特許第6109651号(P6109651)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6109651複合樹脂組成物及び当該複合樹脂組成物から成形された平面状コネクター
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  • 特許6109651-複合樹脂組成物及び当該複合樹脂組成物から成形された平面状コネクター 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6109651
(24)【登録日】2017年3月17日
(45)【発行日】2017年4月5日
(54)【発明の名称】複合樹脂組成物及び当該複合樹脂組成物から成形された平面状コネクター
(51)【国際特許分類】
   C08L 67/00 20060101AFI20170327BHJP
   C08K 7/14 20060101ALI20170327BHJP
   C08K 3/34 20060101ALI20170327BHJP
   C08G 63/60 20060101ALI20170327BHJP
   H01R 13/46 20060101ALI20170327BHJP
【FI】
   C08L67/00
   C08K7/14
   C08K3/34
   C08G63/60
   H01R13/46 301B
【請求項の数】2
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-119896(P2013-119896)
(22)【出願日】2013年6月6日
(65)【公開番号】特開2014-237740(P2014-237740A)
(43)【公開日】2014年12月18日
【審査請求日】2016年5月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】390006323
【氏名又は名称】ポリプラスチックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 信彰
(72)【発明者】
【氏名】田口 吉昭
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 淳一郎
【審査官】 内田 靖恵
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−214652(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/137636(WO,A1)
【文献】 特開2010−138228(JP,A)
【文献】 特開2012−193343(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/137271(WO,A1)
【文献】 特開平02−016120(JP,A)
【文献】 特開2010−003661(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 67/00−67/04
C08K 3/34
C08K 7/14
H01R 13/46
C08G 63/60
C08J 5/04− 5/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)液晶性ポリマーと、(B)ガラス繊維と、(C)マイカ及びタルクからなる群より選択される1以上の板状無機充填材と、を含む複合樹脂組成物であって、
前記(A)液晶性ポリマーは、必須の構成成分として、下記の構成単位;(I)4−ヒドロキシ安息香酸、(II)2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸、(III)テレフタル酸、(IV)イソフタル酸及び(V)4,4’−ジヒドロキシビフェニルを含み、
全構成単位に対して(I)の構成単位は35〜75モル%であり、
全構成単位に対して(II)の構成単位は2〜8モル%であり、
全構成単位に対して(III)の構成単位は4.5〜30.5モル%であり、
全構成単位に対して(IV)の構成単位は2〜8モル%であり、
全構成単位に対して(V)の構成単位は12.5〜32.5モル%であり、
