特許第6107835号(P6107835)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6107835
(24)【登録日】2017年3月17日
(45)【発行日】2017年4月5日
(54)【発明の名称】鉛蓄電池用極板群の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/12 20060101AFI20170327BHJP
   H01M 2/28 20060101ALI20170327BHJP
【FI】
   H01M10/12 M
   H01M2/28
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-556416(P2014-556416)
(86)(22)【出願日】2014年1月7日
(86)【国際出願番号】JP2014050081
(87)【国際公開番号】WO2014109315
(87)【国際公開日】20140717
【審査請求日】2016年11月21日
(31)【優先権主張番号】特願2013-930(P2013-930)
(32)【優先日】2013年1月8日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】日立化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091443
【弁理士】
【氏名又は名称】西浦 ▲嗣▼晴
(74)【代理人】
【識別番号】100186819
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 俊尚
(74)【代理人】
【識別番号】100130720
【弁理士】
【氏名又は名称】▲高▼見 良貴
(74)【代理人】
【識別番号】100130432
【弁理士】
【氏名又は名称】出山 匡
(72)【発明者】
【氏名】坂本 剛生
(72)【発明者】
【氏名】北森 茂孝
【審査官】 市川 篤
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第00/025078(WO,A1)
【文献】 特表2002−538295(JP,A)
【文献】 特開2000−231916(JP,A)
【文献】 特開平02−257568(JP,A)
【文献】 特開平11−086834(JP,A)
【文献】 特開平04−137461(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第102274952(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 2/28
B22D 25/04
B22D 27/04
B22D 43/00
B22D 45/00
H01M 10/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数枚の同極性極板の耳部を相互に接続するストラップを形成する鉛蓄電池用極板群の製造方法であって、
鉛または鉛合金からなる鉛塊を、加熱ステーションにて鉛が溶融しない温度まで予備加熱する第1の工程と、
前記予備加熱した前記鉛塊を、溶融部にて鉛が溶融する温度まで加熱して溶湯にする第2の工程と、
前記溶湯を鋳型に注入し、該鋳型内の前記溶湯に前記耳部を浸漬して、前記ストラップを形成する第3の工程とからなり、
前記第1の工程で予備加熱する前の未加熱の前記鉛塊を、前記第1の工程における前記加熱ステーションへ運搬する第1の運搬手段と、
前記第1の工程で予備加熱した前記鉛塊を前記第2の工程における前記溶融部へ運搬する第2の運搬手段とを、さらに備え、
前記第2の工程の実行中に前記第1の工程が実行されるように、前記第2の運搬手段が前記予備加熱された前記鉛塊を前記溶融部へ運搬する動作に連動して、前記第1の運搬手段が前記未加熱の鉛塊を前記加熱ステーションへ運搬する動作を開始し、
