特許第6107140号(P6107140)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6107140Fe基アモルファスの製造方法及び鉄心の製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6107140
(24)【登録日】2017年3月17日
(45)【発行日】2017年4月5日
(54)【発明の名称】Fe基アモルファスの製造方法及び鉄心の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/153 20060101AFI20170327BHJP
   H01F 41/02 20060101ALI20170327BHJP
   H01F 27/24 20060101ALI20170327BHJP
【FI】
   H01F1/153 141
   H01F1/153 108
   H01F41/02 C
   H01F27/24 C
【請求項の数】8
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2012-554865(P2012-554865)
(86)(22)【出願日】2012年1月27日
(86)【国際出願番号】JP2012051808
(87)【国際公開番号】WO2012102379
(87)【国際公開日】20120802
【審査請求日】2014年12月10日
(31)【優先権主張番号】特願2011-16017(P2011-16017)
(32)【優先日】2011年1月28日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080012
【弁理士】
【氏名又は名称】高石 橘馬
(72)【発明者】
【氏名】吉沢 克仁
(72)【発明者】
【氏名】太田 元基
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 直輝
【審査官】 小池 秀介
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−086249(JP,A)
【文献】 特開2005−021950(JP,A)
【文献】 特開平06−344091(JP,A)
【文献】 特開平08−215799(JP,A)
【文献】 特開平08−215800(JP,A)
【文献】 特開平08−215801(JP,A)
【文献】 特開平01−170554(JP,A)
【文献】 特開平07−276011(JP,A)
【文献】 特開平10−064710(JP,A)
【文献】 特開2002−316243(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/003899(WO,A1)
【文献】 特開平06−292950(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D11/00−11/22
H01F 1/12−1/375
27/24
41/00−41/04
41/08
41/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手方向にほぼ一定間隔で並ぶ幅方向谷部を有する波状凹凸が自由面に形成されており、前記谷部の平均振幅Dが20 mm以下であるFe基アモルファス合金薄帯を単ロール法により製造する方法であって、(a) 前記溶湯ノズルに加熱ガスを吹き付けるためにスリット状開口部を有する加熱ノズルを使用し、前記加熱ノズルのスリット状開口部の長さを前記溶湯ノズルのスリット状オリフィスの水平方向長さの1.2〜2倍とし、熱ノズルから噴出する加熱ガスの温度を1000〜1400℃とすることにより前記合金の溶湯パドルの温度分布ができるだけ小さくなるように溶湯ノズルの幅方向温度分布を±15℃以内に保つとともに、(b) ワイヤーブラシにより冷却ロール表面に無数の微細なスジを形成し、もって前記冷却ロールの研磨面が0.1〜1μmの平均粗さRa及び0.5〜10μmの最大粗さRmaxを有するようにすることを特徴とするFe基アモルファス合金薄帯の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のFe基アモルファス合金薄帯の製造方法において、前記溶湯ノズル及び前記加熱ノズルの開口部を収納し、かつ前記冷却ロールとの間に隙間を有するフードを設けることを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のFe基アモルファス合金薄帯の製造方法において、前記谷部に長手方向に隣接する領域に幅方向に延在する山部が形成されていることを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項3に記載のFe基アモルファス合金薄帯の製造方法において、前記Fe基アモルファス合金薄帯の前記谷部と前記山部との平均高低差tと前記薄帯の厚さTとの比t/Tが0.02〜0.2の範囲にあることを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項1又は2に記載のFe基アモルファス合金薄帯の製造方法において、前記谷部が形成されている領域が前記薄帯の全幅の70%以上であることを特徴とする方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のFe基アモルファス合金薄帯の製造方法において、前記谷部が前記薄帯の両側端まで連続して延在していることを特徴とする方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載のFe基アモルファス合金薄帯の製造方法において、前記谷部の長手方向間隔Lが1〜5 