(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の触媒(本明細書中では、「電極触媒」とも称する)は、触媒担体および前記触媒担体に担持される触媒金属からなる。ここで、触媒は、下記構成(a)〜(b)を満たす:
(a)担体重量当たりのBET比表面積が1200m
2/g担体超である;
(b)担体重量当たりの酸性基の量が0.7mmol/g担体以上である。
【0012】
本発明によれば、触媒のBET比表面積を制御することによって、電解質が触媒金属表面に吸着することによる触媒活性の低下を抑制できる。また、触媒における酸性基の量を制御することによって担体の空孔内部のプロトン輸送が確保できるため、触媒金属の利用率を高めることができる。その結果、触媒金属の使用量を低減でき、燃料電池の製造コストを低減することができる。
【0013】
本発明者らは、上記特許文献1に記載の触媒と高分子電解質とを用いて触媒層を作製した場合、電解質は酸素等のガスに比して触媒金属表面に吸着し易いため、触媒金属が電解質と接触すると、触媒金属表面の反応活性面積が減少することを見出した。その結果、触媒活性が低下し、発電性能が低下してしまうため、十分な発電性能を得るためには白金のような高価な金属を多く使用する必要があり、これは燃料電池の高コスト化を招いてしまう。これに対して、触媒金属が電解質と接触しない場合であっても、水により三相界面を形成することによって触媒金属の反応活性面積を確保でき、触媒金属を有効に利用できることを見出した。ここで、カーボンなどの多孔質担体を用いた触媒において、触媒のBET比表面積を1200m
2/g担体超とすることで十分なメソ孔を確保することができる。そのため、触媒のBET比表面積を1200m
2/g担体超とすることで、触媒金属を電解質が進入できないメソ孔内部に担持する構成とすることができ、電解質が触媒金属表面に吸着することによる触媒活性の低下を抑制することができる。なお、本明細書中では、半径が1nm未満の空孔を「ミクロ孔」とも称する。また、本明細書中では、半径1〜5nmの空孔を「メソ孔」とも称する。
【0014】
一方、固体高分子型燃料電池の電極触媒層では、プロトンが電解質および液体プロトン伝導材である水を介して伝導することで電気化学反応が進行し、発電が生じる。触媒金属を電解質が進入できないメソ孔内部に主に担持する場合には、電解質が空孔内に進入できないため、空孔内の触媒金属周辺のプロトン輸送は水が担うことになる。ところが、空孔内に水が十分に存在していないと、プロトン輸送性が低下し、発電性能が低下してしまうことがわかった。したがって、このような場合は、コスト低減のために触媒金属の使用量を低減することができないことが明らかになった。
【0015】
これに対して、本発明によれば、触媒に存在する酸性基の量を一定以上の値に制御することによって、触媒の空孔内部表面の親水性を高めることができる。したがって、空孔内部に水を吸着させ、保持することができる。このように空孔内部に水が導入されやすくなることで、触媒の空孔内部に担持された触媒金属周辺にもプロトンの輸送が促進されて電気化学反応が効率的に進行しうるため、触媒金属の利用率が向上しうる。そのため、触媒金属の使用量を減らすことができ、燃料電池の製造コストの低減に寄与しうる。また、本発明の触媒は、特に相対湿度が低い条件で用いた場合、より高い効果が得られうる。相対湿度が高い場合は触媒の空孔内部にも比較的水が充填されやすいが、相対湿度が低い場合、従来の触媒では触媒の空孔内部まで水が十分に充填されず、プロトン輸送抵抗が増大し、発電性能が大きく低下してしまう。しかしながら本発明の触媒によれば相対湿度が低い場合であっても空孔内部に水を保持することができるため高いプロトン輸送性が得られうる。したがって、触媒金属を有効に利用でき、本発明の効果がより顕著に得られうる。
【0016】
以下、適宜図面を参照しながら、本発明の触媒の一実施形態、ならびにこれを使用した触媒層、膜電極接合体(MEA)および燃料電池の一実施形態を詳細に説明する。しかし、本発明は、以下の実施形態のみには制限されない。なお、各図面は説明の便宜上誇張されて表現されており、各図面における各構成要素の寸法比率が実際とは異なる場合がある。また、本発明の実施の形態を、図面を参照しながら説明した場合では、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0017】
また、本明細書において、範囲を示す「X〜Y」は「X以上Y以下」を意味し、「重量」と「質量」、「重量%」と「質量%」および「重量部」と「質量部」は同義語として扱う。また、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20〜25℃)/相対湿度40〜50%の条件で測定する。
【0018】
[燃料電池]
燃料電池は、膜電極接合体(MEA)と、燃料ガスが流れる燃料ガス流路を有するアノード側セパレータと酸化剤ガスが流れる酸化剤ガス流路を有するカソード側セパレータとからなる一対のセパレータとを有する。本形態の燃料電池は、耐久性に優れ、かつ高い発電性能を発揮できる。
【0019】
図1は、本発明の一実施形態に係る固体高分子形燃料電池(PEFC)1の基本構成を示す概略図である。PEFC1は、まず、固体高分子電解質膜2と、これを挟持する一対の触媒層(アノード触媒層3aおよびカソード触媒層3c)とを有する。そして、固体高分子電解質膜2と触媒層(3a、3c)との積層体はさらに、一対のガス拡散層(GDL)(アノードガス拡散層4aおよびカソードガス拡散層4c)により挟持されている。このように、固体高分子電解質膜2、一対の触媒層(3a、3c)および一対のガス拡散層(4a、4c)は、積層された状態で膜電極接合体(MEA)10を構成する。
【0020】
PEFC1において、MEA10はさらに、一対のセパレータ(アノードセパレータ5aおよびカソードセパレータ5c)により挟持されている。
図1において、セパレータ(5a、5c)は、図示したMEA10の両端に位置するように図示されている。ただし、複数のMEAが積層されてなる燃料電池スタックでは、セパレータは、隣接するPEFC(図示せず)のためのセパレータとしても用いられるのが一般的である。換言すれば、燃料電池スタックにおいてMEAは、セパレータを介して順次積層されることにより、スタックを構成することとなる。なお、実際の燃料電池スタックにおいては、セパレータ(5a、5c)と固体高分子電解質膜2との間や、PEFC1とこれと隣接する他のPEFCとの間にガスシール部が配置されるが、
図1ではこれらの記載を省略する。
【0021】
セパレータ(5a、5c)は、例えば、厚さ0.5mm以下の薄板にプレス処理を施すことで
図1に示すような凹凸状の形状に成形することにより得られる。セパレータ(5a、5c)のMEA側から見た凸部はMEA10と接触している。これにより、MEA10との電気的な接続が確保される。また、セパレータ(5a、5c)のMEA側から見た凹部(セパレータの有する凹凸状の形状に起因して生じるセパレータとMEAとの間の空間)は、PEFC1の運転時にガスを流通させるためのガス流路として機能する。具体的には、アノードセパレータ5aのガス流路6aには燃料ガス(例えば、水素など)を流通させ、カソードセパレータ5cのガス流路6cには酸化剤ガス(例えば、空気など)を流通させる。
【0022】
一方、セパレータ(5a、5c)のMEA側とは反対の側から見た凹部は、PEFC1の運転時にPEFCを冷却するための冷媒(例えば、水)を流通させるための冷媒流路7とされる。さらに、セパレータには通常、マニホールド(図示せず)が設けられる。このマニホールドは、スタックを構成した際に各セルを連結するための連結手段として機能する。かような構成とすることで、燃料電池スタックの機械的強度が確保されうる。
【0023】
なお、
図1に示す実施形態においては、セパレータ(5a、5c)は凹凸状の形状に成形されている。ただし、セパレータは、かような凹凸状の形態のみに限定されるわけではなく、ガス流路および冷媒流路の機能を発揮できる限り、平板状、一部凹凸状などの任意の形態であってもよい。
【0024】
上記のような、本発明のMEAを有する燃料電池は、優れた発電性能を発揮する。ここで、燃料電池の種類としては、特に限定されず、上記した説明中では高分子電解質形燃料電池を例に挙げて説明したが、この他にも、アルカリ型燃料電池、ダイレクトメタノール型燃料電池、マイクロ燃料電池などが挙げられる。なかでも小型かつ高密度・高出力化が可能であるから、高分子電解質形燃料電池(PEFC)が好ましく挙げられる。また、前記燃料電池は、搭載スペースが限定される車両などの移動体用電源の他、定置用電源などとして有用である。なかでも、比較的長時間の運転停止後に高い出力電圧が要求される自動車などの移動体用電源として用いられることが特に好ましい。
