【実施例】
【0046】
以下、本発明の実施例を示すが、これらは本発明をより良く理解するために提供するものであり、本発明が限定されることを意図するものではない。
【0047】
(例1:実施例1〜2)
実施例1〜2の銅箔基材として、JX日鉱日石金属社製のBHY処理18μm厚圧延銅箔を用意した。当該銅箔は、樹脂との密着予定面に粗化処理がなされており、非粗化処理面には防錆層(Ni付着量:100μg/dm
2、Zn付着量:300μg/dm
2、Cr付着量:20μg/dm
2)が形成されている。
続いて、非粗化処理面の防錆層を酸洗で除去した後、「(一般社団法人)表面技術協会、「表面技術」、vol.155、No.8、p560−564」に記載のMo電気メッキ技術を用い、以下の条件によって非粗化処理面に表面処理層としてMoNi合金層を形成した。すなわち、まず、グルコン酸、Ni供給源としての硫酸Ni六水和物、Mo酸Na二水和物を、それぞれ0.3M、0.2M、0.1Mの濃度で混合してめっき浴を建浴した。次に、アンモニア水でめっき浴のpHを8に調整した。次いで、このめっき浴を用いて、上記圧延銅箔に、2A/dm
2で時間を変化させてMoNi合金めっきを行った。
次に、粗化処理面に接着剤付きポリイミドフィルムを160℃でラミネートすることにより張り合わせ、CCLを作製した。
次に、非粗化処理面に液体レジストでL/S=33μm/7μmのレジストパターン(40μmピッチ回路)を形成し、塩化第二鉄(液温50℃、0.2MPa)でエッチングし、回路ボトム幅が20μm前後のところで、10本の回路についてエッチングファクター(EF)を算出し、平均値及び偏差を求めた。エッチングファクターは、末広がりにエッチングされた場合(ダレが発生した場合)、回路が垂直にエッチングされたと仮定した場合の、銅箔上面からの垂線と樹脂基板との交点からのダレの長さの距離をaとした場合において、このaと銅箔の厚さbとの比:b/aを示すものであり、この数値が大きいほど、傾斜角は大きくなり、エッチング残渣が残らず、ダレが小さくなることを意味する。
図1に、回路パターンの一部の表面写真と、当該部分における回路パターンの幅方向の横断面の模式図と、該模式図を用いたエッチングファクターの計算方法の概略とを示す。このaは回路上方からのSEM観察により測定し、エッチングファクター(EF=b/a)を算出した。このエッチングファクターを用いることにより、エッチング性の良否を簡単に判定できる。
また、大気下で250℃に設定したホットプレートにMoNi合金めっき面が上になるように表面処理銅箔を10分間放置し、変色を目視で観察した。加熱前後で変色がないものは○、やや変色があったものは△、変色したものは×とした。
非粗化処理面の表面処理層の定量は表層5μmを酸に溶解して、ICPで行った。
【0048】
(例2:実施例3〜5)
実施例3〜5の銅箔基材として、例1と同様のJX日鉱日石金属社製のBHY処理18μm厚圧延銅箔を用意した。
続いて、非粗化処理面に逆スパッタで前処理をした後に、スパッタリングでMo層を形成した。以下にスパッタリングの条件を示す。表面処理層の厚みは搬送速度、出力、Ar圧力を調整することで制御した。
・到達真空度:1.0×10
-5Pa
・スパッタリング圧力:Ar 0.2〜0.4Pa
・スパッタリング電力:300〜4000W
・銅箔搬送速度:分速1〜15m
・ターゲット:Mo(3N)
次に、例1の手順でCCLを作製し、Mo層の上にレジストパターンを形成し、例1の手順でエッチング性評価、耐加熱変色性評価、付着量定量を行った。
【0049】
(例3:実施例6〜15)
実施例6〜15の銅箔基材として、例1と同様のJX日鉱日石金属社製のBHY処理18μm厚圧延銅箔を用意した。
続いて、非粗化処理面に逆スパッタで前処理をした後に、スパッタリングでMo層を形成し、さらにMo層の上にスパッタリングでNiV、Co、SnNi、ZnNi、Crの各層を形成した。以下にスパッタリングの条件を示す。表面処理層の厚みは搬送速度、出力、Ar圧力を調整することで制御した。
・到達真空度:1.0×10
-5Pa
・スパッタリング圧力:Ar 0.2〜0.4Pa
・スパッタリング電力:300〜4000W
・銅箔搬送速度:分速1〜15m
・ターゲット:Mo、Ni、V、Co、Sn、Zn、Cr(3N)
次に、この銅箔にキャスティング工程を想定した熱履歴を施し(370℃×4h、N
2雰囲気)、CCLを作製した。
続いて、例1の手順でこの表面処理面にレジストパターンを形成し、例1の手順でエッチング性評価、耐加熱変色性評価、付着量定量を行った。
【0050】
(例4:実施例16)
実施例16の銅箔基材として、例1と同様のJX日鉱日石金属社製のBHY処理18μm厚圧延銅箔を用意した。
