(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記水溶性高分子のエチレン性不飽和カルボン酸単量体単位が、エチレン性不飽和モノカルボン酸単量体単位である請求項1または2に記載のリチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物。
前記水溶性高分子の含有割合が、負極活物質100質量部に対して0.1〜20質量部である請求項1〜3のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下において、(1)リチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物、(2)リチウムイオン二次電池用負極、及び(3)リチウムイオン二次電池の順に説明する。
【0020】
(1)リチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物
本発明のリチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物(以下、単に「スラリー」または「スラリー組成物」と記載することがある)は、負極活物質、水溶性高分子および水を含み、粒子状バインダー、導電助剤等を必要に応じ含む。
【0021】
(水溶性高分子)
水溶性高分子は、エチレン性不飽和カルボン酸単量体単位、フッ素含有(メタ)アクリル酸エステル単量体単位および不飽和ポリアルキレングリコールエーテル系単量体単位を含む重合体であり、さらに必要に応じ、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位、架橋性単量体単位が含まれていてもよく、また反応性界面活性剤単量体などの機能性を有する単量体から導かれる構成単位や、その他の共重合可能な単量体から導かれる構成単位が含まれていてもよい。
【0022】
エチレン性不飽和カルボン酸単量体
エチレン性不飽和カルボン酸単量体単位は、エチレン性不飽和カルボン酸単量体が重合して形成される構造単位である。エチレン性不飽和カルボン酸単量体の例としては、エチレン性不飽和モノカルボン酸及びその誘導体、エチレン性不飽和ジカルボン酸及びその酸無水物並びにそれらの誘導体が挙げられる。エチレン性不飽和モノカルボン酸の例としては、アクリル酸、メタクリル酸、及びクロトン酸が挙げられる。エチレン性不飽和モノカルボン酸の誘導体の例としては、2−エチルアクリル酸、イソクロトン酸、α−アセトキシアクリル酸、β−trans−アリールオキシアクリル酸、α−クロロ−β−E−メトキシアクリル酸、及びβ−ジアミノアクリル酸が挙げられる。エチレン性不飽和ジカルボン酸の例としては、マレイン酸、フマル酸、及びイタコン酸が挙げられる。エチレン性不飽和ジカルボン酸の酸無水物の例としては、無水マレイン酸、アクリル酸無水物、メチル無水マレイン酸、及びジメチル無水マレイン酸が挙げられる。エチレン性不飽和ジカルボン酸の誘導体の例としては、メチルマレイン酸、ジメチルマレイン酸、フェニルマレイン酸、クロロマレイン酸、ジクロロマレイン酸、フルオロマレイン酸等のマレイン酸メチルアリル;並びにマレイン酸ジフェニル、マレイン酸ノニル、マレイン酸デシル、マレイン酸ドデシル、マレイン酸オクタデシル、マレイン酸フルオロアルキル等のマレイン酸エステルが挙げられる。これらの中でも、アクリル酸、メタクリル酸等のエチレン性不飽和モノカルボン酸が好ましい。得られる水溶性高分子の水に対する分散性がより高めることができるからである。また、エチレン性不飽和カルボン酸単量体は1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。したがって、水溶性高分子は、エチレン性不飽和カルボン酸単量体単位を、1種類だけ含んでいてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて含んでいてもよい。
【0023】
水溶性高分子におけるエチレン性不飽和カルボン酸単量体単位の比率は、水溶性高分子100質量%中、20〜50質量%、好ましくは25〜45質量%、さらに好ましくは30〜40質量%である。エチレン性不飽和カルボン酸単量体単位を前記範囲で含有することで、水溶性高分子は、電極活物質や集電体に対し、優れた密着性を示し、また水に対する溶解性が向上する。エチレン性不飽和カルボン酸単量体単位の比率が過少であると、密着性や水に対する溶解性が低下することがあり、スラリーの塗工性が損なわれたり、充放電時の電極の膨らみにより電極活物質が脱落し、出力特性が損なわれることがある。またエチレン性不飽和カルボン酸単量体単位の比率が過大であると、耐久性が損なわれ、特に高温サイクル特性、高温保持特性が低下することがある。
【0024】
フッ素含有(メタ)アクリル酸エステル単量体
フッ素含有(メタ)アクリル酸エステル単量体単位は、フッ素含有(メタ)アクリル酸エステル単量体が重合して形成される構造単位である。
フッ素含有(メタ)アクリル酸エステル単量体としては、例えば、下記の式(I)で表される単量体が挙げられる。なお、本明細書では、(メタ)アクリルはアクリルおよびメタアクリルの両者を包含する。
【0026】
前記の式(I)において、R
1は、水素原子またはメチル基を表す。 前記の式(I)において、R
2は、フッ素原子を含有する炭化水素基を表す。炭化水素基の炭素数は、通常1以上であり、通常18以下である。また、R
2が含有するフッ素原子の数は、1個でもよく、2個以上でもよい。
【0027】
式(I)で表されるフッ素含有(メタ)アクリル酸エステル単量体の例としては、(メタ)アクリル酸フッ化アルキル、(メタ)アクリル酸フッ化アリール、及び(メタ)アクリル酸フッ化アラルキルが挙げられる。なかでも(メタ)アクリル酸フッ化アルキルが好ましい。このような単量体の具体例としては、(メタ)アクリル酸−2,2,2−トリフルオロエチル、(メタ)アクリル酸−β−(パーフルオロオクチル)エチル、(メタ)アクリル酸−2,2,3,3−テトラフルオロプロピル、(メタ)アクリル酸−2,2,3,4,4,4−ヘキサフルオロブチル、(メタ)アクリル酸−1H,1H,9H−パーフルオロ−1−ノニル、(メタ)アクリル酸−1H,1H,11H−パーフルオロウンデシル、(メタ)アクリル酸パーフルオロオクチル、(メタ)アクリル酸−3−[4−〔1−トリフルオロメチル−2、2−ビス〔ビス(トリフルオロメチル)フルオロメチル〕エチニルオキシ〕ベンゾオキシ] −2−ヒドロキシプロピル等の(メタ)アクリル酸パーフルオロアルキルエステルが挙げられる。中でも(メタ)アクリル酸−2,2,2−トリフルオロエチルは、電解液との濡れ性が高く低温特性が向上するため特に好ましい。
【0028】
フッ素含有(メタ)アクリル酸エステル単量体は1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。したがって、水溶性高分子は、フッ素含有(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を、1種類だけ含んでいてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて含んでいてもよい。
【0029】
水溶性高分子におけるフッ素含有(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の比率は、0.1〜30質量%、好ましくは0.2〜25質量%、さらに好ましくは0.5〜20質量%である。フッ素含有(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を前記範囲で含有することで、水溶性高分子は、水に対する分散安定性が向上する。また、電極活物質間の密着性を向上し、電極活物質層と集電体との間の密着性を向上し、特に高温サイクル特性、高温保持特性に優れる。さらに、フッ素含有(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を含有することで、イオン伝導性が向上し、出力特性にも優れる。フッ素含有(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の比率が過少であると、イオン伝導性が低下し、出力特性が劣化することがある。またフッ素含有(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の比率が過大であると、水に対する溶解性が低下し、スラリーの均一塗工が困難になることがある。
【0030】
さらに、フッ素含有(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を含むことによって、電極活物質層には耐アルカリ性が付与される。電極形成用のスラリーにはアルカリ性物質が含まれることがあり、また素子の作動による酸化還元によりアルカリ性物質が発生することがある。このようなアルカリ性物質は、集電体を腐食し、素子寿命を損なうが、電極活物質層が耐アルカリ性を有することで、アルカリ性物質による集電体の腐食が抑制される。
【0031】
不飽和ポリアルキレングリコールエーテル単量体
不飽和ポリアルキレングリコールエーテル単量体単位は、不飽和ポリアルキレングリコールエーテル単量体が重合して形成される構造単位である。
不飽和ポリアルキレングリコールエーテル単量体は、重合性エチレン基とポリアルキレングリコール鎖とを有するものであれば特に制限されないが、下記一般式(II);
【0033】
(式中、R
1、R
2及びR
3は、同一若しくは異なって、水素原子又は炭素数1〜10のアルキル基を表す。R
4は、水素原子又は炭素数1〜20の直鎖状、分岐状又は環状の炭化水素基を表す。R
aは、同一若しくは異なって、炭素数2〜10のアルキレン基を表す。Xは、炭素数1〜5の2価のアルキレン基、又は、直接結合を表す。mは、R
aOで表されるオキシアルキレン基の平均付加モル数を表わし、2〜200の整数である。)で表されるものであることが好ましい。
【0034】
上記R
1、R
2及びR
3は、同一若しくは異なって、水素原子又は炭素数1〜10のアルキル基であるが、アルキル基は、直鎖状、分岐状又は環状のいずれのものであってもよい。アルキル基としては、炭素数1〜8のものが好ましい。より好ましくは、炭素数1〜6のアルキル基であり、更に好ましくは、炭素数1〜4のアルキル基である。また、上記不飽和ポリアルキレングリコールエーテル系単量体は、炭素数2〜10のアルケニル基を有するものであることが好ましい。より好ましくは、炭素数3〜8のアルケニル基を有するものであり、更に好ましくは、炭素数3〜6のアルケニル基を有するものである。上記R
1、R
2及びR
3は、このような好ましい構造のものとなるように適宜設定されることが好ましい。
【0035】
上記一般式(II)中、R
4が炭素数1〜20の直鎖状、分岐状又は環状の炭化水素基である場合、R
4としては、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロへキシル等の、炭素数1〜20の脂肪族又は脂環式アルキル基;フェニル、ナフチル、アントリル、フェナントリル等の、炭素数6〜20のアリール基;o−,m−若しくはp−トリル、2,3−若しくは2,4−キシリル、メシチル等の、アルキル基で置換されたアリール基;ビフェニリル等の、(アルキル)フェニル基で置換されたアリール基;ベンジル、フェネチル、ベンズヒドリル、トリチル等の、アリール基で置換されたアルキル基等が挙げられる。これらのうち、R
4としては、炭素数10以下の炭化水素基又は水素原子が好ましく、より好ましくは、炭素数3以下の炭化水素基又は水素原子であり、更に好ましくは、炭素数2以下の飽和アルキル基又は不飽和アルキル基又は水素原子である。R
