特許第6111931号(P6111931)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6111931
(24)【登録日】2017年3月24日
(45)【発行日】2017年4月12日
(54)【発明の名称】電解液給液方法
(51)【国際特許分類】
   C25C 7/06 20060101AFI20170403BHJP
【FI】
   C25C7/06 301A
【請求項の数】1
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-171886(P2013-171886)
(22)【出願日】2013年8月22日
(65)【公開番号】特開2015-40327(P2015-40327A)
(43)【公開日】2015年3月2日
【審査請求日】2015年12月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001704
【氏名又は名称】特許業務法人山内特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】加集 裕久
【審査官】 祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−238683(JP,A)
【文献】 特開平05−311498(JP,A)
【文献】 特開平01−252799(JP,A)
【文献】 特開2001−014036(JP,A)
【文献】 特開2007−146195(JP,A)
【文献】 特公昭50−003246(JP,B1)
【文献】 特開昭51−006817(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25C 7/00
C25C 1/00
C25D 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解製錬設備の電解液給液方法であって、
前記電解製錬設備は、
複数の電解槽と、
前記複数の電解槽のそれぞれに電解液を給液する複数の給液管と、
前記複数の電解槽のそれぞれから電解液を排出する複数の排液管と、
前記複数の排液管が接続された合流排液管と、
前記合流排液管の前記複数の排液管の接続部より下流側に設けられた開閉弁と、を備え
前記複数の給液管を通して、前記複数の電解槽に電解液を給液するとともに、
前記開閉弁を閉状態にして、前記複数の電解槽のうち一部の電解槽の前記排液管から排出された電解液を、前記合流排液管を通し、残部の電解槽の前記排液管を逆流させて、該残部の電解槽に給液する
ことを特徴とする電解液給液方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解液給液方法に関する。さらに詳しくは、電解精製や電解採取において通電期間と通電期間の間に行われる交換作業の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
電解製錬では、電解液で満たされた電解槽に複数枚のアノードとカソードを交互に挿入し、アノード−カソード間に通電して電解が行われる。そして、所定時間の通電の後に、一度停電させてアノードやカソードを交換し、再度通電することを繰り返す。以下、通電開始から通電終了までの期間を「通電期間」と称し、通電期間と通電期間の間に行われる作業を「交換作業」と称する。
【0003】
例えば、銅の電解精製では、一般にアノード一枚当たりの通電時間は15〜20日程度であり、アノード一枚につき7〜10日間の通電を行った製品カソード(電気銅)を2回得ることができる。1回目の製品カソードを得る通電期間を「前半ライフ」、2回目の製品カソードを得る通電期間を「後半ライフ」と称すると、前半ライフから後半ライフへの交換作業は、前半ライフの終了後に一度停電させて、カソードを新たなものに交換し、再度通電することにより行われる。
【0004】
一方、後半ライフから前半ライフへの交換作業は以下の手順で行われる。まず、後半ライフの終了後に一度停電させる。つぎに、電解槽からアノードとカソードの双方を抜き出し、電解液を排出して電解槽の底に堆積したアノードスライムなどを除去する。つぎに、電解槽に新たなアノードとカソードを挿入し、電解液を給液する。そして、電解槽が電解液で満たされ、電解液の温度が所定の温度に達した後に通電を開始する。
【0005】
