(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6111952
(24)【登録日】2017年3月24日
(45)【発行日】2017年4月12日
(54)【発明の名称】無鉛はんだ合金、接合材及び接合体
(51)【国際特許分類】
B23K 35/26 20060101AFI20170403BHJP
C22C 13/02 20060101ALI20170403BHJP
C22C 12/00 20060101ALI20170403BHJP
【FI】
B23K35/26 310A
B23K35/26 310C
C22C13/02
C22C12/00
【請求項の数】8
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-199016(P2013-199016)
(22)【出願日】2013年9月25日
(65)【公開番号】特開2015-62933(P2015-62933A)
(43)【公開日】2015年4月9日
【審査請求日】2015年12月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100071526
【弁理士】
【氏名又は名称】平田 忠雄
(74)【代理人】
【識別番号】100099597
【弁理士】
【氏名又は名称】角田 賢二
(74)【代理人】
【識別番号】100119208
【弁理士】
【氏名又は名称】岩永 勇二
(74)【代理人】
【識別番号】100124235
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 恵子
(74)【代理人】
【識別番号】100124246
【弁理士】
【氏名又は名称】遠藤 和光
(74)【代理人】
【識別番号】100128211
【弁理士】
【氏名又は名称】野見山 孝
(74)【代理人】
【識別番号】100145171
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 浩行
(72)【発明者】
【氏名】辻 隆之
(72)【発明者】
【氏名】内田 壮平
(72)【発明者】
【氏名】宇佐美 威
【審査官】
大畑 通隆
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2014/170994(WO,A1)
【文献】
特開2013−000744(JP,A)
【文献】
特開2002−178191(JP,A)
【文献】
特開2012−061491(JP,A)
【文献】
特開2001−150181(JP,A)
【文献】
特開2013−163207(JP,A)
【文献】
特開2007−090407(JP,A)
【文献】
特開2004−265811(JP,A)
【文献】
特開2014−140865(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 35/00−35/40
C22C 13/00−13/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Bi:20〜60質量%、Ni:0.005〜0.4質量%、P:0.001〜0.1質量%、Sn:残部、及び不可避不純物からなり、かつP/Ni質量比が1/4以下であることを特徴とする無鉛はんだ合金。
【請求項2】
更に3質量%以下のCuが添加されたことを特徴とする請求項1に記載の無鉛はんだ合金。
【請求項3】
更に0.001〜0.5質量%のTiが添加されたことを特徴とする請求項1又は2に記載の無鉛はんだ合金。
【請求項4】
銅又は銅合金とのはんだ接合部界面に(Cu,Ni)6Sn5金属間化合物層を形成することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の無鉛はんだ合金。
【請求項5】
はんだ合金中にNi−Sn−P系金属間化合物が晶出していることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の無鉛はんだ合金。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の無鉛はんだ合金を用いた接合材。
【請求項7】
金属線の外周に前記無鉛はんだ合金が被覆されている請求項6に記載の接合材。
【請求項8】