全構成単位に対して(II)及び(IV)の構成単位の総量は4〜10モル%であり、
前記(A)液晶性ポリマーは、複合樹脂組成物全体に対して45〜60質量%であり、
前記(B)ガラス繊維は、複合樹脂組成物全体に対して25質量%超30質量%以下であり、
前記(C)マイカ及びタルクからなる群より選択される1以上の板状無機充填材は、複合樹脂組成物全体に対して総量が15〜20質量%である複合樹脂組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の複合樹脂組成物から成形され、
外枠部の内部に格子構造を有し、
前記格子構造における格子部のピッチ間隔が1.5mm以下である、平面状コネクター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合樹脂組成物及び当該複合樹脂組成物から成形された平面状コネクターに関する。
【背景技術】
【0002】
液晶性ポリマーは、流動性等に優れるため、従来各種電子部品の材料として採用されてきた。
【0003】
特に、近年のエレクトロニクス機器の高性能化に伴い、微細な構造等を有する電子部品(コネクター等)に対するニーズがある。このようなニーズに応えるために、例えば、特許文献1には、所定の液晶性ポリマー、無機充填剤及びガラス繊維からなる複合樹脂組成物から成形され、平面状コネクターの格子部等に割れ(「クラック」とも呼ばれる)が生じにくい、耐クラック性を有する平面状コネクターが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012−214652号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、平面度を犠牲にせずに、安定的に耐クラック性が高い平面状コネクターを得ることは困難であった。また、本発明者による検討の結果、平面状コネクターのクラックの発生は、当該コネクターのウエルド強度と相関していることが見出された。つまり、クラックの発生の抑制のためには、コネクターのウエルド強度を高める必要がある。
【0006】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、平面度、ウエルド強度及び耐クラック性に優れる平面状コネクターが得られる複合樹脂組成物、ならびに、当該複合樹脂組成物から成形された平面状コネクターを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、特定の構成単位を所定量含む液晶性ポリマーと、ガラス繊維と、所定の板状無機充填材と、を組み合わせることで上記の課題を解決できることを見出した。具体的には、本発明は、以下のようなものを提供する。
【0008】
(1) (A)液晶性ポリマーと、(B)ガラス繊維と、(C)マイカ及びタルクからなる群より選択される1以上の板状無機充填材と、を含む複合樹脂組成物であって、
前記(A)液晶性ポリマーは、必須の構成成分として、下記の構成単位;(I)4−ヒドロキシ安息香酸、(II)2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸、(III)テレフタル酸、(IV)イソフタル酸及び(V)4,4’−ジヒドロキシビフェニルを含み、
全構成単位に対して(I)の構成単位は35〜75モル%であり、
全構成単位に対して(II)の構成単位は2〜8モル%であり、
全構成単位に対して(III)の構成単位は4.5〜30.5モル%であり、
全構成単位に対して(IV)の構成単位は2〜8モル%であり、
全構成単位に対して(V)の構成単位は12.5〜32.5モル%であり、
全構成単位に対して(II)及び(IV)の構成単位の総量は4〜10モル%であり、
前記(A)液晶性ポリマーは、複合樹脂組成物全体に対して45〜60質量%であり、
前記(B)ガラス繊維は、複合樹脂組成物全体に対して25質量%超30質量%以下であり、
前記(C)マイカ及びタルクからなる群より選択される1以上の板状無機充填材は、複合樹脂組成物全体に対して総量が15〜20質量%である複合樹脂組成物。
【0009】
(2) (1)に記載の複合樹脂組成物から成形され、
外枠部の内部に格子構造を有し、
