特許第6107308号(P6107308)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6107308
(24)【登録日】2017年3月17日
(45)【発行日】2017年4月5日
(54)【発明の名称】シリコン単結晶製造方法
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/06 20060101AFI20170327BHJP
   C30B 15/00 20060101ALI20170327BHJP
   C30B 15/22 20060101ALI20170327BHJP
【FI】
   C30B29/06 502C
   C30B15/00 Z
   C30B15/22
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-68130(P2013-68130)
(22)【出願日】2013年3月28日
(65)【公開番号】特開2014-189468(P2014-189468A)
(43)【公開日】2014年10月6日
【審査請求日】2015年2月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000190149
【氏名又は名称】信越半導体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(72)【発明者】
【氏名】櫻田 昌弘
(72)【発明者】
【氏名】星 亮二
(72)【発明者】
【氏名】布施川 泉
【審査官】 山田 頼通
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−212691(JP,A)
【文献】 特開2007−182355(JP,A)
【文献】 特開2005−306679(JP,A)
【文献】 特開2004−107132(JP,A)
【文献】 特開2000−327481(JP,A)
【文献】 特開平05−330975(JP,A)
【文献】 特開平02−302389(JP,A)
【文献】 特開2004−338979(JP,A)
【文献】 特開2005−145742(JP,A)
【文献】 特開2005−119964(JP,A)
【文献】 特開2005−029467(JP,A)
【文献】 特開2005−060153(JP,A)
【文献】 特開2004−224577(JP,A)
【文献】 特開2004−175620(JP,A)
【文献】 特開2004−231474(JP,A)
【文献】 特開平10−273392(JP,A)
【文献】 特開平10−081593(JP,A)
【文献】 特開平5−294782(JP,A)
【文献】 特開2002−47093(JP,A)
【文献】 特開平7−187899(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 1/00−35/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料融液を収容する石英ルツボと、該石英ルツボを格納するメインチャンバーとを具備するシリコン単結晶製造装置を用いて、チョクラルスキー法によって前記原料融液からシリコン単結晶を引上げるシリコン単結晶製造方法であって、
前記シリコン単結晶製造装置として、
前記メインチャンバーに導入されるガスの流れを整えるための円筒形状のガス整流筒が、前記メインチャンバーの天井部または該メインチャンバー上に連設された引上げチャンバー内に設けられた冷却筒から原料融液面に向かって延伸し、前記引上げるシリコン単結晶を囲繞するように原料融液面の上方に配設されており、該ガス整流筒の原料融液面側にはリング状の熱遮蔽板が配設されており、
該リング状の熱遮蔽板は、径方向に沿って内周側から外周側へいくほど上方に向かって傾斜する底面を有しており、該底面は、前記囲繞するシリコン単結晶側の内周傾斜面と、該内周傾斜面よりも外側に位置する外周傾斜面とを有しており、
