(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6104000
(24)【登録日】2017年3月10日
(45)【発行日】2017年3月29日
(54)【発明の名称】ノンアルコールワインの製造方法及び製造システム
(51)【国際特許分類】
A23L 2/00 20060101AFI20170316BHJP
B01D 61/36 20060101ALI20170316BHJP
C12G 1/00 20060101ALN20170316BHJP
【FI】
A23L2/00 H
B01D61/36
A23L2/00 B
!C12G1/00
【請求項の数】10
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-54043(P2013-54043)
(22)【出願日】2013年3月15日
(65)【公開番号】特開2014-176368(P2014-176368A)
(43)【公開日】2014年9月25日
【審査請求日】2016年3月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005902
【氏名又は名称】三井造船株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101340
【弁理士】
【氏名又は名称】丸山 英一
(72)【発明者】
【氏名】稲葉 利晴
(72)【発明者】
【氏名】宮地 健
(72)【発明者】
【氏名】八田 直樹
(72)【発明者】
【氏名】鞍懸 直史
【審査官】
太田 雄三
(56)【参考文献】
【文献】
特開2005−087882(JP,A)
【文献】
特開2005−087890(JP,A)
【文献】
特開平04−222585(JP,A)
【文献】
特開平02−005849(JP,A)
【文献】
特開平05−137970(JP,A)
【文献】
特開2006−042673(JP,A)
【文献】
国際公開第2009/005010(WO,A1)
【文献】
特開2012−157317(JP,A)
【文献】
特開2012−187050(JP,A)
【文献】
特開2012−187051(JP,A)
【文献】
特開昭60−145074(JP,A)
【文献】
特開平06−086661(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2009/0297681(US,A1)
【文献】
特開昭58−129969(JP,A)
【文献】
特表2010−517559(JP,A)
【文献】
中国特許出願公開第1737097(CN,A)
【文献】
Journal of Food Engineering,2007年,Vol. 78,p. 118-125
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 2/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
WPIDS/WPIX(STN)
FSTA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワイン中のエタノールを吸着材に吸着させて除去するエタノール吸着除去工程を備えたノンアルコールワインの製造方法であって、
前記エタノール吸着除去工程の前処理として、前記ワイン中のエタノールの一部を除去する浸透気化(PV)膜処理工程を備えることを特徴とするノンアルコールワインの製造方法。
【請求項2】
前記浸透気化(PV)膜処理工程の前処理として、前記ワイン中のカルボン酸を除去するカルボン酸除去工程を備えることを特徴とする請求項1記載のノンアルコールワインの製造方法。
【請求項3】
前記カルボン酸除去工程において、前記ワイン中のカルボン酸を吸着材に吸着させて除去することを特徴とする請求項2記載のノンアルコールワインの製造方法。
【請求項4】
前記エタノール吸着除去工程により、前記ワイン中のエタノール濃度を、0.005%未満まで低減することを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載のノンアルコールワインの製造方法。
【請求項5】
前記エタノール吸着除去工程を経た前記ワインに、ブドウ果汁を添加する工程を更に備えることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載のノンアルコールワインの製造方法。
【請求項6】
ワイン中のエタノールを吸着材に吸着させて除去するエタノール吸着除去手段を備えたノンアルコールワインの製造システムであって、
前記エタノール吸着除去手段の前段に、前記ワイン中のエタノールの一部を除去する浸透気化(PV)膜処理装置を備えることを特徴とするノンアルコールワインの製造システム。
【請求項7】
前記浸透気化(PV)膜処理装置の前段に、前記ワイン中のカルボン酸を除去するカルボン酸除去手段を備えることを特徴とする請求項6記載のノンアルコールワインの製造システム。
【請求項8】
前記カルボン酸除去手段は、前記ワイン中のカルボン酸を吸着材に吸着させて除去することを特徴とする請求項7記載のノンアルコールワインの製造システム。
【請求項9】
