【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (1)公益社団法人応用物理学会から平成24年2月29日に発行された「第59回応用物理学関係連合講演会 講演予稿集(DVD−ROM)」において発表 (2)公益社団法人応用物理学会が平成24年3月15日から3月18日に開催した「第59回応用物理学関係連合講演会」において、会期中の3月17日にスライドを用いて発表 (3)一般社団法人映像情報メディア学会から平成24年8月8日に発行された「映像情報メディア学会2012年年次大会 講演予稿集(CD−ROM)」において発表
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
所定の範囲における複数の前記ドレイン−ソース間電圧及び/又は前記ゲート−ソース間電圧を前記ポテンシャル分布の計算条件として順次に前記ポテンシャル分布演算手段に設定する計算範囲設定手段を更に備え、
前記ポテンシャル分布に基づいて算出されたドレイン電流と、当該ポテンシャル分布の計算条件とした前記ドレイン−ソース間電圧及び/又は前記ゲート−ソース間電圧とを対応付けた前記ドレイン電流のドレイン電圧依存性及び/又はゲート電圧依存性を計算することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のドレイン電流のシミュレーション装置。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本発明の実施形態について、適宜に図面を参照して説明する。ここでは、n型の蓄積型TFTについて説明する。なお、本実施形態について、先にドレイン電流の計算方法について説明し、その後に、その計算方法を用いたドレイン電流のシミュレーション装置について説明する。
【0037】
[ドレイン電流の計算方法]
まず、ドレイン電流を計算方法について説明する。
図1は本発明におけるドレイン電流の計算方法を説明するためのTFTの断面を模式的に示したものである。このTFTは、図面において半導体膜SCの左右方向の両端にそれぞれソース電極Sとドレイン電極Dとが設けられ、図面において半導体膜SCの下方向には、ゲート絶縁膜INを挟んでゲート電極Gが設けられているボトムゲート、トップコンタクト型の電界効果型トランジスタ(FET)である。なお、本実施形態では、ボトムゲート、トップコンタクト型のTFTを例に説明するが、本発明が適用できるTFTは、この構造に限定されるものではない。
【0038】
ここで、t
scは半導体膜SCの厚さであり、Lは半導体膜SCのチャネル長であり、t
inはゲート絶縁膜INの厚さである。また、座標系は、半導体膜SCの厚さ方向(深さ方向ともいう)である図面の上下方向をx方向とし、チャネル長方向である図面の左右方向をy方向とする。x方向の座標は、半導体膜SCのゲート絶縁膜INとの界面をx=0とし、上端面はx=t
scとする。また、y方向の座標は、半導体膜SCがソース電極Sの右端部と接触する位置をy=0とし、半導体膜SCがドレイン電極Dの左端部と接触する位置をy=Lとする。
【0039】
[ポアソン方程式]
ここで、半導体膜SC中のポアソン方程式は、チャネル長Lがゲート絶縁膜INの厚さに対して極端に短くない場合は、グラデュアルチャネル近似より、式(1)のように、一次元の方程式で表すことができる。ここで、チャネル長Lがゲート絶縁膜INの厚さt
inに対して極端に短くない場合とは、例えば、ゲート絶縁膜INの厚さt
inを100[nm]としたときに、チャネル長Lが5μm程度以上の場合にグラデュアルチャネル近似をすることができる。また、グラデュアルチャネル近似とは、ドレイン−ソース間の電圧のチャネル長方向(y方向)の変化が緩やかであるため、y方向の電界を無視するという近似である。
【0041】
式(1)において、φは静電ポテンシャル(以下、適宜単に「ポテンシャル」という)、xは半導体膜SCの厚さ方向の位置、ρは電荷密度であり、ε
scは半導体膜SCの誘電率である。このとき、キャリアを捕獲する欠陥を含む半導体膜SCにおける電荷密度ρは、キャリアを捕獲する欠陥の密度を考慮して、式(2)で与えられる。
【0043】
ここで、qは電気素量、pはホール密度、nは電子密度、N
dは酸素欠損や不純物水素などに由来する実効的なドナー密度、N
dd+は正に帯電したドナー型欠陥のディープステート(Deep state)における密度、N
ad−は負に帯電したアクセプタ型欠陥のディープステート(Deep state)における密度、N
at−は負に帯電したアクセプタ型欠陥のテールステート(Tail state)における密度である。また、ドレイン電流特性に対するドナー型欠陥のテールステート(Tail state)の影響は小さいため、それに関する項はここでは無視している。なお、N
dd+は正に帯電したドナー型欠陥のディープステート(Deep state)における密度などは、適宜「N
dd+は正に帯電したドナー型欠陥(Deep state)の密度」のように記載する。
また、「ディープステート(Deep state)」及び「テールステート(Tail state)」についての説明は後記する。
【0044】
ここで、ホール密度p及び電子密度nは、それぞれ式(3)及び式(4−1)のように与えられる。更に、本実施形態では、n型TFTにおける多数キャリアである電子の密度nについては、ドレイン−ソース間電圧V
dsが高く、熱的に平衡状態であると近似できない系、すなわち、熱的に非平衡状態な系に適用可能とするために、電子の擬フェルミポテンシャルφ
nを導入し、電子密度nを表す式として、式(4−1)におけるポテンシャルφに代えて、(φ−φ
n)とした式(4−2)を用いる。
なお、p型TFTについて計算を行う場合は、n型TFTについての計算の際に電子密度n及び後記するアクセプタ型欠陥の密度N
ad−、N
at−(式(13−2)及び式(16−2)参照)に電子の擬フェルミポテンシャルφ
nを導入することに代えて、ホール密度p及びドナー型欠陥の密度N
dd+にホールの擬フェルミポテンシャルφ
pを導入する(式(3)及び式(10)において、φを(φ−φ
p)に置き換える)。この場合、電子密度n及びアクセプタ型欠陥の密度N
ad−、N
at−には、電子の擬フェルミポテンシャルφ
nの導入は不要である。
【0046】
ここで、p
0及びn
0は、それぞれ、フラットバンド条件における半導体膜SCのホール密度及び電子密度であり、βは熱電圧の逆数である。ここで、β=q/kTであり、kはボルツマン定数、Tは絶対温度である。また、電子の擬フェルミポテンシャルφ
nは、ソース端(y=0)において、φ
n=0、ドレイン端(y=L)において、φ
n=V
dsとなる。
但し、後記するように、寄生抵抗の影響が無視できない場合には、ドレイン端(y=L)において、φ
n=V
ds−effとなる。ここで、V
ds−effは、寄生抵抗による電圧降下の影響を考慮した、実効的なドレイン−ソース間電圧である。なお、実効的なドレイン−ソース間電圧V
ds−effについての詳細な説明は後記する。
【0047】
また、フラットバンド条件における半導体膜SCのホール密度p
0及び電子密度n
0は、それぞれ、式(5)及び式(6)のように与えられる。
【0049】
ここで、n
iは真性キャリア密度、E
iは真性フェルミ準位、E
fはフラットバンド条件でのフェルミ準位である。
【0050】
また、本実施形態における計算方法では、酸素欠損や不純物水素などに由来する実効的なドナー密度N
