特許第6110439号(P6110439)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6110439-走査型透過荷電粒子顕微鏡の校正方法 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6110439
(24)【登録日】2017年3月17日
(45)【発行日】2017年4月5日
(54)【発明の名称】走査型透過荷電粒子顕微鏡の校正方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 23/225 20060101AFI20170327BHJP
   G01N 23/203 20060101ALI20170327BHJP
   G01N 23/22 20060101ALI20170327BHJP
【FI】
   G01N23/225
   G01N23/225 310
   G01N23/225 320
   G01N23/203
   G01N23/22 330
   G01N23/22 320
   G01N23/225 312
【請求項の数】8
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-137413(P2015-137413)
(22)【出願日】2015年7月9日
(65)【公開番号】特開2016-17966(P2016-17966A)
(43)【公開日】2016年2月1日
【審査請求日】2016年10月20日
(31)【優先権主張番号】14176529.7
(32)【優先日】2014年7月10日
(33)【優先権主張国】EP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】501233536
【氏名又は名称】エフ イー アイ カンパニ
【氏名又は名称原語表記】FEI COMPANY
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100091214
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 進介
(72)【発明者】
【氏名】マクシムス セオドア オッテン
(72)【発明者】
【氏名】アビハエル アドリアナ マリア クック
(72)【発明者】
【氏名】マーティン フェルヘイエン
【審査官】 立澤 正樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−069693(JP,A)
【文献】 特開2002−042709(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2008/0093551(US,A1)
【文献】 特開2009−016181(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 23/225
G01N 23/203
G01N 23/22
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
走査透過型荷電粒子顕微鏡を校正する方法であって、
前記走査透過型荷電粒子顕微鏡は、
試料を保持する試料ホルダと、
荷電粒子のビームを生成する荷電粒子ビーム源と、
前記試料を照射するように前記ビームを誘導する照射体と、
前記試料を横断する荷電粒子を検出器に誘導する結像系と、
前記ビームに、前記試料の表面に対する走査の動きを生じさせるための走査手段と、
を有し、
前記顕微鏡は、
非走査モードであって、前記ビームは、後述する走査モードに対して広くなり、前記検出器が前記走査手段を動作させることなく画像を形成する、非走査モード、又は
走査モードであって、前記ビームは、前記非走査モードに対して狭くなり、前記検出器が前記ビームの走査位置の関数として画像を蓄積する、走査モード、
で作動することができ、
当該方法は、
前記試料ホルダ上に校正用試料を提供する段階と、
非走査モードにおいて、前記結像系の所与の構成を用いて、前記検出器を用いて前記校正用試料の校正用画像を形成する段階と、
前記校正用試料の既知の寸法を用いて、前記既知の寸法と、前記校正用画像内の対応する寸法とを比較し、前記検出器の視野の固有寸法を校正する段階と、
走査モードにおいて、前記検出器の校正された視野において、前記ビームのビームパターンを記録し、記録されたビームパターンを吟味し、該ビームパターンの幾何学的態様を得る段階であって、前記ビームパターンは、前記ビームにより生じるスポットの少なくとも一つの位置を記録することにより形成される、段階と、
を有することを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記検出器の視野の固有寸法は、画素サイズ、辺の長さ、対角線の長さ、直径、フィールドマーカーの寸法、及びこれらの組み合わせを含む群から選ばれる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ビームパターンは所与の方向での線形区域を含み、
前記幾何学的態様は前記線形区域の長さである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記ビームパターンは、第1方向における第1の線形区域と、第2方向における第2の線形区域を有し、
前記幾何学的態様は、
前記第1及び第2の線形区域の長さの比、及び
前記第1及び第2の線形区域の間の角
