特許第6107359号(P6107359)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東ソー株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6107359-A型ゼオライト粉末 図000002
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6107359
(24)【登録日】2017年3月17日
(45)【発行日】2017年4月5日
(54)【発明の名称】A型ゼオライト粉末
(51)【国際特許分類】
   C01B 39/16 20060101AFI20170327BHJP
【FI】
   C01B39/16
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-86960(P2013-86960)
(22)【出願日】2013年4月17日
(65)【公開番号】特開2014-210676(P2014-210676A)
(43)【公開日】2014年11月13日
【審査請求日】2016年3月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】船越 肇
(72)【発明者】
【氏名】清水 要樹
(72)【発明者】
【氏名】平野 茂
【審査官】 森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭57−003713(JP,A)
【文献】 特表2003−506512(JP,A)
【文献】 特開昭63−265808(JP,A)
【文献】 特開2002−265992(JP,A)
【文献】 特開2001−139322(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/00 − 39/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均一次粒子径が0.2μm以上、3.0μm以下であり、凝集粒子径が平均一次粒子径の5倍以下で、凝集粒子径が、体積分布で90%の粒子径であり、体積分布で50%の粒子径が平均一次粒子径の2倍以下であり、さらに、体積分布で90%の粒子径は、体積分布で50%の粒子径の2倍以下であることを特徴とするA型ゼオライト粉末。
【請求項2】
A型ゼオライトが、リチウム又はナトリウムの少なくともいずれかイオン型であることを特徴とする請求項1に記載のA型ゼオライト粉末。
【請求項3】
ケイ素、アルミニウム及びアルカリを含む混合物を結晶化させる結晶化工程を含む請求項1又は2に記載のA型ゼオライト粉末の製造方法であって、該混合物のケイ素とアルカリとがモル比で2.5≦OH/Si≦10.0であり、結晶化工程の後に解砕工程を有し、当該解砕工程において、解砕をジェットミルを使用して乾式で行うことを特徴とする製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はA型ゼオライト粉末に関する。より詳しくは、吸着剤として使用されるA型ゼオライト粉末に関する。
【背景技術】
【0002】
A型ゼオライト粉末は、水溶液中のカルシウムイオンを吸着除去する洗剤用ビルダー(特許文献1)や、非水電解液中の水分を除去する脱水剤(特許文献2)としてなど、各種の吸着用途で使用されている。
【0003】
例えば、特許文献1では、カルシウムイオン吸着除去する洗剤用ビルダーとしてA型ゼオライト粉末を使用することが開示されている。更に、特許文献1では、A型ゼオライト粉末の一次粒子径が小さいほどカルシウムイオンの交換速度が速くなるため、A型ゼオライト粉末の平均一次粒子径を0.1μmとすることが開示されている。
【0004】
また、特許文献2では、リチウムイオン電池の電解液中の水分を除去する吸着材として、リチウム交換されたA型ゼオライトを使用することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−146649号公報