dは、ポテンシャルφに依存せずに、熱処理の温度や熱処理の雰囲気(例えば、窒素ガス雰囲気、大気など)などの製造プロセスによって定められる所定値をとるものと近似する。この所定値としては、実験結果に基づいて定められる経験値を固有パラメータとして用いることができる。
【0051】
次に、キャリアを捕獲する欠陥の密度について詳しく説明する。
図2はバンドギャップ中のドナー型欠陥(Deep state)とアクセプタ型欠陥(Deep state, Tail state)の状態密度を表わした図である。なお、「Deep state」とは、価電子帯上端のエネルギーE
vと伝導帯下端のエネルギーE
cとの間のエネルギー状態において、中央部のエネルギー状態をいうものである。また、「Tail state」とは、前記したエネルギー間で、価電子帯上端のエネルギーE
vの近傍又は伝導帯下端のエネルギーE
cの近傍のエネルギー状態をいうものである。
【0052】
ここで、ドナー型欠陥(Deep state)の状態密度g
ddは、バンドギャップ中のエネルギーEの関数として、式(7)のように与えられる。
【0054】
ここで、g
dd0は価電子帯上端のエネルギーE
vでのドナー型欠陥(Deep state)の状態密度である。また、E
ddはドナー型欠陥(Deep state)の状態密度分布の傾きの逆数で、「E
dd>kT」である。なお、kTは、室温で26meVである。
【0055】
また、正に帯電したドナー型欠陥(Deep state)の密度N
dd+は、式(8)に示すように、欠陥準位の占有確率をf(E)として、式(7)に(1−f(E))を掛けて、価電子帯上端のエネルギーE
vから伝導帯下端のエネルギーE
cまで積分することにより求めることができる。なお、欠陥準位の占有確率f(E)は、式(9)のように与えられる。
【0057】
ここで、E
feはフェルミ準位である。
次に、式(8)の積分計算は数値的に行う必要があるが、「E
dd>kT」であることを考慮することにより、解析的な近似解が得ることができる。この近似解の導出について説明する。
【0058】
まず、式(8)に式(7)及び式(9)を代入し、積分範囲の上端を伝導帯下端のエネルギーE
cから無限大に変えることで、近似式である式(A1)が得られる。
【0060】
ここで、式(A2)のように、z、αをおくと、式(A1)は、式(A3)のように表すことができ、更に式(A4)のように近似することができる。
【0062】
ここで、α>1(E
dd>kT)のとき、式(A5)の関係が成立するから、式(A4)は、式(A6)のようになる。
【0064】
ここで、式(A6)に、式(A7)に示した関係式を代入することで、式(A8)が得られる。
【0066】
また、式(A9)に示すように、式(A8)において、ポテンシャルφ=0とした場合が、半導体膜SCのフラットバンド条件での正に帯電したドナー型欠陥(Deep state)の密度N
dd0+である。
【0068】
従って、式(A9)を用いることにより、式(A8)は式(10)のように表すことができる。本実施形態では、式(8)に示した正に帯電したドナー型欠陥(Deep state)の密度N
dd+の近似式として、式(10)を用いるものである。
【0070】
また、アクセプタ型欠陥(Deep state)の状態密度g
adは、式(11)のように与えられる。
【0072】
ここで、g
ad0は伝導帯下端のエネルギーE
cでのアクセプタ型欠陥(Deep state)の状態密度、E
adはアクセプタ型欠陥(Deep state)の状態密度分布の傾きの逆数であり、「E
ad>kT」である。
【0073】
また、負に帯電したアクセプタ型欠陥(Deep state)の密度N
ad−は、式(12)に示すように、式(11)に欠陥準位の占有確率f(E)を掛けて、価電子帯上端のエネルギーE
vから伝導帯下端のエネルギーE
cまで積分することにより求めることができる。
【0075】
式(8)に示した積分計算と同様に、式(12)の積分計算も数値的に行う必要があるが、「E
ad>kT」であることを考慮することにより、解析的な近似解を得ることができる。この近似解の導出について説明する。
【0076】
まず、式(12)に式(9)及び式(11)を代入することで、式(B1)が得られ、更に、積分範囲の下端を価電子帯上端のエネルギーE
vからマイナス無限大に変えることで、近似式である式(B2)が得られる。
【0078】
ここで、式(B3)に示すように、z、αをおくと、式(B2)は、式(B4)のように表すことができ、更に、積分範囲の上端を無限大に変えることで、近似式である式(B5)が得られる。なお、式(B3)のz及びαは、前記した式(A2)のz及びαとは異なるものである。
【0080】
ここで、α>1(E
ad>kT)のとき、式(B6)の関係が成立するから、式(B5)は、式(B7)のようになる。
【0082】
ここで、式(B7)に、式(B8)に示した関係式を代入することで、式(B9)が得られる。
【0084】
また、式(B10)に示すように、式(B9)において、ポテンシャルφ=0とした場合が、半導体膜SCのフラットバンド条件での負に帯電したアクセプタ型欠陥(Deep state)の密度N
ad0−である。
【0086】
従って、式(B10)を用いることにより、式(B9)は式(13−1)のように表すことができる。更に本実施形態では、式(4−2)に示した電子密度nと同様に、熱的に非平衡状態の系に適用可能とするために、電子の擬フェルミポテンシャルφ
nを考慮して、式(13−1)におけるポテンシャルφを(φ−φ
n)に置き換えた式(13−2)を、式(12)に示した負に帯電したアクセプタ型欠陥(Deep state)の密度N
ad−の近似式として用いる。
【0088】
また、アクセプタ型欠陥(Tail state)の状態密度g
atは、式(14)のように与えられる。
【0090】
ここで、g
at0は伝導帯下端でのアクセプタ型欠陥(Tail state)の状態密度、E
atはアクセプタ型欠陥(Tail state)の状態密度分布の傾きの逆数であり、「E
at<kT」である。
【0091】
また、負に帯電したアクセプタ型欠陥(Tail state)の密度N
at−は、式(15)に示すように、式(14)に、式(9)に示した欠陥準位の占有確率f(E)を掛けて、価電子帯上端のエネルギーE
vから伝導帯下端のエネルギーE
cまで積分することにより求めることができる。
【0093】
式(8)及び式(12)に示した積分計算と同様に、式(15)の積分計算も数値的に行う必要があるが、「E
at<kT」であることを考慮することにより、解析的な近似解を得ることができる。この近似解の導出について説明する。
【0094】
まず、式(15)に式(9)及び式(14)を代入することにより式(C1)が得られ、更に、積分範囲の下端を価電子帯上端のエネルギーE
vからマイナス無限大に変えることで、近似式である式(C2)が得られる。
【0096】
ここで、アクセプタ型欠陥のTail stateの状態密度は、伝導帯下端のエネルギーE
cの近くのみで高い値をとるので、式(C2)の積分を行う際は、式(9)で表される占有確率f(E)を式(3)のように近似することができる。
【0098】
従って、式(C2)は、更に、式(C4)に示すように近似でき、その結果として式(C5)が得られる。
【0100】
ここで、式(C5)に式(C6)の関係式を代入することで、式(C7)が得られ、更に、変形すると式(C8)が得られる。
【0102】