前記エタノール吸着除去手段は、前記ワイン中のエタノール濃度を、0.005%未満まで低減するように構成されることを特徴とする請求項6〜8の何れかに記載のノンアルコールワインの製造システム。
【請求項10】
前記エタノール吸着除去手段を経た前記ワインに、ブドウ果汁を添加するブドウ果汁添加手段を更に備えることを特徴とする請求項6〜9の何れかに記載のノンアルコールワインの製造システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノンアルコールワインの製造方法及び製造システムに関し、より詳しくは、ワイン中のエタノール濃度を効率的且つ低コストで低濃度化できるノンアルコールワインの製造方法及び製造システムに関する。
【背景技術】
【0002】
アルコールが除去されたワイン、所謂ノンアルコールワインの需要が高まっている。
【0003】
ノンアルコールワインは、一般的には、エタノール濃度が1質量%未満に低減されたワインを指すものと定義される場合があるが、1質量%未満であっても、アルコールに弱い人間であれば酔うことがあるし、通常の人間であっても、大量に飲用すれば酔うことがある。
【0004】
ノンアルコールワインの飲用により例えば意図せずに酔うことの危険性等を考慮すると、実質的にアルコールを含まないノンアルコールワイン、具体的には、エタノール濃度が0.00質量%(0.005質量%未満)であるノンアルコールワインの需要も期待される。
【0005】
特許文献1は、ワイン中のエタノールを浸透気化(PV)膜処理により除去することを記載する。
【0006】
しかしながら、PV膜は、ワインと処理膜との接触効率が得られ難く、特に、エタノール濃度0.005質量%未満を実現するためには、膜面積を大きくしなければならない問題がある。また、処理速度が遅く、製造効率が得られ難い問題もある。
【0007】
一方、特許文献2、3には、回転円錐カラムを用いて、ワインからアルコールを分離する方法が記載されている。
【0008】
回転円錐カラムは、相平衡による蒸留を基本原理としているため、エタノールと共に、香成分までもが除去され易く、特にエタノール濃度を0.005%未満まで除去しようとすると、香成分の損失も大きくなる。
【0009】
特許文献2、3は、上記の方法によりエタノール濃度が低減されたワインに、ぶどう果汁(未発酵)から抽出された芳香を添加して香気を付与することを記載するが、これではワイン本来の香気の再現に限界があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平2−5849号公報
【特許文献2】特開昭61−274705号公報
【特許文献3】特開平7−22646号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明者は、ワイン中のエタノールを吸着材に吸着させて除去することについて検討した。
【0012】
この方法によれば、吸着材のエタノール選択吸着性により、ワイン中に香成分を保持したまま、エタノール濃度を高度に低減することが可能となる。
【0013】
しかるに、実際に試験を行って検証してみると、かかるエタノール吸着除去工程においては、主に3つの新たな問題が生じることがわかった。
【0014】
第1に、吸着材が、すぐに吸着破過してしまう。そのため、吸着材を使い捨てる場合は、材料コスト、再充填コストが大となり、あるいは、吸着材を再生処理して再利用する場合は、再生処理が頻繁となり、その影響で、乾燥再生頻度が増えると、吸着材の吸着能が早く低下する。更に、再生処理に伴う吸着物脱分離のための真空処理や加熱処理等のエネルギーコストが大となる問題が生じる。
【0015】
第2に、特に吸着材が可塑性に乏しい場合は、エタノールの吸着により膨潤された際に、骨格構造が脆性破壊され易く、例えば再生処理を繰り返すことにより、破砕された吸着材等により、吸着材充填層の流路が狭まり、吸着処理時の送液圧力損失が増大し、プラントのハンドリングが悪化する問題が生じる。
【0016】
第3に、吸着塔に供するワイン中におけるエタノール濃度が高いと、吸着材にエタノールが吸着する効率が低下し、濃度が低下しにくくなる場合があり、精密精製が要求されるノンアルコールワインの製造において懸念がある。
【0017】
本発明者は、更に鋭意検討し、エタノール吸着除去工程の前処理として、ワイン中のエタノールの一部を浸透気化(PV)膜処理により除去しておくことにより、上述した問題の発生が防止されることを見出して、本発明に至った。
【0018】
そこで、本発明の課題は、ワイン中のエタノール濃度を、効率的に、安定的に、且つ低コストで低濃度化できるノンアルコールワインの製造方法及び製造システムを提供することにある。
【0019】
また本発明の他の課題は、以下の記載によって明らかとなる。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記課題は、以下の各発明によって解決される。
【0021】
1.
ワイン中のエタノールを吸着材に吸着させて除去するエタノール吸着除去工程を備えたノンアルコールワインの製造方法であって、
前記エタノール吸着除去工程の前処理として、前記ワイン中のエタノールの一部を除去する浸透気化(PV)膜処理工程を備えることを特徴とするノンアルコールワインの製造方法。
【0022】
2.