を含む群から選ばれる、請求項1乃至3のうちいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記ビームパターンは、前記校正された視野における異なる座標位置に設けられた、試験用図形のアレイを有し、
前記幾何学的態様は、前記視野における位置の関数として測定された歪みである、請求項1乃至4のうちいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記歪みは、シフト、回転、縮尺変更、剪断、曲がり、及びこれらの組み合わせを含む群から選ばれる、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記校正用試料は結晶を含み、前記既知の寸法は、前記結晶の格子長さである、請求項1乃至6のうちいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
荷電粒子顕微鏡であって、
試料を保持する試料ホルダと、
荷電粒子のビームを生成する荷電粒子ビーム源と、
前記試料を照射するように前記ビームを誘導する照射体と、
前記試料を横断する荷電粒子を検出器に誘導する結像系と、
前記ビームに、前記試料の表面に対する走査の動きを生じさせる走査手段と、
制御命令を実行する制御装置と、
を有し、
当該顕微鏡は、
非走査モードであって、前記ビームは、後述する走査モードに対して広くなり、前記検出器が前記走査手段を動作させることなく画像を形成する、非走査モード、又は
走査モードであって、前記ビームは、前記非走査モードに対して狭くなり、前記検出器が前記ビームの走査位置の関数として画像を蓄積する、走査モード、
で作動することができ、
前記制御装置は、
非走査モードにおいて、前記結像系の所与の構成を用いて、前記検出器を用いて校正用試料の校正用画像を形成する段階と、
前記校正用試料の既知の寸法を用いて、前記既知の寸法と、前記校正用画像内の対応する寸法とを比較し、前記検出器の視野の固有寸法を校正する段階と、
走査モードにおいて、前記検出器の校正された視野において、前記ビームのビームパターンを記録し、記録されたビームパターンを吟味し、該記録されたビームパターンの幾何学的態様を得る段階であって、前記ビームパターンは、前記ビームによって形成されるスポットの少なくとも一つの位置を記録することにより形成される、段階と、
を実行するように作動することができる、荷電粒子顕微鏡。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料を保持する試料ホルダ;荷電粒子ビームを生成する荷電粒子ビーム源;前記試料へ照射するように前記ビームを案内する照射体;前記試料を通過する荷電粒子を検出器へ案内する結像系;前記試料の表面に対する走査運動を前記ビームにさせる走査手段、を有し、かつ、前記ビームが相対的に広く、かつ、前記検出器が、前記走査手段を動作させることなく画像を生成する、非走査モード、又は、前記ビームが相対的に狭く、かつ、前記検出器が、前記ビームの走査位置の関数として画像を蓄積する、走査モードで動作可能な走査型透過荷電粒子顕微鏡の校正方法に関する。
【0002】
本発明はまた、当該方法が実行可能な荷電粒子顕微鏡にも関する。係る顕微鏡の例は、本発明によるある方法で実施/利用されるSTEM機能を備えたTEMである(後述)。
【背景技術】
【0003】
荷電粒子顕微鏡−具体的には電子顕微鏡−は、微小な対象物を撮像する周知で重要性を増している方法である。歴史的には、電子顕微鏡の基本的性質は、多数の周知の装置−たとえば透過電子顕微鏡(TEM)、走査電子顕微鏡(SEM)、及び走査透過電子顕微鏡(STEM)−及び様々な派生型装置−たとえば支援活動(たとえばイオンビームミリング又はイオンビーム誘起堆積(IBID))を可能にするように「加工用」集束イオンビーム(FIB)をさらに用いることのできる所謂「デュアルビーム」装置(たとえばFIB−SEM)−へ発展してきた。より詳細には以下の通りである。
− SEMでは、試料への走査電子ビームの照射が、たとえば2次電子、後方散乱電子、X線、及びフォトルミネッセンス(赤外、可視、及び/又は紫外の光子)として、試料からの「補助」放射線の放出を引き起こす。続いてこの放出放射線束の1つ以上の成分が、画像蓄積目的で検出及び利用される。
− TEMでは、試料への照射に用いられる電子ビームは、試料(この目的のため、一般的にはSEM用試料の場合よりも薄くなる)へ侵入するのに十分高いエネルギーとなるように選ばれる。よって試料から放出される透過電子束は、画像を生成するのに用いられて良い。係るTEMが走査モードで動作する(よってSTEMとなる)とき、問題となる画像は、照射電子ビームの走査運動中に蓄積される。
【0004】
ここで述べた話題の一部に関するさらなる情報はたとえば、以下のWikipediaのリンクから収集することができる。
http://en.wikipedia.org/wiki/Electron_microscope
http://en.wikipedia.org/wiki/Scanning_electron_microscope
http://en.wikipedia.org/wiki/Transmission_electron_microscopy
http://en.wikipedia.org/wiki/Scanning_transmission_electron_microscopy