また、式(C9)に示すように、式(C8)において、ポテンシャルφ=0とした場合が、半導体膜SCのフラットバンド条件での負に帯電したアクセプタ型欠陥(Tail state)の密度N
at0−である。
【0104】
従って、式(C9)を用いることにより、式(C8)は式(16−1)のように表すことができる。更に本実施形態では、式(4−2)に示した電子密度nと同様に、熱的に非平衡状態の系に適用可能とするために、電子の擬フェルミポテンシャルφ
nを考慮して、式(16−1)におけるポテンシャルφを(φ−φ
n)に置き換えた式(16−2)を、式(15)に示した負に帯電したアクセプタ型欠陥(Tail state)の密度N
at−の近似式として用いる。
【0106】
[フラットバンド条件でのフェルミ準位の計算]
次に、半導体膜SCの電気的中性条件に基づいて、フラットバンド条件でのフェルミ準位E
fを計算するプロセスについて説明する。
【0107】
ここで、
図3を参照して、フラットバンド条件について説明する。フラットバンド条件とは、
図3に示すように、TFTのエネルギーバンド図において、半導体膜SCにおけるエネルギーバンドが曲がらず、フラットになる条件のことである。ゲート電極Gである金属の仕事関数と半導体膜SCの仕事関数とが等しく、かつ、ゲート絶縁膜IN中に電荷が存在しない場合、フラットバンド条件においては、ゲート電極Gである金属のフェルミ準位E
fmと、半導体膜SCのフェルミ順位E
fsとが等しくなる。
【0108】
また、ゲート電極Gである金属の仕事関数と半導体膜SCの仕事関数との間に差がある場合や、ゲート絶縁膜IN中に電荷がある場合に、これらによって生じる半導体膜SC中のエネルギーバンドの曲がりを補償して、エネルギーバンドをフラットにするのに必要なゲート電圧V
gがフラットバンド電圧V
fbである。
【0109】
フェルミ準位E
fを計算するプロセスについて説明を続ける。
式(2)に、式(3)、式(4−2)、式(10)、式(13−2)及び式(16−2)を代入して、フラットバンド条件「φ=0」において、半導体膜SCにおける電気的中性条件である「ρ=0」及び「φ
n=0」とすることで、式(17)が得られる。
【0111】
そして、式(17)に、式(5)、式(6)、式(A9)、式(B10)及び式(C9)を代入すると、式(18)が得られる。
【0113】
ここで、価電子帯上端のエネルギーE
vでのドナー型欠陥(Deep state)の状態密度g
dd0、ドナー型欠陥(Deep state)の状態密度分布の傾きの逆数E
dd、伝導帯下端のエネルギーE
cでのアクセプタ型欠陥(Deep state)の状態密度g
ad0、アクセプタ型欠陥(Deep state)の状態密度分布の傾きの逆数E
ad、伝導帯下端のエネルギーE
cでのアクセプタ型欠陥(Tail state)の状態密度g
at0、アクセプタ型欠陥(Tail state)の状態密度分布の傾きの逆数E
at、実効的なドナー密度N
d、真性キャリア密度n
i、真性フェルミ準位E
i、価電子帯上端のエネルギーE
v及び伝導帯下端のエネルギーE
cは、デバイスの設計値であるデバイスパラメータ又は用いる材料に固有の固有パラメータとして与えられる。また、絶対温度Tは、任意の値(例えば、300K)を設定することができる。従って、式(18)において未知数はフェルミ準位E
fのみである。
【0114】
そこで、フェルミ準位E
fの方程式である式(18)について、例えば、反復計算を用いた求根アルゴリズムであるニュートン法や二分法などの公知の手法により数値解析することで、フラットバンド条件でのフェルミ準位E
fを算出することができる。
【0115】
[フラットバンド条件での電荷担体密度の計算]
次に、式(18)から算出したフェルミ準位E
fを、式(5)、式(6)、式(A9)、式(B10)及び式(C9)に代入することで、半導体膜SCのフラットバンド条件での電荷担体密度として、ホール密度p
0、電子密度n
0、正に帯電したドナー型欠陥(Deep state)の密度N
dd0+、負に帯電したアクセプタ型欠陥(Deep state)の密度N
ad0−、負に帯電したアクセプタ型欠陥(Tail state)の密度N
at0−が得られる。そして、これらの電荷担体密度を用いて、ポテンシャル分布の計算を行う。
【0116】
[ポテンシャル分布の計算]
式(1)に示したポアソン方程式は、差分化することで、例えば、直接法であるガウスの消去法や、反復法であるヤコビ法などの公知の手法を用いた数値解析によって、その解を求めることができる。これによって、x方向(深さ方向)のポテンシャル分布の算出を行うことができる。
【0117】
ここで、差分化するために、半導体膜SCにおいて、数値解析をする際に、例えば等間隔メッシュを仮定して、そのメッシュ幅をΔxとして、ポテンシャル分布φ(x)を、Δx単位で離散化した数値関数として取り扱うこととする。その結果、数値解析によって、ポテンシャル分布φ(x)は、{φ(0),φ(Δx),φ(2Δx),・・・,φ(t
sc)}という数値関数(数列)として算出される。
【0118】
ここで、
図4を参照して、ポアソン方程式を解く際の境界条件について説明する。
まず、ゲート電極Gにおけるポテンシャルφは、ゲート−ソース間電圧V
gsとフラットバンド電圧V
fbとの差「V
gs−V
fb」とする。また、ゲート絶縁膜INと半導体膜SCとの界面(x=0)において、電束密度が連続となるようにする。更にまた、「x>t
sc」となる領域、すなわち半導体膜SCの上面側(
図1参照)に、十分に厚い絶縁膜層があるものと仮定し、x=t
scにおいて電界Eがほぼゼロとなるようにする。
【0119】
[キャリア密度分布の計算]
半導体膜SC中のキャリア密度分布は、ポアソン方程式を解いて得られるポテンシャル分布から計算することができる。
式(4−2)において、位置xにおけるポテンシャルをφ(x)とすると、位置xにおけるキャリア密度(電子密度)n(x)は、式(19)で与えられる。
【0121】
[キャリア面密度の計算]
キャリア面密度Nは、式(20)に示すように、キャリア密度n(x)を、厚さ方向にx=0からx=t
scまで積分することにより算出することができる。
【0123】
実際には、ポテンシャル分布は数値計算より得られるので、式(20)における積分は解析的には行うことができない。従って、半導体膜SCにおいて、数値計算をする際に等間隔メッシュを仮定して、そのメッシュ幅をΔxとすると、キャリアの面密度Nは、式(21)のようにして算出することができる。
【0125】
[ドレイン電流の計算]
ドレイン電流I
dは、式(23)に示すように、拡散電流成分I
diffと、ドリフト電流成分I
driftの和として与えられる。ここで、チャネル長方向であるy方向において、ソース端をy=0とし、ドレイン端をy=Lとし、y方向の電界がx方向(深さ方向)について一定であると近似すると、拡散電流成分I
diff及びドリフト電流成分I
driftは、それぞれ式(24)及び式(25)のように表すことができる。
式(24)において、N(y)はチャネル長方向の位置yにおけるキャリアの面密度であり、式(25)において、φ
s(y)は位置yにおけるゲート絶縁膜INと半導体膜SCとの界面(x=0)におけるポテンシャル(表面ポテンシャル)である。
【0127】
まず、式(24)に示した拡散電流成分I
diffをyについて積分すると、式(26)のようになる。ここで、N
Lは、y=Lにおけるキャリア面密度、N
0は、y=0におけるキャリア面密度である。そして、拡散電流成分I