アノード‐カソード間の短絡(ショート)の発生する割合であるショート率や、電着したカソードのうち製品にならない割合である不良率は、アノード‐カソード間の距離(間隔)の狭まり具合や、操業電流密度の増加、アノード‐カソード間の部分的な電流密度の上昇などの影響を大きく受ける。ショート率や不良率の増加は、電解製錬の生産性の悪化の原因となるので、その解決が望まれている。特に不良の大きな原因の一つとして、ショートの原因ともなる針状電析の成長による粗大な粒析出があり、ショート率の低減は重要である。
【0006】
高電流密度での操業におけるショート率および不良率の低減については、通電方向が変わらない一方向通電と呼ばれる一般的な通電方法に代えて、一定時間ごとに電流の正負を反転させるPR電解と呼ばれる通電方法や、一定時間ごとに短時間停電するパルス電解と呼ばれる通電方法が有効とされ、広く用いられている。しかし、PR電解やパルス電解を行った場合、停電する時間や逆方向電流が流れて溶出する銅が増えるため、一方向通電に比べて電力コストや生産性が悪くなるという問題がある。
【0007】
また、ショート率を減らすには、アノード‐カソード間の距離を広げて針状電析が成長し難いようにすることも有効である。しかし、この場合、同じ面積の電解槽に収容できる電極数が減少するので、生産性が低下するという問題がある。
【0008】
後半ライフから前半ライフへの交換時には、カソードはアノードとの距離が調整されるが、前半ライフから後半ライフへの交換時には、カソードの調整はあまり行われない。この場合でも、後半ライフと比べて前半ライフの方が、ショート率が高いことが知られている。
【0009】
また、銅の電解精製では、カソードの温度が通電初期に60℃以下に低下している場合、ショート率が高くなることが知られている(特許文献1参照)。これは、カソードの温度が低いと、電解液の液面付近で針状電析が生じるからである。
【0010】
銅の電解精製設備では、電解液は電解液循環系内を循環しており、電解槽から排出された電解液は不純物が除去され、銅の電解精製に適した60℃前後に温度調整された後、再び電解槽に給液される。一方、交換した直後のアノードおよびカソードは外気温程度(0〜30℃程度)であり温度が低い。そのため、交換されたアノードおよびカソードは、電解液により暖められ徐々に温度が上昇する。そして、電解液は、給液開始直後はアノードおよびカソードに熱を奪われ温度が低下し、アノードおよびカソードの温度が上昇するに従い、電解液の温度も上昇する。
【0011】
上記の後半ライフから前半ライフへの交換作業の例では、電解槽が電解液で満たされた直後に通電を開始すると、カソードの温度が低いままでありショート率が高くなる。そこで、電解槽が電解液で満たされた後、電解液の温度が所定の温度(例えば、57℃)に達した後に通電を開始することにより、ショート率を低減している。
【0012】
数百〜千槽の電解槽を有する工業的な電解製錬設備では、一般に複数の電解槽を直列に接続して通電する。これは、例えば銅の電解製錬の場合、1つの電解槽に数千〜数万Aもの電流を流す必要があるが、一方で必要な電圧は0.5V程度と低く、このような大電流・低電圧な電源装置を製作することは技術的に容易でなく経済的でもないからである。そこで、電圧を制御しやすい数V〜数十Vの大きさになるように、複数の電解槽を電気的に直列に接続して通電する方法がとられる。このような通電方法では、回路の一部を短絡することによりその間の電解槽だけを停電させることができる。すべての電解槽を個々に停電できるように多数の短絡機を設置することは設備費用がかさんで不経済であるため、数〜十数槽の電解槽を一組とし、組単位に設置した短絡機を用いて通電、停電を制御する方法が用いられる。そして、上記のような交換作業も組単位で行われる。
【0013】
例えば、銅の電解精製における、後半ライフから前半ライフへの交換作業は以下の手順で行われる。まず、後半ライフの終了後にその組を一度停電させる。つぎに、アノードとカソードの抜き出し、電解液の排出、アノードスライムなどの除去、新たなアノードとカソードの挿入、電解液の給液を、その組に属する複数の電解槽について順次行う。全ての電解槽が電解液で満たされ、電解液の温度が所定の温度に達した後にその組に通電を開始する。
【0014】
