特許第6108210号(P6108210)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6108210-電子部品用積層配線膜 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6108210
(24)【登録日】2017年3月17日
(45)【発行日】2017年4月5日
(54)【発明の名称】電子部品用積層配線膜
(51)【国際特許分類】
   H05K 1/09 20060101AFI20170327BHJP
   H01L 21/3205 20060101ALI20170327BHJP
   H01L 21/768 20060101ALI20170327BHJP
   H01L 23/532 20060101ALI20170327BHJP
   H05K 3/38 20060101ALI20170327BHJP
【FI】
   H05K1/09 C
   H01L21/88 M
   H01L21/88 R
   H05K3/38 B
【請求項の数】1
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-277916(P2012-277916)
(22)【出願日】2012年12月20日
(65)【公開番号】特開2013-179265(P2013-179265A)
(43)【公開日】2013年9月9日
【審査請求日】2015年11月12日
(31)【優先権主張番号】特願2012-18170(P2012-18170)
(32)【優先日】2012年1月31日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(72)【発明者】
【氏名】村田 英夫
【審査官】 小林 大介
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2009/131035(WO,A1)
【文献】 国際公開第2008/081806(WO,A1)
【文献】 特開平05−102155(JP,A)
【文献】 特開2011−091364(JP,A)
【文献】 特開昭62−290150(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 1/09
H05K 3/38
H01L 21/30 −21/339
H01L 21/768
H01L 23/532
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に金属層を形成した電子部品用積層配線膜であって、Cuを主成分とする主導電層と、該主導電層の面を覆う被覆層とからなり、該被覆層は原子比における組成式がCu100−X−Al、35≦X≦60で表され、残部が不可避的不純物からなるCu合金であり、前記被覆層が、下地層およびキャップ層であることを特徴とする電子部品用積層配線膜
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板との密着性と加熱処理による耐熱性が要求される電子部品用積層配線膜に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ガラス基板上に薄膜デバイスを形成する液晶ディスプレイ(以下、LCDという)、プラズマディスプレイパネル(以下、PDPという)、電子ペーパー等に利用される電気泳動型ディスプレイ等の平面表示装置(フラットパネルディスプレイ、以下、FPDという)に加え、各種半導体デバイス、薄膜センサー、磁気ヘッド等の薄膜電子部品においては、低い電気抵抗値の配線膜が必要である。例えば、LCD、PDP、有機ELディスプレイ等などのFPDは大画面、高精細、高速応答化に伴い、その駆動素子として用いられている薄膜トランジスタ(TFT)の配線膜には電気抵抗値の低抵抗化が要求されている。さらに近年、FPDに操作性を加えるタッチパネルや、樹脂基板または極薄ガラス基板を用いたフレキシブルなFPDなど新たな製品が開発されている。
【0003】
近年、上記の低抵抗化の要求に対応するため、主導電層を形成する材料をAlからより低抵抗なCuに変更する検討が行われている。また、FPDの画面を見ながら直接的な操作性を付与するタッチパネル基板画面も大型化が進んでおり、低抵抗化のためにCuを主導電層に用いる検討が進んでいる。
また、スマートフォンやタブレットPC等に用いられているタッチパネルの位置検出電極には、一般的に透明導電膜であるITO(インジウム−スズ酸化物)が用いられている。Cuは、ITOとのコンタクト性は得られるが、基板との密着性が低いために、密着性を確保するためにMoやMo合金等を被覆層とした積層配線膜とする必要がある。