前記内周傾斜面の傾斜角αは水平方向に対し0°以上30°以下(0°を除く)であり、前記外周傾斜面の傾斜角βは水平方向に対し5°より大きく40°以下であり、かつ傾斜角α<傾斜角βであり、
前記石英ルツボの下方にはさらに下部断熱板が配設されているものを用い、
前記原料融液面の最高温度をシリコンの融点よりも10℃〜55℃の範囲で高温になるよう制御しつつ、前記シリコン単結晶を引上げることを特徴とするシリコン単結晶製造方法。
【請求項2】
前記下部断熱板は肉厚が50mm以上であることを特徴とする請求項1に記載のシリコン単結晶製造方法。
【請求項3】
前記原料融液の内部の最高温度をシリコンの融点よりも40℃〜115℃の範囲で高温になるよう制御しつつ、前記シリコン単結晶を引上げることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のシリコン単結晶製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チョクラルスキー法によって原料融液からシリコン単結晶を引上げるシリコン単結晶製造装置およびこれを用いたシリコン単結晶製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
メモリーCPUや撮像素子など半導体デバイスの基板として用いられるシリコンウエーハを切り出すシリコン単結晶は、主にチョクラルスキー(CZ)法により製造されている。CZ法により作製されたシリコン単結晶中には酸素原子が含まれており、該シリコン単結晶から切り出されるシリコンウエーハを用いてデバイスを製造する際、シリコン原子と酸素原子とが結合して酸素析出物(BMD)が形成される。
これらはウエーハ内部の重金属などの汚染原子を捕獲してデバイス特性を向上させるIG能力を有することが知られており、ウエーハのバルク部の酸素析出量やBMD密度が高くなるほど高性能かつ信頼性の高いデバイスを得ることができる。
【0003】
近年ではシリコンウエーハ中の結晶欠陥を制御しつつ十分なIG能力を付与するために、単結晶成長中に酸素を高濃度に取り込むよう制御したり、炭素や窒素を意図的にドープするなどの製造方法が行われている。前記の方法によって製造されたシリコン単結晶から切り出されるシリコンウエーハに鏡面加工を施したポリッシュドウエーハ、鏡面加工後にウエーハ表層部の欠陥の抑制又はバルク内にIG層の形成を目的としてアニール処理を施したアニールウエーハ、エピタキシャル層を形成したエピタキシャルウエーハや、SOIウエーハなど、種々のウエーハの要求が高まっている。
【0004】
これらのウエーハは何段階ものデバイスプロセスを通過するため、デバイスプロセス中に不純物が素子領域へ侵入し電気特性を阻害したり、作製された撮像素子の画像ムラが生じるなどの問題があった。このため有害となり得る不純物の拡散を防止する技術の前進は必須課題であり、最近ではIG層を形成するBMDの密度のミリメートルオーダーの周期的な変動を精密に抑制し、面内分布の制御や均一性の制御技術の確立が望まれている。
そのような技術の前進は、CPUメモリーや撮像素子のみならず、太陽電池向け材料の特性の向上に貢献するため、極めて応用範囲が広く、前述の如く電気特性の向上や、デバイスプロセス中のウエーハの反りやスリップ転位の発生を防止するなどの効果がある。
【0005】
ここで特許文献1に、原料融液の充填域上方の結晶引き上げ域を取り囲む領域に温度制御板を設け、原料融液面の温度分布を、結晶引き上げ中の結晶固液界面において最も低く、ルツボ内壁面に向かう方向に次第に高くなるよう常時維持する技術について記述がある。前記技術によって、ルツボ内壁面の温度が下がらないように制御し、単結晶の成長および効率化の阻害要因を取り除くことができる。
【0006】
しかしながら、原料融液の表面温度が上がり過ぎると表面張力流の適正な制御が困難となり、単結晶成長中に取り込まれる格子間酸素濃度のばらつきの抑制や結晶欠陥の導入を均一に制御することが極めて困難となる。格子間酸素濃度のばらつきはデバイスプロセスにおいて酸素析出量のばらつきに影響を及ぼす。
【0007】
