特許第6105945号(P6105945)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6105945含窒素デンドリマー化合物のミセルの水性分散液の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6105945
(24)【登録日】2017年3月10日
(45)【発行日】2017年3月29日
(54)【発明の名称】含窒素デンドリマー化合物のミセルの水性分散液の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 79/02 20060101AFI20170316BHJP
   C08K 5/19 20060101ALI20170316BHJP
   C08G 73/02 20060101ALI20170316BHJP
   C08J 3/07 20060101ALI20170316BHJP
【FI】
   C08L79/02
   C08K5/19
   C08G73/02
   C08J3/07CEZ
【請求項の数】1
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-7898(P2013-7898)
(22)【出願日】2013年1月18日
(65)【公開番号】特開2014-136793(P2014-136793A)
(43)【公開日】2014年7月28日
【審査請求日】2015年12月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000220239
【氏名又は名称】東京応化工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(72)【発明者】
【氏名】平野 勲
(72)【発明者】
【氏名】今岡 享稔
(72)【発明者】
【氏名】山元 公寿
【審査官】 内田 靖恵
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−222628(JP,A)
【文献】 特開2014−136794(JP,A)
【文献】 特開2006−070100(JP,A)
【文献】 特開2006−076965(JP,A)
【文献】 特開2013−010683(JP,A)
【文献】 特開2013−034939(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 73/02
C08L 79/02
C08J 3/07
C08K 5/19
C07C 249/02
C07C 251/24
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属元素が配位することのできる窒素原子を少なくとも1つ有する含窒素デンドリマー化合物を、水と混和性の低い溶媒に溶解させて含窒素デンドリマー化合物の有機溶媒溶液を調製するデンドリマー溶液調製工程と、
前記有機溶媒溶液と、5.0×10−4〜2.0×10−2mol/Lの濃度の界面活性剤を含有する水性緩衝液とを混合する混合工程と、
前記有機溶媒溶液と前記水性緩衝液との混合液から有機溶媒を除去する有機溶媒除去工程とを含み、
前記含窒素デンドリマー化合物が、下記一般式(1)で表されるフェニルアゾメチンデンドリマー化合物であり、
前記界面活性剤が、下記一般式(2)で表される化合物である、含窒素デンドリマー化合物のミセルの水性分散液の製造方法。
【化1】
(上記一般式(1)中のAは、フェニルアゾメチンデンドリマーの中核分子基であり、次式
【化2】
の構造で表され、Rは、置換基を有してもよい芳香族基を表し、pは、Rへの結合数を表し;
上記一般式(1)中のBは、前記Aに対して1個のアゾメチン結合を形成する次式
【化3】
の構造で表され、Rは、同一又は異なって置換基を有してもよい芳香族基を表し;
上記一般式(1)中のRは、末端基として前記Bにアゾメチン結合を形成する次式
【化4】
の構造で表され、Rは、同一又は異なって置換基を有してもよい芳香族基を表し;
nは、フェニルアゾメチンデンドリマーの前記Bの構造を介しての世代数を表し;
mは、フェニルアゾメチンデンドリマーの末端基Rの数を表し、n=0のときはm=pであり、n≧1のときはm=2pである。)
Y−O−(CH−Qr+・rX・・・(2)
