【課題を解決するための手段】
【0010】
上記及び他の目的は、「技術分野」で述べた方法によって実現される。当該方法は以下の段階を有する。
− 前記試料ホルダ上に校正用試料を供する段階
− 非走査モードにおいて、前記結像系の所与の構成を用いることで、前記検出器を用いて前記校正用試料の校正用画像を生成する段階
− 前記校正用試料の既知の寸法を利用し、かつ、前記既知の寸法と、前記校正用画像内の対応する寸法とを比較することで、前記検出器の視野の固有寸法を校正する段階
− 走査モードにおいて、前記検出器の校正された視野内で前記ビームのビームパターンを記録し、かつ、前記の記録されたビームパターンを検討することで、前記の記録されたビームパターンの幾何学的態様を得る段階
本願で用いられている「ビームパターン」という用語は、(集束)走査ビームによって生成された「スポット」の1つ以上の位置を記録することによって生成されるパターンを指称するものとして広義に解されなければならない。係る位置は、孤立(その結果「島状スポット」となる)しても良いし、又は、隣接(線/曲線を構成するように一連のスポットが一緒になったものとみなされる)しても良い。特に、係るパターンは線区域(linear tract)を有して良い。線区域はたとえば、実際に追跡/走査された(物理的な)線であって良いし、又は、単純に明確な点(島状スポット)間での外挿された概念(数学)上の線であっても良い。パターンはまた、幾何学形状−たとえば正方形、十字、三角形等−をも有して良い。幾何学形状は、これらの頂点(島状スポット)及び/又は辺(線)で定義されて良い。本質的には、ビームパターンは基本的に、検出器のFOV内での1つ以上の記録されたビーム座標からなる組である。
【0011】
本発明の方法は、(非走査モードでの)高倍率領域と(走査モードでの)低倍率モードとの間での「トランスレータ」として、相対的にドリフトに影響されない媒介(撮像用検出器のFOV)を利用する二段階方法である点で従来技術とは本質的に異なる。前記検出器のFOVの固有/参考寸法/縮尺(たとえば画素のサイズ)は、微校正用試料(たとえば結晶格子)を用いることによって非走査モードで正確に校正され得る。よってこの校正されたFOVは、走査モードでの荷電粒子ビームの走査運動(の幾何学的態様)を校正するのに用いられる。前記走査モードでは、当該方法は、上述したドリフト効果を導入しがちな試料の走査画像の生成に依拠せず、単純なビームパターン(たとえば走査ビームのX又はY偏向の完全な振幅に対応する区域)−つまり校正されたFOV内で相対的に容易に定量化可能な固有の態様(たとえば長さ又は角度)を有する純粋に幾何学的な部分−の記録に依拠する。前記FOVを校正する際、前記結像系の具体的に選ばれた構成(倍率)で前記の使用された検出器が実効的に校正される。
【0012】
本発明の実施例では、前記検出器の視野の固有寸法は、画素のサイズ、辺の長さ、対角線の長さ、直径、フィールドマーカーの寸法、及びこれらの結合を含む群から選ばれる。本発明における前記固有寸法の機能は、ビームパターンの(続いて観察される)幾何学的態様が測定可能な「定規」又は「目盛り」としての役割を果たすことである。その点では、この目的のために用いられる定規/目盛りの具体的選択に関してある程度の自由度がある。上述した画素のサイズ(たとえばCMOSアレイやCCDのような画素化された検出器の場合では比較的自然の選択)に加えて、他の選択には、前記FOVの大きなスケールの寸法−たとえば幅、高さ、対角線の長さ、及び直径(円形FOVの場合)−が含まれる。あるいはその代わりに、前記FOVが(永続的な)フィールドマーカー(たとえば目盛りのついた「十字線」又は他の種類の目盛り/グリッド)を含む状況を想定することができる。よって前記固有寸法は、このマーカーの特定の寸法(たとえば目盛り、ピッチ、長さ/幅)となるように選ばれる。当業者は、この点について適切な選択をすることができる。
【0013】
本発明の具体的実施例では、以下が適用される。
