特許第6111017号(P6111017)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6111017プリント配線板用銅箔及びそれを用いた積層体、プリント配線板及び電子部品
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  • 特許6111017-プリント配線板用銅箔及びそれを用いた積層体、プリント配線板及び電子部品 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6111017
(24)【登録日】2017年3月17日
(45)【発行日】2017年4月5日
(54)【発明の名称】プリント配線板用銅箔及びそれを用いた積層体、プリント配線板及び電子部品
(51)【国際特許分類】
   H05K 1/09 20060101AFI20170327BHJP
   C25D 7/06 20060101ALI20170327BHJP
【FI】
   H05K1/09 B
   C25D7/06 A
【請求項の数】10
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-22159(P2012-22159)
(22)【出願日】2012年2月3日
(65)【公開番号】特開2013-161925(P2013-161925A)
(43)【公開日】2013年8月19日
【審査請求日】2014年9月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】古澤 秀樹
【審査官】 遠藤 秀明
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−129685(JP,A)
【文献】 特開昭60−056088(JP,A)
【文献】 特開2009−206514(JP,A)
【文献】 特開昭62−216287(JP,A)
【文献】 特開昭61−253886(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 1/09
C25D 7/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅箔基材と、該銅箔基材表面の少なくとも一部に形成された表面処理層とを備え、
前記表面処理層には、Moが2000μg/dm2以下の付着量で存在し、
前記表面処理層が、Moと、Niと、Co、Sn、Zn、Cr、V、Fe、Wのいずれか1種以上との合金で形成されているプリント配線板用銅箔。
【請求項2】
前記表面処理層には、Moが20〜2000μg/dm2の付着量で存在する請求項1に記載のプリント配線板用銅箔。
【請求項3】
前記表面処理層には、Moが40〜2000μg/dm2の付着量で存在する請求項2に記載のプリント配線板用銅箔。
【請求項4】
前記表面処理層には、Moが50〜600μg/dm2の付着量で存在する請求項3に記載のプリント配線板用銅箔。
【請求項5】
前記表面処理層にはNiが40〜1800μg/dm2の付着量で存在する請求項1〜4のいずれか一項に記載のプリント配線板用銅箔。
【請求項6】
プリント配線板がフレキシブルプリント配線板である請求項1〜のいずれかに記載のプリント配線板用銅箔。
【請求項7】
請求項1〜のいずれかに記載の銅箔と樹脂基板との積層体。
【請求項8】
銅層と樹脂基板との積層体であって、前記銅層の表面の少なくとも一部を被覆する請求項1〜のいずれかに記載の表面処理層を備えた積層体。
【請求項9】
請求項又はに記載の積層体を材料としたプリント配線板。
【請求項10】
請求項に記載のプリント配線板を備えた電子部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリント配線板用銅箔及びそれを用いた積層体、プリント配線板及び電子部品に関し、特にフレキシブルプリント配線板用の銅箔及びそれを用いた積層体、プリント配線板及び電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