(上記一般式(2)中、Yは置換基を有してもよいフェニル基又は置換基を有してもよいナフチル基であり、qは10〜14の整数であり、rは1又は2であり、Qr+は、下記一般式(I):
【化5】
又は下記一般式(II)
【化6】
で表される基であり、R、R、及びRは、それぞれ、炭素数1〜3のアルキル基であり、R、R、R、R10、及びR11は、それぞれ、炭素数1又は2のアルキル基であり、Xはハロゲン原子である。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含窒素デンドリマー化合物のミセルの水性分散液の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
デンドリマー化合物は樹状構造を持つ大型の化合物であり、その設計に応じて種々の特性を持った化合物が得られることが知られている。デンドリマー化合物の中でも、アゾメチン基のような含窒素基を含む含窒素デンドリマー化合物は、窒素原子に金属を配位させて、金属や金属化合物を、分子の内部に取り込むことが可能であるため、触媒材料、電子材料、発光材料等への応用が期待されている。
【0003】
このように、含窒素デンドリマー化合物は、種々の用途へ応用が期待されているが、含窒素デンドリマー化合物は疎水性化合物であるため、その利用範囲は、非水系用途に限られている。このため、含窒素デンドリマー化合物を水に対して可溶化する方法について検討されている。
【0004】
含窒素デンドリマー化合物を水に対して可溶化する方法としては、例えば、ポルフィリン骨格を有する含窒素デンドリマー化合物を、界面活性剤とともにクロロホルムのような疎水性有機溶媒に溶解させた後、含窒素デンドリマー化合物の有機溶媒溶液と、水性緩衝液とを混合し、次いで、有機溶媒溶液と水性緩衝液との混合液から有機溶媒を除去する方法が知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−222628号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般に含窒素デンドリマー化合物は、複雑な合成工程を経て得られる高価な化合物である。このため、できるだけ効率よく含窒素デンドリマー化合物を使用するため、含窒素デンドリマー化合物の水に対する可溶化は、高効率であることが求められる。しかし、特許文献1の実施例に記載の方法では、含窒素デンドリマー化合物の水に対する可溶化率は高くても60%に過ぎず、多量の含窒素デンドリマー化合物が利用されていない。
【0007】
本発明は、上記の課題を鑑みてなされたものであり、含窒素デンドリマー化合物を、高効率で水に対して可溶化させることができる、含窒素デンドリマー化合物のミセルの水性分散液の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、含窒素デンドリマー化合物を水と混和性が低い溶媒に溶解させて得られる含窒素デンドリマー化合物の有機溶媒溶液と、所定の濃度の界面活性剤を含有する水性緩衝液とを混合した後に、得られる混合液から有機溶媒を除去することによって、含窒素デンドリマー化合物が水に対して高効率で可溶化された、含窒素デンドリマー化合物のミセルの水性分散液を製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明の態様は、金属元素が配位することのできる窒素原子を少なくとも1つ有する含窒素デンドリマー化合物を、水と混和性が低い溶媒に溶解させて含窒素デンドリマー化合物の有機溶媒溶液を調製するデンドリマー溶液調製工程と、
前記有機溶媒溶液と、5.0×10−4〜2.0×10−2mol/Lの濃度の界面活性剤を含有する水性緩衝液とを混合する混合工程と、
前記有機溶媒溶液と前記水性緩衝液との混合液から有機溶媒を除去する有機溶媒除去工程とを含む、含窒素デンドリマー化合物のミセルの水性分散液の製造方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、含窒素デンドリマー化合物を、高効率で水に対して可溶化させることができる、含窒素デンドリマー化合物のミセルの水性分散液の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
≪含窒素デンドリマー化合物のミセルの水性分散液の製造方法≫
