特許第6106338号(P6106338)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 独立行政法人産業技術総合研究所の特許一覧 ▶ 株式会社アツデンの特許一覧

<>
  • 特許6106338-超音波流量計 図000002
  • 特許6106338-超音波流量計 図000003
  • 特許6106338-超音波流量計 図000004
  • 特許6106338-超音波流量計 図000005
  • 特許6106338-超音波流量計 図000006
  • 特許6106338-超音波流量計 図000007
  • 特許6106338-超音波流量計 図000008
  • 特許6106338-超音波流量計 図000009
  • 特許6106338-超音波流量計 図000010
  • 特許6106338-超音波流量計 図000011
  • 特許6106338-超音波流量計 図000012
  • 特許6106338-超音波流量計 図000013
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6106338
(24)【登録日】2017年3月10日
(45)【発行日】2017年3月29日
(54)【発明の名称】超音波流量計
(51)【国際特許分類】
   G01F 1/66 20060101AFI20170316BHJP
【FI】
   G01F1/66 A
【請求項の数】8
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-523542(P2016-523542)
(86)(22)【出願日】2015年5月27日
(86)【国際出願番号】JP2015065291
(87)【国際公開番号】WO2015182673
(87)【国際公開日】20151203
【審査請求日】2016年12月9日
(31)【優先権主張番号】特願2014-110453(P2014-110453)
(32)【優先日】2014年5月28日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】305000482
【氏名又は名称】株式会社アツデン
(74)【代理人】
【識別番号】110000408
【氏名又は名称】特許業務法人高橋・林アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 治道
(72)【発明者】
【氏名】明渡 純
(72)【発明者】
【氏名】村上 英一
【審査官】 森 雅之
(56)【参考文献】
【文献】 特許第4878653(JP,B2)
【文献】 特許第5142350(JP,B2)
【文献】 特許第4940384(JP,B2)
【文献】 特許第4991972(JP,B2)
【文献】 特表2014−509733(JP,A)
【文献】 特許第4875780(JP,B2)
【文献】 特許第5201525(JP,B2)
【文献】 特許第5582480(JP,B2)
【文献】 特許第5655194(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01F1/66
本件特許出願に対応する国際特許出願PCT/JP2015/065291の調査報告が利用された。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体を流す管体の外側で送信側及び受信側に距離を隔ててそれぞれ2以上配設された超音波振動子を備え、
前記送信側に配設された2以上の超音波振動子を前記管体に実質的に同じ圧力で押圧するように駆動させ、超音波の振幅を大きくしたことを特徴とする超音波流量計。
【請求項2】
前記超音波振動子を前記管体の径以上の波長になる周波数で駆動させて、ガイド波を励起することを特徴とする請求項1記載の超音波流量計。
【請求項3】
前記管体と前記超音波振動子との間に計測に適した超音波信号に変換する整合部材を設け、かつ前記整合部材は前記管体との接触面に曲面又は溝を設けることを特徴とする請求項1記載の超音波流量計。
【請求項4】
前記管体に軸対称に配設された前記超音波振動子を同相にして駆動してなることを特徴とする請求項1記載の超音波流量計。
【請求項5】
前記超音波振動子は、円筒状、角柱状、柱状、板状、平板状から選択された1つであることを特徴とする請求項1に記載の超音波流量計。
