特許第6112698号(P6112698)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6112698
(24)【登録日】2017年3月24日
(45)【発行日】2017年4月12日
(54)【発明の名称】炭化珪素半導体素子及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/28 20060101AFI20170403BHJP
   H01L 29/12 20060101ALI20170403BHJP
   H01L 29/78 20060101ALI20170403BHJP
   H01L 21/336 20060101ALI20170403BHJP
   H01L 29/47 20060101ALI20170403BHJP
   H01L 29/872 20060101ALI20170403BHJP
【FI】
   H01L21/28 301B
   H01L29/78 652T
   H01L29/78 652L
   H01L29/78 658F
   H01L21/28 301S
   H01L29/48 D
   H01L29/86 301D
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-81906(P2012-81906)
(22)【出願日】2012年3月30日
(65)【公開番号】特開2013-211467(P2013-211467A)
(43)【公開日】2013年10月10日
【審査請求日】2015年3月19日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100104190
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 昭徳
(72)【発明者】
【氏名】辻 崇
(72)【発明者】
【氏名】木下 明将
(72)【発明者】
【氏名】福田 憲司
【審査官】 長谷川 直也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−062524(JP,A)
【文献】 特開2006−344688(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/054140(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/115294(WO,A1)
【文献】 特開2000−208438(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/28−21/288、21/329、21/336、
21/44−21/445、29/12、
29/40−29/49、29/739、29/78、
29/86−29/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化珪素基板上に、Niからなる薄層及びTiからなる薄層を堆積した後のシンタリングによって形成されたNi2SiおよびTiCから成る薄膜が、TiCが表面に析出する構造となっており、さらにこのTiC表面に第一の薄膜としてTi、第二の薄膜としてNiを含む多層薄膜が形成された構造を有し、前記TiCからなる層と前記Ti層との界面において、前記界面に存在する元素に対するTiC由来のC組成比が15at〜28at%であることを特徴とする炭化珪素半導体素子。
【請求項2】
請求項1に記載の炭化珪素半導体素子の製造方法であって、
炭化珪素基板上にNiなる薄膜及びTiからなる薄層を堆積する工程(A)、
前記堆積の後にシンタリングして、前記基板上にNi2SiおよびTiCから成る薄膜を、TiCが表面に析出するように形成する工程(B)、及び
該TiCからなる薄層の表面に、第一の薄膜としてTi、第二の薄膜としてNiを含む多層薄膜を形成する工程(C)、
を少なくとも有し、
前記工程(A)において、Tiからなる薄層及びNiからなる薄層の膜厚比(Ti/Ni)が0.24〜0.63となるように堆積することを特徴とする炭化珪素半導体素子の製造方法。
【請求項3】
前記工程(B)と、前記工程(C)との間に、100nm以上の膜厚のTiからなる薄層を堆積する工程(D)を有することを特徴とする請求項2に記載の炭化珪素半導体素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体材料として炭化珪素(以下「SiC」ともいう)を用いた半導体素子、特に表側から裏側に電流を流す縦型パワーデバイス半導体素子およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭化珪素半導体は、シリコン半導体と比較して大きなバンドギャップを持つため、高い絶縁破壊電界強度を有する。導通状態における抵抗であるオン抵抗は、その絶縁破壊電界強度の3乗に逆比例するため、例えば広く用いられている4H型と呼ばれる炭化珪素半導体においてはそのオン抵抗をシリコン半導体の数100分の1に抑制することができる。放熱が容易となる大きな熱伝導度の特性ともあいまって、次世代の低損失な電力用半導体素子としての期待が持たれている。