− 前記ビームパターンは所与の方向での線区域を含む。
− 前記幾何学的態様は前記線区域の長さである。
係る実施例は基本的に線の長さの校正となる。具体的な線区域は前記走査ビームによって(終点又は実際に追跡された経路の観点から)定義される。続いてこの区域の長さが前記FOVの(事前に校正された)固有寸法に対して測定される。つまり係る実施例は本質的に、本発明の最もわかりやすい実施形態を表す。当業者は、前記FOV中で追跡される前記具体的な線区域に関して当業者の知見を反映した選択を行うことができる。たとえばSTEMでは、前記撮像用電子ビームの走査運動は一般的に、相補的な走査偏向器(たとえば電気コイル)の対を用いることによって実行される。前記相補的な走査偏向器は、(XYZ直交座標系における)Z方向に沿って延びる光軸(伝播軸)から遠ざかるようにX方向及びY方向に前記ビームを独立に操作することができる。そのような場合、前記の選ばれた線区域は、X偏向器又はY偏向器を単独で完全な振幅で動かす結果得られる区域であって良いし、又は、2つのコイルを50/50で動かした結果得られる対角状の経路等であっても良い。
【0014】
本発明の他の実施例では、以下が適用される。
− 前記ビームパターンは、第1方向において第1線区域と、第2方向において第2線区域を有する。
− 前記幾何学的態様は、前記第1線区域と前記第2線区域との長さの比及び前記第1線区域と前記第2線区域とのなす角を含む群から選ばれる。
これまでの実施例がその特徴において本質的に「1次元」と言える一方で、この実施例は「2次元的」性質を備えるとみなすことができる。この点で、上述の校正用試料の1つの固有寸法が用いられるのか又は2つの固有寸法が用いられるのかに依存して、本発明が、1次元又は2次元で前記検出器のFOVを直接校正するのに用いられ得ることができると明記することは重要である。たとえば前記校正用試料が立方格子を有する結晶を含む場合、係る試料は、2つの既知で直交する固有寸法(具体的には前記立方格子の辺の長さ)を供することが可能で、かつ、これらは、たとえばX及びYにおける前記FOVを直接校正するのに用いられ得る。係る2次元FOV校正が実行されると、前記検出器は、前記STCPMにおける非等方的結像効果を調査するのに用いることができる。これらはたとえば、以下のようにして起こりえる。
− 前記結像系は、一の方向(たとえばX)での寸法が他の方向(たとえばY)での対応する寸法に対して変化する「選択的歪み」を導入する恐れがある。たとえば係る選択的歪みは、真円を楕円にしてしまう恐れがあるし、あるいは、正方形を長方形に見えるようにしてしまう恐れもある。これは本質的には粒子光学レンズの収差である。
− これまでの実施例で説明した典型的なSTEM走査装置を参照すると、完全なX偏向器とY偏向器は理想的には、同一の(最大)振幅を有し(前記偏向器の強度は同一であると仮定する)、かつ、互いに垂直である(前記偏向器は互いに正しく位置合わせされていると仮定する)走査運動を生じさせる。しかし偏向器の強度及び/又は位置合わせの不完全さによって、結果として得られる走査経路は、曲がり、かつ/あるいは長さが等しくなくなってしまう。
係る非等方性の厳密な原因にかかわらず、適切な補正手段をとり得るように、非等方性の結果生じる/累積的効果を定量化できることは重要である。ここで与えられている実施例はそのような定量化を可能にする。たとえば以下のようにして定量化は可能となる。
− 前記の使用されたビームパターンは、前記X偏向器を完全な振幅で動かすことによって生じる第1線区域、及び、前記Y偏向器を完全な振幅で動かすことによって生じる第2線区域を有する(前記線区域は、繰り返しになるが、終点又は実際に追跡された経路の観点から定義され得る)。
− 前記検出器の(2次元的に)校正されたFOVを用いることによって、これらの各対応する線区域の実際の長さ、及び、これらの各対応する線区域がなす実際の角度(問題となっている前記角度の正接を計算することによって計算される)が決定される。