【0004】
また、従来のMo被覆層とAl主導電層でなる積層配線膜をエッチングする際に用いるリン酸と硝酸を含んだエッチャントを、Mo被覆層とCu主導電層を積層した積層配線膜に適応すると、Cu主導電層が早くエッチングされて積層配線膜に段差が生じる場合がある。この段差を抑制するためにエッチャントの濃度を調整すると、基板上に残渣が生じる等の問題がある。
このような問題に対しては、被覆層として、従来のMoと同様の基板との密着性を確保しつつ、主導電層のCuと共にエッチングできる被覆層として、Cu−Al−Ca合金を酸素雰囲気でスパッタして形成した膜の適用が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−212465号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1で提案される被覆層は、1〜10原子%のAlや0.1〜2.0原子%のCaを含有し、酸素雰囲気でスパッタすることで、高い密着性が得られるCu合金被覆層である。
しかし、酸素雰囲気でスパッタを行うと、酸素との反応生成物であるノジュールがスパッタリングターゲット上に堆積し、異常放電を起こしてパーティクルが発生することがある。また、スパッタチャンバー内の酸素ガスの流れ方向により、スパッタした被覆層内に取り込まれる酸素量に差が生じやすく、被覆層の特性や密着性にバラツキが生じるという問題が生じる場合がある。
【0007】
また、FPDの端子部等に信号線ケーブルを取り付ける際に大気中で加熱される場合があるため、積層配線膜には耐熱性の向上が要求される。加えて、酸化物を用いた半導体膜においては、特性向上や安定化のために、酸素を含有した雰囲気で350℃以上の高温での加熱処理を行う場合がある。また、酸素を含む保護膜を形成した後に350℃以上の高温での加熱処理を行う場合がある。このような酸素に接する環境下での加熱処理を経た後でも、積層配線膜として安定した特性を維持できるように耐熱性が要求される。
【0008】
一方、上述した特許文献1に開示される酸素雰囲気でスパッタしたCu−Al−Ca合金被覆層は、酸素が導入されるため、耐熱性が上述した要求に対して十分ではなく、被覆した際に酸素が拡散して、主導電層のCuの電気抵抗値が増加することが懸念された。
【0009】
本発明の目的は、Cuを主導電層とする積層配線膜において、被覆層に要求される下地層としての基板との密着性や、主導電層のCuの表面を保護する上層膜(キャップ層)としての耐熱性を確保し、加熱工程を経ても低い電気抵抗値を維持できる被覆層を用いた電子部品用積層配線膜を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題に鑑み、被覆層として、CuにAlを所定量加えた金属層とすることで、基板との密着性を確保し、主導電層であるCuの酸化も抑制することができることを見出し、本発明に到達した。
【0011】
すなわち、本発明は、基板上に金属層を形成した電子部品用積層配線膜であって、Cuを主成分とする主導電層と、該主導電層の少なくとも一方の面を覆う被覆層とからなり、該被覆層は原子比における組成式がCu100−X−Al、20≦X≦60で表され、残部が不可避的不純物からなるCu合金でなる電子部品用積層配線膜の発明である。
前記被覆層は、下地層であることが好ましい。
また、前記被覆層は、キャップ層であることが好ましい。
また、前記被覆層は、下地層およびキャップ層であることがより好ましい。
本発明では、前記組成式のXを、25≦X≦35とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明のCu合金を被覆層とした電子部品用積層配線膜は、特殊な酸素雰囲気でスパッタする方法等を用いることなく、通常のスパッタをすることにより、安定かつ容易に成膜できる。そして、本発明の被覆層は、下地層として形成した場合には基板との密着性が確保でき、さらに下地層およびキャップ層として形成した場合には耐熱性を向上でき、加熱工程を経た後も低い電気抵抗値を維持できる。