プリント配線板はここ半世紀に亘って大きな進展を遂げ、今日ではほぼすべての電子機器に使用されるまでに至っている。近年の電子機器の小型化、高性能化ニーズの増大に伴い搭載部品の高密度実装化や信号の高周波化が進展し、プリント配線板に対して導体パターンの微細化(ファインピッチ化)や高周波対応等が求められている。
【0003】
プリント配線板は銅箔に絶縁基板を接着、もしくは絶縁基板上にNi合金等を蒸着させた後に電気めっきで銅層を形成させて銅張積層板とした後に、エッチングにより銅箔または銅層面に導体パターンを形成するという工程を経て製造されるのが一般的である。そのため、プリント配線板用の銅箔または銅層にはエッチング性が要求される。
【0004】
ここでのエッチング性とは回路間の絶縁部に表面処理由来の金属が残存しないこと、回路の裾引きが小さいことをいう。回路間の絶縁部に金属が残存していれば、回路間で短絡が起こってしまう。また、回路形成のエッチングでは、回路上面から下(絶縁基板側)に向かって、末広がりにエッチングされ、回路の断面は台形になる。この台形の上底と下底との差(以下「裾引き」と呼ぶ)が小さければ、回路間のスペースを狭
くでき、高密度配線基板が得られる。裾引きが大きければ、回路間のスペースを狭くすると回路が短絡するので、高密度実装基板を製造することができない。
【0005】
エッチングは銅箔または銅層の板厚方向及び平面方向の2方向に進行する。板厚方向のエッチング速度が平面方向のそれよりも低いので、回路断面は台形になる。このため、裾引きが小さい回路を得るためには、銅箔または銅層の厚みを薄くしてエッチング時間を短くすれば良い(特許文献1)。
【0006】
また、裾引きを小さくするために、銅箔のエッチング面側に銅よりもエッチング速度が遅い金属又はその合金層を形成する方法がある(特許文献2、3)。これらの候補金属はNi、Co等である。これらを銅箔または銅層のエッチング面に多量に付着させて形成した数10nmの層で回路上部の横方向のエッチングが抑制され、裾引きが小さい回路が形成される。
【0007】
プリント配線板の配線回路のファインピッチ化が進展に伴い、回路間隔も小さくなっていくので、回路の裾引きは小さくなければならない。非特許文献1によれば、回路幅(L、単位はμm)と回路間隔(S、単位はμm)は年々狭まる傾向にあり、フレキシブルプリント配線板に関しては2012年にはL/S=25/25に達するとのことである。配線回路のファインピッチ化に対応するためには、回路の裾引きを小さくするべく銅箔の厚みを薄くしなければならない。しかしながら、銅箔の厚みが薄くなると製造時の取り扱いが困難になるため、電解銅箔や圧延銅箔で対応できる配線パターンはL/S=25/25が限界と言われている。銅箔のエッチング面にNi、Co等の金属層を形成しても、このような回路パターンに対応するのは困難であると予想される。
【0008】
このような問題に対し、本発明者らは微量の貴金属を銅箔のエッチング面に付着させた場合に、形成された回路の裾引きが小さくなることを見出している(特許文献4)。これにより、銅箔の厚みが薄くなくても裾引きが小さい回路を形成することが可能となるため、高密度実装基板の形成が可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2000−269619号公報
【特許文献2】特開1994−81172号公報
【特許文献3】特開2002−176242号公報
【特許文献4】特開2011−166018号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】2009年度版 日本実装技術ロードマップ プリント配線板編