4としては、水素原子、メチル、エチル、ビニルが特に好ましく、水素原子及びメチルが最も好ましい。
【0036】
上記一般式(II)中、R
aは、炭素数2〜10のアルキレン基を表わす。アルキレン基は、直鎖状であってもあるいは分岐鎖であってもよい。R
aOで表されるオキシアルキレン基は、それぞれ、同一であっても異なるものであってもよい。これらの中でも、炭素数2〜5のアルキレン基が好ましい。より好ましくは、炭素数2〜3のアルキレン基である。
【0037】
上記R
aの具体例としては、エチレン(−CH
2CH
2−)、トリメチレン(−CH
2CH
2CH
2−)、テトラメチレン(−CH
2CH
2CH
2CH
2−)、ペンタメチレン、へキサメチレン等の、直鎖のアルキレン基;エチリデン[−CH(CH
3)−]、プロピレン[−CH(CH
3)CH
2−]、プロピリデン[−CH(CH
3CH
2)−]、イソプロピリデン[−C(CH
3)
2−]、等の分岐鎖のアルキレン基等が挙げられる。これらの中でも、エチレン、トリメチレン、テトラメチレン、ペンタメチレン、エチリデン、プロピレン、イソプロピリデン等の炭素数2〜5のものが好ましく、より好ましくは、エチレン、プロピレンであり、最も好ましくはエチレンである。すなわち、R
aOで表されるオキシアルキレン基としては、このような好ましいR
aから構成されるものが好ましい。
【0038】
上記不飽和ポリアルキレングリコールエーテル系単量体は、一般式(II)中、R
aOで表されるオキシアルキレン基が、1種類のオキシアルキレン基のみから構成されるものであっても、2種類以上の異なるオキシアルキレン基から構成されるものであってもよいが、オキシアルキレン基全体のうち、50〜100モル%が上記好ましいオキシアルキレン基によって構成されていることが好ましい。オキシアルキレン基がこのようなものであると、水への溶解性を確保し、且つ可とう性付与に寄与するものとなる。オキシアルキレン基全体のうち、上記好ましいオキシアルキレン基の割合は、より好ましくは、70〜100モル%以上であり、更に好ましくは、80〜100モル%である。
【0039】
上記一般式(II)中、Xが炭素数1〜5の2価のアルキレン基である場合、Xの例としては、メチレン(−CH
2−)、エチレン(−CH
2CH
2−)、トリメチレン(−CH
2CH
2CH
2−)、テトラメチレン(−CH
2CH
2CH
2CH
2−)、プロピレン[−CH(CH
3)CH
2−]等が挙げられる。これらのうち、Xは、メチレン、エチレンが好ましく、特にエチレンであることが好ましい。
【0040】
上記一般式(II)において、mは、R
aOで表されるオキシアルキレン基の平均付加モル数を表わし、2〜200の数である。なお、R
aOで表されるオキシアルキレン基が2種類以上の異なるオキシアルキレン基を有する場合、オキシアルキレン基の付加は、ランダム付加、ブロック付加、交互付加等のいずれの付加形態であってもよい。なお、平均付加モル数とは、単量体1モル中において付加しているオキシアルキレン基のモル数の平均値を意味する。
【0041】
上記mが200を超えると、単量体の重合性が低下することになる。また、mが2未満であると、得られる重合体が充分な柔軟性を有しないものとなり、バインダーとしての使用に適したものではなくなるおそれがある。mの範囲としては、2〜150が好ましく、10〜100がより好ましい。
【0042】
不飽和ポリアルキレングリコールエーテル系単量体は1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。したがって、水溶性高分子は、不飽和ポリアルキレングリコールエーテル系単量体を、1種類だけ含んでいてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて含んでいてもよい。
【0043】
不飽和ポリアルキレングリコールエーテル系単量体は、アルケニル基とポリアルキレングリコール鎖とを有するものであることが好ましく、アルケニル基を有する不飽和アルコールポリアルキレングリコール付加物が好適である。上記単量体としては、アルケニル基を有する不飽和アルコールにポリアルキレングリコール鎖が付加した構造を有する化合物であればよく、炭素数が2〜10、好ましくは炭素数が3〜8のアルケニル基を有するとともに、炭素数が2〜10のオキシアルキレン基の平均付加モル数が2〜200であることが好ましい。具体的には、ビニルアルコールアルキレンオキシド付加物、(メタ)アリルアルコールアルキレンオキシド付加物、3−ブテン−1−オールアルキレンオキシド付加物、イソプレノール(3−メチル−3−ブテン−1−オール)アルキレンオキシド付加物、3−メチル−2−ブテン−1−オールアルキレンオキシド付加物、2−メチル−3−ブテン−2−オールアルキレンオキシド付加物、2−メチル−2−ブテン−1−オールアルキレンオキシド付加物、2−メチル−3−ブテン−1−オールアルキレンオキシド付加物が好適であり、より好ましくは3−メチル−3−ブテン−1−オールにアルキレンオキシドを付加させたイソプレノール(3−メチル−3−ブテン−1−オール)アルキレンオキシド付加物、特に好ましくは3−メチル−3−ブテン−1−オール1モルにアルキレンオキシドを平均2〜200モル付加させたイソプレノール(3−メチル−3−ブテン−1−オール)アルキレンオキシド付加物である。
【0044】
水溶性高分子における不飽和ポリアルキレングリコールエーテル単量体単位の比率は、1〜20質量%、好ましくは1.5〜18質量%、さらに好ましくは2〜15質量%である。不飽和ポリアルキレングリコールエーテル単量体単位を前記範囲で含有することで、水溶性高分子は、水に対する分散安定性が向上する。また、電極活物質間の密着性及び、電極活物質層と集電体との間の密着性を向上し、特に高温サイクル特性、高温保持特性に優れる。不飽和ポリアルキレングリコールエーテル単量体単位の比率が過少であると、水に対する溶解性が低下し、スラリーの均一塗工が困難になることがある。また不飽和ポリアルキレングリコールエーテル単量体単位の比率が過大であると、水に対する分散安定性が低下することがあり、また、充放電時の電極の膨らみにより電極活物質が脱落し、出力特性が損なわれることがある。
【0045】
水溶性高分子は、さらに必要に応じ、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位、架橋性単量体単位が含まれていてもよく、また反応性界面活性剤単量体などの機能性を有する単量体から導かれる構成単位や、その他の共重合可能な単量体から導かれる構成単位が含まれていてもよい。
【0046】
(メタ)アクリル酸エステル単量体
(メタ)アクリル酸エステル単量体単位は、(メタ)アクリル酸エステル単量体を重合して得られる構造単位である。ただし、(メタ)アクリル酸エステル単量体の中でもフッ素を含有するものは、前記したフッ素含有(メタ)アクリル酸エステル単量体として(メタ)アクリル酸エステル単量体とは区別する。
【0047】
(メタ)アクリル酸エステル単量体の例としては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n−プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、t−ブチルアクリレート、ペンチルアクリレート、ヘキシルアクリレート、ヘプチルアクリレート、オクチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、ノニルアクリレート、デシルアクリレート、ラウリルアクリレート、n−テトラデシルアクリレート、ステアリルアクリレート等のアクリル酸アルキルエステル;並びにメチルメタアクリレート、エチルメタアクリレート、n−プロピルメタアクリレート、イソプロピルメタアクリレート、n−ブチルメタアクリレート、t−ブチルメタアクリレート、ペンチルメタアクリレート、ヘキシルメタアクリレート、ヘプチルメタアクリレート、オクチルメタアクリレート、2−エチルヘキシルメタアクリレート、ノニルメタアクリレート、デシルメタアクリレート、ラウリルメタアクリレート、n−テトラデシルメタアクリレート、ステアリルメタアクリレート等のメタクリル酸アルキルエステルが挙げられる。中でもエチルアクリレート、ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレートが好ましい。
【0048】
(メタ)アクリル酸エステル単量体は1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。したがって、水溶性高分子は、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を、1種類だけ含んでいてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて含んでいてもよい。
【0049】
水溶性高分子において、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を含有する場合、その比率は、好ましくは30〜70質量%、より好ましくは35〜65質量%、特に好ましくは40〜60質量%である。(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を含有することで、水溶性高分子を含む電極活物質層の集電体への密着性を高くすることができ、また電極活物質層の柔軟性を高めることができる。
【0050】
架橋性単量体
水溶性高分子は、上記各構成単位に加え、さらに架橋性単量体単位を含んでいてもよい。架橋性単量体単位は、架橋性単量体を加熱又はエネルギー照射により、重合中又は重合後に架橋構造を形成しうる構造単位である。架橋性単量体の例としては、通常は、熱架橋性を有する単量体を挙げることができる。より具体的には、熱架橋性の架橋性基及び1分子あたり1つのオレフィン性二重結合を有する単官能性単量体、及び1分子あたり2つ以上のオレフィン性二重結合を有する多官能性単量体が挙げられる。
【0051】
単官能性単量体に含まれる熱架橋性の架橋性基の例としては、エポキシ基、N−メチロールアミド基、オキセタニル基、オキサゾリン基、及びこれらの組み合わせが挙げられる。これらの中でも、エポキシ基が、架橋及び架橋密度の調節が容易な点でより好ましい。
【0052】
熱架橋性の架橋性基としてエポキシ基を有し、且つオレフィン性二重結合を有する架橋性単量体の例としては、ビニルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、ブテニルグリシジルエーテル、o−アリルフェニルグリシジルエーテルなどの不飽和グリシジルエーテル;ブタジエンモノエポキシド、クロロプレンモノエポキシド、4,5−エポキシ−2−ペンテン、3,4−エポキシ−1−ビニルシクロヘキセン、1,2−エポキシ−5,9−シクロドデカジエンなどのジエンまたはポリエンのモノエポキシド;3,4−エポキシ−1−ブテン、1,2−エポキシ−5−ヘキセン、1,2−エポキシ−9−デセンなどのアルケニルエポキシド;並びにグリシジルアクリレート、グリシジルメタアクリレート、グリシジルクロトネート、グリシジル−4−ヘプテノエート、グリシジルソルベート、グリシジルリノレート、グリシジル−4−メチル−3−ペンテノエート、3−シクロヘキセンカルボン酸のグリシジルエステル、4−メチル−3−シクロヘキセンカルボン酸のグリシジルエステルなどの不飽和カルボン酸のグリシジルエステル類が挙げられる。
【0053】
熱架橋性の架橋性基としてN−メチロールアミド基を有し、且つオレフィン性二重結合を有する架橋性単量体の例としては、N−メチロール(メタ)アクリルアミドなどのメチロール基を有する(メタ)アクリルアミド類が挙げられる。
【0054】