− これらの線の長さが等しくないこと、及び/又は、これらの線が直交しないことは、上述した非等方性を示唆する。そのような不均等の大きさによって、等方性の程度/性質を得ることが可能となる。
【0015】
本発明の他の実施例では、以下が適用される。
− 前記ビームパターンは、前記の校正された視野内の各異なる座標位置に設けられた複数の試験用図形からなるアレイを有する。
− 前記幾何学的態様は、前記視野内の位置の関数として測定された歪みである。
これまでの実施例が、前記FOV内での(低次の)異方効果を示す「粗いスケール」の示唆を得ようとしたのに対し、この実施例は、これを「微細なスケール」のレベルに精緻化することで、前記FOV内での(低次及び高次の)歪み現象のはるかに詳細な(点毎の)調査を可能にする。その点で、係る実施例は、下記の点でこれまでの実施例のより洗練された改良型とみなすことができる。これまでの実施例では、前記第1線区域と前記第2線区域はたとえば、前記FOVの4つの異なる端部に隣接して設けられ、かつ、対をなすように概念上結合することでX区域とY区域を構成する4つの島状の点によって定義された。対照的に、この実施例では、複数の試験用図形(たとえば島状の点、小さな円、線分等)からなるアレイ全体が、前記FOVの面積にわたってマトリックス配置で分布する。係るアレイは、撮像の異常(歪み)が測定可能な微細スケールでより規則的な「グリッド」を表す。度量衡の原理からの例示的な類推を与えるため、たとえばこれまでの実施例は、風向計を用いた単純な風の測定にたとえることができる。他方この実施例は、マッピングされた風の場(小さな矢印の分布が、局所的な風の方向と強度を示すのに用いられている)を生成することに、より類似する。この実施例を実行する一の方法はたとえば、前記STCPMのX偏向器とY偏向器(の設定点)をプログラムすることで、前記FOVの幅と高さの全長(又はその大半−たとえば90%−)を基本的に透過するように設計された、規則的な直交する「ネット」のノード(交差点)を順次「アクセス」するように、前記走査ビームを操作することである。前記ビームによって「アクセス」される各ノードは、前記検出器によって記録されるスポットを生成する。よって前記FOV内で記録されたスポットからなる2次元アレイが蓄積される。歪みが存在しなければ、このアレイは、偏向器の設定点の規則的な直交するネットに厳密に対応する。しかし現実には、歪みは一般的に、前記スポットの位置を前記ネットのノードから逸脱させる。各ノード位置で、係る逸脱の方向及び大きさが計算される場合、前記FOV内での局在化した歪み効果のマップ(前述の風マップに類似する)を生成することができる。たとえ少しでも係る歪みマップを視覚的に検討すれば、豊富な詳細−たとえば所謂「樽型」、「ピンクッション型」、「サドル型」、及び「渦型」の歪みの存在−が明らかになる。しかしさらにより細かな詳細は一般的に、ソフトウエアを用いて前記歪みマップを数学的に解析することによって得ることができる。後者の場合では、一般的には、累積的/結果として得られた歪みを様々な歪み成分−たとえばシフト、回転、縮尺変更、剪断、曲がり等に起因する−にデコンボリューションすることができる。最終的には、このようにして得られた歪みはたとえば、以下のうちの1つ以上を行うのに用いることができる。
− 前記FOV上で歪みの校正を実行する。これはたとえば、「生の」画像の上述の歪み効果を補正するように、前記「生の」画像に適用される必要のある数学的変換を計算する段階を含んで良い。
− たとえば上述の歪み効果を「事前に打ち消す」ように前記照射体/結像系内の補正素子及び/又は偏向素子を適切に調節することによって、係る歪みを除去する方法を計算及び実行する。
前述した複数のスポットからなる直交するアレイに対する可能な代替手法として、たとえば、(理想的には)複数の同心円からなる入れ子のアレイから同様の情報−(実際には)前記アレイ中の位置の関数としての偏心率(eccentricity)を一般的には示す−が得られて良い。係る偏心率は、そのような偏心率を引き起こす基礎となる歪みに関する情報を得るように検査/測定されて良い。