【0003】
このような電力用半導体素子では、電流をウェハの表側から裏側に流す縦型構造を取る場合が一般的である。電極パッドの素子の総面積に対する割合は無視できないため、一つの電極をウェハ裏面に形成することで、同じ電流をより小さな面積で実現できることが主な理由である。裏面電極は半田層を介してDBC(Direct Bonded Copper)と呼ばれる銅板に接着される。一方、表面電極は超音波によりAlワイヤーボンディングされ、Alワイヤーの他端はDBCに接着される。
【0004】
このような電力用半導体素子の裏面電極には大きく二つの性能が求められる。一つには金属/半導体界面でのオーミック接触抵抗を低減すること、もう一つは半田層との密着強度を高めることである。
低いオーミック接触抵抗に対しては、Niを堆積した後に還元雰囲気中で900℃以上の温度でシンタリングすることにより、Ni2Siを形成すると良いことが知られている。基板濃度1019cm-3に対して、接触抵抗が10-7Ωcm2の良好な値が得られている(非特許文献1)。
【0005】
しかしながら、上記の方法では、以下の反応式からも分かるようにグラファイト構造をしたカーボンが表面に形成されてしまう。このグラファイトの一部はエネルギー的に安定なNi2Si表面に析出する。
SiC+2Ni→Ni2Si+C・・・(1)
したがって、図2に示すように、オーミック層を形成した段階では、表面側から、グラファイト層/Ni2Si層/SiC基板と言う構造となっている。
半田との接着のために、例えばTi、Ni、Auを順次堆積した多層膜をこのオーミック層上に形成するが、グラファイト層のために剥離が発生することが知られている(非特許文献2)。
【0006】
このグラファイト層での剥離を抑制する対策の一つとして、SiC基板上にNiのみならずTiも堆積し、その上で上記のシンタリングを実施する方法が提案されている(特許文献1)。NiはCよりSiとの反応エンタルピーが低く、逆にTiはSiよりCとの反応エンタルピーが低いため、以下の式に示されるようにSiCから放出されるカーボンはTiとの反応によりTiCに変換される。
SiC+sNi+Ti→Ni2Si+TiC・・・(2)
この場合のオーミック層を形成した段階での表面側からの層構成は、図3に示すように、TiC層/Ni2Si層/SiC基板となっている(非特許文献3)。このTiC層上に、例えばTi、Ni、Auを順次堆積した多層膜を形成したところ、密着性は非常に良好となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−344588号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】S.Tanimoto, et al., Materials science Forum, Vols.389-393 (2002) p.879
【非特許文献2】S.Tanimoto et al., Phys.Status SolidiA 206, No.10, pp.2417-2430 (2009))
【非特許文献3】M.Levit et al., J.Appl.Phys., Vol.80, No.1 (1996)pp.167-173)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、実際の素子製造工程では、オーミック層形成後、直ちにTi、Ni、Auから成る3層膜を形成するわけではなく、その間には素子の種類によって様々な工程が存在する。
例えば、ショットキーバリアダイオードを例とすると、オーミック電極層(TiC+Ni2Si)形成後の工程は、ショットキーコンタクトホール、ショットキーメタル形成、Al−Siメタル形成、ポリイミド形成となる。オーミック電極工程が、これらの工程の前に実施されるのは、オーミック電極層のシンタリング温度が900℃以上と高いためである。また、Ti、Ni、Auから成る3層膜が、前工程の最後に実施されるのは、Auの製造ライン内へのクロスコンタミネーションを防止するためである。以降、前工程の最後に堆積されるTi、Ni、Auから成る3層膜のことを、「裏面3層メタル」と呼ぶこととする。
【0010】
