(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6106952
(24)【登録日】2017年3月17日
(45)【発行日】2017年4月5日
(54)【発明の名称】放射性物質吸着材、並びにそれを用いた吸着容器、吸着塔、及び水処理装置
(51)【国際特許分類】
G21F 9/12 20060101AFI20170327BHJP
B01J 20/06 20060101ALI20170327BHJP
G21F 9/02 20060101ALI20170327BHJP
【FI】
G21F9/12 501D
B01J20/06 A
B01J20/06 C
G21F9/02 511A
G21F9/02 511S
【請求項の数】9
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-122215(P2012-122215)
(22)【出願日】2012年5月29日
(65)【公開番号】特開2013-246145(P2013-246145A)
(43)【公開日】2013年12月9日
【審査請求日】2015年4月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000206901
【氏名又は名称】大塚化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(72)【発明者】
【氏名】森 浩一
(72)【発明者】
【氏名】糸井 伸樹
(72)【発明者】
【氏名】葉利 久実子
【審査官】
山口 敦司
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2008/123046(WO,A1)
【文献】
米国特許第01697929(US,A)
【文献】
米国特許第03328117(US,A)
【文献】
米国特許第04373037(US,A)
【文献】
特開平09−015389(JP,A)
【文献】
特開昭56−100637(JP,A)
【文献】
特表2001−522032(JP,A)
【文献】
特開2001−133594(JP,A)
【文献】
特表2000−502595(JP,A)
【文献】
溝口研一ら,群分離法の開発:バインダで造粒したチタン酸へのSrの吸着挙動,JAERI-Research,1998年 5月,98-026,全39頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21F 9/12
B01J 20/06
G21F 9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学式がM2Ti2O5(M:一価カチオン)で表されるチタン酸塩を含む、粒径150〜3000μmの成形体よりなり、
前記チタン酸塩は、平均粒子径が1〜150μmであり、
前記一価カチオンMがカリウムであり、
前記チタン酸塩が、化学式がK2Ti2O5で表され、不規則な方向に複数の突起物が延びる形状を有するチタン酸塩であることを特徴とする水中の放射性ストロンチウム吸着材。
【請求項2】
前記チタン酸塩の平均粒子径が4〜30μmであることを特徴とする請求項1に記載の水中の放射性ストロンチウム吸着材。
【請求項3】
前記成形体がバインダーを含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の水中の放射性ストロンチウム吸着材。
【請求項4】
前記バインダーが粘土鉱物であることを特徴とする請求項3に記載の水中の放射性ストロンチウム吸着材。
【請求項5】
前記粘土鉱物がアタパルジャイトであることを特徴とする請求項4に記載の水中の放射性ストロンチウム吸着材。
【請求項6】
前記バインダーの割合は、チタン酸塩1質量部に対し0.1〜0.5質量部であることを特徴とする請求項3ないし5のいずれか1項に記載の水中の放射性ストロンチウム吸着材。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか1項に記載の水中の放射性ストロンチウム吸着材が充填されてなることを特徴とする吸着容器。
【請求項8】
請求項1ないし6のいずれか1項に記載の水中の放射性ストロンチウム吸着材が充填されてなることを特徴とする吸着塔。
【請求項9】
請求項7に記載の吸着容器又は請求項8に記載の吸着塔を備えることを特徴とする水処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射性物質吸着材と、この放射性物質吸着材を充填してなる吸着容器及び吸着塔と、この吸着容器又は吸着塔を適用した水処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