前記格子構造における格子部のピッチ間隔が1.5mm以下である、平面状コネクター。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、平面度、ウエルド強度及び耐クラック性に優れる平面状コネクターが得られる複合樹脂組成物、ならびに、当該複合樹脂組成物から成形された平面状コネクターが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例で成形した平面状コネクターを示す図である。(a)は平面状コネクターの平面図である。(b)は(a)中のA部の詳細である。なお、図中の数値の単位はmmである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について具体的に説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されない。
【0013】
[複合樹脂組成物]
本発明の複合樹脂組成物は、特定の液晶性ポリマーと、ガラス繊維と、板状無機充填材とを所定量ずつ含む。以下、本発明の複合樹脂組成物を構成する成分について説明する。
【0014】
(液晶性ポリマー)
本発明における液晶性ポリマーは、必須の構成成分として、下記の構成単位;(I)4−ヒドロキシ安息香酸(「HBA」とも呼ばれる)、(II)2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸(「HNA」とも呼ばれる)、(III)テレフタル酸(「TA」とも呼ばれる)、(IV)イソフタル酸(「IA」とも呼ばれる)及び(V)4,4’−ジヒドロキシビフェニル(「BP」とも呼ばれる)を含む。
【0015】
本発明における液晶性ポリマーには、上記の構成単位が特定の割合で含まれる。すなわち、全構成単位に対して(I)の構成単位は35〜75モル%(好ましくは40〜65モル%)である。全構成単位に対して(II)の構成単位は2〜8モル%(好ましくは3〜7モル%)である。全構成単位に対して(III)の構成単位は4.5〜30.5モル%(好ましくは13〜26モル%)である。全構成単位に対して(IV)の構成単位は2〜8モル%(好ましくは3〜7モル%)である。全構成単位に対して(V)の構成単位は12.5〜32.5モル%(好ましくは15.5〜29モル%)である。全構成単位に対して(II)及び(IV)の構成単位の総量は4〜10モル%(好ましくは5〜10モル%)である。
【0016】
全構成単位に対して(I)の構成単位が35モル%未満又は75モル%超であると、液晶性ポリマーの融点が著しく高くなり、平面状コネクター等の成形品を製造する際に液晶性ポリマーがリアクター内で固化し、所望の分子量の液晶性ポリマーを製造することができなくなる可能性があるため好ましくない。
【0017】
全構成単位に対して(II)の構成単位が2モル%未満であると、平面状コネクター等の成形品を製造する際に、格子部等にクラックが発生する可能性があるため好ましくない。また、全構成単位に対して(II)の構成単位が8モル%超であると、液晶性ポリマーの耐熱性が低くなるため好ましくない。
【0018】
全構成単位に対して(III)の構成単位が4.5モル%未満又は30.5モル%超であると、液晶性ポリマーの融点が著しく高くなり、平面状コネクター等の成形品を製造する際に液晶性ポリマーがリアクター内で固化し、所望の分子量の液晶性ポリマーを製造することができなくなる可能性があるため好ましくない。
【0019】
全構成単位に対して(IV)の構成単位が2モル%未満であると、平面状コネクター等の成形品を製造する際に、格子部等にクラックが発生する可能性があるため好ましくない。また、全構成単位に対して(IV)の構成単位が8モル%超であると、液晶性ポリマーの耐熱性が低くなるため好ましくない。
【0020】
全構成単位に対して(V)の構成単位が12.5モル%未満又は32.5モル%超であると、液晶性ポリマーの融点が著しく高くなり、平面状コネクター等の成形品を製造する際に液晶性ポリマーがリアクター内で固化し、所望の分子量の液晶性ポリマーを製造することができなくなるため好ましくない。
【0021】