前記第3の工程で前記溶湯を前記鋳型に注入した後に、前記溶融部内に残存する残留物を取り除くための除去手段をさらに備えることを特徴とする鉛蓄電池用極板群の製造方法。
【請求項2】
複数枚の同極性極板の耳部を相互に接続するストラップを形成する鉛蓄電池用極板群の製造方法であって、
鉛または鉛合金からなる鉛塊を、加熱ステーションにて鉛が溶融しない温度まで予備加熱する第1の工程と、
前記予備加熱した前記鉛塊を、溶融部にて鉛が溶融する温度まで加熱して溶湯にする第2の工程と、
前記溶湯を鋳型に注入し、該鋳型内の前記溶湯に前記耳部を浸漬して、前記ストラップを形成する第3の工程とからなり、
前記第2の工程の実行中に前記第1の工程を実行することを特徴とする鉛蓄電池用極板群の製造方法。
【請求項3】
前記第1の工程で予備加熱する前の未加熱の前記鉛塊を、前記第1の工程における前記加熱ステーションへ運搬する第1の運搬手段と、
前記第1の工程で予備加熱した前記鉛塊を前記第2の工程における前記溶融部へ運搬する第2の運搬手段とを、さらに備え、
前記第2の運搬手段が前記予備加熱された前記鉛塊を前記溶融部へ運搬する動作に連動して、前記第1の運搬手段が前記未加熱の鉛塊を前記加熱ステーションへ運搬する動作を開始することを特徴とする請求項2に記載の鉛蓄電池用極板群の製造方法。
【請求項4】
前記第2の運搬手段が前記予備加熱された前記鉛塊を前記溶融部へ運搬した後、前記第1の運搬手段が前記未加熱の前記鉛塊を前記加熱ステーションへ運搬する動作を開始する請求項3に記載の鉛蓄電池用極板群の製造方法。
【請求項5】
前記第2の運搬手段が前記予備加熱された前記鉛塊を前記溶融部へ運搬する動作と同時に、前記第1の運搬手段が前記未加熱の鉛塊を加熱ステーションへ運搬する請求項3に記載の鉛蓄電池用極板群の製造方法。
【請求項6】
前記第3の工程で前記溶湯を前記鋳型に注入した後に、前記溶融部内に残存する残留物を取り除くための除去手段をさらに備える請求項2〜5のいずれか1項に記載の鉛蓄電池用極板群の製造方法。
【請求項7】
前記第1の工程における前記予備加熱の加熱温度および加熱時間と、前記第2の工程における前記加熱の加熱温度および加熱時間とを、それぞれ調整するための制御手段をさらに備える請求項1〜6のいずれか1項に記載の鉛蓄電池用極板群の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉛蓄電池用極板群の製造方法に関する。殊に、同極性極板の耳部にキャスト・オン・ストラップ方式によりストラップを形成するための鉛蓄電池用極板群の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
図5は、従来から実施されていたキャスト・オン・ストラップ方式による鉛蓄電池用極板群のストラップを形成するための概略工程図であり、図6は、ストラップを形成する前の鉛蓄電池用極板群の概略斜視図である。
【0003】
鉛蓄電池用極板群の同極性極板の耳部にストラップを形成する工程は、先ず、図5及び図6に示すように、正極板1と負極板3とをセパレータ2を介して交互に重ねて積層して極板群を作製する。そして、正極板1に設けられた正極耳部4及び負極板3に設けられた負極耳部5にフラックスを塗布して乾燥させておく(ST101〜ST103)。
【0004】
別途、鉛または鉛合金の鉛塊を溶解させて溶湯を作製し、この溶湯を加熱したストラップ用鋳型のキャビティ部に流し込み、上述の極板群を逆さにして同じ極性の耳部をキャビティ部の溶湯に浸漬して冷却・凝固させた後、脱型して同極の耳部同士を接続するストラップを形成する(ST104〜ST108)。
【0005】
この方式は、一般的にキャスト・オン・ストラップ方式と呼ばれており、密閉型鉛蓄電池や自動車用鉛蓄電池等の、大量生産される電池に適した生産方式であることから、広く一般に採用されている。
【0006】