更に単結晶成長中は種々の欠陥も導入される。デバイスプロセスにおいてIG層を形成する場合、空孔欠陥の存在が重要であり、その密度の高さによって十分なゲッタリング能力を与えるBMD密度の大きさが決まる。しかしながら単結晶成長中に格子間シリコンが導入される場合、空孔と格子間シリコンとの反応によって空孔が消滅し、BMD析出のソースとなる単結晶中の空孔濃度が低下し、所望のBMD密度が得られないことがある。その十分な空孔濃度を導入するためには、点欠陥の段階で、成長方向に対して固液界面からの不連続な過剰な格子間シリコンの導入を抑える必要がある。
したがって、特許文献1の技術だけではBMDの密度のミリメートルオーダーの周期的な変動を精密に抑制するのには不十分である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平5−279172号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、BMDが均一に形成され、均一なゲッタリング能力を有し得るシリコン単結晶を製造することができるシリコン単結晶製造装置およびこれを用いたシリコン単結晶製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明は、原料融液を収容する石英ルツボと、該石英ルツボを格納するメインチャンバーとを具備し、チョクラルスキー法によって前記原料融液からシリコン単結晶を引上げるシリコン単結晶製造装置であって、前記メインチャンバーに導入されるガスの流れを整えるための円筒形状のガス整流筒が前記引上げるシリコン単結晶を囲繞するように原料融液面の上方に配設されており、該ガス整流筒の原料融液面側にはリング状の熱遮蔽板が配設されており、該リング状の熱遮蔽板は、径方向に沿って上方に向かって傾斜する底面を有しており、該底面は、前記囲繞するシリコン単結晶側の内周傾斜面と、該内周傾斜面よりも外側に位置する外周傾斜面とを有しており、前記内周傾斜面の傾斜角αは水平方向に対し0°以上30°以下であり、前記外周傾斜面の傾斜角βは水平方向に対し5°より大きく40°以下であり、かつ傾斜角α<傾斜角βであり、前記石英ルツボの下方にはさらに下部断熱板が配設されていることを特徴とするシリコン単結晶製造装置を提供する。
【0011】
引き上げた単結晶に関して、BMDの形成が精密かつ均一に制御されるためには、格子間酸素、空孔、格子間シリコンのような点欠陥を、引き上げる単結晶の固液界面において面内分布が均一となるよう導入されなければならない。それを実現させるためには実効偏析や温度勾配の変動に影響を及ぼす結晶引き上げ中の原料融液の温度の変動をより小さく制御することが重要である。原料融液温度は自然対流、強制対流そして表面張力流などのコンプレックスによって決定されるが、特に格子間酸素、空孔、格子間シリコンのような点欠陥のミクロな変動を抑制するためには、表面張力流の変動による原料融液の温度ムラを抑制することが効果的であることを本発明者らはつきとめた。
【0012】
そして本発明のシリコン単結晶製造装置であれば、上記のような底面を有する熱遮蔽板が配設されているため、原料融液の表面の温度勾配の制御を効果的に行うことができ、原料融液の温度ムラを抑制することが可能である。これにより格子間酸素、空孔、格子間シリコン等を固液界面において面内均一に導入しながらシリコン単結晶を引上げることができる。
【0013】
そして、この引上げたシリコン単結晶から、種々のデバイスプロセスにおいて、BMDが均一に形成され、均一なゲッタリング能力を有し得る優れたシリコン単結晶ウエーハの供給が可能である。このため、CPUメモリーや撮像素子などの半導体デバイス又は太陽電池の電気的特性を阻害しないシリコン単結晶ウエーハを製造することができ、安定的に供給することができる。
例えば、従来の装置で得られた単結晶では、結晶面内において酸素濃度が変動しており、面内における酸素析出量の最大値と最小値の格差が大きく、その結晶を用いて撮像素子を作製した場合、画像ムラが生じてしまうことがあった。しかし、本発明のシリコン単結晶製造装置であれば、より確実に酸素等を面内均一に結晶中に導入することができ、その結果、撮像素子の画像ムラの発生を抑制することができる。