以上のような手順で交換作業を行うため、一の組に属する複数の電解槽のうち、作業を最初に始めた電解槽は、作業を最後に始めた電解槽に比べて、作業が早く完了する。すなわち、電解液の温度が所定の温度に達し通電してもよい状態となる。しかし、全ての電解槽において電解液の温度が所定の温度に達するまで通電できない。結局、作業を最後に始めた電解槽において、電解液の温度が所定の温度に達するまで通電を開始することができず、その他の電解槽は作業が完了しても通電開始まで待機した状態となる。その結果、全体として交換作業に長時間を要する。交換作業の間は電解を行うことができないため、交換作業に長時間を要すればその分操業効率が悪くなるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開平08−311678号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は上記事情に鑑み、交換作業を短時間としショート率を低減できる電解液給液方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
第1発明の電解液給液方法は、電解製錬設備の電解液給液方法であって、前記電解製錬設備は、複数の電解槽と、前記複数の電解槽のそれぞれに電解液を給液する複数の給液管と、前記複数の電解槽のそれぞれから電解液を排出する複数の排液管と、前記複数の排液管が接続された合流排液管と、前記合流排液管の前記複数の排液管の接続部より下流側に設けられた開閉弁と、を備え、前記複数の給液管を通して、前記複数の電解槽に電解液を給液するとともに、前記開閉弁を閉状態にして、前記複数の電解槽のうち一部の電解槽の前記排液管から排出された電解液を、前記合流排液管を通し、残部の電解槽の前記排液管を逆流させて、該残部の電解槽に給液することを特徴とする
【発明の効果】
【0018】
第1発明によれば、電解槽から排出された電解液を、排液管を介して他の電解槽に給液するので、電解槽への電解液の給液量が増加し、電解液の給液時間が短くなり、電解液の温度上昇が早くなる。そのため、ショート率を低減しつつ通電を早く開始でき、交換作業を短時間とできるので操業効率が良い。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の第1実施形態に係る電解精製設備の説明図である。
図2】開閉弁の配置の説明図である。
図3】電解液循環系の説明図である。
図4】電解槽の縦断面図である。
図5】本発明の第2実施形態に係る電解精製設備における電解槽の排液ボックス部分の拡大縦断面図である。
図6】本発明の第3実施形態に係る電解精製設備における電解槽の排液ボックス部分の拡大縦断面図である。
図7】本発明の第4実施形態に係る電解精製設備における電解槽の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
つぎに、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
本発明の電解液給液方法は、電解精製を行う電解精製設備や、電解採取を行う電解採取設備に適用できる。また、製品となる目的金属も特に限定されない。例えば、電解精製の目的金属として銅、鉛、ニッケル、金、銀などが、電解採取の目的金属としてニッケル、コバルト、銅、銀、金、亜鉛などが挙げられる。いずれの場合においても同様であるので、以下、銅の電解精製を例に説明する。
【0021】
(第1実施形態)
まず、銅の電解精製の電解液循環系について説明する。
図3において、10は電解槽、11は排液槽、12はポンプ、13は熱交換器、14は給液槽であり、これらにより電解液循環系が形成されている。
【0022】
電解槽10には電解液が満たされており、電解槽10から排出された電解液は排液槽11に給液されている。排液槽11と熱交換器13および給液槽14とは配管で接続されており、その配管にはポンプ12が介装されている。このポンプ12の駆動により、所定流量の電解液が排液槽11から熱交換器13または給液槽14に給液されている。熱交換器13に供給された電解液は加熱または冷却され、給液槽14に供給されている。そして、給液槽14から排出された電解液は電解槽10に給液されている。
【0023】
このように、電解液は電解液循環系内を循環しており、電解槽10から排出された電解液は、銅の電解精製に適した温度(55〜65℃)に温度調整された後、再び電解槽10に給液される。また、電解液は電解液循環系内を循環する間に不純物が除去される。電解液の不純物の除去は、例えば、電解液循環系から電解液の一部を浄液工程に送り、濃縮冷却や電解採取などの方法を用いて、電解液中に含まれた不純物や過剰な銅を除去することにより行われる。
【0024】
