(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記制御部は、前記反りが発生する温度以上の温度に基板が昇温される第1の高さ位置にて前記支持部材の降下を停止させ、処理対象の基板に反りが発生し、前記戻り時間が経過した後に、再度、前記支持部材を降下させるように前記昇降機構を制御することを特徴とする請求項1に記載の熱処理装置。
前記第1の高さ位置は、加熱プレートからの距離が、当該位置にて基板に発生する反りの高さ方向の最大変位よりも大きくなる位置に設定されていることを特徴とする請求項2に記載の熱処理装置。
前記制御部は、前記第1の高さ位置よりも上方側の第2の高さ位置にて前記支持部材の降下を停止させ、処理対象の基板を予備加熱した後に、再度、前記支持部材を降下させるように前記昇降機構を制御することを特徴とする請求項2または3に記載の熱処理装置。
前記制御部は、予め基板の種類毎に取得した、基板に反りが発生する温度と前記戻り時間との対応関係に基づいて、処理対象の基板についての前記戻り時間が経過するタイミングを推定することを特徴とする請求項1ないし4のいずれか一つに記載の熱処理装置。
前記制御部は、予め基板の種類毎に取得した、前記加熱温度に調節された加熱プレートから基板までの距離と、当該基板の温度の経時変化との関係に基づいて、処理対象の基板の温度を推定し、前記支持部材を降下させる際の位置制御に用いることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか一つに記載の熱処理装置。
前記制御部は、前記受け渡し位置にて支持部材に基板を渡してから、前記加熱プレートの載置面に基板を載置し、その後、当該載置面から基板を上昇させるまでの期間中の基板の温度の時間積分値が、予め設定された値となるように設定された加熱シーケンスに基づいて、前記支持部材を昇降させる位置とタイミングとを決めることを特徴とする請求項1ないし6のいずれか一つに記載の熱処理装置。
前記基板の温度の時間積分値は、予め基板の種類毎に取得した、前記加熱プレートから基板までの距離と、当該基板の平均の昇温速度との関係に基づいて求められることを特徴とする請求項7に記載の熱処理装置。
前記基板は、タンタル酸リチウム、ガリウムヒ素、ニオブ酸リチウムからなる基板材料群から選択された基板材料により構成されることを特徴とする請求項1ないし8のいずれか一つに記載の熱処理装置。
前記基板に反りを発生させる工程、及び戻り時間の経過を待つ工程は、反りが発生する温度以上の温度に基板が昇温される第1の高さ位置にて前記支持部材の降下を停止させて行うことを特徴とする請求項11に記載の熱処理方法。
前記第1の高さ位置は、加熱プレートからの距離が、当該位置にて基板に発生する反りの高さ方向の最大変位よりも大きくなる位置に設定されていることを特徴とする請求項12に記載の熱処理方法。
前記第1の高さ位置よりも上方側の第2の高さ位置にて前記支持部材の降下を停止させ、処理対象の基板を予備加熱した後に、再度、前記支持部材を降下させる工程を含むことを特徴とする請求項12または13に記載の熱処理方法。
前記基板は、タンタル酸リチウム、ガリウムヒ素、ニオブ酸リチウムからなる基板材料群から選択された基板材料により構成されることを特徴とする請求項11ないし14のいずれか一つに記載の熱処理方法。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施の形態として、タンタル酸リチウムの薄基板(以下、「基板W」という)の処理を行った場合の例を挙げて説明する。
図1、
図2は、基板Wを加熱する熱処理モジュール(熱処理装置)1の構成を示している。例えば熱処理モジュール1は、基板Wにレジスト液を塗布してレジスト膜を形成し、露光後のレジスト膜の現像を行う塗布、現像装置に搭載されている。
【0013】
図1の分解斜視図に示すように、本例の熱処理モジュール1は基台部11の上面に設けられ、処理対象の基板Wが載置される加熱プレート2と、この加熱プレート2に基板Wを載置するための支持ピン3と、を備えている。
加熱プレート2は、例えばSiCやAlNなどのセラミックス製の円板形状の熱板内に抵抗発熱体21を埋め込んだ構造となっており、この抵抗発熱体21は給電部23に接続されている(
図2)。また加熱プレート2の上面には、当該上面から0.2mm上方の高さ位置にて基板Wを裏面から支持する複数のギャップピン22が設けられている。
【0014】
