(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6112699
(24)【登録日】2017年3月24日
(45)【発行日】2017年4月12日
(54)【発明の名称】炭化珪素半導体装置の製造方法及び該方法により製造された炭化珪素半導体装置
(51)【国際特許分類】
H01L 21/28 20060101AFI20170403BHJP
H01L 29/47 20060101ALI20170403BHJP
H01L 29/872 20060101ALI20170403BHJP
【FI】
H01L21/28 301B
H01L21/28 B
H01L21/28 A
H01L29/48 D
H01L29/86 301D
【請求項の数】19
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-82041(P2012-82041)
(22)【出願日】2012年3月30日
(65)【公開番号】特開2013-211485(P2013-211485A)
(43)【公開日】2013年10月10日
【審査請求日】2015年3月19日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100104190
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 昭徳
(72)【発明者】
【氏名】木下 明将
(72)【発明者】
【氏名】辻 崇
(72)【発明者】
【氏名】福田 憲司
【審査官】
長谷川 直也
(56)【参考文献】
【文献】
特開2006−344688(JP,A)
【文献】
国際公開第2010/134344(WO,A1)
【文献】
特開2009−094392(JP,A)
【文献】
特開2009−266969(JP,A)
【文献】
特開平09−052796(JP,A)
【文献】
特開2012−248729(JP,A)
【文献】
特開2010−062524(JP,A)
【文献】
国際公開第2011/115294(WO,A1)
【文献】
特開2000−208438(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/28−21/288、21/329、21/336、
21/44−21/445、29/12、
29/40−29/49、29/739、29/78、
29/86−29/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1導電型の炭化珪素基板を準備する工程(A)と、
前記第1導電型の炭化珪素基板の1つの主面上に第1導電型のエピタキシャル層を形成する工程(B)と、
前記第1導電型の炭化珪素基板の他の主面上に、ニッケル(Ni)と、第4族、第5族、又は第6族の金属のいずれか1以上とから構成される第1の金属層を形成する工程(C)と、
前記工程(C)の後、前記炭化珪素基板を熱処理し、前記第1の金属層と前記炭化珪素基板の他方の主面との間にオーミック接合と、前記第1の金属層上に、第4族、第5族、又は第6族の金属のいずれかとの結合を有するカーボン原子の比率が20%以上50%以下である物質の層を形成する工程(D)と、
前記工程(D)の後、他の主面上の第1の金属層表面の不純物を除去し清浄化する工程(E)を備え、
前記工程(D)の熱処理を、1100℃以上、1350℃未満で行うことを特徴とする炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項2】
前記第1の金属層が、ニッケル(Ni)と、チタン(Ti)から構成される層であることを特徴とする請求項1に記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項3】
前記工程(D)の熱処理の保持時間が、1秒以上、1時間以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項4】
前記工程(D)の熱処理の昇温速度が、0.5℃/秒以上、20℃/秒以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項5】
前記物質の層が、前記第1の金属層上に部分的に残された層で形成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項6】
前記物質の層が、TiC又はチタンとシリコンとカーボンの3元系化合物(TixSiyCz)で形成されることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項7】