【0014】
ここで傾斜角αが0°より小さい場合(マイナス値の場合)、原料融液面の最高温度とシリコン融点との差が大きくなりすぎてしまう(例えば、差が55℃を超えてしまう)。傾斜角βも同様の理由により5°以下であってはならない。また傾斜角αが30°を超える場合や、傾斜角βが40°を超える場合、あるいは傾斜角βが5°を超えていても傾斜角α>傾斜角βである場合には、シリコン単結晶からの放熱量が大きくなり、結晶直径を一定に制御するために加熱ヒーターを高電力に調節する必要がある。それによって原料融液内部の温度が過剰に高くなってしまう。
【0015】
また、下部断熱板が配設されているので、効果的に原料融液面や原料融液の内部の温度勾配を小さくすることができる。
【0016】
このとき、前記下部断熱板は肉厚が50mm以上であるものとすることができる。
このようなものであれば、より一層効果的に、原料融液面や原料融液の内部の温度勾配を小さくすることができ、格子間酸素等をシリコン単結晶の固液界面において面内均一に導入することができ、BMD密度、さらにはゲッタリング能力の面内分布が均一なシリコン単結晶ウエーハを得ることができる。
【0017】
このとき、上記シリコン単結晶製造装置を用いてシリコン単結晶を引上げるシリコン単結晶製造方法であって、前記原料融液面の最高温度をシリコンの融点よりも10℃〜55℃の範囲で高温になるよう制御しつつ、前記シリコン単結晶を引上げることができる。
【0018】
このように原料融液面の最高温度を制御すれば、表面張力流の温度ムラを一層抑制することができる。単結晶引上げ中に原料融液面の最高温度をシリコンの融点よりも55℃以下の範囲で高温に制御すれば、シリコン単結晶中に取り込まれる格子間酸素濃度の面内分布を著しく均一に近づけることができる。また一方で、原料融液面の最高温度をシリコンの融点よりも10℃以上高温に制御すれば、実操業において原料融液が冷却されて固化し易くなるのを効果的に抑制することができる。
【0019】
また、前記原料融液の内部の最高温度をシリコンの融点よりも40℃〜115℃の範囲で高温になるよう制御しつつ、前記シリコン単結晶を引上げることができる。
【0020】
このように原料融液の内部の最高温度を制御すれば、より一層対流による温度ムラの抑制が可能となる。これにより、シリコン単結晶中に取り込まれる格子間酸素濃度の面内分布を更に均一にすることができる。
【発明の効果】
【0021】
以上のように、本発明によれば、BMDが均一に形成され、均一なゲッタリング能力を有し得るシリコン単結晶を製造することができる。そして、CPUメモリーや撮像素子などの半導体デバイス又は太陽電池の電気的な特性を阻害しないシリコン単結晶ウエーハを製造でき、安定的に供給することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明のシリコン単結晶製造装置の一例を示す概略図である。
図2】熱遮蔽板の一部を示す概略図である。
図3】原料融液面の温度分布を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明について、実施態様の一例として、図を参照しながら詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
図1は、本発明のシリコン単結晶製造装置の一例である。
シリコン単結晶製造装置1のメインチャンバー2内には、溶融された原料融液3を収容するためのルツボ4(石英ルツボ5と、該石英ルツボ5を支持する黒鉛ルツボ6)が設けられている。また、該メインチャンバー2上に連設された引上げチャンバー7の上部には、育成されたシリコン単結晶を引上げる引上げ機構(図示せず)が設けられている。
【0024】
引上げチャンバー7の上部に取り付けられた引上げ機構からは引上げワイヤ8が巻き出されており、その先端には、種ホルダに支持された種結晶9が取り付けられており、その種結晶9を原料融液3に浸漬し、引上げワイヤ8を引上げ機構によって巻き取ることで種結晶9の下方にシリコン単結晶10を形成する。