全構成単位に対して(II)及び(IV)の構成単位の総量が4モル%未満であると、液晶性ポリマーの結晶化熱量が2.5J/g以上となり得る。この場合、平面状コネクター等の成形品を製造する際に、格子部等にクラックが発生する可能性があるため好ましくない。液晶性ポリマーの結晶化熱量の好ましい値は、2.3J/g以下であり、より好ましくは2.0J/g以下である。なお、結晶化熱量は、液晶性ポリマーの結晶化状態を示し、示差熱量測定によって求められる値である。具体的には、液晶性ポリマーを室温から20℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm1)の観測後、Tm1+40℃の温度で2分間保持した後、20℃/分の降温条件で測定した際に観測される発熱ピーク温度のピークより求められる発熱ピークの熱量を指す。
【0022】
また、全構成単位に対して(II)及び(IV)の構成単位の総量が10モル%超であると、液晶性ポリマーの耐熱性が低くなるため好ましくない。
【0023】
なお、本発明における液晶性ポリマーには、本発明の目的を阻害しない範囲で公知の他の構成単位を導入することもできる。
【0024】
本発明における液晶性ポリマーは、上記の構成単位を、直接重合法、エステル交換法、溶融重合法、溶液重合法、スラリー重合法、固相重合法等によって重合させることで得られる。
【0025】
上記の構成単位の重合においては、上記の構成単位に加えて、上記の構成単位に対するアシル化剤や、酸塩化物誘導体として末端を活性化したモノマーを併用できる。アシル化剤としては、無水酢酸等の酸無水物等が挙げられる。
【0026】
上記の構成単位の重合においては、種々の触媒を使用でき、例えば、ジアルキル錫酸化物、ジアリール錫酸化物、二酸化チタン、アルコキシチタンケイ酸塩類、チタンアルコラート類、カルボン酸のアルカリ金属塩類、アルカリ土類金属塩類、ルイス酸塩(BF等)等が挙げられる。触媒の使用量は、上記の構成単位の総量に対して約0.001〜1質量%、好ましくは約0.003〜0.2質量%であってもよい。
【0027】
重合反応の条件としては、上記の構成単位の重合が進行する条件であれば特に限定されず、例えば、反応温度200〜380℃、最終到達圧力0.1〜760Torr(すなわち、13〜101,080Pa)であってもよい。
【0028】
重合反応は、全原料モノマー、アシル化剤及び触媒を同一反応容器に仕込んで反応を開始させる方法(一段方式)でもよく、原料モノマー(I)、(II)及び(V)のヒドロキシル基をアシル化剤によりアシル化させた後、(III)及び(IV)のカルボキシル基と反応させる方法(二段方式)でもよい。
【0029】
上記の構成単位(I)乃至(V)から得られる液晶性ポリマーは、構成成分及び液晶性ポリマー中のシーケンス分布によっては、異方性溶融相を形成しないものも存在するが、熱安定性と易加工性を併せ持つ点で、本発明における液晶性ポリマーは、異方性溶融相を形成するもの、すなわち、溶融時に光学的異方性を示す液晶性ポリマーであることが好ましい。
【0030】
溶融異方性の性質は直交偏光子を利用した慣用の偏光検査方法により確認することができる。具体的には、溶融異方性は、偏光顕微鏡(オリンパス(株)製等)を使用し、ホットステージ(リンカム社製等)にのせた試料を溶融し、窒素雰囲気下で150倍の倍率で観察することにより確認できる。溶融時に光学的異方性を示す液晶性ポリマーは、光学的に異方性であり、直交偏光子間に挿入したとき光を透過させる。試料が光学的に異方性であると、例えば溶融静止液状態であっても偏光が透過する。
【0031】
さらに、融点より10〜40℃高い温度で、剪断速度1000/秒における、液晶性ポリマーの溶融粘度が1×10Pa・s以下(さらに好ましくは、5Pa・s以上かつ1×10Pa・s以下)であることが、平面状コネクターの格子部の成形時において、複合樹脂組成物の流動性を確保し、充填圧力が過度にならない点で好ましい。
【0032】
本発明の複合樹脂組成物は、上記の液晶性ポリマーを、複合樹脂組成物中に、複合樹脂組成物全体に対して45〜60質量%含む。液晶性ポリマーの量が、複合樹脂組成物全体に対して45質量%未満であると、流動性が悪化するため好ましくない。液晶性ポリマーの量が、複合樹脂組成物全体に対して60質量%超であると、複合樹脂組成物から得られる平面状コネクター等の成形品の曲げ弾性率及び耐クラック性が低下するため好ましくない。本発明の複合樹脂組成物は、上記の液晶性ポリマーを、複合樹脂組成物中に、複合樹脂組成物全体に対して50〜60質量%含むことが好ましい。
