(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ノズル部材が弾性部材を介して前記ノズル保持部材に保持され、当該弾性部材の弾性力に抗して前記ノズル部材が移動するように構成されている請求項1記載のガスクラスターイオンビーム装置。
【背景技術】
【0002】
図5は、従来技術のガスクラスターイオンビーム装置の構成を示す模式図である。
図5に示すように、従来のガスクラスターイオンビーム装置101は、第1及び第2の真空槽102、103を有している。
【0003】
第1の真空槽102内には、図示しないガス導入系に接続された円錐形状で超音速型のノズル104を有し、ガス導入系から導入された希ガスを、ノズルから数気圧以上の高い圧力で真空中に噴出させて希ガスクラスターを生成するように構成されている。
【0004】
ノズル104から噴出された希ガスの超音速噴流は、断熱膨張過程で熱運動が並進運動に変換されて温度が下がり、ガス原子(分子)はファンデルワールス力によって数百〜数千個の原子(分子)の集団の集まりになり、クラスタービームが生成される。
【0005】
第1の真空槽102内において、ノズル104のクラスタービームの進行方向下流側には、スキマー105が配置されている。
スキマー105は、生成されたクラスタービームの中心部分を切り出すもので、スキマー105によって切り出されたクラスタービームが、第2の真空槽103内のビーム進行方向下流側に設けられたイオン化室106に導かれる。
【0006】
イオン化室106には熱フィラメント107が設けられ、この熱フィラメント107から放出された熱電子がアノードグリッド108によって数100Vに加速されてクラスタービームに照射され、これにより中性のクラスタービームが電子衝撃によってイオン化され、クラスターイオンビームが形成される。
第2の真空槽103内において、イオン化室106のビーム進行方向下流側には、クラスターイオンビームを加速・収束するための静電レンズ109が設けられている。
【0007】
このような構成を有する従来技術では、ガスクラスタービームのビーム軸と、ガスクラスターイオンビームのビーム軸を合わせるのが難しかった。
このため、従来技術では、構成部品の精度、組み立てを行う作業者の熟練度によりガスクラスターイオンビームの性能(形状再現性、安定性)のばらつきが大きかった。
【0008】
また、従来技術では、構造体の機械精度が十分でなく手動調整に頼っていたため、作業者の熟練度によりガスクラスターイオンビームに対し所期の性能を出すための調整時間が異なり、長時間化するという問題があった。
これに対し、機械加工精度を向上させた部品でガスクラスターイオンビーム装置を構成することも考えられるが、機械加工精度を向上させた部品を組み立てただけでは、ガスクラスターイオンビームの再現性と安定性がそれほど向上しない。
【0009】
この場合、精密位置決めステージを用いることも可能であるが、精密位置決めステージは高額であるためコストが高くなってしまい、また、調整機構が大がかりであるため、装置自体が大きくなってしまうというデメリットがあった。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
図1は、本発明に係るガスクラスターイオンビーム装置の実施の形態の構成を示す模式図である。
【0016】
図1に示すように、本実施の形態のガスクラスターイオンビーム装置1は、ノズル部材60と、ノズル保持部材70と、スキマー3と、イオン化室4とを有する一体型の位置決め構造体10を有している。
ここで、ノズル部材60とノズル保持部材70とスキマー3は、第1の真空排気系11に接続された第1の真空槽12内に配置され、イオン化室4は、第2の真空排気系13に接続された第2の真空槽14内に配置されている。
【0017】
ノズル部材60は、図示しないガス導入系に接続された円錐形状で超音速型のノズル61を有し、ガス導入系から導入された希ガスを、ノズル61から数気圧以上の圧力の高い圧力で真空中に噴出させて希ガスクラスターを生成するように構成されている。