照射ビームとして電子ビームを用いる代わりとして、荷電粒子顕微鏡観察もまた、他の種類の荷電粒子を用いて実行されて良い。この点では、「荷電粒子」という語句は、たとえば電子、正イオン(たとえばGaイオン又はHeイオン)、負イオン、陽子、及び陽電子を含むものとして広義に解釈されなければならない。イオン系顕微鏡に関しては、さらなる情報は、たとえば以下のリンクと非特許文献1から収集することができる。
http://en.wikipedia.org/wiki/Scanning_Helium_Ion_Microscope
撮像に加えて、荷電粒子顕微鏡(CPM)はまた、他の機能−たとえば分光の実行、ディフラクトグラムの検査、(局在化した)表面改質(たとえばミリング、エッチング、堆積)等−の実行−をも有して良いことに留意して欲しい。
【0005】
すべての場合において、走査型荷電粒子顕微鏡(STCPM)は少なくとも以下の構成要素を有する。
− 放射線源(たとえばショットキー電子源若しくはイオン銃)

− 照射体。線源からの「生の」放射線ビームを操作し、かつ、その放射線に対してある作用−集束、収差の緩和、(アパーチャによる)トリミング、フィルタリング等−を実行するように機能する。照射体は一般的に、1つ以上の荷電粒子レンズを有し、かつ、他の種類の粒子光学部品をも有して良い。望ましい場合には、照射体には、調査中の試料にわたる走査運動を出力ビームに実行させることのできる偏向器システムが供されて良い。
− 上に調査中の試料が保持及び位置設定(たとえば傾斜、回転)され得る試料ホルダ。望ましい場合には、このホルダは、試料に対するビームの所望の走査運動を実現するように動かされて良い。一般的には、係る試料ホルダは、たとえば機械ステージのような位置設定システムに接続される。
− 結像系。基本的には、試料(面)を透過する荷電粒子を捕らえ、かつ、その荷電粒子を使用される検出器へ案内(集束)する。上述の照射体と共に、結像系もまた、他の機能−たとえば収差の緩和、トリミング、フィルタリング等−を実行して良い。そして結像系は一般的に、1つ以上の荷電粒子レンズ及び/又は他の種類の粒子光学部品を有する。
− 検出器。前記検出器は、単体であって良いし又は事実上複合体/分配されても良く、かつ、検出される放射線に依存して多くの異なる形態をとって良い。例には、光電子増倍管(固体光電子増倍管SSPMを含む)、フォトダイオード、COMS検出器、CCD検出器、光電池等が含まれる。これらはたとえば、シンチレータ膜と併用されて良い。
【0006】
以降では、本発明は、例示によって、電子顕微鏡の具体的文脈で説明される。しかしそのような単純化は、簡明を期す/例示することを目的としているだけであり、限定と解されてはならない。
【0007】
STCPMを用いて試料を観察するとき、その試料中のある特徴部の存在/構成(定性的調査)のみならず、それらのサイズ(定量的調査/度量衡調査)も関心対象となる。このため、明確/正確な寸法をある特徴部に割り当てることを可能にするある種の校正手順を実行することが一般的には必要となる。そのような校正手順は一般的に、ある種の校正用試料−既知の/規定された寸法の標準/参考構造物(たとえばグリッド/アレイ)を含む−の利用を含む。しかしそのような校正手順は比較的簡単そうに思えるが、そのような校正手順は、実際の状況では問題があり、かつ、正確さのレベルの低い最適とはいえない結果を得る恐れがある。これについてはたとえば以下のような様々な理由が考えられる。
− 使用可能な一の種類の校正用試料は、数μmのオーダーで相互に離間する繰り返し構造のグリッドを有する所謂「2次元格子(cross grating)」である。このミクロンスケールは、相対的に低倍率(たとえば少なくとも1つのグリッドユニットが使用された検出器の視野(FOV)の幅の範囲内に適合する倍率)の校正には適しているが、相対的に高倍率(小さなFOV)での使用には適さない。しかもそのような格子でのグリッド寸法は一般的に保証されないので、校正処理において相対的に大きな誤差の開き/不確実性を生じさせてしまう。
− この後者の点においてより適した校正用試料には結晶試料が含まれる。結晶試料内では、原子又は分子が、明確に規定された格子間隔で規則的なマトリックスを構成するように配列されている。そのような試料の固有寸法(格子の長さ/ピッチ/コントラスト)は一般的に高精度であることを保証されているが、相対的に高倍率(たとえば画素のサイズが格子間隔の半分よりも短いFOV)の用途でしか適用できない。
− STCPMが走査モードで用いられるとき、留意する必要のある特別な事項がある。上述の結晶性参考試料を用いることによって、高倍率限界(小さなFOV)で係るSTCPMを校正することは可能だが、STCPMのより有用な動作倍率範囲(大きなFOV)への外挿は一般的に、数桁にわたる縮尺変更を含み、それに対応して、特に任意の走査型顕微鏡に固有に存在する(走査型顕微鏡の動作原理に固有な)ドリフト効果に起因する、到達可能な精度に対する負の影響がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】− W.H. Escovitz, T.R. Fox and R. Levi−Setti, Scanning Transmission Ion Microscope with a Field Ion Source, Proc. Nat. Acad. Sci. USA 72(5), pp 1826−1828 (1975).It should be noted that, in addition to imaging, a charged−particle microscope (CPM) may also have other functionalities, such as performing spectroscopy, examining diffractograms, performing (localized) surface modification (e.g. milling, etching, deposition), etc.