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、貴金属による表面処理はコストが高いという問題がある。そこで、本発明は、ファインピッチ化に適した、裾引きが小さい断面形状の回路を良好な製造コストで製造可能なプリント配線板用銅箔を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは鋭意検討の結果、貴金属の代わりにMoを用いた表面処理を行うことによって、貴金属による表面処理と同様な効果が良好な製造コストで得られることを見出した。
一方、本来耐食性を有するMoの付着量が多すぎると、レジスト開口部に露出した部分の初期エッチング性が劣化し、回路の直線性が悪くなる可能性がある。さらに、ある一定以上の付着量では効果が飽和する。そこで、Moの付着量を極微量とするか、又は、熱拡散等によって表面処理層への銅箔基材からの銅の拡散を促進させることで、初期エッチング性を良好にすることができる。また、表面処理コストを低く抑えることができる。
【0013】
以上の知見を基礎として完成した本発明は一側面において、銅箔基材と、該銅箔基材表面の少なくとも一部に形成された表面処理層とを備え、前記表面処理層には、Moが2000μg/dm2以下の付着量で存在し、前記表面処理層が、Moと、Niと、Co、Sn、Zn、Cr、V、Fe、Wのいずれか1種以上との合金で形成されているプリント配線板用銅箔である。
【0014】
本発明に係るプリント配線板用銅箔は一実施形態において、前記表面処理層には、Moが20〜2000μg/dm2の付着量で存在する。
【0015】
本発明に係るプリント配線板用銅箔は別の一実施形態において、前記表面処理層には、Moが40〜2000μg/dm2の付着量で存在する。
【0016】
本発明に係るプリント配線板用銅箔は更に別の一実施形態において、前記表面処理層には、Moが50〜600μg/dm2の付着量で存在する。
【0022】
本発明に係るプリント配線板用銅箔は更に別の一実施形態において、前記表面処理層にはNiが40〜1800μg/dm2の付着量で存在する。
【0023】
本発明に係るプリント配線板用銅箔は更に別の一実施形態において、プリント配線板がフレキシブルプリント配線板である。
【0024】
本発明は別の一側面において、本発明の銅箔と樹脂基板との積層体である。
【0025】
本発明は更に別の一側面において、銅層と樹脂基板との積層体であって、前記銅層の表面の少なくとも一部を被覆する本発明の表面処理層を備えた積層体である。
【0026】
本発明は更に別の一側面において、本発明の積層体を材料としたプリント配線板である。
【0027】
本発明は更に別の一側面において、本発明のプリント配線板を備えた電子部品である。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、ファインピッチ化に適した、裾引きが小さい断面形状の回路を良好な製造コストで製造可能なプリント配線板用銅箔を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】回路パターンの一部の表面写真、当該部分における回路パターンの幅方向の横断面の模式図、及び、該模式図を用いたエッチングファクター(EF)の計算方法の概略である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
(銅箔基材)
本発明に用いることのできる銅箔基材の形態に特に制限はないが、典型的には圧延銅箔や電解銅箔の形態で用いることができる。一般的には、電解銅箔は硫酸銅めっき浴からチタンやステンレスのドラム上に銅を電解析出して製造され、圧延銅箔は圧延ロールによる塑性加工と熱処理を繰り返して製造される。屈曲性が要求される用途には圧延銅箔を適用することが多い。
銅箔基材の材料としてはプリント配線板の導体パターンとして通常使用されるタフピッチ銅や無酸素銅といった高純度の銅の他、例えばSn入り銅、Ag入り銅、Cr、Zr又はMg等を添加した銅合金、Ni及びSi等を添加したコルソン系銅合金のような銅合金も使用可能である。なお、本明細書において用語「銅箔」を単独で用いたときには銅合金箔も含むものとする。
【0031】