ギャップピン22は、例えば直径3mmのセラミックス製の円柱状の部材からなり、基板Wの中央位置に1個、この中央位置を囲み、加熱プレート2の周方向に沿って互いに間隔を開けて3個設けられている。これらギャップピン22の上面は、当該加熱プレート2における基板Wの載置面に相当し、例えば直径が200mmの基板Wが載置される。
【0015】
支持ピン3は、ステンレスなどの金属製の棒状部材の上部に、SiCなどのセラミック製のチップを設けた構造となっており、全体として直径1mmの棒状の部材として構成されている。本例の熱処理モジュール1においては、3本の支持ピン(支持部材)3が加熱プレート2の周方向に互いに間隔を開けて配置され、各支持ピン3が加熱プレート2を上下方向に貫通するように設けられている。加熱プレート2には、これら支持ピン3を貫通させるための例えば直径3mmの貫通口25が設けられている。
【0016】
図2に模式的に示すように、これら支持ピン3の下端部は、共通の昇降部材31に接続され、この昇降部材31は基台部11の側方に配置された昇降モーター32に接続されている。昇降モーター32により昇降部材31を昇降させることにより、3本の支持ピン3の上端の高さ位置を揃えつつ、これら支持ピン3を加熱プレート2の上面から突没させることができる。基板Wは、これら3本の支持ピン3の先端部にて裏面側から支持される。昇降モーター32は、例えば基台部11の側方に配置されたボックス17内に格納されている。
【0017】
既述の昇降部材31を昇降させたとき、支持ピン3の先端部は、加熱プレート2の上方側に設けられ、外部の基板搬送機構(例えば熱処理モジュール1が設けられている塗布、現像装置の基板搬送機構)との間で基板Wの受け渡しが行われる受け渡し位置と、加熱プレート2の下方側の位置との間を移動する。本例において受け渡し位置は、例えば加熱プレート2の上面から16.5mm上方側の位置に設置されている。
【0018】
また昇降モーター32は、前記受け渡し位置と加熱プレート2の下方側の位置との間の任意の位置にて支持ピン3の先端部を停止させることができる。この結果、基板Wを支持した支持ピン3は、加熱プレート2の上面から基板Wまでの距離を自由に調節することができる。
昇降部材31や昇降モーター32は、支持ピン3の昇降機構に相当する。
【0019】
ここで、加熱プレート2にギャップピン22や支持ピン3、貫通口25が設けられていると、加熱プレート2の上面の構造が不均一となり、基板Wの面内の均一な加熱を阻害する要因となる。この点、本例においては、ギャップピン22や支持ピン3、貫通口25を比較的小さくすることにより(ギャップピン22は直径3mm、支持ピン3は直径1mm、貫通口25は直径3mm)、基板Wを加熱する際の面内均一性の低下を抑えている。
【0020】
また
図1に示すように、加熱プレート2の上面における基板Wの載置領域の周囲には、基板Wの位置ずれを防止するための円板形状の基板ガイド24が、基板Wの周方向に間隔を開けて複数個設けられている。なお、
図1以外の図においては、基板ガイド24の記載は省略してある。
【0021】
以上に説明した加熱プレート2の周囲には、基板Wが加熱される空間を側方から囲む筒状壁部12が設けられている。
図1に示すように、筒状壁部12は、例えば金属製の扁平な円筒形状の部材からなり、支持ピン3に支持された状態の基板Wや、加熱プレート2上に載置された後の基板Wを側方から囲むように配置される。
【0022】
図2に示すように筒状壁部12の下端部は昇降部材121に接続され、この昇降部材121は基台部11の側方に配置された昇降モーター122に接続されている。そして昇降モーター122により昇降部材121を昇降させることにより、基台部11の上面に設けられたリング状の開口部111(
図1参照)を介し、筒状壁部12は、基台部11の下方側の位置と、支持ピン3や加熱プレート2上の基板Wを囲む位置との間を昇降する(
図11〜
図14参照)。
【0023】
なお本例においては、既述のように支持ピン3を昇降させる昇降モーター32や筒状壁部12を昇降させる昇降モーター122は共通のボックス17内に収められているが(
図1)、説明の便宜上、
図2においてはこれら昇降モーター32や昇降モーター122を離れた位置に記載してある。
【0024】
筒状壁部12を上昇させたとき、筒状壁部12の上端部は、支持ピン3の受け渡し位置よりも上方側に到達し、支持ピン3に支持されて受け渡し位置と加熱プレート2の載置面との間を搬送される基板Wの移動領域の全体を囲んだ状態となる。
【0025】
さらに
図1、