請求項6又は7に記載の接合材を用いて接合物と被接合物とが接合されている接合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無鉛はんだ合金、接合材及び接合体に関するものであり、特にSn−Bi系の無鉛はんだ合金、当該無鉛はんだ合金を用いた接合材及び当該接合材により接合された接合体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有鉛はんだであるSn−Pb系はんだ合金は、融点が適度であり(Sn−37質量%Pbで融点183℃)、濡れ性に優れ、価格も安い。しかし、毒性のあるPbが使われており、またクリープ特性が悪いため、耐疲労特性に劣るという問題点がある。
【0003】
一方、無鉛はんだとしては、代表的なものにSn−Ag−Cu系はんだ合金がある。Sn−Pb系はんだ合金より耐疲労特性に優れるが、高価なAgを含むため価格が高いという欠点がある。また、融点もSn−Pb系はんだ合金より高く(Sn−3Ag−0.5Cuで融点220℃)、応力緩和しにくいため、熱膨張率が大きく違う材料の接合(例えばCu導体とメタライズされたSiなど)においては、はんだ付け後の冷却過程で熱応力が大きくなりやすく、部品が破損するという問題点がある。
【0004】
従来の有鉛はんだより低融点の無鉛はんだとしては、Sn−In系(Sn−51質量%Inで融点120℃)及びSn−Bi系(Sn−57質量%Biで融点139℃)のはんだ合金がある。Sn−In系はんだ合金は、耐疲労特性に優れるが、高価なInを多く含むため、価格が非常に高い。ゆえに、現在、有鉛はんだよりも融点の低い無鉛はんだで、コストを抑えることができるものはSn−Bi系はんだ合金しかない。
【0005】
接合温度の低温化は、はんだ接合時の熱応力を下げることができることから、実装基板の反りを抑え、高密度化、薄型化を可能とする。また、熱に弱い部品の接合では必須の要件である。
【0006】
Sn−Bi系はんだ合金としては、例えば、非特許文献1に、Sn−Bi共晶はんだにAg、Cu、Zn、Sbを0.5質量%加えた時の破断伸びを調査した結果が記載されている。しかし、前述したようにAgの添加はコスト上昇の要因となるため望ましくない。また、Sbの添加は現時点で法規制されていないが、Pbより毒性が強いことが、動物実験の結果で分かっており、添加は極力避けるべきである。
【0007】
また、特許文献1には、Sn−Bi系はんだ合金として、Sn−Bi−Ni及びSn−Bi−Cu−Niを基本組成とし、さらにGe、Ga、Pから選択される1種以上の元素を添加したはんだ合金について開示されている。当該はんだ合金は、はんだ接合部界面にNiAs型結晶構造に代表される六方最密充填構造(稠密六方格子)を有する金属間化合物を形成させることを特徴としている。
【0008】
銅及び銅合金とはんだの界面には一般的にCu
6Sn
5金属間化合物層が形成される。Cu
6Sn
5は、高温では六方晶であるが、低温では斜方晶に変態し、クラックの原因となる。これを防ぐため、適量のNiを添加し、界面化合物を(Cu,Ni)
6Sn
5とすれば、六方晶が室温でも安定となるため、クラックが生じがたいことが特許文献2に述べられている。
【0009】
しかし、Pを添加した場合はNiとPが結びつきやすいため、界面に作用するNiが消失し、界面化合物を(Cu,Ni)
6Sn
5とすることができないことが問題である。ゆえに、Niを添加する場合、酸化抑制のための元素としてPではなくGeやGaを添加するのが一般的であるが、GeやGaはInと同様に希少金属の1種であるため、価格が高いという問題がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】「マイクロ接合・実装技術」株式会社産業技術サービスセンター発行、2012年7月発行、635−641頁
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2013−744号公報
【特許文献2】国際公開第2009/051255
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、耐疲労特性の向上と反りの抑制とが両立されたSn−Bi系の無鉛はんだ合金、当該無鉛はんだ合金を用いた接合材及び当該接合材により接合された接合体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するため、本発明によれば、以下の無鉛はんだ合金、接合材及び接合体が提供される。
【0014】