続いて、非粗化処理面に逆スパッタで前処理をした後に、スパッタリングでNiV層を形成し、さらにNiV層の上にスパッタリングでMo層を形成した。スパッタリング条件は、例3と同様とした。
次に、例1の手順でCCLを作製し、表面処理面にレジストパターンを形成し、例1の手順でエッチング性評価、耐加熱変色性評価、付着量定量を行った。
【0051】
(例5:実施例17)
実施例17の銅箔基材として、JX日鉱日石金属社製の18μm厚電解銅箔JDLCを用意した。当該銅箔は、樹脂との密着予定面に粗化処理がなされており、非粗化処理面には防錆層(Ni付着量:数μg/dm
2、Zn付着量:400μg/dm
2、Cr付着量:20μg/dm
2)が形成されている。
続いて、非粗化処理面に逆スパッタで前処理をした後に、スパッタリングでMo層を形成し、さらにMo層の上にスパッタリングでNiV層を形成した。スパッタリング条件は、例3と同様とした。
次に、例1の手順でCCLを作製し、表面処理面にレジストパターンを形成し、例1の手順でエッチング性評価、耐加熱変色性評価、付着量定量を行った。
【0052】
(例6:実施例18)
実施例18の銅箔基材として、JX日鉱日石金属社製の12μm厚電解銅箔JDLCを用意した。当該銅箔は、樹脂との密着予定面に粗化処理がなされており、非粗化処理面には防錆層(Ni付着量:数μg/dm
2、Zn付着量:400μg/dm
2、Cr付着量:20μg/dm
2)が形成されている。
続いて、非粗化処理面に逆スパッタで前処理をした後に、スパッタリングでMo層を形成し、さらにMo層の上にスパッタリングでNiV層を形成した。スパッタリング条件は、例3と同様とした。
次に、例1の手順でCCLを作製し、表面処理面にレジストパターンを形成し、例1の手順でエッチング性評価、耐加熱変色性評価、付着量定量を行った。なお、形成する回路は25μmピッチとした。
【0053】
(例7:比較例1〜2)
比較例1の銅箔基材として、例1と同様のJX日鉱日石金属社製のBHY処理18μm厚圧延銅箔を用意した。比較例2の銅箔基材として、例5と同様のJX日鉱日石金属社製の18μm厚電解銅箔JDLCを用意した。
続いて、非粗化処理面にレジストパターンを形成し、例1の手順でエッチング性評価、耐加熱変色性評価、付着量定量を行った。
【0054】
(例8:比較例3)
比較例3の銅箔基材として、例6と同様のJX日鉱日石金属社製の12μm厚電解銅箔JDLCを用意した。
続いて、非粗化処理面にレジストパターンを形成し、例1の手順でエッチング性評価、耐加熱変色性評価、付着量定量を行った。なお、形成する回路は25μmピッチとした。
【0055】
(例9:比較例4)
比較例4の銅箔基材として、JX日鉱日石金属のBHY処理18μ厚圧延銅箔を用意した。
続いて、非粗化処理面の防錆層を酸洗で除去した後、非粗化処理面に、Niイオン濃度:10g/L、pH:3.0、液温:50℃、電流密度:5A/dm
2の条件で電気めっきを行い、Ni層を形成した。
次に、この銅箔にキャスティング工程を想定した熱履歴を施し(370℃×4h、N
2雰囲気)、CCLを作製した。
続いて、例1の手順でこの表面処理面にレジストパターンを形成し、例1の手順でエッチング性評価、耐加熱変色性評価、付着量定量を行った。
例1〜9の各試験結果を表1に示す。
【0056】
【表1】
【0057】
(評価)
実施例1〜18は、いずれもエッチング性が良好であり、サイドエッチが抑制され、矩形に近い回路が形成されていた。
実施例1、2によれば、湿式の合金めっきでエッチング面の表面処理を行っても、耐加熱変色性及びエッチング性が良好となることがわかる。
実施例3〜5より、Mo層のみをエッチング面に形成することで、エッチング性が良好となり、サイドエッチが抑制され、回路形状は矩形に近くなった。ただし、耐加熱変色性は他の実施例に比べて劣っていた。
実施例6〜15より、Mo層の上に異種金属1種以上からなる金属層を形成することで、さらに耐加熱変色性が向上した。
実施例16より、Mo層を最表層にしてもよいが、耐加熱変色性は著しく向上するわけではないことがわかった。ただし、同程度のMo付着量である実施例3と比べると、耐加熱変色性は向上していた。
実施例17及び18より、銅箔が電解銅箔であってもエッチング性、耐加熱変色性が良好であり、これらは処理対象の銅箔基材の種類に依存しないことがわかった。
比較例1〜4は、いずれもエッチング面にMo層が形成されておらず、エッチング性が不良であった。
また、Ni付着量が同程度で、Moの有無が異なる実施例6と比較例4とを比較すると、EFは大きく異なっている。このことから、Moはサイドエッチ抑制効果に大きな役割を果たしていることがわかる。