特許第6104195号(P6104195)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6104195重合性モノマー及び眼科デバイス製造用モノマー
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  • 特許6104195-重合性モノマー及び眼科デバイス製造用モノマー 図000025
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6104195
(24)【登録日】2017年3月10日
(45)【発行日】2017年3月29日
(54)【発明の名称】重合性モノマー及び眼科デバイス製造用モノマー
(51)【国際特許分類】
   C07F 7/10 20060101AFI20170316BHJP
   C08F 230/08 20060101ALI20170316BHJP
   A61F 2/14 20060101ALI20170316BHJP
   A61F 2/16 20060101ALI20170316BHJP
   G02C 7/04 20060101ALI20170316BHJP
【FI】
   C07F7/10 WCSP
   C08F230/08
   A61F2/14
   A61F2/16
   G02C7/04
【請求項の数】7
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2014-35552(P2014-35552)
(22)【出願日】2014年2月26日
(65)【公開番号】特開2015-160816(P2015-160816A)
(43)【公開日】2015年9月7日
【審査請求日】2016年1月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085545
【弁理士】
【氏名又は名称】松井 光夫
(72)【発明者】
【氏名】工藤 宗夫
【審査官】 小川 由美
(56)【参考文献】
【文献】 特開平09−189887(JP,A)
【文献】 特開平11−171929(JP,A)
【文献】 特開2001−201723(JP,A)
【文献】 特開平07−064029(JP,A)
【文献】 特開2002−128828(JP,A)
【文献】 特開平04−168115(JP,A)
【文献】 特開平10−087671(JP,A)
【文献】 特開2005−132827(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/002347(WO,A1)
【文献】 特開2013−249395(JP,A)
【文献】 特表2016−501948(JP,A)
【文献】 特開2015−093976(JP,A)
【文献】 特開2015−096471(JP,A)
【文献】 特開2015−140393(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F,G02C
CAplus(STN)
REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される化合物
【化1】

(式(1)において、Rは炭素数1〜4の一価炭化水素基であり、Rは炭素数1〜4の一価炭化水素基であり、nは2または3であり、Rは炭素数1〜10の二価炭化水素基であり、Rは炭素数1〜8のフッ素置換一価炭化水素基であり、Rは炭素数4〜8の(メタ)アクリルオキシ基置換一価炭化水素基であり、Rは水素原子または炭素数1〜4の一価炭化水素基である)。
【請求項2】
式(1)において、Rがメチル基であり、Rがメチル基であり、nは2または3であり、Rがプロピレン基であり、Rが炭素数1〜8のフッ素置換一価炭化水素基であり、Rが(メタ)アクリルオキシメチル基であり、Rが水素原子である、請求項1記載の化合物。
【請求項3】
式(1)において、Rが、2,2,3,3,4,4,5,5,5−ノナフルオロペンチル基、2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,7−トリデカフルオロヘプチル基、または4−トリフルオロメチル−2,2,3,3,4,5,5,5−オクタフルオロペンチル基である、請求項1または2記載の化合物。
【請求項4】
請求項1〜のいずれか1項記載の化合物からなる眼科デバイス用モノマー。
【請求項5】
請求項1〜のいずれか1項記載の化合物と、これと重合性の基を有する他の化合物の少なくとも1種とを重合して得られる重合体。
【請求項6】
請求項記載の重合体を用いてなる眼科デバイス。
【請求項7】
下記式(1)で表される化合物を製造する方法であって、
【化2】

(式(1)において、Rは炭素数1〜4の一価炭化水素基であり、Rは炭素数1〜4の一価炭化水素基であり、nは2または3であり、Rは炭素数1〜10の二価炭化水素基であり、Rは炭素数1〜8のフッ素置換一価炭化水素基であり、Rは炭素数4〜8の(メタ)アクリルオキシ基置換一価炭化水素基であり、Rは水素原子または炭素数1〜4の一価炭化水素基である)
下記式(2)で表されるイソシアネート基含有シリコーン化合物と
【化3】