例えば、特許文献1には、ひとつのストラップを形成するのに必要な所定量の鉛塊を溶融部(杓)に供給してその都度溶融し、これをストラップ用鋳型のキャビティ部に注ぐ方法が開示されている。また、特許文献2には、極板耳部を浸漬した溶湯に超音波を照射することにより生じるキャビテーション効果により酸化物層等を破壊・分散して、ストラップと極板耳部の溶接界面に発生するボイド等の欠陥を減少させる方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平4−137461号公報
【特許文献2】特開2002−63891号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1のように、ひとつのストラップを形成する都度、溶融部(杓)を用いて鉛塊を溶融させる方法では、鉛塊が溶融するまでの時間が、次工程以降の待ち時間となりボトルネック工程になることから、生産効率が落ちてしまう。また、溶融部(杓)に付着したまま残った溶湯(鉛)が酸化され、生成された酸化カスが溶接界面に混入して溶接不具合が発生する懸念がある。
【0009】
また、特許文献2のように、溶湯に超音波を照射して酸化物層を破壊・分散する方法は、酸化物層が破壊されないまま溶接界面に残留し、あるいは破壊された酸化物層の細かい断片が凝集して溶接界面に混入する可能性があり、溶接不具合が発生する懸念がある。
【0010】
本発明の目的は、前述した問題を解決するものであり、ストラップの形成において、鉛塊を溶融させて溶湯を製造する工程に必要な時間を短縮することができる鉛蓄電池用極板群の製造方法を提供することにある。
【0011】
本発明の他の目的は、溶融部内に残ったままの溶湯およびその酸化カスをむらなく除去することができる鉛蓄電池用極板群の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、複数枚の同極性極板の耳部を相互に接続するストラップを形成する鉛蓄電池用極板群の製造方法を改良の対象とする。本発明の製造方法は、主に、第1の工程、第2の工程、及び第3の工程から構成されている。
【0013】
まず第1の工程では、鉛または鉛合金からなる鉛塊を、加熱ステーションへ運搬して、該加熱ステーションで鉛が溶融しない温度まで鉛塊を予備加熱する。第2の工程では、第1の工程で予備加熱した鉛塊を、溶融部へ運搬して、該溶融部で鉛が溶融する温度まで鉛塊を加熱して溶湯にする。そして、第3の工程では、第2の工程で準備した溶湯を鋳型に注入し、該鋳型内の溶湯に同極性極板の耳部を浸漬し、冷却して、ストラップを形成する。
【0014】
本発明の製造方法では、第2の工程の実行中に第1の工程を実行する。ここで「第2の工程の実行中に第1の工程を実行する」とは、第2の工程の実行中に第1の工程の一部または全部を実行することを意味する。この場合、第1の工程と第2の工程とを同時に開始してもよく、また第1の工程と第2の工程とを同時に終了してもよい。
【0015】
このように、第1の工程では常温の鉛塊を溶融しない温度まで予備加熱し、第2の工程では予備加熱した鉛塊を溶融して溶湯にする、二段階の加熱方式を採用して、第2の工程の実行中に第1の工程を実行することにより、溶融部で溶湯を作製するための加熱時間を短くすることができる。その結果、ストラップの形成に要する時間を大幅に短縮することができる。
【0016】
また、本発明のように第2の工程で溶融する鉛塊を予め第1の工程で加熱しておくことにより、雰囲気温度の鉛隗を溶融部へ導入する方法に比べ溶融部の温度と溶融部に導入する鉛塊の温度との温度差を小さくすることができるので、鉛塊を溶融部に導入した際に溶融部と接触する部分の急激な温度低下を避けることができる。その結果、溶融部に掛かる熱衝撃を抑え、部分的な収縮を緩和することができるので、溶融部の破損を防ぐことができる。
【0017】