これにより本発明は、種々の電子機器、例えばFPD等の配線膜に用いることで、電子部品の安定製造や信頼性向上に大きく貢献できる有用な技術である。特に、タッチパネルや樹脂基板を用いるフレキシブルなFPDに対して非常に有用な積層配線膜となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の電子部品用積層配線膜の断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の電子部品用積層配線膜の断面模式図を図1に示す。本発明の電子部品用積層配線膜は、Cuを主体とする主導電層3の少なくとも一方の面を覆う被覆層からなり、例えば基板1上に形成される。図1では主導電層3の両面に被覆層2、4を形成しているが、下地層2またはキャップ層4のいずれか一方の面のみを覆ってもよく、適宜選択できる。尚、主導電層の一方の面のみを本発明の被覆層で覆う場合には、主導電層の他方の面には電子部品の用途に応じて、本発明とは別の組成の被覆層で覆うことができる。
【0015】
本発明の重要な特徴は、図1に示す電子部品用積層配線膜の被覆層において、Cuに対してAlを特定量添加することで、基板との密着性を向上させるとともに、耐熱性を向上させ、加熱工程を経ても低い電気抵抗値を維持できることを見出した点にある。以下に本発明の電子部品用積層配膜について詳細に説明する。
なお、以下の説明において、「密着性」とは、積層配線膜の下層にくる基板との剥がれにくさをいうものとする。また、「耐熱性」とは、高温環境下における積層配線膜の酸化や、被覆層のAlが主導電層へ拡散することによる積層配線膜の電気抵抗値の増加の起こりにくさをいうものとする。
【0016】
本発明の電子部品用積層配膜の被覆層としてCuに特定量のAlを添加したCu合金を用いる理由は、主導電層の下地層として用いた際の基板との密着性を向上させるためである。Cuは、ガラス基板等の酸化物との密着性が低い元素である。本発明者は、Cuに特定量のAlを添加することで、大幅に密着性が改善できることを見出した。その効果は、CuにAlを20原子%添加すると明確となり、25原子%以上で飽和する。
また、主導電層のCu層は、大気中で加熱すると酸化して電気抵抗値が大きく増加する場合がある。本発明のCu合金でなる被覆層を主導電層のキャップ層として形成することで主導電層の表面が直接大気に触れることを妨げ、主導電層であるCu層の酸化による電気抵抗値の増加を抑制できる。その効果は、CuにAlを15原子%以上添加すると明確となる。
この効果の発現する理由は明らかではないが、本発明の範囲のCu合金を被覆層としてスパッタにより形成すると、柱状晶が形成されないため、酸素の拡散が抑制されたものと推定される。
【0017】
また、Cuに特定量のAlを添加した被覆層を下地層あるいはキャップ層として形成した際の共通な問題として、Alは、Cuに対して熱拡散しやすい元素であり、CuへのAlの添加量が60原子%を越えると、FPD等の電子部品を製造する際の加熱工程において、被覆層を形成するCu合金中のAlが、容易に主導電層であるCuに拡散し、低い電気抵抗値を維持しづらくなる問題がある。このため、被覆層を形成するCuへのAlの添加量は60原子%以下とする。
以上のことから、被覆層であるCuへのAl添加量は、密着性と耐熱性を確保するために20〜60原子%とした。
また、主導電層に被覆層を形成した積層配線膜を250℃より高温で加熱する場合は、被覆層に含まれるAlが主導電層のCuにさらに拡散しやすくなるため、より低い電気抵抗値を維持するためには、Alの添加量を35原子%以下にすることが好ましい。さらに高い密着性と高い耐熱性を確保するには、Alの添加量は25〜35原子%にすることがより好ましい。
【0018】
本発明の電子部品用積層配線膜において、低い電気抵抗値を安定的に得るには、主導電層であるCuの膜厚を100〜1000nmにすることが好ましい。これは、主導電層の膜厚が100nmより薄くなると、薄膜特有の電子の散乱の影響で電気抵抗値が増加しやすくなる。一方、1000nmより厚くなると膜を形成するために時間が掛かったり、膜応力により基板に反りが発生しやすくなったりする。
また、Cuを主成分とする主導電層は、純Cuが最も低い電気抵抗値を得られる点で好ましい。なお、耐熱性や耐食性等の信頼性を考慮して、Cuに遷移金属や半金属等を添加したCu合金層を用いてもよい。このとき、主導電層として、できる限り低い電気抵抗値を得るためには、Cuに添加する元素量を5原子%以下にすることが好ましい。
【0019】
また、本発明の電子部品用積層配線膜において、低い電気抵抗値と高い密着性・耐熱性を安定的に得るには、被覆層であるCu合金層の膜厚を5〜100nmにすることが好ましい。これは、下地層として用いる場合の膜厚が5nm未満では、被覆層の連続性が低くなり、密着性を十分に確保できないためである。被覆層は、より安定して均一に成膜できる10nm以上がより好ましい。