【0025】
なお、ルツボ4は、シリコン単結晶製造装置1の下部に取り付けられた回転駆動機構(図示せず)によって回転昇降自在なペデスタルと呼ばれる支持軸11の上に受け皿を介して支持されている。
【0026】
また、ルツボ4の周囲に配設された加熱ヒーター12の外側や上方には、周辺部断熱部材13が設けられている。一方、ルツボ4の下方には、下部断熱板14が設けられている。
また、チャンバー2、7には、ガス導入口15、ガス流出口16が設けられており、チャンバー2、7内部にアルゴンガス等を導入し、排出できるようになっている。
【0027】
そして、円筒形状のガス整流筒17が引上げ中のシリコン単結晶10を囲繞するように原料融液3の表面(原料融液面3’)の上方に配設されている。ガス整流筒17は例えば黒鉛材からなるものとすることができる。またガス整流筒17は、メインチャンバー2の天井部、あるいはメインチャンバー2の上部や引上げチャンバー7内に設けられた冷却筒18から原料融液面3’に向かって延伸するように設けられている。
さらに、ガス整流筒17の原料融液面側にはリング状の熱遮蔽板19が設けられている。
【0028】
なお、ガス整流筒17の下端(熱遮蔽板19)から原料融液面3’までの距離を調整したり、加熱ヒーター12の上下方向への駆動により発熱中心を移動することが可能な構造となっている。
メインチャンバー2内におけるホットゾーンの最適構造や原料融液面3’、加熱ヒーター12の発熱中心の位置関係などの最適条件は、熱数値解析シュミレーションソフトFEMAGの計算により算出して設定することができる。
【0029】
ここで熱遮蔽板19についてさらに詳述する。
図2に熱遮蔽板19の一部を示す。図2に示すように、ガス整流筒17の先端に、ガス整流筒17の内側(囲繞するシリコン単結晶10側)および外側(石英ルツボ5側)に突き出るように取り付けられている。そして熱遮蔽板19の底面20は、熱遮蔽板19の径方向に沿って上方に向かって傾斜しており、特には2段階の傾斜面を有している。囲繞するシリコン単結晶10側に位置する内周面(内周傾斜面21)と、その外側に位置する石英ルツボ5側の外周面(外周傾斜面22)とに分かれている。
【0030】
内周傾斜面21の傾斜角αは、水平方向に対し0°以上30°以下である。一方、外側傾斜面の傾斜角βは、水平方向に対し5°より大きく40°以下である。また、傾斜角αよりも傾斜角βの方が大きくなっている(傾斜角α<傾斜角β)。
傾斜角αはシリコン単結晶から至近領域の部位にあたる領域の傾斜角であるため、加熱ヒーターからシリコン単結晶に輻射熱が過剰に照射しないよう、傾斜角αの許容範囲を傾斜角βの許容範囲より小さく設計している。
【0031】
なお、内周傾斜面21と外周傾斜面22との境界位置は特に限定されず、各々の面の実際の傾斜角等に応じて、シミュレーション等を用いて最適条件になるよう適宜決定することができる。例えば内周傾斜面21は、内径がシリコン単結晶直径の1.1倍以上、外径がシリコン単結晶直径の2倍以下となるようにし、外周傾斜面22は、内径が石英ルツボ内径の0.6倍以上、外径が石英ルツボ内径の0.95倍以下となるように熱遮蔽板19を設計することができる。
【0032】
このような熱遮蔽板19が配設されているものであれば、シリコン単結晶10を引上げ中、原料融液面の温度勾配の制御を効果的に行うことができ、原料融液の温度ムラをより簡便に抑制することができる。特には、原料融液面の温度分布を所定の温度範囲(例えば、最高温度がシリコンの融点よりも10℃〜55℃)に制御することができる。
したがって、格子間酸素、空孔、格子間シリコン等を固液界面において面内均一に導入しながらシリコン単結晶を引上げることができる。そしてこのようなシリコン単結晶から切り出したウエーハは、デバイスプロセスなど熱処理を施した際にBMDを面内均一に形成することができ、面内均一なゲッタリング能力を備えることができる。撮像素子などにおいては、従来生じていた画像ムラの発生を抑制することもできる。
このように、CPUメモリーや撮像素子などの半導体デバイス又は太陽電池の電気的特性を阻害しない優れたシリコン単結晶ウエーハを得ることが可能になる。