前記工程(E)が、イオンを衝突させて不純物除去し清浄化する逆スパッタ法を使用することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項8】
前記イオンが、イオン化したアルゴン(Ar)であることを特徴とする請求項7に記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項9】
前記工程(D)と前記工程(E)の間に、前記主面のエピタキシャル層上に、第2の金属層を形成する工程(F)をさらに備えることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項10】
前記炭化珪素基板を1000℃以下で熱処理して、前記第2の金属層と前記エピタキシャル層との間にショットキー接合を形成する工程(G)をさらに備えることを特徴とする請求項9に記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項11】
前記(G)工程の熱処理の最高温度が、400〜600℃であることを特徴とする請求項10に記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項12】
前記(G)工程の熱処理の保持時間が、1分以上、30分以下であることを特徴とする請求項10又は11に記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項13】
前記(G)工程の熱処理の昇温速度が、1℃/秒以上、10℃/秒以下であることを特徴とする請求項10〜12のいずれか1項に記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項14】
前記工程(B)と(C)の間に、前記第1導電型のエピタキシャル層に、第2の金属層の下部の領域に第2電導型の構造を形成する工程(H)をさらに備えることを特徴とする請求項1〜13のいずれか1項に記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項15】
前記第2電導型の構造が、ストライプ状の構造で形成されたことを特徴とする請求項14に記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項16】
前記炭化珪素基板の(0001)面上に、前記第1導電型のエピタキシャル層を形成することを特徴とする請求項1〜15のいずれか1項に記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項17】
前記炭化珪素基板の(000−1)面上に、前記第1導電型のエピタキシャル層を形成することを特徴とする請求項1〜15のいずれか1項に記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項18】
第1導電型の炭化珪素基板の1つの主面上に設けられた、第1導電型のエピタキシャル層と、
前記第1導電型の炭化珪素基板の他の主面上に設けられた、ニッケル(Ni)と、第4族、第5族、又は第6族の金属のいずれか1以上とから構成される第1の金属層と、
前記第1の金属層と前記炭化珪素基板の他方の主面との間に設けられたオーミック接合と、
前記第1の金属層上に設けられた、第4族、第5族、又は第6族の金属のいずれかとの結合を有するカーボン原子の比率が20%以上50%以下である物質の層と、
を備えることを特徴とする炭化珪素半導体装置。
【請求項19】
前記物質の層は、Ti−C結合を持つカーボン原子の比率が20%以上50%以下であることを特徴とする請求項18に記載の炭化珪素半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化珪素半導体装置の製造方法、特に、金属/炭化珪素半導体界面を有する炭化珪素半導体装置の製造方法において、金属堆積膜の密着性を向上させる方法、及び該方法により製造された炭化珪素半導体装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
炭化珪素は化学的に非常に安定な材料であり、バンドギャップが3eVと広く、高温でも半導体として極めて安定的に使用できる。また、最大電界強度もシリコンより1桁以上大きいため、パワー半導体素子の観点から性能限界の近いシリコンに代わる材料として注目されている(非特許文献1)。
【0003】