【請求項6】
曲線もしくはテーパ形状の外面形状を有する収納体を備えることを特徴とする請求項1に記載の超音波流量計。
【請求項7】
前記収納体は、前記超音波振動子を所定の距離に保持し、前記管体に着脱可能に設けられることを特徴とすることを特徴とする請求項6に記載の超音波流量計。
【請求項8】
前記収納体は、前記管体を流れる流体を観察するための開口を備えることを特徴とする請求項6に記載の超音波流量計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波振動子を備える超音波流量計に関する。
【背景技術】
【0002】
図1は、従来の送受信子にリング状に形成した超音波振動子1a及び1bを用いて管体2に所定の間隔を設けた超音波流量計の概略図である。超音波流量計は、超音波振動子をリング形状にして、送受信各1個の合計2個使用している。この構造では超音波信号レベルが弱く測定が困難であった。流体を流す管体に超音波振動子を直接つけると、超音波信号が長いことによる残響があり、次の送受信の超音波信号に影響を及ぼし、安定した測定ができない。
【0003】
上述した超音波流量計は、管体径に合わせて送受信の超音波振動子を作製しなければならない。また、超音波振動子の取り付け時に管体を切る必要がある。超音波流量計は一般的に配管と配管の間に設置する構造を備えるものが多く、既存の配管に超音波流量計を後から設備する場合、超音波流量計を設置するために配管を切り離すなどの作業が必要となるため、既存の配管に後から超音波流量計を設置するのは困難である。
【0004】
配管を切り離すことなく設置する方法として、リング状超音波振動子を2つ割にした半円環状超音波振動子を設置する方法があるが、半円環状超音波振動子の材料にはセラミックが使用されているため、管体に密着するように精密に製造するのは非常に難しく、またコストが高いので非現実的であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−122923号公報
【特許文献2】特開2007−298275号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、上述した問題点を勘案してなされたもので、励起信号の振幅増大と受信感度の向上を可能にする超音波流量計を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る超音波流量計は、流体を流す管体の外側で送信側及び受信側に距離を隔ててそれぞれ2以上配設された超音波振動子を備え、送信側に配設された2以上の超音波振動子を管体に実質的に同じ圧力で押圧するように駆動させ、超音波の振幅を大きくしたことを特徴とする。
【0008】
本発明に係る超音波流量計は、超音波振動子を管体の径以上の波長になる周波数で駆動させて、ガイド波を励起することを特徴とする。
【0009】
本発明に係る超音波流量計は、管体と超音波振動子との間に計測に適した超音波信号に変換する整合部材を備え、かつ整合部材は管体との接触面に曲面又は溝を設けることを特徴とする。
【0010】
本発明に係る超音波流量計は、管体に軸対称に配設された超音波振動子を同相にして駆動してなることを特徴とする。
【0011】
本発明に係る超音波流量計は、超音波振動子が、円筒状、角柱状、柱状、板状、平板状から選択された1つであることを特徴とする。
【0012】
本発明に係る超音波流量計は、曲線もしくはテーパ形状の外面形状を有する収納体を備えることを特徴とする。
【0013】
本発明に係る超音波流量計は、収納体が超音波振動子を所定の距離に保持し、管体に着脱可能に設けられることを特徴とする。
【0014】
本発明に係る超音波流量計は、収納体が管体を流れる流体を観察するための開口を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、超音波振動子によって励起された信号の増幅及び受信感度の向上を図り、計測に適した超音波信号を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】従来の送受信子にリング状の超音波振動子を設けた超音波流量計を示す概略図である。
図2】本発明に係る超音波流量計を示す概略図である。
図3】ガイド波の振動を示す概念図である。