つぎに、電解槽10の詳細を説明する。
図4に示すように、銅の電解精製においては、電解液を満たした電解槽10に複数枚の粗銅アノードと純銅カソードを交互に挿入し(図示せず)、アノードとカソードとの間に通電して、カソード上に銅を析出させて、電気銅を得ている。
【0025】
電解槽10には、電解液を給液する給液管20と、電解液を排液する排液管30とが設けられている。給液槽14(図3参照)から排出された電解液は、給液管20から電解槽10に給液された後、電解精製に用いられ、排液管30から排出される。排液管30から排出された電解液は排液槽11(図3参照)に給液される。
【0026】
給液管20は、電解槽10の側壁を跨ぐように逆U字形に屈曲しており、その一端が電解槽10の内壁に沿って下向きに延設され、さらに電解槽10の底面に沿って延設されている。そして、給液管20の開口端は、排液管30とは逆側の電解槽10の端部(図4における右端)に開口している。そのため、電解液は、給液管20から電解槽10の一端(図4における右端)に給液され、電解槽10内を他端(図4における左端)に向かって流れ、排液管30から排出される。
【0027】
給液管20には流量制御弁21が介装されており、この流量制御弁21で電解槽10への電解液の給液、停止および給液量を調整できるようになっている。
【0028】
電解槽10の端部側壁の上縁には凹部が形成されており、その凹部に排液ボックス31が嵌め込まれている。排液ボックス31の内部には堰が設けられており、この堰により電解槽10内の電解液の液位を調整できるようになっている。
【0029】
つぎに、本発明の第1実施形態に係る電解精製設備1の詳細を説明する。
図1に示すように、電解精製設備1には、数百〜千槽の電解槽10が建屋内に並べられて設けられている。これらの電解槽10は、隣接する数〜十数槽を一組として複数の組に分けられている。そして一の組に属する数〜十数槽の電解槽10を電気的に直列に接続して、組単位で通電、停電を制御している。図1に示す例では、隣接する9槽の電解槽10a〜10iを組Iとし、電解槽10a〜10iを電気的に直列に接続している。
【0030】
銅の電解精製では、一般にアノード一枚当たりの通電時間は15〜20日程度であり、アノード一枚につき7〜10日間の通電を行った製品カソード(電気銅)を2回得ることができる。以下、1回目の製品カソードを得る通電期間を「前半ライフ」、2回目の製品カソードを得る通電期間を「後半ライフ」と称する。
【0031】
組Iの前半ライフから後半ライフへの交換作業は、前半ライフの終了後に組Iを一度停電させて、電解槽10a〜10iに挿入されていたカソードを新たなものに交換し、再度組Iへの通電を開始することにより行われる。
【0032】
一方、組Iの後半ライフから前半ライフへの交換作業は以下の手順で行われる。
(1)まず、後半ライフの終了後に組Iを停電させる。
(2)つぎに、アノードおよびカソードを電解槽から抜き出す。ここで、アノードおよびカソードは、建屋に設けられた天井クレーンを用いて抜き出される。そのため、組Iに属する電解槽10a〜10iについて1槽ずつ順次作業が行われる。例えば、最初に電解槽10aのアノードおよびカソードを抜き出し、つぎに電解槽10bのアノードおよびカソードを抜き出し、同様の作業を電解槽10c、・・・、1hの順で行い、最後に電解槽10iのアノードおよびカソードを抜き出す。
【0033】
(3)アノードおよびカソードが抜き出された電解槽から順次、電解槽内の電解液を排出する(排出工程)。そのため、電解槽10a、・・・、10iの順で電解液の排出が行われる。
(4)電解液の排出を終えた電解槽から順次、電解槽の底に堆積したアノードスライムなどを除去し、新たなアノードおよびカソードを挿入する。この場合にも、アノードおよびカソードは天井クレーンを用いて挿入される。そのため、電解槽10a、・・・、10iの順でアノードスライムなどの除去、アノードおよびカソードの挿入が行われる。
【0034】
(5)アノードおよびカソードの挿入を終えた電解槽から順次電解液を給液する(給液工程)。そのため、電解槽10a、・・・、10iの順で電解液の給液が開始される。
(6)全ての電解槽10a〜10iが電解液で満たされ、全ての電解槽10a〜10iの電解液の温度が所定の温度(例えば、57℃)に達した後に、組Iの通電を開始する。
【0035】
銅の電解精製では、カソードの温度が通電初期に60℃以下に低下している場合、アノード−カソード間のショート率が高くなることが知られている。これは、カソードの温度が低いと、電解液の液面付近で針状電析が生じるからである。
