(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6112499
(24)【登録日】2017年3月24日
(45)【発行日】2017年4月12日
(54)【発明の名称】導電性薄膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01B 5/14 20060101AFI20170403BHJP
H01L 21/28 20060101ALI20170403BHJP
H01L 21/3205 20060101ALI20170403BHJP
H01L 21/768 20060101ALI20170403BHJP
H01L 23/532 20060101ALI20170403BHJP
C01G 23/00 20060101ALI20170403BHJP
C23C 14/28 20060101ALI20170403BHJP
【FI】
H01B5/14 Z
H01L21/28 301R
H01L21/88 M
H01B5/14 A
C01G23/00 C
C23C14/28
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-200917(P2012-200917)
(22)【出願日】2012年9月12日
(65)【公開番号】特開2014-56717(P2014-56717A)
(43)【公開日】2014年3月27日
【審査請求日】2015年9月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100137800
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 正義
(74)【代理人】
【識別番号】100148253
【弁理士】
【氏名又は名称】今枝 弘充
(74)【代理人】
【識別番号】100148079
【弁理士】
【氏名又は名称】梅村 裕明
(72)【発明者】
【氏名】幾原 雄一
(72)【発明者】
【氏名】山本 剛久
(72)【発明者】
【氏名】柴田 直哉
(72)【発明者】
【氏名】水向 祐樹
(72)【発明者】
【氏名】小林 俊介
【審査官】
近藤 政克
(56)【参考文献】
【文献】
日本金属学会講演概要2011年秋期(第149回)大会,2011年10月20日,S1・1
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 5/14
C01G 23/00
C23C 14/28
H01L 21/28
H01L 21/3205
H01L 21/768
H01L 23/532
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式ABO3で表されるペロブスカイト型酸化物で形成され、複数の空孔が集まって形成された空孔群を有し、前記空孔群によって歪が生じている導電性薄膜を製造する方法であって、
前記Bサイトの金属イオンが過剰な組成の前記導電性薄膜を、1150℃以上の温度で成膜することを特徴とする導電性薄膜の製造方法。
【請求項2】
前記Aサイトに前記空孔が形成されていることを特徴とする請求項1記載の導電性薄膜の製造方法。
【請求項3】
前記Aサイトと前記Bサイトは、それぞれ1種又は2種以上の金属イオンを含むことを特徴とする請求項1又は2記載の導電性薄膜の製造方法。
【請求項4】
前記AサイトはMg, Ca, Sr, Ba, Ra, Li, Na, K, Rb, Cs, Fr, La, Ce, Pr, Nd, Pm, Eu, Gd, Tb, Dy, Ho, Er, Tm, Yb, Lu, Y, Pb, Bi, Agのいずれか1種又は2種以上の金属イオンを含み、
前記BサイトはSc, Ti, V, Cr, Mn, Fe, Co, Ni, Cu, Zn, Al, Zr, Nb, Mo, Tc, Ru, Rh, Pd, Cd, In, Sn, Ir, W, Taのいずれか1種又は2種以上の金属イオンを含む
ことを特徴とする請求項1又は2記載の導電性薄膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性薄膜に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、導電性材料の物性を向上させる方法として導電性材料で形成された薄膜に歪みを印加する技術の開発が様々な分野でなされている。
【0003】
例えば半導体装置においては、ゲート長が50nm以下となったことにより従来のスケーリング則のみによる性能向上に限界が生じていた。これにより、従来のスケーリング則のみによる性能の向上に加え、素子に歪みを印加することによりキャリアの移動度を高める技術の開発がなされている。
【0004】