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、これらの問題を解決することである。特に本発明の目的は、従来技術によって供される方法よりも正確にSTCPMを校正する方法を供することである。より具体的には本発明の目的は、当該方法において、縮尺変更及びドリフトに起因する上述の問題を緩和することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記及び他の目的は、「技術分野」で述べた方法によって実現される。当該方法は以下の段階を有する。
− 前記試料ホルダ上に校正用試料を供する段階
− 非走査モードにおいて、前記結像系の所与の構成を用いることで、前記検出器を用いて前記校正用試料の校正用画像を生成する段階
− 前記校正用試料の既知の寸法を利用し、かつ、前記既知の寸法と、前記校正用画像内の対応する寸法とを比較することで、前記検出器の視野の固有寸法を校正する段階
− 走査モードにおいて、前記検出器の校正された視野内で前記ビームのビームパターンを記録し、かつ、前記の記録されたビームパターンを検討することで、前記の記録されたビームパターンの幾何学的態様を得る段階
本願で用いられている「ビームパターン」という用語は、(集束)走査ビームによって生成された「スポット」の1つ以上の位置を記録することによって生成されるパターンを指称するものとして広義に解されなければならない。係る位置は、孤立(その結果「島状スポット」となる)しても良いし、又は、隣接(線/曲線を構成するように一連のスポットが一緒になったものとみなされる)しても良い。特に、係るパターンは線区域(linear tract)を有して良い。線区域はたとえば、実際に追跡/走査された(物理的な)線であって良いし、又は、単純に明確な点(島状スポット)間での外挿された概念(数学)上の線であっても良い。パターンはまた、幾何学形状−たとえば正方形、十字、三角形等−をも有して良い。幾何学形状は、これらの頂点(島状スポット)及び/又は辺(線)で定義されて良い。本質的には、ビームパターンは基本的に、検出器のFOV内での1つ以上の記録されたビーム座標からなる組である。
【0011】
本発明の方法は、(非走査モードでの)高倍率領域と(走査モードでの)低倍率モードとの間での「トランスレータ」として、相対的にドリフトに影響されない媒介(撮像用検出器のFOV)を利用する二段階方法である点で従来技術とは本質的に異なる。前記検出器のFOVの固有/参考寸法/縮尺(たとえば画素のサイズ)は、微校正用試料(たとえば結晶格子)を用いることによって非走査モードで正確に校正され得る。よってこの校正されたFOVは、走査モードでの荷電粒子ビームの走査運動(の幾何学的態様)を校正するのに用いられる。前記走査モードでは、当該方法は、上述したドリフト効果を導入しがちな試料の走査画像の生成に依拠せず、単純なビームパターン(たとえば走査ビームのX又はY偏向の完全な振幅に対応する区域)−つまり校正されたFOV内で相対的に容易に定量化可能な固有の態様(たとえば長さ又は角度)を有する純粋に幾何学的な部分−の記録に依拠する。前記FOVを校正する際、前記結像系の具体的に選ばれた構成(倍率)で前記の使用された検出器が実効的に校正される。
【0012】
本発明の実施例では、前記検出器の視野の固有寸法は、画素のサイズ、辺の長さ、対角線の長さ、直径、フィールドマーカーの寸法、及びこれらの結合を含む群から選ばれる。本発明における前記固有寸法の機能は、ビームパターンの(続いて観察される)幾何学的態様が測定可能な「定規」又は「目盛り」としての役割を果たすことである。その点では、この目的のために用いられる定規/目盛りの具体的選択に関してある程度の自由度がある。上述した画素のサイズ(たとえばCMOSアレイやCCDのような画素化された検出器の場合では比較的自然の選択)に加えて、他の選択には、前記FOVの大きなスケールの寸法−たとえば幅、高さ、対角線の長さ、及び直径(円形FOVの場合)−が含まれる。あるいはその代わりに、前記FOVが(永続的な)フィールドマーカー(たとえば目盛りのついた「十字線」又は他の種類の目盛り/グリッド)を含む状況を想定することができる。よって前記固有寸法は、このマーカーの特定の寸法(たとえば目盛り、ピッチ、長さ/幅)となるように選ばれる。当業者は、この点について適切な選択をすることができる。
【0013】
本発明の具体的実施例では、以下が適用される。
− 前記ビームパターンは所与の方向での線区域を含む。
− 前記幾何学的態様は前記線区域の長さである。
