(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来から、半導体デバイス等の試料の観察や各種の評価、解析等を行ったり、試料から微細な薄片試料を取り出した後、該薄片試料を試料ホルダに固定してTEM試料を作製したりするための装置として、集束イオンビーム装置が知られている。
この集束イオンビーム装置は、イオンを発生させるイオン源を備えており、ここで発生したイオンを、その後集束イオンビーム(FIB:Focused Ion beam)にして照射している。
【0003】
イオン源としては、いくつか種類があり、例えばプラズマ型イオン源や液体金属イオン源等が知られている。また、近時では、上述したイオン源よりもビーム径が小さく、高輝度の集束イオンビームを発生させることができる電界電離型イオン源(GFIS:Gas Field Ion Source)が提供されている。
【0004】
上述した電界電離型イオン源は、先端が原子レベルで先鋭化された針状のエミッタを有するエミッタ構造体と、エミッタの周囲にヘリウム(He)等のガスを供給するガス源と、エミッタを冷却する冷却部と、エミッタの先端から離れた位置に配設された引出電極と、を主に備えている。
【0005】
ここで、下記特許文献1に示されるような、従来のエミッタ構造体について簡単に説明する。
図8に示すように、従来のエミッタ構造体100は、ベース部材101と、ベース部材101に固定された一対の通電ピン102と、通電ピン102の先端部間に接続されたフィラメント103と、フィラメント103に接続された上述したエミッタ104と、を主に備えている。
エミッタ104は、その基端部が点溶接等によってフィラメント103に接続された状態で、フィラメント103に吊り下げ保持されている。
【0006】
このような構成において、エミッタ104周囲にガスを供給した後、エミッタ104と引出電極(不図示)との間に引出電圧を印加させるとともにエミッタ104を冷却すると、ガスがエミッタ104先端部の高電界によって電界電離してイオン化し、ガスイオンとなる。すると、このガスイオンは、正電位に保持されているエミッタ104から反発して引出電極側に引き出される。その後、引き出されたガスイオンは、適度に加速されるとともに集束され、集束イオンビームとなる。
特に、電界電離型イオン源から発生される集束イオンビームは、上述したようにビーム径が小さく、エネルギー広がり(放射角度分布)も小さいので、ビーム径を小さく絞ったまま試料に照射することができる。したがって、観察時の高分解能化を図ったり、より微細なエッチング加工を行ったりすることが可能になる。
【0007】
一方、エミッタ104の結晶構造が壊れた場合等において、通電ピン102及びフィラメント103を介して図示しない電流源からエミッタ104に通電することで、エミッタ104を加熱してエミッタ104を構成する原子の再配列を行わせるようになっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、上述したように従来のエミッタ構造体100では、エミッタ104がフィラメント103のみによって保持されているため、エミッタ104への熱伝達は主にフィラメント103を介して行われることになる。この場合、エミッタ104の再配列時等、エミッタ104の加熱時においてはエミッタ104からの放熱量が少ないのでフィラメント103を介して効率的に加熱される。一方、ガスイオンの発生時等、エミッタ104の冷却時においては冷却効率が低いという問題がある。
電界電離型イオン源のイオンエミッション量は、温度依存性が高く、より低い温度で動作させることが好ましい。
【0010】
また、従来のエミッタ構造体100では、上述したようにエミッタ104がフィラメント103のみによって保持されているため、ベース部材101に対してエミッタ104を垂直に保持することが難しい。電界電離型イオン源から発生する集束イオンビームは、上述したように放出角度分布が狭いため、試料に向けて確実に照射するためには、集束イオンビームの光軸が所望の方向に揃っている必要がある。
これに対して、特許文献1には、エミッタ104から発生する集束イオンビームの光軸の傾きや位置を調整するジンバル機構(先端マニピュレータ)を設ける構成が開示されている。