図2に示すように、基板Wの移動領域を囲む位置まで上昇した筒状壁部12の上方側には、筒状壁部12の上面側の開口を塞ぐように蓋部13が設けられている。蓋部13は例えば金属製の円板形状の部材からなり、その上面には、筒状壁部12、蓋部13、基台部11に囲まれた処理空間内を排気するための排気管16が接続されている。排気管16の末端部は、不図示の排気機構に接続されており、上述の処理空間内を排気させながら基板Wの加熱を行うことができる。
【0026】
図1に示すように蓋部13は、基台部11の長辺方向に沿って伸びるように配置された2本の横桁部15によって、中心部を挟んで対向する2箇所の端部を保持されている。各横桁部15は、基台部11の上面から上方側に向けて伸びるように配置された2本の支柱部14に支持され、これにより蓋部13は、その下面を加熱プレート2に対向させた状態で、当該加熱プレート2の上方側に配置されている。
なお、
図1以外の図においては、排気管16や横桁部15、支柱部14の記載は省略してある。
【0027】
以上に説明した構成を備える基台部11やボックス17、筒状壁部12、蓋部13などは、不図示の筐体内に格納され、例えば塗布、現像装置のレジスト液塗布モジュールや現像モジュールの設置領域に隣接して配置される。
【0028】
さらに
図2に示すように、熱処理モジュール1は制御部4と接続されている。制御部4はCPU41とメモリ(記憶部)42とを備えたコンピュータからなり、メモリ42には熱処理モジュール1の作用、即ち熱処理モジュール1に搬送され、支持ピン3に受け渡された基板Wを加熱プレート2に載置して加熱を行った後、再び支持ピン3を上昇させて受け渡し位置まで搬送し、処理後の基板Wを搬出させるまでの制御に係るステップ(命令)群が組まれたプログラムが記録されている。このプログラムは、例えばハードディスク、コンパクトディスク、マグネットオプティカルディスク、メモリーカードなどの記憶媒体に格納され、そこからコンピュータにインストールされる。
【0029】
例えば熱処理モジュール1の制御部は、当該熱処理モジュール1が搭載されている塗布、現像装置の制御を行う制御コンピュータと共通化されている。
さらに
図2に示すように熱処理モジュール1には、後述の基板情報や処理条件の入力をオペレータから受け付けたり、エラーを発報したりするための、タッチパネル式のディスプレイなどからなるインターフェース部5が設けられている。
【0030】
さらに本例の熱処理モジュール1は、基板Wを昇温する過程における反りの発生に起因する加熱ムラの発生を抑え、基板Wの全面を均一に加熱する機能を備えている。
以下、当該機能の詳細な内容について
図2〜
図8を参照しながら説明する。
【0031】
発明者らは、基板Wを加熱する際に発生する反り現象について、加熱温度や基板Wの厚さなどを種々変化させて検討を行った。この結果、(1)基板Wに反りが発生する加熱温度と、反りの発生しない加熱温度があること、(2)反りが発生する加熱温度にて基板Wを加熱した場合であっても、時間の経過に伴って反りが解消され、平坦な基板Wに戻ることとを新たに見出した。
なお以下に説明する
図3、
図4においては、タンタル酸リチウムの薄基板を評価基板としている。
【0032】
図3(a)〜(c)、
図4(a)〜(c)に示す予備実験の結果は、所定の加熱温度となるように設定された加熱プレート2上に評価基板を載置した後の、評価基板の上面の検出高さの経時変化を示している。
図3(a)〜(c)は、加熱プレート2の温度を種々変化させて、レジスト膜などが塗布されていない、厚さ200μmの評価基板を加熱した結果を示し、
図4(a)〜(c)は同様に厚さ400μmの評価基板を加熱した結果を示している。
高さ位置は、評価基板の上面側の周縁から2mmだけ中心寄りの位置に設定した検出位置の高さをレーザー変位計により検出した。各図の横軸は経過時間(秒)、縦軸は検出高さ(mm)を示している。
【0033】
図3(a)〜(c)に示した厚さ200μmの評価基板の実験結果によれば、加熱プレート2の設定温度が50℃の場合には、評価基板の反りはほとんど検出されなかった(
図3(a))。
一方、加熱プレート2の設定温度を60℃に上げると、
図3(b)に示すように最大で約1.0mmの反りが発生した。このまま加熱を継続したところ、反りは次第に小さくなり、反りが検出されてから約10秒後には評価基板は、ほぼ平坦な状態に戻った。
【0034】
さらに
図3(c)に示すように、加熱プレート2の設定温度を110℃とした場合には、反りの最大値(約1.7mm)、評価基板が反り始めてから平坦に戻るまでの時間(約40秒)のいずれも、設定温度が60℃の場合よりも大きくなった。