【0016】
ここまで説明してきた実施例では、走査モードで得られた歪みデータ−及びそれにより可能となる歪み校正−は、非走査モードで−具体的には前記校正用試料(たとえば結晶)を観察するのにこれまで用いられてきた倍率よりもよりも低い倍率値(大きなFOV)で−歪みを解析するための基礎として用いられる。係る実施例においては、非走査モードでは、STCPMは一般的に、広い範囲(たとえば3桁)の動作倍率を有し、及び、この範囲の一部(たとえば最大倍率付近)だけしか、前記校正用試料の上述した校正用画像の生成には直接利用されない。歪みが校正された検出器による非走査モードに戻ることで、前記校正用試料の観察に用いられるレベルよりも高いFOVでの歪みの調査が可能となる。
【0017】
一般的には、一旦STCPMが本発明による方法を用いて校正されると、係る校正は、以下の一方又は両方において有効に利用され得ることに留意して欲しい。
− 走査撮像が、試料を透過する(1次)荷電粒子に基づいて実行される透過モード。以降の
図1では、係る透過放射線はたとえば検出器Dを用いて検出される。
− 走査撮像が、前記(1次)荷電粒子ビームの照射に応じて試料から放出される上述の補助(2次)放射線(たとえば後方散乱電子、2次電子、X線、フォトルミネッセンス)に基づいて実行される補助モード。以降の
図1では、係る補助放射線はたとえば検出器22を用いて検出される。
本質的には、本発明は、STCPMの「走査機能」を校正するものとみなされてよいので、これは様々な種類の用途に利用され得る。一旦本発明による校正が実行されると、前記の校正されたSTCPMの度量衡に基づく利用は、画像の定量的検査に限定されず、たとえば、スペクトル又は回折像の多数の点の集合から得られる情報に基づいてまとめられた画素のマップの定量的な解析にも拡張されることにも留意して欲しい。
【0018】
本発明では、前記検出器のFOVの校正は、前記結像系の特定の倍率設定で行われ、かつ、係る校正は一般的に、他の倍率値では使用できないことにも留意して欲しい。一般的には、前記顕微鏡のユーザーが他の倍率設定での動作を決心する場合に、再校正が行われる。前述したように、様々な倍率値で様々な校正を実行した後、倍率設定に対して(前記FOV)の校正された固有寸法をプロットすることが可能である。望ましい場合には、補間/外挿を用いることで、ある倍率選択に対応する前記FOVの固有寸法値を(近似的に)得ることが可能である。
【0019】
前述したように、本発明において用いられる前記校正用試料はたとえば、(1つ以上の)明確に定義される格子長さ(間隔/ピッチ)を有する結晶を含んで良い。係る結晶は本質的には、物理及び化学の基本的な力によって決定されるグリッドのサイズ/形状を有する「天然の」グリッド構造である。この文脈において適切な結晶の例にはたとえば、Si(シリコン)及びAu(金)が含まれる。
− Siは立方体(ダイアモンドのような)結晶構造を有する。(111)、(200)、及び(220)結晶軸に沿った格子ピッチはそれぞれ、0.314nm、0.271nm、及び0.191nmである。
− Auは面心立方(fcc)構造を有する。(111)及び(200)結晶軸に沿った格子ピッチはそれぞれ、0.236nm及び0.20nmである。これらのピッチは、Siの場合よりも小さいので、一般的には、満足行くような撮像を行うのに高い倍率を必要とする。
一般的な注意点として、前記の使用される校正用試料が繰り返し構造を有する場合(一般的には、結晶を用いる場合には当てはまる)、前記試料画像の(高速)フーリエ変換を計算することによって前記構造の(複数の)固有間隔/ピッチを得るのが便利となり得ることに留意して欲しい。フーリエ領域では、繰り返し構造中に存在する様々な空間周波数が、より明確になり得る。