また、キャップ層として用いる場合の膜厚は、20nm以上が好ましく、より高温の250℃以上で加熱される場合は30nm以上がより好ましい。その理由は、被覆層により酸素の侵入を十分に抑制する必要があるためである。
酸素の侵入を抑制するためには被覆層の膜厚は厚いほど好ましいが、100nmを越えると、総厚が一定の条件で被覆層の厚さを厚くすると、その分だけ主伝導層の厚さが薄くなるため、主導電層と被覆層を合わせた膜全体の電気抵抗値が高くなってしまい、主導電層と積層した際に低い電気抵抗値を得にくくなる。また、電子部品用積層配線膜が300℃以上で加熱される場合は、主導電層のCuへの被覆層中のAlの原子拡散による電気抵抗値の増加を抑制するには被覆層の膜厚は、50nm以下が好ましい。
【0020】
本発明の電子部品用積層配線膜は、樹脂フィルム基板や極薄ガラス基板等を基板に用いて構成された場合であっても、主導電層のCu層を保護する効果が十分に維持できる。
また、FPDの大画面化や高速駆動を得るために、TFT製造工程中の加熱温度は上昇する傾向にある。本発明の電子部品用積層配線膜は、主導電層のCu層にCu合金でなる被覆層を形成することで、優れた耐熱性を有するので、主導電層のCuへの熱拡散を抑制して低い電気抵抗値を維持することができる。
【0021】
本発明の電子部品用積層配線膜を形成するには、スパッタリングターゲットを用いたスパッタリング法が好適である。スパッタリング法としては、主導電層および被覆層の組成と同一のCuまたはCu合金スパッタリングターゲットを使用して成膜する方法が好ましい。本発明は、通常のスパッタをすることができるため、スパッタリングターゲット上へのノジュールの堆積を抑制し、異常放電を防止でき、パーティクルが発生することなく、安定的にかつ容易に成膜できる。
本発明の電子部品用積層配線膜の被覆層を形成するには、Alを20〜60原子%含有し、残部Cuおよび不可避的不純物からなるCu合金スパッタリングターゲットを用いることで安定に被覆層を形成できる。
また、上述したように、被覆層として基板との高い密着性と耐熱性を得るには、Cu合金スパッタリングターゲットに含まれるAlを25〜35原子%にすることが好ましい。
【0022】
また、上述したCu合金スパッタリングターゲット材の製造方法としては、所定の組成に調合した原料を溶解―鋳造して作製したインゴットを機械加工により製造する方法や、Cu合金の粉末をアトマイズまたはインゴットを粉砕した粉末を焼結する方法で製造することが可能である。製造方法に関してはスパッタリングターゲット材の大きさ形状により安価かつ安定的に製造できる方法を適宜適応することが可能である。
【0023】
本発明の電子部品用積層配線膜の被覆層であるCu合金層においては、下地層として用いる際の基板との密着性や、キャップ層として用いる際の耐熱性を確保するためには、必須元素であるAl以外の残部を占めるCu以外の不可避的不純物の含有量は少ないことが好ましい。但し、本発明の作用を損なわない範囲で、ガス成分である酸素、窒素や炭素、遷移金属であるFe、半金族のSi等の不可避的不純物を含んでもよい。例えば、ガス成分の酸素、窒素は各々1000質量ppm以下、炭素は200質量ppm以下、Feは500質量ppm以下、Siは100質量ppm以下等であり、ガス成分を除いた純度は99.9%以上であることが好ましい。
【実施例1】
【0024】
先ず、被覆層となるCu合金層を形成するためのスパッタリングターゲット材を作製した。表1に示す所定の組成となるように秤量した後、真空溶解炉にて溶解し、鋳造してCu合金のインゴットを作製した。その後、各インゴットを機械加工により、直径100mm、厚さ5mmのスパッタリングターゲット材を作製した。
また、主導電層を形成するためのCuスパッタリングターゲット材は、日立電線株式会社製の無酸素銅(OFC)素材から切り出して作製した。また、Alスパッタリングターゲット材は、住友化学株式会社製のスパッタリングターゲット材を用いた。
【0025】
上記で作製した各スパッタリングターゲット材をCu製のバッキングプレートにろう付けして株式会社アルバック製の型式:CS−200のスパッタリング装置に取り付けた。
25mm×50mmのガラス基板上に、準備した各スパッタリングターゲット材を用いて、被覆層であるCu合金層と主導電層であるCu層を、図1に示す構成となるように、それぞれ表1に示す膜厚でスパッタリング法にて形成して電子部品用積層配線膜を得た。また、比較のために、純Cuの単層、AlとCuの積層膜、MoとAlの積層膜を同様に形成した。
【0026】