素子に歪みを印加する方法として特許文献1には、基板材料と格子定数の異なる材料で導電性薄膜を形成する方法が開示されている。基板材料と薄膜材料の格子定数に差がある場合、導電性薄膜は基板材料に格子定数が拘束されて成長するため、導電性薄膜中に歪みが印加される。このように形成された導電性薄膜は、キャリアの移動度が向上する。
【0005】
また、特許文献2には、素子分離用溝の内壁からトランジスタ上まで連続して形成されたストレスライナー膜を有する半導体装置が開示されている。このように形成されたストレスライナー膜は、半導体基板にストレスをかけ導電性薄膜を歪ませることにより、キャリアの移動度を向上させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−177375号公報
【特許文献2】特開2006−228950号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら上記特許文献1の場合、導電性薄膜に歪みを印加するには、当該導電性薄膜と格子定数の異なる基板が必要であり、導電性薄膜単独で歪みが印加された状態を維持することは不可能である。
【0008】
同様に上記特許文献2の場合、導電性薄膜にストレスをかけるにはストレスライナー膜が必要であり、導電性薄膜単独で歪みが印加された状態を維持することは不可能である。
【0009】
そこで、本発明は、他の構成によらずに物性を向上することができる導電性薄膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る導電性薄膜
の製造方法は、一般式ABO
3で表されるペロブスカイト型酸化物で形成され
、複数の空孔が集まって形成された空孔群を有し、前記空孔群によって歪が生じている
導電性薄膜を製造する方法であって、前記Bサイトの金属イオンが過剰な組成の前記導電性薄膜を、1150℃以上の温度で成膜することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、導電性薄膜は、空孔群により歪みが生じているため、当該導電性薄膜単独で歪みが生じている状態を維持することができるので、他の構成によらずに物性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本実施形態に係る導電性薄膜を備えた導電性薄膜体の全体構成を示す斜視図である。
【
図2】ペロブスカイト型酸化物の結晶構造のモデルを示す斜視図である。
【
図3】本実施形態に係る導電性薄膜を模式的に示す平面図である。
【
図4】本実施形態に係る導電性薄膜を作製する成膜装置の構成を模式的に示す図である。
【
図5】レーザー光のエネルギー密度と、基板の格子と薄膜の格子のずれとの関係を示すグラフである。
【
図6】本実施形態に係る導電性薄膜の特性を示す図であり、
図6AはXRD測定結果、
図6Bはレーザー光のエネルギー密度と基板の格子定数に対する導電性薄膜の格子光膨張率との関係を示すグラフである。
【
図7】比較例に係る導電性薄膜に対しHRTEM測定を行った結果を示す図である。
【
図8】本実施形態に係る導電性薄膜に対しHRTEM測定を行った結果を示す図である。
【
図9】本実施形態に係る導電性薄膜に対しHAADF−STEMにより解析を行った結果を示す図である。
【
図10】
図10Aは
図9に係るHAADF−STEM像からフーリエ変換を用いた手法により得られた像であり、
図10Bは
図10Aの像の明暗の強度と距離を数値化したグラフである。
【
図11】
図11Aは本実施形態に係る導電性薄膜における欠陥が生じている部分のHAADF−STEM像であり、
図11Bは
図11Aと同じ部分におけるLAADF−STEM像である。
【
図12】本実施形態に係る導電性薄膜のより広範囲におけるLAADF−STEM像である。
【
図13】本実施形態に係る導電性薄膜の移動度を測定した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0014】
(1)導電性薄膜体の構成
図1に示す導電性薄膜体1は、基板2と、当該基板2上に形成された導電性薄膜3とを備える。基板2は、材料は特に限定されない単結晶又は多結晶基板を用いることができる。導電性薄膜3は、一般式ABO
3で表されるペロブスカイト型酸化物で形成されている。ペロブスカイト型酸化物は、
図2に示すような結晶構造を有し、その各頂点に位置するAサイト5に金属イオンA、体心位置であるBサイト6に金属イオンB、各面心位置9に酸素イオンがそれぞれ配置されている。
【0015】
導電性薄膜3は、