【0025】
燃料電池を運転する際に用いられる燃料は特に限定されない。例えば、水素、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、第2級ブタノール、第3級ブタノール、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、エチレングリコール、ジエチレングリコールなどが用いられうる。なかでも、高出力化が可能である点で、水素やメタノールが好ましく用いられる。
【0026】
また、燃料電池の適用用途は特に限定されるものではないが、車両に適用することが好ましい。本発明の電解質膜−電極接合体は、発電性能および耐久性に優れ、小型化が実現可能である。このため、本発明の燃料電池は、車載性の点から、車両に該燃料電池を適用した場合、特に有利である。
【0027】
以下、本形態の燃料電池を構成する部材について簡単に説明するが、本発明の技術的範囲は下記の形態のみに制限されない。
【0028】
[触媒(電極触媒)]
図2は、本発明の一実施形態に係る触媒の形状・構造を示す概略断面説明図である。
図2に示されるように、本発明の触媒20は、触媒金属22および担体23からなる。また、触媒20は、空孔(メソ孔)24を有する。さらに、触媒20は、酸性基25を有する。ここで、触媒金属22は、空孔(メソ孔)24の内部に担持される。また、触媒金属22は、少なくとも一部が空孔(メソ孔)24の内部に担持されていればよく、一部が担体23の表面に担持されていてもよい。しかし、触媒層での電解質と触媒金属との接触を防ぐという観点からは、実質的にすべての触媒金属22がメソ孔24の内部に担持されることが好ましい。ここで、「実質的にすべての触媒金属」とは、十分な触媒活性を向上できる量であれば特に制限されない。「実質的にすべての触媒金属」は、全触媒金属において、好ましくは50重量%以上(上限:100重量%)、より好ましくは80重量%以上(上限:100重量%)の量で存在する。
【0029】
本発明の触媒の(触媒金属担持後の)BET比表面積[担体1gあたりの触媒のBET比表面積(m
2/g)]は、1200m
2/g担体超である。触媒のBET比表面積が1200m
2/g担体以下である場合、十分な空孔(メソ孔)を確保できず、空孔(メソ孔)内部により多くの触媒金属を格納(担持)することが難しく、担体の表面に担持される触媒金属が相対的に多くなる。よって、触媒層で触媒金属と電解質とが接触しやすくなり、電解質が触媒金属に被覆する割合が大きくなる。ゆえに、触媒金属の活性を有効に利用できず、触媒反応をより効果的に促進することが困難になる。さらに、触媒のBET比表面積が1200m
2/g担体以下である場合は、触媒金属の粒子を高い状態で分散させ有効表面積を十分に高くすることが容易ではない。触媒のBET比表面積は、好ましくは1500m
2/g担体以上であり、より好ましくは1700m
2/g担体以上である。該比表面積の上限値は特に制限されないが、3000m
2/g担体以下であることが好ましい。
【0030】
なお、本明細書において、触媒の「BET比表面積(m
2/g)」は、窒素吸着法により測定される。詳細には、触媒粉末 約0.04〜0.07gを精秤し、試料管に封入する。この試料管を真空乾燥器で90℃×数時間予備乾燥し、測定用サンプルとする。秤量には、島津製作所株式会社製電子天秤(AW220)を用いる。なお、塗布シートの場合には、これの全重量から、同面積のテフロン(登録商標)(基材)重量を差し引いた塗布層の正味の重量約0.03〜0.04gを試料重量として用いる。次に、下記測定条件にて、BET比表面積を測定する。吸着・脱着等温線の吸着側において、相対圧(P/P
0)約0.00〜0.45の範囲から、BETプロットを作成することで、その傾きと切片からBET比表面積を算出する。
【0032】
上記したような比表面積を有する触媒の製造方法は、特に制限されないが、通常、特開2010−208887号、国際公開第2009/075264号などの公報に記載される方法が好ましく使用される。
【0033】
担体の材質は、メソ孔を有し、触媒成分をメソ孔内部に分散状態で担持させるのに充分な比表面積と充分な電子伝導性とを有するものであれば特に制限されない。好ましくは、前記担体はカーボンを含み、より好ましくは主成分がカーボンである。具体的には、カーボンブラック(ケッチェンブラック
(登録商標)、オイルファーネスブラック、チャネルブラック、ランプブラック、サーマルブラック、アセチレンブラックなど)、活性炭などからなる多孔質カーボン粒子が挙げられる。「主成分がカーボンである」とは、主成分として炭素原子を含むことをいい、炭素原子のみからなる、実質的に炭素原子からなる、の双方を含む概念であり、炭素原子以外の元素が含まれていてもよい。「実質的に炭素原子からなる」とは、2〜3重量%程度以下の不純物の混入が許容されうることを意味する。担体としてカーボンを用いることによって、電子伝導性が向上し、電子伝導抵抗が軽減されるため、発電性能が向上しうる。
【0034】
より好ましくは、担体内部に所望の空孔領域を形成し易いことから、カーボンブラックを使用することが好ましく、特に好ましくはBlack Pearls(登録商標)を使用する。
【0035】
さらに、触媒層の耐食性を向上させる目的で、カーボン担体の結晶性が制御されることが好ましい。炭素材料の結晶性や結晶性組成については、例えば、ラマン散乱分光分析により算出される、Gバンドピーク強度とDバンドピーク強度を用いることができる。
【0036】
炭素材料をラマン分光法により分析すると、通常1340cm
−1付近および1580cm
−1付近にピークが生じる。これらのピークは通常、「Dバンド」および「Gバンド」と称される。なお、ダイヤモンドのピークは厳密には1333cm
−1であり、上記Dバンドとは区別される。
【0037】
本発明の一実施形態において、前記担体は、ラマンスペクトルにおいて1340cm
−1に現れるDバンドの半値幅が100cm
−1以下であるカーボンブラックである。また、本発明の一実施形態において、前記担体は、ラマンスペクトルにおいて1580cm
−1に現れるGバンドの半値幅が60cm
−1以下である。これらの場合には、カーボン担体の黒鉛化により触媒層の耐食性が向上し、これにより、初期性能が高く、長期間にわたりその性能を維持しうる触媒層が提供されうる。
【0038】
上記Dバンドの半値幅および上記Gバンドの半値幅の下限値は特に制限されない。ただし、担体の黒鉛化の進展と同時に一次空孔が塞がれていくため、担体の黒鉛化と所望の一次空孔領域の確保とを両立させる点から、上記Dバンドの半値幅は50cm
−1以上であるのが好ましく、上記Gバンドの半値幅は40cm
−1以上であるのが好ましい。
【0039】
ここで、ラマンスペクトルとは、ラマン効果によって散射された光について、どの波長の光がどの程度の強さで散射されたかを示すスペクトルである。本発明においては、波数(cm
−1)を一方の軸、強度を他方の軸として表したラマンスペクトルを用いて、DバンドおよびGバンドの半値幅が算出されうる。また、「半値幅」とは、所定の吸収帯の分布状態を判断するために用いられる値であり、吸収帯のピーク高さの2分の1の高さにおける吸収帯の広がり幅をいう。なお、これらのラマンスペクトルは、触媒担持前の担体に対して計測してもよいが、触媒担持後の担体に対して計測するのが好ましい。担体中の触媒の有無そのものはラマンスペクトルに影響しないが、触媒担持処理によって担体の表面が変質する可能性があるためである。
【0040】
DバンドやGバンド近辺に他の吸収帯が存在し、DバンドやGバンドと接合しているために半値幅がスペクトルからは一見したところ判断できない場合、通常は、ラマン分光測定装置に付随する解析プログラムによって半値幅が決定されうる。例えば、DバンドやGバンドのピークが含まれている領域に直線のベースラインを引き、Lorentz波形のカーブフィットを実施し、DバンドやGバンドのピーク分離を行う処理によって、半値幅が決定される。
【0041】
上記カーボンの他、Sn(錫)やTi(チタン)などの多孔質金属、さらには導電性を有する金属酸化物、例えば、RuO
2、TiO
2なども担体として好ましく使用できる。このような金属酸化物を用いることにより、担体の腐食が低減され、触媒の耐久性がより向上する。
【0042】
担体のBET比表面積は、触媒成分を高分散担持させるのに充分な比表面積であればよい。担体のBET比表面積は、上述した触媒のBET比表面積と同様の手法で求めることができる。担体のBET比表面積は、担体の重量基準で求めた触媒のBET比表面積と実質的に同等である。担体のBET比表面積は、好ましくは1200m