本発明の製造方法では、第1の工程で予備加熱する前の未加熱の鉛塊を第1の工程における加熱ステーションへ運搬する第1の運搬手段と、第1の工程で予備加熱した鉛塊を第2の工程における溶融部へ運搬する第2の運搬手段とを、さらに備えている。第2の運搬手段が予備加熱された鉛塊を溶融部へ運搬する動作に連動して、第1の運搬手段が未加熱の鉛塊を加熱ステーションへ運搬する動作を開始する。ここで「第2の運搬手段が運搬する動作に連動して、第1の運搬手段が運搬する動作を開始する」とは、第2の運搬手段の運搬動作の終了に合わせて第1の運搬手段が運搬動作を開始する場合、第2の運搬手段の運搬動作中に第1の運搬手段の運搬動作を開始する場合、及び、第2の運搬手段の運搬動作の開始と同時に第1の運搬手段の運搬動作を開始する場合を意味する。
【0018】
例えば、第1の運搬手段と第2の運搬手段とを共通の運搬手段とする場合は、第2の運搬手段が予備加熱された鉛塊を溶融部へ運搬した後、溶湯を準備している間に、第1の運搬手段が未加熱の鉛塊を加熱ステーションへ運搬する動作を開始することができる。
【0019】
また、第1の運搬手段と第2の運搬手段とを別個の運搬手段にする場合は、第2の運搬手段が予備加熱された鉛塊を前記溶融部へ運搬する動作と同時に、第1の運搬手段が未加熱の鉛塊を加熱ステーションへ運搬することができる。
【0020】
このように、第2の運搬動作に連動して第1の運搬動作を開始すると、第1の工程と第2の工程を並行して進めることができるので、溶湯を準備する工程上の作業時間を確実に短縮することができる。その結果、極板群の時間単位の出来高を大幅に高めることができる。
【0021】
本発明の製造方法は、第3の工程で溶湯を鋳型に注入した後に、溶融部内に残存する残留物を取り除くための除去手段を、さらに備えている。このような除去手段としては、例えば溶融部の底面に付着したままの溶湯およびその派生物を掻き出すことができる掻き出し工具を用いるのが好ましい。このように溶湯を溶融部から鋳型のキャビティ部へ流し込んだ後、溶融部の底面に残ったままの溶湯およびその派生物を、除去手段(掻き出し工具)により取り除くと、溶接界面の品質が安定し、溶接界面にボイド等の不具合が少ない高品質なストラップを形成することができる。
【0022】
なお、第1の工程における予備加熱の加熱温度および加熱時間と、第2の工程における加熱の加熱温度および加熱時間とは、いずれも任意であるが、それぞれ所定時間内に所定の温度に達するように調整するための制御手段をさらに備えていてもよい。このような制御手段としては、例えば、加熱温度調節機能を備えるヒータ及び加熱時間を設定する機能を有するタイマーを用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の一例を示す鉛蓄電池用極板群の製造工程の概略図である。
図2】(A)乃至(C)は、本発明の実施の形態の一部(加熱ステーション、溶融部、及び鋳型)の概略部分断面図である。
図3】本発明の実施の形態の一部(溶融部、及び掻き出し工具)の略部分断面図である。
図4】本発明の実施の形態の一部(掻き出し工具、及び掻き出し工具保持部)を側面から見た概略図である。
図5】従来の鉛蓄電池用極板群の製造工程を示す概略図である。
図6】従来から用いられている鉛蓄電池用極板群の概略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0025】
図1は、本発明の実施の一形態である鉛蓄電池用極板群の製造工程を示す概略図である。本例で用いる鉛蓄電池用極板群は、従来から用いられている極板群であり(図6参照)、以下のように作製する。
【0026】
<極板の作製>
正極板及び負極板は、格子基板に活物質を保持させたものであり、格子基板としては、鋳造格子基板またはエキスパンド格子基板を用いることができる。
【0027】
格子基板の材質は、主原料を鉛とし、スズ、カルシウム、アンチモン等を添加することができ、特に、カルシウム及びスズを添加することが好ましい。これは、カルシウムを添加すると、自己放電の割合を減少させることができ、更にこのカルシウムを添加した際の課題である、極板の腐食の起こり易さをスズの添加により抑制することができるためである。
【0028】