図4】管体に設けられる超音波振動子の配置を示す概略図である。
図5】本発明に係る超音波流量計を示す概略図である。
図6】本発明に係る他の超音波流量計を示す概略図である。
図7】本発明に係る整合部材14の模式図である。
図8】超音波流量計を収納するための収納体を示す概略図である。
図9】超音波流量計を収納するための収納体を示す概略図である。
図10】超音波信号の波形を測定したデータを示す図である。
図11】超音波信号の波形を測定したデータを示す図である。
図12】超音波信号の波形を測定したデータを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して本発明に係る超音波流量計について説明する。なお、本発明の超音波流量計は、以下に示す実施の形態及び実施例の記載内容に限定して解釈されるものではない。なお、本実施の形態及び後述する実施例で参照する図面において、同一部分又は同様な機能を有する部分には同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。
【0018】
一般に用いられる超音波流量計は、超音波送信子から発信した超音波のバルク波(縦波若しくは横波)を超音波受信子で検出する装置である。一方、本発明に係る超音波流量計は、超音波送信子によってガイド波を励起し、管体内部の流体を伝搬したガイド波を超音波受信子で受信して管体内部の流体の流速を測定する点で、一般に用いられる超音波流量計とは異なる。
【0019】
本明細書において「ガイド波」とは、管体、板、棒、鉄道レールなど、超音波波長より短い間隔の境界面に囲まれた媒質中を長手方向に伝わる際の超音波伝搬形態の総称を意味する。ガイド波は、媒質の境界でモード変換した縦波と横波が分離せず、超音波振動子を管体の径以上の波長になる周波数で駆動させることにより励起できる点で、バルク波とは異なる。また、ガイド波は、管体内部が空洞ではなく、即ち、管体が流体で満たされているときに観測される。
【0020】
本発明者らは、特許文献2において、ガイド波を用いた超音波流量計を開示した。特許文献2の超音波流量計は、流体を流す管体の外周面に距離Lを隔てて2個の超音波振動子を設け、2個の超音波振動子の一方を送信側、他方を受信側として交互に作動させ、超音波振動子の駆動により管体と内部流体とを1つの媒体として励起されるガイド波が間隔L離れた超音波送受信子間を上流から下流へ伝搬する伝搬時間と、下流から上流へ伝搬する伝搬時間との伝搬時間差から流体の流速を求める。
【0021】
より具体的には、特許文献2の超音波流量計は、流体を流す管体の外面に2個の超音波振動子を距離L隔てて設け、2個の超音波振動子の一方を送信子、他方を受信子として相互に作動させ、超音波振動子を管体の径以上の波長になる周波数で駆動させることにより管体と内部流体とを1つの媒体として励起されるガイド波が、間隔L離れた超音波送受信子間を上流から下流へ伝搬する時の伝搬時間Tと、下流から上流へ伝搬する時の伝搬時間Tとの伝搬時間差から流体の流速を求める制御・解析装置を備え、超音波振動子が管体外面の周方向の一部分に取付け可能な形状である。
【0022】
流体の流速とガイド波の位相速度と群速度には線形の関係がある。

V(v)=V(0)+αv
vg(v)=vg(0)+βv

ただし、αは管体内部の流体の流速がガイド波の位相速度におよぼす影響を表す因子であり、βは管体内部の流体の流速がガイド波の群速度におよぼす影響を表す因子である。
【0023】
ガイド波が間隔L離れた超音波送受信子間を上流から下流へ伝搬する時の伝搬時間は下記式により示される。
=L/(vg(0)+βv)

また、同様に、下流から上流への伝搬時間は下記式により示される。
=L/(vg(0)−βv)となる。
【0024】
したがって、特許文献2の超音波流量計において、ガイド波の伝搬時間差を次の式から求める。

ΔT=T−T=2Lβv/vg(0)×(1+β/vg(0)+・・・・)≒2Lβv/(vg(0))=v/γ

ただし、L:2個の超音波振動子の設置距離、v:流体の流速、vg:ガイド波の群速度、β:管体内部の流体の流速がガイド波の群速度におよぼす影響を表す因子、γ=vg(0)/2Lβとする。
【0025】