[1]Bi:20〜60質量%、Ni:0.005〜0.4質量%、P:0.001〜0.1質量%、Sn:残部、及び不可避不純物
からなり、かつP/Ni質量比が1/4以下であることを特徴とする無鉛はんだ合金。
[2]更に3質量%以下のCuが添加されたことを特徴とする前記[1]に記載の無鉛はんだ合金。
[3]更に0.001〜0.5質量%のTiが添加されたことを特徴とする前記[1]又は前記[2]に記載の無鉛はんだ合金。
[4]銅
又は銅合金とのはんだ接合部界面に(Cu,Ni)
6Sn
5金属間化合物層を形成することを特徴とする前記[1]〜[3]のいずれか1つに記載の無鉛はんだ合金。
[5]はんだ合金中にNi−Sn−P系金属間化合物が晶出していることを特徴とする前記[1]〜[4]のいずれか1つに記載の無鉛はんだ合金。
[6]前記[1]〜[5]のいずれか1つに記載の無鉛はんだ合金を用いた接合材。
[7]金属線の外周に前記無鉛はんだ合金が被覆されている前記[6]に記載の接合材。
[8]前記[6]又は前記[7]に記載の接合材を用いて接合物と被接合物とが接合されている接合体。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、耐疲労特性の向上と反りの抑制とが両立されたSn−Bi系の無鉛はんだ合金、当該無鉛はんだ合金を用いた接合材及び当該接合材により接合された接合体が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施の形態に係る無鉛はんだ合金中に晶出するNi
2SnP金属間化合物を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の無鉛はんだ合金の実施形態について具体的に説明する。
【0018】
〔無鉛はんだ合金〕
本発明の実施形態に係る無鉛はんだ合金は、Bi:20〜60質量%、Ni:0.005〜0.4質量%、P:0.001〜0.1質量%、Sn:残部、及び不可避不純物からなり、かつP/Ni質量比が1/4以下である。なお、不可避不純物とは、はんだ合金の原料中に存在するものや、製造工程において不可避的に混入するものをいう。
【0019】
(Bi)
本実施の形態に係る無鉛はんだ合金は、20〜60質量%のBiを含有する。Bi含量の下限値は、25質量%であることが好ましく、30質量%であることがより好ましく、35質量%であることがさらに好ましい。Bi含量の上限値は、57質量%であることが好ましく、55質量%であることがより好ましく、50質量%であることがさらに好ましい。
【0020】
本実施の形態に係る無鉛はんだ合金に添加されるBiの量が多くなるほど無鉛はんだ合金の融点が下がる。例えば、Sn−57質量%Biの共晶組成を有する無鉛はんだ合金では、融点が139℃であり、有鉛はんだの融点183℃と比較して大幅に融点を下げることができる。
【0021】
一方、共晶組成よりBi濃度の低い範囲(0mass%<Bi<57mass%)の領域では、液相線と固相線の温度差が大きくなり、はんだ接続時の熱応力発生が液相線と固相線の間のどの温度で起こるのか不明であった。本発明者らが鋭意研究した結果、実施例及び参考例に示すように、はんだ接続時の熱応力が、従来の有鉛はんだ(Sn−37質量%Pb)と同等となる組成はSn−20質量%Biであることを見出した。すなわち、20質量%〜57質量%Biの領域では、従来の有鉛はんだより、熱応力を小さくできる。
【0022】
一方、Biは硬くて脆い金属であるため、融点を下げる目的に対し必要以上の量、すなわち、60質量%を超える量の添加は機械的特性の劣化を招き、好ましくない。
【0023】
(Ni及びP)
本実施の形態に係る無鉛はんだ合金は、0.005〜0.4質量%のNiを含有する。その含量は、0.01〜0.3質量%であることが好ましく、0.05〜0.2質量%であることがより好ましい。発明の効果を奏するために0.005質量%の添加が必要であり、過度の添加は液相線温度の上昇を招くので、0.4質量%以下の添加とする。
【0024】
また、本実施の形態に係る無鉛はんだ合金は、0.001〜0.1質量%のPを含有する。その含量は、0.005〜0.05質量%であることが好ましく、0.01〜0.03質量%であることがより好ましい。発明の効果を奏するために0.001質量%の添加が必要であり、後述するようにP/Ni質量比は1/4以下であるので、0.1質量%以下の添加とする。
【0025】