2/g超であり、より好ましくは1500m
2/g以上であり、さらに好ましくは1700m
2/g以上である。上記したような比表面積であれば、十分なメソ孔を確保できるため、メソ孔内部により多くの触媒金属を格納(担持)できる。よって、触媒層での電解質の触媒金属への被覆を抑制することができる(触媒金属と電解質との接触をより有効に抑制・防止できる)。ゆえに、触媒金属の活性をより有効に利用でき、触媒反応をより効果的に促進できる。また、触媒金属が付着する面積を増加させることができるので小粒子径の触媒金属の粒子が高分散で分布させ、有効表面積を高くすることができる。その結果、燃料電池用電極触媒として用いた際の発電性能が向上しうる。担体のBET比表面積の上限値は特に制限されないが、例えば、3000m
2/g以下である。
【0043】
担体の細孔径は、担体がメソ孔を有するものであれば特に限定されないが、好ましくはメソ孔(半径1〜5nm)およびミクロ孔(半径1nm未満、大きさの下限値は0.3nm)を有する。
【0044】
前記担体の半径1nm未満の空孔(ミクロ孔)の空孔容積は、特に制限されないが、0.1cc/g担体以上であることが好ましい。より好ましくは、ミクロ孔の空孔容積は、0.3〜3cc/g担体であり、0.4〜2cc/g担体であることが特に好ましい。このような空孔容積であれば、機械的ストレス下での触媒金属の脱離をより有効に抑制・防止できる。また、ガス輸送を行うのに十分なミクロ孔が確保でき、ガス輸送抵抗が小さい。このため、当該ミクロ孔(パス)を介して十分量のガスをメソ孔に存在する触媒金属の表面に輸送できるため、本発明の触媒は、高い触媒活性を発揮できる、即ち、触媒反応を促進できる。なお、本明細書では、半径1nm未満の空孔の空孔容積を単に「ミクロ孔の空孔容積」とも称する。
【0045】
また、前記担体の半径1nm以上の空孔(メソ孔)の空孔容積は、特に制限されないが、0.4cc/g担体以上、より好ましくは0.4〜3cc/g担体であり、特に好ましくは0.4〜2cc/g担体であることが好ましい。空孔容積が上記したような範囲にあれば、機械的ストレス下での触媒金属の脱離をより有効に抑制・防止できる。また、メソ孔により多くの触媒金属を格納(担持)でき、触媒層での電解質と触媒金属とを物理的に離す(触媒金属と電解質との接触をより有効に抑制・防止できる)。ゆえに、触媒金属の活性をより有効に利用できる。また、多くのメソ孔の存在により、本発明による作用・効果をさらに顕著に発揮して、触媒反応をより効果的に促進できる。加えて、ミクロ孔がガスの輸送パスとして作用して、水により三相界面をより顕著に形成して、触媒活性をより向上できる。なお、本明細書では、半径1nm以上の空孔の空孔容積を単に「メソ孔の空孔容積」とも称する。
【0046】
「ミクロ孔の空孔容積」は、担体に存在する半径1nm未満のミクロ孔の総容積を意味し、担体1gあたりの容積(cc/g担体)で表される。「ミクロ孔の空孔容積(cc/g担体)」は、窒素吸着法(MP法)によって求めた微分細孔分布曲線の下部の面積(積分値)として算出される。同様にして、「メソ孔の空孔容積」は、担体に存在する半径1nm以上のメソ孔の総容積を意味し、担体1gあたりの容積(cc/g担体)で表される。「メソ孔の空孔容積(cc/g担体)」は、窒素吸着法(DH法)によって求めた微分細孔分布曲線の下部の面積(積分値)として算出される。
【0047】
担体の平均粒径は20〜2000nmであることが好ましい。かような範囲であれば、担体に上記空孔構造を設けた場合であっても機械的強度が維持され、かつ、触媒層の厚みを適切な範囲で制御することができる。「担体の平均粒径」の値としては、特に言及のない限り、走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)などの観察手段を用い、数〜数十視野中に観察される粒子の粒子径の平均値として算出される値を採用するものとする。また、「粒子径」とは、粒子の輪郭線上の任意の2点間の距離のうち、最大の距離を意味するものとする。
【0048】
なお、本発明においては、上記したような比表面積を有するものである限り、必ずしも上記したような粒状の多孔質担体を用いる必要はない。
【0049】
すなわち、担体として、非多孔質の導電性担体やガス拡散層を構成する炭素繊維から成る不織布やカーボンペーパー、カーボンクロスなども挙げられる。このとき、触媒をこれら非多孔質の導電性担体に担持したり、膜電極接合体のガス拡散層を構成する炭素繊維から成る不織布やカーボンペーパー、カーボンクロスなどに直接付着させたりすることも可能である。
【0050】
本発明で使用できる触媒金属は、電気的化学反応の触媒作用をする機能を有する。アノード触媒層に用いられる触媒金属は、水素の酸化反応に触媒作用を有するものであれば特に制限はなく公知の触媒が同様にして使用できる。また、カソード触媒層に用いられる触媒金属もまた、酸素の還元反応に触媒作用を有するものであれば特に制限はなく公知の触媒が同様にして使用できる。具体的には、白金、ルテニウム、イリジウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、タングステン、鉛、鉄、銅、銀、クロム、コバルト、ニッケル、マンガン、バナジウム、モリブデン、ガリウム、アルミニウム等の金属およびこれらの合金などから選択されうる。
【0051】
これらのうち、触媒活性、一酸化炭素等に対する耐被毒性、耐熱性などを向上させるために、少なくとも白金を含むものが好ましく用いられる。すなわち、触媒金属は、白金であるまたは白金と白金以外の金属成分を含むことが好ましく、白金または白金含有合金であることがより好ましい。このような触媒金属は、高い活性を発揮できる。そのため、燃料電池用電極触媒として用いたとき、高い発電性能が得られうる。前記合金の組成は、合金化する金属の種類にもよるが、白金の含有量を30〜90原子%とし、白金と合金化する金属の含有量を10〜70原子%とするのがよい。なお、合金とは、一般に金属元素に1種以上の金属元素または非金属元素を加えたものであって、金属的性質をもっているものの総称である。合金の組織には、成分元素が別個の結晶となるいわば混合物である共晶合金、成分元素が完全に溶け合い固溶体となっているもの、成分元素が金属間化合物または金属と非金属との化合物を形成しているものなどがあり、本願ではいずれであってもよい。この際、アノード触媒層に用いられる触媒金属およびカソード触媒層に用いられる触媒金属は、上記の中から適宜選択されうる。本明細書では、特記しない限り、アノード触媒層用およびカソード触媒層用の触媒金属についての説明は、両者について同様の定義である。しかしながら、アノード触媒層およびカソード触媒層の触媒金属は同一である必要はなく、上記したような所望の作用を奏するように、適宜選択されうる。
【0052】
触媒金属(触媒成分)の形状や大きさは、特に制限されず公知の触媒成分と同様の形状および大きさが採用されうる。形状としては、例えば、粒状、鱗片状、層状などのものが使用できるが、好ましくは粒状である。この際、触媒金属(触媒金属粒子)の平均粒径は、特に制限されないが、3nm以上、より好ましくは3nm超30nm以下、特に好ましくは3nm超10nm以下であることが好ましい。触媒金属の平均粒径が3nm以上であれば、触媒金属がメソ孔内に比較的強固に担持され、触媒層内で電解質と接触するのをより有効に抑制・防止される。また、ミクロ孔が触媒金属で塞がれずに残存し、ガスの輸送パスがより良好に確保されて、ガス輸送抵抗をより低減できる。また、電位変化による溶出を防止し、経時的な性能低下をも抑制できる。このため、触媒活性をより向上できる、すなわち、触媒反応をより効率的に促進できる。一方、触媒金属粒子の平均粒径が30nm以下であれば、担体のメソ孔内部に触媒金属を簡便な方法で担持することができ、触媒金属の電解質被覆率を低減することができる。なお、本発明における「触媒金属粒子の平均粒径」は、X線回折における触媒金属成分の回折ピークの半値幅より求められる結晶子径や、透過型電子顕微鏡(TEM)より調べられる触媒金属粒子の粒子径の平均値として測定されうる。
【0053】
本実施形態の触媒を燃料電池用電極触媒として用いる場合、単位触媒塗布面積当たりの触媒含有量(mg/cm
2)は、十分な触媒の担体上での分散度、発電性能が得られる限り特に制限されず、例えば、0.01〜1mg/cm
2である。ただし、触媒が白金または白金含有合金を含む場合、単位触媒塗布面積当たりの白金含有量が0.5mg/cm
2以下であることが好ましい。白金(Pt)や白金合金に代表される高価な貴金属触媒の使用は燃料電池の高価格要因となっている。したがって、高価な白金の使用量(白金含有量)を上記範囲まで低減し、コストを削減することが好ましい。下限値は発電性能が得られる限り特に制限されず、例えば、0.01mg/cm
