特許第6109909号(P6109909)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本水産株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6109909-筋肉増強剤 図000008
  • 特許6109909-筋肉増強剤 図000009
  • 特許6109909-筋肉増強剤 図000010
  • 特許6109909-筋肉増強剤 図000011
  • 特許6109909-筋肉増強剤 図000012
  • 特許6109909-筋肉増強剤 図000013
  • 特許6109909-筋肉増強剤 図000014
  • 特許6109909-筋肉増強剤 図000015
  • 特許6109909-筋肉増強剤 図000016
  • 特許6109909-筋肉増強剤 図000017
  • 特許6109909-筋肉増強剤 図000018
  • 特許6109909-筋肉増強剤 図000019
  • 特許6109909-筋肉増強剤 図000020
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6109909
(24)【登録日】2017年3月17日
(45)【発行日】2017年4月5日
(54)【発明の名称】筋肉増強剤
(51)【国際特許分類】
   A23L 33/10 20160101AFI20170327BHJP
   A23L 33/17 20160101ALI20170327BHJP
   A23L 17/00 20160101ALI20170327BHJP
   A23K 10/22 20160101ALI20170327BHJP
   A61K 35/60 20060101ALN20170327BHJP
   A61P 21/06 20060101ALN20170327BHJP
【FI】
   A23L33/10
   A23L33/17
   A23L17/00 Z
   A23K10/22
   !A61K35/60
   !A61P21/06
【請求項の数】4
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-220824(P2015-220824)
(22)【出願日】2015年11月10日
(62)【分割の表示】特願2012-530734(P2012-530734)の分割
【原出願日】2011年8月26日
(65)【公開番号】特開2016-73292(P2016-73292A)
(43)【公開日】2016年5月12日
【審査請求日】2015年11月12日
(31)【優先権主張番号】特願2011-108817(P2011-108817)
(32)【優先日】2011年5月13日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2010-190137(P2010-190137)
(32)【優先日】2010年8月26日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004189
【氏名又は名称】日本水産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100150142
【弁理士】
【氏名又は名称】相原 礼路
(72)【発明者】
【氏名】川端 二功
(72)【発明者】
【氏名】辻 智子
(72)【発明者】
【氏名】水重 貴文
(72)【発明者】
【氏名】岸田 太郎
【審査官】 野村 英雄
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2007/069716(WO,A1)
【文献】 国際公開第2000/077034(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2001/0014368(US,A1)
【文献】 特開2001−069949(JP,A)
【文献】 SHUKLA, A. et al.,"Dietary fish protein alters blood lipid concentrations and hepatic genes involved in cholesterol homeostasis in the rat model.",BR. J. NUTR.,2006年10月,Vol.96, No.4,pp.674-682
