特許第6105204号(P6105204)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6105204
(24)【登録日】2017年3月10日
(45)【発行日】2017年3月29日
(54)【発明の名称】TEM観察用試料作製方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 1/28 20060101AFI20170316BHJP
   G01N 1/32 20060101ALI20170316BHJP
【FI】
   G01N1/28 F
   G01N1/28 G
   G01N1/32 B
【請求項の数】6
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2012-27691(P2012-27691)
(22)【出願日】2012年2月10日
(65)【公開番号】特開2013-164345(P2013-164345A)
(43)【公開日】2013年8月22日
【審査請求日】2014年11月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】503460323
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテクサイエンス
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100090343
【弁理士】
【氏名又は名称】濱田 百合子
(74)【代理人】
【識別番号】100119552
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 公秀
(74)【代理人】
【識別番号】100138771
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 将明
(74)【代理人】
【識別番号】100154863
【弁理士】
【氏名又は名称】久原 健太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100142837
【弁理士】
【氏名又は名称】内野 則彰
(74)【代理人】
【識別番号】100123685
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 信行
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 秀和
【審査官】 高田 亜希
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−308400(JP,A)
【文献】 特開2009−198412(JP,A)
【文献】 特開2010−230518(JP,A)
【文献】 特開2004−361138(JP,A)
【文献】 特開2000−035391(JP,A)
【文献】 米国特許第06417512(US,B1)
【文献】 特開2012−252004(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 1/28
G01N 1/32
H01J 37/20−37/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
空孔が露出した試料片の断面にデポジションガスを供給し、前記断面の空孔を含む領域に荷電粒子ビームを照射し、前記断面上および前記空孔の内部にデポジション膜を形成するデポジション膜形成工程と、
前記デポジション膜に集束イオンビームを照射し、前記断面上に形成されたデポジション膜のみを除去し、前記空孔の内部に形成されたデポジション膜のみを残すデポジション膜除去工程と、
前記試料片に前記集束イオンビームを照射し、前記試料片を薄膜化する薄膜化工程と、を有するTEM観察用試料作製方法。
【請求項2】
前記試料片は、少なくとも2つの空孔を有し、
前記デポジション膜形成工程は、前記荷電粒子ビームを照射することで前記少なくとも2つの空孔を含む領域に連続する一つのデポジション膜を形成する請求項1に記載のTEM観察用試料作製方法。
【請求項3】
前記薄膜化工程は、前記試料片の前記デポジション膜を形成した側の断面に観察対象を露出させる請求項1または2に記載のTEM観察用試料作製方法。
【請求項4】
前記デポジション膜の膜厚は、前記試料片の厚さよりも小さい請求項1から3のいずれか一つに記載のTEM観察用試料作製方法。
【請求項5】
前記荷電粒子ビームが、電子ビームである請求項1から4のいずれか一つに記載のTEM観察用試料作製方法。
【請求項6】