本発明者らは、特許文献2の超音波流量計についてさらに高精度の流量測定を実現するため、励起信号の振幅増大と受信感度の向上を検討した。本発明者らは、超音波振動子を送信側に2つ以上配置することにより、励起信号の振幅増大と受信感度の向上をさせ、しかも2倍を遥かに上回る励起信号の振幅増大と受信感度の向上が実現可能であることを期せずして見出し、本発明を完成した。
【0026】
図2は、本発明の一実施形態に係る超音波流量計100を示す概略図である。超音波流量計100は、長手方向に延出する方向に被測定流体を流す経路を有する管体10の外側で送信側及び受信側に距離Lを隔ててそれぞれ2以上配設された超音波振動子12a〜12dを備える。なお、一例として、図2においては、送信側及び受信側に超音波振動子を2個ずつ配設した超音波流量計を示す。図2において、2つの超音波振動子12a及び12b(又は12c及び12d)を、管体10の外側に軸対称に(対向して)配設しているが、本発明はこれに限定されず、本願の信号の増幅効果及び受信感度の向上効果が得られる範囲で管体10の外側に非対称に配置してもよい。また、距離Lは、ガイド波を受信可能な範囲で任意に設定可能である。
【0027】
超音波流量計100は、送信側に2以上配設された超音波振動子12a及び12b(又は12c及び12d)を、管体10を実質的に同じ圧力で押圧するように、同相で駆動させる。ここで、超音波振動子12a及び12b(又は12c及び12d)を同相で駆動させるとは、送信側に2以上配設された超音波振動子12a及び12b(又は12c及び12d)を、同じタイミングで作動させることを意味する。本発明においては、送信側の超音波振動子12a及び12b(又は12c及び12d)を同相で駆動させ、管体10を実質的に同じ圧力で押圧することにより、単に超音波振動子を2つ以上配置するだけでは得られない、優れた増幅効果を得ることができる。
【0028】
このような超音波流量計100は、ガイド波の中で、特に管体10に軸振動モードの振動のみを励起して、超音波の振幅を大きくすることができる。軸振動モードの中で、L(0,4)は、他のモードの群速度から孤立しており、測定に適したモードであり、本発明に係る超音波流量計100において好適に用いることができる。軸振動モードについては、後で詳述する。
【0029】
本発明に係る超音波振動子12a〜12dは、円筒状であることが好ましいが、管体10に接触し、ガイド波を発生する面を備えれば、角柱状、柱状、さらには板状、平板状であってもよい。しかし、角柱等の角のある形状では、超音波振動子は欠けが生じやすくなるとともに、超音波を発生しにくい。一方、円筒形を使用することで、欠けが生じにくく、製作コストを抑え、超音波を発生しやすくなるため、超音波振動子の特性の安定化が図れる。ここで送信側及び受信側にそれぞれ配設する2以上からなる1組の超音波振動子は、同じ大きさや形状であることが好ましい。しかし、本発明はこれに限定されるものではなく、同相で駆動させ、管体10を実質的に同じ圧力で押圧することができれば、必ずしも大きさや形状が同じであることは要求されない。
【0030】
また、本発明においては、送信側に2以上の超音波振動子を配設することを特徴とするが、上述したように、超音波送受信子間を上流から下流へ伝搬する伝搬時間と、下流から上流へ伝搬する伝搬時間とを交互に測定するため、送信側及び受信側に配設する超音波振動子の数は同じになる。一方、流体の流速と上流から下流へ伝搬するガイド波の伝搬時間とは正の相関を有し、流体の流速と下流から上流へ伝搬するガイド波の伝搬時間とは負の相関を有するため、本発明において、管体10の上流側又は下流側の何れか一方のみに超音波振動子を2以上配設して送信側とすることも可能である。
【0031】
ここで、軸振動モードについて詳述する。超音波振動子の振動(又は変形)方向は、従来のリング形状の超音波振動子の配置では管体10の長手方向に対して平行である。一方、上述した形状を有する本発明の超音波振動子12a〜12dの配置では管体10に対して、垂直に振動する。本発明に係る超音波流量計100において、ガイド波を励起するために、超音波振動子12a及び12b(又は12c及び12d)を管体10の径以上の波長になる周波数で管体10に対して、垂直に振動するように駆動させる。
【0032】