半導体装置は工程の終盤で外部装置と接続するための配線用金属膜の形成を行う。この配線用金属膜に要求される項目は接触抵抗が小さいこと、ダイシング時に剥離がないこと、ボンディングやダイボンディング後の長時間の使用にも耐えられ剥離が起こらない等、多くの項目があるが特に剥離が起こらないことが求められ密着性の強さが要求される。これは炭化珪素でも例外ではない。
【0004】
炭化珪素を材料とした半導体装置は炭化珪素がカーボンを含み、半導体製造装置作製の工程で金属と反応させるための高温の処理が多用され、さらに反応後に多くの工程を通す必要があることから、表面にグラファイト等の剥離を誘発する層が形成されやすい。そのため配線用等の金属膜を堆積すると剥離が起こりやすい。
【0005】
特に、炭化珪素半導体装置において低抵抗接続となるオーミック電極を形成する工程に注目すると、炭化珪素上にNiを堆積した後、熱処理を行い金属と炭化珪素中のシリコンと反応させ炭化珪素上に、例えばNiシリサイド膜を形成すれば良いことが報告されているが、Niを熱処理してNiシリサイド膜を形成した場合、Niはカーボンと反応しないため、余ったカーボンがシリサイド膜上にグラファイト層を形成する。さらにこの後複数の工程を通過するため、オーミック電極表面に密着性を低下させる汚染物の堆積が起こる。この面上に外部装置と接続用の配線用金属膜を作製すると密着力が低下し、配線用金属膜の剥離を引き起こす要因となる。
【0006】
このため、Niシリサイド膜の表面に形成されたグラファイト層を酸素ガス(O
2)雰囲気または不活性ガス(Arなど)雰囲気中でのプラズマプロセスにて除去し配線用金属膜の剥離を防止すること(特許文献1)や、Niを熱処理する前に予めNi上にNiシリサイドを形成させグラファイトを表面に出ないようにする方法(特許文献2)や、カーボンと反応する金属を堆積して熱処理をさせることにより金属カーバイド層を表面に形成する方法(特許文献3)により剥離を抑制する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−243323号公報
【特許文献2】特開2006−332358号公報
【特許文献3】特開2006−344688号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】IEEE Transactions on ElectronDevices(Vol.36, p.1811, 1989)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前述したように、炭化珪素半導体装置の製造工程において配線用金属膜の剥離を引き起こすグラファイト等の層が形成される要因は多くある。この剥離原因物質を、特許文献1等のようにArスパッタ等の物理的手段で除去すると、剥離原因物質の除去のみならず、低抵抗接続に必要なNiシリサイドが除去されてしまう。正確に剥離原因物質のみを除去する方法を確立することは困難である。また、特許文献3等のようにカーボンと化合物を形成する金属を堆積して熱処理をさせることにより析出グラファイトを除去する方法は工程が簡略化できるが、その後の工程による汚染物質による剥離は避けられない。
【0010】
本発明は、上記課題に鑑み、金属を炭化珪素に堆積した後、アニールによりオーミック接合を形成させ、他の金属との密着性が良く、且つ、Arスパッタ等の物理的手段に対する耐性の高い層を表面に形成させ、オーミック電極などを形成する過程で生じる剥離原因物質を優先的にArスパッタにより除去を行うことにより、密着性の良い表面を露出させて外部装置と接続用の配線用金属膜との密着を良くする半導体製造方法において、配線用金属膜の剥離を抑制することができる方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、オーミック接合を取るための第一の金属層にNi等のカーボンと反応しない元素を利用する場合、カーボンと反応して化合物を作る第4族、第5族、又は第6族の金属を共に第一の金属層を形成すると、1100℃以上で熱処理した後、第1の金属層上に剥離を誘発するグラファイトが減少し、且つ密着性の良い物質が形成されること、及び、第4族、第5族、又は第6族の金属の中でも特にTiは、チタンシリサイド、チタンカーバイド、チタンとシリコンとカーボンの3元系化合物(TixSiyCz)を形成し、これらの化合物が物理的手段に耐性があり、剥離を抑制する効果があるという知見を得た。
【0012】
本発明はこれらの知見に基づいて完成に至ったものであり、本発明によれば、以下の発明が提供される。
[1]第1導電型の炭化珪素基板を準備する工程(A)と、
前記第1導電型の炭化珪素基板の1つの主面上に第1導電型のエピタキシャル層を形成する工程(B)と、
