【実施例】
【0030】
実施例1 本発明品による筋肉増強作用
【0031】
冷凍のアラスカ産スケトウダラフィレー(ユニシー社製)をバンドソー(秋山機械社製、600ST)で1cm×1cm×1cm程度の大きさに切断した。切断した試料を凍結乾燥用トレーに一層に並べて、凍結乾燥機(東京理化器械社製、TF20-85ATNNN)にて-30℃で4時間の予備凍結後に、4昼夜凍結乾燥した。凍結乾燥試料を手で軽く砕き、ピンミル(槇野産業社製、EM-1A)にて粉砕した。粉砕した凍結乾燥試料に99.5%エタノール(和光純薬工業社製、試薬特級)を添加して脂溶性成分を溶出させた。1週間風乾させた後、残留エタノールをロータリーエバポレーター(東京理化器械社製、N-21NS)にて除去し、スケトウダラ魚肉タンパク質を得た。冷凍のスケトウダラフィレー10kgから、約1.5kgのスケトウダラ魚肉タンパク質が得られた。得られたスケトウダラ魚肉タンパク質の成分組成を表1に示す。
【0032】
【表1】
【0033】
5週齢の雄性SDラット(清水実験材料社より入手)を、スケトウダラ魚肉タンパク質群とカゼイン群に分け、それぞれ表2に示す組成の粉末飼料を自由摂食させた。尚、この粉末飼料は大石ら(Yoshie Oishi et al.、“Alaska pollack protein prevents the accumulation of visceral fat in rats fed a high fat diet”、J. Nutr. Sci. Vitaminol.、2009年、55巻、p.156-161)に記載の飼料と同様のものを用いた。また、カゼイン群の飼料に含まれるカゼインは、New Zealand Dairy Board社の物を用いた。一群は8匹のラットとし、ラットに飼料を4週間連続摂取させた後、解剖して組織重量を測定した。この時、ラットは一日あたり15〜30gの飼料を摂取していた。
【0034】
【表2】
【0035】
結果
速筋の代表であるひふく筋重量を測定した結果を
図1に示してある。カゼイン群と比べてスケトウダラ魚肉タンパク質群では速筋の代表であるひふく筋重量が有意に増加した。
【0036】
一方、遅筋の代表であるヒラメ筋重量を測定した結果を
図2に示してある。遅筋の代表であるヒラメ筋重量にはカゼイン群スとケトウダラ魚肉タンパク質群との間で差は見られなかった。
【0037】
したがって、スケトウダラ魚肉タンパク質は速筋特異的な筋肉増強作用を有することが示された。
【0038】
実施例2 本発明品のラット長期投与による筋肉増強作用、筋線維タイプ変化および筋肉代謝変化
【0039】
スケトウダラ魚肉タンパク質は、実施例1と同様の手順で得たものを使用した。また、ホキ魚肉タンパク質は、実施例1と同様の手順により、冷凍のニュージーランド産ホキフィレー(タリーズ社製)から得た。冷凍のホキフィレー10kgから、約1.6kgのホキ魚肉タンパク質が得られた。得られたホキ魚肉タンパク質の成分組成を表3に示す。
【0040】
【表3】
【0041】
5週齢の雄性SDラット(清水実験材料社より入手)を、スケトウダラ魚肉タンパク質群、ホキ魚肉タンパク質群およびカゼイン群に分け、それぞれ表4に示す組成の粉末飼料を自由摂食させた。また、カゼイン群の飼料に含まれるカゼインは、New Zealand Dairy Board社の物を用いた。一群は10匹のラットとし、ラットに飼料を8週間連続摂取させた後、解剖して組織重量を測定した。この時、ラットは一日あたり15〜30gの飼料を摂取していた。
【0042】
【表4】
【0043】
スケトウダラ魚肉タンパク質群およびカゼイン群のラットの長趾伸筋とヒラメ筋からtotal RNAを抽出し、RT-PCR法によりMyh4、Myh7、PGC1α、GLUT4のmRNA量を定量した。同時にサイクロフィリンのmRNA量も定量し、比較のための内部標準とした。PCR反応に用いた各遺伝子のプライマー配列を表5に示す。
【0044】
【表5】
【0045】
結果
速筋の代表であるひふく筋と長趾伸筋の重量を測定した結果を
図3および
図4に示してある。カゼイン群と比べてスケトウダラ魚肉タンパク質群およびホキ魚肉タンパク質群では、速筋の代表であるひふく筋および長趾伸筋の重量が有意に増加した。
【0046】
一方、遅筋の代表であるヒラメ筋重量を測定した結果を
図5に示してある。カゼイン群と比べてスケトウダラ魚肉タンパク質群およびホキ魚肉タンパク質群では、遅筋の代表であるヒラメ筋の重量が増加する傾向が見られたが、有意な差は観察されなかった。
【0047】
したがって、スケトウダラ魚肉タンパク質およびホキ魚肉タンパク質は、長期投与することにより、速筋特異的な筋肉増強作用を有することが示された。
【0048】
速筋の筋線維の指標であるMyh4遺伝子の測定結果を
図6に示してある。Myh4遺伝子は、速筋の代表筋である長趾伸筋において、カゼイン群と比べてスケトウダラ魚肉タンパク質群では有意に発現量が増加していた。一方、遅筋の代表筋であるヒラメ筋においては、両群の間でMyh4遺伝子発現に差は見られなかった。
【0049】
したがって、スケトウダラ魚肉タンパク質は、速筋をより速筋化させる方向に筋線維タイプを変化させることが推察された。
【0050】