本発明者らが検討した結果、オーミック層形成後、裏面3層メタルを形成する前に、ショットキーコンタクトホール、ショットキーメタル形成、Al−Siメタル形成、ポリイミド形成等の工程を実施した場合、前述のようにNi2Siとその上にTiCを析出するように裏面電極を作製したのにも拘わらず、ウェハダイシングとそれに引き続くダイシングテープ(粘着力0.2N/20mm)からのピックアップ後に、剥離が発生するという問題があることが判明した。
【0011】
本発明は、こうした問題を鑑みてなされたものであって、ウェハダイシングとそれに引き続くダイシングテープからのピックアップ後にも剥離を生ずることのない炭化珪素半導体素子及びその製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、炭化珪素基板上にNiおよびTiを含む薄膜を堆積した後にシンタリングによって形成されるNi2SiおよびTiCから成る薄膜が、TiCが表面に析出する構造となっており、さらにこのTiC表面に第一の薄膜としてTi、第二の薄膜としてNiを含む多層薄膜が順次堆積された構造において、TiCとTiとの界面において、前記界面に存在する元素に対するTiC由来のC組成比が15at〜28at%となるようにすればよいという知見を得た。
また、上記の裏面構造においてシンタリング前に堆積されるTiおよびNiの膜厚比がTi/Ni=0.2〜0.63となるようにすればよいことも判明した。
さらに、上記に記載の構造において、TiCを表面側とするNi2SiおよびTiCから成る薄膜を形成する工程と、第一の薄膜としてTi、第二の薄膜としてNiを含む多層薄膜を順次堆積する工程との間に、TiC上にTi薄膜を堆積する工程を入れるとよいことも判明した。
【0013】
本発明はこれらの知見に基づいて完成に至ったものであり、本発明によれば、以下の発明が提供される。
[1]炭化珪素基板上に、Niからなる薄層及びTiからなる薄層を堆積した後のシンタリングによって形成されたNi2SiおよびTiCから成る薄膜が、TiCが表面に析出する構造となっており、さらにこのTiC表面に第一の薄膜としてTi、第二の薄膜としてNiを含む多層薄膜が形成された構造を有し、前記TiCからなる層と前記Ti層との界面において、前記界面に存在する元素に対するTiC由来のC組成比が15at〜28at%であることを特徴とする炭化珪素半導体素子。
[2][1]に記載の炭化珪素半導体素子の製造方法であって、
炭化珪素基板上にNiなる薄膜及びTiからなる薄層を堆積する工程(A)、
前記堆積の後にシンタリングして、前記基板上にNi2SiおよびTiCから成る薄膜を、TiCが表面に析出するように形成する工程(B)、及び
該TiCからなる薄層の表面に、第一の薄膜としてTi、第二の薄膜としてNiを含む多層薄膜を形成する工程(C)、
を少なくとも有し、
前記工程(A)において、Tiからなる薄層及びNiからなる薄層の膜厚比(Ti/Ni)が0.2〜0.63となるように堆積することを特徴とする炭化珪素半導体素子の製造方法。
[3]前記工程(B)と、前記工程(C)との間に、Tiからなる薄層を堆積する工程(D)を有することを特徴とする[2]に記載の炭化珪素半導体素子の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ウェハダイシングとそれに引き続くダイシングテープからのピックアップ後にも剥離を生ずることのない炭化珪素半導体素子を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の炭化珪素半導体素子の一実施形態の層構成を模式的に示す図
図2】SiC基板上にNiを堆積した後にシンタリングすることによりオーミック層を形成した段階での層構成を模式的に示す模式図
図3】SiC基板上にNi及びTiを堆積した後にシンタリングすることによりオーミック層を形成した段階での層構成を模式的に示す図
図4(a)】X線光電子分光法(XPS)にて、ウェハの剥離界面近傍での各元素の深さ方向のプロファイルを測定した図
図4(b)】X線光電子分光法(XPS)にて、ウェハの密着した部分の各元素の深さ方向のプロファイルを測定した図
図5(a)】XPSによる、C1sスペクトルを示す図
図5(b)】XPSによる、Ti2pスペクトルを示す図
図5(c)】XPSによる、O1sスペクトルを示す図
図6】Ti(上段)とNI(下段)のAESマッピング(10μm)の結果を示す図。
図7(a)】オーミックシンタ直後に、XPSによるTiおよびCの深さ方向プロファイルを測定した結果を示す図
図7(b)】アンモニア過水処理後に、XPSによるTiおよびCの深さ方向プロファイルを測定した結果を示す図
図7(c)】リン硝酢酸エッチング後に、XPSによるTiおよびCの深さ方向プロファイルを測定した結果を示す図
図7(d)】BHFエッチング後に、XPSによるTiおよびCの深さ方向プロファイルを測定した結果を示す図