【文献】 JACQUES, H. et al.,"Peanut protein reduces body protein mass and alters skeletal muscle contractile properties and lipid metabolism in rats.",BR. J. NUTR.,2010年 5月,Vol.103, No.9,pp.1331-1339
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 2/00−35/00
A23J 1/00− 7/00
C07K 1/00−19/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タラ目に属する魚の魚肉タンパク質又は前記魚肉タンパク質のタンパク質分解酵素分解物を含有する、速筋特異的な筋肉増強用食品組成物。
【請求項2】
タラ目に属する魚の魚肉タンパク質又は前記魚肉タンパク質のタンパク質分解酵素分解物を含有する、遅筋を速筋タイプに変化させる筋肉増強用食品組成物。
【請求項3】
請求項1又は2の食品組成物を含有し、速筋特異的な筋肉増強作用を有する旨の表示又は遅筋を速筋に変化させる作用を有する旨の表示を付した筋肉増強用食品。
【請求項4】
請求項1又は2の食品組成物を含有する食品を、前記食品が速筋特異的な筋肉増強作用を有すること、又は遅筋を速筋に変化させる作用を有することを記載した説明書と共にパッケージした筋肉増強用製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筋肉増強剤に関する。また、本発明は、筋肉増強作用を有する食品に関する。
【背景技術】
【0002】
筋肉は、タンパク質の摂取を増加することにより、効果的に増強されることが知られている。このため、種々のタンパク質を含有する筋肉増強剤が研究されている。たとえば、牛肉抽出物は、遅筋と速筋の両方を増大させることが報告されている。また、牛肉抽出物は、速筋を遅筋タイプの筋線維に変化させる性質を有することも報告されている。(非特許文献1)。
【0003】
また、食物にL-アルギニンを補うことにより、遅筋と速筋の両方を増大させることが報告されている(非特許文献2)。
【0004】
筋肉は、瞬発的な収縮の可能な速筋線維(白筋)と持続的な収縮の可能な遅筋線維(赤筋)に分類される。速筋は、すばやく収縮することが出来るため瞬発力を引き出す時に使われる。そして、速筋は無酸素運動の時によく使われる筋肉であり、その色から白筋とも言われている。遅筋は、小さな筋肉であり、ゆっくり収縮して持久力を引き出すときに使われる。そして、遅筋は、有酸素運動の時によく使われる筋肉であり、その色から赤筋とも言われている。運動の種類により使用される筋肉も異なるため、いずれかのタイプの筋肉を特異的に増強することができる食品が望まれている。しかし、速筋または遅筋のいずれかを特異的に増強することができる食品および薬剤は知られていない。さらに、遅筋を速筋タイプの筋線維に変化させることができる薬剤や食品成分も報告されていない。
【0005】
一方、魚介類由来のタンパク質は、生体に対して種々の作用を有することが知られており、多くの魚介類由来のタンパク質について、その生体における効果が研究されてきた。たとえば、魚肉タンパク質の摂取により、内臓脂肪の蓄積が抑制されることがわかっている(特許文献1)。また、魚介類由来のタンパク質は、脂質代謝を改善することが知られている。たとえば、魚介類由来のタンパク質が、血中コレステロール低下効果を有することが記載されている(特許文献2)。その他にも、魚肉由来のタンパク質について、その生体における効果が研究されている。たとえば、スケトウダラ由来タンパク質は、コレステロールおよびトリグリセロールに対して影響を及ぼすことが報告されており(非特許文献3)、スケトウダラ由来タンパク質を与えたラットでは、カゼインを与えたラットと比較して、血漿中のトリグリセロール濃度が低くなることや、肝臓におけるコレステリルエステルの濃度が高くなることなどが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開公報第2007/069716号
【特許文献2】特開2010-95456号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Hiroyuki Yoshihara et al.、“Beef Extract Supplementation Increase Leg Muscle Mass and Modifies Skeletal Muscle Fiber Types in Rats”、J Nutr Sci Vitaminol、2006年、52巻、p.183-193