【0036】
また、交換した直後のアノードおよびカソードは外気温程度(0〜30℃程度)であり温度が低い。そのため、交換されたアノードおよびカソードは、55〜65℃に温度調整された電解液により暖められ徐々に温度が上昇する。そして、電解液は、給液開始直後はアノードおよびカソードに熱を奪われ温度が低下し、アノードおよびカソードの温度が上昇するに従い、電解液の温度も上昇する。そこで、電解槽10a〜10iが電解液で満たされた後、電解液の温度が所定の温度に達した後に通電を開始することにより、ショート率を低減できる。
【0037】
組Iに属する電解槽10a〜10iのうち、アノードおよびカソードの抜き出し作業を最初に始めた電解槽10aは、作業を最後に始めた電解槽10iに比べて、早く電解液が満たされ、電解液の温度が所定の温度に早く達する。すなわち、通電してもよい状態となる。しかし、全ての電解槽10a〜10iにおいて電解液の温度が所定の温度に達するまで通電できない。
【0038】
そこで、上記(5)給液工程において、電解槽10への電解液の給液を、電解槽10に設けられた給液管20からの電解液の給液に加え、他の電解槽10から排出された電解液を給液することにより、交換作業を短時間とする。
【0039】
図1に示すように、電解精製設備1に備えられた複数の電解槽10のそれぞれには給液管20が接続されており、各給液管20から各電解槽10に電解液を給液できるよう構成されている。また、複数の電解槽10のそれぞれには排液管30が接続されており、各電解槽10の電解液は各排液管30から排出される。
【0040】
これらの排液管30は、複数本が単一の第1合流排液管32に接続されている。すなわち、複数本の排液管30は第1合流排液管32を介して互いに接続されている。本実施形態では、組Iに属する9槽の電解槽10a〜10iに接続された9本の排液管30が単一の第1合流排液管32に接続されている。なお、単一の第1合流排液管32に接続される電解槽10の組み合わせと、通電単位の組に属する電解槽10の組み合わせとは、必ずしも一致する必要はない。
【0041】
電解精製設備1には複数の第1合流排液管32が備えられており、これらは第2合流排液管33に接続されている。第2合流排液管33の最下流は排液槽11(図3参照)に接続されている。したがって、いずれの電解槽10においても、排出された電解液は、排液管30、第1合流排液管32、第2合流排液管33の順に流れて排液槽11に供給される。なお、第1合流排液管32および第2合流排液管33が、いずれも特許請求の範囲に記載の「合流排液管」に相当する。
【0042】
各第1合流排液管32の最下流部、すなわち電解槽10a〜10iに接続された9本の排液管30の接続部より下流側には開閉弁40が設けられている。この開閉弁40は常時は開状態となっており、電解槽10から排出された電解液を第2合流排液管33に排出している。
【0043】
つぎに、電解液給液方法について説明する。
上記(5)給液工程においては、各電解槽10a〜10iに設けられた給液管20から電解液を給液する。ここで、電解槽10a〜10iが接続された第1合流排液管32の開閉弁40を閉状態にすると、電解槽10a〜10iから排出された電解液は、排液管30を逆流して、他の電解槽10a〜10iに給液される。
【0044】
例えば、組Iに属する電解槽10a〜10iのうち、電解槽10iが最も遅く電解液の給液が開始されとする。また、電解槽10iへの電解液の給液開始時には、電解槽10a〜1fには電解液が満たされており、電解槽10g、1hには電解液が半分程度であったとする。この場合に開閉弁40を閉状態にすると、既に電解液で満たされた電解槽10a〜1fから排出された電解液は、第1合流排液管32および排液管30を介して、電解液が不足している電解槽10g〜10iに給液される。
【0045】
電解槽10g〜10iには、給液管20からの電解液の給液に加えて、排液管30からも電解液が給液されるので、その給液量は給液管20から給液される通常の給液量に比べて増加する。例えば、電解槽10a〜1hが電解液で満たされた場合、これらの電解槽10a〜1hから排出された電解液は、すべて電解槽10iに供給されるので、電解槽10iへの給液量は給液管20から給液される通常の給液量の約9倍となる。
【0046】