NiはPと共に添加することにより、はんだ合金中に微細なNi−Sn−P系金属間化合物が晶出する。NiとPは、はんだ合金中のSnとともにNi−Sn−P系金属間化合物の形で晶出し、その組成は分析の結果、Ni
2SnPであることが分かった。
図1は、本発明の実施の形態に係る無鉛はんだ合金中に晶出するNi
2SnP金属間化合物を示す図であり、Sn−Bi共晶組成付近のはんだ合金にNiとPを添加し、凝固させた組織を撮影したものである。
【0026】
これにより、Sn−Biはんだ合金の耐熱性を向上させることができる。すなわち、はんだ高温保持時のSnリッチ相とBi相の粗大化を抑制し、機械的特性及び疲労特性の劣化を抑制する効果を発揮する。
【0027】
ここで、Pの添加量が多いと、添加したNiが上述したNi
2SnPの形成にすべて消費され、銅導体との界面等のはんだ接合部界面に作用するNiが消失してしまう。Ni
2SnPの形成にNiをすべて消費させないためには、添加するPとNiのP/Ni原子数比を1/2未満とすれば良い。これはP/Ni質量比で表すと1/4以下ということになる。P/Ni質量比を1/4以下とすることで、はんだ合金と銅導体とのはんだ接合部界面に(Cu,Ni)
6Sn
5の金属間化合物を形成することができる。より好ましくは、界面に多くのNiを作用させるために、P/Ni質量比を1/5以下とすることが好ましく、1/7以下とすることがより好ましく、1/10以下とすることがさらに好ましい。また、Pの添加による効果を得るために1/400以上とする。
【0028】
より具体的には、NiとPとを併用したときにNiはPと優先的に結びつくが、Pが多いと添加したNiがNi
2SnP化合物の晶出のためにすべて消費されてしまう。これに対して、P/Ni質量比を1/4以下にすることで、Pと結びつかずに残るNiが銅及び銅合金とのはんだ接合部界面で(Cu,Ni)
6Sn
5の金属間化合物の形成に作用する。そのため、NiとPとを併用してもクラックの発生を防止できるとともに、はんだ合金中におけるNi
2SnP晶出によって熱疲労特性の向上効果が奏されることになる。
【0029】
(Cu)
本発明の実施形態に係る無鉛はんだ合金は、更に3質量%以下のCuが添加されていることが好ましい。
【0030】
Cuははんだ合金に添加されることにより、SnとCu
6Sn
5金属間化合物を形成し、これがはんだ合金中に微細に分散することで、機械的強度や疲労特性を向上させることができる。一方、添加しすぎると、凝固過程において金属間化合物が粗大化するため、3質量%以下の添加が好ましい。
【0031】
(Ti)
また、本発明の実施形態に係る無鉛はんだ合金は、更に0.001〜0.5質量%のTiが添加されていることが好ましい。
【0032】
Tiははんだ合金に添加されることにより、はんだ凝固組織のBi相を微細化することができ、機械的強度や疲労特性を向上させることができる。加えて、Tiは活性な金属であるため、Tiを添加することにより、ガラスやセラミック等にも溶着することができる。
【0033】
(Sn)
本発明の実施形態に係る無鉛はんだ合金は、上記成分の残部としてSnを含有する。
【0034】
(その他の添加金属)
本実施の形態に係る無鉛はんだ合金は、上記成分の他、効果を損なわない範囲で、その他の金属、例えば、In、Ag、Ge、Gaを添加してもよいが、コストの観点からはこれらの高価な金属は添加しない方が望ましい。
【0035】
(用途)
本実施の形態に係る無鉛はんだ合金は、耐疲労特性の向上と反りの抑制とが両立されたSn−Bi系の無鉛はんだ合金を提供できるため、接合物と被接合物とを接合させて得られる接合体の接合部分に用いる接合材として好適に使用できる。接合体を接合する際の接合材としては、無鉛はんだ合金のみを単体で用いる場合に限らず、金属線(例えば銅又は銅合金からなる導体)の外周に無鉛はんだ合金が被覆されているものを用いても良い。
【0036】
(実施の形態の効果)
本実施の形態によれば、以下の効果を奏する。
(1)Bi:20〜60質量%含有するSn−Bi系の無鉛はんだ合金において、P/Ni質量比が1/4以下となるようにNi:0.005〜0.4質量%及びP:0.001〜0.1質量%を添加したことにより、耐疲労特性の向上と反りの抑制とが両立されたSn−Bi系の無鉛はんだ合金を提供できる。すなわち、本実施形態によれば、はんだ接続時の熱応力を従来のSn−Pb系はんだと同等以下に抑え、疲労寿命を向上させることができる。また、本実施形態によれば、融点が従来のSn−Pb系有鉛はんだ以下の無鉛はんだ合金を得ることができるため、実装基板の反りを抑え、かつ、市場環境においても長期にわたりはんだ接合部の信頼性を維持できる。
