特許第6112900号(P6112900)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6112900セメントクリンカー製造用原料粒子の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6112900
(24)【登録日】2017年3月24日
(45)【発行日】2017年4月12日
(54)【発明の名称】セメントクリンカー製造用原料粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 7/38 20060101AFI20170403BHJP
   B09C 1/00 20060101ALI20170403BHJP
   B09C 1/06 20060101ALI20170403BHJP
   B09B 3/00 20060101ALI20170403BHJP
   B03B 5/00 20060101ALI20170403BHJP
【FI】
   C04B7/38ZAB
   B09B5/00 S
   B09B3/00 303P
   B09B3/00 304G
   B03B5/00 A
【請求項の数】5
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-32504(P2013-32504)
(22)【出願日】2013年2月21日
(65)【公開番号】特開2014-162660(P2014-162660A)
(43)【公開日】2014年9月8日
【審査請求日】2015年12月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(72)【発明者】
【氏名】加藤 弘義
【審査官】 末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−120603(JP,A)
【文献】 特開2005−058814(JP,A)
【文献】 特開2004−261700(JP,A)
【文献】 特開平11−035350(JP,A)
【文献】 特開2002−138453(JP,A)
【文献】 特開昭56−130238(JP,A)
【文献】 特開2012−188308(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 7/00−28/36
B09B 3/00
B09B 5/00
B03B 1/00−13/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
篩の開口径について、5mm以下の範囲に閾値を設定し、採取した土壌を水洗し、次いで該土壌を篩分けし、該閾値の開口を通過しない粒径の粗粒を分離し、該閾値の開口を通過する粒径を有し、シリカ/アルミナ比が3〜7の範囲内に調整された細粒を回収することを特徴とするセメントクリンカー製造用原料粒子の製造方法。
【請求項2】
採取した土壌が建設発生土である請求項1に記載のセメントクリンカー製造用原料粒子の製造方法。
【請求項3】
セメントクリンカー製造用原料粒子を、300〜1200℃の温度で熱処理する請求項1又は2に記載のセメントクリンカー製造用原料粒子の製造方法。
【請求項4】
分離された前記粗粒は、再生土として使用する請求項1又は2に記載のセメントクリンカー製造用原料粒子の製造方法。
【請求項5】
6重量%以上の量(酸化物換算)のアルミニウム成分を含有している土壌を採取して使用する請求項1乃至3の何れか一項に記載のセメントクリンカー製造用原料粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建設発生土などの土壌からセメントクリンカー製造用原料粒子を製造する方法に関する。詳しくは、建設発生土などの土壌から、組成が安定し、且つ、アルミニウム成分と珪素成分との比がセメント組成に近く、これら成分調整が容易なセメントクリンカー製造用原料粒子を製造する方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
各種の有害元素、例えば重金属や塩素などを含む汚染土壌を、洗浄及び焼成によって浄化し、得られた浄化土をセメントクリンカー原料として使用することが、従来から種々提案されている(特許文献1〜4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3820437号公報