mmの範囲にあり、前記薄帯の厚さTが15〜35μmの範囲にあることを特徴とする方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の方法によりFe基アモルファス合金薄帯を製造し、前記Fe基アモルファス合金薄帯を積層又は巻回することを特徴とする鉄心の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配電用トランス、リアクトル、チョークコイル、磁気スイッチ等に用いられる磁気特性に優れた鉄心の製造方法、かかる鉄心を構成するFe基アモルファス合金薄帯の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
配電用トランス等の鉄心に用いられる軟磁性材料として、珪素鋼板、Fe基アモルファス合金及びFe基ナノ結晶合金薄帯が知られている。珪素鋼板は安価で高磁束密度を有するが、Fe基アモルファス合金に比べると鉄損が大きいという問題がある。これに対して、単ロール法等の急冷法により製造されるFe基アモルファス合金薄帯は、珪素鋼板に比べると飽和磁束密度は低いが、結晶が存在しないため結晶磁気異方性が存在せず、低鉄損である。このため、配電用トランス等の鉄心に使用されている(例えば、特開2006-45662号参照)。
【0003】
単ロール法等の急冷法により製造したFe基アモルファス合金(部分的に結晶相を有していても良い)を熱処理することにより合金中にナノサイズの微結晶粒を高密度に生成させたFe基ナノ結晶合金薄帯は、高い飽和磁束密度を有するとともに、Fe基アモルファス合金薄帯より高透磁率、低鉄損及び低磁歪を有し、主に電子部品用のチョークコイルや電流センサー等の鉄心に実用化されている。典型的なFe基ナノ結晶合金としては、Fe-Cu-Nb-Si-B合金、Fe-Zr-B合金等が知られている。最近では、約1.8 Tと高い飽和磁束密度を有し、配電用トランスの鉄心に好適なFe基ナノ結晶合金薄帯が提案されている(特開2007-107095号参照)。
【0004】
Fe基アモルファス合金薄帯は、通常単ロール法等の急冷法により製造される。単ロール法は、合金溶湯をノズルから高速に回転している高熱伝導性合金製の冷却ロール上に噴出し、合金薄帯を製造する方法である。冷却ロールはCu-Cr合金、Cu-Ti合金、Cu-Cr-Zr合金、Cu-Ni-Si合金やCu-Be合金等の熱伝導の良いCu合金からなる。生産性を向上するには、長尺かつ幅広のアモルファス合金薄帯を製造する。
【0005】
配電用トランス等に用いられるFe-Si-B系合金等のFe基アモルファス合金は、磁気ヒステリシスが小さいため、ヒステリシス損失が小さいという特長を有する。しかし、Fe基アモルファス合金の広義の渦電流損失(鉄損−ヒステリシス損失)は、一様磁化の仮定で求められる古典的渦電流損失の数十倍から100倍も大きいことが知られている。この増加した損失は異常渦電流損失又は過剰損失と呼ばれるもので、主に合金の磁区幅が大きいことに起因する不均一な磁化変化により起こる。従って、異常渦電流損失を低減するため、種々の磁区細分化法が試みられている。
【0006】
Fe基アモルファス合金薄帯の異常渦電流損失を低減する方法として、Fe基アモルファス合金薄帯の表面を機械的にスクラッチする方法(特公昭62-49964号)、Fe基アモルファス合金薄帯の表面にレーザ光を照射することにより局部的に溶解・急冷凝固させて磁区を細分化するレーザスクライビング法等が知られている。レーザスクライビング法として、例えば特公平3-32886号は、パルスレーザをアモルファス合金薄帯の幅方向に照射することにより、アモルファス合金薄帯の表面を局部的かつ瞬間的に溶解し、次いで急冷凝固させてアモルファス化させたスポットを点列状に形成することにより磁区を細分化する方法を開示している。しかし、レーザスクライビング法は単位面積当たりの処理量が少ないので、生産性が低い。
【0007】
特開昭61-24208号は、単ロール法により自由面に波状凹凸を有するアモルファス合金薄帯を製造する際に、波状凹凸のピッチ及び高さを所望の範囲に制御することにより磁区の細分化を図り、もって渦電流損失を低減する方法を開示している。この方法ではアモルファス合金薄帯の製造時に波状凹凸を形成できるので、レーザスクライビング法より生産性が高い。
【0008】
単ロール法により形成したアモルファス合金薄帯の自由面に波状凹凸ができるのは、冷却ロール上の溶湯パドルが振動するためであると考えられる。しかし、通常波状凹凸を構成する幅方向谷部は直線状ではなく、波状に蛇行している。谷部自体は磁区の細分化により渦電流損失を低減させるが、幅方向谷部の蛇行はヒステリシス損失を悪化させる。ヒステリシス損失の悪化の問題は、特に幅広のアモルファス合金薄帯の場合深刻である。従って、波状凹凸を構成する幅方向谷部の蛇行ができるだけ小さいアモルファス合金薄帯が望ましい。
【0009】