密着性の評価は、各積層配線膜をJIS K5400で規定された方法で実施した。先ず、上記の各積層配線膜上に住友スリーエム株式会社製の透明粘着テープ(製品名:透明美色)を貼り、2mm間隔で碁盤目状に切り欠きを入れ、透明粘着テープを引きはがして、電子部品用積層配線膜の残ったマス目を全体の分率を求めて評価した。その結果を表1に示す。
耐熱性の評価は、大気中にて150℃、200℃、250℃、300℃、350℃で1時間、各電子部品用積層配線膜を加熱した後の電気抵抗値の変化を測定した。電気抵抗値は、三菱油化株式会社(現 株式会社ダイヤインスツルメンツ)製の4端子薄膜抵抗率測定器、型式:MCP−T400を用いて測定した。その結果を表1に示す。
【0027】
【表1】
【0028】
表1に示すように、被覆層を形成していない比較例の試料No.1は密着性が低く、大気中で加熱すると250℃以上で酸化してしまい、導通が得られなくなり電気抵抗値の測定ができなかった。また、比較例のCuにAlを3原子%添加した被覆層を形成した試料No.2においては、試料No.1と同様に、密着性が低く、250℃以上で酸化してしまい、導通が得られなくなり電気抵抗値の測定ができなかった。また、比較例のCuにAlを15原子%添加した被覆層を形成した試料No.3においても、密着性に劣ることが確認された。また、比較例の被覆層としてAlの被覆層を形成した試料No.10は、密着性には優れるものの、250℃以上に加熱すると大幅に電気抵抗値が上昇し、耐熱性に劣ることが確認された。
【0029】
これに対して、Cuに本発明の範囲でAlを添加した被覆層を形成した試料No.4〜No.8の電子部品用積層配線膜は、基板との密着性が90%以上と高く、Al添加量が25原子%以上でまったく剥がれない十分な密着性を有し、それ以上の添加量でも同様に高い密着性を確保できることが確認できた。
また、本発明の電子部品用積層配線膜は、250℃以上に加熱しても、電気抵抗値に大きな変動はなく、主導電層のCuの酸化を抑制できるキャップ層としての高い耐熱性も有していることが確認できた。
比較例となる、CuにAlを15原子%添加した被覆層を持つ試料No.3の電子部品用積層配線膜の構造をX線回折法で確認したところ、主にCuの回折線が確認され、Cu合金層はCu同様の結晶質であることが確認された。
これに対して、本発明例となるCuにAlを25原子%添加した被覆層を持つ試料No.5の電子部品用積層配線膜では、Cuの回折線以外に、低角域に明確なピークを示さないブロードな非晶質に近い回折線が確認され、Cu合金層は非晶質に近い構造であると推察される。この結果から、Cu合金層が非晶質に近い構造となることで結晶粒界が減少し、主導電層であるCuへの酸素の進入を抑制し、酸化を防ぐことで低い電気抵抗値を維持していると考えられる。
【実施例2】
【0030】
次にエッチング性の評価を行った。関東化学株式会社製のCu用エッチャントCu−02を用いて、実施例1で基板上に作成した電子部品用積層配線膜上の半分の面積にのみフォトレジストを塗布して乾燥させ、エッチャント液に浸漬して、未塗布部分をエッチングした。浸漬時間は、目視でエッチングが完了した後10秒保持し、未溶解のものについては最長で5分とした。
エッチャントから引き上げた基板を純水で洗浄し、乾燥させ、溶解部分とレジストを塗布した未溶解部分の境目近傍を光学顕微鏡で観察した。その結果を表1に示す。
比較例となる試料No.10のAlは、Cu用エッチャントには不溶であった。また、比較例となる試料No.7〜No.9では、未溶解部分で段差が生じたり残渣が生じたりしていることが確認された。
これに対して、本発明例では、特にAl添加量が35原子%までは良好なエッチング性を有しており、Al添加量が60原子%までは段差や残渣もなく、エッチング性が良好であることが確認できた。
【実施例3】
【0031】
実施例1で作成した表2に示す各スパッタリングターゲットを用いて、100mm×100mmのポリイミドフィルム上に実施例1と同様の条件で電子部品用積層配線膜を形成した。各電子部品用積層配線膜を直径10mmのガラス管に巻き付け、電子部品用積層配線膜の表面に幅25mmの住友スリーエム株式会社製の透明粘着テープ(製品名:透明美色)をゴム製の箆で気泡が残らないように貼り、斜め45°の角度で剥がして密着性の評価を行った。その結果を表2に示す。
【0032】
【表2】
【0033】
表2に示すように、比較例となる試料No.16のAl膜では、所々に膜剥がれが生じていることを確認した。これに対し、本発明例となる試料No.12〜No.15の電子部品用積層配線膜では、膜剥がれがなく、フィルム上でも高い密着性を有することが確認できた。
【符号の説明】
【0034】
1 基板
2 被覆層(下地層)
3 主導電層
4 被覆層(キャップ層)
図1