【非特許文献2】Wenjuan Jobgen et al.、“Dietary L-Arginine Supplementation Reduces White Fat Gain and Enhances Skeletal Muscle and Brown Fat Masses in Diet-Induced Obese Rats”、The Journal of Nutrition、2009年、139巻、p.230-237
【非特許文献3】Anjali Shukla et al.、“Dietary fish protein alters blood lipid concentrations and hepatic genes involved in cholesterol homeostasis in the rat model”、British Journal of Nutrition、2006年、96巻、p.674-682
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、タラ目に属する魚の魚肉タンパク質を含有する筋肉増強剤を提供することを目的とする。また、本発明は、筋肉増強作用を有する食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、スケトウダラ魚肉タンパク質が生理作用に及ぼす効果に注目し、研究を重ねた結果、スケトウダラ魚肉タンパク質が筋肉増強作用を有することを見いだし、本発明に想到した。
【0010】
すなわち、本発明は、タラ目に属する魚の魚肉タンパク質を含有する速筋特異的な筋肉増強剤を提供する。
【0011】
また、本発明は、タラ目に属する魚の魚肉タンパク質を含有する、遅筋を速筋タイプに変化させる筋肉増強剤を提供する。
【0012】
また、本発明は、タラ目に属する魚の魚肉タンパク質を含有し、速筋特異的な筋肉増強作用を有する旨の表示または遅筋を速筋に変化させる作用を有する旨の表示を付した食品(機能性食品)を提供する。
【0013】
また、本発明は、速筋特異的な筋肉増強作用を有する旨の表示または遅筋を速筋に変化させる作用を有する旨の表示を付した食品を製造するための、タラ目に属する魚の魚肉タンパク質の使用を提供する。
【0014】
また、本発明は、タラ目に属する魚の魚肉タンパク質を含有する食品を、前記食品が速筋特異的な筋肉増強作用を有すること、または遅筋を速筋に変化させる作用を有することを記載した説明書と共にパッケージした製品を提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明の筋肉増強剤は、速筋特異的に筋肉を増強することができる。また、本発明の筋肉増強剤は、遅筋を速筋タイプに変化させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0016】
本発明の筋肉増強剤は、瞬発力を必要とするアスリート向けに、栄養補給用ドリンクや食品として有用である。また、加齢に伴う筋量および筋力低下(サルコペニア)の予防におよび/または改善のための各種ドリンクや各種食品として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】スケトウダラ魚肉タンパク質によるひふく筋増強作用を示す図。
図2】スケトウダラ魚肉タンパク質によるヒラメ筋の重量変化を示す図。
図3】スケトウダラ魚肉タンパク質およびホキ魚肉タンパク質によるひふく筋の重量変化を示す図。
図4】スケトウダラ魚肉タンパク質およびホキ魚肉タンパク質の投与による長趾伸筋の重量変化を示す図。
図5】スケトウダラ魚肉タンパク質およびホキ魚肉タンパク質の投与によるヒラメ筋の重量変化を示す図。
図6】スケトウダラ魚肉タンパク質の投与によるMyh4遺伝子の発現量の変化を示す図。
図7】スケトウダラ魚肉タンパク質の投与によるMyh7遺伝子の発現量の変化を示す図。
図8】スケトウダラ魚肉タンパク質の投与によるPGC1α遺伝子の発現量の変化を示す図。
図9】スケトウダラ魚肉タンパク質の投与によるGLUT4遺伝子の発現量の変化を示す図。
図10】スケトウダラ魚肉タンパク質の投与による血糖値変化を示す図。
図11】スケトウダラ魚肉タンパク質、大豆タンパク質、卵白タンパク質、カゼインおよびホエイによるひふく筋の重量変化を示す図。
図12】スケトウダラ魚肉タンパク質、大豆タンパク質、卵白タンパク質、カゼインおよびホエイの投与による長趾伸筋の重量変化を示す図。