溶湯パドルの振動の抑制に関して、特開2002-316243号は、合金溶湯を冷却ロール上で急冷することによりアモルファス合金薄帯を製造する方法であって、合金溶湯にCO2ガスを吹き付けるとともに、冷却ロールの研磨を行うことを特徴とする方法を開示している。冷却ロールの研磨には線径0.06 mmの真鍮製又はステンレス製のブラシ等が用いられている。特開2002-316243号は、研磨に用いるブラシが過度に硬いと冷却ロール表面の研磨傷が深くなり、アモルファス合金薄帯が切れたり、表面粗さの改善効果が薄れたりするので、ブラシの硬さは冷却ロールの硬さと同等以下であるのが良いと記載している。しかし、特開2002-316243号に記載の方法により得られたアモルファス合金薄帯は、自由面に波状凹凸を有するものの鉄損が大きかった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って、本発明の目的は、鉄損が低減されたFe基アモルファス合金薄帯の製造方法及びそれからなる鉄心製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的に鑑み鋭意研究の結果、(a) 特開2002-316243号に記載の方法により得られたアモルファス合金薄帯の鉄損が大きいのはヒステリシス損失が大きいためであること、(b) ヒステリシス損失は波状凹凸を構成する幅方向谷部の蛇行の程度に依存すること、(c) 幅方向谷部の蛇行を抑制するには溶湯パドルの振動を抑制する必要があること、(d) 溶湯パドルの振動の抑制にはブラシにより冷却ロールの表面を研磨するだけでは不十分であること、及び(e) ブラシによる冷却ロールの研磨面に微細なスジを形成するとともに、合金溶湯を噴出するノズルの温度分布範囲を所望の範囲内に限定することにより、溶湯パドルの振動を抑制し、もって幅方向谷部の蛇行を抑制することができることが分った。また、冷却ロール研磨面にどの程度の深さのスジができるかはブラシの硬さだけで決まる訳ではなく、冷却ロールに対するブラシの押圧力、回転数及び回転方向、冷却ロールの単位面積に接触するブラシ中のワイヤーの本数等にも依存することも分った。特に長時間のアモルファス合金薄帯の製造の場合、冷却ロールの表面は酸化物の付着等で荒れるので冷却ロール表面の研磨は必要であるが、そのとき鏡面状に研磨するのではなく、所望の凹凸を有するように微細なスジを形成しないと、溶湯パドルの振動を効果的に抑制できないことも分った。
【0012】
その結果、本発明者らは、(a) 前記溶湯ノズルに加熱ガスを吹き付けるためにスリット状開口部を有する加熱ノズルを使用し、前記加熱ノズルのスリット状開口部の長さを前記溶湯ノズルのスリット状オリフィスの水平方向長さの1.2〜2倍とし、熱ノズルから噴出する加熱ガスの温度を1000〜1400℃とすることにより溶湯パドルの温度分布ができるだけ小さくなるように溶湯ノズルの幅方向温度分布を±15℃以内に保つとともに、(b) 0.1〜1μmの平均粗さRa及び0.5〜10μmの最大粗さRmaxを有する微細なスジが形成されるようにワイヤーブラシにより冷却ロール表面を研磨しながら合金溶湯を回転する冷却ロール上に噴出すると、Fe基アモルファス合金薄帯の自由面に幅方向谷部からなる波状凹凸が形成されるだけでなく、幅方向谷部の蛇行が低減されることを発見し、本発明に想到した。
【0013】
【0014】
【0015】
【0016】
【0017】
【0018】
すなわち、長手方向にほぼ一定間隔で並ぶ幅方向谷部を有する波状凹凸が自由面に形成されており、前記谷部の平均振幅Dが20 mm以下であるFe基アモルファス合金薄帯を単ロール法により製造する本発明の方法は、(a) 前記溶湯ノズルに加熱ガスを吹き付けるためにスリット状開口部を有する加熱ノズルを使用し、前記加熱ノズルのスリット状開口部の長さを前記溶湯ノズルのスリット状オリフィスの水平方向長さの1.2〜2倍とし、熱ノズルから噴出する加熱ガスの温度を1000〜1400℃とすることにより前記合金の溶湯パドルの温度分布ができるだけ小さくなるように溶湯ノズルの幅方向温度分布を±15℃以内に保つとともに、(b) ワイヤーブラシにより冷却ロール表面に無数の微細なスジを形成し、もって前記冷却ロールの研磨面が0.1〜1μmの平均粗さRa及び0.5〜10μmの最大粗さRmaxを有するようにすることを特徴とする。
【0019】
上記方法において、前記溶湯ノズル及び前記加熱ノズルの開口部を収納し、かつ前記冷却ロールとの間に隙間を有するフードを設けるのが好ましい。
【0020】
本発明の鉄心は、上記Fe基アモルファス合金薄帯を積層又は巻回してなることを特徴とする。
【0021】
【発明の効果】
【0022】
本発明の製造方法により得られるFe基アモルファス合金薄帯は、自由面に波状凹凸が形成されており、前記波状凹凸は長手方向にほぼ一定間隔で並ぶ幅方向谷部を有し、前記谷部の平均振幅Dが20 mm以下であり渦電流損失が低減しているだけでなく、ヒステリシス損失も抑制されており、もって著しく低鉄損である。このようなFe基アモルファス合金薄帯を積層又は巻回してなる鉄心は、低鉄損のために効率が良く、かつ低皮相電力のために騒音が少ないので、配電用トランス、各種リアクトル、チョークコイルや磁気スイッチ等に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】Fe基アモルファス合金薄帯の自由面に形成された波状凹凸を概略的に示す平面図である。
図2】Fe基アモルファス合金薄帯の自由面に形成された波状凹凸の長手方向プロフィールを示す図である。
図3(a)】本発明のFe基アモルファス合金薄帯を製造する装置の一例を示す概略図である。
図3(b)】本発明のFe基アモルファス合金薄帯を製造する装置の他の例を示す概略図である。
図4(a)】図3(a) の装置における溶湯ノズル付近を詳細に示す部分断面図である。
図4(b)】図3(a)のA-A断面図である。
図5】本発明のFe基アモルファス合金薄帯を製造する装置のさらに他の例の要部を詳細に示す部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