本発明に用いることのできる銅箔基材の厚さについても特に制限はなく、プリント配線板用に適した厚さに適宜調節すればよい。例えば、5〜100μm程度とすることができる。但し、ファインパターン形成を目的とする場合には30μm以下、好ましくは20μm以下であり、典型的には5〜20μm程度である。
【0032】
本発明に使用する銅箔基材は、特に限定されないが、粗化処理をしたものを用いてもよく、粗化処理をしないものを用いてもよい。従来は特殊めっきで表面にμmオーダーの凹凸を付けて表面粗化処理を施し、物理的なアンカー効果によって樹脂との接着性を持たせるケースが一般的であるが、一方でファインピッチや高周波電気特性は平滑な箔が良いとされ、粗化箔では不利な方向に働くことがある。また、粗化処理をしないものであると、粗化処理工程が省略されるので、経済性・生産性向上の効果がある。
【0033】
(表面処理層)
銅箔基材の絶縁基板との接着面の反対側(回路形成予定面側)の表面の少なくとも一部には、表面処理層が形成されている。表面処理層には、Moが2000μg/dm2以下の付着量で存在する。このように、微量のMoを銅箔のエッチング面に付着させると、形成された回路の裾引きが小さくなる。これにより、銅箔の厚みが薄くなくても裾引きが小さい回路を形成することが可能となるため、高密度実装基板の形成が可能となる。一方、Moの付着量が2000μg/dm2を超えると、初期エッチング性に悪影響を及ぼす。Moの付着量は、好ましくは20〜2000μg/dm2、より好ましくは40〜2000μg/dm2、さらにより好ましくは50〜600μg/dm2である。Moの付着量が20μg/dm2未満であると効果が出ない場合がある。
【0034】
表面処理層が、さらにMoとは異なる金属を含む場合、銅箔の耐加熱変色性が良好となる。このような観点から、表面処理層が、Ni、Co、Sn、Zn、Cr、V、Fe、Wのいずれか1種以上を含んでもよく、Moと、Ni、Co、Sn、Zn、Cr、V、Fe、Wのいずれか1種以上との合金で形成されていてもよい。また、表面処理層が、Mo層と、Ni、Co、Sn、Zn、Cr、V、Fe、Wのいずれか1種以上で構成された金属層とを備えた構成であってもよい。この場合、Mo層と金属層とは、いずれが上層であってもよい。また、金属層にNiを用いる場合、Niが40〜1800μg/dm2の付着量で金属層に存在するのが好ましく、70〜1000μg/dm2の付着量で金属層に存在するのがより好ましい。Niの付着量が40μg/dm2未満であると、耐加熱変色性が劣化するおそれがあり、Niの付着量が1800μg/dm2超であると、初期エッチング性が劣化するおそれがある。
【0035】
また、銅箔基材と表面処理層との間には、初期エッチング性に悪影響を及ぼさない限り、さらに良好な耐加熱変色性を得るために下地層を設けてもよい。下地層としてはニッケル、ニッケル合金、コバルト、銀、マンガンが好ましい。下地層を設ける方法は乾式、湿式法いずれでも良い。
【0036】
表面処理層上の最表層には、防錆効果を高めるために、さらに、クロム層若しくはクロメート層、及び/又は、シラン処理層で構成された防錆処理層を形成することができる。また、表面処理層と銅箔との間に、さらに加熱処理による酸化を抑制するため、耐酸化性を有する下地層を形成してもよい。
【0037】
電子機器の小型化に伴い、搭載される基板の高密度化の進展が著しく、例えばスマートフォンでは電池の搭載スペースを確保するために、これまで以上に、基板の小型化、高密度化が要求されている。電子機器は回路基板が複数積層された多層構造となっており、その作製に際しては、小型化、高密度化した回路基板を互いに良好な導通をとりながら積層しなければならない。回路基板を層間で導通をとりながら積層する方法として、一層毎に積層、絶縁層の穴あけ加工、配線形成などを繰り返すことによって多層構造のプリント配線板を作製するフィルドビア法がある。フィルドビア法では、層間接続部を形成するために、絶縁層を除去し、当該除去部に電気メッキや導電性ペーストを用いて導体部を形成している。このうち、電気メッキで導体部を形成する場合、良好なメッキ液濃度管理、電気メッキ条件の制御は技術的に困難性が高いため、導電性ペーストで導体部を形成する方法は工程管理が簡便である。導電性ペーストとしては、銅粉、銀粉、銀メッキ銅粉等が用いられる。本発明のプリント配線板用銅箔は、上述のようにファインピッチ化に適した、裾引きが小さい断面形状の回路を良好な製造コストで製造可能であるため、小型化及び高密度化した多層構造のプリント配線板に好適に用いることができる。