前記第1導電型の炭化珪素基板の他の主面上に、ニッケル(Ni)と、第4族、第5族、又は第6族の金属のいずれか1以上とから構成される第1の金属層を形成する工程(C)と、
前記工程(C)の後、前記炭化珪素基板を熱処理し、前記第1の金属層と前記炭化珪素基板の他方の主面との間にオーミック接合と、前記第1の金属層上に
、第4族、第5族、又は第6族の金属のいずれかとの結合を有するカーボン原子の比率が20%以上50%以下である物質の層を形成する工程(D)と、
前記工程(D)の後、他の主面上の第1の金属層表面の不純物を除去し清浄化する工程(E)を備え、
前記工程(D)の熱処理を、1100℃以上
、1350℃未満で行うことを特徴とする炭化珪素半導体装置の製造方法。
[2]前記第1の金属層が、ニッケル(Ni)と、チタン(Ti)から構成される層であることを特徴とする[1]に記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
[3]前記工程(D)の熱処理の保持時間が、1秒以上、1時間以下であることを特徴とする[1]
又は[2]のいずれかに記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
[
4]前記工程(D)の熱処理の昇温速度が、0.5℃/秒以上、20℃/秒以下であることを特徴とする[1]〜[
3]のいずれかに記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
[
5]前記の他の金属と密着性の良い物質の層が、前記第1の金属層上に部分的に残された層で形成されていることを特徴とする[1]〜[
4]のいずれかに記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
[
6]前記の他の金属と密着性の良い物質の層が、TiC又はチタンとシリコンとカーボンの3元系化合物(TixSiyCz)で形成されることを特徴とする[1]〜[
5]のいずれかに記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
[
7]前記工程(E)が、イオンを衝突させて不純物除去し清浄化する逆スパッタ法を使用することを特徴とする[1]〜[
6]のいずれかに記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
[
8]前記イオンが、イオン化したアルゴン(Ar)であることを特徴とする[
7]に記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
[
9]前記工程(D)と前記工程(E)の間に、前記主面のエピタキシャル層上に、第2の金属層を形成する工程(F)をさらに備えることを特徴とする[1]〜[
8]のいずれかに記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
[
10]前記炭化珪素基板を1000℃以下で熱処理して、前記第2の金属層と前記エピタキシャル層との間にショットキー接合を形成する工程(G)をさらに備えることを特徴とする[
9]に記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
[
11]前記(G)工程の熱処理の最高温度が、400〜600℃であることを特徴とする[
10]に記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
[
12]前記(G)工程の熱処理の保持時間が、1分以上、30分以下であることを特徴とする[
10]又は[
11]に記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
[
13]前記(G)工程の熱処理の昇温速度が、1℃/秒以上、10℃/秒以下であることを特徴とする[
10]〜[
12]のいずれかに記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
[
14]前記工程(B)と前記工程(C)の間に、前記第1導電型のエピタキシャル層に、第2の金属層の下部の領域に第2電導型の構造を形成する工程(H)をさらに備えることを特徴とする[1]〜[
13]のいずれかに記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
[
15]前記第2電導型の構造が、ストライプ状の構造で形成されたことを特徴とする[
14]に記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
[