[1] 原理
Fe基アモルファス合金からなるFe基軟磁性合金薄帯を単ロール法で製造する場合、溶湯ノズルと冷却ロールとの間に形成される溶湯パドルはどうしても振動する。溶湯パドルの振動は、溶湯パドルの粘度及び表面張力、溶湯ノズルの温度分布、冷却ロールの表面状態等に影響される。溶湯ノズルに温度分布があると、溶湯ノズルの局部的変形、溶湯ノズルと冷却ロールとの間隔の幅方向変動等が起きる。また溶湯パドルに温度分布があると、温度が低い溶湯パドル部分に接する冷却ロール表面に酸化物等が付着し、溶湯パドルの振動が大きくなる。溶湯パドルの振動は、製造すべきFe基アモルファス合金薄帯が幅広になるほど大きく、具体的には20 mm以上、特に50 mm以上の幅を有するFe基アモルファス合金薄帯では顕著になる。これは、Fe基アモルファス合金薄帯が幅広になるほど、溶湯パドルの温度分布の影響が大きくなるためであると考えられる。
【0025】
溶湯パドルの振動が大きくなると、Fe基アモルファス合金薄帯の自由面に形成される波状凹凸の乱れが大きくなり、その結果波状凹凸を構成する個々の谷部の幅方向乱れも大きくなる。谷部の幅方向乱れは磁壁移動を妨げ、ヒステリシス損失を増加させる。
【0026】
この問題を解決するために鋭意検討した結果、溶湯パドルの振動を防止するために溶湯ノズルを一定温度に加熱することが有効であるが、溶湯ノズルを加熱すると溶湯パドルの振動の原因となる酸化物の付着等が起こりやすくなるという問題も起こることが分った。そこでさらに検討した結果、溶湯ノズルの温度変化を幅方向にできるだけ小さくするとともに、ワイヤーブラシにより冷却ロール表面を研磨して無数の微細なスジを形成すると、溶湯パドルの振動を効果的に低減できることが分った。これは、冷却ロールの表面をできるだけ鏡面状にしておくのが良いという従来からの考え方に真向から反する。このように、本発明は冷却ロールの表面に微細なスジを形成すると、溶湯ノズルの温度分布の低減による溶湯パドルの振動抑制効果がいっそう増大するという発見に基づくものである。
【0027】
[2] Fe基アモルファス合金薄帯
図1は、Fe基アモルファス合金薄帯1の自由面の波状凹凸2を模式的に示す。波状凹凸2を構成する谷部3は磁区の細分化により渦電流損失の低減に寄与するので、波状凹凸2は薄帯1の幅方向全体に形成されているのが望ましいが、薄帯1の長手方向中心線を中心として幅方向に70%以上占めていれば十分な渦電流損失の低減効果が得られる。波状凹凸2の幅方向占有率は80%以上が好ましく、100%が最も好ましい。なお、谷部3が幅方向に断絶していても、波状凹凸2の幅方向占有率が全体的に70%以上であれば良い。波状凹凸2の幅方向占有率は、薄帯1の長手方向に任意の5つの領域(長手方向50 mm)を選択し、各領域において測定した幅方向占有率を平均化することにより求める。
【0028】
図1に示すように、幅方向に延在する谷部3は波状に曲がっている。谷部3の乱れが大きくなると(波の振幅が大きくなると)、磁化の際に磁壁の移動が妨げられ、ヒステリシス損失が大きくなる。従って、谷部3は幅方向にできるだけ乱れ(波の振幅)が小さい必要がある。谷部3の幅方向乱れは平均振幅Dにより表すことができる。平均振幅Dは、任意の5つの領域(長手方向50 mm)を選択し、各領域における谷部3の平均振幅を求め、それをさらに5つの領域で平均化することにより求める。谷部3が幅方向に対して傾斜している場合、平均振幅Dは薄帯1の長手方向と平行に測定する。
【0029】
谷部3の幅方向乱れを表す平均振幅Dが20 mm以下であると渦電流損失の低減効果に加えてヒステリシス損失の増加を抑えることができるため、ヒステリシス損失が低い。平均振幅Dが20 mmを超えるとヒステリシス損失が増加する。これは、谷部3近傍では磁気エネルギーが変化するが、谷部3の幅方向乱れが大きいと磁気エネルギーの幅方向変化も大きくなるため、磁気エネルギーが低い位置で磁壁がトラップされやすくなり、磁壁移動がスムーズに起こらなくなるためであると考えられる。さらに、谷部3の幅方向乱れにより薄帯1の長手方向に平行でない磁化方向を有する磁区の割合が増加し、励磁電力も増加する傾向がある。このように平均振幅Dが20 mmを超えるとヒステリシス損失及び励磁電力の増加を招くので、谷部3の平均振幅Dは20 mm以下でなければならない。谷部3の平均振幅Dは5 mm以下が好ましく、0.1〜2 mmがより好ましい。
【0030】
図2に示すように、波状凹凸2を構成する谷部3は長手方向にほぼ一定間隔で並んでいる。谷部3の長手方向間隔Lは1〜5 mmの範囲にあるのが好ましい。谷部3の長手方向間隔Lが1 mm未満では皮相電力が大きく、また5 mmを超えると渦電流損失の低減効果が小さくなる。渦電流損失の低減効果を大きくするために、谷部3の長手方向間隔Lは1.5〜3 mmであるのがより好ましい。
【0031】
谷部3に長手方向に隣接する領域に山部4が形成されている。十分な渦電流損失の低減効果を得るために、谷部3と山部4の平均高低差tは0.3〜7μmであるのが好ましく、1〜4μmであるのがより好ましい。平均高低差tは、任意の5つの領域(長手方向50 mm)を選択し、各領域における谷部3と山部4の平均高低差を求め、それをさらに5つの領域で平均化することにより求める。また薄帯1の厚さTは15〜35μmの範囲にあるのが好ましい。さらに、谷部3と山部4の平均高低差tと薄帯1の厚さTとの比t/Tは0.02〜0.2の範囲にあるのが好ましい。t/Tが0.02未満では渦電流損失の低減効果が小さく、また0.2を超えると皮相電力の増加するだけでなく、鉄心の占積率が低下する。t/Tのより好ましい範囲は0.04〜0.15である。