diffは、式(27)のように与えられる。
式(27)において、Q
L及びQ
0は、それぞれ、y=L及びy=0におけるキャリア面電荷密度であり、Q
0=−qN
0、Q
L=−qN
Lの関係が成り立つ。
【0129】
次に、式(25)に示したドリフト電流成分I
driftをyについて積分すると、式(28)のようになる。ここで、φ
sL及びφ
s0は、それぞれ、y=L及びy=0におけるゲート絶縁膜INと半導体膜SCとの界面(x=0)のポテンシャルである。そして、ドリフト電流成分I
driftは、式(29)のように与えられる。
なお、このとき、Q=−qNの関係を用いた。
【0131】
式(27)及び式(29)を式(23)に代入することで、ドレイン電流I
dは、式(30)のように表すことができる。式(30)において、右辺の第一項は拡散電流成分を表し、第二項はドリフト電流を表す。
【0133】
式(30)中の第二項の積分計算は、具体的には、式(31)によって行う。すなわち、キャリア面電荷密度Q及びポテンシャルφ
sを、それぞれy方向について離散化した関数に置き換えて、式(31)に示すように、キャリア面電荷密度Qとポテンシャルφ
sの差分との積和演算を行うことで、積分値を算出することができる。
式(31)において、m
yは正の整数であり、関数をy方向に離散化する際のドレイン−ソース間電圧V
dsの分割数を示す。m
yを大きな値にするほど、離散化した関数の間隔が小さくなり、元の連続関数をより忠実に表現できるため、計算精度を高くすることができる。
【0135】
また、式(31)において、離散化したy方向のr番目の位置におけるキャリア面電荷密度Q
r及び表面ポテンシャルφ
srは、まず、y方向のr番目の位置における擬フェルミポテンシャルφ
n(r)を式(32)に従って設定しておき、その上で式(1)に示したポアソン方程式を解いて得られるポテンシャルφ
r(x)を用いて計算する。計算の具体例について、この後に説明する。なお、式(32)において、ΔV
dsは、式(33)で与えられ、y方向の離散化に対応した計算間隔(幅)である。また、0番目の位置はy=0の位置(ソース端)であり、m
y番目の位置はy=Lの位置(ドレイン端)である。
【0136】
次に、式(31)の計算の具体例について説明する。まず、式(33)によれば、例えば、V
ds=10[V]、ΔV
ds=0.2[V]とした場合に、分割数m
y=50となり、あるゲート電圧V
gにおけるドレイン電流I
dを計算するために、起点を含めた51条件(φ
n(r)=0,0.2,0.4,0.6,・・・,9.6,9.8,10[V])でポアソン方程式を解くこととなる。そして、本例の場合は、51条件でのポアソン方程式を解くことにより、y方向の51個の位置における一次元のポテンシャルφが、離散化した関数φ
r(x)(rは0から50までの整数、xは0からt
scまで、間隔Δxで定められる離散値)として算出される。
【0138】
次に、ポテンシャル分布φ
r(x)及び擬フェルミポテンシャルφ
n(r)を式(19)のφ(x)及びφ
nにそれぞれ代入することで、y方向のr番目の位置におけるキャリア密度n
r(x)が得られる。そして、キャリア密度n
r(x)を式(20)のn(x)に代入した積分計算として、式(21)の積和演算を行うことにより、y方向のr番目の位置におけるキャリア面密度N
rが得られる。更に、キャリア面密度N
rに負の電気素量(−q)を乗じることにより、y方向のr番目の位置におけるキャリア面電荷密度Q
rが得られる。
【0139】
y方向の位置r=0〜m
yについての、キャリア面電荷密度Q
r、及び既に算出したx=0におけるポテンシャルφ
r(0)であるポテンシャルφ
srを、式(31)に代入することにより、式(30)の右辺第二項の積分値を得ることができる。
なお、式(30)の右辺の第一項におけるキャリア面電荷密度Q
0及びQ
Lは、第二項の積分計算のためのキャリア面電荷密度Q
rにおいて、それぞれr=0及びr=50の場合のキャリア面電荷密度として算出される値を用いることができる。
以上の計算プロセスにより、任意の大きさのドレイン−ソース間電圧V
dsに対してドレイン電流I
dを算出することができる。
【0140】
また、このドレイン電流I
dを算出の際に設定するゲート電圧V
gの値を、様々に変えて、対応するドレイン電流I
dを算出することにより、ドレイン電流I
dのゲート電圧依存性(ドレイン電流特性)を計算することができる。同様に、ドレイン電圧V
dの値を様々に変えて、ドレイン電流I
dのドレイン電圧依存性を計算することもできる。
ここで、ゲート電圧V
gの値は、ドレイン電流計算プロセスにおいて、ポテンシャル分布φ(x)を計算する際の境界条件を定めるために用いられる。すなわち、ゲート電極Gにおけるポテンシャルφ=V
gs−V
fb=(V
g−V
s)−V
fbを算出するために用いられる。
【0141】
なお、ドレイン−ソース間電圧V
dsが小さい場合(1〜数[V]程度又はそれ以下)は、チャネル長方向であるy方向に対してキャリア密度分布は緩やかに変化するとみなすことができ、式(34)の関係式を用いることができる。そして、式(34)の関係式を用いることで、式(30)は、式(35)のように近似することができる。
【0143】
式(35)の適用範囲は、ドレイン−ソース間電圧V
dsが、1〜数[V]程度又はそれ以下の電圧に限られるが、あるゲート電圧V
gにおけるドレイン電流I
dを計算するためには、ソース端(y=0、φ
n=0)及びドレイン端(y=L、φ
n=V
ds)の2条件でのみ、ポアソン方程式を解けばよい。すなわち、半導体膜SCのチャネル長方向の両端であるソース端及びドレイン端の2箇所における一次元のポテンシャルφを算出すればよい。このため、式(30)を用いる場合に比べて、短時間でドレイン−ソース電圧V
dsが前記した低電圧におけるドレイン電流I
dを算出することができる。
【0144】
また、更に近似を進めて、ソース端及びドレイン端におけるキャリア面電荷密度Q
0,Q
L及び表面ポテンシャルφ
s0,φ
sLに対して、それぞれ式(36)及び式(37)に示す関係があるものとする。これらの関係式を式(35)に代入することで、式(38)の近似式を得ることができる。
【0146】
ここで、ソース端(y=0)におけるキャリア面密度をN
0とすると、式(39)の関係が成り立つ。そして、式(39)を式(38)に代入することで、式(40)の近似式を得ることができる。
【0148】
式(40)に示した近似式を用いてドレイン電流I
dを計算する場合には、ソース端におけるキャリア面密度N
0を算出するために、ソース端(y=0、φ
n=0)でのみ、ポアソン方程式を解けばよい。すなわち、ソース端における一次元のポテンシャルφを算出すればよい。このため、式(35)を用いる場合よりも、更に短時間でドレイン電流I
dを算出することができる。
【0149】
(寄生抵抗の影響)
また、
図5に示すように、トランジスタに寄生抵抗がある場合、すなわち、寄生抵抗の影響を無視することができない場合には、その影響を考慮してドレイン電流I
dを計算する必要がある。なお、
図5に示した例では、ソース電極側とドレイン電極側とに、同じ抵抗値Rの寄生抵抗があるものと仮定している。
【0150】
寄生抵抗Rにドレイン電流I
dが流れることにより、電圧降下が生じるため、実際にトランジスタのドレイン−ソース間に印加される電圧は、端子間であるドレイン電極Dとソース電極S(
図1参照)との間に印加した電圧(V