2以上である。より好ましくは、当該白金含有量は0.02〜0.4mg/cm
2である。本形態では、担体の空孔構造を制御することにより、触媒重量あたりの活性を向上させることができるため、高価な触媒の使用量を低減することが可能となる。
【0054】
なお、本明細書において、「単位触媒塗布面積当たりの触媒(白金)含有量(mg/cm
2)」の測定(確認)には、誘導結合プラズマ発光分光法(ICP)を用いる。所望の「単位触媒塗布面積当たりの触媒(白金)含有量(mg/cm
2)」にせしめる方法も当業者であれば容易に行うことができ、スラリーの組成(触媒濃度)と塗布量を制御することで量を調整することができる。
【0055】
また、本発明の触媒において、触媒に含まれる触媒金属の割合(触媒金属の担持量または担持率とも称する場合がある)は、触媒担持体(つまり、担体および触媒)の全量に対して、好ましくは50重量%以下、より好ましくは30重量%以下とするのがよい。担持量が前記範囲であれば、小粒子径の触媒金属が担体表面に分散するため、触媒金属の使用量を低減しても重量あたりの触媒金属の表面積は維持される。すなわち、十分な触媒成分の担体上での分散度、発電性能の向上、経済上での利点、触媒の単位重量あたりの高い触媒活性が達成できるため好ましい。特に触媒金属が白金である場合、または白金と白金以外の金属を含む場合、上記範囲まで低減することで白金使用量を低減することができ、コストを削減することが好ましい。特に触媒金属の担持量が30重量%以下であれば、触媒金属の原材料費を低減できるほか、触媒に対する担体の重量分率が増加するため、触媒金属使用量を低減しても触媒の体積低下が抑制され、耐久性が向上しうる。なお、該担持量の下限値は特に制限されないが、高い発電性能を得る観点から、5重量%以上であることが好ましい。
【0056】
本発明の触媒は、触媒の粒子の表面または空孔の表面に酸性基を有し、担体重量当たりの酸性基の量が0.7mmol/g担体以上である。
【0057】
本発明の触媒が有する酸性基は、電離してプロトンを放出しうる官能基であれば特に制限されないが、ヒドロキシル基、ラクトン基、およびカルボキシル基からなる群より選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。担体がカーボンを含む場合、前記酸性基は、好ましくはヒドロキシル基、ラクトン基、またはカルボキシル基を含み、担体が金属酸化物を含む場合、前記酸性基は、好ましくはヒドロキシル基を含む。このような酸性基は親水性基であり、担体表面への水吸着量を増やすことができるため、触媒層におけるプロトン輸送性が向上しうる。また、触媒の耐久性が向上しうる。
【0058】
触媒が有する酸性基の量は、0.7mmol/g担体以上である。触媒が有する酸性基の量が0.7mmol/g担体を下回ると、触媒の親水性を確保することができず、十分なプロトン輸送性を発揮することができない。そのため、触媒金属の利用率を十分に高めることができず、十分な発電性能を得るためには触媒金属を多く使用しなければならず、燃料電池のコストが増大しうる。該酸性基の量は、好ましくは0.75mmol/g担体超であり、より好ましくは1.2mmol/g担体以上であり、さらに好ましくは1.8mmol/g担体以上である。なお、酸性基の量の上限値は特に制限されないが、カーボン耐久性の観点から、3.0mmol/g担体以下であることが好ましく、2.5mmol/g担体以下であることがより好ましい。
【0059】
当該酸性基の量は、アルカリ化合物を用いた滴定法により測定することができ、具体的には、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0060】
酸性基の量を上記範囲になるように触媒に酸性基を付加する方法は特に制限されないが、例えば、酸化剤を含む酸化性溶液中に、触媒金属を担持させた担体(触媒担持体)を浸漬する湿式法が採用されうる。この方法についての詳細は後述する。
【0061】
[触媒層]
上述したように、本発明の触媒は、高いプロトン輸送性を発揮できる、即ち、電気化学反応を促進できる。したがって、本発明の触媒は、燃料電池用の電極触媒層に好適に使用できる。すなわち、本発明は、本発明の触媒および電解質層を含む、燃料電池用電極触媒層をも提供する。
【0062】
図2に示されるように、触媒層内では、触媒20は電解質26で被覆されているが、電解質26は、その分子サイズよりも空孔(メソ孔)24の表面開口径が小さいため、触媒(担体23)の空孔(メソ孔)24内には侵入しない。このため、担体23表面の触媒金属22は電解質26と接触するが、空孔24内部に担持された触媒金属22は電解質26と非接触状態である。空孔内の触媒金属が、電解質と非接触状態で酸素ガスと水との三相界面を形成することにより、触媒金属の反応活性面積を確保できる。
【0063】
本発明の触媒は、カソード触媒層またはアノード触媒層のいずれに存在してもいてもよいが、カソード触媒層で使用されることが好ましい。上述したように、本発明の触媒は、電解質と接触しなくても、水との三相界面を形成することによって、触媒を有効に利用できるが、カソード触媒層で水が形成するからである。
【0064】
電解質は、特に制限されないが、イオン伝導性の高分子電解質であることが好ましい。上記高分子電解質は、燃料極側の触媒活物質周辺で発生したプロトンを伝達する役割を果たすことから、プロトン伝導性高分子とも呼ばれる。
【0065】
当該高分子電解質は、特に限定されず従来公知の知見が適宜参照されうる。高分子電解質は、構成材料であるイオン交換樹脂の種類によって、フッ素系高分子電解質と炭化水素系高分子電解質とに大別される。
【0066】
フッ素系高分子電解質を構成するイオン交換樹脂としては、例えば、Nafion(登録商標、Dupont社製)、アシプレックス(登録商標、旭化成株式会社製)、フレミオン(登録商標、旭硝子株式会社製)等のパーフルオロカーボンスルホン酸系ポリマー、パーフルオロカーボンホスホン酸系ポリマー、トリフルオロスチレンスルホン酸系ポリマー、エチレンテトラフルオロエチレン−g−スチレンスルホン酸系ポリマー、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体、ポリビニリデンフルオリド−パーフルオロカーボンスルホン酸系ポリマーなどが挙げられる。耐熱性、化学的安定性、耐久性、機械強度に優れるという観点からは、これらのフッ素系高分子電解質が好ましく用いられ、特に好ましくはパーフルオロカーボンスルホン酸系ポリマーから構成されるフッ素系高分子電解質が用いられる。
【0067】
炭化水素系電解質として、具体的には、スルホン化ポリエーテルスルホン(S−PES)、スルホン化ポリアリールエーテルケトン、スルホン化ポリベンズイミダゾールアルキル、ホスホン化ポリベンズイミダゾールアルキル、スルホン化ポリスチレン、スルホン化ポリエーテルエーテルケトン(S−PEEK)、スルホン化ポリフェニレン(S−PPP)などが挙げられる。原料が安価で製造工程が簡便であり、かつ材料の選択性が高いといった製造上の観点からは、これらの炭化水素系高分子電解質が好ましく用いられる。なお、上述したイオン交換樹脂は、1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。また、上述した材料のみに制限されず、その他の材料が用いられてもよい。
【0068】
プロトンの伝達を担う高分子電解質においては、プロトンの伝導度が重要となる。ここで、高分子電解質のEWが大きすぎる場合には触媒層全体でのイオン伝導性が低下する。したがって、本形態の触媒層は、EWの小さい高分子電解質を含むことが好ましい。具体的には、本形態の触媒層は、好ましくはEWが1500g/eq.以下の高分子電解質を含み、より好ましくは1200g/eq.以下の高分子電解質を含み、特に好ましくは1000g/eq.以下の高分子電解質を含む。
【0069】
一方、EWが小さすぎる場合には、親水性が高すぎて、水の円滑な移動が困難となる。かような観点から、高分子電解質のEWは500以上であることが好ましい。なお、EW(Equivalent Weight)は、プロトン伝導性を有する交換基の当量重量を表している。当量重量は、イオン交換基1当量あたりのイオン交換膜の乾燥重量であり、「g/eq」の単位で表される。
【0070】
また、触媒層は、EWが異なる2種類以上の高分子電解質を発電面内に含み、この際、高分子電解質のうち最もEWが低い高分子電解質が流路内ガスの相対湿度が90%以下の領域に用いることが好ましい。このような材料配置を採用することにより、電流密度領域によらず、抵抗値が小さくなって、電池性能の向上を図ることができる。流路内ガスの相対湿度が90%以下の領域に用いる高分子電解質、すなわちEWが最も低い高分子電解質のEWとしては、900g/eq.以下であることが望ましい。これにより、上述の効果がより確実、顕著なものとなる。