【0032】
Fe基アモルファス合金としては、Fe-B合金、Fe-Si-B合金、Fe-Si-B-C合金、Fe-Si-B-P合金、Fe-Si-B-C-P合金、Fe-P-B合金、Fe-P-C合金等が挙げられ、中でもFe-Si-B合金が熱的安定性及び製造容易性の観点から優れている。Fe基アモルファス軟磁性合金薄帯は、必要に応じて、Co,Ni,Mn,Cr,V,Mo,Nb,Ta,Hf,Zr,Ti,Cu,Au,Ag,Sn,Ge,Re,Ru,Zn,In,Ga等を含有しても良い。
【0033】
Fe基アモルファス合金の一例は、Fe100-a-b-cMaSibBc(原子%)(ただし、MはCr、Mn、Ti、V、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、W及びSnから選ばれた少なくとも1種の元素であり、0≦a≦10、0≦b≦20、4≦c≦20、及び10≦a+b+c≦35である。)により表される組成を有する。Mはアモルファス化を促進する効果を有する。誘導磁気異方性を制御するために、Feの50原子%未満をCo及び/又はNiで置換しても良い。Coは飽和磁束密度を向上する効果も有する。また、Mの50質量%以下をZn、As、Se、Sb、In、Cd、Ag、Bi、Mg、Sc、Re、Au、白金族元素、Y及び希土類元素から選ばれた少なくとも1種の元素で置換しても良い。さらに耐食性及び熱的安定性を向上するために、SiとBの総量の50原子%以下をC、Al、P、Ga及びGeから選ばれた少なくとも1種の元素で置換しても良い。
【0034】
【0035】
【0036】
[3] 製造方法
図3(a) は本発明のFe基アモルファス合金薄帯を製造するのに用いる装置の一例を示す。この装置は、Fe基合金溶湯11を収容する坩堝12と、溶湯11を加熱するために坩堝12の外周に配置された高周波コイル13と、溶湯11を冷却ロール15上に噴出するために坩堝12の底面に設けられた溶湯ノズル14と、冷却ロール15上で急冷により形成されたFe基アモルファス合金薄帯を剥離するためのガスを噴出する剥離ノズル17と、Fe基アモルファス合金薄帯16を巻き取るリール18と、溶湯ノズル14の温度を一定に保つための加熱ガスを噴出する加熱ノズル21と、溶湯パドル11aより回転方向上流側で冷却ロール15に接触するように配置されたワイヤーブラシロール22とを具備する。溶湯11を噴出する溶湯ノズル14のオリフィスはスリット状である。
【0037】
図4(a) 及び図4(b) に示すように、溶湯パドル11a及び溶湯ノズル14の付近に配置された加熱ノズル21のスリット状オリフィス開口部は、溶湯ノズル14を十分にカバーする幅Wnと、溶湯ノズル14のスリット状オリフィスの水平方向長さLsを十分に超える長さLnを有する。具体的には、加熱ノズル21のスリット状開口部の長さLnはLsの1.2〜2倍が好ましい。溶湯パドル11aの温度分布ができるだけ小さくなるように、溶湯ノズル14の幅方向温度分布を±15℃以内に保つ必要がある。そのために、加熱ノズル21から噴出する加熱ガスの温度は800〜1400℃が好ましく、1000〜1200℃がより好ましい。加熱ガスは、炭酸ガス、アルゴンガス等の不活性ガスが好ましい。
【0038】
冷却ロール15の表面を研磨するワイヤーブラシロール22は、冷却ロール15の研磨面に無数の微細なスジを形成するように冷却ロール15より硬い金属ワイヤーからなるのが好ましい。このような金属ワイヤーとしてはステンレススチールのワイヤーが好ましい。ステンレススチールのワイヤーの直径は0.02〜0.1 mm程度が好ましい。
【0039】
ワイヤーブラシロール22による研磨により冷却ロール15の表面に形成される微細なスジの粗さは平均粗さRa及び最大粗さRmaxにより表される。平均粗さRa及び最大粗さRmaxは金属ワイヤーの硬さ及び直径だけでなく、冷却ロール15に対するワイヤーブラシロール22の押圧力、ワイヤーブラシロール22の回転数及び回転方向、冷却ロール15の単位面積に接触する金属ワイヤーの本数等にも依存する。これらの条件を調整して、冷却ロール15の研磨面が0.1〜1μmの平均粗さRa及び0.5〜10μmの最大粗さRmaxを有するようにする。平均粗さRaが0.1μm未満であると溶湯パドル11aの振動抑制効果が十分に得られず、また1μm超であると冷却ロール15の表面のスジが大きすぎて、得られる超急冷Fe基アモルファス合金薄帯の磁気特性が低下する。最大粗さRmaxも同様に、0.5μm未満であると溶湯パドル11aの振動抑制効果が十分に得られず、また10μm超であると冷却ロール15の表面のスジが大きすぎて、得られる超急冷Fe基アモルファス合金薄帯の磁気特性が低下する。好ましい平均粗さRaは0.2〜0.8μmであり、好ましい最大粗さRmaxは1〜5μmである。
【0040】
上記平均粗さRa及び最大粗さRmaxを有する微細なスジを形成するワイヤーブラシロール22は1つに限らず、回転方向に沿って2つ以上を配置しても良い。また、図3(b) に示すように、ワイヤーブラシロール22の回転方向下流側にバリ取り用の研磨ロール23を配置しても良い。研磨ロール23としては、例えばダイヤモンド砥粒等の研磨材が練りこまれた化学繊維からなるバフィング用のロール状ブラシを用いることができる。
【0041】