活物質は、前述した格子基板に充填し易いように、ペースト状のものを用いる。このペースト状活物質の組成は、特に限定されるものではないが、一酸化鉛を含んだ鉛粉、水、硫酸等(正極、負極の特性に合わせてカットファイバ、炭素粉末、リグニン、硫酸バリウム、鉛丹等の添加物を加える場合もある)を混練して作製する。また、ペースト状活物質の格子基板への充填量は、格子が完全に隠れる程度にすれば良く、さらに格子の最外部分である枠骨の厚み以上まで充填するのが好ましい。
【0029】
これらの正・負極板を熟成、乾燥して未化成の極板を作製した。
【0030】
<極板群の作製>
前述した正極板と負極板を用いて、極板群を作製した(図6参照)。即ち、正極板1を3枚、負極板3を4枚使用し、ガラス繊維製のセパレータ2を介して正極板1と負極板3を交互に積層して極板群を作製した(ST1)。正極耳部4及び負極耳部5にフラックスを塗布した(ST2)。なお、本実施形態では、従来から使われている液状フラックスに代え、ペースト状フラックスを使用して乾燥工程を省いた(ST2)。
【0031】
<溶湯の作製>
図2は、本発明の一実施形態である鉛蓄電池用極板群の製造工程で使用する装置の一部を表す部分断面図である。
図1および図2に示すように、本例の形態の鉛蓄電池用極板群の製造は、第1工程における加熱ステーション6、第2工程における溶融部8、第3工程における鋳型10、および図示しない運搬手段を備えている。
【0032】
まず第1の工程では、第1の運搬手段が未加熱の鉛塊を加熱ステーション6へ運搬して、鉛塊7が溶融しない所定温度まで予備加熱される[ST3、ST4、及び図2(A)参照]。なお、本実施形態で使用する鉛塊は、不可避不純物を含む純鉛、あるいは鉛合金(鉛−スズ合金等)を用いることができる。第2の工程では、第2の運搬手段が予備加熱後の鉛塊を溶融部8へ運搬して、溶融部8で鉛が溶融する温度まで鉛塊7を加熱して溶湯9にする[ST5及び図2(B)参照]。
【0033】
第1の運搬手段と第2の運搬手段は、同一の運搬手段であっても、別個の運搬手段であっても良い。同一の運搬手段を用いる場合は、当該運搬手段が予備加熱後の鉛塊7を溶融部8へ運搬した後、溶融部8で溶湯を準備している間に、未加熱の鉛塊7を加熱ステーション6へ運搬する動作を開始する。別個の運搬手段を用いる場合は、第2の運搬手段が予備加熱後の鉛塊7を溶融部8へ運搬する動作に連動して、第1の運搬手段が未加熱の鉛塊7を加熱ステーション6へ運搬して、鉛塊7の予備加熱と溶湯の準備を並行して行うことができる。
【0034】
このように、第1の工程と第2の工程とからなる二段階の加熱方式を採用して、第2の工程の実行中に第1の工程を実行することにより、鉛塊をひとつの同じ容器内で加熱する従来の方法に比べて、特定の鉛塊に着目したときにはその鉛塊が溶融して所定温度に達するまでの総時間は同程度であるが、鉛塊の予備加熱と溶湯の準備を並行して行うことができるので、溶湯準備工程のリードタイムを短縮することができる。そのため、従来のボトルネック工程である溶湯準備工程に要する時間を相対的に短縮することができる。本例では、鉛蓄電池用極板群の製造工程のタクトを従来の約1/4に短縮することができた。
【0035】
また、本例では、溶融部8で溶融する鉛塊7が予め加熱ステーション6で加熱されているため、雰囲気温度の鉛隗を溶融部へ導入する従来の方法に比べて、溶融部8の温度と溶融部8に導入する鉛塊7の温度との温度差を小さくすることができる。そのため、鉛塊7を溶融部8に新たに導入した際に溶融部8と接触する部分の急激な温度低下を避けることができるので、溶融部8に対する熱衝撃が抑制され(その結果、溶融部8の部分的な収縮が緩和され)、溶融部8の破損を防ぐことができる。
【0036】
上記の実施の形態において、具体的には、第1の運搬手段と第2の運搬手段を同じ運搬手段で兼ねた多関節ロボットを採用し、エンドエフェクトに2爪エアチャックを用いることができる。
【0037】