【0033】
(ガラス繊維)
本発明の複合樹脂組成物は、ガラス繊維を、複合樹脂組成物中に、複合樹脂組成物全体に対して25質量%超30質量%以下含む。
【0034】
ガラス繊維の量が、複合樹脂組成物全体に対して25質量%以下であると、複合樹脂組成物から得られる成形品のウエルド強度が低く、成形品が平面状コネクター等である場合には、その格子部等にクラックが発生しやすい。
【0035】
ガラス繊維の量が、複合樹脂組成物全体に対して30質量%超であると、組成物の流動性が悪化するうえ、複合樹脂組成物全体に対して30質量%超のガラス繊維を含む複合樹脂組成物から得られる平面状コネクターは、平面度が劣り、歪みを有し得る。
【0036】
本発明者の検討の結果、成形品(平面状コネクター等)のウエルド強度と、当該成形品のクラック数との間には相関があることが見出された。具体的には、各種複合樹脂組成物を使用して、下記実施例に記載の方法で得られた平面状コネクター及び試験片について、下記実施例に記載の測定条件にてウエルド強度及びクラック数を検討した。その結果、ガラス繊維の量が、複合樹脂組成物全体に対して25質量%以下である複合樹脂組成物から得られた試験片のウエルド強度は10kgf以下(場合によっては8kgf以下)であり、かつ、同複合樹脂組成物から得られた平面状コネクターにはクラックが多数認められた。他方、複合樹脂組成物全体に対して25質量%超30質量%以下(27.5〜30質量%)のガラス繊維を含む複合樹脂組成物から得られた試験片のウエルド強度は10kgf超であり、かつ、同複合樹脂組成物から得られた平面状コネクターには、クラックがほとんど認められなかった。
【0037】
本発明におけるガラス繊維の平均繊維長は、特に限定されないが、250〜800μmであることが好ましい。平均繊維長が250μm未満であると、複合樹脂組成物から得られる平面状コネクター等の成形品の格子部等にクラックが発生する可能性があるため好ましくない。平均繊維長が800μm超であると、流動性が悪化し、複合樹脂組成物の成形が困難になる可能性があるため好ましくない。
【0038】
また、本発明におけるガラス繊維の繊維径は、特に制限されないが、一般的に5〜15μm程度のものが使用される。
【0039】
(板状無機充填材)
本発明の複合樹脂組成物には、マイカ及びタルクからなる群より選択される1以上の板状無機充填材が含まれる。当該板状無機充填材がガラス繊維とともに複合樹脂組成物に含まれることにより、複合樹脂組成物の流動性を悪化させることなく、平面度、耐クラック性及びウエルド強度に優れる成形体を成形できる複合樹脂組成物が得られる。
【0040】
本発明の複合樹脂組成物中に含まれる板状無機充填材の総量は、複合樹脂組成物全体に対して15〜20質量%である。板状無機充填材がかかる範囲で複合樹脂組成物中に含まれていると、ガラス繊維によって奏される成形体のウエルド強度の向上効果及びクラック数の低減効果が補強される。このような補強効果は、本発明の複合樹脂組成物中のガラス繊維の量が上限(すなわち、複合樹脂組成物全体に対して30質量%)に近い値である場合に顕著に奏される。
【0041】
〔マイカ〕
マイカとは、アルミニウム、カリウム、マグネシウム、ナトリウム、鉄等を含んだケイ酸塩鉱物の粉砕物である。本発明におけるマイカとしては、白雲母、金雲母、黒雲母、人造雲母等が挙げられるが、これらのうち色相が良好であり、低価格であるという点で白雲母が好ましい。
【0042】
また、マイカの製造において、鉱物を粉砕する方法としては、湿式粉砕法及び乾式粉砕法が知られている。湿式粉砕法とは、マイカ原石を乾式粉砕機にて粗粉砕した後、水を加えてスラリー状態にて湿式粉砕で本粉砕し、その後、脱水、乾燥を行う方法である。湿式粉砕法と比較して、乾式粉砕法は低コストで一般的な方法であるが、鉱物を薄く細かく粉砕することが困難である。後述する好ましい平均粒径及び厚みを有するマイカが得られるという理由で、本発明においては薄く細かい粉砕物を使用することが好ましい。従って、本発明においては、湿式粉砕法により製造されたマイカを使用するのが好ましい。