【0035】
このように、厚さが同じ評価基板であっても、加熱プレート2の設定温度が異なると、反りが発生する場合と発生しない場合とがあり(以下、反りが発生する温度を「反り開始温度」という)、また反りが発生する場合であっても、反りの最大値(以下、「反り量」という)や反り始めてから平坦に戻るまでの時間(以下、「戻り時間」という)も異なることが確かめられた。
【0036】
次いで、評価基板の厚さを400μmとした場合には、加熱プレート2の設定温度を80℃としても反りはほとんど検出されなかった(
図4(a))。
一方、加熱プレート2の設定温度を90℃に上げると、
図4(b)に示すように評価基板の反りが検出されたので、10℃刻みで加熱プレート2の設定温度を変化させたとき(以下、本実施の形態において同じ)の反り開始温度は90℃であることが分かる。また、このときの反り量は約0.7mmであり、その戻り時間は約30秒であった。さらに加熱プレート2の設定温度を110℃とすると、
図4(c)に示すように反り量は約0.9mm、戻り時間は約46秒となった。
【0037】
このように、評価基板の厚さ(基板Wの種類)が異なれば反り開始温度は変化することが確かめられた。また、加熱プレート2の設定温度が同じであっても、基板Wの厚さが異なると、反り量や戻り時間の値も異なることが確認された。
【0038】
以上に確認したように、反りが発生した基板Wは、戻り時間の経過後に平坦に戻る。そこで、予め基板Wに反りを発生させ、この戻り時間が経過した後で加熱プレート2上に載置すれば、平坦な基板Wに対して均一な加熱を行うことが可能となる。
【0039】
この点、加熱プレート2の上方側にて支持ピン3に支持されている基板Wは、加熱プレート2からの輻射熱などの影響を受けて温度が上昇する。そこで、本実施の形態の熱処理モジュール1は、支持ピン3が基板Wを支持する高さ位置を適切に調節することにより、支持ピン3に支持された状態で基板Wに反りを発生させることができる。さらに、戻り時間が経過後してから基板Wを加熱プレート2に載置することにより、平坦に戻った基板Wを加熱プレート2上で加熱することもできる。
【0040】
これらの機能に関し、熱処理モジュール1は、
図2に示すように、予め基板Wの種類(例えば厚さ寸法やレジスト膜などの塗布膜の有無、塗布膜の厚さ寸法や基板材料)をパラメータとして、加熱プレート2の設定温度(加熱プレート2上に基板Wを載置した場合には、十分な時間の経過後において基板Wの加熱温度とみなせる)に対する反り量や戻り時間に関する情報を反りデータ431として記憶している。
【0041】
例えば反りデータ431は、
図5(a)、(b)に示すように、基板Wの加熱温度に対して、反り量、及び戻り時間を対応付けたテーブルとして記憶されている(
図5には、既述の評価基板に関する反りデータ431を示している)。
図5に示した例によれば、基板Wの加熱温度を低い方から順に見たとき、反り量がゼロでなくなる温度が当該基板Wの反り開始温度に相当する。
なお、反りデータ431に設定する戻り時間は、実際に計測した戻り時間(
図4(b)、(c)、
図4(b)、(c)参照)に対し、余裕を持たせた値(例えば計測結果の10%増しの値や、一律、戻り時間を5秒増やした値など)としてもよい。
【0042】
さらに
図2に示すように、熱処理モジュール1のメモリ43には支持ピン3に基板Wが支持されている高さ位置を種々変化させたとき、加熱プレート2の上面から基板Wの下面までの距離(以下、「ギャップ高さ」という)と対応付けて、室温(23℃)を基準とした基板Wの温度の経時変化が記憶されている(昇温特性データ432)。
【0043】
これら昇温特性データ432は、基板Wの種類、及び加熱プレート2の設定温度をパラメータとして複数組記憶されている。
図6は加熱プレート2の設定温度を110℃としたときの厚さ200μmの基板Wの昇温特性データ432を、ギャップ高さ毎に図示した昇温カーブである(ギャップ高さは例えば1.0mm刻みで作成され、
図6にはその一部を示してある)。基板Wの温度が上昇している期間中の昇温カーブの傾き(昇温速度)は、ギャップ高さが大きくなるにつれて小さくなっている。即ち、ギャップ高さが大きいほど、基板Wの加熱に時間がかかってしまう。
【0044】
また、支持ピン3に支持された基板Wは、ギャップ高さが大きくなるほど、到達温度が低くなっている。従って、当該到達温度が反り開始温度よりも低くなるギャップ高さ位置に基板Wを配置しても、当該基板Wには反りが発生しない。このため、その後、加熱プレート2へ基板Wを載置すると、加熱プレート2で反りが発生してしまうことになる。