まず、鉛塊7を、図示しない鉛塊のストック位置から2爪エアチャックで把持して図2(A)に示す加熱ステーション6へ運搬する。鉛塊は、鋳型10のキャビティ部11の容積から、キャビティ部11の溶湯に浸漬させる極板群の耳部の体積を差し引いた体積とほぼ等しい体積の直方体に加工されたものである。
【0038】
次に、加熱ステーション6で所定温度に加熱された鉛塊7を、前述した2爪エアチャックで把持して図2(B)に示す溶融部8へ運搬した後、溶融部8で溶湯を準備している間に、鉛塊のストック位置へ2爪エアチャックを移動させて、未加熱の鉛塊を把持して加熱ステーション6へ運搬する。このとき、加熱ステーション6と溶融部8の双方に鉛塊7が配置され、並行して加熱される。
【0039】
本例では、加熱ステーション6及び溶融部8に、加熱温度および加熱時間を調整するための制御手段が設けられている。具体的には、加熱ステーション6と溶融部8は加熱時間を調整する図示しないタイマーを備え、加熱ステーション6および溶融部8の内部に埋め込まれた図示しないヒータを、温度調整が可能なヒータとすることができる。
【0040】
この場合、タイマーによる加熱時間の調整とヒータの温度調整を行うことにより、雰囲気温度やライン速度の変更に対して所定の予備加熱温度、溶湯温度に調整することができ、溶接品質を良好に保つことができる。
【0041】
また、溶湯の表面は酸化し易く、酸化カスが耳部とストラップの溶接界面に混入すると溶接品質が低下するので、溶融工程以降のタクトに合わせて溶湯の出来上がり時間を調整して、酸化カスの生成を抑制することができる。さらに、溶湯の温度を調整して溶湯の粘度を調整することができるので、ストラップの形状が複数種類ある場合や、鋳型10のキャビティ部11の形状が異なる場合でも、溶湯粘度を調整してキャビティ部11への湯回りを調整して、ストラップに鬆(す)が入る等の不具合を防止することができて、良好な鋳造が可能となる。
【0042】
上記の加熱温度は、鉛塊の組成と雰囲気温度の季節変動、多種類のキャビティ部の形状に対応することを考慮し、また、製造ライン速度を前後の工程に合わせて変更できるように、予備加熱後の鉛塊の温度を280℃〜320℃、溶湯温度を480℃〜520℃の範囲に調整できるようにヒータ温度とタイマー範囲の設定を行った。また、加熱ステーション6および溶融部8の材質は、耐熱性、熱衝撃、耐食性に優れた鋳鉄を採用した。
【0043】
<ストラップの鋳造>
第3の工程では、第2の工程で準備した溶湯を鋳型に注入し、該鋳型内の溶湯に同極性極板の耳部を浸漬し、冷却、脱型して、ストラップを鋳造する(ST6〜ST8)。具体的には、ストラップの鋳造は、溶融部8で溶融した溶湯9を、図2(C)に示すように溶融部8を傾斜させてキャビティ部11へ流し込むようにしている。ここで、溶融部8は図示しない支持部に回転自在に支えられており、エアシリンダ、油圧シリンダ、ステッピングモータ等を利用して傾斜させることができる。本例では、溶融部8をキャビティ部11の上部位置に配置して、溶融部8を傾斜させる動作のみを行うようにしたが、鉛蓄電池用極板群の製造装置の設置スペース、ライン構成の都合により、溶融部8とキャビティ部11が離れて配置されるときは、溶融部8が溶湯9を保持しつつキャビティ部11まで移動して溶湯9を流し込むようにしても良い。
【0044】
次に、先に作製した極板群を上下逆さまにして、同極の耳部(ペースト状フラックスを塗布済み)を溶湯9で満たされたキャビティ部11へ浸漬し、鋳型10に埋め込まれた図示しない冷却装置により溶湯9を冷却・凝固させた後、脱型してストラップが完成する。
【0045】
<残滓の除去>