【0071】
さらに、EWが最も低い高分子電解質を冷却水の入口と出口の平均温度よりも高い領域に用いることが望ましい。これによって、電流密度領域によらず、抵抗値が小さくなって、電池性能のさらなる向上を図ることができる。
【0072】
さらには、燃料電池システムの抵抗値を小さくするとする観点から、EWが最も低い高分子電解質は、流路長に対して燃料ガスおよび酸化剤ガスの少なくとも一方のガス供給口から3/5以内の範囲の領域に用いることが望ましい。
【0073】
本形態の触媒層は、触媒と高分子電解質との間に、触媒と高分子電解質とをプロトン伝導可能な状態に連結しうる、水などの液体プロトン伝導材を有しうる。液体プロトン伝導材が導入されることによって、触媒と高分子電解質との間に、液体プロトン伝導材を介したプロトン輸送経路が確保され、発電に必要なプロトンを効率的に触媒表面へ輸送することが可能となる。これにより、触媒の利用効率が向上するため、発電性能を維持しながら触媒の使用量を低減することが可能となる。この液体プロトン伝導材は触媒と高分子電解質との間に介在していればよく、触媒層内の多孔質担体間の空孔(二次空孔)や多孔質担体内の空孔(ミクロ孔またはメソ孔:一次空孔)内に配置されうる。
【0074】
液体プロトン伝導材としては、イオン伝導性を有し、触媒と高分子電解質と間のプロトン輸送経路を形成する機能を発揮しうる限り、特に限定されることはない。具体的には水、過塩素酸水溶液、硝酸水溶液、ギ酸水溶液、酢酸水溶液などを挙げることができるが、本実施形態では水を含むことが好ましい。
【0075】
液体プロトン伝導材として水を使用する場合には、発電を開始する前に少量の液水か加湿ガスにより触媒層を湿らせることによって、触媒層内に液体プロトン伝導材としての水を導入することができる。また、燃料電池の作動時における電気化学反応によって生じた生成水を液体プロトン伝導材として利用することもできる。したがって、燃料電池の運転開始の状態においては、必ずしも液体プロトン伝導材が保持されている必要はない。例えば、触媒と電解質との表面距離を、水分子を構成する酸素イオン径である0.28nm以上とすることが望ましい。このような距離を保持することによって、触媒と高分子電解質との非接触状態を保持しながら、触媒と高分子電解質との間(液体伝導材保持部)に水(液体プロトン伝導材)を介入させることができ、両者間の水によるプロトン輸送経路が確保されることになる。
【0076】
本実施形態の触媒層では、触媒(触媒金属)の高分子電解質と接触している総面積が、この触媒(触媒金属)が液体伝導材保持部に露出している総面積よりも小さいものとなっていることが好ましい。
【0077】
これら面積の比較は、例えば、上記液体伝導材保持部に液体プロトン伝導材を満たした状態で、触媒−高分子電解質界面と触媒−液体プロトン伝導材界面に形成される電気二重層の容量の大小関係を求めることによって行うことができる。すなわち、電気二重層容量は、電気化学的に有効な界面の面積に比例する。そのため、触媒−電解質界面に形成される電気二重層容量が触媒−液体プロトン伝導材界面に形成される電気二重層容量より小さければ、触媒の電解質との接触面積が液体伝導材保持部への露出面積よりも小さいことになる。
【0078】
ここで、触媒−電解質界面、触媒−液体プロトン伝導材界面にそれぞれ形成される電気二重層容量の測定方法について説明する。これは、言い換えると、触媒−電解質間および触媒−液体プロトン伝導材間の接触面積の大小関係(触媒の電解質との接触面積と液体伝導材保持部への露出面積の大小関係)の判定方法である。
【0079】
すなわち、本形態の触媒層においては、
(1)触媒−高分子電解質(C−S)
(2)触媒−液体プロトン伝導材(C−L)
(3)多孔質担体−高分子電解質(Cr−S)
(4)多孔質担体−液体プロトン伝導材(Cr−L)
の4種の界面が電気二重層容量(Cdl)として寄与し得る。
【0080】
電気二重層容量は、上記したように、電気化学的に有効な界面の面積に正比例するため、Cdl
C−S(触媒−高分子電解質界面の電気二重層容量)およびCdl
C−L(触媒−液体プロトン伝導材界面の電気二重層容量)を求めればよい。そして、電気二重層容量(Cdl)に対する上記4種の界面の寄与については、以下のようにして分離することができる。
【0081】
まず、例えば100%RHのような高加湿条件、および10%RH以下のような低加湿条件下において、電気二重層容量をそれぞれ計測する。なお、電気二重層容量の計測手法としては、サイクリックボルタンメトリーや電気化学インピーダンス分光法などを挙げることができる。これらの比較から、液体プロトン伝導材(この場合は「水」)の寄与、すなわち上記(2)および(4)を分離することができる。
【0082】
さらに触媒を失活させること、例えば、Ptを触媒として用いた場合には、測定対象の電極にCOガスを供給してCOをPt表面上に吸着させることによる触媒の失活によって、その電気二重層容量への寄与を分離することができる。このような状態で、前述のように高加湿および低加湿条件における電気二重層容量を同様の手法で計測し、これらの比較から、触媒の寄与、つまり上記(1)および(2)を分離することができる。
【0083】
以上により、上記(1)〜(4)全ての寄与を分離することができ、触媒と高分子電解質および液体プロトン伝導材両界面に形成される電気二重層容量を求めることができる。
【0084】
すなわち、高加湿状態における測定値(A)が上記(1)〜(4)の全界面に形成される電気二重層容量、低加湿状態における測定値(B)が上記(1)および(3)の界面に形成される電気二重層容量になる。また、触媒失活・高加湿状態における測定値(C)が上記(3)および(4)の界面に形成される電気二重層容量、触媒失活・低加湿状態における測定値(D)が上記(3)の界面に形成される電気二重層容量になる。
【0085】
したがって、AとCの差が(1)および(2)の界面に形成される電気二重層容量、BとDの差が(1)の界面に形成される電気二重層容量ということになる。そして、これら値の差、(A−C)−(B−D)を算出すれば、(2)の界面に形成される電気二重層容量を求めることができる。なお、触媒の高分子電解質との接触面積や、伝導材保持部への露出面積については、上記の他には、例えば、TEM(透過型電子顕微鏡)トモグラフィなどによっても求めることができる。
【0086】
本実施形態の触媒層において、触媒金属の表面積に対する触媒金属表面が電解質によって被覆されている面積の比から算出される触媒金属の電解質被覆率は、好ましくは0.3以下である。触媒金属の電解質被覆率は、より好ましくは0.25以下であり、より好ましくは0.2以下である(下限値:0)。電解質被覆率が0.3以下であれば、触媒活性(特に、酸素還元反応活性)が向上するため、発電性能が向上しうる。
【0087】
電解質被覆率は、上記電気二重層容量から算出することができ、具体的には実施例に記載の方法により算出することができる。
【0088】
触媒層には、必要に応じて、ポリテトラフルオロエチレン、ポリヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体などの撥水剤、界面活性剤などの分散剤、グリセリン、エチレングリコール(EG)、ポリビニルアルコール(PVA)、プロピレングリコール(PG)などの増粘剤、造孔剤等の添加剤が含まれていても構わない。
【0089】
触媒層の厚み(乾燥膜厚)は、好ましくは0.05〜30μm、より好ましくは1〜20μm、さらに好ましくは2〜15μmである。なお、上記厚みは、カソード触媒層およびアノード触媒層双方に適用される。しかし、カソード触媒層およびアノード触媒層の厚みは、同じであってもあるいは異なってもよい。
【0090】
(触媒層の製造方法)
以下、触媒層を製造するための好ましい実施形態を記載するが、本発明の技術的範囲は下記の形態のみには限定されない。また、触媒層の各構成要素の材質などの諸条件については、上述した通りであるため、ここでは説明を省略する。
【0091】
まず、担体(本明細書では、「多孔質担体」または「導電性多孔質担体」とも称する)を準備し、これを熱処理することにより空孔構造を制御する。具体的には、上記担体の製造方法で説明したように、作製すればよい。これにより、特定の比表面積を有する担体が得られる。
【0092】
当該熱処理の条件は材料に応じて異なり、所望の比表面積が得られるように適宜決定される。このような熱処理条件は、空孔構造を確認しつつ、材料に応じて決定すればよく、当業者であれば容易に決定することができるであろう。
【0093】