熱架橋性の架橋性基としてオキセタニル基を有し、且つオレフィン性二重結合を有する架橋性単量体の例としては、3−((メタ)アクリロイルオキシメチル)オキセタン、3−((メタ)アクリロイルオキシメチル)−2−トリフロロメチルオキセタン、3−((メタ)アクリロイルオキシメチル)−2−フェニルオキセタン、2−((メタ)アクリロイルオキシメチル)オキセタン、及び2−((メタ)アクリロイルオキシメチル)−4−トリフロロメチルオキセタンが挙げられる。
【0055】
熱架橋性の架橋性基としてオキサゾリン基を有し、且つオレフィン性二重結合を有する架橋性単量体の例としては、2−ビニル−2−オキサゾリン、2−ビニル−4−メチル−2−オキサゾリン、2−ビニル−5−メチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−4−メチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−5−メチル−2−オキサゾリン、及び2−イソプロペニル−5−エチル−2−オキサゾリンが挙げられる。
【0056】
2つ以上のオレフィン性二重結合を有する多官能性単量体の例としては、アリル(メタ)アクリレート、エチレンジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパン−トリ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジアリルエーテル、ポリグリコールジアリルエーテル、トリエチレングリコールジビニルエーテル、ヒドロキノンジアリルエーテル、テトラアリルオキシエタン、トリメチロールプロパン−ジアリルエーテル、前記以外の多官能性アルコールのアリルまたはビニルエーテル、トリアリルアミン、メチレンビスアクリルアミド、及びジビニルベンゼンが挙げられる。
【0057】
架橋性単量体としては、特に、エチレンジメタアクリレート、アリルグリシジルエーテル、及びグリシジルメタアクリレートを好ましく用いることができる。
【0058】
水溶性高分子に架橋性単量体単位が含まれる場合、その比率は、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.2質量%以上、特に好ましくは0.5質量%以上であり、好ましくは5質量%以下、より好ましくは4質量%以下、特に好ましくは2質量%以下である。架橋性単量体単位の比率を前記範囲の下限値以上とすることにより、水溶性高分子の分子量を高め、膨潤度が過度に上昇することを防止しうる。一方、架橋性単量体単位の比率を前記範囲の上限値以下とすることにより、水溶性高分子の水に対する可溶性を高め、分散性を良好にすることができる。したがって、架橋性単量体単位の比率を前記範囲内とすることにより、膨潤度及び分散性の両方を良好なものとすることができる。
【0059】
他の単量体単位
水溶性高分子には、上記各単量体単位に加え、反応性界面活性剤単量体などの機能性を有する単量体から導かれる構造単位や、その他の共重合可能な単量体から導かれる構造単位が含まれていてもよい。
【0060】
反応性界面活性剤単量体は、他の単量体と共重合しうる重合性の基を有し、且つ、界面活性基(親水性基及び疎水性基)を有する単量体である。反応性界面活性剤単量体を重合することにより得られる反応性界面活性剤単位は、水溶性高分子の分子の一部を構成し、且つ界面活性剤として機能しうる構成単位である。
【0061】
通常、反応性界面活性剤単量体は重合性不飽和基を有し、この基が重合後に疎水性基としても作用する。反応性界面活性剤単量体が有する重合性不飽和基の例としては、ビニル基、アリル基、ビニリデン基、プロペニル基、イソプロペニル基、及びイソブチリデン基が挙げられる。かかる重合性不飽和基の種類は、1種類でもよく、2種類以上でもよい。
【0062】
また、反応性界面活性剤単量体は、親水性を発現する部分として、通常は親水性基を有する。反応性界面活性剤単量体は、親水性基の種類により、アニオン系、カチオン系、ノニオン系の界面活性剤に分類される。
【0063】
アニオン系の親水性基の例としては、−SO
3M、−COOM、及び−PO(OH)
2が挙げられる。ここでMは、水素原子又はカチオンを示す。カチオンの例としては、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属イオン;カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属イオン;アンモニウムイオン;モノメチルアミン、ジメチルアミン、モノエチルアミン、トリエチルアミン等のアルキルアミンのアンモニウムイオン;並びにモノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアルカノールアミンのアンモニウムイオンが挙げられる。
【0064】
カチオン系の親水基の例としては、−Cl、−Br、−I、及び−SO
3ORXが挙げられる。ここでRXは、アルキル基を示す。RXの例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、及びイソプロピル基が挙げられる。
【0065】
ノニオン系の親水基の例としては、−OHが挙げられる。
【0066】
好適な反応性界面活性剤単量体の例としては、下記の式(III)で表される化合物が挙げられる。
【0068】
式(III)において、Rは2価の結合基を表す。Rの例としては、−Si−O−基、メチレン基及びフェニレン基が挙げられる。式(III)において、R
3は親水性基を表す。R
3の例としては、−SO
3NH
4が挙げられる。式(III)において、nは1以上100以下の整数である。反応性界面活性剤単量体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0069】
水溶性高分子が反応性界面活性剤単位を含む場合、その比率は、通常0.1質量%以上、好ましくは0.2質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上であり、通常15質量%以下、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下である。反応性界面活性剤単位の比率を前記範囲の下限値以上とすることにより、負極用スラリー組成物の分散性を向上させることができる。一方、反応性界面活性剤単位の比率を前記範囲の上限値以下とすることにより、負極活物質層の耐久性を向上させることができる。
【0070】
水溶性高分子が有しうる任意の単位のさらなる例としては、下記の単量体を重合して得られる単位が挙げられる。即ち、スチレン、クロロスチレン、ビニルトルエン、t−ブチルスチレン、ビニル安息香酸、ビニル安息香酸メチル、ビニルナフタレン、クロロメチルスチレン、ヒドロキシメチルスチレン、α−メチルスチレン、ジビニルベンゼン等のスチレン系単量体;アクリルアミド、アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸等のアミド系単量体;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のα,β−不飽和ニトリル化合物単量体;エチレン、プロピレン等のオレフィン類単量体;塩化ビニル、塩化ビニリデン等のハロゲン原子含有単量体;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、安息香酸ビニル等のビニルエステル類単量体;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル等のビニルエーテル類単量体;メチルビニルケトン、エチルビニルケトン、ブチルビニルケトン、ヘキシルビニルケトン、イソプロペニルビニルケトン等のビニルケトン類単量体;並びにN−ビニルピロリドン、ビニルピリジン、ビニルイミダゾール等の複素環含有ビニル化合物単量体の1以上を重合して得られる単位が挙げられる。水溶性高分子におけるこれらの単位の割合は、好ましくは0質量%〜10質量%、より好ましくは0質量%〜5質量%である。
【0071】
水溶性高分子の1%水溶液粘度は、10〜10000mPa・sであることが好ましい。ここで、水溶性高分子の1%水溶液粘度は、23℃、pH8において測定される粘度をいう。
【0072】
また、水溶性高分子の、pH8における、1%水溶液を調整した際の溶液粘度は、さらに好ましくは10〜10,000mPa・s、より好ましくは20〜8,000mPa・s、特に好ましくは30〜5,000mPa・sの範囲にある。溶液粘度が高すぎると、負極活物質層の集電体に対する密着性が低下することがあり、また低すぎると負極活物質層の柔軟性が低下することがある。
【0073】
水溶性高分子の重量平均分子量は、好ましくは100以上、より好ましくは500以上、特に好ましくは1000以上であり、好ましくは500000以下、より好ましくは250000以下、特に好ましくは100000以下である。水溶性高分子の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって、ジメチルホルムアミドの10体積%水溶液に0.85g/mlの硝酸ナトリウムを溶解させた溶液を展開溶媒としたポリスチレン換算の値として求めればよい。
【0074】
さらに、水溶性高分子のガラス転移温度は、通常0℃以上、好ましくは5℃以上であり、通常100℃以下、好ましくは50℃以下である。水溶性高分子のガラス転移温度は、様々な単量体を組み合わせることによって調整可能である。
【0075】
水溶性高分子の製造
水溶性高分子を製造する方法としては、水溶性高分子を構成する前記単量体を所定の比率で含む単量体混合物を、水系溶媒中で重合してポリマーを得、pH7〜13にアルカリ化する方法が挙げられる。
【0076】
水系溶媒としては、単量体混合物および得られる水溶性高分子の溶解ないし分散が可能なものであれば格別限定されることはなく、通常、水などの常圧における沸点が80〜350℃、好ましくは100〜300℃の分散媒から選ばれる。なお、下記例示の分散媒名の後の( )内の数字は常圧での沸点(単位℃)であり、小数点以下は四捨五入または切り捨てられた値である。例えば、ケトン類としては、ダイアセトンアルコール(169)、γ−ブチロラクトン(204);アルコール類としては、エチルアルコール(78)、イソプロピルアルコール(82)、ノルマルプロピルアルコール(97);グリコール類として、エチレングリコール(193)、プロピレングリコール(188)、ジエチレングリコール(244);グリコールエーテル類としては、プロピレングリコールモノメチルエーテル(120)、メチルセロソルブ(124)、エチルセロソルブ(136)、エチレングリコールターシャリーブチルエーテル(152)、ブチルセロソルブ(171)、3−メトキシー3メチル−1−ブタノール(174)、エチレングリコールモノプロピルエーテル(150)、ジエチレングリコールモノブチルピルエーテル(230)、トリエチレングリコールモノブチルエーテル(271)、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル(188);エーテル類としては、1,3−ジオキソラン(75)、1,4−ジオキソラン(101)、テトラヒドロフラン(66)が挙げられる。中でも、水は可燃性がなく、また水溶性高分子の製造後、溶媒置換することなく、重合体含有水溶液をスラリーの製造に使用できるため、最も好ましい。なお、主溶媒として水を使用して、水溶性高分子の溶解状態が確保可能な範囲において上記記載の水以外の水系溶媒を混合して用いて良い。
【0077】
重合方法は、乳化重合法であり、重合反応としては、イオン重合、ラジカル重合、リビングラジカル重合などが挙げられる。乳化重合法は、たとえば攪拌機および加熱装置付きの密閉容器に水、分散剤や乳化剤などの添加剤、開始剤および単量体を所定の組成になるように加え、攪拌しながら温度を上昇させて重合を開始する方法である。