放射性ストロンチウム
90Srは、放射性セシウムと同様に、半減期が長く、また、水への拡散性が高い核分裂生成物であり、放射性セシウムと同様、放射性ストロンチウムにより汚染された水についても、その水処理システムの改良が望まれている。
【0003】
水中の放射性ストロンチウムは、オルトチタン酸で吸着して除去できることが知られている(非特許文献1)。
また、放射性ストロンチウムを吸着するチタン酸ナトリウムイオン交換体の製造方法として、含水酸化チタンをアルコールと水酸化ナトリウムからなる液でスラリー化させて加熱し、濾過・乾燥した後に破砕・分級してナトリウム/チタンモル比が0.6以下の顆粒状のチタン酸ナトリウムを製造する方法が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4428541号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】久保田益光ほか“群分離法の開発:無機イオン交換体カラム法による90Sr及び134Csを含む廃液の処理法の開発”JAERI−M82−144(1982)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載される方法で製造される顆粒状のチタン酸ナトリウムは、交換カチオンであるナトリウム/チタンのモル比が低い為、吸着容量が小さいという課題があった。
また、特許文献1に記載される方法で製造される顆粒状のチタン酸ナトリウムは、一次粒子の凝集体であるため、強度が弱く、輸送中等に加えられる振動や衝撃等で粉砕されて微粉化したり、水中に投入すると凝集体の崩壊で一次粒子が脱落してしまう。このため、この微粉化した粒子や一次粒子が、吸着塔のストレーナーを閉塞させたり、吸着塔ストレーナーを通過して、放射線を帯びた微粉が吸着塔からリークしてしまうという課題があった。
【0007】
本発明は、吸着容量の多い放射性物質吸着材を提供することを課題とする。
本発明はまた、機械的強度に優れ、微粉等のリークの問題がなく、水処理材として取扱性に優れた放射性物質吸着材を提供することを課題とする。
本発明はまた、この放射性物質吸着材を充填してなる吸着容器及び吸着塔と、この吸着容器又は吸着塔を適用した水処理装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、M
2Ti
2O
5(M:一価カチオン)で表されるチタン酸塩が放射性物質吸着量に優れていることを見出した。
また、このチタン酸塩の粉末にバインダーを加えて所定の大きさの粒状体に成形し、更に焼成することにより、機械的強度に優れ、微粉等のリークの問題がなく、水処理材として取扱性に優れた放射性物質吸着材を実現することができることを見出した。
【0009】
本発明はこのような知見に基いて達成されたものであり、以下を要旨とする。
【0010】
[1] 化学式がM
2Ti
2O
5(M:一価カチオン)で表されるチタン酸塩を含むことを特徴とする放射性物質吸着材。
【0011】
[2] 前記チタン酸塩は、平均粒子径が1〜150μmであることを特徴とする[1]に記載の放射性物質吸着材。
【0012】
[3] 前記一価カチオンMがカリウムであることを特徴とする[1]又は[2]に記載の放射性物質吸着材。
【0013】
[4] 前記チタン酸塩が、化学式がK
2Ti
2O
5で表され、不規則な方向に複数の突起物が延びる形状を有するチタン酸塩であることを特徴とする請求項3に記載の放射性物質吸着材。
【0014】
[5] 前記放射性物質が放射性ストロンチウムであることを特徴とする[1]ないし[4]のいずれかに記載の放射性物質吸着材。
【0015】
[6] 前記チタン酸塩をバインダーを用いて粒径150〜3000μmの範囲に成形してなることを特徴とする[1]ないし[5]のいずれかに記載の放射性物質吸着材。
【0016】
[7] 前記バインダーが粘土鉱物であることを特徴とする[6]に記載の放射性物質吸着材。
【0017】
[8] 前記粘土鉱物がアタパルジャイトであることを特徴とする[7]に記載の放射性物質吸着材。
【0018】
[9] 前記成形後、更に500〜900℃の温度範囲で焼成してなることを特徴とする[6]ないし[8]のいずれかに記載の放射性物質吸着材。
【0019】
[10] [1]ないし[9]のいずれかに記載の放射性物質吸着材が充填されてなることを特徴とする吸着容器。
【0020】
[11] [1]ないし[9]のいずれかに記載の放射性物質吸着材が充填されてなることを特徴とする吸着塔。
【0021】