本発明の、含窒素デンドリマー化合物のミセルの水性分散液の製造方法は、デンドリマー溶液調製工程と、混合工程と、有機溶媒除去工程とを含む。以下、デンドリマー溶液調製工程、混合工程、及び有機溶媒除去工程について順に説明する。
【0012】
<デンドリマー溶液調製工程>
デンドリマー溶液調製工程では、金属元素が配位することのできる窒素原子を少なくとも1つ有する含窒素デンドリマー化合物を、水と混和性が低い溶媒に溶解させて、含窒素デンドリマー化合物の有機溶媒溶液を調製する。以下、含窒素デンドリマー化合物、有機溶媒、及び含窒素デンドリマー化合物の有機溶媒溶液の調製方法について順に説明する。
【0013】
〔含窒素デンドリマー化合物〕
含窒素デンドリマー化合物は、金属元素が配位することのできる窒素原子を少なくとも1つ有するものであれば特に限定されない。金属元素が配位することのできる窒素原子としては、アゾメチン結合(−CH=N−)中の窒素原子が挙げられる。アゾメチン結合を含む含窒素デンドリマー化合物の好適な例としては、下記一般式(1)で表されるフェニルアゾメチンデンドリマー化合物が挙げられる。
【0014】
【化1】
【0015】
上記一般式(1)中のAは、フェニルアゾメチンデンドリマーの中核分子基であり、フェニルアゾメチンデンドリマー分子は、この中核分子基を中心として、外側に向かって上記一般式(1)中のBで表される単位の連鎖を成長させる。その結果、成長後のフェニルアゾメチンデンドリマー分子は、上記Aを中心として、上記Bが連鎖して放射状に成長した構造を有する。Bが連鎖する回数を「世代」と呼び、中核分子基Aに隣接する世代を第1世代として、外側に向かって世代数が増加していく。上記一般式(1)中のAは、次式
【化2】
の構造で表され、Rは、置換基を有してもよい芳香族基を表し、pは、Rへの結合数を表す。
【0016】
上記一般式(1)中のBは、上記Aに対して1個のアゾメチン結合を形成させる次式
【化3】
の構造で表され、Rは、同一又は異なって置換基を有してもよい芳香族基を表す。このBは、フェニルアゾメチンデンドリマーの世代を構成し、中核分子基Aに直接結合するBが第1世代となる。
【0017】
上記一般式(1)中のRは、末端基として上記Bにアゾメチン結合を形成する次式
【化4】
の構造で表され、Rは、同一又は異なって置換基を有してもよい芳香族基を表す。Rは、フェニルアゾメチンデンドリマー分子の放射状に伸びた構造の末端に位置することになる。
【0018】
上記一般式(1)において、nは、フェニルアゾメチンデンドリマーの上記Bの構造を介しての世代数を表し、mは、フェニルアゾメチンデンドリマーの末端基Rの数を表し、n=0のときはm=pであり、n≧1のときはm=2pである。
【0019】
置換基を有してもよい芳香族基であるR、R及びRは、それぞれ独立に、その骨格構造として、フェニル基又はその類縁の構造であってよく、例えば、フェニル基、ビフェニル基、ビフェニルアルキレン基、ビフェニルオキシ基、ビフェニルカルボニル基、フェニルアルキル基等の各種のものが挙げられる。これらの骨格は、置換基として、塩素原子、臭素原子、フッ素原子等のハロゲン原子、メチル基、エチル基等のアルキル基、クロロメチル基、トリフルオロメチル基等のハロアルキル基、メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基、メトキシエチル基等のアルコキシアルキル基、アルキルチオ基、カルボニル基、シアノ基、アミノ基、ニトロ基等の各種の置換基が例示される。上記骨格は、これらの置換基を、任意に1又は複数有することができる。
【0020】
上記置換基の中でも、メトキシ基、アミノ基のような電子供与性の高い置換基、又はシアノ基、カルボニル基のような電子受容性の高い置換基が好ましい。
【0021】
上記式R(−N=)で表される中核部分において、pとしては、特に限定されないが、例えば1〜4の整数が挙げられる。また、フェニルアゾメチンデンドリマーの世代数nは、0又は1以上の整数であるが、例えば2〜6であることが好ましく例示される。
【0022】
このようなフェニルアゾメチンデンドリマー化合物の一形態として、下記式で表される化合物を挙げることができる。下記式で表される化合物は、世代数が4のフェニルアゾメチンデンドリマー化合物である。
【化5】
【0023】