【特許文献2】特許第4118632号公報
【特許文献3】特開2004−323255号公報
【特許文献4】特開平11−35350号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような方法で汚染土壌を浄化して再利用することは、資源の再利用という観点から極めて有意義であるが、その組成のバラツキが大きく、得られた浄化土をセメントクリンカー原料に使用するといっても、その使用量には限界がある。即ち、このような浄化土を多量に使用すると、セメントクリンカーの成分変動により品質が不安定になるおそれがあり、このため、一般に、他のセメントクリンカー原料に対して10%程度の配合量が上限である。
【0005】
また、上記の方法は、汚染されている土壌について適用されるが、当然、汚染されていない土壌も、セメントクリンカー原料として使用することができる。しかしながら、この場合においても、土壌の組成のばらつきが大きく、従って、セメントクリンカー原料としての使用量には限界があり、多量の使用は困難である。
【0006】
従って、本発明の目的は、汚染されているか否かにかかわらず、建設発生土などの土壌から、組成が安定し、且つ、アルミニウム成分と珪素成分との比がセメント成分に近く、これら成分調整が容易なセメントクリンカー製造用原料粒子を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、土壌からセメントクリンカー原料を製造する方法について多くの実験を行い研究した結果、土壌の粒子の粒径が小さいものはアルミニウム成分濃度が安定して高く、粒径の大きいものはアルミニウム成分濃度が小さいという極めて興味ある知見を得、また、上記粒径の閾値を特定の範囲に設定し、それより小さい細粒を回収することにより、該アルミニウム成分と珪素成分との比において、その成分調整がほとんど必要無い程度に、アルミニウム成分の割合が高められたセメントクリンカー製造用原料粒子が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
即ち、本発明によれば、篩の開口径について、5mm以下の範囲に閾値を設定し、採取した土壌を水洗し、次いで該土壌を篩分けし、該閾値の開口を通過しない粒径の粗粒を分離し、該閾値の開口を通過する粒径を有し、シリカ/アルミナ比が3〜7の範囲内に調整された細粒を回収することを特徴とするセメントクリンカー製造用原料粒子の製造方法が提供される。

【0009】
本発明方法においては、
(1)採取する土壌が建設発生土であること。
(2)分離された前記粗粒は、再生土及び/又はセメントクリンカー製造用原料におけるシリカ成分調整用粒子として使用すること。
(3)酸化物換算で、6重量%以上の量のアルミニウム成分を含有している土壌を採取して使用すること。
が好ましい。
【0010】
本発明において、前記土壌は、陸地の表面を覆っている層であり、一般的には土と呼ばれる層を意味する。即ち、土壌の表層から順に、植物の遺骸などが存在する有機物層、有機物が分解されて生じた黒色の層、岩石層の風化が進行した物質の層(風化層)があり、さらに、その下側に風化が進行していない岩石層があるが、本発明における土壌は、このような岩石層の上の領域に存在する部分である。
【発明の効果】
【0011】
本発明においては、一定の範囲に設定された閾値より粒径の大きな土壌の粒子を篩により分離し、篩を通過した粒径の小さな細粒をセメントクリンカー製造用原料粒子として使用する。即ち、このような篩通過分は、篩残分の大径の粒子に比してアルミニウム成分濃度が高く、この閾値を適宜の範囲に設定することにより、アルミニウム成分濃度(以下、アルミニウム成分と珪素成分との濃度および比は酸化物換算で示し、また、これら成分の表記も「アルミナ」「シリカ」とすることがある。)が9重量%以上、特に10重量%以上の粒子が得られる。このような粒子はアルミナ濃度が極めて高く、また、シリカ濃度は逆に低くなるため、一般に製造されるセメントクリンカーのシリカ/アルミナ比(重量)である3〜7の範囲内に、上記セメントクリンカー製造用原料粒子のシリカ/アルミナ比が入るか、ほとんど近い比となるため、大掛かりな成分調整が必要無く、セメントクリンカー製造用原料粒子として有効に使用することができる。
【0012】