【0033】
また、下部断熱板14により原料融液面や原料融液内部の温度勾配を小さくすることができる。そして、その肉厚は特に限定されないが、特には50mm以上とするのが好ましい。50mm以上の肉厚のものを用いることで、より一層効果的に、原料融液面や原料融液内部の温度勾配を小さくすることができる。特には、前述したような原料融液面の温度範囲に制御できたり、原料融液内部の温度分布を所定の温度範囲(例えば、最高温度がシリコンの融点よりも40℃〜115℃)に制御することができる。なお、上限としては200mmもあれば十分である。
このようなものであれば、格子間酸素等をシリコン単結晶の固液界面において面内均一に導入することができ、ひいてはBMD密度、さらにはゲッタリング能力の面内分布が均一なシリコン単結晶ウエーハを得ることができる。
【0034】
なお、メインチャンバー2の水平方向の外側に磁場印加装置23をさらに設置することができ、それによって、原料融液3に水平方向あるいは垂直方向等の磁場を印加して原料融液の対流を抑制し、シリコン単結晶の安定成長をはかる、いわゆるMCZ(Magnetic field applied Czochralski)法によるシリコン単結晶製造装置とすることもできる。
【0035】
次に、本発明のシリコン単結晶製造方法について説明する。
本発明の製造方法では、図1に示すような、熱遮蔽板19や下部断熱板14を備えたシリコン単結晶製造装置1を用いる。まず、シリコン単結晶製造装置1の石英ルツボ5内に多結晶原料を投入して充填する。この時シリコン単結晶の抵抗率を決定するリン、ホウ素、砒素、アンチモン、ガリウム、ゲルマニウム、アルミニウムなど所望の抵抗率制御用のドーパントも添加する。抵抗率制御用のドーパント以外に用途に応じて窒素や炭素をドープする場合もある。
真空ポンプを稼動させてガス流出口16から排気しながら、ガス導入口15からArガスを流入し、装置内部をAr雰囲気に置換する。そして、加熱ヒーター12で原料を加熱溶融して原料融液3を得る。
次に、該原料融液3に種結晶9を浸漬した後引上げ、CZ法により、棒状のシリコン単結晶10を引上げて製造する。
【0036】
ここで、このシリコン単結晶10の引上げを原料融液面3’や原料融液3の内部の温度を制御しつつ行う。
このシリコン単結晶引上げ中の原料融液面3’の温度制御としては、例えば、その最高温度をシリコンの融点よりも10℃〜55℃の範囲で高温になるよう制御することができる。シリコンの融点よりも55℃以下の範囲で高温に制御すれば、シリコン単結晶中に取り込まれる格子間酸素濃度の面内分布を著しく均一に近づけることができる。一方、シリコンの融点よりも10℃以上高温に制御すれば、原料融液の冷却により固化が生じるのを防ぐことができる。
【0037】
また、シリコン単結晶引上げ中の原料融液3の内部の温度制御としては、例えば、その最高温度をシリコンの融点よりも40℃〜115℃の範囲で高温になるよう制御することができる。このような温度範囲に制御することで、より一層、原料融液内部の温度ムラを抑制することができ、シリコン単結晶中に導入される格子間酸素等の面内分布の均一化を図ることができる。
【実施例】
【0038】
以下、実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(実施例1)
本発明のシリコン単結晶製造装置を用いてCZシリコン単結晶を製造した後、ウエーハ状に切り出し、該シリコン単結晶ウエーハについて面内の初期酸素濃度分布を調査した。
【0039】
まず、図1のシリコン単結晶製造装置を用意した。なお、メインチャンバーの上部に設置された冷却筒から延びるガス整流筒の先端に設置された熱遮蔽板の内周傾斜面の傾斜角αが25°で、外周傾斜面の傾斜角βが35°のものを用いた。更に黒鉛ルツボより下方には肉厚が40mmの下部断熱板を装着してある。
【0040】
このようなシリコン単結晶製造装置のメインチャンバー内に設置された口径32インチ(800mm)の石英ルツボ内に、シリコン多結晶原料360kgを石英ルツボ内に充填した。さらに抵抗調整用のボロンドーパントも充填し、加熱ヒーターを用いて加熱し原料を溶融した。