上記式で表されるフェニルアゾメチンデンドリマー化合物と、金属塩とが混合されると、金属元素が、フェニルアゾメチンデンドリマー化合物の窒素元素に配位し、フェニルアゾメチンデンドリマー化合物の内部に取り込まれる。このとき、金属元素は、フェニルアゾメチンデンドリマー化合物の中心部側の窒素原子に優先的に配位するので、中心部側に存在する窒素原子から外側に存在する窒素原子の順に配位する。そのため、フェニルアゾメチンデンドリマー化合物と金属元素とのモル比を制御することにより、フェニルアゾメチンデンドリマー化合物の所望の位置に金属元素を配置できる。
【0024】
例えば、上記式で表されるフェニルアゾメチンデンドリマー化合物に、金属元素を2等量添加した例と、金属元素を6等量添加した例を下記式で表す。なお、下記式では、フェニルアゾメチンデンドリマー化合物に配位した金属元素を黒丸で示した。
【0025】
【化6】
【0026】
上記のように、フェニルアゾメチンデンドリマー化合物において金属元素が配位することのできる箇所は特定の箇所に限定されるので、フェニルアゾメチンデンドリマー化合物に配位した金属元素は、ナノレベルとなる所定のピッチで配置されることになる。このため、金属元素を配位させたフェニルアゾメチンデンドリマー化合物を触媒として使用することにより、触媒活性を有する金属元素が、凝集することなく高効率で利用されることが期待される。また、フェニルアゾメチンデンドリマー化合物の世代数を増減させることにより、1つのフェニルアゾメチンデンドリマー化合物に配位させることのできる金属元素の上限数を任意に変化させることができる。
【0027】
上記のフェニルアゾメチンデンドリマーを合成するには、公知の方法を使用することができる。このような方法として、例えば、ベンゾフェノンとジアミノベンゾフェノンとを、クロロベンゼン溶媒中において、塩化チタン及び塩基の存在下で反応させ、さらに、順次ジアミノベンゾフェノンと反応させて世代数を増加させる方法が挙げられるが、特に限定されない。
【0028】
含窒素デンドリマー化合物に配位させる金属元素は、特に限定されない。このような金属元素は、例えば、触媒としての使用のような、金属元素の使用目的に応じて適宜選択される。含窒素デンドリマー化合物に配位させる金属元素の典型例としては、チタン、バナジウム、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ガリウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、インジウム、錫、アンチモン、ハフニウム、タンタル、タングステン、オスミウム、イリジウム、白金、金、及びビスマス等が挙げられる。
【0029】
〔有機溶媒〕
含窒素デンドリマー化合物を溶解させる有機溶媒は、所望する量の含窒素デンドリマー化合物を溶解させることができ、水と混和性が低い溶媒であれば特に限定されない。水と混和性が低い溶媒は、水に全く溶解しないものには限定されず、水にある程度溶解するものであってもよい。水と混和性が低い溶媒が水にある程度溶解するものである場合、水と混和性が低い溶媒は、水と混和性が低い溶媒と水とを混合する場合に、水相と有機溶媒相とからなる2相系を形成できるものであればよい。水と混和性が低い溶媒は、20℃における水への溶解性が、1.0g/100mL以下であるのが好ましく、0.9g/100mL以下であるのがより好ましい。
【0030】
有機溶媒は、後述する有機溶媒除去工程で、加熱により、有機溶媒溶液と、水性緩衝液との混合液から、有機溶媒を除去しやすいことから、沸点が水より低いか、水と共沸する有機溶媒が好ましい。このような有機溶媒の中では、沸点が85℃以下の有機溶媒が好ましく、沸点が75℃以下の有機溶媒がより好ましい。また、有機溶媒の比重は、1.2以上が好ましく、1.4以上がより好ましい。なお、有機溶媒の比重は、水の密度を1とした場合のものである。このような沸点、及び比重の有機溶媒を用いることにより、後述する有機溶媒除去工程における有機溶媒の除去が容易となる。水と混和性の低い有機溶媒の具体例としては、クロロホルム、ジクロロエタン、及び四塩化炭素が挙げられ、クロロホルムが好ましい。
【0031】
〔含窒素デンドリマー化合物の有機溶媒溶液の調製方法〕