次いで、多孔質担体に触媒を担持させて、触媒粉末とする。多孔質担体への触媒の担持は公知の方法で行うことができる。例えば、含浸法、液相還元担持法、蒸発乾固法、コロイド吸着法、噴霧熱分解法、逆ミセル(マイクロエマルジョン法)などの公知の方法が使用できる。
【0094】
次に、得られた触媒粉末を、必要に応じて、アニール処理してもよい。アニール処理によって触媒金属粒子の粒子径を所望の粒子径に調整することができる。アニール処理は、特に制限されないが、水素ガス中で熱処理することによって行われうる。熱処理の温度および時間も特に制限されないが、例えば、600〜1180℃、好ましくは800〜1000℃で、好ましくは、0.5〜2時間熱処理する。熱処理の温度が600℃以上であれば、粒子径が小さくなりすぎず、長時間活性が持続しうる。熱処理の温度が1180℃以下であれば、粒子径が大きくなりすぎず、高い質量活性が得られうる。
【0095】
次に、得られた触媒を、酸化性溶液で処理し、酸性基を付加する。カーボンなどの担体は末端基として一定量の水素原子または酸性基などの官能基を有するが、酸化性溶液で処理することによってさらに酸性基を付加し、0.7mmol/g担体以上とする。使用する酸化性溶液としては、硫酸、硝酸、亜リン酸、過マンガン酸カリウム、過酸化水素、塩酸、塩素酸、次亜塩素酸、クロム酸などの水溶液が好ましい。なお、この酸化性溶液処理は、触媒を酸化性溶液に1回以上接触させることによって行われる。複数回の酸処理を行う場合は、処理ごとに溶液の種類を変更してもよい。酸化性溶液処理の条件としては、溶液の濃度は、0.1〜10.0mol/Lとすることが好ましく、溶液に触媒を浸漬することが好ましい。浸漬時間は、0.5〜3時間が好ましく、処理温度は50〜90℃が好ましい。酸性基の量は、触媒のBET比表面積、酸化性溶液の種類、濃度、処理時間、処理温度を調節することで制御することができる。
【0096】
続いて、酸性基を付加させた触媒粉末、高分子電解質、および溶剤を含む触媒インクを作製する。溶剤としては、特に制限されず、触媒層を形成するのに使用される通常の溶媒が同様にして使用できる。具体的には、水道水、純水、イオン交換水、蒸留水等の水、シクロヘキサノール、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、sec−ブタノール、イソブタノール、およびtert−ブタノール等の炭素数1〜4の低級アルコール、プロピレングリコール、ベンゼン、トルエン、キシレンなどが挙げられる。これらの他にも、酢酸ブチルアルコール、ジメチルエーテル、エチレングリコール、などが溶媒として用いられてもよい。これらの溶剤は、1種を単独で使用してもあるいは2種以上の混合液の状態で使用してもよい。
【0097】
触媒インクを構成する溶剤の量は、電解質を完全に溶解できる量であれば特に制限されない。具体的には、触媒粉末および高分子電解質などを合わせた固形分の濃度が、電極触媒インク中、1〜50重量%、より好ましくは5〜30重量%程度とするのが好ましい。
【0098】
なお、撥水剤、分散剤、増粘剤、造孔剤等の添加剤を使用する場合には、触媒インクにこれらの添加剤を添加すればよい。この際、添加剤の添加量は、本発明の上記効果を妨げない程度の量であれば特に制限されない。例えば、添加剤の添加量は、それぞれ、電極触媒インクの全重量に対して、好ましくは5〜20重量%である。
【0099】
次に、基材の表面に触媒インクを塗布する。基材への塗布方法は、特に制限されず、公知の方法を使用できる。具体的には、スプレー(スプレー塗布)法、ガリバー印刷法、ダイコーター法、スクリーン印刷法、ドクターブレード法など、公知の方法を用いて行うことができる。
【0100】
この際、触媒インクを塗布する基材としては、固体高分子電解質膜(電解質層)やガス拡散基材(ガス拡散層)を使用することができる。かような場合には、固体高分子電解質膜(電解質層)またはガス拡散基材(ガス拡散層)の表面に触媒層を形成した後、得られた積層体をそのまま膜電極接合体の製造に利用することができる。あるいは、基材としてポリテトラフルオロエチレン(PTFE)[テフロン(登録商標)]シート等の剥離可能な基材を使用し、基材上に触媒層を形成した後に基材から触媒層部分を剥離することにより、触媒層を得てもよい。
【0101】
最後に、触媒インクの塗布層(膜)を、空気雰囲気下あるいは不活性ガス雰囲気下、室温〜150℃で、1〜60分間乾燥する。これにより、触媒層が形成される。
【0102】
(膜電極接合体)
本発明のさらなる実施形態によれば、固体高分子電解質膜2、前記電解質膜の一方の側に配置されたカソード触媒層と、前記電解質膜の他方の側に配置されたアノード触媒層と、前記電解質膜2並びに前記アノード触媒層3aおよび前記カソード触媒層3cを挟持する一対のガス拡散層(4a,4c)とを有する燃料電池用膜電極接合体が提供される。そしてこの膜電極接合体において、前記カソード触媒層およびアノード触媒層の少なくとも一方が上記に記載した実施形態の触媒層である。
【0103】
ただし、プロトン伝導性の向上および反応ガス(特にO
2)の輸送特性(ガス拡散性)の向上の必要性を考慮すると、少なくともカソード触媒層が上記に記載した実施形態の触媒層であることが好ましい。ただし、上記形態に係る触媒層は、アノード触媒層として用いてもよいし、カソード触媒層およびアノード触媒層双方として用いてもよいなど、特に制限されるものではない。
【0104】
本発明のさらなる実施形態によれば、上記形態の膜電極接合体を有する燃料電池が提供される。すなわち、本発明の一実施形態は、上記形態の膜電極接合体を挟持する一対のアノードセパレータおよびカソードセパレータを有する燃料電池である。
【0105】
以下、
図1を参照しつつ、上記実施形態の触媒層を用いたPEFC1の構成要素について説明する。ただし、本発明は触媒および触媒層に特徴を有するものである。よって、燃料電池を構成する触媒層以外の部材の具体的な形態については、従来公知の知見を参照しつつ、適宜、改変が施されうる。
【0106】
(電解質膜)
電解質膜は、例えば、
図1に示す形態のように固体高分子電解質膜2から構成される。この固体高分子電解質膜2は、PEFC1の運転時にアノード触媒層3aで生成したプロトンを膜厚方向に沿ってカソード触媒層3cへと選択的に透過させる機能を有する。また、固体高分子電解質膜2は、アノード側に供給される燃料ガスとカソード側に供給される酸化剤ガスとを混合させないための隔壁としての機能をも有する。
【0107】
固体高分子電解質膜2を構成する電解質材料としては特に限定されず従来公知の知見が適宜参照されうる。例えば、先に高分子電解質として説明したフッ素系高分子電解質や炭化水素系高分子電解質を用いることができる。この際、触媒層に用いた高分子電解質と必ずしも同じものを用いる必要はない。
【0108】
電解質層の厚さは、得られる燃料電池の特性を考慮して適宜決定すればよく、特に制限されない。電解質層の厚さは、通常は5〜300μm程度である。電解質層の厚さがかような範囲内の値であると、製膜時の強度や使用時の耐久性および使用時の出力特性のバランスが適切に制御されうる。
【0109】
(ガス拡散層)
ガス拡散層(アノードガス拡散層4a、カソードガス拡散層4c)は、セパレータのガス流路(6a、6c)を介して供給されたガス(燃料ガスまたは酸化剤ガス)の触媒層(3a、3c)への拡散を促進する機能、および電子伝導パスとしての機能を有する。
【0110】
ガス拡散層(4a、4c)の基材を構成する材料は特に限定されず、従来公知の知見が適宜参照されうる。例えば、炭素製の織物、紙状抄紙体、フェルト、不織布といった導電性および多孔質性を有するシート状材料が挙げられる。基材の厚さは、得られるガス拡散層の特性を考慮して適宜決定すればよいが、30〜500μm程度とすればよい。基材の厚さがかような範囲内の値であれば、機械的強度とガスおよび水などの拡散性とのバランスが適切に制御されうる。
【0111】
ガス拡散層は、撥水性をより高めてフラッディング現象などを防止することを目的として、撥水剤を含むことが好ましい。撥水剤としては、特に限定されないが、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)などのフッ素系の高分子材料、ポリプロピレン、ポリエチレンなどが挙げられる。
【0112】
また、撥水性をより向上させるために、ガス拡散層は、撥水剤を含むカーボン粒子の集合体からなるカーボン粒子層(マイクロポーラス層;MPL、図示せず)を基材の触媒層側に有するものであってもよい。
【0113】