【0018】
このノズル61から噴出された希ガスの超音速噴流は、断熱膨張過程で熱運動が並進運動に変換されて温度が下がり、ガス原子(分子)はファンデルワールス力によって数百〜数千個の原子(分子)の集団の集まりになり、ガスクラスタービームが生成される。
【0019】
スキマー3は、希ガスのクラスタービームが進行する軸方向(以下、「ビーム軸方向P」という。)下流側に配置されている。
スキマー3は、生成されたガスクラスタービームの中心部分を切り出すもので、スキマー3によって切り出されたガスクラスタービームがビーム軸方向Pの下流側に設けられたイオン化室4に導かれる。
【0020】
イオン化室4には熱フィラメント40が設けられている。
熱フィラメント40からは熱電子が放出され、この熱電子がアノードグリッド41によって数100Vに加速されてガスクラスタービームに照射され、これにより中性のガスクラスタービームが電子衝撃によってイオン化され、ガスクラスターイオンビームが形成される。
【0021】
第2の真空槽14内において、イオン化室4のビーム軸方向Pの下流側には、静電レンズユニット5が設けられている。
静電レンズユニット5は、ガスクラスターイオンビームを加速・収束するためのもので、ここでは複数の静電レンズ50がビーム軸方向Pに沿って配置されている。
本発明では、静電レンズユニット5の代わりに引き出し電極(図示せず)を設けてガスクラスターイオンビームを取り出すように構成してもよい。
【0022】
また、本実施の形態では、静電レンズユニット5の静電レンズ50のビーム軸方向Pの上流側には、アパーチャー51が設けられている。
このアパーチャー51は、その開口部52の中心部が静電レンズ50の中心部と一致するように配置構成されている。
【0023】
本実施の形態の位置決め構造体10は、ノズル部材60を保持する後述するノズル保持部材70と、スキマー3と、イオン化室4が、所定の位置に位置決めされた状態で一体的に組み立てられるように構成されている。
具体的には、ノズル保持部材70と、スキマー3と、イオン化室4が、一般的な隙間はめ公差に基づいて、一体的に組み立てられるように構成されている。
【0024】
図2(a)は、ノズル部材を示す断面図、
図2(b)は、ノズル保持部材を示す断面図、
図2(c)は、ノズル部材をノズル保持部材に装着した状態を示す断面図である。
図2(a)に示すように、本実施の形態のノズル部材60は、外径dの細長円筒形状に形成されたノズル61を有し、このノズル61のガス導入側に一体的に設けられたフランジ部62を有している。
【0025】
このフランジ部62のガス放出側には、ノズル61の中心軸即ちガスクラスタービームのビーム軸Mに対して直交する方向に延びる平面が形成された被ガイド面63が設けられている。
そして、ノズル部材60のフランジ部62には、ノズル61の中心軸Mと平行に延びる、ねじ孔64が複数設けられている。
【0026】
図2(b)に示すように、ノズル保持部材70は、上記ノズル61の外径dより若干(0.02〜0.4mm程度)径の大きな内径Dで形成された円筒形状の本体部71を有し、この本体部71の一方の端部にフランジ部72が設けられている。
ノズル保持部材70のフランジ部72の本体部71と反対側には、本体部71の円筒の中心軸Nに対して直交する方向に延びる平面が形成されたガイド面73が設けられている。
【0027】
また、ノズル保持部材70のフランジ部72には、ノズル位置調整用の位置調整孔74が複数設けられている。これら位置調整孔74は、ノズル部材60の上記ねじ孔64と対応する数及びピッチで形成されている。
さらに、ノズル保持部材70には、本体部71のフランジ部72側の端部に、本体部71の内周面71aと連続するように例えば円形状の溝部75が設けられている。
【0028】
本実施の形態においては、ノズル保持部材70の溝部75に、弾性部材であるOリング76が装着されるようになっている。
本発明の場合、Oリング76としては、通常のエラストマーからなるものを用いることができる。
【0029】