全ての電解槽10a〜10iが電解液で満たされ場合には、再び開閉弁40を開状態に切り替え、電解槽10a〜10iへの給液を給液管20からのみとする。電解槽10a〜10iから排出された電解液は、排液管30、第1合流排液管32、第2合流排液管33の順に流れて排液槽11に供給される。
【0047】
以上のように、電解槽10a〜1fから排出された電解液を、排液管30を介して他の電解槽10g〜10iに給液できるので、電解槽10g〜10iの電解液の給液時間が短くなり、電解液の温度上昇が早くなる。ここで、電解槽10iは最も遅く電解液の給液が開始された電解槽であるので、組I全体としても電解液の給液時間が短くなり、電解液の温度上昇が早くなる。そうすると、ショート率を低減しつつ通電を早く開始でき、交換作業を短時間とできる。そして、電解を行うことができない交換作業を短時間とできるため、その分操業効率が良くなる。また、ショート率を低減できる結果、電力ロスや修正の手間が減少し、製品の歩留まりが向上する。
【0048】
なお、開閉弁40の位置は第1合流排液管32の最下流部に限られない。
図2に示すA位置(第1合流排液管32の途中)、すなわち電解槽10a〜10gに接続された7本の排液管30の接続部より下流側に開閉弁40を設けてもよい。例えば、電解槽10a〜1fには電解液が満たされており、電解槽10gが空の場合に開閉弁40を閉状態にすると、既に電解液で満たされた電解槽10a〜1fから排出された電解液は、電解液が不足している電解槽10gに給液される。そのため、電解槽10gの電解液の給液時間が短くなる。
【0049】
また、図2に示すB位置、すなわち第2合流排液管33の第1合流排液管32の接続部より下流側に開閉弁40を設けてもよい。電解精製設備1には数百〜千槽の電解槽10が備えられていることから、B位置に設けられた開閉弁40を閉状態にすると、数百〜千倍の給液量で電解液を給液できる。ただし、このような給液量で給液すると圧力損失が大きくなるため、目的とする電解槽10が電解液で満たされる前に、他の電解槽10の液位が上昇し電解液が溢れ出す恐れがある。また、給液終了後に開閉弁40を開状態に切り替えるのが遅れると、全ての電解槽10から電解液が溢れ出す恐れがある。さらに、開閉弁40の開閉により電解液の流れに大きな変化が生じるため、ウォーターハンマー現象で配管を破損する恐れがある。そのため、これらのリスクの対応をすることが好ましい。
【0050】
さらに、組Iの電解槽10a〜10iが接続された第1合流排液管32と、その隣の組IIの電解槽10が接続された第1合流排液管32とを連通管34で接続し、その連通管34の途中(C位置)、および各第1合流排液管32の最下流部(D位置、E位置)に開閉弁40を設けてもよい。
【0051】
組Iの後半ライフから前半ライフへの交換作業の給液工程において、C位置の開閉弁40を開状態とし、D位置とE位置の開閉弁40を閉状態とすると、電解液が不足している電解槽10g〜10iには、同一の組Iの電解槽10a〜10fから排出された電解液が給液されるのに加え、隣の組IIの電解槽10から排出された電解液も、連通管34および排液管30を介して給液される。そのため、より給液量が多くなり、電解液の給液時間が短くなる。しかも、組IIの電解槽10が通電中であれば、排出された電解液はジュール熱により温度が高くなっている。そのため、組Iの電解槽10に温度が高い電解液を給液できるので、電解液の温度上昇がより早くなる。
【0052】
(第2実施形態)
図5に示すように、本発明の第2実施形態に係る電解精製設備2は、電解槽10の排液ボックス31に抜き口50が設けられた構成である。抜き口50は電解液の上限液位に設けられており、上限液位に達した電解液をオーバーフローさせることができる。抜き口50には第2排液管51が接続されており、抜き口50からオーバーフローした電解液は第2排液管51から排出される。
【0053】
電解槽10が電解液で満たされた後、開閉弁40を開状態に切り替え忘れると、電解槽10から電解液が溢れ出てしまう。しかし、本実施形態では電解槽10に抜き口50が設けられているので、開閉弁40を開状態に切り替え忘れても、電解槽10から電解液が溢れ出ることを防止できる。
【0054】
なお、上記「上限液位」は、電解槽10から電解液が溢れ出ない上限として任意に設定される。また、抜き口50が設けられる位置は排液ボックス31に限られず、電解槽10の側壁等他の位置でもよい。ただし、排液ボックス31に抜き口50を設けると、排液管30から逆流してきた電解液が電解槽10の内部に流入する前に排出されるので好ましい。
【0055】
(第3実施形態)