[12] [10]に記載の吸着容器又は[11]に記載の吸着塔を備えることを特徴とする水処理装置。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、M
2Ti
2O
5(M:一価カチオン)で表されるチタン酸塩を用いることで、他のチタン酸塩よりも放射性物質の吸着容量を向上させることができる。
また、このようなチタン酸塩の粉末にバインダーを加えて成形した後、焼成することによって、機械的強度が向上し、輸送中等に加えられる振動や衝撃等による破砕や、水に投入したときの一次粒子の脱落を抑制することができる。このため、微粉粒子による吸着塔ストレーナーの閉塞や、放射線を帯びた微粉のリークを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】実施例1及び比較例2,3の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下に説明する実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであって、何ら本発明を限定するものではなく、本発明はその要旨を超えない範囲において、以下の実施形態に開示される各要素を種々変更して実施することができる。
【0025】
本発明の放射性物質吸着材は、M
2Ti
2O
5(M:一価カチオン)で表されるチタン酸塩を含むことを特徴とする。
【0026】
チタン酸塩は一般的にM
2Ti
nO
2n+1(M:一価カチオン)で表され、カチオン交換体としてのチタン酸塩は、nが大きい程チタン酸塩一分子当たりのカチオン交換サイトが少なくなってしまう為、カチオン交換容量は小さくなる。
カチオン交換容量の点ではM
2TiO
3(M:一価カチオン)が理想ではあるが、M
2TiO
3(M:一価カチオン)で表されるチタン酸塩は非常に不安定であり、加熱等により直ちにM
2Ti
2O
5(M:一価カチオン)に変性してしまう。
M
2Ti
2O
5(M:一価カチオン)であれば、熱的にも安定であり、酸・アルカリ等の耐薬品性にも優れており、水処理用の吸着材として好適である。
【0027】
本発明で用いるM
2Ti
2O
5(M:一価カチオン)で表されるチタン酸塩の一価カチオンとしては、陽イオン交換性に優れることから、カリウムが好ましい。Y.Q.Jia,J.Solid State Chem.,95(1991)184によると、ストロンチウムのイオン半径とアルカリ金属元素のイオン半径は下表のとおりであり、KはSrのイオン半径よりやや大きくカチオン交換体として好適である。
【0029】
一価カチオンがカリウムであるK
2Ti
2O
5は、一般的な溶融法等にて合成を行うと繊維形状が得られるが、WO2008/123046に記載されているように、チタン源及びカリウム源をメカノケミカルに粉砕しながら混合した後、その粉砕混合物を650〜1000℃で焼成する製法により、不規則な方向に複数の突起物が延びる形状とすることが可能である。当該形状とすることで、造粒体にした際の粉体強度を向上させることができ、短径サイズを大きくできるため、カチオン交換速度を制御することができる。
【0030】
また、本発明で用いる化学式がM
2Ti
2O
5(M:一価カチオン)で表されるチタン酸塩は、平均粒子径が1〜150μmの範囲にある粉末状であることが好ましい。平均粒子径は、例えばレーザー回折式粒度分布測定装置により測定することができる。
【0031】
チタン酸塩粉末の平均粒子径が1〜150μmの範囲であれば、吸着容量も高く、また、後の成形工程においてハンドリング面で優位である。即ち、平均粒子径が1μm以上であれば、飛散や静電気による容器付着など製造上の難点が生じることがなく、また、平均粒子径が150μm以下であれば、比表面積の低下で吸着容量が低下することもない。
従って、本発明においては、このような粒径のチタン酸塩粉末を用いることが好ましい。チタン酸塩粉末の平均粒子径は、より好ましくは4〜30μmである。
【0032】
また、本発明においては、好ましくは、上記のようなチタン酸塩粉末を所定の大きさにして用いることが好ましく、特に、成形後、所定の条件で焼成して用いることが好ましい。
【0033】
この場合、チタン酸塩粉末を成形して得られる成形体の形状や大きさは、吸着容器や吸着塔に充填して、放射性物質を含む水を通水するのに適応した形状であればよく、例えば、球状、立方体形状、長方体形状、円柱形状等の定形粒状体であってもよいし、不定形形状であってもよい。これらのうち、吸着容器や吸着塔への充填性を考慮すると球状粒状体であることが好ましい。
【0034】