【特許文献2】特開平07−262999号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1で開示されたA型ゼオライトは、その一次粒子径を小さくすることで凝集粒径が7μm以上と、100個以上の一次粒子が凝集した強固な凝集粒子を形成するものであった。その結果として、特許文献1のA型ゼオライトでは、一次粒子が本来有しているはずのカルシウム吸着特性が発現できなかった。
【0007】
また、特許文献2では非水電解液中の水分を除去するためのA型ゼオライトが開示されているが、リチウムイオン電池の高性能化に伴い、既存のA型ゼオライト以上に非水電解液中の水分を除去できる吸着材が求められている。
【0008】
本発明は、適度な大きさの一次粒子径を有し、なおかつ分散性に優れたA型ゼオライト粉末を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、水分や各種金属イオンを吸着除去するA型ゼオライト粉末の分散性に関して検討を行った。通常、平均一次粒子径と凝集粒子径との値が近い値であれば、A型ゼオライト粉末の二次凝集が少なくなる。平均一次粒子径と凝集粒子径とが同程度であれば、実質的に単分散状態になるため、分散性が高くなる。しかしながら、本発明者らは、A型ゼオライト粉末においては、一次粒子の全てを単分散にすることなく、粉末としての分散性が高くなること、更に、これによりイオンや水分の吸着特性がより向上する可能性があることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
以下、本発明のA型ゼオライト粉末について説明する。
【0011】
本発明のA型ゼオライト粉末の平均一次粒子径は0.2μm以上、更には0.5μm以上、また更には0.8μm以上である。平均一次粒子径が0.2μm未満では、一次粒子間の凝集性が強くなる。このようなA型ゼオライト粉末は、分散性が低下する。一方、吸着材として使用した場合、実用的な吸着速度を発現するため、平均一次粒子径は3.0μm以下、更には2.5μm以下であることが好ましい。
【0012】
本発明において、「一次粒子」とは走査型顕微鏡(以下、「SEM」ともいう。)観察おいて単独粒子として確認できる最小単位の粒子の粒子である。また、「平均一次粒子径」とはSEM観察において150個以上の一次粒子の粒子径を測定し、その平均の粒子径である。
【0013】
本発明のA型ゼオライト粉末は、凝集粒子径が平均一次粒子径の5倍以下、更には2.5倍以下、また更には2倍以下である。凝集粒子径と平均一次粒子径とがこのような関係を満たすことで、A型ゼオライト粉末の分散性が高くなる。本発明のA型ゼオライト粉末は、凝集粒子径と平均一次粒子径とが同程度ではなくとも高い分散性を示す。
【0014】
本発明において、「凝集粒子径」とは、光散乱を利用した体積基準の粒度分布測定における粒子径である。したがって、凝集粒子径は、二以上の一次粒子が凝集した凝集粒子のみならず、単独の一次粒子も含まれた粒子の粒子径となる。
【0015】
本発明のA型ゼオライト粉末は、凝集粒子径が体積分布で90%の粒子径、いわゆる90%粒子径(以下、「D90」とする。)であることが好ましい。D90と平均一次粒子径が上記の関係を満たすことで、A型ゼオライト粉末が実質的に粗大な粒子を含まなくなる。これにより、凝集粒子径が平均一次粒子径の1.3倍以上、更には1.5倍以上と、一次粒子が凝集している状態であっても、A型ゼオライト粉末の分散性が高くなる。
【0016】
さらに、本発明のA型ゼオライト粉末は、体積分布で50%の粒子の平均粒子径、いわゆる50%粒子径(以下、「D50」とする。)が平均一次粒子径の2倍以下、更には1.6倍以下、また更には1.3倍以下であることが好ましい。D50が平均一次粒子径の2倍以下であることで、A型ゼオライト粉末における、単分散の一次粒子が多くなる。これにより、A型ゼオライト粉末の分散性がより高くなりやすい。
【0017】
また、D90はD50の2倍以下、更には1.5倍以下であることが好ましいD50とD90とが上記の関係を満たすことで、一次粒子の凝集が、A型ゼオライト粉末の分散性に与える影響がより小さくなりやすい。
【0018】
本発明のA型ゼオライト粉末のイオン型は、用途に応じて任意の物とすることができる。例えば、洗剤用ビルダーとして使用するときはナトリウム(Na)型のA型ゼオライト粉末、リチウム二次電池用電解液の脱水剤として使用するときはリチウムイオンでイオン交換を行いリチウム(Li)型のA型ゼオライトを挙げることできる。