【0038】
(銅箔の製造方法)
本発明に係るプリント配線板用銅箔は、乾式成膜法、例えばスパッタリング法、さらには電気めっきにより形成することができる。このときの銅箔基材の搬送には、リール・ツー・リール方式等の連続搬送方式を用いることができる。これにより銅箔基材の表面の少なくとも一部に表面処理層を形成する。具体的には、スパッタリング法によって、銅箔のエッチング面側にMo層を形成する。また、Moと、Ni、Co、Sn、Zn、Cr、V、Fe、Wのいずれか1種以上との合金で形成された層を表面処理層として形成してもよい。さらに、表面処理層として、Mo層と、Ni、Co、Sn、Zn、Cr、V、Fe、Wのいずれか1種以上で構成された金属層とを任意の順で形成してもよい。
また、湿式めっきで行う場合、鉄族元素との誘導共析型の合金めっきとなる。めっき液中でMoイオンを錯イオンとして存在させるために、錯化剤が添加される。錯化剤としては、酒石酸、グルコン酸、クエン酸等を用いることができる。めっき浴のpHは、錯化剤に応じて、酸性又は塩基性に調整することができる。Moと共析する元素としてはFe、Ni、Wなどが挙げられる。本発明の表面処理面は防錆層としての機能も果たすこと、初期エッチング性の観点から、共析させる元素としてはNiが好ましい。この合金めっき層は本来クロメートによる防錆の代替として使用されるため、本発明の用途で使用する場合には一定量以下の付着量とする必要がある。
【0039】
(プリント配線板の製造方法)
本発明に係る銅箔を用いてプリント配線板(PWB)を常法に従って製造することができる。以下に、プリント配線板の製造方法の例を示す。
【0040】
まず、銅箔と絶縁基板とを貼り合わせて積層体を製造する。銅箔が積層される絶縁基板はプリント配線板に適用可能な特性を有するものであれば特に制限を受けないが、例えば、リジッドPWB用に紙基材フェノール樹脂、紙基材エポキシ樹脂、合成繊維布基材エポキシ樹脂、ガラス布・紙複合基材エポキシ樹脂、ガラス布・ガラス不織布複合基材エポキシ樹脂及びガラス布基材エポキシ樹脂等を使用し、FPC用にポリエステルフィルムやポリイミドフィルム等を使用する事ができる。
【0041】
貼り合わせの方法は、リジッドPWB用の場合、ガラス布などの基材に樹脂を含浸させ、樹脂を半硬化状態まで硬化させたプリプレグを用意する。銅箔を表面処理層の反対側の面からプリプレグに重ねて加熱加圧させることにより行うことができる。
【0042】
フレキシブルプリント配線板(FPC)用の場合、ポリイミドフィルム又はポリエステルフィルムと銅箔とをエポキシ系やアクリル系の接着剤を使って接着することができる(3層構造)。また、接着剤を使用しない方法(2層構造)としては、ポリイミドの前駆体であるポリイミドワニス(ポリアミック酸ワニス)を銅箔に塗布し、加熱することでイミド化するキャスティング法や、ポリイミドフィルム上に熱可塑性のポリイミドを塗布し、その上に銅箔を重ね合わせ、加熱加圧するラミネート法が挙げられる。キャスティング法においては、ポリイミドワニスを塗布する前に熱可塑性ポリイミド等のアンカーコート材を予め塗布しておくことも有効である。
【0043】
本発明に係る積層体は各種のプリント配線板(PWB)に使用可能であり、特に制限されるものではないが、例えば、導体パターンの層数の観点からは片面PWB、両面PWB、多層PWB(3層以上)に適用可能であり、絶縁基板材料の種類の観点からはリジッドPWB、フレキシブルPWB(FPC)、リジッド・フレックスPWBに適用可能である。また、本発明に係る積層体は、銅箔を樹脂に貼り付けてなる上述のような銅張積層板に限定されず、樹脂上にスパッタリング、めっきで銅層を形成したメタライジング材であってもよい。