(2)高価なAg、In等を含まない構成にすることができるので、無鉛はんだを低コストで製造することができる。
(3)毒性のあるPb、Sb等を含まない構成にすることができるので、環境、生体に対する影響を低減することができる。
【実施例】
【0037】
以下に、本発明の無鉛はんだ合金を、実施例を用いて説明する。なお、本発明は、以下の実施例によって、いかなる制限を受けるものではない。
【0038】
(実施例1〜5、比較例1〜2、参考例1〜8、従来例のはんだ合金の製造)
表1に示す添加量の各成分を融かして混合し、実施例1〜5、比較例1〜2及び参考例1〜8の無鉛はんだ合金、並びに、従来例の有鉛はんだ合金(Sn−37質量%Pb)を製造した。
【0039】
以下に示す各種評価試験及び分析を行なった。その結果を表1に示す。
【0040】
(1)反り量の測定
各種組成のはんだ合金を用いたときの、はんだ接続部に発生する熱応力の大きさを比較するために、実装基板の模擬としてのインバー基板の反り量を以下の方法で測定し、相対的に比較した。
まず、試料を以下の方法で作製した。
溶解めっき法により、断面形状のサイズが0.3mm×5.0mm、長さが50mmの平角Cu線に、製造したはんだ合金ではんだめっきを施したはんだめっき平角Cu線をそれぞれ作製した。次に、断面形状のサイズが0.2mm×10mm、長さが50mmのインバー基板(Fe−36質量%Ni)にフラックスを塗布し、作製したはんだめっき平角Cu線をインバー基板の片面に配置の上、セットし、ホットプレートを用いてはんだ接続することで試料を得た。
その後、室温に冷却し、インバー基板の反り量をノギスにより測定した。
【0041】
ここで、基板としてインバー基板を用いたのは、インバー基板の熱膨張率が0〜2ppm/℃であり、Cuの熱膨張率17ppm/℃と比較して差が大きいため、はんだ接合時に平角Cu線とインバー基板が固着してから、室温に下がるまでの間に大きな熱応力が発生し、反りの測定が容易にできるためである。この試験方法によれば、融点の異なるはんだや、液相線と固相線の温度が大きく異なるはんだにおいても、熱応力の大きさを相対的に比較することができる。
【0042】
(2)金属間化合物の分析
断面観察を行い、はんだ/Cu界面に形成される金属間化合物の分析を行った。
【0043】
(3)温度サイクル試験におけるクラック長さの測定(耐疲労特性の評価)
各種組成のはんだ合金について温度サイクル試験を行ない、疲労強度を比較した。試料は、インバー基板の両面にはんだめっき平角Cu線をはんだ接合し、基板の反りを抑制した点を除き、上記「(1)反り量の測定」で作製した試料と同じである。当該試料を用いることにより、はんだ接合時及び温度サイクル試験中の熱応力を反りで解放させずに、はんだに効率的に与えることができる。温度サイクル試験は、−40/90℃、1000サイクルの条件で行い、試験後の試料の断面観察により、試料の両側から入ったはんだ接続部のクラック長さを測定し、合計した。
【0044】
【表1】
【0045】
表1に記載の「(1)反り量の測定」における測定結果(参考例1〜8)から、Biは添加量が増えるほど、反り量が小さくなり20質量%以上の添加で従来の有鉛はんだ合金(Sn−37質量%Pb)の反り量より小さくなることが分かった。反り量は40質量%Bi〜60質量%Biの領域で最小となることを確認した。
【0046】
また、はんだ/Cu界面の金属間化合物を分析した結果、Niを添加していない従来例、参考例1〜8及び比較例1は、クラックの発生しやすいCu
6Sn
5が形成されていた。また、P/Ni質量比が1/4を超えるようにNiとPを添加した比較例2も、クラックの発生しやすいCu
6Sn
5が形成されていた。それに対し、NiとPを添加し、P/Ni質量比が1/4以下である実施例1〜5は、クラックが生じにくい(Cu,Ni)
6Sn
5が形成されていた。
【0047】
「(3)温度サイクル試験におけるクラック長さの測定」における測定結果から、P/Ni質量比が1/4以下である実施例1〜5は、クラックが抑制されていることが分かった。さらにTiを添加した実施例4〜5は、実施例1〜3よりも更にクラックが抑制されていることが分かった。
【0048】
以上より、本発明の無鉛はんだ合金は、従来の有鉛はんだと比較し、はんだ接合時の基板反り量を抑制しつつ、耐疲労特性を向上できることが分かった。