【0045】
本実施の形態に係る熱処理モジュール1は、これら反りデータ431、昇温特性データ432に基づき、基板Wが加熱プレート2に載置される前に反りが発生し、且つ、戻り時間が経過する条件を満足するように、支持ピン3に支持された基板Wを順次、降下させながら加熱するシーケンスを作成する。
以下、当該加熱シーケンスを作成する手法について説明する。なお、以下の説明において、支持ピン3に支持された基板Wの昇降動作は、基板Wの昇温速度と比較して十分に速く行うことができるものとする。
【0046】
既述のように本例の熱処理モジュール1においては、受け渡し位置にて支持ピン3に支持された基板Wを、あるギャップ高さ位置まで降下させて反りを発生させる。しかしながら、このように加熱プレート2上に直接、基板Wを載置せず、加熱プレート2よりも上方で加熱を開始する場合であっても、急激な温度変化に伴って基板Wに割れなどが発生してしまう場合もある。
【0047】
そこで本例の熱処理モジュール1は、反りを発生させるギャップ高さ位置(第1の高さ位置)に基板Wを移動させる前に、当該位置よりも上方側の位置(第2の高さ位置)にて予備加熱を行う。この予備加熱においては、基板Wに反りが発生してもよいし、発生しなくてもよい。
【0048】
このように、熱処理モジュール1は、予備加熱を行う段階(以下「第1段階」と呼ぶ)と、基板Wに反りを発生させる段階(以下、「第2段階」と呼ぶ)と、加熱プレート2に基板Wを載置する段階(以下、「第3段階」と呼ぶ)との3種類のギャップ高さ位置にて基板Wの加熱を行う。
本例における予備加熱の温度は例えば60℃に設定されている。そして、上述の加熱段階数データ422(3段階)、及び予備加熱温度データ421(60℃)は、予め制御部4のメモリ42に記憶されている(
図2)。
【0049】
図7は、厚さ200μmの基板Wを、110℃に設定された加熱プレート2上に載置する加熱シーケンスにおける、基板Wの温度の経時変化の例を示している。
図7に示した例では、受け渡し位置(ギャップ高さ16.5mm)にて支持ピン3に受け渡された室温の基板Wが、第1段階で所定のギャップ高さ位置まで搬送されて予備加熱温度(60℃、
図5(a)によれば反り開始温度でもある)まで昇温される。しかる後、さらに下方側のギャップ高さ位置に搬送され、第2段階で反り開始温度以上の温度(80℃)に昇温される。この第2段階では、反りが発生した基板Wの戻り時間が経過するのを待ち、その後、第3段階にて基板Wが加熱プレート2上に載置され、110℃に加熱される。
【0050】
一方で、
図6に示した昇温カーブを参照すると、基板Wの到達温度が予備加熱温度(60℃)や反りを発生させる温度(反り開始温度(60℃)以上の温度)となっているギャップ高さ位置の組み合わせは多数ある。このため、予備加熱が行われる位置、基板Wに反りを発生させる位置、及び加熱プレート2上の各々における基板Wの加熱時間(
図7に示す加熱時間A、B、C(秒))も様々な値を取り得る。
そこで本例の熱処理モジュール1は、以下に説明する方針に基づいて、各段階におけるギャップ高さ位置や、加熱時間を決定する。
【0051】
図8は、受け渡し位置にて基板Wが支持ピン3に受け渡された後、当該基板Wを直ちに加熱プレート2に載置して加熱を開始する従来法における基板Wの温度の径時変化を示している。従来法によれば、室温で搬送されてきた基板Wが急激に加熱プレート2の温度(T3=110℃)にまで昇温され、その状態で所定時間だけ加熱が継続される。
【0052】
この従来法における基板W温度の径時変化と比較して、
図7に示した基板Wの温度の径時変化は、ギャップ高さ位置の変化に応じて、基板Wの温度が徐々に上昇する点で異なっている。このように、基板Wの温度の径時変化が従来法とは異なっているとしても、基板Wの処理結果(例えば、レジスト膜のベーク処理の場合は、レジスト膜中の溶剤の残存量など)は互いにほぼ同じである必要がある。
【0053】
この点につき発明者らは、
図8中に斜線で塗りつぶした期間における基板Wの温度の時間積分値(以下、「熱履歴」という)が、
図7に示すA〜Cの期間(第1段階〜第3段階)中の熱履歴と同じであれば、両加熱法における基板Wの処理結果は、ほぼ同じになることを把握している。
【0054】
そこで
図2に示すように、本例の熱処理モジュール1の熱履歴設定データ433には、予め基板Wの種類毎に、