前記デポジションガスが、カーボン系ガスである請求項1から5のいずれか一つに記載のTEM観察用試料作製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、集束イオンビームを用いてTEM観察用試料を作製するTEM観察用試料作製方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より半導体デバイスの欠陥解析などを目的とし、試料内の微小領域を観察する手法として、TEM観察が知られている。TEM観察では透過電子像を取得するために、試料の準備として、試料を電子線が透過できる厚さに加工し、薄膜試料を作製する必要がある。
【0003】
薄膜試料を作製する手法として、集束イオンビームによる薄膜作製方法が用いられている。この方法では、試料内部の所望の観察領域を含む部分を残すように周辺部分をエッチング加工する。そして、残された部分を電子線が透過できる厚さになるまでエッチング加工し薄膜試料を作製する。これにより、所望の観察領域を含む部分についてピンポイントで薄膜試料作製することができる。
【0004】
近年、観察対象となるデバイス構造や欠陥のサイズが小さくなっている。そのため、TEM観察では観察対象のみを正確に観察するために、膜厚が小さい薄膜試料が必要となる。しかしながら、膜厚を小さくするために薄膜化加工を行うと、薄膜部が歪み湾曲してしまう課題があった。
【0005】
そこで、このような課題と解決する方法として、薄膜化加工の際に発生する湾曲現象を観察像から自動認識し、湾曲が発生した場合に薄膜化加工を中断し、切り込み加工を行って湾曲を修正する装置が開示されている(特許文献1参照)。この方法によれば膜厚の小さいTEM観察用試料であっても、集束イオンビームを用いて作製することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−361138号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記の装置においては、観察対象である薄膜試料内部に凹部や貫通穴などの空孔がある場合、薄膜化加工により空孔が拡がることや、または、空孔とその周辺のエッチングレートの差により段差が生じてしまうカーテン効果が発生することがあった。この影響により正確なTEM観察を行うことができないという課題があった。
【0008】
この発明は、このような事情を考慮してなされたもので、その目的は、空孔がある薄片試料であっても、薄膜化加工を施し、膜厚の小さいTEM観察用試料を作製することができるTEM観察用試料作製方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、この発明は以下の手段を提供している。
本発明に係るTEM観察用試料作製方法は、空孔が露出した試料片の断面にデポジションガスを供給し、前記断面の空孔を含む領域に荷電粒子ビームを照射し、前記断面上および前記空孔の内部にデポジション膜を形成するデポジション膜形成工程と、前記デポジション膜に集束イオンビームを照射し、前記断面上に形成されたデポジション膜のみを除去し、前記空孔の内部に形成されたデポジション膜のみを残すデポジション膜除去工程と、前記試料片に前記集束イオンビームを照射し、前記試料片を薄膜化する薄膜化工程と、を有する。
【0010】
これにより空孔の一部もしくは全部をデポジション膜で埋めることができるので、薄膜化加工中に空孔が拡がることやカーテン効果が発生することを防止できる。
また、デポジション膜を形成してから薄片試料を薄膜化することにより、デポジション膜の張力により薄片試料が湾曲することを防止できる。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係るTEM観察用試料作製方法によれば、空孔を有する薄片試料であっても、薄膜化加工を施し、膜厚の小さいTEM観察用試料を作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明に係る実施形態の荷電粒子ビーム装置の構成図である。
図2】本発明に係る実施形態の薄膜試料作製の説明図である。
図3】本発明に係る実施形態の薄膜試料作製の説明図である。
図4】本発明に係る実施形態の薄膜試料作製の説明図である。
図5】本発明に係る実施形態の薄膜試料作製のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係るTEM観察用試料作製方法の実施形態について説明する。
TEM観察用試料作製方法を実施する荷電粒子ビーム装置について説明する。荷電粒子ビーム装置は、図1に示すように、EB鏡筒1と、FIB鏡筒2と、試料室3を備えている。試料室3内に収容された試料7にEB鏡筒1から電子ビーム8を、FIB鏡筒2からイオンビーム9を照射する。
【0014】