図8】オーミック層と裏面3層メタルTiとの界面におけるTiC由来のカーボン組成と剥離の有無の相関を示す図
図9】裏面Ti膜厚と歩留まり(剥離が発生しなかった素子の割合)の相関を示す図
図10】パワーサイクル試験の結果を示す図
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の炭化珪素半導体素子及びその製造方法について、図面を用いて、説明する。
図1は、本発明の炭化珪素半導体素子の一実施形態の層構成を模式的に示す図である。
本発明の炭化珪素半導体素子は、該図に示すように、炭化珪素(SiC)基板上に、Niからなる薄層及びTiからなる薄層を堆積した後のシンタリングによって形成されたNi2SiおよびTiCから成る薄膜が、TiCが表面に析出する構造となっており、さらにこのTiC表面に第一の薄膜としてTi、第二の薄膜としてNiを含む多層薄膜が順次堆積された構造を有しており、該TiCとTiとの界面においてTiC由来のC組成比を15%以上と高くすることにより、3層メタル(Ti/Ni/Au)の剥離を防止するものである。
【0017】
(剥離のメカニズムの検証)
最初に、本発明者らが検証した剥離のメカニズムについて説明する。
剥離の原因を調査するため、最初に、深さ方向における剥離箇所を調査したところ、どのウェハにおいても剥離面は、オーミック電極層と裏面3層メタル中のTiとの界面であることが分かった。
次に、剥離に至るメカニズムを解明するために、剥離面を含んだ領域を分析することとした。
【0018】
まずは、X線光電子分光法(XPS)にて剥離界面近傍での各元素の深さ方向のプロファイルを測定した。剥離界面(オーミック層とTi層との界面)近傍の情報を保護するために、裏面3層メタルをすべて剥離せず、Au、Niのみを王水およびリン硝酢酸液にて除去した。剥離したウェハでも全面で剥離を起こしているわけではないので、剥離がない領域で測定を行った。結果を、図4(a)及び図4(b)に示す。
その結果、剥離したウェハと剥離が起こらないウェハで、剥離面に存在するカーボンの組成に差が見られた。すなわち、図4(a)に示すように、剥離したウェハは、剥離面でのカーボン組成が数%と低いのに対し、図4(b)に示すように、剥離なく密着しているウェハでは、剥離面に存在するカーボン組成が20%以上と高いことが判明した。
【0019】
次いで、前記の剥離なく密着しているウェハについて、XPSスペクトルのケミカルシフトによりカーボンの結合状態を調べた。
C1sスペクトル、Ti2pスペクトル、及びO1sスペクトルを、それぞれ、図5(a)ないし図5(c)に示す。
その結果、C1sのケミカルシフト(図5(a))より、剥離界面で検出されるカーボンは金属元素との結合状態にあることが分かった。一方、Ti2pのケミカルシフト(図5(b))を調べると、剥離界面ではTiOまたはTiCの結合状態にあることが分かった)。また、O1sのケミカルシフト(図5(c))が示すように、剥離界面での酸素元素の検出がほとんどないことから、剥離界面に存在するのはTiCと結論付けられる。
【0020】
様々な条件にて裏面構造を作製し、剥離面でのTiC由来のカーボン組成を整理すると、10%以下で剥離が必ず発生し、10〜15%で剥離がしばしば発生、15%以上では剥離の発生は見られなかった。
このようにオーミック層と裏面3層メタルのTiとの界面に存在するTiC量が剥離に影響するパラメータであることが分かった。
【0021】
しかし、TiC量が減少するとなぜ剥離が発生するかという点において、メカニズムが不明であった。
そこで、考察としてTiC量が減少しても裏面全体に一様に分布していればTiCと裏面3層メタルのTiとの結合状態は変わらないので密着強度は変化しないが、TiCが面内でモザイク状になり結合力が低い物質が露出してくれば密着強度は低下すると予想した。
さらに、TiCは、製造工程で使用される、アンモニア過水、リン硝酢酸にエッチングされ、BHF(バッファードフッ酸)にはエッチングされないと言うことが知られている(参考文献:M.Eizenberg and S.P.Mararka, J.Appl.Phys.,Vol.54,No.6 (1983) pp.3190-3194)ので、薬液によるエッチングによりTiCがモザイク状になることも予想した。
【0022】
以上のような想定メカニズムを検証するために、オージェ電子分光法(AES)による元素面内マッピングおよびXPSによる深さ方向プロファイルを実施した。
調査したウェハは、(a)オーミック工程のみのもの(すなわち、シンタリング直後のもの)、(b)オーミック層工程からショットキーメタル工程までを経たもの(すなわち、アンモニア過水処理後のもの)、(c)オーミック層工程からAl−Siメタル工程までを経たもの(すなわち、リン硝酢酸エッチング後のもの)、(d)オーミック層工程から裏面3層メタル直前までの工程を経たもの(すなわち、BHFエッチング後のもの)、の4種類である。