図8に示した従来法の熱履歴が熱履歴設定データ433として記憶されている。そして、選択された基板Wの種類に対応する熱履歴設定データ433とほぼ一致する熱履歴が実現されるように、各段階におけるギャップ高さ位置や加熱時間が決定される。
【0055】
第1段階〜第3段階の熱履歴は、例えば
図9に示すように各段階における昇温速度を直線近似することにより求める。本例においては、第1段階、及び第2段階にて直線近似される昇温速度が予め決められており、昇温速度データ423として制御部4のメモリ42に予め記憶されている(
図2)。本例では、第1段階の昇温速度は0.5℃/秒、第2段階の昇温速度は1.0℃/秒に設定されている。
【0056】
そして、第1段階のギャップ高さ位置の決定においては、昇温特性データ432の中から、基板Wを室温から60℃(予備加熱温度、
図9のT1)に加熱する期間中の昇温速度の平均の傾きが0.5℃/秒にもっとも近いギャップ高さ位置を選択する。そしてこの昇温速度にて基板Wを室温から60℃に加熱するのに要する時間が加熱時間Aとなる。
第1段階において、室温(23℃)から予備加熱温度(T1)に加熱される基板Wの熱履歴V1は、以下の(1)式で表される。
V1=(T1―23)*A/2 …(1)
【0057】
次いで、第2段階のギャップ高さ位置の決定においては、60℃に予備加熱された基板Wが反り開始温度以上の温度に加熱され、且つ、戻り時間の経過後に基板Wが加熱プレート2に載置されるように、加熱時間Bが決定される。
【0058】
即ち、反り開始温度が予備加熱温度よりも低い場合には、「第1段階にて基板Wが反り開始温度に到達した時点〜予備加熱温度に到達した時点までの時間A’+第2段階の加熱時間B≧戻り時間」となるように、第2段階の昇温速度1.0℃/秒から、第2段階を完了する温度が決定される。
【0059】
また、反り開始時間が予備加熱温度よりも高い場合には、基板Wを予備加熱温度から反り開始温度まで昇温するまでに要する加熱時間をB1、さらに反り開始時間に到達後、第2段階を終了するまでの加熱時間をB2としたとき、「B2≧戻り時間」となるように、第2段階の昇温速度1.0℃/秒から、第2段階を完了する温度が決定される。
【0060】
ここで、
図5(a)、(b)に示すように、反りが発生した基板Wの戻り時間は、基板Wの加熱温度が高くなるに連れて長くなる。しかしながら
図3、
図4を用いて説明したように、当該戻り時間は室温の基板Wを各加熱温度に設定された加熱プレート2に載置した場合の急激な温度変化の発生に伴う反りの発生後の戻り時間である。
【0061】
この点、段階的に昇温を行う本例の熱処理モジュール1においては、反りの発生はより穏やかであり、各ギャップ高さ位置にて基板Wの温度が上昇しても、戻り時間が大きく変化する可能性は小さいと考えられる。そこで、本例においては反り開始温度における戻り時間に基づいて、第2段階の加熱時間Bを決定することとする。なお、予備実験により第1段階や第2段階の昇温速度(0.5℃/秒、1.0℃/秒)で温度が変化する条件下での戻り時間を把握しておき、この戻り時間を反りデータ431として記憶しておいてもよいことは勿論である。また、既述のように反りデータ431に記載の戻り時間は、実測結果に対して余裕を持たせておいてもよいので、この余裕の設定幅により温度変化の影響を吸収してもよい。
【0062】
以上に説明した手法により第2段階の加熱を終える温度T2が決定されたら、昇温特性データ432の中から、基板Wを温度T1からT2に加熱する期間中の昇温速度の平均の傾きが1.0℃/秒にもっとも近いギャップ高さ位置を選択する。そしてこの昇温速度にて基板Wを温度T1からT2に加熱するのに要する時間が加熱時間Bとなる。
第2段階において、予備加熱温度(T1)から温度T2に加熱される基板Wの熱履歴V2は、以下の(2)式で表される。
V2=(T2―T1)*B/2+(T1―23)*B …(2)
【0063】
しかる後、温度T2加熱された基板Wを加熱プレート2に載置する(第3段階)。このとき、基板Wが温度T2から、加熱プレート2上における加熱温度T3に昇温されるまでに要する時間をa秒とする。
第3段階において、加熱プレート2から基板Wを上昇させ、加熱を終えるまでの基板Wの熱履歴V3は、以下の(3)式で表される。
V3=(T3―23)*C―(T3―T2)*a/2 …(3)
【0064】
図9に示した基板Wの熱履歴を、
図8に示す従来の熱履歴と揃えるためには、熱履歴設定データ433であるVと、第1段階〜第3段階の熱履歴V1〜V3の合計とを一致させればよい(下記(4)式)。