しかしながら、ジンバル機構を設けることで、部品点数の増加や装置の複雑化に繋がるという問題がある。
【0011】
本発明は、このような事情を考慮してなされたもので、その目的は、エミッタの冷却効率を向上させることができるとともに、部品点数の削減や装置の簡素化を図った上で、ベース部材に対してエミッタを高精度、かつ安定して保持することができ
るガスイオン源、及び集束イオンビーム装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の目的を達成するために、この発明は以下の手段を提供している。
(1)本発明に係る
ガスイオン源は、ベース部材に固定された一対の通電ピンと、前記一対の通電ピン間に接続されたフィラメントと、前記フィラメントに接続され、先端が先鋭化されたエミッタと、
前記エミッタの周囲にガスを供給するガス源と、前記エミッタを冷却する冷却部と、前記エミッタの先端から離間して配設された引出電極と、前記エミッタと前記引出電極との間に引出電圧を印加して、前記エミッタの先端で前記ガスをイオン化させてガスイオンにさせた後、前記引出電極側に引き出させる引出電源部と、を備え、前記ベース部材には、支持部材が固定され、該支持部材に前記エミッタが接続されていることを特徴としている。
【0013】
この構成によれば、エミッタがフィラメントに加えて支持部材に接続されているため、従来のようにフィラメントのみによって吊り下げ支持された構成に比べて、ベース部材に対してエミッタを安定して保持させることができる。この場合、垂直保持させ易くなり、集束イオンビームの光軸を所望の方向に揃え易くすることができる。また、従来のように集束イオンビームの光軸の傾きや位置を調整するジンバル機構等を別途設ける必要がないので、部品点数の削減や装置の簡素化を図った上で、ベース部材に対してエミッタを高精度、かつ安定して保持することができる。
また、エミッタの冷却時において、エミッタの熱は支持部材を介してベース部材等に放熱されることになる。そのため、従来のようにフィラメントのみを介して放熱される場合に比べて、エミッタの冷却効率を向上させることができる。
【0014】
(2)本発明に係る
ガスイオン源において、前記支持部材は、前記フィラメントよりも熱伝導率の高い材料により形成されていてもよい。
この構成によれば、支持部材がフィラメントよりも熱伝導率が高い材料により形成されているので、エミッタの熱が支持部材に効率的に放熱されることになる。したがって、エミッタの冷却効率を確実に向上させることができる。
【0015】
(3)本発明に係る
ガスイオン源において、前記支持部材は、前記フィラメントよりも太く形成されていてもよい。
この構成によれば、支持部材がフィラメントよりも太く形成されているので、エミッタの熱が支持部材に効率的に放熱されることになる。したがって、エミッタの冷却効率を確実に向上させることができる。
【0016】
(4)本発明に係る
ガスイオン源において、前記支持部材は円筒状とされ、前記エミッタは、基端部が前記支持部材内に挿入された状態で固定されていてもよい。
この構成によれば、円筒状の支持部材内にエミッタが挿入された状態で固定されているため、エミッタをより安定して保持することができる。
【0017】
(5
)本発明に係る集束イオンビーム装置は、上記本発明のガスイオン源と、引き出された前記ガスイオンを集束イオンビームにした後に試料に照射させるビーム光学系と、を備えていることを特徴としている。
この構成によれば、上記本発明のエミッタ構造体を備えているため、ガスイオンを安定的に発生させることができ、ビーム径の小さい高輝度な集束イオンビームを所望の方向に照射し続けることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、エミッタの冷却効率を向上させることができるとともに、部品点数の削減や装置の簡素化を図った上で、ベース部材に対してエミッタを高精度、かつ安定して保持し、集束イオンビームの光軸を所望の方向に揃え易くすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係る実施形態について、図面を参照して説明する。
[集束イオンビーム装置]