例えば、後述する実施例では、異なる場所から採取された3種類の土壌について、水洗を行ない、それぞれ、開口径が0.1mm、5.0mmの篩にかけ、それぞれの粒度に分級された粒子について、組成分析を行った結果が示されている。この実験結果から理解されるように、何れの場所で採取された土壌においても、分取される粒子の粒径が小さくなるほど、アルミナ含量が多くなっていることが判る。
【0013】
尚、ほん明細書において、各成分の含量は、水分を十分除去した状態で、例えば、100℃の温度で2時間以上乾燥後、測定した値である。
【0014】
従って、上記の実験結果に基づいて、0.075〜5.0mmの範囲内で篩の開口径についての閾値を設定し、篩により、該閾値以上の粒径の粗粒を除去し、残ったアルミナ濃度の高い細粒をセメントクリンカー製造用原料粒子として使用することができるのである。即ち、従来においても、建築土木現場などから発生する建築発生土を、適宜洗浄し、重金属イオンなどの汚染物質を除去した後に、セメントクリンカーの製造用原料として使用することもあったが、何れも成分組成が不安定であり、アルミナ濃度が低いことから、その使用量が限られていた。しかるに、本発明では、篩により粒径の小さな粒子を選択しているため、成分組成が比較的安定であるばかりか、アルミナ含量が極めて多く(例えば、9重量%以上、好ましくは10重量%以上)、セメントクリンカー製造用原料粒子として多量に使用することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、土壌を採取し、この土壌からセメントクリンカーのアルミナ成分調整用粒子を製造するものである。
【0016】
既に述べたように、土壌は、岩石層の上に存在する部分であり、岩石や粘土が風化した無機物を含み、この無機物は大きな間隙を有しており、この無機物の間の空間に各種の塩類や有機物が含まれている。このような土壌の粒子は一般に互いに凝集して団粒構造を有している。また、上記のような無機物を含んでいるため、採取される場所によりバラツキはあるものの、成分としてアルミニウム成分や珪素成分を多く含んでいる。
【0017】
本発明において、上記のような土壌としては、一般に、建築現場や土木現場で発生する建設発生土が、資源の有効利用として好適に使用される。
【0018】
また、本発明が最も好適に使用される土壌は、アルミナ濃度が6重量%以上の比較的アルミナリッチの土壌である。即ち、このようなアルミナリッチの土壌を採取して使用することにより、後述する実施例に示されているように、アルミナ含量が10重量%以上のセメントクリンカー製造用原料粒子を得ることができるからである。
【0019】
本発明においては、篩による分級に先立って、採取した土壌の水洗を行うものであるが、かかる水洗により、各種の有機物や塩類を除去し、また、重金属等により土壌が汚染されている場合には、このような重金属成分も水洗により除去され、さらには、塩素分も水洗により除去される。
【0020】
さらに、かかる水洗により、粒子間の空隙に存在している有機物等が除去されるため、この土壌の塊はほぐされ、篩による分級が可能となる。
【0021】
土壌の水洗は、高圧ノズルを用いての水の噴霧、水中に土壌を投入しての攪拌等、土壌の処理量などに応じて適宜の手段を採用することができる。
【0022】
また、土壌が大きな塊状物を含んでいる場合には、必要により、水洗に先立って、これを適度な大きさに解砕することもできる。
【0023】
尚、水洗の程度は、土壌が篩による分級が可能な程度にほぐされていればよい。
【0024】
また、水洗後の篩い分けは、乾燥を行うことなく直ちに行うことができ、例えば、水洗しながら湿式下で篩い分けをおこなうこともできる。
【0025】
本発明においては、上記の篩い分けに際しては、篩の開口径について、5mm以下の範囲、好ましくは、3mm以下の範囲、更に好ましくは、0.1mm以下の範囲に閾値を設定し、この閾値に相当する開口サイズのメッシュを使用して篩い分けを行い、該閾値よりも大きい粒子を取り除き、篩を通過する粒子を回収する。
【0026】
即ち、粒径の大きな土壌粒子はアルミナ含量が少なく、粒径が小さいほど、アルミナ含量が多い。従って、上記閾値よりも粒径の大きい土壌粒子を除去することにより、アルミナリッチの粒子を得ることができ、これを、セメントクリンカーのアルミナ成分調整用粒子として使用することが可能となるのである。
【0027】
本発明において、土壌粒子の粒径が小さいほどアルミナ含量が多いという事実は、多くの実験の結果、現象として見出されたものであり、その理由は正確に解明されるには至っていない。しかしながら、土壌が岩石や粘土の風化により形成された層を含んでいるということから、本発明者等は次のように推定している。
