性油脂並びに鶏油、豚脂、牛脂、乳脂、魚油等の動物性油脂、さらに、これらの油脂を硬化、エステル交換等の処理を施したものの他、MCT(中鎖脂肪酸トリグリセリド)、ジグリセリド等のように化学的あるいは酵素的処理を施して得られる液状油脂を常法により粉末担体(例えばデキストリン)を用いて粉末化したものがあげられる。その中でも、料理本来の味を変えずに嚥下困難者の栄養不足を補える観点から、主原料が菜種油である粉末油脂が好ましい。
【0025】
本発明の嚥下困難者食用栄養補給食品は粉末油脂を全体に対して25質量%以上含有する。料理本来の味を変えずに嚥下困難者の栄養不足を補い、嚥下困難者が食するのに適したまとまり感を有し、さらに料理の固化やツヤの消失を抑制する観点から、粉末油脂の含有量は30〜90%が好ましく、より好ましくは35〜80%である。粉末油脂の含量が上記範囲よりも少ないと、料理の離水が多く嚥下困難者が食するのに適したものになりにくくなる、また、逆に粉末油脂の量が上記範囲よりも多いと時間が経った時の料理の固化やツヤの消失を抑制する効果が十分に発揮されにくくなる。
【0026】
本発明における嚥下困難者食用栄養補給食品は、上記のコラーゲンペプチド、卵白ペプチドおよび粉末油脂の他、デキストリン等の糖類、レシチン等の乳化剤、さらにビタミンやミネラル等その他の栄養成分を含んでもよい。
【0027】
本発明の嚥下困難者食用栄養補給食品は、上述の各原料を、混合機等を用いて均一に混合し、必要に応じてストレーナー等で篩通することにより製造すれば特に限定されないが、料理への溶解性や分散性をより向上させるためスプレードライや流動層造粒法等によって他の成分とともに造粒してもよい。
【0028】
本発明のツヤ保持剤とは、料理の製造工程中に添加混合する、あるいは出来上がった料理に添加混合する添加剤であって、本発明のツヤ保持剤は、本発明の嚥下困難者食用栄養補給食品を含有することを特徴とし、これにより、調理後時間が経った時に起こる料理のツヤの消失を抑制することができる。また、本発明のツヤ保持剤の形態としてはいずれのものでもよく、例えば、粉末状、顆粒状、液状等のものがあげられる。
【0029】
本願発明の嚥下困難者食用栄養補給食品およびツヤ保持剤は、炊飯米やポテトサラダ、肉じゃが、嚥下困難者用にペースト状にしたペースト食など様々な料理に添加して使用することができる。料理に対する添加量は必要な蛋白質やエネルギーの補給量に合わせて適宜調整すれば良いが、料理本来の味を変えずに嚥下困難者の栄養不足を補い、さらに料理の固化やツヤの消失を抑制する観点から、料理に対して0.1〜30%の添加量が好ましく、0.5〜15%がさらに好ましい。
【0030】
本願発明の嚥下困難者食用栄養補給食品およびツヤ保持剤の使用方法としては、特に制限されず、料理に予め添加して加熱調理を行っても、調理後の料理に添加してもよいが、料理の固化やツヤの消失を抑制する効果が発揮されやすいという観点から、料理に予め添加して加熱調理を行うことが好ましい。
【0031】
本発明における嚥下困難者食とは、嚥下困難者が食しやすいような具材の大きさや料理のかたさの食品を指す。例えば、軟飯やポテトサラダ、肉じゃが、嚥下困難者用にペースト状にしたペースト食など様々な食品があげられるが、食事において提供される頻度が高く、時間が経ったときに固化やツヤの消失が問題になりやすい点で、本願発明の嚥下困難者食は軟飯であることが好ましい。
【0032】
本願発明における嚥下困難者食のかたさは、食品の形態や使用する原材料によって異なるが、嚥下困難者が食しやすい観点から500〜500000N/m2、好ましくは1000〜5000N/m2である。
【0033】
本発明におけるかたさとは、円筒形の試料の上部に円柱プランジャーを当てて上下して試料に変形を与え、応力と歪みの関係をもとめたときの圧縮ピークの高さをいう。より詳細には、強度測定機としてクリープメーター((株)山電社製、RE−3305)を用い、円柱プランジャーの直径20mmで圧縮速度10mm/sにてサンプルを厚さ10mmまで押し潰したときのかたさをいう。