遅筋の筋線維の指標であるMyh7遺伝子の測定結果を
図7に示してある。Myh7遺伝子は、ヒラメ筋において、カゼイン群と比べてスケトウダラ魚肉タンパク質群では有意に発現量が減少していた。一方、長趾伸筋においては、両群の間でMyh7遺伝子発現に差は見られなかった。
【0051】
したがって、スケトウダラ魚肉タンパク質は、遅筋の筋線維を減らす方向に筋線維タイプを変化させることが推察された。
【0052】
脂質代謝亢進の指標であるPGC1α遺伝子の測定結果を
図8に示してある。PGC1α遺伝子は、ヒラメ筋において、カゼイン群と比べてスケトウダラ魚肉タンパク質群では有意に発現量が減少していた。一方、長趾伸筋においては、両群の間でPGC1α遺伝子発現に差は見られなかった。
【0053】
また、糖質代謝亢進の指標であるGLUT4遺伝子の測定結果を
図9に示してある。GLUT4遺伝子は、ヒラメ筋において、カゼイン群と比べてスケトウダラ魚肉タンパク質群では有意に発現量が増加していた。一方、長趾伸筋においては、両群の間でGLUT4遺伝子発現に差は見られなかった。
【0054】
上記結果から、スケトウダラ魚肉タンパク質群では、糖質代謝が亢進されることが推察される。一般的に、遅筋では主に脂質を、速筋では主に糖質を消費することから、スケトウダラ魚肉タンパク質は、ヒラメ筋を遅筋型の代謝から速筋型の代謝へと変化させることが示された。Myh7遺伝子の変化を合わせて考えると、スケトウダラ魚肉タンパク質は、遅筋を速筋化させる方向に筋線維タイプを変化させることが推察された。
【0055】
実施例3 ラット長期投与による血糖値上昇抑制作用
【0056】
5週齢の雄性SDラット(清水実験材料社より入手)を、スケトウダラ魚肉タンパク質群およびカゼイン群に分け、それぞれ表4と同様の組成の粉末飼料を自由摂食させた。また、カゼイン群の飼料に含まれるカゼインは、New Zealand Dairy Board社の物を用いた。一群は12匹のラットとし、ラットに飼料を5週間連続摂取させた。試験前日より10時間絶食させた後、40%グルコース溶液を体重100g当たり200mgの割合で投与した。投与前、投与後30分、60分、90分、120分の各時点において尾静脈より採血した。採血した血液を血糖値測定用チップ(ライフスキャン社製、One Touch Ultra)に吸収させ、血糖分析装置(ロシュ社製、ACCU-CHEK Active glucose meter)にて分析した。この時、ラットは、一日あたり15〜30gの飼料を摂取していた。
【0057】
結果
糖負荷試験による血糖値変化の結果を
図10に示してある。カゼイン群と比べてスケトウダラ魚肉タンパク質群では、有意に血糖値の上昇が抑制されていた。120分間の積分値の比較においても、カゼイン群と比べてスケトウダラ魚肉タンパク質群では有意に血糖値の上昇が抑制されることが確認された。
【0058】
したがって、スケトウダラ魚肉タンパク質には、血糖値の上昇を抑制する作用があることが示された。スケトウダラ魚肉タンパク質の長期投与により、遅筋が速筋化する方向へ筋線維タイプが変化し、筋肉での糖質利用が高まった結果、血糖値の低下が惹起されたと推察される。
【0059】
実施例4 本発明品のラット長期投与による筋肉増強作用の他タンパク質との比較
【0060】
5週齢の雄性SDラット(清水実験材料社より入手)を、スケトウダラ魚肉タンパク質群、大豆タンパク質群、卵白タンパク質群、カゼイン群、およびホエイ群に分け、それぞれ表6に示した組成の粉末飼料を自由摂食させた。大豆タンパク質群の飼料に含まれる大豆タンパク質は、不二製油社の物を用いた。卵白タンパク質群の飼料に含まれる卵白タンパク質は、第一化成社の物を用いた。ホエイ群の飼料に含まれるホエイは、第一化成社の物を用いた。カゼイン群の飼料に含まれるカゼインは、New Zealand Dairy Board社の物を用いた。また、一群は10匹のラットとし、ラットに飼料を8週間連続摂取させた後、解剖して組織重量を測定した。この時、ラットは一日あたり15〜30gの飼料を摂取していた。
【0061】
【表6】
【0062】
結果
速筋の代表であるひふく筋と長趾伸筋の重量を測定した結果を
図11および
図12に示してある。カゼイン群と比べてスケトウダラ魚肉タンパク質群では、速筋の代表であるひふく筋および長趾伸筋の重量が有意に増加した。また、ホエイ群と比べてスケトウダラ魚肉タンパク質群では、長趾伸筋の重量が有意に増加した。大豆タンパク質群および卵白タンパク質群と比べてスケトウダラ魚肉タンパク質群では、ひふく筋と長趾伸筋の重量が増大する傾向が見られたが、有意な差は観察されなかった。
【0063】
一方、遅筋の代表であるヒラメ筋重量を測定した結果を
図13に示してある。ホエイ群と比べてスケトウダラ魚肉タンパク質群では、遅筋の代表であるヒラメ筋の重量が有意に増加した。大豆タンパク質群、卵白タンパク質群、カゼイン群と比べてスケトウダラ魚肉タンパク質群では、ヒラメ筋の重量が増大する傾向が見られたが、有意な差は観察されなかった。
【0064】
したがって、スケトウダラ魚肉タンパク質は、長期投与することにより、大豆タンパク質、卵白タンパク質、カゼイン、ホエイの各タンパク質よりも強力な筋肉増強作用を有することが示された。