そして、MCZ法を用い、中心磁場強度3000ガウスの水平磁場を印加しながら、直径300mm、直胴長さ140cmのP型シリコン単結晶を育成した。
【0041】
なお、原料融液内部の最高温度とシリコンの融点との温度差(ΔT)が93℃であった。
また石英ルツボ内の原料融液面の最高温度とシリコンの融点との温度差(ΔT)が52℃であった。このときの石英ルツボの径方向における原料融液面の温度分布のイメージを図3に示す。縦軸が原料融液面の温度であり、横軸が融点(シリコン単結晶)からの、ルツボ径方向における距離である。
【0042】
また、これら原料融液内部の温度については直接の計測が困難ではあるものの、FEMAG(文献:F.Dupret, P.Nicodeme, Y.Ryckmans, P.Wouters, and M.J.Crochet, Int.J.Heat Mass Transfer, 33 1849(1990))のようなソフトウェアによるシミュレーション解析による予測が可能である。また、原料融液面についてはFEMAGによる予測または放射温度計による計測が可能である。
【0043】
引き上げたシリコン単結晶からスライスしたウエーハを鏡面加工し、ウエーハを赤外分光器に顕微鏡を付けた顕微FT−IRによって、ウエーハ試料の径方向に2mmステップで走査させ、1107cm−1格子間酸素とシリコンのSi−Oピークを使用して格子間酸素を測定した。その際、顕微FT−IRの空間分解能を100μm×100μmとし、酸素濃度の測定ばらつきを0.01ppma(1979年ASTM基準)以下に抑えることを可能にし、測定に供した。
【0044】
上記のように、ウエーハ径方向の最外周から、0.5mmから2mmの測定間隔(ここでは2mm間隔)でFT−IRスキャン測定を行う。このようにして測定したウエーハ径方向における複数の測定点から選んだ2つの測定点を両端とする区間(区間サイズ(Δx))を設定する。ここではΔxを6mmとした。より具体的には、ウエーハ径方向において端から1番目と3番目を両端とする第1の測定区間を設定し、以降、これを繰り返し、ウエーハの径方向の他端に達するまで区間を設定し続けた。
そして、上記のようにして設定した区間ごとに、区間の起点の酸素濃度[Oi][ppma]と終点の酸素濃度[Oi][ppma]との差Δ[Oi]を区間サイズΔx[mm]で割った酸素濃度勾配Δ[Oi]/Δx[ppma/mm]の絶対値を算出する。この酸素濃度勾配の平均値、すなわち全ての上記算出値の平均値を初期酸素変動の代表値として、ウエーハ面内酸素濃度の均一性を評価した。
なお、この平均値であるが、数値が小さいほど結果が良好であることを意味する。
【0045】
そして、実際に引上げたシリコン単結晶からスライスしたウエーハの酸素濃度勾配の平均値は0.022[ppma/mm]であった。
またそのウエーハによるデバイスプロセス後の撮像素子デバイスには画像ムラはなかった。これは、シリコン単結晶中に酸素が面内均一に導入され、素子形成の際のプロセスによる酸素析出物の密度の面内分布が均一であるためと考えられる。
【0046】
(実施例2)
熱遮蔽板における傾斜角αが25°、傾斜角βが35°であり、肉厚が60mmの下部断熱板を装着する以外は実施例1と同様にしてシリコン単結晶を引上げて製造し、同様にして酸素濃度勾配の平均値を測定した。
【0047】
ΔTおよびΔTの値であるが、其々、76℃、44℃であった。
また酸素濃度勾配の平均値を測定したところ、0.010[ppma/mm]であった。またそのウエーハによるプロセス後の撮像素子デバイスには画像ムラはなかった。
【0048】
(実施例3)
熱遮蔽板における傾斜角αが0°、傾斜角βが7°である以外は実施例1と同様にしてシリコン単結晶を引上げて製造し、同様にして酸素濃度勾配の平均値を測定した。
【0049】
ΔTおよびΔTの値であるが、其々、114℃、54℃であった。
また酸素濃度勾配の平均値を測定したところ、0.038[ppma/mm]であった。またそのウエーハによるプロセス後の撮像素子デバイスには画像ムラはなかった。