チタン酸塩粉末を成形する方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、バインダー等を用いてチタン酸塩粉末を粒状体に成形する方法が挙げられる。
【0035】
上記バインダーとしては、例えば、ベントナイト、アタパルジャイト、セピオライト、アロフェン、ハロイサイト、イモゴライト、カオリナイト等の粘土鉱物;ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、メタケイ酸ナトリウム、メタケイ酸カルシウム、メタケイ酸マグネシウム、メタケイ酸アルミン酸ナトリウム、メタケイ酸アルミン酸カルシウム、メタケイ酸アルミン酸マグネシウムなどのケイ酸塩化合物等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
これらのうち、バインダーとしては、化成品であるケイ酸塩化合物よりも天然物である粘土鉱物を用いる方が安価に製造できる点で好ましく、さらに、粘土鉱物の中でも粒状体の機械的強度の点でアタパルジャイトやセピオライト等の繊維状の粘土鉱物を用いることが好ましい。
【0036】
また、成形時には、造粒に必要な塑性を与える可塑剤も同様に添加することが好ましい。上記可塑剤としては、例えば、デンプン、コーンスターチ、糖蜜、乳糖、セルロース、セルロース誘導体、ゼラチン、デキストリン、アラビアゴム、アルギン酸、ポリアクリル酸、グリセリン、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルピロリドン(PVP)、水、メタノール、エタノール等が挙げられる。これらは1種を単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。
【0037】
チタン酸塩とバインダーと可塑剤を所定の混合比で混合した後、造粒成形し、乾燥させた後、焼成することで、機械的強度が向上し、輸送中等に加えられる振動や衝撃等による破砕や、水に投入したときの一次粒子の脱落を抑制することができる。
【0038】
バインダーの使用量は、特に限定されるものではなく、チタン酸塩粉末1質量部に対し、0.1〜0.5質量部であることが好ましい。バインダーの使用量が少な過ぎると、得られる粒状体の強度が弱く、輸送中等に加えられる振動や衝撃等によって破砕したり、水に投入したときに一次粒子が脱落したりするおそれがある。バインダーの使用量が多過ぎると、カチオン交換の活性部位であるM
2Ti
2O
5(M:一価カチオン)で表されるチタン酸塩の割合が小さくなる為、カチオン交換容量(放射性物質吸着量)が小さくなってしまう。
【0039】
可塑剤の使用量は、特に限定されるものではなく、チタン酸塩粉末1質量部に対し0.01〜0.1質量部であることが好ましい。可塑剤の使用量が上記範囲内であれば、チタン酸塩粉末を効果的に成形することができる。
【0040】
なお、製造コストを考慮すると、使用する可塑剤は水であることが好ましく、さらには、水と接触すると増粘する性質を有し、その粘化作用により粒子同士の結合に寄与する物質と水とを併用することが好ましい。この点を考慮すると、可塑剤として、水とセルロース誘導体やPVA等とを併用することが好ましい。
【0041】
可塑剤として水とセルロース誘導体及び/又はPVAとを併用する場合、バインダーにおける水とセルロース誘導体及び/又はPVAとの配合比(質量基準)は、1000:1〜10:1であることが好ましい。配合比がこの範囲内であれば、チタン酸塩粉末を効果的に成形することができる。
【0042】
バインダーと可塑剤を用いてチタン酸塩の粉末を成形する方法としては、例えば、チタン酸塩粉末とアタパルジャイト等のバインダーを混合し、可塑剤である水とセルロース誘導体等とを混合した粘性流体をチタン酸塩とアタパルジャイトの混合粉末に添加しながら造粒成形する方法、アタパルジャイト等のバインダーとセルロース等の可塑剤を粉体のままチタン酸塩粉末に混合し、水等の液体を添加しながら造粒成形する方法等が挙げられる。
【0043】
この造粒成形法としては、具体的には、ドラム型造粒機、皿型造粒機等を使用した転動造粒法;フレキソミックス、バーティカルグラニュレーター等を使用した混合撹拌造粒法;スクリュー型押出造粒機、ロール型押出造粒機、ブレード型押出造粒機、自己成形型押出造粒機等を使用した押出造粒法;打錠形造粒機、ブリケット形造粒機等を使用した圧縮造粒法;吹き上げる流体(主として空気)中にチタン酸塩粉末とバインダーを浮遊懸濁させた状態に保ちながら水やアルコール等のバインダーを噴霧して造粒する流動層造粒法等が挙げられるが、粒状体に成形することを考慮すると、転動造粒法又は混合撹拌造粒法が好ましい。
【0044】