係る実施例は基本的に線の長さの校正となる。具体的な線区域は前記走査ビームによって(終点又は実際に追跡された経路の観点から)定義される。続いてこの区域の長さが前記FOVの(事前に校正された)固有寸法に対して測定される。つまり係る実施例は本質的に、本発明の最もわかりやすい実施形態を表す。当業者は、前記FOV中で追跡される前記具体的な線区域に関して当業者の知見を反映した選択を行うことができる。たとえばSTEMでは、前記撮像用電子ビームの走査運動は一般的に、相補的な走査偏向器(たとえば電気コイル)の対を用いることによって実行される。前記相補的な走査偏向器は、(XYZ直交座標系における)Z方向に沿って延びる光軸(伝播軸)から遠ざかるようにX方向及びY方向に前記ビームを独立に操作することができる。そのような場合、前記の選ばれた線区域は、X偏向器又はY偏向器を単独で完全な振幅で動かす結果得られる区域であって良いし、又は、2つのコイルを50/50で動かした結果得られる対角状の経路等であっても良い。
【0014】
本発明の他の実施例では、以下が適用される。
− 前記ビームパターンは、第1方向において第1線区域と、第2方向において第2線区域を有する。
− 前記幾何学的態様は、前記第1線区域と前記第2線区域との長さの比及び前記第1線区域と前記第2線区域とのなす角を含む群から選ばれる。
これまでの実施例がその特徴において本質的に「1次元」と言える一方で、この実施例は「2次元的」性質を備えるとみなすことができる。この点で、上述の校正用試料の1つの固有寸法が用いられるのか又は2つの固有寸法が用いられるのかに依存して、本発明が、1次元又は2次元で前記検出器のFOVを直接校正するのに用いられ得ることができると明記することは重要である。たとえば前記校正用試料が立方格子を有する結晶を含む場合、係る試料は、2つの既知で直交する固有寸法(具体的には前記立方格子の辺の長さ)を供することが可能で、かつ、これらは、たとえばX及びYにおける前記FOVを直接校正するのに用いられ得る。係る2次元FOV校正が実行されると、前記検出器は、前記STCPMにおける非等方的結像効果を調査するのに用いることができる。これらはたとえば、以下のようにして起こりえる。
− 前記結像系は、一の方向(たとえばX)での寸法が他の方向(たとえばY)での対応する寸法に対して変化する「選択的歪み」を導入する恐れがある。たとえば係る選択的歪みは、真円を楕円にしてしまう恐れがあるし、あるいは、正方形を長方形に見えるようにしてしまう恐れもある。これは本質的には粒子光学レンズの収差である。
− これまでの実施例で説明した典型的なSTEM走査装置を参照すると、完全なX偏向器とY偏向器は理想的には、同一の(最大)振幅を有し(前記偏向器の強度は同一であると仮定する)、かつ、互いに垂直である(前記偏向器は互いに正しく位置合わせされていると仮定する)走査運動を生じさせる。しかし偏向器の強度及び/又は位置合わせの不完全さによって、結果として得られる走査経路は、曲がり、かつ/あるいは長さが等しくなくなってしまう。
係る非等方性の厳密な原因にかかわらず、適切な補正手段をとり得るように、非等方性の結果生じる/累積的効果を定量化できることは重要である。ここで与えられている実施例はそのような定量化を可能にする。たとえば以下のようにして定量化は可能となる。
− 前記の使用されたビームパターンは、前記X偏向器を完全な振幅で動かすことによって生じる第1線区域、及び、前記Y偏向器を完全な振幅で動かすことによって生じる第2線区域を有する(前記線区域は、繰り返しになるが、終点又は実際に追跡された経路の観点から定義され得る)。
− 前記検出器の(2次元的に)校正されたFOVを用いることによって、これらの各対応する線区域の実際の長さ、及び、これらの各対応する線区域がなす実際の角度(問題となっている前記角度の正接を計算することによって計算される)が決定される。
− これらの線の長さが等しくないこと、及び/又は、これらの線が直交しないことは、上述した非等方性を示唆する。そのような不均等の大きさによって、等方性の程度/性質を得ることが可能となる。
【0015】
本発明の他の実施例では、以下が適用される。
− 前記ビームパターンは、前記の校正された視野内の各異なる座標位置に設けられた複数の試験用図形からなるアレイを有する。
− 前記幾何学的態様は、前記視野内の位置の関数として測定された歪みである。
これまでの実施例が、前記FOV内での(低次の)異方効果を示す「粗いスケール」の示唆を得ようとしたのに対し、この実施例は、これを「微細なスケール」のレベルに精緻化することで、前記FOV内での(低次及び高次の)歪み現象のはるかに詳細な(点毎の)調査を可能にする。その点で、係る実施例は、下記の点でこれまでの実施例のより洗練された改良型とみなすことができる。これまでの実施例では、前記第1線区域と前記第2線区域はたとえば、前記FOVの4つの異なる端部に隣接して設けられ、かつ、対をなすように概念上結合することでX区域とY区域を構成する4つの島状の点によって定義された。対照的に、この実施例では、複数の試験用図形(たとえば島状の点、小さな円、線分等)からなるアレイ全体が、前記FOVの面積にわたってマトリックス配置で分布する。係るアレイは、撮像の異常(歪み)が測定可能な微細スケールでより規則的な「グリッド」を表す。度量衡の原理からの例示的な類推を与えるため、たとえばこれまでの実施例は、風向計を用いた単純な風の測定にたとえることができる。他方この実施例は、マッピングされた風の場(小さな矢印の分布が、局所的な風の方向と強度を示すのに用いられている)を生成することに、より類似する。この実施例を実行する一の方法はたとえば、前記STCPMのX偏向器とY偏向器(の設定点)をプログラムすることで、前記FOVの幅と高さの全長(又はその大半−たとえば90%−)を基本的に透過するように設計された、規則的な直交する「ネット」のノード(交差点)を順次「アクセス」するように、前記走査ビームを操作することである。