図6に示すように、本発明の第3実施形態に係る電解精製設備3は、電解槽10の排液ボックス31にパイロットランプやブザー等の警報装置60が設けられた構成である。排液ボックス31の内部には、一対の電極61、61が設けられている。一方の電極61は電解液の上限液位に設けられており、他方の電極61は上限液位よりも深い位置に設けられている。一対の電極61、61を接続する配線に電源62および警報装置60が介装されている。
【0056】
電解液が上限液位に達すると、一対の電極61、61間が導通するので警報装置60が動作する。すなわち、一対の電極61、61が、電解液が上限液位に達したことを検知するセンサとなっており、そのセンサの検知により警報装置60が動作する。
【0057】
以上のように、電解液が上限液位に達すると警報装置60が警報を発するので、電解槽10が電解液で満たされた後、開閉弁40を開状態に切り替え忘れた場合、作業員に開閉弁40の切り替えを促すことができる。
【0058】
(第4実施形態)
図7に示すように、本発明の第4実施形態に係る電解精製設備4は、排液管30に流量制御弁35が設けられた構成である。開閉弁40の位置や電解槽が満たされた電解槽10の数によっては、排液管30からの給液量が多くなりすぎる場合がある。この点、本実施形態では、排液管30に流量制御弁35が設けられているので、排液管30を介して給液される電解液の給液量を調整できる。
【実施例】
【0059】
実施例、比較例共に、銅の電解精製を以下の条件で行った。
使用した電解槽は、コンクリートの表面に塩化ビニルをライニングした構造であり、長さ3000mm、幅1250mm、深さ1360mmである。この電解槽1槽当たりに、銅品位99.2%の粗銅アノード27枚と銅品位99.99%の純銅カソード26枚を交互に並べ、アノードとカソード間の距離が105mmになるように揃えて挿入した。アノードの電極面積は幅1015mm、縦1015mm、初期厚さ約36mmである。カソードの電極面積は幅1050mm、縦1070mm、初期厚さ約0.7mmである。
【0060】
8日(約200時間)通電後に停電してカソードのみを引き揚げて電気銅として払い出し(前半ライフ)、次いで新たなカソードを挿入して再度8日間通電後にアノードとカソードを引き揚げて払い出す(後半ライフ)、1ライフ16日間の操業を繰り返した。給液管から給液する電解液の流量は15〜18L/分であり、液温は60℃である。電解液は硫酸酸性溶液であり、その組成は、銅濃度46〜50g/L、遊離硫酸濃度181〜205g/Lである。また、通電時のカソード電流密度は300A/m2である。
【0061】
通電中には、1日2回の頻度で全てのカソードに対してショートが生じていないか検査した。検査は、公知技術である電解槽電圧の変化や赤外線カメラによる発熱の監視、磁気検査機による測定などにより検知し、ショートを発見する都度修正し、同時にショート発生1枚と計数した。そして、ショート率を以下の数1で算出した。
(数1)
ショート率[%]=(ショートの総数)/(電解槽数×1槽当たりカソード数×通電中の検査回数)×100
【0062】
(実施例)
上記第1実施形態に係る電解精製設備1において、組Iの後半ライフから前半ライフへの交換作業の給液工程において、上記電解液給液方法を行った。電解槽10iへの電解液の給液開始時には、電解槽10a〜1fには電解液が満たされており、電解槽10g、1hには電解液が半分程度であった。
【0063】
開閉弁40を閉状態にすると、電解槽10iが電解液で満たされるのに5分を要した。また、電解槽10a〜1fの液位に大きな変化はなかった。さらに、前半ライフにおけるショート率は0.9%であった。
【0064】
(比較例)
後半ライフから前半ライフへの交換作業において、電解槽への電解液の給液を給液管のみにより行った。
【0065】
その結果、電解槽10iが電解液で満たされるのに15分を要した。また、前半ライフにおけるショート率は1.5%であった。
【0066】
以上の結果、本発明を適用することにより、ショート率を低減できることが確認された。これは、比較例に比べて実施例の方が、電解液の温度が早く60℃に達するためであると考えられる。
【符号の説明】
【0067】
1 電解精製設備
10 電解槽
20 給液管
21 流量制御弁
30 排液管
31 排液ボックス
32 第1合流排液管
33 第2合流排液管
40 開閉弁
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7