(式中、R、R、n、Rは上述のとおりである)
下記式(3)で表されるアルコール化合物を
【化4】

(式中、R、R、Rは上述のとおりである)
反応させる工程を含む、製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は眼科デバイス、例えば、コンタクトレンズ、眼内レンズ、人工角膜を製造するための化合物(以下、「眼用モノマー」ともいう)及びその製造方法に関する。詳細には、所定個数のケイ素原子および所定個数のフッ素原子を有する化合物であり、(メタ)アクリル系モノマー等の重合性モノマーと共重合されて、透明度及び酸素透過率が高く、防汚性に優れた、眼に適用するのに好適なポリマーを与える化合物、及びその製法に関する。
【背景技術】
【0002】
眼用モノマーとして、下記のシリコーン化合物が知られている。
【化1】

【化2】
【0003】
上記TRIS(3−[トリス(トリメチルシロキシ)シリル]プロピルメタクリレート)は、2−ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)のような親水性モノマーとの相溶性に劣り、これらの親水性モノマーと共重合した場合、透明ポリマーが得られないという欠点がある。一方、上記SiGMAはHEMAのような親水性モノマーとの相溶性に優れ、その共重合ポリマーは、比較的高酸素透過性で高親水性であるという特徴を有する。しかしながら、近年眼用ポリマーには、長時間の連続装用を可能にすべく、より高い酸素透過性が要求されるようになり、SiGMAから得られるポリマーでは、酸素透過性が不十分だった。
【0004】
この問題を解決すべく、特許文献1には、下記式(a)で表される化合物が記載されている。
【化3】

SiGMAにおいてビス(トリメチルシロキシ)メチルシリル部分をSi部分とし、全体に占めるSi部分の質量割合を求めると52%となる。一方、上記式(a)において、トリス(トリメチルシロキシ)シリル部分をSi部分とし、全体に占めるSi部分の質量割合を求めると60%となる。即ち、上記式(a)の化合物は、Si部分の質量割合が多い。その為、得られる眼科デバイスに高い酸素透過性をもたらすことができる。
【0005】
しかし、酸素透過率を上げるためにSi部分の質量割合を増やすと、重合性基あたりの分子量が大きくなるため共重合ポリマーの強度が低下するという問題があった。また、特許文献2には、上記式(a)で示される化合物はエポキシ前駆体にメタクリル酸を反応させて調製されると記載しているが、該反応は、副反応が多く、得られる共重合ポリマーの物性のブレが大きいという問題もあった。
【0006】
酸素透過性の観点からは4量体シリコーン以上が好ましく、酸素透過性と共重合ポリマーの強度とを両立させるためには4量体シリコーン及び5量体シリコーンが好ましいと考えられている。そのため、4量体以上のシリコーンを有するシリコーンモノマーを高純度で得る方法の開発が要求されている。
【0007】
特許文献3には、3−[トリス(トリメチルシロキシ)シリル]プロピルメタクリルアミド(TRIS−Am)が記載されている。該化合物は、アミド基同士が水素結合をすることにより、モノマーの重合反応性、重合体の機械強度が向上する。しかし、該化合物は、他の(メタ)アクリル系モノマーとの相溶性が悪く、透明度の高い重合物が得られない。また、耐汚染性が十分ではない。
【0008】
特許文献4には、下記式で表されるシリコーン化合物、及び該化合物を重合成分として含むポリマーを用いてなる眼用レンズが記載されている。
【化4】