図1は、集束イオンビーム装置1の全体構成図である。
本実施形態の集束イオンビーム装置1は、
図1に示すように、試料Sが載置されるステージ2と、集束イオンビーム(FIB)を照射する集束イオンビーム鏡筒3と、集束イオンビーム(FIB)の照射によって発生した二次荷電粒子Rを検出する検出器4と、デポジション膜を形成するための原料ガスG1を供給するガス銃5と、検出された二次荷電粒子Rに基づいて画像データを生成するとともに、画像データを表示部6に表示させる制御部7と、を主に備えている。
【0021】
ステージ2は、制御部7の指示に基づいて作動するようになっており、5軸に変位可能な変位機構8により支持されている。具体的に、変位機構8は、水平面に平行で且つ互いに直交するX軸及びY軸と、これらX軸及びY軸に対して直交するZ軸とに沿って移動する水平移動機構8aと、ステージ2をX軸(またはY軸)回りに回転させて傾斜させるチルト機構8bと、ステージ2をZ軸回りに回転させるローテーション機構8cと、を有している。
よって、変位機構8によりステージ2を5軸に変位させることで、集束イオンビーム(FIB)を所望する位置に向けて照射することができるようになっている。ところで、ステージ2及び変位機構8は、真空チャンバ9内に収納されている。そのため、真空チャンバ9内で集束イオンビーム(FIB)の照射や原料ガスG1の供給等が行われるようになっている。
【0022】
<集束イオンビーム鏡筒>
図2は、集束イオンビーム鏡筒3の構成図である。
集束イオンビーム鏡筒3は、
図2に示すように、ガスG2からガスイオンG3(
図7参照)を発生させる電界電離型イオン源(ガスイオン源)21と、ガスイオンG3を集束イオンビーム(FIB)にした後に試料Sに照射させるビーム光学系31と、を備えている。
また、集束イオンビーム鏡筒3のうち、電界電離型イオン源21は、エミッタ構造体22と、ガス源23と、冷却部24と、引出電極25と、引出電源部26と、を主に備えている。
【0023】
図3は、エミッタ構造体22の斜視図である。
図2、
図3に示すように、エミッタ構造体22は、イオン発生室51内に収容されたエミッタ52及び加熱部53と、エミッタ52を支持する支持部材54と、を備えている。
イオン発生室51は、例えばセラミックス材料により形成され、下方に向けて開口した箱型とされている。具体的に、イオン発生室51は、ベース部材61と、ベース部材61の外周縁から下方に向けて延設され、ベース部材61を取り囲む囲繞部材62と、を備え、内部が高真空状態に維持されるようになっている。
【0024】
加熱部53は、制御部7からの指示によって作動する電流源63からの電流により所定温度までエミッタ52の先端を局所的に加熱して、エミッタ52を構成する原子の再配列を行わせる働きをしている。具体的に、加熱部53は、一対の通電ピン65と、これら通電ピン65の先端部間を接続するフィラメント66と、を備えている。
【0025】
各通電ピン65は、金属等の導電性を有する材料により形成された中実棒状とされ、ベース部材61を貫通した状態でベース部材61にろう付け等によって固定されている。したがって、通電ピン65は、上端部がイオン発生室51外に位置し、下端部がイオン発生室51内に位置している。また、各通電ピン65からは、上述した電流源63に向けて配線67が引き出されている。
フィラメント66は、高抵抗の材料、例えばタングステン(W)等により構成され、その両端部が通電ピン65の下端部に溶接等によってそれぞれ接続されている。図示の例において、フィラメント66は、中央部に向かうに従い下方に向けて傾斜するV字状に保持されている。
【0026】
図4は
図3のA−A線に沿う断面図である。
ここで、
図3、
図4に示すように、支持部材54は、フィラメント66や通電ピン65よりも大径の円筒状とされ、しかも本実施形態では例えば銅等、上述したフィラメント66よりも熱伝導率が高い材料により形成されている。支持部材54は、ベース部材61のうち、側面視で上述した通電ピン65間に位置する貫通孔61a内に挿入された状態でベース部材61にろう付け等によって固定されている。したがって、支持部材54は、上端部がイオン発生室51外に位置し、下端部がイオン発生室51内に位置している。
【0027】
図5は、エミッタ52の先端を拡大した図である。