前記浸透気化(PV)膜処理工程の前処理として、前記ワイン中のカルボン酸を除去するカルボン酸除去工程を備えることを特徴とする前記1記載のノンアルコールワインの製造方法。
【0023】
3.
前記カルボン酸除去工程において、前記ワイン中のカルボン酸を吸着材に吸着させて除去することを特徴とする前記2記載のノンアルコールワインの製造方法。
【0024】
4.
前記エタノール吸着除去工程により、前記ワイン中のエタノール濃度を、0.005%未満まで低減することを特徴とする前記1〜3の何れかに記載のノンアルコールワインの製造方法。
【0025】
5.
前記エタノール吸着除去工程を経た前記ワインに、ブドウ果汁を添加する工程を更に備えることを特徴とする前記1〜4の何れかに記載のノンアルコールワインの製造方法。
【0026】
6.
ワイン中のエタノールを吸着材に吸着させて除去するエタノール吸着除去手段を備えたノンアルコールワインの製造システムであって、
前記エタノール吸着除去手段の前段に、前記ワイン中のエタノールの一部を除去する浸透気化(PV)膜処理装置を備えることを特徴とするノンアルコールワインの製造システム。
【0027】
7.
前記浸透気化(PV)膜処理装置の前段に、前記ワイン中のカルボン酸を除去するカルボン酸除去手段を備えることを特徴とする前記6記載のノンアルコールワインの製造システム。
【0028】
8.
前記カルボン酸除去手段は、前記ワイン中のカルボン酸を吸着材に吸着させて除去することを特徴とする前記7記載のノンアルコールワインの製造システム。
【0029】
9.
前記エタノール吸着除去手段は、前記ワイン中のエタノール濃度を、0.005%未満まで低減するように構成されることを特徴とする前記6〜8の何れかに記載のノンアルコールワインの製造システム。
【0030】
10.
前記エタノール吸着除去手段を経た前記ワインに、ブドウ果汁を添加するブドウ果汁添加手段を更に備えることを特徴とする前記6〜9の何れかに記載のノンアルコールワインの製造システム。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、ワイン中のエタノール濃度を、効率的に、安定的に、且つ低コストで低濃度化できるノンアルコールワインの製造方法及び製造システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】本発明に係るノンアルコールワインの製造方法の一例を示す工程図
【
図2】本発明に係るノンアルコールワインの製造システムの一例を示す説明図
【
図3】本発明に係るノンアルコールワインの製造システムの他の例を示す説明図
【
図4】比較例に係るノンアルコールワインの製造システムを示す説明図
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下に、図面を参照して本発明を実施するための形態について説明する。
【0034】
図1は、本発明に係るノンアルコールワインの製造方法の一例を示す工程図である。
【0035】
図1(a)に示す通り、本発明に係るノンアルコールワインの製造方法は、ワイン中のエタノールを吸着材に吸着させて除去するエタノール吸着除去工程と、その前処理として、前記ワイン中のエタノールの一部を予め除去する浸透気化(PV)膜処理工程とを備える。
【0036】
本発明において原料として用いられるワインは、少なくともエタノールと香成分を含むワインであれば格別限定されず、ぶどうを発酵させた赤ワインあるいは白ワインの他、例えば、桃、苺、柿、梨、メロン、キウイフルーツ、パイナップル、ミカン等を発酵させたフルーツワイン等を好ましく用いることができる。
【0037】
ワイン原料中のエタノール濃度は、格別限定されるものではないが、通常は、5〜20質量%の範囲であり、好ましくは、8〜15質量%の範囲である。
【0038】
本発明に係るノンアルコールワインの製造方法は、ワイン原料(ワイン原液)中のエタノール濃度を低減するために用いられる。
【0039】
本発明においては、エタノール吸着除去工程の前処理としてPV膜処理工程を備えることにより、エタノール吸着除去工程で用いられる吸着材の吸着破過までの期間を延長することができる。そのため、吸着材を使い捨てる場合は、材料コスト、再充填コストを小とすることができ、あるいは、吸着材を再生処理して再利用する場合は、再生処理の頻度を少なくでき、更に吸着物脱分離のための真空処理や加熱処理等のエネルギーコストも省ける効果が得られる。
【0040】