しかし上記化合物をモノマー成分として得られる重合体は、機械強度が不足することや、重合反応性に劣ることがあった。また、耐汚染性が十分ではない。
【0009】
重合体の酸素透過率を向上するため、あるいは防汚性付与のため、フッ素置換炭化水素基を導入したモノマー化合物が開発されている。例えば特許文献5には、親水性モノマー、トリス(シロキシシリル)基を有するモノマー、及びフッ素置換炭化水素基を有するモノマーを共重合する方法が記載されている。特許文献6、7及び8には、オルガノポリシロキサンのシロキサン側鎖にフッ素置換炭化水素基を導入したモノマーが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2007−186709号公報
【特許文献2】特開2007−1918号公報
【特許文献3】特表平8−501504号公報
【特許文献4】特許第4882136号
【特許文献5】特表2003−516562号公報
【特許文献6】特開平1−308419号公報
【特許文献7】特開平2−304093号公報
【特許文献8】特表2013−507652号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、特許文献5に記載される上記モノマー同士は相溶性が悪く、重合体が白濁したり、ミクロ相分離を生じるという不具合があった。また、特許文献6〜8に記載のモノマーは、フッ素置換炭化水素基が導入されたシロキサン鎖の繰り返し単位数の制御が難しいため、フッ素導入量が分布を持った混合物となる。さらに、フッ素導入量が多くなりすぎるため、モノマー同士の相溶性が悪くなったり、重合体が白濁したり、ミクロ相分離を生じるという不具合がある。
【0012】
そこで本発明は、所定個数のケイ素原子および所定個数のフッ素原子を有する重合性モノマーであって、高純度で、眼用モノマーとして好適であり、併用する(メタ)アクリル系モノマーに対して相溶性が良好である化合物、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、下記式(1)で表される化合物が、他の(メタ)アクリル系モノマーとの相溶性が良好であり、無色透明の重合体を与え、かつ、機械的強度及び防汚性が良好な重合体を与えることを見出し、本発明を成すに至った。
【0014】
即ち、本発明は、下記式(1)で表される化合物、及び該化合物の製造方法を提供する。
【化5】