【0044】
上述のように作製した積層体の銅箔上に形成された表面処理層表面にレジストを塗布し、マスクによりパターンを露光し、現像することによりレジストパターンを形成する。
続いて、レジストパターンの開口部に露出した表面処理層を、試薬を用いて除去する。当該試薬としては、塩酸、硫酸又は硝酸を主成分とするものを用いるのが、入手しやすさ等の理由から好ましい。
次に、積層体をエッチング液に浸漬する。このとき、エッチングを抑制するMoを含む表面処理層は、銅箔上のレジスト部分に近い位置にあり、レジスト側の銅箔のエッチングは、この表面処理層近傍がエッチングされていく速度よりも速い速度で、表面処理層から離れた部位の銅のエッチングが進行することにより、銅の回路パターンのエッチングがほぼ垂直に進行する。これにより銅の不必要部分を除去されて、次いでエッチングレジストを剥離・除去して回路パターンを露出することができる。
積層体に回路パターンを形成するために用いるエッチング液に対しては、表面処理層のエッチング速度は、銅よりも十分に小さいためエッチングファクターを改善する効果を有する。エッチング液は、塩化第二銅水溶液、又は、塩化第二鉄水溶液等を用いることができる。
また、表面処理層を形成する前に、あらかじめ銅箔基材表面に耐熱層を形成しておいてもよい。
このようにして作製したプリント配線板は、搭載部品の高密度実装が要求される各種電子部品に搭載することができる。
【0045】
(プリント配線板の銅箔表面の回路形状)
上述のように表面処理層側からエッチングされて形成されたプリント配線板の銅箔表面の回路は、その長尺状の2つの側面が絶縁基板上に垂直に形成されるのではなく、通常、銅箔の表面から下に向かって、すなわち樹脂層に向かって、末広がりに形成される(ダレの発生)。これにより、長尺状の2つの側面はそれぞれ絶縁基板表面に対して傾斜角θを有している。現在要求されている回路パターンの微細化(ファインピッチ化)のためには、回路のピッチをなるべく狭くすることが重要であるが、この傾斜角θが小さいと、それだけダレが大きくなり、回路のピッチが広くなってしまう。また、傾斜角θは、通常、各回路及び回路内で完全に一定ではない。このような傾斜角θのばらつきが大きいと、回路の品質に悪影響を及ぼすおそれがある。従って、表面処理層側からエッチングされて形成されたプリント配線板の銅箔表面の回路は、長尺状の2つの側面がそれぞれ絶縁基板表面に対して65〜90°の傾斜角θを有し、且つ、同一回路内のtanθの標準偏差が1.0以下であるのが望ましい。また、エッチングファクターとしては、回路のピッチが50μm以下であるとき、1.5以上であるのが好ましく、2.5以上であるのがより好ましく、3.0以上であるのが更により好ましい。
【実施例】
【0046】
以下、本発明の実施例を示すが、これらは本発明をより良く理解するために提供するものであり、本発明が限定されることを意図するものではない。
【0047】
(例1:実施例1〜2)
実施例1〜2の銅箔基材として、JX日鉱日石金属社製のBHY処理18μm厚圧延銅箔を用意した。当該銅箔は、樹脂との密着予定面に粗化処理がなされており、非粗化処理面には防錆層(Ni付着量:100μg/dm2、Zn付着量:300μg/dm2、Cr付着量:20μg/dm2)が形成されている。
続いて、非粗化処理面の防錆層を酸洗で除去した後、「(一般社団法人)表面技術協会、「表面技術」、vol.155、No.8、p560−564」に記載のMo電気メッキ技術を用い、以下の条件によって非粗化処理面に表面処理層としてMoNi合金層を形成した。すなわち、まず、グルコン酸、Ni供給源としての硫酸Ni六水和物、Mo酸Na二水和物を、それぞれ0.3M、0.2M、0.1Mの濃度で混合してめっき浴を建浴した。次に、アンモニア水でめっき浴のpHを8に調整した。次いで、このめっき浴を用いて、上記圧延銅箔に、2A/dm2で時間を変化させてMoNi合金めっきを行った。