図3は、ガイド波の振動の概念図を示す。ガイド波の振動の仕方は、円周方向の対称性により分類される。(a)L(0、m)モードは、軸対称に振動する。(b)F(1、m)モードは、360度の対称性を持ち、励起効率が高い。(c)F(2、m)モードは、180度の対称性を持つが、励起効率は極端に小さくなる。ここで、L(0、m)モードは、軸対称なので、軸対称に振動させれば軸振動モードのガイド波の振幅が大きくなり、好ましい。そして、複数の受信子の信号を積分することにより、L(0、m)モードの振幅のみが増幅される。よって、励起信号の振幅増大と受信感度の向上が得られ、励起波のモード選択も可能となる。
【0033】
ガイド波は速度分散性(周波数依存性)を有するため、ガイド波を励起させる周波数帯を選択することにより、他のモードの群速度からL(0,4)を孤立させることができるため、受信感度を向上させることができ、測定に適したモードである。本発明に係る超音波流量計100においては、送信側に配設された2以上の超音波振動子12a及び12b(又は12c及び12d)を管体10に実質的に同じ圧力で押圧するように駆動させることにより、L(0,4)モードのガイド波を、単に超音波振動子を2つ以上配置するだけでは得られない、優れた増幅効果を得ることができる。これにより、受信型の超音波振動子12で受信するガイド波のS/N比(送信側の超音波振動子12a及び12b(又は12c及び12d)を駆動してガイド波を励起した前後で受信される信号の強度比)が極めて大きくなり、受信感度を向上させることができる。一方、F(2、m)モードは、受信するガイド波のS/N比が小さく、本発明に係る超音波流量計100には適さない。
【0034】
(整合部材)
一実施形態において、本発明に係る超音波流量計100は、図5に示すように、管体10と超音波振動子12a〜12dとの間に超音波信号の計測に適した超音波信号に変換する整合部材14を設ける。整合部材14は、超音波振動子12a及び12b(又は12c及び12d)の駆動により生じる超音波を管体10へ効率良く伝達するとともに、管体10の変形を防止するために、管体10との接触面に曲面を備えることが好ましい。また、整合部材14の管体10との接触面は、管体10との密着性が担保できれば、曲面に限定されない。
【0035】
流体を流す管体10と超音波振動子12a〜12dの間に整合部材14を配設し、整合部材14で管体10を挟むことにより超音波振動子12a及び12b(又は12c及び12d)から励起する超音波信号を効率良く管体10に伝え、かつ超音波信号を減衰させて超音波信号を短くでき、安定した測定が可能になる。これは、超音波信号を連続して発振するため、発信した超音波信号を整合部材14により速やかに減衰させることにより、次に発振する超音波信号に残響が重なるのを防止するためである。本発明において、整合部材14は、超音波振動子12a及び12b(又は12c及び12d)から発信される超音波信号を効率良く管体10に伝えることにより、残響が残りにくく、発信側の超音波振動子12a及び12b(又は12c及び12d)からの超音波信号を速やかに減衰させることができる。このため、本発明に係る超音波流量計100においては、受信側の超音波振動子12c及び12d(又は12a及び12b)で受信するガイド波のS/N比が極めて大きくなり、受信感度を向上させることができる。
【0036】
一般に、管体10は超音波振動子12よりも硬度が低いため、本発明に係る整合部材14には、管体10の硬度より高く、超音波振動子12の硬度の低い部材を用いることが好ましい。整合部材14には、例えば、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)、シリコンシート、アルミニウム、エボナイト、マグネシウム、ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)等を用いることができるが、これらに限定されるものではない。特に、炭素繊維強化プラスチックは、超音波振動子12から励起する超音波信号を効率良く管体10に伝えることができるため、本発明に係る整合部材14として好ましい。炭素繊維強化プラスチックを本発明に係る整合部材14として用いる場合、炭素繊維が超音波振動子12と接する面に対して垂直となるように積層した部材を用いることが好ましい。整合部材14に含まれる炭素繊維がこのような配向性を有することにより、超音波振動子12から発信される超音波信号を効率良く管体10に伝えるとともに、発信側の超音波振動子12からの超音波信号を速やかに減衰させることができる。
【0037】