(式(1)において、Rは炭素数1〜4の一価炭化水素基であり、Rは炭素数1〜4の一価炭化水素基であり、nは2または3であり、Rは炭素数1〜10の二価炭化水素基であり、Rは炭素数1〜8のフッ素置換一価炭化水素基であり、Rは炭素数4〜8の(メタ)アクリルオキシ基置換一価炭化水素基であり、Rは水素原子または炭素数1〜4の一価炭化水素基である)。
【発明の効果】
【0015】
本発明のシリコーン化合物は、高純度であり、併用する他の(メタ)アクリル系モノマーとの相溶性が高い。そのため無色透明な重合体を与える。また、本発明の化合物はスペーサー部分にウレタン結合を有するため、重合体間で水素結合を形成し、重合体の機械的強度を向上する。さらに、本発明の化合物はフッ素置換一価炭化水素基を有するため、防汚性が向上した重合体を与える。また、本発明の方法は、イソシアネート基含有シリコーン化合物と、フッ素置換炭化水素基および(メタ)アクリルオキシ基置換炭化水素基含有アルコール化合物との反応を利用する。該製造方法によれば高純度を有するシリコーン化合物を与えることができる。従って、本発明のシリコーン化合物及び該化合物の製造方法は眼科デバイス製造用として好適である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施例1で製造した化合物のH−NMRチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明のシリコーン化合物は上記式(1)で表され、ウレタン結合を中心とし、一方の側にスペーサー(R)を介して特定のシロキサン構造((RSiO)3−nSi−)を有し、もう一方の側にフッ素置換一価炭化水素基(R)および(メタ)アクリルオキシ基置換一価炭化水素基(R)を有することを特徴する。
【0018】
上記式(1)において、Rは炭素数1〜4の一価炭化水素基である。該一価炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、及びブチル基が挙げられる。好ましくは、Rはメチル基である。
【0019】
上記式(1)において、Rは炭素数1〜4の一価炭化水素基である。例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、及びブチル基が挙げられる。好ましくは、メチル基である。nは2または3である。nが前記下限値未満では酸素透過率が低くなる。
【0020】
は炭素数1〜10の二価炭化水素基である。例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、ヘプチレン基、オクチレン基、ノニレン基、及びデカニレン基が挙げられる。好ましくは、プロピレン基である。
【0021】
は炭素数1〜8のフッ素置換一価炭化水素基である。好ましくは、2,2,3,3,4,4,5,5,5−ノナフルオロペンチル基、2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,7−トリデカフルオロヘプチル基、または4−トリフルオロメチル−2,2,3,3,4,5,5,5−オクタフルオロペンチル基である。
【0022】
は炭素数4〜8の(メタ)アクリルオキシ基置換一価炭化水素基であり、炭素数1〜4の一価炭化水素基の炭素原子に結合する水素原子の一つが(メタ)アクリルオキシ基に置換しているものである。好ましくは、アクリルオキシメチル基、またはメタクリルオキシメチル基である。
【0023】
は水素原子、または炭素数1〜4の一価炭化水素基である。該一価炭化水素基としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、及びブチル基が挙げられる。好ましくは水素原子である。
【0024】
本発明は、後述する方法により、上記式(1)で表され、特定の構造を有する1種類の化合物を高純度で含有する化合物を提供することができる。特定の構造を有する一種とは、即ち、特定の一のR、R、n、R、R、R、及びRを有する1種類の化合物を意味する。高純度とは、化合物の質量全体のうち、特定の一のR、R、n、R、R、R、及びRを有する1種類の化合物が95質量%超、好ましくは99質量%以上を成すことである。本発明において、純度はガスクロマトグラフィー(以下「GC」とする)分析により求められる。詳細な条件は後述する。化合物が上記高純度を有することにより、2−ヒドロキシエチルメタクリレート等の非シリコーン系モノマーと混合したときに、濁りを生じず透明な重合体を得ることができる。純度が95質量%未満、例えば、異なる構造を有する化合物が5質量%超存在すると、本発明の化合物を非シリコーン系モノマーと混合したときに濁りを生じ、透明なポリマーが得られない場合がある。
【0025】
特には、Rがメチル基であり、nが3であり、及びRがプロピレン基である化合物が好ましい。式(1)において、Rがメチル基であり、nが3であり、Rがプロピレン基であり、Rが2,2,3,3,4,4,5,5,5−ノナフルオロペンチル基であり、Rがアクリルオキシメチル基であり、Rが水素原子であるとき、該化合物の分子量は727であり、化合物全体の質量に対するシロキサンの質量割合は約40%である。即ち、該化合物はSi含量が高いため、得られる共重合体は高い酸素透過性を有する。
【0026】
本発明はさらに、上記式(1)で示される化合物の製造方法を提供する。
本発明の製造方法は、下記式(2)で表されるシリコーン化合物と
【化6】