図13】スケトウダラ魚肉タンパク質、大豆タンパク質、卵白タンパク質、カゼインおよびホエイの投与によるヒラメ筋の重量変化を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の筋肉増強剤について説明する。本発明の筋肉増強剤は、タラ目に属する魚の魚肉タンパク質を含む。
【0019】
本発明において、魚肉タンパク質は、魚肉そのものであってもよいが、脱脂処理により脂質を除いたものも用いることができる。脱脂方法としては、煮る、蒸す、焼くといった方法や、エタノールまたはヘキサンなどを使用して抽出するなどの方法を使用することができる。たとえば、魚肉タンパク質として、以下の工程で処理したスケトウダラ魚肉およびホキ魚肉を使用することができる。スケトウダラ魚肉を適当な大きさに切断し、切断した試料を凍結させた後、凍結乾燥機にて凍結乾燥させる。凍結乾燥した試料を常法にて粉砕し、これにエタノール等を添加して脂溶性成分を溶出させる。次いで、エタノールを除去することによりスケトウダラ魚肉タンパク質を得ることができる。脱脂処理により脂質を除いた場合は、摂取エネルギーを減少させることができる。
【0020】
また、魚肉タンパク質は、吸収しやすいように分解して使用することもできる。たとえば、パパイン、トリプシン、ペプシン、ブロメライン、フィシンおよびアルカラーゼプロテアーゼなどのタンパク質分解酵素を使用して分解することができる。
【0021】
本発明において、原料となる魚肉は、白身が好ましく、特にタラ目に属する魚の魚肉タンパク質が好ましい。具体的には、タラ目に属する魚の例には、スケトウダラ、ミナミダラ、ノーザンブルーホワイティング、キングクリップ、メルルーサ、マダラおよびホキなどを含む。
【0022】
本明細書において、筋肉増強とは、筋肉量を増加することを意味する。筋肉は、瞬発的な収縮の可能な速筋線維(白筋)と持続的な収縮の可能な遅筋線維(赤筋)に分類されるが、本発明の筋肉増強剤は、速筋特異的に筋肉を増強する。本明細書において、速筋特異的な筋肉増強とは、種々のタンパク質と比較したときに、増加される全筋肉量のうち、速筋の筋肉量がより多く増加されることを意味する。したがって、速筋特異的な筋肉増強であっても、遅筋も同時に増強される。
【0023】
また、本発明の筋肉増強剤は、遅筋を速筋タイプに変化させる作用を有する。本明細書において、遅筋を速筋タイプに変化させるとは、遅筋の比率と速筋の比率を比較したときに、遅筋の比率が減少し、速筋の比率が増大することをいう。
【0024】
本発明の速筋特異的な筋肉増強剤および遅筋を速筋タイプに変化させる筋肉増強剤は、上記の成分に加えて、任意の成分を含む組成物であることができる。たとえば、本発明の速筋特異的な筋肉増強剤は、医薬として使用される場合、薬学的に許容される基剤、担体、賦形剤、崩壊剤、滑沢剤および着色剤などと共に医薬組成物として提供することができる。医薬組成物に使用する担体および賦形剤の例には、乳糖、ブドウ糖、白糖、マンニトール、馬鈴薯デンプン、トウモロコシデンプン、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、硫酸カルシウムおよび結晶セルロースなどを含む。また、結合剤の例には、デンプン、ゼラチン、シロップ、トラガントゴム、ポリビニルアルコール、ポリビニルエーテル、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロースおよびカルボキシメチルセルロースなどを含む。また、崩壊剤の例には、デンプン、寒天、ゼラチン末、結晶セルロース、炭酸カルシウム、炭酸水素ナトリウム、アルギン酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロースナトリウムおよびカルボキシメチルセルロースカルシウムなどを含む。また、滑沢剤の例には、ステアリン酸マグネシウム、水素添加植物油、タルクおよびマクロゴールなどを含む。また、着色剤は、医薬品に添加することが許容されている任意の着色剤を使用することができる。また、医薬組成物は、必要に応じて、白糖、ゼラチン、精製セラック、ゼラチン、グリセリン、ソルビトール、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、フタル酸セルロースアセテート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、メチルメタクリレートおよびメタアクリル酸重合体などで一層以上の層で被膜してもよい。また、必要に応じて、pH調節剤、緩衝剤、安定化剤および可溶化剤などを添加してもよい。