また、管体10との密着性の観点から、整合部材14として、グリースやゲルシートのような不定形の部材を用いることもできる。グリースやゲルシートは、上述した所定の形状を有する部材と組合せて、整合部材14の管体10との接触面に配置してもよい。
【0038】
流体を流す管体10と超音波振動子の間の整合部材の形状を管体外周のR形状に近づけ、また溝を設けて押しつけることにより管体の変形を防ぐことができるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0039】
図4は、管体10に設けられた送受信用の超音波振動子12a及び12bの管体10の断面方向からの配置を示す概略図である。なお、図4は、図2のAA’における断面を示す。超音波振動子12a及び12bは、管体10の周囲に軸対称に取り付けられ、かつ同位相(同相)で励起し、受信する。図4において、(a)管体10の周囲に1対の軸対称の超音波振動子12a及び12bが、垂直方向に取り付けられる。(b)管体10の周囲に1対の軸対称の超音波振動子12a、12b、12e及び12fが、垂直方向及び水平方向に4個取り付けられる。(c)管体10の周囲に1対の軸対称の超音波振動子12a、12b及び12eが、角度120度をもって3個取り付けられる。また、上述したように、本発明に係る超音波流量計100において、2以上の超音波振動子12a及び12bを、本願の信号の増幅効果及び受信感度の向上効果が得られる範囲で、管体10の周囲に非対称に配設してもよい(d)。また、このような非対称な超音波振動子の配置は、超音波振動子を3以上配置する場合にも同様である。
【0040】
本発明に係る超音波流量計100において、送信側および受信側にそれぞれ超音波振動子12a〜12dを2個で1セット、合計4個使い、管体10の中心軸に対して垂直に取り付け、超音波信号を垂直に励起することで超音波信号の増加が図れ、測定可能なレベルになる。また、超音波振動子を3個以上で1セット、合計6個以上の場合でも同じ効果が得られる。本発明に係る超音波流量計100は、従来のV型反射式(クランプオン形)の超音波流量計とは異なるため、超音波振動子を送信側に2以上配設することにより、ガイド波の増幅効果により受信感度の向上効果が得られる。
【0041】
本発明に係る超音波流量計100においては、送信側に配設された2以上の超音波振動子12a及び12b(又は12c及び12d)に印加する電圧を同相とする(超音波振動子12を駆動するタイミングと振動の大きさを同じにする)ことで管体10に軸振動モード、特にL(0,4)モードのみの振動を励起して超音波の振動を大きくすることによりS/N比を大きくし、受信感度を増幅させることが可能である。
【0042】
また、本発明に係る超音波流量計100においては、従来のV型反射式の超音波流量計とは異なるため、超音波振動子12a〜12dは、受信側と送信側の取付け方向を並行でなく、異なる方向に角度を付けて配設してもよい。これにより、後述する収納体に伝わってくる超音波信号(定在波)の影響を低減することが可能である。
【0043】
一実施形態において、本発明に係る超音波流量計100には、管体10を着脱可能に収納するために収納体が設けられる。収納体は、例えば、図8に示すような管体10を流れる流体を観察するための開口22を設けた収納体20であり、収納体20の外面形状を曲線もしくはテーパ形状として収納体20に伝わる定在波を低減することが好ましい。これは、収納体20の全体に渡る平行部や直線部が存在すると、収納体20が共振して、超音波振動子12が受信する超音波信号に影響するためである。
【0044】
また、一実施形態において、管体10を収納する収納体20を着脱可能な構造にするため、収納体20を2つ割れ構造とし、これらをリンク部材24により開閉可能に構成することが好ましい。従来の超音波流量計は、管体に一旦設置すると、管体を切断しなければ超音波振動子12を付け替えることができなかった。本発明に係る超音波流量計100は、着脱可能な収納体20に超音波振動子を配設することにより、管体10への取り付けが容易となり、流量を計測する管体10の位置を後から変更することも可能である。また、収納体20に超音波振動子を配設することにより、送信側と受信側の超音波振動子の距離を一定にして着脱を容易にできることが好ましい。流量を測定する上で、送信側と受信側の超音波振動子12aと12c(又は12bと12d)間の距離Lは重要なパラメータであるが、本発明に係る収納体20を用いることにより、簡便に超音波振動子12aと12c(又は12bと12d)を配設することができる。