【0043】
また、湿式粉砕法においては、被粉砕物を水に分散させる工程が必要であるため、被粉砕物の分散効率を高めるために、被粉砕物に凝集沈降剤及び/又は沈降助剤を加えることが一般的である。凝集沈降剤及び沈降助剤としては、ポリ塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム、硫酸第一鉄、硫酸第二鉄、塩化コッパラス、ポリ硫酸鉄、ポリ塩化第二鉄、鉄−シリカ無機高分子凝集剤、塩化第二鉄−シリカ無機高分子凝集剤、消石灰(Ca(OH))、苛性ソーダ(NaOH)、ソーダ灰(NaCO)等が挙げられる。しかし、これらの凝集沈降剤及び沈降助剤は、pHがアルカリ性又は酸性である。そのため、本発明において、凝集沈降剤及び/又は沈降助剤で処理されたマイカを使用すると、複合樹脂組成物中のポリマーの分解を引き起こし、多量のガス発生やポリマーの分子量低下等を引き起こす可能性があるため、得られる成形品の性能に悪影響を及ぼし得る。そのため、本発明で使用するマイカは、湿式粉砕する際に凝集沈降剤及び/又は沈降助剤を使用していないものが好ましい。
【0044】
本発明におけるマイカは、マイクロトラックレーザー回折法により測定した平均粒径が10〜100μmであるものが好ましく、平均粒径が20〜80μmであるものが特に好ましい。マイカの平均粒径が10μm未満であると、成形品の剛性が十分ではない可能性があるため好ましくない。マイカの平均粒径が100μm超であると、成形品の剛性及びウエルド強度が十分ではない可能性があるため好ましくない。また、マイカの平均粒径が100μm超であると、複合樹脂組成物の流動性が十分ではない可能性がある。
【0045】
本発明におけるマイカの厚みは、電子顕微鏡の観察により実測した厚みが0.01〜1μmであることが好ましく、0.03〜0.3μmであることが特に好ましい。マイカの厚みが0.01μm未満であると、複合樹脂組成物の溶融加工の際にマイカが割れやくなるため好ましくない。マイカの厚みが1μm超であると、成形品の剛性が十分ではない可能性がある。
【0046】
本発明におけるマイカは、シランカップリング剤等で表面処理されていてもよく、かつ/又は、結合剤で造粒し顆粒状であってもよい。
【0047】
〔タルク〕
本発明におけるタルクとしては、当該タルクの全固形分量に対して、Fe、Al及びCaOの合計含有量が2.5質量%以下であり、Fe及びAlの合計含有量が1.0質量%超2.0質量%以下であり、かつCaOの含有量が0.5質量%未満であるものが好ましい。すなわち、本発明におけるタルクは、その主成分たるSiO及びMgOの他、Fe、Al及びCaOのうちの少なくとも1種を含み、各成分を上記の範囲で含んでいてもよい。
【0048】
上記タルクにおいて、Fe、Al及びCaOの総量が2.5質量%超であると、複合樹脂組成物の成形加工性及び当該複合樹脂組成物から成形された成形品の耐熱性が悪化する可能性がある。そのため、Fe、Al及びCaOの総量は、1.0質量%以上2.0質量%以下が好ましい。
【0049】
本発明におけるタルクの、レーザー回折法で測定した質量基準又は体積基準の累積平均粒子径(D50)は、複合樹脂組成物の流動性の維持等という観点から、4.0〜20.0μmであることが好ましく、10〜18μmであることがより好ましい。
【0050】
(その他の成分)
本発明の複合樹脂組成物には、上記の成分の他に、核剤、カーボンブラック、顔料、酸化防止剤、安定剤、可塑剤、滑剤、離型剤又は難燃剤等を配合してもよい。これらの成分の配合量や種類は得ようとする効果に応じて適宜調整できる。
【0051】
(複合樹脂組成物の製造方法)
本発明の複合樹脂組成物の製造方法は、上記の液晶性ポリマーと、ガラス繊維等とを均一に混合できれば特に限定されず、従来知られる樹脂組成物の製造方法から適宜選択することができる。例えば、1軸又は2軸押出機等の溶融混練装置を用いて、各成分を溶融混練して押出した後、得られた複合樹脂組成物を粉末、フレーク、ペレット等の所望の形態に加工する方法が挙げられる。
【0052】
本発明の複合樹脂組成物は流動性に優れるため、成形時の最小充填圧力が過度になりにくく、平面状コネクターの格子部等のような複雑な形状を有する部分を好ましく成形できる。最小充填圧力は、複合樹脂組成物を成形する際に、365℃において良好な成形品を得られる最小の射出充填圧として特定される。