冷却ロール15の研磨面が鏡面よりも上記微細なスジを有する方が溶湯パドル11aの振動抑制効果が大きい理由は必ずしも明らかでない。冷却ロール15の表面を鏡面状にしても全く傷等の欠陥がない訳ではなく、鏡面の一部に僅かな欠陥があっても大きな影響があり、溶湯パドル11aを不安定化させて振動させると考えられる。これに対して、冷却ロール15の研磨面に微細なスジが全体的に形成されると、局部的には不均一であるが全体的にはかえって均一化されており、かつ一部に欠陥があってもその影響を緩和する効果があるので、溶湯パドル11aが安定化すると考えられる。
【0042】
冷却ロール15の表面の微細なスジによる溶湯パドル11aの振動抑制効果は、溶湯パドル11aの温度分布ができるだけ小さくなるように溶湯ノズル14の温度を一定に保たなければ適度にならない。換言すれば、冷却ロール15の表面に微細なスジを形成しただけ、又は溶湯ノズル14の温度を一定に保つだけでは、十分な溶湯パドル11aの振動抑制効果が得られない。両手段を併用して始めて、適度な溶湯パドル11aの振動抑制効果が得られる。このように溶湯パドル11aの振動は僅かな条件の変動によっても起こるので、それを抑制する手段を発見することは容易ではない。本発明では、冷却ロール15表面への微細なスジの形成と、溶湯ノズル14の温度分布の低減とを組合せることにより、磁区を細分化する波状凹凸により渦電流損失を低減させるとともに、波状凹凸の幅方向谷部の振幅を抑制することによりヒステリシス損失の増大を防止するという困難な要件を同時に満たすことに成功した。
【0043】
図5は、溶湯ノズル14の温度を一定に保つためにフード24が設けられた例を示す。加熱ノズル21はフード24に固定されており、そのスリット状開口部はフード24内に位置する。加熱ノズル21のスリット状開口部から噴出された加熱ガスはフード24と冷却ロール15との間から流出するので、溶湯ノズル14の温度分布を確実に低減することができる。
【0044】
得られたFe基アモルファス合金薄帯は熱処理しても良い。熱処理は、350〜650℃の温度でAr、窒素等の不活性ガス中で行うのが好ましい。熱処理時間は通常24時間以下であり、好ましくは5分〜4時間である。本発明のFe基アモルファス合金薄帯に、絶縁性を高めるために、必要に応じてSiO2、MgO、Al2O3等のコーティング、化成処理、アノード酸化処理等の処理を行っても良い。
【0045】
[4] 鉄心
本発明の鉄心は、前記Fe基アモルファス合金薄帯を積層又は巻回してなる。本発明のFe基アモルファス合金薄帯の渦電流損失及びヒステリシス損失はともに低減されているので、それを用いた鉄心は低鉄損である。鉄心は、窒素ガス、Ar等の不活性ガス中、真空中又は大気中で熱処理する。熱処理中、鉄心の磁路方向に磁界を印加すると、高角形比で皮相電力及び鉄損が低い鉄心が得られる。高角形比を得る場合、鉄心が磁気的に飽和する強さの磁界を印加する。磁界の強さは好ましくは400 A/m以上であり、より好ましくは800 A/m以上である。印加する磁界は直流磁界が多いが、交流磁界でも良い。熱処理は単段でも多段でも良い。
【0046】
本発明を以下の実施例により詳細に説明するが、本発明はそれらに限定されるものではない。
【0047】
実施例1
図3(a) に示す装置において、長さ50 mm及び幅0.6 mmのスリット状開口部を有するセラミックス製溶湯ノズル14を用い、溶湯ノズル14の先端と冷却ロール15との間隔を250μmとした。Cu-Cr-Zr合金製の水冷ロール15は周速25.5 m/sで回転させた。加熱ノズル21から1250℃の炭酸ガスを噴出しながら、溶湯ノズル14から回転する水冷ロール15上に、11.5原子%のB、9.5原子%のSi及び0.3原子%のCを含有し、残部実質的にFe及び不可避的不純物からなる1300℃の合金溶湯を噴出し、幅50 mm及び平均板厚24.3μmのFe基アモルファス合金薄帯を製造した。Fe基アモルファス合金薄帯の製造中、溶湯ノズル14の幅方向温度分布は1200℃±10℃と非常に均一であった。
【0048】
Fe基アモルファス合金薄帯の製造中、直径0.06 mmのステンレススチールワイヤーからなるワイヤーブラシロール11を冷却ロール15と反対方向に周速3 m/sで回転させた。ワイヤーブラシロール11により研磨された冷却ロール15の表面には、0.6μmの平均粗さRa及び4.7μmの最大粗さRmaxを有する微細なスジが形成されていた。この結果、冷却ロール15への酸化物の付着が抑制された。
【0049】
得られたFe基アモルファス合金薄帯はX線回折においてアモルファス特有のハローパターンを示した。Fe基アモルファス合金薄帯の自由面に形成された波状凹凸2は薄帯の幅の80%の範囲にわたって連続した谷部3を有し、谷部3の平均振幅Dは8.2 mmであり、平均長手方向間隔Lは2.0 mmであり、谷部3と山部4の平均高低差tは3.0μm以下であった。
【0050】
比較例1
加熱ノズル21から加熱炭酸ガスを噴出しない以外実施例1と同じ条件で、Fe基アモルファス合金薄帯を製造した。このFe基アモルファス合金薄帯はX線回折においてハローパターンを示し、その自由面に形成された波状凹凸2は薄帯の幅の80%の範囲にわたって連続した谷部3を有していた。波状凹凸2の平均長手方向間隔L及び谷部3と山部4の平均高低差tは実施例1とほぼ同じであったが、谷部3の平均振幅Dは24.0 mmと著しく大きかった。
【0051】
比較例2
ワイヤーブラシロール11を用いない以外実施例1と同じ条件で、Fe基アモルファス合金薄帯を製造した。このFe基アモルファス合金薄帯はX線回折においてハローパターンを示し、その自由面に形成された波状凹凸2は薄帯の幅の80%の範囲にわたって連続した谷部3を有していた。長時間の製造中に冷却ロール15に酸化物が付着したために、Fe基アモルファス合金薄帯の自由面における波状凹凸2は著しく乱れており、平均長手方向間隔Lは2.1 mmであり、谷部3と山部4の平均高低差tは7.3μmであり、谷部3の平均振幅Dは26.4 mmであった。