カーボン粒子層に含まれるカーボン粒子は特に限定されず、カーボンブラック、グラファイト、膨張黒鉛などの従来公知の材料が適宜採用されうる。なかでも、電子伝導性に優れ、比表面積が大きいことから、オイルファーネスブラック、チャネルブラック、ランプブラック、サーマルブラック、アセチレンブラックなどのカーボンブラックが好ましく用いられうる。カーボン粒子の平均粒径は、10〜100nm程度とするのがよい。これにより、毛細管力による高い排水性が得られるとともに、触媒層との接触性も向上させることが可能となる。
【0114】
カーボン粒子層に用いられる撥水剤としては、上述した撥水剤と同様のものが挙げられる。なかでも、撥水性、電極反応時の耐食性などに優れることから、フッ素系の高分子材料が好ましく用いられうる。
【0115】
カーボン粒子層におけるカーボン粒子と撥水剤との混合比は、撥水性および電子伝導性のバランスを考慮して、重量比で90:10〜40:60(カーボン粒子:撥水剤)程度とするのがよい。なお、カーボン粒子層の厚さについても特に制限はなく、得られるガス拡散層の撥水性を考慮して適宜決定すればよい。
【0116】
(膜電極接合体の製造方法)
膜電極接合体の作製方法としては、特に制限されず、従来公知の方法を使用できる。例えば、固体高分子電解質膜に触媒層をホットプレスで転写または塗布し、これを乾燥したものに、ガス拡散層を接合する方法が使用できる。または、ガス拡散層の微多孔質層側(微多孔質層を含まない場合には、基材層の片面に触媒層を予め塗布して乾燥することによりガス拡散電極(GDE)を2枚作製し、固体高分子電解質膜の両面にこのガス拡散電極をホットプレスで接合する方法を使用することができる。ホットプレス等の塗布、接合条件は、固体高分子電解質膜や触媒層内の高分子電解質の種類(パ−フルオロスルホン酸系や炭化水素系)によって適宜調整すればよい。
【0117】
(セパレータ)
セパレータは、固体高分子形燃料電池などの燃料電池の単セルを複数個直列に接続して燃料電池スタックを構成する際に、各セルを電気的に直列に接続する機能を有する。また、セパレータは、燃料ガス、酸化剤ガス、および冷却剤を互に分離する隔壁としての機能も有する。これらの流路を確保するため、上述したように、セパレータのそれぞれにはガス流路および冷却流路が設けられていることが好ましい。セパレータを構成する材料としては、緻密カーボングラファイト、炭素板などのカーボンや、ステンレスなどの金属など、従来公知の材料が適宜制限なく採用できる。セパレータの厚さやサイズ、設けられる各流路の形状やサイズなどは特に限定されず、得られる燃料電池の所望の出力特性などを考慮して適宜決定できる。
【0118】
燃料電池の製造方法は、特に制限されることなく、燃料電池の分野において従来公知の知見が適宜参照されうる。
【0119】
さらに、燃料電池が所望する電圧を発揮できるように、セパレータを介して膜電極接合体を複数積層して直列に繋いだ構造の燃料電池スタックを形成してもよい。燃料電池の形状などは、特に限定されず、所望する電圧などの電池特性が得られるように適宜決定すればよい。
【0120】
なお、本実施形態の燃料電池に供給する燃料ガスまたは酸化剤ガスの相対湿度は特に限定されないが、例えば60%以下、特には40%以下(下限値:0%以上)である場合、本発明の効果がより一層顕著に得られうる。すなわち、本実施形態の触媒は、相対湿度が60%以下、特には40%以下の条件下で、燃料電池用電極触媒として好適に使用されうる。燃料電池に供給する燃料ガスまたは酸化剤ガスは、公知の手法でそれぞれ所望の湿度に調湿して用いることができる。
【0121】
上述したPEFCや膜電極接合体は、触媒金属の利用率が高く、発電性能および耐久性に優れる触媒層を用いている。したがって、当該PEFCや膜電極接合体は発電性能および耐久性に優れ、触媒金属の使用量を少なくできるため製造コストが低減される。
【0122】
本実施形態のPEFCやこれを用いた燃料電池スタックは、例えば、車両に駆動用電源として搭載されうる。
【実施例】
【0123】
本発明の効果を、以下の実施例および比較例を用いて説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。
【0124】
(実施例1)
BET比表面積が1750m
2/gである担体Aを準備した。具体的には、国際公開第2009/75264号などに記載の方法により担体Aを作製した。
【0125】
上記担体Aを用い、これに触媒金属として平均粒径4nmの白金(Pt)を担持率が50重量%となるように担持させて、触媒粉末Aを得た。すなわち、白金濃度4.6質量%のジニトロジアンミン白金硝酸溶液を1000g(白金含有量:46g)に担体Aを46g浸漬させ攪拌後、還元剤として100%エタノールを100ml添加した。この溶液を沸点で7時間、攪拌、混合し、白金を担体Aに担持させた。そして、濾過、乾燥することにより、担持率が50重量%の触媒粉末Aを得た。
【0126】
上記工程によって製造した触媒粉末を100%水素ガス中で、1時間、900℃で保持することによってアニール処理を行った。
【0127】
触媒粉末Aについて、酸性基付加のための酸化性溶液処理を行った。触媒粉末Aを、3.0mol/Lの硝酸水溶液中で、80℃で2時間浸漬させた後、濾過、乾燥し、酸性基を有する触媒粉末Aを得た。
【0128】
このようにして得られた触媒粉末Aについて、BET比表面積を測定したところ、1750m
2/g担体であった。
【0129】
酸性基を有する触媒粉末Aと、高分子電解質としてのアイオノマー分散液(Nafion(登録商標)D2020,EW=1100g/mol、DuPont社製)とを、カーボン担体とアイオノマーの重量比が0.9となるよう混合した。さらに、溶媒としてn−プロピルアルコール溶液(50%)を固形分率(Pt+カーボン担体+アイオノマー)が7重量%となるよう添加して、カソード触媒インクを調製した。
【0130】
担体として、ケッチェンブラック
(登録商標)(粒径:30〜60nm)を用い、これに触媒金属として平均粒径2.5nmの白金(Pt)を担持量が50重量%となるように担持させて、触媒粉末を得た。この触媒粉末と、高分子電解質としてのアイオノマー分散液(Nafion(登録商標)D2020,EW=1100g/mol、DuPont社製)とをカーボン担体とアイオノマーの重量比が0.9となるよう混合した。さらに、溶媒としてn−プロピルアルコール溶液(50%)を固形分率(Pt+カーボン担体+アイオノマー)が7重量%となるよう添加して、アノード触媒インクを調製した。
【0131】
次に、高分子電解質膜(Dupont社製、Nafion(登録商標) NR211、厚み:25μm)の両面の周囲にガスケット(帝人デュポンフィルム株式会社製、テオネックス(登録商標)、厚み:25μm(接着層:10μm))を配置した。次いで、高分子電解質膜の片面の露出部に触媒インクをスプレー塗布法により、5cm×2cmのサイズに塗布した。スプレー塗布を行うステージを60℃に保つことで触媒インクを乾燥し、カソード触媒層を得た。このときの白金担持量は0.15mg/cm
2である。次に、カソード触媒層と同様に電解質膜上にスプレー塗布および熱処理を行うことでアノード触媒層を形成し、本実施例の膜電極接合体(1)(MEA(1))を得た。
【0132】
(実施例2)
BET比表面積が1440m
2/gである、Black Pearls(登録商標)(担体B)を準備した。
【0133】
上記担体Bを用い、これに触媒金属として平均粒径4nmの白金(Pt)を担持率が30重量%となるように担持させて、触媒粉末Bを得た。すなわち、白金濃度4.6質量%のジニトロジアンミン白金硝酸溶液を1000g(白金含有量:46g)に担体Bを107g浸漬させ攪拌後、還元剤として100%エタノールを100ml添加した。この溶液を沸点で7時間、攪拌、混合し、白金を担体Bに担持させた。そして、濾過、乾燥することにより、担持量が30重量%の触媒粉末Bを得た。
【0134】
上記工程によって製造した触媒粉末を100%水素ガス中で、1時間、900℃で保持することによってアニール処理を行った。
【0135】
触媒粉末Bについて、酸性基付加のための酸化性溶液処理を行った。触媒粉末Bを、3.0mol/Lの硝酸水溶液中で、80℃で1時間浸漬させた後、濾過、乾燥し、酸性基を有する触媒粉末Bを得た。
【0136】
このようにして得られた触媒粉末Bについて、BET比表面積を測定したところ、1291m
2/g担体であった。
【0137】
このようにして得られた触媒粉末Bを、触媒粉末Aの代わりに用いたこと以外は、実施例1と同様にして、膜電極接合体(2)(MEA(2))を得た。
【0138】
(実施例3)
担体Cとして、実施例1と同様の担体を準備した。
【0139】