【0034】
本発明における軟飯とは、炊飯米より水分を多めにして軟らかく炊きあげたものである。嚥下困難者が食するのに適している観点から、本発明の軟飯のかたさは1000〜5000N/m2である。
【0035】
次に、本発明を実施例、比較例および試験例に基づき、さらに詳細に説明する。なお、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0036】
〔実施例1〕
下記の配合割合に準じ、本発明の嚥下困難者食用栄養補給食品を製造した。すなわち、ロッキングミキサーにコラーゲンペプチド(平均分子量6000)、粉末油脂を投入し、均一になるまで攪拌混合し、篩分し、嚥下困難者食用栄養補給食品を得た。その後、アルミパウチ容器に500g充填、密封した。
【0037】
コラーゲンペプチド 65%
粉末油脂 35%
合計 100%
【0038】
〔調製例1〕卵白ペプチドの調製
生卵白1部を等量の清水で希釈して得られた卵白希釈液を水酸化ナトリウム水溶液でpH10.5に調整した後、65℃で30分間加熱し前処理を行った。前処理した卵白希釈液を塩酸水溶液でpH7.0に調整した後、中性プロテアーゼ(スミチームFP、新日本化学工業社製)2000ユニットを添加し、40℃で6時間加水分解処理を行った。次いで、90℃で15分間加熱することでプロテアーゼの失活処理を行い、さらに、ろ過処理することで不要物を除去し、スプレードライで乾燥して調製例1の卵白ペプチドを得た。また、得られた卵白ペプチドの硫化水素量は0.5ppm、平均分子量は750であった。
【0039】
〔調製例2〕卵白ペプチドの調製
調製例1の卵白ペプチドの製造方法において、前処理工程を除いた以外は、調製例1と同様の方法で卵白ペプチドを得た。
具体的には、生卵白1部を等量の清水で希釈して得られた卵白希釈液を塩酸水溶液でpH7.0に調整した後、中性プロテアーゼ(スミチームFP、新日本化学工業社製)2000ユニットを添加し、40℃で6時間加水分解処理を行った。次いで、90℃で15分間加熱することでプロテアーゼの失活処理を行い、ろ過により不溶物を除去し、スプレードライで乾燥して卵白ペプチドを得た。得られた卵白ペプチドの硫黄臭を評価したところ、硫黄臭はほとんど低減されていなかった。また、得られた卵白ペプチドの硫化水素量は2.8ppm、平均分子量は700であった。
【0040】
〔実施例2〕
下記の配合割合に準じ、本発明の嚥下困難者食用栄養補給食品を製造した。すなわち、ロッキングミキサーにコラーゲンペプチド(平均分子量5000)、上記調製例1で得られた卵白ペプチド、粉末油脂を投入し、均一になるまで攪拌混合し、嚥下困難者食用栄養補給食品を得た。その後、アルミパウチ容器に500g充填、密封した。
【0041】
コラーゲンペプチド 55%
調製例1の卵白ペプチド 10%
粉末油脂 35%
合計 100%
【0042】
〔実施例3〕嚥下困難者食用栄養補給食品を配合した軟飯
下記の配合割合に準じ、実施例3の嚥下困難者食用栄養補給食品を配合した軟飯を製造した。すなわち、炊飯器に実施例1の嚥下困難者食用栄養補給食品、精米、水を入れた後、炊飯し、実施例3の嚥下困難者食用栄養補給食品を配合した軟飯を得た。
【0043】
実施例1の嚥下困難者食用栄養補給食品 2%
精米 15%
水 73%
合計 100%
【0044】
実施例3の嚥下困難者食用栄養補給食品を配合した軟飯は、軟飯本来の良好な風味を保持しており、物性は嚥下困難者が食するのに適したまとまり感を有していた。また、時間が経っても軟飯が固化することもなく、見た目も光沢があり、製造直後の状態が保持されており、食す人の食欲を損なわない外観を有していた。なお、製造直後に実施例3の軟飯のかたさをクリープメーター((株)山電社製、RE−3305)で測定したところ、3800N/m2であった。