16]前記炭化珪素基板の(0001)面上に、前記第1の導電型のエピタキシャル層を形成することを特徴とする[1]〜[
15]のいずれかに記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
[
17]前記炭化珪素基板の(000−1)面上に、前記第1の導電型のエピタキシャル層を形成することを特徴とする[1]〜[
15]のいずれかに記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
[
18]
第1導電型の炭化珪素基板の1つの主面上に設けられた、第1導電型のエピタキシャル層と、
前記第1導電型の炭化珪素基板の他の主面上に設けられた、ニッケル(Ni)と、第4族、第5族、又は第6族の金属のいずれか1以上とから構成される第1の金属層と、
前記第1の金属層と前記炭化珪素基板の他方の主面との間に設けられたオーミック接合と、
前記第1の金属層上に設けられた、第4族、第5族、又は第6族の金属のいずれかとの結合を有するカーボン原子の比率が20%以上50%以下である物質の層と、
を備えることを特徴とする炭化珪素半導体装置。
[
19]
前記物質の層は、Ti−C結合を持つカーボン原子の比率が20%以上
50%以下であることを特徴とする[
18]に記載の炭化珪素半導体装置。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、炭化珪素半導体装置を製造する過程において、配線用金属膜の剥離を引き起こすグラファイト等の剥離原因物質の形成を抑え、他の金属と密着性の高い物質を表面に形成し、外部装置と接続用の配線用金属膜との密着を良くし剥離のない安定した構造の半導体装置を供給することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1(1)】本発明の第一実施形態における炭化珪素半導体装置の製造工程の1つを示した断面図である。
【
図1(2)】本発明の第一実施形態における炭化珪素半導体装置の製造工程の1つを示した断面図である。
【
図1(3)】本発明の第一実施形態における炭化珪素半導体装置の製造工程の1つを示した断面図である。
【
図1(4)】本発明の第一実施形態における炭化珪素半導体装置の製造工程の1つを示した断面図である。
【
図1(5)】本発明の第一実施形態における炭化珪素半導体装置の製造工程の1つを示した断面図である。
【
図1(6)】本発明の第一実施形態における炭化珪素半導体装置の製造工程の1つを示した断面図である。
【
図2】本発明の第一実施形態における配線用金属膜としてTi膜、Ni膜、Au膜を使用した時の半導体装置の断面図である。
【
図3】本発明の第一実施形態における、Ti−C結合状態を持つ物質であるTiカーバイドの割合と密着性との関係を示した図である。
【
図4】本発明の第一実施形態における、Ti−C結合状態を持つ物質であるTiカーバイドの割合とシンタリング温度の関係を示した図である。
【
図5】本発明の第一実施形態における他の金属と密着性の良い物質の層として、部分的に残された層が形成された時の半導体装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の炭化珪素半導体の製造方法は、
第1導電型の炭化珪素基板を準備する工程(A)と、
前記第1導電型の炭化珪素基板の1つの主面上に第1導電型のエピタキシャル層を形成する工程(B)と、
前記第1導電型の炭化珪素基板の他の主面上に、ニッケル(Ni)と、第4族、第5族、又は第6族の金属のいずれか1以上とから構成される第1の金属層を形成する工程(C)と、
前記工程(C)の後、前記炭化珪素基板を熱処理し、前記第1の金属層と前記炭化珪素基板の他方の主面との間にオーミック接合と、前記第1の金属層上に他の金属と密着性の良い物質の層を形成する工程(D)と、
前記工程(D)の後、他の主面上の第1の金属層表面の不純物を除去し清浄化する工程(E)と、
を備え、前記工程(D)の熱処理を、1100℃以上で行うことを特徴とするものである。
【0016】
本発明において、前記の他の主面上の第一の金属層は、ニッケル(Ni)と、第4族、第5族、又は第6族の金属のいずれか1以上とから構成されており、均一または不均一に混合、またはさまざまな形態の層により構成されている。
本発明において、Niとともに第一の金属層を構成する、第4族の金属としては、Ti、Zr等、第5族の金属としては、V,Ta等、第6族の金属としては、Cr,Mo,W等があげられる。