含窒素デンドリマー化合物の有機溶媒溶液を調製する方法は、有機溶媒中に所定量の含窒素デンドリマー化合物を溶解させることができれば特に限定されない。通常、有機溶媒と、所定量の含窒素デンドリマー化合物とを混合した後に、撹拌して、含窒素デンドリマー化合物を有機溶媒中に溶解させて、含窒素デンドリマー化合物の有機溶媒溶液が得られる。含窒素デンドリマー化合物を有機溶媒に溶解させる際には、必要に応じて、有機溶媒を加熱してもよい。また、含窒素デンドリマーの溶解残分や、不溶性の不純物を除去する目的で、含窒素デンドリマー化合物の有機溶媒溶液を、所望の開口径のフィルターでろ過してもよい。
【0032】
含窒素デンドリマー化合物の有機溶媒溶液中の、含窒素デンドリマー化合物の含有量は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されないが、1〜20μmol/Lが好ましく、2.5〜10μmol/Lがより好ましく、5〜7.5μmol/Lが特に好ましい。
【0033】
<混合工程>
混合工程では、デンドリマー溶液調製工程で得られる有機溶媒溶液と、5.0×10−4〜2.0×10−2mol/Lの濃度の界面活性剤を含有する水性緩衝液と、を混合する。デンドリマー溶液調製工程では、水と混和性が低い溶媒が使用されるため、混合工程で得られる、有機溶媒溶液と、水性緩衝液とを含む混合液は、有機溶媒相と水相とからなる2相系を形成する。
【0034】
有機溶媒溶液と水性緩衝液との混合比率は、所望する含窒素デンドリマー化合物のミセルの水性分散液を良好に形成できる限り特に限定されない。典型的には、有機溶媒溶液と水性緩衝液との混合比率は、体積比率(有機溶媒溶液/水性緩衝液)で、0.2/0.8〜0.8/0.2が好ましく、0.4/0.6〜0.6/0.4がより好ましい。以下、水性緩衝液に含まれる、界面活性剤と、緩衝剤とについて説明する。
【0035】
〔界面活性剤〕
水性緩衝液に含まれる界面活性剤は、含窒素デンドリマー化合物のミセルの水性分散液を良好に形成できる限り特に限定されず、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、及びノニオン性界面活性剤の何れも使用することができる。界面活性剤の中では、カチオン性界面活性剤を用いるのが好ましい。
【0036】
このような界面活性剤の中では、含窒素デンドリマー化合物を、高効率で含窒素デンドリマー化合物のミセルの水性分散液に取り込ませやすいことから、下記一般式(2)で表される化合物が好ましい。
Y−O−(CH−Qr+・rX・・・(2)
(一般式(2)中、Yは置換基を有してもよいフェニル基又は置換基を有してもよいナフチル基であり、qは10〜14の整数であり、rは1又は2であり、Qr+は、下記一般式(I):
【化7】
又は下記一般式(II)
【化8】
で表される基であり、R、R、及びRは、それぞれ、炭素数1〜3のアルキル基であり、R、R、R、R10、及びR11は、それぞれ、炭素数1又は2のアルキル基であり、Xはハロゲン原子である。)
【0037】
上記一般式(2)で表される化合物は、例えば、下記一般式(III)
Y−OH・・・(III)
(一般式(III)中、Yは、一般式(2)と同意である。)
で表されるヒドロキシアリール化合物と、下記一般式(IV)
X−(CH−X・・・(IV)
(一般式(IV)中、qは一般式(2)と同意であり、Xはハロゲン原子である。)
で表されるアルキルジハライドとを、塩基の存在下に反応させて、下記一般式(V)
Y−O−(CH−X・・・(V)
(一般式(V)中、Y及びqは一般式(2)と同意であり、Xはハロゲン原子である。)
で表されるアリールオキシアルキルハライドを合成した後、一般式(V)で表されるアリールオキシアルキルハライドを、上記一般式(I)及び(II)で表される4級アミノ基を与える3級アミン化合物と反応させることにより製造することができる。
【0038】
一般式(2)で表される化合物において、Yは置換基を有してもよいフェニル基、又は置換基を有してもよいナフチル基である。Yが有してもよい置換基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、及びイソプロピル基等の炭素数1〜4のアルキル基;ビニル基、1−プロペニル基、及びアリル基等の炭素数2〜4のアルケニル基;エチニル基、1−プロピニル基、及び2−プロピニル基等の炭素数2〜4のアルキニル基;メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、及びイソプロポキシ基等の炭素数1〜4のアルコキシ基;フッ素原子、塩素原子、臭素原子、及びヨウ素原子等のハロゲン原子;アミノ基;ニトロ基が挙げられる。一般式(2)で表される化合物において、Yは無置換のフェニル基又はナフタレン−2−イル基が好ましい。