【0078】
乳化剤や分散剤、重合開始剤などは、これらの重合法において一般的に用いられるものであり、その使用量も一般に使用される量でよい。
【0079】
重合温度および重合時間は、重合法や使用する重合開始剤の種類などにより任意に選択できるが、通常、重合温度は約30℃以上、重合時間は0.5〜30時間程度である。アミン類などの添加剤を重合助剤として用いることもできる。さらにこれらの方法によって得られる重合体の溶液に、アルカリ金属(Li、Na、K、Rb、Cs)水酸化物、アンモニア、無機アンモニウム化合物(NH
4Clなど)、有機アミン化合物(エタノールアミン、ジエチルアミンなど)などが溶解している塩基性水溶液を加えてpH5〜10、好ましくは5〜9の範囲になるように調整することができる。アルカリ金属水酸化物によるpH調整は、水溶性高分子による、集電体及び活物質との結着性(ピール強度)を向上させるため好ましい。
【0080】
上述した水溶性高分子は、2種以上の高分子からなる混合物であってもよい。高分子混合物は、少なくとも1種のモノマー成分を常法により重合し、引き続き、他の少なくとも1種のモノマー成分を添加し、常法により重合させる方法(二段重合法)などによっても得ることができる。
【0081】
重合に用いる重合開始剤としては、たとえば過酸化ラウロイル、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ−2−エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、t−ブチルパーオキシピバレート、3,3,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイドなどの有機過酸化物、α,α’−アゾビスイソブチロニトリルなどのアゾ化合物、または過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウムなどが挙げられる。
【0082】
また、前記重合において、連鎖移動剤を加えてもよい。連鎖移動剤としては、アルキルメルカプタンが好ましく、具体的には、n−ブチルメルカプタン、t−ブチルメルカプタン、n−ヘキシルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、t−オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、n−ステアリルメルカプタンが挙げられる。中でも、n−オクチルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタンが、重合安定性が良好であるという観点から好ましい。
【0083】
また、上記アルキルメルカプタンと共に他の連鎖移動剤を併用してもよい。併用してもよい連鎖移動剤としては、ターピノーレン、アリルアルコール、アリルアミン、アリルスルフォン酸ソーダ(カリウム)、メタアリルスルフォン酸ソーダ(カリウム)等が挙げられる。上記の連鎖移動剤の使用量は、本願発明の効果を妨げない範囲で特に限定されない。
【0084】
pH7〜13にアルカリ化する方法としては、特に限定されないが、水酸化リチウム水溶液、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液などのアルカリ金属水溶液、水酸化カルシウム水溶液、水酸化マグネシウム水溶液などのアルカリ土類金属水溶液や、アンモニア水溶液などのアルカリ水溶液を添加する方法が挙げられる。
【0085】
水溶性高分子の含有量
本発明のリチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物における水溶性高分子の含有割合は、特に限定はされないが、後述する負極活物質100質量部に対して好ましくは0.1〜20質量部、さらに好ましくは0.5〜15質量部、特に好ましくは1〜10質量部の範囲ある。水溶性高分子の比率が過少であると、集電体と負極活物質層との密着性が低下し、充放電時の負極活物質層の膨張、収縮により負極活物質が脱落し、出力特性が損なわれることがある。また水溶性高分子の比率が過大であると、相対的に負極活物質層における負極活物質量が減少し、出力特性が低下することがある。
【0086】
(負極活物質)
本発明のリチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物は、上記水溶性高分子、および溶媒ないし分散媒としての水に加え、負極活物質を含有してなる。負極活物質は、二次電池用負極内で電子の受け渡しをする物質である。負極活物質としては、炭素材料系活物質や合金系活物質が挙げられる。
【0087】
炭素材料系活物質とは、リチウムが挿入可能な炭素を主骨格とする活物質をいい、具体的には、炭素質材料と黒鉛質材料が挙げられる。炭素質材料とは一般的に炭素前駆体を2000℃以下で熱処理(炭素化)された黒鉛化の低い(結晶性の低い)炭素材料を示し、黒鉛質材料とは易黒鉛性炭素を2000℃以上で熱処理することによって得られた黒鉛に近い高い結晶性を有する黒鉛質材料を示す。
【0088】
炭素質材料としては、熱処理温度によって炭素の構造を容易に変える易黒鉛性炭素や、ガラス状炭素に代表される非晶質構造に近い構造を持つ難黒鉛性炭素が挙げられる。
【0089】
易黒鉛性炭素としては石油や石炭から得られるタールピッチを原料とした炭素材料が挙げられ、例えば、コークス、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、メソフェーズピッチ系炭素繊維、熱分解気相成長炭素繊維などが挙げられる。MCMBとはピッチ類を400℃前後で加熱する過程で生成したメソフェーズ小球体を分離抽出した炭素微粒子であり、メソフェーズピッチ系炭素繊維とは、前記メソフェーズ小球体が成長、合体して得られるメソフェーズピッチを原料とする炭素繊維である。
【0090】
難黒鉛性炭素としては、フェノール樹脂焼成体、ポリアクリロニトリル系炭素繊維、擬等方性炭素、フルフリルアルコール樹脂焼成体(PFA)などが挙げられる。
【0091】
黒鉛質材料としては天然黒鉛、人造黒鉛があげられる。人造黒鉛としては、主に2800℃以上で熱処理した人造黒鉛、MCMBを2000℃以上で熱処理した黒鉛化MCMB、メソフェーズピッチ系炭素繊維を2000℃以上で熱処理した黒鉛化メソフェーズピッチ系炭素繊維などがあげられる。
これら炭素系活物質の中でも黒鉛質材料が好ましい。
【0092】
合金系活物質とは、リチウムの挿入可能な元素を構造に含み、リチウムが挿入した場合の質量あたりの理論電気容量が500mAh/g以上である活物質をいい、具体的には、リチウム金属、リチウム合金を形成する単体金属およびその合金、及びそれらの酸化物や硫化物、窒化物、珪化物、炭化物、燐化物等が用いられる。
【0093】
リチウム合金を形成する単体金属及び合金としては、Ag、Al、Ba、Bi、Cu、Ga、Ge、In、Ni、P、Pb、Sb、Si、Sn、Sr、Zn等の金属を含有する化合物が挙げられる。それらの中でもケイ素(Si)、スズ(Sn)または鉛(Pb)の単体金属若しくはこれら原子を含む合金、または、それらの金属の化合物が用いられる。
【0094】
合金系活物質は、さらに、一つ以上の非金属元素を含有していてもよい。具体的には、例えばSiC、SiO
xC
y(以下、「Si−O−C」と呼ぶ)(0<x≦3、0<y≦5)、Si
3N
4、Si
2N
2O、SiO
x(0<x≦2)、SnO
x(0<x≦2)、LiSiO、LiSnO等が挙げられ、中でも低電位でリチウムの挿入脱離が可能なSiO
xC
yが好ましい。例えば、SiO
xC
yは、ケイ素を含む高分子材料を焼成して得ることができる。SiO
xC
yの中でも、容量とサイクル特性の兼ね合いから、0.8≦x≦3、2≦y≦4の範囲が好ましく用いられる。
【0095】
酸化物や硫化物、窒化物、珪化物、炭化物、燐化物としては、リチウムの挿入可能な元素の酸化物や硫化物、窒化物、珪化物、炭化物、燐化物等が挙げられ、その中で酸化物が特に好ましい。具体的には酸化スズ、酸化マンガン、酸化チタン、酸化ニオブ、酸化バナジウム等の酸化物、Si、Sn、PbおよびTi原子よりなる群から選ばれる金属元素を含むリチウム含有金属複合酸化物材料が用いられている。ケイ素の酸化物としてはシリコンカーバイド(Si−O−C)のような材料も挙げられる。
【0096】
リチウム含有金属複合酸化物としては、更にLi
xTi
yM
zO
4で示されるリチウムチタン複合酸化物(0.7≦x≦1.5、1.5≦y≦2.3、0≦z≦1.6、Mは、Na、K、Co、Al、Fe、Ti、Mg、Cr、Ga、Cu、ZnおよびNb)が挙げられ、中でもLi
4/3Ti
5/3O
4、Li1Ti
2O
4、Li
4/5Ti
11/5O
4が用いられる。
【0097】
これらの中でもケイ素を含む材料が好ましく、中でもSiC、SiO
x(0<x≦2)、Si−O−Cがさらに好ましい。この化合物では高電位でSi(ケイ素)、低電位ではC(炭素)へのLiの挿入脱離が起こると推測され、他の合金系活物質よりも膨張・収縮が抑制される。
【0098】
本発明においては、炭素材料やケイ素含有材料が好ましく、特に黒鉛質材料や、Si−O−Cが好ましい。なお、負極活物質は、1種単独で用いても良く、2種以上を併用してもよい。負極活物質の形状は、粒状に整粒されたものが好ましい。粒子の形状が球形であると、電極成形時により高密度な電極が形成できる。
【0099】
なお、負極活物質は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。併用する場合には、黒鉛質材料とケイ素含有材料との併用が好ましい。その配合比率(黒鉛質材料/ケイ素含有材料)は、重量比で、99/1〜40/60が好ましく、95/5〜45/55がより好ましい。負極活物質の形状は、粒状に整粒されたものが好ましい。粒子の形状が球形であると、電極成形時により高密度な電極が形成できる。
【0100】
負極活物質の体積平均粒子径は、電池の他の構成要件との兼ね合いで適宜選択されるが通常0.1〜100μm、好ましくは1〜50μm、より好ましくは5〜40μmである。また、負極活物質の50%体積累積径は、初期効率、負荷特性、サイクル特性などの電池特性の向上の観点から、通常1〜50μm、好ましくは15〜30μmである。体積平均粒子径は、レーザー回折で粒度分布を測定することにより求められる。50%体積累積径は、レーザー回折式粒度分布測定装置(SALD−3100;島津製作所製)にて測定し、算出される50%体積平均粒子径である。
【0101】
負極活物質のタップ密度は、特に制限されないが、0.6g/cm
3以上のものが好適に用いられる。
【0102】
負極活物質のBET比表面積は、好ましくは3〜20m
2/g、より好ましくは3〜15m
2/g、特に好ましくは3〜10m
2/gである。負極活物質のBET比表面積が上記範囲にあることで、負極活物質表面の活性点が増えるため、二次電池の低温出力特性に優れる。
【0103】
(分散媒)
本発明では、スラリーの分散媒として水を用いる。また、本発明においては、スラリー組成物の分散安定性を損なわず、作業環境衛生に悪影響を与えない範囲であれば、分散媒として水に、親水性の溶媒を混合してもよい。親水性の溶媒としては、メタノール、エタノール、N−メチルピロリドンなどがあげられ、水に対して5質量%以下であることが好ましい。
【0104】
本発明のリチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物には、上記成分に加え、本発明の目的を損なわない範囲で、バインダー、導電材、増粘剤、その他の添加剤が含まれていてもよい。
【0105】
(バインダー)