前記ビームによって「アクセス」される各ノードは、前記検出器によって記録されるスポットを生成する。よって前記FOV内で記録されたスポットからなる2次元アレイが蓄積される。歪みが存在しなければ、このアレイは、偏向器の設定点の規則的な直交するネットに厳密に対応する。しかし現実には、歪みは一般的に、前記スポットの位置を前記ネットのノードから逸脱させる。各ノード位置で、係る逸脱の方向及び大きさが計算される場合、前記FOV内での局在化した歪み効果のマップ(前述の風マップに類似する)を生成することができる。たとえ少しでも係る歪みマップを視覚的に検討すれば、豊富な詳細−たとえば所謂「樽型」、「ピンクッション型」、「サドル型」、及び「渦型」の歪みの存在−が明らかになる。しかしさらにより細かな詳細は一般的に、ソフトウエアを用いて前記歪みマップを数学的に解析することによって得ることができる。後者の場合では、一般的には、累積的/結果として得られた歪みを様々な歪み成分−たとえばシフト、回転、縮尺変更、剪断、曲がり等に起因する−にデコンボリューションすることができる。最終的には、このようにして得られた歪みはたとえば、以下のうちの1つ以上を行うのに用いることができる。
− 前記FOV上で歪みの校正を実行する。これはたとえば、「生の」画像の上述の歪み効果を補正するように、前記「生の」画像に適用される必要のある数学的変換を計算する段階を含んで良い。
− たとえば上述の歪み効果を「事前に打ち消す」ように前記照射体/結像系内の補正素子及び/又は偏向素子を適切に調節することによって、係る歪みを除去する方法を計算及び実行する。
前述した複数のスポットからなる直交するアレイに対する可能な代替手法として、たとえば、(理想的には)複数の同心円からなる入れ子のアレイから同様の情報−(実際には)前記アレイ中の位置の関数としての偏心率(eccentricity)を一般的には示す−が得られて良い。係る偏心率は、そのような偏心率を引き起こす基礎となる歪みに関する情報を得るように検査/測定されて良い。
【0016】
ここまで説明してきた実施例では、走査モードで得られた歪みデータ−及びそれにより可能となる歪み校正−は、非走査モードで−具体的には前記校正用試料(たとえば結晶)を観察するのにこれまで用いられてきた倍率よりもよりも低い倍率値(大きなFOV)で−歪みを解析するための基礎として用いられる。係る実施例においては、非走査モードでは、STCPMは一般的に、広い範囲(たとえば3桁)の動作倍率を有し、及び、この範囲の一部(たとえば最大倍率付近)だけしか、前記校正用試料の上述した校正用画像の生成には直接利用されない。歪みが校正された検出器による非走査モードに戻ることで、前記校正用試料の観察に用いられるレベルよりも高いFOVでの歪みの調査が可能となる。
【0017】
一般的には、一旦STCPMが本発明による方法を用いて校正されると、係る校正は、以下の一方又は両方において有効に利用され得ることに留意して欲しい。
− 走査撮像が、試料を透過する(1次)荷電粒子に基づいて実行される透過モード。以降の図1では、係る透過放射線はたとえば検出器Dを用いて検出される。
− 走査撮像が、前記(1次)荷電粒子ビームの照射に応じて試料から放出される上述の補助(2次)放射線(たとえば後方散乱電子、2次電子、X線、フォトルミネッセンス)に基づいて実行される補助モード。以降の図1では、係る補助放射線はたとえば検出器22を用いて検出される。
本質的には、本発明は、STCPMの「走査機能」を校正するものとみなされてよいので、これは様々な種類の用途に利用され得る。一旦本発明による校正が実行されると、前記の校正されたSTCPMの度量衡に基づく利用は、画像の定量的検査に限定されず、たとえば、スペクトル又は回折像の多数の点の集合から得られる情報に基づいてまとめられた画素のマップの定量的な解析にも拡張されることにも留意して欲しい。
【0018】
本発明では、前記検出器のFOVの校正は、前記結像系の特定の倍率設定で行われ、かつ、係る校正は一般的に、他の倍率値では使用できないことにも留意して欲しい。一般的には、前記顕微鏡のユーザーが他の倍率設定での動作を決心する場合に、再校正が行われる。前述したように、様々な倍率値で様々な校正を実行した後、倍率設定に対して(前記FOV)の校正された固有寸法をプロットすることが可能である。望ましい場合には、補間/外挿を用いることで、ある倍率選択に対応する前記FOVの固有寸法値を(近似的に)得ることが可能である。
【0019】
前述したように、本発明において用いられる前記校正用試料はたとえば、(1つ以上の)明確に定義される格子長さ(間隔/ピッチ)を有する結晶を含んで良い。係る結晶は本質的には、物理及び化学の基本的な力によって決定されるグリッドのサイズ/形状を有する「天然の」グリッド構造である。この文脈において適切な結晶の例にはたとえば、Si(シリコン)及びAu(金)が含まれる。
− Siは立方体(ダイアモンドのような)結晶構造を有する。(111)、(200)、及び(220)結晶軸に沿った格子ピッチはそれぞれ、0.314nm、0.271nm、及び0.191nmである。
− Auは面心立方(fcc)構造を有する。(111)及び(200)結晶軸に沿った格子ピッチはそれぞれ、0.236nm及び0.20nmである。これらのピッチは、Siの場合よりも小さいので、一般的には、満足行くような撮像を行うのに高い倍率を必要とする。