【0039】
一般式(2)で表される化合物において、−(CH−で表されるアルキレン基の具体例としては、デカン−1,10−ジイル基、ウンデカン−1,11−ジイル基、ドデカン−1,12−ジイル基、トリデカン−1,13−ジイル基、及びテトラデカン−1,14−ジイル基が挙げられる。
【0040】
一般式(I)における、R、R、及びRの具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、及びイソプロピル基が挙げられる。一般式(I)で表される基としては、R、R、及びRの何れもが、エチル基である基が好ましい。
【0041】
一般式(II)における、R、R、R、R10、及びR11の具体例としては、メチル基、及びエチル基が挙げられる。
【0042】
一般式(2)、一般式(IV)、及び一般式(V)におけるハロゲン原子であるXの具体例としては、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。
【0043】
水性緩衝液中の界面活性剤の濃度は、5.0×10−4〜2.0×10−2mol/Lである。
【0044】
〔緩衝剤〕
水性緩衝液に含まれる緩衝剤は、特に限定されず、従来から種々の用途で使用されている緩衝液に含まれる緩衝剤を用いることができる。緩衝剤としては、リン酸のナトリウム塩やカリウム塩のような含金属の緩衝剤、及び金属不含の緩衝剤の何れも使用することができる。含窒素デンドリマー化合物のミセルの水性分散液を塗布して使用する場合に金属塩が析出しないことや、得られる含窒素デンドリマー化合物のミセルの水性分散液を動物、植物等の生物に由来する生体材料の処理に応用しやすいことから、金属不含の緩衝剤が好ましい。
【0045】
金属不含の緩衝剤の具体例としては、Tris(トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン)、HEPES(4−(2−ヒドロキシエチル)−1−ピペラジンエタンスルホン酸)、ACES(N−2−(アセトアミド)−2−アミノエタンスルホン酸)、MES(2−モルホリノエタンスルホン酸)、ADA(N−(2−アセトアミド)イミノジ酢酸)、PIPES(ピペラジン−1,4−ビス(2−エタンスルホン酸))、コラミン塩酸(N,N,N−トリメチル−2−アミノエタンアミニウムクロリド)、BES(N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−2−アミノエタンスルホン酸)、TES(N−トリス(ヒドロキシメチル)メチル−2−アミノエタンスルホン酸)、アセトアミドグリシン、トリシン(N−[トリス(ヒドロキシメチル)メチル]グリシン)、グリシンアミド、及びビシン(2−ビス(2−ヒドロキシエチル)アミノ酢酸)、TMAH(テトラメチルアミンヒドロキサイド)、及び塩酸が挙げられる。
【0046】
水性緩衝液中の緩衝剤の濃度は、特に限定されず、水性緩衝液が所望するpHとなるように、緩衝剤の種類に応じて適宜選択される。典型的には、水性緩衝液のpHは6.6〜8.5が好ましい。
【0047】
<有機溶媒除去工程>
有機溶媒除去工程では、混合工程で得られる含窒素デンドリマー化合物の有機溶媒溶液と、水性緩衝液と、の混合液から有機溶媒を除去する。混合液から有機溶媒を除去することにより、混合液中の有機溶媒量の減少とともに、含窒素デンドリマー化合物が有機溶媒溶液から、水性緩衝液に移行する。含窒素デンドリマー化合物が水性緩衝液に移行すると、水性緩衝液は界面活性剤を含有するため、含窒素デンドリマーの表面に界面活性剤が集まり、含窒素デンドリマー化合物を中心とするミセルが形成される。
【0048】
有機溶媒除去工程において、混合液から有機溶媒を除去する方法は特に限定されない。混合液から有機溶媒を除去する好適な方法としては、有機溶媒の沸点、又は有機溶媒と水との共沸点以上に混合液を加熱し、混合液から有機溶媒を留去する方法が挙げられる。混合液を加熱して有機溶媒を留去する場合、加熱温度を下げる目的等で、減圧下で混合液を加熱してもよい。