バインダーは、負極活物質を相互に結着させることができ、集電体に対する密着性を有する化合物であれば特に制限はないが、粒子状バインダーであることが好ましい。バインダーは、負極活物質層において負極活物質同士を結着させたり、負極活物質と集電体とを結着させたりする性質をもつが、中でも、粒子状バインダーを用いることにより、負極活物質を強固に保持しうるので、集電体に対する負極活物質層の密着性を高めることができる。また、粒子状バインダーを用いることにより、負極活物質層に含まれる負極活物質以外の粒子をも結着し、負極活物質層の強度を維持する役割も果たすことができる。
【0106】
粒子状バインダーは、スラリー中で粒子形状を保持した状態で存在するものであればよいが、負極活物質層においても粒子形状を保持した状態で存在できるものが好ましい。本発明において、「粒子状態を保持した状態」とは、完全に粒子形状を保持した状態である必要はなく、その粒子形状をある程度保持した状態であればよい。
【0107】
通常、粒子状バインダーを形成する重合体は、非水溶性である。したがって、通常、粒子状バインダーは、電極を製造するためのスラリー組成物において粒子状となっており、その粒子形状を維持したまま二次電池用電極に含まれる。
【0108】
粒子状バインダーとしては、例えば、ラテックスのごときバインダーの重合体粒子が水に分散した状態のものや、このような分散液を乾燥して得られる粉末状のものがあげられる。
【0109】
粒子状バインダーとしては、非水溶性である、即ち、水系溶媒中で溶解せずに粒子状で分散していることが好ましい。非水溶性であるとは、具体的には、25℃において、そのバインダー0.5gを100gの水に溶解した際に、不溶分が90質量%以上となることをいう。
【0110】
バインダーを構成する重合体としては、フッ素重合体、ジエン系重合体、アクリレート重合体、ポリイミド、ポリアミド、ポリウレタン重合体等の高分子化合物が挙げられ、フッ素重合体、ジエン重合体又はアクリレート重合体が好ましく、ジエン重合体又はアクリレート重合体がより好ましい。
【0111】
ジエン重合体は、共役ジエン単量体を重合して得られる構造単位(以下、「共役ジエン単量体単位」と記すことがある。)を含む重合体であり、具体的には共役ジエンの単独重合体もしくは共役ジエン単量体を含む単量体混合物を重合して得られる共重合体、またはそれらの水素添加物である。
【0112】
共役ジエン単量体としては、1,3−ブタジエン、イソプレン、2−メチル−1,3−ブタジエン、2,3−ジメチル−1,3ブタジエン、2−クロル−1,3−ブタジエンなどが挙げられる。これら共役ジエンは、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。ジエン重合体における共役ジエン単量体単位の割合は、好ましくは20質量%以上60質量%以下、好ましくは30質量%以上55質量%以下である。
【0113】
ジエン重合体は、共役ジエン単量体と共重合可能な他の単量体単位を含んでいてもよい。
【0114】
他の単量体単位を構成する他の単量体としては、エチレン性不飽和カルボン酸単量体、芳香族ビニル単量体、シアン化ビニル単量体、不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体、ヒドロキシアルキル基を含有する不飽和単量体、不飽和カルボン酸アミド単量体などが挙げられる。これらの他の単量体は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのなかでも、エチレン性不飽和カルボン酸単量体、芳香族ビニル単量体、シアン化ビニル単量体が好ましい。
【0115】
エチレン性不飽和カルボン酸単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸等のエチレン性不飽和モノカルボン酸;マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等のエチレン性不飽和ジカルボン酸及びその無水物;などが挙げられる。中でも、エチレン性不飽和ジカルボン酸単量体が好ましく、イタコン酸が特に好ましい。
ジエン重合体における、エチレン性不飽和カルボン酸単量体単位の含有割合は、好ましくは0.5質量%以上、より好ましくは2質量%以上、特に好ましくは3質量%以上であり、好ましくは10質量%以下、より好ましくは7.5質量%以下、特に好ましくは5.0質量%以下である。
【0116】
芳香族ビニル単量体としては、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、及びジビニルベンゼンが挙げられる。中でも、スチレンが好ましい。
【0117】
シアン化ビニル単量体としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、α−クロルアクリロニトリル、及びα−エチルアクリロニトリルが挙げられる。
【0118】
不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体としては、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、ブチルアクリレート、グリシジルメタクリレート、ジメチルフマレート、ジエチルフマレート、ジメチルマレエート、ジエチルマレエート、ジメチルイタコネート、モノメチルフマレート、モノエチルフマレート、及び2−エチルヘキシルアクリレートが挙げられる。
【0119】
不飽和カルボン酸アミド単量体としては、例えば、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド、及びN,N−ジメチルアクリルアミドが挙げられる。
【0120】
ヒドロキシアルキル基を含有する不飽和単量体としては、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート等のヒロドキシアルキルアクリレートなどが挙げられる。
【0121】
ジエン重合体における共重合可能な他の単量体の含有割合の合計は、好ましくは40質量%以上80質量%以下、好ましくは45質量%以上70質量%以下である。
【0122】
アクリレート重合体は、(メタ)アクリル酸エステル単量体を重合して得られる構造単位(以下、「(メタ)アクリル酸エステル単量体単位」と記すことがある。)を含む重合体である。具体的には、(メタ)アクリル酸エステル単量体の単独重合体または(メタ)アクリル酸エステル単量体を含む単量体混合物を重合して得られる共重合体である。本発明において、(メタ)アクリル酸エステルは、アクリル酸エステル及び/又はメタクリル酸エステルをさす。
【0123】
アクリル酸エステル単量体としては、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸n−アミル、アクリル酸イソアミル、アクリル酸n−ヘキシル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸ノニル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸ステアリルなどが挙げられる。メタクリル酸エステルとしては、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸n−アミル、メタクリル酸イソアミル、メタクリル酸n−ヘキシル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸オクチル、メタクリル酸イソデシル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸トリデシル、メタクリル酸ステアリルなどが挙げられる。これらの中でも、アクリル酸エステルが好ましく、アクリル酸n−ブチルおよびアクリル酸2−エチルヘキシルが、得られる電極の強度を向上できる点で、特に好ましい。アクリレート重合体中の(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の含有割合は、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上であり、好ましくは95質量%以下、より好ましくは90質量%以下である。アクリレート重合体における(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の含有割合が前記範囲であると、耐熱性が高く、かつ得られる電極の内部抵抗を小さくできる。
【0124】
アクリレート重合体は、(メタ)アクリル酸エステル単量体と共重合可能な他の単量体単位を含んでいてもよい。
他の単量体単位を構成する他の単量体としては、エチレン性不飽和カルボン酸単量体、シアン化ビニル単量体などが挙げられる。
【0125】
エチレン性不飽和カルボン酸単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸等のエチレン性不飽和モノカルボン酸;マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等のエチレン性不飽和ジカルボン酸及びその無水物;などが挙げられる。中でも、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸が特に好ましい。
【0126】
アクリレート重合体における、エチレン性不飽和カルボン酸単量体単位の含有割合は、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、特に好ましくは1質量%以上であり、好ましくは50質量%以下、より好ましくは20質量%以下、特に好ましくは10質量%以下である。アクリレート重合体におけるエチレン性不飽和カルボン酸単量体単位の割合がこの範囲であると、結着性を高めて電極強度を向上させることができる。
【0127】
シアン化ビニル単量体としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、α−クロルアクリロニトリル、及びα−エチルアクリロニトリルが挙げられる。
アクリレート重合体における、シアン化ビニル単量体単位の含有割合は、好ましくは3質量%以上、より好ましくは5質量%以上、好ましくは40質量%以下、より好ましくは30質量%以下である。
【0128】
さらに、アクリレート重合体は、上述したもの以外に、任意の構造単位を含んでいてもよい。これらの任意の構造単位は、上述した単量体と共重合可能な単量体が重合して得られる構造単位である。上述した単量体と共重合可能な単量体としては、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレートなどの2つ以上の炭素−炭素二重結合を有するカルボン酸エステル類;スチレン、クロロスチレン、ビニルトルエン、t−ブチルスチレン、ビニル安息香酸、ビニル安息香酸メチル、ビニルナフタレン、クロロメチルスチレン、ヒドロキシメチルスチレン、α−メチルスチレン、ジビニルベンゼン等の芳香族ビニル単量体;アクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸などの不飽和カルボン酸アミド単量体;エチレン、プロピレン等のオレフィン類;ブタジエン、イソプレン等のジエン系単量体;塩化ビニル、塩化ビニリデン等のハロゲン原子含有単量体;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、安息香酸ビニル等のビニルエステル類;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、ブチルビエルエーテル等のビニルエーテル類;メチルビニルケトン、エチルビニルケトン、ブチルビニルケトン、ヘキシルビニルケトン、イソプロペニルビニルケトン等のビニルケトン類;N−ビニルピロリドン、ビニルピリジン、ビニルイミダゾール等の複素環含有ビニル化合物;などが挙げられる。これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0129】