【0023】
図6は、Ti(上段)及びNi(下段)のAESマッピング(10μm)の推移を示す図である。
図6からわかるように、(a)のオーミック層工程直後では一様にTiが形成されておりNiがほとんど検出されないことから、TiCが面内に一様に堆積されているものと思われる。(b)→(c)→(d)と工程が進むにつれ、Tiの面内分布がまばらになり、Tiのピークが低下した領域でNiのピークが増加した。
このことから工程が進むにつれ、TiCが一部エッチングされ、下地のNiSiが露出してくるものと考えられ、想定メカニズムが検証された。
【0024】
図7(a)〜図7(d)に、XPSによるTiおよびCの深さ方向プロファイルを測定した結果を示す。(a)〜(d)は上記のウェハと対応している。
図7からまず分かることは、工程が進むにつれてTiおよびCが検出される膜厚、すなわちTiC膜厚が減少することである。さらに、図7(b)、(c)でのTiC膜厚の減少が大きいことが分かる。(b)ではアンモニア過水の工程を、(c)ではリン硝酢酸の工程を経ていること、(d)ではバッファードフッ酸の工程を経ているがほとんどTiCがエッチングされていない。
これらのことから、TiCがエッチングされる原因は、各工程で使用するウェットエッチング液、特に、アンモニア過水とリン硝酢酸によるものと考えられる。
【0025】
さらに、剥離面においてTiC量が減少し、Ni2Siが露出すると剥離につながるメカニズムの考察、検討を行った。
ショットキーメタル形成時にはアンモニア過水処理の後、500℃でのアニールを行っている。また、Al−Siメタル形成後のポリイミド工程ではポリイミドの硬化のために350℃でのアニールを行っている。谷本らの報告によると、100℃〜600℃のアニールにより、一部Ni2Si中に分散していたカーボンが再拡散し、エネルギー的に安定なNi2Siの表面にグラファイトとして析出することが報告されている(特開2007−184571号公報参照)。
本工程でもTiCが表面を被覆している領域では、Ni2Si中に分散しているカーボンはTiCに吸収される。しかし、一部Ni2Siが表面に露出している領域では、分散カーボンはそのまま表面にグラファイトとして析出する。このようなことが起こる結果、裏面オーミック層の表面はTiCとグラファイトが混在した状況になっており、グラファイトの面積が増加するほど裏面3層メタルのTiとの密着強度が低下し、遂には剥離に至ると考えられる。
【0026】
このことを検証するために、ショットキーメタル後のアニールおよびポリイミド硬化のアニールを実施した場合とアニールを行わない場合とで剥離状況を比較した。評価方法は上記の方法と同様である。この結果アニールを実施した場合でのみ剥離が見られており、上記のメカニズムの妥当性が証明された。
【0027】
以上のようなメカニズムによりオーミック層表面がTiCで被覆されているにも関わらず剥離が発生することが分かった。
【実施例】
【0028】
以下に剥離を防止するための実施例を順次記載する。
基板となるウェハとして4H−SiCを用い、(0001)Si面上に、濃度1×1016cm-3、膜厚10μmのn型エピタキシャル層を成長させた。このエピタキシャル層上に素子を作製した。以下ショットキーバリアダイオードを例として記載するが、縦型素子であればpinダイオード、MOSFET、IGBTなどに対しても適用できる。
【0029】
(実施例1)
バッファードフッ酸液にウェハを浸漬し、裏面を被覆している酸化膜を除去した後、NiおよびTiを順次堆積する。この時の堆積方法は、スパッタリング法、電子線蒸着法、抵抗加熱蒸着法など、いずれの方法を用いても構わない。また、NiとTiを順次積層しても、NiおよびTiの合金ターゲットをスパッタ、あるいは多元蒸着法にてNiとTiを同時に蒸着しても構わない。
【0030】
またこの時のNi膜厚を適正な範囲内とする必要がある。Ni膜厚が小さすぎるとこの後のシンタリングにてSiCとNiの反応が十分ではなく、オーミック接触抵抗が増加してしまう問題がある。また逆に、Ni膜厚が大き過ぎるとこの後のシンタリングで形成されるNi2Siの抵抗が無視できなくなる。これらの観点から、適正なNi膜厚の範囲は20〜200nmとすることが望ましい。
一方Ti膜厚に関しても、薄過ぎるとその後のシンタリングにてオーミック合金層表面に形成されるTiC量が少なくなり、逆に厚過ぎるとTiCの抵抗成分が無視できなくなってしまう。このような観点からTi膜厚の適正な範囲は5〜100nmとすることが望ましい。
このような観点から、本実施例では、Ni膜厚60nmに対して、Ti膜厚を10nm、20nm、30nm、40nmと変化させ、剥離との相関を調査した。
【0031】