【0049】
有機溶媒と水とが共沸する場合、有機溶媒と水との混合蒸気が留出するラインに、凝縮液を分液可能なコンデンサーを取り付け、凝縮液から分離される水相を混合液に戻しながら有機溶媒の除去を行ってもよい。また、有機溶媒と水とが共沸する場合、有機溶媒とともに留出する水と概ね同等の量の水を混合液に加えながら、有機溶媒の除去を行ってもよい。有機溶媒と水とが共沸する場合、前述のように、混合液に水を加えながら有機溶媒を除去することによって、得られる含窒素デンドリマー化合物のミセルの水性分散液の濃度が過度に高くなることを防ぐことができる。
【0050】
混合液中に有機溶媒が残存する状態で、有機溶媒の除去を停止することもできるが、含窒素デンドリマー化合物の有効利用の観点から、混合液から有機溶媒を、98質量%以上除去するのが好ましく、99質量%以上除去するのがより好ましく、100質量%除去するのが最も好ましい。有機溶媒除去工程後に、混合液に有機溶媒が残存している場合、分液等の方法により、混合液から有機溶媒相を除去すればよい。
【0051】
混合液から有機溶媒を除去して得られる、含窒素デンドリマー化合物のミセルの水性分散液は、必要に応じて、加水、又は濃縮され、含窒素デンドリマー化合物のミセルの濃度を調整されてもよい。
【0052】
以上説明した本発明の方法によれば、含窒素デンドリマー化合物を、高効率で水に対して可溶化させて、含窒素デンドリマー化合物のミセルの水性分散液を製造することができる。本発明の方法により製造される、含窒素デンドリマー化合物のミセルの水性分散液は、触媒材料、電子材料、発光材料等の種々の用途に適用され得る。
【実施例】
【0053】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0054】
実施例1及び2では、フェニルアゾメチンデンドリマー化合物として、下式で表される化合物(DPAG4er)を用いた。
【化9】
【0055】
[実施例1]
DPAG4erをクロロホルム1mlに溶解させて、DPAG4erの濃度が5μMであるDPAG4erのクロロホルム溶液を得た。得られたクロロホルム溶液に、下式
【化10】
で表される界面活性剤(BMN)を5.0mM濃度で含み、pH6.86であるリン酸塩緩衝液1mlを加えた。クロロホルム溶液と、緩衝液との混合液から、150mmHg、25℃の条件でクロロホルムをゆっくり除去して、DPAG4erのミセルの水性分散液を得た。得られた水性分散液を移した後の容器に再度クロロホルムを加えて、デンドリマーによる着色を観察したところ、着色は観察されなかった。
【0056】
[実施例2]
緩衝液に含まれる緩衝剤を、リン酸塩からTris、ACES、又はHEPESに変えることの他は、実施例1と同様にして、DPAG4erのミセルの水性分散液を調製した。実施例1と同様にして得られた水性分散液を移した後の容器に再度クロロホルムを加えて、デンドリマーによる着色を観察したところ、着色は観察されなかった。
【0057】
[比較例1]
下式
【化11】
で表される含窒素デンドリマー化合物と、界面活性剤(BMN)とをクロロホルム1mlに溶解させて、含窒素デンドリマー化合物の濃度が5μMであり、界面活性剤の濃度が10mMである含窒素デンドリマー化合物のクロロホルム溶液を得た。得られたクロロホルム溶液に、pH6.86のリン酸塩緩衝液2mlを加えた。クロロホルム溶液と、緩衝液との混合液から、実施例1と同様にしてクロロホルムを除去して、含窒素デンドリマー化合物のミセルの水性分散液を得た。得られた水性分散液の吸光度を測定して、含窒素デンドリマー化合物の可溶化率を求めたところ54%であった。
また、実施例1と同様にして得られた水性分散液を移した後の容器に再度クロロホルムを加えて、デンドリマーによる着色を観察したところ、黄色の着色が観察された。
【0058】
実施例1及び2によれば、水性分散液を水性分散液の調製に用いた容器から他の容器に移した後に、水性分散液の調製に用いた容器中に含窒素デンドリマーが殆ど残存していないことから、含窒素デンドリマー化合物が水に対して良好に可溶化していることが分かる。他方、比較例1では、水性分散液を水性分散液の調製に用いた容器から他の容器に移した後に、水性分散液の調製に用いた容器中に含窒素デンドリマーが残存しており、含窒素デンドリマーの水に対する可溶化率が低い。