アクリレート重合体における前記の任意の構造単位の量は、アクリレート重合体中の(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の量が、通常50質量%以上、好ましくは60質量%以上となる範囲に抑えることが望ましい。
【0130】
バインダーのガラス転移温度(Tg)は、好ましくは50℃以下、さらに好ましくは−40〜0℃である。バインダーのガラス転移温度(Tg)がこの範囲にあると、少量の使用量で結着性に優れ、集電体と負極活物質層との結着性に優れ、電極強度が強く、柔軟性に富み、電極形成時のプレス工程により電極密度を容易に高めることができる。
【0131】
バインダーが、粒子状である場合における、その数平均粒子径は、格別な限定はないが、通常は0.01〜1μm、好ましくは0.03〜0.8μm、より好ましくは0.05〜0.5μmである。バインダーが粒子状である場合における、その数平均粒子径がこの範囲であるときは、少量の使用でも優れた結着力を、負極活物質層に与えることができる。ここで、数平均粒子径は、透過型電子顕微鏡写真で無作為に選んだバインダー粒子100個の径を測定し、その算術平均値として算出される個数平均粒子径である。粒子の形状は球形、異形、どちらでもかまわない。これらのバインダーは単独でまたは二種類以上を組み合わせて用いることができる。
【0132】
バインダーは、その製法は特に限定はされないが、各共重合体を構成する単量体を含む単量体混合物を、それぞれ乳化重合して得ることができる。乳化重合の方法としては、特に限定されず、従来公知の乳化重合法を採用すればよい。
【0133】
乳化重合に使用する分散媒、重合開始剤、連鎖移動剤、界面活性剤、乳化剤等は、これらの重合法において一般的に用いられるものであり、その使用量も一般に使用される量でよい。
【0134】
リチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物にバインダーを添加する場合、その含有割合は、特に限定はされないが、負極活物質100質量部に対して好ましくは0.1〜10質量部、さらに好ましくは0.2〜8質量部、特に好ましくは0.5〜5質量部の範囲ある。バインダーの配合量が過剰であると、結着性は向上するものの、相対的に水溶性高分子の比率が減少し、本発明の効果が損なわれることがある。
【0135】
本発明の二次電池負極用スラリー組成物における、負極活物質、水溶性高分子、および必要に応じて使用されるバインダーの合計含有量は、スラリー組成物100質量部に対して、好ましくは10〜90質量部であり、さらに好ましくは30〜80質量部である。また負極活物質の総量に対する水溶性高分子およびバインダーの含有量(固形分相当量)は、負極活物質の総量100質量部に対して、好ましくは0.1〜20質量部であり、さらに好ましくは0.5〜15質量部である。スラリー組成物における負極活物質、水溶性高分子、およびバインダーの含有量が上記範囲であると、得られる二次電池負極用スラリー組成物の粘度が適正化され、塗工を円滑に行えるようになり、また得られた負極に関して抵抗が高くなることなく、十分な密着強度が得られる。その結果、極板プレス工程における集電体からの負極活物質層の剥がれを抑制することができる。
【0136】
(その他の成分)
(導電材)
本発明のスラリー組成物においては、導電材を含有することが好ましい。導電材としては、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンブラック、グラファイト、気相成長カーボン繊維、およびカーボンナノチューブ等の導電性カーボンを使用することができる。導電材を含有することにより、負極活物質同士の電気的接触を向上させることができ、二次電池に用いる場合に放電レート特性を改善することができる。導電材を配合する場合、スラリー組成物における導電材の含有量は、負極活物質100質量部に対して、好ましくは1〜20質量部、より好ましくは1〜10質量部である。
【0137】
(増粘剤)
本発明の二次電池負極用スラリー組成物においては、上記水溶性高分子とは別に、増粘剤を配合し、スラリー粘度を調整してもよい。増粘剤としては、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなどのセルロース系ポリマーおよびこれらのアンモニウム塩並びにアルカリ金属塩;
(変性)ポリ(メタ)アクリル酸およびこれらのアンモニウム塩並びにアルカリ金属塩;
(変性)ポリビニルアルコール、アクリル酸又はアクリル酸塩とビニルアルコールとの共重合体、無水マレイン酸又はマレイン酸もしくはフマル酸とビニルアルコールとの共重合体などのポリビニルアルコール類;
ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリビニルピロリドン、変性ポリアクリル酸、酸化スターチ、リン酸スターチ、カゼイン、各種変性デンプンなどが挙げられる。
【0138】
増粘剤を使用する場合、その配合量は、負極活物質100質量部に対して、0.5〜1.5質量部が好ましい。増粘剤の配合量が上記範囲であると、塗工性、集電体との密着性が良好である。なお、本明細書において、「(変性)ポリ」は「未変性ポリ」又は「変性ポリ」を意味する。
【0139】
二次電池負極用スラリー組成物には、上記成分のほかに、さらに補強材、レベリング剤、電解液分解抑制等の機能を有する電解液添加剤等の他の成分が含まれていてもよく、後述の二次電池用負極中に含まれていてもよい。これらは電池反応に影響を及ぼさないものであれば特に限られない。
【0140】
補強材としては、各種の無機および有機の球状、板状、棒状または繊維状のフィラーが使用できる。補強材を用いることにより強靭で柔軟な負極を得ることができ、優れた長期サイクル特性を示すことができる。スラリー組成物における補強材の含有量は、負極活物質100質量部に対して通常0.01〜20質量部、好ましくは1〜10質量部である。上記範囲に含まれることにより、高い容量と高い負荷特性を示す。
【0141】
レベリング剤としては、アルキル系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、金属系界面活性剤などの界面活性剤が挙げられる。レベリング剤を混合することにより、塗工時に発生するはじきを防止したり、負極の平滑性を向上させることができる。スラリー組成物中のレベリング剤の含有量は、負極活物質100質量部に対して、好ましくは0.01〜10質量部である。レベリング剤が上記範囲であることにより負極作製時の生産性、平滑性及び電池特性に優れる。界面活性剤を含有させることによりスラリー組成物中の負極活物質等の分散性を向上することができ、また負極の平滑性を向上できる。
【0142】
スラリー組成物中及び電解液中に使用される電解液添加剤としては、ビニレンカーボネートなどを用いることができる。スラリー組成物中の電解液添加剤の含有量は、負極活物質100質量部に対して、好ましくは0.01〜10質量部である。電解液添加剤が、上記範囲であることによりサイクル特性及び高温特性に優れる。その他には、フュームドシリカやフュームドアルミナなどのナノ微粒子が挙げられる。ナノ微粒子を混合することによりスラリー組成物のチキソ性をコントロールすることができ、また負極のレベリング性を向上できる。スラリー組成物中のナノ微粒子の含有量は、負極活物質100質量部に対して、好ましくは0.01〜10質量部である。ナノ微粒子が上記範囲であることによりスラリー安定性、生産性に優れ、高い電池特性を示す。
【0143】
さらに、スラリー組成物には、老化防止剤、防腐剤などの添加剤が含まれていてもよい。老化防止剤としては、アミン系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤、キノン系酸化防止剤、有機リン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、フェノチアジン系酸化防止剤等が挙げられる。防腐剤としては、イソチアゾリン系化合物、ピリチオン系化合物が挙げられる。スラリー組成物が、これらの成分を含む場合、組成物におけるこれら成分の固形分濃度は特に限定はされないが、0.001〜1質量%程度が適当である。さらに、スラリー組成物には、水溶性高分子やバインダー調製時に使用した各種の分散剤等が含まれていても良い。
【0144】
(二次電池負極用スラリー組成物の製造)
二次電池負極用スラリー組成物は、上記水溶性高分子、溶媒ないし分散媒としての水、および負極活物質、ならびに必要に応じ用いられるバインダー等を所定の固形分比となるように混合して得られる。
【0145】
混合法は特に限定はされないが、例えば、撹拌式、振とう式、および回転式などの混合装置を使用した方法が挙げられる。また、ホモジナイザー、ボールミル、サンドミル、ロールミル、プラネタリーミキサーおよび遊星式混練機などの分散混練装置を使用した方法が挙げられる。
【0146】
(2)二次電池用負極
本発明の二次電池用負極は、上記の負極活物質および水溶性高分子、ならびに必要に応じ用いられるバインダー等を含んでなり、具体的には、本発明の二次電池負極用スラリー組成物を集電体上に塗布、乾燥して得られる。
【0147】
(二次電池用負極の製造方法)
本発明の二次電池用負極の製造方法は、特に限定されないが、例えば、上記スラリー組成物を集電体の少なくとも片面に塗布、乾燥し、負極活物質層を形成する方法が挙げられる。
【0148】
スラリー組成物を集電体上に塗布する方法は特に限定されない。例えば、ドクターブレード法、ディップ法、リバースロール法、ダイレクトロール法、グラビア法、エクストルージョン法、およびハケ塗り法などの方法が挙げられる。
【0149】
乾燥方法としては、例えば、温風、熱風、低湿風による乾燥、真空乾燥、(遠)赤外線や電子線などの照射による乾燥法が挙げられる。乾燥時間は通常5〜50分であり、乾燥温度は通常40〜180℃である。
【0150】
本発明の二次電池用負極を製造するに際して、集電体上に上記スラリー組成物を塗布乾燥後、金型プレスやロールプレスなどを用い、加圧処理により負極活物質層の空隙率を低くする工程を有することが好ましい。空隙率の好ましい範囲は5〜30%、より好ましくは7〜20%である。空隙率が高すぎると充電効率や放電効率が悪化する。空隙率が低すぎる場合は、高い体積容量が得難く、負極活物質層が集電体から剥がれ易く不良を発生し易いといった問題を生じる。
【0151】
二次電池用負極における負極活物質層の厚みは、通常5〜300μmであり、好ましくは30〜250μmである。負極活物質層の厚みが上記範囲にあることにより、負荷特性及びサイクル特性共に高い特性を示す。
【0152】
負極活物質層における負極活物質の含有割合は、好ましくは85〜99質量%、より好ましくは88〜97質量%である。負極活物質の含有割合を、上記範囲とすることにより、高い容量を示しながらも柔軟性、結着性を示すことができる。
【0153】
二次電池用負極の負極活物質層の密度は、好ましくは1.6〜1.9g/cm
3であり、より好ましくは1.65〜1.85g/cm
3である。負極活物質層の密度が上記範囲にあることにより、高容量の電池を得ることができる。
【0154】
(集電体)
本発明で用いる集電体は、電気導電性を有しかつ電気化学的に耐久性のある材料であれば特に制限されないが、耐熱性を有するため金属材料が好ましく、例えば、鉄、銅、アルミニウム、ニッケル、ステンレス鋼、チタン、タンタル、金、白金などが挙げられる。中でも、二次電池用負極に用いる集電体としては銅が特に好ましい。集電体の形状は特に制限されないが、厚さ0.001〜0.5mm程度のシート状のものが好ましい。集電体は、負極活物質層との接着強度を高めるため、予め粗面化処理して使用するのが好ましい。粗面化方法としては、機械的研磨法、電解研磨法、化学研磨法などが挙げられる。機械的研磨法においては、研磨剤粒子を固着した研磨布紙、砥石、エメリバフ、鋼線などを備えたワイヤーブラシ等が使用される。また、負極活物質層との接着強度や導電性を高めるために、集電体表面に中間層を形成してもよい。