【0025】
また、医薬組成物は、任意の形態の製剤として提供することができる。たとえば、医薬組成物は、経口投与製剤として、糖衣錠、バッカル錠、コーティング錠およびチュアブル錠等の錠剤、トローチ剤、丸剤、散剤およびソフトカプセルを含むカプセル剤、顆粒剤、懸濁剤、乳剤、ドライシロップを含むシロップ剤、エリキシル剤等の液剤であることができる。また、医薬組成物は、非経口投与のために、静脈注射、皮下注射、腹腔内注射、筋肉内注射、経皮投与、経鼻投与、経肺投与、経腸投与、口腔内投与および経粘膜投与などの投与のための製剤であることができる。たとえば、注射剤、経皮吸収テープ、エアゾール剤および坐剤などであることができる。
【0026】
また、本発明の速筋特異的な筋肉増強剤および遅筋を速筋タイプに変化させる筋肉増強剤は、食品として提供することができる。すなわち、タラ目に属する魚の魚肉タンパク質を含有し、速筋特異的な筋肉増強作用および遅筋を速筋タイプに変化させる作用を有する食品が提供される。本発明において、食品は、飲料を含む食品全般を意味し、サプリメントなどの健康食品を含む一般食品の他、消費者庁の保健機能食品制度に規定される特定保健用食品や栄養機能食品をも含む。たとえば、速筋特異的な筋肉増強作用を有する旨の表示または遅筋を速筋タイプに変化させる作用を有する旨の表示を付した機能性食品が提供される。たとえば、タラ目に属する魚の魚肉タンパク質を含有する食品をそのまま提供することができる。また、他の食品に添加し、混合し、または塗布することなどにより、食品素材として、速筋特異的な筋肉増強作用および遅筋を速筋タイプに変化させる作用を付与した食品を提供することができる。食品の他に、化粧品および餌料などとして提供することもできる。
【0027】
また、タラ目に属する魚の魚肉タンパク質を含有する食品を、当該食品が速筋特異的な筋肉増強作用を有すること、または遅筋を速筋タイプに変化させる作用を有することを記載した説明書と共にパッケージした製品として提供することができる。
【0028】
また、上記のように速筋特異的な筋肉増強作用または遅筋を速筋タイプに変化させる作用を有する旨を有する旨の表示を付した食品を製造するために、タラ目に属する魚の魚肉タンパク質を使用することができる。本発明の筋肉増強剤、並びに食品には、限定されないが、速筋特異的な筋肉増強作用を奏するのに必要な量を含有することができる。本発明の筋肉増強剤、並びに食品は、任意の量でタラ目に属する魚の魚肉タンパク質を含むことができ、たとえば100μg〜0.999kg/kg、好ましくは10g〜900g/kgの量で含むことができる。
【0029】
また、タラ目に属する魚の魚肉タンパク質は、医薬として患者に投与する場合、症状の程度、患者の年齢、体重および健康状態などの条件に応じて、限定されないが、成人であれば100μg〜10g/kg/日、好ましくは0.1g〜1g/kg/日を経口または非経口的に、1日1回または2〜4回以上に分割して、適宜の間隔をあけて投与することができる。また、本発明に使用される魚肉タンパク質は、医薬品のように強力な効果や副作用を有するものではないので、1日の摂取量に制限はない。
【実施例】
【0030】
実施例1 本発明品による筋肉増強作用
【0031】
冷凍のアラスカ産スケトウダラフィレー(ユニシー社製)をバンドソー(秋山機械社製、600ST)で1cm×1cm×1cm程度の大きさに切断した。切断した試料を凍結乾燥用トレーに一層に並べて、凍結乾燥機(東京理化器械社製、TF20-85ATNNN)にて-30℃で4時間の予備凍結後に、4昼夜凍結乾燥した。凍結乾燥試料を手で軽く砕き、ピンミル(槇野産業社製、EM-1A)にて粉砕した。粉砕した凍結乾燥試料に99.5%エタノール(和光純薬工業社製、試薬特級)を添加して脂溶性成分を溶出させた。1週間風乾させた後、残留エタノールをロータリーエバポレーター(東京理化器械社製、N-21NS)にて除去し、スケトウダラ魚肉タンパク質を得た。冷凍のスケトウダラフィレー10kgから、約1.5kgのスケトウダラ魚肉タンパク質が得られた。得られたスケトウダラ魚肉タンパク質の成分組成を表1に示す。
【0032】
【表1】
【0033】