(式中、R、R、n、Rは上述のとおりである)
下記式(3)で表されるアルコール化合物を
【化7】


(式中、R、R、Rは上述のとおりである)
反応させる工程を含む。該反応は、上記式(3)で表されるアルコール化合物の無溶媒下あるいはトルエンまたはヘキサン等の溶液中に、上記式(2)で表されるイソシアネート基含有シリコーン化合物を徐々に添加して、水浴等で冷却しながら0〜50℃の温度で行なうことが好ましい。
【0027】
式(2)のイソシアネート基含有シリコーン化合物の使用量は、式(3)のアルコール化合物1molに対して、1〜3mol、好ましくは、1.05〜2molである。上記下限値未満では式(3)のアルコール化合物が未反応物として残存し、高純度化ができない。また、上記上限値を超えると経済的に不利である。
【0028】
該反応は必要に応じて触媒を使用してもよい。触媒は一般に使用されるイソシアネートの反応触媒でよく、好ましくはスズ化合物、アミン触媒である。スズ触媒としては、スズ(II)のカルボン酸塩化合物が触媒活性の点より好ましく、アミン触媒としては、トリエチルアミンやトリブチルアミン、N−エチルジイソプロピルアミンなどの3級アミンが好ましい。触媒の使用量は式(3)のアルコール化合物100質量部に対して0.001から0.1質量部であり、より好ましくは0.005〜0.05質量部である。上記上限値超では、効果が飽和して非経済的である。上記下限値未満では、触媒効果が不足し、反応速度が低く、生産性が低下する。
【0029】
本発明の方法の好ましい態様は、GC測定で残存アルコール化合物(式(3))の有無をモニタリングし、そのピーク消失を確認した後に、反応物にメタノール、エタノール等のアルコールを投入して、残存する式(2)のイソシアネート化合物のイソシアネートを不活性化させる。有機溶媒、水を加え攪拌した後、静置させて有機層と水層に分離する。上記反応において副反応はほぼ認められない。有機層を数回水洗した後、有機層中の溶剤をストリップすることで、高純度な式(1)のシリコーン化合物が得られる。
【0030】
本発明の化合物は、(メタ)アクリル基など、上記シリコーン化合物と重合する基を有する他の化合物(以下、重合性モノマーという)との相溶性が良好である。そのため、重合性モノマーと共重合することにより無色透明の重合体を与えることができる。特には、耐汚染性を付与するフッ素置換基含有(メタ)アクリル系モノマーに対して相溶性が良好であり、親水性及び耐汚染性に優れる重合体を与えることができる。
【0031】
重合性モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、(ポリ)エチレングリコールジメタクリレート、ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリアルキレングリコールモノアルキルエーテル(メタ)アクリレート、トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2,3―ジヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等のアクリル系モノマー;N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、N−アクリロイルモルホリン、N−メチル(メタ)アクリルアミド等のアクリル酸誘導体;その他の不飽和脂肪族もしくは芳香族化合物、例えばクロトン酸、桂皮酸、ビニル安息香酸;及び(メタ)アクリル基などの重合性基を有するシリコーンモノマーが挙げられる。これらは1種単独でも、2種以上を併用してもよい。
【0032】
本発明の化合物と上記他の重合性モノマーとの共重合は従来公知の方法により行えばよい。例えば、熱重合開始剤や光重合開始剤など既知の重合開始剤を使用して行うことができる。該重合開始剤としては、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスジメチルバレロニトリル、ベンゾイルパーオキサイド、tert−ブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイドなどがあげられる。これら重合開始剤は単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。重合開始剤の配合量は、重合成分の合計100質量部に対して0.001〜2質量部、好ましくは0.01〜1質量部であるのがよい。
【0033】
本発明の化合物を重合成分として含む重合体は、酸素透過性、機械的強度、及び防汚性に優れる。従って、眼科デバイス、例えば、コンタクトレンズ、眼内レンズ、人工角膜を製造するのに好適である。該重合体を用いた眼科デバイスの製造方法は特に制限されるものでなく、従来公知の眼科デバイスの製造方法に従えばよい。例えば、コンタクトレンズ、眼内レンズなどレンズの形状に成形する際には、切削加工法や鋳型(モールド)法などを使用できる。
【実施例】
【0034】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明をより詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。下記実施例において、粘度はキャノンフェンスケ粘度計を用い、比重は浮秤計を用いて測定した。屈折率はデジタル屈折率計RX−5000(アタゴ社製)を用いて測定した。H−NMR分析は、JNM−ECP500(日本電子社製)を用い、測定溶媒として重クロロホルムを使用して実施した。
また、下記において化合物の純度は、以下の条件によるガスクロマトグラフィー(GC)測定により行ったものである。
ガスクロマトグラフィー(GC)測定条件
ガスクロマトグラフ:Agilent社製
検出器:FID、温度300℃
キャピラリーカラム:J&W社 HP−5MS(0.25mm×30m×0.25μm)
昇温プログラム:50℃(5分)→10℃/分→250℃(保持)
注入口温度:250℃
キャリアガス:ヘリウム(1.0ml/分)
スプリット比: 50:1
注入量:1μl
【0035】
[実施例1]
シリコーン化合物1の合成
下記式(4)で示されるアルコール化合物34.8g(0.1mol)、ジオクチルスズオキサイド0.003g(0.01質量%)、アイオノール0.003g、4−メトキシフェノール0.003gを、攪拌機、ジムロート、温度計、滴下ロートを付けた、1リットルフラスコに仕込み、下記式(5)のイソシアネート基含有シリコーン化合物39.8g(0.105mol)を1時間かけて滴下した。内温は20℃から27℃まで上昇した。式(4)のアルコール化合物のピークをGCでモニターしながら40℃で熟成した。4時間後、式(4)のアルコール化合物のピークがGCでの検出限界以下になったことを確認し、反応液にメタノール1.7g(0.0525mol)を加えた。更に、ヘキサン100g、イオン交換水100g加え水洗した。静置分離して水層をカットした後、さらに2回水洗した。有機層から溶媒のヘキサン等を減圧ストリップすることにより、無色透明液体の生成物を58.0g(0.0798mol、収率79.8%)得た。H−NMR分析にて下記式(6)で示されるシリコーン化合物(アクリルモノマー)であることが確認された。該シリコーン化合物のGCによる純度は97.1%であり、粘度185mm/s(25℃)、比重1.147(25℃)、屈折率1.4028であった。該化合物のH−NMRチャートを図1に示す。
【化8】