【0052】
実施例1並びに比較例1及び2のFe基アモルファス合金薄帯の長手方向に1500 A/mの磁界を印加しながら、350℃で60分間熱処理を行った。熱処理後のFe基アモルファス合金薄帯の単板試料の直流B-Hループを測定し、1.3 T及び50 Hzにおけるヒステリシス損失Ph1.3/50を求めた。更にシングルシートテスター(単板磁気特性評価装置)により、単板試料の1.3 T及び50 Hzにおける鉄損P1.3/50及び励磁電力S1.3/50を測定した。結果を表1に示す。
【0053】
【表1】
【0054】
表1から明らかなように、波状凹凸2の乱れが小さい(谷部3の平均振幅Dが8.2 mmと小さい)実施例1のFe基アモルファス合金薄帯のヒステリシス損失Ph1.3/50は0.033 W/kgであり、鉄損P1.3/50は0.053 W/kgであり、励磁電力S1.3/50は0.070 VA/kgであり、比較例1及び2のFe基アモルファス合金薄帯のものより小さかった。
【0055】
実施例2〜19
図3(a) に示す装置において、長さ30 mm及び幅0.5〜0.7 mmのスリット状開口部を有するセラミックス製溶湯ノズル14を用い、溶湯ノズル14の先端と冷却ロール15との間隔を150〜300μmとした。Cu-Be合金製の水冷ロール15は周速20〜35 m/sで回転させた。加熱ノズル21から1190℃の炭酸ガスを噴出しながら、溶湯ノズル14から回転する水冷ロール15上に、表2に示す組成(原子%)を有する1250〜1350℃の各合金溶湯を噴出し、幅30 mmのFe基アモルファス合金薄帯を製造した。Fe基アモルファス合金薄帯の製造中、溶湯ノズル14の幅方向温度分布は1200℃±10℃と非常に均一であった。
【0056】
Fe基アモルファス合金薄帯の製造中、直径0.03 mmのステンレススチールワイヤーからなるワイヤーブラシロール11を冷却ロール15と反対方向に周速4 m/sで回転させた。ワイヤーブラシロール11により研磨された冷却ロール15の表面には、0.25μmの平均粗さRa及び2.7μmの最大粗さRmaxを有する微細なスジが形成されていた。この結果、冷却ロール15への酸化物の付着が抑制された。
【0057】
比較例3〜6
加熱ノズル21から加熱炭酸ガスを噴出しない以外実施例2〜19と同じ条件で、Fe基アモルファス合金薄帯を製造した。Fe基アモルファス合金薄帯の製造中、溶湯ノズル14の幅方向温度分布は1200℃±30℃と大きかった。
【0058】
Fe基アモルファス合金薄帯の製造中、直径0.05 mmのステンレススチールワイヤーからなるワイヤーブラシロール11を冷却ロール15と反対方向に周速5 m/sで回転させた。ワイヤーブラシロール11により研磨された冷却ロール15の表面には、0.4μmの平均粗さRa及び2.3μmの最大粗さRmaxを有する微細なスジが形成されていた。この結果、冷却ロール15への酸化物の付着が抑制された。
【0059】
実施例2〜19及び比較例3〜6で得られたFe基アモルファス合金薄帯はいずれもX線回折においてアモルファス特有のハローパターンを示した。各Fe基アモルファス合金薄帯は表2に示す厚さTを有していた。また各Fe基アモルファス合金薄帯の自由面に形成された波状凹凸2は薄帯の幅の100%の範囲にわたって連続した谷部3を有し、表2に示す谷部の平均振幅Dは8.9 mm及び平均長手方向間隔Lは2.5 mm、並びに平均0.1のt/Tを有していた。
【0060】
【表2】
【0061】
実施例2〜19及び比較例3〜6の各Fe基アモルファス合金薄帯の長手方向に1000 A/mの磁界を印加しながら、350℃で60分間熱処理を行った。熱処理後のFe基アモルファス合金薄帯の単板試料の直流B-Hループを測定し、1.3 T及び50 Hzにおけるヒステリシス損失Ph1.3/50を求めた。更にシングルシートテスターにより、単板試料の1.3 T及び50 Hzにおける鉄損P1.3/50及び励磁電力S1.3/50を測定した。結果を表3に示す。
【0062】
【表3】
【0063】
表3から明らかなように、実施例2〜19のFe基アモルファス合金薄帯の鉄損P1.3/50及び励磁電力S1.3/50はともに比較例3〜6のFe基アモルファス合金薄帯のものより小さかった。これは、実施例2〜19のFe基アモルファス合金薄帯の方が比較例3〜6のFe基アモルファス合金薄帯よりヒステリシス損失Ph1.3/50が小さいためである。
【0064】
実施例20〜39
図3(a) に示す装置において、長さ30 mm及び幅0.5〜0.7 mmのスリット状開口部を有するセラミックス製溶湯ノズル14を用い、溶湯ノズル14の先端と冷却ロール15との間隔を150〜300μmとした。Cu-Be合金製の水冷ロール15は周速20〜35 m/sで回転させた。加熱ノズル21から1250℃の炭酸ガスを噴出しながら、溶湯ノズル14から回転する水冷ロール15上に、表4に示す組成(原子%)を有する1250〜1350℃の各合金溶湯を噴出し、幅30 mmのFe基アモルファス合金薄帯を製造した。Fe基アモルファス合金薄帯の製造中、溶湯ノズル14の幅方向温度分布は1200℃±10℃と非常に均一であった。
【0065】
Fe基アモルファス合金薄帯の製造中、直径0.04 mmのステンレススチールワイヤーからなるワイヤーブラシロール11を冷却ロール15と反対方向に周速4 m/sで回転させた。ワイヤーブラシロール11により研磨された冷却ロール15の表面には、0.5μmの平均粗さRa及び2.5μmの最大粗さRmaxを有する微細なスジが形成されていた。この結果、冷却ロール15への酸化物の付着が抑制された。