上記担体Cを用い、これに触媒金属として平均粒径4nmの白金(Pt)を担持率が30重量%となるように担持させて、触媒粉末Cを得た。すなわち、白金濃度4.6質量%のジニトロジアンミン白金硝酸溶液を1000g(白金含有量:46g)に担体Cを107g浸漬させ攪拌後、還元剤として100%エタノールを100ml添加した。この溶液を沸点で7時間、攪拌、混合し、白金を担体Cに担持させた。そして、濾過、乾燥することにより、担持量が30重量%の触媒粉末Cを得た。
【0140】
上記工程によって製造した触媒粉末を100%水素ガス中で、1時間、900℃で保持することによってアニール処理を行った。
【0141】
触媒粉末Cについて、酸性基付加のための酸化性溶液処理を行った。触媒粉末Cを、3.0mol/Lの硝酸水溶液中で、80℃で1時間浸漬させた後、濾過、乾燥し、酸性基を有する触媒粉末Cを得た。
【0142】
このようにして得られた触媒粉末Cについて、BET比表面積を測定したところ、1750m
2/g担体であった。
【0143】
このようにして得られた触媒粉末Cを、触媒粉末Aの代わりに用いたこと以外は、実施例1と同様にして、膜電極接合体(3)(MEA(3))を得た。
【0144】
(比較例1)
BET比表面積が720m
2/gであるケッチェンブラック
(登録商標)EC300J(ケッチェンブラックインターナショナル株式会社製)(担体D)を準備した。
【0145】
上記担体Dを用い、これに触媒金属として平均粒径5nmの白金(Pt)を担持率が50重量%となるように担持させて、触媒粉末Dを得た。すなわち、白金濃度4.6質量%のジニトロジアンミン白金硝酸溶液を1000g(白金含有量:46g)に担体Dを46g浸漬させ攪拌後、還元剤として100%エタノールを100ml添加した。この溶液を沸点で7時間、攪拌、混合し、白金を担体Dに担持させた。そして、濾過、乾燥することにより、担持量が50重量%の触媒粉末Dを得た。
【0146】
その後、水素雰囲気において、温度900℃に1時間保持し、触媒粉末Dを得た。このようにして得られた触媒粉末Dについて、BET比表面積を測定したところ、705m
2/g担体であった。
【0147】
このようにして得られた触媒粉末Dを、触媒粉末Aの代わりに用いたこと以外は、実施例1と同様にして、比較膜電極接合体(1)(比較MEA(1))を得た。
【0148】
(比較例2)
担体Eとして、実施例2と同様の担体を準備した。
【0149】
上記担体Eを用い、これに触媒金属として平均粒径4nmの白金(Pt)を担持率が50重量%となるように担持させて、触媒粉末Eを得た。すなわち、白金濃度4.6質量%のジニトロジアンミン白金硝酸溶液を1000g(白金含有量:46g)に担体Eを46g浸漬させ攪拌後、還元剤として100%エタノールを100ml添加した。この溶液を沸点で7時間、攪拌、混合し、白金を担体Eに担持させた。そして、濾過、乾燥することにより、担持量が50重量%の触媒粉末Eを得た。
【0150】
その後、水素雰囲気において、温度900℃に1時間保持し、触媒粉末Eを得た。このようにして得られた触媒粉末Eについて、BET比表面積を測定したところ、1291m
2/g担体であった。
【0151】
このようにして得られた触媒粉末Eを、触媒粉末Aの代わりに用いたこと以外は、実施例1と同様にして、比較膜電極接合体(2)(比較MEA(2))を得た。
【0152】
〔酸性基量の測定〕
酸性基の量は、以下のような滴定法により測定した。すなわち、まず、2.5gの酸性基を有する触媒粉末を1Lの温純水にて洗浄、乾燥した。乾燥後、酸性基を有する触媒に含まれるカーボン量が0.25gとなるよう計量し、55mlの水と10分間攪拌後、2分間超音波分散を行った。次に、この触媒分散液を窒素ガスにてパージしたグローブボックスへ移動させ、窒素ガスを10分間バブリングした。そして、触媒分散液に0.1Mの塩基水溶液を過剰に投入し、この塩基性溶液に対して0.1Mの塩酸にて中和滴定を行ない、中和点から官能基量を定量した。ここで、塩基水溶液は、NaOH、Na
2CO
3、NaHCO
3の3種類を用い、それぞれについて中和滴定作業を行っている。これは使用する塩基毎に中和される官能基の種類が異なるからであり、NaOHの場合はカルボキシル基、ラクトン基、ヒドロキシル基と、Na
2CO
3の場合はカルボキシル基、ラクトン基と、NaHCO
3の場合はカルボキシル基と中和反応するからである。そして、これら滴定で投入した3種類の塩基種類と量、および消費した塩酸量の結果により、酸性基の量を算出した。尚、中和点の確認には、pHメーターを使用し、NaOHの場合はpH7.0、Na
2CO
3の場合はpH8.5、NaHCO
3の場合はpH4.5を中和点とした。これにより、触媒に付加しているカルボキシル基、ラクトン基、およびヒドロキシル基の総量を求めた。
【0153】
〔電解質被覆率〕
触媒金属に対する電解質の被覆率は、触媒の固体プロトン伝導材および液体プロトン伝導材との界面に形成される電気二重層容量の計測を用いて、固体プロトン伝導材による触媒金属の被覆率を算出した。なお、被覆率の算出に当たっては、高加湿状態に対する低加湿状態の電気二重層容量の比より算出し、湿度状態を代表するものとして、それぞれ5%RHおよび100%RH条件における計測値を用いた。
【0154】
<電気二重層容量の測定>
実施例3および比較例1で得られたMEAについて、電気化学インピーダンス分光法により、高加湿状態、低加湿状態、さらに触媒失活かつ高加湿状態および低加湿状態における電気二重層容量をそれぞれ測定し、両電池の電極触媒における触媒の両プロトン伝導材との接触面積を比較した。
【0155】
なお、使用機器としては、北斗電工株式会社製電気化学測定システムHZ−3000と、エヌエフ回路設計ブロック社製周波数応答分析器FRA5020とを用い、表1に示す測定条件を採用した。
【0156】
【表1】
【0157】
まず、それぞれの電池をヒーターによって30℃に加温し、作用極および対極に、それぞれ表1に示した加湿状態に調整した窒素ガスおよび水素ガスを供給した状態で電気二重層容量を計測した。
【0158】
電気二重層容量の測定に際しては、表1に示したように、0.45Vで保持し、さらに、±10mVの振幅で、20kHz〜10mHzの周波数範囲で作用極の電位を振動させた。
【0159】
すなわち、作用極電位の振動時の応答から、各周波数におけるインピーダンスの実部、虚部が得られる。この虚部(Z”)と角速度ω(周波数から変換)の関係が次式で表されるため、虚部の逆数を角速度の−2乗について整理し、角速度の−2乗が0のときの値を外挿することによって、電気二重層容量C
dlが求められる。
【0160】
【数1】
【0161】
このような測定を低加湿状態および高加湿状態(5%RH→10%RH→90%RH→100%RH条件)で順次実施した。
【0162】
さらに、作用極に濃度1%(体積比)のCOを含む窒素ガスを1NL/分で15分以上流通させることによって、Pt触媒を失活させたのち、上記のような高加湿および低加湿状態における電気二重層容量をそれぞれ同様に計測した。これらの結果を表2に示す。なお、得られた電気二重層容量は、触媒層の面積当たりの値に換算して示した。
【0163】
そして、計測値に基づいて、触媒−固体プロトン伝導材(C−S)界面および触媒−液体プロトン伝導材(C−L)界面に形成された電気二重層容量を算出した。
【0164】
なお、算出に当たっては、低加湿状態および高加湿状態の電気二重層容量を代表するものとして、それぞれ5%RHおよび100%RH条件における計測値を用いた。
【0165】
実験1:酸素還元反応活性の評価
上記実施例1〜3で作製された膜電極接合体(1)〜(3)および比較例1、2で作製された比較膜電極接合体(1)、(2)について、下記評価条件下、0.9V時の白金表面積当たりの発電電流の電流密度(A/m
2−Pt)を測定した。これにより、酸素還元反応(ORR)活性の評価を行った。
【0166】
【化2】
【0167】
結果を下記表2に示す。
【0168】
【表2】
【0169】
上記表2の結果から、触媒のBET比表面積が1200m
2/g担体超であり、酸性基の量が0.7mmol/g担体以上である実施例1〜3の触媒は、比較例1、2の触媒と比較して、白金表面積あたりの酸素還元反応活性に優れることがわかる。さらに、実施例2と実施例3との比較から、触媒のBET比表面積が大きいほど白金表面積あたりの酸素還元反応活性が高い。また、実施例1と実施例3との比較から、白金担持量が30重量%以下であると酸素還元反応活性が向上しうることがわかった。また、電解質被覆率が0.3以下であれば、酸素還元反応活性が向上しうる。これらの結果から、本発明の触媒によれば、触媒金属の利用率を高めることができ、触媒金属の使用量を低減して、触媒の製造コストの低減に寄与しうることがわかる。
【0170】
本出願は、2013年4月25日に出願された日本国特許出願第2013−092918号に基づいており、その開示内容は、参照により全体として引用されている。