V=V1+V2+V3 …(4)
【0065】
そこで本例においては、(4)式の条件を満足するように、第2段階の加熱時間B、第3段階の加熱時間Cが決定される。例えば、処理時間を短くする観点から、戻り時間に対する制約を満たしつつ最短になるように第2段階における加熱時間B(即ち温度T2)を先に決定する(T1>反り開始温度の場合、「A’+B=戻り時間」、T1≦反り開始温度の場合、「B2=戻り時間」)。しかる後、(4)式の条件を満足するように、第3段階の加熱時間Cを決定する。
【0066】
ここで例えば
図5(b)に示した厚さ400μmにおける反りデータ431のように、反り開始温度が90℃であり、1.0℃/秒の昇温速度で昇温を行うと、30秒の戻り時間を確保することができない場合もある。また、選択されたギャップ高さ位置が、基板Wの反り量の最大変位よりも小さくなってしまう場合もあり得る。
【0067】
このように加熱シーケンスが制約に抵触した場合には、インターフェース部5からエラーを発報し、例えば第2段階の昇温速度を低下させる変更を受け付ける。このとき、加熱段階の数を増やして例えば予備加熱温度まで昇温を行った後(第1段階)、昇温速度を2回に分けて変化させ(第2段階、第3段階)、その後、加熱プレート2上に基板Wを載置する(第4段階)設定を受け付けてもよい。
【0068】
以上に説明した各段階のギャップ高さ位置、及び加熱時間の決定法は、加熱シーケンス設定プログラム424として制御部4のメモリ42に記憶されている。なお、説明の便宜上、
図2においては予備加熱温度データ421などが記憶されているメモリ42と、反りデータ431などが記憶されているメモリ43とを別々に示したが、これらのメモリ42、43を共通にしてもよいことは勿論である。
【0069】
以上に説明した構成を備える熱処理モジュール1の動作について、
図10〜
図14を参照しながら説明する。
はじめに、基板Wの加熱シーケンスを作成する動作について、
図10のフロー図を参照しながら説明する。
【0070】
例えば新しいロットの基板Wの処理を開始するタイミングにて(スタート)、インターフェース部5を介してオペレータから基板情報(基板Wの厚さ寸法、塗布膜の有無、塗布膜の厚さ寸法や基板材料など)、処理条件(加熱プレート2の設定温度や処理空間内の圧力条件)の入力を受け付ける(ステップS101)。
【0071】
入力された加熱プレート2の設定温度において、基板Wに反りが発生しない場合には(ステップS102;NO)、加熱プレート2上に基板Wを直接載置して加熱を行うレシピを作成するように、レシピ作成データを出力し(ステップS103)、加熱シーケンスの作成動作を終える(エンド)。
【0072】
入力された設定温度にて、基板Wに反りが発生する場合には(ステップS102;YES)、
図7〜
図9を用いて説明した手法により、昇温特性データ432から各段階におけるギャップ高さ位置を選択し(ステップS104)、作成する加熱シーケンスの熱履歴が入力された基板情報、処理条件における熱履歴設定データ433と揃うように各段階の加熱時間を決定する(ステップS105)。
【0073】
そして作成した加熱シーケンスが、戻り時間が確保されていることやギャップ高さ位置が反り量の最大変位よりも大きいことなどの制約を満足していることを確認する(ステップS106)。これらの制約を満足しない場合には(ステップS106;NO)、インターフェース部5からエラーを発報して、オペレータより昇温速度データ423などのパラメータの変更を受け付けた後(ステップS108)、加熱シーケンスの作成を繰り返す(ステップS104、105)
【0074】
一方、制約を満足する加熱シーケンスが作成できたら(ステップS106;YES)、各段階のギャップ高さ及び加熱時間をレシピ作成データとして出力し(ステップS107)、加熱シーケンスの作成動作を終える(エンド)。
【0075】
上述の動作により、加熱シーケンスが作成されたら、熱処理モジュール1に基板Wを搬送して加熱を行う。
はじめに熱処理モジュール1は、予め設定された処理条件の設定温度まで加熱プレート2を昇温させた状態で待機している。そして例えば、塗布、現像装置の塗布モジュールにてレジスト液の塗布が行われ、または現像モジュールにて現像液が供給されて現像された後の基板Wが基板搬送機構により熱処理モジュール1に搬送される。このとき
図11に示すように、熱処理モジュール1は、筒状壁部12を基台部11内まで降下させ、支持ピン3を受け渡し位置まで上昇させ、熱処理モジュール1内に進入した基板搬送機構から基板Wを受け取る。