【0050】
(実施例4)
熱遮蔽板における傾斜角αが30°、傾斜角βが40°である以外は実施例1と同様にしてシリコン単結晶を引上げて製造し、同様にして酸素濃度勾配の平均値を測定した。
【0051】
ΔTおよびΔTの値は、其々、112℃、50℃であった。
また酸素濃度勾配の平均値を測定したところ、0.027[ppma/mm]であった。またそのウエーハによるプロセス後の撮像素子デバイスには画像ムラはなかった。
【0052】
(比較例1)
従来のシリコン単結晶製造装置を用意した。この装置は、図1のシリコン単結晶製造装置とは熱遮蔽板が異なっている。
そして、実施例1と同様の手順でシリコン単結晶を引上げて製造し、酸素濃度勾配の平均値を測定した。
なお、熱遮蔽板は、傾斜角αが35°、傾斜角βが45°のものを用いた。
【0053】
ΔTおよびΔTの値は、其々、120℃、48℃であった。
また酸素濃度勾配の平均値を測定したところ、0.045[ppma/mm]であった。またそのウエーハによるプロセス後の撮像素子デバイスには強い画像ムラが確認された。これは、シリコン単結晶中に酸素が面内不均一に導入され、素子形成の際のプロセスによる酸素析出物の密度の面内分布が不均一であるためと考えられる。
【0054】
(比較例2)
熱遮蔽板における傾斜角αが−5°、傾斜角βが−5°である以外は比較例1と同様にしてシリコン単結晶を引上げて製造し、同様にして酸素濃度勾配の平均値を測定した。
【0055】
ΔTおよびΔTの値は、其々、122℃、62℃であった。
また酸素濃度勾配の平均値を測定したところ、0.055[ppma/mm]であった。またそのウエーハによるプロセス後の撮像素子デバイスには強い画像ムラが確認された。
【0056】
(比較例3)
熱遮蔽板における傾斜角αが25°、傾斜角βが50°である以外は比較例1と同様にしてシリコン単結晶を引上げて製造し、同様にして酸素濃度勾配の平均値を測定した。
【0057】
ΔTおよびΔTの値は、其々、124℃、45℃であった。
また酸素濃度勾配の平均値を測定したところ、0.034[ppma/mm]であった。またそのウエーハによるプロセス後の撮像素子デバイスには強い画像ムラが確認された。
【0058】
(比較例4)
熱遮蔽板における傾斜角αが30°、傾斜角βが7°である以外は比較例1と同様にしてシリコン単結晶を引上げて製造し、同様にして酸素濃度勾配の平均値を測定した。
【0059】
ΔTおよびΔTの値は、其々、127℃、57℃であった。
また酸素濃度勾配の平均値を測定したところ、0.049[ppma/mm]であった。またそのウエーハによるプロセス後の撮像素子デバイスには強い画像ムラが確認された。
【0060】
以上の実施例1−4、比較例1−4における傾斜角α、β、下部断熱板の肉厚、ΔT、ΔT、酸素濃度勾配の平均値、撮像素子の画像ムラの有無について表1にまとめた。
【0061】
【表1】
【0062】
表1に示すように、本発明の製造装置や製造方法を用いれば、原料融液の温度ムラを容易に防ぐことができ、半導体デバイス又は太陽電池の電気的な特性を阻害しないシリコン単結晶ウエーハを製造でき、安定的に供給することができる。そして、得られたシリコンウエーハを用いれば、種々のデバイスプロセスにおいて、BMDが均一に形成され、デバイスの電気特性が優れた高品質のシリコン単結晶ウエーハの供給が可能である。
【0063】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0064】
1…シリコン単結晶製造装置、 2…メインチャンバー、 3…原料融液、
3’…原料融液面、 4…ルツボ、 5…石英ルツボ、 6…黒鉛ルツボ、
7…引上げチャンバー、 8…引上げワイヤ、 9…種結晶、
10…シリコン単結晶、 11…支持軸、 12…加熱ヒーター、
13…周辺部断熱部材、 14…下部断熱板、 15…ガス導入口、
16…ガス流出口、 17…ガス整流筒、 18…冷却筒、 19…熱遮蔽板、
20…底面、 21…内周傾斜面、 22…外周傾斜面、 23…磁場印加装置。
図1
図2
図3