この場合、Oリング76がノズル保持部材70の溝部75に装着された状態において、位置ずれが生ずることがなく、その内径sが、ノズル保持部材70の本体部71の内径Dより小さく、かつ、ノズル部材60のノズル61の外径dより若干小さく当該ノズル61が挿(圧)入可能な寸法のものを用いる。
【0030】
一方、ノズル保持部材70の本体部71のフランジ部72に対して反対側には、本体部71と一体的に円筒形状の延長部77が設けられ、この延長部77の端部には、例えばリング状のスキマー支持部78が設けられている。
【0031】
このスキマー支持部78には、上述したスキマー3が位置決めされた状態で取り付けられ、これによりスキマー3の中心部分、更には上述したイオン化室4の中心部分がノズル保持部材70の本体部71の中心軸N上に位置するようになっている。
【0032】
図2(c)に示すように、本実施の形態では、ノズル保持部材70の溝部75にOリング76が装着され、このOリング76にノズル部材60のノズル61が挿入されて組み立てられる。
【0033】
この状態では、ノズル部材60の被ガイド面63がノズル保持部材70のガイド面73に当接している。また、ノズル部材60のノズル61の外周面61aと、ノズル保持部材70の本体部71の内周面71aは、接触せずにこれらの間に隙間が設けられて静止するようになっている。
【0034】
また、上述したように、ノズル部材60の被ガイド面63はノズル61の中心軸Mの直交方向に延びるとともに、ノズル保持部材70のガイド面73は本体部71の中心軸Nの直交方向に延びることから、ノズル部材60がノズル保持部材70に保持された状態において、ノズル部材60のノズル61の中心軸Mと、ノズル保持部材70の本体部71の中心軸Nは平行になっている。
【0035】
以上の構成により、本実施の形態では、ノズル保持部材70、スキマー3、イオン化室4を位置決め構造体10に組み付けた場合において、ノズル部材60のノズル61の中心軸Mとノズル保持部材70の本体部71の中心軸Nを平行に維持した状態で、ノズル部材60をノズル保持部材70の本体部71の中心軸N即ちビーム軸方向Pに対して直交する方向に移動することができる。
【0036】
ここで、本実施の形態では、ノズル部材60とノズル保持部材70との間にOリング76が介在しているため、Oリング76の弾性力に抗してノズル部材60を移動させることになるが、ノズル部材60を移動させた後にノズル部材60に対して外力を解除すると、Oリング76の弾性力によってノズル部材60は元の位置に戻る。
【0037】
なお、本実施の形態においては、ノズル部材60をビーム軸方向Pに対して直交する方向に移動させた場合に、ノズル部材60のフランジ部62のねじ孔64が、ノズル保持部材70のフランジ部72の位置調整孔74の範囲から外れないように、これらの位置及び寸法が設定されている。
【0038】
図3及び
図4は、本実施の形態におけるノズルのビーム軸を調整する方法の例を示すものである。
上述した構成を有する本実施の形態においては、
図3に示すように、ノズル部材60、ノズル保持部材70、スキマー3、イオン化室4を位置決め構造体10に組み付けた状態でノズル61のビーム軸の調整を行う。
【0039】
ここでは、ノズル部材60をノズル保持部材70に固定するためのボルト80を、締結されない状態でノズル部材60の上記ねじ孔64に装着しておく。
また、イオン化室4に対し、静電レンズユニット5のアパーチャー51の開口部52の中心部を、図示しない治具を用いて位置合わせをしておく。
【0040】
上述したように、位置決め構造体10において、ノズル保持部材70、スキマー3及びイオン化室4は、位置決めされた状態で組み立てられるようになっていることから、イオン化室4と、静電レンズユニット5のアパーチャー51の開口部52の中心部との位置合わせを行うことにより、ノズル保持部材70、スキマー3、イオン化室4、静電レンズユニット5が相対的に位置決めされる。
【0041】
この状態において、ノズル部材60のビーム軸方向Pの上流側からレーザ光90を照射し、静電レンズユニット5に対してビーム軸方向Pの下流側に配置したCCDカメラ91によってこのレーザ光90を検出する。