更に、特に無機系セラミック吸着材のように吸着材が可塑性に乏しい場合であっても、エタノールの吸着による膨潤が緩やかに進行するため、骨格構造が脆性破壊され難く、例えば再生処理を繰り返しても、吸着材充填層の流路が狭まったりすることが防止され、吸着処理時の送液圧力損失を抑え、プラントのハンドリングを向上する効果が得られる。
【0041】
また、PV膜処理工程においては、高度なエタノール除去(エタノール濃度0.005質量%未満)を、後段のエタノール吸着除去工程に託すことができるため、比較的狭い膜面積であっても、処理速度が得られ易く、製造効率の向上が可能になる。
【0042】
従って、本発明によれば、ワイン中のエタノール濃度を、効率的に、安定的に、且つ低コストで低濃度化でき、特にワイン中のエタノール濃度を、0.005質量%未満まで低減する際に、その効果は顕著となる。
【0043】
また、
図1(b)に示すように、本発明においては、PV膜処理工程の前処理として、更に、カルボン酸除去工程を備えることが好ましい。
【0044】
本発明者の知見によれば、ワイン中のカルボン酸は、PV膜処理工程で用いられるPV膜に吸着し、劣化を促進する原因になり得る。
【0045】
カルボン酸除去工程によって、ワイン中に含まれるカルボン酸を予め除去しておくことにより、PV膜処理工程で用いられるPV膜の劣化を防止する効果が得られる。カルボン酸除去工程では、カルボン酸を吸着材に吸着して除去する方法、カルボン酸を、アルカリで中和反応させたり、あるいは含有アルコール等とエステル化反応させるなどして、物質変換して除去する方法や、例えば光触媒などの触媒で分解して除去する方法などが好ましく用いられ、特に、カルボン酸を吸着材に吸着して除去する方法が好適である。
【0046】
本発明の好ましい態様においては、エタノール吸着除去工程の前処理としてPV膜処理工程を備え、更に、PV膜処理工程の前処理として、カルボン酸除去工程を備えることにより、これら工程が有機的に相乗作用し、ワイン中のエタノール濃度を、効率的に、安定的に、且つ低コストで低濃度化できる効果を、より顕著なものとする。
【0047】
なお、ワイン原料中のカルボン酸は、元来少量であるため、カルボン酸除去工程において、カルボン酸を吸着材に吸着して除去する方法を用いても、カルボン酸吸着材の破過までの時間は長く、カルボン酸吸着材の交換や再生処理に伴うコスト増の問題や、カルボン酸吸着材の骨格構造が脆性破壊される等の問題を生じ難い。
【0048】
次に、以上に説明した本発明に係るノンアルコールワインの製造方法を実施するためのノンアルコールワインの製造システムについて説明する。
【0049】
図2は、本発明に係るノンアルコールワインの製造システムの一例を示す説明図である。
【0050】
図2において、2は、PV膜処理装置であり、3は、エタノール吸着除去手段である。
【0051】
図示の例において、ワイン原料は、まず、PV膜処理装置2に供給される。
【0052】
PV膜処理装置2は、PV膜21と、該PV膜21の透過側の領域を減圧するための真空ポンプ22と、凝縮器23とを備えている。
【0053】
本発明において、PV膜21としては、減圧状態にある膜透過側にエタノールを選択的に気化して分離できるものであれば格別限定されない。香成分の膜透過を好適に防止する観点では、例えば、疎水性のゼオライト分離膜等を好ましく用いることができる。
【0054】
疎水性のゼオライト分離膜としては、例えば、天然のゼオライトや、人工のシリカライトにより構成された膜が挙げられ、これらは適宜表面を疎水化処理して用いられる。
【0055】
疎水化処理されたゼオライト分離膜としては、ゼオライト(シリカライト)膜表面に脂肪族炭化水素等の高分子やチタン等を導入したものを好ましく用いることができ、中でもゼオライト(シリカライト)膜表面にチタンを導入してなるチタノシリケート膜を用いることが好ましい。
【0056】
PV膜21の形態は、格別限定されず、例えば、中空糸膜状や平膜状のものを好ましく用いることができる。
【0057】
PV膜21の供給側(非透過側)にワインが供給されると、減圧状態にある透過側にエタノールが蒸気として分離される。このエタノール蒸気は、次いで凝縮器23に導入され、ここで冷却されることにより液化された後、適宜回収される。
【0058】
一方、PV膜21の非透過側からは、エタノールが除去されたワインが回収される。
【0059】
回収されたワインは、次いで、送液ポンプ24により、エタノール吸着除去手段3に導入される。
【0060】