このようにして得られるチタン酸塩の粒状体の大きさは、粒径で150〜3000μm、好ましくは300〜2000μmである。この粒状体の大きさが上記範囲よりも大きいと、表面積が小さくなってしまう為、放射性物質吸着能が低下し、小さいと吸着塔のストレーナーからリークする恐れがある。
なお、ここで、粒状体の粒径とは、粒状体が球状であればその直径に該当し、その他の形状の場合、当該粒状体を2枚の平行な板で挟んだとき、その板の間隔が最も大きくなる部位の長さ(2枚の板の間隔)をさす。
【0045】
本発明ではまた、成形したチタン酸塩の粒状体を空気雰囲気下、500〜900℃で焼成することが好ましく、この焼成により、バインダー粉末とチタン酸塩粉末とが焼結され、粒子強度が向上する。この焼成処理において、焼成温度が500℃未満であると、未焼結部位が残存して粒子強度が弱くなり、900℃を超えるとチタン酸塩結晶の構造に影響を及ぼして吸着性能が低下してしまう。
【0046】
焼成時間は、焼成温度、粒状体の大きさによっても異なるが、通常0.5〜10時間程度である。
【0047】
本発明の放射性物質吸着材は、下部又は上部にストレーナー構造を有した吸着容器又は吸着塔に充填して使用するのが好ましく、放射性物質、特に放射性ストロンチウムを含有する汚染水を当該吸着容器又は吸着塔に通水して放射性物質を除去する水処理装置に有効に適用することができる。
【実施例】
【0048】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0049】
[合成例1:二チタン酸カリウムの合成]
酸化チタン418.94g及び炭酸カリウム377.05gをヘンシェルミキサーで混合し、得られた混合物を振動ミルで粉砕しながら0.5時間混合した。
得られた粉砕混合物50gをルツボに充填し、電気炉にて780℃で4時間焼成を行い、焼成物をハンマーミルにて粉砕を行い、不規則な方向に複数の突起が延びる形状を有した二チタン酸カリウムを得た。平均粒子径20μmであった。
【0050】
[合成例2:四チタン酸カリウムの合成]
酸化チタン117.50g、炭酸カリウム58.75g及び塩化カリウム23.50gをヘンシェルミキサーで混合し、得られた混合物50gをルツボに充填し、電気炉にて1000℃で4時間焼成を行い、焼成物を温水中に投入して解きほぐし、濾別、乾燥し、四チタン酸カリウム繊維を得た。
【0051】
以下において比較例1の放射性物質吸着材としては、特許文献1に示される顆粒状のチタン酸ナトリウムの市販品 商品名「SrTreat」(Fortum社製)を用いた。
また、比較例2の放射性物質吸着材としては、合成例2で得られた四チタン酸カリウムを用い、比較例3の放射性物質吸着材としては、8チタン酸カリウム(商品名「ティスモ」化学式:K
2Ti
8O
17 大塚化学社製)を用いた。
【0052】
[実施例1]
合成例1で得られた二チタン酸カリウム粉末400gに、バインダーとしてアタパルジャイト粉末80gを加え、混合撹拌造粒機(商品名「VG−01」、パウレック社製)により、回転数400rpmで高速撹拌させた。その後、4重量%のポリビニルアルコール溶液をゆっくりと190g加え、転動造粒により雪だるま式に粒子を成長させた。得られた造粒体を105℃で2時間乾燥させた後、金属製の篩で粒径300〜1180μmに分級した。分級した粒状体を電気マッフル炉にて空気雰囲気下、600℃で2時間焼成した。
【0053】
[耐一次粒子脱落性の評価]
実施例1の放射性物質吸着材と比較例1の放射性物質吸着材をそれぞれ1g計量し、コニカルビーカーに投入後、水道水(栃木県野木町水)99gを添加して軽く振り混ぜた後、JIS K0101(工業用水試験方法)に従い、上澄液の濁度を計測して耐一次粒子脱落性を評価した。
濁度を計測した結果、実施例1の放射性物質吸着材が濁度1.9であったのに対し、比較例1の放射性物質吸着材では濁度230であった。
この結果から、実施例1の放射性物質吸着材は、比較例1の放射性物質吸着材よりも、水中での一次粒子の脱落が大幅に低減されることが分かる。
【0054】
[放射性物質吸着性能の評価]
実施例1の放射性物質吸着材と比較例2,3の放射性物質吸着材をそれぞれ1g計量し、ポリ容器に投入した。各々のポリ容器に、安定同位体の塩化ストロンチウムをストロンチウム濃度が10mg/Lとなるように水道水(栃木県野木町水)に溶解させた水溶液100mLを加えた。30分、1時間、2時間、4時間、それぞれ振とうさせた後、0.45μmのメンブレンフィルターで濾過し、濾液をICP−MSに導入して濾液中のストロンチウム濃度を定量した。結果を
図1に示す。
図1より、ストロンチウム濃度は、実施例1の放射性物質吸着材の場合が最も低濃度まで低減できていることが分かる。