【0019】
次に本発明のA型ゼオライト粉末の製造方法について詳述する。
【0020】
本発明のA型ゼオライト粉末は、上記の平均一次粒子径及び平均凝集粒子径を有していれば、その製造方法は任意である。
【0021】
本発明の好ましい製造方法として、ケイ素、アルミニウム及びアルカリを含む混合物を結晶化させる結晶化工程を含むA型ゼオライト粉末の製造方法であって、該混合物のケイ素とアルカリとがモル比で2.5≦OH/Si≦10.0であることを特徴とする製造方法を挙げることができる。
【0022】
結晶化工程では、ケイ素、アルミニウム及びアルカリを含む混合物を結晶化させる。混合物は、ケイ素源、アルミニウム源及びアルカリ源を混合することで得ることができる。
【0023】
ケイ素源としては、ケイ酸ナトリウム溶液、シリカゾル、無定形シリカ及びカオリナイトの群から選ばれる少なくとも1種を例示できる。アルミニウム源としては、アルミン酸ナトリウム溶液又は水酸化アルミニウムの少なくともいずれかを例示できる。入手が容易であるため、ケイ素源はケイ酸ナトリウム溶液、及び、アルミニウム源はアルミン酸ナトリウム溶液が好ましい。アルカリ源としては、水酸化ナトリウムが好ましい。これらの原料は任意の方法で混合することができる。
【0024】
結晶化工程では、ケイ素源とアルカリ源とがモル比(以下、「アルカリ比」とする。)で2.5≦OH/SiO≦10.0、更には3≦OH/SiO≦6とすることが好ましい。アルカリ比がこの範囲であることで、得られるA型ゼオライト粉末の平均一次粒子径が小さくなりやすい。これにより、得られるA型ゼオライト粉末の分散性が高くなりやすい。
【0025】
結晶化工程では、混合物のアルカリ比が上記の範囲であれば、他の原料の組成は任意である。混合物の組成として以下の物を挙げることができる。
【0026】
SiO/Al=1.8〜2.2
OH/SiO=2.5〜10.0
O/Al=60〜250
【0027】
なお、上記の組成は混合物中のケイ素、アルミニウムを酸化物換算した場合のモル比である。
【0028】
原料を混合して得られた混合物は、0℃以上70℃以下、更には30℃以上70℃以下で熟成することが好ましい。これにより、混合物中の組成が均一になりやすい。熟成時間は30分以上5時間以下を例示できる。
【0029】
結晶化工程では、混合後又は熟成後の混合物を結晶化する。これにより、混合物が結晶化し、A型ゼオライトが得られる。結晶化は、60℃以上100℃以下の温度で混合物を加熱すればよい。また、結晶化時間は2時間以上、5時間以下を例示できる。
【0030】
本発明の好ましい製造方法においては、必要に応じて結晶化工程の後に、ろ過・洗浄工程、イオン交換工程、乾燥工程及び解砕工程のいずれか1種以上を有していてもよい。
【0031】
ろ過・洗浄工程では、結晶化したA型ゼオライトと液相との固液分離を行う。これにより本発明のA型ゼオライト粉末を得ることができる。ろ過洗浄方法は、例えば、減圧ろ過、フィルタープレスなどのろ過方法を使用することができる。
【0032】
イオン交換工程では、用途に応じて、A型ゼオライトのイオン交換サイトをイオン交換する。例えば、アルカリ源として水酸化ナトリウムを使用した場合、結晶化後のA型ゼオライトのイオン交換サイトは主にナトリウムで占められている。これは、いわゆるNa型のA型ゼオライトである。Na型のA型ゼオライトは、塩化リチウムなどのリチウム塩水溶液と接触させることで、Li型のA型ゼオライトとすることもできる。また、例えば、塩化カリウムなどのカリウム塩水溶液をNa型のA型ゼオライトと接触させることで、K型のA型ゼオライトとすることもできる。
【0033】
乾燥工程では、乾燥を行いA型ゼオライト粉末を得る。乾燥方法は大気中、50℃以上、200℃以下で乾燥することが例示できる。
【0034】
本発明の好ましい製造方法では、結晶化後のA型ゼオライトを解砕する解砕工程を有していてもよい。結晶化後のA型ゼオライト粉末は凝集している場合がある。このような凝集は簡単にほぐすことができる。したがって、解砕工程では、緩慢に凝集した状態のA型ゼオライト粉末の凝集を壊すことを目的とする。晶析工程で得られるA型ゼオライト粉末は適度な大きさの平均一次粒子径を有している。そのため、解砕工程では、A型ゼオライト粉末を粉砕するほどのエネルギーを必要としない。また、解砕工程では、再凝集を抑制するため、解砕は乾式で行うことが好ましい。具体的な解砕方法として、乳鉢、ボールミル、インパクトミル及びジェットミル等を例示できる。特に、A型ゼオライト粉末の再凝集が防ぎやすいため、ジェットミルによる解砕が好ましい。