次に、粗化処理面に接着剤付きポリイミドフィルムを160℃でラミネートすることにより張り合わせ、CCLを作製した。
次に、非粗化処理面に液体レジストでL/S=33μm/7μmのレジストパターン(40μmピッチ回路)を形成し、塩化第二鉄(液温50℃、0.2MPa)でエッチングし、回路ボトム幅が20μm前後のところで、10本の回路についてエッチングファクター(EF)を算出し、平均値及び偏差を求めた。エッチングファクターは、末広がりにエッチングされた場合(ダレが発生した場合)、回路が垂直にエッチングされたと仮定した場合の、銅箔上面からの垂線と樹脂基板との交点からのダレの長さの距離をaとした場合において、このaと銅箔の厚さbとの比:b/aを示すものであり、この数値が大きいほど、傾斜角は大きくなり、エッチング残渣が残らず、ダレが小さくなることを意味する。図1に、回路パターンの一部の表面写真と、当該部分における回路パターンの幅方向の横断面の模式図と、該模式図を用いたエッチングファクターの計算方法の概略とを示す。このaは回路上方からのSEM観察により測定し、エッチングファクター(EF=b/a)を算出した。このエッチングファクターを用いることにより、エッチング性の良否を簡単に判定できる。
また、大気下で250℃に設定したホットプレートにMoNi合金めっき面が上になるように表面処理銅箔を10分間放置し、変色を目視で観察した。加熱前後で変色がないものは○、やや変色があったものは△、変色したものは×とした。
非粗化処理面の表面処理層の定量は表層5μmを酸に溶解して、ICPで行った。
【0048】
(例2:実施例3〜5)
実施例3〜5の銅箔基材として、例1と同様のJX日鉱日石金属社製のBHY処理18μm厚圧延銅箔を用意した。
続いて、非粗化処理面に逆スパッタで前処理をした後に、スパッタリングでMo層を形成した。以下にスパッタリングの条件を示す。表面処理層の厚みは搬送速度、出力、Ar圧力を調整することで制御した。
・到達真空度:1.0×10-5Pa
・スパッタリング圧力:Ar 0.2〜0.4Pa
・スパッタリング電力:300〜4000W
・銅箔搬送速度:分速1〜15m
・ターゲット:Mo(3N)
次に、例1の手順でCCLを作製し、Mo層の上にレジストパターンを形成し、例1の手順でエッチング性評価、耐加熱変色性評価、付着量定量を行った。
【0049】
(例3:実施例6〜15)
実施例6〜15の銅箔基材として、例1と同様のJX日鉱日石金属社製のBHY処理18μm厚圧延銅箔を用意した。
続いて、非粗化処理面に逆スパッタで前処理をした後に、スパッタリングでMo層を形成し、さらにMo層の上にスパッタリングでNiV、Co、SnNi、ZnNi、Crの各層を形成した。以下にスパッタリングの条件を示す。表面処理層の厚みは搬送速度、出力、Ar圧力を調整することで制御した。
・到達真空度:1.0×10-5Pa
・スパッタリング圧力:Ar 0.2〜0.4Pa
・スパッタリング電力:300〜4000W
・銅箔搬送速度:分速1〜15m
・ターゲット:Mo、Ni、V、Co、Sn、Zn、Cr(3N)
次に、この銅箔にキャスティング工程を想定した熱履歴を施し(370℃×4h、N2雰囲気)、CCLを作製した。
続いて、例1の手順でこの表面処理面にレジストパターンを形成し、例1の手順でエッチング性評価、耐加熱変色性評価、付着量定量を行った。
【0050】
(例4:実施例16)
実施例16の銅箔基材として、例1と同様のJX日鉱日石金属社製のBHY処理18μm厚圧延銅箔を用意した。
続いて、非粗化処理面に逆スパッタで前処理をした後に、スパッタリングでNiV層を形成し、さらにNiV層の上にスパッタリングでMo層を形成した。スパッタリング条件は、例3と同様とした。
次に、例1の手順でCCLを作製し、表面処理面にレジストパターンを形成し、例1の手順でエッチング性評価、耐加熱変色性評価、付着量定量を行った。
【0051】
(例5:実施例17)
実施例17の銅箔基材として、JX日鉱日石金属社製の18μm厚電解銅箔JDLCを用意した。当該銅箔は、樹脂との密着予定面に粗化処理がなされており、非粗化処理面には防錆層(Ni付着量:数μg/dm2、Zn付着量:400μg/dm2、Cr付着量:20μg/dm2)が形成されている。