【0076】
しかる後、筒状壁部12を上昇させて蓋部13と筒状壁部12に囲まれた処理空間内を排気すると共に、基板Wを第1段階のギャップ高さ位置まで降下させて、予備加熱温度(T1)まで加熱する(
図12)。
基板Wが予備加熱温度まで昇温されたら、当該基板Wを第2段階のギャップ高さ位置まで降下させて、予め設定された温度(T2)まで昇温する(
図13)。
【0077】
そして基板Wが温度T2まで昇温されたら、当該基板Wを加熱プレート2上に載置し、加熱シーケンスに定められた時間だけ加熱を行う(
図14)。
しかる後、所定時間が経過すると、受け渡し位置まで基板Wを上昇させ、処理空間内の排気を停止して筒状壁部12を降下させ、基板Wを搬出する。なお搬出前に基板Wを冷却する必要がある場合には、例えば受け渡し位置にて所定時間だけ待機させた後、基板Wを搬出してもよい。
【0078】
これらの動作において、
図15(a)に示すように平坦な状態で支持ピン3に受け渡された基板Wが、第1段階、第2段階と順次、昇温される過程で反りが発生し(
図15(b))、その後、平坦な状態に戻ってから加熱プレート2上に載置されて加熱が行われることとなる(
図15(c))。
処理が完了すると熱処理モジュール1は、支持ピン3を上昇させ、筒状壁部12を降下させて受け渡し位置まで搬送し、筒状壁部12を降下させる。しかる後、基板Wは、熱処理モジュール内に進入した基板搬送機構に受け渡され、次の処理モジュールへと搬送される。
【0079】
本実施の形態に係わる熱処理モジュール1によれば以下の効果がある。支持ピン3に支持された基板Wが加熱プレート2の上方側で加熱され、基板Wに反りが発生する温度まで昇温された後、反りの発生した基板Wが平坦に戻る戻り時間が経過してから当該基板Wを加熱プレート2に載置するので、平坦な基板Wに対して均一且な加熱を行うことができる。また、反りが解消された後には基板Wを加熱プレート2上に載置して加熱を行うことにより、処理時間の増大を抑え、迅速に処理を行うことができる。
【0080】
ここで、本実施の形態に係る熱処理モジュール1を用いて加熱する基板Wの種類はタンタル酸リチウムを基板材料とするものに限定されない。タンタル酸リチウムを含む、ガリウムヒ素、ニオブ酸リチウムからなる基板材料群から選択された基板材料により構成された基板Wに対しても、熱処理モジュール1を用いた段階的な昇温を行うことにより、反りの影響を抑えて均一な加熱を行うことができる。これらの基板材料を物性の観点から見たとき、熱伝導率が55W/(m・℃)以下の基板材料であれば、加熱の際の反りの問題が発生し得るので、本例の熱処理モジュール1を用いて加熱を行うことによる反りの影響の抑制効果が得られる。
【0081】
また、基板Wの加熱が行われる処理空間内を排気することは必須ではなく、大気雰囲気下や不活性ガス雰囲気下で加熱を行ってもよい。さらに、処理空間は
図1に示す筒状壁部12、蓋部13を用いて構成する例に限定されず、例えば基板Wの搬入出口が形成された筐体内に加熱プレート2を設け、前記搬入出口をシャッターで開閉する構造としてもよい。
【0082】
さらにまた、加熱プレート2の設定温度は、基板Wを載置して処理する際の温度に予め昇温しておく場合に限られず、基板Wの降下に合わせて加熱プレート2の温度を変化させてもよい。例えば、第1段階〜第3段階へと基板Wを降下させるに連れて、次第に加熱プレート2の温度を上昇させる場合が考えられる。
【0083】
これらに加え、反りが発生した基板Wについて、戻り時間が経過したタイミングを知る手法は、予め把握しておいた基板Wの温度と戻り時間との関係に基づいて推定する場合に限定されない。例えば加熱プレート2の上方にて支持ピン3に支持されている基板Wの反りをレーザー変位計にてリアルタイムで監視してもよい。例えば基板Wの反りの発生は、基板Wの中心部側と周縁部側との複数箇所の高さ位置を検出し、これらの位置の差を求めることにより特定することができる。
【0084】
この場合には、受け渡し位置から基板Wをゆっくりと降下させ、反りの発生後、平坦に戻ったことが検出されたタイミングにて基板Wの降下速度を上げ、加熱プレート2上に載置する手法を採用してもよい。このような手法は、処理結果に対する熱履歴の影響が小さいタイプの基板Wにおいて有効である。
この例のように、支持ピン3に支持された基板Wは、所定のギャップ高さ位置(既述の第1、第2の高さ位置)にて停止させて加熱を行うことは必須ではなく、基板Wを連続的に降下させながら加熱を行ってもよい。