【0028】
即ち、水洗されて有機物等が除去された土壌粒子の主成分は、シリカ及びアルミナを主成分とする。風化された岩石や粘土は、ケイ酸アルミニウム及びシリカを主成分とするものだからである。
【0029】
ところで、このような岩石や粘土が風化されていく過程では、水分が浸透し、水可溶成分が徐々に溶出していく。この場合、大きな粒径の粒子では、粒子内の空間に浸透する水分量或いは該粒子に接触する水分量が多く、従って、水可溶成分であるアルミニウム成分は、小さな粒径の粒子に比して多く溶出する。この結果、粒径の小さな粒子では、アルミニウム成分の溶出が少なく、従って、シリカ含量とアルミニウム含量との量比にさほどの差は生じないが、粒径の大きな粒子では、アルミニウム成分の溶出が多く、アルミニウム含量の低下によりシリカ含量が増大することとなる。かくして、土壌粒子の粒径が小さいほどシアルミナ含量が多いと推定されるのである。
【0030】
また、本発明において、篩の開口径についての閾値を5mm以下、好ましくは、0.075〜0.1mmの範囲に設定することも重要である。
【0031】
即ち、この閾値が5mmよりも大きな値に設定されると、篩通過分として回収される粒子の量が多くなるが、アルミナ含量の少ない粒子が増大し、工業的メリットがほとんどなくなってしまうからである。
【0032】
本発明においては、可及的にアルミナ含量の多い粒子を多く得るという観点から、篩の開口径について、できるだけ小さな値に閾値を設定することが好ましく、例えば3.0mm以下、特に好ましくは、0.1mm以下に、前記閾値を設定することが好ましく、篩通過分の粒子のアルミナ含量が10重量%以上となるようにすることが好ましい。
【0033】
また、前記篩の開口径について、閾値を0.05mmよりも小さな値に設定すると、篩による分離効率が低下するばかりでなく、回収されるセメントクリンカー製造用原料粒子の量が減少するため、工業的に不利となる。
【0034】
かくして篩通過分として得られるアルミナリッチの粒子は、適宜乾燥した後、セメントクリンカーのアルミナ成分調整用粒子として、他のセメントクリンカー原料と混合し、セメント焼成設備に供給しての焼成により、セメントクリンカーとして使用される。この場合、本発明により得られる粒子は、安定してアルミナリッチであり、一般にアルミナ原料として用いられる粘土と同様に使用することが可能である。
【0035】
本発明において、上記の篩い分けにより分離されたアルミナ高含有粒子は、セメントクリンカー原料として使用するに先立って、300〜1200℃、好ましくは、500〜1000℃の温度で熱処理を行っておくことが好ましい。かかる熱処理により、環境に悪影響を与える重金属類や塩素成分などを確実に揮散させることができるからである。
【0036】
また、本発明において、上記の篩い分けにより分離された粗粒(即ち、前記閾値よりも大きな粒径の土壌粒子)は、再生土として、埋め戻し材、路盤材などに使用することが好適である。
【実施例】
【0037】
本発明の優れた効果を次の実験例で説明する。
【0038】
<実施例1>
ある建築現場から採取した建設発生土を10kg用意し、これを下記条件で水洗した。
水洗条件;建設発生土10kgと水100kgとを容器に入れ、1時間攪拌した後、24時間静置し、上澄み水を除去した。
【0039】
上記の水洗により有機分が除去され且つほぐされた土壌(浄化土)を0.1mm開口のメッシュ及び5.0mm開口のメッシュを使用し、篩い分けを行った。
【0040】
尚、0.1mm開口の篩通過分の細粒、0.1mm篩残分で且つ5.0mm篩通過分の中粒については1200℃で熱処理して有機成分を完全に除去した。各粒分の組成分析を行った結果は表1の通りであった。
【0041】
尚、1200℃熱処理後あるいは100℃乾燥後の細粒、中粒、粗粒の重量比は、細粒:中粒:粗粒=28:40:32であった。
【0042】
【表1】
【0043】
<実施例2>
さらに別の建築現場から採取した建築発生土を用いた以外は、実施例1と全く同様にして水洗及び篩い分けを行い、篩い分けされた各粒分について、組成分析を行った。その結果は、表2の通りであった。
【0044】
【表2】
【0045】
以上の実験結果から、土壌粒子より分取される粒径の小さい粒子はアルミナ濃度が高く、セメントクリンカー製造用原料粒子として好適に使用できることが判る。