図5に示すように、エミッタ52は、先端(下端)が先鋭化された針状の部材であり、例えば、タングステン(W)等からなる基材52aにイリジウム(Ir)等の貴金属52bが被膜されることで構成されている。エミッタ52の先端は、原子レベルで先鋭化されており、詳細には
図6に示すように、結晶構造がピラミッド状になるように構成されている。なお、
図6は、エミッタ52の先端を原子レベルに拡大した図である。
【0028】
このように構成されたエミッタ52は、上部が上述したフィラメント66の中央部(下端部)に点溶接等によって接続されている。また、エミッタ52のうち、フィラメント66との接続部分よりも上方に位置する上端部(挿入部分52c)は、上述した支持部材54内に下方から挿入されている。
【0029】
一方、上述した支持部材54のうち、エミッタ52の挿入部分52cと径方向で重なる部分(支持部材54のうち、エミッタ52の挿入部分52cが挿入されている部分)には、径方向に貫通する貫通孔68が形成され、この貫通孔68内に止めねじ69が螺着されている。止めねじ69の先端部は、支持部材54を径方向に貫通し、エミッタ52(挿入部分52c)の外周面に当接している。これにより、エミッタ52は、挿入部分52cが止めねじ69の先端面と支持部材54の内周面との間に挟持された状態で、支持部材54内に保持されている。
【0030】
上述したガス源23は、エミッタ52の周囲に微量のガス(例えば、ヘリウム(He)ガス)G2を供給するものであり、ガス導入管23aを介してイオン発生室51に連通している。
【0031】
引出電極25は、上述したイオン発生室51の開口縁から内側に向けて延設され、エミッタ52の先端(下端)から離間した状態で配設されている。そして、引出電極25のうち、エミッタ52の先端(下端)に上下方向で対向する位置には、開口部25aが形成されている。
引出電源部26は、引出電極25とエミッタ52との間に引出電圧を印加する電極である。この引出電源部26は、引出電圧を印加することにより、
図7に示すようにエミッタ52の先端でガスG2をイオン化させてガスイオンG3にさせた後、このガスイオンG3を引出電極25側に引き出させる役割を果している。
【0032】
冷却部24は、液体ヘリウム若しくは液体窒素等の冷媒によってエミッタ52を冷却するものである。ただし、この場合に限定されるものではなく、少なくともエミッタ52を冷却できればどのように構成されていても良く、例えば冷却ブロックや冷凍機等を使用して冷却する構成としても構わない。また、イオン発生室51の上部には、エミッタ52の熱を放熱するためのコールドヘッド71が配設されている。
コールドヘッド71は、アルミナやサファイヤ、窒化アルミニウム等のセラミックス材料により形成されたブロック状のものであり、上述したベース部材61の上面に固定されている。コールドヘッド71のうち、支持部材54と対向する部分には、支持部材54の上端部(ベース部材61からの突出部分)を収容する収容凹部72が形成されている。そして、支持部材54は、外周面が収容凹部72の内周面に近接または接触した状態で収容凹部72内に収容されている。
また、コールドヘッド71のうち、通電ピン65と対向する部分には、コールドヘッドを上下方向に貫通する貫通孔73がそれぞれ形成されている。これら貫通孔73内には、通電ピン65の上端部が下方から挿入され、貫通孔73内において上述した配線67に接続されている。
【0033】
<ビーム光学系>
図2に示すように、引出電極25の下方には、接地電位の陰極32が設けられている。この陰極32とエミッタ52との間には、加速電源部33から加速電圧が印加されるようになっており、引き出されたガスイオンG3にエネルギーを与えて加速させ、イオンビームにしている。陰極32の下方には、イオンビームを絞り込む第1のアパーチャー34が設けられている。第1のアパーチャー34の下方には、イオンビームを集束して集束イオンビーム(FIB)にするコンデンサーレンズ35が設けられている。
【0034】
コンデンサーレンズ35の下方には、集束イオンビーム(FIB)の光軸を調整するアライナ36が設けられている。