ds)よりも小さくなる。ここで、実際にトランジスタに印加されるドレイン−ソース間電圧をV
ds−effとし、寄生抵抗の大きさをRとすると、
図5から分かるように、式(41)の関係が成り立つ。
また、式(40)に示したドレイン電流I
dの算出式において寄生抵抗の影響を考慮すると、式(40)は、ドレイン−ソース間電圧V
dsを実効的なドレイン−ソース間電圧V
ds−effに代えて、式(42)にように表すことができる。
そして、式(42)に、式(41)を代入して整理することで、ドレイン−ソース間電圧V
dsと実効的なドレイン−ソース間電圧V
ds−effとの関係を示す式(43)が得られる。
【0152】
寄生抵抗の影響を考慮する場合は、式(32)及び式(33)により擬フェルミポテンシャルφ
n(r)を算出する際に、ドレイン−ソース間電圧V
dsを、式(43)を用いて算出される実効的なドレイン−ソース間電圧V
ds−effに置き換えて算出する。そして、この擬フェルミポテンシャルφ
n(r)を用いてポアソン方程式を解くことで、寄生抵抗の影響をポテンシャル分布の計算に取り入れることができる。
【0153】
次に、
図6を参照(適宜
図1参照)して、前記した本発明におけるドレイン電流の計算方法を用いて、ドレイン電流のシミュレーションを行うドレイン電流のシミュレーション装置(以下、適宜シミュレーション装置という)について説明する。
【0154】
[シミュレーション装置の構成]
図6に示すように、本実施形態におけるシミュレーション装置(ドレイン電流のシミュレーション装置)1は、デバイスパラメータ入力手段10、フェルミ準位演算手段11、電荷担体密度演算手段12、計算範囲設定手段13、ポテンシャル分布演算手段14、キャリア密度分布演算手段15、キャリア面密度演算手段16、ドレイン電流演算手段17、パラメータ記憶手段18、電荷担体密度記憶手段19及びドレイン電流記憶手段20を備えて構成されている。
【0155】
なお、シミュレーション装置1は、専用のハードウェアによって構成することもできるが、パソコン(パーソナルコンピュータ)などの一般的なコンピュータに、ドレイン電流を計算するための前記した各手段を実現するプログラム(ドレイン電流のシミュレーションプログラム)を実行させることによって実現することができる。本実施形態は、パソコンにドレイン電流のシミュレーションプログラムを実行させてドレイン電流のシミュレーション装置1を実現するものである。
以下、各手段について詳細に説明する。
【0156】
デバイスパラメータ入力手段10は、不図示のキーボードなどの入力手段を介して、ドレイン電流I
dの計算に必要なデバイスの構成や特性値を示すパラメータであるデバイスパラメータを入力するものである。デバイスパラメータ入力手段10は、入力したデバイスパラメータを、パラメータ記憶手段18に記憶する。
【0157】
入力するデバイスパラメータとしては、半導体膜SCの厚さt
sc、ゲート絶縁膜INの厚さt
in、チャネル長L、チャネル幅W、価電子帯上端のエネルギーE
vでのドナー型欠陥(Deep state)の状態密度g
dd0、ドナー型欠陥(Deep state)の状態密度分布の傾きの逆数E
dd、伝導帯下端のエネルギーE
cでのアクセプタ型欠陥(Deep state)の状態密度g
ad0、アクセプタ型欠陥(Deep state)の状態密度分布の傾きの逆数E
ad、伝導帯下端のエネルギーE
cでのアクセプタ型欠陥の状態密度(Tail state)g
at0、アクセプタ型欠陥(Tail state)の状態密度分布の傾きの逆数E
at、フラットバンド電圧V
fb及び実効的なドナー密度N
dが挙げられる。
【0158】
また、本実施形態では、半導体膜SCについての真性フェルミ準位E
i、真性キャリア密度n
i、価電子帯上端のエネルギーE
v、伝導帯下端のエネルギーE
c、移動度μ、誘電率ε
sc及びゲート絶縁膜INの誘電率ε
inは、用いる材料に固有の固有パラメータとして、固定値を予めパラメータ記憶手段18に記憶しておく。更に、計算条件の一つであるソース電圧V
sは、例えば、予め定められた値(例えば、0[V])を、パラメータ記憶手段18に記憶しておく。
以下、デバイスパラメータ、固有パラメータなどを合わせて、適宜「デバイスパラメータ等」という。
【0159】
また、デバイスパラメータ入力手段10は、デバイスパラメータを、前記したキーボードのほか、光ディスクや磁気ディスク、フラッシュメモリなどの記憶媒体を介して入力するようにしてもよいし、LAN(Local Area Network)などの通信回線を介して入力するようにしてもよい。
【0160】
フェルミ準位演算手段11は、パラメータ記憶手段18に記憶されているデバイスパラメータ等を用いて、半導体膜SCのフラットバンド条件でのフェルミ準位E
fを算出し、算出したフェルミ準位E
fを電荷担体密度演算手段12に出力するものである。
【0161】
具体的には、フェルミ準位演算手段11は、前記した式(18)にデバイスパラメータ等を代入し、式(18)をニュートン法や二分法などにより数値解析することによって、半導体膜SCのフェルミ準位E
fを算出する。
【0162】
電荷担体密度演算手段12は、フェルミ準位演算手段11から入力したフェルミ準位E
fを用いて、半導体膜SCのフラットバンド条件における正に帯電したドナー型欠陥(Deep state)の密度N
dd0+、負に帯電したアクセプタ型欠陥(Deep state)の密度N
ad0−、負に帯電したアクセプタ型欠陥(Tail state)の密度N
at0−、ホール密度p
0及び電子密度n
0を算出し、算出したこれらの電荷担体密度を電荷担体密度記憶手段19に記憶する。
【0163】
具体的には、電荷担体密度演算手段12は、フェルミ準位E
fを前記した式(5)、式(6)、式(A9)、式(B10)及び式(C9)に代入することで、半導体膜SCのフラットバンド条件における、それぞれ、ホール密度p
0、電子密度n
0、正に帯電したドナー型欠陥(Deep state)の密度N
dd0+、負に帯電したアクセプタ型欠陥(Deep state)の密度N
ad0−及び負に帯電したアクセプタ型欠陥(Tail state)の密度N
at0−を算出する。なお、これらの電荷担体密度の算出にデバイスパラメータ等が必要な場合は、電荷担体密度演算手段12は、適宜にパラメータ記憶手段18に記憶されているデバイスパラメータ等を参照する。
【0164】
計算範囲設定手段13は、ポアソン方程式を解いてポテンシャル分布を計算する際の、ゲート電圧V
gの範囲を不図示のキーボードなどを介して入力し、ポテンシャル分布を計算する際に、入力したゲート電圧V
g及びドレイン電圧V
dの範囲における様々なゲート電圧V
g及びドレイン電圧V
dを計算条件として設定するものである。計算範囲設定手段13は、ゲート電圧V
g及びドレイン電圧V
dを計算条件として、ポテンシャル分布演算手段14に設定する。
【0165】
具体的には、計算範囲設定手段13は、ゲート電圧V
gの設定範囲として、ゲート電圧の初期値V
g0と、ゲート電圧の最大値V
gmaxと、ゲート電圧を変化させる間隔ΔV
gとを入力する。そして、計算範囲設定手段13は、入力した初期値V
g0と、最大値V
gmaxと、間隔ΔV
gとに基づいて、順次、V
g0,V
g0+ΔV
g,V
g0+2×ΔV
g,・・・,V
gmaxをゲート電圧V
gとしてポテンシャル分布演算手段14に設定する。
同様に、ドレイン電圧V
dも、ドレイン電圧V
dの設定範囲として、ドレイン電圧の初期値V
d0と、ドレイン電圧の最大値V