他の主面上の該第一の金属層は、熱処理によって混合形態が変化し、熱処理後の第一の金属層となる。この、熱処理後の第一の金属層の表面に他の金属と密着性が良くArスパッタ等の物理的手段に対する耐性の高い物質が形成され、その上に密着性が悪く物理的手段により容易に除去される物質が形成される。その後、複数の工程を通過した後、さらに剥離原因となる物質が堆積する。この表面を物理的手段により処理すると、耐性が高く他の金属と密着性の高い物質のみが残るため、金属を堆積すると剥離が起こらない。このため、不純物を除去は他の金属を堆積する直前に行うのがよい。
【0017】
本発明において、オーミック接合を取るための第一の金属層にNi等のカーボンと反応しない元素を利用する場合、カーボンと反応して化合物を作る第4族、第5族、又は第6族の金属を共に第一の金属層を形成すると、1100℃以上で熱処理した後、第1の金属層上に剥離を誘発するグラファイトが減少し、且つ密着性の良い物質が形成されるため効果があり、特に、第4族、第5族、又は第6族の金属の中でもTiは、チタンシリサイド、チタンカーバイド、チタンとシリコンとカーボンの3元系化合物(TixSiyCz)を形成する。これらの化合物が物理的手段に耐性があり、剥離を抑制する効果がある。
【0018】
本発明において、前記熱処理(アニール)温度はの最高温度は、1100℃以上、1350℃以下が物理的手段に耐性があり、剥離を抑制する物質を形成する効果がある。
また、熱処理条件の保持時間として1秒以上、1時間以下が物理的手段に耐性があり、剥離を抑制する物質を形成する効果がある。
また、熱処理条件の昇温速度として0.5℃/秒以上、20℃/秒以下が物理的手段に耐性があり、剥離を抑制する物質を形成する効果がある。
【0019】
また、本発明においては、前記の物理的手段に耐性があり、剥離を抑制する物質からなる層は、部分的に残された層であっても効果がある。
【0020】
本発明において、不純物を除去し清浄化する方法として、イオンを衝突させて不純物除去し清浄化する逆スパッタ法が、剥離原因物質を優先的に除去する効果があり、中でも、Arイオンを衝突させて不純物除去し清浄化する逆スパッタ法が、好ましい。
【0021】
本発明においては、第1の金属層と記炭化珪素基板の他の主面との間にオーミック接合を形成した後、主面上にSBD等の構造を形成する工程を通過した後、他の主面上の第1の金属層表面の不純物を除去し清浄化する工程を行っても効果がある。
また、炭化珪素基板の他の主面は(0001)面、(000−1)面のどちらでも効果がある
【0022】
以下、本発明の実施形態について、図面を用いて具体的に説明するが、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱することがなければ、種々の設計変更を行うことが可能である。
【0023】
(第一の実施形態)
図1(1)〜
図1(7)は、炭化珪素半導体装置の製造工程の一例を示したものである
。
【0024】
まず、図1(1)
の(a)に示すように、例えば5×10
18cm
-3の窒素がドーピングされた厚さ、例えば350μmの、例えば主面として(0001)面を有する高濃度n型基板1を用意する。
次いで、
図1(1)
の(b)に示すように、この炭化珪素基板1に、主面上には、例えば1.0×10
16cm
-3の窒素がドーピングされた、例えば厚さ10μmの低濃度n型ドリフト層2が堆積される。
【0025】
図1(2)に示すように、終端構造用のp型領域3とJunction Barrier Schottky(JBS)構造用のp型領域4とJunction Termination Extension(JTE)構造用のp型領域5を形成するためにアルミニウムを、例えばイオン注入装置で注入する。
終端構造用のp型領域3とJBS構造用のp型領域4とJTE構造用のp型領域5を形成するために注入されたアルミニウムを活性化するために、例えば、Ar雰囲気中において1650℃で240秒間の活性化を行う。
この後、活性化による表面汚染層を除去するために例えば50nmの熱酸化層を形成して除去を行い、例えば、0.5μmの層間絶縁膜6をドリフト層2の上部に形成する。
【0026】
図1(2)に示すように、炭化珪素基板1の他の主面に、第一の金属層7を例えばNiを50nmとTiを10nm堆積する。この後、例えば急速加熱処理(RTA:Rapid Thermal Anneal)装置を用いて、例えば1℃/秒の昇温速度で昇温し、例えば、900〜1300℃に到達後、2分間保持する。
これにより、
図1(2)の第一の金属層7がシリサイド化され、