【化9】

【化10】
【0036】
[実施例2]
シリコーン化合物2の合成
上記式(4)のアルコール化合物34.8g(0.1mol)に替えて下記式(7)のアルコール化合物44.8g(0.1mol)を使用した他は実施例1を繰り返し、無色透明液体の生成物67.0g(0.081mol、収率81%)を得た。H−NMR分析にて下記式(8)で示されるシリコーン化合物(アクリルモノマー)であることが確認された。該シリコーン化合物のGCによる純度は96.6%であり、粘度260mm/s(25℃)、比重1.238(25℃)、屈折率1.423であった。
【化11】

【化12】
【0037】
[実施例3]
シリコーン化合物3の合成
上記式(4)のアルコール化合物34.8g(0.1mol)に替えて下記式(9)のアルコール化合物39.8g(0.1mol)を使用した他は実施例1を繰り返し、無色透明液体の生成物58.3g(0.075mol、収率75%)を得た。H−NMR分析で下記式(10)で示されるシリコーン化合物(アクリルモノマー)であることが確認された。該シリコーン化合物のGCによる純度は96.4%であり、粘度230mm/s(25℃)、比重1.211(25℃)、屈折率1.403であった。
【化13】

【化14】
【0038】
[合成例1]
シリコーン化合物4の調製
特許第4882136号(特許文献4)の実施例1に記載の方法に従い、下記式(11)で示される化合物を合成した。該化合物をシリコーン化合物4とする。
【化15】
【0039】
[合成例2]
シリコーン化合物5の調製
特開平1−308419号公報(特許文献6)の実施例Fに記載の方法に従い、下記式(12)で示される両末端メタクリル基側鎖Rf基含有シロキサンを合成した。該化合物をシリコーン化合物5とする。
【化16】