【0042】
この場合、レーザ光90の光軸の位置座標を予め記憶しておくことにより、CCDカメラ91によって検出されたレーザ光90の光軸が、この位置座標からビーム軸方向Pに対して直交する方向(ビーム軸直交方向)にどれだけずれているかを検出することができる。
【0043】
ここで、ノズル保持部材70、スキマー3、イオン化室4、静電レンズユニット5は既に位置決めされているから、レーザ光90のビーム軸直交方向についての位置ずれは、ノズル保持部材70に装着されたノズル部材60のビーム軸直交方向についての位置ずれに対応する。
【0044】
そこで、例えば人手により、ノズル保持部材70のガイド面73に沿ってノズル部材60をビーム軸直交方向にOリング76の弾性力に抗して移動させる。そして、移動した位置でボルト80に対してナット81をある程度締結することにより、ノズル部材60をノズル保持部材70に対して仮に固定する(
図4参照)。
【0045】
この状態で、ノズル部材60のビーム軸方向Pの上流側から再びレーザ光90を照射し、CCDカメラ91によってこのレーザ光90を検出する。
そして、CCDカメラ91によって検出されたレーザ光90の光軸のビーム軸直交方向についての位置ずれが予め定めた範囲内である場合には、ノズル部材60の位置決めが終了したものとしてボルト80とナット81を完全に締結し、ノズル部材60の位置調整作業を終了する。
【0046】
一方、CCDカメラ91によって検出されたレーザ光90の光軸のビーム軸直交方向についての位置ずれが予め定めた範囲を超えている場合には、ボルト80とナット81を緩める。
これによりノズル部材60に対する外力が解除され、Oリング76の弾性力によってノズル部材60は元の位置に戻るから、この位置を基準としてノズル部材60を再度移動させる。そして、上述したように、ボルト80とナット81を仮締結し、レーザ光90の照射及び位置ずれの検出作業を行う。
この作業は、CCDカメラ91によって検出されたレーザ光90の光軸のビーム軸直交方向についての位置ずれが予め定めた範囲となるまで繰り返し行う。
【0047】
以上述べたように本実施の形態においては、ノズル保持部材70と、スキマー3と、イオン化室4とが所定の位置に位置決めされた状態で一体的に組み立てられる位置決め構造体10とを有し、ノズル部材60をノズル保持部材70のガイド面73に沿って移動することにより、ガスクラスターイオンビームのビーム軸Pに対して直交する方向に関してノズル61の位置を調整するように構成されていることから、ソース側であるガスクラスタービームのビーム軸と、イオン輸送側であるガスクラスターイオンビームのビーム軸を精度良く合わせることができ、これによりガスクラスターイオンビームの形状の再現性と安定性を向上させることができる。
【0048】
また、本実施の形態によれば、作業者の熟練度によらず、ビーム軸の調整作業を短時間で容易に行うことができる。
特に本実施の形態では、ノズル部材60とノズル保持部材70との間に弾性部材であるOリング76が介在しているため、Oリング76の弾性力に抗してノズル部材60を移動させた後にノズル部材60に対して外力を解除することによりOリング76の弾性力によってノズル部材60は元の位置に戻る。
【0049】
その結果、この戻った位置からノズル部材60の位置を再度調整することができ、目的とする位置への移動調整を容易に行うことができる。
さらに、本実施の形態によれば、Oリング76を用いることにより、大がかりな調整機構を必要とせず、装置の小型化を達成することができる。
【0050】
なお、本発明は上述した実施の形態に限られず、種々の変更を行うことができる。
例えば、弾性部材としてOリングの他に種々の部材を用いることもできる。
ただし、Oリングを用いれば、既存の部品を用いて安定してノズル部材を保持することができ、またコスト的にも安価である。
また、ノズル部材及びノズル保持部材の形状についても上記実施の形態には限られず、種々の変更を行うこともできる。