このようにして堆積されたNiおよびTiから成る薄膜を4H−SiC基板とのオーミック接触を得るためにシンタリングを行う。オーミック接触を得るために保持温度は900℃以上、時間は1分以上が必要であり、保持温度および保持時間を増加させることにより、接触抵抗を低減することができる。しかし、一般的には表側に形成された酸化膜の膜質を変質させないために、酸化膜の融点約1200℃より低い温度に設定される。
またNi、Tiの酸化により接触抵抗が増加することを防ぐために、シンタリング中の雰囲気は真空、Ar、He、H2およびこれらの混合ガスとする必要がある。
これらの観点から、実施例では、シンタリング条件として、保持温度1050℃、保持時間2分、シンタリング雰囲気常圧Arとした。
【0032】
オーミック電極層(TiC+Ni2Si)形成後の工程は前述したように、ショットキーコンタクトホール、ショットキーメタル、Al−Siメタル、ポリイミド、裏面3層メタルの順となる。
【0033】
このとき裏面電極に影響する工程は、ショットキーコンタクトホール形成時のバッファードフッ酸処理、ショットキーメタルパターニング時のアンミニア過水処理、ショットキーメタルのシンタリング、Al−Siメタルのリン硝酢酸処理、ポリイミド硬化アニール、裏面3層メタル直前のバッファードフッ酸処理である。これらのうち、薬液処理条件は、表面側の酸化膜、ショットキーメタル、Al−Siメタルが各薬液により完全にパターニングされるように一義的に決められる。また、ショットキーメタルのシンタリングに関しても求められるショットキー界面特性により温度、時間、雰囲気が一義的に決められる。ポリイミドに関しても、材質、膜厚により、シンタリング条件は一義的に決められる。
従ってこれらの条件の詳細は割愛する。
【0034】
以上のように作製された素子を前述したテープ引き剥がし試験(テープ粘着力:6.4〜9.4N/25mm)により剥離の有無を評価した。
また、XPSによりオーミック層と裏面3層メタルTiとの界面におけるTiC由来のカーボン組成も調査した。
これらの結果を図8にまとめた。
図8に示すように、Ti膜厚10nmおよび40nmは剥離が発生したのに対し、20nm、30nmでは剥離は発生しなかった。TiC由来のカーボン組成割合は、剥離した場合で最大12.3%、剥離なしの場合で最小24.0%であり、これまでの実験結果と一致した。
図8から、カーボン組成が15%となるTi膜厚の範囲は15nm〜40nmであり、Ti/Ni膜厚比にして、0.2〜0.67となった。
【0035】
(実施例2)
実施例1に記載の裏面メタルの作製方法において、オーミック層形成用シンタリング後に裏面オーミック層のTiCを含む表面にTi薄膜を堆積する工程を追加した。このとき後の工程で実施されるアンモニア過水ウェットエッチングによりTiCが露出しないようにTi膜厚を十分大きくした。さらに後の工程で実施されるリン硝酢酸に対してはこのTi薄膜はエッチングされない。また、このTi薄膜は裏面3層メタル前のバッファードフッ酸処理により除去される。すなわち、このTi薄膜はTiCの保護膜として機能する。その他の工程は実施例1と同様である。
【0036】
膜厚100nmのTiショットキーメタルが表側に堆積された場合、裏面に堆積されるTi膜厚を変化させて剥離との相関を調査した。裏面Ti膜厚の膜厚を0nmから200nmまで20nmステップで変化させ、各膜厚毎に10個の素子を用意した。上記で使用したテープによる引き剥がし試験を行い、剥離が発生しなかった素子の割合を歩留まりとして裏面Ti膜厚と歩留まりの相関を調査した。結果を図9に示す。
【0037】
図9の結果より、裏面Ti薄膜0nmから20nmへ増加するだけで、歩留まりが10%から30%と増加し、効果が確認できた。さらに裏面Ti膜厚を増加するにつれ歩留まりも増加し、100nm以上の膜厚で歩留まりが100%となった。
【0038】
(実施例3)
さらに、本発明による裏面構造を有するショットキーバリアダイオードを作製したウェハをダイシングおよびピックアップ後、半田接着により裏面を、Alワイヤーボンディングにてアノード電極をTO−220リードフレームにそれぞれ接着し、ΔTc=90℃となるように、周期的に素子のオン/オフを繰り返すパワーサイクル試験を実施した。結果を図10に示す。
図10に示す結果から明らかなように、従来の手法では、数1000サイクルにて順方向電圧の増加が見られ、超音波検査では裏面の剥離が確認された。
一方、本発明の各手段を用いて同様のパワーサイクル試験を実施、15000サイクル経過後でも、順方向電圧は一定、裏面の剥離もなく、効果が確認できた。
図1
図2
図3
図4(a)】
図4(b)】
図5(a)】
図5(b)】
図5(c)】
図6
図7(a)】
図7(b)】
図7(c)】
図7(d)】
図8
図9
図10