図3に示すように、Aサイト5の空孔7が複数集まった空孔群8が形成されている。空孔群8を形成する空孔7の数は特に限定されるものではない。空孔群8は、複数の空孔7が互いに隣接して形成されている。この空孔群8により、Aサイト5の同種類の電荷同士及びBサイト6の同種類の電荷同士が反発し合うクーロン反発が生じる。このように空孔7が複数集まった空孔群8によって生じたクーロン反発は大きく、導電性薄膜3に局所的な歪み10を生じさせる。導電性薄膜3は、空孔群8が複数形成されることにより、全体として歪みが生じている。
【0016】
一般式ABO
3で表されるペロブスカイト型酸化物は、Aサイト5に含まれる元素(金属イオン)とBサイト6に含まれる元素(金属イオン)との組成比を変更することにより、容易に所望の空孔7を形成することができる。本実施形態の場合、Bサイト6に含まれる金属イオンを過剰にすることにより、Aサイト5の空孔7を形成することができる。導電性薄膜3を所定温度以上で成膜することによりAサイト5の空孔7が複数集まった空孔群8を形成することができる。これにより導電性薄膜3は全体として歪みが生じる。
【0017】
因みにAサイト5及びBサイト6に通常形成される空孔は孤立しており、複数集まって空孔群を形成することはない。孤立した空孔は、クーロン反発を生じるものの本実施形態に比べ格段に小さく、局所的な歪みを生じさせることはない。
【0018】
これに対し本実施形態に係る導電性薄膜3を構成するペロブスカイト型酸化物は、Aサイトに含まれる金属イオンの数をBサイトに含まれる金属イオンの数に対し減らすことにより、結晶構造を保ったままAサイトに空孔を容易に形成することができる。さらに本実施形態の場合、導電性薄膜3を形成する際の成膜温度を所定温度以上とすることによりAサイトの空孔が複数集まった空孔群を形成することができる。
【0019】
導電性薄膜3を構成する元素は特に限定されるものではないが、例えば、Aサイト5はMg, Ca, Sr, Ba, Ra, Li, Na, K, Rb, Cs, Fr, La, Ce, Pr, Nd, Pm, Eu, Gd, Tb, Dy, Ho, Er, Tm, Yb, Lu, Y, Pb, Bi, Agのいずれか1種又は2種以上の金属イオンを含むことができる。また、Bサイト6はSc, Ti, V, Cr, Mn, Fe, Co, Ni, Cu, Zn, Al, Zr, Nb, Mo, Tc, Ru, Rh, Pd, Cd, In, Sn, Ir, W, Taのいずれか1種又は2種以上の金属イオンを含むことができる。
【0020】
本実施形態の場合、基板2は結晶方位が〈100〉のSrTiO
3からなる。導電性薄膜3は、NbがドープされたSrTiO
3からなり、ホモエピタキシャル成長させて約100nmの厚さに形成される。SrTiO
3とNbがドープされたSrTiO
3の物性は表1に示す通りである。
【0022】
具体的には、Bサイト6に含まれるTiを過剰にし、Aサイト5に含まれるSrの空孔7を形成する。導電性薄膜3を成膜する際の温度を1150℃とする。このようにして形成された導電性薄膜3は、Aサイト5に含まれるSrの空孔7が複数集まった空孔群8が形成されることにより全体として歪みが生じている。
【0023】
(2)導電性薄膜の製造方法
次に、導電性薄膜3の製造方法について説明する。導電性薄膜3は、パルスレーザー堆積法(Pulsed Laser Deposition:PLD法)により基板2上に形成することができる。PLD法によれば、ターゲット16を構成する材料物質をそのまま基板2へ転写し薄膜を形成することができる。
【0024】
PLD法による成膜は
図4に示す成膜装置12を用いることができる。成膜装置12は、チャンバー13、光源14、レンズ15、ターゲット16、基板保持部17を備える。チャンバー13は超高真空に保持され、ターゲット16と当該ターゲット16に対向するように基板2を保持する基板保持部17が設けられている。光源14は、レンズ15を通してターゲット16にレーザー光を照射するように保持されている。
【0025】
光源14から照射されたレーザーはレンズ15によりターゲット16に焦点が合わせられる。レーザー光がターゲット16に照射されると、ターゲット16を構成する材料物質が気化し、気化した材料物質がプラズマ化することによりプルームが生成される。この気化した材料物質が基板2上に堆積し導電性薄膜3が成膜される。
【0026】
本実施形態に係るSrTiO
3からなる導電性薄膜3を作製する場合、Bサイト6の金属イオンであるTiを過剰にすることによりSrの空孔7が複数集まった空孔群8を形成し、全体として歪みが生じた導電性薄膜3を得ることができる。
【0027】
ターゲット16にNbがドープされたSrTiO
3を用いた場合、レーザー光のエネルギー密度を変えることにより、
図5に示すように、基板2上に形成される導電性薄膜3のSrとTiの組成比を変更できることが知られている。本図は横軸にレーザー光のエネルギー密度を示し、縦軸に基板の格子と薄膜の格子のずれを示している。本図によれば成膜装置12は、レーザー光のエネルギー密度が約0.6J/cm