【0053】
[平面状コネクター]
本発明の複合樹脂組成物を成形することにより、本発明の平面状コネクターを得ることができる。平面状コネクターの形状としては、特に限定されないが、外枠部の内部に格子構造を有し、当該格子構造における格子部のピッチ間隔が1.5mm以下である平面状コネクターであってもよい。また、平面状コネクターにおける端子を保持する格子部の樹脂部分の幅が0.5mm以下、製品全体の高さが5.0mm以下という非常に薄肉の平面状コネクターであってもよい。本発明の平面状コネクターの具体的な形状としては、例えば、図1に示すようなものが挙げられる。
【0054】
本発明の平面状コネクターの格子部におけるピン挿入穴の形状は特に限定されず、角形、丸形、異形穴等であってもよい。
【0055】
本発明の平面状コネクターを得るための成形方法としては特に限定されないが、得られる平面状コネクターの変形を防ぎ、良好な平面度を有する平面状コネクターを得るために、残留内部応力が少ない成形条件を選ぶことが好ましい。充填圧力を低くし、得られる平面状コネクターの残留内部応力を低下させるために、成形機のシリンダー温度は、液晶性ポリマーの融点以上の温度が好ましい。
【0056】
また、金型温度は70〜100℃が好ましい。金型温度が低いと、金型に充填された複合樹脂組成物が流動不良を起こす可能性があるため好ましくない。金型温度が高いと、バリ発生等の問題が生じる可能性があるため好ましくない。射出速度については、150mm/秒以上で成形することが好ましい。射出速度が低いと、未充填成形品しか得られない可能性があり、完全に充填した成形品が得られたとしても、充填圧力が高く残留内部応力の大きい成形品となり、平面度が劣るコネクターしか得られない可能性がある。
【0057】
また、本発明の平面状コネクターは、変形やそりが抑制され、平面度に優れる。コネクターの平面度は、コネクターを水平な机の上に静置し、平面状コネクターの高さを画像測定器により測定し、コネクター端面より、0.5mmの位置を10mm間隔で測定し、最大高さと最小高さの差として特定される。
【0058】
また、本発明の平面状コネクターは、ウエルド強度及び耐クラック性に優れる。上述の通り、成形品のウエルド強度と耐クラック性とは相関するが、本発明によれば、ウエルド強度及び耐クラック性のいずれもが良好な平面状コネクターが得られる。
【実施例】
【0059】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0060】
(液晶性ポリマーの製造方法)
撹拌機、還流カラム、モノマー投入口、窒素導入口、減圧/流出ラインを備えた重合容器に、以下の原料モノマー、金属触媒、アシル化剤を仕込み、窒素置換を開始した。
(I)4−ヒドロキシ安息香酸;1041g(48モル%)
(II)2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸;89g(3モル%)
(III)テレフタル酸;565g(21.7モル%)
(IV)イソフタル酸;78g(3モル%)
(V)4,4’−ジヒドロキシビフェニル;711g(24.3モル%)
金属触媒(酢酸カリウム触媒);110mg
アシル化剤(無水酢酸);1645g
【0061】
重合容器に原料を仕込んだ後、反応系の温度を140℃に上げ、140℃で1時間反応させた。その後、さらに360℃まで5.5時間かけて昇温し、そこから30分かけて5Torr(すなわち667Pa)まで減圧にして、酢酸、過剰の無水酢酸、その他の低沸分を留出させながら溶融重合を行った。撹拌トルクが所定の値に達した後、窒素を導入して減圧状態から常圧を経て加圧状態にして、重合容器の下部からポリマーを排出し、ストランドをペレタイズしてペレット化した。得られたペレットについて、窒素気流下、300℃で8時間の熱処理を行った。ペレットの融点は358℃、結晶化熱量は1.6J/g、溶融粘度は9Pa・sであった。
【0062】
なお、本実施例において、溶融粘度の測定は、下記の条件で行った。
L=20mm、d=1mmの(株)東洋精機製キャピログラフ1B型を使用し、液晶性ポリマーの融点よりも10〜20℃高い温度で、剪断速度1000/秒で、ISO11443に準拠して、液晶性ポリマーの溶融粘度を測定した。