【0066】
比較例7〜10
加熱ノズル21から加熱炭酸ガスを噴出しない以外実施例20〜39と同じ条件で、Fe基アモルファス合金薄帯を製造した。Fe基アモルファス合金薄帯の製造中、溶湯ノズル14の幅方向温度分布は1200℃±35℃と大きかった。
【0067】
Fe基アモルファス合金薄帯の製造中、直径0.08 mmのステンレススチールワイヤーからなるワイヤーブラシロール11を冷却ロール15と反対方向に周速5 m/sで回転させた。ワイヤーブラシロール11により研磨された冷却ロール15の表面には、0.7μmの平均粗さRa及び3.9μmの最大粗さRmaxを有する微細なスジが形成されていた。この結果、冷却ロール15への酸化物の付着が抑制された。
【0068】
実施例20〜39及び比較例7〜10で得られたFe基アモルファス合金薄帯はいずれもX線回折においてアモルファス特有のハローパターンを示した。各Fe基アモルファス合金薄帯は表4に示す厚さTを有していた。また各Fe基アモルファス合金薄帯の自由面に形成された波状凹凸2は薄帯の幅の95%の範囲にわたって連続した谷部3を有し、表4に示す谷部3の平均振幅Dは9.0 mm及び平均長手方向間隔Lは2.9 mm、並びに平均0.1のt/Tを有していた。
【0069】
【表4】
【0070】
実施例20〜39及び比較例7〜10の各Fe基アモルファス合金薄帯の長手方向に1000 A/mの磁界を印加しながら、350℃で60分間熱処理を行った。X線回折の結果、熱処理後のFe基アモルファス合金薄帯にはbcc-Fe相に相当する結晶ピークが観察され、アモルファス相が50%未満になったことが認められた。bcc-Fe結晶ピークの半価幅(Scherrerの式)から求めた平均結晶粒径は30 nm以下であった。
【0071】
熱処理後のFe基アモルファス合金薄帯の単板試料の直流B-Hループを測定し、1.3 T及び50 Hzにおけるヒステリシス損失Ph1.3/50を求めた。更にシングルシートテスターにより、単板試料の1.3 T及び50 Hzにおける鉄損P1.3/50及び励磁電力S1.3/50を測定した。結果を表5に示す。
【0072】
【表5】
【0073】
表5から明らかなように、実施例20〜39のFe基アモルファス合金薄帯の鉄損P1.3/50及び励磁電力S1.3/50はともに比較例7〜10のFe基アモルファス合金薄帯のものより小さかった。これは、実施例20〜39のFe基アモルファス合金薄帯の方が比較例7〜10のFe基アモルファス合金薄帯よりヒステリシス損失Ph1.3/50が小さいためである。
【0074】
実施例40
図3(a) に示す装置において、長さ25 mm及び幅0.6 mmのスリット状開口部を有するセラミックス製溶湯ノズル14を用い、溶湯ノズル14の先端と冷却ロール15との間隔を240μmとした。Cu-Cr合金製の水冷ロール15は周速25.5 m/sで回転させた。加熱ノズル21から1250℃の炭酸ガスを噴出しながら、溶湯ノズル14から回転する水冷ロール15上に、15.1原子%のB、3.5原子%のSi及び0.2原子%のCを含有し、残部実質的にFe及び不可避的不純物からなる1280℃の合金溶湯を噴出し、幅25 mm及び平均板厚24.7μmのFe基アモルファス合金薄帯を製造した。Fe基アモルファス合金薄帯の製造中、溶湯ノズル14の幅方向温度分布は1195℃±10℃と非常に均一であった。
【0075】
Fe基アモルファス合金薄帯の製造中、直径0.09 mmのステンレススチールワイヤーからなるワイヤーブラシロール11を冷却ロール15と反対方向に周速6 m/sで回転させた。ワイヤーブラシロール11により研磨された冷却ロール15の表面には、1μmの平均粗さRa及び5μmの最大粗さRmaxを有する微細なスジが形成されていた。この結果、冷却ロール15への酸化物の付着が抑制された。
【0076】
得られたFe基アモルファス合金薄帯はX線回折においてアモルファス特有のハローパターンを示した。またFe基アモルファス合金薄帯の自由面に形成された波状凹凸2は薄帯の幅の80%の範囲にわたって連続した谷部3を有し、谷部3の平均振幅Dは7.4 mmであり、平均長手方向間隔Lは2.0 mmであり、谷部3と山部4の平均高低差tは3.0μm以下であった。
【0077】
このFe基アモルファス合金薄帯を巻回して、外径75 mm及び内径70 mmの実施例40の巻鉄心を製造した。磁路方向に1000 A/mの磁界を印加しながら、330℃で60分間熱処理を行った。昇温速度及び冷却速度はいずれも5℃/分であった。熱処理した巻鉄心の直流B-Hループを測定し、1.3 T及び50 Hzにおけるヒステリシス損失Ph1.3/50を求めた。更に交流磁気特性評価装置による測定の結果、1.3 T及び50 Hzにおける巻鉄心の鉄損は0.055 W/kgであり、励磁電力S1.3/50は0.073 VA/kgであった。
【0078】
比較例11
加熱ノズル21から加熱炭酸ガスを噴出しない以外実施例40と同じ条件で製造したFe基アモルファス合金薄帯を用いて、巻鉄心を製造した。Fe基アモルファス合金薄帯の自由面に形成された波状凹凸2における谷部3の平均振幅Dは24.6 mmであった。また1.3 T及び50 Hzにおける巻鉄心の鉄損P1.3/50は0.103 W/kgであり、励磁電力S1.3/50は0.123 VA/kgであった。これから、本発明の要件を満たさないと、鉄損及び励磁電力が大きくなることが分かる。
図1
図2
図3(a)】
図3(b)】
図4(a)】
図4(b)】
図5