【発明の効果】
【0035】
本発明により、適度な大きさの一次粒子径を有し、なおかつ分散性に優れたA型ゼオライト粉末を提供することができる。
【0036】
本発明のA型ゼオライト粉末は、分散性が良いため、脱水剤や金属除去剤として好適に用いることが期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1】実施例2のA型ゼオライト粉末のSEM写真
【実施例】
【0038】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。しかしながら、本発明はこれに限定されるものではない。
(平均一次粒子径)
試料を市販の走査電子顕微鏡(装置名:JSM−6390LV、日本電子株式会社製)を用いて観察し、150個の一次粒子の平均径より求めた。
(凝集粒子径、D90、D50)
試料を水に分散させ、さらに超音波で2分分散した。その後、市販の光散乱式粒子径分布測定器(日機装株式会社 MICROTRAC HRA MODEL:9320−X100)を用いて、凝集粒子径、D90及びD50を測定した。
【0039】
実施例1
純水、水酸化ナトリウム水溶液、ケイ酸ソーダ水溶液及びアルミン酸ソーダ水溶液を下記のモル組成となるように混合し、混合物を得た。
【0040】
SiO/Al=2.0
OH/SiO=3.0
O/Al=85
【0041】
混合後、得られた混合物を65℃で50分熟成した。その後、90℃で3時間結晶化を行ない、A型ゼオライトを含むスラリーを得た。結晶化後のスラリーをろ過・洗浄しA型ゼオライトを回収した。
【0042】
回収したA型ゼオライトは、濃度4mol/Lの塩化リチウム水溶液7倍当量でイオン交換した後、空気中、90℃、1晩乾燥した後、ジェットミル(STJ−200;セイシン企業製)で解砕を行い、本実施例のLi型のA型ゼオライトを得た。
【0043】
得られたLi型のA型ゼオライト粉末は、平均一次粒子径が2.1μm、D50が2.6μm及びD90が3.5μmであった。
【0044】
実施例2
純水、水酸化ナトリウム水溶液、ケイ酸ソーダ水溶液及びアルミン酸ソーダ水溶液を下記のモル組成となるように混合し、混合物を得た。
【0045】
SiO/Al=2.0
OH/SiO=5.4
O/Al=120
【0046】
混合後、得られた混合物を40℃で1時間熟成した。その後、80℃で3時間結晶化を行ない、A型ゼオライトを含むスラリーを得た。結晶化後のスラリーをろ過・洗浄しA型ゼオライトを回収した。
【0047】
回収したA型ゼオライトは、イオン交換を行わなかったこと以外は、実施例1と同様な操作で乾燥及び解砕を行い、本実施例のNa型のA型ゼオライトを得た。
【0048】
得られたNa型のA型ゼオライト粉末は、平均一次粒子径が0.95μm、D50が1.0μm及びD90が1.4μmであった。
【0049】
得られたA型ゼオライト粉末のSEM写真を図1に示す。
【0050】
実施例3
純水、水酸化ナトリウム水溶液、ケイ酸ソーダ水溶液、アルミン酸ソーダ水溶液を下記の組成となるように混合し、アルミノシリケートゲルを含む混合物を得た。
【0051】
SiO/Al=2.0
NaO/Al=5.5
O/Al=110
【0052】
混合後、得られた混合物を40℃で3時間熟成した。その後、70℃で3時間結晶化を行ない、A型ゼオライトを含むスラリーを得た。結晶化後のスラリーをろ過・洗浄しA型ゼオライトを回収した。
【0053】
回収したA型ゼオライトは、イオン交換を行わなかったこと以外は、実施例1と同様な操作で乾燥及び解砕を行い、本実施例のNa型のA型ゼオライトを得た。
【0054】
得られたNa型のA型ゼオライト粉末は、平均一次粒子径が0.54μm、D50が0.83μm及びD90が1.2μmであった。
【0055】
比較例1
市販のNa型のA型ゼオライト粉末(合成ゼオライト A−4,powder (和光純薬工業株式会社製))は平均一次粒子径が5.2μm、径D50が10.2μm、及び、90%粒子径D90は44.9μmであった。
図1