【0045】
一実施形態において、収納体20の中央部に配管内の流れ、泡、ゴミを観察する開口22を設けることが好ましい。これらは、流体に影響を与える因子となりうるためである。また、収納体20の内側は管体10との干渉を防ぐために十分に逃げを設け、外部から管体10までに距離を設けて外部からは容易に接触できない構造を有することが好ましい。これは、収納体20の外部からの振動等の影響を管体10に与えないためである。
【実施例】
【0046】
図5は、本発明の一実施例に係る超音波流量計200を示す概略図である。
【0047】
図5において、超音波流量計200には、流体を流す管体10の外周面に2個の超音波振動子12aと12c(又は12bと12d)が距離Lを隔てて送信側及び受信側にそれぞれ同じ向きに平行に設けられている。超音波振動子は、1対の円筒形状を備え、かつ管体10に対して、軸対称に垂直方向に配設され、よって軸対称に振動する。2個ずつ配設した超音波振動子12a及び12b(又は12c及び12d)の一方は、送信側、他方は受信側として機能し、2個ずつ配設した超音波振動子12a及び12b(又は12c及び12d)を交互に作動させる。超音波振動子12の駆動により管体10と内部流体とを1つの媒体として励起されるガイド波が間隔L離れた超音波送受信子間を上流から下流へ伝搬する伝搬時間と、下流から上流へ伝搬する伝搬時間との伝搬時間差から流体の流速を求めることができる。
【0048】
超音波流量計200において、超音波振動子12a及び12b(又は12c及び12d)は、管体10に実質的に同じ圧力で押圧するように設けられ、かつ軸対称に配設された超音波振動子を同相で、L(0、m)モードで駆動させて管体10を軸対称に振動させることができる。これにより管体10に軸振動モードのみの振動が励起され、軸振動モードのみの振動を流体の流れ方向に沿って伝えることができる。管体10の外周に軸対称に配設された超音波振動子12a及び12b(又は12c及び12d)は、同相にして駆動する。なお、本実施例は、管体10の外周に軸対称に配設された超音波振動子12a及び12b(又は12c及び12d)を逆位相にして駆動してF(1、m)モードのガイド波を大きな振幅で励起し、検出することを排除するものではない。
【0049】
図6は、超音波振動子12a及び12b(又は12c及び12d)の受信側と送信側の取付け方向を並行でなく、異なる角度を設けて配設した超音波流量計300の概略図である。超音波流量計300においては、超音波振動子12を収納体に配設した場合、収納体に伝わってくる超音波信号(定在波)の影響を低減することが可能である。これは、定在波が収納体に平行に伝達するので、これを防止するためである。
【0050】
図5及び図6において、管体10と超音波振動子12a〜12dとの間に計測に適した超音波信号に変換する整合部材14が設けられている。整合部材14は、管体10の変形を防止するために管体との接触面を曲面に形成して、管体10との接触を十分にしている。管体10との接触を十分にするために管体10との接触面を曲面にし、さらにグリース等を塗布して、又はゲルシートを配置して密着性を高めてもよい。
【0051】
整合部材14は、上部側の超音波振動子12a及び12cと下部側の超音波振動子12b及び12dに独立して設けられる。図7は、本発明の実施例に係る整合部材14の模式図である。本実施例においては、整合部材14は、エポキシ樹脂に炭素繊維を一方向に配列したCFRP材片16を重ね合わせて形成したCFRP集合体からなる。整合部材14は、CFRP集合体の炭素繊維の方向を管体10に対して垂直方向になるようにして構成される。整合部材14は、管体10を挟み込む下端に管体10を挟むように湾曲形状、又は溝を設けて形成されている。
【0052】
図8は、管体10を着脱可能に収納するための収納体20の概略図である。図9は、収納体20を開いた内部構造を示す概略図である。本実施例の収納体20は、管体10を流れる流体を観察するための開口22を備える。収納体20の外面形状は、曲線もしくはテーパ形状として収納体に伝わる定在波を低減してなる。収納体20は、管体10を着脱可能にするためのヒンジ24を備える。超音波振動子を収納するための収納部26を備える。また、収納体20の内側には、管体10は整合部材14とのみ接触し、収納体20には接触しない非接触部28を有する。このような構造を有することで、管体10に対する収納体20の外部からの振動の影響を低減することができる。