PV膜21での処理により、ワイン中のエタノール濃度は、好ましくは、1%〜5%の範囲、より好ましくは、0.01%〜1%の範囲まで低減されていることが好ましい。これにより、本発明の効果がより顕著に奏される。
【0061】
エタノール吸着除去手段3は、エタノール吸着材が充填された充填層31a、32aを内部に有する吸着塔31、32を並列に備えている。
【0062】
これにより、一方の吸着塔31が吸着破過に近づき、再生処理に供される際においても、他方の吸着塔32により処理を継続でき、連続プロセスを安定化することができる。
【0063】
充填層31a、32aを構成する吸着材は、エタノールを吸着できるものであれば格別限定されないが、シリコンゴムやポリアセチレン等の有機系高分子吸着材や、チタノシリケート等の疎水性を有するゼオライト、無機系セラミック吸着材等を好ましく例示でき、特に本発明の効果をより顕著に奏する観点では、無機系セラミック吸着材が好適である。
【0064】
311は、吸着塔31にワインを供給する供給ラインであり、312は、吸着塔31によりエタノールが除去されたワインを排出する排出ラインである。また、311aは、供給ライン311に設けられたバルブであり、312aは、排出ライン312に設けられたバルブである。
【0065】
同様に、321は、吸着塔32にワインを供給する供給ラインであり、322は、吸着塔32によりエタノールが除去されたワインを排出する排出ラインである。また、321aは、供給ライン321に設けられたバルブであり、322aは、排出ライン322に設けられたバルブである。
【0066】
吸着塔31において、エタノール吸着除去処理を行う際は、吸着塔31の前後に設けられたバルブ311a、312aを開放し、供給ライン311を介して、吸着塔31内部の充填層31aを構成する吸着材に、ワイン原料を供給する。
【0067】
吸着材によってエタノールが吸着除去されたワインは、排出ライン312から排出される。
【0068】
一定時間の吸着処理を継続した後、吸着塔31は、再生処理に供される。
【0069】
吸着塔31を再生処理に供する際は、吸着塔31の前後に設けられたバルブ311a、312aを閉鎖して、吸着塔31内部を含む領域を密封し、この密封領域を、該密封領域に接続された真空ポンプ313の動力により減圧する。
【0070】
充填層31aを構成する吸着材に吸着したエタノールは、かかる減圧下において気化され、吸着材から脱分離される。
【0071】
再生処理を終了した吸着塔31は、再びエタノール吸着除去処理に用いられる。
【0072】
吸着塔32についても同様にして、エタノール吸着除去処理と、真空ポンプ323を用いた再生処理とを繰り返すことができる。
【0073】
エタノール吸着除去手段3は、ワイン中のエタノール濃度を、0.005%未満まで低減するように構成されることが好ましい。
【0074】
図3は、本発明に係るノンアルコールワインの製造システムの他の例を示す説明図である。
図3において、
図2と同符号は同構成であるのでその説明を省略する。
【0075】
図示の例では、
図2に示したノンアルコールワインの製造システムが、PV膜処理装置2の前段に、カルボン酸除去手段1を備えている。
【0076】
カルボン酸除去手段1は、カルボン酸吸着材が充填された充填層11a、12aを内部に有する吸着塔11、12を並列に備えている。即ち、図示の例では、カルボン酸除去手段1は、カルボン酸を吸着材に吸着して除去するように構成されている。
【0077】
一方の吸着塔11が吸着破過に近づき、再生処理に供される際においても、他方の吸着塔12により処理を継続でき、連続プロセスを安定化することができる。
【0078】
充填層11a、12aを構成する吸着材は、カルボン酸を吸着できるものであれば格別限定されないが、有機酸吸着材として、Al、Si、Zr、Tiから選ばれた1つ以上の元素を含む化合物又は酸化物を用いることが好ましく、具体的には、人工又は天然のゼオライト、Al
2O
3、SiO
2、ZrO
2及びTiO
2等を好ましく例示でき、中でも人工又は天然のゼオライトを好ましく用いることができる。
【0079】
111は、吸着塔11にワインを供給する供給ラインであり、112は、吸着塔11によりカルボン酸が除去されたワインを排出する排出ラインである。また、111aは、供給ライン111に設けられたバルブであり、112aは、排出ライン112に設けられたバルブである。
【0080】