図1(3)に示すように層の形態が変化した第一の金属層8となり、炭化珪素基板1の他の主面と第一の金属層8の間に低抵抗のオーミックコンタクト9が形成される。ここで、TiとSiとカーボンが反応し、Tiシリサイド(TiSi)、Tiカーバイド(TiC)、TiとSiとカーボンの3元系化合物(TixSiyCz)のいずれか、又はいくつかの組み合わせで形成された他の金属と密着性の良い物質の層10が形成される。ここで、例えば熱処理の温度が低い等の条件によって、Tiと反応せず残ったカーボン11が熱処理後の第一の金属層表面に残る場合がある。
【0027】
この後の工程に関しては図示していないが、例えば縦型SBDを製造するには本発明を実施する面の反対側にショットキーコンタクト等の構造を作製するため、多数の工程を通す。例えば、
図1(4)に示すように、ドリフト層2とショットキー接合を持つ第2の金属層13を、例えばTiで形成し、例えば8℃/秒の昇温時間で昇温し、例えば500℃に到達後5分間保持してSchottky接合を形成する。その後、ボンディング用電極パットとして第3の金属層14を例えば5μmの厚さのAl−Siで形成し、ポリイミド15を形成する。このため、
図1(4)に示されるように、これらの多数の工程を通す過程で形成される汚染、例えばレジストの残渣、によって形成される剥離原因物質12が他の表面に追加される。
【0028】
ここで、例えばイオン化したアルゴン(Ar)を衝突させて不純物除去し清浄化する逆スパッタ法で裏面を処理すると、
図1(5)に示すように、他の金属と密着性の良い物質が表面に現れる。
【0029】
裏面処理の直後に、他の金属と密着性の良い物質10が表面に露出されている状態で、
図1(6)に示すように第4の金属層16を形成する。例えば、
図2に示すように蒸着装置によって真空中で、Ti膜17を例えば100nm、Ni膜18を例えば500nm、Au膜19を例えば200nm形成すると、剥離がなく抵抗の少ない外部装置と接続するための第4の金属層16ができる。
【0030】
本発明者らは、剥離の原因を調べるために、剥離の多い炭化珪素装置と剥離のない炭化珪素装置において、他の金属と密着性の良い物質の層10をESCAにより測定した。
図3は、Ti−C結合状態を持つ物質であるTiカーバイドの割合と密着性との関係を示した図である。該図に示されるように、該層10における全原子のうち、Ti−C結合を持つカーボン原子の比率が20%以上で剥離がなくなることが確認できた。
【0031】
さらに、検討した結果、Ti−C結合を持つカーボン原子の比率が、前記の
図1(3)に示す工程における加熱(シンタリング)の温度に関係することが判明した。
図4は、Ti−C結合状態を持つ物質であるTiカーバイドの割合とシンタリング温度の関係を示した図である。該図に示されるように、シンタリング温度が1100℃以上であると、Ti−C結合を持つカーボン原子の比率が20%以上となる。
【0032】
これにより、Ti−C結合を持つTiC、TiとSiとカーボンの3元系化合物(TixSiyCz)のいずれか、又はこれらの混合物が密着性の強い物質であって、1100℃以上のシンタリングにより密着性の高い層を作製することができるといえる。
【0033】
また、本実施形態においては、カーボンと反応して化合物を作る金属賭して、Tiを用いたが、同様の効果は、Ti以外の第4族、第5族、又は第6族の金属を用いても得られると考えられる。
さらに、これらの存在比から、
図5に示されるように、密着性の良い物質の層は部分的に残された層でも有効だと言える。
【0034】
(第二実施形態)
前記の第一の実施形態では、SBD装置を製造する場合について述べたが、主面上に他の装置、例えばMOS等の構造を製造することが可能である。
【0035】
(第三実施形態)
第一の実施形態では、主面として(0001)面を例に述べたが、主面として(000−1)面を用いてもよい。
【0036】
なお、前述の実施形態では、全面均一な電極を形成した断面図に従って説明したが、主面表面に部分的に電極を形成した炭化珪素半導体装置、例えばMPS構造ダイオードのコンタクトに対応させることができることはいうまでもないことである。
【符号の説明】
【0037】
1:第一導電型炭化珪素基板
2:
第一導電型炭化珪素エピタキシャル層
3:第二導電型不純物イオン注入領域(
終端)
4:第二導電型不純物イオン注入領域(
JBS)
5:第二導電型不純物イオン注入領域(JTE)
6:層間絶縁膜
7:第1の金属層
8:熱処理後の第1の金属層
9:オーミック接合
10:他の金属と密着性の良い物質の層
11:未反応で残ったカーボン
12:工程中に付着した剥離原因物質
13:第2の金属層(ショットキー接合用金属)
14:第3の金属層(電極パッド)
15:ポリイミド
16:第4の金属層
17:Ti層
18:Ni層
19:Au層