さらに、荷電粒子ビーム装置は荷電粒子検出器として二次電子検出器4と反射電子検出器5を備えている。二次電子検出器4は、電子ビーム8又はイオンビーム9の照射により試料7から発生した二次電子を検出することができる。反射電子検出器5はEB鏡筒1内部に備えられている。反射電子検出器5は、電子ビーム8を試料7に照射した結果、試料7により反射された反射電子を検出することができる。
【0015】
さらに、荷電粒子ビーム装置は試料7を載置する試料台6を備える。試料台6を傾斜させることにより試料7への電子ビーム8およびイオンビーム9の入射角度を変更することができる。試料台6の移動は試料台制御部16により制御される。
【0016】
荷電粒子ビーム装置は、さらに、EB制御部12と、FIB制御部13と、像形成部14と、表示部17を備える。EB制御部12はEB鏡筒1に照射信号を送信し、EB鏡筒1から電子ビーム8を照射させる。FIB制御部13はFIB鏡筒2に照射信号を送信し、FIB鏡筒2からイオンビーム9を照射させる。像形成部14は、EB制御部12の電子ビーム8を走査させる信号と、反射電子検出器5で検出した反射電子の信号とから反射電子像を形成する。表示部17は反射電子像を表示することができる。また、像形成部14は、EB制御部12の電子ビーム8を走査させる信号と、二次電子検出器4で検出した二次電子の信号とからSEM像のデータを形成する。表示部17はSEM像を表示することができる。また、像形成部14は、FIB制御部13のイオンビーム9を走査させる信号と、二次電子検出器4で検出した二次電子の信号とからSIM像のデータを形成する。表示部17はSIM像を表示することができる。
【0017】
荷電粒子ビーム装置は、さらに、ガス銃15を備える。ガス銃15は、試料7に原料ガスを吹き付ける。原料ガスが吹き付けられた試料7に電子ビーム8またはイオンビーム9を照射することで、照射された領域にデポジション膜が形成される。
【0018】
荷電粒子ビーム装置は、さらに、入力部10と、制御部11を備える。オペレータは装置制御に関する条件、例えばイオンビーム9の照射条件、を入力部10に入力する。入力部10は、入力された情報を制御部11に送信する。制御部11は、EB制御部12、FIB制御部13、像形成部14、ガス銃15、試料台制御部16または表示部17に制御信号を送信し、荷電粒子ビーム装置の動作を制御する。
【0019】
次に本実施形態のTEM観察用試料作製方法を説明する。TEM観察用試料作製方法は、図2(a)に示すように試料7の一部をイオンビーム9で加工することで、薄片試料21を作製することができる。図2(b)は薄片試料周辺の拡大図である。イオンビーム9を試料7に照射し、薄片試料21を残すように加工溝22を形成する。さらに、図2(c)に示すように、薄片試料21で支持部23を残すように薄片試料21をイオンビーム9で膜厚が小さくなるように加工し、薄片部24を形成する。薄片部24の断面24aに凹部31と凹部32が露出される。次に薄片部24及び支持部23を試料7から切り出し、試料ホルダに載置するか、もしくは切り出すことなく、薄片部24がTEM観察可能な膜厚になるまで仕上げ加工を実施する。
【0020】
仕上げ加工は、まず図3(a)に示すように凹部31と凹部32を含む断面24a上にデポジション膜形成領域33を設定する。図3(b)は図3(a)の上面図である。そして図5のフローチャートの穴埋め処理S1を実施する。すなわち、ガス銃15から原料ガスであるナフタレンやフェナントレンなどの炭素を主成分とするカーボン系ガスを薄片部24に吹き付けながら、電子ビーム8をデポジション膜形成領域33に照射する。これにより、図3(c)に示すようにデポジション膜34が断面24a上及び凹部31、凹部32を埋めるように形成される。図3(d)は、図3(c)の上面図であり、断面24a上にはデポジション膜34aが、凹部31、凹部32にはデポジション膜34b、34cが形成される。
【0021】
ここで、電子ビーム8を用いてデポジション膜34を形成したが、イオンビーム9を用いて作製することも可能である。しかし、イオンビーム9でデポジション膜8を形成した場合、イオンビーム9のイオン種、例えばガリウムイオンがデポジション膜8内部に注入されてしまうので、TEM観察で観察像にその影が出現してしまうことがあるので、電子ビーム8を用いる方が好ましい。
【0022】
また、原料ガスとしてプラチナやタングステンを含有する有機化合物ガスを用いることも可能である。しかし、カーボンを主成分とするデポジション膜であれば、TEM観察で観察像にその影が出現することはない。よって、カーボンを主成分とする原料ガスの方が好ましい。
【0023】
次にデポジション膜34aを除去する膜除去加工S2を実施する。イオンビーム9を断面24a上のデポジション膜34に照射し、デポジション膜34aを除去する。膜形成領域33の膜厚方向に対し略垂直方向から走査方向が断面24aに平行になるようにイオンビーム9を走査照射する。これにより断面24a上のデポジション膜34aのみを除去することができる。
【0024】