dmaxと、ドレイン電圧を変化させる間隔ΔV
dとを入力する。そして、計算範囲設定手段13は、入力した初期値V
d0と、最大値V
dmaxと、間隔ΔV
dとに基づいて、順次、V
d0,V
d0+ΔV
d,V
d0+2×ΔV
d,・・・,V
dmaxのように変化させて、ドレイン電圧V
dとしてポテンシャル分布演算手段14に設定する。
【0166】
ポテンシャル分布演算手段14は、電荷担体密度記憶手段19に記憶されている電荷担体密度及びパラメータ記憶手段18に記憶されているデバイスパラメータ等に基づいて、計算範囲設定手段13により設定されたゲート電圧V
g及びドレイン電圧V
dにおける半導体膜SCの深さ方向のポテンシャル分布φ(x)を算出し、算出したポテンシャル分布φ(x)をキャリア密度分布演算手段15に出力するものである。
【0167】
具体的には、ポテンシャル分布演算手段14は、電荷担体密度として正に帯電したドナー型欠陥(Deep state)の密度N
dd0+、負に帯電したアクセプタ型欠陥(Deep state)の密度N
ad0−、負に帯電したアクセプタ型欠陥(Tail state)の密度N
at0−、ホール密度p
0及び電子密度n
0と、必要なデバイスパラメータ等と、計算条件であるゲート電圧V
g及びドレイン電圧V
dとを用いて式(1)を計算する。このとき式(2)、式(3)、式(4−2)、式(10)、式(13−2)及び式(16−2)も利用する。更に、式(1)に示したポアソン方程式を差分化し、この差分化したポアソン方程式を、ガウスの消去法やヤコビ法などにより数値解析することによって、ポテンシャル分布φ(x)を算出する。
【0168】
ここで、ポテンシャル分布演算手段14は、ゲート電極Gにおけるポテンシャルφ(−t
in)が、ゲート−ソース間電圧V
gs(V
gs=V
g−V
s)とフラットバンド電圧V
fbとの差(V
gs−V
fb)に等しいことを境界条件として、ポテンシャル分布φ(x)を算出する。
【0169】
キャリア密度分布演算手段15は、式(19)に、ポテンシャル分布演算手段14から入力したポテンシャル分布φ(x)、電荷担体密度記憶手段19に記憶されている電子密度n
0及びパラメータ記憶手段18に記憶されているデバイスパラメータ等を代入して、キャリア密度分布(電子密度分布)n(x)を算出する。
キャリア密度分布演算手段15は、算出したキャリア密度分布n(x)を、キャリア面密度演算手段16に出力する。
【0170】
キャリア面密度演算手段16は、キャリア密度分布演算手段15から入力したキャリア密度n(x)を、式(20)に従って、半導体膜SCの深さ方向の全範囲である下端(x=0)から上端(x=t
sc)まで積分することでキャリア面密度Nを算出する。
【0171】
具体的には、キャリア面密度演算手段16は、式(21)に示したように、メッシュ幅をΔxとして数値積分によりキャリア面密度Nを算出する。
キャリア面密度演算手段16は、算出したキャリア面密度Nをドレイン電流演算手段17に出力する。
【0172】
ドレイン電流演算手段17は、キャリア面密度演算手段16から入力したキャリア面密度Nと、パラメータ記憶手段18に記憶されているデバイスパラメータ等を、式(30)又は式(35)に代入して、ドレイン電流I
dを算出する。
【0173】
ドレイン電流演算手段17は、算出したドレイン電流I
dを、計算条件であるゲート電圧V
g及びドレイン電圧V
dに対応付けて、ドレイン電流記憶手段20に記憶する。
なお、ドレイン電流演算手段17は、ドレイン電流I
dを、ゲート電圧V
gに代えて、ゲート−ソース間電圧V
gsに対応付けてドレイン電流記憶手段20に記憶するようにしてもよい。また、ドレイン電流演算手段17は、ドレイン電流I
dを、ドレイン電圧V
dに代えて、ドレイン−ソース間電圧V
dsに対応付けてドレイン電流記憶手段20に記憶するようにしてもよい。
【0174】
パラメータ記憶手段18は、デバイスパラメータ入力手段10が入力したデバイスパラメータである半導体膜SCの厚さt
sc、ゲート絶縁膜INの厚さt
in、チャネル長L、チャネル幅W、価電子帯上端のエネルギーE
vでのドナー型欠陥(Deep state)の状態密度g
dd0、ドナー型欠陥(Deep state)の状態密度分布の傾きの逆数E
dd、伝導帯下端のエネルギーE
cでのアクセプタ型欠陥(Deep state)の状態密度g
ad0、アクセプタ型欠陥(Deep state)の状態密度分布の傾きの逆数E
ad、伝導帯下端のエネルギーE
cでのアクセプタ型欠陥(Tail state)の状態密度g
at0、アクセプタ型欠陥(Tail state)の状態密度分布の傾きの逆数E
at、フラットバンド電圧V
fb及び実効的なドナー密度N
dを記憶するものである。
【0175】
また、パラメータ記憶手段18は、他のパラメータである半導体膜SCについての真性フェルミ準位E
i、真性キャリア密度n
i、価電子帯上端のエネルギーE
v、伝導帯下端のエネルギーE
c、移動度μ、誘電率ε
sc及びゲート絶縁膜INの誘電率ε
inを、用いる材料に固有の固有パラメータとして、それぞれに対応する固有値を予め記憶することとする。
【0176】
また、パラメータ記憶手段18は、他の計算条件であるソース電圧V
s及び絶対温度Tとして、それぞれ予め定められた値を予め記憶することとする。更にまた、定数であるボルツマン定数k及び電気素量qを予め記憶することとする。
【0177】
パラメータ記憶手段18に記憶されているデバイスパラメータ等は、フェルミ準位演算手段11、電荷担体密度演算手段12、ポテンシャル分布演算手段14、キャリア密度分布演算手段15、キャリア面密度演算手段16及びドレイン電流演算手段17によって、適宜参照される。
【0178】
電荷担体密度記憶手段19は、電荷担体密度演算手段12によって算出された電荷担体密度である、正に帯電したドナー型欠陥(Deep state)の密度N
dd0+、負に帯電したアクセプタ型欠陥(Deep state)の密度N
ad0−、負に帯電したアクセプタ型欠陥(Tail state)の密度N
at0−、ホール密度p
0及び電子密度n
0を記憶するものである。これらのデータは、ポテンシャル分布演算手段14、及びキャリア密度分布演算手段15によって参照される。
【0179】
ドレイン電流記憶手段20は、ドレイン電流演算手段17によって算出されたドレイン電流I
dを、ドレイン電流I
dの計算条件であるゲート電圧V
g及びドレイン電圧V
dに対応付けて記憶するものである。
【0180】
ドレイン電流記憶手段20に記憶されたドレイン電流I
dは、例えば、TFTの特性値である閾値電圧V
thやサブスレッショールド係数(S値)などの計算のために利用される。また、不図示のグラフ描画手段によって、コンピュータに接続された表示手段や印刷手段に出力され、ドレイン電流特性としてグラフ表示することもできる(例えば、
図8〜
図11参照)。
【0181】
なお、本実施形態では、デバイスパラメータ入力手段10で入力したデバイスパラメータをパラメータ記憶手段18に一旦記憶して、フェルミ準位演算手段11などの演算手段によって適宜読み出されるようにしたが、デバイスパラメータ入力手段10は、入力したデバイスパラメータを直接に必要とする演算手段に出力するようにしてもよい。
【0182】
また、固有パラメータは、デバイスパラメータとともにデバイスパラメータ入力手段10によって入力するようにしてもよい。更にまた、計算条件の一つであるソース電圧V
sは、デバイスパラメータ入力手段10又は計算範囲設定手段13によって入力するようにしてもよい。