【0045】
〔実施例4〕
実施例3で用いた嚥下困難者食用栄養補給食品中の調製例1の卵白ペプチドを調製例2の卵白ペプチドに置き換えた以外は実施例3と同様にして、実施例4の嚥下困難者食用栄養補給食品を配合した軟飯を得た。
【0046】
実施例4の嚥下困難者食用栄養補給食品を配合した軟飯は、物性は嚥下困難者が食するのに適したまとまり感を有していた。また、調理後時間が経っても固化やツヤの消失により食す人の食欲を損なうことはなかった。しかしながら、卵白ペプチド特有の不快な硫黄臭が感じられ、軟飯本来の味と比較すると風味の面ではやや劣るものであった。
【0047】
〔比較例1〕
実施例3の軟飯において実施例1の嚥下困難者食用栄養補給食品を配合せずに、比較例1の軟飯を得た。
【0048】
比較例1の軟飯は離水が多く見られ、嚥下困難者が食するのに適したまとまり感を有しているとは言えなかった。また、時間が経った時には固くなっており、明らかに光沢がなく、乾燥しているように見えた。
【0049】
〔試験1〕
実施例3の軟飯において原料として用いた嚥下困難者用栄養補給食品における油脂の配合量および種類、ペプチドの配合量および種類を表1に示すとおり変更した以外は実施例3と同様にして、試験例1〜12の嚥下困難者用粉末配合軟飯を製造した。また、それぞれの軟飯を4時間静置したときの状態を以下に示す評価方法および評価基準により比較した結果を表1に示す。なお、用いたペプチドの平均分子量はそれぞれ次のとおりであった。コラーゲンペプチド:5000、卵白ペプチド:750、乳ペプチド:7800、小麦ペプチド:7740、大豆ペプチド:720
【0050】
〔評価方法〕
軟飯を製造後、平皿に出し、4時間後に目視により観察した。
【0051】
〔まとまりの評価基準〕
○:まとまり感があり、嚥下困難者が食するのに適している。
×:離水しているあるいは油浮きしている。
【0052】
〔固化の評価基準〕
◎:製造直後の状態を保持している。
○:ややベタベタしているが、ほとんど製造直後の状態を保持している。
×:固くなっている。
【0053】
〔ツヤの評価基準〕
◎:際立っておいしそうな光沢があり、製造直後の状態を保持している。
○:光沢があり製造直後の状態を保持している。
△:光沢はないが、劣化しているようには見えない。
×:明らかに光沢がなく、乾燥しているように見え、劣化している感じがする。
【0054】
【表1】
【0055】
表2の結果より、コラーゲンペプチドおよび/または卵白ペプチドと、粉末油脂25%以上を含む嚥下困難者食用栄養補給食品を配合した軟飯(試験例1〜6)は、嚥下困難者が食するのに適したまとまり感を有していた、さらに時間が経った時の固化やツヤの消失が抑えられていることがわかる。特にコラーゲンペプチドと卵白ペプチドを配合した軟飯(試験例3、4)は、まとまり、状態、ツヤ、について際立って優れていた。なお、試験例1〜12の軟飯において、製造直後のかたさはいずれも1000〜5000N/m2の範囲内であった。
【0056】
〔実施例5〕嚥下困難者食用栄養補給食品を配合したポテトサラダ
下記の配合割合に準じ、嚥下困難者食用栄養補給食品を配合したポテトサラダを製造した。すなわち、市販のポテトサラダに実施例2の嚥下困難者食用栄養補給食品を混合し、実施例5のポテトサラダを得た。なお、製造直後に実施例6のポテトサラダのかたさをクリープメーター((株)山電社製、RE−3305)で測定したところ、31000N/m2であった。
【0057】
実施例2の嚥下困難者食用栄養補給食品 5%
ポテトサラダ 95%
合計 100%
【0058】
実施例5のポテトサラダは、ポテトサラダ従来の良好な風味を保持しており、物性は嚥下困難者が食するのに適したまとまり感を有していた。また、調理後時間が経っても固化やツヤの消失により食す人の食欲を損なうことはなかった。