また、アライナ36の下方には、集束イオンビーム(FIB)をさらに絞り込む第2のアパーチャー37が、X軸及びY軸方向に移動可能に設けられている。第2のアパーチャー37の下方には、試料S上で集束イオンビーム(FIB)を走査する偏光器38が設けられている。偏光器38の下方には、集束イオンビーム(FIB)の焦点を試料S上に合わせる対物レンズ39が設けられている。
【0035】
そして、上述した陰極32、加速電源部33、第1のアパーチャー34、コンデンサーレンズ35、アライナ36、第2のアパーチャー37、偏光器38及び対物レンズ39は、引き出されたガスイオンG3を集束イオンビーム(FIB)にした後に試料Sに照射させる上述したビーム光学系31を構成している。また、図示していないが、従来の集束イオンビーム(FIB)で使用されている非点補正器、ビーム位置調整機構もビーム光学系31に含まれる。
【0036】
検出器4は、集束イオンビーム(FIB)が照射されたときに、試料Sから発せられる二次電子、二次イオン、反射イオンや散乱イオン等の二次荷電粒子Rを検出して、制御部7に出力している。
ガス銃5は、デポジション膜の原料となる物質(例えば、フェナントレン、プラチナ、カーボンやタングステン等)を含有した化合物ガスを原料ガスG1として供給するようになっている。この原料ガスG1は、集束イオンビーム(FIB)の照射によって発生した二次荷電粒子Rによって分解され、気体成分と固体成分とに分離するようになっている。そして、分離した2つの成分のうち固体成分が堆積することで、デポジション膜となる。
また、ガス銃5には、エッチングを選択的に加速させる物質(例えば、フッ化キセノン、塩素、ヨウ素、水)を使用することができる。例えば、試料Sが、Si系の場合にはフッ化キセノンを、有機系の場合には水を使用する。また、イオンビームと同時に照射することで、特定の材質のエッチングを進めることができる。
【0037】
制御部7は、上述した各構成品を総合的に制御していると共に、引出電圧や加速電圧やビーム電流等を適宜変化させることができるようになっている。そのため、集束イオンビーム(FIB)のビーム径を自在に調整できるようになっている。これにより、観察画像を取得するだけでなく、試料Sを局所的にエッチング加工(粗加工や仕上げ加工等)することができるようになっている。
【0038】
また、制御部7は、検出器4で検出された二次荷電粒子Rを輝度信号に変換して観察画像データを生成した後、該観察画像データに基づいて表示部6に観察画像を出力させている。これにより、表示部6を介して観察画像を確認できるようになっている。また、制御部7には、オペレータが入力可能な入力部7aが接続されており、入力部7aによって入力された信号に基づいて各構成品を制御している。つまり、オペレータは、入力部7aを介して、所望する領域に集束イオンビーム(FIB)を照射して観察したり、所望する領域をエッチング加工したり、所望する領域に原料ガスG1を供給しながら集束イオンビーム(FIB)を照射してデポジション膜を堆積させたりすることができるようになっている。
【0039】
次に、このように構成された集束イオンビーム装置1を使用する場合について、以下に説明する。
はじめに、試料Sや目的に応じて集束イオンビーム(FIB)を照射する際の初期設定を行う。すなわち、引出電圧、加速電圧やガスG2を供給するガス圧、温度等を最適な値にセットする。また、電界電離型イオン源21の位置や傾き、第2のアパーチャー37の位置等を調整して、光軸調整を行う。
【0040】
この初期設定が終了した後、ガス源23からイオン発生室51内にガスG2を供給するとともに、冷却部24によりエミッタ52を所定の温度、例えば20K〜100K程度まで冷却する。
この場合、エミッタ52の熱は、主に支持部材54を介してコールドヘッド71自体、または支持部材54及びベース部材61を介してコールドヘッド71自体に放熱された後、冷却部24を介して外部に放熱される。このとき、エミッタ52の熱は、フィラメント66や通電ピン65等の加熱部53を介してコールドヘッド71にも放熱されるが、支持部材54経由の放熱量の方が加熱部53経由の放熱量に比べて大きい。そのため、エミッタ52が効率的に冷却される。
【0041】
ガスG2の供給及びエミッタ52の冷却が十分に行われた後、引出電源部26により引出電極25とエミッタ52との間に引出電圧を印加する。すると、エミッタ52の先端の電界が局所的に高まるので、