【0183】
また、本実施形態では、電荷担体密度演算手段12で算出した正に帯電したドナー型欠陥(Deep state)の密度N
dd0+などの電荷担体密度を、電荷担体密度記憶手段19に一旦記憶して、ポテンシャル分布演算手段14などによって適宜読み出されるようにしたが、電荷担体密度演算手段12は、算出したこれらの電荷担体密度を直接にポテンシャル分布演算手段14などに出力するようにしてもよい。
【0184】
なお、本発明に係るドレイン電流のシミュレーション装置は、一般的なコンピュータが備えるCPU(中央演算装置)、メモリ、ハードディスクなどのハードウェア資源を、デバイスパラメータ入力手段10乃至ドレイン電流記憶手段20の各手段として機能させるためのドレイン電流のシミュレーションプログラムによって実現することもできる。このプログラムは、通信回線を介して配布してもよく、CD−ROMやフラッシュメモリなどの記録媒体に記録して配布してもよい。
【0185】
[シミュレーション装置の動作]
次に、
図7を参照(適宜
図1及び
図6参照)して、本実施形態におけるドレイン電流のシミュレーション装置1の動作について説明する。
【0186】
まず、シミュレーション装置1は、デバイスパラメータ入力手段10によって、シミュレーション対象となるTFTについてのデバイスパラメータを入力し、パラメータ記憶手段18に記憶する(ステップS10)。
【0187】
次に、シミュレーション装置1は、フェルミ準位演算手段11によって、パラメータ記憶手段18に記憶されているデバイスパラメータ等を用いて、式(18)により、フラットバンド条件での半導体膜SCのフェルミ準位E
fを算出し、算出したフェルミ準位E
fを電荷担体密度演算手段12に出力する(ステップS11)。
【0188】
次に、シミュレーション装置1は、電荷担体密度演算手段12によって、フェルミ準位演算手段11により算出されたフェルミ準位E
f及びパラメータ記憶手段18に記憶されているデバイスパラメータ等を用いて、式(5)、式(6)、式(A9)、式(B10)及び式(C9)により、半導体膜SCのフラットバンド条件における電荷担体密度として、それぞれ、ホール密度p
0、電子密度n
0、正に帯電したドナー型欠陥(Deep state)の密度N
dd0+、負に帯電したアクセプタ型欠陥(Deep state)の密度N
ad0−及び負に帯電したアクセプタ型欠陥(Tail state)の密度N
at0−を算出し、算出したこれらの値を電荷担体密度記憶手段19に記憶する(ステップS12)。
【0189】
次に、シミュレーション装置1は、計算範囲設定手段13によって、ポテンシャル分布φ(x)を算出する際の、ドレイン電圧V
dの設定範囲を定めるデータとして、ドレイン電圧の初期値V
d0と、ドレイン電圧の最大値V
dmaxと、ドレイン電圧を変化させる間隔ΔV
dとを、不図示のキーボードなどから入力し、初期値V
d0をドレイン電圧V
dとしてポテンシャル分布演算手段14に設定する(ステップS13)。
【0190】
次に、シミュレーション装置1は、計算範囲設定手段13によって、ポテンシャル分布φ(x)を算出する際の、ゲート電圧V
gの設定範囲を定めるデータとして、ゲート電圧の初期値V
g0と、ゲート電圧の最大値V
gmaxと、ゲート電圧を変化させる間隔ΔV
gとを、不図示のキーボードなどから入力し、初期値V
g0をゲート電圧V
gとしてポテンシャル分布演算手段14に設定する(ステップS14)。
【0191】
次に、シミュレーション装置1は、ポテンシャル分布演算手段14によって、電荷担体密度記憶手段19に記憶されている正に帯電したドナー型欠陥(Deep state)の密度N
dd0+、負に帯電したアクセプタ型欠陥(Deep state)の密度N
ad0−、負に帯電したアクセプタ型欠陥(Tail state)の密度N
at0−、ホール密度p
0、電子密度n
0、及びパラメータ記憶手段18に記憶されているデバイスパラメータ等を用いて、式(1)に示したポアソン方程式を差分化して、計算範囲設定手段13により設定されたゲート電圧V
g及びドレイン電圧V
dにおけるポテンシャル分布φ(x)を算出し、算出したポテンシャル分布φ(x)をキャリア密度分布演算手段15に出力する(ステップS15)。
【0192】
次に、シミュレーション装置1は、キャリア密度分布演算手段15によって、ポテンシャル分布演算手段14により算出したポテンシャル分布φ(x)、電荷担体密度記憶手段19に記憶されている電荷担体密度及びパラメータ記憶手段18に記憶されているデバイスパラメータ等を用いて、式(19)により、キャリア密度分布n(x)を算出し、算出したキャリア密度分布n(x)を、キャリア面密度演算手段16に出力する(ステップS16)。
【0193】
次に、シミュレーション装置1は、キャリア面密度演算手段16によって、キャリア密度分布演算手段15により算出したキャリア密度分布n(x)及びパラメータ記憶手段18に記憶されているデバイスパラメータ等を用いて、式(20)により、キャリア面密度Nを算出し、算出したキャリア面密度Nをドレイン電流演算手段17に出力する(ステップS17)。
【0194】
次に、シミュレーション装置1は、ドレイン電流演算手段17によって、キャリア面密度演算手段16により算出したキャリア面密度N及びパラメータ記憶手段18に記憶されているデバイスパラメータ等を用いて、式(30)又は式(35)により、ドレイン電流I
dを算出し、算出したドレイン電流I
dを、計算条件であるゲート電圧V
g及びドレイン電圧V
dに対応付けて、ドレイン電流記憶手段20に記憶する(ステップS18)。
【0195】
次に、シミュレーション装置1は、計算範囲設定手段13によって、計算条件を、次のドレイン電流I
dを算出する際のゲート電圧V
gに変更するために、前回のゲート電圧V
gに、計算の間隔ΔV
gを加算し、ポテンシャル分布演算手段14に設定する(ステップS19)。
【0196】
次に、シミュレーション装置1は、計算範囲設定手段13によって、ステップS19で条件変更したゲート電圧V
gが、計算範囲の最大値V
gmaxより大きいかどうかを判断し(ステップS20)、ステップS19で条件変更したゲート電圧V
gが、計算範囲の最大値V
gmax以下の場合は(ステップS20でNo)、シミュレーション装置1は、ステップS15に戻り、ステップS19で設定したゲート電圧V
gについて、ポテンシャル分布演算手段14によるポテンシャル分布φ(x)の算出を繰り返す。
一方、大きい場合は(ステップS20でYes)、ドレイン電圧V
dの条件を変更するためのステップS21に進む。
【0197】
ステップS21において、シミュレーション装置1は、計算範囲設定手段13によって、計算条件を、次のドレイン電流I
dを算出する際のドレイン電圧V
dに変更するために、前回のドレイン電圧V
dに、計算の間隔ΔV
dを加算し、ポテンシャル分布演算手段14に設定する(ステップS21)。
【0198】
次に、シミュレーション装置1は、計算範囲設定手段13によって、ステップS21で条件変更したドレイン電圧V
dが、計算範囲の最大値V
dmaxより大きいかどうかを判断し(ステップS22)、ステップS21で条件変更したドレイン電圧V
dが、計算範囲の最大値V
dmax以下の場合は(ステップS22でNo)、シミュレーション装置1は、ステップS14に戻り、ゲート電圧V
gの条件を初期値V
g0に戻すように設定し、ステップS21で設定したドレイン電圧V