2のときSrとTiの組成比を50:50にすることができる。一方、レーザー光のエネルギー密度を0.6J/cm
2より小さくするとSr過剰となり、0.6J/cm
2より大きくするとTi過剰となる。すなわち、レーザー光のエネルギー密度を変化させて導電性膜を作製すると、その格子膨張の値が極小値を示し、SrとTiの組成比が50:50となる。そして、その極小値を与えるレーザー光のエネルギー密度よりも小さいエネルギー密度では、Sr過剰となり、大きいエネルギー密度では、Ti過剰となる。
【0028】
ここで、本実施形態に係るNbがドープされたSrTiO
3からなる導電性薄膜3を形成するには、例えば以下の条件を用いることができる。基板2はSrTiO
3からなり、結晶方位を〈001〉とする。ターゲット16はNbが0.1at.%ドープされたSrTiO
3の単結晶材料を用いた。光源14は、KrFエキシマレーザー(波長248nm)を用い、
図6Bに示すように格子膨張が極小となるレーザー光のエネルギー密度0.45J/cm
2よりも大きい0.54J/cm
2とし、周波数を2Hzとした。基板2の温度は1150℃とし、チャンバー13内の圧力は1.0×10
−8Torr以下、ターゲット16と基板2間の距離は50mmとし、厚さ100nmの導電性薄膜3を成膜した。最後に、大気中で400℃、12時間の熱処理をしたところ、Ti過剰の導電性薄膜3が形成された導電性薄膜体1を作製することができた。
【0029】
(3)導電性薄膜の特性
上記の方法によって作製されたNbがドープされたSrTiO
3からなる導電性薄膜3は、次のような特性を有する。以下の特性の確認に用いた導電性薄膜は、本実施形態に係るTi過剰としたものに加え、比較例として、格子膨張が極小となるレーザー光のエネルギー密度である0.45J/cm
2、0.33J/cm
2とすることにより、SrとTiの組成比が50:50、Sr過剰、となるものをそれぞれ用意した。
【0030】
(3−1)導電性薄膜のX線回折(X-Ray Diffraction:XRD)測定と格子の膨張率
作製した導電性薄膜体についてXRDパターンを測定したところ、
図6Aに示すような解析結果が得られた。本図は横軸に回折角を示し、縦軸に回折X線強度を示しており、「線」が測定結果で「点」がシミュレーション結果である。本図から明らかなように、シミュレーション結果とほぼ同じ測定結果が得られた。
【0031】
また、基板2の格子に対する導電性薄膜の格子の膨張率を測定したところ、
図6Bに示すような結果が得られた。本図は横軸にレーザー光のエネルギー密度を示し、縦軸に格子の膨張率を示している。本図においても
図5に示したグラフと同様、SrとTiの組成比が50:50の場合に格子の膨張率が最も小さくなっている。
【0032】
(3−2)導電性薄膜の高分解能透過電子顕微鏡(High-Resolution Transmission Electron Microscopy:HRTEM)測定
【0033】
作製した導電性薄膜についてHRTEM測定を行った。
図7はSrとTiの組成比が50:50の導電性薄膜の結果である。SrとTiの組成比が50:50の場合、欠陥構造はほとんど認められない。
【0034】
これに対し
図8はSrとTiの組成比がTi過剰の導電性薄膜3の結果である。本図の矢印部分において特異な回折コントラストが観察された。特異な回折コントラストは結晶の周期性の乱れに起因して生じるため、当該矢印部分に何らかの欠陥が形成されていると考えられる。すなわち、SrとTiの組成比がTi過剰であることを考慮すると、HRTEMコントラストから観察された欠陥構造はSrの空孔7となっていることが分かる。
【0035】
(3−3)導電性薄膜の歪み場の測定
SrとTiの組成比がTi過剰の導電性薄膜3について高角度散乱暗視野法(High-Angle Annular Dark-field Scanning Transmission Electron Microscopy:HAADF−STEM)により解析を行った。
図9は欠陥が生じている部分のHAADF−STEM像である。図中、明るい点がSr原子であり、暗い点がTi原子及びO原子である。
【0036】
そして本図のHAADF―STEM像からフーリエ変換を用いた手法により得られた像が
図10Aである。本図は、Sr原子列の平行方向の情報の周波数成分のみを抽出し、逆フーリエ変換を施すことで、Sr原子列の平行方向の情報のみを励起した像である。
【0037】
図10Bは
図10Aの像の明暗の強度と距離を数値化したグラフであり、横軸に明るさの強度(任意単位)を示し、縦軸に距離を示している。実線が
図10A中のA点から、破線が