一般的な注意点として、前記の使用される校正用試料が繰り返し構造を有する場合(一般的には、結晶を用いる場合には当てはまる)、前記試料画像の(高速)フーリエ変換を計算することによって前記構造の(複数の)固有間隔/ピッチを得るのが便利となり得ることに留意して欲しい。フーリエ領域では、繰り返し構造中に存在する様々な空間周波数が、より明確になり得る。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の実施例が実行可能な荷電粒子顕微鏡の断面図を示している。
図2】荷電粒子顕微鏡の校正を行うのに用いることのできる2つの異なる校正用試料の画像を示している。
【発明を実施するための形態】
【0021】
ここで典型的実施例と添付図面に基づいて本発明をより詳細に説明する。
【0022】
図中、適切な場合には、対応する部分は、対応する参照符号を用いて示されている。一般的には、図は正しい縮尺で描かれていないことに留意して欲しい。
【0023】
図1は、本発明との併用に役立つSTCPM1の実施例の概略図である。図示された顕微鏡はSTEM(つまり走査機能を備えるTEM)である。しかし本発明の文脈においては、図示された顕微鏡はたとえば、イオンに基づく顕微鏡も有用となり得る。図中、真空筐体2内で、電子源4(たとえばショットキー銃)が、電子光学照射体6を通り抜ける電子ビームを生成する。電子光学照射体6は、(実質的に平坦な)試料Sの選ばれた領域に電子ビームを案内/集束する役割を果たす。この照射体6は、電子光学軸8を有し、かつ、一般的には様々な静電/磁気レンズ、(走査)偏向器、補正器(たとえばスティグメータ)等を有する。典型的には照射体6は収束系をも有して良い。
【0024】
試料Sは、設置装置(台)12によって多重自由度で位置設定可能な試料ホルダ10上に保持されている。たとえば試料ホルダ10は、(とりわけ)XY平面(図示された直交座標系を参照のこと)で移動可能な指部を有して良い。係る移動は、軸8に沿って(Z方向に)進行する電子ビームによる試料Sの様々な領域の照射/撮像/検査(及び/又はビーム走査の代わりに走査運動を実行すること)を可能にする。任意の冷却装置14は、試料ホルダ10と緊密に熱的接触をし、かつ、たとえば循環極低温冷媒を用いて所望の低温を実現及び維持することによって試料ホルダ10を極低温に維持することが可能である。
【0025】
軸8に沿って進行する(集束)電子ビームは、様々な種類の「誘導」放射線−(たとえば)2次電子、後方散乱電子、X線、及び光放射線(カソードルミネッセンス)を含む−が試料Sから放出されるように試料Sと相互作用する。望ましい場合には、これらの放射線の種類のうちの1種類以上が検出器22によって検出されて良い。検出器22はたとえば、結合されたシンチレータ/光電子増倍管又はEDX(エネルギー分散型X線分光)検出器であって良い。係る場合には、画像は、SEMにおける原理と基本的に同一の原理を用いて構築されて良い。しかしその代わりに又は補助的に、試料を通り抜け(通過し)、試料から放出され、かつ、(実質的には多少偏向/散乱するが)軸8に沿って伝播し続ける電子が調査されて良い。係る透過電子は結像系(組み合わせられた対物/投影レンズ)24へ入射する。結像系24は一般的に、様々な静電/磁気レンズ、偏向器、補正器(たとえばスティグメータ)等を有する。通常の(非走査)TEMモードでは、この結像系24は、透過電子を蛍光スクリーン26へ集束させて良い。蛍光スクリーン26は、望ましい場合には、(矢印28によって概略的に示されているように)軸8から外れるように引き出され/引き込められてよい。試料S(の一部)の画像はスクリーン26上で結像系24によって生成される。これは、壁2の適切な部分に設けられたビューポート30を介して見ることができる。スクリーン26用の引き込み機構はたとえば、基本的には機械及び/又は電気によるものであって良いが、ここでは図示されていない。
【0026】
スクリーン26上で画像を閲覧する代わりとして、特にSTEMモードでは電子検出器Dが利用されて良い。このため、アジャスタレンズ24’が、結像系24から放出される電子の焦点を移動させ、かつ、その電子を(引っ込められたスクリーン26の面ではなく)検出器Dへ再案内/集束させるように機能して良い(上を参照のこと)。検出器Dでは、電子は、制御装置50によって処理され、かつ、表示装置(図示されていない)−たとえばフラットパネルディスプレイ−上に表示される画像(回折像)を生成して良い。STEMモードでは、検出器Dからの出力は、試料S上の走査ビーム位置(X,Y)の関数として記録され、かつ、X,Yの関数としての検出器出力の「マップ」である画像が再構成されて良い。当業者は、これらの様々な可能性について非常によく知っているので、ここではこれ以上の説明は不要である。
【0027】
制御装置(コンピュータプロセッサ)50は、制御ライン(バス)50’を介して様々な図示された部品に接続されることに留意して欲しい。この制御装置50は、様々な機能−たとえば作用の同期、観測点の提供、信号処理、計算の実行、及び表示装置(図示されていない)上でのメッセージ/情報の表示−を供して良い。言うまでもないことだが、(概略的に図示された)制御装置50は、(部分的に)筐体2の内部又は外部に存在し、かつ、必要に応じて単一構造又は複合構造を有して良い。当業者は、筐体2の内部が厳密な真空状態に維持される必要がないことを理解する。たとえば所謂「環境制御型TEM」では、所与の気体のバックグラウンド環境圧力が、故意に筐体2の内部に導入/維持される。
【0028】
本発明の文脈においては、係る顕微鏡1は以下のように用いられて良い。