上述したストラップの鋳造工程においては、溶融部8の底部に溶湯9およびその酸化カスが残渣となり付着したままとなりやすい。これらを除去しないまま次のストラップの鋳造を行った場合、溶湯9に残渣が混入してストラップが鋳造されるので、完成したストラップの耳部との界面に隙間ができて、電解液がこの隙間に這い上がって腐食が起こり、極板群とストラップ間の接続不良や、ストラップの脱落といった不具合が起こる心配がある。また、残滓の混入量や混入位置によりストラップの腐食度合にばらつきが生じ、鉛蓄電池の品質が安定しない問題も生じやすい。従来は、溶融部8の内面に高圧エアを吹付けることにより残滓を除去していたが、残渣が極板群の製造装置を含め、周辺に飛び散ることによる環境悪化が避けられず、また、残滓が極板群へ飛び散ることにより鉛蓄電池が短絡する不具合も懸念されていた。
【0046】
そこで、本例では、第3の工程で溶湯9を鋳型10に注入した後に、溶融部8内に残存する残留物(残滓)を取り除くための除去手段が採用されている。このような除去手段として、本例では図3に示す掻き出し工具12を用いる。なお、図3は、掻き出し工具12による溶湯残滓の掻き出し、除去を行っている状態を示す概略断面図である。図4は、本発明の実施の形態の一部(掻き出し工具12、掻き出し工具保持部13)を側面から見た概略図である。
【0047】
図3に示すように、本例では溶融部8で作製した溶湯9を、溶融部8を傾斜させて鋳型10のキャビティ部11へ流し込んだ後、溶融部8の傾斜を変えて溶湯9が接していた面を溶接装置設置面に対し水平に維持し、図示しない駆動装置により掻き出し工具12の先端部を溶湯が接していた面に押し付けて、溶接装置接地面に対し水平方向、側面視で左右方向に、溶湯9が接する面に沿って揺動させ、上述した残滓を掻き出して除去する。本例では、掻き出し工具12を駆動する装置は、図示していない二つのエアシリンダを用いた前後方向、上下方向に可動するアームに、図4に示す掻き出し工具保持部13を取り付けている。掻き出し工具保持部13は、図4に概略側面図で示す掻き出し工具12、ばね部14で構成され、図3に示す残渣を掻き出す動作をするときに、溶融部8の底面に加わる掻き出し工具12の接触圧が過度にならないように、ばね部14が調整して溶融部8の底面に傷が入ったり、掻き出し工具12が破損するのを防止している。また、ばね部14の上部に配置したネジの締緩によりばねの伸縮を調整して、ばね部14の反発力を調整することにより、掻き出し工具12の接触圧を加減して、残滓の除去状態を適切に調整することができる。なお、掻き出し工具の材質については、残滓が冷却される前に掻き出すので耐食性、耐熱性が比較的良好で、入手し易いSUS304を使用することができ、掻き出し工具12が溶融部8の底面に接する部分は、溶融部8に傷がつかない程度に加工して使用する。
【0048】
本例では、掻き出し工具12の幅を溶融部8の残滓除去面の幅より狭く設定し、掻き出し工具12を揺動させて残滓を掻き出した後、掻き出し工具12を揺動方向と直行する方向へ移動させて、掻き出されていない残滓を除去するようにした。本例の実施により、従来方法に比べ溶湯の残りや酸化カスの残渣が飛び散ることがないので、極板群の製造装置の周囲環境が改善され、溶接工程における鉛蓄電池の不具合を減少させることができた。
【0049】
以上、本発明の実施形態について具体的に説明したが、本発明はこの実施の形態に限定されるものではなく、実施の形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的位置関係等は、本発明の要旨を逸脱しない範囲で変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明によれば、第2の工程の実行中に第1の工程を実行することにより、溶融部で溶湯を作製するための加熱時間を短くすることができるので、ストラップの形成に要する時間を大幅に短縮することができる。したがって、本発明は、鉛蓄電池用極板群の製造方法、製造装置、およびこれらを利用して製造した、極板群と鉛蓄電池に利用可能である。
【符号の説明】
【0051】
1 正極板
2 セパレータ
3 負極板
4 正極耳部
5 負極耳部
6 加熱ステーション
7 鉛塊
8 溶融部
9 溶湯
10 鋳型
11 キャビティ部
12 掻き出し工具
13 掻き出し工具保持部
14 ばね部
図1
図2
図3
図4
図5
図6