図7に示すようにイオン発生室51内のガスG2がエミッタ52の先端で電界電離してイオン化し、ガスイオンG3となる。そして、このガスイオンG3は、正電位に維持されているエミッタ52から反発して引出電極25側に引き出される。
【0042】
引き出されたガスイオンG3は、
図2に示すように、ビーム光学系31によって集束イオンビーム(FIB)となり、試料Sに向けて照射される。これにより、試料Sの観察やエッチング加工等を行える。また、集束イオンビーム(FIB)を照射する際に、ガス銃5から原料ガスG1を供給することで、デポジション膜を生成することも可能である。つまり、集束イオンビーム(FIB)の照射によって発生した二次電子が、原料ガスG1を分解して気体成分と固体成分とに分離させる。すると、分離した2つの成分のうち、固体成分だけが試料S上に堆積してデポジション膜となる。
このように、観察や加工だけでなくデポジション膜の生成も可能とすることができる。したがって、本実施形態の集束イオンビーム装置1は、これらの特徴を適宜使い分けることで、顕微鏡、測長、断面観察、断面測長、TEM試料作製、マスクリペア、描画等を行う装置して幅広く利用することができる。
【0043】
特に、本実施形態の集束イオンビーム(FIB)は、電界電離型イオン源21から発生されたビームであるので、プラズマ型イオン源や液体金属イオン源と比較して、ビーム径が小さく高輝度のビームである。したがって、観察を行う場合には高分解能で観察でき、加工を行う場合には微細で非常に高精度な加工を行うことができる。
【0044】
ところで、使用中にエミッタ52の結晶構造が壊れてしまった場合、エミッタ52を構成する原子の再配列を行わせる。具体的には、加熱部53を作動させてエミッタ52の先端を局所的に加熱(例えば、800℃〜900℃で数分間)する。この際、メモリ7bに記憶されている加熱シーケンスに基づいて加熱を行う。すると、エミッタ52を構成する原子が再配列され、エミッタ52先端の結晶構造を
図6に示す元のピラミッド状の構造に戻すことができる。
【0045】
次に、エミッタ52の交換作業について説明する。
図3、
図4に示すように、エミッタ52を取り外す際は、まず止めねじ69の螺着を解除して、エミッタ52を支持部材54から抜く。次に、フィラメント66の両端部を通電ピン65から取り外し、エミッタ52をフィラメント66毎取り外す。
一方、新なエミッタ52を取り付ける際は、まずフィラメント66の両端部を通電ピン65の下端部に接続した後、フィラメント66の中央部にエミッタ52の上部を点溶接等により接続する。その後、エミッタ52の上端部(挿入部分52c)を支持部材54内に挿入した後、止めねじ69によってエミッタ52を支持部材54内で固定する。
以上により、エミッタ52の交換作業が終了する。
【0046】
このように、本実施形態では、エミッタ52がベース部材61に固定された支持部材54に接続される構成とした。
この構成によれば、エミッタ52がフィラメント66に加えて支持部材54に接続されているため、従来のようにフィラメント103(
図8参照)のみによって吊り下げ支持された構成に比べて、ベース部材61に対してエミッタ52を安定して保持することができる。この場合、ベース部材61に対してエミッタ52を垂直保持させ易くなり、集束イオンビーム(FIB)の光軸を所望の方向に揃え易くすることができる。
また、従来のように集束イオンビーム(FIB)の光軸の傾きや位置を調整するジンバル機構等を別途設ける必要がないので、部品点数の削減や装置の簡素化を図った上で、ベース部材61に対してエミッタ52を高精度、かつ安定して保持することができる。
【0047】
さらに、本実施形態では、エミッタ52の冷却時において、エミッタ52の熱は支持部材54を介してベース部材61やコールドヘッド71等に放熱されることになる。そのため、従来のようにフィラメント103(
図8参照)のみを介して放熱される場合に比べて、エミッタ52の冷却効率を向上させることができる。
この場合、支持部材54がフィラメント66よりも熱伝導率が高く、かつフィラメント66よりも太く形成されているので、エミッタ52の熱が支持部材54に効率的に放熱されることになる。したがって、エミッタ52の冷却効率を確実に向上させることができる。