【0155】
(3)二次電池
本発明の二次電池は、正極、負極、セパレータ及び電解液を備えてなる二次電池であって、負極が、上記二次電池用負極である。
【0156】
(正極)
正極は、正極活物質及び二次電池正極用バインダー組成物を含む正極活物質層が、集電体上に積層されてなる。
【0157】
(正極活物質)
正極活物質は、リチウムイオンをドープ及び脱ドープ可能な活物質が用いられ、無機化合物からなるものと有機化合物からなるものとに大別される。
【0158】
無機化合物からなる正極活物質としては、遷移金属酸化物、遷移金属硫化物、リチウムと遷移金属とのリチウム含有複合金属酸化物などが挙げられる。上記の遷移金属としては、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Mo等が使用される。
【0159】
遷移金属酸化物としては、MnO、MnO
2、V
2O
5、V
6O
13、TiO
2、Cu
2V
2O
3、非晶質V
2O−P
2O
5、MoO
3、V
2O
5、V
6O
13等が挙げられ、
中でもサイクル安定性と容量からMnO、V
2O
5、V
6O
13、TiO
2が好ましい。遷移金属硫化物としては、TiS
2、TiS
3、非晶質MoS
2、FeS等が挙げられる。リチウム含有複合金属酸化物としては、層状構造を有するリチウム含有複合金属酸化物、スピネル構造を有するリチウム含有複合金属酸化物、オリビン型構造を有するリチウム含有複合金属酸化物などが挙げられる。
【0160】
層状構造を有するリチウム含有複合金属酸化物としてはリチウム含有コバルト酸化物(LiCoO
2)、リチウム含有ニッケル酸化物(LiNiO
2)、Co−Ni−Mnのリチウム複合酸化物、Ni−Mn−Alのリチウム複合酸化物、Ni−Co−Alのリチウム複合酸化物等が挙げられる。スピネル構造を有するリチウム含有複合金属酸化物としてはマンガン酸リチウム(LiMn
2O
4)やMnの一部を他の遷移金属で置換したLi[Mn
3/2M
1/2]O
4(ここでMは、Cr、Fe、Co、Ni、Cu等)等が挙げられる。オリビン型構造を有するリチウム含有複合金属酸化物としてはLi
XMPO
4(式中、Mは、Mn,Fe,Co,Ni,Cu,Mg,Zn,V,Ca,Sr,Ba,Ti,Al,Si,B及びMoから選ばれる少なくとも1種、0≦X≦2)であらわされるオリビン型燐酸リチウム化合物が挙げられる。
【0161】
有機化合物としては、例えば、ポリアセチレン、ポリ−p−フェニレンなどの導電性高分子を用いることもできる。電気伝導性に乏しい、鉄系酸化物は、還元焼成時に炭素源物質を存在させることで、炭素材料で覆われた電極活物質として用いてもよい。また、これら化合物は、部分的に元素置換したものであってもよい。二次電池用の正極活物質は、上記の無機化合物と有機化合物の混合物であってもよい。
【0162】
正極活物質の体積平均粒子径は、通常0.01〜50μm、好ましくは0.05〜30μmである。体積平均粒子径が上記範囲にあることにより、後述する正極用スラリー組成物を調製する際の正極用バインダー組成物の量を少なくすることができ、電池の容量の低下を抑制できると共に、正極用スラリー組成物を、塗布するのに適正な粘度に調製することが容易になり、均一な電極を得ることができる。
【0163】
正極活物質層における正極活物質の含有割合は、好ましくは90〜99.9質量%、より好ましくは95〜99質量%である。正極中の正極活物質の含有量を、上記範囲とすることにより、高い容量を示しながらも柔軟性、結着性を示すことができる。
【0164】
(二次電池正極用バインダー組成物)
リチウム二次電池正極用バインダー組成物としては、特に制限されず公知のものを用いることができる。例えば、ポリエチレン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、ポリアクリル酸誘導体、ポリアクリロニトリル誘導体などの樹脂や、二次電池負極用スラリー組成物で粒子状バインダーとして好適に用いられる、アクリル重合体、ジエン重合体等の重合体を用いることができる。これらは単独で使用しても、これらを2種以上併用してもよい。
【0165】
正極には、上記成分のほかに、さらに前述の電解液分解抑制等の機能を有する電解液添加剤等の他の成分が含まれていてもよい。これらは電池反応に影響を及ぼさないものであれば特に限られない。
【0166】
集電体は、前述の二次電池用負極に使用される集電体を用いることができ、電気導電性を有しかつ電気化学的に耐久性のある材料であれば特に制限されないが、二次電池正極用としてはアルミニウムが特に好ましい。
【0167】
正極活物質層の厚みは、通常5〜300μmであり、好ましくは10〜250μmである。正極活物質層の厚みが上記範囲にあることにより、負荷特性及びエネルギー密度共に高い特性を示す。
正極は、前述の二次電池用負極と同様に製造することができる。
【0168】
(セパレータ)
セパレータは気孔部を有する多孔性基材であって、使用可能なセパレータとしては、(a)気孔部を有する多孔性セパレータ、(b)片面または両面に高分子コート層が形成された多孔性セパレータ、または(c)無機セラミック粉末を含む多孔質の樹脂コート層が形成された多孔性セパレータが挙げられる。これらの非制限的な例としては、ポリプロピレン系、ポリエチレン系、ポリオレフィン系、またはアラミド系多孔性セパレータ、ポリビニリデンフルオリド、ポリエチレンオキシド、ポリアクリロニトリルまたはポリビニリデンフルオリドヘキサフルオロプロピレン共重合体などの高分子フィルム、さらにコート層を有するセパレータ、または無機フィラー、無機フィラー用分散剤からなる多孔膜層がコートされたセパレータなどがある。
【0169】
(電解液)
本発明に用いられる電解液は、特に限定されないが、例えば、非水系の溶媒に支持電解質としてリチウム塩を溶解したものが使用できる。リチウム塩としては、例えば、LiPF
6、LiAsF
6、LiBF
4、LiSbF
6、LiAlCl
4、LiClO
4、CF
3SO
3Li、C
4F
9SO
3Li、CF
3COOLi、(CF
3CO)
2NLi、(CF
3SO
2)
2NLi、(C
2F
5SO
2)NLiなどのリチウム塩が挙げられる。特に溶媒に溶けやすく高い解離度を示すLiPF
6、LiClO
4、CF
3SO
3Liは好適に用いられる。これらは、単独、または2種以上を混合して用いることができる。支持電解質の量は、電解液に対して、通常1質量%以上、好ましくは5質量%以上、また通常は30質量%以下、好ましくは20質量%以下である。支持電解質の量が少なすぎても多すぎてもイオン導電度は低下し電池の充電特性、放電特性が低下する。
【0170】
電解液に使用する溶媒としては、支持電解質を溶解させるものであれば特に限定されないが、通常、ジメチルカーボネート(DMC)、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、およびメチルエチルカーボネート(MEC)などのアルキルカーボネート類;γ−ブチロラクトン、ギ酸メチルなどのエステル類、1,2−ジメトキシエタン、およびテトラヒドロフランなどのエーテル類;スルホラン、およびジメチルスルホキシドなどの含硫黄化合物類;が用いられる。特に高いイオン伝導性が得易く、使用温度範囲が広いため、ジメチルカーボネート、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネートが好ましい。これらは、単独、または2種以上を混合して用いることができる。また、電解液には添加剤を含有させて用いることも可能である。また、添加剤としてはビニレンカーボネート(VC)などのカーボネート系の化合物が好ましい。
【0171】
上記以外の電解液としては、ポリエチレンオキシド、ポリアクリロニトリルなどのポリマー電解質に電解液を含浸したゲル状ポリマー電解質や、硫化リチウム、LiI、Li
3Nなどの無機固体電解質を挙げることができる。
【0172】
(二次電池の製造方法)
本発明の二次電池の製造方法は、特に限定されない。例えば、上述した負極と正極とをセパレータを介して重ね合わせ、これを電池形状に応じて巻く、折るなどして電池容器に入れ、電池容器に電解液を注入して封口する。さらに必要に応じてエキスパンドメタルや、ヒューズ、PTC素子などの過電流防止素子、リード板などを入れ、電池内部の圧力上昇、過充放電の防止をすることもできる。電池の形状は、ラミネートセル型、コイン型、ボタン型、シート型、円筒型、角形、扁平型などいずれであってもよい。
【実施例】
【0173】
以下に、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、本実施例における部および%は、特記しない限り質量基準である。実施例および比較例において、各種物性は以下のように評価した。
【0174】
(1)水溶性高分子の1%水溶液粘度の測定方法
実施例および比較例で製造した水溶性高分子を、10%水酸化ナトリウム水溶液およびイオン交換水により、水溶性高分子の1%水溶液(pH8)を調製した。B型粘度計により、25℃、60rpmにおけるこの水溶液の粘度を測定した。
【0175】
(2)密着性
実施例および比較例で製造した負極を、長さ100mm、幅10mmの長方形に切り出して試験片とした。この試験片を、負極活物質層の表面を下にして、負極活物質層の表面にセロハンテープを貼り付けた。この際、セロハンテープとしてはJIS Z1522に規定されるものを用いた。また、セロハンテープは試験台に固定しておいた。その後、集電体の一端を鉛直上方に引張り速度50mm/分で引っ張って剥がしたときの応力を測定した。この測定を3回行い、その平均値を求めて、当該平均値をピール強度(N/m)とした。ピール強度が大きいほど、負極活物質層の集電体への結着力が大きいこと、すなわち、密着強度が大きいことを示す。
【0176】
(3)分散安定性
実施例および比較例で製造した負極用スラリー組成物を、B型粘度計により室温(25℃)にて、60rpmの粘度η0を測定し、そのスラリー組成物を室温(25℃)、72時間で保管し、保管後の60rpmの粘度η1を室温(25℃)にて測定した。Δη(%)=η1/η0×100を算出し、この値が小さいほど分散安定性に優れることを示す。
【0177】
(4)塗工性
実施例および比較例で製造した負極用スラリー組成物を、集電体である厚さ20μmの銅箔の上に、乾燥後の膜厚が150μm程度になるように塗布し、乾燥させた。この乾燥は、銅箔を0.5m/分の速度で60℃のオーブン内を2分間かけて搬送することにより行った。その後、120℃にて2分間加熱処理して負極を得た。得られた負極を100cm×100cmの寸法で切り出し、目視にて直径0.1mm以上のピンホールの個数を測定した。ピンホールの個数が小さいほど、塗工性に優れることを示す。
【0178】
(5)高温サイクル特性
実施例および比較例において作製したラミネート型セルのリチウムイオン二次電池を、25℃の環境下で24時間静置させた後に、25℃の環境下で、4.2V、1Cの充電レート、3.0V、1Cの放電レートにて充放電の操作を行い、初期容量C0を測定した。さらに、60℃環境下で、上記条件にて充電から放電するまでを1サイクルとして充放電を繰り返し、1000サイクル後の容量C2を測定した。高温サイクル特性は、ΔC=C2/C0×100(%)で示す容量維持率にて評価し、この値が高いほど高温サイクル特性に優れることを示す。
【0179】
(6)高温保存特性