5週齢の雄性SDラット(清水実験材料社より入手)を、スケトウダラ魚肉タンパク質群とカゼイン群に分け、それぞれ表2に示す組成の粉末飼料を自由摂食させた。尚、この粉末飼料は大石ら(Yoshie Oishi et al.、“Alaska pollack protein prevents the accumulation of visceral fat in rats fed a high fat diet”、J. Nutr. Sci. Vitaminol.、2009年、55巻、p.156-161)に記載の飼料と同様のものを用いた。また、カゼイン群の飼料に含まれるカゼインは、New Zealand Dairy Board社の物を用いた。一群は8匹のラットとし、ラットに飼料を4週間連続摂取させた後、解剖して組織重量を測定した。この時、ラットは一日あたり15〜30gの飼料を摂取していた。
【0034】
【表2】
【0035】
結果
速筋の代表であるひふく筋重量を測定した結果を図1に示してある。カゼイン群と比べてスケトウダラ魚肉タンパク質群では速筋の代表であるひふく筋重量が有意に増加した。
【0036】
一方、遅筋の代表であるヒラメ筋重量を測定した結果を図2に示してある。遅筋の代表であるヒラメ筋重量にはカゼイン群スとケトウダラ魚肉タンパク質群との間で差は見られなかった。
【0037】
したがって、スケトウダラ魚肉タンパク質は速筋特異的な筋肉増強作用を有することが示された。
【0038】
実施例2 本発明品のラット長期投与による筋肉増強作用、筋線維タイプ変化および筋肉代謝変化
【0039】
スケトウダラ魚肉タンパク質は、実施例1と同様の手順で得たものを使用した。また、ホキ魚肉タンパク質は、実施例1と同様の手順により、冷凍のニュージーランド産ホキフィレー(タリーズ社製)から得た。冷凍のホキフィレー10kgから、約1.6kgのホキ魚肉タンパク質が得られた。得られたホキ魚肉タンパク質の成分組成を表3に示す。
【0040】
【表3】
【0041】
5週齢の雄性SDラット(清水実験材料社より入手)を、スケトウダラ魚肉タンパク質群、ホキ魚肉タンパク質群およびカゼイン群に分け、それぞれ表4に示す組成の粉末飼料を自由摂食させた。また、カゼイン群の飼料に含まれるカゼインは、New Zealand Dairy Board社の物を用いた。一群は10匹のラットとし、ラットに飼料を8週間連続摂取させた後、解剖して組織重量を測定した。この時、ラットは一日あたり15〜30gの飼料を摂取していた。
【0042】
【表4】
【0043】
スケトウダラ魚肉タンパク質群およびカゼイン群のラットの長趾伸筋とヒラメ筋からtotal RNAを抽出し、RT-PCR法によりMyh4、Myh7、PGC1α、GLUT4のmRNA量を定量した。同時にサイクロフィリンのmRNA量も定量し、比較のための内部標準とした。PCR反応に用いた各遺伝子のプライマー配列を表5に示す。
【0044】
【表5】
【0045】
結果
速筋の代表であるひふく筋と長趾伸筋の重量を測定した結果を図3および図4に示してある。カゼイン群と比べてスケトウダラ魚肉タンパク質群およびホキ魚肉タンパク質群では、速筋の代表であるひふく筋および長趾伸筋の重量が有意に増加した。
【0046】
一方、遅筋の代表であるヒラメ筋重量を測定した結果を図5に示してある。カゼイン群と比べてスケトウダラ魚肉タンパク質群およびホキ魚肉タンパク質群では、遅筋の代表であるヒラメ筋の重量が増加する傾向が見られたが、有意な差は観察されなかった。
【0047】
したがって、スケトウダラ魚肉タンパク質およびホキ魚肉タンパク質は、長期投与することにより、速筋特異的な筋肉増強作用を有することが示された。
【0048】
速筋の筋線維の指標であるMyh4遺伝子の測定結果を図6に示してある。Myh4遺伝子は、速筋の代表筋である長趾伸筋において、カゼイン群と比べてスケトウダラ魚肉タンパク質群では有意に発現量が増加していた。一方、遅筋の代表筋であるヒラメ筋においては、両群の間でMyh4遺伝子発現に差は見られなかった。
【0049】
したがって、スケトウダラ魚肉タンパク質は、速筋をより速筋化させる方向に筋線維タイプを変化させることが推察された。
【0050】
遅筋の筋線維の指標であるMyh7遺伝子の測定結果を図7に示してある。Myh7遺伝子は、ヒラメ筋において、カゼイン群と比べてスケトウダラ魚肉タンパク質群では有意に発現量が減少していた。一方、長趾伸筋においては、両群の間でMyh7遺伝子発現に差は見られなかった。
【0051】
したがって、スケトウダラ魚肉タンパク質は、遅筋の筋線維を減らす方向に筋線維タイプを変化させることが推察された。
【0052】
脂質代謝亢進の指標であるPGC1α遺伝子の測定結果を図8に示してある。PGC1α遺伝子は、ヒラメ筋において、カゼイン群と比べてスケトウダラ魚肉タンパク質群では有意に発現量が減少していた。一方、長趾伸筋においては、両群の間でPGC1α遺伝子発現に差は見られなかった。