【0063】
(液晶性ポリマー以外の成分)
上記で得られた液晶性ポリマーと、下記の成分とを二軸押出機を使用して混合し、複合樹脂組成物を得た。各成分の配合量は表1及び2に示した通りである。
ガラス繊維;日本電気硝子(株)製ECS03T−786H、繊維径10μm、長さ3mmのチョプドストランド
マイカ;(株)ヤマグチマイカ製AB−25S、平均粒径25μm
タルク;松村産業(株)製クラウンタルクPP、平均粒径10μm
【0064】
下記の方法に基づき、得られた複合樹脂組成物又は平面状コネクターの物性を測定した。各評価結果を表1及び2に示す。
【0065】
(コネクター平面度)
複合樹脂組成物を、図1に示す形状を有し、全体の大きさは39.82mm×39.82mm×1mmtであり、格子部ピッチ間隔は1.2mmである平面状コネクター(ピン孔数750ピン)に下記成形条件で射出成形した。なお、ゲートは、格子部の長さの長い辺からのフィルムゲートを使用し、ゲート厚みは0.3mmにした。
[成形条件]
成形機;住友重機械工業SE100DUZ
シリンダー温度;365℃−365℃−365℃−360℃
金型温度;80℃
射出速度;200mm/sec
保圧力;50MPa
保圧時間;1sec
冷却時間;5sec
スクリュー回転数;120rpm
スクリュー背圧;2MPa
【0066】
得られたコネクターを水平な机の上に静置し、コネクターの高さを、ミツトヨ製クイックビジョン404PROCNC画像測定器により測定した。その際、コネクター端面より、0.5mmの位置を10mm間隔で測定し、最大高さと最小高さの差を平面度として特定した。平面度の値が低い程、コネクターが平面であることを示す。
【0067】
(コネクター最小充填圧力)
図1の平面状コネクターを365℃で射出成形する際に良好な成形品を得られる最小の射出充填圧力を最小充填圧力として測定した。
【0068】
(耐クラック性)
図1の平面状コネクターに対して、下記条件でIRリフローを行い、格子部を光学顕微鏡にて観察し、クラック数を計測した。クラック数が少ないほど、耐クラック性が高いことを示す。
[IRリフロー条件]
測定機;日本パルス技術研究所製大型卓上リフローハンダ付け装置RF−300(遠赤外線ヒーター使用)
試料送り速度;140mm/sec
リフロー炉通過時間;5min
温度条件;
プレヒートゾーン;150℃
リフローゾーン;240℃
ピーク温度;260℃
【0069】
(ウエルド強度)
複合樹脂組成物を、測定用試験片(125mm×13mm×0.4mm、2点フィルムゲート)に下記成形条件で射出成形した。得られた試験片のウエルド強度を下記測定条件で測定した。
[成形条件]
成形機;住友重機械工業SE100DU
シリンダー温度;365℃−365℃−365℃−365℃−365℃−365℃
金型温度;90℃
射出速度;200mm/sec
保圧力;70MPa
保圧時間;5sec
冷却時間;8sec
スクリュー回転数;150rpm
スクリュー背圧;1MPa
[測定条件]
測定機;オリエンテック社テンシロン万能試験機製RTM−100
ロードセル;100kg
金型温度;90℃
チャック間距離;2.5mm
チャック力;2.0kgf/cm
引張り速度;0.5mm/min
【0070】
(荷重たわみ温度)
複合樹脂組成物を、測定用試験片(4mm×10mm×80mm)に下記成形条件で射出成形した。得られた試験片の荷重たわみ温度をISO75−1,2に準拠して測定した。
[成形条件]
成形機;住友重機械工業SE100DU
シリンダー温度;360℃−370℃−370℃−360℃−340℃−330℃
金型温度;80℃
射出速度;33mm/sec
保圧力;50MPa
保圧時間;2sec
冷却時間;10sec
スクリュー回転数;120rpm
【0071】
【表1】
【0072】
【表2】
【0073】
表1及び2に示される通り、本発明の平面状コネクターは、平面度、耐クラック性及びウエルド強度の全てにおいて優れる。比較例8及び9における平面状コネクターの耐クラック性及びウエルド強度は、本発明と同等であったものの、平面度が劣っていた。本発明によれば、平面度、耐クラック性及びウエルド強度の全てが良好である平面状コネクターが得られる。
図1