図10A中のB点から、それぞれ下側方向にスキャンした際のグラフである。A点から下側方向は欠陥構造がある位置であり、B点から下側方向は欠陥構造がない位置である。本図から明らかなように、破線に対し実線がずれていることから、欠陥構造があるA点から下側方向においては、Srの位置が大きく広がっており、歪みが生じていることが分かる。測定した導電性薄膜3はTi過剰、すなわちSrが欠乏しているので、Srの空孔7ができていることになる。このことから、導電性薄膜3はSrの空孔7が集まることによって歪みが生じているといえる。なお、破線に対し実線がずれていない部分においては歪みが生じていないのではなく、本方法では検出することができない小さな歪みが生じている。
【0038】
さらに低角度散乱暗視野法(Low-Angle Annular Dark-Field Scanning Transmission Electron Microscopy:LAADF−STEM)により解析を行い、より広範囲の歪みについて確認した。
図11Aは欠陥が生じている部分のHAADF−STEM像であり、
図11Bは
図11Aと同じ部分におけるLAADF−STEM像である。
図11Bに認められる白い靄のような部分は歪みが可視化されている部分である。本図において空孔群8は中心位置に1箇所のみ形成されているが、当該1箇所の空孔群8のみによって歪みが空孔群8の周囲に広がっていることを確認することができた。
【0039】
図12は、導電性薄膜3のより広範囲におけるLAADF−STEM像である。本図に示すように、導電性薄膜3には複数の空孔群8が形成されており、当該空孔群8の周囲に局所的な歪み10が生じている。この局所的な歪み10が複数生じることにより、導電性薄膜3は全体として歪みが生じている。因みに、SrMnO
3からなる導電性薄膜3でも同様に複数の空孔群8が形成され、当該空孔群8の周囲に局所的な歪みが生じることが確認されている。
【0040】
(3−4)導電性薄膜の移動度特性
本実施形態に係る導電性薄膜3及び、SrとTiの組成比がSr過剰の導電性薄膜と、50:50の導電性薄膜とについて電子移動度を測定したところ、
図13に示す結果が得られた。本図は、横軸にレーザー光のエネルギー密度を示し、縦軸に格子膨張率及び電子移動度を示している。
【0041】
50:50の導電性薄膜の場合、すなわち歪みが生じていない場合は電子移動度が約7910cm
2V
−1s
−1である。これに対し、本実施形態に係るTi過剰の導電性薄膜3の場合は電子移動度が一桁高い71897cm
2V
−1s
−1であった。このことから本実施形態に係る導電性薄膜3は、空孔7が複数集まった空孔群8を形成し歪みを生じていることにより、歪みを生じていない場合に比べ約10倍の電子移動度を得られることが確認できた。
【0042】
(4)効果
本実施形態に係る導電性薄膜3は、SrとTiの組成比をTi過剰とすることによりSrの空孔7が複数集まった空孔群8が形成され、当該空孔群8により歪みが生じている。この歪みにより導電性薄膜3は移動度を向上することができる。
【0043】
導電性薄膜3は、空孔群8により歪みが生じているため、当該導電性薄膜3単独で歪みが生じている状態を維持することができる。したがって、導電性薄膜3は、従来のように歪みが生じている状態を維持するために基板2やストレスライナー膜などを必要としないため、他の構成によらずに物性を向上することができる。
【0044】
導電性薄膜3は、空孔群8により歪みが生じているため、厚さ方向に歪みを生じさせることができる。因みに従来の方法の場合、基板2又はストレスライナー膜に接している面からごく薄い部分に歪みを生じさせることができるものの、厚さ方向に歪みを生じさせることは困難であった。
【0045】
(5)導電性薄膜の用途
上記のように構成される導電性薄膜3は、当該導電性薄膜3が有する優れた移動度を基に、透明電極やトランジスタ素子に利用することができる。
【0046】
(6)変形例
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨の範囲内で適宜変更することが可能である。本実施形態の場合、導電性薄膜3は基板2上に形成されている場合について説明したが、本発明はこれに限られない。例えば本発明に係る導電性薄膜3は、当該導電性薄膜3単独で歪みが生じている状態を維持することができるので、基板2から引き離した状態で利用することができる。
【0047】
また上記実施形態では、導電性薄膜3をPLD法で形成する場合について説明したが、本発明はこれに限らず、分子線エピタキシー(Molecular Beam Epitxy:MBE)法、有機金属気相成長(Metal-Organic Chemical Vapor Deposition:MOCVD)法などにより形成することとしてもよい。
【符号の説明】
【0048】
3 :導電性薄膜
7 :空孔
8 :空孔群