この工程を実施することで、次の薄膜化加工S3の際に薄膜部34がデポジション膜34の張力により湾曲することを防止することができる。仮に膜除去加工S2を断面24a上にデポジション膜34を備えた状態で断面24aの反対側の面からイオンビーム9による薄膜化加工を実施すると、薄片部24の膜厚が小さくなることに従って薄膜部24の強度が弱くなり、デポジション膜34の張力で薄膜部24が湾曲してしまう。そこで、薄片化加工前に断面24a上のデポジション膜34を除去する工程を導入した。また、この工程において、膜形成領域33の膜厚方向に対し略垂直方向から走査方向が断面24aに平行になるようにイオンビーム9を走査照射することで、凹部内部に形成されたデポジション膜34b、34cをエッチング加工することなく残すことができる。
【0025】
次に所望の膜厚になるまでイオンビーム9で薄片部24を薄膜化加工し、薄膜部25を形成する薄膜化加工S3を実施する。図3(e)に示すように薄膜部25は凹部を埋めたデポジション膜34b、34cを有する断面25aを露出することができる。図3(f)は、図3(e)の上面図である。薄膜化加工を施すことにより薄片部24の膜厚が薄膜部25の膜厚よりも小さくなっている。これによりTEM観察に適した膜厚のTEM観察用試料を作製することができる。
【0026】
上記のように凹部を有する薄片試料を薄膜化してTEM観察用試料を作製することについて説明したが、ここで、凹部の代わりに貫通穴を有する薄片試料の薄膜化について説明する。
【0027】
図4(a)は、貫通穴42、43、44と観察対象である欠陥46を有する薄片試料41の説明図である。穴埋め処理S1によりデポジション膜45を形成する。薄片試料41の断面41a上のデポジション膜45aと貫通穴42、43、44のそれぞれの内部に形成されたデポジション膜45a、45b、45c、45dからなる。
【0028】
ここで、デポジション膜45aの膜厚T1は、薄片試料41の膜厚T2よりも小さくなるようにする。膜厚T1が膜厚T2よりも大きいとデポジション膜45aの張力により薄片試料41が湾曲してしまうからである。ところが、デポジション膜45の膜厚T2が大きくならないように穴埋め処理S1を施すと貫通穴42、43、44をデポジション膜45b、45c、45dで完全に埋めることができない。そこで、デポジション膜45を欠陥46に近い断面上に、ここでは断面41a上に、形成する。これにより、観察対象に近い断面に穴埋め処理S1を施すことで、観察対象のある深さまで貫通穴42、43、44を埋めることができる。
【0029】
また、穴埋め処理S1は一つのデポジション膜45で貫通穴42、43、44をまとめて覆うようにデポジション膜を形成する。なぜならば、穴埋め処理S1で貫通穴毎に別々のデポジション膜を形成すると、局所的にデポジション膜の張力がかかるので薄片試料41が湾曲してしまうからである。
【0030】
次に、デポジション膜45の膜厚方向に略垂直な照射方向49からイオンビーム9を照射し、デポジション膜45aを除去する膜除去加工S2を施す。
【0031】
さらに照射方向49からイオンビーム9を照射し、薄膜化加工S3を施す。薄膜化加工S3は欠陥46が断面47aに出現した時点で終了する。電子ビーム8を断面47aに走査照射しSEM観察しながらイオンビーム加工することで、加工終点をSEM観察によりリアルタイムで確認することができる。よって正確に加工の終点を検出することができる。ここで、SEM観察の代わりに反射電子像観察を用いても良い。
【0032】
また、図4(b)に示すように、薄片試料41は膜厚T2よりも小さい膜厚T3の薄膜試料47となっている。貫通穴42、43、44はデポジション膜45b、45c、45dで埋まった範囲内で薄膜化加工S3を実施することができるので、空孔が拡がることやカーテン効果が発生することがない。これにより所望の観察対象を断面に露出させた薄膜試料を作製することができる。
【0033】
また、膜除去加工S2と薄膜化加工S3とでイオンビーム9の入射角度を変更することがないので、迅速に加工を実施することができる。
【符号の説明】
【0034】
1…EB鏡筒
2…FIB鏡筒
3…試料室
4…二次電子検出器
5…反射電子検出器
6…試料台
7…試料
8…電子ビーム
9…イオンビーム
10…入力部
11…制御部
12…EB制御部
13…FIB制御部
14…像形成部
15…ガス銃
16…試料台制御部
17…表示部
21…薄片試料
22…加工溝
23…支持部
24…薄片部
24a…断面
25…薄膜部
25a…断面
31…凹部
32…凹部
33…デポジション膜形成領域
34…デポジション膜
34a、b、c…デポジション膜
41…薄片試料
42、43、44…貫通穴
45…デポジション膜
45a、45b、45c、45d…デポジション膜
46…欠陥
47…薄膜試料
S1…穴埋め加工
S2…膜除去加工
S3…薄膜化加工
T1、T2、T3…膜厚
図1
図2
図3
図4
図5