【0048】
さらに、本実施形態では、円筒状の支持部材54内にエミッタ52が挿入された状態で固定されているため、エミッタ52をより安定して保持することができる。
【0049】
そして、本実施形態の電界電離型イオン源21及び集束イオンビーム装置1によれば、上述したエミッタ構造体22を備えているため、ガスイオンG3を安定的に発生させることができ、ビーム径の小さい高輝度な集束イオンビーム(FIB)を所望の方向に照射し続けることができる。
【0050】
なお、本発明の技術範囲は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、種々の変更を加えることが可能である。
【0051】
例えば、上述した実施形態では、エミッタ52の結晶方位を(111)面としたが、例えば(100)面でも構わないし、(110)面としても構わない。
また、上述した実施形態では、エミッタ52の基材52aをタングステン(W)としたが、モリブデン(Mo)としても構わない。また、基材52aの表面を被膜する貴金属52bをイリジウム(Ir)としたが、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、レニウム(Re)、オスミウム(Os)等を用いても構わない。特に、エミッタ52は、このような各種の貴金属52bによって表面が被膜されているので、化学的な耐性を有している。なお、化学的な耐性という点においては、イリジウム(Ir)を用いることが好ましい。
【0052】
また、上述した実施形態では、最先端に1原子(原子A1)が配列されている結晶構造を有するエミッタ52を例に挙げて説明したが、必ずしも1原子で終端されている場合に限定されるものではなく、再生処理(原子の再配列)により同じ結晶構造が再現されるのであれば、3原子等が最先端に配列されるような結晶構造でも構わない。なお、結晶構造は、結晶の材質や再生処理に異なる。
【0053】
また、上述した実施形態では、イオン発生室51内に供給するガスG2として、ヘリウム(He)ガスを供給したが、この場合に限定されず、例えば、アルゴン(Ar)ガス、ネオン(Ne)ガス、クリプトン(Kr)ガス、キセノン(Xe)ガス等を用いても構わない。さらに、水素(H
2)、酸素(O
2)等の希ガス以外のガスも使用可能である。この際、集束イオンビーム(FIB)の用途に応じて、ガスG2の種類を途中で切り替えたり、2種類以上のガスG2を混合して供給したりするようにしても構わない。
【0054】
また、上述した実施形態では、エミッタ52を構成する原子を再配列する際に、エミッタ52先端を局所的に加熱したが、この際、単に加熱するだけでなく、加熱に加え、強電界中で電子放出することで再配列させても構わない。さらに、加熱に加え、強電界中でヘリウム(He)ガスやネオン(Ne)ガスやアルゴン(Ar)ガスを導入しながら電子放出することで再配列させても構わない。さらには、加熱に加え、酸素(O
2)や窒素(N
2)を導入しながら再配列させても構わない。これらの場合であっても、同様の作用効果を奏することができる。
【0055】
また、上述した実施形態では、通電ピン65や支持部材54をろう付け等によってベース部材61に固定する構成について説明したが、これに限らず、ねじ止め等、種々の方法によって固定することが可能である。例えば、外周面に雄ねじ部が形成された支持部材54をベース部材61の貫通孔61aに挿入した後、ベース部材61に対して上下方向両側から支持部材54にナット部材を螺着する。これにより、両ナット部材によってベース部材61が挟持され、ベース部材61に対して支持部材54を固定することができる。なお、通電ピン65についても同様の方法によりベース部材61に固定することが可能である。
さらに、上述した実施形態では、支持部材54を銅により形成する場合について説明したが、これに限らず、フィラメント66よりも熱伝導率が高い材料か、フィラメント66よりも太い材料であれば適宜設計変更が可能である。
【0056】
さらに、上述した実施形態では、円筒状の支持部材54内でエミッタ52を保持する構成について説明したが、これに限らず、支持部材54とエミッタ52との接続方法は適宜変更が可能である。