【0053】
また、糖質代謝亢進の指標であるGLUT4遺伝子の測定結果を図9に示してある。GLUT4遺伝子は、ヒラメ筋において、カゼイン群と比べてスケトウダラ魚肉タンパク質群では有意に発現量が増加していた。一方、長趾伸筋においては、両群の間でGLUT4遺伝子発現に差は見られなかった。
【0054】
上記結果から、スケトウダラ魚肉タンパク質群では、糖質代謝が亢進されることが推察される。一般的に、遅筋では主に脂質を、速筋では主に糖質を消費することから、スケトウダラ魚肉タンパク質は、ヒラメ筋を遅筋型の代謝から速筋型の代謝へと変化させることが示された。Myh7遺伝子の変化を合わせて考えると、スケトウダラ魚肉タンパク質は、遅筋を速筋化させる方向に筋線維タイプを変化させることが推察された。
【0055】
実施例3 ラット長期投与による血糖値上昇抑制作用
【0056】
5週齢の雄性SDラット(清水実験材料社より入手)を、スケトウダラ魚肉タンパク質群およびカゼイン群に分け、それぞれ表4と同様の組成の粉末飼料を自由摂食させた。また、カゼイン群の飼料に含まれるカゼインは、New Zealand Dairy Board社の物を用いた。一群は12匹のラットとし、ラットに飼料を5週間連続摂取させた。試験前日より10時間絶食させた後、40%グルコース溶液を体重100g当たり200mgの割合で投与した。投与前、投与後30分、60分、90分、120分の各時点において尾静脈より採血した。採血した血液を血糖値測定用チップ(ライフスキャン社製、One Touch Ultra)に吸収させ、血糖分析装置(ロシュ社製、ACCU-CHEK Active glucose meter)にて分析した。この時、ラットは、一日あたり15〜30gの飼料を摂取していた。
【0057】
結果
糖負荷試験による血糖値変化の結果を図10に示してある。カゼイン群と比べてスケトウダラ魚肉タンパク質群では、有意に血糖値の上昇が抑制されていた。120分間の積分値の比較においても、カゼイン群と比べてスケトウダラ魚肉タンパク質群では有意に血糖値の上昇が抑制されることが確認された。
【0058】
したがって、スケトウダラ魚肉タンパク質には、血糖値の上昇を抑制する作用があることが示された。スケトウダラ魚肉タンパク質の長期投与により、遅筋が速筋化する方向へ筋線維タイプが変化し、筋肉での糖質利用が高まった結果、血糖値の低下が惹起されたと推察される。
【0059】
実施例4 本発明品のラット長期投与による筋肉増強作用の他タンパク質との比較
【0060】
5週齢の雄性SDラット(清水実験材料社より入手)を、スケトウダラ魚肉タンパク質群、大豆タンパク質群、卵白タンパク質群、カゼイン群、およびホエイ群に分け、それぞれ表6に示した組成の粉末飼料を自由摂食させた。大豆タンパク質群の飼料に含まれる大豆タンパク質は、不二製油社の物を用いた。卵白タンパク質群の飼料に含まれる卵白タンパク質は、第一化成社の物を用いた。ホエイ群の飼料に含まれるホエイは、第一化成社の物を用いた。カゼイン群の飼料に含まれるカゼインは、New Zealand Dairy Board社の物を用いた。また、一群は10匹のラットとし、ラットに飼料を8週間連続摂取させた後、解剖して組織重量を測定した。この時、ラットは一日あたり15〜30gの飼料を摂取していた。
【0061】
【表6】
【0062】
結果
速筋の代表であるひふく筋と長趾伸筋の重量を測定した結果を図11および図12に示してある。カゼイン群と比べてスケトウダラ魚肉タンパク質群では、速筋の代表であるひふく筋および長趾伸筋の重量が有意に増加した。また、ホエイ群と比べてスケトウダラ魚肉タンパク質群では、長趾伸筋の重量が有意に増加した。大豆タンパク質群および卵白タンパク質群と比べてスケトウダラ魚肉タンパク質群では、ひふく筋と長趾伸筋の重量が増大する傾向が見られたが、有意な差は観察されなかった。
【0063】
一方、遅筋の代表であるヒラメ筋重量を測定した結果を図13に示してある。ホエイ群と比べてスケトウダラ魚肉タンパク質群では、遅筋の代表であるヒラメ筋の重量が有意に増加した。大豆タンパク質群、卵白タンパク質群、カゼイン群と比べてスケトウダラ魚肉タンパク質群では、ヒラメ筋の重量が増大する傾向が見られたが、有意な差は観察されなかった。
【0064】
したがって、スケトウダラ魚肉タンパク質は、長期投与することにより、大豆タンパク質、卵白タンパク質、カゼイン、ホエイの各タンパク質よりも強力な筋肉増強作用を有することが示された。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13