実施例および比較例において作製したラミネート型セルのリチウムイオン二次電池を、25℃の環境下で24時間静置させた後に、25℃の環境下で、4.2V、0.1Cの充電レート、3.0V、0.1Cの放電レートにて充放電の操作を行い、初期容量C0を測定した。さらに、25℃の環境下で4.2Vに充電し、60℃の環境下に30日間保存した後、25℃の環境下で3.0V、0.1Cの放電レートにて充放電の操作を行い、高温保存後の容量C1を測定した。高温保存特性は、ΔC=C1/C0×100(%)で示す容量維持率にて評価し、この値が高いほど高温保存特性に優れることを示す。
【0180】
(7)出力特性
実施例および比較例において作製したラミネート型セルのリチウムイオン二次電池を、25℃の環境下で24時間静置させた後に、25℃の環境下で、4.2V、1Cの充電レートにて充電の操作を行った。その後、−10℃環境下で、1Cの放電レートにて放電の操作を行い、放電開始15秒後の電圧Vを測定した。出力特性は、ΔV=4.2V−Vで示す電圧変化にて評価し、この値が小さいほど出力特性に優れることを示す。
【0181】
(実施例1)
(1−1.水溶性高分子の製造)
攪拌機付き5MPa耐圧容器に、メタクリル酸(エチレン性不飽和カルボン酸単量体)35部、エチレンジメタクリレート(架橋性単量体)0.8部、2,2,2−トリフルオロエチルメタクリレート(フッ素含有(メタ)アクリル酸エステル単量体)10部、3−メチル−3−ブテン−1−オールにエチレンオキサイドを平均50モル付加した不飽和ポリアルキレングリコールエーテル系単量体10部、エチルアクリレート(その他の単量体)45部、界面活性剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.6部、t−ドデシルメルカプタン0.6部、イオン交換水150部、及び過硫酸カリウム(重合開始剤)0.5部を入れ、十分に攪拌した後、60℃に加温して重合を開始した。重合転化率が96%になった時点で冷却し反応を停止して、水溶性高分子を含む混合物を得た。上記水溶性高分子を含む混合物に、10%アンモニア水を添加して、pH8に調整し、所望の水溶性高分子を含む水溶液を得た。得られた水溶性高分子を含む水溶液に、10%水酸化ナトリウム水溶液およびイオン交換水により、水溶性高分子の1%水溶液(pH8)を調製し、粘度を測定した。結果を表1に示す。
【0182】
(1−2.粒子状バインダーの製造)
攪拌機付き5MPa耐圧容器に、1,3−ブタジエン33.5部、イタコン酸3.5部、スチレン63部、乳化剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム4部、イオン交換水150部及び重合開始剤として過硫酸カリウム0.5部を入れ、十分に攪拌した後、50℃に加温して重合を開始した。重合転化率が96%になった時点で冷却し反応を停止して、粒子状バインダー(SBR)を含む混合物を得た。上記粒子状バインダーを含む混合物に、5%水酸化ナトリウム水溶液を添加して、pH8に調整後、加熱減圧蒸留によって未反応単量体の除去を行った後、30℃以下まで冷却し、所望の粒子状バインダーを含む水分散液を得た。
【0183】
(1−3.負極用スラリー組成物の製造)
ディスパー付きのプラネタリーミキサーに、負極活物質として比表面積5.5m
2/gの人造黒鉛(平均粒子径:24.5μm)100部、上記(1−1)で製造した水溶性高分子の1%水溶液を固形分相当で3部加え、イオン交換水で固形分濃度65%に調整した後、25℃で60分間混合した。次に、イオン交換水で固形分濃度60%に調整した後、さらに25℃で15分間混合し混合液を得た。
【0184】
上記混合液に、上記(1−2)で得られた粒子状バインダーを含む水分散液を固形分相当量で1.0部、及びイオン交換水を入れ、最終固形分濃度56%となるように調整し、さらに10分間混合した。これを減圧下で脱泡処理して流動性の良い負極用スラリー組成物を得た。得られた負極用スラリーの分散安定性、塗工性を評価した。結果を表1に示す。
【0185】
(1−4.負極の製造)
上記(1−3)で得られた負極用スラリー組成物を、コンマコーターで、集電体である厚さ20μmの銅箔の上に、乾燥後の膜厚が150μm程度になるように塗布し、乾燥させた。この乾燥は、銅箔を0.5m/分の速度で60℃のオーブン内を2分間かけて搬送することにより行った。その後、120℃にて2分間加熱処理して負極原反を得た。この負極原反をロールプレスで圧延して、負極活物質層の厚みが80μmの負極を得た。
得られた負極について、密着強度を測定した。結果を表1に示す。
【0186】
(1−5.正極の製造)
正極用のバインダーとして、ガラス転移温度Tgが−40℃で、数平均粒子径が0.20μmのアクリレート重合体の40%水分散体を用意した。前記のアクリレート重合体は、アクリル酸2−エチルヘキシル78質量%、アクリロニトリル20質量%、及びメタクリル酸2質量%を含む単量体混合物を乳化重合して得られた共重合体である。
【0187】
正極活物質として体積平均粒子径12μmのLiCoO
2を100部と、導電材として、カーボンブラック(電気化学工業株式会社製「HS−100」)を2部、分散剤としてカルボキシメチルセルロースの1%水溶液(第一工業製薬株式会社製「BSH−12」)を固形分相当で1部と、バインダーとして上記のアクリレート重合体の40%水分散体を固形分相当で5部と、イオン交換水とを混合した。イオン交換水の量は、全固形分濃度が40%となる量とした。これらをプラネタリーミキサーにより混合し、正極用スラリー組成物を調製した。
【0188】
上記の正極用スラリー組成物を、コンマコーターで、集電体である厚さ20μmのアルミニウム箔の上に、乾燥後の膜厚が200μm程度になるように塗布し、乾燥させた。この乾燥は、銅箔を0.5m/分の速度で60℃のオーブン内を2分間かけて搬送することにより行った。その後、120℃にて2分間加熱処理して、正極原反を得た。この正極原反をロールプレスで圧延して、正極活物質層の厚みが90μmの正極を得た。
【0189】
(1−6.セパレータの用意)
単層のポリプロピレン製セパレータ(セルガード2500、セルガード社製)を、5×5cm
2の正方形に切り抜いた。
【0190】
(1−7.リチウムイオン二次電池)
電池の外装として、アルミ包材外装を用意した。上記(1−5)で得られた正極を、4×4cm
2の正方形に切り出し、集電体側の表面がアルミ包材外装に接するように配置した。正極の正極活物質層の面上に、上記(1−6)で得られた正方形のセパレータを配置した。さらに、上記(1−4)で得られた負極を、4.2×4.2cm
2の正方形に切り出し、これをセパレータ上に、負極活物質層側の表面がセパレータに向かい合うよう配置した。電解液(溶媒:EC/DEC/VC=68.5/30/1.5体積比、電解質:濃度1MのLiPF6)を空気が残らないように注入し、さらに、アルミ包材の開口を密封するために、150℃のヒートシールをしてアルミ外装を閉口し、リチウムイオン二次電池を製造した。得られたリチウムイオン二次電池を用いて、高温サイクル特性、高温保存特性、出力特性を評価した。結果を表1に示す。
【0191】
(実施例2〜5および9、10)
実施例1の(1−1.水溶性高分子の製造)において、エチレン性不飽和カルボン酸単量体、フッ素含有(メタ)アクリル酸エステル単量体、不飽和ポリアルキレングリコールエーテル系単量体およびエチルアクリレートの配合量を表1のように変更した以外は、実施例1と同様とした。結果を表1に示す。
【0192】
(実施例6)
実施例1の(1−1.水溶性高分子の製造)において、2,2,2−トリフルオロエチルメタクリレートに代えて、パーフルオロオクチルメタクリレートを用いた以外は、実施例1と同様とした。結果を表1に示す。
【0193】
(実施例7)
実施例1の(1−1.水溶性高分子の製造)において、3−メチル−3−ブテン−1−オールにエチレンオキサイドを平均50モル付加した不飽和ポリアルキレングリコールエーテル系単量体に代えて、3−メチル−3−ブテン−1−オールにエチレンオキサイドを平均25モル付加した不飽和ポリアルキレングリコールエーテル系単量体を用いた以外は、実施例1と同様とした。結果を表1に示す。
【0194】
(実施例8)
実施例1の(1−1.水溶性高分子の製造)において、3−メチル−3−ブテン−1−オールにエチレンオキサイドを平均50モル付加した不飽和ポリアルキレングリコールエーテル系単量体に代えて、3−メチル−3−ブテン−1−オールにエチレンオキサイドを平均75モル付加した不飽和ポリアルキレングリコールエーテル系単量体を用いた以外は、実施例1と同様とした。結果を表1に示す。
【0195】
(実施例11、12)
実施例1の(1−3.負極用スラリー組成物の製造)において、水溶性高分子を固形分相当で0.3部または18部加えた以外は、実施例1と同様とした。結果を表1に示す。
【0196】
(実施例13)
負極活物質としてBET比表面積5.5m
2/gの天然黒鉛(平均粒子径:24.5μm)を90部およびBET比表面積6.5m
2/gのSiOC(平均粒子径:10μm)を10部用いた以外は、実施例1と同様とした。結果を表1に示す。
【0197】
(実施例14)
実施例1において、粒子状バインダーを用いなかった以外は、実施例1と同様とした。結果を表1に示す。
【0198】
(比較例1)
(負極用スラリー組成物の製造)
ディスパー付きのプラネタリーミキサーに、負極活物質として比表面積5.5m
2/gの人造黒鉛(平均粒子径:24.5μm)100部、カルボキシメチルセルロース(日本製紙ケミカル社製、MAC350HC)1%水溶液を固形分相当量で1部を加え、イオン交換水で固形分濃度65%に調整した後、25℃で60分間混合した。次に、イオン交換水で固形分濃度60%に調整した後、さらに25℃で15分間混合し混合液を得た。
【0199】
上記混合液に、上記(1−2)で得られた粒子状バインダーを含む水分散液を固形分相当量で1.0部、及びイオン交換水を入れ、最終固形分濃度56%となるように調整し、さらに10分間混合した。これを減圧下で脱泡処理して負極用スラリー組成物を得た。
【0200】
上記の負極用スラリー組成物を用いた以外は、実施例1と同様とした。結果を表1に示す。
【0201】
(比較例2)
実施例1の(1−1.水溶性高分子の製造)において、フッ素含有(メタ)アクリル酸エステル単量体を用いずに、不飽和ポリアルキレングリコールエーテル系単量体およびエチルアクリレートの配合量を表1のように変更して水溶性高分子を得た。
【0202】
上記で得られた水溶性高分子を用い、粒子状バインダーを用いなかった以外は、実施例1と同様とした。結果を表1に示す。
【0203】
(比較例3)
水溶性高分子として、比較例2で得た水溶性高分子を用いた以外は、実施例1と同様とした。結果を表1に示す。
【0204】
(比較例4)
実施例1の(1−1.水溶性高分子の製造)において、フッ素含有(メタ)アクリル酸エステル単量体を用いずに不飽和ポリアルキレングリコールエーテル系単量体およびエチルアクリレートの配合量を表1のように変更して水溶性高分子を得た。
【0205】
上記で得られた水溶性高分子を用い以外は、実施例1と同様とした。結果を表1に示す。
【0206】
(比較例5)
実施例1の(1−1.水溶性高分子の製造)において、フッ素含有(メタ)アクリル酸エステル単量体およびエチルアクリレートの配合量を表1のように変更して水溶性高分子を得た。
【0207】
上記で得られた水溶性高分子を用い以外は、実施例1と同様とした。結果を表1に示す。
【0208】
【表1】
【0209】
表1から分かるように、実施例によれば、比較例よりも分散安定性に優れるスラリーを得ることができ、それにより、該スラリーを用いて得られる電極は、塗工性に優れ、集電体と電極活物質層との高い密着性が維持されている。さらに、該電極を用いた二次電池は、耐久性及び出力特性に優れることが確認された。