続いて、非粗化処理面に逆スパッタで前処理をした後に、スパッタリングでMo層を形成し、さらにMo層の上にスパッタリングでNiV層を形成した。スパッタリング条件は、例3と同様とした。
次に、例1の手順でCCLを作製し、表面処理面にレジストパターンを形成し、例1の手順でエッチング性評価、耐加熱変色性評価、付着量定量を行った。
【0052】
(例6:実施例18)
実施例18の銅箔基材として、JX日鉱日石金属社製の12μm厚電解銅箔JDLCを用意した。当該銅箔は、樹脂との密着予定面に粗化処理がなされており、非粗化処理面には防錆層(Ni付着量:数μg/dm2、Zn付着量:400μg/dm2、Cr付着量:20μg/dm2)が形成されている。
続いて、非粗化処理面に逆スパッタで前処理をした後に、スパッタリングでMo層を形成し、さらにMo層の上にスパッタリングでNiV層を形成した。スパッタリング条件は、例3と同様とした。
次に、例1の手順でCCLを作製し、表面処理面にレジストパターンを形成し、例1の手順でエッチング性評価、耐加熱変色性評価、付着量定量を行った。なお、形成する回路は25μmピッチとした。
【0053】
(例7:比較例1〜2)
比較例1の銅箔基材として、例1と同様のJX日鉱日石金属社製のBHY処理18μm厚圧延銅箔を用意した。比較例2の銅箔基材として、例5と同様のJX日鉱日石金属社製の18μm厚電解銅箔JDLCを用意した。
続いて、非粗化処理面にレジストパターンを形成し、例1の手順でエッチング性評価、耐加熱変色性評価、付着量定量を行った。
【0054】
(例8:比較例3)
比較例3の銅箔基材として、例6と同様のJX日鉱日石金属社製の12μm厚電解銅箔JDLCを用意した。
続いて、非粗化処理面にレジストパターンを形成し、例1の手順でエッチング性評価、耐加熱変色性評価、付着量定量を行った。なお、形成する回路は25μmピッチとした。
【0055】
(例9:比較例4)
比較例4の銅箔基材として、JX日鉱日石金属のBHY処理18μ厚圧延銅箔を用意した。
続いて、非粗化処理面の防錆層を酸洗で除去した後、非粗化処理面に、Niイオン濃度:10g/L、pH:3.0、液温:50℃、電流密度:5A/dm2の条件で電気めっきを行い、Ni層を形成した。
次に、この銅箔にキャスティング工程を想定した熱履歴を施し(370℃×4h、N2雰囲気)、CCLを作製した。
続いて、例1の手順でこの表面処理面にレジストパターンを形成し、例1の手順でエッチング性評価、耐加熱変色性評価、付着量定量を行った。
例1〜9の各試験結果を表1に示す。
【0056】
【表1】
【0057】
(評価)
実施例1〜18は、いずれもエッチング性が良好であり、サイドエッチが抑制され、矩形に近い回路が形成されていた。
実施例1、2によれば、湿式の合金めっきでエッチング面の表面処理を行っても、耐加熱変色性及びエッチング性が良好となることがわかる。
実施例3〜5より、Mo層のみをエッチング面に形成することで、エッチング性が良好となり、サイドエッチが抑制され、回路形状は矩形に近くなった。ただし、耐加熱変色性は他の実施例に比べて劣っていた。
実施例6〜15より、Mo層の上に異種金属1種以上からなる金属層を形成することで、さらに耐加熱変色性が向上した。
実施例16より、Mo層を最表層にしてもよいが、耐加熱変色性は著しく向上するわけではないことがわかった。ただし、同程度のMo付着量である実施例3と比べると、耐加熱変色性は向上していた。
実施例17及び18より、銅箔が電解銅箔であってもエッチング性、耐加熱変色性が良好であり、これらは処理対象の銅箔基材の種類に依存しないことがわかった。
比較例1〜4は、いずれもエッチング面にMo層が形成されておらず、エッチング性が不良であった。
また、Ni付着量が同程度で、Moの有無が異なる実施例6と比較例4とを比較すると、EFは大きく異なっている。このことから、Moはサイドエッチ抑制効果に大きな役割を果たしていることがわかる。
図1