(Aはメタクリル基であり、Rfはトリフルオロプロピル基であり、m+n=100であり、n=40である)
【0040】
モノマー混合物の調製
[実施例4〜6]
上記実施例1〜3で得た各シリコーン化合物を、下記表1に示した組成に従い他の(メタ)アクリレート化合物と混合して、モノマー混合物1〜3を調製した。該モノマー混合物について後述する評価試験を行った。
【0041】
【表1】
【0042】
[比較例1〜4]
比較例1〜4では、上記シリコーン化合物1〜3に替えて下記表2に記載のシリコーン化合物を使用した。該シリコーン化合物を下記表2に示した組成に従い他の(メタ)アクリレート化合物と混合して、モノマー混合物4〜7を調製した。該モノマー混合物について後述する評価試験を行った。
【0043】
【表2】
【0044】
[評価試験]
(1)他の重合性モノマーとの相溶性
上記で得た各モノマー混合物に、ダロキュア1173(チバ・スペシャリティー・ケミカルズ社製、0.5質量部)を添加し撹拌した。得られた混合物の外観を目視により観察した。シリコーン化合物と他の(メタ)アクリル化合物との相溶性が良好である混合物は無色透明になるが、相溶性が悪い混合物は濁りを生じる。結果を下記表3に示す。
【0045】
(2)フィルム(重合体)の外観
上記で得た各モノマー混合物をアルゴン雰囲気下で脱気した。該混合液を、石英ガラス板2枚をはさんだ鋳型に流し込み、超高圧水銀ランプで1時間照射して厚さ約0.3mmのフィルムを得た。該フィルムの外観を目視観察した。結果を下記表3に示す。
【0046】
(3)フィルム(重合体)の水濡れ性(表面親水性)
上記(2)で製造したフィルムに対して、接触角計CA−D型(協和界面科学株式会社製)を用い、液適法にて水接触角°の測定を行った。結果を下記表3に示す。
【0047】
(4)フィルム(重合体)の耐汚染性
上記(2)で製造したフィルムを37℃リン酸緩衝液(PBS(−))に24時間浸漬した。PBS(一)浸漬前および24時間浸漬した後の各フィルムを、公知の人工脂質液中にて、37℃±2℃にて8時間インキュベートした。その後、PBS(−)にて濯ぎ洗いをし、0.1%スダンブラック−胡麻油溶液に浸漬した。浸漬前後で染色状態に差異が確認されない場合を○、確認された場合を×とした。結果を下記表3に示す。
【0048】
(5)機械的強度
上記(2)に従いフィルムを2枚作製し、その内の1枚の表面水分を拭き取った後に37℃リン酸緩衝液(PBS(一))に24時間浸漬した。PBS(一)浸漬前および24時間浸漬後のフィルム各々を幅2.0mmのダンベル形状にカットし、試験サンプルの上下端を冶具で挟み、一定速度で引張続けた際の破断強度および破断伸度を、破断試験機AGS−50NJ(株式会社島津製作所製)を用いて測定した。PBS(一)に浸漬する前後での破断強度と破断伸度が10%以内の変化の場合は○とし、10%を超える減少が認められる場合は×とした。結果を下記表3に示す。
【0049】
【表3】
【0050】
比較例1〜4にて使用した従来のシリコーン化合物は、他の(メタ)アクリル系モノマー化合物との相溶性が悪く透明な重合体を得られない。また、得られた重合体は水濡れ性(表面親水性)、耐汚染性に劣る。これに対し、本発明のシリコーン化合物は、他の(メタ)アクリル系モノマーとの相溶性が良好であり、無色透明な重合体を提供する。また、フッ素置換基含有(メタ)アクリル系モノマーとも良好に相溶するため、親水性及び耐汚染性に優れる重合体を与える。また、本発明のシリコーン化合物はフッ素置換炭化水素基を有するため、他のフッ素置換基含有(メタ)アクリル系モノマーを重合成分として含まなくても耐汚染性に優れた重合体を与える(実施例5)。さらに、本発明のシリコーン化合物はウレタン結合を有するため、機械的強度に優れた重合体を与える。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明のモノマーは、酸素透過性を有し、無色透明である重合体であって、親水性、耐汚染性、及び機械的強度に優れる重合体を与える。また、本発明の製造方法によれば、特定の構造を有する1種類の化合物を高純度で含有するモノマーを提供することができる。従って、本発明の化合物及び該化合物の製造方法は、コンタクトレンズ材料、眼内レンズ材料、及び人工角膜材料など、眼科デバイスの製造のために有用である。
図1