同様に、121は、吸着塔12にワインを供給する供給ラインであり、122は、吸着塔12によりカルボン酸が除去されたワインを排出する排出ラインである。また、121aは、供給ライン121に設けられたバルブであり、122aは、排出ライン122に設けられたバルブである。
【0081】
吸着塔11において、カルボン酸吸着除去処理を行う際は、吸着塔11の前後に設けられたバルブ111a、112aを開放し、供給ライン111を介して、吸着塔11内部の充填層11aを構成する吸着材に、ワイン原料を供給する。
【0082】
吸着材によってカルボン酸が吸着除去されたワインは、排出ライン112から排出される。
【0083】
一定時間の吸着処理を継続した後、吸着塔11は、再生処理に供される。
【0084】
吸着塔11を再生処理に供する際は、吸着塔11の前後に設けられたバルブ111a、112aを閉鎖して、吸着塔11内部を含む領域を密封し、この密封領域を、該密封領域に接続された真空ポンプ113の動力により減圧する。
【0085】
充填層11aを構成する吸着材に吸着したカルボン酸は、かかる減圧下において気化され、吸着材から脱分離される。
【0086】
再生処理を終了した吸着塔11は、再びカルボン酸吸着除去処理に用いられる。
【0087】
吸着塔12についても同様にして、カルボン酸吸着除去処理と、真空ポンプ123を用いた再生処理とを繰り返すことができる。
【0088】
カルボン酸吸着除去手段1においてカルボン酸が除去されたワインは、次いで、PV膜処理装置2に供給される。PV膜処理装置2以降の構成については、
図2の例と同様である。
【0089】
本発明では、ノンアルコールワインの風味(酸味)などを整える等の目的で、エタノール吸着除去手段を経たワインに、ブドウ果汁等の添加物を、不図示の添加手段により適宜添加することができる。ブドウ果汁を添加する場合は、ノンアルコールワイン製品全量に対して20質量%未満の範囲であることが好ましい。なお、水の添加は、好ましいことではない。
【実施例】
【0090】
以下に、本発明の実施例について説明するが、本発明はかかる実施例に限定されない。
【0091】
(実施例1)
図3に示したものと同様の脱エタノールの製造システムを用いて、ワイン原料(エタノール濃度10質量%)を、表1に示す脱エタノール負荷条件で処理し、ノンアルコールワイン(エタノール濃度0.005質量%)を製造した。
【0092】
具体的には、まず、上記ワイン原料を、吸着材(チタノシリケート)を備える吸着塔(カルボン酸吸着除去手段1)に供給し、カルボン酸を除去した。次いで、カルボン酸が除去されたワインを、PV膜(チタノシリケート)を備えるPV膜処理装置2に供給し、エタノールの一部を除去した。次いで、エタノールの一部が除去されたワインを、吸着材(チタノシリケート)を備える吸着塔(エタノール吸着除去手段3)に供給して、エタノールを除去し、上記ノンアルコールワインを得た。
【0093】
(実施例2)
実施例1において、表1に示す脱エタノール負荷条件を表1に示す条件に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、ノンアルコールワインを製造した。
【0094】
(比較例1)
実施例1において、カルボン酸吸着除去手段1及びPV膜処理装置2を省略し、
図4に示したものと同様の脱エタノールの製造システムを用いて、ワイン原料(エタノール濃度10質量%)を、表1に示す脱エタノール負荷条件で処理し、ノンアルコールワイン(アルコール濃度0.005質量%)を製造した。
【0095】
【表1】
【0096】
<評価>
比較例1と比べ、実施例1では、吸着材使い捨て時は吸着材コストを、また吸着材再生時は吸着物脱離エネルギー量を、1/2に抑えられることがわかる。更に、実施例2では、1/10に抑えられることがわかる。
【0097】
また、実施例1、2において、エタノール吸着除去手段2(吸着塔)の吸着材を、チタノシリケートから活性炭に代えても、同様の効果が確認された。
【0098】
更に、実施例1、2において、カルボン酸吸着除去手段1を省略し、
図2に示したものと同様の脱エタノールの製造システムを用いて、同様の処理を行った場合は、実施例1、2と比較して、吸着材使い捨て時における吸着材コスト、あるいは吸着材再生時における吸着物脱離エネルギー量は、ほぼ同じで優れた値であったが、PV膜処理装置2の劣化が早く進行し、長期安定性に劣ることが確認された。
【符号の説明】
【0099】
1:カルボン酸吸着除去手段
11、12:吸着塔
11a、12a:充填層
2:PV膜処理装置
21:PV膜
3:エタノール吸着除去手段
31、32:吸着塔
31a、32a:充填層