(i) 適切な校正用試料S−たとえばSi結晶−が試料ホルダ上に供される。非走査モードでは、この試料S(の一部)の画像が、検出器D上に投影され、かつ、検出器Dによって記録される。係る投影は、「中間」倍率(たとえば約50k×(50000倍)のオーダー)で行われて良い。この「中間」倍率は一般的には、校正用試料の格子構造が明確に視認可能/検出可能であることを保証するのに十分である。
(ii) 段階(i)で生成された校正用試料Sの画像が(視覚的及び/又は自動的に)検査される。そして試料Sの少なくとも1つの既知の寸法(たとえば所与の結晶軸に沿った特定の格子ピッチ)が、前記検出器Dの視野(FOV)の固有寸法(たとえば画素の長さ又は辺の長さ)を校正するために、その画像と比較される。望ましい場合には、係る校正は2つ以上の方向で実行されて良い。たとえば試料Sの様々な格子ピッチが、2つの相補的な/座標方向−たとえばX及びY−で検出器DのFOVを校正するのに用いられて良い。上述したように、そのような2次元の校正によって、後続の高次の歪み効果の調査(及び補正)を行うことが可能となる。
(iii) この処理の次(現在)の段階では、試料Sは必要なく、取り外されて良い(ただし望ましい場合には、その場所に残されても良い)。この段階では、顕微鏡1は(使用される検出器を変更することなく)走査モードに切り換えられる。このことは、軸8に沿って伝播する電子が細いビームであることを意味する。軸8に沿って伝播する電子は、結像系6内の(少なくとも)一対の偏向器(図示されていない)によってZ軸から遠ざかるように偏向されて良い。このようにして、前記電子ビームは、特定の軸から外れた(X,Y)座標で単に「滞在」されて良いし(静的偏向)、又は、軌跡を追跡するように走査されても良い(動的偏向)。これらの挙動の一方/両方は、検出器Dによって登録/記録されて良い。検出器Dは単に、滞在したビームのスポット及び走査したビームの追跡経路を記録する。この機構を用いることによって、特定のビームパターンが、たとえば観測点の適切な傾向を前記偏向器に供給することによって、検出器DのFOV内に生成される。このパターンは検出器Dによって記録される。上述したように、係るパターンは、スポット、線、曲線等の事前に選ばれた配置を含んで良い。
(iv) 段階(iii)において記録されたパターンがここで(視覚的及び/又は自動的に)検討される。検出器DのFOVが段階(ii)において校正されたことを利用して、登録されたパターンの1つ以上の幾何学的態様が、(FOVの上述の校正された(複数の)固有寸法との比較によって)取得/測定/校正されて良い。係る幾何学的態様はたとえば、2点間の距離、線又は線分の長さ、(物理的又は概念上の)2本の線がなす角度、参考グリッドからのスポットのアレイの空間的なずれ等のうちの1つ以上を含んで良い。上述したように、様々なパラメータ/種類の情報(たとえば歪みの情報)がこのデータから収集されて良い。
【実施例1】
【0029】
図2は、CPMの校正に用いることのできる2つの異なる種類の校正用試料画像を示している。より詳細には以下の通りである。
【0030】
図2Aは、相対的に低い倍率でCPMを校正するのに従来用いられている「十字の格子」を示している。この図における倍率は10k×で、視野は12μm×12μmである。
− 係る十字の格子はたとえば、カーボンの薄い層/ホイルを光学回折格子上に堆積することによって生成されて良い。このカーボンの層は、溝によって囲まれる正方形の平坦域からなる3次元構造を有する。続いて適切な金属(たとえば金−パラジウム)が、正方形の対角線のうちの1つに沿って小角にてカーボンホイル上でスパッタリングされる。スパッタリングされた金属は、溝の「風上の」2つの壁を目立たせている。このとき一部の金属は平坦域上にも存在する。他方「風下の」溝には本質的に金属は存在しない。続いてカーボンホイルは、支持体を構成する金属グリッド上に設けられる。スパッタリングされた層の重い金属によって、構造は、荷電粒子顕微鏡内で十分視認可能となる。
− この種類の校正用試料に関する不確実性/不正確さはとりわけ、使用された薄いカーボンホイル(それ自体非常に弱い剛性を有する)の起こりえる縮小/拡大若しくは歪み、及び/又は、支持用金属グリッドの曲げ/歪みから生じる。
− 本願で述べた十字の格子は、Agar Scientific − Elektron Technology UK株式会社のような顕微鏡販売会社から市販されている。
− この種類の格子が相対的に粗くて不正確であるので、校正される寸法において相対的に大きな(たとえば約2%の)誤差が存在することが、図からすぐに明らかとなる。
【0031】
図2Bは、相対的に高い倍率でCPMを校正するのに用いることのできる結晶格子を示している。この特別な場合では、図示された構造はシリコン結晶である。この図での倍率は7.2M×(720万倍)で、視野は12nm×12nmである。Si原子は本質的に完全に規則的なマトリックス構造で配置され、明確に定義される格子間隔はSi原子間の結合の基本的特性によって決定されることに留意して欲しい。従って係る格子間隔(十分に分類された)は、長さを校正する目的にとって優れた「既知の寸法」の役割を果たす。
【符号の説明】
【0032】
1 荷電粒子顕微鏡
2 真空筐体
4 電子源
6 電子光学照射体
S 試料
8 電子光学軸
10 試料ホルダ
12 設置装置(台)
14 冷却装置
22 検出器
24 結像系
26 蛍光スクリーン
28 矢印
D 電子検出器
24’ アジャスタレンズ
50 制御装置
50’ 制御ライン(バス)
図1
図2