【0053】
図10は、超音波振動子12a〜12dにPZTを使用して、そして送信側及び受信側にそれぞれ1個のPZTを使用する比較例(図10(a))と、本発明の超音波流量計100のように送信側及び受信側にそれぞれ1対のPZTを使用する実施例1(図10(b))での超音波信号の波形を測定したデータを示す。
測定条件は、以下の通りである。
管体の材質;PFA、サイズ1/8インチ(3.17×1.59)
センサ取り付け間隔;60mm
打ち込みパルス;338kHz,5発
整合部材;PZTと管体の間にグリースを塗布
水温;常温
周囲温度;25℃
アンプ1段目出力を観察した。ゲイン値は40固定
測定結果の超音波波形を(a;PZT1個)及び(b;1対(2個)PZT)にそれぞれ示す。
PZT1個に比べてより強い超音波信号を得ることができる。
1個;Vpp=120mV,1対(2個);Vpp=792mV。
【0054】
図10(a)及び図10(b)において、波形Wiは送信側の超音波振動子が発信した超音波の波形を示し、波形Wpは受信側でガイド波を受信する前の波形を示し、波形Woは受信側で受信したガイド波を示す。図10から明らかなように、送信側に2つの超音波振動子12a及び12b(又は12c及び12d)を配設することにより、2つの超音波振動子を配設した場合の2倍を遥かに上回る受信感度を得ることができた。また、送信側及び受信側にそれぞれ1個の配設した比較例ではVppが120mVであったのに対して、送信側及び受信側にそれぞれ2個の配設した実施例1ではVppが792mVとなり、6倍以上に増幅された。波形Wpと波形WoとによるS/N比に着目すると、送信側に2つの超音波振動子を配設することにより、S/N比が格段に向上し、本発明に係る超音波流量計は飛躍的に感度が向上したことが明らかとなった。これは、単純に予測できる効果ではない。
【0055】
また、実施例2として、所定形状の整合部材14を用いることの効果を検討した。整合部材14には、図7に示したCFRP集合体(径7、1mm)を用い、整合部材14と管体10の間にはグリースを塗布(図11(a))、又はゲルシートを配置した(図11(b))。なお、本実施例においては、PZTとCFRP集合体とは接着剤により接着した。図10(b)の下段に示したグリースのみを配置した場合に比べ、図11に示したように、CFRP集合体からなる整合部材14を配設した超音波流量計200においては、受信したガイド波の波形がシャープになり、流量の測定に適した状態にあることが明らかとなった。また、整合部材14と管体10の間はグリースを塗布した実施例(図11(a))とゲルシートを配置した実施例(図11(b))を比較しても、受信されるガイド波の波形は同レベルであった。
【0056】
実施例3として、本発明に係る超音波流量計において、送信側に配設する2つの超音波振動子12a及び12b(又は12c及び12d)が管体10の外周に非対称に配置された場合の影響について検討した。図12(a)は超音波振動子12a及び12b(又は12c及び12d)を管体10の外周に配置した模式図である。図12(b)は超音波振動子12a及び12b(又は12c及び12d)を管体10の外周に対向した配置した実施例1の波形を示し、図12(c)は超音波振動子12a及び12b(又は12c及び12d)を管体10の外周に45°ずらして配置した実施例3の波形を示す。図12の結果から、超音波振動子12a及び12b(又は12c及び12d)を配置する角度は、受信されるガイド波に影響しないことが明らかとなった。
【0057】
以上説明したように、本発明に係る超音波流量計はこれまでになく、高感度な流量測定を可能とするものである。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明に係る超音波流量計は、産業上利用される流速の測定、血管等の生体で流体の測定等に用いることができる。
【符号の説明】
【0059】
1、12a〜12f;超音波振動子
2、10;管体
14;整合部材
20;収納体
22;開口
24;ヒンジ
26;収納部
28;非接触部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12