dについて、ポテンシャル分布演算手段14によるポテンシャル分布φ(x)の算出を繰り返す。
一方、大きい場合は(ステップS22でYes)、所定の計算範囲におけるドレイン電流I
dの計算が終了したため、シミュレーション装置1は、処理を終了する。
【0199】
また、得られたドレイン電流特性は、例えば、不図示の表示装置にグラフ表示することができる(例えば、
図8〜
図11参照)。そして、ドレイン電流特性が所望の特性であるかを、例えば閾値電圧V
thやS値を算出して確認し、所望の特性でなければ、ゲート絶縁膜厚t
inや半導体膜厚t
scなどのデバイスパラメータを変更し、前記した手順を繰り返してドレイン電流特性を計算し、所望のドレイン電流が得られるようにデバイスパラメータを決め、TFTのデバイス構造を決定することができる。
【0200】
なお、本実施形態では、ドレイン電圧V
dを先に設定し、このドレイン電流V
dにおいて、ゲート電圧V
gを変化させてドレイン電流I
dを計算するようにしたが、これに限定されるものではない。ゲート電圧V
gを先に設定し、このゲート電圧V
gにおいて、ドレイン電流V
dを変化させてドレイン電流I
dを計算するようにしてもよい。また、ドレイン電圧V
d又はゲート電圧V
gの一方の電圧を固定値とし、他方の電圧を変化させてドレイン電流I
dを計算することで、ドレイン電流の他方の電圧に対する依存性を算出するようにしてもよい。
【実施例】
【0201】
次に、本発明の実施形態に係るドレイン電流のシミュレーション装置の実施例について説明する。
本実施例におけるシミュレーション条件として、半導体膜はIGZO、ゲート絶縁膜はSiO
2とした。また、チャネル長L=80[μm]とし、チャネル幅W=130[μm]とした。
【0202】
図8に、欠陥密度のパラメータ(g
ad0)を様々に変えて計算を行った、TFTのドレイン電流のゲート電圧依存性を示す。この計算において、ゲート絶縁膜厚t
in=100[nm]、半導体膜厚t
sc=30[nm]である。また、縦軸はドレイン電流I
dを対数スケールで示し、横軸は、ゲート−ソース間電圧V
gsを示している。
また、欠陥密度のパラメータとして、伝導帯下端のエネルギーE
cでのアクセプタ型欠陥(Deep state)状態密度g
ad0を、0〜2×10
19[cm
−3eV
−1]まで、5×10
18[cm
−3eV
−1]間隔で設定し、アクセプタ型欠陥(Deep state)の状態密度分布の傾きの逆数E
adを0.1[eV]、ドレイン−ソース間電圧V
dsを1[V]とした。
【0203】
図8に示すように、欠陥密度が増えるにつれて、ゲート電圧V
g(ゲート−ソース間電圧V
gs)の増加に対するドレイン電流I
dの増加が緩やかになっている。これは、欠陥密度が増えるにつれて、キャリアの捕獲も増えるためである。このことから、本シミュレーション装置による計算に、欠陥の影響が正しく考慮されていることが分かる。
【0204】
次に、
図9及び
図10に、TFTのドレイン電流特性の計算結果(実線)及び実測値(○)の比較を示す。
図9は、ドレイン電流I
dのゲート電圧(ゲート−ソース間電圧)依存性を表しており、縦軸はドレイン電流I
dを示し、左側に対数スケール、右側にリニアスケールを示している。また、横軸は、ゲート−ソース間電圧V
gsを示している。また、
図10は、ドレイン電流I
dのドレイン電圧(ドレイン−ソース間電圧)依存性を表しており、縦軸はドレイン電流I
dをリニアスケールで示し、横軸は、ドレイン−ソース間電圧V
dsを示している。これらの計算において、ゲート絶縁膜厚t
in=100[nm]、半導体膜厚t
sc=30[nm]である。また、
図9及び
図10に結果を示した計算では、共通のデバイスパラメータにより、式(30)を用いてドレイン電流の計算を行っている。
【0205】
図9においては、ドレイン−ソース間電圧V
dsを1,3,10[V]にそれぞれ固定したときに、ゲート−ソース間電圧V
gsを変化させたときの結果をグラフ化した。
図10においては、ゲート−ソース間電圧V
gsを0,5,10,15[V]にそれぞれ固定したときに、ドレイン−ソース間電圧V
dsを変化させたときの結果をグラフ化した。
図9及び
図10に示すように、広範囲なゲート電圧V
g(ゲート−ソース間電圧V
gs)及びドレイン電圧V
d(ドレイン−ソース間電圧V
ds)において、計算結果が実測値を再現しており、本シミュレーション装置の有効性を示している。
【0206】
次に、
図11に、ゲート絶縁膜厚t
inが異なる2種類のTFT(t
in=10[nm]及びt
in=100[nm])について、ドレイン電流特性の計算結果(実線)及び実測値(○)の比較を示す。また、半導体膜厚t
sc=30[nm]であり、ドレイン-ソース間電圧V
dsは1[V]である。また、ドレイン電流I
dの計算は式(35)を用い、ゲート絶縁膜厚t
inが異なる2種類のTFTについて、共通のデバイスパラメータを用いている。縦軸はドレイン電流I
dを対数スケールで示し、横軸はゲート−ソース間電圧V
gsである。
【0207】
図11に示すように、ゲート絶縁膜厚が薄い場合(t
in=10[nm])、立ち上りが急峻なドレイン電流特性となっている。一方、ゲート絶縁膜厚が厚い場合(t
in=100[nm])には、立ち上りが緩やかなドレイン電流特性となっている。こうしたゲート絶縁膜厚に依存したドレイン電流特性の変化についても、本シミュレーション装置により高精度に再現できることが分かる。このように、本シミュレーション装置がTFTの構造設計(デバイスパラメータの決定)に有効であることを示している。
【0208】
また、一般的なデスクトップコンピュータ(インテル社製のCPU(Central Processing Unit)Intel Core 2 Duo E8400 3.00GHzを搭載)を用いて計算した際に、本発明のシミュレーション装置での計算時間は、次の通りである。
式(30)を用いた
図9に示した半導体膜厚t
sc=30[nm]のTFTのドレイン電流I
dのゲート電圧依存性の計算において、ドレイン−ソース間電圧V
ds=10[V]とし、半導体膜SC中におけるメッシュのサイズをΔx=0.5[nm]とし、また、数値計算にBSDライセンス(Berkeley Software Distribution License)で提供されるオープンソフトウェアである数値解析ソフトウェアライブラリLAPACK(Linear Algebra PACKage)を用いた場合、200点のゲート電圧V
gについて計算に要した時間は20秒程度であった。
また、式(35)を用いた
図11に示した半導体膜厚t
sc=30[nm]のTFTのドレイン電流I
dのゲート電圧依存性の計算において、ドレイン−ソース間電圧V
ds=1[V]とし、半導体膜SC中におけるメッシュのサイズをΔx=0.5[nm]とし、また、数値計算に数値解析ソフトウェアライブラリLAPACKを用いた場合、200点のゲート電圧V
gについて計算に要した時間は0.5秒程度であった。
【0209】
通常、市販の二次元デバイスシミュレータ(例えば、SILVACO社の二次元デバイスシミュレータ「ATLAS」)を用いた際のドレイン電流特性の計算時間は、数分から数十分であることから、本発明のシミュレーション装置による計算は、十分に高速であり、かつ高精度であることが分かる。
以上から、本発明のシミュレーション装置により、半導体膜SC中にキャリアを捕獲する欠陥を含む蓄積型のTFTにおいて、高速かつ高精度なドレイン電流I
dの計算が実現されていることが分かる。